説明

フタル酸ジクロリド化合物の製造法、これに用いられる塩化亜鉛触媒およびその調製方法

【課題】本発明は、上記従来の課題に鑑み、工業的に有用な高純度のフタル酸ジクロリド化合物を、煩雑な工程や特別な処理を要さずに得ることができるフタル酸ジクロリド化合物の製造方法フタル酸ジクロリド化合物の製造法、これに用いられる塩化亜鉛触媒およびその調製方法の提供を目的とする。
【解決手段】酸化亜鉛を触媒として、下記一般式(1)で表される無水フタル酸化合物と、下記一般式(2)で表されるトリクロロメチルベンゼン化合物とを反応させ、下記一般式(3)で表されるフタル酸ジクロリド化合物を製造するフタル酸ジクロリド化合物の製造方法。


(一般式(1)及び(3)中、Xは水素原子またはハロゲン原子を表す。Rは、ハロゲン原子、低級アルキル基、及びハロゲン置換低級アルキル基のいずれかを意味する。mは0〜2の整数を表す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は農薬原料、医薬原料、高分子原料、樹脂添加剤、殺虫剤原料として有用な高純度なフタル酸ジクロリド化合物の製造方法、これに用いられる塩化亜鉛触媒およびその調製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
塩化亜鉛を触媒として、無水フタル酸とトリクロロメチルベンゼンとを反応させ、フタル酸ジクロリド化合物を製造する方法が知られている(非特許文献1、特許文献1、特許文献2参照)。
【0003】
しかしながら、上記方法で製造したフタル酸ジクロリド化合物は特別な精製処理でもしないかぎり95%前後の純度を持つものしか得られず、5%程度の未反応の無水フタル酸が混在してしまう。この理由は以下のとおりである。上記の方法では反応率95%を越えて高めることは困難であり原料に用いた無水フタル酸が5%程度残ってしまう。これと生成物であるフタル酸ジクロリドとは沸点が非常に近いうえ、無水フタル酸は昇華する性質があるために、通常の工業生産で用いられる多段階の精留設備を用いても両者を完全に分離することはきわめて困難である。
【0004】
具体的にいうと、上記非特許文献1によれば、無水フタル酸に対して塩化亜鉛を10質量%用い110〜120℃で反応を行うことで、純度95%のフタル酸ジクロリドが得られると記載されている。つまり、それはおよそ5%の無水フタル酸が不純物として混在することを意味する。上記特許文献1,2では、塩化亜鉛を1質量%用いて200℃で20時間反応させると95%の収率でフタル酸ジクロリドが製造できると記載されているが、目的生成物の純度に関しては記載がない。また上記特許文献1,2は上記塩化亜鉛の代わりに酸化亜鉛を用いてもよいと記載され、これがおそらく反応して塩化亜鉛を生成するだろうと推定する。また同様に亜鉛粉を用いてもよいとする。しかし、この推定は実証されておらず得られる生成物の収率や純度についても不明である。
【0005】
すなわち既知の方法では未反応の無水フタル酸が不可避的に5%程度残存し、上述のように物性上、通常の蒸留または再結晶でこれを取り除くことは非常に困難であり、製品化する際にフタル酸ジクロリドに不要な不純物が混在してしまう。工業利用に鑑み現実的な効率で無水フタル酸から高純度のフタル酸ジクロリドを製造するならば、上記のような非現実的な精製処理によるのではなく、反応率を向上させ極力無水フタル酸を少なくするしかないが、これを実現する触媒は知られていない。
【0006】
このように例えば99%以上のフタル酸ジクロリド化合物を工業的に製造することは実質的に不可能であるか、あるいは煩雑かつ特別な処理工程を要するという多大の困難を伴っていた。
【0007】
【特許文献1】米国特許第1963748号明細書
【特許文献2】米国特許第1963749号明細書
【非特許文献1】J.Am.Chem.Soc.1937年59巻206頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記従来の課題に鑑み、工業的に有用な高純度のフタル酸ジクロリド化合物を、煩雑な工程や特別な処理を要さずに得ることができるフタル酸ジクロリド化合物の製造方法、これに用いられる塩化亜鉛触媒およびその調製方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは上記課題の解決にむけ鋭意研究開発を行った結果、無水フタル酸化合物とトリクロロメチルベンゼン化合物とを酸化亜鉛触媒又は特定の方法で調製した塩化亜鉛触媒の存在下で反応させると、高純度なフタル酸ジクロリド化合物を得ることができることを見出し、この知見に基づき本発明を完成した。
【0010】
すなわち、上記の目的は以下の手段によって達成された。
(1)酸化亜鉛を触媒として、下記一般式(1)で表される無水フタル酸化合物と、下記一般式(2)で表されるトリクロロメチルベンゼン化合物とを反応させ、下記一般式(3)で表されるフタル酸ジクロリド化合物を製造するフタル酸ジクロリド化合物の製造方法。
【0011】
【化1】

(一般式(1)及び(3)中、Xは水素原子またはハロゲン原子を表す。Rは、ハロゲン原子、低級アルキル基、及びハロゲン置換低級アルキル基のいずれかを意味する。mは0〜2の整数を表す。)
(2)前記一般式(1)で表される化合物が無水フタル酸である(1)に記載のフタル酸ジクロリド化合物の製造方法。
(3)前記一般式(1)で表される化合物が3−クロロ無水フタル酸または4−クロロ無水フタル酸である(1)に記載のフタル酸ジクロリド化合物の製造方法。
(4)前記一般式(2)で表される化合物が4−クロロトリクロロメチルベンゼンである(1)〜(3)のいずれか1項に記載のフタル酸ジクロリド化合物の製造方法。
(5)前記一般式(2)で表される化合物がトリクロロメチルベンゼンである(1)〜(3)のいずれか1項に記載のフタル酸ジクロリド化合物の製造方法。
(6)酸化亜鉛と下記一般式(2)で表されるトリクロロメチルベンゼン化合物とを反応させるフタル酸ジクロリド化合物製造用塩化亜鉛触媒の調製方法。
【0012】
【化2】

(一般式(2)中、Rは、ハロゲン原子、低級アルキル基、及びハロゲン置換低級アルキル基のいずれかを意味する。mは0〜2の整数を表す。)
(7)(6)で表される方法で調製した塩化亜鉛触媒を用い、該触媒を調製した系内でそのまま、下記一般式(1)で表される無水フタル酸化合物と、前記一般式(2)で表されるトリクロロメチルベンゼン化合物とを反応させ、下記一般式(3)で表されるフタル酸ジクロリド化合物を製造するフタル酸ジクロリド化合物の製造方法。
【0013】
【化3】

(一般式(1)及び(3)中、Xは水素原子またはハロゲン原子を表す。)
(8)(6)の調製方法で調製された塩化亜鉛触媒であって、該触媒を調製した系内でそのまま、下記一般式(1)で表される無水フタル酸化合物と、前記一般式(2)で表されるトリクロロメチルベンゼン化合物とを反応させ、下記一般式(3)で表されるフタル酸ジクロリド化合物を製造するための塩化亜鉛触媒。
【0014】
【化4】

(一般式(1)及び(3)中、Xは水素原子またはハロゲン原子を表す。)
【発明の効果】
【0015】
本発明の製造方法によれば、工業的に有用な高純度のフタル酸ジクロリド化合物を、煩雑な工程や特別な処理を要さずに、安全かつ効率的に高収率で得ることができる。また、本発明の塩化亜鉛触媒は安価に調製することができその原料となる酸化亜鉛は工業的にも取り扱いやすく、上記フタル酸ジクロリド化合物の製造用触媒として特に適している。さらにまた、本発明の製造方法により得られるフタル酸ジクロリド化合物は余計な不純物の除去処理等を介さずに高純度のものとして得ることができ、特に高い純度がもとめられる殺虫剤等の原料化合物としてきわめて有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明のフタル酸ジクロリド化合物の製造方法においては、酸化亜鉛を触媒として、上記一般式(1)で表される無水フタル酸化合物と、上記一般式(2)で表されるトリクロロメチルベンゼン化合物とを反応させ、上記一般式(3)で表されるフタル酸ジクロリド化合物を製造する。
【0017】
一般式(1)及び(3)中、Xは水素原子またはハロゲン原子を表し、なかでも、水素原子又は塩素原子であることが好ましい。ベンゼン環上の置換基Xの置換位置に限定はないが、オルト位において立体障害の大きな置換基があるときは、上記触媒の量を増やすか、反応温度を上げることが好ましい。上記一般式(1)で表される化合物の具体的な例としては、無水フタル酸、3−クロロ無水フタル酸または4−クロロ無水フタル酸が挙げられる。
【0018】
上記一般式(2)において上記置換基Rは、ハロゲン原子、低級アルキル基、及びハロゲン置換低級アルキル基であるが、これを例示すると、塩素、臭素等のハロゲン原子、クロロカルボニル基、メチル基、エチル基等の低級アルキル基、トリクロロメチル基、ジクロロメチル基、クロロメチル基等のハロゲン置換低級アルキル基が挙げられる。この低級アルキル基は、炭素原子数1〜3のアルキル基であることが好ましい。ハロゲン原子としては塩素原子が好ましい。
【0019】
上記一般式(2)で表される化合物の具体的な例としては、トリクロロメチルベンゼン、1−クロロ−4−トリクロロメチルベンゼン、1−クロロ−2−トリクロロメチルベンゼン、2,4−ジクロロ−1−トリクロロメチルベンゼン、3,4−ジクロロ−1−トリクロロメチルベンゼン、1,4−ビス(トリクロロメチル)ベンゼン、1,3−ビス(トリクロロメチル)ベンゼン等が挙げられる。なかでも、一般式(2)で表わされる化合物が4−クロロトリクロロメチルベンゼン又はトリクロロメチルベンゼンであることが好ましい。
上記一般式(2)で表される化合物は含まれるトリクロロメチル基換算で、一般式(1)で表される化合物に対して1.0〜3.0当量、好ましくは1.3〜1.8当量用いられることが好ましい。
【0020】
本発明において用いられる酸化亜鉛の種類に限定はないが、よく乾燥したものを用いることが好ましい。その使用量は前記一般式(1)で表される化合物に対して0.05〜10モル%であることが好ましく、0.5〜1.0モル%であることがより好ましい。この範囲で上記触媒を用いることにより、一層収率良く短時間で所望の反応を完結させることができる。なお、本発明の製造方法においては、上記化合物以外の化合物等を反応系内に添加することを妨げるものではない。
【0021】
上記本発明の製造方法においては、酸化亜鉛又は酸化亜鉛と上記一般式(2)で表されるトリクロロメチルベンゼン化合物とを反応させて得られるフタル酸ジクロリド化合物製造用の塩化亜鉛触媒を用いることが好ましい。このとき、上記特定の塩化亜鉛触媒を調製した系内でそのまま(in situ)、上記一般式(1)で表される無水フタル酸化合物と、前記一般式(2)で表されるトリクロロメチルベンゼン化合物とを反応させ、上記一般式(3)で表されるフタル酸ジクロリド化合物を製造することが好ましい。ただし、上記一般式(1)で表される化合物を添加せずに酸化亜鉛と上記一般式(2)で表される化合物から反応系内で高活性な塩化亜鉛触媒を調製したのち、上記一般式(1)で表される化合物を加え反応させることもできるし、一般式(1)で表わされる化合物の存在下で酸化亜鉛と一般式(2)で表わされる化合物とを反応させて塩化亜鉛触媒を調製しつつフタル酸ジクロリド化合物の製造を行うこともできる。
【0022】
ここで本発明のフタル酸ジクロリドの製造方法における、酸化亜鉛および塩化亜鉛の触媒としての特別な作用機序について一部推定を含めて説明する。
塩化亜鉛は吸湿性を持つ。そのために乾燥状態を維持するように保管し反応系内に投入したとしても、幾分吸湿してしまうことは避けがたく、これにより触媒活性が低下することがありうる。これに対し、酸化亜鉛は空気中での吸湿性が高くなく上記のような触媒劣化をおこさず、高い触媒活性が得られることが考えられる。とりわけ、これを工業的規模の生産に適用するため大量に使用するときには、その乾燥状態を維持することが難しく、上記酸化亜鉛を用いることによる触媒作用の安定化効果は一層顕著になる。また、酸化亜鉛が上記一般式(2)で表わされる化合物と反応し、これ以外の方法で塩化物としたときとは異なる特別な触媒表面、すなわちフタル酸ジクロリドの生成反応に特に活性の高い塩化亜鉛触媒ないしその表面が形成されたと推定される。この酸化亜鉛から調製され高度に活性化された塩化亜鉛触媒が、上記吸湿による触媒劣化が抑えられた作用と相俟って、従来なしえなかった極めて高い純度のフタル酸ジクロリドの製造を実現したと考えられる。
【0023】
上記一般式(1)で表わされる化合物と一般式(2)で表わされる化合物との反応温度は、触媒の使用量によって変わるが、160〜220℃とすることが好ましく、180〜200℃で反応を行うことがより好ましい。反応時間は、反応スケール、反応温度などの条件により変化するが、たとえば8〜30時間で反応が完結させることができる。本発明において上記の反応は無溶媒で行うことが好ましい。
【0024】
本発明の製造方法によればフタル酸ジクロリドを高純度で得ることができ、例えば反応直後の状態で特別な処理を介さずに99%以上のものとして得ることができる。
本発明の製造方法において反応終了後に、通常は、未反応の一般式(2)で表される化合物、該一般式(2)で表された化合物が反応したのちのトリクロロメチル基がクロロカルボニル基に変化した化合物(この化合物も工業材料等に有用な化合物として用いることができる。)、目的生成物である一般式(3)で表わされる化合物の3成分が混在するが、これらは通常容易に分離することができる。そして微量であるが残存することがある未反応の一般式(1)で表わされる化合物は、例えば0.5〜1%残存することがあるが、換言すれば目的化合物である一般式(3)で表される化合物を純度99.0〜99.5%で得ることができる。これは、従来知られている実際的な技術により製造した場合の93〜97%純度のものより、はるかに高純度のものが得られることを意味する。
【0025】
本発明の製造方法によれば、上述のとおり、安価で取り扱いやすい触媒を用いて高純度なフタル酸ジクロリド化合物を、危険な触媒や助触媒等によらない簡便かつ安全な方法で、高収率で得ることができる。この利点はとくに殺虫剤等を工業的に生産する分野において大きな貢献をもたらす。たとえば、殺虫剤として高い効果を示すフタルベンズアミド化合物を製造するための原料としてフタル酸ジクロリドを用いるとき(下記反応スキームA参照)、無水フタル酸が大量に混入している原料を用いた場合には、次工程の2段階にわたるアミド化反応において、第1段目の副生成物(反応中間体)[2]が不純物として残ってしまうこととなる(下記反応スキームB参照)。それは収率の低下とともに殺虫剤としての性能の低下をもたらすことがあることを意味し、高品質なものを提供しようとすれば煩雑な工程を介してでも不純物の除去作業が強いられることとなる。あるいは、副生成物[2]をフタルベンズアミド化合物[3]とするためにクロロ蟻酸メチル等を用いるカルボン酸を活性化することが考えられるが、直接RNHを作用させただけではこの反応は進行しない。
【0026】
【化5】

(上記スキーム中、R,Rはアルキル基又はアリール基を表す。)
【0027】
このような点の克服に鑑み、反応中間体[1]を経由するフタルベンズアミド化合物[3]の製造方法が最近開発されている(特開2002−326989号公報参照)。また、フタルベンズアミド化合物からなる殺虫剤の性能改良について研究開発が継続されており、例えば欧州特許出願公開第1006107号明細書、ファインケミカル(シーエムシー出版)2007年36巻58頁記載の高性能の殺虫剤が挙げられる。これらの新技術に適用しうる原料化合物とするためにも、フタル酸ジクロリドに無水フタル酸を極力含まない高純度なものが要求されており、本発明の製造方法およびこれに適した触媒によれば、このようなニーズに好適に応えることができる。
【実施例】
【0028】
以下、実施例に基づき本発明をさらに詳細に説明するが本発明はこれらに限定するものではない。なお、以下の実施例及び比較例において「%」は特に断らないかがり「モル%」を意味する。
【0029】
[実施例1]
2L容の4つ口フラスコに、無水フタル酸 370g(2.5モル)、4−クロロトリクロロメチルベンゼン 756g(3.3モル)、酸化亜鉛 2.08g(0.025モル、無水フタル酸に対して1モル%)を入れ、155℃で32時間攪拌を続けた。反応液のガスクロマトグラフィー(GC)(島津社製 GC2014[商品名]、カラム:GLサイエンス社製 INERT CAP5[商品名]を使用した。以下の実施例・比較例において同様である。)による分析で3.6%の無水フタル酸が残っていることがわかったので、反応温度を195℃にし、9時間攪拌した。上記GC分析で、無水フタル酸は0.48%に減少していたので、この反応液を減圧下で留出させたのち、20段の蒸留塔にて精留した。その結果、GC純度99.88%の4−クロロ安息香酸クロリド 394g(反応した4−クロロトリクロロメチルベンゼン基準90%収率)とフタル酸ジクロリド 326g(無水フタル酸基準で64%収率)、bp.120−122℃/4〜5torrを得た(文献値 bp 131−133℃/9−10mmHg:Organic Synthesis Coll. VolII, 528頁)。生成物のGC分析により、無水フタル酸は0.84%であり、目的化合物の純度は99.1%であることを確認した。
【0030】
[実施例2]
無水フタル酸 73.8g(0.50モル)、トリクロロメチルベンゼン 177g(0.90モル)、酸化亜鉛 0.41g(無水フタル酸に対して1モル%)の混合物を155℃にて13時間攪拌した。反応混合物のGC分析で無水フタル酸が1.4%残っていたので、トリクロロメチルベンゼン 46gを追加し反応液を195℃に上げ4時間攪拌した。GC分析では無水フタル酸0.35%となり、99.3%のフタル酸ジクロリドが生成していることを確認した。
【0031】
[実施例3]
4−クロロ無水フタル酸 35g(0.19モル)、4−クロロトリクロロメチルベンゼン 57.5g(0.25モル)、酸化亜鉛 0.15g(4−クロロ無水フタル酸に対して1モル%)の混合物を155℃にて4時間、170℃にて28時間攪拌後、200℃にてさらに6時間攪拌した。GC分析では4−クロロ無水フタル酸の残存は0.7%となり、99.0%の4−クロロフタル酸ジクロリドが生成していることを確認した。反応生成物の構造はGC−MSにて確認した(GC−MSの結果:m/z=201(M−35、相対強度100%)、203(相対強度64%))。
【0032】
[実施例4]
4−クロロトリクロロメチルベンゼン 411.8g(1.79モル)と酸化亜鉛 1.112g(0.0136モル)を混合し160℃で2時間攪拌した。GC分析の結果、4−クロロ安息香酸クロリドが0.32%生成していることを確認した。計算上、塩化亜鉛が同量生成しているとすれば、0.0057モルの高活性な塩化亜鉛が存在していることになる。そこに、無水フタル酸200g(1.35モル)を加え、160℃で27時間攪拌した。GC分析によって無水フタル酸が2.5%残っていたので反応温度を200℃に上げ、さらに6時間攪拌した。無水フタル酸は0.53%にまで減少した。
【0033】
[比較例1]
無水フタル酸 148g(1.0モル)、4−クロロトリクロロメチルベンゼン 299g(1.3モル)、塩化亜鉛 1.37g(0.01モル)の混合物を200℃にて12時間攪拌した。反応混合物のGC分析で無水フタル酸が3.7%残っていた。さらに反応を継続し、14時間後、16時間後にGC分析を行ったが、無水フタル酸が4.15%、4.10%でありそれ以上減少しなかった。
【0034】
[比較例2]
無水フタル酸 150g(1.013モル)、トリクロロメチルベンゼン 228g(1.165モル)、塩化亜鉛 0.84g(0.006モル)の混合物を200℃にて20時間攪拌した。反応混合物のGC分析で無水フタル酸が2.9%残り、フタル酸ジクロリド 94.5%が生成していることを確認した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化亜鉛を触媒として、下記一般式(1)で表される無水フタル酸化合物と、下記一般式(2)で表されるトリクロロメチルベンゼン化合物とを反応させ、下記一般式(3)で表されるフタル酸ジクロリド化合物を製造するフタル酸ジクロリド化合物の製造方法。
【化1】

(一般式(1)及び(3)中、Xは水素原子またはハロゲン原子を表す。Rは、ハロゲン原子、低級アルキル基、及びハロゲン置換低級アルキル基のいずれかを意味する。mは0〜2の整数を表す。)
【請求項2】
前記一般式(1)で表わされる化合物が無水フタル酸である請求項1に記載のフタル酸ジクロリド化合物の製造方法。
【請求項3】
前記一般式(1)で表わされる化合物が3−クロロ無水フタル酸または4−クロロ無水フタル酸である請求項1に記載のフタル酸ジクロリド化合物の製造方法。
【請求項4】
前記一般式(2)で表わされる化合物が4−クロロトリクロロメチルベンゼンである請求項1〜3のいずれか1項に記載のフタル酸ジクロリド化合物の製造方法。
【請求項5】
前記一般式(2)で表わされる化合物がトリクロロメチルベンゼンである請求項1〜3のいずれか1項に記載のフタル酸ジクロリド化合物の製造方法。
【請求項6】
酸化亜鉛と下記一般式(2)で表されるトリクロロメチルベンゼン化合物とを反応させるフタル酸ジクロリド化合物製造用塩化亜鉛触媒の調製方法。
【化2】

(一般式(2)中、Rは、ハロゲン原子、低級アルキル基、及びハロゲン置換低級アルキル基のいずれかを意味する。mは0〜2の整数を表す。)
【請求項7】
請求項6で表される方法で調製した塩化亜鉛触媒を用い、該触媒を調製した系内でそのまま、下記一般式(1)で表される無水フタル酸化合物と、前記一般式(2)で表されるトリクロロメチルベンゼン化合物とを反応させ、下記一般式(3)で表されるフタル酸ジクロリド化合物を製造するフタル酸ジクロリド化合物の製造方法。
【化3】

(一般式(1)及び(3)中、Xは水素原子またはハロゲン原子を表す。)
【請求項8】
請求項6の調製方法で調製された塩化亜鉛触媒であって、該触媒を調製した系内でそのまま、下記一般式(1)で表される無水フタル酸化合物と、前記一般式(2)で表されるトリクロロメチルベンゼン化合物とを反応させ、下記一般式(3)で表されるフタル酸ジクロリド化合物を製造するための塩化亜鉛触媒。
【化4】

(一般式(1)及び(3)中、Xは水素原子またはハロゲン原子を表す。)

【公開番号】特開2010−105929(P2010−105929A)
【公開日】平成22年5月13日(2010.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−277165(P2008−277165)
【出願日】平成20年10月28日(2008.10.28)
【出願人】(393021967)イハラニッケイ化学工業株式会社 (13)
【出願人】(000004743)日本軽金属株式会社 (627)
【Fターム(参考)】