説明

フッ化ビニリデン系樹脂フィルムおよび製造方法

【課題】 優れた耐候性、耐汚染性及び二次加工性を有し、従来のフッ化ビニリデン系樹脂フィルムでは困難であった耐熱性、特に加熱したときの黄変が抑制された新規なフッ化ビニリデン系樹脂フィルムを提供する。
【解決手段】 フィルム中の赤外線吸収スペクトルによる吸光度から求められる結晶構造中のII型結晶成分の比率が90〜100%であるフッ化ビニリデン系樹脂フィルム。一方で、押出成形によりフィルムを形成した後に再加熱を行うことによりII型結晶成分の比率が90〜100%に制御する前記フッ化ビニリデン系樹脂フィルムの製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐候性、耐熱性、耐汚染性、耐薬品性、耐溶剤性、機械的物性及び二次加工性に優れ、長期耐久性を必要とされる種々の部材、例えば建築物の屋内外装用表面保護材や薬品、有機溶剤等を貯蔵する容器表面材、太陽電池や燃料電池等の各種部材に好適に使用されるフッ化ビニリデン系樹脂フィルムおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フッ化ビニリデン系樹脂はその優れた耐候性、耐熱性、耐汚染性、耐薬品性、耐溶剤性、機械的物性、二次加工性を活かし長期耐久性を求められる分野に幅広く使用されている。特にフッ化ビニリデン系樹脂からなるフィルムは薄膜化によるコストメリットを活かし、各種表面保護材料として従来より建築物の内外装用部材等や耐薬品、耐有機溶剤性が求められる容器表面材、更には長期信頼性が重要となる太陽電池の表裏面材、燃料電池部材等に広く用いられている。
【0003】
しかしながら、これら耐久性フィルムの用途に対する長期信頼性への要求はますます厳しくなっており、過酷な条件化での使用やその長寿命化が求められている。このような長寿命化を得るために、例えば多層構成のフィルムの特定の層に紫外線吸収剤を添加するような方法が提案されている(特許文献1参照)。しかしながらこのようなフィルムでも長期間熱を加えた場合にフィルムの変色が発生する問題点があった。変色は即ち樹脂そのものの劣化、フッ化ビニリデン系樹脂においては脱フッ素による二重結合の生成を意味するものであり、意匠性が低下すると共に、長期耐久性、長期信頼性が損なわれる危険性がある。
【0004】
長期耐久性を高める技術としては、テトラフルオロエチレン系樹脂に代表される高フッ化な樹脂を用いたフィルムやシート材料が提案されているものの、コスト面、二次加工性等、および特性上の問題によりに限定された用途に留まる問題点があった。
【特許文献1】特開平1−262133号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、優れた耐候性、耐熱性、耐汚染性、耐薬品性、耐溶剤性、機械的物性及び二次加工性を有し、従来のフッ化ビニリデン系樹脂フィルムでは困難であった耐熱性、特に加熱したときの黄変が抑制された新規なフッ化ビニリデン系樹脂フィルムを提供する事を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者等は、これらの課題を解決するために鋭意検討した結果、フッ化ビニリデン系樹脂の結晶成分について、特定の結晶系の成分量を一定範囲内に制御することにより、前記の課題が解決達成される事を見出し本発明に至った。
即ち本発明はフィルム中の赤外線吸収スペクトルによる吸光度から求められるI型結晶構造とII型結晶構造の合計を100%としたときのII型結晶成分の比率が90〜100%であるフッ化ビニリデン系樹脂フィルムである。一方で本発明は、フッ化ビニリデン系樹脂フィルムを、押出成形により形成するフッ化ビニリデン系樹脂フィルムの製造方法である。更に、押出成形によりフィルムを形成した後に100℃再加熱を行うことにより、赤外線吸収スペクトルによる前記のII型結晶成分の比率が90〜100%に制御した請求項1に記載のフッ化ビニリデン系樹脂フィルムの製造方法である。
【発明の効果】
【0007】
本発明により、本発明は、優れた耐候性、耐熱性、耐汚染性、耐薬品性、耐溶剤性、機械的物性及び二次加工性を有し、特に従来のフッ化ビニリデン系樹脂フィルムでは困難であった耐熱性、即ち長時間加熱したときの黄変が抑制された新規なフッ化ビニリデン系樹脂フィルムを得ることが出来る。これにより、より長期耐久性が求められる建築物の屋内外装用表面保護材や薬品、有機溶剤等を貯蔵する容器表面材、太陽電池や燃料電池等の各種部材に使用することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明を詳しく説明する。
本発明で用いられるフッ化ビニリデン系樹脂とは、フッ化ビニリデンの単独重合体もしくはフッ化ビニリデンと共重合可能な単量体との共重合体をいう。共重合体としては例えばフッ化ビニリデン−テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン系共重合体、フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン系共重合体などがある。またフッ化ビニリデン系樹脂に相溶性に優れるメタクリル酸エステル系樹脂を混合することも可能である。但し結晶性制御の観点からはフッ化ビニリデンの単独重合体が最も好適に使用される。
【0009】
本発明のフィルムの最大の特長は、フッ化ビニリデン系樹脂の結晶形態が赤外線吸収スペクトルによる吸光度から求められるI型結晶構造とII型結晶構造の成分比率において、II型結晶成分比率が90〜100%であることを特長とする。ここでの結晶構造比率の測定方法としては、花田らの方法(花田朋美、安藤穰、「ポリフッ化ビニリデンとポリ酢酸ビニル及びポリエチルメタアクリレートブレンド系におけるポリフッ化ビニリデンの結晶化」、東京家政学院大学紀要、1992年07月、No.32、5−12頁)に記載された方法により以下の様に算出される。赤外線吸収スペクトルにおけるポリフッ化ビニリデン樹脂のI型結晶の特性吸収は波数840cm-1にあり、II型結晶の特性吸収は波数765cm-1に存在することから、II型結晶の成分比率(%)=(765cm-1での吸収強度/(765cm-1での吸収強度+840cm-1での吸収強度))×100(%)で示される。II型結晶成分比率は90〜100%が好適であり、更に好適には95%〜100%の範囲が極めて有効である。
【0010】
II型結晶成分比率を90〜100%としたフッ化ビニリデン系樹脂フィルムを製造する方法としては押出成形法が好適に採用される。その際の具体的な方法として、T型ダイスを用い製膜する方法や、インフレーションダイスを用い製膜する方法で、押出条件としては特に限定されるものではなく、一般的にフッ化ビニリデン系樹脂フィルムを形成するのに用いられている条件が使用できる。T型ダイスを使用する場合、T型ダイス下に金属冷却ロールとゴムロールを配し、T型ダイスのリップ口より押出された溶融樹脂を、前記のロール間でピンチし冷却固化しながらフィルムを製膜する方法と、ピンチロールを用いず金属冷却ロールのみで冷却固化し製膜する方法の何れかが採用できる。金属冷却ロールとゴムロールにてピンチしながら製膜する方法では、金属冷却ロールとゴムロールの設定温度を40℃以上とし、好ましくは同一温度でコントロールすることが好ましい。何れかのロールの設定温度が40℃を下回ると、片面が急冷されII型結晶成分を90%以上に制御することが困難となる。金属冷却ロールのみにて冷却固化し製膜する際は、冷却温度40℃以上であれば良いが、金属冷却ロールとの密着性が損なわれる可能性があり外観が損なわれる恐れがある。この場合エアーナイフ等の使用により改善されるが、冷却状態がフィルムの幅方向で不均一になる可能性があり慎重な対応が必要となる。
【0011】
本発明のフッ化ビニリデン系樹脂フィルムは、一般的な方法でフィルム形成後に再加熱を行うことによりII型結晶成分比率を90〜100%に調整することでも製造することも出来る。再加熱方法としては、フィルム製膜ライン中に加熱ロールを設け再加熱する方法や、製膜されたフィルムを再度オーブンや加熱室に整置する方法が採用される。何れも100℃以上の加熱でII型結晶成分比率が90%〜100%になるが、少なくとも加熱前の状態でII型結晶成分が50%以上であることが必要である。なお、再加熱時間が長すぎるとその処理自身でフィルムが変色、劣化する危険性があるため十分な注意が必要である。
【0012】
本発明のフィルムには、使用される用途に必要に応じて、顔料、紫外線吸収剤、安定化剤、分散剤、酸化防止剤、艶消し剤、界面活性剤、帯電防止剤、シリカ、アルミナといった充填材、フッ素系表面改質剤及び加工助剤等の各種添加剤をそれらの分散性が損なわれない範囲に置いて添加する事も可能である。
【0013】
使用する顔料は、特に限定されるものではなく、無機系顔料、有機顔料、真珠顔料等使用できる。特に耐候性の点から無機系顔料や複合酸化物系の無機顔料が好適に使用される。顔料の添加量は、樹脂100部に対し1〜50部、好ましくは5〜30部である。含量が1部未満の場合、フィルム中へ均質に分散する事ができず部分的な色ムラが発生する場合がある。50部を超えて添加した場合、フッ素系樹脂への分散性が著しく低下し外観不良を引き起こすため好ましくない。
【0014】
紫外線吸収剤としては、フッ化ビニリデン系樹脂と相溶性のあるものであれば良い。紫外線吸収剤の例としては、ベンゾトリアゾール系、オキザリックアシッド系、ベンゾフェノン系、ヒンダードアミン系及びその他多くの種類のものが使用できる。好ましくは、製造工程及びフィルムとして使用する際の揮散を最小限にするため、分子量が300以上の高分子量タイプの紫外線吸収剤が好適に使用される。紫外線吸収剤の添加量は、樹脂100質量部に対し好ましくは0.1〜15質量部、より好ましくは0.5〜10質量部である。0.1部未満では紫外線吸収能力が乏しく、紫外線による劣化を抑制が十分でない事があり、15部を超えて添加しても効果は変わらないばかりか、分散不良の原因となる恐れがあり、コストも高くなる。下地基材の保護を目的とする場合、顔料を添加しない場合には紫外線吸収剤の添加が望ましい。これはフィルム自身の耐候性は良好であるが、顔料を添加せず使用する場合においては、紫外線が各種基材等まで到達し、フッ化ビニリデン系樹脂フィルムは劣化しないまでも、各種基材や基材と積層するため用いる接着剤等が劣化し、フッ化ビニリデン系樹脂フィルムと剥離する問題が生ずる可能性があるためである。
【0015】
本発明のフィルムに、紫外線吸収剤、顔料等の各種添加剤を混入する方法としては、樹脂と添加剤をあらかじめ混合しておき一般に使用される単軸押出機を使用して溶融混練する方法が採用できる。また分散性を向上させるため好適に用いられる方法として、高混練タイプの2軸押出機を使用する方法や高速回転型ミキサ−を用い高温下であらかじめプレミキシング後単軸押出機にて溶融混練する方法の採用により、表面状態の優れたフィルムを得ることができる。
【0016】
本発明のフィルムの膜厚は10μm以上である事が好ましく、更に好ましくは20〜300μmである。10μm未満ではハンドリング性が著しく低下し、また、十分な耐久性能が得られない事がある。300μmを超えると、原料費の増大等コスト的に不利になると共に、熱成形などにおける二次加工性が低下する場合がある。また本発明のフィルムを表面層とし、裏面層としてアクリル系樹脂層や、フッ化ビニリデン系樹脂とアクリル系樹脂とのブレンド物を積層し2層以上のフィルムとすることも可能である。
【実施例】
【0017】
以下、実施例および比較例により本発明を詳細に説明する。
(実施例1〜6)
フッ化ビニリデン樹脂として市販の呉羽化学社製T#1100を使用し、キヤーオーブンにて80℃×8時間以上乾燥ののち、40mmφ単軸押出機に樹脂を供給し溶融可塑化してT型ダイスを用いフッ化ビニリデン樹脂の単層フィルムを得た。この際の製膜条件として、金属冷却ロール温度、ゴムピンチロール温度およびゴムピンチロールの使用有無を表1に示す。フッ化ビニリデン樹脂単層フィルムの膜厚は全て50μmに調整した。
(比較例1〜3)
フッ化ビニリデン樹脂として市販の呉羽化学社製T#1100を使用し、キヤーオーブンにて80℃×8時間以上乾燥ののち、40mmφ単軸押出機に樹脂を供給し溶融可塑化してT型ダイスを用いフッ化ビニリデン樹脂の単層フィルムを得た。この際の製膜条件として、全てゴムピンチロールを使用し、表2に示される金属冷却ロール温度、ゴムピンチロール温度にて製膜した。フッ化ビニリデン樹脂単層フィルムの膜厚は全て50μmに調整した。
【0018】
【表1】

【0019】
【表2】

【0020】
(評価方法)
[II型結晶比率評価]
バイオラッド社製FT−IR(本体:FTS−135)のATRユニット(UMA−500)を用い赤外線吸収スペクトルを測定した。得られたスペクトルより、I型結晶の特性吸収である波数840cm-1の吸収強度と、II型結晶特性吸収である波数765cm-1の吸収強度を求め、(765cm-1での吸収強度/(765cm-1での吸収強度+840cm-1での吸収強度))×100(%)にてII型結晶の成分比率(%)を算出した。結果を表1、表2中に示す。
【0021】
実施例1〜6は何れもII型結晶比率が90%を超えていることを確認した。比較例1は16.4%、比較例2は37.2%、比較例3は75.6%であった。
【0022】
[加熱変色性評価]
実施例1〜6及び比較例1〜3のフッ化ビニリデン樹脂フィルムをギヤーオーブンにて150℃×14時間加熱し、加熱前後の黄色度をJISK7105に準拠した方法にて、スガ試験機社製SMカラーコンピューター(SM−5−IS−2B)を用い反射法にて測定し黄変度を算出した。結果を表1、表2に記すと共に、図1のグラフにまとめた。
【0023】
実施例1〜6については、黄変度△YIが1.0以下であり、高温での長期加熱後も非常に劣化が少ないことを確認した。比較例1〜3については、黄変度が2.0以上であり、
変色が進み劣化が進行している事が示唆された。また、II型結晶比率と黄変度には相関性が確認され、実施例1〜6のようにII型結晶比率が90%以上であれば変色が抑制され劣化が進行し難いことが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】実施例及び比較例のフィルムについてのII型結晶比率と加熱変色性評価の黄変度の関係を示す図面である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フィルム中の赤外線吸収スペクトルによる吸光度から求められるI型結晶構造とII型結晶構造の合計を100としたときのII型結晶成分の比率が90〜100%であるフッ化ビニリデン系樹脂フィルム。
【請求項2】
請求項1に記載のフッ化ビニリデン系樹脂フィルムを、押出成形により形成するフッ化ビニリデン系樹脂フィルムの製造方法。
【請求項3】
押出成形によりフィルムを形成した後に100℃以上の温度で再加熱を行うことにより、赤外線吸収スペクトルによる前記のII型結晶成分の比率が90〜100%に制御された請求項1に記載のフッ化ビニリデン系樹脂フィルムの製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2006−273980(P2006−273980A)
【公開日】平成18年10月12日(2006.10.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−93834(P2005−93834)
【出願日】平成17年3月29日(2005.3.29)
【出願人】(000003296)電気化学工業株式会社 (1,539)
【Fターム(参考)】