説明

フッ化リン酸ガラス

【課題】フィルターガラスとして用いられるフッ化リン酸ガラスは、耐候性が悪くしばしば非常に高いフッ素含有率のために製造が難しいという欠点がある。この問題点を解決するフッ化リン酸ガラスを提供する。
【解決手段】ガラスマトリックス中に少なくとも68%の架橋度のリン酸成分を有するガラスで、39%モル量までのO2−イオンがFで置換されているフッ化リン酸ガラス。着色成分として酸化銅を含み、融液中のレドックス比の調整のために、酸素を含むガス(特に酸素)バブリング工程を含む方法で得られる。

【発明の詳細な説明】
【発明の概要】
【0001】
本発明は、フィルターガラスとして用いられる、青色に着色されたフッ化リン酸ガラスに関する。
【0002】
本発明によるガラスはいわゆる光学バンドパスフィルター、したがって2つのフィルター減衰バンドによって囲まれた、多かれ少なかれ(透過率範囲)小さい、高い透過率の波長範囲をもつフィルターである。このようなガラスは、光学ガラスフィルター、たとえばカラービデオカメラおよびデジタルカメラの色補正フィルターに用いられる。350ないし650nmの高水準の透明性に加えて、典型的には本発明によるガラスは隣接UVにおける急峻なエッジと700nm超での非常に低い透過率を有する。UVレンジはできるだけ完全に遮断することが望ましいが、たとえば高エネルギー線による高感度電子アセンブリの損傷を避けるために、700nmより高い範囲で入射放射線の強度を減衰させて、たとえばカメラに用いる場合にCCDによって引き起こされる像のレッドキャスト(red cast)を補償するようにすることが望ましい。
【0003】
基本的に、フィルターガラスとして用いられるフッ化リン酸ガラスは従来技術で知られている。しかし、これらのガラスは、耐候性が悪く、しばしば非常に高いフッ素含有率のために製造が難しいという欠点がある。これは、フッ素自体および多くのガラス成分のフッ化物は通常の製造方法の条件下で揮発性であるためである。したがって、一方で安定性が良好で、他方で経済的な製造方法により得ることができるガラスを得ることを目標に、フッ化リン酸ガラスの組成を最適化するために、多くの努力がなされてきている。さらに、本発明によるガラスは非常に急峻な吸収端をもつ。このことは、338ないし640nmの範囲の高い透明性の上述した範囲は、急激に低い透明性の範囲へ移る。換言すれば、高い透明性の範囲に隣接する波長範囲において、透過率曲線は大きな傾斜(正または負)をもつ。このように、色収差が減少することが達成される。
【0004】
したがって、本発明の目的は、従来技術の問題点を解決するフッ化リン酸ガラスを提供することである。
【0005】
この目的は特許請求の範囲の構成によって解決される。特に、この目的は、重量%で以下の組成を有するガラスによって解決される:
【表1】

【0006】
ここで酸化銅(CuO)のリン酸塩(P)に対する比は好ましくは0.1ないし0.21であり、ここで前記ガラスにおいて、言及した組成に基づいて、39%モル量までの酸化物イオン(O2−)がフッ化物イオン(F)で置換されている。
【0007】
人間の目にとって、本発明によるガラスは、青、青緑、空色またはシアン色をもつように見え、IRカットフィルターとして用いられる。この場合、色は無視できる。むしろ、着色酸化物CuOの添加によってUVから約320nmおよび約850nmの近赤外に吸収があるフィルター特性は、デジタルカメラのセンサーの前のフィルターとしての使用に決定的である。この場合、UV光の遮断は、ベースガラス自体ならびにCuOによって達成され、CeOの添加によって増大するであろう。
【0008】
フッ化ガラスの架橋度は、ガラス中のリン原子の架橋の程度を記述する。この場合、各々のP5+は最大で3つの酸素原子と架橋することができ、これはさらに別の原子価によって次のリン原子と結合を形成することができ、こうして網目に寄与する。PO四面体中の第4の酸素原子は、リン原子の5の共有原子価によってリン原子と二重結合を形成し、その結果この酸素原子は他のパートナーと結合を形成することができず、したがって網目に寄与しない。各々のリン原子が酸化状態5+にあり、3つの酸素原子(これらは他の結合パートナーと結合を形成することができる)と結合している網目においては、架橋度が100%である。当業者はこれらの事実を理解しているであろう。
【0009】
本発明によれば、ガラスの架橋度を少なくとも65%、好ましくは多くとも99%、さらに好ましくは多くとも95%、特に好ましくは多くとも90%の間に調整することが特に有利であることが示された。これは、一方で好適な成分の選択によって、しかし他方でガラス融液を通しての酸素、好ましくは純度レベルが99%より高い酸素の実行できるバブリングによっても達成される。このバブリングの工程は、とりわけフィルター特性に好ましい影響をもつ、より高い原子価状態に有利なようにガラス成分のレドックス比の調整を可能にする。バブリングの副作用は、ガラスのある比率のフッ素の脱落である。この場合、正確なプロセス条件を満たさなければならない。さもなければ、このプロセスは高すぎる架橋度をもつガラスをもたらすことがあるからである。
【0010】
一方でフッ素はフィルター特性(透過率)の調整に必要であり、他方でこれは濃度範囲によってはガラスの安定性を減少させる。しかし、リン酸ガラスのフッ素イオンの比率は、網目形成特性も有する。本発明によるこのガラスは、特に融液を通して酸素をバブリングする工程を10ないし40分、好ましくは10ないし30分の期間行う方法によって調製されるであろう。このバブリングの工程は、900℃より高い、好ましくはさらに925℃より高い、さらに好ましくは1000℃より高い温度であって、好ましくは1200℃の温度を超えず、特に好ましい実施形態においては最大で1100℃の温度を超えない温度で行うことが望ましい。この場合、好ましくは酸素の流量の値は少なくとも40リットル/時、さらに好ましくは少なくとも50L/h、さらに好ましくは多くとも80L/h、さらに好ましくは多くとも70L/hである。これらのパラメータを満たした場合、後述する組成範囲を満たしたときに、本発明によるガラスが得られる。本明細書に記載した製造方法も、これによって調製することができるガラスとともに、本発明の一部である。
【0011】
さらに好ましくは、本発明によるガラスは少なくとも68%の架橋度を有する。架橋は主にPO四面体を介して生じ、4つの酸素原子はリン原子との二重結合により架橋には利用されないためである。さらに好ましいのは、少なくとも72%の架橋度である。本発明によれば十分に高いある比率のアルカリによって影響される十分なAlが、網目修飾成分よりもむしろ網目形成成分として働く場合、本発明によるガラスでこの架橋度が可能である。したがって、本発明によるガラスにおいて、ROのAlに対するモル比は、好ましくは>1であり、好ましくは>1.5である。したがって、架橋度は、特に成分AlおよびPおよびFに関する後述の限定および比との適合によって達成される。ガラスの高い架橋度は、高い安定性、特にガラスの気候安定性を実現するのに必要である。さらに、記載した製造方法は、架橋度に対する寄与を与える。しかし、架橋度は低すぎたり高すぎたりしてはならない。さもなければ、フィルター特性(透過率)が達成されないからである。したがって、好ましくは、架橋度は少なくとも70%で特に多くとも88%である。
【0012】
架橋度は31P NMR分析、特にMAS(マジック角回転)分析によって測定されるであろう。当業者はこの測定方法を理解している。本明細書の最初にすでに言及したように、本発明のガラスは青色のフィルターガラスである。したがって、これは、着色成分として少なくとも1重量%の量で酸化銅(CuO)を含む。低すぎる量で酸化銅を用いると、本発明の目的にとって着色効果が十分ではない。しかし、他方で高すぎる酸化銅の含有率を選択すると、ガラスの透過率に関する負の影響が生じる。特に、酸化銅の含有率は、少なくとも2重量%、好ましくは少なくとも2.3重量%、特に好ましくは少なくとも3重量%である。
【0013】
本発明の一実施形態において、ガラス中の酸化銅の含有率は1重量%ないし<3重量%、好ましくは2ないし<3重量%である。このような銅の低い含有率を選択すると、ガラスにおいて高い透過率をもつ広いパス領域を達成できる。
【0014】
本発明の他の実施形態において、ガラス中の酸化銅の含有率は少なくとも3重量%で多くとも7重量%、好ましくはさらに多くとも5重量%である。このように、やはり急峻なIRカット領域の吸収端と約850nmでのより高い吸収が達成される。
【0015】
特定の実施形態において、本発明のガラスは1ないし<3重量%または3ないし7重量%の酸化銅を含む。
【0016】
酸化銅のリン酸塩に対するモル比を、最大で0.21,特に最大で0.15の値が達成されるように調整するのが特に有利であることが示された。好ましくは、この値は少なくとも0.04、好ましくは0.05、特に好ましくは0.09を下回らないことが望ましい。本発明者らは、特に酸化銅のリン酸塩に対する質量比が得られる色品質に決定的な影響をもつことを見出した。したがって、使用量は記載した質量比が達成できるように用いることが望ましい。好ましくは、記載した質量比の値は、0.1、特に0.06のCuO/Pの下限値を下回らないことが望ましい。好ましい実施形態において、この比は最大で0.18、さらに好ましくは最大で0.14である。このように主として、本発明によるガラスにおいて、着色酸化物の主ガラス形成成分に対する比が重量にである。
【0017】
この知見に基づいて、好適な量の着色酸化物の選択にとって追加のガラス形成成分である酸化アルミニウム(Al)を考慮することも重要であることが示された。この場合、0.5ないし2,2というCuO/Alの質量比が好ましい範囲であり、0.5ないし1(好ましくは0.8)および1.1(好ましくは1.8)ないし2.2の範囲も好ましい有利であることが示された。特に好ましくは、この質量比は少なくとも0.8、特に好ましくは少なくとも0.9である。特に好ましくは、この比は最大で1.2である。
【0018】
好ましくは、本発明によるガラスは少なくとも片面に少なくとも1つのコーティングを有する。この場合、好ましくはこれは反射防止(AR)および/またはUV/IRカットコーティングである。これらの層は、反射を減少させ、透過率を増加および/またはIR遮断を増加させ、約650nmでの吸収端の傾斜を増大させる。これらの層は干渉層である。
【0019】
反射防止層の場合、ガラスは少なくとも片面にこの種の4ないし10層を有し、カットコーティングの場合、さらに好ましくは50ないし70層がある。好ましくは、これらの層は硬い金属酸化物たとえば特にSiO,Ta,TiOまたはAlからなる。好ましくは、これらの層はフィルターガラスの別々の面に付けられる。加えて、このようなコーティングはさらに耐候性/気候安定性を増加させる。
【0020】
本発明によるガラスは少なくとも1つのアルカリ金属酸化物を含む。アルカリ金属酸化物は、融液中での融剤としてのそれらの作用によって、したがってガラスの粘度を減少させ、ガラス転移温度を低下させることによって、ガラスの処理を促進させる。しかし、これらの酸化物の高すぎる量は、ガラスの安定性に影響し、ガラスの膨張率を増加させる。膨張率が高すぎると、ガラスの低温後処理の工程を最適なやり方で行うことができない。さらに、アニール炉におけるガラスの熱抵抗および応力緩和能が低下される。
【0021】
したがって、アルカリ金属酸化物の含有率は3重量%の値を下回らないいことが望ましい。好ましい実施形態において、この含有率は4重量%、さらに好ましくは8重量%、最も好ましくは10重量%の値を下回らない。これらの酸化物の含有率は、18重量%、好ましくは15重量%、最も好ましくは14.5重量%の値を超えず、その結果ガラスの安定性を脅かすことがなことが望ましい。本発明によれば、好ましくは酸化リチウム(LiO),酸化カリウム(KO)および酸化ナトリウム(NaO)を用いる。
【0022】
好ましくは、本発明によるガラスは、アルカリ酸化物である酸化リチウム、酸化カリウムおよび酸化ナトリウムからなる群の少なくとも2つの成分を含む。この場合、アルカリ金属酸化物である、酸化リチウムと酸化カリウムまたは酸化カリウムと酸化ナトリウムを組み合わせるのが有利であることが示された。これらの組み合わせは、ガラスへの混合アルカリ効果という意味で、安定化効果を有するからである。
【0023】
好ましい実施形態において、本発明によるガラスは、少なくとも0.01重量%、好ましくは少なくとも4重量%、さらに好ましくは少なくとも5重量%の量で、酸化カリウムを含む。しかし、酸化カリウムの含有率は、11重量%、好ましくは10重量%、さらに好ましくは9重量%、特に好ましくは8重量%の値を超えないことが望ましい。さもなければ、ガラスの安定性が大きく影響されすぎるであろう。
【0024】
本発明によるガラスは、好ましくは少なくとも1.5重量%、さらに好ましくは2重量の量で酸化リチウムを含む。しかし、好ましくはこの成分の含有率は13重量%より高くないことが望ましい。特により多量のフッ化物とともに用いた場合に、その気化する傾向が高いからである。したがって、好ましい実施形態においては、その比率はわずかに10重量%以下、さらに好ましくは7重量%以下、特に最大で6重量%、しかし最も好ましくは5重量%以下である。ある実施形態は酸化リチウムを含まない。
【0025】
ちなみに、本発明によるガラスは、好ましくは少なくとも2重量%、好ましくは少なくとも3.5重量%、さらに好ましくは少なくとも4重量%の量で酸化ナトリウムも含む。この成分により、失透安定性を改善できる。この成分を低すぎる量で用いると、この効果は達成されない。この場合、安定性の理由により、最大で10重量%、さらに好ましくは8重量%、特に好ましくは7重量%の含有率を超えないことが望ましい。
【0026】
本発明によれば、ガラスはアルカリ土類酸化物も含む。アルカリ土類酸化物は粘度を調整するために用いられる。これらは、網目修飾成分としてのアルカリ酸化物と同じ機能を有する。これらの含有率は、40重量%の値を超えないことが望ましい。好ましくは、本発明のアルカリ土類酸化物は酸化マグネシウム(MgO),酸化カルシウム(CaO),酸化バリウム(BaO)および酸化ストロンチウム(SrO)である。
【0027】
アルカリ土類酸化物の含有率は15重量%より低くないことが望ましく、その結果まだ製造に適した粘度を調整できる。好ましい実施形態において、アルカリ土類酸化物の含有率は最大で37.5重量%、さらに好ましくは最大で35.5重量%である。好ましくは、含有率の最低値は17重量%、さらに好ましくは18重量%を下回らないことが望ましい。
【0028】
本発明によるガラスの好ましい実施形態は、45重量%より高い量でリン酸塩を含む。これらの実施形態において、アルカリ土類酸化物の含有率は少なくとも16重量%、好ましくは少なくとも19重量%、特に好ましくは少なくとも20重量%または少なくとも20.5重量%であることが望ましい。リン酸塩を40重量%よりも少ない量で含む他の実施形態において、アルカリ土類酸化物の含有率は少なくとも25重量%、さらに好ましくは少なくとも26重量%、多くとも40重量%、好ましくは多くとも38重量%、さらに好ましくは37重量%であることが望ましい。
【0029】
本発明によるガラス中のアルカリ土類酸化物を、酸化バリウムの質量比率が酸化ストロンチウムの質量比率よりも高くなるように選択するのが有利であることが示された。本発明によれば、酸化バリウムおよび酸化カルシウムの質量比率の合計が少なくとも12重量%である場合が特に好ましい。このようにして、ガラスの安定性がさらに改善される。この場合、酸化バリウムおよび酸化カルシウムともの質量比率の合計が、酸化バリウムおよび酸化ストロンチウムの質量比率の合計より少なくとも1.3倍、さらに好ましくは少なくとも2.0倍高いことが好ましい。
【0030】
好ましくは、本発明によるガラスは、上述したアルカリ土類酸化物の少なくとも3つ、しかし最も好ましくはすべてを含む。この場合、酸化マグネシウム、酸化カルシウムおよび酸化バリウムの含有率は各々少なくとも1重量%;酸化ストロンチウムの含有率は少なくとも0.01重量%であることが望ましい。好ましい実施形態において、酸化バリウムの最小含有率は少なくとも3重量%、さらに好ましくは少なくとも9重量%、特に好ましくは少なくとも11.5重量%である。26重量%の上限は超えないことが望ましい;特に好ましい実施形態において、16重量%の上限は超えず、特に好ましい実施形態においては酸化バリウムの最大含有率は最大で5重量%である。
【0031】
好ましくは、酸化マグネシウムの含有率は少なくとも1重量%、さらに好ましくは少なくとも4重量%、特に好ましくは少なくとも5重量%である。好ましくは、この成分の最大含有率は、最大で10重量%、より好ましくは最大で9重量%、さらに好ましくは最大で8重量%、最も好ましくは最大で7重量%である。好ましくは、酸化カルシウムの含有率は少なくとも1重量%、好ましくは多くとも16重量%、より好ましくは多くとも14重量%、さらに好ましくは多くとも12重量%である。
【0032】
好ましくは、酸化ストロンチウムの含有率は少なくとも0.01重量%、さらに好ましくは多くとも16重量%、より好ましくは多くとも15重量%、最も好ましくは多くとも13重量%であることが望ましい。
【0033】
酸化亜鉛は膨張率を減少させるために用いられ、したがってアニール炉におけるガラスの熱抵抗および応力緩和能を減少させる。本発明によれば、本発明のガラスの特定の組成により、酸化亜鉛を省略してもよい。しかし、これを用いるならば、その含有率は最大で10重量%であることが望ましい;特定の実施形態において、含有率は最大で5重量%である。特定の実施形態において、本発明のガラスは酸化亜鉛を含まない。
【0034】
酸化ホウ素はフッ素と同様に気化する傾向があるので、酸化ホウ素の含有率は非常に低くなければならない。本発明によれば、酸化ホウ素の含有率は最大で1重量%である。酸化ホウ素の含有率は0.5重量%より低いことが特に好ましく、本発明によるガラスは酸化ホウ素を含まないことが特に好ましい。
【0035】
本発明によるガラスにおけるリン酸塩(P)の含有率が少なくとも25重量%であるガラス形成成分として、この含有率は比較的低い。ここで、リン酸塩の含有率の上限は60重量%、好ましくは57重量%である。好ましい実施形態において、本発明のガラスは多くとも42重量%のリン酸塩を含む。特定の実施形態は少なくとも43重量%、多くとも60重量%、好ましくは57重量%のリン酸塩を含む。本発明による他のガラスは57重量%を超え、多くとも60重量%のリン酸塩を含む。
【0036】
本発明によるガラスにおいて、酸化アルミニウム(Al)は1ないし13重量%の比率で含まれる。好ましい実施形態において、ガラスは少なくとも2重量%の酸化アルミニウムを含む。酸化アルミニウムの含有率は最大で12重量%、さらに好ましくは最大で11重量%、最も好ましくは最大で10重量%であることが特に好ましい。特定の実施形態において、酸化アルミニウムの含有率は6重量%以下である。
【0037】
清澄剤として好ましくは酸化ヒ素および/または酸化アンチモンをガラスに加えてもよい。これらの成分の比率は0.5重量%を超えないことが望ましい。このガラスの清澄プロセスは好ましくは物理的な清澄により行う、すなわちガラスは溶融/清澄温度で高度に液状であるのでバブルが生じうる。Asおよび/またはSbの添加は融液中の酸素の放出および/または投入を促進する。さらに、多価酸化物はレドックス挙動に影響することがあり、したがってCu(II)Oの生成を促進することがある。にもかかわらず、これらの酸化物は毒性であり、もはや顧客によって暗に受け入れられない。したがって、これらのガラスの好ましい実施形態はヒ素およびアンチモンを含まない。
【0038】
また、本発明の特定の実施形態は酸化セリウム(CeO)を1重量%以下、好ましくは0.8重量%以下、さらに好ましくは0.6重量%以下の量で含む。好ましい実施形態は酸化セリウムを含まない。酸化セリウムはUV領域において吸収することにより紫外線に対するガラスの抵抗を増大させる。この成分の添加は避けることが望ましい。これが、そのUV吸収によりUV端をより長波長の領域へシフトさせ、したがってパス領域を小さくするためである。しかし、より大きいパス領域が望ましい。
【0039】
ガラス形成成分、したがってリン酸塩および酸化アルミニウムともの比率は、本発明のガラスに十分な安定性を保証するために、好ましくは37.5%より高いことが望ましい。好ましくは、両方の成分の合計は最大で63重量%、さらに好ましくは最大で62重量%、特に好ましくは最大で57.5重量%である。特定の実施形態において、これらのガラス京成成分の比率は>57.5重量%、最大で63重量%である。
【0040】
この場合、リン酸塩の酸化アルミニウムに対する質量比を、少なくとも3、さらに好ましくは少なくとも5、特に好ましくは少なくとも15の値に調整することが特に有利であることが示された。好ましくは、この値は最大で20であることが望ましい。さらに好ましい実施形態において、この値は最大で19、さらに好ましくは最大で18.7、特に好ましくは18.5である。
【0041】
基本的に、ここでこれはこれらの酸化物の質量比に依存せず、むしろそれぞれのカチオンの量(モル)の比が重要である。これらのガラスは酸化物をアニオンとしてのみ含むわけではないからである。このようにして、リンカチオン(P5+)のモル量がアルミニウムカチオン(Al3+)のモル量より高いことが特に好ましい。好ましくは、リンカチオンのモル量の比率はアルミニウムイオンの比率よりも少なくとも2.25倍だけ高い。特に好ましい実施形態において、リンの比率はアルミニウムの比率よりも少なくとも3.75倍だけ高い。さらに好ましくは、モル量の比(P/Al)はさらに少なくとも10,より好ましくは少なくとも12である。
【0042】
この説明において「モル量」という用語に言及する場合、これはこの物質の量がモル、したがってそれぞれのイオン、原子または分子の数であることを意味する。
【0043】
本明細書中で記載されているガラス形成成分であるリン酸塩および酸化アルミニウムの組成が満たされている場合、優れた架橋度を達成できる。このようにして、ガラスの色の調整を、Fの比率により、より柔軟なやり方で行うことができる。同時に、高い比率のフッ化物にもかかわらず、優れた安定性が得られ、経済的な加工性が保証される。しかし、この場合、カチオンの全モル量に対するリンのモル量が好ましくは30%の値を下回らないことが望ましいことを考慮すべきである。さもなければ、要求される安定性を達成できないことが多いからである。
【0044】
リン酸塩の含有率が45重量%より高いそれらの実施形態において、リン酸塩の酸化アルミニウムに対する質量比は少なくとも15、好ましくは多くとも20の値が好ましい。リン酸塩の量が40重量%より低いそれらの実施形態において、この値は少なくとも3、好ましくは多くとも6である。
【0045】
IRカットフィルターとしての使用に要求されるガラスの透過率が達成されるように、部分的には酸化物をフッ化物で置換しなければならない。しかし、フッ化物イオンの添加により、製造方法の間に混合物からフッ素が流出する危険性がある。したがって、フッ化物で置換される酸化物の量が高すぎてはならない。本発明によれば、酸化物イオンの量の最大で35%がフッ化物イオンで置換されることが好ましい。特に好ましくは、酸化物イオンの量の最大で23%、さらに好ましくは最大で20%がフッ化物イオンで置換される。好ましくは酸化物イオンの量の少なくとも4%、さらに好ましくは少なくとも5%、特に好ましくは少なくとも6%、特に少なくとも7%がフッ化物イオンで置換されなければならず、その結果このようなフッ化物の添加の長所が効果を示す。
【0046】
リン酸塩の比率が45重量%より高いようなガラスにおいて、好ましくは酸化物イオンの12重量%以下がフッ化物イオンで置換され;さらに好ましくは、それは10重量%以下、特に好ましくは8重量%以下である。40重量%より低い量のリン酸塩を含むようなガラスにおいて、酸化物イオンの好ましくは少なくとも9重量%以下、特に好ましくは少なくとも12重量%がフッ化物イオンで置換される。
【0047】
上述した関係により、フッ化物イオンおよび酸素イオンはアニオンの混合物であり、その組成は本発明のガラスの安定性に大きな影響をもつ。特に、本発明によれば、混合物中のフッ化物の量の比率は37%の値を超えない。特に好ましい実施形態において、この比率は単純には25%未満、さらに好ましくはさらに20%未満、最も好ましくは17%未満である。
【0048】
好ましくは、本発明によるガラスは酸化バナジウム(V)を含まない。この酸化物はガラスの透過率特性に負の影響をもつことがあるからである。同じ理由のため、好ましくは、ガラスは酸化鉄(Fe)を含まず;しかしそれにもかかわらず代替的な実施形態が酸化鉄を含むならば、その含有率は最大で0.25重量%に限定される。Feは他の成分の不純物としてガラスに添加されることもある。好ましい実施形態において、本発明によるガラスは酸化銅に加えて別の着色酸化物を含まない。
【0049】
好ましい実施形態は希土類イオンたとえばイットリウム、ランタン、ガドリニウムおよびイットリウムを含まない。特に、ガラスはイットリウムを含まない。好ましくは、本明細書に記載されているガラスは、ガラス構成成分として本明細書に言及されていない成分を含まない。
【0050】
この説明においてガラスが1つの成分を含まないまたは特定の成分を含まないという場合、これはこの成分が不純物としてガラス中に存在しうるだけであることを意味する。これは、それが実質的な量で含まれていないことを意味する。本発明によれば、実質的でない量とは100ppm未満、好ましくは50ppm未満、最も好ましくは10ppm未満の量である。疑わしい場合には、「ppm」という単位は質量に基づく。
【0051】
好ましくは、酸素のリン酸塩に対するモル量のある比率がガラス中に存在、本発明による望ましいガラスの増加した耐候性が達成できるようにすることが望ましい。好ましくは、本発明によれば、このモル量の比は少なくとも2.3である。さらに好ましくは、このモル量の比は多くとも4、より好ましくは多くとも3.7である。このモル量の比を、本発明によるフィルターガラスの概念に関連して、それに応じて調整した場合、ガラス中において本発明による架橋度を達成することができる。
【0052】
好ましくは、本発明のガラスは鉛およびカドミウムならびに放射性構成成分を含まない。
【0053】
好ましくは、本発明のガラスのカチオン成分は、少なくとも90%モル量、好ましくは95%モル量、最も好ましくは97%モル量の、リン、アルミニウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、リチウム、ナトリウム、カリウムおよび銅からなる群より選択されるカチオンからなる。
【0054】
特定の好ましい実施携帯において、ガラスの組成は重量%で以下の範囲内にある:
【表2】

【0055】
高い比率のリンを含む代替的な実施形態において、本発明によるガラスは重量%で以下の組成を有する:
【表3】

【0056】
本発明によるガラスの製造方法も本発明の重要な態様である。以下に説明する工程を行うと、好ましい架橋度を有する、クレームしたガラスを得ることができる。本発明によるガラスの製造のためには、原料として好ましくは複合リン酸塩を混合物に添加する。「複合リン酸塩」という用語は、混合物に「遊離の」Pの形態でリン酸塩が添加されないが、他の成分たとえばNaO,KO,などが、酸化物の形態または炭酸塩としてではなく、たとえばAl(PO,Ba(HPO,Ca(HPO,LiHPO,KPO,NaPOのようなリン酸塩として混合物に添加されることを意味する。
【0057】
このことは、リン酸塩が塩のアニオン成分として添加され、その塩自体のそれぞれのカチオン成分がガラス構成成分であることを意味する。このことは、遊離Pの量の減少に伴い、複合リン酸塩の比率が増加することを与え、これは融液挙動の良好な制御性、明らかに減少した気化、および改善された内部品質のほかにダスト効果をもたらす。
【0058】
加えて、遊離リン酸塩の増加した比率は、増加した製造コストをもたらす製造プラントの安全技術に対する要求に関係している。本発明による対策により、ガラス組成物の加工性がかなり改善される。気化および混合物のダストの形成の傾向が非常に強く低下し、明らかに改善されたガラス融液の透明性が達成され、これは特に製造されたガラスの品質および光学データの均一性に見られる。しかし、リン酸塩の高い含有率をもつ材料(さもなければその不足によりしばしば縞をもたらす)のたとえばバブルおよび/または縞に関して、ガラスの一般的に改善された内部品質も観察できる。
【0059】
好ましくは、フッ素は、たとえばAlF,LiF,NaF,KF,MgF,CaF,SrFのようなフッ化物の形態でガラスに導入される。
【0060】
アルカリ酸化物およびアルカリ土類酸化物は炭酸塩として導入してもよい。
【0061】
本発明によるガラスは、好ましくは930ないし1100℃の温度で、たとえばPtるつぼのような不連続、またはたとえばAZS(Al−ZrO−SiO)タンク、Ptタンクまたは石英ガラスタンクのような連続的な融液凝集体に予めよく混合した、それぞれの組成物による均一な混合物から溶融し、その後に精製し、均一化される。
【0062】
ガラスを溶融する工程の間に、るつぼまたはタンク材料に含まれる成分がガラスに取り込まれることがある。すなわち、それらを明示的にそれに添加しない場合でも、石英ガラスタンク中の溶融工程後に、2重量%以下のSiOがガラス中に含まれることがある。
【0063】
融液温度は選択した組成に依存する。融液中のレドックス比の調整のために、好ましくはガラスを通して、酸素を含むガス(特に酸素)をバブリングする。好ましくは、バブリングの工程は10ないし40分間続くことが望ましい。さらに、このバブリングは融液を均一化するために役立つ。その上述した効果に加えて、バブリングは本発明による架橋度の生成も促進する。
【0064】
ガラスを精製する工程は好ましくは950ないし1100℃で行われる。一般的に、この温度は低いことが望ましく、揮発性であるフッ化物、LiOおよびPのような成分の気化ができるかぎり低くなるようにする。
【0065】
フィルターガラス、特にIRカットガラスとしての本発明によるガラスの使用も、本発明による。加えて、カメラのCCDの保護のためのこれらのガラスの使用も、本発明による。
【0066】
実施例
【表4】

【0067】
表1の合成による実施例1の組成をもつ、100kgのフッ化リン酸フィルターガラスの製造のために、ガラス混合物を激しく混合する。この混合物を約3時間内に950℃で溶融し、これを通して約30分間酸素をバブリングする。その低い粘度により、精製の工程も950℃で行う。これを約15ないし30分間変化させずに放置した後、約940℃の温度でキャスティングを行う。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】図1は、本発明(実施例ガラス1)によるガラスの透過スペクトルを示し、これらのガラスが優れたフィルター特性を有することを証明している。この透過率は0.35mmのサンプル厚さに関連する。横座標に透過率を、縦座標に波長をプロットしている。
【図2】図2は、実施例ガラス7および8の対応する透過スペクトルを示す。横座標に透過率を、縦座標に波長をプロットしている。ガラスは、約330ないし640nmの波長域に高い透過率の非常に広いパス領域を有することがわかる。実施例ガラス8は約400nmの波長域において透過率に関して平坦部を示し、一方で実施例ガラス7はこの領域において急峻な傾斜を示す。その理由は、実施例ガラス7における高い銅含有率である。
【0069】
表2において、高い透過率の値(τ≧0.8)の波長域は、低い透過率の値の領域が両側に並んでいる(急峻な吸収端)ことがわかる。これは、本発明のフィルターガラスの必須の利点である。
【表5】

【表6】

【表7】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも68%の架橋度および重量%で以下の組成を有するフッ化リン酸ガラス:
【表1】

ここで前記ガラスにおいて、言及した組成に基づいて、39%モル量までのO2−イオンがFで置換されている。
【請求項2】
重量%で以下の組成を有する請求項1に記載のフッ化リン酸ガラス:
【表2】

【請求項3】
重量%で以下の組成を有する請求項1に記載のフッ化リン酸ガラス:
【表3】

【請求項4】
CuOの含有率が3重量%未満である、請求項1ないし3のいずれか1項に記載のフッ化リン酸ガラス。
【請求項5】
CuOの含有率が少なくとも3重量%である、請求項1ないし3のいずれか1項に記載のフッ化リン酸ガラス。
【請求項6】
前記ガラスはCuOに加えて別の着色酸化物を含まない、請求項1ないし5のいずれか1項に記載のフッ化リン酸ガラス。
【請求項7】
前記ガラスはその表面の少なくとも一方にコーティングを有する、請求項1ないし6のいずれか1項に記載のフッ化リン酸ガラス。
【請求項8】
前記ガラスは架橋度が最大で99%である、請求項1ないし7のいずれか1項に記載のフッ化リン酸ガラス。
【請求項9】
フィルターガラスとしての、請求項1ないし8のいずれか1項に記載のフッ化リン酸ガラスの使用。
【請求項10】
請求項1ないし8のいずれか1項の記載のフィルターガラスの製造方法であって、
−ガラス成分の融液を調製する工程と、
−前記ガラス融液を通して酸素をバブリングする工程と
を有する方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−148964(P2012−148964A)
【公開日】平成24年8月9日(2012.8.9)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2011−284142(P2011−284142)
【出願日】平成23年12月26日(2011.12.26)
【出願人】(505458670)ショット・アーゲー (32)
【Fターム(参考)】