説明

フッ化水素からのR−1233の分離

本発明は、HFとの共沸混合物または共沸混合物様組合せからHCFC−1233などのモノクロロ−トリフルオロプロペンを分離するための方法に関する。この方法は、低温液相分離および多重共沸蒸留列を利用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モノクロロ−トリフルオロプロペンとフッ化水素の共沸または近共沸流からモノクロロ−トリフルオロプロペン、例えば1,1,1−トリフルオロ−3−クロロ−2−プロペン(HCFC−1233zd)を単離するための分離方法に関する。本発明の方法は、HCFC−1233zdなどの純粋なモノクロロ−トリフルオロプロペンを単離するために共沸蒸留と組合わされた低温液相分離を使用する。
【背景技術】
【0002】
法規上の制約が常に加えられていることから、オゾン破壊そして地球温暖化係数がさらに低くかつ環境上の持続可能性がさらに高い冷媒、熱伝導流体、発泡剤、溶剤そしてエアロゾルの代替物を生産する必要性が益々高まってきている。これらの利用分野のために広く使用されているクロロフルオロカーボン(CFC)およびヒドロクロロフルオロカーボン(HCFC)類は、オゾン破壊性物質であり、モントリオールプロトコルのガイドラインにしたがって段階的に廃止されている。ヒドロフルオロカーボン(HFC)類は、多くの利用分野においてCFC類およびHCFC類のための主要な代替物である。これらはオゾン層に対して「優しい」ものとみなされているものの、それでもなお一般的に高い地球温暖化係数を有している。オゾン破壊性または地球温暖化係数の高い物質に代替するものとして同定された1つの新しい部類の化合物は、ハロゲン化オレフィン類、例えばヒドロフルオロオレフィン(HFO)類およびヒドロクロロフルオロオレフィン(HCFO)類である。HFO類およびHCFO類は、低い地球温暖化係数および所望されるゼロまたはゼロに近いオゾン破壊性を提供する。
【0003】
アルケン結合が存在することから、HFO類およびHCFO類は、HCFC類またはCFC類に比べて化学的に不安定であることが予想される。これらの材料は、相対的に低い大気圧下で本質的に化学的不安定性を示すことから、結果としてその大気圧寿命は短くなり、このため所望される低い地球温暖化係数とゼロまたはゼロに近いオゾン破壊特性が提供される。
【0004】
米国特許第6,013,846号明細書は、HFと1233zdの共沸混合物および、HFまたは1233zdを富有するHFと1233zdとの混合物からこのような共沸混合物を分離するための方法を開示している。この方法は、蒸留(精留)塔内で1233zdとHFの共沸混合物に比べてHFを富有する混合物を処理して、共沸混合物と比較的純粋なHFの塔底生成物製品を含む蒸留液を得るステップを含む。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許第6013846号明細書
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明において、モノクロロ−トリフルオロプロペンとHF、好ましくは1233zdとHFの共沸混合物または近共沸混合物組成物を分離するための方法が開示されている。本発明の方法は、HFとの共沸混合物または共沸混合物様組合せから1233の他の異性体、例えば1233xf(1,1,1−トリフルオロ−2−クロロ−3−プロペン)を分離する上でも有効である。モノクロロ−トリフルオロプロペンとHFの共沸混合物または近共沸混合物の組合せは、例えば1,1,1,3,3−ペンタクロロプロパン(240fa)または1,1,3,3−テトラクロロ−2−プロペン(以下(1230za)と呼ぶ)の液相フッ素化反応において生成され得ると考えられる。1230zaは、米国特許第5,877,359号明細書中で教示されているように、触媒無しで液相にて容易にフッ素化することが示されていることから、出発材料として特に有利である。本発明の好ましい異性体である1233zdのトランス異性体の生産に付随する問題の1つは、それがHFとほぼ同じ沸点(18〜20℃)を有し、HFとの共沸混合物または近共沸混合物が形成し得るという点にある。
【0007】
240faまたは1230zaのフッ素化が、触媒または無触媒の液相反応において発生し得る。典型的には、液相フッ素化反応装置は、1つまたは複数の精留塔に連結されている。フッ素化反応装置に対する供給物は、有機クロロカーボンとHFで構成され、これらは反応して、もとのクロロカーボンよりも揮発性の高いヒドロフルオロカーボン(HFC)またはヒドロクロロフルオロカーボン(HCFC)を形成する。HFCまたはHCFC生成物は、副産物のHClと幾分かの未反応HFと共に気体として反応混合物から除去することができる。精留塔は、HClから未反応HF、有機化合物およびフッ素化不足の有機化合物を分離するために、反応装置に連結されている。精留塔からの塔頂留出物(overhead)は、同様に反応のHCl副産物も含む1233zdとHFの共沸混合物または近共沸混合物の組合せである。1233zdの場合、フッ素化反応装置への有機原料クロロカーボンは、1,1,3,3テトラクロロプロペン(1230za)または1,1,1,3,3ペンタクロロプロパン(240fa)であり得る。
【0008】
本出願において、「蒸留塔」および「精留塔」は、時として互換的に使用されている。しかしながら、実際には、精留塔は、特定のタイプの蒸留塔である。大部分の蒸留塔において、蒸留すべき材料は、塔の中央に供給され、供給点より下部はストリッピング部と呼ばれ、供給点より上部は精留部と呼ばれる。本明細書では、蒸留すべき材料が「蒸留塔」の塔底に供給される場合に、精留塔と言及されている。
【0009】
本発明の方法では、HFから1233zdを分離するために共沸蒸留塔が使用される。共沸蒸留塔に対する供給物の組成は、その共沸組成を実質的に超えてHFまたはF1233zdを有していなければならない。本発明の方法において、このような流れは、最初に精留塔の塔頂部(overhead)から退出するHClを蒸留によって1233zd/HFの共沸混合物または近共沸混合物から分離することによって提供される。1233zd/HFの共沸混合物または近共沸混合物の組合せは、次に、HF富有相と1233zd富有相への分離を提供するのに充分な温度まで冷却される。HF富有相は、液相分離器内で1233zd富有相から分離される。その後、HF富有相は、第1の共沸蒸留塔に供給され、この蒸留塔は、塔頂留出物として共沸混合物を、そして塔底留出物として純粋HFを取り出す。1233zd富有相は、第2の共沸蒸留塔を含む蒸留列に送られる。蒸留列は、共沸蒸留を介して1233zdから1233zd/HF共沸混合物を分離し、同様に1233zdから不純物も分離して実質的に純粋な1233zdの流れを提供する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明に係る典型的な方法の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の目的は、モノクロロ−トリフルオロプロペン、好ましくは1,1,1−トリフルオロ−3−クロロ−2−プロペン(1233zd)そしてより好ましくは以下「1233zd−t」と呼ぶ1233zdのトランス異性体とHFの2つが共沸混合物組合せまたは近共沸組合せで発生している場合にそれらを分離するための手段を提供することにある。HFと1233zd、好ましくは1233zd−tが非常に類似した沸点を有することから、それらを分離するのに共沸蒸留が使用される。共沸混合物は、1230zaおよび240faなどの有機クロロカーボン原料から1233zdを生成する液相反応から生成されるものの典型である。共沸混合物または近共沸混合物の組成物は、生成された蒸気から未反応HF、未反応供給物有機質およびフッ素化不足の有機質を分離するために反応装置システムが反応装置に連結された精留塔を使用する場合に形成する。精留塔は、反応装置から蒸気流出物を分離し、HFと1233zdの共沸比に近い比率で、HFと1233zd、好ましくは1233zd−tの気相組合せを生成する。米国特許第6,013,846号明細書は、この比率が50℃で1233zd1モルあたり約2.33モルのHFであることを開示している。このような精留塔からの塔頂留出物は、HClも同様に含むと考えられる。
【0012】
本発明によると、精留塔の頂部(top)からの1233zd、好ましくは1233zd−tとHFの共沸または近共沸組合せは、蒸留塔に供給され、そこでHClが除去される。HCl除去蒸留塔は典型的に約100psig〜300psigの圧力で作動される。HCl除去蒸留塔からの塔底留出物は、1233zd、好ましくは1233zd−tとHFの共沸混合物または共沸混合物様組合せを含む。この塔底流は、2相が形成できるように充分に冷却される。各相は共沸混合物または共沸混合物様1233zd/HFおよび独立してHFまたは1233zdを含む。こうして、各々の流れの全体的組成は、共沸混合物と有意に異なっている。1つの相すなわち軽質相は、HFを富有し、第2相すなわち重質相は、1233zd好ましくは1233zd−tを富有している。2相混合物は液相分離器に供給される。液相分離器は、約−60℃〜+50℃、好ましくは約−20℃〜+10℃の温度で作動させることができる。軽質液相は、共沸混合物組成に比べ実質的に余剰にHFを有する。このHF富有相は、第1の共沸蒸留塔に送られ、そこで共沸1233zd/HFは塔頂留出物として除去され、比較的純粋なHFは塔底留出物として除去される。共沸1233zd/HF塔頂留出物は、再循環されて冷却され相分離器に供給され、HF塔底流は反応装置まで再循環される。液相分離器由来の重質相は、共沸組成物に比べて、1233zd、好ましくは1233zd−tを実質的に余剰に含んでいる。この流れは、一連の蒸留塔を含む蒸留列に送られる。第1の蒸留塔は、塔頂留出物として揮発性の非常に高いあらゆる不純物、例えばHClまたは過剰フッ素化HFC類を取り出す。この塔の塔底留出物は第2の共沸蒸留塔に送られる。この第2の共沸蒸留塔は、塔頂留出物として1233zd/HF共沸混合物をそして塔底留出物として粗製1233zd、好ましくは1233zd−tを取り出す。塔頂留出物は再循環されて冷却され、液相分離器に供給され得る。塔底留出物は再循環されて冷却され、液相分離器に供給され得る。塔底留出物は、生成物回収蒸留塔まで送られ、この蒸留塔は塔頂留出物として純粋な1233zd、好ましくは1233zd−tを、そして塔底流として1233zdのシス異性体などのあらゆる有機不純物を回収する。本発明の方法は、比較的純粋な1233zd好ましくは1233zd−tを、1233zdとHFの共沸混合物または共沸混合物様組合せから分離できる方法を提供する。
【0013】
図1は、本発明に係る方法の概略図を示す。反応装置システムに対する供給物は典型的にHF(流れ1)と有機流、240faまたは1230zaのいずれか(流れ2)である。反応装置(R101)は、触媒を含んでいてもいなくともよい。反応の選択的生成物は、1233zdおよびHClである。これらは、1233zd(流れ3)とのその共沸比に近くなるように充分なHFと共に精留塔(C101)の頂部から反応系を退出させると考えられる。
【0014】
塔C102は、塔頂生成物(流れ4)としてHClを取り出す。これは100psig〜300psigの範囲の任意の圧力で行うことができる。次にこの塔からの塔底留出物(流れ5)は、熱交換器(E105)内で冷却され、液相分離器(V102)に送られると考えられる。液相分離器は、−60℃〜+50℃の温度で作動可能であると考えられる。好ましい温度範囲は−20℃〜10℃であると考えられる。より軽量の液相(流れ7)は、共沸組成物に比べて実質的に余剰のHFを有すると思われる。この相は、第1の共沸蒸留塔(C103)に送られ、この蒸留塔は、塔頂留出物(流れ8)としてHF/F1233zd共沸混合物を、そして塔底留出物(流れ9)として比較的純粋なHFを取り出す。共沸組成物は再循環されて冷却され、相分離器に供給され、HFは反応装置R101に再循環され得る。
【0015】
相分離器由来の重質相(流れ6)は、1233zd/HF共沸組成物に比べて実質的に余剰の1233zdを含む。この流れは、一連の蒸留塔に送られる。第1の塔(C104)は、残留HClまたは過剰フッ素化HFC類などの揮発性の非常に高いあらゆる不純物を塔頂留出物(流れ10)として取り出す精製塔である。その後、第1の塔の塔底留出物(流れ11)は、第2の共沸蒸留塔(C105)に送られる。この共沸蒸留塔は、塔頂留出物(流れ12)として1233zd/HF共沸混合物を、そして塔底留出物(流れ13)として粗製1233zd流を取り出す。塔頂流は再循環されて冷却され、液相分離器V102に供給され得る。塔底流は、生成物回収蒸留塔(C106)に送られ、この蒸留塔は、塔頂留出物(流れ14)として純粋な1233zd、好ましくは1233zd−tをそして塔底留出物(流れ15)として1233zdのシス異性体などのあらゆる有機不純物を回収する。
【実施例】
【0016】
実施例1
HF−F1233zd系内の液体−液体平衡を判定するために、一組の実験を実施した。4つの異なる温度でF1233zdとHFの混合物を平衡化した。底部および頂部相の試料を分析した。以下の結果を得た。
【0017】
【表1】

【0018】
実施例2
−20Cで作動させた相分離器についての本方法の関連する部分の物質収支の一例が、表2に示されている。流れ番号は、図1で使用されている番号を意味する。表が示す通り、相分離は、純粋なHFおよび純粋な1233zdの両方を単離させるために共沸蒸留を使用できるように充分離れて、共沸組成物から取り出された2つの相を生成するものである。
【0019】
【表2】

【0020】
本発明は、その特定の実施形態に関して説明されてきたが、当業者には本発明の他の多くの形態および修正が自明となるということは明らかである。添付のクレームおよび本発明は一般に、本発明の真の精神および範囲内に入るこのような自明の形態および修正全てを網羅するものとみなされるべきである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
モノクロロ−トリフルオロプロペンとHFの共沸混合物または共沸混合物様組合せからモノクロロ−トリフルオロプロペンを生産するための方法において、(a)フッ化水素、モノクロロ−トリフルオロプロペンおよび塩化水素を含む反応混合物を蒸留して、塔頂流および塔底流として塩化水素を除去するステップと、(b)前記塔底流を冷却して2つの液相を形成するステップと、(c)前記2つの液相を液相分離器内において、モノクロロ−トリフルオロプロペンとフッ化水素の共沸混合物または共沸混合物様組合せに比べ余剰のフッ化水素を含む第1の軽質相、およびモノクロロ−トリフルオロプロペンの共沸混合物または共沸混合物様組合せに比べて余剰分のモノクロロ−トリフルオロプロペンを含む第2の重質相に分離するステップと、(d)蒸留塔内で前記第1の軽質相を蒸留して、モノクロロ−トリフルオロプロペンとフッ化水素の共沸混合物の頂部流とフッ化水素の塔底流とを生成するステップと、(e)前記第2の重質相を蒸留列内で蒸留してモノクロロ−トリフルオロプロペン流を提供するステップと、を含む方法。
【請求項2】
フッ化水素、モノクロロ−トリフルオロプロペンおよび塩化水素を含む前記反応混合物が、反応装置内で1,1,1,3,3−ペンタクロロプロパンおよび/または1,1,3,3−テトラクロロ−2−プロペンとフッ化水素とを反応させることによって形成される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記塔底流が、約−60℃〜+30℃まで冷却される、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
モノクロロ−トリフルオロプロペンとフッ化水素の共沸混合物の前記頂部流が、前記液相分離器に再循環される、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
フッ化水素の前記塔底流が、前記反応装置まで再循環される、請求項2に記載の方法。
【請求項6】
前記蒸留列が、モノクロロ−トリフルオロプロペンとフッ化水素の共沸混合物または共沸混合物様組合せに比べたモノクロロ−トリフルオロプロペンの前記余剰分を揮発性不純物頂部流、および第2の共沸蒸留塔に送られてモノクロロ−トリフルオロプロペンおよびフッ化水素の共沸混合物の頂部流と粗製モノクロロ−トリフルオロプロペンの塔底流を提供する塔底流へと分離するための精製蒸留塔と、粗製モノクロロ−トリフルオロプロペンの前記塔底流を不純物の頂部流と精製済みモノクロロ−トリフルオロプロペンの塔底流へと分離するための回収蒸留塔とを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記モノクロロ−トリフルオロプロペンが、1,1,1−トリフルオロ−3−クロロ−2−プロペンおよび1,1,1−トリフルオロ−2−クロロ−3−プロペンの群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記精製されたモノクロロ−トリフルオロプロペンが、1,1,1−トリフルオロ−3−クロロ−2−プロペンのトランス異性体である、請求項6に記載の方法。

【図1】
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【公表番号】特表2012−521430(P2012−521430A)
【公表日】平成24年9月13日(2012.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−502099(P2012−502099)
【出願日】平成22年3月16日(2010.3.16)
【国際出願番号】PCT/US2010/027409
【国際公開番号】WO2010/111067
【国際公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【出願人】(500307340)アーケマ・インコーポレイテッド (119)
【住所又は居所原語表記】900 First Avenue,King of Prussia,Pennsylvania 19406 U.S.A.
【Fターム(参考)】