説明

フッ化物単結晶及びそれを備えた光アイソレータ

【課題】大型化が可能で、広範な波長域で大きなベルデ定数を有し且つ高い透過率を有するフッ化物単結晶及びそれを備えた光アイソレータを提供すること。
【解決手段】
下記組成式:
1−x3−x+y
(上記式中、LはTbを含む希土類元素を表す。Mは、Ca及びSrからなる群より選ばれる少なくとも1種を含むII族元素を表す。xは0より大きく1未満である。yは−0.2〜0.2である。)
で表されることを特徴とするフッ化物単結晶。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フッ化物単結晶及びそれを備えた光アイソレータに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、光アイソレータは、光通信だけでなくレーザ加工機にも使用されるようになってきている。
【0003】
レーザ加工機用光アイソレータに用いるファラデー回転子材料としては、テルビウム・ガリウム・ガーネット型単結晶(TGG:TbGa12)が開発され、実用化されている(非特許文献2)。
【0004】
また、TGGより大きなファラデー回転角を示すものとして、テルビウム・アルミニウム・ガーネット型単結晶(TAG:TbAl12)が報告されている(特許文献1及び非特許文献1)。
【0005】
さらに、TGGより大きなファラデー回転角を示すものとして、テルビウム・スカンジウム・アルミニウム・ガーネット型単結晶(TSAG:TbScAl12)や、その一部をルテチウムで置換したテルビウム・スカンジウム・ルテチウム・アルミニウム・ガーネット型単結晶(TSLAG:TbSc2−xLuAl12)なども知られている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2001−226196号公報
【特許文献2】特開2002−293693号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Cryst.Res.Technol.34(1999)5−6、p.615−619
【非特許文献2】M.Y.A.Raja,D.Allien,W.Sisk,Appl.Phys.Lett.67(1995)p.2123
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、TAGは、TGGよりも大きいベルデ定数を有するものの、非調和溶融組成(インコングルエント組成)を有するため、チョクラルスキー法などによる大型の結晶を育成することが困難である。TAGをマイクロ−PD法により育成することも報告されているが、最大でも直径2mmの非常に細い棒状の結晶しか得られていない。このようにTAGを光アイソレータ用の単結晶として工業的に利用することは現状では不可能である。
【0009】
さらにTSAG及びTSLAGは、TGGより大きなベルデ定数を有し、TAGに比べて大型の単結晶を育成できるものの、TGGに比べるとクラックが発生しやすく、単結晶の大型化が困難であった。
【0010】
従って、現状では、TGGのみが光アイソレータ用の単結晶として工業的に利用されている状況にある。
【0011】
しかし、TGGは、単結晶の大型化は可能であるものの、単結晶の育成中における原料成分の酸化ガリウムの蒸発が激しいなどの理由から歩留まりが悪い。そしてこのことが、コストが下がりにくい要因となっている。またTGGは、短波長域(例えば800nm以下の波長域)においてベルデ定数が小さいため、短波長域では偏光を回転させるために大きな結晶が必要になる。さらに、TGGでは、特に短波長域(例えば800nm以下の波長域)で透過率が急激に低下する。このため、TGGは、短波長域に発振波長を有するレーザ光源を備えたレーザ加工機の光アイソレータに用いるファラデー回転子として使用することは適切ではない。このように、TGGは、結晶の大型化、ベルデ定数及び透過率の点で未だ改善の余地があった。
【0012】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、大型化が可能で、広範な波長域にわたって大きなベルデ定数を有し且つ高い透過率を有するフッ化物単結晶及びそれを備えた光アイソレータを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、TGGのようなガーネット型単結晶ではなく、光学レンズなどの光学部品として使用されるフッ化物単結晶に着目して鋭意検討を重ねた結果、CaやSrを含むII族元素とフッ素との化合物に、ファラデー回転角に影響を与えるTbを含む希土類元素を導入することで、上記課題を解決し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0014】
即ち本発明は、下記組成式:
1−x3−x+y
(上記式中、LはTbを含む希土類元素を表す。Mは、Ca及びSrからなる群より選ばれる少なくとも1種を含むII族元素を表す。xは0より大きく1未満である。yは−0.2〜0.2である。)
で表されることを特徴とするフッ化物単結晶である。
【0015】
このフッ化物単結晶は、調和溶融組成(コングルエント組成)又はそれに近い組成である。そのため、結晶の引上げ中に組成のズレがほとんど起こらない。その結果、結晶の大型化が可能となる。また、本発明のフッ化物単結晶は、TGGと比較して、広範な波長域で大きなベルデ定数を有することが可能である。さらに、本発明のフッ化物単結晶は、TGGと比較して、広範な波長域で高い透過率を有することが可能となる。特に、本発明のフッ化物単結晶は、800nm以下の短波長域でも高い透過率を有しているため、本発明のフッ化物単結晶は、短波長域に発振波長を有するレーザ光源を備えたレーザ加工機における光アイソレータのファラデー回転子としても使用可能である。
【0016】
上記組成式において、xが下記式を満足することが好ましい。
0.1<x≦0.3
【0017】
この場合、xが0.3より大きい場合に比べて、ファラデー回転角を顕著に大きくすることが可能となり、xが0.1以下である場合に比べて、フッ化物単結晶がコングルエント組成、またはその組成により近くなるため、より大きなフッ化物単結晶を得ることができる。
【0018】
また本発明は、ファラデー回転子を有する光アイソレータであって、前記ファラデー回転子が、上記フッ化物単結晶で構成されている光アイソレータである。
【0019】
この光アイソレータのファラデー回転子は、フッ化物単結晶で構成されており、このフッ化物単結晶は、TGGと比較して、広範な波長域で大きなベルデ定数を有し且つ広範な波長域で高い透過率を有することが可能である。このため、本発明の光アイソレータは、様々な波長のレーザ光源を備えたレーザ加工機の光アイソレータとして使用可能である。また上記フッ化物単結晶は、大型化が可能であるためファラデー回転子の大量生産が可能である。その結果、ファラデー回転子の低価格化が可能となり、ひいては、そのファラデー回転子を備える光アイソレータの低価格化も可能となる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、大型化が可能で、広範な波長域で大きなベルデ定数を有し且つ高い透過率を有するフッ化物単結晶及びそれを備えた光アイソレータが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明に係る光アイソレータの一実施形態を示す概略図である。
【図2】本発明に係るフッ化物単結晶を、結晶育成装置を用いて育成する工程を示す図である。
【図3】実施例1のフッ化物単結晶の透過スペクトルを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら詳細に説明する。
【0023】
図1は、本発明の光アイソレータの一実施形態を示す概略図である。図1に示すように、光アイソレータ10は、偏光子1と、検光子2と、偏光子1と検光子2との間に配置されるファラデー回転子3とを備えている。ここで、偏光子1及び検光子2は、それらの透過軸同士が互いに非平行となるように、例えば45°の角度をなすように配置されている。
【0024】
ファラデー回転子3には、例えば偏光子1から検光子2に向かう方向、即ち光Lの入射方向に沿って磁束密度Bが印加されるようになっており、ファラデー回転子3は、磁束密度Bの印加により、偏光子1を通過した光Lの偏光面を回転させ、検光子2の透過軸を通過させるようになっている。
【0025】
ここで、ファラデー回転子3について詳細に説明する。
【0026】
ファラデー回転子3は、下記組成式:
1−x3−x+y
(上記式中、LはTbを含む。Mは、Ca及びSrからなる群より選ばれる少なくとも1種を含む。xは0より大きく1未満である。yは−0.2〜0.2である。)
で表されるフッ化物単結晶で構成されている。このフッ化物単結晶は、六方晶構造を有し1軸性結晶である。従って、フッ化物単結晶の[001]方向に光を入射させると、光はその偏光面を回転させずに直進することが可能である。
【0027】
Lは、Tbを含む希土類元素を表す。従って、Lは、Tbのみを含む希土類元素であってもよく、Tbを主として含み、他の希土類元素など3価で安定な元素を微量に含む希土類元素であってもよい。
【0028】
Mは、Ca及びSrからなる群より選ばれる少なくとも1種を含むII族元素を表す。従って、Mは、Ca及びSrからなる群より選ばれる少なくとも1種のみを含むII族元素であってもよく、Ca及びSrからなる群より選ばれる少なくとも1種を主として含み、MgやBaなど2価で安定なII族元素を微量に含むII族元素であってもよい。
【0029】
ここで、xは0より大きく1未満であればよい。xが1であると、高い透過率を有するものの、ベルデ定数が顕著に低下する。一方、xが0であると、フッ化物単結晶は、1軸性結晶とはならず、2軸性結晶となり、光を入射させる際に磁束密度を印加しなくても偏光が回転してしまうため、ファラデー回転子3として使用することは適切でない。またyが上記範囲を外れると、フッ化物単結晶内の欠陥が増加し、結晶の品質が低下する。
【0030】
上記組成式において、xは下記式を満足することが好ましい。
0.1<x≦0.5
【0031】
この場合、xが0.5より大きい場合に比べて、ベルデ定数をより大きくすることが可能となり、xが0.1以下である場合に比べて、フッ化物単結晶がコングルエント組成、またはその組成により近くなるため、より大きなフッ化物単結晶を得ることができる。
【0032】
上記組成式において、xは下記式を満足することがさらに好ましい。
0.1<x≦0.3
【0033】
この場合、xが0.3より大きい場合に比べて、フッ化物単結晶の育成がより容易となり、xが0.1以下である場合に比べて、フッ化物単結晶がコングルエント組成、またはその組成により近くなるため、より大きなフッ化物単結晶を得ることができる。
【0034】
上記組成式において、yはゼロであることが好ましい。この場合、yがゼロでない場合に比べて、欠陥に起因する結晶の濁りやクラックが生じにくくなる。
【0035】
上記組成式において、Mは、Ca、Sr又はこれらの組合せである。Mとして、特にCaやSrを含むII族元素を選択したのは、MがCaやSrを含まないII族元素である場合、CaFとTbFとがコングルエント組成を形成しなくなり、フッ化物単結晶の大型化が困難となるためである。
【0036】
上記フッ化物単結晶は、コングルエント組成又はそれに近い組成である。そのため、結晶の引上げ中に組成のズレがほとんど起こらない。その結果、結晶の大型化が可能となる。また上記フッ化物単結晶は、TGGと比較して、広範な波長域で大きなベルデ定数を有することが可能である。さらに、上記フッ化物単結晶は、TGGと比較して、広範な波長域で高い透過率を有することが可能となる。特に、上記フッ化物単結晶は、800nm以下の短波長域でも、高い透過率を有することが可能となる。
【0037】
従って、光アイソレータ10は、様々な波長のレーザ光源を備えたレーザ加工機の光アイソレータとして使用可能である。また上記フッ化物単結晶は、大型化が可能であるため1つのフッ化物単結晶から、大量にファラデー回転子3を得ることが可能である。このため、ファラデー回転子3の低価格化が可能となり、ひいてはファラデー回転子3を備えた光アイソレータ10についても低価格化が可能となる。
【0038】
次に、上記ファラデー回転子3の製造方法について説明する。
【0039】
まずファラデー回転子3を構成するフッ化物単結晶を育成する結晶育成装置について図2を参照しながら説明する。図2は、本発明に係るフッ化物単結晶を、結晶育成装置を用いて育成する工程を示す図である。図2に示すように、結晶引上げ炉20は、イリジウム製のルツボ21と、ルツボ21を収容するカーボン製の内側保温材22Aと、内側保温材22Aを包囲するように設けられる外側保温材22Bと、内側保温材22Aと外側保温材22Bとの間に設けられる高周波コイル23とを主として密閉ハウジング24中に備えている。高周波コイル23は、ルツボ21に誘導電流を生じさせ、ルツボ21を加熱するためのものである。また結晶引上げ炉20は、内側保温材22Aを支持する支持部26と、支持部26を上下に昇降させる昇降部25とを備えており、ルツボ21は、内側保温材22A内に収容されている。なお、図2において、符号29は種結晶を、符号30は育成結晶を示しており、矢印Aは、種結晶29の回転方向、即ち育成結晶30の回転方向を示し、矢印Cは、育成結晶30の引上げ方向を示す。
【0040】
次に、上記結晶育成装置20を用いたフッ化物単結晶の育成方法について説明する。
【0041】
上記フッ化物単結晶は、例えばチョクラルスキー法を用いて育成することができる。この場合、まずLF粉末及びMF粉末を用意する。
【0042】
そして、育成すべきフッ化物単結晶の組成、即ち、上記組成式におけるx及yが決定されたならば、その組成に基づいて、LF粉末及びMF粉末の配合率を決定する。このとき、LF粉末及びMF粉末の配合率は、以下の通りにする。
【0043】
即ち、LF粉末の配合率は通常、LF粉末及びMF粉末の合計モル数を基準として、70〜90モル%とし、好ましくは75〜85モル%とする。
【0044】
MF粉末の配合率は通常、LF粉末及びMF粉末の合計モル数を基準として、10〜30モル%とし、好ましくは15〜25モル%とする。
【0045】
そして、上記のようにして決定された配合率で上記LF粉末及びMF粉末を乾式混合して混合粉末を得る。
【0046】
次に、上記混合粉末をルツボ21に詰める。
【0047】
続いて、高周波コイル23に電流を印加する。すると、ルツボ21が加熱され、ルツボ21内で混合粉末が溶融され、融液28が得られる。続いて、棒状の種結晶29を用意し、その種結晶29の先端を融液28に漬けた後、種結晶29を回転させながら引き上げる。
【0048】
このとき、種結晶29としては、例えば融液28を固化してなる固化物から切り出したものを用いることができる。
【0049】
種結晶29の回転数は、好ましくは5〜50rpmとし、より好ましくは8〜15rpmとする。
【0050】
種結晶29の引き上げ速度は、好ましくは0.5〜20mm/hとし、より好ましくは1〜5mm/hとする。
【0051】
種結晶29の引上げは、HFなどの腐食性ガスを発生しないように酸素や水蒸気が含まれない雰囲気下で行うことが好ましく、具体的にはCFなどのフッ化ガス雰囲気下で行うことが好ましい。この場合、ルツボ21内に含まれる余分な酸素や水蒸気とフッ化ガスを反応させ、酸素や水蒸気の濃度を減らすことができ、HFガスなどの腐食性ガスによって育成結晶30が腐食されることを抑制することができる。
【0052】
こうして種結晶29を引き上げると、種結晶29の先端に、上記組成式で表されるバルク状の育成結晶30を得ることができる。
【0053】
なお、本発明は、上記実施気形態に限定されるものではない。例えば、上記実施形態では、フッ化物単結晶を光アイソレータのファラデー回転子として使用する例が示されているが、本発明のフッ化物単結晶は、ファラデー回転子を使用しファラデー回転角の変化を計測することで磁界の変化を観測する光磁界センサなどにも適用可能である。
【実施例】
【0054】
以下、本発明の内容を、実施例を挙げてより具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
【0055】
(実施例1)
まずTbF粉末及びCaF粉末を用意し、これらの粉末を乾式混合し、混合粉末を得た。このとき、TbF粉末及びCaF粉末の合計モル数を基準として、TbF粉末及びCaF粉末の各配合率は、81モル%、19モル%とした。
【0056】
続いて、上記混合粉末を、直径60mm、深さ100mmの筒状のルツボ21に詰めた。
【0057】
次に、高周波コイル23に電流を印加してルツボ21を加熱して混合粉末を溶融させ、融液28を得た。続いて、融液28を固化した固化物から角棒状に切り出した結晶を用意し、これを種結晶29とした。このとき、種結晶29の[001]方向を、種結晶29の長手方向と一致させた。
【0058】
そして、種結晶29の先端を融液28に漬けた後、種結晶29を、10rpmの回転数で回転させながら、1mm/hrの引上げ速度で引き上げた。このとき、ルツボ21の内部は一度真空にした後、密閉したままCFガスで満たし大気圧とした。こうして直径約2.5cm(約1インチ)、長さ約5cmの大型で透明な結晶を得た。
【0059】
こうして得られた結晶について単結晶X線回折を行ったところ、得られた結晶が六方晶構造を有し、1軸性結晶であることが分かった。
【0060】
さらに、上記結晶について、ICP(誘導結合プラズマ)およびランタンアリザリンコンプレクソン吸光法による化学分析を行った結果、Tb0.81Ca0.192.80の組成を有する単結晶が得られていることが確認された。
【0061】
(実施例2)
CaF粉末に代えてSrF粉末を用い、TbF粉末及びSrF粉末の合計モル数を基準として、TbF粉末及びSrF粉末の各配合率を、76モル%、24モル%としたこと以外は実施例1と同様にしてフッ化物単結晶を作製した。その結果、直径約2.5cm(約1インチ)、長さ約5cmの大型で透明な単結晶を得た。
【0062】
こうして得られた結晶について単結晶X線回折を行ったところ、得られた結晶が六方晶構造を有し、1軸性結晶であることが分かった。
【0063】
さらに、得られた結晶について、実施例1と同様にしてICPおよびランタンアリザリンコンプレクソン吸光法による化学分析を行ったところ、Tb0.77Sr0.232.71の組成を有する単結晶が得られていることが確認された。
【0064】
(比較例1)
比較例1の単結晶として、Fujian Castech Crystals社製TbGa12(TGG)を使用した。
【0065】
[特性評価]
(ファラデー回転角)
上記のようにして得られた実施例1〜2及び比較例1の結晶について、ファラデー回転角を測定した。
【0066】
このとき、ファラデー回転角の測定は以下のようにして行った。即ちまず偏光子と検光子との間に単結晶を配置しない状態で検光子を回転させて消光状態にした。次に、実施例1〜2及び比較例1の単結晶を、3.5mm×3.5mm×16mmの角棒状に切り出し、これを、偏光子と検光子との間に配置し、単結晶の長手方向に沿って0.42Tの磁束密度を印加した状態で光を入射し、再度検光子を回転させて消光状態にした。そして、偏光子と検光子との間に単結晶を挟む前の検光子の回転角と、単結晶を挟んだ後の検光子の回転角との差を算出し、この角度差をファラデー回転角とした。このとき、ファラデー回転角は、光源の波長を633nm、1064nmおよび1303nmのそれぞれについて測定した。結果を表1に示す。
【0067】
(透過率)
上記のようにして得られた実施例1及び比較例1の結晶を、W[mm]×H[mm]×L[mm]=3.5mm×3.5mm×12mmとなるように角棒状に切り出し、この切り出した結晶について、広い波長域(200〜1800nm)における透過率を測定した。結果を図3に示す。図3は、実施例1の結晶における透過率と波長との関係、即ち透過スペクトルを示すグラフである。図3においては、比較例1のTGGの透過スペクトルの結果も併記した。なお、図3において、実施例1の透過スペクトルは実線で、比較例1の透過スペクトルは破線で示した。なお、実施例2の透過スペクトルは、図示はしていないが、実施例1と同様の結果を示した。
【表1】

【0068】
表1に示す結果より、実施例1〜2の結晶は、比較例1の結晶に比べて、633nm、1064nm及び1303nmの全波長域で大きなファラデー回転角を示すことが分かった。このことから、実施例1〜2の結晶は、比較例1の単結晶に比べて、広範な波長域で大きなベルデ定数を有していることが分かった。
【0069】
また実施例1〜2の結晶は、200〜1800nmという広範な波長域において、比較例1の結晶よりも高い透過率を有していた。特に、実施例1〜2の結晶は、200〜800nmの短波長域では、比較例1の結晶よりも顕著に高い透過率を有していた。
【0070】
さらに、実施例1〜2では、直径約2.5cm、長さ約5cmの大型の単結晶を容易に得ることができた。
【0071】
以上より、本発明のフッ化物単結晶は、大型化が可能で、広範な波長域で大きなベルデ定数を有し且つ高い透過率を有することが確認された。
【符号の説明】
【0072】
1…偏光子
2…検光子
3…ファラデー回転子
10…光アイソレータ


【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記組成式:
1−x3−x+y
(上記式中、LはTbを含む希土類元素を表す。Mは、Ca及びSrからなる群より選ばれる少なくとも1種を含むII族元素を表す。xは0より大きく1未満である。yは−0.2〜0.2である。)
で表されることを特徴とするフッ化物単結晶。
【請求項2】
前記組成式において、xが下記式:
0.1<x≦0.3
を満足する請求項1に記載のフッ化物単結晶。
【請求項3】
ファラデー回転子を有する光アイソレータであって、
前記ファラデー回転子が、請求項1又は2に記載のフッ化物単結晶で構成されている光アイソレータ。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2012−91963(P2012−91963A)
【公開日】平成24年5月17日(2012.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−240542(P2010−240542)
【出願日】平成22年10月27日(2010.10.27)
【出願人】(000005186)株式会社フジクラ (4,463)
【出願人】(301023238)独立行政法人物質・材料研究機構 (1,333)
【Fターム(参考)】