説明

フッ素およびケイ素を含む排水の処理方法、フッ化カルシウムの製造方法、およびフッ素含有排水処理設備

【課題】フッ素およびケイ素を含む排水を処理してフッ化カルシウムを回収するにあたり、従来よりも薬品コストを低く抑えることができる排水処理技術(特に前処理技術)を提供すること。
【解決手段】フッ素およびケイ素を含む排水をpH調整槽1に供給し水酸化ナトリウム(NaOH)を添加してケイ酸ナトリウムを析出させ、析出したケイ酸ナトリウムを固液分離手段2により除く。固液分離したあとのフッ化ナトリウム(NaF)を含む分離液を、バイポーラ膜21を具備してなる電気透析装置5に供給して当該分離液をフッ化水素を含む酸性溶液と水酸化ナトリウムを含むアルカリ性溶液とに分離する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フッ素およびケイ素を含む排水の処理方法、フッ化カルシウムの製造方法、およびフッ素含有排水処理設備に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、半導体製造工場、太陽電池製造工場、液晶工場、PFC(パーフルオロカーボン)ガス処理工程やシリコンエッチング工程のある工場などで発生するフッ素およびケイ素を含む排水は、例えば次のようにして処理されている。フッ素およびケイ素を含む排水に水酸化カルシウム(Ca(OH))を添加してアルカリ側で反応させ、フッ化カルシウム(CaF)とケイ酸カルシウム(CaSiO)とを含む汚泥を生成させ、生成した汚泥を分離して産廃処理している。
【0003】
一方、フッ素(フッ化カルシウム)の含有率が高い高純度の沈殿物を上記排水から生成させることができたならば、生成した沈殿物を従来のように産廃処理することなく利用することができる。すなわち、従来は産廃処理されていた排水に含まれるフッ素をフッ化カルシウムとして再資源化することができるのである。
【0004】
ここで、フッ素およびケイ素を含む排水からフッ素の含有率が高い高純度の沈殿物(フッ化カルシウム汚泥)を得るための方法としては、例えば、特許文献1に記載されたような方法がある。特許文献1に記載された方法は、まず、珪弗化水素酸を含む弗素含有排水にナトリウム化合物を供給して混合する(中和分離工程)。その後、中和分離工程で生成したシリカスラリーから不溶性シリカを分離してシリカ分離水を得る(分離工程)。その後、シリカ分離水に対してカルシウム化合物を供給して弗化カルシウムを生成させる(晶析工程)。この方法により、純度が97%以上、かつ平均粒子径5〜100μmの弗化カルシウムを生成することができる、と称されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−196858号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ここで、特許文献1に記載された方法における弗化(フッ化)カルシウムを生成させる工程は、酸性条件下で行うことが好ましいため(例えば、特許文献1には晶析工程をpH2以下で行うことが好ましい旨、記載されている)、特許文献1に記載された方法では、中和分離工程で用いたアルカリに対応する量の酸(薬品)を、晶析工程においてシリカ分離水に添加しなければならない。すなわち、特許文献1に記載された方法では、薬品コストが高くなるという問題がある。
【0007】
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであって、その目的は、フッ素およびケイ素を含む排水を処理してフッ化カルシウムを回収するにあたり、従来よりも薬品コストを低く抑えることができる排水処理技術(特に前処理技術)を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、前記課題を解決すべく鋭意検討した結果、バイポーラ膜、陽イオン交換膜、および陰イオン交換膜を備えた電気透析装置に、固液分離後のフッ素を含む分離液をとおして当該分離液をフッ化水素を含む酸性溶液とアルカリ性溶液とに分離することにより、前記課題を解決できることを見出し、この知見に基づき本発明が完成するに至ったのである。
【0009】
すなわち、本発明は、フッ素およびケイ素を含む排水からケイ酸塩を固液分離する固液分離工程と、前記固液分離工程により得られた分離液を、バイポーラ膜、陽イオン交換膜、および陰イオン交換膜を備えた電気透析装置に供給して当該分離液をフッ化水素を含む酸性溶液とアルカリ性溶液とに分離するフッ化水素分離工程と、を備えるフッ素およびケイ素を含む排水の処理方法である。
【0010】
この構成によると、上記固液分離工程により得られた分離液を、バイポーラ膜を具備してなる電気透析装置に供給して当該分離液をフッ化水素を含む酸性溶液とアルカリ性溶液とに分離することにより、フッ素を含む酸性溶液が得られるので、その後、フッ化カルシウムを回収する(フッ素の再資源化)にあたり、外部から酸(薬品)を添加しなくて済む、または酸(薬品)の添加量を減らすことができる。
【0011】
また本発明において、前記排水は、酸性の排水であって、前記固液分離工程の前に、前記排水にアルカリを添加してケイ酸塩を析出させるアルカリ添加工程をさらに備えることが好ましい。本工程により析出させたケイ酸塩は、後の固液分離工程で排水から分離される。
【0012】
さらに本発明において、前記フッ化水素分離工程で分離されたアルカリ性溶液を、前記アルカリ添加工程に戻して前記アルカリ添加工程において前記排水に添加することが好ましい。
【0013】
この構成によると、フッ化水素分離工程で分離されたアルカリ性溶液をアルカリ添加工程に戻すことにより、当該アルカリ添加工程において新規に添加するアルカリの量を抑えることができる。
【0014】
さらに本発明において、前記アルカリは水酸化ナトリウムまたは水酸化カリウムであることが好ましい。
【0015】
フッ素およびケイ素を含む排水に添加する添加剤として、水酸化ナトリウムもしくは水酸化カリウムを用いることで、例えば添加剤としてアンモニアを用いた場合に比べて処理排水の後処理が容易となる。
【0016】
また、添加剤として水酸化カリウムを用いることで、フッ素濃度の高い排水に対応することができる。また、水酸化ナトリウムは他の添加剤と比較して安価であるので、添加剤として水酸化ナトリウムを用いることで薬品コストを低減できるというメリットもある。
【0017】
また本発明の第2の態様は、前記したフッ素およびケイ素を含む排水の処理方法により得られたフッ化水素を含む酸性溶液に水溶性カルシウムを添加してフッ化カルシウムを回収するフッ化カルシウムの製造方法である。
【0018】
この構成によると、フッ化カルシウムを回収するにあたり、外部から酸(薬品)を添加しなくて済む、または酸(薬品)の添加量を減らすことができる。
【0019】
また本発明の第3の態様は、フッ素およびケイ素を含む排水中のケイ酸塩を固液分離してフッ素を含む分離液を得る固液分離手段と、前記固液分離手段の下流側に設置され、前記分離液をフッ化水素を含む酸性溶液とアルカリ性溶液とに分離する、バイポーラ膜、陽イオン交換膜、および陰イオン交換膜を備えた電気透析装置と、を備えるフッ素含有排水処理設備である。
【0020】
また本発明において、前記排水は、酸性の排水であって、前記固液分離手段の上流側に設置され、前記排水にアルカリを添加してケイ酸塩を析出させる析出手段を備えることが好ましい。
【0021】
さらに本発明において、前記電気透析装置により分離されたアルカリ性溶液を前記析出手段に戻して前記排水に添加するためのアルカリ戻し手段と、を備えることが好ましい。
【0022】
さらに本発明において、前記電気透析装置の下流側に設置され、前記フッ化水素を含む酸性溶液に水溶性カルシウムを反応させてフッ化カルシウムを回収するためのフッ化カルシウム回収手段を備えることが好ましい。
【発明の効果】
【0023】
本発明によると、本発明の構成要件、特に、固液分離工程により得られた分離液を、バイポーラ膜、陽イオン交換膜、および陰イオン交換膜を備えた電気透析装置に供給して当該分離液をフッ化水素とアルカリとに分離することにより、フッ素を含む酸性溶液が得られる。その結果、その後、フッ化カルシウムを回収する(フッ素の再資源化)にあたり、外部から酸(薬品)を添加しなくて済む、または酸(薬品)の添加量を減らすことができる。すなわち、フッ素およびケイ素を含む排水を処理してフッ化カルシウムを回収するにあたり、従来よりも薬品コストを低く抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明に係る排水処理方法の一実施形態を示す処理フロー図である。
【図2】図1に示す電気透析装置の内部構造を示すための図である。
【図3】比較例に係る処理フロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明を実施するための形態について図面を参照しつつ説明する。図1は、本発明に係る排水処理方法(フッ素およびケイ素を含む排水の処理方法)の一実施形態を示す処理フロー図である。なお、この例は、フッ素およびケイ素を含む排水(原水)が酸性の場合の処理例である。
【0026】
図1に示すように、本実施形態に係る処理方法を実施するための排水処理設備100(フッ素含有排水処理設備)は、処理工程の上流側から順に、pH調整槽1、固液分離手段2、電気透析装置5、反応槽3、および沈殿槽4を備えている。pH調整槽1、固液分離手段2、電気透析装置5、反応槽3、および沈殿槽4は、それぞれ、相互に配管などで接続される。
【0027】
pH調整槽1は攪拌機1aを備え、反応槽3は攪拌機3aを備える。なお、pH調整槽1が本発明の析出手段に相当する。また、反応槽3と沈殿槽4とで、本発明のフッ化カルシウム回収手段を構成する。なお、高濃度のフッ素を含む排水中にケイ素が存在していると、酸性条件下ではフッ素はケイ素と反応してフッケイ酸(HSiF)として排水中に存在する。
【0028】
(第1工程(アルカリ添加工程))
第1工程では、フッ素およびケイ素を含む排水(原水)に水酸化ナトリウム(NaOH)を添加する。図1に示したように、フッ素およびケイ素を含む排水(原水)をpH調整槽1に供給するとともに、水酸化ナトリウム溶液をpH調整槽1に投入して、攪拌機1aで排水を攪拌する。
【0029】
ここで、フッ素およびケイ素は、排水中にフッケイ酸(HSiF)の状態で存在する。フッ素およびケイ素を含む排水に水酸化ナトリウム溶液を添加して攪拌すると、フッケイ酸(HSiF)は分解し、ケイ素はケイ酸ナトリウム(NaSiO)として排水中に析出する。
【0030】
なお、フッ素およびケイ素を含む排水に水酸化ナトリウムを添加することで、当該排水のpHを、6以上、好ましくは6.5以上7.5以下、より好ましくは約7に調整することが好ましい。
【0031】
排水のpHを6以上にすることで、フッケイ酸(HSiF)の分解が促進され、ケイ酸ナトリウムの析出量を高めることができる。排水のpHを6.5以上7.5以下にすることで、ケイ酸ナトリウムの析出量をより高めることができるとともに、無駄なアルカリ添加(フッケイ酸の分解に寄与しないアルカリ添加)を防止することができる。また、排水のpHを約7にすることで、ケイ酸ナトリウムの析出量向上と、薬品(第1工程で添加するアルカリ)の節約とを両立させることができる。
【0032】
なお、フッ素およびケイ素を含む排水に添加するアルカリは、前記した水酸化ナトリウム(NaOH)ではなくアンモニア(アンモニア水またはアンモニアガス)であってもよいし、その他のアルカリでもよい。水酸化ナトリウム(NaOH)以外の好適な添加剤としては、例えば水酸化カリウム(KOH)を挙げることができる。
【0033】
フッ素およびケイ素を含む排水にアンモニアを添加すると、フッケイ酸(HSiF)は、フッ化アンモニウム(NHF)とシリカ(SiO)とに分解する。ここで、フッ化アンモニウムの溶解度は、約849000mg/Lと高い。したがって、アンモニア添加によると、フッ素濃度の高い排水に対応することができる。
【0034】
また、フッ素およびケイ素を含む排水に水酸化カリウムを添加すると、フッケイ酸(HSiF)は、フッ化カリウム(KF)とケイ酸カリウム(KSiO)とに分解する。ここで、フッ化カリウムの溶解度は、約1017000mg/Lと非常に高い。したがって、水酸化カリウム添加によると、フッ素濃度のより高い排水に対応することができる。
【0035】
一方、本実施形態のように水酸化ナトリウム添加によると、フッ素(フッ化カルシウム)回収後の処理排水の後処理がアンモニア添加の場合に比して容易となる。ここで、水酸化ナトリウム添加によると、フッケイ酸(HSiF)は、フッ化ナトリウム(NaF)とケイ酸ナトリウム(NaSiO)とに分解する。フッ化ナトリウムの溶解度は、約41000mg/Lである。フッ化ナトリウムの溶解度から換算するに、フッ素の溶解度という観点からは、フッ素濃度が約18000mg/L以下の排水の場合には、添加するアルカリとして水酸化ナトリウムが適している。フッ素濃度が約18000mg/Lを超える排水の場合には、希釈処理と無希釈処理が可能であり、無希釈処理においては添加するアルカリとして水酸化カリウムやアンモニアが適している。
【0036】
(第2工程(固液分離工程))
第2工程では、第1工程により析出したケイ酸ナトリウム(NaSiO)を固液分離する。図1に示すように、pH調整槽1で十分に攪拌された排水は、固液分離手段2に送られる。固液分離手段2により、排水中のケイ素はケイ酸ナトリウム(NaSiO)として系外に排出され、その後、例えば産廃処理されることになる。なお、フッ素は、分離液中に溶解している状態である。分離液は、後段の電気透析装置5に送られる。
【0037】
固液分離手段2としては、(1)ろ過装置、(2)遠心分離機、(3)遠心分離機+ろ過装置、(4)フィルタープレスなどを挙げることができる。
【0038】
固液分離をろ過(ろ過装置)で行うことにより、安定した固液分離が可能となる。また、固液分離を遠心分離(遠心分離機)で行うことにより、ろ過(ろ過装置)の場合に比して安価な固液分離が可能となる。また、固液分離をフィルタープレスで行うことにより、容易に、安価に(ろ過(ろ過装置)の場合に比して)固液分離を行うことができ、かつ安定した固液分離が可能となる。
【0039】
また、固液分離を遠心分離(遠心分離機)で行った後、遠心上澄み液を静置して、その上澄み液を分離液として後段の電気透析装置5に送ってもよい。遠心上澄み液を静置することにより、遠心上澄み液中に含まれる遠心分離で除去されなかった低比重成分(NaSiO)が沈殿し、よりケイ酸ナトリウム(ケイ素)を除去することができる。
【0040】
また、固液分離をろ過(ろ過装置)で行う前に遠心分離(遠心分離機)で行ってもよい。遠心分離(遠心分離機)で固液分離を行った後、ろ過(ろ過装置)で固液分離することにより、ろ過装置の負荷を低減することができ、ろ過装置単体で固液分離する場合に比して、ろ過装置の維持管理費を抑えることができる。
【0041】
さらには、固液分離を遠心分離(遠心分離機)で行った後、遠心上澄み液を静置し、その上澄み液をさらにろ過して、そのろ過水を分離液として後段の反応槽3に送ってもよい。これにより、さらにNaSiOを除去することができる。
【0042】
(第3工程(フッ化水素分離工程))
第3工程では、第2工程により得られた分離液を電気透析装置5に供給して当該分離液中のフッ化ナトリウム(NaF)をフッ化水素(HF)と水酸化ナトリウム(NaOH)とに分離する。まず、電気透析装置5について、図2を参照しつつ説明する。
【0043】
電気透析装置5は、バイポーラ膜21、陽イオン交換膜22(カチオン交換膜)、および陰イオン交換膜23(アニオン交換膜)を具備してなる装置であって、これら3種類の膜により、脱塩室25、アルカリライン室24、酸ライン室26が区画形成される。また、これら3種類の膜を組み合せた単位をセルといい、電気透析装置5の内部構造は、このセルが多数組み合せられてフィルタープレスのように積層され、両端に電極が設けられた構造となっている。この電極より直流電流を通電して分離液中のフッ化ナトリウム(NaF)をフッ化水素(HF)と水酸化ナトリウム(NaOH)とに分離する。なお、バイポーラ膜21は、膜の片面が陽イオン交換膜の性質を有し、反対側の面が陰イオン交換膜の性質を有する膜である。
【0044】
また、電気透析装置5の酸ライン室26は、流路(例えば配管)を介して反応槽3に接続される。アルカリライン室24は、流路6(例えば配管)を介してpH調整槽1に接続される。脱塩室25は、排水ラインに接続される。
【0045】
(酸・アルカリへの分離について)
ここで、固液分離手段2から電気透析装置5へ供給された分離液(NaF)は、電気透析装置5の脱塩室25を流れる。このとき、陽イオンであるNaは、陽イオン交換膜22を介してアルカリライン室24へ移動し、陰イオンであるFは、陰イオン交換膜23を介して酸ライン室26へ移動する。
【0046】
一方、バイポーラ膜21に接液するアルカリライン室24・酸ライン室26を流れる水の一部がバイポーラ膜21内部に浸透し、HとOHとに電離し、Hは陰極側の酸ライン室26へ移動する。OHは、陽極側のアルカリライン室24へ移動する。
【0047】
そして、酸ライン室26においては、HとFとでHF(フッ化水素)が生成し、アルカリライン室24では、NaとOHとでNaOH(水酸化ナトリウム)が生成する。脱塩室25においては、NaおよびFがそれぞれアルカリライン室24、酸ライン室26に移動をすることでNaFの濃度が低くなり(脱塩されて)、分離液の脱塩液が脱塩室25から排出される。HF(フッ化水素)は、酸ライン室26から反応槽3へ送られ、NaOH(水酸化ナトリウム)は、アルカリライン室24からpH調整槽1へ戻される。
【0048】
(アルカリの戻し)
本実施形態では、電気透析装置5とpH調整槽1とは流路6で接続されている。流路6は、電気透析装置5により分離されたNaOHをpH調整槽1に戻して排水(原水)に添加するためのアルカリ戻し手段である。なお、流路6にはポンプ(アルカリ戻し手段の一構成機器)を設置することもある。このアルカリ戻し手段により、第3工程で分離されたNaOHを、第1工程に戻して排水(原水)に添加する。
【0049】
以上説明した第1工程〜第3工程が、フッ素およびケイ素を含む排水の前処理である。上記した第3工程において、第2工程により得られた分離液を、バイポーラ膜21を具備してなる電気透析装置5に供給して当該分離液中のフッ化ナトリウム(NaF)をフッ化水素(酸)と水酸化ナトリウムとに分離することにより、フッ素を含む酸性溶液(フッ化水素酸溶液)が得られるので、その後、フッ化カルシウムを回収する(フッ素の再資源化)にあたり、酸(薬品)を添加しなくて済む。
【0050】
pH調整槽1に供給されるフッ素およびケイ素を含む排水(原水)中には、フッ素以外の酸(例えば、硝酸)が含まれていることがある。この場合、第1工程において使用するアルカリの量(薬品量)が膨大となることがある。しかしながら、本実施形態では、第3工程で電気透析装置5により分離されたNaOHをpH調整槽1に戻すことにより、新規に添加するアルカリの量を抑えることができている。
【0051】
また、電気透析装置5から排出される前処理排水(脱塩液)は塩濃度が低い。そのため、前処理排水の処理設備(不図示)の腐食を軽減でき、またその処理設備でのスケーリングを軽減できる。
【0052】
(フッ素およびケイ素を含む排水(原水)がアルカリ性または中性の場合)
フッ素およびケイ素を含む排水(原水)がアルカリ性または中性の場合、排水中のほとんどのケイ素は、ケイ酸ナトリウム(NaSiO)として排水中に析出した状態にある。この場合、前記した第1工程(アルカリ添加工程、装置としてはpH調整槽1)は特に設ける必要はない(フッ素およびケイ素を含む排水(原水)を直接、固液分離手段2に供給してもよい。)。そのため、電気透析装置5で回収したアルカリをpH調整槽1に戻す必要がなくなり、アルカリを使用する他の工程、例えばアルカリスクラバーで用いることができる。
【0053】
次に、フッ化カルシウム回収の具体例について説明する。
【0054】
(第4工程(フッ化カルシウム回収工程))
第4工程では、第3工程で分離されたフッ化水素酸溶液(HF)に水溶性カルシウムを添加して、フッ化カルシウムとしてフッ素を回収する。図1に示すように、まず、電気透析装置5から反応槽3へ供給されたフッ化水素酸溶液に、水溶性カルシウムを添加して攪拌機3aで攪拌する。ここで、フッ化水素酸溶液は酸性であり、酸性条件下で水溶性カルシウムと反応させることにより、比較的粒径の大きなフッ化カルシウム(CaF)を析出(晶析)させることができる。
【0055】
次に、反応槽3の液体を沈殿槽4に送り、フッ化カルシウムを槽底に沈殿させた後、槽底からフッ化カルシウムを取り出す。沈殿槽4の上澄みは処理排水として後段の処理設備(不図示)に送られる。ここで、反応槽3へ供給された分離液に添加する水溶性カルシウムは、塩化カルシウム、硝酸カルシウム、酢酸カルシウム、硫酸カルシウム、および炭酸カルシウムなどがある。これらの種類の水溶性カルシウムを用いることで酸性状態を維持したままカルシウム濃度を上げることができ、CaFの析出性能が上がる。なお、水酸化カルシウムなどのアルカリ性の水溶性カルシウムを用いることもできるが、酸性の水溶性カルシウムを用いる場合に比べて析出性能は低下する。
【0056】
なお、フッ化水素酸溶液(HF)からのフッ化カルシウムの取り出しは、上記実施形態のような方法ではなく、第3工程により得られたフッ化水素酸溶液(HF)に水溶性カルシウムを添加して攪拌した後、凝集沈殿処理を行ってもよい。凝集剤としては、例えば、ノニオン系高分子凝集剤、アニオン系高分子凝集剤などを挙げることができる。
【0057】
(薬品使用量低減効果)
(1)バイポーラ膜21を具備してなる電気透析装置5を備えた本実施形態の排水処理設備100と、(2)電気透析装置5を有さない比較例の排水処理設備101(図3参照)と、で薬品の使用量がどの程度相違するか比較計算した。なお、図3に示した排水処理設備101は、電気透析装置5を有さない点(NaOHをpH調整槽1に戻せない点を含む)、塩酸などのpH調整剤を反応槽3に添加する点、で排水処理設備100と相違し、その他の構成は排水処理設備100と同一である。
【0058】
計算条件は、フッ素およびケイ素を含む排水(原水)の水量を10m、これに含まれるフッ素濃度を10%とした。なお、フッ素以外の酸は原水中に含まれていないこととした。
【0059】
(アルカリ使用量について)
本実施形態の排水処理設備100で使用する(必要となる)NaOH(水酸化ナトリウム)の量は、680kgであった。一方、比較例の排水処理設備101で使用する(必要となる)NaOH(水酸化ナトリウム)の量は、2100kgであった。
【0060】
(酸使用量について)
本実施形態の排水処理設備100で使用する(必要となる)HCl(塩酸)の量は、0kgである。一方、比較例の排水処理設備101で使用する(必要となる)HCl(塩酸)の量は、1900kgであった。
【0061】
この比較計算結果から明らかなように、本発明によると、薬品使用量を大幅に少なくすることができ、すなわち、薬品コストを低く抑えることができる。なお、処理する排水(原水)量が増えれば増えるほど、薬品コスト低減効果は大きくなる。
【0062】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上述の実施の形態に限られるものではなく、特許請求の範囲に記載した限りにおいて様々に変更して実施することが可能なものである。
【符号の説明】
【0063】
1:pH調整槽
2:固液分離手段
3:反応槽
4:沈殿槽
5:電気透析装置
100:排水処理設備(フッ素含有排水処理設備)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フッ素およびケイ素を含む排水からケイ酸塩を固液分離する固液分離工程と、
前記固液分離工程により得られた分離液を、バイポーラ膜、陽イオン交換膜、および陰イオン交換膜を備えた電気透析装置に供給して当該分離液をフッ化水素を含む酸性溶液とアルカリ性溶液とに分離するフッ化水素分離工程と、
を備える、フッ素およびケイ素を含む排水の処理方法。
【請求項2】
前記排水は、酸性の排水であって、
前記固液分離工程の前に、前記排水にアルカリを添加して ケイ酸塩を析出させるアルカリ添加工程をさらに備えることを特徴とする、請求項1に記載のフッ素およびケイ素を含む排水の処理方法。
【請求項3】
前記フッ化水素分離工程で分離されたアルカリ性溶液を、前記アルカリ添加工程に戻して前記アルカリ添加工程において前記排水に添加することを特徴とする、請求項2に記載のフッ素およびケイ素を含む排水の処理方法。
【請求項4】
前記アルカリは水酸化ナトリウムまたは水酸化カリウムであることを特徴とする、請求項2または3に記載のフッ素およびケイ素を含む排水の処理方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載のフッ素およびケイ素を含む排水の処理方法により得られた前記フッ化水素を含む酸性溶液に水溶性カルシウムを添加してフッ化カルシウムを回収する、フッ化カルシウムの製造方法。
【請求項6】
フッ素およびケイ素を含む排水中のケイ酸塩を固液分離してフッ素を含む分離液を得る固液分離手段と、
前記固液分離手段の下流側に設置され、前記分離液をフッ化水素を含む酸性溶液とアルカリ性溶液とに分離する、バイポーラ膜、陽イオン交換膜、および陰イオン交換膜を備えた電気透析装置と、
を備える、フッ素含有排水処理設備。
【請求項7】
前記排水は、酸性の排水であって、
前記固液分離手段の上流側に設置され、前記排水にアルカリを添加してケイ酸塩を析出させる析出手段を備えることを特徴とする、請求項6に記載のフッ素含有排水処理設備。
【請求項8】
前記電気透析装置により分離されたアルカリ性溶液を前記析出手段に戻して前記排水に添加するためのアルカリ戻し手段を備えることを特徴とする、請求項7に記載のフッ素含有排水処理設備。
【請求項9】
前記電気透析装置の下流側に設置され、前記フッ化水素を含む酸性溶液に水溶性カルシウムを添加してフッ化カルシウムを回収するためのフッ化カルシウム回収手段を備えることを特徴とする、請求項6〜8のいずれかに記載のフッ素含有排水処理設備。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−125812(P2011−125812A)
【公開日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−288060(P2009−288060)
【出願日】平成21年12月18日(2009.12.18)
【出願人】(000192590)株式会社神鋼環境ソリューション (534)
【Fターム(参考)】