説明

フッ素ゴム組成物

【課題】架橋物または加硫物が硬さ(デュロメータA)50以下であって、加工性や耐圧縮永久歪特性にすぐれているものを与え得るフッ素ゴム組成物を提供する。
【解決手段】フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロペン共重合体100重量部に、100℃における粘度が500〜3000cpsである液状フッ素ゴム10〜50重量部を添加してなるフッ素ゴム組成物。このフッ素ゴム組成物にさらに有機過酸化物0.5〜5重量部および多官能性不飽和化合物0.5〜10重量部を添加することによりあるいはポリオール系加硫剤0.5〜10重量部を添加することにより、架橋性または加硫性フッ素ゴム組成物を形成し得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フッ素ゴム組成物に関する。さらに詳しくは、低硬度のシール部材の成形材料として好適に用いられるフッ素ゴム組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、フッ素ゴムは耐熱性、耐薬品性にすぐれた素材として広く用いられているが、その架橋物の硬さ(デュロメータA)の下限値は60程度である。一般的に用いられているゴム材料の硬さの調節法としては、主に補強剤であるカーボンブラックや可塑剤の量のバランスをとる方法が用いられており、低硬度化する場合には、通常パラフィン系、エステル系等の可塑剤を多量に配合する方法がとられているが、フッ素ゴムとの相溶性の良い可塑剤はあまり存在しない。また、フッ素ゴムは、基本的には高温環境下で使用される場合が多く、このような環境に長時間暴露した場合、可塑剤の多くは揮発し、所期の目的を達成し得ない。また、射出成形においてフッ素ゴムを流動長が長くかつ細かい製品に適用した場合、ショートショットが生じ製品を附型できないという問題がある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明の目的は、架橋物または加硫物が硬さ(デュロメータA)50以下であって、加工性や耐圧縮永久歪特性にすぐれているものを与え得るフッ素ゴム組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
かかる本発明の目的は、フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロペン共重合体100重量部に、100℃における粘度が500〜3000cpsである液状フッ素ゴム10〜50重量部を添加してなるフッ素ゴム組成物によって達成され、このフッ素ゴム組成物にさらに有機過酸化物0.5〜5重量部および多官能性不飽和化合物0.5〜10重量部を添加することによりあるいはポリオール系加硫剤0.5〜10重量部を添加することにより、架橋性または加硫性フッ素ゴム組成物を形成し得る。
【発明の効果】
【0005】
本発明に係るフッ素ゴム組成物は、架橋物または加硫物が20〜50(デュロメータA)の硬さおよび50%以下、好ましくは15%以下の圧縮永久歪を示し、良好な加工性を保持したまま、所望の形状に成形して各種工業用部品、例えば低反力を有するシール部材、特に低温特性が要求されるシール部材の成形材料として有効に使用される。また、低反力が求められ、低温から高温環境迄の使用環境への適合性が求められる燃料電池スタック用ガスケットの成形材料としても有効に使用される。さらに、HDD(ハードディスクドライブ)用ガスケットの成形材料としても用いられる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
フッ化ビニリデン[VdF]-ヘキサフルオロプロペン[HFP]共重合体は、VdFおよびHFPを従来公知の方法により、溶液重合、けん濁重合または乳化重合させることにより得られ、本発明の目的を阻害しない範囲内において、これらの共重合体中には、さらにクロロトリフルオロエチレン、フッ化ビニル等の他の含フッ化オレフィン化合物やプロピレン等のオレフィンを共重合させることができる。
【0007】
この共重合反応の際、含ヨウ素臭素化合物、含ヨウ素化合物または含臭素化合物を共存させると、含フッ素オレフィン共重合体中にヨウ素基および/または臭素基が導入されて有機過酸化物架橋の際の架橋点を形成する。
【0008】
含ヨウ素臭素化合物としては、一般式RBrnIm(R:フルオロ炭化水素基、クロロフルオロ炭化水素基、クロロ炭化水素基または炭化水素基、n,m:1または2)で表わされる飽和または不飽和の、鎖状または芳香族の化合物であって、好ましくはnおよびmがそれぞれ1のものが使用される。鎖状の含ヨウ素臭素化合物としては、例えば1-ブロモ-2-ヨードパーフルオロエタン、1-ブロモ-3-ヨードパーフルオロプロパン、1-ブロモ-4-ヨードパーフルオロブタン、2-ブロモ-3-ヨードパーフルオロブタン、3,4-ジブロモ-1-ヨード-1,1,2,2,4,4-ヘキサフルオロブタン、3-ブロモ-4-ヨードパーフルオロブテン-1、2-ブロモ-4-ヨードパーフルオロブテン-1などが用いられ、また芳香族の含ヨウ素臭素化合物としては、例えばベンゼンの各種置換位置のモノヨードモノブロモ置換体、ジヨードモノブロモ置換体、モノヨードジブロモ置換体、(2-ヨードエチル)および(2-ブロモエチル)置換体などが用いられる。これらの含ヨウ素臭素化合物は、一般に分子末端に結合して効率的に架橋を達成させるフッ素ゴムを与えるが、そのためにそれぞれヨウ素および臭素として約0.01〜5重量%、好ましくは約0.05〜3重量%となるように結合させる。
【0009】
また、含ヨウ素化合物としては、ヨードトリフルオロエチレン、1,1-ジフルオロ-2-ヨードエチレン、パーフルオロ(2-ヨードエチルビニルエーテル)、ヨウ化ビニルなどの含ヨウ素単量体化合物が、含臭素化合物としては、各種の臭素化ビニル化合物または臭素化オレフィン、臭素基含有パーフルオロアルキルパーフルオロビニルエーテルなどの含臭素単量体化合物が、それぞれVdF、FMVEおよびTFEまたはVdFおよびHFPの総量に対して約0.01〜2モル%、好ましくは約0.03〜1モル%の割合で用いられる。
【0010】
VdF-HFP共重合体に添加される液状フッ素ゴムとしては、フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロペン共重合体、フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロペン-テトラフルオロエチレン3元共重合体、パーフルオロプロペンオキサイド重合体などであって、その粘度(100℃)が約500〜3000cps、好ましくは約550〜2000cpsのものが、VdF-HFP共重合体100重量部当り約10〜50重量部、好ましくは約10〜30重量部の割合で用いられる。
【0011】
これ以下の粘度の液状フッ素ゴムを用いると、フッ素オイルに近い特徴を示し、混練が困難となるばかりではなく、加硫後の成形品からこれが容易に抽出されるようになり、一方これ以上の粘度のものを用いると、流動性が低下し、成形性が悪化するようになる。また、これ以下の割合で用いられると、硬さ(デュロメータA)が50以上となるばかりではなく、伸び、低温特性、耐圧縮永久歪特性も低下するようになり、一方これ以上の割合で用いられると、混練自体が困難となる。
【0012】
実際には、液状フッ素ゴムとして、市販品、例えばデュポン社製品バイトンLM、ダイキン製品G101などをそのまま用いることができる。
【0013】
VdF-HFP共重合体および液状フッ素ゴムよりなる組成物には、VdF-HFP共重合体100重量部当り約0.5〜10重量部、好ましくは約1〜5重量部の有機過酸化物が添加されて架橋性フッ素ゴム組成物を形成する。
【0014】
有機過酸化物としては、例えば第3ブチルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、第3ブチルクミルパーオキサイド、1,1-ジ(第3ブチルパーオキシ)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、2,5-ジメチル-2,5-ジ(第3ブチルパーオキシ)ヘキサン、2,5-ジメチル-2,5-ジ(第3ブチルパーオキシ)ヘキシン-3、1,3-ジ(第3ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン、2,5-ジメチル-2,5-ジ(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン、第3ブチルパーオキシベンゾエート、第3ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、n-ブチル-4,4-ジ(第3ブチルパーオキシ)バレレートなどが用いられる。
【0015】
有機過酸化物架橋剤を用いた場合には、多官能性不飽和化合物を架橋助剤として併用することが好ましく、これは前記3元共重合体または前記共重合体100重量部当り約0.5〜10重量部、好ましくは約1〜8重量部の割合で用いられる。多官能性不飽和化合物としては、例えばトリアリルイソシアヌレート、トリアリルシアヌレート、トリメチルアリルイソシアヌレート、エチレングリコールジメタクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレートなどが用いられる。
【0016】
有機過酸化物および多官能性不飽和化合物の使用割合がこれよりも少ないと、十分なる架橋密度が得られず、一方これ以上の割合で使用されると、発泡して加硫成形品が得られなかったり、得られてもゴム弾性や伸びが低下したものしか得られない。
【0017】
VdF-HFP共重合体には、有機過酸化物架橋以外にも、ポリオール系加硫剤をVdF-HFP共重合体100重量部当り約0.5〜10重量部、好ましくは約1〜5重量部用いて加硫することができる。ポリオール系加硫剤としては、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン[ビスフェノールA]、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)パーフルオロプロパン[ビスフェノールAF]、ヒドロキノン、カテコール、レゾルシン、4,4´-ジヒドロキシジフェニル、4,4´-ジヒドロキシジフェニルメタン、4,4´-ジヒドロキシジフェニルスルホン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ブタンなどのポリヒドロキシ芳香族化合物あるいはそれらのアルカリ金属塩またはアルカリ土類金属塩が用いられる。その際、ビスフェノール系加硫剤に加えてモノフェノール系化合物、受酸剤および4級オニウム塩化合物を併用したりすることも有効である。
【特許文献1】特開2000−198882号公報
【0018】
フッ素ゴム組成物中には、以上の各必須成分以外に、カーボンブラックによって代表される補強剤、タルク、クレー、グラファイト、けい酸カルシウムなどの充填剤、ステアリン酸、パルミチン酸、パラフィンワックスなどの加工助剤、酸化亜鉛、酸化マグネシウムなどの受酸剤、老化防止剤、可塑剤などのゴム工業で一般に使用されている各種配合剤が、必要に応じて適宜添加されて用いられる。また、各種の添加剤、例えば安定剤、粘着付与剤、離型剤、顔料、難燃剤、滑剤などを添加することもできる。さらに、摩耗性、成形性などの改良のため、少量の熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂粉末の添加も可能であり、強度、剛性の向上のため、短繊維などを添加することもできる。
【0019】
ゴム組成物の調製は、インタミックス、ニーダ、バンバリーミキサなどの混練機またはオープンロールなどを用いて混練することによって行われ、成形(架橋または加硫)は、公知の方法、例えば射出成形機、圧縮成形機、加硫プレスなどを用いて、一般に約150〜200℃で約3〜60分間加熱することによって行われ、必要に応じて約150〜250℃で約1〜24時間程度加熱する二次架橋(二次加硫)も行われる。
【実施例】
【0020】
次に、実施例について本発明を説明する。
【0021】
実施例1
VdF-HFP共重合体(ダイキン製品ダイエルG801) 100重量部
液状フッ素ゴム(バイトンLM;粘度2000cps) 25 〃
MTカーボンブラック 1 〃
水酸化カルシウム 1.5 〃
脂肪族ワックス(デュポン社製品VPA No.3) 1 〃
2,5-ジメチル-2,5-ジ第3ブチルパーオキシヘキサン 2 〃
(日本油脂製品パーヘキサ25B-40、40%)
トリアリルイソシアヌレート 2 〃
(日本化成製品タイクM-60、60%)
有機過酸化物を除く上記各成分を3Lニーダで混練した後、有機過酸化物を加えてゴムシートとし、170℃、10分間のプレス成形(一次架橋)および200℃、24時間のオーブン架橋(二次架橋)を行い、150×150×2mmの大きさのスラブシートを成形した。これとは別に、圧縮永久歪試験用の試験片(直径29.0mm、厚さ12.5mmの円板状)を成形した。
【0022】
これらの成形時の加工性の評価および成形品の材料物性の測定が、次の基準で行われた。
<加工性>
混練性:容易を〇、粘着・付着があって混練が困難を×と評価
成形性:発泡等の不具合なしを〇、不具合ありを×と評価
離型性:容易を〇、離型困難を×と評価
<材料物性>
硬さ:デュロメータA JIS K-6253準拠
引張強さ:ダンベル状3号形 JIS K-6251準拠
伸び:ダンベル状3号形 JIS K-6251準拠
低温特性:TR試験 JIS K-6261準拠
圧縮永久歪:150℃、70時間 JIS K-6262準拠
【0023】
実施例2
実施例1において、液状フッ素ゴム量が10重量部に変更された。
【0024】
実施例3
実施例1において、液状フッ素ゴム量が50重量部に変更された。
【0025】
実施例4
実施例1において、液状フッ素ゴムとしてダイキンG101(粘度1200cps)が同量用いられた。
【0026】
実施例5
実施例1において、有機過酸化物としてジクミルパーオキサイト(パークミルD)が同量用いられた。
【0027】
実施例6
実施例1において、有機過酸化物量が4重量部に、またトリアリルイソシアヌレート量が4重量部にそれぞれ変更された。
【0028】
実施例7
VdF-HFP共重合体(3M製品フローレルFC-3009; 100重量部
ポリオール系加硫剤含有)
液状フッ素ゴム(バイトンLM) 25 〃
MTカーボンブラック 1 〃
酸化マグネシウム 3 〃
脂肪族ワックス(VPA No.3) 1 〃
上記各成分を3Lニーダで混練してゴムシートとし、170℃、10分間のプレス成形(一次加硫)および200℃、24時間のオーブン加硫(二次加硫)を行い、150×150×2mmの大きさのスラブシートを成形した。これとは別に、圧縮永久歪試験用の試験片(直径29.0mm、厚さ12.5mmの円板状)を成形した。これらの成形時の加工性の評価および成形品の材料物性の測定が、実施例1と同様に行われた。
【0029】
比較例1
実施例1において、液状フッ素ゴムが用いられなかった。
【0030】
比較例2
実施例1において、液状フッ素ゴム量が5重量部に変更された。
【0031】
比較例3
実施例1において、液状フッ素ゴム量が55重量部に変更された。
【0032】
比較例4
実施例1において、有機過酸化物量が7重量部に、またトリアリルイソシアヌレート量が14重量部にそれぞれ変更された。
【0033】
比較例5
実施例1において、有機過酸化物量が0.1重量部に、またトリアリルイソシアヌレート量が0.2重量部にそれぞれ変更された。
【0034】
以上の各実施例および比較例における測定結果は、次の表に示される。なお、比較例3では混練ができず、また比較例4〜5ではいずれも混練性は良好であったが成形ができなかった。

実施例 比較例
評価・測定項目
[加工性]
混練性 〇 〇 〇 〇 〇 〇 〇 〇 〇
成形性 〇 〇 〇 〇 〇 〇 〇 〇 〇
離型性 〇 〇 〇 〇 〇 〇 〇 〇 〇
[材料物性]
硬さ(デュロメータA) 37 48 30 37 37 39 36 55 52
引張強さ (MPa) 4.2 5.1 3.4 4.4 4.3 5.3 4.3 8.5 6.8
伸び (%) 640 400 750 630 620 600 680 270 300
低温特性TRIO (℃) -15 -16 -15 -16 -16 -16 -16 -16 -16
圧縮永久歪 (%) 8 9 8 9 9 10 7 12 12

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロペン共重合体100重量部に、100℃における粘度が500〜3000cpsである液状フッ素ゴム10〜50重量部を添加してなるフッ素ゴム組成物。
【請求項2】
共重合体中にヨウ素基および/または臭素基を導入したフッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロペン共重合体が用いられた請求項1記載のフッ素ゴム組成物。
【請求項3】
さらに有機過酸化物0.5〜5重量部および多官能性不飽和化合物0.5〜10重量部が添加された請求項1または2記載のフッ素ゴム組成物。
【請求項4】
さらにポリオール系加硫剤0.5〜10重量部が添加された請求項1記載のフッ素ゴム組成物。
【請求項5】
架橋物または加硫物が20〜50(デュロメータA)の硬さ(JIS K-6253準拠)を示す請求項3または4記載のフッ素ゴム組成物。
【請求項6】
架橋物または加硫物が50%以下の圧縮永久歪(JIS K-6262準拠)を示す請求項3または4記載のフッ素ゴム組成物。
【請求項7】
シール部材の成形材料として用いられる請求項1、2、3または4記載のフッ素ゴム組成物。
【請求項8】
TR10値が-25℃以下の低温性を必要とするシール部材の成形材料として用いられる請求項3または4記載のフッ素ゴム組成物。
【請求項9】
燃料電池スタック用ガスケットの成形材料として用いられる請求項1、2、3または4記載のフッ素ゴム組成物。
【請求項10】
請求項9記載のフッ素ゴム組成物から架橋成形された燃料電池スタック用ガスケット。
【請求項11】
ハードディスクドライブ用ガスケットの成形材料として用いられる請求項1、2、3または4記載のフッ素ゴム組成物。
【請求項12】
請求項11記載のフッ素ゴム組成物から架橋成形されたハードディスクドライブ用ガスケット。

【公開番号】特開2008−195947(P2008−195947A)
【公開日】平成20年8月28日(2008.8.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−57549(P2008−57549)
【出願日】平成20年3月7日(2008.3.7)
【分割の表示】特願2003−40947(P2003−40947)の分割
【原出願日】平成15年2月19日(2003.2.19)
【出願人】(000004385)NOK株式会社 (1,527)
【Fターム(参考)】