説明

フッ素化されたビシクロオクタン構造をもつ化合物およびその液晶組成物

【課題】誘電率異方性が負であってその絶対値が大きく、かつ粘度が小さい化合物、その製造方法及び該化合物を用いた液晶組成物及び表示素子を提供する。
【解決手段】一般式(I)で表されるフッ素化されたビシクロオクタン誘導体、並びにそれを含む液晶組成物及びこれを用いた表示素子。


(例えば、1-(4-エチルフェニル)-2,2,3,3-テトラフルオロ-4-プロピルビシクロ[2.2.2]オクタン)
【効果】これまでできなかった、連結基を有さないフッ素化されたビシクロオクタン誘導体の合成ができるようになった。さらに、該液晶組成物は、VA方式、IPS方式及びPSA方式等の液晶表示素子として有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電気光学的液晶表示材料として有用な、フッ素化されたビシクロオクタン誘導体及びその製造方法、並びにフッ素化されたビシクロオクタン誘導体を含有する液晶組成物及び液晶表示素子に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶表示素子は、低電圧作動、薄型表示等の優れた特徴から現在広く用いられている。液晶表示素子の表示方式は数多く存在するが、特に液晶テレビ等の大型で高品位な画質を求められるパネルにはVA方式(Vertical Alignment)、またはIPS方式(In-Plane-Switching)が使用されており、近年は新たにPSA方式(Polymer-Sustained Alignment)が実用化されている。VA方式およびPSA方式には誘電率異方性値が負の液晶組成物が使用され、またIPS方式は誘電率異方性値が正又は負の液晶組成物が使用される。このように、高品位な画質を得るために有効な表示方式であるVA方式、IPS方式、およびPSA方式には、誘電率異方性値が負である液晶化合物ならびに液晶組成物が必要であり、強く要望されている。
【0003】
ところで、液晶材料は、適切な誘電率異方性(Δε)の値のみならず、その他の特性に対する要求も満たす必要がある。特に、液晶パネルで表示する映像において、動画表示を残像感なく滑らかに表示するためには、十分に粘度の小さい液晶材料を使用する必要があり、粘度の小さい液晶化合物の開発が強く要望されている。
【0004】
従来、Δεの値が負の液晶組成物の構成成分として2,3-ジフルオロフェニレン基を有する化合物(特許文献1参照)が主として用いられてきた。しかしながら、この化合物を用いた液晶組成物はΔεの絶対値が十分大きくないという問題を有していた(特許文献2参照)。
【0005】
また、2,2,3,3-テトラフルオロビシクロ[2,2,2]オクタン-1,4-ジイル基を有する化合物として式(A)で表される化合物
【0006】
【化1】

【0007】
も開発されたが(特許文献3参照)、粘度が高いという問題があった。
【0008】
以上のように、Δεの値が負であってその絶対値が十分大きく、かつ粘度の小さい化合物が強く求められているが、これまでにそのような特性を有する化合物は存在しなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特表平2−503441号公報
【特許文献2】特開平10−176167号公報
【特許文献3】特開2010−215524号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
Δεが負であってその絶対値が大きく、かつ回転粘度の小さい化合物を提供することであり、Δεが負であってその絶対値が大きく、かつ回転粘度の小さい液晶組成物及び液晶表示素子を提供することであり、併せて、その化合物の容易な製造方法及び製造中間体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、フッ素化されたビシクロオクタン誘導体及びその製造方法、並びにこれを用いたネマチック液晶組成物及び表示素子を検討した結果、本件発明を完成するに至った。
【0012】
本願発明は、一般式(I)
【0013】
【化2】

【0014】
(式中、R及びRは、それぞれ独立的に炭素数1〜12のアルキル基、炭素数2〜12のアルケニル基、炭素数1〜12のアルコキシル基又は炭素数2〜12のアルケニルオキシ基(それぞれの基中の1個以上の水素原子は独立的にフッ素原子又は塩素原子に置換されていてもよく、またそれぞれの基中の一つ又は二つ以上の−CH−は互いに独立して酸素原子が相互に直接結合しないものとして、−O−、−S−、−CO−、−COO−又は−OCO−に置換されていてもよい。)を表し、
及びAは、それぞれ独立的にトランス−1,4−シクロヘキシレン基又は1,4−フェニレン基(それぞれの基中の1個以上の水素原子は独立的にフッ素原子又は塩素原子に置換されていてもよい。)を表し、
m及びnは、それぞれ独立的に0、1、2又は3(m+nは0、1、2又は3であり、Aが複数存在する場合には同一であっても異なっていてもよく、Aが複数存在する場合には同一であっても異なっていてもよい。)を表す。)で表わされるフッ素化されたビシクロオクタン誘導体を提供し、一般式(I)で表される化合物の製造方法として、一般式(II)
【0015】
【化3】

【0016】
(式中、R、A及びnは、それぞれ一般式(I)におけるR、A及びnと同じ意味を表す。)で表わされるケトン誘導体と、一般式(III)
【0017】
【化4】

【0018】
(式中、Rは炭素数1〜12のアルキル基又は炭素数2〜12のアルケニル基(それぞれの基中の1個以上の水素原子は独立的にフッ素原子に置換されていてもよく、またそれぞれの基中の一つ又は二つ以上の−CH−は互いに独立して酸素原子が相互に直接結合しないものとして、−O−、−S−、−CO−、−COO−又は−OCO−に置換されていてもよい。)を表し、Xは塩素原子、臭素原子、よう素原子、ベンゼンスルホニルオキシ基、p−トルエンスルホニルオキシ基、メタンスルホニルオキシ基又はトリフロオロメタンスルホニルオキシ基を表す。)で表わされる化合物を、塩基性条件下反応させることにより、一般式(IV)
【0019】
【化5】

【0020】
(式中、R、A及びnは、それぞれ一般式(I)におけるR、A及びnと同じ意味を表し、Rは一般式(III)におけるRと同じ意味を表す。)で表わされるケトン誘導体を得て、それを酸化することにより一般式(V)
【0021】
【化6】

【0022】
(式中、R、A及びnは、それぞれ一般式(I)におけるR、A及びnと同じ意味を表し、Rは一般式(III)におけるRと同じ意味を表す。)で表わされるジケトン誘導体を得て、それをフッ素化することによる、一般式(VI)
【0023】
【化7】

【0024】
(式中、R、A及びnは、それぞれ一般式(I)におけるR、A及びnと同じ意味を表し、Rは一般式(III)におけるRと同じ意味を表す。)で表されるフッ素化されたビシクロオクタン誘導体の製造方法、及び一般式(II)
【0025】
【化8】

【0026】
(式中、R、A及びnは、それぞれ独立的に一般式(I)におけるR、A及びnと同じ意味を表す。)で表わされるケトン誘導体と、一般式(VII)
【0027】
【化9】

【0028】
(式中、R及びAは一般式(I)におけるR及びAと同じ意味を表し、Aは1,4−フェニレン基(1個以上の水素原子は独立的にフッ素原子に置換されていてもよい。)を表し、pは0、1又は2を表す。)で表されるベンゼン誘導体を酸性条件下反応させることにより、一般式(VIII)
【0029】
【化10】

【0030】
(式中、R、R、A、A及びnは一般式(I)におけるR及びAと同じ意味を表し、Aは1,4−フェニレン基(1個以上の水素原子は独立的にフッ素原子に置換されていてもよい。)を表し、pは0、1又は2を表し、p+nは0、1又は2である。)で表わされるケトン誘導体を得て、それを酸化することにより一般式(IX)
【0031】
【化11】

【0032】
(式中、R、R、A、A及びnは一般式(I)におけるR及びAと同じ意味を表し、Aは1,4−フェニレン基(1個以上の水素原子は独立的にフッ素原子に置換されていてもよい。)を表し、pは0、1又は2を表し、p+nは0、1又は2である。)で表わされるジケトン誘導体を得て、それをフッ素化することによる、一般式(X)
【0033】
【化12】

【0034】
(式中、R、R、A、A及びnは一般式(I)におけるR及びAと同じ意味を表し、Aは1,4−フェニレン基(1個以上の水素原子は独立的にフッ素原子に置換されていてもよい。)を表し、pは0、1又は2を表し、p+nは0、1又は2である。)で表わされるフッ素化されたビシクロオクタン誘導体の製造方法及び製造中間体を提供する。また、一般式(I)で表される化合物を含む液晶組成物及び液晶表示素子もあわせて提供する。
【発明の効果】
【0035】
本発明のフッ素化されたビシクロオクタン誘導体はΔεが負であって、その絶対値が大きく、粘度が小さく、VA方式、IPS方式、およびPSA方式等に使用する液晶組成物の構成部材として有用である。さらに、一般式(I)で表される化合物を含有する液晶組成物はΔεが負であってその絶対値が大きく、また粘度が小さく、これを用いた液晶表示素子はVA方式、IPS方式及びPSA方式等として有用である。加えて、これまでに2,2,3,3-テトラフルオロビシクロ[2,2,2]オクタン-1,4-ジイル基を有する化合物のうち、連結基を持たないものの合成法は知られていなかったため、それを合成できるようになった点で本発明は非常に有用である。
【発明を実施するための形態】
【0036】
一般式(I)において、R及びRは、それぞれ独立的に炭素数1〜12のアルキル基、炭素数2〜12のアルケニル基、炭素数1〜12のアルコキシル基又は炭素数2〜12のアルケニルオキシ基(それぞれの基中の1個以上の水素原子は独立的にフッ素原子又は塩素原子に置換されていてもよく、またそれぞれの基中の一つ又は二つ以上の−CH−は互いに独立して酸素原子が相互に直接結合しないものとして、−O−、−S−、−CO−、−COO−又は−OCO−に置換されていてもよい。)を表すが、安定性を重視する場合には酸性条件下で加水分解が進行するCHOCHO−等のアセタール構造やエステル構造を持たない炭素数1〜5のアルキル基、炭素数2〜5のアルケニル基、炭素数1〜5のアルコキシル基又は炭素数2〜5のアルケニルオキシ基が好ましく、直鎖状であることが好ましい。
【0037】
及びAは、それぞれ独立的にトランス−1,4−シクロヘキシレン基又は1,4−フェニレン基(それぞれの基中の1個以上の水素原子は独立的にフッ素原子又は塩素原子に置換されていてもよい。)を表すが、トランス−1,4−シクロヘキシレン基又は、無置換であるか1個または2個の水素原子が独立的にフッ素原子又は塩素原子に置換された1,4−フェニレン基が好ましく、トランス−1,4−シクロヘキシレン基、1,4−フェニレン基、2−フルオロ1,4−フェニレン基、3−フルオロ1,4−フェニレン基又は2,3−ジフルオロ1,4−フェニレン基が好ましい。屈折率異方性(Δn)を大きくするには分子内に1個以上のフェニレン基を有することが好ましく、ビフェニル構造を有することが更に好ましい。また、Δnを小さくするにはシクロへキシレン基を有しているほうが好ましく、フェニレン基を有さないことが更に好ましい。
【0038】
m及びnは、それぞれ独立的に0、1、2又は3(m+nは0、1、2又は3であり、A及び/又はAが複数存在する場合には、同一であっても異なっていてもよい。)を表すが、液晶性を重視する場合にはm+nは1又は2が好ましい。回転粘性を小さくするにはnが1であるか、m=n=1であることが好ましい。
【0039】
好ましい化合物の具体例を以下に示すが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0040】
【化13】

【0041】
【化14】

【0042】
【化15】

【0043】
【化16】

【0044】
【化17】

【0045】
【化18】

【0046】
(式中、Ra及びRbはそれぞれ独立的に炭素数1〜5のアルキル基又は炭素数1〜5のアルコキシル基表す。)
上記の化合物の内、Δεの絶対値の改善に重点を置く場合には一般式(I−1−1)〜(I−1−5)で表される化合物が好ましく、回転粘度の改善に重点を置く場合には一般式(I−1−1)〜(I−1−5)、(I−4−1)〜(I−4−8)、(I−5−1)〜(I−5−4)、(I−6−1)、(I−6−2)で表される化合物が好ましく、液晶相を示す温度範囲を広げるためには一般式(I−4−1)〜(I−4−8)、(I−5−1)〜(I−5−4)、(I−6−1)、(I−6−2)で表される化合物が好ましく、屈折率異方性Δnの値が大きい必要がある場合には、一般式(I−2−1)〜(I−2−16)、(I−3−1)〜(I−3−11)で表される化合物が好ましく、Δnの値が小さい必要がある場合には、一般式(I−1−5)、(I−6−1)、(I−6−2)で表される化合物が好ましい。
【0047】
以上の内、各種物性値等がいずれも良好で、とりわけ好ましい化合物として、(I−1−1)、(I−1−5)、(I−2−1)、(I−3−1)、(I−4−1)、(I−5−1)、(I−4−5)、(I−6−1)、(I−6−2)で表される化合物を挙げることができる。
【0048】
本願において選択肢の組み合わせにより形成される構造のうち、−CH=CH−CH=CH−、−C≡C−C≡C−及び−CH=CH−C≡C−は化学的な安定性から好ましくない。またこれら構造中の水素原子がハロゲンに置き換わったものも同様に好ましくない。また酸素同士が結合する構造、硫黄原子同士が結合する構造及び硫黄原子と酸素原子が結合する構造となることも同様に好ましくない。また窒素原子同士が結合する構造、窒素原子と酸素原子が結合する構造及び窒素原子と硫黄原子が結合する構造も同様に好ましくない。また、ハロゲンと酸素原子及びハロゲンと硫黄原子が直接結合している構造も好ましくない。
【0049】
(製法1) 一般式(II)
【0050】
【化19】

【0051】
(式中、R、A及びnは、それぞれ一般式(I)におけるR、A及びnと同じ意味を表す。)で表わされるケトン誘導体と、一般式(III)
【0052】
【化20】

【0053】
(式中、Rは炭素数1〜12のアルキル基又は炭素数2〜12のアルケニル基(それぞれの基中の1個以上の水素原子は独立的にフッ素原子に置換されていてもよく、またそれぞれの基中の一つ又は二つ以上の−CH−は互いに独立して酸素原子が相互に直接結合しないものとして、−O−、−S−、−CO−、−COO−又は−OCO−に置換されていてもよい。)を表し、Xは塩素原子、臭素原子、よう素原子、ベンゼンスルホニルオキシ基、p−トルエンスルホニルオキシ基、メタンスルホニルオキシ基又はトリフロオロメタンスルホニルオキシ基を表す。)で表わされる化合物を、塩基性条件下反応させることにより、一般式(IV)
【0054】
【化21】

【0055】
(式中、R、A及びnは、それぞれ一般式(I)におけるR、A及びnと同じ意味を表し、Rは一般式(III)におけるRと同じ意味を表す。)で表わされるケトン誘導体を得ることができる。好ましい塩基の例として金属水素化物、金属炭酸塩、金属水酸化物、金属カルボン酸塩、有機塩基、を挙げることができ、中でもアルカリ金属塩、アルカリ金属水酸化物、有機塩基が好ましい。アルカリ金属水酸化物としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムを、アルカリ金属塩としては炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素カリウム、りん酸ナトリウム、りん酸水素ナトリウム、りん酸カリウム、りん酸水素カリウムをそれぞれ好ましく挙げることができる。有機塩基としては、トリエチルアミン、ジイソプロピルエチルアミン、トリn-プロピルアミン、トリn-ブチルアミン、トリn-ペンチルアミン、ピリジン、2,3-ルチジン、2,4-ルチジン、2,6-ルチジン、3,4-ルチジン、3,5-ルチジン、2,4,6-コリジン、3,5,6-コリジン、4-ジメチルアミノピリジン、1,5-ジアザビシクロ[4.3.0]ノン-5-エン、1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデセ-7-エン、N, N, N’, N’, N’’-ペンタメチルグアニジン、1,5,7-トリアザビシクロ[4.4.0]デセ-5-エン等が挙げられる。その中でも1,5-ジアザビシクロ[4.3.0]ノン-5-エンおよび1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデセ-7-エンが好ましく、特に1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデセ-7-エンがより好ましい。これらの塩基は単独または組み合わせて用いることができる。このときXは臭素原子、よう素原子、トリフロオロメタンスルホニルオキシ基が好例として挙げられるが、臭素原子、トリフロオロメタンスルホニルオキシ基がより好ましい。
【0056】
このとき溶媒としては、反応を好適に進行させるものであればいずれでも構わないが、エーテル系溶媒、塩素系溶媒、炭化水素系溶媒、芳香族系溶媒、極性溶媒等を好ましく用いることができる。エーテル系溶媒としては、1,4-ジオキサン、1,3-ジオキサン、テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、t-ブチルメチルエーテル等を、塩素系溶媒としてはジクロロメタン、1,2-ジクロロエタン、四塩化炭素等を、炭化水素系溶媒としてはペンタン、ヘキサン、シクロヘキサン、ヘプタン、オクタン等を、芳香族系溶媒としてはベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン等を、極性溶媒としてはN,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、アセトニトリル、N-メチルピロリドン、ジメチルスルホキシド、スルホラン等を好例として挙げることができる。中でも、テトラヒドロフラン、及びN,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド等の極性溶媒がより好ましい。また、前記の各溶媒を単独で使用しても、2種もしくはそれ以上の溶媒を混合して使用してもよい。
【0057】
反応温度は溶媒の凝固点から還流温度範囲で行うことができるが、-20℃から120℃が好ましい。
【0058】
得られた一般式(IV)で表されるケトン誘導体を酸化することにより一般式(V)
【0059】
【化22】

【0060】
(式中、R、A及びnは、それぞれ一般式(I)におけるR、A及びnと同じ意味を表し、Rは一般式(III)におけるRと同じ意味を表す。)で表わされるジケトン誘導体を得ることができる。好ましい酸化法としては、
1)エノラートアニオンを2-スルホニルオキサジリジン(Davis試薬)や過酸化ベンゾイル等で処理後、得られた2級アルコールを更に酸化する方法
2)ヨードベンゼンジアセテートやヨードシルベンゼン等で酸化し、得られた2級アルコールを更に酸化する方法
3)二酸化セレンや、二酸化セレンと再酸化剤としてt-ブチルハイドロパーオキシドを共存させた条件でジケトンを直接得る方法
等が、挙げられるが、二酸化セレンを用いる条件が好ましい。
【0061】
このとき溶媒としては、反応を好適に進行させるものであればいずれでも構わないが、エーテル系溶媒、炭化水素系溶媒、極性溶媒等を好ましく用いることができる。エーテル系溶媒としては、1,4-ジオキサン、1,3-ジオキサン、テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、t-ブチルメチルエーテル等を、塩素系溶媒としてはジクロロメタン、1,2-ジクロロエタン、四塩化炭素等を、炭化水素系溶媒としてはペンタン、ヘキサン、シクロヘキサン、ヘプタン、オクタン等を、極性溶媒としてはN,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドン、ジメチルスルホキシド、スルホラン、酢酸、水等を好例として挙げることができる。中でも、酢酸等の極性溶媒がより好ましい。また、前記の各溶媒を単独で使用しても、2種もしくはそれ以上の溶媒を混合して使用してもよい。
【0062】
反応温度は溶媒の凝固点から還流温度範囲で行うことができるが、-20℃から120℃が好ましい。
【0063】
得られた一般式(V)で表されるジケトン誘導体をフッ素化することにより、一般式(VI)
【0064】
【化23】

【0065】
(式中、R、A及びnは、それぞれ一般式(I)におけるR、A及びnと同じ意味を表し、Rは一般式(III)におけるRと同じ意味を表す。)で表されるフッ素化されたビシクロオクタン誘導体を得ることができる。好ましいフッ素化剤として、フッ素ガス(F2)、四フッ化硫黄、ジエチルアミノスルホトリフルオライド(DAST)、2,2-ジフルオロ-1,3-ジメチルイミダゾリジン(DFI)、ビス(2-メトキシエチル)アミノサルファートリフルオリド、五フッ化ヨウ素(IF5)、ピリジニウムポリ(ヒドロゲンフルオリド)等が好ましいが、四フッ化硫黄、ジエチルアミノスルホトリフルオライド(DAST)が特に好ましい。
【0066】
このとき溶媒としては、反応を好適に進行させるものであればいずれでも構わないが、エーテル系溶媒、塩素系溶媒、炭化水素系溶媒、極性溶媒等を好ましく用いることができる。エーテル系溶媒としては、1,4-ジオキサン、1,3-ジオキサン、テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、t-ブチルメチルエーテル等を、塩素系溶媒としてはジクロロメタン、1,2-ジクロロエタン、四塩化炭素等を、炭化水素系溶媒としてはペンタン、ヘキサン、シクロヘキサン、ヘプタン、オクタン等を、極性溶媒としてはN,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、アセトニトリル、N-メチルピロリドン、ジメチルスルホキシド、スルホラン等を好例として挙げることができる。また、前記の各溶媒を単独で使用しても、2種もしくはそれ以上の溶媒を混合して使用してもよい。
【0067】
反応温度は溶媒の凝固点から還流温度範囲で行うことができる。
【0068】
(製法2) 一般式(II)
【0069】
【化24】

【0070】
(式中、R、A及びnは、それぞれ独立的に一般式(I)におけるR、A及びnと同じ意味を表す。)で表わされるケトン誘導体と、一般式(VII)
【0071】
【化25】

【0072】
(式中、R及びAはそれぞれ一般式(I)におけるR及びAと同じ意味を表し、Aは1,4−フェニレン基(1個以上の水素原子は独立的にフッ素原子に置換されていてもよい。)を表し、pは0、1又は2を表す。)で表されるベンゼン誘導体を酸性条件下反応させることにより、一般式(VIII)
【0073】
【化26】

【0074】
(式中、R、R、A、A及びnはそれぞれ一般式(I)におけるR、R、A、A及びnと同じ意味を表し、A及びpはそれぞれ一般式(VII)におけるA及びpと同じ意味を表す。)で表わされるケトン誘導体を得ることができる。好ましい酸触媒としては、臭化水素酸、塩酸、フッ化水素酸または硫酸等が好ましいが、硫酸が特に好ましい。
【0075】
このとき溶媒としては、反応を好適に進行させるものであればいずれでも構わないが、エーテル系溶媒、塩素系溶媒、炭化水素系溶媒、極性溶媒等を好ましく用いることができる。エーテル系溶媒としては、1,4-ジオキサン、1,3-ジオキサン、テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、t-ブチルメチルエーテル等を、塩素系溶媒としてはジクロロメタン、1,2-ジクロロエタン、四塩化炭素等を、炭化水素系溶媒としてはペンタン、ヘキサン、シクロヘキサン、ヘプタン、オクタン等を、極性溶媒としてはN,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドン、アセトニトリル、ジメチルスルホキシド、スルホラン等を好例として挙げることができる。また、前記の各溶媒を単独で使用しても、2種もしくはそれ以上の溶媒を混合して使用してもよい。
【0076】
得られた一般式(VIII)で表わされるケトン誘導体を酸化することにより一般式(IX)
【0077】
【化27】

【0078】
(式中、R、R、A、A及びnはそれぞれ一般式(I)におけるR、R、A、A及びnと同じ意味を表し、A及びpはそれぞれ一般式(VII)におけるA及びpと同じ意味を表す。)で表わされるジケトン誘導体を得ることができる。好ましい酸化法としては、
1)エノラートアニオンを2-スルホニルオキサジリジン(Davis試薬)や過酸化ベンゾイル等で処理後、得られた2級アルコールを更に酸化する方法
2)ヨードベンゼンジアセテートやヨードシルベンゼン等で酸化し、得られた2級アルコールを更に酸化する方法
3)二酸化セレンや、二酸化セレンと再酸化剤としてt-ブチルハイドロパーオキシドを共存させた条件でジケトンを直接得る方法
等が、挙げられるが、二酸化セレンを用いる条件が好ましい。
【0079】
このとき溶媒としては、反応を好適に進行させるものであればいずれでも構わないが、エーテル系溶媒、塩素系溶媒、炭化水素系溶媒、極性溶媒等を好ましく用いることができる。エーテル系溶媒としては、1,4-ジオキサン、1,3-ジオキサン、テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、t-ブチルメチルエーテル等を、塩素系溶媒としてはジクロロメタン、1,2-ジクロロエタン、四塩化炭素等を、炭化水素系溶媒としてはペンタン、ヘキサン、シクロヘキサン、ヘプタン、オクタン等を、極性溶媒としてはN,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、アセトニトリル、N-メチルピロリドン、ジメチルスルホキシド、スルホラン、酢酸、水等を好例として挙げることができる。中でも、酢酸等の極性溶媒がより好ましい。また、前記の各溶媒を単独で使用しても、2種もしくはそれ以上の溶媒を混合して使用してもよい。
【0080】
反応温度は溶媒の凝固点から還流温度範囲で行うことができるが、-20℃から120℃が好ましい。
【0081】
得られた一般式(IX)で表わされるジケトン誘導体をフッ素化することにより、一般式(X)
【0082】
【化28】

【0083】
(式中、R、R、A、A及びnはそれぞれ一般式(I)におけるR、R、A、A及びnと同じ意味を表し、A及びpはそれぞれ一般式(VII)におけるA及びpと同じ意味を表す。)で表わされるフッ素化されたビシクロオクタン誘導体を得ることができる。好ましいフッ素化剤として、フッ素ガス(F2)、四フッ化硫黄、ジエチルアミノスルホトリフルオライド(DAST)、2,2-ジフルオロ-1,3-ジメチルイミダゾリジン(DFI)、ビス(2-メトキシエチル)アミノサルファートリフルオリド、五フッ化ヨウ素(IF5)、ピリジニウムポリ(ヒドロゲンフルオリド)等が好ましいが、四フッ化硫黄、ジエチルアミノスルホトリフルオライド(DAST)が特に好ましい。
【0084】
このとき溶媒としては、反応を好適に進行させるものであればいずれでも構わないが、エーテル系溶媒、塩素系溶媒、炭化水素系溶媒、極性溶媒等を好ましく用いることができる。エーテル系溶媒としては、1,4-ジオキサン、1,3-ジオキサン、テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、t-ブチルメチルエーテル等を、塩素系溶媒としてはジクロロメタン、1,2-ジクロロエタン、四塩化炭素等を、炭化水素系溶媒としてはペンタン、ヘキサン、シクロヘキサン、ヘプタン、オクタン等を、極性溶媒としてはN,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドン、アセトニトリル、ジメチルスルホキシド、スルホラン等を好例として挙げることができる。また、前記の各溶媒を単独で使用しても、2種もしくはそれ以上の溶媒を混合して使用してもよい。
【0085】
反応温度は溶媒の凝固点から還流温度範囲で行うことができる。
【実施例】
【0086】
以下、実施例を挙げて本発明を更に詳述するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。各種分析は以下の方法により行った。

・相転移温度:温度調節ステージを備えた偏光顕微鏡で測定
・化合物の構造:核磁気共鳴スペクトル(NMR)、質量スペクトル(MS)等により確認
・電圧保持率:セル厚6μmのTN−LCDに注入し、5V印加、フレームタイム20ms、パルス幅64μsで測定したときの測定電圧と初期印加電圧との比を%で表した値
・誘電率異方性(Δε):25℃における誘電率異方性値を測定
・回転粘度(γ1):20℃における回転粘度を測定
以下の実施例及び比較例の「%」は『質量%』を意味する。
(実施例1) 1-(4-エチルフェニル) -2,2,3,3-テトラフルオロ-4-プロピルビシクロ[2.2.2]オクタン(Ia)の合成
【0087】
【化29】

【0088】
(1-1) ヘキサ-2-オン(162 g)、t-ブチルアルコール(430mL)、30%水酸化カリウム/メタノール溶液(63g)を攪拌している中に、アクリロニトリル(173 g)を滴下した。35-40℃で2時間攪拌し、650 mLの水にあけ、トルエン(430 mL)で3回抽出した。トルエン層を合わせ、水で洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥した。有機溶媒を減圧留去して、3-アセチル-1,5-ジシアノ-3-プロピルペンタン(179 g)を得た。(収率54%)
MS m/z : 206 (M+)
(1-2) 3-アセチル-1,5-ジシアノ-3-プロピルペンタン(179 g)と水酸化カリウム(190 g)を1.3 Lの水に溶かし、30時間加熱還流した。反応終了後、濃塩酸を加え、析出した固体を濾別した後、乾燥した。3-アセチル-3-プロピルペンタン-1,5-ジカルボン酸(202 g)を得た。(収率95%)
MS m/z : 244 (M+)
(1-3) 3-アセチル-3-プロピルペンタン-1,5-ジカルボン酸(202 g)と無水酢酸(700 mL)に溶かし、4時間加熱した。反応終了後、蒸留により精製を行い、4-アセチル-4-プロピルシクロヘキサノン83 gを得た。(収率55%)
MS m/z : 182 (M+)
(1-4) 4-アセチル-4-プロピルシクロヘキサノン83 gと水酸化カリウム114 gをエタノール640 mLに溶かし、20℃で17時間反応させた。450 mLの水を加え、酢酸エチル(300 mL)で3回抽出した。酢酸エチル層を合わせ、水で洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥し、溶媒を減圧留去して、シクロヘキサンから再結晶し、1-ヒドロキシ-4-プロピルビシクロ[2.2.2]オクタン-3-オン(62 g)を得た。(収率75%)
MS m/z : 182 (M+)
(1-5) 1-ヒドロキシ-4-プロピルビシクロ[2.2.2]オクタン-3-オン(62 g)と濃硫酸100 mLを攪拌している中に、エチルベンゼン(72 g)を室温下、滴下した。室温で2時間攪拌した後、反応溶液を氷にあけ、酢酸エチル(200mL)で3回抽出した。酢酸エチル層を合わせ、炭酸ナトリウム水溶液、水、飽和食塩水で洗浄、無水硫酸マグネシウムで乾燥、溶媒を減圧留去して、エタノールから再結晶し、1-(4-エチルフェニル)-4-プロピルビシクロ[2.2.2]オクタン-3-オン(55 g)を得た。(収率60%)
MS m/z : 270 (M+)
(1-6) 1-(4-エチルフェニル)-4-プロピルビシクロ[2.2.2]オクタン-3-オン(55 g)、二酸化セレン(34 g)を酢酸(150 mL)に溶解し、160℃で8時間反応させた。沈殿したセレンをデカンテーションで除き、酢酸を留去した後、蒸留により精製し、1-(4-エチルフェニル)-4-プロピルビシクロ[2.2.2]オクタン-2,3-ジオン(46 g)得た。(収率80%)
MS m/z : 284 (M+)
(1-7) ハステロイ製オートクレーブに1-(4-エチルフェニル)-4-プロピルビシクロ[2.2.2]オクタン-2,3-ジオン(46 g)をジクロロメタン(250 mL)に溶解させた後、少量の水を加え、液体窒素で冷却した。その中に80 gの四フッ化硫黄を導入し、120℃で58時間反応させた。室温に冷却した後、水、炭酸水素ナトリウム水溶液で洗浄した後、再結晶により精製し、1-(4-エチルフェニル) -2,2,3,3-テトラフルオロ-4-プロピルビシクロ[2.2.2]オクタン(Ia)(16 g)を得た。(収率30%)
1H-NMR (400 MHz, CDCl3):0.95 (t, J = 6.8Hz, 3H), 1.21-1.55 (m, 15H), 2.59 (m, 2H) , 7.01-7.04 (m, 2H), 7.22-7.26 (m, 2H).
MS m/z : 328 (M+)
(実施例2) トランス,トランス-1-(4’-プロピルビシクロヘキシル-4-イル)-2,2,3,3-テトラフルオロ-4-エトキシビシクロ[2.2.2]オクタン(IIa)の合成

【0089】
(2-1) 実施例1の(1-1)において、ヘキサ-2-オンの代わりに1-(トランス,トランス-4’-プロピルビシクロヘキシル-4-イル)アセトンを用い、同様に反応を行うことにより1-(トランス,トランス-4’-プロピルビシクロヘキシル-4-イル)-1,1-ビス(2-シアノエチル)アセトンを得た。
MS m/z : 370 (M+)
(2-2) 実施例1の(1-2)において、3-アセチル-1,5-ジシアノ-3-プロピルペンタンの代わりに1-(トランス,トランス-4’-プロピルビシクロヘキシル-4-イル)-1,1-ビス(2-シアノエチル)アセトンを用い、同様に反応を行うことにより1-(トランス,トランス-4’-プロピルビシクロヘキシル-4-イル)-1,1-ビス(2-カルボキシルエチル)アセトンを得た。
MS m/z : 408 (M+)
(2-3) 実施例1の(1-3)において、3-アセチル-3-プロピルペンタン-1,5-ジカルボン酸の代わりに1-(トランス,トランス-4’-プロピルビシクロヘキシル-4-イル)-1,1-ビス(2-カルボキシルエチル)アセトンを用い、同様に反応を行うことにより4-アセチル-4-(トランス,トランス-4’-プロピルビシクロヘキシル-4-イル)シクロヘキサノンを得た。
MS m/z : 346(M+)
(2-4) 実施例1の(1-4)において、4-アセチル-4-プロピルシクロヘキサノンの代わりに4-アセチル-4-(トランス,トランス-4’-プロピルビシクロヘキシル-4-イル)シクロヘキサノンを用い、同様に反応を行うことにより1-ヒドロキシ-4-(トランス,トランス-4’-プロピルビシクロヘキシル-4-イル)ビシクロ[2.2.2]オクタン-3-オンを得た。
MS m/z : 346(M+)
(2-5) 窒素雰囲気下、水素化ナトリウムをDMFに懸濁し、そこへ1-ヒドロキシ-4-(トランス,トランス-4’-プロピルビシクロヘキシル-4-イル)ビシクロ[2.2.2]オクタン-3-オンのDMF溶液を内温20℃以下で滴下して加えた。内温20℃で30分攪拌後、ヨードエタンのDMF溶液を内温20℃以下で滴下して加え、内温80℃で5時間反応させた。水及びトルエンを加え、トルエン層を水洗後、溶媒を減圧留去して1-エトキシ-4-(トランス,トランス-4’-プロピルビシクロヘキシル-4-イル)ビシクロ[2.2.2]オクタン-3-オンを得た。
MS m/z : 374(M+)
(2-6) 実施例1の(1-6)において、1-(4-エチルフェニル)-4-プロピルビシクロ[2.2.2]オクタン-3-オンの代わりに1-エトキシ-4-(トランス,トランス-4’-プロピルビシクロヘキシル-4-イル)ビシクロ[2.2.2]オクタン-3-オンを用い、同様に反応を行うことにより1-エトキシ-4-(トランス,トランス-4’-プロピルビシクロヘキシル-4-イル)ビシクロ[2.2.2]オクタン-2,3-ジオンを得た。
MS m/z : 388(M+)
(2-7) 実施例1の(1-7)において、1-(4-エチルフェニル)-4-プロピルビシクロ[2.2.2]オクタン-2,3-ジオンの代わりに1-エトキシ-4-(トランス,トランス-4’-プロピルビシクロヘキシル-4-イル)ビシクロ[2.2.2]オクタン-2,3-ジオンを用い、同様に反応を行うことにより1-(トランス,トランス-4’-プロピルビシクロヘキシル-4-イル)-2,2,3,3-テトラフルオロ-4-エトキシビシクロ[2.2.2]オクタン(IIa) を得た。
MS m/z : 432(M+)
1H-NMR (400 MHz, CDCl3):0.96 (t, J = 7.3Hz, 3H), 1.11 (t, J = 7.3Hz, 3H), 1.20-1.70 (m, 32H), 3.40 (q, J = 7.2 Hz, 2 H).
(実施例3) 液晶組成物の調製(1)
以下の組成からなるホスト液晶組成物(H)
【0090】
【化30】

【0091】
を調製した。ここでホスト液晶組成物(H)の誘電率異方性(Δε)は0.04であった。このホスト液晶(H)80%と実施例1で得られた化合物(Ia)20%からなる液晶組成物(M-a)を調製した。この組成物の誘電率異方性(Δε)は-0.83、回転粘度(γ1)は84 mPa・sであった。
【0092】
本発明の化合物(Ia)を含有する液晶組成物(M-a)は、母体液晶(H)に比べ、誘電率異方性(Δε)は大きく減少して負の値となり、また回転粘度(γ1)も十分小さな値となった。このことから、本発明の化合物(Ia)は、誘電率異方性が負であり、その絶対値が極めて大きく、かつ低粘度であることがわかる。
【0093】
また、(M-a)を窒素雰囲気下で150℃、1時間加熱し、その電圧保持率を70℃で測定したところ、ホスト液晶組成物(H)の電圧保持率に対して99%と高い値を示した。このことから本発明の化合物(Ia)は安定性の面からも液晶表示材料として十分使用可能であることがわかる。また、液晶組成物(M-a)には化合物(Ia)が20%も含まれているが、析出を起こさず安定な液晶相を示したことから、本願化合物が他の液晶組成物と優れた液晶性及び相溶性を示すこともわかった。
(比較例1) 液晶組成物の調製(2)
ホスト液晶(H)80%と特開2010−215524号公報(特許文献3)に記載の化合物(Ib)
【0094】
【化31】

【0095】
20%からなる液晶組成物(M-b)を調製した。この組成物の誘電率異方性(Δε)は-0.85、回転粘度(γ1)は108 mPa・sであった。
【0096】
特許文献3に記載の化合物(Ib)を含有する液晶組成物(M-b)は、実施例3記載の液晶組成物(M-a)と比べ、誘電率異方性(Δε)の値は同等であるものの、回転粘度(γ1)が大きくなってしまった。このことから、特許文献3に記載の化合物(Ib)を添加すると本願発明の化合物(Ia)と比べて液晶組成物を高粘度化してしまうことがわかった。また、 (M-b)を窒素雰囲気下で150℃、1時間加熱し、その電圧保持率を70℃で測定したところ、ホスト液晶組成物(H)の電圧保持率に対して94%となった。このことから特許文献3に記載の2,2,3,3-テトラフルオロビシクロ[2.2.2]オクタン構造と酸素原子が直接結合している構造を持つ化合物(Ib)を液晶組成物に添加すると、加熱により液晶組成物の信頼性を低下させることがわかった。
(実施例4) 1-(4-エチルフェニル) -2,2,3,3-テトラフルオロ-4-(4-プロピルフェニル)ビシクロ[2.2.2]オクタン(IIIa)の合成
【0097】
【化32】

【0098】
(4-1) 実施例1の(1-1)において、ヘキサ-2-オンの代わりに1-(4-プロピルフェニル)アセトンを用い、同様に反応を行うことにより1-(4-プロピルフェニル)-1,1-ビス(2-シアノエチル)アセトンを得た。
MS m/z : 282 (M+)
(4-2) 実施例1の(1-2)において、3-アセチル-1,5-ジシアノ-3-プロピルペンタンの代わりに1-(4-プロピルフェニル)-1,1-ビス(2-シアノエチル)アセトンを用い、同様に反応を行うことにより1-(4-プロピルフェニル)-1,1-ビス(2-カルボキシルエチル)アセトンを得た。
MS m/z : 320 (M+)
(4-3) 実施例1の(1-3)において、3-アセチル-3-プロピルペンタン-1,5-ジカルボン酸の代わりに1-(4-プロピルフェニル)-1,1-ビス(2-カルボキシルエチル)アセトンを用い、同様に反応を行うことにより4-アセチル-4-(4-プロピルフェニル)シクロヘキサノンを得た。
MS m/z : 258(M+)
(4-4) 実施例1の(1-4)において、4-アセチル-4-プロピルシクロヘキサノンの代わりに4-アセチル-4-(4-プロピルフェニル)シクロヘキサノンを用い、同様に反応を行うことにより1-ヒドロキシ-4-(4-プロピルフェニル)ビシクロ[2.2.2]オクタン-3-オンを得た。
MS m/z : 258(M+)
(4-5) 実施例1の(1-5)において、1-ヒドロキシ-4-プロピルビシクロ[2.2.2]オクタン-3-オンの代わりに1-ヒドロキシ-4-(4-プロピルフェニル)ビシクロ[2.2.2]オクタン-3-オンを用い、同様に反応を行うことにより1-(4-エチルフェニル) -4-(4-プロピルフェニル)ビシクロ[2.2.2]オクタン-3-オンを得た。
MS m/z : 346(M+)
(4-6) 実施例1の(1-6)において、1-(4-エチルフェニル)-4-プロピルビシクロ[2.2.2]オクタン-3-オンの代わりに1-(4-エチルフェニル) -4-(4-プロピルフェニル)ビシクロ[2.2.2]オクタン-3-オンを用い、同様に反応を行うことにより1-(4-エチルフェニル) -4-(4-プロピルフェニル)ビシクロ[2.2.2]オクタン-2,3-ジオンを得た。
MS m/z : 360(M+)
(4-7) 実施例1の(1-7)において、1-(4-エチルフェニル)-4-プロピルビシクロ[2.2.2]オクタン-2,3-ジオンの代わりに1-(4-エチルフェニル) -4-(4-プロピルフェニル)ビシクロ[2.2.2]オクタン-2,3-ジオンを用い、同様に反応を行うことにより1-(4-エチルフェニル) -2,2,3,3-テトラフルオロ-4-(4-プロピルフェニル)ビシクロ[2.2.2]オクタン(IIIa)を得た。
MS m/z : 404(M+)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(I)
【化1】

(式中、R及びRは、それぞれ独立的に炭素数1〜12のアルキル基、炭素数2〜12のアルケニル基、炭素数1〜12のアルコキシル基又は炭素数2〜12のアルケニルオキシ基(それぞれの基中の1個以上の水素原子は独立的にフッ素原子又は塩素原子に置換されていてもよく、またそれぞれの基中の一つ又は二つ以上の−CH−は互いに独立して酸素原子が相互に直接結合しないものとして、−O−、−S−、−CO−、−COO−又は−OCO−に置換されていてもよい。)を表し、
及びAは、それぞれ独立的にトランス−1,4−シクロヘキシレン基又は1,4−フェニレン基(それぞれの基中の1個以上の水素原子は独立的にフッ素原子又は塩素原子に置換されていてもよい。)を表し、
m及びnは、それぞれ独立的に0、1、2又は3(m+nは0、1、2又は3であり、Aが複数存在する場合には同一であっても異なっていてもよく、Aが複数存在する場合には同一であっても異なっていてもよい。)を表す。)で表わされるフッ素化されたビシクロオクタン誘導体。
【請求項2】
一般式(I)において、R及びRが、それぞれ独立的に炭素数1〜5のアルキル基、炭素数2〜5のアルケニル基、炭素数1〜5のアルコキシル基又は炭素数2〜5のアルケニルオキシ基であり、A及びAが、それぞれ独立的にトランス−1,4−シクロヘキシレン基又は、無置換であるか1個または2個の水素原子が独立的にフッ素原子に置換された1,4−フェニレン基である請求項1記載の化合物。
【請求項3】
一般式(I)において、R及びRが、それぞれ独立的に炭素数1〜5の直鎖状アルキル基である請求項1又は2記載の化合物。
【請求項4】
一般式(I)において、m+nが1又は2である請求項1〜3のいずれか1項に記載の化合物。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の化合物を1種または2種以上含有する液晶組成物。
【請求項6】
請求項5記載の液晶組成物を使用した液晶表示素子。
【請求項7】
アクティブマトリックス駆動される請求項6記載の液晶表示素子。
【請求項8】
垂直配向モード又はPSAモードで表示される請求項7記載の液晶表示素子。
【請求項9】
一般式(II)
【化2】

(式中、R、A及びnは、それぞれ請求項1の一般式(I)におけるR、A及びnと同じ意味を表す。)で表わされるケトン誘導体と、一般式(III)
【化3】

(式中、Rは炭素数1〜12のアルキル基又は炭素数2〜12のアルケニル基(それぞれの基中の1個以上の水素原子は独立的にフッ素原子に置換されていてもよく、またそれぞれの基中の一つ又は二つ以上の−CH−は互いに独立して酸素原子が相互に直接結合しないものとして、−O−、−S−、−CO−、−COO−又は−OCO−に置換されていてもよい。)を表し、Xは塩素原子、臭素原子、よう素原子、ベンゼンスルホニルオキシ基、p−トルエンスルホニルオキシ基、メタンスルホニルオキシ基又はトリフロオロメタンスルホニルオキシ基を表す。)で表わされる化合物を、塩基性条件下反応させることにより、一般式(IV)
【化4】

(式中、R、A及びnは、それぞれ請求項1の一般式(I)におけるR、A及びnと同じ意味を表し、Rは一般式(III)におけるRと同じ意味を表す。)で表わされるケトン誘導体を得て、それを酸化することにより一般式(V)
【化5】

(式中、R、A及びnは、それぞれ一般式(I)におけるR、A及びnと同じ意味を表し、Rは一般式(III)におけるRと同じ意味を表す。)で表わされるジケトン誘導体を得て、それをフッ素化することによる、一般式(VI)
【化6】

(式中、R、A及びnは、それぞれ請求項1の一般式(I)におけるR、A及びnと同じ意味を表し、Rは一般式(III)におけるRと同じ意味を表す。)で表されるフッ素化されたビシクロオクタン誘導体の製造方法。
【請求項10】
一般式(II)
【化7】

(式中、R、A及びnは、それぞれ独立的に請求項1の一般式(I)におけるR、A及びnと同じ意味を表す。)で表わされるケトン誘導体と、一般式(VII)
【化8】

(式中、R及びAは請求項1の一般式(I)におけるR及びAと同じ意味を表し、Aは1,4−フェニレン基(1個以上の水素原子は独立的にフッ素原子に置換されていてもよい。)を表し、pは0、1又は2を表す。)で表されるベンゼン誘導体を酸性条件下反応させることにより、一般式(VIII)
【化9】

(式中、R、R、A、A及びnは請求項1の一般式(I)におけるR及びAと同じ意味を表し、Aは1,4−フェニレン基(1個以上の水素原子は独立的にフッ素原子に置換されていてもよい。)を表し、pは0、1又は2を表し、p+nは0、1又は2である。)で表わされるケトン誘導体を得て、それを酸化することにより一般式(IX)
【化10】

(式中、R、R、A、A及びnは請求項1の一般式(I)におけるR及びAと同じ意味を表し、Aは1,4−フェニレン基(1個以上の水素原子は独立的にフッ素原子に置換されていてもよい。)を表し、pは0、1又は2を表し、p+nは0、1又は2である。)で表わされるジケトン誘導体を得て、それをフッ素化することによる、一般式(X)
【化11】

(式中、R、R、A、A及びnは請求項1の一般式(I)におけるR及びAと同じ意味を表し、Aは1,4−フェニレン基(1個以上の水素原子は独立的にフッ素原子に置換されていてもよい。)を表し、pは0、1又は2を表し、p+nは0、1又は2である。)で表わされるフッ素化されたビシクロオクタン誘導体の製造方法。
【請求項11】
一般式(II)
【化12】

(式中、R、A及びnは、それぞれ請求項1の一般式(I)におけるR、A及びnと同じ意味を表す。)で表わされるケトン誘導体。
【請求項12】
一般式(IV)
【化13】

(式中、R、A及びnは、それぞれ請求項1の一般式(I)におけるR、A及びnと同じ意味を表し、Rは請求項9の一般式(III)におけるRと同じ意味を表す。)で表わされるケトン誘導体。
【請求項13】
一般式(VIII)
【化14】

(式中、R、R、A、A及びnは請求項1の一般式(I)におけるR及びAと同じ意味を表し、Aは1,4−フェニレン基(1個以上の水素原子は独立的にフッ素原子に置換されていてもよい。)を表し、pは0、1又は2を表し、p+nは0、1又は2である。)で表わされるケトン誘導体。
【請求項14】
一般式(V)
【化15】

(式中、R、A及びnは、それぞれ請求項1の一般式(I)におけるR、A及びnと同じ意味を表し、Rは請求項9の一般式(III)におけるRと同じ意味を表す。)で表わされるジケトン誘導体。
【請求項15】
一般式(IX)
【化16】

(式中、R、R、A、A及びnは請求項1の一般式(I)におけるR及びAと同じ意味を表し、Aは1,4−フェニレン基(1個以上の水素原子は独立的にフッ素原子に置換されていてもよい。)を表し、pは0、1又は2を表し、p+nは0、1又は2である。)で表わされるジケトン誘導体。

【公開番号】特開2012−116780(P2012−116780A)
【公開日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−266548(P2010−266548)
【出願日】平成22年11月30日(2010.11.30)
【出願人】(000002886)DIC株式会社 (2,597)
【Fターム(参考)】