説明

フッ素含有率の高いエチレン性不飽和基含有含フッ素共重合体、及びその製造方法

【課題】耐擦傷性、塗工性及び耐久性に優れ、かつ、より低屈折率の硬化物を与える、フッ素含有率の高いエチレン性不飽和基含有含フッ素共重合体、及びその製造方法を提供する
【解決手段】特定の構造単位(a)、構造単位(b)及び構造単位(c)を含有するエチレン性不飽和基含有含フッ素共重合体であって、該エチレン性不飽和基含有含フッ素共重合体中に占める、構造単位(a)、(b)及び(c)の合計量が80質量%以上であり、かつ、構造単位(a)、(b)及び(c)を、これらの合計100モル%に対して、(a)40〜55モル%、(b)2〜60モル%、及び(c)25モル%未満の割合で含有する、高フッ素含有率を有するエチレン性不飽和基含有含フッ素共重合体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フッ素含有率の高いエチレン性不飽和基含有含フッ素共重合体、その製造方法、並びにそれを用いた硬化性樹脂組成物及び反射防止膜に関する。より詳細には、エチレン性不飽和基含有含フッ素共重合体、並びにこのエチレン性不飽和基含有含フッ素共重合体を含み、硬化させたときに、屈折率が低く、耐擦傷性、塗工性、及び耐久性に優れた硬化物が得られる硬化性樹脂組成物、及びそのような硬化物からなる低屈折率層を含む反射防止膜に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶表示パネル、冷陰極線管パネル、プラズマディスプレー等の各種表示パネルにおいて、外光の映りを防止し、画質を向上させるために、低屈折率性、耐擦傷性、塗工性、及び耐久性に優れた硬化物からなる低屈折率層を含む反射防止膜が求められている。
これら表示パネルにおいては、付着した指紋、埃等を除去するため表面を、エタノール等を含侵したガーゼで拭くことが多く、耐擦傷性が求められている。
特に、液晶表示パネルにおいては、反射防止膜は、偏光板と貼り合わせた状態で液晶ユニット上に設けられている。また、基材としては、例えば、トリアセチルセルロース等が用いられているが、このような基材を用いた反射防止膜では、偏光板と貼り合わせる際の密着性を増すために、通常、アルカリ水溶液でケン化を行う必要がある。
従って、液晶表示パネルの用途においては、耐久性において、特に、耐アルカリ性に優れた反射防止膜が求められている。
【0003】
反射防止膜の低屈折率層用材料として、例えば、水酸基含有含フッ素共重合体を含むフッ素樹脂系塗料が知られている(例えば、特許文献1〜4)。
しかし、このようなフッ素樹脂系塗料では、塗膜を硬化させるために、水酸基含有含フッ素共重合体と、メラミン樹脂等の硬化剤とを、酸触媒下、加熱して架橋させる必要があり、加熱条件によっては、硬化時間が過度に長くなったり、使用できる基材の種類が限定されてしまうという問題があった。
また、得られた塗膜についても、耐候性には優れているものの、耐擦傷性や耐久性に乏しいという問題があった。
【0004】
さらに、本願出願人は、1個のイソシアネート基と、少なくとも1個のエチレン性不飽和基とを含有する化合物と、水酸基含有含フッ素共重合体とをイソシアネート基/水酸基のモル比が1.1〜1.9の割合で反応させて得られるエチレン性不飽和基含有含フッ素共重合体を用いれば、それを含む放射線硬化性樹脂組成物を硬化させてなる硬化膜が、低屈折率であり、耐ガーゼ摩耗性等の耐擦傷性及び耐アルカリ性等の良好な耐久性を有することを見出し、特許出願をしている(特許文献5)。
【0005】
【特許文献1】特開昭57−34107号公報
【特許文献2】特開昭59−189108号公報
【特許文献3】特開昭60−67518号公報
【特許文献4】特公平6−35559号公報
【特許文献5】特開2003−183322号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献5に記載のエチレン性不飽和基含有含フッ素共重合体によれば、上述の低屈折率性及び耐久性を達成できるが、さらに低屈折率の材料が求められている。低屈折率化するためにフッ素含有率を高めようとした場合、上記特許文献5に記載のエチレン性不飽和基含有含フッ素共重合体の製造方法によっては、得られるエチレン性不飽和基含有含フッ素共重合体のフッ素含有率には一定の限界があることがわかってきた。
【0007】
即ち、上記特許文献5に記載の製造方法は、上記水酸基含有含フッ素共重合体を真空乾燥等により一旦固化させ、別の溶媒に再溶解した後、上記1個のイソシアネート基と、少なくとも1個のエチレン性不飽和基とを含有する化合物と反応させるものである(特許文献5、実施例を参照)。しかし、フッ素含有率の高い水酸基含有含フッ素共重合体の場合、これを一旦固化すると、溶媒に再溶解することができず、1個のイソシアネート基と、少なくとも1個のエチレン性不飽和基とを含有する化合物との反応を行うことができず、エチレン性不飽和基含有含フッ素共重合体を得ることができない。
水酸基含有含フッ素共重合体を一旦固化して、溶媒に再溶解していた理由は、未反応の重合開始剤及びモノマーを除去し、エチレン性不飽和基含有イソシアネート化合物を反応させる際、ゲル化ならびに不純物の生成を抑制するためである。
【0008】
従って、本発明は、耐擦傷性、塗工性及び耐久性に優れ、かつ、より低屈折率の硬化物を与える、フッ素含有率の高いエチレン性不飽和基含有含フッ素共重合体、及びその製造方法、並びにそれを用いた硬化性樹脂組成物及び反射防止膜を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、本発明者らは鋭意研究を重ね、水酸基含有含フッ素共重合体を固化することなく、(メタ)アクリル酸又は(メタ)アクリル酸のハロゲン塩と反応させれば、フッ素含有率の高い水酸基含有含フッ素共重合体を用いる場合であっても、エチレン性不飽和基含有含フッ素共重合体を得られることを見出し、本発明を完成させた。
【0010】
即ち、本発明は、下記のエチレン性不飽和基含有含フッ素共重合体、及びエチレン性不飽和基含有含フッ素共重合体の製造方法を提供する。
1.下記式(1)で表される構造単位(a)、下記式(2)で表される構造単位(b)及び下記式(3)で表される構造単位(c)を含有するエチレン性不飽和基含有含フッ素共重合体であって、
該エチレン性不飽和基含有含フッ素共重合体中に占める、構造単位(a)、(b)及び(c)の合計量が80質量%以上であり、かつ、
構造単位(a)、(b)及び(c)を、これらの合計100モル%に対して、
(a) 40〜55モル%、
(b) 2〜60モル%、及び
(c) 25モル%未満
の割合で含有する、エチレン性不飽和基含有含フッ素共重合体。
構造単位(a):
【化11】

[式中、Rはフッ素原子、フルオロアルキル基又は−ORで表される基(Rはアルキル基又はフルオロアルキル基を示す)を示す]
構造単位(b);
【化12】

[式中、Rは水素原子又はメチル基であり、R24は、下記式(6)又は(7)
【化13】

【化14】

(式中、Rは、水素原子又はメチル基であり、xは0〜2であり、yは0又は1である)で示される基を示す]
構造単位(c):
【化15】

[式中、Rは水素原子又はメチル基を示し、Rは−O(CHで表される基(Rはフルオロアルキル基を示し、xは0〜2である)を示す]
2.さらに、下記式(4)で表される構造単位(d)を1〜10質量%含有する、上記1に記載のエチレン性不飽和基含有含フッ素共重合体。
構造単位(d):
【化16】

[式中、R及びR10は、同一でも異なっていてもよく、水素原子、アルキル基、ハロゲン化アルキル基又はアリール基を示す]
3.さらに、下記式(5)で表される構造単位(e)を1〜15質量%含有する、上記1又は2に記載のエチレン性不飽和基含有含フッ素共重合体。
構造単位(e):
【化17】

[式中、R19は乳化作用を有する基を示す]
4.下記水酸基含有含フッ素共重合体と、1個のイソシアネート基と、少なくとも1個のエチレン性不飽和基とを含有する化合物とを反応させることを特徴とする、上記1〜3のいずれかに記載のエチレン性不飽和基含有含フッ素共重合体の製造方法であって、
(1)該水酸基含有含フッ素共重合体を有機溶剤に溶解して、5質量%以上の濃度の該水酸基含有含フッ素共重合体の溶液を得る工程、及び
(2)該水酸基含有含フッ素共重合体の溶液と、アクリル酸又はアクリル酸のハロゲン塩とを、塩基性化合物の存在下で混合して、エチレン性不飽和基含有含フッ素共重合体を合成する工程
を含む、エチレン性不飽和基含有含フッ素共重合体の製造方法。
[水酸基含有含フッ素共重合体]
下記式(1)で表される構造単位(a)、下記式(2’)で表される構造単位(b’)及び下記式(3)で表される構造単位(c)を含有する水酸基含有含フッ素共重合体であって、
該共重合体の質量中に占める、構造単位(a)、(b’)及び(c)の合計量が80質量%以上であり、かつ、
構造単位(a)、(b’)及び(c)を、これらの合計100モル%に対して、
(a) 40〜55モル%、
(b’) 30〜60モル%、及び
(c) 25モル%未満
の割合で含有する水酸基含有含フッ素共重合体。
構造単位(a):
【化18】

[式中、Rはフッ素原子、フルオロアルキル基又は−ORで表される基(Rはアルキル基又はフルオロアルキル基を示す)を示す]
構造単位(b’):
【化19】

[式中、Rは水素原子又はメチル基であり、Rは、−O(CHOH又は−OCO(CHOHであり、xは0〜2である。]
構造単位(c):
【化20】

[式中、Rは水素原子又はメチル基を示し、Rは−O(CHで表される基(Rはフルオロアルキル基を示し、xは0〜2である)を示す]
5.前記有機溶剤が、メチルイソブチルケトン(MIBK)、メチルエチルケトン(MEK)、メチルアミルケトン、アセトン、酢酸ブチル及び酢酸エチルからなる群から選択される一以上の有機溶剤である、上記4に記載のエチレン性不飽和基含有含フッ素共重合体の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、フッ素含有率の高いエチレン性不飽和基含有含フッ素共重合体が提供される。
本発明によれば、従来よりも屈折率が低く、耐ガーゼ摩耗性等の耐擦傷性及び耐アルカリ性等の耐久性に優れる硬化物が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明を詳細に説明する。
1.水酸基含有含フッ素共重合体
本発明のエチレン性不飽和基含有含フッ素共重合体を製造するために用いられる水酸基含有含フッ素共重合体は、下記構造単位(a)、(b’)及び(c)を含有する水酸基含有含フッ素共重合体であって、該共重合体の質量中に占める、構造単位(a)、(b’)及び(c)の合計量が80質量%以上であり、かつ、構造単位(a)、(b’)及び(c)を、これらの合計100モル%に対して、構造単位(a)を40〜55モル%、構造単位(b’)を30〜60モル%、及び構造単位(c)を25モル%未満の割合で含有することを特徴とする。
【0013】
構造単位(a)は、下記式(1)で示される。
【化21】

[式中、Rはフッ素原子、フルオロアルキル基又は−ORで表される基(Rはアルキル基又はフルオロアルキル基を示す)を示す]
【0014】
構造単位(b’)は、下記式(2’)で示される。
【化22】

[式中、Rは水素原子又はメチル基であり、Rは、−O(CHOH又は−OCO(CHOHであり、xは0〜2である。]
【0015】
構造単位(c)は、下記式(3)で示される。
【化23】

[式中、Rは水素原子又はメチル基を示し、Rは−O(CHで表される基(Rはフルオロアルキル基を示し、xは0〜2の数を示す)を示す]
【0016】
本発明で用いられる水酸基含有含フッ素共重合体のフッ素含有率は、通常、50質量%以上であり、MIBKに対して25℃において5質量%以上の溶解度を有する。ここで、フッ素含有率とは、ポリマー全体の質量に対してフッ素原子が占める割合(質量%)をいう。また、本発明で用いられる水酸基含有含フッ素共重合体は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーで測定したポリスチレン換算数平均分子量が5,000〜500,000であることが好ましい。
【0017】
以下、本発明で用いられる水酸基含有含フッ素共重合体の各構造単位について、説明する。
(1)構造単位(a)
式(1)において、R及びRのフルオロアルキル基としては、トリフルオロメチル基、パーフルオロエチル基、パーフルオロプロピル基、パーフルオロブチル基、パーフルオロヘキシル基、パーフルオロシクロヘキシル基等の炭素数1〜6のフルオロアルキル基が挙げられる。また、Rのアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基等の炭素数1〜6のアルキル基が挙げられる。
【0018】
構造単位(a)は、含フッ素ビニル単量体を重合成分として用いることにより導入することができる。このような含フッ素ビニル単量体としては、少なくとも1個の重合性不飽和二重結合と、少なくとも1個のフッ素原子とを有する化合物であれば特に制限されるものではない。このような例としてはテトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン、3,3,3−トリフルオロプロピレン等のフルオロレフィン類;アルキルパーフルオロビニルエーテル又はアルコキシアルキルパーフルオロビニルエーテル類;パーフルオロ(メチルビニルエーテル)、パーフルオロ(エチルビニルエーテル)、パーフルオロ(プロピルビニルエーテル)、パーフルオロ(ブチルビニルエーテル)、パーフルオロ(イソブチルビニルエーテル)等のパーフルオロ(アルキルビニルエーテル)類;パーフルオロ(プロポキシプロピルビニルエーテル)等のパーフルオロ(アルコキシアルキルビニルエーテル)類の一種単独又は二種以上の組み合わせが挙げられる。
これらの中でも、ヘキサフルオロプロピレンとパーフルオロ(アルキルビニルエーテル)又はパーフルオロ(アルコキシアルキルビニルエーテル)がより好ましく、パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)がさらに好ましく、パーフルオロ(プロピルビニルエーテル)が特に好ましい。
【0019】
尚、構造単位(a)の含有率は、構造単位(a)、(b’)及び(c)の合計100モル%に対して、40〜55モル%である。この理由は、含有率が40モル%未満になると、含フッ素共重合体のフッ素含有率が40質量%に満たないため、本発明が意図するところのフッ素含有材料の光学的特徴である、低屈折率の発現が困難となる場合があるためであり、一方、含有率が55モル%を超える水酸基含有含フッ素共重合体は、そもそも構造単位(a)の構造上、構造単位(a)同士が重合しにくいため生じにくいが、この含有量を超えた場合には、水酸基含有含フッ素共重合体の有機溶剤への溶解性、透明性、又は基材への密着性が低下する場合がある。
また、このような理由により、構造単位(a)の含有率を、構造単位(a)、(b’)及び(c)の合計100モル%に対して、45〜50モル%とすることがさらに好ましい。
【0020】
(2)構造単位(b’)
構造単位(b’)は、式(2’)で示される水酸基含有ビニル単量体を重合成分として用いることにより導入することができる。このような水酸基含有ビニル単量体の例としては、2−ヒドロキシエチルビニルエーテル、3−ヒドロキシプロピルビニルエーテル、2−ヒドロキシプロピルビニルエーテル、4−ヒドロキシブチルビニルエーテル、3−ヒドロキシブチルビニルエーテル、5−ヒドロキシペンチルビニルエーテル、6−ヒドロキシヘキシルビニルエーテル等の水酸基含有ビニルエーテル類、2−ヒドロキシエチルアリルエーテル、4−ヒドロキシブチルアリルエーテル、グリセロールモノアリルエーテル等の水酸基含有アリルエーテル類、アリルアルコール等が挙げられる。
また、水酸基含有ビニル単量体としては、上記以外にも、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、カプロラクトン(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート等を用いることができる。
【0021】
尚、構造単位(b’)の含有率は、構造単位(a)、(b’)及び(c)の合計100モル%に対して、30〜60モル%である。この理由は、含有率が30モル%未満になると、水酸基含有含フッ素共重合体の有機溶剤への溶解性が低下する場合があるためであり、一方、含有率が60モル%を超えると、水酸基含有含フッ素共重合体の透明性、及び低反射率性等の光学特性が低下する場合があるためである。
また、このような理由により、構造単位(b’)の含有率を、構造単位(a)、(b’)及び(c)の合計100モル%に対して、40〜50モル%とすることがより好ましい。
【0022】
(3)構造単位(c)
構造単位(c)は、式(3)で示されるビニル単量体を重合成分として用いることにより導入することができる。このようなビニル単量体の具体例としては、以下の構造式を有するものが挙げられる。
【化24】

(式中、R20は水素原子又はメチル基であり、xは0〜2である。また、上記式中、芳香環の中にFと記した基は、5つの水素の全てがフッ素原子で置換されていることを示す。)
【0023】
尚、構造単位(c)の含有率を、構造単位(a)、(b’)及び(c)の合計100モル%に対して、25モル%未満である。この理由は、含有率が25モル%以上であると、水酸基含有含フッ素共重合体のフッ素含有率が低下するほか、透明性、及び低反射率性等の光学特性が低下する場合があるためである。
また、このような理由により、構造単位(c)の含有率を、構造単位(a)、(b’)及び(c)の合計100モル%に対して、0〜20モル%未満とすることが好ましく、0〜10モル%未満とすることがさらに好ましい。
【0024】
本発明で用いられる水酸基含有含フッ素共重合体中における、構造単位(a)、(b’)及び(c)の合計含有量は、該共重合体の質量の80質量%以上である。この理由は、含有量が80質量%未満となると、水酸基含有含フッ素共重合体のフッ素含有率が低下するため、低反射率性等の光学特性が低下する場合があるためである。
【0025】
(4)構造単位(d)
前記水酸基含有含フッ素共重合体は、アゾ基含有ポリシロキサン化合物に由来する下記構造単位(d)を含むことが好ましい。構造単位(d)を含むことにより、耐擦傷性が向上する。
【0026】
(d)下記式(4)で表される構造単位。
【化25】

【0027】
[式(4)中、R及びR10は、同一でも異なっていてもよく、水素原子、アルキル基、ハロゲン化アルキル基、又はアリール基を示す]
構造単位(d)を含むことにより、耐擦傷性が向上する。
【0028】
また、本発明のエチレン性不飽和基含有含フッ素共重合体において、上記構単位(d)を下記式(4−1)で示される構造単位(d−1)の一部として含むことが好ましい。
【0029】
構造単位(d−1):
【化26】

【0030】
[式(4−1)中、R11〜R14は、同一でも異なっていてもよく、水素原子、アルキル基、又はシアノ基を示し、R15〜R18は、同一でも異なっていてもよく、水素原子又はアルキル基、ハロゲン化アルキル基、又はアリール基を示し、p、qは1〜6の数、s、tは0〜6の数、vは1〜200の数を示す。] 以下、構造単位(d)及び(d−1)について説明する。
【0031】
式(4)において、R又はR10のアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基等の炭素数1〜3のアルキル基が、ハロゲン化アルキル基としてはトリフルオロメチル基、パーフルオロエチル基、パーフルオロプロピル基、パーフルオロブチル基等の炭素数1〜4のフルオロアルキル基等が、アリール基としてはフェニル基、ベンジル基、ナフチル基等がそれぞれ挙げられる。
【0032】
構造単位(d)は、前記式(4)で表されるポリシロキサンセグメントを有するアゾ基含有ポリシロキサン化合物を用いることにより導入することができる。このようなアゾ基含有ポリシロキサン化合物の例としては、下記式(4−2)で表される化合物が挙げられる。
【0033】
【化27】

【0034】
[式(4−2)中、R11〜R14、R15〜R18、p、q、s、t、及びvは、上記式(4−1)と同じであり、zは1〜20の数である。]
【0035】
式(4−2)で表される化合物を用いた場合には、構造単位(d)は、構造単位(d−1)の一部として水酸基含有含フッ素共重合体に含まれる。この場合、式(4−1)において、R11〜R14のアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基等の炭素数1〜12のアルキル基が挙げられ、R15〜R18のアルキル基としてはメチル基、エチル基、プロピル基等の炭素数1〜3のアルキル基が挙げられる。
【0036】
本発明において、上記式(4−2)で表されるアゾ基含有ポリシロキサン化合物としては、下記式(4−3)で表される化合物が特に好ましい。
【0037】
【化28】

【0038】
[式(4−3)中、v及びzは、上記式(4−2)と同じである。]
式(4−3)で表される化合物の市販品としては、例えば、VPS1001(和光順約工業株式会社)が挙げられる。VPS1001は、数平均分子量が7〜9万、ポリシロキサン部分の分子量が約10,000の、上記式(4−3)で表されるアゾ基含有ポリジメチルシロキサンである。
【0039】
本発明で用いられる水酸基含有含フッ素共重合体中における構造単位(d)の含有率は、水酸基含有含フッ素共重合体の全体量を100質量%としたときに、1〜10質量%とすることが好ましい。この理由は、含有率が10質量%を超えると、水酸基含有含フッ素共重合体の透明性に劣り、コート材として使用する際に、塗布時にハジキ等が発生し易くなる場合があるためである。また、含有率が1質量%以上であることが、耐擦傷性の向上のため、好ましい。
また、このような理由により、構造単位(d)の含有率を、水酸基含有含フッ素共重合体の全体量に対して、1〜5質量%とすることがさらに好ましい。同じ理由により、構造単位(e)の含有率は、その中に含まれる構造単位(d)の含有率を上記範囲にするよう決定することが望ましい。
【0040】
(5)構造単位(e)
さらに、上記水酸基含有含フッ素共重合体は、下記構造単位(e)を含むことが好ましい。
(e)下記式(5)で表される構造単位。
【0041】
【化29】

【0042】
[式(5)中、R19は乳化作用を有する基を示す]
【0043】
構造単位(e)を含むことにより、塗工性が向上する。
以下、構造単位(e)について説明する。
【0044】
式(5)において、R19の乳化作用を有する基としては、疎水性基及び親水性基の双方を有し、かつ、親水性基がポリエチレンオキサイド、ポリプロピレンオキサイド等のポリエーテル構造である基が好ましい。
【0045】
このような乳化作用を有する基の例としては下記式(5−1)で表される基が挙げられる。
【0046】
【化30】

【0047】
[式(5−1)中、nは1〜20の数、mは0〜4の数、uは3〜50の数を示す]
【0048】
構造単位(e)は、反応性乳化剤を重合成分として用いることにより導入することができる。このような反応性乳化剤としては、下記式(5−2)で表される化合物が挙げられる。
【0049】
【化31】

【0050】
[式(5−2)中、n、m、及びuは、上記式(5−1)と同様である]
式(5−2)で表される化合物の市販品としては、例えば、NE−30(旭電化工業株式会社)が挙げられる。NE−30は、上記式(5−2)において、nが9、mが1、uが30であるノニオン性反応性乳化剤である。
【0051】
尚、構造単位(e)の含有率を、水酸基含有含フッ素共重合体の全体量を100質量%としたときに、1〜15質量%とすることが好ましい。この理由は、含有率が1質量%以上になると、水酸基含有含フッ素共重合体の溶剤への溶解性が向上し、一方、含有率が15質量%以内であれば、硬化性樹脂組成物の粘着性が過度に増加せず、取り扱いが容易になり、コート材等に用いても耐湿性が低下しないためである。
また、このような理由により、構造単位(e)の含有率を、水酸基含有含フッ素共重合体の全体量に対して、1〜10質量%とするのがより好ましく、3〜7質量%とするのがさらに好ましい。
【0052】
尚、本発明で用いられる水酸基含有含フッ素共重合体は、本発明のエチレン性不飽和基含有含フッ素共重合体が目的とする特性を損なわない範囲で、上記構成単位(a)〜(e)の他に、各種官能基を含有する単量体を共重合することにより官能基を有する含フッ素共重合体を得ることができる。共重合される単量体の官能基としては、特に水酸基、エポキシ基が好ましい。水酸基を含有する単量体としては、例えば、2−ヒドロキシエチルアリルエーテル、4−ヒドロキシブチルアリルエーテル、グリセロールモノアリルエーテル等の水酸基含有アリルエーテル類;アリルアルコール;ヒドロキシエチル(メタ)アクリル酸エステル等を挙げることができる。またエポキシ基を含有する単量体としては、例えばビニルグリシジルエーテル、アリルグリシジルエーテル、(メタ)アクリル酸グリシジル、クロトン酸グリシジルエステル、マレイン酸メチルグリシジルエステル等を挙げることができる。これらの他の単量体は、単独でも2種以上の併用であってもよい。
【0053】
前記共重合可能な他の単量体のうち、上記含フッ素共重合体の重合反応における収率を高める点から、アルキルビニルエーテル類、シクロアルキルビニルエーテル類、カルボン酸ビニルエステル類が好適に使用される。特に含フッ素共重合体中に共重合されるフッ素含有率を高める点で、例えばメチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、n−プロピルビニルエーテル、イソプロピルビニルエーテル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、ピバリン酸ビニル等の低分子量単量体が好ましい。
【0054】
さらに、本発明のエチレン性不飽和基含有含フッ素共重合体を含む硬化性樹脂組成物の硬化後の塗膜の高硬度化、低屈折率化のためには、イソプロピルビニルエーテル、tert−ブチルビニルエーテル、ピバリン酸ビニル等の分岐状単量体の使用が有効である。
【0055】
(6)分子量
水酸基含有含フッ素共重合体は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(以下「GPC」という。)で、テトラヒドロフラン(以下「THF」という。)を溶剤として測定したポリスチレン換算数平均分子量が5,000〜500,000であることが好ましい。この理由は、数平均分子量が5,000未満になると、水酸基含有含フッ素共重合体の機械的強度が低下する場合があるためであり、一方、数平均分子量が500,000を超えると、これを用いて作製される硬化性樹脂組成物の粘度が高くなり、薄膜コーティングが困難となる場合がるためである。
また、このような理由により、水酸基含有含フッ素共重合体のポリスチレン換算数平均分子量を10,000〜300,000とするのがより好ましく、10,000〜100,000とするのがさらに好ましい。
【0056】
(7)フッ素含有率
本発明で用いられる水酸基含有含フッ素共重合体のフッ素含有率は、45質量%以上であることが好ましく、50質量%以上であることがより好ましい。フッ素含有率が45質量%以上であることにより、低反射率性等の光学特性が良好となる。水酸基含有含フッ素共重合体のフッ素含有率は、水酸基含有含フッ素共重合体中の、アリザリンコンプレクソン法で測定したフッ素原子の重量を、水酸基含有含フッ素共重合体の重量で除した%値である。
【0057】
2.エチレン性不飽和基含有含フッ素共重合体
本発明のエチレン性不飽和基含有含フッ素共重合体は、下記構造単位(a)、(b)及び(c)を含有するエチレン性不飽和基含有含フッ素共重合体であって、該含エチレン性不飽和基含有フッ素共重合体中に占める、構造単位(a)、(b)及び(c)の合計量が80質量%以上であり、かつ、構造単位(a)、(b)及び(c)を、これらの合計100モル%に対して、構造単位(a)を40〜55モル%、構造単位(b)を2〜60モル%、及び構造単位(c)を25モル%未満の割合で含有することを特徴とする。
このうち、構造単位(a)及び(c)は、前述の水酸基含有含フッ素共重合体の構造単位(a)及び(c)と同一であるが、構造単位(c)の含有量が、上記基準で25モル%未満であることが必要である。この理由は、構造単位(c)の含有量が25モル%以上の水酸基含有含フッ素共重合体は、有機溶剤に溶解し難いため、後述の方法を用いてエチレン性不飽和基含有含フッ素共重合体を製造することが難しくなるためである。このため、構造単位(c)の含有量は、20モル%以下であることが好ましい。
【0058】
構造単位(b)は、下記式(2)で示される。構造単位(b)は、前述の水酸基含有含フッ素共重合体の構造単位(b’)が、後述の工程でアクリル酸等と反応して得られる構造単位である。
【化32】

[式中、Rは水素原子又はメチル基であり、R24は、下記式(6)又は(7)
【化33】

【化34】

(Rは、水素原子又はメチル基であり、xは0〜2であり、yは0又は1である)で示される基を示す]
【0059】
本発明のエチレン性不飽和基含有含フッ素共重合体は、前述の水酸基含有含フッ素共重合体と同様にして、前述の構造単位(d)及び/又は(e)を含有することができる。エチレン性不飽和基含有含フッ素共重合体中における、構造単位(d)及び(e)の含有量は、前述の水酸基含有含フッ素共重合体の場合と同様である。
【0060】
尚、本発明のエチレン性不飽和基含有含フッ素共重合体は、本発明が目的とする特性を損なわない範囲で、上記構成単位の他に、任意の構成単位を含有することができる。本発明のエチレン性不飽和基含有含フッ素共重合体は、後述のように、水酸基含有含フッ素共重合体にエチレン性不飽和基を導入して製造するものであるので、これらの任意の構成単位は、水酸基含有含フッ素共重合体について前述したとおりである。
【0061】
3.エチレン性不飽和基含有含フッ素共重合体の製造方法
本発明のエチレン性不飽和基含有含フッ素共重合体は、通常、1個のイソシアネート基と、少なくとも1個のエチレン性不飽和基とを含有する化合物と、水酸基含有含フッ素共重合体とを反応させて得られる。両化合物を反応させる際、イソシアネート基/水酸基のモル比が0.1〜1.9の割合で反応させることが好ましい。
【0062】
(1)1個のイソシアネート基と、少なくとも1個のエチレン性不飽和基とを含有する化合物
1個のイソシアネート基と、少なくとも1個のエチレン性不飽和基とを含有する化合物としては、分子内に、1個のイソシアネート基と、少なくとも1個のエチレン性不飽和基を含有している化合物であれば特に制限されるものではない。
尚、イソシアネート基を2個以上含有すると、水酸基含有含フッ素共重合体と反応させる際にゲル化を起こす可能性がある。
また、上記エチレン性不飽和基として、後述する硬化性樹脂組成物をより容易に硬化させることができることから、(メタ)アクリロイル基を有する化合物がより好ましい。
このような化合物としては、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルイソシアネート、2−(メタ)アクリロイルオキシプロピルイソシアネート、1,1−(ビスアクリロイルオキシメチル)エチルイソシアネートの一種単独又は二種以上の組み合わせが挙げられる。また、これらの市販品としては、カレンズMOI、カレンズBEI等(昭和電工株式会社)が挙げられる。1個のイソシアネート基と、2個以上のエチレン性不飽和基とを含有する化合物を用いることにより、樹脂成分との密着性に優れたエチレン性不飽和基含有含フッ素共重合体を得ることができる。
【0063】
尚、このような化合物は、ジイソシアネート及び水酸基含有(メタ)アクリレートを反応させて合成することもできる。
この場合、ジイソシアネートの例としては、2,4−トリレンジイソシアネ−ト、2,6−トリレンジイソシアネ−ト、1,3−キシリレンジイソシアネ−ト、1,4−キシリレンジイソシアネ−ト、1,5−ナフタレンジイソシアネ−ト、m−フェニレンジイソシアネート、p−フェニレンジイソシアネート、3,3’−ジメチル−4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネ−ト、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネ−ト、3,3’−ジメチルフェニレンジイソシアネ−ト、4,4’−ビフェニレンジイソシアネ−ト、1,6−ヘキサンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、メチレンビス(4−シクロヘキシルイソシアネア−ト)、2,2,4−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネ−ト、ビス(2−イソシアネートエチル)フマレート、6−イソプロピル−1,3−フェニルジイソシアネ−ト、4−ジフェニルプロパンジイソシアネ−ト、リジンジイソシアネ−ト、水添ジフェニルメタンジイソシアネ−ト、1,3−ビス(イソシアネートメチル)シクロヘキサン、テトラメチルキシリレンジイソシアネ−ト、2,5(又は6)−ビス(イソシアネートメチル)−ビシクロ[2.2.1]ヘプタン等の一種単独又は二種以上の組み合わせが挙げられる。
これらの中では、2,4−トリレンジイソシアネ−ト、イソホロンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、メチレンビス(4−シクロヘキシルイソシアネア−ト)、1,3−ビス(イソシアネートメチル)シクロヘキサンが特に好ましい。
【0064】
また、水酸基含有(メタ)アクリレートの例としては、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、カプロラクトン(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールジ(メタ)アクリレートモノステアレート、イソシアヌル酸EO変性ジ(メタ)アクリレート等一種単独又は二種以上の組み合わせが挙げられる。
これらの中では、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレートが特に好ましい。
尚、水酸基含有多官能(メタ)アクリレートの市販品としては、例えば、大阪有機化学(株)製 商品名 HEA、日本化薬(株)製 商品名 KAYARAD DPHA、PET−30、東亞合成(株)製 商品名 アロニックス M−215、M−233、M−305、M−400等として入手することができる。
【0065】
ジイソシアネート及び水酸基含有多官能(メタ)アクリレートから合成する場合には、ジイソシアネート1モルに対し、水酸基含有多官能(メタ)アクリレートの添加量を1〜1.2モルとするのが好ましい。
【0066】
このような化合物の合成方法としては、ジイソシアネート及び水酸基含有(メタ)アクリレートを一括で仕込んで反応させる方法、水酸基含有(メタ)アクリレート中にジイソシアネートを滴下して反応させる方法等を挙げることができる。
【0067】
(2)エチレン性不飽和基含有含フッ素共重合体の製造方法
本発明のエチレン性不飽和基含有含フッ素共重合体の製造方法(以下、本発明の製造方法という)は、前記水酸基含有含フッ素共重合体と、1個のイソシアネート基と、少なくとも1個のエチレン性不飽和基とを含有する化合物とを反応させることを特徴とする。この反応は、水酸基含有含フッ素共重合体の重合液から水酸基含有含フッ素共重合体を分離した後に行ってもよいし、水酸基含有含フッ素共重合体の重合液中で行うこともできる。
【0068】
より具体的には、下記製造方法1又は製造方法2を例示することができる。製造方法1は、水酸基含有含フッ素共重合体の重合液から水酸基含有含フッ素共重合体を分離した後に、再溶解した該水酸基含有含フッ素共重合体と、1個のイソシアネート基と、少なくとも1個のエチレン性不飽和基とを含有する化合物とを反応させるのに対して、製造方法2は、水酸基含有含フッ素共重合体の重合液中において、該水酸基含有含フッ素共重合体と、1個のイソシアネート基と、少なくとも1個のエチレン性不飽和基とを含有する化合物とを反応させる点で異なる。
【0069】
製造方法1は、水酸基含有含フッ素共重合体中の構造単位(c)の含有量が、構造単位(a)、(b)及び(c)の合計100モル%に対して、10モル%未満である場合に好ましく適用でき、製造方法2は、中の構造単位(c)の上記含有量が、構造単位(c)の含有量が10モル%未満の場合でも10モル%以上20モル%以下の場合でも好ましく適用できる。その理由は、水酸基含有含フッ素共重合体中の構造単位(c)の上記含有量が、10モル%未満である場合には、水酸基含有含フッ素共重合体の有機溶剤に対する溶解性が高いために、水酸基含有含フッ素共重合体の重合液から水酸基含有含フッ素共重合体を分離した後に、有機溶剤に再溶解することができるのに対して、水酸基含有含フッ素共重合体中の構造単位(c)の上記含有量が、10モル%以上20モル%以下の場合には、水酸基含有含フッ素共重合体中の有機溶剤に対する溶解性が低下するため、水酸基含有含フッ素共重合体の重合液から水酸基含有含フッ素共重合体を分離しない方が安定した溶解状態を保つことができるからである。
【0070】
[1]製造方法1
(1)水酸基含有含フッ素共重合体の重合液中に、有機溶剤1とを混合して、水酸基含有含フッ素共重合体を沈殿させ、回収する工程、
(2)該水酸基含有含フッ素共重合体を、有機溶剤1と異なる有機溶剤2に溶解させる工程、
(3)該水酸基含有含フッ素共重合体と、1個のイソシアネート基と、少なくとも1個のエチレン性不飽和基とを含有する化合物とを反応させて、エチレン性不飽和基含有含フッ素共重合体を合成する工程、
(4)該エチレン性不飽和基含有含フッ素共重合体の重合液と、有機溶剤1とを混合して、エチレン性不飽和基含有含フッ素共重合体を沈殿させ、回収する工程、
(5)該エチレン性不飽和基含有含フッ素共重合体を、有機溶剤1と異なる有機溶剤2に溶解させる工程、
(6)該有機溶剤1を除去して、エチレン性不飽和基含有含フッ素共重合体が有機溶剤2に溶解した溶液を得る工程
を含むことを特徴とする。ただし、上記工程(2)で用いる有機溶剤1及び有機溶剤2は、上記工程(4)以下で用いる有機溶剤1及び有機溶剤2とそれぞれ同一であっても異なっていてもよい。
【0071】
[2]製造方法2
(1)水酸基含有含フッ素共重合体の重合液中において、該水酸基含有含フッ素共重合体と、1個のイソシアネート基と、少なくとも1個のエチレン性不飽和基とを含有する化合物とを反応させて、エチレン性不飽和基含有含フッ素共重合体を合成する工程、
(2)該エチレン性不飽和基含有含フッ素共重合体の重合液と、有機溶剤1とを混合して、エチレン性不飽和基含有含フッ素共重合体を沈殿させ、回収する工程、
(3)該エチレン性不飽和基含有含フッ素共重合体を、有機溶剤1と異なる有機溶剤2に溶解させる工程、
(4)該有機溶剤1を除去して、エチレン性不飽和基含有含フッ素共重合体が有機溶剤2に溶解した溶液を得る工程
を含むことを特徴とする。
【0072】
本発明の製造方法は、特にフッ素含有率が50質量%以上、より好ましくは53質量%以上の水酸基含有含フッ素共重合体を用いてエチレン性不飽和基含有含フッ素共重合体を製造するのに好適であるが、フッ素含有率が50質量%未満の水酸基含有含フッ素共重合体を用いる場合にも適用することができる。
【0073】
以下、各工程について説明する。
[1]製造方法1
工程(1):
前記水酸基含有含フッ素共重合体の重合液とは、含フッ素ビニル単量体(構造単位(a)を構成する化合物)、ビニル単量体(構造単位(b’)を構成する化合物)、水酸基含有ビニル単量体(構造単位(c)を構成する化合物)、必要によりアゾ基含有ポリシロキサン化合物(構造単位(d)を構成する化合物)、反応性乳化剤(構造単位(f)を構成する化合物)を、各構成単位が前記所定の割合となるように混合して重合させて、水酸基含有含フッ素共重合体が形成されている反応液である。
水酸基含有含フッ素共重合体の重合時に用いる反応溶媒としては、酢酸エチル、酢酸ブチル、メチルイソブチルケトン等が挙げられる。
【0074】
上記の水酸基含有含フッ素共重合体の重合液と有機溶剤1とを混合し、水酸基含有含フッ素共重合体を沈殿させ、沈殿物を回収し、該溶媒によって膨潤した状態の水酸基含有含フッ素共重合体を重合液から分離する。本工程では、水酸基含有含フッ素共重合体をウエットな状態に保持し、固化させないことが必要である。
工程(1)で用いる有機溶剤1としては、水若しくはアルコールが好ましく、メタノール、イソプロパノール(IPA)、n−ブタノール(n−BuOH)、tert−ブタノール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、エチルセロソルブ、プロピルセロソルブ、ブチルセロソルブ等が挙げられ、中でもメタノールが好ましい。
有機溶剤1の使用量は、添加する水酸基含有含フッ素共重合体が生成している重合液100質量部に対し、通常500〜5000質量部を使用する。
【0075】
工程(2):
工程(1)で得た有機溶剤1で膨潤した状態の水酸基含有含フッ素共重合体に、有機溶剤2を加え、水酸基含有含フッ素共重合体を溶解させる。
工程(2)で用いる有機溶剤2としては、ケトン類が好ましく、メチルエチルケトン(MEK)、メチルイソブチルケトン(MIBK)、メチルアミルケトン(MAK)、アセトン、メチルプロピルケトン等が挙げられ、中でもメチルイソブチルケトン(MIBK)が好ましい。
有機溶剤2の添加量は、工程(1)で得た有機溶剤1で膨潤した状態の水酸基含有含フッ素共重合体100質量部に対し、通常100〜1000質量部の範囲内であり、好ましくは200〜900質量部の範囲内である。
尚、前記有機溶剤1を減圧留去等の手段で除去し、溶媒を置換して、エチレン性不飽和基含有含フッ素共重合体が有機溶剤2に溶解した溶液を得ることが好ましい。
【0076】
工程(3):
上記の水酸基含有含フッ素共重合体の有機溶剤2の溶液に、1個のイソシアネート基と、少なくとも1個のエチレン性不飽和基とを含有する化合物を添加し、反応させることにより、エチレン性不飽和基含有含フッ素共重合体が合成される。
本工程において、反応液のゲル化等を防止するため、重合禁止剤を添加することが好ましい。重合禁止剤としては、特に限定されるものではないが、例えば、p−メトキシフェノール、2,6−ジ−t−ブチルメチルフェノール等が好ましい。
【0077】
水酸基含有含フッ素共重合体と1個のイソシアネート基と、少なくとも1個のエチレン性不飽和基とを含有する化合物との反応条件は、通常、ナフテン酸銅、ナフテン酸コバルト、ナフテン酸亜鉛、ジラウリル酸ジ−n−ブチル錫、トリエチルアミン、トリエチレンジアミン−2−メチルトリエチレンアミン等のウレタン化触媒を反応原料の総量に対して0.01〜1質量%の量で用い、反応温度は通常、10〜90℃、特に30〜80℃で行うのが好ましい。
【0078】
工程(4):
エチレン性不飽和基含有含フッ素共重合体が生成している重合液と有機溶剤1とを混合し、エチレン性不飽和基含有含フッ素共重合体を沈殿させ、沈殿物を回収し、該溶媒によって膨潤した状態のエチレン性不飽和基含有含フッ素共重合体を重合液から分離する。本工程では、エチレン性不飽和基含有含フッ素共重合体をウエットな状態に保持し、固化させないことが必要である。
工程(4)で用いる有機溶剤1としては、水若しくはアルコールが好ましく、メタノール、イソプロパノール(IPA)、n−ブタノール(n−BuOH)、tert−ブタノール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、エチルセロソルブ、プロピルセロソルブ、ブチルセロソルブ等が挙げられ、中でもメタノールが好ましい。
有機溶剤1の使用量は、添加するエチレン性不飽和基含有含フッ素共重合体が生成している重合液100質量部に対し、通常500〜5000質量部を使用する。
【0079】
工程(5):
工程(4)で得た有機溶剤1で膨潤した状態のエチレン性不飽和基含有含フッ素共重合体に、有機溶剤2を加え、エチレン性不飽和基含有含フッ素共重合体を溶解させる。
工程(5)で用いる有機溶剤2としては、ケトン類が好ましく、メチルエチルケトン(MEK)、メチルイソブチルケトン(MIBK)、メチルアミルケトン(MAK)、アセトン、メチルプロピルケトン等が挙げられ、中でもメチルイソブチルケトン(MIBK)が好ましい。
有機溶剤2の添加量は、工程(4)で得た有機溶剤1で膨潤した状態のエチレン性不飽和基含有含フッ素共重合体100質量部に対し、通常100〜1000質量部の範囲内であり、好ましくは200〜900質量部の範囲内である。
【0080】
工程(6):
上記工程(5)で得られた溶液から、前記有機溶剤1を減圧留去等の手段で除去し、溶媒を置換して、エチレン性不飽和基含有含フッ素共重合体が有機溶剤2に溶解した溶液を得る。
本工程で得られたエチレン性不飽和基含有含フッ素共重合体の溶液は、そのまま、後述する硬化性樹脂組成物の構成成分として使用できる。
有機溶剤1を減圧留去する際の条件は、通常、温度30〜60℃、圧力100〜300hPaである。
【0081】
[2]製造方法2
工程(1):
水酸基含有含フッ素共重合体の重合液に、1個のイソシアネート基と、少なくとも1個のエチレン性不飽和基とを含有する化合物を添加し、反応させることにより、エチレン性不飽和基含有含フッ素共重合体が合成される。
本工程における有機溶剤以外の反応条件は、製造方法1の工程(3)と同様である。
水酸基含有含フッ素共重合体を一旦固化させることなく、上記のように反応を行うことにより、フッ素含有率の高い水酸基含有含フッ素共重合体から、特許文献5に記載の方法では製造できなかったフッ素含有率の高いエチレン性不飽和基含有含フッ素共重合体を製造することができる。本発明の製造方法により得られたエチレン性不飽和基含有含フッ素共重合体は、フッ素含有率が40質量%以上と高いにもかかわらず、MIBKに対する25℃における溶解度が10質量%以上と良好である。
【0082】
工程(2)〜(4):
製造方法2の工程(2)〜(4)は、製造方法1の工程(4)〜(6)と、それぞれ同様である。
【0083】
本発明の製造方法1又は2によれば、フッ素含有率が38質量%以上、より好ましくは43質量%以上のエチレン性不飽和基含有含フッ素共重合体が得られる。
【実施例】
【0084】
以下、本発明の実施例を詳細に説明するが、本発明はこれら実施例の記載に何ら限定されるものではない。
合成例1:水酸基含有含フッ素共重合体(A−1)の製造
内容積3.0Lの電磁攪拌機付きステンレス製オートクレーブを窒素ガスで十分置換した後、酢酸エチル1500g、パーフルオロ(プロピルビニルエーテル)(FPVE)506.1g、(パーフルオロオクチル)エチルビニルエーテル93.3g、ヒドロキシエチルビニルエーテル(HEVE)150.7g、過酸化ラウロイル3.8gを仕込み、再度窒素ガスで系内の酸素を除去した。
次いで昇温を開始し、70℃で20時間攪拌下に反応を継続後、オートクレーブを水冷し、反応を停止させた。
反応液の温度が室温に達した後、オートクレーブを開放し、反応液を回収後、メタノール/水混合溶液(混合重量比80/20)30kgに反応液を滴下した。沈殿物を取り出し、40℃にて減圧乾燥を行い水酸基含有含フッ素共重合体(A−1)を得た。
【0085】
合成例2:水酸基含有含フッ素共重合体(A−2)の製造
内容積3.0Lの電磁攪拌機付きステンレス製オートクレーブを窒素ガスで十分置換した後、酢酸エチル1500g、パーフルオロ(プロピルビニルエーテル)(FPVE)506.1g、(パーフルオロオクチル)エチルビニルエーテル93.2g、ヒドロキシエチルビニルエーテル(HEVE)150.7g、過酸化ラウロイル4g、VPS1001を、22.5g、NE−30を37.5gを仕込み、再度窒素ガスで系内の酸素を除去した。
次いで昇温を開始し、70℃で20時間攪拌下に反応を継続後、オートクレーブを水冷し、反応を停止させた。
反応液の温度が室温に達した後、オートクレーブを開放し、反応液を回収後、メタノール/水混合溶液(混合重量比95/5)30kgに反応液を滴下した。沈殿物を取り出し、40℃にて減圧乾燥を行い水酸基含有含フッ素共重合体(A−2)を得た。
ここで、VPS1001は、数平均分子量が7〜9万、ポリシロキサン部分の分子量が約10,000の、上記一般式(8)で表されるアゾ基含有ポリジメチルシロキサンである。NE−30は、上記一般式(10)において、nが9、mが1、uが30であるノニオン性反応性乳化剤である。
【0086】
合成例3:水酸基含有含フッ素共重合体(A−3)の製造
表1に示す単量体及び溶剤を、表1に記載の仕込み質量(g)で用いた以外は合成例1と同様にして水酸基含有含フッ素共重合体を得た。生成した水酸基含有含フッ素共重合体を、水酸基含有含フッ素共重合体A−3という。
【0087】
合成例4:水酸基含有含フッ素共重合体(A−4)の製造
内容積3.0Lの電磁攪拌機付きステンレス製オートクレーブを窒素ガスで十分置換した後、酢酸エチル1500g、パーフルオロ(プロピルビニルエーテル)(FPVE)459.2g、(パーフルオロオクチル)エチルビニルエーテル169.3g、ヒドロキシエチルビニルエーテル(HEVE)121.6g、過酸化ラウロイル3.8g、VPS1001を、22.5gを仕込み、再度窒素ガスで系内の酸素を除去した。
次いで昇温を開始し、70℃で20時間攪拌下に反応を継続後、オートクレーブを水冷し、反応を停止させた。
反応液の温度が室温に達した後、オートクレーブを開放、反応液を回収し、水酸基含有含フッ素共重合体溶液(A−4)を得た。
【0088】
合成例5、6:水酸基含有含フッ素共重合体溶液(A−5)、(A−6)の製造
表1に示す単量体及び溶剤を、表1に記載の仕込み質量(g)で用いた以外は合成例4と同様にして水酸基含有含フッ素共重合体溶液を得た。生成した水酸基含有含フッ素共重合体溶液を、それぞれ水酸基含有含フッ素共重合体A−5、A−6という。
【0089】
比較合成例1、2:水酸基含有含フッ素共重合体(C−1a)及び(C−1b)の製造
内容積3.0Lの電磁攪拌機付きステンレス製オートクレーブを窒素ガスで十分置換した後、酢酸エチル1125g、パーフルオロ(プロピルビニルエーテル)(FPVE)359.4g、(パーフルオロオクチル)エチルビニルエーテル331.1g、ヒドロキシエチルビニルエーテル(HEVE)59.4g、過酸化ラウロイル3.8gを仕込み、再度窒素ガスで系内の酸素を除去した。
次いで昇温を開始し、70℃で20時間攪拌下に反応を継続後、オートクレーブを水冷し、反応を停止させた。
反応液の温度が室温に達した後、オートクレーブを開放し、反応液を回収した。(この反応液をC−1aという)。この反応液(C1−a)を、メタノール/水混合溶液(混合重量比80/20)30kgに反応液を滴下した。沈殿物を取り出し、40℃にて減圧乾燥を行い水酸基含有含フッ素共重合体(C−1b)を得た。得られた水酸基含有フッ素重合体(C−1b)をMIBKに固形分濃度20重量%になるよう溶解させたが、溶解しなかった。
【0090】
実施例1:エチレン性不飽和基含有含フッ素共重合体溶液(B−1)の製造
電磁攪拌機、ガラス製冷却管及び温度計を備えた容量3リットルのセパラブルフラスコに、合成例1で得られた水酸基含有含フッ素共重合体(A−1)を100gと、重合禁止剤として2,6−ジ−t−ブチルメチルフェノール0.02g及び、溶剤としてMIBKを766.2g及び、2−メタクリロイルオキシエチルイソシアネートを35.2g添加し、溶液が均一になるまで攪拌した後、ジブチルチンジラウレート0.3gを添加して反応を開始し、系の温度を55〜65℃に保持し5時間攪拌を乾燥空気下にて継続し、水酸基含有含フッ素共重合体(A−1)と2−メタクリロイルオキシエチルイソシアネートとの反応溶液(B−1)(固形分濃度20重量%)を得た。得られたエチレン性不飽和基含有含フッ素共重合体の組成分析を13C−NMRにより行い、組成から求めたフッ素含有率は、42重量%であった。
【0091】
実施例2、3:エチレン性不飽和基含有含フッ素共重合体溶液(B−2、B−3)の製造
表2に示す単量体及び溶剤を、表2に記載の仕込み質量(g)で用いた以外は実施例1と同様にしてエチレン性不飽和基含有含フッ素共重合体溶液を得た。生成したエチレン性不飽和基含有含フッ素共重合体溶液を、それぞれエチレン性不飽和基含有含フッ素共重合体溶液(B−2)、(B−3)という。
【0092】
実施例4
エチレン性不飽和基含有含フッ素共重合体溶液(B−4)の製造
電磁攪拌機、ガラス製冷却管及び温度計を備えた容量3リットルのセパラブルフラスコに、合成例4で得られた水酸基含有含フッ素共重合体溶液(A−4)を810gと重合禁止剤としてp−メトキシフェノールを0.1g仕込み、78℃で5時間攪拌を行った後、氷浴を用い20℃まで冷却した。次に、重合禁止剤として2,6−ジ−t−ブチルメチルフェノール0.05g及び、溶剤として酢酸エチルを1469g及び、2−メタクリロイルオキシエチルイソシアネート78.2gを添加し、溶液が均一になるまで攪拌した後、ジブチルチンジラウレート0.7gを添加して反応を開始し、系の温度を55〜65℃に保持し5時間攪拌を乾燥空気下にて継続し、水酸基含有含フッ素共重合体A−4と2−メタクリロイルオキシエチルイソシアネートとの反応物b−4を得た。次に、得られた反応物を、電磁攪拌機を備えた容量40Lのステンレス製容器に仕込んだメタノール20kg中に攪拌しながら滴下後、2時間静置を行い、反応物b−4を沈殿させた。沈殿物を溶剤(メタノールと酢酸エチルの混合溶剤)から分離し、溶剤によって膨潤した状態の反応物330gを得た。この反応物及び1280gのMIBKを、電磁攪拌機を備えた容量3リットルのセパラブルフラスコに仕込み、溶液が均一になるまで攪拌したあと、3Lのナス型フラスコに仕込み、エバポレーターを用い、温度40℃、圧力150hPaの条件下にて、残留するメタノール、酢酸エチルを留去した。固形分含量が20%になるようにMIBKを追加することにより、エチレン性不飽和基含有含フッ素共重合体(B−4)のMIBK溶液を得た。
水酸基含有含フッ素共重合体(A−4)と2−メタクリロイルオキシエチルイソシアネートとの反応における各成分の配合量を表2に示す。また、得られたエチレン性不飽和基含有含フッ素共重合体のNMRチャートを図1に示す。
【0093】
実施例5、6:エチレン性不飽和基含有含フッ素共重合体溶液(B−5、B−6)の製造
表2に示す単量体及び溶剤を、表2に記載の仕込み質量(g)で用いた以外は実施例4と同様にしてエチレン性不飽和基含有含フッ素共重合体溶液を得た。生成したエチレン性不飽和基含有含フッ素共重合体溶液を、それぞれエチレン性不飽和基含有含フッ素共重合体溶液(B−5)、(B−6)という。
【0094】
比較例1:エチレン性不飽和基含有フッ素重合体溶液(D−1a)の製造
表2に示す単量体及び溶剤を、表2に記載の仕込み質量(g)で用いた以外は実施例4と同様にしてエチレン性不飽和基含有含フッ素共重合体溶液を合成したが、MIBKへの溶解を実施例4と同様に行ったところ、エチレン性不飽和基含有含フッ素共重合体がMIBKに溶解しなかった。
【0095】
比較例2:エチレン性不飽和基含有含フッ素共重合体(D−1b)の製造
合成比較例1で製造した水酸基含有含フッ素共重合体(C−1b)はMIBKに不溶であったため、エチレン性不飽和基含有含フッ素共重合体(D−1b)を製造することはできなかった。
【0096】
(屈折率の評価方法)
実施例1〜6及び比較例1で得られたエチレン性不飽和基含有含フッ素共重合体からなる各硬化性樹脂組成物をスピンコーターによりシリコンウェハー上に、乾燥後の厚さが約0.1μmとなるように塗布後、窒素下、高圧水銀ランプを用いて、0.5mJ/cmの光照射条件で紫外線を照射して硬化させた。得られた硬化物について、エリプソメーターを用いて25℃での波長539nmにおける屈折率(n25)を測定した。結果を下記表2に示す。
【0097】
【表1】

【0098】
表1中の略号は下記のものを示す。
FPVE:パーフルオロ(プロピルビニルエーテル)
HEVE:ヒドロキシエチルビニルエーテル
VPS1001:式(4−3)で表されるアゾ基含有ポリジメチルシロキサン;和光順約工業株式会社製
NE−30:式(5−2)において、nが9、mが1、uが30であるノニオン性反応性乳化剤;旭電化工業株式会社製
MIBK:メチルイソブチルケトン
【0099】
【表2】

【0100】
表1の結果から、所定の組成を有する水酸基含有含フッ素共重合体は、フッ素含有率が高く、かつ有機溶剤への溶解性を有しており、エチレン性不飽和基含有含フッ素共重合体の合成に用いることができることがわかる。
表2の結果から、合成例1〜6で得られた水酸基含有含フッ素共重合体を用いて製造されたエチレン性不飽和基含有含フッ素共重合体は、フッ素含有率39〜51%と高く、有機溶剤への溶解性を有し、かつ屈折率が1.36〜1.39と低いことがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0101】
本発明によれば、従来のものよりフッ素含有率の高いエチレン性不飽和基含有含フッ素共重合体を提供することができる。
本発明のフッ素含有率の高いエチレン性不飽和基含有含フッ素共重合体は、屈折率が低いため、低屈折率を必要とする用途、特に、反射防止膜の低屈折率層形成用材料として有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表される構造単位(a)、下記式(2)で表される構造単位(b)及び下記式(3)で表される構造単位(c)を含有するエチレン性不飽和基含有含フッ素共重合体であって、
該エチレン性不飽和基含有含フッ素共重合体中に占める、構造単位(a)、(b)及び(c)の合計量が80質量%以上であり、かつ、
構造単位(a)、(b)及び(c)を、これらの合計100モル%に対して、
(a) 40〜55モル%、
(b) 2〜60モル%、及び
(c) 25モル%未満
の割合で含有する、エチレン性不飽和基含有含フッ素共重合体。
構造単位(a):
【化1】

[式中、Rはフッ素原子、フルオロアルキル基又は−ORで表される基(Rはアルキル基又はフルオロアルキル基を示す)を示す]
構造単位(b);
【化2】

[式中、Rは水素原子又はメチル基であり、R24は、下記式(6)又は(7)
【化3】

【化4】

(式中、Rは、水素原子又はメチル基であり、xは0〜2であり、yは0又は1である)で示される基を示す]
構造単位(c):
【化5】

[式中、Rは水素原子又はメチル基を示し、Rは−O(CHで表される基(Rはフルオロアルキル基を示し、xは0〜2である)を示す]
【請求項2】
さらに、下記式(4)で表される構造単位(d)を1〜10質量%含有する、請求項1に記載のエチレン性不飽和基含有含フッ素共重合体。
構造単位(d):
【化6】

[式中、R及びR10は、同一でも異なっていてもよく、水素原子、アルキル基、ハロゲン化アルキル基又はアリール基を示す]
【請求項3】
さらに、下記式(5)で表される構造単位(e)を1〜15質量%含有する、請求項1又は2に記載のエチレン性不飽和基含有含フッ素共重合体。
構造単位(e):
【化7】

[式中、R19は乳化作用を有する基を示す]
【請求項4】
下記水酸基含有含フッ素共重合体と、1個のイソシアネート基と、少なくとも1個のエチレン性不飽和基とを含有する化合物とを反応させることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一に記載のエチレン性不飽和基含有含フッ素共重合体の製造方法であって、
(1)該水酸基含有含フッ素共重合体を有機溶剤に溶解して、5質量%以上の濃度の該水酸基含有含フッ素共重合体の溶液を得る工程、及び
(2)該水酸基含有含フッ素共重合体の溶液と、アクリル酸又はアクリル酸のハロゲン塩とを、塩基性化合物の存在下で混合して、エチレン性不飽和基含有含フッ素共重合体を合成する工程
を含む、エチレン性不飽和基含有含フッ素共重合体の製造方法。
[水酸基含有含フッ素共重合体]
下記式(1)で表される構造単位(a)、下記式(2’)で表される構造単位(b’)及び下記式(3)で表される構造単位(c)を含有する水酸基含有含フッ素共重合体であって、
該共重合体の質量中に占める、構造単位(a)、(b’)及び(c)の合計量が80質量%以上であり、かつ、
構造単位(a)、(b’)及び(c)を、これらの合計100モル%に対して、
(a) 40〜55モル%、
(b’) 30〜60モル%、及び
(c) 25モル%未満
の割合で含有する水酸基含有含フッ素共重合体。
構造単位(a):
【化8】

[式中、Rはフッ素原子、フルオロアルキル基又は−ORで表される基(Rはアルキル基又はフルオロアルキル基を示す)を示す]
構造単位(b’):
【化9】

[式中、Rは水素原子又はメチル基であり、Rは、−O(CHOH又は−OCO(CHOHであり、xは0〜2である。]
構造単位(c):
【化10】

[式中、Rは水素原子又はメチル基を示し、Rは−O(CHで表される基(Rはフルオロアルキル基を示し、xは0〜2である)を示す]
【請求項5】
前記有機溶剤が、メチルイソブチルケトン(MIBK)、メチルエチルケトン(MEK)、メチルアミルケトン、アセトン、酢酸ブチル及び酢酸エチルからなる群から選択される一以上の有機溶剤である、請求項4に記載のエチレン性不飽和基含有含フッ素共重合体の製造方法。


【公開番号】特開2007−99816(P2007−99816A)
【公開日】平成19年4月19日(2007.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−288346(P2005−288346)
【出願日】平成17年9月30日(2005.9.30)
【出願人】(000004178)JSR株式会社 (3,320)
【Fターム(参考)】