説明

フッ素樹脂成形方法及びフッ素樹脂成形品

【課題】 耐薬液・ガス透過性に優れ、線膨張係数が小さいフッ素樹脂成形品を、溶融成形で得ることを可能とする成形方法、および該成形方法で得られる耐薬液・ガス透過性に優れ、線膨張係数が小さいフッ素樹脂成形品を提供すること。
【解決手段】 融点の異なる少なくとも2種のフッ素樹脂からなる多層構造を有し、且つ最外層のフッ素樹脂より融点の高いフッ素樹脂からなる層を、内層に少なくとも1層有する多層構造のフッ素樹脂粒子からなるフッ素樹脂を、最外層のフッ素樹脂の融点以上、多層構造のフッ素樹脂粒子が複数種あるときは最外層を構成するフッ素樹脂の融点のうち最も低い融点以上で、最高融点のフッ素樹脂の融点未満の温度で成形するフッ素樹脂成形方法およびフッ素樹脂成形品。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐薬液・ガス透過性に優れ、線膨張係数が小さいフッ素樹脂成形品の成形方法、及びそれにより得られるフッ素樹脂成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
優れた耐熱性、耐薬品性などの特徴を有するフッ素樹脂は、配管やタンクなどのライニング、或いは半導体製造工程や化学プラントなどの薬液移送用配管、継ぎ手、薬液貯蔵容器として利用されている。
【0003】
フッ素樹脂の中で最も耐熱性、耐薬品性などに優れた特徴を有するテトラフルオロエチレン重合体(PTFE)は、380℃で少なくとも10Pa・sという非常に高い溶融粘度であり溶融流動性を有さないため、溶融押出成形、射出成形、ブロー成形、トランスファー成形、溶融圧縮成形などの溶融成形法により成形することができない。
【0004】
そのため、この非溶融加工性であるPTFEは、ペースト押出成形、或いは圧縮成形などの非溶融成形法により成形される。ペースト押出成形は、剪断にかけるとフィブリル化する微粉末PTFEと潤滑油との混合物(ペースト)を低温(75℃未満)で押出す方法である。圧縮成形は、結晶転移点(約19℃)以上の温度に保持された顆粒状のPTFE粉末を、鋳型に充填しラムで圧縮し加熱して成形する方法である。
【0005】
しかし、ペースト押出成形ではペースト押出後に潤滑油を除去しなければならないため、成形品に残存した潤滑油は炭化し、成形品の着色、耐薬品性、電気特性などの低下を招くという問題があった。さらに、潤滑油の突沸による成形品のクラック発生を防ぐため、徐々に昇温して潤滑油を除去しなければならないという問題もあった。
また、圧縮成形では成形品の形状が単純なものに限定され、複雑な形状のPTFE成形品が所望な場合には、圧縮成形により得られたPTFEブロックから機械加工しなければならないという問題があった。
【0006】
テトラフルオロエチレン/パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)共重合体(PFA)は、PTFEと同等の耐熱性、耐薬品性などに優れ、且つ溶融押出成形、射出成形、ブロー成形、トランスファー成形、溶融圧縮成形などの溶融成形が可能であり、PTFEより低コストで量産できるなどの利点を有している。
【0007】
しかしながら、耐薬液・ガス透過性においてはPTFEに比して劣るため、PFAにPTFEをブレンドし成形品の結晶化度を向上させることにより、耐薬液・ガス透過性を改善することが提案されている。しかし、成形用粉末として一般に使用されるPTFEは高分子量であるため、PFAに添加する量が多くなるにつれ粘度が急激に上昇し溶融成形が困難になるという問題があった。一方、粘度が上昇した組成物を用いて圧縮成形やペースト押出成形などの非溶融成形をPTFEと同様に行うことは可能であるが、形状が限定され生産性も著しく低下するため実用的ではない。
【0008】
特開2002−167488号、特開2003−327770号では、低分子量PTFEを用いることにより粘度の上昇を防いで溶融成形を可能にし、且つ耐薬液・ガス透過性を向上することを提案している。しかし、低分子量PTFEの添加は、添加量に限度があるという問題があった。
【0009】
さらに、融点以上の温度で焼成されたフッ素樹脂成形品は、線膨張係数が他の材料に比べて大きく、高温での使用時にジョイントで両端を固定されたパイプが撓る、継ぎ手のシールが緩み液で漏れてしまうなどの問題があった。線膨張係数は、成形品の結晶化度が高い(非結晶質部分が少ない)ほど小さくなるため、成形品の結晶化度は高いことが好ましい。成形品の結晶化度は、焼成後徐冷することにより向上させることもできるが、耐薬液・ガス透過性、及び線膨張係数の低下などの十分な効果を得ることはできない。
【0010】
【特許文献1】特開2002−167488号公報
【特許文献2】特開2003−327770号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、溶融成形が可能であると共に、耐薬液・ガス透過性に優れ線膨張係数が小さいという特徴をも有するフッ素樹脂成形品の開発を目指して、鋭意研究を進めた結果本発明に到達したものである。
本発明は、耐薬液・ガス透過性に優れ、線膨張係数が小さいフッ素樹脂成形品を、溶融成形で得ることを可能とする成形方法を提供する。
本発明は、該成形方法で得られる耐薬液・ガス透過性に優れ、線膨張係数が小さいフッ素樹脂成形品を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、融点の異なる少なくとも2種のフッ素樹脂からなる多層構造を有し、且つ最外層のフッ素樹脂より融点の高いフッ素樹脂からなる層を、内層に少なくとも1層有する多層構造を有するフッ素樹脂粒子からなるフッ素樹脂を、最外層のフッ素樹脂の融点以上、ただし多層構造のフッ素樹脂粒子が複数種あるときは最外層を構成するフッ素樹脂の融点のうち最も低い融点以上で、最高融点のフッ素樹脂の融点未満の温度で成形するフッ素樹脂成形方法を提供する。
【0013】
前記フッ素樹脂が、テトラフルオロエチレン重合体、テトラフルオロエチレン・パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)共重合体、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体、エチレン・テトラフルオロエチレン共重合体、エチレン・クロロトリフルオロエチレン共重合体、ポリクロロトリフルオロエチレン重合体、ポリビニリデンフルオライド、ビニルフルオライドから選ばれる樹脂である、フッ素樹脂成形方法は本発明の好ましい態様である。
【0014】
フッ素樹脂が、テトラフルオロエチレン重合体、及びテトラフルオロエチレン・パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)共重合体である、フッ素樹脂成形方法は本発明の好ましい態様である。
【0015】
多層構造を有するフッ素樹脂の最外層が、テトラフルオロエチレン・パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)共重合体などの熱溶融流動性のフッ素樹脂であり、内層の少なくとも1層が非熱溶融流動性のテトラフルオロエチレン重合体である、フッ素樹脂成形方法は本発明の好ましい態様である。
【0016】
テトラフルオロエチレン重合体の結晶融解熱量(ΔH)が45J/g以上である、フッ素樹脂成形方法は本発明の好ましい態様である。
【0017】
前期多層構造を有するフッ素樹脂が、少なくとも2種の多層構造を有するフッ素樹脂粒子を含有する混合物である、前記したフッ素樹脂成形方法は本発明の好ましい態様である。
【0018】
前期多層構造を有するフッ素樹脂が、少なくとも1種の多層構造を有するフッ素樹脂と、少なくとも1種の非多層構造のフッ素樹脂とを含有する混合物である、フッ素樹脂成形方法は本発明の好ましい態様である。
【0019】
本発明また、前記したフッ素樹脂成形方法により得られるフッ素樹脂成形品を提供する。
【0020】
100℃〜150℃における線膨張率が15×10-5/K以下である前記フッ素樹脂成形品は、本発明の好ましい態様である。
【0021】
比重が2.180以上である前記フッ素樹脂成形品は、本発明の好ましい態様である。
【発明の効果】
【0022】
本発明により、耐薬液・ガス透過性に優れ、線膨張係数が小さいフッ素樹脂成形品の成形方法、及び当該成形方法により得られるフッ素樹脂成形品が提供される。
【0023】
本発明のフッ素樹脂成形方法によれば、融点の異なる少なくとも2種のフッ素樹脂による多層型構造を有するフッ素樹脂を、最外層フッ素樹脂の融点以上、ただし多層構造のフッ素樹脂粒子が複数種あるときは最外層を構成するフッ素樹脂の融点のうち最も低い融点以上で、その内側にある最高融点フッ素樹脂の融点未満の温度で成形することにより、高融点フッ素樹脂の高い結晶過度が維持されるため、耐薬液・ガス透過性に優れ、線膨張率が小さいフッ素樹脂成形品が提供される。
また、本発明のフッ素樹脂成形方法は、溶融成形によってフッ素樹脂成形方法を得ることを可能とするものであるので、所望の複雑な形状のPTFE成形品の提供が可能となる。
【0024】
本発明のフッ素樹脂成形品は、耐薬液・ガス透過性に優れ、線膨張係数が小さいという優れた性能を有するフッ素樹脂成形品であるので、半導体用途、CPI用途、OA用途、摺動材用途、自動車用途(エンジンまわりの部品、及び電線、酸素センサー、燃料ホースなど)、及びプリント基板用途などに適用可能なフッ素樹脂成形品である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
本発明は、本発明は、融点の異なる少なくとも2種のフッ素樹脂からなる多層構造を有し、かつ最外層のフッ素樹脂より融点の高いフッ素樹脂からなる層を、内層に少なくとも1層有する多層構造を有するフッ素樹脂粒子からなるフッ素樹脂を、最外層のフッ素樹脂の融点以上、ただし多層構造のフッ素樹脂粒子が複数種あるときは最外層を構成するフッ素樹脂の融点のうち最も低い融点以上で、最高融点のフッ素樹脂の融点未満の温度で成形するフッ素樹脂成形方法を提供する。
本発明また、前記したフッ素樹脂成形方法により得られるフッ素樹脂成形品を提供する。
【0026】
本発明のフッ素樹脂としては、テトラフルオロエチレン重合体、テトラフルオロエチレン・パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)共重合体(PFA)、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、エチレン・テトラフルオロエチレン共重合体、エチレン・クロロトリフルオロエチレン共重合体、ポリクロロトリフルオロエチレン重合体、ポリビニリデンフルオライド、ビニルフルオライドから選ばれる融点の異なる少なくとも2種であることが好ましい。
【0027】
これらの中でも、高融点フッ素樹脂がテトラフルオロエチレン重合体、低融点フッ素樹脂がPFA及び/又はFEPであることが好ましい。テトラフルオロエチレン重合体の結晶融解熱量(ΔH)は45J/g以上であることが好ましい。結晶融解熱量(ΔH)が45J/g未満である場合には、結晶化度が低くなり耐薬液・ガス透過性及び線膨張係数の改善効果が小さくなる。
【0028】
テトラフルオロエチレン重合体のMFRは、フッ素樹脂成形品表面がスムースさの観点から、1g/10min未満であることが好ましい。MFRが1g/10minより大きいテトラフルオロエチレン重合体、即ち低分子量テトラフルオロエチレン重合体、を用いると、フッ素樹脂成形品表面がスムースでなくなる傾向がある。
【0029】
テトラフルオロエチレン重合体は、四フッ化エチレンの重合体(PTFE)、またはテトラフルオロエチレンと2重量%未満の共重合可能な含フッ素単量体との共重合体(以下、変性PTFE)をいう。変性PTFE中の共重合可能な含フッ素単量体の含有量は、2重量%未満であり、好ましくは1.5重量%以下、より好ましくは1重量%以下である。
【0030】
前記テトラフルオロエチレンと共重合可能な含フッ素単量体の例としては、炭素数3以上、好ましくは炭素数3−6個のパーフルオロアルケン、炭素数1−6個のパーフルオロ(アルキルビニルエーテル、クロロトリフルオロエチレンなどが挙げられる。含フッ素単量体の具体例としては、ヘキサフルオロプロピレン(HFP)、パーフルオロ(メチルビニルエーテル)(PMVE)、パーフルオロ(エチルビニルエーテル)(PEVE)、パーフルオロ(プロピルビニルエーテル)(PPVE)、およびパーフルオロ(ブチルビニルエーテル)(PPVE)、クロロトリフルオロエチレンを挙げることができるが好適である。中でもヘキサフルオロプロピレン(HFP)、パーフルオロ(エチルビニルエーテル)(PEVE)およびパーフルオロ(プロピルビニルエーテル)(PPVE)が好ましく、特には、ヘキサフルオロプロピレン(HFP)が好ましい。
【0031】
本発明において多層構造を有するフッ素樹脂とは、中心部を形成する樹脂層の外側に、樹脂層が形成されている多層構造を有するフッ素樹脂粒子からなるフッ素樹脂をいう。多層構造を有するフッ素樹脂粒子は2を超える樹脂層から構成されていてもよい。各層を構成する樹脂は、それぞれ融点の異なるフッ素樹脂であってもよい。本発明の多層構造を有するフッ素樹脂粒子は、融点の異なる少なくとも2種のフッ素樹脂の層を有する多層構造のフッ素樹脂粒子であって、最外層のフッ素樹脂よりも融点が高いフッ素樹脂の層を、内側に少なくとも1層有するものである。すなわち、本発明の多層構造のフッ素樹脂粒子は、コア−シェル型構造のフッ素樹脂粒子構造であることが好ましいが、いずれの層がコアでいずれの層がシェルであるかを特定する必要はなく、多層構造を有する粒子であれは十分である。
【0032】
このような多層構造を有するフッ素樹脂として、乳化重合により中心部が重合された後、続いて外側層が重合されて得られた水性分散液、または、あらかじめ乳化重合により得られた水性分散液を中心部を形成するコア剤として重合容器に仕込み、その周りに外側層が重合されて得られた水性分散液を用いることが好ましい。フッ素樹脂水性分散液は、平均粒径が0.01〜0.40μm、好ましくは0.05〜0.3μm程度のフッ素樹脂粒子を、水中に25〜70重量%含むものが好ましい。フッ素樹脂水性分散液及び多層構造を有するフッ素樹脂水性分散液を得る方法は、従来公知の方法を適宜採用することができる。例えば、フッ素樹脂水性分散液については、特公昭37−4643号公報、特公昭46−14466号公報、特公昭56−26242号公報などに記載された方法を採用してもよく、多層構造を有するフッ素樹脂水性分散液については、特開2003−231722号公報、特開2003−213196号公報、特表2004−507571号公報などに記載された方法を採用してもよい。
【0033】
本発明の融点の異なる少なくとも2種のフッ素樹脂による多層構造を有するフッ素樹脂は、最外層のフッ素樹脂が90〜5重量%、内層の高融点フッ素樹脂が10〜95重量%からなることが好ましい。最外層と内層の割合は、所望する耐薬液・ガス透過性、線膨張係数、最大強度、伸びなどを考慮して決定される。フッ素樹脂成形品の結晶化度を保つ観点から、高融点フッ素樹脂が10重量%以上であることが好ましい。また、得られるフッ素樹脂成形品の機械的強度(最大強度、伸びなど)の観点から、低融点フッ素樹脂が5重量%以上であることが好ましい。
【0034】
本発明の多層構造を有するフッ素樹脂において、最外層がテトラフルオロエチレン・パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)共重合体などの熱溶融流動性のフッ素樹脂であり、内層の少なくとも1層が非熱溶融流動性のテトラフルオロエチレン重合体であるフッ素樹脂は、多層構造を有するフッ素樹脂の好ましい態様である。
【0035】
本発明の多層構造を有するフッ素樹脂は、前記したような多層構造を有するフッ素樹脂粒子であって、少なくとも2種の多層構造のフッ素樹脂粒子を含有する混合物からなるフッ素樹脂であってもよい。この場合フッ素樹脂の成形は、最外層を構成するフッ素樹脂の融点のうち最も低い融点以上で、最高融点のフッ素樹脂の融点未満の温度で行うことが好ましい。
【0036】
また本発明の多層構造を有するフッ素樹脂は、少なくとも1種の前記したような多層構造を有するフッ素樹脂と、少なくとも1種の非多層構造のフッ素樹脂とを含有する混合物であってもよい、この場合フッ素樹脂の成形は、多層構造のフッ素樹脂の最外層のフッ素樹脂の融点以上で、最高融点のフッ素樹脂の融点未満の温度で行うことが好ましい。
【0037】
この場合、多層構造を有するフッ素樹脂に対して、非多層構造のフッ素樹脂の量割合は、成形品が所定の特性を得られるよう適宜調整することが好ましい。
【0038】
該混合物を得る方法には特に制限がないが、好ましい方法としては、多層構造を有する多層構造を有するフッ素樹脂を含む水性分散液と、非多層構造のフッ素樹脂を含む水性分散液を混合する方法を挙げることができる。該方法により本発明の混合物を得る場合、混合物の組成が所定の範囲となるようそれぞれのフッ素樹脂水性分散液の組成と、混合割合を適宜調整することが好ましい。
【0039】
上記したような本発明のフッ素樹脂の水性分散液を得て、これを攪拌・凝集して凝集物を得た後乾燥し、その平均粒径が300〜600μm程度、好ましくは400μm程度の粉末を得る方法は好ましい態様である。
【0040】
また、多層構造を有するフッ素樹脂の粉末と、非多層構造のフッ素樹脂の粉末とを、従来公知の混合器、ドライ・ブレンダー、ヘンシェルミキサー、またはは高速で回転するブレードもしくはカッターナイフを有する高速回転混合機等を用いて均一混合して該混合物を得ることもできる。
【0041】
本発明のフッ素樹脂の溶融流動性(F)は、0.1以上が好ましく、より好ましくは1.0以上であることが望ましい。溶融流動性(F)が小さすぎる場合、剪断速度(剪断応力)の増加によるフッ素樹脂の粘度低下が起こり難くなって、成形性が悪くなる傾向がある。溶融流動性(F)は、下記式(1)により求めることができる。
【0042】
【化1】

(γ:剪断速度(sec−1)、MV1:剪断速度γ1における粘度、MV2:剪断速度γ2における粘度) 各剪断速度における粘度は下記式(2)により求めた。
MV(poise)= ΔP/γ (2)
(ΔP:キャピラリーフローテスター(キャピログラフ1B、東洋精機製)を用いて、一定の成形温度に昇温したシリンダー底部のオリフィス(φ2mm×20mmL)から、一定の剪断速度(γ)で試料粉末を押出した時の押出圧力(MPa))
【0043】
上記により得られたフッ素樹脂は、必要に応じて任意の添加剤を含んでいてもよい。このような添加剤の例として、酸化防止剤、光安定剤、蛍光増白剤、着色剤、顔料、染料、フィラー、例えばカーボンブラック、グラファイト、アルミナ、マイカ、炭化珪素、窒化硼素、酸化チタン、酸化ビスマス、ブロンズ、金、銀、銅、ニッケル、などの粉末または繊維粉末などを例示することができる。また最近量産ができ、市販されるようになったフラーレン(C60)やカーボンナノチューブなどのナノ材料も添加剤として配合することができる。また、本発明の目的を損なわない範囲であれば、フッ素樹脂以外の他の重合体微粒子、その他の成分を含有させて使用することができる。
【0044】
本発明におけるフッ素樹脂の好ましい成形方法は、融点の異なる少なくとも2種のフッ素樹脂による多層構造を有するフッ素樹脂粒子からなるフッ素樹脂、または多層構造を有するフッ素樹脂粒子と非多層構造のフッ素樹脂を混合して得られる混合物からなるフッ素樹脂を、最低融点フッ素樹脂の融点以上、最高融点フッ素樹脂の融点未満の温度で、溶融成形、例えば溶融押出成形、射出成形、ブロー成形、トランスファー成形、溶融圧縮成形などで成形するフッ素樹脂成形方法である。
【0045】
最高融点フッ素樹脂がテトラフルオロエチレン重合体、最低融点フッ素樹脂がPFAである場合には、上記により得られた混合物の粉末を用いてビーズ或いはペレットを最低融点フッ素樹脂の融点以上、最高融点フッ素樹脂の融点未満の温度で成形し、それを用いて最低融点フッ素樹脂の融点以上、最高融点フッ素樹脂の融点未満の温度で連続溶融押出成形することが可能である。該ビーズ或いはペレットはそれらに含まれる不安定末端基を安定化するためフッ素化することが可能である。
【0046】
また、前記多層構造を有するフッ素樹脂粒子または前期混合物からなるフッ素樹脂と、公知のペースト押出助剤とを混合し圧縮して予備成形体を得た後、該予備成形体をペースト押出機に充填し、最低融点フッ素樹脂の融点以上、最高融点フッ素樹脂の融点未満の温度で非溶融成形することも可能である。必要が無ければ公知のペースト押出助剤は用いなくても良い。
【0047】
本発明のフッ素樹脂成形方法において、最低融点フッ素樹脂の融点未満の温度で焼成した場合には、成形圧力が上昇すると共に、得られるフッ素樹脂成形品の強度や伸びが劣るため好ましくない。また、最高融点フッ素樹脂の融点以上の温度で焼成した場合には、得られるフッ素樹脂成形品の結晶化度が低下し、耐薬液・ガス透過性、及び線膨張係数を小さくすることができなくなるため好ましくない。
【0048】
本発明のフッ素樹脂成形方法により、溶融成形が可能となると共に高融点フッ素樹脂の高い結晶過度が維持されるため、耐薬液・ガス透過性に優れ、線膨張率が小さいフッ素樹脂成形品を得ることができる。
【0049】
本発明のフッ素樹脂成形品は、100℃〜150℃における線膨張率が15×10-5/K以下であることが、高温での寸法安定性に優れるため好ましい。線膨張率が大きすぎると高温での使用条件において、得られるフッ素樹脂成形品、例えばチューブと継ぎ手とのシールが悪くなり薬液が漏れたり、フッ素樹脂成形品が変形したりするおそれがある。
【0050】
本発明のフッ素樹脂成形品の比重は、2.160以上、より好ましくは2.180以上であることが好ましい。フッ素樹成形品の比重が小さ過ぎると、成形品の結晶化度が低くなり、耐薬液・ガス透過性に劣る傾向がある。
【0051】
本発明のフッ素樹脂成形品は、特に限定されることはなく、例えば、チューブ類、シート類、棒類、繊維類、パッキング類、ケーブル類、ライニング類、及び本発明の成形品を用いた積層体など、耐薬液・ガス透過性、線膨張係数が小さいことなどを必要とするフッ素樹脂成形品を対象とする。
【0052】
本発明のフッ素樹脂成形品は、半導体用途、CPI用途、OA用途、摺動材用途、自動車用途(エンジンまわりの部品、及び電線、酸素センサー、燃料ホースなど)、及びプリント基板用途などに好適に用いることができる。
【実施例】
【0053】
以下に本発明を、実施例および比較例を挙げてさらに具体的に説明するが、この説明が本発明を限定するものではない。
本発明において各物性の測定は、下記の方法によって行った。
【0054】
(1)融点(融解ピーク温度)
示差走査熱量計(Pyris1型DSC、パーキンエルマー社製)を用いた。試料粉末10mgを秤量して専用のアルミパンに入れ、専用のクリンパーによってクリンプした後、DSC本体に収納し、150℃から360℃まで10℃/分で昇温をする。この時得られる融解曲線から融解ピーク温度(Tm)を求めた。
【0055】
(2)メルトフローレート(MFR)
ASTM D−1238−95に準拠した耐食性のシリンダー、ダイ、ピストンを備えたメルトインデクサー(東洋精機製)を用いて、5gの試料粉末を372±1℃に保持されたシリンダーに充填して5分間保持した後、5kgの荷重(ピストン及び重り)下でダイオリフィスを通して押出し、この時の押出速度(g/10分)をMFRとして求めた。
【0056】
(3)結晶融解熱量
示差走査熱量計(Pyris1型DSC、パーキンエルマー社製)を用いた。試料10mgを秤量して専用のアルミパンに入れ、専用のクリンパーによってクリンプした後、DSC本体に収納し、150℃から360℃まで10℃/分で昇温をする。この時得られる融解曲線から、融解ピーク前後で曲線がベースラインから離れる点とベースラインに戻る点とを直線で結んで定められるピーク面積から結晶融解熱量を求めた。
【0057】
(4)比重
圧縮成形機(ホットプレス WFA−37、神藤工業所製)を用いて、試料粉末を表2、3に示す成形温度にて溶融圧縮成形(4MPa)して厚さ約1.0mmのシートを得た。得られたシートから、縦20mm、横20mmの試験片を切り出し、JIS K7112のA法(水中置換法)によりその比重を求めた。
【0058】
(5)耐薬液・ガス透過性
圧縮成形機(ホットプレス WFA−37、神藤工業所製)を用いて、試料粉末を表2、3に示す成形温度にて溶融圧縮成形(4MPa)して厚さ約1.0mmのシートを得た。得られたシートについて、ガス透過度測定装置(柴田化学機械(株)製)を用いて、温度23℃で窒素ガス透過度を測定した。
【0059】
(6)線膨張係数
圧縮成形機(ホットプレス WFA−37、神藤工業所製)を用いて、試料粉末を表2、3に示す成形温度にて溶融圧縮成形(4MPa)してビレットを得た。得られたビレットから、旋盤により径4mm×長さ20mmの測定サンプルを切り出した。TMA TM−7000(真空理工製)を用いて、−10℃から270℃まで5℃/minで昇温して、100℃から150℃の間の寸法変化を測定し、ASTM D696により線膨張係数を求めた。
【0060】
(7)押出品表面、引張り強度、及び伸び
キャピラリーフローテスター(キャピログラフ1B、東洋精機製)を用いて、表2、3に示す成形温度に昇温したシリンダー底部のオリフィス(φ2mm×20mmL)から剪断速度15.2sec−1で試料粉末を押出し、ひも状押出品(ビード)を得た。得られたひも状押出物(ビード)の押出品表面を、触針式表面粗さ形状測定器(TOKYO SEIMITSU性、SURFCOM 575A−3D)を用いて、任意の5箇所の表面粗さ(R(a))を測定し、5箇所の表面粗さ(R(a))の平均値が100μm以下の場合を、表面がスムースとした。
また、得られたひも状押出品(ビード)の破断までの最大強度、及び破断までの伸びをテンシロンRTC−1310A(オリエンテック社製)を用いて、チャック間距離22.2mm、引張り速度50mm/minで測定した。
【0061】
(8)溶融流動性
下記式(1)により求められるFの値を、溶融流動性とした。
【化2】

γ : 剪断速度(sec−1); γ1=3、γ2=40
MV1: 剪断速度 3sec−1における粘度
MV2: 剪断速度40sec−1における粘度
【0062】
各剪断速度における粘度は下記式(2)により求めた。
MV(poise)= ΔP/γ (2)
ΔP:キャピラリーフローテスター(キャピログラフ1B、東洋精機製)を用いて、表1に示す成形温度に昇温したシリンダー底部のオリフィス(φ2mm×20mmL)から、一定の剪断速度(γ)で試料粉末を押出した時の押出圧力(MPa)。
【0063】
(原料)
本発明の実施例、及び比較例で用いた原料は下記の通りである。
(1)変性PTFE水性分散液
約30重量%のヘキサフルオロプロピレン変性PTFE水性分散液(平均粒径=0.24μm、融点343℃、MFR=0g/10min、結晶融解熱量(ΔH)70J/g)
(2)PFA水性分散液
約45重量%のテトラフルオロエチレン・パーフルオロ(エチルビニルエーテル)共重合体水性分散液
(平均粒径0.24μm、融点285℃、MFR=30g/10min)
【0064】
(3)多層構造を有する多層構造フッ素樹脂の調製
前記変性PTFE水性分散液をコア剤として重合容器に仕込み、そのコアの周りにテトラフルオロエチレン・パーフルオロ(エチルビニルエーテル)共重合体(PFA)を重合されて得られた多層構造フッ素樹脂水性分散液を得た。変性PTFEとPFAが、それぞれ表1に記載された含有量割合となるようにして、多層構造フッ素樹脂の水性分散液である試料1、試料2及び試料3を調整した。
【0065】
【表1】

【0066】
(実施例1〜3、比較例1、2)
試料1〜3を用いて、最外層のフッ素樹脂の融点以上で、最高融点のフッ素樹脂の融点未満の温度である320℃でフッ素樹脂の成形を行った。得られた成形品の比重、窒素ガス透過度、線膨張係数、押出表面、最大強度、及び伸びを測定した。結果を表2に示す。比較のため、試料2及び試料3について、最高融点のフッ素樹脂の融点以上である380℃で成形を行った結果を、比較例1および2として、表2に併記した。
【0067】
【表2】

【0068】
(実施例4)
試料1と等重量割合となるように上記PFA水性分散液を混合し、攪拌・凝集してフッ素樹脂を凝集物として得た後乾燥し、最外層のフッ素樹脂の融点以上で、最高融点のフッ素樹脂の融点未満の温度である320℃でフッ素樹脂の成形を行った。得られた成形品の比重、窒素ガス透過度、線膨張係数、押出表面、最大強度、及び伸びを測定した。結果を表3に示す。
【0069】
(実施例5)
実施例4において、試料1を試料2に代え、PFA水性分散液を上記変性PTFE水性分散液に代えるほかは同様にして、フッ素樹脂の成形を行った。結果を表3に示す。
【0070】
(比較例3)
実施例4において、成形温度を380℃にするほかは同様にして、フッ素樹脂の成形を行った。結果を表3に示す。
【0071】
(比較例4)
実施例5において、成形温度を380℃にするほかは同様にして、フッ素樹脂の成形を行った。結果を表3に示す。
【0072】
【表3】

【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明により、耐薬液・ガス透過性に優れ、線膨張係数が小さいフッ素樹脂成形品の成形方法、及び当該成形方法により得られるフッ素樹脂成形品が提供される。
本発明のフッ素樹脂成形品の成形方法は、溶融成形が可能であると共に、耐薬液・ガス透過性に優れ、線膨張率が小さいフッ素樹脂成形品を得ることができるフッ素樹脂成形方法である。
本発明のフッ素樹脂成形品は、耐薬液・ガス透過性に優れ、線膨張係数が小さいという優れた性能を有するフッ素樹脂成形品であって、半導体用途、CPI用途、OA用途、摺動材用途、自動車用途(エンジンまわりの部品、及び電線、酸素センサー、燃料ホースなど)、及びプリント基板用途などに適用可能なフッ素樹脂成形品である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
融点の異なる少なくとも2種のフッ素樹脂からなる多層構造を有し、且つ最外層のフッ素樹脂より融点の高いフッ素樹脂からなる層を、内層に少なくとも1層有する多層構造のフッ素樹脂粒子からなるフッ素樹脂を、最外層のフッ素樹脂の融点以上、ただし多層構造のフッ素樹脂粒子が複数種あるときは最外層を構成するフッ素樹脂の融点のうち最も低い融点以上で、最高融点のフッ素樹脂の融点未満の温度で成形するフッ素樹脂成形方法。
【請求項2】
フッ素樹脂が、テトラフルオロエチレン重合体、テトラフルオロエチレン・パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)共重合体、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体、エチレン・テトラフルオロエチレン共重合体、エチレン・クロロトリフルオロエチレン共重合体、ポリクロロトリフルオロエチレン重合体、ポリビニリデンフルオライド、ポリビニルフルオライドから選ばれる樹脂である、請求項1に記載のフッ素樹脂成形方法。
【請求項3】
多層構造を有するフッ素樹脂粒子の最外層がテトラフルオロエチレン・パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)共重合体であり、内層の少なくとも1層がテトラフルオロエチレン重合体である、請求項1または2に記載のフッ素樹脂成形方法。
【請求項4】
前記テトラフルオロエチレン重合体の結晶融解熱量(ΔH)が、45J/g以上である、請求項1〜3のいずれかに記載のフッ素樹脂成形方法。
【請求項5】
多層構造を有するフッ素樹脂が、少なくとも2種の多層構造を有するフッ素樹脂粒子を含有する混合物である、請求項1〜4のいずれかに記載のフッ素樹脂成形方法。
【請求項6】
多層構造を有するフッ素樹脂が、少なくとも1種の多層構造を有するフッ素樹脂と、少なくとも1種の非多層構造のフッ素樹脂とを含有する混合物である、請求項1〜4のいずれかに記載のフッ素樹脂成形方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載のフッ素樹脂成形方法により得られたフッ素樹脂成形品。
【請求項8】
フッ素樹脂成形品の100℃〜150℃における線膨張率が15×10−5/K以下である請求項7に記載のフッ素樹脂成形品。
【請求項9】
フッ素樹脂成形品の比重が2.180以上である請求項7または8に記載のフッ素樹脂成形品。


【公開番号】特開2007−320267(P2007−320267A)
【公開日】平成19年12月13日(2007.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−155380(P2006−155380)
【出願日】平成18年6月2日(2006.6.2)
【出願人】(000174851)三井・デュポンフロロケミカル株式会社 (59)
【Fターム(参考)】