説明

フッ素樹脂組成物の製造方法および該製造方法から得られるフッ素樹脂組成物

【課題】本発明の目的は、フッ素樹脂および架橋ゴムを含み、得られる成形品の柔軟性と燃料バリア性に優れるフッ素樹脂組成物の製造方法を提供することである。また、該製造方法により得られたフッ素樹脂組成物および該組成物を用いた柔軟性と燃料バリア性に優れる成形品を提供することである。
【解決手段】フッ素樹脂の溶融条件下、少なくとも1種のフッ素ゴムを動的に架橋させ、その少なくとも一部が架橋された架橋フッ素ゴムおよび該フッ素樹脂を含む組成物(a)を得る工程A、該組成物(a)とフッ素ポリマーを溶融混練する工程B、を含むフッ素樹脂組成物の製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フッ素樹脂および架橋フッ素ゴムを含むフッ素樹脂組成物の製造方法に関する。また、該製造方法により得られたフッ素樹脂組成物および該組成物を用いた成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
昨今の環境意識の高まりから、燃料揮発を防止するための法整備が進み、特に自動車業界では米国を中心に燃料揮発抑制の傾向が著しく、燃料バリア性に優れた材料へのニーズが大きくなりつつある。燃料バリア性に優れた材料として、ポリフェニレンスルフィド系樹脂、エチレンビニルアルコール系樹脂、液晶ポリエステル系樹脂等の熱可塑性樹脂が使用されているが、それに対して柔軟なゴム系材料、例えば架橋ゴムは一般的に燃料バリア性が劣っており、燃料ホース等の自動車部品に使用した場合には燃料の揮発・蒸散が大きく、この改善が求められている。架橋ゴムの中でも、架橋フッ素ゴムの燃料バリア性は良好なものではあるが、上記に掲げた熱可塑性樹脂と比較すると著しく燃料バリア性に劣っており、柔軟でかつ燃料バリア性に優れた材料開発が急務となっている。
【0003】
上記の状況下、柔軟で燃料バリア性を有し、かつ溶融成形性やリサイクル性を有する樹脂として、『ダイネオンTHV』が開発されている(例えば、非特許文献1、特許文献1および2参照)。しかしながら、これらの文献に記載された樹脂の特性として、燃料バリア性を高めようとすると硬度や弾性率が大きくなり、また硬度や弾性率を低下させようとすると燃料バリア性が著しく悪化するという問題点があり、柔軟性と燃料バリア性との両立が不充分である。
【0004】
【非特許文献1】Modern Fluoropolymers: high performance polymers for diverse applications, John Wiley & Sons, Chichster,(1997) Chapter 13
【特許文献1】特開2000−274562号公報
【特許文献2】特開2002−276862号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
燃料バリア性に優れた熱可塑性樹脂に柔軟性を付与するために架橋ゴム成分を付与し、柔軟性と燃料バリア性との両立を図ろうとした場合、ゴム成分を増大させると組成物の流動性が著しく低下し成形加工性が悪化するため付与できる架橋ゴム成分の量に限界があり、柔軟性/燃料バリア性および成形加工性の両立が困難であった。
【0006】
本発明の目的は、フッ素樹脂および架橋ゴムを含み、得られる成形品の柔軟性と燃料バリア性に優れ、かつ、成形加工性に優れるフッ素樹脂組成物の製造方法を提供することである。また、該製造方法により得られたフッ素樹脂組成物および該組成物を用いた柔軟性と燃料バリア性に優れる成形品を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
すなわち、本発明は、フッ素樹脂の溶融条件下、少なくとも1種のフッ素ゴムを動的に架橋させ、その少なくとも一部が架橋された架橋フッ素ゴムおよび該フッ素樹脂を含む組成物(a)を得る工程A、
該組成物(a)とフッ素ポリマーを溶融混練する工程B、
を含むフッ素樹脂組成物の製造方法に関する。
【0008】
工程Bにおいて、フッ素ポリマーがフッ素ゴムであり、組成物(a)の存在下、フッ素ゴムを動的に架橋させ、その少なくとも一部が架橋された架橋フッ素ゴムとすることが好ましい。
【0009】
フッ素ポリマーが、フッ素樹脂であることが好ましい。
【0010】
また、本発明は、前記製造方法により得られたフッ素樹脂組成物に関する。
【0011】
また、本発明は、前記フッ素樹脂組成物を用いた成形品、前記フッ素樹脂組成物からなる層を含む積層体、前記フッ素樹脂組成物からなる層および他の熱可塑性重合体からなる層を有する積層体、前記フッ素樹脂組成物からなる層および架橋ゴムからなる層を有する積層体に関する。
【0012】
さらに、本発明は、前記積層体からなる工業用チューブ、工業用ホース、燃料チューブおよび燃料ホースに関する。
【発明の効果】
【0013】
本発明は、フッ素樹脂および架橋フッ素ゴムを含むフッ素樹脂組成物を少なくとも二段階の溶融混練を行って作製することにより、架橋フッ素ゴムが微分散し、優れた耐熱性・耐薬品性・耐油性を兼ね備え、柔軟であり、燃料バリア性が高く、かつ溶融成形可能なフッ素樹脂組成物を提供することができるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明は、フッ素樹脂の溶融条件下、少なくとも1種のフッ素ゴムを動的に架橋させ、その少なくとも一部が架橋された架橋フッ素ゴムを含む組成物(a)を得る工程A、
該組成物(a)とフッ素ポリマーを溶融混練する工程B、
を含むフッ素樹脂組成物の製造方法に関する。
【0015】
工程Aで用いられるフッ素樹脂としては、特に限定されるものではないが、少なくとも1種の含フッ素エチレン性重合体を含むフッ素樹脂であることが好ましい。含フッ素エチレン性重合体は少なくとも1種の含フッ素エチレン性単量体由来の構造単位を有することが好ましい。上記含フッ素エチレン性単量体としては、例えば、テトラフルオロエチレン(以下、TFEとする)、一般式(1):
CF2=CF−Rf1 (1)
(式中、Rf1は、−CF3または−ORf2であり、Rf2は、炭素数1〜5のパーフルオロアルキル基である)
で表されるパーフルオロエチレン性不飽和化合物などのパーフルオロオレフィン;クロロトリフルオロエチレン、トリフルオロエチレン、ヘキサフルオロイソブテン、ビニリデンフルオライド(以下、VdFとする)、フッ化ビニル、一般式(2):
CH2=CX1(CF2n2 (2)
(式中、X1は、水素原子またはフッ素原子であり、X2は、水素原子、フッ素原子または塩素原子であり、nは、1〜10の整数である)
などのフルオロオレフィンなどをあげることができる。
【0016】
そして、含フッ素エチレン性重合体は上記含フッ素エチレン性単量体と共重合可能な単量体由来の構造単位を有してもよく、このような単量体としては、上記フルオロオレフィン、パーフルオロオレフィン以外の非フッ素エチレン性単量体をあげることができる。非フッ素エチレン性単量体としては、例えば、エチレン、プロピレン、またはアルキルビニルエーテル類などをあげることができる。ここで、アルキルビニルエーテルは、炭素数1〜5のアルキル基を有するアルキルビニルエーテルをいう。
【0017】
これらの中でも、得られるフッ素樹脂組成物の耐熱性・耐薬品性・耐油性が優れ、かつ成形加工性が容易になる点から、含フッ素エチレン性重合体は、
(1)TFEとエチレンからなるエチレン−TFE共重合体(ETFE)
(2)TFEと一般式(1):
CF2=CF−Rf1 (1)
(式中、Rf1は、−CF3または−ORf2であり、Rf2は、炭素数1〜5のパーフルオロアルキル基である)
で表されるパーフルオロエチレン性不飽和化合物からなるTFE−パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)共重合体(PFA)またはTFE−ヘキサフルオロプロピレン(以下、HFPとする)共重合体(FEP)
(3)TFE、エチレンおよび一般式(1):
CF2=CF−Rf1 (1)
(式中、Rf1は、−CF3または−ORf2であり、Rf2は、炭素数1〜5のパーフルオロアルキル基である)
で表されるパーフルオロエチレン性不飽和化合物からなるエチレン−TFE−HFP共重合体(Et−TFE−HFP共重合体)、エチレン−TFE−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体
(4)ポリフッ化ビニリデン(PVDF)
のいずれかであることが好ましく、(1)、(2)で表される含フッ素エチレン性重合体であることが好ましい。
【0018】
次に(1)、(2)の好ましい含フッ素エチレン性重合体について説明する。
【0019】
(1)ETFE
ETFEの場合、上述の作用効果に加えて、力学物性や燃料バリア性が発現する点で好ましい。TFE単位とエチレン単位との含有モル比は20:80〜90:10が好ましく、62:38〜90:10がより好ましく、63:37〜80:20が特に好ましい。また、第3成分を含有していてもよく、第3成分としてはTFEおよびエチレンと共重合可能なものであればその種類は限定されない。第3成分としては、通常、下記式
CH2=CX3f3、CF2=CFRf3、CF2=CFORf3、CH2=C(Rf32
(式中、X3は水素原子またはフッ素原子、Rf3はエーテル結合性酸素原子を含んでいてもよいフルオロアルキル基を表す)
で示されるモノマーが用いられ、これらの中でも、CH2=CX3f3で示される含フッ素ビニルモノマーがより好ましく、Rf3の炭素数が1〜8のモノマーが特に好ましい。
【0020】
前記式で示される含フッ素ビニルモノマーの具体例としては、1,1−ジヒドロパーフルオロプロペン−1、1,1−ジヒドロパーフルオロブテン−1、1,1,5−トリヒドロパーフルオロペンテン−1、1,1,7−トリヒドロパーフルオロへプテン−1、1,1,2−トリヒドロパーフルオロヘキセン−1、1,1,2−トリヒドロパーフルオロオクテン−1、2,2,3,3,4,4,5,5−オクタフルオロペンチルビニルエーテル、パーフルオロ(メチルビニルエーテル)、パーフルオロ(プロピルビニルエーテル)、ヘキサフルオロプロペン、パーフルオロブテン−1、3,3,3−トリフルオロ−2−(トリフルオロメチル)プロペン−1、2,3,3,4,4,5,5−ヘプタフルオロ−1−ペンテン(CH2=CFCF2CF2CF2H)があげられる。
【0021】
第3成分の含有量は、含フッ素エチレン性重合体に対して0.1〜10モル%が好ましく、0.1〜5モル%がより好ましく、0.2〜4モル%がさらに好ましい。
【0022】
(2)PFAまたはFEP
PFAまたはFEPの場合、上述の作用効果においてとりわけ耐熱性が優れたものとなり、また上述の作用効果に加えて優れた燃料バリア性が発現する点で好ましい。TFE単位90〜99モル%と一般式(1)で表されるパーフルオロエチレン性不飽和化合物単位1〜10モル%からなる含フッ素エチレン性重合体であることがより好ましい。また、TFEおよび一般式(1)で表されるパーフルオロエチレン性不飽和化合物からなる含フッ素エチレン性重合体は、第3成分を含有していてもよく、第3成分としてはTFEおよび式(1)で表されるパーフルオロエチレン性不飽和化合物と共重合可能なものであればその種類は限定されない。
【0023】
また、含フッ素エチレン性重合体の融点は、150〜310℃であることが好ましく、150〜290℃であることがより好ましく、170〜250℃であることがさらに好ましい。含フッ素エチレン性重合体の融点が、150℃未満であると、得られるフッ素樹脂組成物の耐熱性が低下する傾向があり、310℃を超えると、フッ素樹脂の溶融条件下、フッ素ゴムを動的に架橋する場合、含フッ素エチレン性重合体の融点以上に溶融温度を設定する必要があるが、その際にフッ素ゴムが熱劣化する傾向がある。
【0024】
工程Aで用いるフッ素ゴムとしては、たとえば、パーフルオロフッ素ゴム、非パーフルオロフッ素ゴム、含フッ素熱可塑性エラストマーなどがあげられる。
【0025】
パーフルオロフッ素ゴムとしては、TFE/パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)(以下、PAVEとする)系共重合体、TFE/HFP/PAVE系共重合体などがあげられる。
【0026】
非パーフルオロフッ素ゴムとしては、たとえば、VdF系重合体、TFE/プロピレン系共重合体などがあげられ、これらをそれぞれ単独で、または本発明の効果を損なわない範囲で任意に組合わせて用いることができる。
【0027】
また、前記パーフルオロフッ素ゴムや非パーフルオロフッ素ゴムとして例示したものは主モノマーの構成であり、架橋用モノマーや変性モノマー等を共重合したものも好適に用いることができる。架橋用モノマーや変性モノマーとしては、ヨウ素原子、臭素原子、二重結合を含むものなどの公知の架橋用モノマー、移動剤、公知のエチレン性不飽和化合物などの変性モノマーなどを使用することができる。
【0028】
前記VdF系重合体としては、具体的には、VdF/HFP系共重合体、VdF/TFE/HFP系共重合体、VdF/TFE/プロピレン系共重合体、VdF/エチレン/HFP系共重合体、VdF/TFE/PAVE系共重合体、VdF/PAVE系共重合体、VdF/クロロトリフルオロエチレン(以下、CTFEとする)系共重合体などをあげることができる。さらに具体的には、VdF25〜85モル%と、VdFと共重合可能な少なくとも1種の他の単量体75〜15モル%とからなる含フッ素共重合体であることが好ましく、より好ましくは、VdF50〜80モル%と、VdFと共重合可能な少なくとも1種の他の単量体50〜20モル%とからなる含フッ素共重合体である。
【0029】
ここで、VdFと共重合可能な少なくとも1種の他の単量体としては、たとえば、TFE、CTFE、トリフルオロエチレン、HFP、トリフルオロプロピレン、テトラフルオロプロピレン、ペンタフルオロプロピレン、トリフルオロブテン、テトラフルオロイソブテン、PAVE、フッ化ビニルなどの含フッ素単量体、エチレン、プロピレン、アルキルビニルエーテルなどの非フッ素単量体があげられる。これらをそれぞれ単独で、または、任意に組み合わせて用いることができる。
【0030】
前記フッ素ゴムの中でも、耐熱性、圧縮永久ひずみ、加工性、コストの点から、VdF単位を含むフッ素ゴムであることが好ましく、VdF単位とHFP単位と有するフッ素ゴムであることがより好ましい。
【0031】
また、圧縮永久ひずみが良好な点から、VdF/HFP系フッ素ゴム、VdF/TFE/HFP系フッ素ゴム、TFE/プロピレン系フッ素ゴムからなる群より選ばれる少なくとも1種のゴムであることが好ましく、VdF/TFE/HFP系フッ素ゴムであることがより好ましい。
【0032】
本発明に使用されるフッ素ゴムは、通常の乳化重合法により製造することができる。重合時の温度、時間などの重合条件としては、モノマーの種類や目的とするエラストマーにより適宜決定すればよい。
【0033】
含フッ素熱可塑性エラストマーとしては、特に限定されるものではないが、フッ素樹脂との相溶性が優れる点から、少なくとも1種のエラストマー性ポリマーセグメント(p−1)と、少なくとも1種の非エラストマー性ポリマーセグメント(p−2)とからなり、かつエラストマー性ポリマーセグメント(p−1)と非エラストマー性ポリマーセグメント(p−2)のうち、少なくとも一方が含フッ素ポリマーセグメントであることが好ましい。
【0034】
エラストマー性ポリマーセグメント(p−1)は、重合体に柔軟性を付与し、ガラス転移点が25℃以下が好ましく、より好ましくは0℃以下である。その構成単位としては、たとえば、TFE、CTFE、HFP、一般式(2):
CF2=CFO(CF2CFX1O)p−(CF2CF2CF2O)q−Rf4 (2)
(式中、X1は、フッ素原子または−CF3、Rf4は、炭素数1〜5のパーフルオロアルキル基、pは、0〜5の整数、qは、0〜5の整数である)
で表されるパーフルオロビニルエーテルなどのパーハロオレフィン;VdF、トリフルオロエチレン、トリフルオロプロピレン、テトラフルオロプロピレン、ペンタフルオロプロピレン、トリフルオロブテン、テトラフルオロイソブテン、フッ化ビニルなどの含フッ素単量体;エチレン、プロピレン、アルキルビニルエーテルなどの非フッ素単量体などがあげられる。
【0035】
架橋部位を与える単量体としては、たとえば、一般式(3):
CX22=CX2−Rf5CHR13 (3)
(式中、X2は、水素原子、フッ素原子または−CH3、Rf5は、フルオロアルキレン基、パーフルオロアルキレン基、フルオロポリオキシアルキレン基またはパーフルオロポリオキシアルキレン基、R1は、水素原子または−CH3、X3は、ヨウ素原子または臭素原子である)
で表されるヨウ素または臭素含有単量体、一般式(4):
CF2=CFO(CF2CF(CF3)O)m(CF2n−X4 (4)
(式中、mは、0〜5の整数、nは、1〜3の整数、X4は、シアノ基、カルボキシル基、アルコキシカルボニル基、臭素原子である)
で表される単量体などがあげられ、これらをそれぞれ単独で、または任意に組合わせて用いることができる。
【0036】
つぎに、非エラストマー性ポリマーセグメント(p−2)の構成単位としては、TFE、CTFE、PAVE、HFP、一般式(5):
CF2=CF(CF2r5 (5)
(式中、rは、1〜10の整数、X5は、フッ素原子または塩素原子である)
で表される化合物、パーフルオロ−2−ブテンなどのパーハロオレフィン;VdF、フッ化ビニル、トリフルオロエチレン、一般式(6):
CH2=CX6−(CF2s−X6 (6)
(式中、X6は、水素原子またはフッ素原子、sは、1〜10の整数)
で表される化合物、CH2=C(CF32などの部分フッ素化オレフィン;エチレン、プロピレン、塩化ビニル、ビニルエーテル、カルボン酸ビニルエステル、アクリル酸などの非フッ素単量体などをあげることができる。
【0037】
また、これらの中でも、エラストマー性ポリマーセグメント(p−1)が、TFE/VdF/HFPの共重合体であり、かつ非エラストマー性ポリマーセグメント(p−2)が、TFE/エチレンの共重合体である含フッ素熱可塑性エラストマーが好ましく、エラストマー性ポリマーセグメント(p−1)が、TFE/VdF/HFP=0〜35/40〜90/5〜50モル%であり、かつ非エラストマー性ポリマーセグメント(p−2)が、TFE/エチレン=20〜80/80〜20モル%である含フッ素熱可塑性エラストマーがより好ましい。
【0038】
含フッ素熱可塑性エラストマーは、1分子中にエラストマー性ポリマーセグメント(p−1)と非エラストマー性ポリマーセグメント(p−2)がブロックやグラフトの形態で結合した含フッ素多元セグメント化ポリマーであることが好ましく、含フッ素熱可塑性エラストマーが、1個のエラストマー性ポリマーセグメント(p−1)と、2個の非エラストマー性ポリマーセグメント(p−2)からなり、かつそのうちの少なくとも一方は含フッ素ポリマーセグメントであるトリブロックポリマーからなることが好ましい。
【0039】
含フッ素熱可塑性エラストマーとしては、エラストマー性ポリマーセグメント(p−1)と非エラストマー性ポリマーセグメント(p−2)とをブロックやグラフトなどの形態でつなぎ、含フッ素多元セグメント化ポリマーとするべく、公知の種々の方法が採用できるが、なかでも特公昭58−4728号公報などに示されたブロック型の含フッ素多元セグメント化ポリマーの製法や、特開昭62−34324号公報に示されたグラフト型の含フッ素多元セグメント化ポリマーの製法などが好ましく採用できる。
【0040】
とりわけ、セグメント化率(ブロック化率)も高く、均質で規則的なセグメント化ポリマーが得られることから、特公昭58−4728号公報、高分子論文集(Vol.49、No.10、1992)記載のいわゆるヨウ素移動重合法で合成されたブロック型の含フッ素多元セグメント化ポリマーが好ましい。
【0041】
含フッ素熱可塑性エラストマーの好ましい製造方法としては、フッ素ゴムの製造法として公知のヨウ素移動重合法をあげることができる。たとえば、実質的に無酸素下で、水媒体中で、ヨウ素化合物、好ましくはジヨウ素化合物の存在下に、前記パーハロオレフィンと、要すれば硬化部位を与える単量体を加圧下で撹拌しながらラジカル開始剤の存在下、乳化重合を行なう方法があげられる。
【0042】
工程Aの組成物(a)の製造方法は、フッ素樹脂の溶融条件下で、少なくとも1種のフッ素ゴムを動的に架橋させて、その少なくとも一部が架橋された架橋フッ素ゴムとする工程を含むものである。
【0043】
ここで、動的に架橋処理するとは、バンバリーミキサー、加圧ニーダー、押出機等を使用して、フッ素ゴムを溶融混練と同時に動的に架橋させることをいう。これらの中でも、高剪断力を加えることができる点で、二軸押出機等の押出機を用いることが好ましい。工程Aにおいては、フッ素樹脂の溶融条件下、動的に架橋処理することで、フッ素樹脂中に架橋フッ素ゴムが均一に分散した組成物を得ることができるものである。
【0044】
また、溶融条件下とは、フッ素樹脂およびフッ素ゴムが溶融する温度下を意味する。溶融する温度は、それぞれフッ素樹脂およびフッ素ゴムのガラス転移温度および/または融点により異なるが、120〜330℃であることが好ましく、130〜320℃であることがより好ましい。温度が120℃未満であると、フッ素樹脂とフッ素ゴムの間の分散が粗大化する傾向があり、330℃をこえると、フッ素ゴムが熱劣化する傾向がある。
【0045】
フッ素樹脂と、フッ素樹脂に対して添加するフッ素ゴムまたは含フッ素熱可塑性エラストマーとの重量比は、10/90〜95/5の範囲内であることが好ましく、より好ましくは20/80〜80/20の範囲内である。フッ素樹脂に対して添加するフッ素ゴムまたは含フッ素熱可塑性エラストマーの重量比が5重量%未満であると、得られるフッ素樹脂組成物の柔軟性が低下する傾向があり、90重量%をこえると、得られるフッ素樹脂組成物の流動性が悪化し、成形加工性が低下する傾向がある。
【0046】
動的に架橋処理する際に、架橋剤を用いることが好ましいが、架橋剤の種類は特に限定されるものではなく、架橋するフッ素ゴムの種類や溶融混練条件に応じて、適宜選択することができる。
【0047】
本発明で用いられる架橋系は、フッ素ゴムに架橋性基(キュアサイト)が含まれる場合は、キュアサイトの種類によって、または得られる成形品などの用途により適宜選択すればよい。架橋系としては、ポリオール架橋系、有機過酸化物架橋系およびポリアミン架橋系のいずれも採用できる。
【0048】
ここで、ポリオール架橋系により架橋する場合は、架橋点に炭素−酸素結合を有しており、圧縮永久歪みが小さく、成形性も良く、シール特性に優れているという特徴がある点で好適である。
【0049】
有機過酸化物架橋系により架橋する場合は、架橋点に炭素−炭素結合を有しているので、架橋点に炭素−酸素結合を有するポリオール架橋系および炭素−窒素二重結合を有するポリアミン架橋系に比べて、耐薬品性および耐スチーム性に優れているという特徴がある。
【0050】
ポリアミン架橋により架橋する場合は、架橋点に炭素−窒素二重結合を有しているものであり、動的機械特性に優れているという特徴がある。しかし、ポリオール架橋系または有機過酸化物架橋系架橋剤を用いて架橋する場合に比べて、圧縮永久歪みが大きくなる傾向がある。
【0051】
したがって、本発明では、ポリオール架橋系または有機過酸化物架橋系の架橋剤を用いることが好ましく、前述のようにシール性に優れる点から、ポリオール架橋系の架橋剤を用いることがより好ましい。
【0052】
本発明における架橋剤は、ポリアミン系、ポリオール系、有機過酸化物系の架橋剤を使用することができる。
【0053】
ポリアミン架橋剤としては、たとえば、ヘキサメチレンジアミンカーバメート、N,N’−ジシンナミリデン−1,6−ヘキサメチレンジアミン、4,4’−ビス(アミノシクロヘキシル)メタンカルバメートなどのポリアミン化合物があげられる。これらの中でも、N,N’−ジシンナミリデン−1,6−ヘキサメチレンジアミンが好ましい。
【0054】
ポリオール架橋剤としては、従来、フッ素ゴムの架橋剤として知られている化合物を用いることができ、たとえば、ポリヒドロキシ化合物、特に、耐熱性に優れる点からポリヒドロキシ芳香族化合物が好適に用いられる。
【0055】
上記ポリヒドロキシ芳香族化合物としては、特に限定されず、たとえば、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(以下、ビスフェノールAという)、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)パーフルオロプロパン(以下、ビスフェノールAFという)、レゾルシン、1,3−ジヒドロキシベンゼン、1,7−ジヒドロキシナフタレン、2,7−ジヒドロキシナフタレン、1,6−ジヒドロキシナフタレン、4,4’−ジヒドロキシジフェニル、4,4’−ジヒドロキシスチルベン、2,6−ジヒドロキシアントラセン、ヒドロキノン、カテコール、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ブタン(以下、ビスフェノールBという)、4,4−ビス(4−ヒドロキシフェニル)吉草酸、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)テトラフルオロジクロロプロパン、4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホン、4,4’−ジヒドロキシジフェニルケトン、トリ(4−ヒドロキシフェニル)メタン、3,3’,5,5’−テトラクロロビスフェノールA、3,3’,5,5’−テトラブロモビスフェノールAなどがあげられる。これらのポリヒドロキシ芳香族化合物は、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩などであってもよいが、酸を用いて共重合体を凝析した場合は、上記金属塩は用いないことが好ましい。
【0056】
有機過酸化物架橋系の架橋剤としては、熱や酸化還元系の存在下で容易にパーオキシラジカルを発生し得る有機過酸化物であればよく、具体的には、たとえば1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)−3,5,5−トリメチルシクロヘキサン、2,5−ジメチルヘキサン−2,5−ジヒドロパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイド、t−ブチルクミルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、α,α−ビス(t−ブチルパーオキシ)−p−ジイソプロピルベンゼン、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)−ヘキシン−3、ベンゾイルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシベンゼン、t−ブチルパーオキシマレイン酸、t−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネートなどをあげることができる。これらの中でも、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサンが好ましい。
【0057】
これらの中でも、得られる成形品などの圧縮永久歪みが小さく、成形性に優れているという点から、ポリヒドロキシ化合物が好ましく、耐熱性が優れることからポリヒドロキシ芳香族化合物がより好ましく、ビスフェノールAFがさらに好ましい。
【0058】
また、ポリオール架橋系においては、ポリオール系架橋剤と併用して、通常、架橋促進剤を用いる。架橋促進剤を用いると、フッ素ゴム主鎖の脱フッ酸反応における分子内二重結合の形成を促進することにより架橋反応を促進することができる。
【0059】
ポリオール架橋系の架橋促進剤としては、一般にオニウム化合物が用いられる。オニウム化合物としては特に限定されず、たとえば、第4級アンモニウム塩等のアンモニウム化合物、第4級ホスホニウム塩等のホスホニウム化合物、オキソニウム化合物、スルホニウム化合物、環状アミン、1官能性アミン化合物などがあげられ、これらの中でも第4級アンモニウム塩、第4級ホスホニウム塩が好ましい。
【0060】
第4級アンモニウム塩としては特に限定されず、たとえば、8−メチル−1,8−ジアザビシクロ[5,4,0]−7−ウンデセニウムクロリド、8−メチル−1,8−ジアザビシクロ[5,4,0]−7−ウンデセニウムアイオダイド、8−メチル−1,8−ジアザビシクロ[5,4,0]−7−ウンデセニウムハイドロキサイド、8−メチル−1,8−ジアザビシクロ[5,4,0]−7−ウンデセニウムメチルスルフェート、8−エチル−1,8−ジアザビシクロ[5,4,0]−7−ウンデセニウムブロミド、8−プロピル−1,8−ジアザビシクロ[5,4,0]−7−ウンデセニウムブロミド、8−ドデシル−1,8−ジアザビシクロ[5,4,0]−7−ウンデセニウムクロリド、8−ドデシル−1,8−ジアザビシクロ[5,4,0]−7−ウンデセニウムハイドロキサイド、8−エイコシル−1,8−ジアザビシクロ[5,4,0]−7−ウンデセニウムクロリド、8−テトラコシル−1,8−ジアザビシクロ[5,4,0]−7−ウンデセニウムクロリド、8−ベンジル−1,8−ジアザビシクロ[5,4,0]−7−ウンデセニウムクロリド(以下、DBU−Bとする)、8−ベンジル−1,8−ジアザビシクロ[5,4,0]−7−ウンデセニウムハイドロキサイド、8−フェネチル−1,8−ジアザビシクロ[5,4,0]−7−ウンデセニウムクロリド、8−(3−フェニルプロピル)−1,8−ジアザビシクロ[5,4,0]−7−ウンデセニウムクロリドなどがあげられる。これらの中でも、架橋性、架橋物の物性の点から、DBU−Bが好ましい。
【0061】
また、第4級ホスホニウム塩としては特に限定されず、たとえば、テトラブチルホスホニウムクロリド、ベンジルトリフェニルホスホニウムクロリド(以下、BTPPCとする)、ベンジルトリメチルホスホニウムクロリド、ベンジルトリブチルホスホニウムクロリド、トリブチルアリルホスホニウムクロリド、トリブチル−2−メトキシプロピルホスホニウムクロリド、ベンジルフェニル(ジメチルアミノ)ホスホニウムクロリドなどをあげることができ、これらの中でも、架橋性、架橋物の物性の点から、ベンジルトリフェニルホスホニウムクロリド(BTPPC)が好ましい。
【0062】
また、架橋促進剤として、第4級アンモニウム塩、第4級ホスホニウム塩とビスフェノールAFの固溶体、特開平11−147891号公報に開示されている塩素フリー架橋促進剤を用いることもできる。
【0063】
有機過酸化物の架橋促進剤としては、たとえば、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート(TAIC)、トリアクリルホルマール、トリアリルトリメリテート、N,N’−m−フェニレンビスマレイミド、ジプロパギルテレフタレート、ジアリルフタレート、テトラアリルテレフタレートアミド、トリアリルホスフェート、ビスマレイミド、フッ素化トリアリルイソシアヌレート(1,3,5−トリス(2,3,3−トリフルオロ−2−プロペニル)−1,3,5−トリアジン−2,4,6−トリオン)、トリス(ジアリルアミン)−S−トリアジン、亜リン酸トリアリル、N,N−ジアリルアクリルアミド、1,6−ジビニルドデカフルオロヘキサン、ヘキサアリルホスホルアミド、N,N,N’,N’−テトラアリルフタルアミド、N,N,N’,N’−テトラアリルマロンアミド、トリビニルイソシアヌレート、2,4,6−トリビニルメチルトリシロキサン、トリ(5−ノルボルネン−2−メチレン)シアヌレート、トリアリルホスファイトなどがあげられる。これらの中でも、架橋性、架橋物の物性の点から、トリアリルイソシアヌレート(TAIC)が好ましい。
【0064】
架橋剤および架橋促進剤の添加量としては、動的に架橋処理するときの温度における加硫90%完了時間T90が2〜6分になるように調整された量であることが好ましく、加硫90%完了時間T90が3〜5分になるように調整された量であることがより好ましい。最適加硫時間T90が2分未満となる量であると架橋フッ素ゴムの分散が不均一かつ粗大化する傾向があり、6分をこえる量となるとフッ素ゴムが架橋するのに長時間を要し、かつ完全には架橋しなくなる傾向がある。
【0065】
ここで、加硫90%完了時間T90とは、フッ素ゴムを1次プレス加硫時にJSR型キュラストメータII型、およびV型を用いて、動的加硫時の温度における加硫曲線を求め、最大トルク値の90%の値に達する時間を加硫90%完了時間(T90)とする。
【0066】
架橋剤と架橋促進剤の添加量を決定する具体的な方法としては、170℃における加硫90%完了時間T90が2〜6分、好ましくは3〜5分となる、フッ素ゴム100重量部に対する架橋剤の配合量 X重量部、架橋促進剤の配合量 Y重量部をまず求める。
【0067】
次に、このXおよびYの量をもとに、
(i)架橋剤の量:X重量、架橋促進剤の量:0.2Y〜0.5Y重量部、好ましくは0.3Y〜0.4Y重量部、または
(ii)架橋剤の量:2X〜5X重量部、架橋促進剤の量:0.4Y〜2.5Y重量部
が、本発明における好ましい架橋剤と架橋促進剤の添加量となる。
【0068】
架橋促進剤が0.2Y重量部未満であると、フッ素ゴムの架橋が充分に進行せず、得られるフッ素樹脂組成物の耐熱性および耐油性が低下する傾向があり、2.5Y重量部をこえると、得られるフッ素樹脂組成物の機械強度が低下する傾向がある。
【0069】
得られた組成物(a)は、フッ素樹脂が連続相を形成しかつ架橋フッ素ゴムが分散相を形成する構造、またはフッ素樹脂と架橋ゴムが共連続を形成する構造を有することができる。
【0070】
ゴムが、分散当初マトリックスを形成していた場合でも、架橋反応の進行に伴い、ゴムが架橋フッ素ゴムとなることで溶融粘度が上昇し、架橋フッ素ゴムが分散相になる、またはフッ素樹脂との共連続相を形成するものである。
【0071】
また、工程Bにおいてフッ素ゴムを添加する場合、工程Aにおける動的架橋によりフッ素ゴムの架橋が完結している方が、最終的に得られたフッ素樹脂組成物のゴムが連続相を形成しにくくなるため好ましい。ここで、架橋が完結しているとは、前述したT90よりも長い時間混練した状態をさすものである。
【0072】
本発明の製造方法は、工程Aにより得られた組成物(a)とフッ素ポリマーを溶融混練する工程Bを含むものである。
【0073】
工程Aにより得られた組成物(a)をさらに、フッ素ポリマーと溶融混錬することで、組成物(a)中の架橋フッ素ゴムの分散性がさらに向上することができる。また、組成物(a)中の架橋フッ素ゴムが共連続を形成する構造である場合も、工程Bで溶融混錬することにより、架橋フッ素ゴムが分散相を形成する構造になるものである。
【0074】
工程Bで用いるフッ素ポリマーとしては、フッ素樹脂またはフッ素ゴムがあげられる。
【0075】
工程Bのフッ素ポリマーは、工程Aで用いたフッ素樹脂またはフッ素ゴムと同じものであっても異なるものであってもよいが、組成物(a)のフッ素樹脂あるいはフッ素ゴムとフッ素ポリマーの相溶性の点から工程Aで用いたフッ素樹脂またはフッ素ゴムと同一のものであることが好ましい。
【0076】
フッ素ポリマーがフッ素樹脂である場合、フッ素樹脂としては前述のフッ素樹脂をあげることができる。前述のフッ素樹脂の中でも、工程Bで用いるフッ素樹脂としては、得られるフッ素樹脂組成物の耐熱性・耐薬品性・耐油性が優れ、かつ成形加工性が容易になる点から、前述の(1)ETFE、(2)PFAまたはFEPであることが好ましい。
【0077】
組成物(a)とフッ素樹脂の溶融混錬は、バンバリーミキサー、加圧ニーダー、押出機等を使用して、組成物(a)とフッ素樹脂を用いることができる。溶融する温度は、それぞれ組成物(a)とフッ素樹脂の種類により異なるが、120〜330℃であることが好ましく、130〜320℃であることがより好ましい。温度が、120℃未満であると、フッ素樹脂が充分に溶融せず樹脂相が不均一になる傾向があり、330℃をこえると、フッ素ゴムが熱劣化する傾向がある。
【0078】
フッ素ポリマーがフッ素ゴムである場合、フッ素ゴムとしては前述のフッ素ゴムをあげることができる。前述のフッ素ゴムの中でも、工程Bで用いるフッ素ゴムとしては、耐熱性、圧縮永久ひずみ、加工性、コストの点から、VdF単位を含むフッ素ゴムであることが好ましく、VdF単位とHFP単位と有するフッ素ゴムであることがより好ましい。
【0079】
また、圧縮永久ひずみが良好な点から、VdF/HFP系フッ素ゴム、VdF/TFE/HFP系フッ素ゴム、TFE/プロピレン系フッ素ゴムからなる群より選ばれる少なくとも1種のゴムであることが好ましく、VdF/TFE/HFP系フッ素ゴムであることがより好ましい。
【0080】
工程Bが、組成物(a)の存在下、フッ素ゴムを動的に架橋させ、その少なくとも一部が架橋された架橋フッ素ゴムとする工程であることが、得られるフッ素樹脂組成物の機械物性向上の点から好ましい。
【0081】
動的架橋の条件としては、前述の条件と同じ条件を採用することができる。
【0082】
また、フッ素ポリマーがフッ素ゴムであり、動的に架橋処理する場合に、架橋剤および必要により架橋促進剤を用いることが好ましい。架橋剤、架橋促進剤の種類および添加量としては前述した種類および添加量であることが好ましい。
【0083】
得られたフッ素樹脂組成物は、フッ素樹脂が連続相を形成しかつ架橋フッ素ゴムが分散相を形成する構造、またはフッ素樹脂と架橋フッ素ゴムが共連続を形成する構造を有することができるが、その中でも、フッ素樹脂が連続相を形成しかつ架橋フッ素ゴムが分散相を形成する構造を有することが好ましい。
【0084】
このような構造を形成すると、本発明のフッ素樹脂組成物は、優れた耐熱性、耐薬品性および耐油性を示すと共に、高い燃料バリア性と良好な成形加工性を有することとなる。その際、架橋フッ素ゴムの平均分散粒子径は、0.01〜30μmであることが好ましい。平均分散粒子径が、0.01μm未満であると、流動性が低下する傾向があり、30μmをこえると、得られるフッ素樹脂組成物の強度が低下する傾向がある。
【0085】
また、本発明のフッ素樹脂組成物は、その好ましい形態であるフッ素樹脂が連続相を形成し、かつ架橋フッ素ゴムが分散相を形成する構造の一部に、フッ素樹脂と架橋フッ素ゴムとの共連続構造を含んでいても良い。
【0086】
得られたフッ素樹脂組成物に、さらにフッ素ポリマーを添加して溶融混錬することもできる。
【0087】
工程Bにおいて組成物(a)に対するフッ素ポリマーの添加量は、特に制限されるものではない。
【0088】
本発明の最終的なフッ素樹脂組成物の組成は、フッ素樹脂/フッ素ゴム=10/90〜95/5(重量比)であることが好ましく、フッ素樹脂/フッ素ゴム=20/80〜80/20(重量比)であることがより好ましい。フッ素樹脂が10重量%未満であると得られるフッ素樹脂組成物の流動性が悪化し成形加工性が低下する傾向があり、95重量%をこえると得られるフッ素樹脂組成物の柔軟性が低下する傾向がある。
【0089】
本発明のフッ素樹脂組成物のメルトフローレート(MFR)は、297℃において、0.5〜50g/10分であることが好ましく、1〜45g/10分であることがより好ましい。MFRが0.5g/10分未満であると、流動性が悪化し、成形加工性が低下する傾向がある。
【0090】
本発明のフッ素樹脂組成物の燃料透過係数は、60(g・mm)/(m2・day)以下であることが好ましく、50(g・mm)/(m2・day)以下であることがより好ましく、40(g・mm)/(m2・day)以下であることがより好ましい。燃料透過係数の下限値は特に限定されるものではなく、低ければ低いほど好ましい。燃料透過係数が、60(g・mm)/(m2・day)をこえると、燃料バリア性が低いため、燃料透過量を抑えるためには成形品の肉厚を厚くする必要があり、経済的に好ましくない。なお、燃料透過係数は、低いほど燃料を透過防止能力が向上するものであり、逆に燃料透過係数が大きいと燃料が透過しやすいものである。
【0091】
燃料透過係数の測定は、防湿包装材料の透湿度試験方法におけるカップ法に準ずる方法にて実施した。ここで、カップ法とは、JIS Z 0208に規定された透湿度試験方法であり、一定時間に単位面積の膜状物質を通過する水蒸気量を測定する方法である。本発明においては、このカップ法に準じて、燃料透過係数を測定するものである。具体的方法としては、20mLの容積を有するSUS製容器(開放部面積1.26×10-32)に模擬燃料であるCE10(トルエン/イソオクタン/エタノール=45/45/10容量%)を18mL入れて、シート状試験片を容器開放部にセットして密閉することで、試験体とする。該試験体を恒温装置(60℃)に入れ、試験体の重量を測定し、単位時間あたりの重量減少が一定となったところで下記の式により燃料透過性を求める。
【0092】
【数1】

【0093】
また、本発明のフッ素樹脂組成物は、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアミド、ポリエステル、ポリウレタンなどの他の重合体、炭酸カルシウム、タルク、セライト、クレー、酸化チタン、カーボンブラック、硫酸バリウムなどの無機充填材、顔料、難燃剤、滑剤、光安定剤、耐候安定剤、帯電防止剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、離型剤、発泡剤、香料、オイル、柔軟化剤などを、本発明の効果に影響を及ぼさない範囲で添加することができる。
【0094】
本発明のフッ素樹脂組成物は、一般の成形加工方法や成形加工装置などを用いて成形加工することができる。成形加工方法としては、例えば、射出成形、押出成形、圧縮成形、ブロー成形、カレンダー成形、真空成形などの任意の方法を採用することができ、本発明のフッ素樹脂組成物は、使用目的に応じて任意の形状の成形体に成形される。
【0095】
さらに、本発明には、本発明のフッ素樹脂組成物を使用して得られた成形品に関するものであるが、該成形品としては、シートまたはフィルムの成形体を包含し、また本発明のフッ素樹脂組成物からなる層および他の材料からなる層を有する積層構造体を包含するものである。
【0096】
本発明のフッ素樹脂組成物からなる少なくとも1つの層と他の材料からなる少なくとも1つの層との積層構造体において、該他の材料は、要求される特性、予定される用途などに応じて適切なものを選択すればよい。該他の材料としては、例えば、ポリオレフィン(例:高密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、エチレン−プロピレン共重合体、ポリプロピレン等)、ナイロン、ポリエステル、塩化ビニル樹脂(PVC)、塩化ビニリデン樹脂(PVDC)などの熱可塑性重合体、エチレン−プロピレン−ジエンゴム、ブチルゴム、ニトリルゴム、シリコーンゴム、アクリルゴムなどの架橋ゴム、金属、ガラス、木材、セラミックなどをあげることができる。
【0097】
該積層構造を有する成形品においては、本発明のフッ素樹脂組成物からなる層と他の材料からなる基材層との間に接着剤層を介在させてもよい。接着剤層を介在させることによって、本発明のフッ素樹脂組成物からなる層と他の材料からなる基材層とを強固に接合一体化させることができる。接着剤層において使用される接着剤としては、ジエン系重合体の酸無水物変性物;ポリオレフィンの酸無水物変性物;高分子ポリオール(例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール等のグリコール化合物とアジピン酸等の二塩基酸とを重縮合して得られるポリエステルポリオール;酢酸ビニルと塩化ビニルとの共重合体の部分ケン化物など)とポリイソシアネート化合物(例えば、1,6−ヘキサメチレングリコール等のグリコール化合物と2,4−トリレンジイソシアネート等のジイソシアネート化合物とのモル比1対2の反応生成物;トリメチロールプロパン等のトリオール化合物と2,4−トリレンジイソシアネート等のジイソシアネート化合物とのモル比1対3の反応生成物など)との混合物;等を使用することができる。なお、積層構造形成のためには、共押出、共射出、押出コーティング等の公知の方法を使用することもできる。
【0098】
本発明には、本発明のフッ素樹脂組成物単独の層からなる燃料ホースまたは燃料容器が包含される。燃料ホースの用途は特に限定されないが、例えば、自動車用のフィラーホース、エバポホース、ブリーザーホース等があげられる。また、燃料容器の用途は特に限定されないが、例えば、自動車用の燃料容器、自動2輪車用の燃料容器、小型発電機の燃料容器、芝刈機の燃料容器等があげられる。
【0099】
また、本発明には、本発明のフッ素樹脂組成物からなる層を含む多層燃料ホースまたは多層燃料容器が包含される。該多層燃料ホースまたは多層燃料容器としては、本発明のフッ素樹脂組成物からなる層と、他の材料からなる少なくとも1つの層からなり、これらの層が接着剤層を介在させないで、あるいは介在させて、互いに接着しているものである。
【0100】
そして、他の材料からなる層としては、本発明のフッ素樹脂組成物以外のゴムからなる層や熱可塑性樹脂からなる層があげられる。
【0101】
該ゴムとしては、耐薬品性や柔軟性の観点から、アクリロニトリル−ブタジエンゴムまたはその水素添加ゴム、アクリロニトリル−ブタジエンゴムとポリ塩化ビニルとのブレンドゴム、フッ素ゴム、エピクロロヒドリンゴムおよびアクリルゴムからなる群より選ばれる少なくとも1種からなるゴムが好ましく、アクリロニトリル−ブタジエンゴムまたはその水素添加ゴム、アクリロニトリル−ブタジエンゴムとポリ塩化ビニルとのブレンドゴム、フッ素ゴム、エピクロロヒドリンゴムからなる群より選ばれる少なくとも1種ゴムからなることがより好ましい。
【0102】
また、該熱可塑性樹脂としては、燃料バリア性の観点から、フッ素樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリフェニレンスルフィド系樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1種からなる熱可塑性樹脂が好ましく、フッ素樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂ポリフェニレンスルフィド系樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1種からなる熱可塑性樹脂がより好ましい。
【0103】
上記に示した本発明により得られたフッ素樹脂組成物からなる層、および他のゴムもしくは他の熱可塑性樹脂からなる層からなる燃料ホースまたは燃料容器としては、特に限定されず、例えば、自動車用のフィラーホース、エバポホース、ブリーザーホース等の燃料ホース;自動車用の燃料容器、自動2輪車用の燃料容器、小型発電機の燃料容器、芝刈機の燃料容器等の燃料容器があげられる。
【0104】
この内、本発明のフッ素樹脂組成物からなる層、および他のゴムからなる層からなる燃料ホースとしては、アクリロニトリル−ブタジエンゴムまたはその水素添加ゴム、アクリロニトリル−ブタジエンゴムとポリ塩化ビニルとのブレンドゴムあるいはエピクロロヒドリンゴムからなる外層、本発明のフッ素樹脂組成物からなる中間層、およびフッ素ゴムからなる内層の3層から構成される燃料ホース、あるいはアクリロニトリル−ブタジエンゴムまたはその水素添加ゴム、アクリロニトリル−ブタジエンゴムとポリ塩化ビニルとのブレンドゴムあるいはエピクロロヒドリンゴムからなる外層、および本発明のフッ素樹脂組成物からなる内層の2層から構成される燃料ホースが、優れた燃料バリア性・柔軟性・耐薬品性を示す点で好ましい。
【0105】
本発明のフッ素樹脂組成物、および該組成物からなる成形品は、以下に示す分野で好適に用いることができる。
【0106】
半導体製造装置、液晶パネル製造装置、プラズマパネル製造装置、プラズマアドレス液晶パネル、フィールドエミッションディスプレイパネル、太陽電池基板等の半導体関連分野では、O(角)リング、パッキン、シール材、チューブ、ロール、コーティング、ライニング、ガスケット、ダイアフラム、ホース等があげられ、これらはCVD装置、ドライエッチング装置、ウェットエッチング装置、酸化拡散装置、スパッタリング装置、アッシング装置、洗浄装置、イオン注入装置、排気装置、薬液配管、ガス配管に用いることができる。具体的には、ゲートバルブのOリング、シール材として、クォーツウィンドウのOリング、シール材として、チャンバーのOリング、シール材として、ゲートのOリング、シール材として、ベルジャーのOリング、シール材として、カップリングのOリング、シール材として、ポンプのOリング、シール材、ダイアフラムとして、半導体用ガス制御装置のOリング、シール材として、レジスト現像液、剥離液用のOリング、シール材として、ウェハー洗浄液用のホース、チューブとして、ウェハー搬送用のロールとして、レジスト現像液槽、剥離液槽のライニング、コーティングとして、ウェハー洗浄液槽のライニング、コーティングとしてまたはウェットエッチング槽のライニング、コーティングとして用いることができる。さらに、封止材・シーリング剤、光ファイバーの石英の被覆材、絶縁、防振、防水、防湿を目的とした電子部品、回路基盤のポッティング、コーティング、接着シール、磁気記憶装置用ガスケット、エポキシ等の封止材料の変性材、クリーンルーム・クリーン設備用シーラント等として用いられる。
【0107】
自動車分野では、ガスケット、シャフトシール、バルブステムシール、シール材およびホースはエンジンならびに周辺装置に用いることができ、ホースおよびシール材はAT装置に用いることができ、O(角)リング、チューブ、パッキン、バルブ芯材、ホース、シール材およびダイアフラムは燃料系統ならびに周辺装置に用いることができる。具体的には、エンジンヘッドガスケット、メタルガスケット、オイルパンガスケット、クランクシャフトシール、カムシャフトシール、バルブステムシール、マニホールドパッキン、オイルホース、酸素センサー用シール、ATFホース、インジェクターOリング、インジェクターパッキン、燃料ポンプOリング、ダイアフラム、燃料ホース、クランクシャフトシール、ギアボックスシール、パワーピストンパッキン、シリンダーライナーのシール、バルブステムのシール、自動変速機のフロントポンプシール、リアーアクスルピニオンシール、ユニバーサルジョイントのガスケット、スピードメーターのピニオンシール、フートブレーキのピストンカップ、トルク伝達のO−リング、オイルシール、排ガス再燃焼装置のシール、ベアリングシール、EGRチューブ、ツインキャブチューブ、キャブレターのセンサー用ダイアフラム、防振ゴム(エンジンマウント、排気部等)、再燃焼装置用ホース、酸素センサーブッシュ等として用いることができる。
【0108】
航空機分野、ロケット分野および船舶分野では、ダイアフラム、O(角)リング、バルブ、チューブ、パッキン、ホース、シール材等があげられ、これらは燃料系統に用いることができる。具体的には、航空機分野では、ジェットエンジンバルブステルシール、燃料供給用ホース、ガスケットおよびO−リング、ローテーティングシャフトシール、油圧機器のガスケット、防火壁シール等に用いられ、船舶分野では、スクリューのプロペラシャフト船尾シール、ディーゼルエンジンの吸排気用バルブステムシール、バタフライバルブのバルブシール、バタフライ弁の軸シール等に用いられる。
【0109】
プラント等の化学品分野では、ライニング、バルブ、パッキン、ロール、ホース、ダイアフラム、O(角)リング、チューブ、シール材、耐薬品用コーティング等があげられ、これらは医薬、農薬、塗料、樹脂等化学品製造工程に用いることができる。具体的には、化学薬品用ポンプ、流動計、配管のシール、熱交換器のシール、硫酸製造装置のガラス冷却器パッキング、農薬散布機、農薬移送ポンプのシール、ガス配管のシール、メッキ液用シール、高温真空乾燥機のパッキン、製紙用ベルトのコロシール、燃料電池のシール、風洞のジョイントシール、耐トリクレン用ロール(繊維染色用)、耐酸ホース(濃硫酸用)、ガスクロマトグラフィー、pHメーターのチューブ結合部のパッキン、塩素ガス移送ホース、ベンゼン、トルエン貯槽の雨水ドレンホース、分析機器、理化学機器のシール、チューブ、ダイアフラム、弁部品等として用いることができる。
【0110】
医薬品等の薬品分野では、薬栓等として用いることができる。
【0111】
現像機等の写真分野、印刷機械等の印刷分野および塗装設備等の塗装分野では、ロール等があげられ、それぞれフィルム現像機・X線フィルム現像機、印刷ロールおよび塗装ロールに用いることができる。具体的には、フィルム現像機・X線フィルム現像機の現像ロールとして、印刷ロールのグラビアロール、ガイドロールとして、塗装ロールの磁気テープ製造塗工ラインのグラビアロール、磁気テープ製造塗工ラインのガイドロール、各種コーティングロール等として用いることができる。さらに、乾式複写機のシール、印刷設備の印刷ロール、スクレーパー、チューブ、弁部品、塗布、塗装設備の塗布ロール、スクレーパー、チューブ、弁部品、プリンターのインキチューブ、ロール、ベルト、乾式複写機のベルト、ロール、印刷機のロール、ベルト等として用いることができる。
【0112】
またチューブを分析・理化学機分野に用いることができる。
【0113】
食品プラント機器分野では、ライニング、バルブ、パッキン、ロール、ホース、ダイアフラム、O(角)リング、チューブ、シール材、ベルト等があげられ、食品製造工程に用いることができる。具体的には、プレート式熱交換器のシール、自動販売機の電磁弁シール等として用いることができる。
【0114】
原子力プラント機器分野では、パッキン、Oリング、ホース、シール材、ダイアフラム、バルブ、ロール、チューブ等があげられる。
【0115】
鉄板加工設備等の鉄鋼分野では、ロール等があげられ、鉄板加工ロール等に用いることができる。
【0116】
一般工業分野では、パッキング、Oリング、ホース、シール材、ダイアフラム、バルブ、ロール、チューブ、ライニング、マンドレル、電線、フレキシブルジョイント、ベルト、ゴム板、ウェザーストリップ、PPC複写機のロール、ロールブレード、ベルト等があげられる。具体的には、油圧、潤滑機械のシール、ベアリングシール、ドライクリーニング機器の窓、その他のシール、六フッ化ウランの濃縮装置のシール、サイクロトロンのシール(真空)バルブ、自動包装機のシール、空気中の亜硫酸ガス、塩素ガス分析用ポンプのダイアフラム(公害測定器)、印刷機のロール、ベルト、酸洗い用絞りロール等に用いられる。
【0117】
電気分野では、具体的には、新幹線の絶縁油キャップ、液封型トランスのベンチングシール、油井ケーブルのジャケット等として用いられる。
【0118】
燃料電池分野では、具体的には、電極、セパレーター間のシール材や水素・酸素・生成水配管のシール等として用いられる。
【0119】
電子部品分野では、具体的には、放熱材原料、電磁波シールド材原料、エポキシ等のプリント配線板プリプレグ樹脂の変性材、電球等の飛散防止材、コンピューターのハードディスクドライブのガスケット等に用いられる。
【0120】
現場施工型の成形に用いることが可能なものとしては特に限定されず、たとえば、自動車エンジン用メタルガスケットのコーティング剤、エンジンのオイルパンのガスケット、複写機・プリンター用のロール、建築用シーリング剤、磁気記録装置用のガスケット、クリーンルーム用フィルターユニットのシーリング剤、プリント基盤のコーティング剤、電気・電子部品の固定剤、電気機器リード線端子の絶縁防湿処理、電気炉等のオーブンのシール、シーズヒーターの末端処理、電子レンジの窓枠シール、CRTウェッジおよびネックの接着、自動車電装部品の接着、厨房、浴室、洗面所等の目地シール等があげられる。
【0121】
本発明の成形品は上述の各種用途に好適に用いることができ、特に燃料周辺部品として好適である。また、本発明の成形品は、特に、シール材、パッキン、ローラー、チューブまたはホースとして有用である。
【実施例】
【0122】
つぎに本発明を実施例をあげて説明するが、本発明はかかる実施例のみに限定されるものではない。
【0123】
<加硫特性>
JSR型キュラストメータII型を用いて170℃および260℃における加硫曲線を求め、トルクの変化より、最低粘度(ML)、加硫度(MH)、誘導時間(T10)および最適加硫時間(T90)を求めた。加熱状態で30分以上経過してもトルクの変化が見られない場合、加硫反応は進行していないとみなす。
【0124】
<ラボプラストミルによる混練>
フッ素樹脂とフッ素ゴム組成物の混練は、ラボプラストミル((株)東洋精機製作所製)を用いて行う。混練するフッ素樹脂とフッ素ゴムは、それらの合計体積が、ラボプラストミルの混練部全容積の77体積%となるように全量を調整する。ラボプラストミルの温度は、組成物に用いたフッ素樹脂の融点(ここでは220℃)より40℃を高い温度(ここでは260℃)に設定する。ラボプラストミルの温度が安定した後、フッ素樹脂を添加し、5〜10分間10rpmで攪拌を行い、フッ素樹脂を溶融させる。溶融状態のフッ素樹脂に、フッ素ゴム組成物を添加し、添加後即、攪拌数を100rpmに上昇させる。トルクが最大の値を示した時点(キュラストII型で測定したT90に対応する)から、10分後まで攪拌し、フッ素樹脂組成物を得た。
【0125】
<硬度>
実施例および比較例で製造したフッ素樹脂組成物を用いて、熱プレス機により280℃、5MPaの条件下で圧縮成形し、厚さ2mmのシート状試験片を作製し、これらを用いてJIS−K6301に準じてA硬度を測定した。
【0126】
<引張破断強度、引張破断伸び、引張弾性率>
実施例および比較例で製造したフッ素樹脂組成物を用いて、該フッ素樹脂組成物を熱プレス機により280℃、5MPaの条件下で圧縮成形し、厚さ2mmのシート状試験片を作製し、ASTM V型ダンベルを用いて幅3.18mmのダンベル状試験片を打ち抜く。得られたダンベル状試験片を用いて、オートグラフ((株)島津製作所製 AGS―J 5kN)を使用して、ASTM D638に準じて、50mm/分の条件下で、25℃に引張破断伸び、引張破断強度および引張弾性率を測定する。
【0127】
<燃料透過性>
実施例および比較例で製造したフッ素樹脂組成物を用いて、該フッ素樹脂組成物を熱プレス機により280℃、5MPaの条件下で圧縮成形し、厚さ0.5mmのシート状試験片を作製した。20mLの容積を有するSUS製容器(開放部面積1.26×10-32)に模擬燃料であるCE10(トルエン/イソオクタン/エタノール=45/45/10容量%)を18mL入れて、前記シート状試験片を容器開放部にセットして密閉することで、試験体とする。該試験体を恒温装置(60℃)に入れ、試験体の重量を測定し、単位時間あたりの重量減少が一定となったところで下記の式により燃料透過性を求めた。
【0128】
【数2】

【0129】
<流動性>
実施例および比較例で製造したフッ素樹脂組成物を用いて、メルトフローレート測定装置((株)東洋精機製作所製)を使用して、297℃、5kg荷重または10kg荷重の条件下でメルトフローレート(MFR)を測定した。
【0130】
<フッ素樹脂>
TFE−エチレン共重合体(EP−610 ダイキン工業(株)製、融点218〜228℃、297℃・5kg荷重におけるMFR=25〜35g/10min)
【0131】
<2元系フッ素ゴム>
VdFとHFPからなる2元系ゴム(VdF:HFP=78:22モル%、121℃におけるムーニー粘度=41、297℃・5kg荷重におけるMFR=28g/10min)
【0132】
<3元系フッ素ゴム>
VdF、TFEおよびHFPからなる3元系ゴム(VdF:TFE:HFP=50:20:30モル%、100℃におけるムーニー粘度=88)
【0133】
<架橋剤>
ポリオール系架橋剤:2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)パーフルオロプロパン(ダイキン工業(株)製「ビスフェノールAF」)
【0134】
<架橋促進剤>
ベンジルトリフェニルホスホニウムクロリド(BTPPC)(北興化学工業(株)製、TPP−ZC)
【0135】
製造例1(フッ素ゴム組成物xの調製)
上記の2元系フッ素ゴム100.0重量部に、架橋剤2.17重量部、架橋促進剤0.11重量部、酸化マグネシウム(キョーワマグ150、協和化学工業(株)製)3.0重量部を添加し、8インチオープンロールを用いて混練し、フッ素ゴム組成物xを作製した。
【0136】
製造例2(フッ素ゴム組成物yの調製)
上記の3元系フッ素ゴム100.0重量部に、架橋剤2.0重量部、架橋促進剤1.0重量部、酸化マグネシウム(キョーワマグ150、協和化学工業(株)製)3.0重量部を添加し、8インチオープンロールを用いて混練し、フッ素ゴム組成物yを作製した。
【0137】
フッ素ゴム組成物xおよびフッ素ゴム組成物yの配合とこれらの加硫特性を表1に示す。フッ素ゴム組成物xおよびフッ素ゴム組成物yは、170℃では加硫反応が進行せず、260℃における加硫時間T90はそれぞれ4分および3.6分であった。
【0138】
【表1】

【0139】
実施例1
上記したフッ素樹脂100重量部とフッ素ゴム組成物x42.9重量部を予備混合した後、二軸押出機に供給して、シリンダー温度260℃およびスクリュー回転数500rpmの条件下に溶融混練し、フッ素樹脂組成物(a)を得た(工程A)。
【0140】
得られたフッ素樹脂組成物(a)のペレット142.9重量部とフッ素ゴム組成物x57.1重量部を予備混合した後、二軸押出機に供給して、シリンダー温度260℃およびスクリュー回転数500rpmの条件下に溶融混練し、フッ素樹脂組成物を得た(工程B)。
【0141】
なお、このフッ素樹脂組成物の最終組成は、フッ素樹脂50重量部、フッ素ゴム組成物x50重量部であった。
【0142】
得られたフッ素樹脂組成物を用いて、上記した方法で評価を行なった結果を表2に示す。
【0143】
実施例2
上記したフッ素樹脂100重量部とフッ素ゴム組成物y100重量部を温度260℃、スクリュー回転数100rpmの条件下でラボプラストミルにて溶融混練し、フッ素樹脂組成物(a)を得た(工程A)。
【0144】
得られたフッ素樹脂組成物(a)のペレット200重量部とフッ素ゴム組成物y133.3重量部を温度260℃、スクリュー回転数100rpmの条件下でラボプラストミルにて溶融混練し、フッ素樹脂組成物を得た(工程B)。
【0145】
なお、このフッ素樹脂組成物の最終組成は、フッ素樹脂30重量部、フッ素ゴム組成物y70重量部であった。
【0146】
得られたフッ素樹脂組成物を用いて、上記した方法で評価を行なった結果を表2に示す。
【0147】
実施例3
工程Aおよび工程Bにおけるフッ素樹脂/フッ素ゴム組成物yの配合量を表2に示す量に変更した以外は、実施例2と同様にしてフッ素樹脂組成物を得た。
【0148】
なお、このフッ素樹脂組成物の最終組成は、フッ素樹脂50重量部、フッ素ゴム組成物y50重量部であった。
【0149】
得られたフッ素樹脂組成物を用いて、上記した方法で評価を行なった結果を表2に示す。
【0150】
実施例4
工程Aおよび工程Bにおけるフッ素樹脂/フッ素ゴム組成物yの配合量を表2に示す量に変更した以外は、実施例2と同様にしてフッ素樹脂組成物を得た。
【0151】
なお、このフッ素樹脂組成物の最終組成は、フッ素樹脂70重量部、フッ素ゴム組成物y30重量部であった。
【0152】
得られたフッ素樹脂組成物を用いて、上記した方法で評価を行なった結果を表2に示す。
【0153】
実施例5
工程Aおよび工程Bにおけるフッ素樹脂/フッ素ゴム組成物yの配合量を表2に示す量に変更した以外は、実施例2と同様にしてフッ素樹脂組成物を得た。
【0154】
なお、このフッ素樹脂組成物の最終組成は、フッ素樹脂70重量部、フッ素ゴム組成物y30重量部であった。
【0155】
得られたフッ素樹脂組成物を用いて、上記した方法で評価を行なった結果を表2に示す。
【0156】
比較例1
上記したフッ素樹脂100重量部とフッ素ゴム組成物x100重量部を予備混合した後、二軸押出機に供給して、シリンダー温度260℃およびスクリュー回転数500rpmの条件下に溶融混練し、フッ素樹脂組成物を得た(工程A)。
【0157】
なお、このフッ素樹脂組成物の最終組成は、フッ素樹脂50重量部、フッ素ゴム組成物x50重量部であった。
【0158】
得られたフッ素樹脂組成物を用いて、上記した方法で評価を行なった結果を表2に示す。
【0159】
比較例2
上記したフッ素樹脂100重量部とフッ素ゴム組成物y233.3重量部を温度260℃、スクリュー回転数100rpmの条件下でラボプラストミルにて溶融混練し、フッ素樹脂組成物を得た(工程A)。
【0160】
なお、このフッ素樹脂組成物の最終組成は、フッ素樹脂30重量部、フッ素ゴム組成物y70重量部であった。
【0161】
得られたフッ素樹脂組成物を用いて、上記した方法で評価を行なった結果を表2に示す。
【0162】
比較例3
工程Aにおけるフッ素樹脂/フッ素ゴム組成物yの配合量を表2に示す量に変更した以外は、比較例2と同様にしてフッ素樹脂組成物を得た。
【0163】
なお、このフッ素樹脂組成物の最終組成は、フッ素樹脂50重量部、フッ素ゴム組成物y50重量部である。
【0164】
得られたフッ素樹脂組成物を用いて、上記した方法で評価を行なった結果を表2に示す。
【0165】
比較例4
工程Aにおけるフッ素樹脂/フッ素ゴム組成物yの配合量を表2に示す量に変更した以外は、実施例2と同様にしてフッ素樹脂組成物を得た。
【0166】
なお、このフッ素樹脂組成物の最終組成は、フッ素樹脂70重量部、フッ素ゴム組成物y30重量部である。
【0167】
得られたフッ素樹脂組成物を用いて、上記した方法で評価を行なった結果を表2に示す。
【0168】
【表2】

【0169】
実施例1〜5により得られたフッ素樹脂組成物は、走査型電子顕微鏡(日本電子(株)製)によるモルフォロジー観察により、フッ素樹脂が連続相を形成しかつ架橋フッ素ゴムが分散相を形成する構造を有することがわかった。架橋フッ素ゴムの分散粒子径は、実施例1〜5において、全て20μm以下であった。
【0170】
また、実施例1および比較例1より、一段階(工程Aだけ)で作製したフッ素樹脂/フッ素ゴム組成物x=50/50よりも、二段階(工程Aおよび工程B)にわけて作製したフッ素樹脂/フッ素ゴム組成物x=50/50の方が高い流動性を示すことがわかった。同様に、実施例2〜5および比較例2〜4より、他の組成においても、一段階(工程Aだけ)で作製したフッ素樹脂組成物よりも、多段階(工程Aおよび工程B)にわけて作製したフッ素樹脂組成物の方が高い流動性を示した。また、実施例1および比較例1、実施例2および比較例2、実施例3および比較例3のように、フッ素ゴム組成物の割合が50重量部よりも多いフッ素樹脂組成物においては、多段階(工程Aおよび工程B)にわけて作製したフッ素樹脂組成物の方が低い燃料透過係数を示した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フッ素樹脂の溶融条件下、少なくとも1種のフッ素ゴムを動的に架橋させ、その少なくとも一部が架橋された架橋フッ素ゴムおよび該フッ素樹脂を含む組成物(a)を得る工程A、
該組成物(a)とフッ素ポリマーを溶融混練する工程B、
を含むフッ素樹脂組成物の製造方法。
【請求項2】
工程Bにおいて、フッ素ポリマーがフッ素ゴムであり、組成物(a)の存在下、フッ素ゴムを動的に架橋させ、その少なくとも一部が架橋された架橋フッ素ゴムとすることを特徴とする請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
フッ素ポリマーが、フッ素樹脂である請求項1記載の製造方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の製造方法により得られたフッ素樹脂組成物。
【請求項5】
請求項4記載のフッ素樹脂組成物を用いた成形品。
【請求項6】
請求項4に記載のフッ素樹脂組成物からなる層を含む積層体。
【請求項7】
請求項4に記載のフッ素樹脂組成物からなる層および他の熱可塑性重合体からなる層を有する積層体。
【請求項8】
請求項4に記載のフッ素樹脂組成物からなる層および架橋ゴムからなる層を有する積層体。
【請求項9】
請求項6〜8のいずれかに記載の積層体からなる工業用チューブ。
【請求項10】
請求項6〜8のいずれかに記載の積層体からなる工業用ホース。
【請求項11】
請求項6〜8のいずれかに記載の積層体からなる燃料チューブ。
【請求項12】
請求項6〜8のいずれかに記載の積層体からなる燃料ホース。

【公開番号】特開2007−277348(P2007−277348A)
【公開日】平成19年10月25日(2007.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−103392(P2006−103392)
【出願日】平成18年4月4日(2006.4.4)
【出願人】(000002853)ダイキン工業株式会社 (7,604)
【Fターム(参考)】