説明

フッ素樹脂組成物及び被覆電線

【課題】比較的広い成形温度範囲での被覆押出成形において高速成形を行っても成形不良が生じにくく、表面平滑性に優れた電線、特に発泡電線を得ることができるフッ素樹脂組成物を提供する。
【解決手段】標準比重が2.15〜2.30であるポリテトラフルオロエチレン〔PTFE〕と、テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン系共重合体〔FEP〕とを含み、上記PTFEの含有量は、上記FEP100質量部に対し0.01〜3質量部であり、アルカリ金属の含有量は樹脂組成物の固形分に対して5ppm未満であり、上記FEPを含む水性分散液と上記PTFEを含む水性分散液とを混合したのち凝析することによりフッ素樹脂の共凝析粉末を得る工程(1)と、上記共凝析粉末を溶融押出する工程(2)と、上記PTFEおよび上記FEPの不安定末端基の安定化処理をする工程(3)とを有する方法から得られることを特徴とするフッ素樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フッ素樹脂組成物及び被覆電線に関する。
【背景技術】
【0002】
フッ素樹脂は、耐熱性、耐薬品性、耐溶剤性、絶縁性等の特性に優れているので、溶融押出成形してチューブ、電線被覆、パイプ、フィラメント等の製品を得ることができる。特にテトラフルオロエチレン〔TFE〕/ヘキサフルオロプロピレン〔HFP〕系共重合体〔FEP〕からなるフッ素樹脂は、誘電率、誘電正接が低く優れた絶縁性を有しているので、ケーブル、ワイヤ等の電線被覆用途に好適に用いられる。
【0003】
電線被覆に適したFEPを含む樹脂組成物として、例えば、HFPIが約2.8〜5.3であり、メルトフローレート〔MFR〕が30±3g/10分であり、不安定末端基数が炭素原子数1×10個あたり約50個以下であり、実質的にアルカリ金属塩を含有しないものが提案されている(例えば、特許文献1〜3参照。)。しかしながら、電線を成形する際の温度範囲が非常に狭く、この温度範囲を外れた条件では成形安定性が急激に低下することがある。
FEPを含有するフッ素樹脂組成物として、ナトリウム金属元素の含有量が5〜100ppmであり、特定の標準比重を示すポリテトラフルオロエチレン〔PTFE〕をFEP100質量部に対し0.01〜3質量部含有し、FEPの水性分散液とPTFEの水性分散液とを混合したあと凝析することにより得られるものが提案されている(例えば、特許文献4参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許第7126056号明細書
【特許文献2】米国特許出願公開第2004/0242819号明細書
【特許文献3】米国特許出願公開第2006/0276604号明細書
【特許文献4】国際公開第2006/123694号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、上記現状に鑑み、比較的広い成形温度範囲での被覆押出成形において高速成形を行っても成形不良が生じにくく、表面平滑性に優れた電線、特に発泡電線を得ることができるフッ素樹脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、標準比重が2.15〜2.30であるポリテトラフルオロエチレン〔PTFE〕と、テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン系共重合体〔FEP〕とを含み、上記PTFEの含有量は、上記FEP100質量部に対し0.01〜3質量部であり、アルカリ金属の含有量は樹脂組成物の固形分に対して5ppm未満であり、上記FEPを含む水性分散液と上記PTFEを含む水性分散液とを混合したのち凝析することによりフッ素樹脂の共凝析粉末を得る工程(1)と、上記共凝析粉末を溶融押出する工程(2)と、上記PTFEおよび上記FEPの不安定末端基の安定化処理をする工程(3)とを有する方法から得られることを特徴とするフッ素樹脂組成物である。
【0007】
本発明は、芯線と、上述のフッ素樹脂組成物を上記芯線上に被覆してなる被覆材とを有することを特徴とする被覆電線である。
【0008】
本発明は、芯線と、上述のフッ素樹脂組成物を上記芯線上に被覆してなる被覆材とを有することを特徴とする発泡電線である。
以下に本発明を詳細に説明する。
【0009】
本発明のフッ素樹脂組成物は、
(1)テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン系共重合体〔FEP〕に加え、標準比重が特定範囲内にあるポリテトラフルオロエチレン〔PTFE〕を上述の範囲内で含むので、溶融押出成形時における成形不良を抑制することができる
(2)アルカリ金属を実質的に含有しないので、高温条件下での押出成形を行っても着色や成形不良(スパークアウト、ランプの生成)が生じにくい
という優れた特徴を示す。
上記フッ素樹脂組成物は、FEPの水性分散液とPTFEの水性分散液とから共凝析を行うことにより得られるので、PTFEが凝集しにくく、PTFE粒子がFEP粒子間に均一にムラなく混合している。ゆえに、上記フッ素樹脂組成物は、単にPTFE粉末とFEP粉末との混合により得られる樹脂組成物に比べ、PTFEの凝集に起因するスパークアウト等の成形不良が生じにくいことに加え、上述のPTFEに基づく成形不良抑制の効果を効率よく発揮することができる。
この優れた効果を奏する機構としては、明確ではないが、共凝析を行うことによりFEP粒子相互の間にPTFE粒子が充分に分散する結果、FEP分子とPTFE分子との絡み合いが強まり、樹脂組成物中に重合時に副生する低分子量物が存在していたとしても該低分子量物の表出が抑制されるので、該低分子量体の表出による悪影響を防止できると考えられる。また、アルカリ金属を実質的に含有しない場合に着色や成形不良を防止できる理由としては、着色や成形不良の原因となる熱分解が生じにくくなることが考えられる。すなわち、該金属には樹脂の熱分解反応を促進することがあると考えられるので、アルカリ金属を低減すれば熱分解が防止され、その結果、着色や成形不良を防止することができると考えられる。
【0010】
本発明のフッ素樹脂組成物において、上記FEPは、TFEに由来するTFE単位とHFPに由来するHFP単位を含む含フッ素共重合体であって、溶融加工可能なものである。
【0011】
上記FEPは、TFE単位及びHFP単位を含むものであれば、TFE及びHFP以外のその他の単量体を1種のみ共重合してなるものであってもよいし、2種以上共重合してなるものであってもよい。
【0012】
上記その他の単量体としては、特に限定されず、例えば、パーフルオロビニルエーテル〔PFVE〕、クロロトリフルオロエチレン〔CTFE〕、フッ化ビニル〔VF〕、へキサフルオロイソブテン等が挙げられる。
【0013】
上記PFVEとしては、特に限定されず、例えば、一般式:CF=CF−ORf(式中、Rfは、パーフルオロ脂肪族炭化水素基を表す。)で表されるパーフルオロ不飽和化合物等が挙げられる。
【0014】
本明細書において、パーフルオロ脂肪族炭化水素基とは、炭素原子に結合する水素原子が全てフッ素原子に置換されている脂肪族炭化水素基を意味する。上記パーフルオロ脂肪族炭化水素基は、エーテル酸素を有していてもよい。
【0015】
上記PFVEとしては、例えば、パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)〔PAVE〕が挙げられる。PAVEは、一般式:CF=CFO(CFCF(式中、nは、0〜3の整数を表す。)で表される化合物である。
【0016】
PAVEとしては、パーフルオロ(メチルビニルエーテル)〔PMVE〕、パーフルオロ(エチルビニルエーテル)〔PEVE〕、パーフルオロ(プロピルビニルエーテル)〔PPVE〕、パーフルオロ(ブチルビニルエーテル)等が挙げられ、なかでも、耐クラック性の観点より、PMVE、PEVE、PPVEが好ましく、PPVEがより好ましい。
【0017】
上記FEPとしては、TFE単位とHFP単位とのみからなるもの、又は、TFE単位とHFP単位とPFVE単位とのみからなるものが好ましく、成形不良改善の点で、TFE単位とHFP単位とPFVE単位とのみからなるものがより好ましい。
【0018】
上記FEPは、上記PFVE単位を有する場合、該PFVE単位を1種のみ有するものであってもよいし、2種以上有するものであってもよい。
上記TFE単位、HFP単位及びPFVE単位は、それぞれTFE、HFP及びPFVEに由来し、FEPの分子構造上の一部分であるものである。例えばTFE単位は、−(CFCF)−により表される。
【0019】
上記FEPは、TFE単位:HFP単位の質量比(両単量体合計で100)が、(70〜95):(5〜30)であることが好ましく、(85〜95):(5〜15)であることがより好ましい。
上記FEPは、上記その他の単量体をも共重合したものである場合、該その他の単量体に由来する単量体単位が合計で一般に全単量体単位の10質量%以下である。
【0020】
上記FEPは、TFE単位とHFP単位とPFVE単位とのみからなる場合、TFE単位:HFP単位:PFVE単位の質量比(全単位合計で100)が(70〜95):(4〜20):(0.1〜10)であるものが好ましく、(80〜95):(4.7〜17):(0.3〜3)であるものがより好ましい。
【0021】
上記質量比におけるPFVE単位は、例えばPMVE単位とPPVE単位との2種である場合のように、PFVE単位が2種以上の単位である場合、該2種以上の単位の合計質量に基づく。
【0022】
本明細書において、上記質量比は、TFE単位、HFP単位及びPFVE単位の含有率を、赤外吸収測定装置(パーキンエルマ社製、1760型)を用いて測定することにより得たものである。
【0023】
本発明におけるFEPは、一般に、融点が240℃以上、280℃以下である。240℃未満であると、耐熱性、特に被覆電線成形品の耐熱性が不充分となることがあり、280℃を超えると被覆押出成形が困難となる傾向がある。上記融点は、好ましい下限が250℃、より好ましい下限が255℃であり、好ましい上限が270℃であり、より好ましい上限が265℃である。
【0024】
本明細書において、上記融点は、示差走査熱量計〔DSC〕(セイコー社製)を用い、10℃/分の昇温速度にて測定したときに得られる熱融解曲線における吸熱反応のピーク温度である。
【0025】
上記FEPは、メルトフローレート〔MFR〕が10〜60(g/10分)であるものが好ましい。
上記FEPのMFRが上記範囲内であると、被覆成形時の成形速度を向上することができ、また、得られる組成物から電気的にキャパシタンスの変動が少ない製品を得ることができる。
上記MFRは、成形速度を向上する点で、より好ましい下限が34(g/10分)であり、より好ましい上限が45(g/10分)である。
【0026】
本明細書において、上記MFRは、ASTM D 1238−98又はJIS K 7210に準拠したメルトインデックステスターを用いて、約6gの測定対象を372℃の温度下に荷重5kgにて測定したものである。
【0027】
上記FEPは、TFE及びHFPと、所望によりTFE及びHFP以外のその他の単量体とを用いて重合反応を行い、必要に応じ、濃縮等の後処理を行うことにより調製することができる。
上記重合反応としては、乳化重合等の従来公知の方法が挙げられる。
【0028】
本発明のフッ素樹脂組成物は、上記FEPに加え、更に、PTFEをも含むものである。
【0029】
本発明において、PTFEは、テトラフルオロエチレン〔TFE〕ホモポリマーであってもよいし、TFEと微量共単量体とから得られる変性ポリテトラフルオロエチレン〔変性PTFE〕であってもよい。
【0030】
上記TFEホモポリマーは、モノマーとしてテトラフルオロエチレン〔TFE〕のみを重合することにより得られるものである。
上記変性PTFEにおける微量共単量体としては、TFEとの共重合が可能な含フッ素化合物であれば特に限定されず、例えば、ヘキサフルオロプロペン〔HFP〕等のパーフルオロオレフィン;上述した各種PAVE等のパーフルオロビニルエーテル〔PFVE〕;フルオロジオキソール;三フッ化エチレン;フッ化ビニリデン等が挙げられる。
上記変性PTFEにおいて、上記微量共単量体に由来する微量共単量体単位の全単量体単位に占める含有率は、通常0.001〜1.0質量%の範囲である。
【0031】
本明細書において、「全単量体単位に占める微量共単量体単位の含有率(質量%)」とは、上記「全単量体単位」が由来する単量体、即ち、変性PTFEを構成することとなった単量体全量に占める、上記微量共単量体単位が由来する微量共単量体の質量分率(質量%)を意味する。
【0032】
上記PTFEは、耐熱性、電気特性の点で、標準比重〔SSG〕が2.15〜2.30である。上記SSGは、2.25以下であることが好ましく、2.22以下であることがより好ましい。
PTFEのSSGが低い場合、成形不良を抑制する効果を少量の添加量により発揮することができる。なお、上記SSGが2.15より小さい高分子量のPTFEは、本発明の効果を排除するものではないが、製造上困難であり実際的でない。SSGが高い場合には、添加量を多くすることで上記効果を発現させることが可能となる。
【0033】
上記SSGは、ASTM D4895−89に準拠して、水中置換法に基づき測定した値である。
【0034】
上記PTFEは、乳化重合等の従来公知の方法で重合することができる。
【0035】
本発明のフッ素樹脂組成物中にPTFEの凝集物が存在する場合には電線被覆成形中にスパークアウトが頻繁に発生し不良率を悪化させる結果になる。従って、PTFEの平均一次粒子径は、50〜800nmであることが好ましく、50〜500nmであることがより好ましい。
【0036】
上記PTFEの平均一次粒子径は、固形分0.22質量%となるように水で希釈したポリマーラテックスについて、単位長さに対する波長500nmの投射光の透過率を測定し、予め透過型電子顕微鏡写真における定方向径を測定して得たPTFE数基準長さ平均一次粒子径と上記透過率との検量線に基づいて決定したものである。
【0037】
上記フッ素樹脂組成物において、上記PTFEの含有量は、上記FEP100質量部に対し0.01〜3質量部である。
0.01質量部未満である場合、PTFE添加に基づく成形不良抑制の効果が現れないことがあり、3質量部を超える場合、PTFEの分散不良により電線被覆成形時に被覆切れが頻繁に生じる問題がある。
上記PTFEの含有量は、上記FEP100質量部に対し、好ましい下限が0.03質量部であり、好ましい上限が2質量部、より好ましい上限が1質量部である。
【0038】
本発明のフッ素樹脂組成物は、アルカリ金属の含有量が該樹脂組成物の固形分に対し5ppm未満である。
上記含有量が該樹脂組成物の固形分に対し5ppm以上であると、高温における成形の際にフッ素樹脂組成物の分解による着色や成形不良が生じるおそれがある。
上記含有量は、該樹脂組成物の固形分に対し、好ましい上限が3ppmであり、より好ましい上限が1ppmである。
【0039】
本明細書において、上記アルカリ金属の含有量は、灰化法にて測定したものである。上記灰化法は、カリウム元素以外の該含有量については、試料2gに0.2質量%硫酸カリウム水溶液2g及びメタノール約2gを加え、580℃、30分間加熱して樹脂を焼失させ、得られた残渣について0.1N塩酸20mlを用いた洗浄を2回行い(10ml×2回)、該洗浄に使用した0.1N塩酸を原子吸光測定装置(HITACHI Z−8100形偏光ゼーマン原子吸光分光光度計)にて測定する条件下で行ったものであり、カリウム元素含有量については、上記条件において、0.2質量%硫酸カリウム水溶液を0.2質量%硫酸ナトリウム水溶液に変更して行ったものである。
【0040】
本発明のフッ素樹脂組成物は、アルカリ金属の含有量が上述の範囲内にあれば、上記FEPと上記PTFEとに加え、充填剤、安定剤等、公知の添加剤を適宜配合してなるものであってよい。
【0041】
本発明のフッ素樹脂組成物は、MFRが10〜60g/10分であることが好ましい。
上記フッ素樹脂組成物は、MFRがこのような範囲内にあると、高速にて電線被覆を行っても線径ブレが少ない被覆電線を得ることができる。また、細線の電線であっても成形可能である。
【0042】
本発明のフッ素樹脂組成物は、MFRが34g/10分以上であることがより好ましく、45g/10分以下であることがより好ましい。
【0043】
本発明のフッ素樹脂組成物においてフッ素樹脂は、−COOH、−CHOH、−COF、−CONH等の熱的に不安定な末端基(以下、このような末端基を「不安定末端基」ともいう。)が少ないか又は含まないことが好ましい。
上記不安定末端基は、炭素数1×10個あたり50個以下であることが好ましい。50個を越えると、成形不良が生じるおそれがある。上記不安定末端基は、20個以下であることがより好ましく、10個以下であることが更に好ましい。
本明細書において、上記不安定末端基数は赤外吸収スペクトル測定から得られた値である。
上記不安定末端基は、後述のフッ素化処理等の安定化処理により低減することができる。
【0044】
本発明のフッ素樹脂組成物は、上述のFEPを含む水性分散液と上述のPTFEを含む水性分散液とを混合したのち凝析することによりフッ素樹脂の共凝析粉末を得る工程(1)と、上記共凝析粉末を溶融押出する工程(2)と、上記PTFEおよび上記FEPの不安定末端基の安定化処理をする工程(3)とを有する方法から得られる。
【0045】
上記工程(1)は、FEPからなる水性分散液とPTFEからなる水性分散液とを混合したのち凝析する工程である。
【0046】
上記各ポリマー水性分散液におけるポリマー固形分濃度としては、特に限定されず、使用する各ポリマーの種類、量に応じて適宜設定することができるが、1〜70質量%であることが好ましく、3〜50質量%であることがより好ましい。
【0047】
上記各ポリマー水性分散液を構成する水性媒体は、水を含むものであればよいが、水溶性アルコール等の水溶性有機溶媒をも含むものであってもよいし、該水溶性有機溶媒を含まないものであってもよい。
なお、上記各ポリマー水性分散液は、分散性をよくするため、従来公知の界面活性剤等を、得られる樹脂の成形性を損なわない範囲で含有することが好ましい。
【0048】
上記共凝析は、PTFEがFEP100質量部に対し0.01〜3質量部となるよう混合するものであれば、適宜従来の方法にて行うことができる。
上記共凝析において、上記2種のポリマー水性分散液を混合して得られる混合液は、全ポリマーの固形分濃度が5〜40質量%となるよう調整することが好ましい。
【0049】
上記共凝析における凝析法は、特に限定されず、例えば、硝酸、塩酸等を凝析剤として使用する凝析方法が挙げられる。また、凝析剤を使用せず、攪拌等、機械的に凝析させる手法も挙げられる。
上記共凝析後に回収する湿潤粉末は、乾燥することが好ましい。該乾燥は、100〜240℃の温度下において2〜48時間行うことが好ましい。このとき、減圧にする、乾燥したガスをフローさせる等の乾燥を促進させる手法を取ることができる。
【0050】
上記工程(2)は、上記工程(1)から得られた共凝析粉末を溶融押出する工程である。
【0051】
上記工程(2)は、一般にペレット化可能な押出条件であれば、押出条件を適宜設定して行うことができる。
上記工程(2)において、例えば2軸スクリュー押出機にてペレット化を行うことができる。このようなペレット化を行う場合、シリンダーの設定温度は280〜430℃であることが好ましい。
【0052】
本発明のフッ素樹脂組成物は、上記工程(1)、(2)に加え、上記PTFE及び上記FEPの不安定末端基の安定化処理をする工程(3)を経て得るものである。
このような安定化処理の方法として、例えば、上記溶融押出の前に上記共凝析粉末とフッ素含有化合物とを接触させて安定化処理を行う方法や、上記溶融押出の後に得られたフッ素樹脂のペレットとフッ素含有化合物とを接触させて安定化処理を行う方法が挙げられる。
上記安定化処理としては、フッ素樹脂とフッ素含有化合物とを接触させるフッ素化処理が挙げられる。このような安定化処理として、例えば、工程(2)から得られたペレットとフッ素含有化合物とを接触させる処理が挙げられる。
上記工程(3)は、PTFEおよびFEPをフッ素ガスと接触させる工程であることが好ましい。
【0053】
上記フッ素含有化合物としては特に限定されないが、フッ素化処理条件下にてフッ素ラジカルを発生するフッ素ラジカル源が挙げられる。上記フッ素ラジカル源としては、Fガス、CoF、AgF、UF、OF、N、CFOF、及び、フッ化ハロゲン(例えばIF、ClF)等が挙げられる。
上記Fガスは、100%濃度のものであってもよいが、安全性の面から不活性ガスと混合し5〜50質量%、好ましくは15〜30質量%に希釈して使用することが好ましい。上記不活性ガスとしては、窒素ガス、ヘリウムガス、アルゴンガス等が挙げられるが、経済的な面より窒素ガスが好ましい。
上記フッ素化処理の条件は、特に限定されないが、通常フッ素樹脂組成物の融点以下、好ましくは20〜220℃、更に好ましくは100〜200℃の温度下で行うことができる。上記フッ素化処理は、一般に5〜30時間、好ましくは10〜20時間行う。
【0054】
本発明のフッ素樹脂組成物は、溶融張力が0.08〜0.16Nであるものが好ましい。
上記フッ素樹脂組成物は、溶融張力を上記特定範囲とすることで、電線被覆押出成形時において押出口にたとえ樹脂微小塊が生じたとしても、樹脂微小塊が大きく成長してランプを形成することを防止することができる。
上記溶融張力は、より好ましい下限が0.1Nである。
【0055】
上記溶融張力は、後述するように、キャピログラフ(ROSAND社製)を用い、約50gの樹脂を約385℃の内径15mmのシリンダーに投入し、36.5(1/s)の剪断速度の下で内径2mm、長さ20mmのオリフィスを通して押出すことにより得られたストランドについて測定して得られた値である。
【0056】
本発明のフッ素樹脂組成物は、成形性がよく、成形不良が生じにくいことに加え、良好な耐熱性、耐薬品性、耐溶剤性、絶縁性、電気特性等を有するので、例えば、電線、発泡電線、ケーブル、ワイヤ等の被覆材、チューブ、フィルム、シート、フィラメント等の種々の成形品の製造に供することができる。なかでも、電線の被覆押出成形に好適に用いることができる。
【0057】
本発明のフッ素樹脂組成物は、電線の被覆押出成形において被覆成形速度を低下させることなく、被覆切れ、スパークアウト、ランプ(Lump)発生、キャパシタンスの変動等、従来問題となっていた成形不良を大幅に低減することが可能である。
上記フッ素樹脂組成物は、特に発泡電線の押出成形に使用する場合、均一な発泡(空隙率)が得られるためキャパシタンスの安定性が良好で、かつ表面状態がきわめて良好な電線を得ることができる。また、高速での成形安定性に優れ、より細線の発泡電線を得ることができる。これは、張力の向上により、破泡しにくくなっていることと、樹脂切れを起こしにくくなっているためと考えられる。
【0058】
芯線と、上述の本発明のフッ素樹脂組成物を上記芯線上に被覆してなる被覆材とを有する被覆電線もまた、本発明の一つである。
【0059】
本発明の被覆電線としては、芯線と上記被覆材とからなるものであれば特に限定されず、例えばケーブル、ワイヤ等が挙げられる。
上記被覆電線は、なかでも、通信用絶縁電線に好適に用いられ、例えばLAN用ケーブル、コンピューターとその周辺機器とを接続するケーブル類等のデータ伝送用ケーブルが挙げられ、例えば建物の天井裏の空間(プレナムエリア)等において配線されるプレナムケーブルとしても好適である。
本発明の被覆電線としては、同軸ケーブル、高周波用ケーブル、フラットケーブル、耐熱ケーブル等も挙げられる。
【0060】
本発明の被覆電線における芯線の材料としては、特に限定されないが、銅、銀等の金属導体の材料を用いることができる。
【0061】
本発明の被覆電線は、芯線のサイズが、直径2〜80milであるものが好ましい。
上記被覆電線における被覆材は、本発明のフッ素樹脂組成物からなるものであれば特に限定されず、特に本発明のフッ素樹脂組成物におけるFEPが、パーフルオロポリマーであることが好ましく、TFE単位と、HFP単位及びPFVE単位とからなるものがより好ましく、TFE単位と、HFP単位及びPFVE単位とからなるものであって、融点が240℃以上、280℃以下であるものが更に好ましい。
上記被覆電線は、上記被覆材の厚みが1.0〜20milであるものが好ましい。
【0062】
本発明の被覆電線は、上記被覆材の周りに他層を形成してなるものであってもよいし、他層を芯線の周りに被覆させ、更に他層の周りに上記被覆材を形成してなるものであってもよい。
【0063】
上記他層は、特に限定されずTFE/PAVE共重合体、TFE/エチレン系共重合体、フッ化ビニリデン系重合体、ポリエチレン〔PE〕等のポリオレフィン樹脂、ポリ塩化ビニル〔PVC〕等の樹脂からなる樹脂層であってよい。なかでも、コスト的にPEとPVCが好ましい。
上記他層の厚みは特に限定されず、1mil〜20milとすることができる。
【0064】
芯線と、上述のフッ素樹脂組成物を上記芯線上に被覆してなる被覆材とを有することを特徴とする発泡電線もまた、本発明の一つである。
本発明の発泡電線は、上述のフッ素樹脂組成物を被覆材とするものであり、この被覆層は、発泡が均一であり、表面状態(表面平滑性)に優れている。また、高速での成形安定性に優れ、より細い発泡電線を得ることができる。
【0065】
上記発泡電線における芯線や被覆層の厚み、その他の層は、上述の被覆電線と同様である。
上記発泡電線は、芯線と発泡被覆層の間に非発泡層を挿入した2層構造(スキン−フォーム)や、外層に非発泡層を被覆した2層構造(フォーム−スキン)、更にはスキン−フォームの外層に非発泡層を被覆した3層構造(スキン−フォーム−スキン)であっても良い。
上記発泡電線の非発泡層は特に限定されず、TFE/PAVE共重合体、TFE/エチレン系共重合体、フッ化ビニリデン系重合体、ポリエチレン〔PE〕等のポリオレフィン樹脂、ポリ塩化ビニル〔PVC〕等の樹脂からなる樹脂層であってよい。上記非発泡層としては、層間接着性の点でFEPが好ましい。
【0066】
上記発泡電線は、上述のフッ素樹脂組成物を芯線上に被覆すること以外は、従来と同様の方法で作成することができる。また、好ましい押出成形条件は、使用する樹脂組成物の組成や芯線のサイズに応じて適宜選択することができる。
【0067】
上記発泡電線の製造に使用する発泡核剤としては特に限定されないが、例えば、グラファイト、炭素繊維、シリカ、アルミナ、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、酸化スズ、酸化亜鉛、酸化アンチモン、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、ガラス、タルク、マイカ、雲母、窒化ホウ素〔BN〕、窒化アルミニウム、リン酸カルシウム等が挙げられる。
【発明の効果】
【0068】
本発明のフッ素樹脂組成物は、上述の構成よりなるので、押出成形性に優れており、高速押出被覆が可能である。
本発明の被覆電線及び発泡電線は、上記フッ素樹脂組成物を被覆材とするので、成形不良が少なく、表面平滑性に優れていることから、電気特性が良い。
【発明を実施するための形態】
【0069】
以下に実施例及び比較例を掲げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明は本実施例及び比較例のみに限定されるものではない。
なお、特に説明しない限り、「部」は「質量部」を表す。
【0070】
製造例1(PTFEホモポリマーディスパージョン)
アンカー型攪拌翼と温度調節用ジャケットを備えた内容量100Lのステンレス鋼製オートクレーブに、脱イオン水49Lと融点62℃の固形パラフィンワックス1.4kg及びパーフルオロオクタン酸アンモニウム〔PFOA〕73gを仕込み、85℃に加温しながら窒素ガスで3回、テトラフルオロエチレン〔TFE〕ガスで2回系内を置換して酸素を除いた後、内圧が6.5kg/cmGとなるまでTFEを圧入した。続いて水330mlに過硫酸アンモニウム〔APS〕313mgを溶かしたAPS水溶液、及び水330mlにジコハク酸パーオキサイド〔DSP〕を5gを溶かしたDSP水溶液をTFEと共に圧入し、オートクレーブ内圧を8.0kg/cmGにした。反応は加速的に進行するが、反応温度85℃、オートクレーブ内圧8.0kg/cmGを保つようにTFEガスを連続的に供給した。
APS水溶液の添加後、反応で消費されたTFEが23.8kgに達した時点でTFEの供給と攪拌を停止し、直ちにオートクレーブ内のガスを常圧まで放出して内容物(ラテックス)を取り出した。ポリマーの平均一次粒子径は、300nmであった。
得られたラテックスの一部を200℃で1時間蒸発乾固させ、得られた固形分に基づきポリマー濃度を計算すると32.5質量%であった。また、ポリマーは、標準比重が2.173であった。
【0071】
製造例2(変性PTFEディスパージョン)
製造例1と同様の装置において脱イオン水49Lと融点56℃の固形パラフィンワックス1.6kg及びPFOA50gを仕込み、70℃に加温しながら窒素ガスで3回、TFEガスで2回系内を置換して酸素を除いた後、TFEを内圧が7.0kg/cmGとなるまで圧入した。次にパーフルオロ(プロピルビニルエーテル)〔PPVE〕5g、続いて、水330mlにAPS187mgを溶かしたAPS水溶液及び、水330mlにDSP6gを溶かしたDSP水溶液をTFEで圧入し、オートクレーブ内圧を8.0kg/cmGにした。反応は加速的に進行するが、反応温度を70℃に、攪拌速度を280rpmに一定に保つようにした。TFEはオートクレーブの内圧を常に8.0kg/cmGを保つように連続的に供給した。
【0072】
APS水溶液の添加後、反応で消費されたTFEが21.7kgに達した時点でTFEの供給と攪拌を停止し、直ちにオートクレーブ内のガスを2.0kg/cmGまで放出し、次いで予め調製したクロロトリフルオロエチレン〔CTFE〕とTFEとの混合モノマー(CTFE含有量1.5モル%)を供給し、内圧8.0kg/cmG、攪拌速度280rpmに維持して、引き続き反応を行った。
混合モノマーの消費が2.1kgになった時点で混合モノマーの供給と攪拌を停止し、直ちにオートクレーブ内のガスを常圧まで放出し内容物(ラテックス)を取り出した。ポリマーの平均一次粒子径は295nmであった。
【0073】
得られたラテックスの一部を200℃で1時間蒸発乾固して、得られた固形分に基づきポリマー濃度を計算すると31.9質量%であり、ポリマーの標準比重は2.171であった。
また、得られたポリマーは、PPVE含量が0.02質量%であり、CTFE含量が0.09質量%であった。
【0074】
製造例3
攪拌機付き横型ステンレススチール製オートクレーブ(容積1000L)を予め脱気しておき、脱イオン水600L、10質量%フッ素系界面活性剤(C15COONH)水溶液60kgを仕込み、窒素置換及び真空脱気操作を3回行った。その後、HFPモノマー100kgを仕込み、更に、TFEとHFPとの混合モノマー(TFE:HFP=86:14(質量%))を仕込み、攪拌速度200rpmにて攪拌しながら、徐々に温度を上げ、オートクレーブ内雰囲気を95℃とし、1.5MPaGまで昇圧した。重合開始剤として10質量%APS水溶液を70kg仕込み、反応を開始させた。反応系内の1.5MPaGを維持するよう、上記混合モノマーを連続的に供給した。重合開始から30分後、攪拌を停止し、オートクレーブ内のガスを常圧まで放出して重合反応を終了し、ポリマー固形分濃度4.5質量%のTFE/HFP2元ポリマー乳化分散体を得た。
【0075】
別途、同様のステンレススチール製オートクレーブを予め脱気しておき、脱イオン水600L、上記2元ポリマー乳化分散体を20kg仕込み、窒素置換及び真空脱気操作を3回行った。その後HFPモノマー138kgを仕込み、その後PPVE4kgを仕込み、攪拌速度200rpmにて攪拌しながら徐々に温度を上げ、オートクレーブ内雰囲気を95℃にし、TFEとHFPとの混合モノマー(TFE:HFP=87.3:12.7(質量%))を圧入することにより4.2MPaGに昇圧した。重合開始剤として10質量%APS水溶液を2.8kg仕込み、重合反応を開始させた。反応開始後、10質量%APS水溶液を22g/分の速度で連続的に追加した。反応中、上記混合モノマー量が供給モノマー全量の25質量%、50質量%及び75質量%に達した時点で、PPVEを各回180g仕込んだ。系内の圧力を4.2MPaGに維持するよう、上記混合モノマーを連続的に供給した。重合開始から51分後、10質量%APS水溶液の追加を止め、攪拌を停止し、オートクレーブ内のガスを常圧まで放出し、重合反応を終了した。得られたTFE/HFP/PPVEの3元ポリマー乳化分散体(ラテックス)の一部を200℃で1時間蒸発乾固して、得られた固形分に基づきポリマー濃度を計算すると20.2質量%であった。
【0076】
得られたポリマーは、MFRが35.7g/10分、組成比(質量%)が、TFE/HFP/PPVE=87.6/11.5/0.9、融点が257℃であった。
【0077】
なお、各製造例から得られたポリマーのデータは、以下の方法にて測定した。
1.メルトフローレート〔MFR〕
ASTM D 1238−98に準拠し、メルトインデックステスター(東洋精機製作所社製)を用い、約6gの樹脂を372℃に保たれたシリンダーに投入し、5分間放置して温度が平衡状態に達した後、5kgのピストン荷重下で直径2mm、長さ8mmのオリフィスを通して樹脂を押し出して、単位時間(通常10〜60秒)に採取される樹脂の質量(g)を測定する。同一試料について3回ずつ測定を行い、その平均値を10分間当たりの押出量に換算した値(単位:g/10分)を測定値とした。
【0078】
2.標準比重〔SSG〕
ASTM D4895−89に準拠して、水中置換法に基づき測定した。
【0079】
3.融点
示差走査熱量計〔DSC〕(セイコー社製)を用い、10℃/分の昇温速度で昇温した時の融解ピークを記録し、極大値に対応する温度を融点とした。
4.1重量%熱分解温度
熱重量測定装置〔TGA〕(島津社製)を用い、10℃/分の昇温速度で昇温した時の重量減少を記録し、1重量%が減少した温度を1重量%熱分解温度とした。
【0080】
5.組成
赤外吸収測定装置(パーキンエルマ社製、1760型)を用いて測定した。
CTFE含量は、赤外吸収スペクトルバンドの957cm−1の吸光度に対する2360cm−1の吸光度の比に0.58を乗じた値をポリマー中の質量%と定めたものであり、PPVEの含量は、赤外吸収スペクトルバンドの995cm−1の吸光度に対する2360cm−1の吸光度の比に0.95を乗じた値をポリマー中の質量%と定めた。
【0081】
6.平均一次粒子径
固形分0.22質量%になるように水で希釈したポリマーラテックスについて、単位長さに対する波長500nmの投射光の透過率を測定し、予め透過型電子顕微鏡写真における定方向径を測定して得たPTFE数基準長さ平均一次粒子径と上記透過率との検量線に基づいて決定した。
【0082】
7.末端基数の測定
赤外吸収測定装置(パーキンエルマ社製、1760型)及びPerkin Elmer Spectrum for Windows(登録商標)version:1.4Cを使用して分析、解析を行った。
当該樹脂を、300℃の温度で圧縮成形し、厚みが250〜300μmフィルムを作成する。このフィルムの赤外吸収スペクトルを測定し、そのフィルムに存在する末端基を含有しないサンプルの赤外スペクトルと比較して、末端基の種類を決定し、それらの差スペクトルから次式により接着末端の個数を算出する。
【0083】
末端基の個数(炭素10個あたり)=l・k/t
l:吸光度
k:補正係数
t:フィルム厚み(mm)
【0084】
対象となる末端基の補正係数を以下に示す。これらの補正係数は炭素10個あたりの末端基を計算するためにモデル化合物の赤外吸収スペクトルから決定する。赤外吸収スペクトルは、赤外吸収測定装置(パーキンエルマ社製、1760型)を用いて、32回スキャンして測定する。
【0085】
【表1】

【0086】
実施例1
製造例3で得られたTFE/HFP/PPVEの3元ポリマー乳化分散体(以下、本乳化分散体を「FEPディスパージョン」と称することがある。)を、容量3000Lの攪拌機付オートクレーブに移し、攪拌しながら脱イオン水を加えてポリマー固形分濃度を10質量%にする。次いで攪拌下、製造例1で得られたPTFEディスパージョンを上記TFE/HFP/PPVEの3元ポリマー100部に対して固形分換算で0.07部となる量を添加した。次いで60%硝酸40kgを投入し、攪拌速度40rpmにて凝析を行い、固体相と液体相が分離したのち、水分を取り除いた。脱イオン水を用いて洗浄後、得られた白色粉末を、170℃にて20時間の対流空気炉の中で水分を除去してパーフルオロポリマー(A)白色粉末を得た。
【0087】
次いで、このパーフルオロポリマー(A)白色粉末を2軸スクリュー型押出機(日本製鋼所製)にて溶融ペレット化した。本押出機は、軸径32mm、L/D=52.5、原料投入側より供給部、可塑化部、ベント部、定量部各部位から構成されている。スクリュー回転数200rpm、15kg/時間の速度で原料を供給し、樹脂ペレットを得た。更に、該ペレットを、窒素ガスで希釈した25容量%フッ素ガスと200℃の温度下で18時間接触させて、フッ素樹脂組成物を得た。
【0088】
更に、得られたフッ素樹脂組成物について、融点、1重量%熱分解温度及びMFRを上述の方法にて測定し、更に以下の測定を行った。
【0089】
(溶融張力)
キャピログラフ(ROSAND社製)を用い、樹脂ペレット約50gを385℃±0.5℃に保たれた内径15mmのシリンダーに投入し、10分間放置してフッ素樹脂組成物の温度を均一させた後、剪断速度36.5(1/s)下で、内径2mm(誤差0.002mm以下)、長さ20mmのオリフィスを通して押出すことによりストランドを得た。
更に、上記ストランドを、オリフィス出口の真下45cmの位置に置かれた滑車に通し、斜め上方60°の角度に引き上げ、オリフィス出口とほぼ同じ高さにあるロールに巻きつけた。ロールの引き取り速度を5m/分から500m/分まで5分間かけて上昇させる条件において測定した張力の最大値を溶融張力とした。
【0090】
次いで、得られたフッ素樹脂組成物を被覆材として以下の電線被覆を行い、電線被覆押出成形中に、以下の手順にてオンラインで成形評価した。
【0091】
電線被覆成形条件は以下の通りである。
(1)芯線:軟銅線AWG24(American Wire Gauge)芯線径20.1mil
(2)被覆厚み:7.2mil
(3)被覆電線径:34.5mil
(4)電線引取速度:2000フィート/分
(5)溶融成形(押出)条件:
・シリンダー軸径=2インチ
・L/D=30の単軸押出成形機
・ダイ(内径)/チップ(外径)=0.345インチ/0.187インチ
・押出機の設定温度:バレル部Z1(340℃)、バレル部Z2(360℃)、バレル部Z3(370℃)、バレル部Z4(385℃)、バレル部Z5(390℃)、クランプ部(400℃)、アダプター部(410℃)、クロスヘッド部(415℃)、ダイ部(415℃)に、芯線予備加熱を140℃に設定した。
・成形時の溶融メルトコーン長=3.7〜4.0mm
【0092】
1.スパークアウトの測定
約10m空冷ゾーンと水冷ゾーンで冷却された後に、スパーク検知器(Model HF−20−H、CLINTON INSTRUMENT COMPANY社製)を用いて、3時間の成形において樹脂で被覆されていない部分を測定電圧2.5KVにて測定し、スパークの発生する回数として求めた。
【0093】
2.ランプサイズ(高さ)と発生頻度の測定
ランプ検知器KW32TRIO(ZUMBACH社製)を用いて3時間の成形で発生する10mil以上の大きさのランプの発生頻度を測定した。
【0094】
3.線径ブレ測定
外径測定器ODAC 15XY(ZUMBACH社製)を用いて外径(OD)を3時間測定し、工程能力指数〔Cp〕として算出した。なお、Cpは、USYS2000(ZUMBACH社製)にて、線径上限(USL)を上記被覆電線径34.5milより0.5mil高く、下限(LSL)を上記被覆電線径より0.5mil低く設定して、得られた外径データから解析した。
【0095】
4.キャパシタンスぶれの測定
キャパシタンス測定器CAPAC HS(Type:MR20.50HS、ZUMBACH社製)を用いて3時間測定し、工程能力指数〔Cp〕として算出した。なお、Cpは、逐次USYS 2000(ZUMBACH社製)に蓄え、上限(USL)を+1.0(pf/inch)、下限(LSL)を−1.0(pf/inch)に設定して、解析した。
【0096】
5.Die−Droolの発生量
3時間成形における発生量を目視判定した。評価基準を以下に示す。
【0097】
微少 Die−Droolが確認できない、又はほとんど確認できない。
少 Die−Droolが少量確認できる。
多 Die−Droolが多量に確認できる。
【0098】
実施例2
PTFEディスパージョンの添加量を上記TFE/HFP/PPVEの3元ポリマー100部に対して固形分換算で0.15部に変更した以外は、実施例1と同様に操作を行い、フッ素樹脂組成物を得、電線被覆成形評価を行った。
【0099】
実施例3
FEPディスパージョンのMFRを43g/10分であるものに変更した以外は、実施例1と同様に操作を行い、フッ素樹脂組成物を得、電線被覆成形評価を行った。
【0100】
実施例4
PTFEディスパージョンを製造例2で得たものに変更した以外は、実施例1と同様に操作を行い、フッ素樹脂組成物を得、電線被覆成形評価を行った。
【0101】
比較例1
PTFEディスパージョンを添加しないこと以外は実施例1と同様に操作を行い、フッ素樹脂組成物を得、電線被覆成形評価を行った。
【0102】
比較例2
製造例1のPTFEディスパージョンをアンカー型攪拌翼と邪魔板を備えたステンレス製凝析槽に移し、PTFEディスパージョンの比重が1.075になるように水を加え、温度を20℃に調節した後、直ちに60%硝酸を添加すると同時に攪拌しポリマーを凝析し、水と濾別し、再度水を入れ洗浄と同時に整粒し、更に、水を濾別し、140℃で24時間乾燥させてPTFEファインパウダーを得た。
得られたPTFEファインパウダーは、見掛け密度が0.44g/mlであり、二次粒子の平均粒子径が475μmであった。
別途、実施例1において、PTFEディスパージョンを添加しないで得たパーフルオロポリマー(B)白色粉末(TFE/HFP/PPVEの3元ポリマー)を得た。
【0103】
次に、攪拌機とニーディングブロックとを備えた粉末混合機にパーフルオロポリマー(B)白色粉末100部に対して固形分換算で0.07部となるように上記PTFEファインパウダーを添加し、30分予備混合を行った後、実施例1と同様にペレット化を行いフッ素樹脂組成物を得、電線被覆成形評価を行った。
【0104】
比較例3
フッ素化処理を行わず、国際公開第2006/123694号パンフレット記載と同様の方法でNaCOを最終濃度30ppmとなるように添加し、湿潤熱処理を行ったこと以外は実施例1と同様に操作を行い、フッ素樹脂組成物を得、電線被覆成形評価を行った。
【0105】
実施例5
溶融ペレット化後に窒素ガスで希釈した25容量%フッ素ガスと200℃の温度下で3時間接触させたこと以外は実施例1と同様に操作を行い、フッ素樹脂組成物を得、電線被覆成形評価を行った。
【0106】
各実施例及び各比較例の結果を表2に示す。
【表2】

【0107】
融点及び1重量%熱分解温度に関する各結果より、本発明のフッ素樹脂組成物が耐熱性に優れることがわかった。
実施例1〜4から得られた電線は、何れもランプ発生、及びスパークアウトが少なく、Die−Droolの発生量が微少であり、線径及びキャパシタンスが安定であることが分かった。
【0108】
実施例6
実施例1で得られたフッ素樹脂組成物と窒化ホウ素(BN、グレードSHP−325、平均粒子径10.3μm、カーボランダム社製)とを、窒化ホウ素濃度が7.5質量%となるように混合して作成したマスターバッチペレットと、実施例1のフッ素樹脂組成物のペレットとを、マスターバッチペレット:実施例1のペレット=1:9の割合で混合し、下記の条件にて発泡電線成形を行った。
【0109】
電線被覆成形条件は以下の通りである。
(1)芯線:軟銅線、芯線径0.7mm
(2)被覆厚み:0.2mm
(3)被覆電線径:1.1mm
(4)電線引取速度:1000フィート/分
(5)窒素導入圧:34.0MPa
(6)溶融成形(押出)条件:
・シリンダー軸径=35mm
・L/D=30の単軸押出成形機
・ダイ(内径)/チップ(外径)=4.7mm/2.2mm
・押出機の設定温度:バレル部Z1(330℃)、バレル部Z2(340℃)、バレル部Z3(345℃)、バレル部Z4(350℃)、バレル部Z5(350℃)、クランプ部(340℃)、アダプター部(340℃)、クロスヘッド部(335℃)、ダイ部(330℃)に、芯線予備加熱を140℃に設定した。
・成形時の溶融メルトコーン長=2.0〜2.5mm
【0110】
発泡電線成形は、連続で1時間行い、実施例1に示したものと同様に、スパークアウト、線径ぶれ、キャパシタンスぶれ、及びDie−Droolの発生量を観測した。更に、得られた発泡電線について下記の方法で発泡率及び平均泡径を測定し、表面状態を観察した。
【0111】
1.発泡率
発泡電線の被覆を導体から約50cmはがし、その外径、内径、長さから体積を求め、その質量を測定し、それらの商(該質量/該体積)より比重(d:g/cm)を求めた。
非発泡FEP真比重(2.15g/cm)を用い、下記の式より発泡率を求めた。
発泡率=(1−d/2.15)×100(%)
【0112】
2.平均泡径
電線断面のSEM画像を撮影し、各泡の直径を測定し、算術平均することにより、平均泡径を求めた。
【0113】
3.表面状態
被覆電線の表面を素手で走査し、その時手に伝わるひっかかり(突起)の程度で評価を行った。評価基準を以下に示す。
【0114】
極めて良好 ひっかかりがない。
良好 少しひっかかりがある。
不良 かなりひっかかりがある。
【0115】
実施例7
実施例3のフッ素樹脂組成物のペレットを使用した以外は実施例6と同様に操作を行い、発泡電線成形を行った。
【0116】
比較例4
比較例1のフッ素樹脂組成物のペレットを使用した以外は実施例6と同様に操作を行い、発泡電線成形を行った。
【0117】
比較例5
比較例3のフッ素樹脂組成物のペレットを使用した以外は実施例6と同様に操作を行い、発泡電線成形を行った。
【0118】
実施例8
実施例5のフッ素樹脂組成物のペレットを使用した以外は実施例6と同様に操作を行い、発泡電線成形を行った。
各発泡電線における実施例及び各比較例の結果を表3に示す。
【0119】
【表3】

【0120】
実施例6及び7の発泡電線は、何れもDie−Droolの発生量が微小であり、線径及びキャパシタンスが安定であることが分かった。また、同等の発泡率でありながら平均泡径が小さく、電線の表面状態が極めて良好であることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0121】
本発明のフッ素樹脂組成物は、上述の構成よりなるので、押出成形性に優れており、高速押出被覆が可能である。このため、被覆電線、特に発泡電線の被覆材として有用である。
本発明の被覆電線及び発泡電線は、上記フッ素樹脂組成物を被覆材とするので、成形不良が少なく、電気特性に優れている。なかでも、発泡電線は表面状態(表面平滑性)が良好で、かつキャパシタンスが均一であり、電気特性が良い。
【0122】
関連出願との相互参照
この出願は、2007年10月4日に出願された米国仮出願番号第60/977,468号の35U.S.C.§119(e)に基づく特典を請求している。この特許の内容全体が、参照して本明細書に組込まれる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
標準比重が2.15〜2.30であるポリテトラフルオロエチレン〔PTFE〕と、テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン系共重合体〔FEP〕とを含み、
前記PTFEの含有量は、前記FEP100質量部に対し0.01〜3質量部であり、アルカリ金属の含有量は樹脂組成物の固形分に対して5ppm未満であり、
前記FEPを含む水性分散液と前記PTFEを含む水性分散液とを混合したのち凝析することによりフッ素樹脂の共凝析粉末を得る工程(1)と、前記共凝析粉末を溶融押出する工程(2)と、前記PTFEおよび前記FEPの不安定末端基の安定化処理をする工程(3)とを有する方法から得られることを特徴とするフッ素樹脂組成物。
【請求項2】
前記安定化処理をする工程(3)はPTFEおよびFEPをフッ素ガスと接触させる工程である請求項1記載のフッ素樹脂組成物。
【請求項3】
不安定末端基が炭素数1×10個あたり50個以下である請求項1〜2のいずれか1項に記載のフッ素樹脂組成物。
【請求項4】
372℃におけるメルトフローレート〔MFR〕が10〜60g/10分である請求項1〜3のいずれか1項に記載のフッ素樹脂組成物。
【請求項5】
372℃におけるメルトフローレート〔MFR〕が34〜60g/10分である請求項1〜3のいずれか1項に記載のフッ素樹脂組成物。
【請求項6】
372℃におけるメルトフローレート〔MFR〕が34〜45g/10分である請求項1〜3のいずれか1項に記載のフッ素樹脂組成物。
【請求項7】
PTFEは、平均一次粒子径が50〜800nmである請求項1〜6のいずれかに記載のフッ素樹脂組成物。
【請求項8】
芯線と、請求項1〜7のいずれか1項に記載のフッ素樹脂組成物を前記芯線上に被覆してなる被覆材とを有することを特徴とする被覆電線。
【請求項9】
芯線と、請求項1〜7のいずれか1項に記載のフッ素樹脂組成物を前記芯線上に被覆してなる被覆材とを有することを特徴とする発泡電線。

【公表番号】特表2010−539252(P2010−539252A)
【公表日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−523715(P2010−523715)
【出願日】平成20年9月24日(2008.9.24)
【国際出願番号】PCT/JP2008/067777
【国際公開番号】WO2009/044753
【国際公開日】平成21年4月9日(2009.4.9)
【出願人】(000002853)ダイキン工業株式会社 (7,604)
【Fターム(参考)】