説明

フューエルデリバリ及びその製造方法

【課題】プレス加工によって形成されたフューエルデリバリであっても、製造作業が容易なフューエルデリバリ、及び、その製造方法を提供する。
【解決手段】1枚の金属板からプレス加工によって折り曲げ形成されてなり、前記金属板の対向する2辺が互いに衝合されると共にロウ付けされて中空の筒状に形成された筒状体10と、該筒状体10の両端の夫々の開口を封止するキャップ20と、一方のキャップ20に設けられ、フューエルタンクからの配管が接続される接続部21と、前記筒状体10の底面に設けられ、インジェクタが装着される複数のインジェクタ装着部30とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フューエルデリバリ及びその製造方法に関するものであり、詳しくは、燃料を噴射する複数のインジェクタを備えたガソリンエンジン等の内燃機関に用いられるフューエルデリバリ及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年においては、燃料を噴射するインジェクタを用いたガソリンエンジン等の内燃機関が種々案出されており、このような内燃機関においては、フューエルタンクからの配管が接続されるフューエルデリバリであり、複数のインジェクタが装着されると共に内燃機関のシリンダヘッド等に固定されるフューエルデリバリが採用されている。ここで、フューエルデリバリは、フューエルタンクからの燃料を複数のインジェクタに分配するものであり、燃料系の配管において所謂「ヘッダ(分配器)」として機能するものである。
【0003】
このようなフューエルデリバリとしては、鋳物により形成されたものが一般的であるが、近年においては、コストダウンや重量の軽減等を図るために、プレス加工によって形成されたものも用いられている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
プレス加工によって形成された従来のフューエルデリバリは、全体が箱型に形成されたものであるが、下部が下箱部材、上部が上箱部材から構成されて、下箱部材に上箱部材を被せて銅ロウ等のロウ付けによって一体化したものが一般的である。よって、従来のフューエルデリバリでは、下箱部材と上箱部材とを全周に渡ってロウ付けしなければならず、製造作業が煩雑であった。
【0005】
また、ロウ付けに先駆けて下箱部材と上箱部材とを相互に嵌合させるのであるが、嵌合度合いがゆる過ぎると、ロウ付けによっても十分にシールをすることができなくなるといった問題が生じる。一方、嵌合度合いがきつ過ぎると、下箱部材と上箱部材とを相互に嵌合させる際の作業が困難となるといった問題が生じる。特に、嵌合作業を容易にするためにクリアランスを大きくすると、下箱部材に対して上箱部材が偏ってしまい、下箱部材と上箱部材との嵌合部分の全周において部分的に大きな隙間が生じてしまうことから、従来のフューエルデリバリでは、嵌合度合いをある程度、きつくすることが余儀なくされ、下箱部材と上箱部材とを相互に嵌合させる際の作業が困難であった。
【0006】
本発明は、上記実情を鑑みてなされたものであり、プレス加工によって形成されたフューエルデリバリであっても、製造作業が容易なフューエルデリバリ、及び、その製造方法の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために本発明の採った主要な手段は、
「1枚の金属板からプレス加工によって折り曲げ形成されてなり、前記金属板の対向する2辺が互いに衝合されると共にロウ付けされて中空の筒状に形成された筒状体と、
該筒状体の両端の夫々の開口を封止するキャップと、
一方のキャップに設けられ、フューエルタンクからの配管が接続される接続部と、
前記筒状体の底面に設けられ、インジェクタが装着される複数のインジェクタ装着部と
を備えることを特徴とするフューエルデリバリ」
である。
【0008】
上記構成のフューエルデリバリは、全体が箱型となったフューエルデリバリの主体部分を構成する中空の筒状の筒状体が、プレス加工によって形成されているのであるが、この筒状体は、1枚の金属板を折り曲げ形成されたものであり、金属板の対向する2辺が互いにロウ付けされて中空の筒状となったものである。よって、従来のフューエルデリバリに比して、ロウ付けする量が少なく、その製造作業を簡略化することができる。
【0009】
また、金属板の対向する2辺を衝合させてロウ付けすることから、従来のフューエルデリバリの如く下箱部材の全周と上箱部材の全周とをしっかりと嵌合させる必要がなく、ロウ付け作業に先駆けての作業は、金属板の対向する2辺を単に衝合させるだけですむことから簡便である。
【0010】
上述した手段において、
「ロウ付けられた金属板の対向する前記2辺は、平坦面にて互いに重なり合うことを特徴とするフューエルデリバリ」
とするのが好適である。
【0011】
上記構成のフューエルデリバリでは、互いに衝合させる金属板の2辺を平坦面として重なり合わせることから、ロウ付け作業に先駆けて金属板の対向する2辺を、より簡便に衝合させることができる。また、ロウ付けされる部材同士が平坦面にて互いに重なり合うことから、溶融したロウが手前から奥へ円滑に浸透する。よって、ロウ付けによる部材間の堅固な一体化及び十分なシール性の確保を実現することができる。
【0012】
上述した手段において、
「ロウ付けられた金属板の対向する前記2辺は、一方に設けられた凹部と他方に設けられた凸部とによって互いに係合することを特徴とするフューエルデリバリ」
とするのが好適である。
【0013】
上記構成のフューエルデリバリでは、互いに衝合させる金属板の2辺を、一方の凹部と他方の凸部とで係合させる、すなわち凹凸係合させることから、ロウ付け作業に先駆けて衝合させた金属板の対向する2辺を互いに離間し難くすることができる。よって、ロウ付け作業の際に、金属板の対向する2辺を衝合させた状態で堅固に固定する手間を省くことができ、ロウ付け作業を簡略化することができる。
【0014】
また、上記課題を解決するために本発明の採った主要な手段は、
「平板状の金属素材を打抜いて所望の外形形状を呈する1枚の金属板を形成する打抜き工程と、
打ち抜かれた1枚の金属板を、対向する2辺が互いに衝合するようにプレス加工によって折り曲げて中空の筒状の筒状体を形成するプレス工程と、
筒状体の衝合された2辺をロウ付けするロウ付け工程と
を含むことを特徴とするフューエルデリバリの製造方法」
である。
【0015】
上記構成のフューエルデリバリの製造方法は、前述したフューエルデリバリにおける筒状体の製造工程を含むものであり、1枚の金属板をプレス加工によって折り曲げ、金属板の対向する2辺を互いにロウ付けして中空の筒状の筒状体を形成する。よって、プレス加工によって形成されたフューエルデリバリを容易に製造することができることは、前述した通りである。
【発明の効果】
【0016】
上述した通り、本発明によれば、プレス加工によって形成されたフューエルデリバリであっても、製造作業が容易なフューエルデリバリ、及び、その製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明に係るフューエルデリバリの一例を示す斜視図である。
【図2】図1に示したフューエルデリバリの筒状体の形成工程を示す概略図である。
【図3】筒状体において金属板の対向する2辺の衝合部分を示す拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明に係るフューエルデリバリ及びその製造方法の実施形態としての一例を、以下、図面に従って詳細に説明する。
【0019】
図1に、フューエルデリバリ100の一例を示す。
【0020】
このフューエルデリバリ100は、ガソリンエンジン等の内燃機関に用いられるものであり、内燃機関の複数のシリンダの夫々に燃料を噴射するインジェクタが装着され、内燃機関のシリンダヘッド等に取付け固定されるものである。なお、このフューエルデリバリ100は、全体が箱型形状に形成されているのであるが、完全な直方体形状ではなく、シリンダヘッドの表面形状やシリンダヘッドに取付けられた点火プラグ等の種々の機器との干渉を避けるために湾曲部11等が設けられた所望の外形形状に形成されている。
【0021】
また、このフューエルデリバリ100は、中空の筒状に形成された筒状体10と、筒状体10の両端の夫々の開口を封止するキャップ20と、一方のキャップ20に設けられ、フューエルタンクからの燃料ホース等の配管が接続される接続部21と、筒状体10の底面に設けられ、夫々にインジェクタが装着される複数のインジェクタ装着部30とを備えている。ここで、本例では、接続部21が、キャップ20に突設された接続管によって構成されており、インジェクタ装着部30が、筒状体10の底面に穿設された取付孔12に取付けられたインジェクタソケットによって構成されている。
【0022】
筒状体10は、1枚の金属板をプレス加工によって折り曲げ形成されてなるものであり、金属板の対向する2辺が衝合され、この衝合部分がロウ付けされて、中空の筒状に形成されたものである。そして、筒状体10の両端の開口部分には、筒状体10とは別途に1枚の金属板からプレス加工によって筒状体の端部に外嵌する形状に形成されたキャップ20がロウ付けされており、中空で筒状となった筒状体10は、その両端がキャップ20によって封止されている。なお、一方のキャップ20は、接続部21を構成する接続管が予めロウ付けされたものである。
【0023】
次に、本発明に係るフューエルデリバリ100の製造方法の主要事項である筒状体10の形成方法を、図2に基づいて詳細に説明する。
【0024】
まず、図2(a)に示すように、ステンレス鋼板等の平状の金属素材を打抜いて、所望の外形形状を呈する1枚の金属板1を形成する(打抜き工程)。ここで、筒状体10の外形形状が、前述のような湾曲部11を有するものである場合には、金属板1を、長方形ではなく、後述のプレス工程にて形成される湾曲部11を見込んだ外形形状とする。また、筒状体10がインジェクタ装着部30を構成するインジェクタソケットの取付孔12等の孔を有する場合には、これらの孔も外形形成時の打抜き、もしくは別途の打抜きによって形成する。
【0025】
次に、図2(b)に示すように、所望の外形形状に形成された1枚の金属板1を、中空の筒状、より具体的には、長方形や台形等の適宜の断面形状の筒状となるように、プレス加工によって折り曲げる(プレス工程)。具体的に、本例では、金属板1の中央部分を底部1aとして、底部1aの両側1b,1cが合い向かうように折り曲げる。また、金属板1の対向する2辺1d,1eが衝合するように、金属板1の縁端部分を折り曲げる。ここで、金属板1の中央部分の折り曲げと、金属板1の縁端部分の折り曲げとを同時のプレス加工によって行ってもよく、また、別途のプレス加工によって行ってよい。特に、平板状の金属板1に対して、縁端部分の折り曲げを先に行い、縁端部分が折り曲げられた金属板1の中央部分の折り曲げを後から行うと、筒状体10としての最終形状を形成し易く、好適である。
【0026】
なお、筒状体10の外形形状が、前述のような湾曲部11を有するものである場合には、この湾曲部11を、金属板1の中央部分の折り曲げや金属板1の縁端部分の折り曲げ等の適宜のプレス加工時に形成してもよく、金属板1の縁端部分の折り曲げ、または、金属板1の中央部分の折り曲げに先駆けた或いは後の別途のプレス加工によって形成してもよい。
【0027】
次に、図2(c)に示すように、金属板1の対向する2辺1d,1eを衝合させ、この衝合部分をロウ付けして(ロウ付け工程)、金属板1の対向する2辺1d,1eが堅固に一体化されると共に部材間が十分にシールされた筒状の筒状体10を形成する。
【0028】
なお、このロウ付け工程においては、図示は省略するが、キャップ20や、インジェクタ装着部30を構成するインジェクタソケット等、筒状体10に一体化させる他の部材のロウ付けも行って、フューエルデリバリ100を完成させる。
【0029】
ところで、上述した筒状体10のロウ付け工程においては、金属板1の対向する2辺1d,1eが重ね合わされているのであるが、金属板1の対向する2辺1d,1eの夫々を平坦面とすると、金属板1の対向する2辺1d,1eを衝合させる(重ね合わせる)際の作業を円滑に行うことができる。
【0030】
また、筒状体10のロウ付け工程においては、金属板1の対向する2辺1d,1eを重ね合わせた状態でクランプ具等によって保持させるのであるが、相互に重なる部材において、下側の部材(1d)が折り曲げの復元力によって回動して(図2(c)における矢印A参照)上側の部材(1e)から離間しようとした場合に、下側の部材(1d)の先端部分が上側の部材(1e)に引っ掛かって下側の部材(1d)の回動が阻止されるような重なり具合及びクリアランスで、金属板1の対向する2辺1d,1eを衝合させるとよい。このような態様によって上側の部材(1e)に対する下側の部材(1d)の離間を防止することができれば、金属板1の対向する2辺1d,1eを重ね合わせた状態でクランプ具等によって堅固に保持させなくてもよく、筒状体10のロウ付け作業を簡略化することができる。
【0031】
また、図3に示すように、金属板1の対向する2辺1d,1eである相互に重なる上側の部材(1e)及び下側の部材(1d)において、一方に凹部2を設け、他方に凸部3を設けて、凹部2と凸部3との係合によって、上側の部材(1e)に対して下側の部材(1d)が離間することを防止するようにしてもよい。
【0032】
なお、このように金属板1の対向する2辺1d,1eに凹部2または凸部3を設ける場合には、金属板1の対向する2辺1d,1eの縁部を折り曲げるプレス加工において、凹部2や凸部3を同時に形成してもよく、また、凹部2や凸部3を形成する別途のプレス加工工程によって形成してもよい。
【0033】
ところで、筒状体10の端部と、筒状体10の端部に装着するキャップ20とにおいても、相互に重なり合う部分を夫々平坦面とすれば、筒状体10の端部にキャップ20を装着する作業を円滑に行うことができる。一方、図3に示した例と同様に、重なり合う部分の一方に凹部2を儲け、この凹部2に係合する凸部3を他方に設ければ、筒状体10の端部に装着したキャップ20が外れ難くなり、筒状体10とキャップ20とを一体化する際のロウ付け作業を円滑に行うことができる。
【0034】
なお、筒状体10の端部に凹部2または凸部3を設ける場合には、図2(b)に示すように1枚の金属板1を大きく折り曲げて筒状とするプレス工程に先駆けて、金属板1の縁端部分に凹部2または凸部3を設けることで、所望の形状の凹部2または凸部3を的確に形成することができる。また、キャップ20に凹部2または凸部3を設ける場合においても、筒状体10に外嵌される蓋状となるように1枚の金属板を大きく折り曲げるプレス工程に先駆けて金属板の周縁部分に凹部2または凸部3を設けることで、所望の形状の凹部2または凸部3を的確に形成することができる。
【符号の説明】
【0035】
1 金属板
2 凹部
3 凸部
10 筒状体
11 湾曲部
12 取付孔
20 キャップ
21 接続部
30 インジェクタ装着部
100 フューエルデリバリ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1枚の金属板からプレス加工によって折り曲げ形成されてなり、前記金属板の対向する2辺が互いに衝合されると共にロウ付けされて中空の筒状に形成された筒状体と、
該筒状体の両端の夫々の開口を封止するキャップと、
一方のキャップに設けられ、フューエルタンクからの配管が接続される接続部と、
前記筒状体の底面に設けられ、インジェクタが装着される複数のインジェクタ装着部と
を備えることを特徴とするフューエルデリバリ。
【請求項2】
ロウ付けられた金属板の対向する前記2辺は、平坦面にて互いに重なり合うことを特徴とする請求項1に記載のフューエルデリバリ。
【請求項3】
ロウ付けられた金属板の対向する前記2辺は、一方に設けられた凹部と他方に設けられた凸部とによって互いに係合することを特徴とする請求項1に記載のフューエルデリバリ。
【請求項4】
平板状の金属素材を打抜いて所望の外形形状を呈する1枚の金属板を形成する打抜き工程と、
打ち抜かれた1枚の金属板を、対向する2辺が互いに衝合するようにプレス加工によって折り曲げて中空の筒状の筒状体を形成するプレス工程と、
筒状体の衝合された2辺をロウ付けするロウ付け工程と
を含むことを特徴とするフューエルデリバリの製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2010−216341(P2010−216341A)
【公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−63130(P2009−63130)
【出願日】平成21年3月16日(2009.3.16)
【出願人】(391022197)株式会社加藤製作所 (15)
【Fターム(参考)】