説明

フラックス入りワイヤ

【課題】軟鋼または高張力鋼からなる鋼板の片面突合せ継手溶接の初層溶接部で問題となる耐高温割れ性に優れ、全姿勢溶接における溶接作業性および溶接金属の機械的性質が優れたフラックス入りワイヤを提供する。
【解決手段】軟鋼または高張力鋼からなる鋼板の溶接に使用され、鋼製外皮内にフラックスを充填してなるフラックス入りワイヤであって、ワイヤ全質量に対するフラックス充填率が所定量であり、ワイヤ全質量に対して、C、Si、Mn、Ti、TiO、Al、Al、B、N、Ni(0質量%を含む)、Cu(0質量%を含む)を所定量含有し、10≧(Ni+14×C+0.29×Mn+0.30×Cu)/(1.5×Si)≧2.5(式における元素記号は、その元素の含有量(質量%)を表す)を満足することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軟鋼または高張力鋼からなる鋼板のガスシールドアーク溶接に使用されるフラックス入りワイヤで、特にチタニヤ系フラックス入りワイヤに関するものである。
【背景技術】
【0002】
軟鋼および高張力鋼からなる鋼板の溶接に用いられるフラックス入りワイヤは、ソリッドワイヤに比較してビード外観や溶接作業性が良好で、さらに溶着効率に優れていることから、年々その使用量が増加している。ところが、フラックス入りワイヤは、ソリッドワイヤと比較して溶接速度が大きいため、特に、片面突合せ継手溶接の初層溶接部で高温割れが発生しやすい傾向があった。このような高温割れの発生を抑制する方法として、以下のような技術が提案されている。
【0003】
例えば、特許文献1では、耐高温割れ性を改善する方法として、溶接速度を下げ、溶接電流を低くするなど溶接能率を犠牲にした溶接施工にすることが提案されている。また、特許文献1では、耐高温割れ性を改善する方法として、溶接金属中のB量を低減すること、または、溶接用ワイヤ中の不純物中のS含有量を低減することも提案されている。
【0004】
しかしながら、特許文献1の改善方法では、近時、溶接能率を向上した溶接施工条件の適用が拡大しつつあること、また、ワイヤ成分の不純物元素としてのSの含有量の低減にも限界があることで、溶接金属に発生する高温割れを抑制できないという問題がある。また、特許文献1で提案されたワイヤ成分としてのBの含有量の低減は、耐高温割れ性の改善には効果があるものの、低温靭性の低下を招くという問題がある。
【0005】
そこで、耐高温割れ性を更に改善する方法として、特許文献2が提案されている。
特許文献2では、オーステナイト系ステンレス鋼の耐高温割れ性を改善する方法として、凝固モードを制御することが提案されている。そして、特許文献2の段落0016では、「ステンレス鋼の溶接第1版(著者:西本和俊、夏目松吾、小川和博、松本長、発行年:平成13年、発行所:産報出版)」の第87〜88ページに、デルタフェライトを活用した溶接凝固割れ抑制のためのメカニズムが詳細に記載され、溶接凝固割れの抑制は、フェライトが初晶となる凝固モード、つまり、「FAモード」の場合に、デルタフェライトのオーステナイトへの変態による液相の分断によって実現できると説明されている。
【0006】
また、特許文献2においては、上記考えに対して、あくまでも初相の後に晶出する相(例えば、「FAモード」の凝固の場合ではオーステナイト)の晶出が溶接凝固割れの抑制に有効であるとの着想の下に、各種のオーステナイト系ステンレス鋼溶接金属において初相の後に晶出する相の晶出挙動についての詳細な調査を行っている。その結果、先ず、凝固モードが前記したフェライトが初晶となる「FAモード」だけでなく、オーステナイトが初相となる凝固モードである「AFモード」の場合にも、初相の後に晶出する相は溶接凝固中の液相中央部から晶出・成長する分離共晶型となることが判明している。そして、初相が晶出した後に晶出するオーステナイト又はデルタフェライトの晶出タイミングを早期化するよう制御して、膜状に残存する液相を分断することによって割れ発生の伝播方向を分断すれば、「FAモード」の場合に限らず「AFモード」の場合にも、P含有量の増加に伴う溶接凝固割れ感受性の増大、つまり、溶接凝固割れの発生の増加を抑制できるとの着想に至っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開昭54−130452号公報
【特許文献2】特開2008−30076号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献2の改善方法では、凝固モードを制御する方法として、オーステナイト系ステンレスのようにステンレス系合金においては、その具体的方法が示されている。しかしながら、本発明の対象である軟鋼等の耐高温割れ性を改善する方法として、凝固モードを制御する方法について具体的方法が示されておらず、成分設計指針となるような指針も示されていない。
【0009】
また、ステンレス合金で提案されている凝固モード予測式を軟鋼に適用したとしても、その凝固モード予測式は本来ステンレス合金において構築されたものであり、軟鋼等へ適用した場合の凝固モードの予測精度は低いといった問題がある。
【0010】
さらに、特許文献2で示されているように、「初相が晶出した後に晶出するオーステナイト又はデルタフェライトの晶出タイミングを早期化するよう制御して、膜状に残存する液相を分断することによって割れ発生の伝播方向を分断することで溶接凝固割れの発生の増加を抑制できる」という考え方では、本発明の対象である軟鋼等の耐高温割れ性改善には十分ではない。これは、軟鋼等の組成範囲での凝固モードは、既に「FAモード」であり、上記考えを適用したとしても、これ以上耐高温割れ性を改善することは出来ない点にある。したがって、特許文献2の改善方法では、最近の溶接施工能率の更なる改善要求に対して、十分な耐高温割れ特性が得られないというのが現状である。
【0011】
そこで、本発明は、このような問題点を解決すべく創案されたもので、その目的は、軟鋼または高張力鋼からなる鋼板の片面突合せ継手溶接の初層溶接部で問題となる耐高温割れ性に優れ、全姿勢溶接における溶接作業性および溶接金属の機械的性質が優れたフラックス入りワイヤを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記課題を解決するために、本発明者らは、溶接金属中の介在物をTi系酸化物組成に制御することで溶接継手(溶接金属)の凝固組織を微細化して、溶接部(初層溶接部)の耐高温割れ性を改善すると共に、凝固モードとしての「FAモード」内において、さらに耐高温割れ性が優れる領域があることを知見し、制御する手法を見出した。
【0013】
その制御手法は、高温割れという現象が、溶接凝固末期に膜状に残存する液膜に凝固収縮応力が働くことで生じることに着眼し、高温割れを抑制する手段として、オーステナイト形成元素であるNi、C、MnおよびCuと、フェライト形成元素であるSiとの比を所定の範囲内に制御した。その結果、「FAモード」において、従来はデルタフェライト相とオーステナイト相と液相の3相が共存した状態で溶接凝固が完了するのに対し、本発明では、オーステナイト相と液相の2相が共存した状態で溶接凝固が完了する。そのため、本発明では、溶接凝固末期においてデルタフェライト相からオーステナイト相への包晶変態が無く、その包晶変態に伴う変態収縮応力、すなわち、凝固収縮応力が従来に比べ低減するため、耐高温割れ性が改善される。
【0014】
具体的には、本発明に係るフラックス入りワイヤは、軟鋼または高張力鋼からなる鋼板の溶接に使用され、鋼製外皮内にフラックスを充填してなるフラックス入りワイヤであって、ワイヤ全質量に対するフラックス充填率が10〜25質量%であり、ワイヤ全質量に対して、C:0.02〜0.08質量%、Si:0.10〜1.50質量%、Mn:1.7〜4.0質量%、Ti:0.05〜1.00質量%、TiO:1.0〜8.0質量%、Al:0.20〜1.50質量%、Al:0.05〜1.0質量%、B:0.003〜0.02質量%、N:0.005質量%以下、Ni:3.0質量%以下(0質量%を含む)、Cu:3.0質量%以下(0質量%を含む)を含有し、下記の式(1)を満足することを特徴とする。
10≧(Ni+14×C+0.29×Mn+0.30×Cu)/(1.5×Si)≧2.5・・・(1)
なお、式(1)における元素記号は、その元素の含有量(質量%)を表す。
【0015】
前記構成によれば、ワイヤ全質量に対するフラックス充填率が所定量であって、ワイヤ全質量に対して、所定量のC、Si、Mn、Ti、TiO、Al、Al、B、N、NiおよびCuを含有することによって、溶接部での高温割れが抑制されると共に、機械的性質が向上し、かつ、溶接作業性が向上する。特に、所定量のTiおよびAlを含有することによって、溶接金属中に生成する介在物の組成を核生成促進に効果的なTi系酸化物組成に制御でき、溶接部の凝固組織が微細化されて高温割れが抑制される。また、式(1)で表されるオーステナイト形成元素(Ni、C、MnおよびCu)とフェライト形成元素(Si)との比を所定範囲とすることによって、凝固収縮応力が低減されて、溶接部の高温割れが抑制される。
【0016】
また、本発明に係るフラックス入りワイヤは、前記フラックス入りワイヤが、さらに、ワイヤ全質量に対して、Mg:0.01〜2.0質量%、希土類化合物の1種または2種以上:希土類元素換算値で0.0005〜0.5質量%、Ca:0.0002〜0.2質量%からなる群から選択された少なくとも1種を含有することを特徴とする。
【0017】
前記構成によれば、所定量のMg、希土類化合物、Caからなる群から選択された少なくとも1種を含有することによって、溶接部での高温割れがさらに抑制されると共に、機械的性質がさらに向上する。
【0018】
さらに、本発明に係るフラックス入りワイヤは、前記フラックス入りワイヤが、さらに、ワイヤ全質量に対して、Mo:0.1〜2.0質量%、Co:0.01〜2.0質量%、Zr:0.01〜1.0質量%からなる群から選択された少なくとも1種を含有することを特徴とする。
【0019】
前記構成によれば、Mo、Co、Zrからなる群から選択された少なくとも1種を含有することによって、溶接部の機械的性質がさらに向上する。
【発明の効果】
【0020】
本発明に係るフラックス入りワイヤによれば、フラックス充填率が所定量であって、所定量のC、Si、Mn、Ti、TiO、Al、Al、B、N、NiおよびCuを含有し、式(1)で表されるオーステナイト形成元素とフェライト形成元素との比を満足すること、Mg、希土類化合物、Caからなる群から選択された少なくとも1種をさらに所定量含有すること、または、Mo、Co、Zrからなる群から選択された少なくとも1種をさらに所定量含有することによって、軟鋼または高張力鋼からなる鋼板の片面突合せ継手溶接の初層溶接部で問題となる耐高温割れ性に優れ、全姿勢溶接における溶接作業性および溶接金属の機械的性質が優れたものとなる。その結果、品質の優れた溶接製品を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】(a)〜(d)は、本発明に係るフラックス入りワイヤの構成を示す断面図である。
【図2】耐高温割れ性の評価に使用する溶接母材の開先形状を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明に係るフラックス入りワイヤについて詳細に説明する。
本発明に係るフラックス入りワイヤは、軟鋼または高張力鋼からなる鋼板の溶接に使用される。また、本発明に係るフラックス入りワイヤは、ガスシールドアーク溶接に好適に使用され、片面突合せ継手溶接において優れた効果を発揮するものであるが、特に溶接方法は限定されない。
【0023】
図1(a)〜(d)に示すように、フラックス入りワイヤ(以下、ワイヤと称す)1は、筒状に形成された鋼製外皮2と、その筒内に充填されたフラックス3とからなる。また、ワイヤ1は、図1(a)に示すような継目のない鋼製外皮2の筒内にフラックス3が充填されたシームレスタイプ、図1(b)〜(d)に示すような継目4のある鋼製外皮2の筒内にフラックス3が充填されたシームタイプのいずれの形態でもよい。
【0024】
そして、ワイヤ1は、フラックス充填率が所定量であって、所定量のC、Si、Mn、Ti、TiO、Al、Al、B、N、NiおよびCuを含有し、下記の式(1)を満足することを特徴とし、残部がFeおよび不可避的不純物からなる。
10≧(Ni+14×C+0.29×Mn+0.30×Cu)/(1.5×Si)≧2.5・・・(1)
なお、式(1)における元素記号は、その元素の含有量(質量%)を表す。
【0025】
以下に、ワイヤ成分の数値範囲とその限定理由を示す。ここで、フラックス(Flux)充填率は、鋼製外皮2内に充填されるフラックス3の質量を、ワイヤ1(鋼製外皮2+フラックス3)の全質量に対する割合で規定したものである。また、各成分の成分量は、鋼製外皮2とフラックス3における成分量の総和で表し、ワイヤ1(鋼製外皮2+フラックス3)に含まれる各成分の質量を、ワイヤ1の全質量に対する割合で規定したものである。なお、ワイヤ1を構成する成分(C、Si、Mn、Ti、TiO、Al、Al、B、N、Ni、Cu、後記するMg、希土類化合物、Ca、Mo、Co、Zr)は、鋼製外皮2から添加するか、フラックス3から添加するかは特に問わず、鋼製外皮2およびフラックス3の少なくとも一方に添加されていればよい。
【0026】
(フラックス充填率:10〜25質量%)
フラックス充填率が10質量%未満では、アークの安定性が悪くなり、スパッタ発生量が増加すると共に、ビード外観不良が発生し、溶接作業性が低下する。フラックス充填率が25質量%超では、ワイヤ1の断線等が発生し、生産性が著しく劣化する。
【0027】
(C:0.02〜0.08質量%)
Cは、溶接部の焼入れ性を確保するために添加する。C量が0.02質量%未満の場合、焼入れ性不足により、溶接部の強度(引張強さ)および靭性(0℃吸収エネルギー)が不足する。C量が0.08質量%を超えると、溶接部の強度が過多、靭性が低下すると共に、溶接時のスパッタ発生量またはヒューム発生量が増加し、溶接作業性が低下する。また、被溶接材である鋼材のC量が多い場合、溶接部(溶接金属)のC量が多くなるため、凝固温度が低下し溶接部に高温割れが発生しやすくなる。なお、C源としては、例えば、鋼製外皮2、Fe−Mn等の合金粉、鉄粉等を用いる。
【0028】
(Si:0.10〜1.50質量%、好ましくは、0.10〜1.00質量%)
Siは、溶接部の延性確保、ビード形状維持のために添加する。Si量が0.10質量%未満では、溶接部の延性(伸び)不足となる。また、ビード形状が悪くなり、特に、立向上進溶接でビードが垂れ、溶接作業性が低下する。Si量が1.50質量%を超えると、溶接部に高温割れが発生する。なお、Si源としては、例えば、鋼製外皮2、Fe−Si、Fe−Si−Mn等の合金、KSiF等のフッ化物、ジルコンサンド、珪砂、長石等の酸化物を用いる。
【0029】
(Mn:1.7〜4.0質量%、好ましくは、2.5〜3.7質量%)
Mnは、溶接部の焼入れ性確保のために添加する。Mn量が1.7質量%未満では、溶接部の焼入れ性が不足し、靭性が低下する。また、不可避的不純物として含有されるSと結合して得られるMnS量も少なくなるため、MnSによる高温割れの抑制作用が小さくなり、溶接部に高温割れが発生する。Mn量が4.0質量%を超えると、溶接部の強度が過多となり、靭性不足となる。また、溶接部に低温割れが発生する。なお、Mn源としては、例えば、鋼製外皮2、Mn金属粉、Fe−Mn、Fe−Si−Mn等の合金を用いる。
【0030】
(Ti:0.05〜1.00質量%、好ましくは、0.20〜1.00質量%)
Ti(金属Ti)は、溶接部(初層溶接部)の耐高温割れ性を改善するために添加する。Ti(金属Ti)は溶接時に脱酸反応に寄与し、溶接金属中の介在物をTi系酸化物組成に制御でき、その結果、溶接継手(溶接金属)の凝固組織を微細にでき、溶接部の高温割れ抑制作用が改善される。Ti量(金属Ti)が0.05質量%未満では、上記効果が十分ではなく、溶接部に高温割れが発生する。Ti量(金属Ti)が1.00質量%を超えると、溶接金属再熱部が硬くて脆いベイナイト、マルテンサイトになりやすく、靭性が低下する。また、溶接時のスパッタ発生量が多くなり、溶接作業性が低下する。さらに、溶接金属中のTiが溶存として存在し、溶接金属の凝固温度を低下させ高温割れが発生する。なお、本発明のワイヤ1においては、後記するように従来のワイヤに比べてAl量が多いため、Tiを多量に添加した場合、溶接金属中のTi酸化物がAlによって還元され、溶接金属中にTiが溶存として多量に存在する。また、Ti源としては、例えば、鋼製外皮2、Fe−Ti等の合金粉を用いる。
【0031】
(TiO:1.0〜8.0質量%、好ましくは、3.0〜8.0質量%)
TiO(Ti酸化物)は、全姿勢溶接性を確保するために添加する。TiO量(Ti酸化物)が1.0質量%未満では、立向上進溶接でビードが垂れ、溶接作業性が低下する。TiO量(Ti酸化物)が8.0質量%を超えると、溶接時のスラグ剥離性が劣化し、溶接作業性が低下する。また、フラックスのかさ比重が小さくなり、生産性が劣化する。なお、TiO源としては、例えば、ルチール等を用いる。
【0032】
(Al:0.20〜1.50質量%、好ましくは、0.20〜0.50質量%)
Al(金属Al)は強脱酸剤であり、溶接継手(溶接金属)中に生成する介在物から、Alに比べ脱酸力の弱いSiからなるSiOを還元し、介在物の組成を核生成促進に効果的なTi系酸化物組成の介在物に制御できる。その結果、溶接金属の凝固組織を微細にできる。さらに、溶接金属の酸素量を低下させ、Mnの歩留まりが安定する。これらの効果から、溶接部の高温割れ抑制作用が改善し、靭性も安定化する。Al量が0.20質量%未満では、脱酸が十分でなく、溶接部に高温割れが発生する。また、靭性も低下する。Al量が1.50質量%を超えると、溶接時のスパッタ発生量が多くなり、溶接作業性が低下する。なお、Al源としては、例えば、鋼製外皮2、Al金属粉、Fe−Al、Al−Mg等の合金粉を用いる。
【0033】
(Al:0.05〜1.0質量%、好ましくは0.05〜0.5質量%)
Al(Al酸化物)は、水平すみ肉姿勢でのビード形状、立向上進姿勢でのビードの垂れ防止のために添加する。Al量が0.05質量%未満では、水平すみ肉溶接でのビード形状(なじみ)が悪く、また、立向上進溶接でビード垂れが発生し、溶接作業性が低下する。Al量が1.0質量%を超えると、溶接時のスラグ剥離性が劣化し、溶接作業性が低下する。なお、Al源としては、例えば、アルミナや長石等の複合酸化物を用いる。
【0034】
(B:0.003〜0.02質量%)
Bは、溶存してγ粒界に偏析し、初析フェライトの生成を抑制する効果があり、溶接金属の靭性改善に有効である。B量が0.003質量%未満では、大部分のBがBNとして窒化物に固定化され、初析フェライトの生成を抑制する効果が無く、靭性改善効果が得られない。B量が0.02質量%を超えると、溶接金属の高温割れが発生しやすくなる。なお、B源としては、例えば、Fe−B、Fe−Si−B、アトマイズB等の合金と、B等の複合酸化物を用いる。
【0035】
(N:0.005質量%以下)
Nは、溶接金属の強度向上に有効な元素である。しかし、N量が0.005質量%を超えると、大部分のBがBNとして窒化物に固定され、初析フェライトの生成を抑制する効果が無く、靭性改善効果が得られないため、靭性が低下する。なお、N源としては、例えば、N−Cr、Fe−N−Cr、N−Si、N−Mn、N−Ti等の金属窒化物を用いる。
【0036】
(Ni:3.0質量%以下(0質量%を含む))
Niは、溶接金属の靭性を向上させるのに極めて有効な効果を有する元素である。
Ni量が3.0質量%を超える場合、溶接金属中のNの飽和溶解度が低下し、ブローホールが発生し、靭性が低下する。また、Ni量の好ましい範囲は、0.01〜3.0質量%である。なお、ワイヤ1は、後記するオーステナイト形成元素とフェライト形成元素との比を表す式(1)が所定の範囲内であれば、Niを含有しない、すなわち、Ni量が0質量%であってもよい。また、Ni源としては、例えば、Ni金属粉等を用いる。
【0037】
(Cu:3.0質量%以下(0質量%を含む))
Cuは、溶接金属の靭性を向上させるのに極めて有効な効果を有する元素である。
Cu量が3.0質量%を超える場合、溶接金属の強度が大きくなり、靭性が低下する。なお、ワイヤ1は、後記するオーステナイト形成元素とフェライト形成元素との比を表す式(1)が所定の範囲内であれば、Cuを含有しない、すなわち、Cu量が0質量%であってもよい。また、Cu源としては、例えば、Cu金属粉等を用いる。さらに、Cuは、ワイヤ1の表面に鍍金することによって、ワイヤ1に含有させてもよい。
【0038】
10≧(Ni+14×C+0.29×Mn+0.30×Cu)/(1.5×Si)≧2.5・・・(1)
なお、式(1)の元素記号は、その元素の含有量(質量%)を表す。
【0039】
式(1)は、オーステナイト形成元素(Ni、C、MnおよびCu)とフェライト形成元素(Si)との比を表すもので、ワイヤ1が式(1)を満足する場合には、初相にデルタフェライト相が生成した後、オーステナイト相と液相の2相のみが共存した状態で溶接部の凝固が完了する。その結果、溶接部における包晶変態に起因した凝固収縮応力の増大を抑制できる。すなわち、凝固収縮応力が低減される。その結果、溶接部における高温割れの発生を防止できる。また、ワイヤ1が式(1)の下限未満では、デルタフェライト相とオーステナイト相と液相の3相が共存した状態で溶接部の凝固が完了するため、溶接部においてデルタフェライト相からオーステナイト相への包晶変態が発生し、変態収縮応力によって溶接部の凝固収縮応力が増大する。その結果、溶接部において高温割れが発生する。一方、ワイヤ1が式(1)の上限を超える場合は、初相にオーステナイト相が生成した後、オーステナイト相と液相の2相のみが共存した状態で溶接部の凝固が完了する。初相がオーステナイト相であるため、P、Sの不純物元素の液相への濃化が促進され、耐高温割れ性が低下し、高温割れが発生する。
前記したように、式(1)は、凝固収縮応力の増大の原因となる包晶変態等を発生させずに、さらに、P、Sの不純物元素の液相への濃化を促進させずに凝固を完了させるために定義したものである。そして、ワイヤを構成する成分の中からオーステナイト形成元素であるNi、C、MnおよびCuと、フェライト形成元素であるSiを選択し、そのオーステナイト形成元素とフェライト形成元素との比の範囲、および、各形成元素の係数を、予め予備実験を行って算出したものである。
【0040】
(Fe)
残部のFeは、鋼製外皮2を構成するFe、および/または、フラックス3に添加されている鉄粉、合金粉のFeである。
【0041】
(不可避的不純物)
残部の不可避的不純物としては、S、P、W、Ta、Cr、Nb、V、O等が挙げられ、本発明の効果を妨げない範囲で含有することが許容される。S量、P量、W量、Ta量、O量は、それぞれ、0.050質量%以下が好ましく、Cr量は、2.0質量%以下が好ましく、Nb量、V量は、それぞれ、0.1質量%以下が好ましい。そして、その量は鋼製外皮2とフラックス3における各成分量の総和である。
【0042】
S量、P量が0.050質量%を超えると、溶接金属の耐高温割れ性が著しく劣化する。W量、Ta量が0.050質量%を、Cr量が2.0質量%を、Nb量、V量が0.1質量%を、それぞれ超えると、溶接金属の強度が大きくなり、靭性が低下する。O量が0.050質量%を超えると、溶接金属中の酸化物量が増え、靭性が低下する。
【0043】
本発明に係るワイヤ1は、前記成分に加えて、所定量の、Mg、希土類化合物の1種または2種以上、Caからなる群から選択された少なくとも1種を、さらに含有することを特徴とする。
【0044】
Mg、希土類化合物、Caは脱酸力、脱硫力に優れている。優れた脱酸力は、溶接金属中の介在物を核生成促進に効果的なTi系酸化物組成に制御が可能となり、溶接継手(溶接金属)の凝固組織を微細にできる。また、優れた脱硫力は、不可避的不純物として含有されるSと結合し硫化物を形成する。その結果、溶接部の耐高温割れ性が改善する。さらに、溶接金属の酸素量を低下させ、Mnの歩留まりが安定するため、靭性も安定化する。
【0045】
(Mg:0.01〜2.0質量%、好ましくは、Mg:0.3〜1.0質量%)
Mg量が0.01質量%未満では、上記効果が十分ではなく、溶接部(初層溶接部)に高温割れが発生する。また、脱酸が十分でなく、靭性も低下する。Mg量が2.0質量%を超えると、スパッタ発生量が多くなる。なお、Mg源としては、例えば、金属Mg、Al−Mg、Fe−Si−Mg等の金属粉、合金粉を用いる。
【0046】
(希土類化合物:希土類元素換算値で0.0005〜0.5質量%)
(Ca:0.0002〜0.2質量%)
【0047】
希土類化合物が希土類元素換算値で0.0005質量%未満では、上記効果が十分ではなく、溶接部(初層溶接部)に高温割れが発生する。また、脱酸が十分でなく、靭性も低下する。希土類化合物が希土類元素換算値で0.5質量%を超えるとスパッタ発生量が多くなり、アークが不安定となりビード外観が不良となる。
【0048】
本発明にいう希土類元素とは、Sc、Yおよび原子番号57(La)乃至71(Lu)をいう。また、希土類化合物とは、希土類元素の酸化物(Nd、La、Y、CeO、Ce、Sc等の単体の酸化物やこれらの複合酸化物およびモナザイト、バストネサイト、アラナイト、セライト、ゼノタイム、ガドリナイト等の希土類酸化物の鉱石を含む)、弗化物(CeF、LaF、PmF、SmF、GdF、TbF等)および合金(希土類元素−Fe、希土類元素−Fe−B、希土類元素−Fe−Co、希土類元素−Fe−Si、希土類元素−Ca−Si等)、ミッシュメタルをいう。
【0049】
Caが0.0002質量%未満では、上記効果が十分ではなく、溶接部(初層溶接部)に高温割れが発生する。また、脱酸が十分でなく、靭性も低下する。Caが0.2質量%を超えるとスパッタ発生量が多くなり、アークが不安定となりビード外観が不良となる。なお、Ca源としては、例えば、純Ca、Caを含む合金またはCa酸化物等を用いる。
【0050】
本発明に係るワイヤ1は、前記成分に加えて、所定量のMo、Co、Zrからなる群から選択された少なくとも1種を、さらに含有することを特徴とする。
【0051】
(Mo:0.1〜2.0質量%)
(Co:0.01〜2.0質量%)
Mo、Coはいずれも溶接金属の強度を向上させる効果を有する。必要に応じて強度調整の目的のために含有させることが可能である。上記効果を有するためには、Mo、Coをそれぞれ上記下限濃度以上添加する必要がある。一方で、上記上限濃度を超えて添加した場合、溶接金属の強度が過度に大きくなり、靭性が低下する。
【0052】
(Zr:0.01〜1.0質量%)
Zrは、溶接金属中に炭化物を析出させ、溶接金属の強度を向上させる効果を有する。
必要に応じて強度調整の目的のために含有させることが可能である。上記効果を有するためには、Zrを0.01質量%以上添加する必要がある。一方で、1.0質量%を超えて添加した場合、スパッタ発生量が多くなり、溶接作業性が劣化する。また、溶接金属の強度が過度に大きくなり、靭性が低下する。
【0053】
本発明に係るワイヤ1では、ワイヤ作製時に前記ワイヤ成分(成分量)が前記範囲内になるように、鋼製外皮2およびフラックス3の各成分(各成分量)を選択する。
【0054】
また、本発明に係るワイヤ1の製造方法は、例えば、所定の組成を有する帯鋼で筒状の鋼製外皮2を形成する工程と、その鋼製外皮2の内部に所定の組成を有するフラックス3を充填する工程と、フラックス3が充填された鋼製外皮2を所定の外径まで伸線加工してワイヤ1とする工程と、必要に応じてワイヤ1の表面にCu鍍金を行う工程とを含むものである。しかしながら、ワイヤ1が製造できれば、前記製造方法に限定されるものではない。
【実施例】
【0055】
本発明に係るフラックス入りワイヤについて、本発明の要件を満足する実施例と、本発明の要件を満足しない比較例とを比較して具体的に説明する。
【0056】
鋼製外皮(鋼は、C:0.02質量%、Si:0.02質量%、Mn:0.25質量%、P:0.010質量%、S:0.008質量%を含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなるものを使用)の内側にフラックスを充填して、表1、表2に示すワイヤ成分からなるワイヤ径1.2mmの図1(b)に示すシームタイプのフラックス入りワイヤ(実施例:No.1〜21、比較例:No.22〜43)を作製した。
【0057】
なお、ワイヤ成分は、以下の測定方法で測定、算出した。
C量は「燃焼赤外線吸収法」によって、N量は「不活性ガス融解熱伝導度法」によって、Si量、Mn量、B量、Ni量、Cu量、Mg量、希土類元素量、Ca量、Mo量、Co量およびZr量は「ICP発光分光分析法」によって、測定した。なお,希土類元素はCe、Laを測定し、その総量を表1、表2に示した。
【0058】
TiO量(TiO等として存在し、Fe−Ti等は含まない)は、「酸分解法」により測定される。酸分解法に使用する溶媒は王水を用い、ワイヤ全量を溶解した。これにより、ワイヤに含まれるTi源(Fe−Ti等)は王水へ溶解するが、TiO源(TiO等)は王水に対し不溶なため、溶け残る。この溶液を、フィルター(ろ紙は5Cの目の細かさ)を用いてろ過し、フィルターごと残渣をニッケル製るつぼに移し、ガスバーナーで加熱して灰化した。次いで、アルカリ融剤(水酸化ナトリウムと過酸化ナトリウムの混合物)を加え、再度ガスバーナーで加熱して残渣を融解した。次に、18質量%塩酸を加えて融解物を溶液化した後、メスフラスコに移し、さらに純水を加えてメスアップして分析液を得た。分析液中のTi濃度を「ICP発光分光分析法」で測定した。このTi濃度をTiO量に換算し、TiO量を算出した。
【0059】
Ti量(Fe−Ti等として存在し、TiO等は含まない)は、「酸分解法」によりワイヤ全量を王水へ溶解して、不溶であったTiO源(TiO等)をろ過し、その溶液をワイヤに含まれるTi源(Fe−Ti等)として得ることで、「ICP発光分光分析法」を用い、Ti量(Fe−Ti等)として存在を求めた。
【0060】
Al量(アルミナや長石等の複合酸化物として存在し、Al金属粉等の合金粉は含まない)は、「酸分解法」により測定される。酸分解法に使用する溶媒は王水を用い、ワイヤ全量を溶解した。これにより、ワイヤに含まれるAl源(Al金属粉等の合金粉)は王水へ溶解するが、Al源(アルミナや長石等の複合酸化物)は王水に対し不溶なため、溶け残る。この溶液を、フィルター(ろ紙は5Cの目の細かさ)を用いてろ過し、フィルターごと残渣をニッケル製るつぼに移し、ガスバーナーで加熱して灰化した。次いで、アルカリ融剤(水酸化ナトリウムと過酸化ナトリウムの混合物)を加え、再度ガスバーナーで加熱して残渣を融解した。次に、18質量%塩酸を加えて融解物を溶液化した後、メスフラスコに移し、さらに純水を加えてメスアップして分析液を得た。分析液中のAl濃度を「ICP発光分光分析法」で測定した。このAl濃度をAl量に換算し、Al量を算出した。
【0061】
Al量(Al金属粉等の合金粉として存在し、アルミナや長石等の複合酸化物は含まない)は、「酸分解法」によりワイヤ全量を王水へ溶解して、不溶であったAl源(アルミナや長石等の複合酸化物)をろ過し、その溶液をワイヤに含まれるAl源(Al金属粉等の合金粉)として得ることで、「ICP発光分光分析法」を用い、Al量(Al金属粉等の合金粉)として存在を求めた。
【0062】
【表1】

【0063】
【表2】

【0064】
作製されたフラックス入りワイヤを用いて、以下に示す方法で、耐高温割れ性、機械的性質(引張強さ、吸収エネルギー)、溶接作業性について評価した。その評価結果に基づいて、実施例および比較例のフラックス入りワイヤの総合評価を行った。
【0065】
(耐高温割れ性)
JIS G3106 SM400B鋼(C:0.12質量%、Si:0.2質量%、Mn:1.2質量%、P:0.009質量%、S:0.004質量%を含有し、残部Feおよび不可避的不純物)からなる溶接母材を、表3に示す溶接条件で片面溶接(下向突合せ溶接)した。
【0066】
【表3】

【0067】
図2に示すように、溶接母材11はV形状の開先を有し、このV形状の開先の裏面には、耐火物12およびアルミニウムテープ13等からなる裏当て材が配置されている。そして、開先角度を35°として、セラミック製の裏当て材が配置されている部分のルート間隔を4mmとした。溶接終了後、初層溶接部(クレータ部を除く)について、X線透過試験(JIS Z 3104)にて、内部割れの有無を確認し、割れ発生部分のトータル長さを測定し、割れ率を算出した。ここで、割れ率は、割れ率W=[(割れ発生部分のトータル長さ)/(初層溶接部長さ(クレータ部を除く))]×100により算出される。その割れ率で耐高温割れ性を評価した。評価基準は、割れ率0%のとき「優れている:○」、割れ有りのとき「劣っている:×」とした。その結果を表4、表5に示す。
【0068】
(機械的性質)
JIS Z3313に準じて、引張強さ、靭性の評価基準としての0℃吸収エネルギーについて評価した。引張強さの評価基準は、490MPa以上640MPa以下のとき「優れている:○」、490MPa未満または640MPa超のとき「劣っている:×」とした。0℃吸収エネルギーの評価基準は、60J以上のとき「優れている:○」、60J未満のとき「劣っている:×」とした。さらに、JIS Z3313に準じて、伸びを評価する場合には、その評価基準は、22%以上のとき「優れている:○」、22%未満のとき「劣っている:×」とした。その結果を表4、表5に示す。
【0069】
(溶接作業性)
耐高温割れ性と同様の溶接母材を使用して、下向すみ肉溶接、水平すみ肉溶接、立向上進すみ肉溶接、立向下進すみ肉溶接の4種の溶接を行い、作業性を官能評価した。ここで、下向すみ肉溶接試験、水平すみ肉溶接試験および立向下進溶接試験の溶接条件は、前記耐高温割れ性と同様とした(表3参照)。立向上進すみ肉溶接試験の溶接条件は、溶接電流200〜220A、アーク電圧24〜27Vとした。なお、評価基準は、スパッタ発生、ヒューム発生、ビード垂れ、ビード外観等に加え、低温割れやブローホール、生産中の断線等の溶接不良が発生しないとき「優れている:○」、溶接不良が発生したとき「劣っている:×」とした。その結果を表4、表5に示す。
【0070】
(総合評価)
総合評価の評価基準は、前記評価項目のうち、耐高温割れ性、機械的性質および溶接作業性の全てが「○」のとき「優れている:○」、前記評価項目の少なくとも1つが「×」のとき「劣っている:×」とした。その結果を表4、表5に示す。
【0071】
【表4】

【0072】
【表5】

【0073】
表1、表4に示すように、実施例(No.1〜21)は、全てのワイヤ成分が本発明の範囲を満足するため、耐高温割れ性、機械的性質および溶接作業性の全てにおいて優れ、総合評価においても、優れていた。
【0074】
表2、表5に示すように、比較例(No.22)は、C量が下限値未満であるため、機械的性質に劣り、総合評価は劣っていた。比較例(No.23)は、C量が上限値を超えるため、耐高温割れ性、機械的性質および溶接作業性に劣り、総合評価は劣っていた。比較例(No.24)は、Si量が下限値未満であるため、溶接作業性に劣り、また、式(1)の値が上限値を超えるため耐高温割れ性に劣り、総合評価は劣っていた。比較例(No.25)は、Si量が上限値を超えるため、耐高温割れ性に劣り、総合評価は劣っていた。比較例(No.26)は、Mn量が下限値未満であるため、耐高温割れ性および機械的性質に劣り、総合評価は劣っていた。比較例(No.27)は、Mn量が上限値を超えるため、機械的性質および溶接作業性に劣り、総合評価は劣っていた。
【0075】
比較例(No.28)は、Ti量が下限値未満であるため、耐高温割れ性に劣り、総合評価は劣っていた。比較例(No.29)は、Ti量が上限値を超えるため、耐高温割れ性、機械的性質および溶接作業性に劣り、総合評価は劣っていた。比較例(No.30)は、TiO量が下限値未満であるため、溶接作業性に劣り、総合評価は劣っていた。比較例(No.31)は、TiO量が上限値を超えるため、溶接作業性に劣り、総合評価は劣っていた。比較例(No.32)は、Al量が下限値未満であるため、耐高温割れ性および機械的性質に劣り、総合評価は劣っていた。比較例(No.33)は、Al量が上限値を超えるため、溶接作業性に劣り、総合評価は劣っていた。
【0076】
比較例(No.34)は、Al量が下限値未満であるため、溶接作業性に劣り、総合評価は劣っていた。比較例(No.35)は、Al量が上限値を超えるため、溶接作業性に劣り、総合評価は劣っていた。比較例(No.36)は、B量が下限値未満であるため、機械的性質に劣り、総合評価は劣っていた。比較例(No.37)は、B量が上限値を超えるため、耐高温割れ性に劣り、総合評価は劣っていた。比較例(No.38)は、N量が上限値を超えるため、機械的特性に劣り、総合評価は劣っていた。
【0077】
比較例(No.39)は、フラックス充填率が下限値未満であるため、溶接作業性に劣り、総合評価は劣っていた。比較例(No.40)は、フラックス充填率が上限値を超えるため、ワイヤ生産中に断線が発生し、総合評価は劣っていた。比較例(No.41、42)は、式(1)の値が下限値未満であるため、耐高温割れ性に劣り、総合評価は劣っていた。比較例(No.43)は、式(1)の値が上限値を超えるため、耐高温割れ性に劣り、総合評価は劣っていた。
【0078】
以上の結果から、実施例(No.1〜21)は、比較例(No.22〜43)と比べて、フラックス入りワイヤ1として優れていることが確認された。
【符号の説明】
【0079】
1 フラックス入りワイヤ(ワイヤ)
2 鋼製外皮
3 フラックス
4 継目
11 溶接母材
12 耐火物
13 アルミニウムテープ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軟鋼または高張力鋼からなる鋼板の溶接に使用され、鋼製外皮内にフラックスを充填してなるフラックス入りワイヤであって、
ワイヤ全質量に対するフラックス充填率が10〜25質量%であり、
ワイヤ全質量に対して、
C:0.02〜0.08質量%、
Si:0.10〜1.50質量%、
Mn:1.7〜4.0質量%、
Ti:0.05〜1.00質量%、
TiO:1.0〜8.0質量%、
Al:0.20〜1.50質量%、
Al:0.05〜1.0質量%、
B:0.003〜0.02質量%、
N:0.005質量%以下、
Ni:3.0質量%以下(0質量%を含む)、
Cu:3.0質量%以下(0質量%を含む)を含有し、
下記の式(1)を満足することを特徴とするフラックス入りワイヤ。
10≧(Ni+14×C+0.29×Mn+0.30×Cu)/(1.5×Si)≧2.5・・・(1)
なお、式(1)における元素記号は、その元素の含有量(質量%)を表す。
【請求項2】
前記フラックス入りワイヤが、さらに、ワイヤ全質量に対して、Mg:0.01〜2.0質量%、希土類化合物の1種または2種以上:希土類元素換算値で0.0005〜0.5質量%、Ca:0.0002〜0.2質量%からなる群から選択された少なくとも1種を含有することを特徴とする請求項1に記載のフラックス入りワイヤ。
【請求項3】
前記フラックス入りワイヤが、さらに、ワイヤ全質量に対して、Mo:0.1〜2.0質量%、Co:0.01〜2.0質量%、Zr:0.01〜1.0質量%からなる群から選択された少なくとも1種を含有することを特徴とする請求項1または請求項2に記載のフラックス入りワイヤ。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−115878(P2012−115878A)
【公開日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−268727(P2010−268727)
【出願日】平成22年12月1日(2010.12.1)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】