説明

フラックス塗布方法およびフラックス塗布装置

【課題】V.O.C.フリーフラックスのフラックス成分の粒子が結合しないように維持し、また結合してもこれを分離させ、被フラックス塗布ワークに塗布した際に均一な粒子密度の塗着を生じるようにすることを目的とする。
【解決手段】本発明に係るフラックス塗布方法によれば、フラックス液に超音波を加える工程と、前記超音波が加えられたフラックス液を噴霧ノズルから噴霧して被フラックス塗布ワークに塗布する工程とを有することを特徴とする。また、フラックス液に超音波を加える工程では、収容体30に貯留されたフラックス液に超音波を加える工程と、このフラックス液を収容体30内で重力方向に流動させる工程とが一体あるいは別々で行われる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばプリント配線板等のフローはんだ付けを行う前に、その被はんだ付け面、ひいてはその被はんだ付け部にフラックス液を塗布する方法と塗布する装置に関する。
【背景技術】
【0002】
プリント配線板のフローはんだ付けを行う際に、その被はんだ付け面の全面や被はんだ付け部の領域にのみフラックスを塗布することが行われる。フラックスには、第1に被はんだ付け部の汚れを除去する清浄作用、第2に被はんだ付け部に存在する酸化物の還元作用、第3に溶融はんだの表面張力低下作用、等々があり、被はんだ付け部のはんだ濡れ性を向上させる作用がある。
【0003】
一方で、今まではフラックスの溶媒として揮発性有機化合物(V.O.C.:volatile organic compounds)が使用されてきたが、大気中に放出されたV.O.C.は地球温暖化の加速要因となることから、近年では水を溶媒とするV.O.C.フリーフラックスが注目されてきている。
V.O.C.フリーフラックスは、表面張力が大きく濡れ広がり難く、また乾燥にも手間取る等の特性を有していることから、被フラックス塗布ワークであるプリント配線板を予め加熱しておいて、さらに加熱したフラックスを噴霧して塗布すること等が良いとされている。また、フラックス塗布後に直ちに乾燥を開始することが良いとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平8−229674号公報
【特許文献2】特開2001−300358号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
V.O.C.フリーフラックスと呼称されるものの中には、数%程度のV.O.C.を含むものがある。これは、少量のV.O.C.をフラックスに添加することによって樹脂成分を水に溶けやすくしたものである。また、少量のV.O.C.を添加することによって、溶媒の除去性が容易となる。そのため、LOW V.O.C.フラックスと呼称されることもある。
一方で、V.O.C.フリーフラックスで最も有望視されているものは、その粒径がミクロンオーダーのフラックス成分を水に粒子分散させたもので、これは完全なるV.O.C.フリーフラックスである。また、このV.O.C.フリーフラックスは、フラックス成分の粒子分散技術に特徴を有している。すなわち、フラックス成分の粒子同士が結合したり沈降したりしないように構成されている。
【0006】
しかしながら、わずかではあるがフラックス成分の粒子同士の結合を生じ、さらには沈降を生じたりすることがある。フラックス成分の粒子同士の結合は分散粒子を大きくするので、プリント配線板に塗布した際の塗布むらを生じ塗布均一性を損なう。すなわち、プリント配線板に均一な粒子密度でフラックス成分の粒子を塗着させて塗布することができなくなる。また、沈降はフラックス液に含まれるフラックス成分の粒子密度、いわゆる固形分がフラックス液内で不均一に分布することになり、プリント配線板への固形分塗着量の経時的変化を生じるようになる。また、予めシミュレーションされたフラックス成分の粒子の塗着量が得られなくなる。
【0007】
そして、フラックスの塗布むら、すなわち塗布不均一性はプリント配線板のはんだ付け性のむら、すなわち不均一なはんだ付け性として現れて、はんだ付け実装品質を低下させ、固形分塗着量の経時的変化ははんだ付け実装品質の経時的変化として現れる。
【0008】
本発明は、V.O.C.フリーフラックスのフラックス成分の粒子が結合しないように維持し、また結合してもこれを分離させ、被フラックス塗布ワークに塗布した際に均一な粒子密度の塗着を生じるようにすること、併せてフラックス成分の粒子同士の結合等を原因とする沈降を解消して固形分塗着量を安定に維持することにある。その結果、プリント配線板のフローはんだ付け実装品質を向上させかつ安定に維持することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、V.O.C.フリーフラックスの液中におけるフラックス成分の粒子同士の結合を超音波の波動を加えることによって阻止・分離させ、併せてフラックス成分の粒子の沈降を積極的に阻止しながらV.O.C.フリーフラックスを被フラックス塗布ワークに塗布するところに特徴がある。
(1)本発明に係るフラックス塗布方法は、フラックス液に超音波を加える工程と、前記超音波が加えられたフラックス液を噴霧ノズルから噴霧して被フラックス塗布ワークに塗布する工程とを有することを特徴とする。
(2)また、前記フラックス液に超音波を加える工程では、収容体に貯留されたフラックス液に超音波を加える工程と、このフラックス液を収容体内で重力方向に流動させる工程とが一体あるいは別々で行われることを特徴とする。
(3)また、前記フラックス液に超音波を加える工程で前記フラックス液に超音波を間欠的に加える期間のデューティサイクルを予め決めた所定の値以上に制御する工程を更に有することを特徴とする。
(4)また、フラックス液に超音波が加えられていない期間が予め決めた所定の期間以上であるか否かを判断する工程を更に有し、前記フラックス液に超音波が加えられていない期間が予め決めた所定の期間以上の場合、前記フラックス液に超音波を加える工程では、先ず超音波を加えるデューティサイクルを大きく設定し、その後予め決めた所定のデューティサイクルに移行させることを特徴とする。
(5)また、前記フラックス液は、液体中にフラックス成分を粒子分散させたものであることを特徴とする。
(6)また、前記フラックス液は、水を主成分とする液体中にフラックス成分を粒子分散させたものであることを特徴とする。
(7)本発明に係るフラックス塗布装置は、フラックス液に超音波を加える手段と、前記超音波が加えられたフラックス液を被フラックス塗布ワークに噴霧して塗布する手段とを備えていることを特徴とする。
(8)また、収容体に貯留されたフラックス液を重力方向に流動させる手段を更に備え、前記フラックス液に超音波を加える手段は、収容体に貯留されたフラックス液に超音波を加えることを特徴とする。
(9)また、フラックス液に超音波が加えられていない期間に基づいて、前記フラックス液に超音波を加える手段を駆動させる制御手段を更に有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、フラックス成分の粒子が結合した状態で被フラックス塗布ワークに塗着することがなくなるので、フラックス成分の粒子を液体中に粒子分散させたフラックスや、フラックス成分の粒子を水に分散させた完全なV.O.C.フリーフラックスを均一な粒子密度で塗布することができる。また、フラックス成分の粒子の沈降も生じないので経時的にも安定した粒子密度で塗布することができる。その結果、被フラックス塗布ワーク各部におけるはんだ付け品質が均一な実装が可能になり、はんだ付け品質の偏りをなくすことができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】フラックス塗布装置の構成を示す図である。
【図2】フラックスに超音波を加える例を説明するためのタイムチャートである。
【図3】フラックスに超音波を加え、さらにフラックス液を流動させるための攪拌を行う手順を説明するためのフローチャートである。
【図4】プリント配線板にフラックスを塗布する手順を説明するためのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
次に、本発明に係るフラックス塗布方法およびフラックス塗布装置の実施形態について図面を参照して説明する。
【実施例1】
【0013】
(1)構成
図1は、本実施形態に係るフラックス塗布装置の構成を示す図であり、搬送コンベアの搬送方向に対する縦断面で示している。なお、図1では、図をわかり易くするために制御系をシンボル図で示している。
フラックス塗布装置100は、被フラックス塗布ワークとしてのプリント配線板Wを搬送する搬送コンベア20を備えている。搬送コンベア20は、モータ21によって駆動され循環走行する並行2条のチェーンから成り、そのピン上にプリント配線板の両側端部を載置・保持させて搬送する。モータ21は回転エンコーダ22を有しているので、フラックス塗布装置100は回転エンコーダ22のエンコード出力信号から回転角度(ひいては搬送距離)や速度を取得することができる。搬送コンベア20は、プリント配線板を図1に示す搬送方向Aに沿って、順に予備加熱部10、フラックス塗布部11および乾燥部12に搬送する。
【0014】
予備加熱部10は、プリント配線板を予め加熱する予備加熱工程であって、例えばランプ型ヒータ等の予備加熱用のヒータ23が配設されている。
また、乾燥部12は、フラックスが塗布されたプリント配線板を加熱して乾燥させる乾燥工程であって、例えばランプ型ヒータ等の乾燥用のヒータ24が配設されている。予備加熱用のヒータ23や乾燥用のヒータ24には図示しない温度制御装置等の供給電力調節手段を通して電力が供給され、プリント配線板の予備加熱温度や乾燥温度を調節できるように構成されている。
【0015】
フラックス塗布部11は、プリント配線板にフラックスを塗布するフラックス塗布工程であり、フラックスを噴霧する手段としての噴霧ノズル25等が配設されている。フラックス塗布部11には、搬送コンベア20を挟んで噴霧ノズル25の反対側すなわち搬送コンベア20の上方側に、排気フード26と排気ブロワ27とから成る排気手段が設けられている。排気フード26と排気ブロワ27は、プリント配線板に塗着しなかったフラックスを排気フード26の開口面に設けたフィルタ28で捕捉し、外部へ排出しないように構成されている。
【0016】
噴霧ノズル25は、図示しないアクチュエータに設けられていて、搬送コンベア20で搬送されるプリント配線板の搬送方向Aと交差(直交)する方向に往復移動を繰り返しながら、プリント配線板に向けてフラックスを噴霧し塗布する。なお、噴霧ノズル25の往復移動は、プリント配線板の板面に対して平行に行われる。また、フラックスの噴霧開始や噴霧停止のタイミングは、進入センサ29によりプリント配線板の前端と後端との位置の検出に合わせて決定される。
【0017】
噴霧ノズル25によって噴霧されるフラックスは、液体中にフラックス成分を粒子分散させたフラックスや特にはV.O.C.フリーフラックスであり、タンク等の収容体30に貯留されている。貯留されたフラックスFは、例えば歯車型のポンプ31によって噴霧ノズル25に供給される。このとき、流量計32が、噴霧ノズル25に供給されるフラックス流量を測定する。なお、歯車型のポンプ31は、回転角度に比例して供給量が決まるので、回転角度の総回転角度でフラックス供給量が決まり、回転速度で単位時間当たりの供給流量が決まる。
【0018】
収容体30は、ゴム系の緩衝部材33で支持され、その底面には収容体30内のV.O.C.フリーフラックスに超音波を加える手段としての超音波振動子34が設けられている。また、収容体30には、保温ヒータ35が設けられている。保温ヒータ35は、収容体30内のフラックスの温度を予め決めた適温に維持する。なお、保温ヒータ35は、温度制御装置を使用して温度制御を行っても良いが、自己温度制御型のヒータを使用しても良い。また、超音波振動子34を設ける位置は収容体30の底面に限られることはなく、側面や収容体30内のフラックス液中に設けても良い。保温ヒータ35を設ける位置についても同様である。すなわち、超音波振動子34や保温ヒータ35は、適宜最適な位置に設ければ良い。また、それぞれ複数設けても良い。
【0019】
さらに、収容体30には、フラックスを流動させる手段としての攪拌体37が設けられている。攪拌体37は、モータ36によって駆動され、収容体30内のV.O.C.フリーフラックスを重力方向、すなわち図1に示す縦方向に主に流動させる。なお、保温ヒータ35によって収容体30内のV.O.C.フリーフラックスに熱対流が生じるため、この保温ヒータ35の加熱方法を工夫することでV.O.C.フリーフラックスを重力方向、すなわち図1に示す縦方向に流動させることが可能になる。
例えば、石英ガラス管内に発熱発光体を設けたランプヒータを直接、V.O.C.フリーフラックス内に設ける。このランプヒータがフラッシュ加熱すなわち一時的な急速加熱を繰り返すことによりランプヒータ近傍域のV.O.C.フリーフラックスのみが加熱され、フラックスの平均温度を低い温度に保ちながらも積極的な熱対流を形成することができる。すなわち、熱対流による攪拌作用を形成することができる。
【0020】
また、フラックス塗布装置100は上述した各構成部を制御する制御手段としての制御装置40を備えている。制御装置40はコンピュータシステムによって構成され、キーボード等の指示操作部41とLCD等の表示部42とを含むマンマシンインターフェイスを有している。また、コンピュータシステムは、その入出力ポートを介する通信により外部装置を駆動したりセンサ信号を取得したりする。もちろん、このコンピュータシステムは、現在時刻を把握する時計を有している。
【0021】
具体的には、制御装置40は搬送コンベア20のモータ21の駆動制御(運転/停止、方向、速度等)を駆動部43を介して行う。また、制御装置40はV.O.C.フリーフラックスを噴霧ノズル25に供給するポンプ31の駆動制御(運転/停止、単位時間当たりの供給流量等)を駆動部44を介して行う。また、制御装置40は収容体30の超音波振動子34の駆動制御を駆動部45を介して行う。さらに、制御装置40は攪拌体37のモータ36の駆動制御を駆動部46を介して行う。各駆動部43〜46は、電力駆動回路により構成されている。駆動部43、46は、駆動するモータの回転角度や速度をエンコーダにより検出して回転状態ひいては作動状態をコンピュータシステムにフィードバックする。なお、超音波振動子34の駆動部45は、その駆動周波数と駆動振幅(駆動電力)を設定可能に構成され、収容体30内のV.O.C.フリーフラックスに目的とする形態のキャビテーションを生じさせることができるように構成されている。すなわち、このような制御は制御装置40の指示操作部41から操作者が入力することにより、超音波振動子34の駆動状態を可変し調節できる。
【0022】
(2)作動
V.O.C.フリーフラックスでは、液中のフラックス成分の粒子同士がわずかではあるが経時的に結合を生じ、さらには沈降を生じたりする。このフラックス成分の粒子同士の結合は、単なる攪拌では分離することができない。そのため、このフラックス成分の粒子同士の結合が沈降を促進する原因にもなっている。
しかし、このフラックス成分の粒子同士の結合は、音波特には超音波を加えた際に発生するキャビテーションによって分離することができる。したがって、超音波を定期的に加えることによって、フラックス成分の粒子同士の結合を阻止・分離することができる。そのため、この結合を原因とするフラックス成分の粒子の沈降も解消することができる。もちろん、超音波を常時連続して加えても良いが、駆動電力を有効利用しかつ実質的に有効な作用を期待するのであれば、間欠的に超音波を加えるだけで良い。
【0023】
図2は、V.O.C.フリーフラックスに超音波を加える例を説明するためのタイムチャートである。図2(a)は、間欠的かつ定期的に超音波を加える例を説明するためのタイムチャートである。図2(b)は、フラックスに超音波を加えない休止期間(休止している連続時間)が長い場合について超音波を加える例を説明するためのタイムチャートである。
まず、図2(a)の例では、時間間隔tpで継続時間tdにわたって超音波を加えている。超音波を加えるデューティサイクルはDs=td/tp(%表示するにはさらに100を乗ずる)である。これにより、期間(tp−td)で発生したフラックス成分の粒子同士の結合を、継続時間tdにわたって超音波を加えることにより分離する。すなわち、フラックス液中にキャビテーションを発生させることによって分離する。したがって、V.O.C.フリーフラックスの液中においてフラックス成分の粒子同士の結合を生じることがない。そのため、フラックス成分の粒子同士の結合に原因する沈降も解消される。
【0024】
デューティサイクルは、フラックス成分の粒子同士が結合する頻度・程度と加える超音波の振幅(強度)、周波数(20kHz〜100kHz)ひいてはキャビテーションの形態とによって決める。超音波の周波数は液中に発生する定在波の腹部の位置を決め、この腹部では最も強力なキャビテーションが発生する。フラックス成分の粒子同士の結合を分離するための超音波出力としては、収容体30の容積が10リットルの場合では150W以上で望ましくは200W以上であることが望まれる。
例えば、容積10リットルで周波数28kHz、出力200Wの場合に、デューティサイクルDs=8%(tp=1min)で十分な作用を確認している。もちろん、V.O.C.フリーフラックスのフラックス成分の粒子の組成や形態が大きく異なる場合には、これらのパラメータも異なってくる。
【0025】
次に、図2(b)の例では、フラックス塗布装置100が運転を休止していた後に運転を開始する。この場合は、運転を休止していた期間すなわち長い時間にわたって収容体30内のV.O.C.フリーフラックスには超音波が加えられていないので、フラックス成分の粒子同士の結合が進行している。したがって、先ず最初に、V.O.C.フリーフラックスに連続して超音波を加え、フラックス成分の粒子同士の結合を十分に分離する必要がある。
【0026】
図2(b)の例では休止時間をtr(例えば15時間)とし、運転開始と共に先ず連続して期間tsにわたってV.O.C.フリーフラックスに超音波を加えている。さらに図2(b)の例では期間tsで超音波出力を上昇させている。これは短時間でフラックス成分の粒子同士の分離を完了するためである。もちろん、超音波出力を上昇させなくても超音波を加える期間を長くする、つまり(ts+α)としても良い。
ここで、期間tsの長さであるが、概ねts=tr×k1(但し、係数k1=0.005〜0.1)でフラックス成分の粒子同士の分離が完了する。具体的には、容積10リットルで周波数28kHz、出力200Wの場合に、k1=0.01でフラックス成分の粒子同士の結合を実用上で十分に分離することができる。また、係数k1は、フラックス成分の粒子の大きさを変化させて求めた値で、粒子の平均粒径が100μm〜数10nmの範囲で適合する。また、十分なキャビテーションを生じていれば周波数依存性は低く、キャビテーションの態様を決める超音波出力ひいては最低出力が重要である。
【0027】
但し、休止期間trは、概ね16時間を超えると係数k1には比例しなくなり、超音波を加える期間tsを概ね一定の時間にしてもフラックス成分の粒子同士の結合を十分に分離することができる。これらは、フラックス成分の粒子同士の結合が当初は時間比例的に進行するが、ある時期を過ぎると結合できる確率が急速に減少するためである。
また、休止期間trが3時間未満程度であれば、超音波を加えるデューティサイクルを70%(tp=10sec)程度に大きくして、その合計時間がts=tr×k1(但し、係数k1=0.005〜0.1)になるまで加え、その後は通常通り間欠的に超音波を加えるようにしても良い。
【0028】
他方、フラックスの収容体30に設けられている攪拌体37は、沈降によりフラックス成分の粒子密度に位置的な偏りを生じてしまった場合に、このフラックス成分の粒子の密度をフラックス液の各部すなわち収容体30の各位置で揃え、噴霧ノズル25から噴霧されるフラックス液中のフラックス成分の粒子密度分布を経時的に一定に保持する。したがって、攪拌体37による流動方向は主に重力方向、すなわち図1に示す縦方向であることが望ましく、流動速度も低速で良い。具体的には、容積10リットルの収容体30で流動サイクルタイムは、数秒(3〜10秒)程度で良い。その他に、上述したように熱対流を利用した攪拌を利用することもできる。
なお、沈降の原因は、V.O.C.フリーフラックスの固有の性質によるものと、上述したフラックス成分の粒子同士の結合によるものとがある。
【0029】
(3)フラックス塗布装置の作動例
制御装置40はコンピュータシステムによって構成されているので、その制御手順はソフトウェア上で実現できる。すなわち、制御装置40の図示しないCPUが、ROM等に格納されたソフトウェア(プログラム)を実行することにより実現する。また、タイムシェアリングシステムにより、複数タスクを並列実行可能である。
図3は、V.O.C.フリーフラックスの収容体30に超音波を加え、さらにフラックス液を流動させるための攪拌を行う手順を説明するフローチャートである。また、図4は、プリント配線板にフラックスを塗布する手順を説明するフローチャートである。なお、図3のフローチャートと図4のフローチャートとはステップS15とステップS31で連係作動する。
【0030】
V.O.C.フリーフラックスへの超音波印加と攪拌は次のように行われる。
まず、フラックス塗布装置100が運転を開始すると、ステップS11において、制御装置40はフラックス塗布装置100が休止した時刻を読み込み現在時刻との差、すなわち休止期間trを求める。
次に、ステップS12において、制御装置40は休止期間trが予め決めた所定の期間Ta(例えば3時間)以上であるか否かを判断する。所定の期間Ta以上の場合、ステップS13に移行する。
【0031】
ステップS13では、制御装置40は(tr×k1)で求まる期間tsにわたって連続して超音波振動子34を駆動させて収容体30のフラックスに超音波を加えると共にモータ36を駆動させて攪拌体37によってフラックスを攪拌させる。ここで、係数k1は、V.O.C.フリーフラックスの種類により決まる値で、粒子の平均粒径が100μm〜数10nmの範囲で0.005〜0.1となる。
この例ではk1=0.01としてtr=16時間の場合にts=tr×k1=9.6minとなる。すなわち9分36秒間にわたって超音波を連続して加える。なお、攪拌体37を駆動するモータ36は、超音波の印加有無に係わらず連続駆動にしても良い。
また、期間tsについて超音波出力を大きくして(超音波振動子34への供給電力を大きくして)キャビテーション態様が大きくなるようにすれば、その作用を一層高めることができる。
【0032】
ステップS12においてtr<Ta(例えば3時間)の場合、およびステップS13において期間tsにわたって超音波を加えた後、ステップS14へ移行する。ステップS14では、制御装置40はデューティサイクルDa=70%(tp=10sec)で超音波を繰り返し加える(印加を開始する)。また、制御装置40はモータ36を駆動させて攪拌体37を作動させ、V.O.C.フリーフラックスを重力方向、すなわち図1に示す縦方向に流動させる。
【0033】
次に、ステップS15において、制御装置40はフラックス噴霧塗布作業の開始許可を与える。具体的には、制御装置40は対応フラグをONにしてRAM等のメモリに記憶する。
次に、ステップS16において、制御装置40はデューティサイクルDa=70%、tp=10secによる超音波の印加を続行しつつ印加時間の合計tgがts=tr×k1を越えたか否かを判断する。合計tgがtsを越えた場合、ステップS17に移行する。
ステップS17では、制御装置40は通常のデューティサイクルDs=8%(tp=1min)で超音波を繰り返し連続して加える(ステップS19へ移行するまで繰り返し連続して加える)。
【0034】
すなわち、フラックス塗布装置100の休止期間が短い場合、V.O.C.フリーフラックスのフラックス成分の粒子同士の結合はそれ程には進行していない。この場合、超音波を加えるデューティサイクルを大きくしてさらに繰り返し時間を短くする等により、ごく短時間でフラックス成分の粒子同士の結合を分離することができるようになる。そのため、制御装置40はデューティサイクルDaで超音波を加え始めて直ちにフラックス噴霧塗布作業の開始許可(ステップS15)を与えることができる。
【0035】
また、ステップS13では、制御装置40は期間tsにわたって連続してV.O.C.フリーフラックスに超音波を加え、続いてステップS14〜ステップS16の間でデューティサイクルDa=70%(tp=10sec)で超音波を加えているのは、結合したフラックス成分の粒子を余すことなく完全に分離するためである。実用的には、ステップS13が完了した時点で結合したフラックス成分の粒子は十分に分離されていて、V.O.C.フリーフラックスの噴霧塗布作業を開始することができる状態に到達している。
【0036】
このように、ステップS13で超音波を連続して加え、すなわち極めて大きいデューティサイクル(≒100%)で加え、徐々にデューティサイクルを通常の値へ引き下げていくことにより、消費電力を低減しつつもフラックス成分の粒子同士の結合を短時間で完全に分離することができる。
もちろん、ステップS13でフラックス成分の粒子同士の結合が実用上で十分に分離されているので、ステップS14へは移行しないで直ちにV.O.C.フリーフラックスの噴霧塗布作業の開始許可を与えた後にステップS17へ移行させても良い。
【0037】
そして、ステップS17において、制御装置40は通常のデューティサイクルDs=8%(tp=1min)で超音波を繰り返し連続して加える作業を続行しながら、ステップS18へ移行する。
ステップS18では、制御装置40はフラックス塗布装置100の休止命令(制御装置40の指示操作部41が操作されることにより噴霧塗布作業の終了命令(OFF命令))があるか否かを判断する。休止命令がある場合、ステップS19に移行する。
【0038】
ステップS19では、制御装置40は超音波振動子34への電力供給を停止し、すなわちフラックスに超音波を加えることを停止し、攪拌体37を駆動するモータ36を停止させる。
次に、ステップS20において、制御装置40はフラックス噴霧塗布不許可とする。具体的には、制御装置40は対応フラグをOFFにしてRAM等のメモリに記憶する。
次に、ステップS21において、制御装置40は休止時刻を記憶して作業を終了する。
【0039】
一方、図4のフラックス噴霧塗布作業では、先ずステップS31において、制御装置40はフラックスの噴霧塗布作業の開始許可があるか否かを判断する。具体的には、制御装置40はメモリを参照して対応フラグがONであるかOFFであるかを判断する。開始許可がある場合にのみ、ステップS32へ移行する。
ステップS32では、制御装置40は搬送コンベア20の作動を開始する。
次に、ステップS33において、制御装置40は進入センサ29の検出信号を参照して、プリント配線板が噴霧ノズル25の上方位置へ搬入開始されたか否かを判断する。具体的には、制御装置40は進入センサ29の検出信号に基づいてプリント配線板の前端を検出したか否かを判断する。搬入開始された場合、ステップS34へ移行する。
【0040】
ステップS34では、制御装置40は予め指示されている単位時間当たりの供給流量QsでV.O.C.フリーフラックスの噴霧を開始して塗布を開始(フラックス供給のポンプ31の運転を開始)する。この噴霧は、上述したように図示しないアクチュエータにより噴霧ノズル25を往復移動させながら行い、プリント配線板の各部へのフラックス塗着量分布が均一になるように行われる。
【0041】
次に、ステップS35において、制御装置40は進入センサ29の検出信号を参照して、プリント配線板が噴霧ノズル25の上方位置から搬出されたか否かを判断する。具体的には、制御装置40は進入センサ29の検出信号に基づいてプリント配線板の後端を検出したか否かを判断する。搬出完了された場合、ステップS36へ移行する。
ステップS36では、制御装置40はV.O.C.フリーフラックスの噴霧を停止(フラックス供給のポンプ31の運転を停止)する。併せて、噴霧ノズル25の往復移動も停止させる。
その後、ステップS33に戻り、制御装置40は次のプリント配線板の搬入を待ち、以上の手順を繰り返す。
【0042】
このようにして液体中にフラックス成分を粒子分散させたフラックス、特にはV.O.C.フリーフラックスがプリント配線板に塗布され、粒径がミクロンオーダーのフラックス成分の粒子がプリント配線板上に均一に塗着される。すなわち、均一な粒子密度で(均一なフラックス量で)塗布される。フラックス成分の粒子同士が結合していると部分的に塗着フラックス量が多くなる。
V.O.C.フリーフラックスが塗布されたプリント配線板は、乾燥工程で水分を完全に蒸発させ、さらに60〜70℃程度の温度まで加熱することでフラックス成分の粒子を溶融させてプリント配線板表面に均一な膜厚のフラックス薄膜が形成される。
そして、このフラックス薄膜がプリント配線板の被はんだ付け面あるいは被はんだ付け部に均一に分布することによって、各被はんだ付け部を均一な品質ではんだ付けすることが可能になる。
【実施例2】
【0043】
上述した実施例1では、液体中にフラックス成分を粒子分散させたフラックス特にはV.O.C.フリーフラックスを収容する収容体30やその内部に超音波振動子34を設ける場合について説明したが、この場合に限られない。例えば、図1において収容体30内のV.O.C.フリーフラックス液中に挿入されているパイプ部分から噴霧ノズル25に至るパイプ部分の何れかの位置に超音波振動子を設け、フラックス噴霧に連動して(図4のステップS34〜ステップS36の期間)超音波振動子を駆動してパイプ中のV.O.C.フリーフラックスに超音波を加え、キャビテーションを生じさせるように構成しても良い。もちろん、実施例1と同様にして間欠的に超音波を加えるように構成しても良い。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明に係るフラックス塗布方法およびフラックス塗布装置の技術は、完全なV.O.C.フリーフラックスの実用化を可能にするので、V.O.C.放出による地球環境負荷を大幅に低減し、はんだ付け実装を伴う電子産業に対する貢献は極めて大きいものになる。
【符号の説明】
【0045】
100:フラックス塗布装置 10:予備加熱部 11:フラックス塗布部
12:乾燥部 20:搬送ベルト 25:噴霧ノズル 29:進入センサ
30:収容体 34:超音波振動子 36:モータ 37:攪拌体 40:制御装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フラックス液に超音波を加える工程と、
前記超音波が加えられたフラックス液を噴霧ノズルから噴霧して被フラックス塗布ワークに塗布する工程とを有すること
を特徴とするフラックス塗布方法。
【請求項2】
前記フラックス液に超音波を加える工程では、
収容体に貯留されたフラックス液に超音波を加える工程と、
このフラックス液を収容体内で重力方向に流動させる工程とが一体あるいは別々で行われることを特徴とする請求項1に記載のフラックス塗布方法。
【請求項3】
前記フラックス液に超音波を加える工程で前記フラックス液に超音波を間欠的に加える期間のデューティサイクルを予め決めた所定の値以上に制御する工程を更に有することを特徴とする請求項1または2に記載のフラックス塗布方法。
【請求項4】
フラックス液に超音波が加えられていない期間が予め決めた所定の期間以上であるか否かを判断する工程を更に有し、
前記フラックス液に超音波が加えられていない期間が予め決めた所定の期間以上の場合、前記フラックス液に超音波を加える工程では、先ず超音波を加えるデューティサイクルを大きく設定し、その後予め決めた所定のデューティサイクルに移行させることを特徴とする請求項1ないし3の何れか1項に記載のフラックス塗布方法。
【請求項5】
前記フラックス液は、液体中にフラックス成分を粒子分散させたものであることを特徴とする請求項1ないし4の何れか1項に記載のフラックス塗布方法。
【請求項6】
前記フラックス液は、水を主成分とする液体中にフラックス成分を粒子分散させたものであることを特徴とする請求項1ないし4の何れか1項に記載のフラックス塗布方法。
【請求項7】
フラックス液に超音波を加える手段と、
前記超音波が加えられたフラックス液を被フラックス塗布ワークに噴霧して塗布する手段とを備えていること
を特徴とするフラックス塗布装置。
【請求項8】
収容体に貯留されたフラックス液を重力方向に流動させる手段を更に備え、
前記フラックス液に超音波を加える手段は、収容体に貯留されたフラックス液に超音波を加えることを特徴とする請求項7に記載のフラックス塗布装置。
【請求項9】
フラックス液に超音波が加えられていない期間に基づいて、前記フラックス液に超音波を加える手段を駆動させる制御手段を更に有することを特徴とする請求項7または8に記載のフラックス塗布装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−41928(P2011−41928A)
【公開日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−193217(P2009−193217)
【出願日】平成21年8月24日(2009.8.24)
【出願人】(390013505)株式会社アサヒ化学研究所 (4)
【出願人】(390008497)日本電熱株式会社 (32)
【Fターム(参考)】