説明

フラットケーブルおよびその製造方法

【課題】一方の端子をコネクタ嵌合、もう一方の端子をはんだ接合し、耐ウィスカ性とはんだ接合性を両立させ得るフラットケーブルおよびその製造方法を提供するものである。
【解決手段】本発明に係るフラットケーブルは、単数もしくは並列した複数のはんだめっき平角導体2の上下面を、絶縁性を有する接着剤付きフィルム1でラミネートして一体化してなり、一方の端子5がコネクタ嵌合、もう一方の端子6がはんだ接合されるものであり、はんだめっき平角導体2が、純銅もしくは銅合金からなる母材に純Snめっきしてなり、はんだめっき総厚をコネクタ嵌合側で0.5μm以上、1.0μm以下、はんだ接合側で1μm以上、3μm以下としたものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一方の端子をコネクタ嵌合、もう一方の端子をはんだ接合する形式のフラットケーブルおよびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
フラットケーブルは薄いテープ状の電線である。図2(a)、図2(b)にその構造例を示すように、例えば単数本又は並列配置した数十本の導体2を、絶縁性と難燃性を共有する接着剤3を塗工した接着剤付きの絶縁フィルム7で挟み込み、熱ロールなどでラミネートすることにより製造される。
【0003】
フラットケーブルはその柔軟性を活かし、回路間のジャンパ線(固定配線)に用いられてきた。近年、フラットケーブルの屈曲特性が向上し、フラットケーブルを電気・電子機器の可動部配線にFPC(フレキシブルプリント配線板)代替として適用するケースが増加している。特に、低価格化を狙ったパソコン用インクジェット型プリンタの印字ヘッド部配線やCD、DVD(デジタル多用途ディスクプレーヤ)やカーナビゲーションのピックアップ部配線など電子機器への適用が進んでいる。
【0004】
銅や銅合金製の配線材(導体)の表面には、その腐食や接触抵抗増加防止のため、Sn、Ag、Au又はNiなどのめっきが施されている。フラットケーブルの端子接続部においても、同様のめっきが施されている。その中でも、Snめっきはコスト面から広く使用されている。Snめっき材として、低融点であるSn−Pb合金が用いられてきた。ところが、2006年7月1日発効の欧州ROHS指令など環境対応の観点からPbフリーが強く求められており、はんだからもPbを除去する必要に迫られた。
【0005】
PbフリーのSnめっき、特に純Snめっきにおいては、Snの針状結晶であるウィスカがSnめっき膜表面に発生し、ウィスカが隣接する配線を短絡させてしまうという問題が生じた。そこで、ウィスカの発生原因であるSnめっき膜に負荷される応力を緩和させるべく、電気めっきなどにより形成したSnめっき膜に再溶融、凝固処理であるリフローを施すことにより、ウィスカの発生を低減させている。
【0006】
しかし、端子とコネクタを嵌合させるタイプなどの新たな外部応力がかかる箇所においては、リフローを施してもウィスカの発生を抑えることができない。そこで、Snめっき厚みを0.5μm以上、1.0μm未満の範囲に規定した電気導体部品(フラットケーブル)がある(特許文献1)。
【0007】
【特許文献1】特開2005−206869号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、インクジェットプリンタのヘッド部などに用いるフラットケーブルの可動側の端子については、振動が大きい場合など接続信頼性の面からはんだ接合することがある。例えば、一方がコネクタ嵌合端子、もう一方がはんだ接合端子であるフラットケーブルがある。このフラットケーブルとして、前述した特許文献1記載のフラットケーブルを適用すると、Snめっき厚みが薄くなるとはんだ付け性が低下するという問題がある。
【0009】
本発明の目的は、一方の端子をコネクタ嵌合、もう一方の端子をはんだ接合し、耐ウィスカ性とはんだ接合性を両立させ得るフラットケーブルおよびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の目的を達成するために、請求項1の発明は、単数もしくは並列した複数のはんだめっき平角導体の上下面を、絶縁性を有する接着剤付きフィルムでラミネートして一体化してなり、一方の端子がコネクタ嵌合、もう一方の端子がはんだ接合されるフラットケーブルにおいて、上記はんだめっき平角導体が、純銅もしくは銅合金からなる母材に純Snめっきしてなり、はんだめっき総厚をコネクタ嵌合側で0.5μm以上、1.0μm以下、はんだ接合側で1μm以上、3μm以下としたことを特徴とするフラットケーブルである。
【0011】
請求項2の発明は、上記コネクタ嵌合側の端子の上記純Snめっきが1層構造、上記はんだ接合側の端子の上記純Snめっきが2層構造である請求項1記載のフラットケーブルである。
【0012】
請求項3の発明は、単数もしくは並列した複数のはんだめっき平角導体の上下面を、絶縁性を有する接着剤付きフィルムでラミネートして一体化してなり、一方の端子がコネクタ嵌合、もう一方の端子がはんだ接合されるフラットケーブルの製造方法において、純銅もしくは銅合金からなる母材に純Snめっきし、はんだめっき総厚を0.5μm以上、1.0μm以下とした上記はんだめっき平角導体の上下面を上記接着剤付きフィルムでラミネートして一体化した後、はんだ接合側の端子のみに、はんだめっき総厚が1μm以上、3μm以下となるように純Sn追加めっきを行うことを特徴とするフラットケーブルの製造方法である。
【0013】
請求項4の発明は、ラミネート前の上記はんだめっき平角導体上にZnを0.1μm以下の厚さでめっきした後、そのはんだめっき平角導体を上記接着剤付きフィルムでラミネートして一体化する請求項3記載のフラットケーブルの製造方法である。
【0014】
請求項5の発明は、上記純Sn追加めっきを、電解めっきもしくは無電解めっきで行う請求項3又は4記載のフラットケーブルの製造方法である。
【発明の効果】
【0015】
本発明により、一方の端子がコネクタ嵌合、もう一方の端子がはんだ接合される形式のフラットケーブルにおいて、耐ウィスカ性とはんだ接合性を両立させることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態を添付図面に基いて説明する。
【0017】
FFC(フレキシブルフラットケーブル)の分野とは異なるが、半導体チップ実装用のFPC基板として、フレキシブルプリント配線基板端子部におけるコネクタ嵌合部の配線回路に、厚さ0.5〜2μmの鉛フリー半田めっき層を形成し、かつフレキシブルプリント配線基板の部品実装部の配線回路に、厚さが2μm以上の鉛フリー半田めっき層を形成する構造が提案されている(特開2006−9126号公報参照)。
【0018】
本実施の形態に係るフラットケーブルは、一方の端子をコネクタ嵌合、もう一方の端子をはんだ接合するタイプのフラットケーブルに関するものであり、前述した課題を解決するために以下の構造を採用した。
【0019】
すなわち、本発明の好適一実施の形態に係るフラットケーブルは、図1に示すように、並列した複数本(図1中では5本を図示)のはんだめっき平角導体2の上下面を、絶縁性を有する接着剤付きフィルム1でラミネートして一体化してなり、一方の端子5がコネクタ嵌合、もう一方の端子6がはんだ接合されるフレキシブルフラットケーブルである。はんだめっき平角導体2は、純銅もしくは銅合金からなる母材(平角導体)に純Snめっきしてなり、コネクタ嵌合側のはんだめっき総厚を0.5μm以上、1.0μm以下、はんだ接合側のはんだめっき総厚を1μm以上、3μm以下、好ましくは1.5μm以上、2.0μm以下としたものである。図1中の4は補強板である。ここで、はんだめっきの総厚とは、純Sn層と、純Sn及び平角導体を構成するCuの金属間化合物層との総和である。
【0020】
はんだめっき平角導体2のはんだめっき層は、コネクタ嵌合側の端子5が純Snめっきの1層構造(第1はんだめっき層)、はんだ接合側の端子6が純Snめっきの2層構造(内層側から第1はんだめっき層、第2はんだめっき層)である。好ましくは、第1はんだめっき層上の全体に、0.1μm以下、好ましくは0.01μm以下の厚さでZn層が設けられ、はんだ接合側の端子6の部分におけるZn層上に第2はんだめっき層が設けられる。
【0021】
次に、本実施の形態に係るフレキシブルフラットケーブルの製造方法を説明する。
【0022】
(1) 純銅もしくは銅合金で構成される平角導体の周りに純Snめっきを行い、はんだめっき平角導体2を作製する。このはんだめっき平角導体2を加熱し、はんだめっき層を加熱溶融(リフロー)する。このリフローによって、平角導体のCuが純Snめっき層中に拡散し、平角導体と純Snめっき層との界面に金属間化合物層が形成される。この金属間化合物層と純Snめっき層との総和がはんだめっき層(第1はんだめっき層)の総厚であり、その総厚は0.5μm以上、1.0μm以下に調整される。
【0023】
(2) このはんだめっき平角導体2を複数本並列配置した後、これらのはんだめっき平角導体2の上下面を接着剤付きフィルム1でラミネートして一体化する。接着剤付きフィルム1は、図2(b)に示した絶縁フィルム7の重ね合わせ面に接着剤3の層を設けたものである。
【0024】
(3) 接着剤付きフィルム1でラミネートした後のはんだめっき平角導体2の、はんだ接合側の端子6のみに純Sn追加めっきを行い、はんだ接合側の端子6の部分における第1はんだめっき層上に、第2はんだめっき層を形成する。この時、はんだ接合側の端子6のはんだめっき総厚が1μm以上、3μm以下となるように、第2はんだめっき層の厚さを調整する。これにより、本実施の形態に係るフレキシブルフラットケーブルが得られる。
【0025】
ここで、(1)において、耐ウィスカ面から、ラミネート前のはんだめっき平角導体2の第1はんだめっき層の上に、0.1μm以下、好ましくは0.01μm以下の厚さでZnめっきを行い、その後、第1はんだめっき層及びZnめっき層を加熱溶融させた後、ラミネートに供することがより良好である。
【0026】
また、(3)において、はんだ接合側の端子6のみに行う純Sn追加めっきは、電解めっき(電気めっき)もしくは無電解めっきにより、単品(バッチ式)もしくは連続的に行う。コスト面から、純Sn追加めっきは電解めっき法により連続的に行うのが好ましい。
【0027】
次に、本実施の形態の作用を説明する。
【0028】
本実施の形態のフレキシブルフラットケーブルは、ウィスカの発生を抑止したいコネクタ嵌合側の端子5についてははんだめっき総厚を0.5μm以上、1.0μm以下とし、はんだ濡れ性を十分に確保したいはんだ接合側の端子6についてははんだめっき総厚を1μm以上、3μm以下とし、端子5,6における各はんだめっき(純Snめっき)の総厚を異ならせている。
【0029】
このフレキシブルフラットケーブルは、ラミネート後のはんだめっき平角導体2におけるはんだ接合側の端子6のみに純Sn追加めっきを行うことで、容易に製造可能であるため、大幅のコストアップを招くことなく、コネクタ嵌合側の端子5の耐ウィスカ性、およびはんだ接合側の端子6の接合強度を両立させることができる。
【0030】
また、はんだ接合側の端子6に純Sn追加めっきを行う際、端子6近傍の絶縁フィルム7にめっきが付着するおそれがないことから、端子6近傍の絶縁フィルム7を遮蔽板で覆ったり、マスキングする必要がない。このため、めっき工程に伴う作業の簡略化を図ることができ、安価に製造することができる。
【0031】
本実施の形態においては、フレキシブルフラットケーブルの場合を例に挙げて説明を行ったが、本実施の形態は押出タイプのフラットケーブルにも応用可能である。また、フレキシブルフラットケーブル、押出タイプのフラットケーブルのいずれにおいても、絶縁フィルム7の外側に絶縁体、金属および導電性接着剤の積層体から成るシールド材を貼り付けた構造であっても構わない。
【実施例】
【0032】
本発明の効果を確認するため、一方の端子をコネクタ嵌合、もう一方の端子をはんだ接合するタイプのフラットケーブルを試作し、コネクタ嵌合側の耐ウィスカ性、はんだ接合側の接合強度を評価した。
【0033】
供試フラットケーブルは、はんだ接合側の純Sn追加めっきを電解で連続的に行った。試料(供試フラットケーブル)の詳細は、導体は幅0.3mm×厚み35μm、20芯、ピッチ0.5mmとし、めっき厚みはコネクタ嵌合側を0.7μm、はんだ接合側を1.8μmとし、接着剤付きフィルムは絶縁フィルム(PET(リケンテクノス製UL80℃))の厚み25μm、接着剤の厚み35μmとした。
【0034】
本発明の評価の結果、コネクタ嵌合側の耐ウィスカ性、およびはんだ接合側の接合強度が共に良好であることを確認した。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】一方の端子がコネクタ嵌合、もう一方の端子がはんだ接合されるフラットケーブルの斜視図である。
【図2】一般的なフラットケーブルを示す図である。図2(a)は斜視図、図2(b)は図2(a)の2B−2B線断面図である。
【符号の説明】
【0036】
1 接着剤付きフィルム
2 はんだめっき平角導体
3 接着剤(接着剤付きフィルム)
5 コネクタ嵌合側の端子
6 はんだ接合側の端子
7 絶縁フィルム(接着剤付きフィルム)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
単数もしくは並列した複数のはんだめっき平角導体の上下面を、絶縁性を有する接着剤付きフィルムでラミネートして一体化してなり、一方の端子がコネクタ嵌合、もう一方の端子がはんだ接合されるフラットケーブルにおいて、上記はんだめっき平角導体が、純銅もしくは銅合金からなる母材に純Snめっきしてなり、はんだめっき総厚をコネクタ嵌合側で0.5μm以上、1.0μm以下、はんだ接合側で1μm以上、3μm以下としたことを特徴とするフラットケーブル。
【請求項2】
上記コネクタ嵌合側の端子の上記純Snめっきが1層構造、上記はんだ接合側の端子の上記純Snめっきが2層構造である請求項1記載のフラットケーブル。
【請求項3】
単数もしくは並列した複数のはんだめっき平角導体の上下面を、絶縁性を有する接着剤付きフィルムでラミネートして一体化してなり、一方の端子がコネクタ嵌合、もう一方の端子がはんだ接合されるフラットケーブルの製造方法において、純銅もしくは銅合金からなる母材に純Snめっきし、はんだめっき総厚を0.5μm以上、1.0μm以下とした上記はんだめっき平角導体の上下面を上記接着剤付きフィルムでラミネートして一体化した後、はんだ接合側の端子のみに、はんだめっき総厚が1μm以上、3μm以下となるように純Sn追加めっきを行うことを特徴とするフラットケーブルの製造方法。
【請求項4】
ラミネート前の上記はんだめっき平角導体上にZnを0.1μm以下の厚さでめっきした後、そのはんだめっき平角導体を上記接着剤付きフィルムでラミネートして一体化する請求項3記載のフラットケーブルの製造方法。
【請求項5】
上記純Sn追加めっきを、電解めっきもしくは無電解めっきで行う請求項3又は4記載のフラットケーブルの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−243576(P2008−243576A)
【公開日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−82160(P2007−82160)
【出願日】平成19年3月27日(2007.3.27)
【出願人】(000005120)日立電線株式会社 (3,358)
【出願人】(300055719)日立電線ファインテック株式会社 (96)
【Fターム(参考)】