説明

フラットケーブルの皮剥方法およびフラットケーブルの皮剥装置

【課題】フラットケーブルの中間部分の絶縁体を確実に皮剥することができるフラットケーブルの皮剥方法を提供すること。
【解決手段】フラットケーブル10の絶縁体14を皮剥する対象領域16の外縁部にレーザ照射して切り込みを入れ、絶縁体14の面に刃板18を当接させ付勢させた状態で刃板18とフラットケーブル10とを相対的にスライドさせて対象領域16内の絶縁体14を剥ぎ取る。複数本の導体12にそれぞれ対応させて複数枚の刃板18がフラットケーブル10の表面と裏面の両面側にそれぞれ並列に配置されており、各刃板18はそれぞれ独立した付勢機構により付勢されてそれぞれが独立した動きにより絶縁体14を剥ぎ取る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フラットケーブルの皮剥方法およびフラットケーブルの皮剥装置に関し、さらに詳しくは、フラットケーブルの導体を露出させて導体同士を溶接するためにフラットケーブルの絶縁体を部分的に皮剥するフラットケーブルの皮剥方法およびフラットケーブルの皮剥装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
フラットケーブルは、例えば平角導体などの導体が平面的に複数本並べられ、複数本の導体の外周に樹脂などの絶縁体が被覆されたもので構成されている。フラットケーブルは、平面状ゆえ、断面が円形状の通常の電線に比べて空間の占有率が小さく、小型化に適している。そのため、例えば、車載スペースが制限されやすい自動車に搭載される電気機器などの配線に好適に用いられている。
【0003】
フラットケーブルを自動車内に配線する場合、フラットケーブル同士をつないで配線を分岐させることがある。この場合、フラットケーブルの中間部分で導体を被覆している絶縁体を部分的に皮剥して導体を露出させた後、露出された導体同士を抵抗溶接等により溶接してスプライスを行なっている。
【0004】
フラットケーブルの絶縁体を部分的に皮剥する方法としては、レーザ光を用いる方法などが知られている。例えば特許文献1には、樹脂フィルムよりなる絶縁体の導体が位置する部分にレーザ照射して、その部分の絶縁体をレーザの熱で融解させて導体を剥き出しにする方法が開示されている。
【0005】
【特許文献1】特開2002−27626号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来のように、レーザ照射により絶縁体の対象エリア全体を融解させる方法を行なう場合には、レーザ照射条件などにより絶縁体の溶け残りが生じるおそれがある。対象エリアに絶縁体の溶け残りがあると、対象エリアで絶縁体が導体表面を覆うため、導体同士の溶接が不十分になるおそれがあった。
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、フラットケーブルの中間部分の絶縁体を確実に皮剥することができるフラットケーブルの皮剥方法を提供することにある。また、フラットケーブルの皮剥方法に好適なフラットケーブルの皮剥装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため本発明に係るフラットケーブルの皮剥方法は、互いに離間されて平行に並べられている複数本の導体の外周に絶縁体を被覆してなるフラットケーブルの前記絶縁体を皮剥する対象領域の外縁部にレーザ照射して切り込みを入れ、前記絶縁体の面に刃板を当接させ付勢させた状態で該刃板と前記フラットケーブルとを相対的にスライドさせて前記対象領域内の絶縁体を剥ぎ取ることを要旨とするものである。
【0009】
このとき、前記複数本の導体にそれぞれ対応させて複数枚の刃板が並列に配置されており、各刃板はそれぞれ独立した付勢機構により付勢されていることが望ましい。
【0010】
この場合、前記付勢機構は、バネまたはエアシリンダであると良い。
【0011】
そして、前記刃板の切削角を鈍角にすると良い。
【0012】
さらに、前記刃板は、前記フラットケーブルの表面と裏面の両面側に配置されて対にして前記絶縁体の両面に当接されることが望ましい。
【0013】
一方、本発明に係るフラットケーブルの皮剥装置は、互いに離間されて平行に並べられている複数本の導体の外周に絶縁体を被覆してなるフラットケーブルを保持する保持手段と、前記保持したフラットケーブルの絶縁体の面に、あらかじめ設計されたパターンに沿ってレーザ光を照射するレーザ照射手段と、前記保持したフラットケーブルの絶縁体の面に当接される刃板と、該刃板を前記絶縁体の面に付勢させる付勢機構と、前記保持したフラットケーブルの軸方向に沿って刃板をスライドさせるスライド機構とを有する皮剥手段とを備えることを要旨とするものである。
【0014】
または、互いに離間されて平行に並べられている複数本の導体の外周に絶縁体を被覆してなるフラットケーブルを送る送り手段と、前記送られるフラットケーブルの絶縁体の面に、あらかじめ設計されたパターンに沿ってレーザ光を照射するレーザ照射手段と、前記送られるフラットケーブルの絶縁体の面に当接される刃板と、該刃板を前記絶縁体の面に付勢させる付勢機構とを有する皮剥手段とを備えることを要旨とするものである。
【0015】
これらにおいて、前記レーザ照射手段は、前記フラットケーブルの絶縁体の両面側に一対のレーザ照射部を有し、前記皮剥手段は、前記フラットケーブルの絶縁体の両面側に対にして設けられていることが望ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係るフラットケーブルの皮剥方法によれば、レーザ照射により絶縁体の切り込みを入れたところに刃板を当てて刃板を付勢させた状態で刃板とフラットケーブルとを相対的にスライドさせるので、絶縁体の切り込みを入れたところに刃板を入り込ませ、対象領域の絶縁体をめくり取るようにして対象領域に絶縁体が残らないように絶縁体を剥ぎ取ることができる。そして、例えばあらかじめ設計されたパターンに沿って絶縁体に複数箇所の切り込みを形成したときには、その切り込み箇所に対して特に刃板を当てる位置の位置決めをしなくても、すべての切り込み箇所について確実に絶縁体を剥ぎ取ることができる。
【0017】
このとき、フラットケーブルの複数本の導体にそれぞれ対応させて複数枚の刃板が並列に配置され、各刃板はそれぞれ独立した付勢機構により付勢されていると、フラットケーブル全体における任意のパターンの皮剥に対応することができる。
【0018】
そして、前記付勢機構がバネまたはエアシリンダであると、確実に上記効果を奏する。
【0019】
このとき、前記刃板の切削角を鈍角にすると、絶縁体の切り込みを入れたところに刃板を入り込ませ、対象領域の絶縁体をめくり取った後は、刃板が露出された導体上を伝って絶縁体の非対象領域端縁に到達したときにその絶縁体端縁に入り込まないで絶縁体を乗り上げるため、対象領域のみを精度良く剥ぎ取ることができる。
【0020】
さらに、前記刃板が、前記フラットケーブルの表面と裏面の両面側に配置されて対にして前記絶縁体の両面に当接されるようにすると、絶縁体両面を同時に皮剥加工することができる。
【0021】
一方、本発明に係るフラットケーブルの皮剥装置によれば、レーザ照射手段によりフラットケーブルの絶縁体の面にレーザ照射して切り込みを入れた後、皮剥手段の付勢機構により刃板を絶縁体の面に押し当てて付勢させた状態でスライド機構により刃板をスライドさせることにより、絶縁体の切り込みを入れたところに刃板を入り込ませ、対象領域の絶縁体をめくり取るようにして対象領域に絶縁体が残らないように絶縁体を剥ぎ取ることができる。
【0022】
そして、例えばフラットケーブルの軸方向に沿って刃板をスライドさせる場合においてその軸方向に沿って複数の切り込みが形成されているときには、軸方向の各切り込み形成位置に対して刃板を当てる位置の位置決めをしなくても、刃板をスライドさせることによりすべての切り込み箇所について確実に絶縁体を剥ぎ取ることができる。
【0023】
また、本発明に係るフラットケーブルの皮剥装置では、スライド機構により刃板をスライドさせる構成ではなく、フラットケーブルを送る送り手段によりフラットケーブルをスライドさせる構成によっても、上記と同様の作用効果を奏する。
【0024】
そして、これらの場合において、レーザ照射手段がフラットケーブルの絶縁体の両面側に一対のレーザ照射部を有し、皮剥手段が、フラットケーブルの絶縁体の両面側に対にして設けられていると、フラットケーブルの両面を同時に皮剥加工することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
次に、本発明の実施形態について詳細に説明する。
【0026】
本発明に係るフラットケーブルの皮剥方法では、図1に示すように、フラットケーブル10の絶縁体14を皮剥する対象領域16の外縁部にレーザ照射して切り込みを入れた後、フラットケーブル10の絶縁体14の面に刃板18を当接させてこの刃板18とフラットケーブル10とを相対的にスライドさせて対象領域16の絶縁体14を剥ぎ取る。
【0027】
フラットケーブル10は、互いに離間されて平行に並べられている複数本の導体12の外周に絶縁体14を被覆してなる。フラットケーブル10は、クランプなどの保持手段によりレーザ照射するレーザ照射手段の近辺に保持されても良いし、一般的なケーブル送り装置などの送り手段により搬送されても良い。フラットケーブル10を搬送する場合には、例えば一定の速度で連続的に搬送しても良いし、間欠的に搬送しても良い。
【0028】
レーザ照射は、レーザ発振装置などのレーザ照射手段によりレーザを発生させて行なう。このとき、例えばポリゴンミラーなどの回転多面鏡やガルバノミラーなどの平面鏡などの可動ミラーをレーザ光の照射線上に配置し、可動ミラーで反射させてレーザ光を走査させることができる。
【0029】
例えば、フラットケーブル10をクランプなどで固定してレーザ照射する場合には、レーザ光を走査させることにより、所望の位置に窓形状に切り込みを形成することができる。また、フラットケーブル10を搬送する場合にも、窓形状に切り込みを形成するために、レーザ光を走査させると良い。
【0030】
フラットケーブル10を皮剥するパターンは、あらかじめCADなどで設計することができる。そして、設計されたパターンをレーザ発振装置に読み込ませてアウトプットすることにより、所望のパターンを形成することができる。
【0031】
フラットケーブル10は、図1に示すように、複数本の導体12を有している。複数本の導体12上のそれぞれの絶縁体14に同一のまたは異なった切り込みパターンを形成することもある。これらの場合において、例えば、1つの光源からレーザ光を出射(走査)させても良いし、複数の光源(光源束)を形成させてそれぞれの光源から複数本の導体12上のそれぞれの絶縁体14に出射(走査)させても良い。
【0032】
レーザ光の光源としては、COレーザや、YAGなどを例示することができる。フラットケーブル10の導体12を被覆する絶縁体14を構成する材料としては、PVC、PET、ポリオレフィンなどが良く用いられており、これらの樹脂材料のみを効率的に溶かすことができるなどの理由から、COレーザが好ましい。その他、レーザ照射に必要な条件は、適宜定めることができる。
【0033】
上記レーザ照射により絶縁体14に切り込みを入れる。切り込みされた部分の絶縁体14に対して、図2(a)に示すように、フラットケーブル10の絶縁体14の面に刃板18を当接させ、バネやエアシリンダなどの付勢機構20(ここではバネを示している)により刃板18を絶縁体14の面に付勢させる。次いで、刃板18とフラットケーブル10とを相対的にスライドさせる。
【0034】
このとき、フラットケーブル10を固定して刃板18をスライドさせても良いし、刃板18を固定してフラットケーブル10をスライドさせても良い。フラットケーブル10は、図示されるように真っ直ぐに配置され、フラットケーブル10の絶縁体14の面に沿って、刃板18とフラットケーブル10とを相対的にスライドさせると良い。
【0035】
刃板18とフラットケーブル10とを相対的にスライドさせると、図2(b)に示すように、付勢された刃板18の刃先が絶縁体14の切り込み溝22に落ち込む。そのままスライドさせると、図2(c)に示すように、対象領域16の絶縁体14をすくい上げて切削しはじめる。引き続きスライドさせることにより、図2(d)に示すように、フラットケーブル10から対象領域16の絶縁体14を剥ぎ取ることができる。その後は、図2(e)に示すように、刃板18は、露出された導体12上を伝って絶縁体14の非対象領域の端縁14aに到達し、この端縁14aを乗り上げて、絶縁体14上をスライドし、次の皮剥対象領域に移動する。
【0036】
付勢機構20が刃板18を押し付ける力は、刃板18が絶縁体14の切り込み溝22に落ち込み、対象領域16の絶縁体14を剥ぎ取った後、再度絶縁体14上に乗り上げることができる範囲に調整されると良い。付勢機構20がバネであると、刃板18に取付けするスペースを小さくすることができる。また、付勢機構20がエアシリンダであると、付勢機構20により刃板18を押し付ける力を微調整しやすい。
【0037】
絶縁体14を剥ぎ取った後において、刃板18の刃先を非対象領域の端縁14aに入り込ませないで再度絶縁体14上に刃板18を乗り上げやすくするには、フラットケーブル10の絶縁体14の面に刃板18を当接させるときの切削角に留意することが好ましい。切削角は、図3(a)に示すように、絶縁体14の面と刃板18の逃げ面18aとで形成される逃げ角αと、刃板18の逃げ面18aとすくい面18bとで形成される刃物角βとの和θであり、この切削角θを鈍角にすることが好ましい。
【0038】
切削角θを鈍角にするには、例えば、図3(a)に示すように、テーパ状に加工された面を進行方向に向けて、刃板18を絶縁体14の面と略直角に当接させたり、図3(b)に示すように、テーパ状に加工された面を進行方向とは反対の方向に向けて、刃板18の進行方向に刃板18を傾けて絶縁体14の面と当接させたりすると良い。また、図3(c)に示すように、片刃ではなく両刃のものを用いることもできる。両刃の場合、絶縁体14の面と略直角に当接させるなどすれば、切削角θを鈍角にすることができる。
【0039】
図4に示すように、片刃の刃板18は、通常は、テーパ状に加工された面を進行方向とは反対の方向に向けて配置される。この場合には、絶縁体14を剥ぎ取った後に非対象領域端縁14aに刃板18が引っ掛かるおそれがあり、非対象領域の絶縁体14を損傷させやすい。さらに、切削角θが鋭角にされると、刃板18の刃先は、絶縁体14を剥ぎ取った後の非対象領域端縁14aに入り込みやすくなる。
【0040】
絶縁体14を剥ぎ取る工程においては、図1に示すように、複数本の導体12にそれぞれ対応させて複数枚の刃板18を並列に配置することができる。この場合、各刃板18はそれぞれ独立した付勢機構20により付勢されるようにすると良い。例えば、バネやエアシリンダにより刃板18を付勢させる場合には、それぞれの刃板18にバネやエアシリンダを取付けると良い。各刃板18がそれぞれ独立した付勢機構20を有する場合、各刃板18はそれぞれ独立して絶縁体14を剥ぎ取ることができるため、各導体12上に異なる切り込みパターンが形成されるときにも対応することができる。したがって、複数本の導体12に対して同時に皮剥することができる。
【0041】
また、図1に示すように、フラットケーブル10の表面と裏面の両面側に刃板18を配置して、対にして絶縁体14の両面に当接させるようにすることができる。両面側に対にして刃板18を配置するためには、フラットケーブル10に湾曲部分を形成しないでフラットケーブル10を真っ直ぐに配置させると良い。この場合、絶縁体14両面を同時に皮剥加工することができる。
【0042】
次に、本発明に係るフラットケーブルの皮剥装置の実施形態について詳細に説明する。
【0043】
図5に示す皮剥装置30は、基盤32上に各種手段を有しており、フラットケーブル10を保持するクランプ34を中心位置に備え、クランプ34の両脇にはレーザ光を照射するレーザ照射手段36がそれぞれ配置され、レーザ照射手段36の下流には、保持されるフラットケーブル10を挟むようにフラットケーブル10の絶縁体14を皮剥する皮剥手段40が設置されている。
【0044】
フラットケーブル10を保持するクランプ34は、フラットケーブル10の面を挟持する一対の保持板34aが水平方向に互いに向き合って配置されている。クランプ34は、フラットケーブル10を2箇所で保持するために、距離をあけて2箇所配置されている。
【0045】
クランプ34の両脇に配置されたレーザ照射手段36はレーザ光を出射するレーザ出射部38を有しており、レーザ出射部38はレーザ照射手段36間に配置されるフラットケーブル10の両面にそれぞれレーザ照射可能となるように、互いに向き合って配置されている。レーザ照射手段36の内部にはガルバノミラーなどの可動ミラーを備えており、一定の範囲内でレーザ光を走査可能になっている。
【0046】
レーザ照射手段36の下流に設置された皮剥手段40は、フラットケーブル10の面を挟んで両側にそれぞれ複数枚の刃板18を備えており、刃板18は刃先が互いに向き合っており対を形成している。刃板18には付勢機構20が取付けられており両面側から付勢されるようになっている。図6に示すように、付勢機構20は、刃板18を収容可能な角筒状の収容部材42を備えている。収容部材42の内部には複数枚の刃板18を収容するための複数の収容室44を備えており、各刃板18はそれぞれの収容室44に1枚ずつ収容されている。収容室44の底面には、刃板18の先端部が突出するように小さな開口部46が形成されており、収容室46の上面には、刃板18を収容する収容口となる大きな開口部48が形成されている。上面の開口部48の内周面はねじ切りされており、ネジ50で閉鎖される。
【0047】
各収容室44にはそれぞれ刃板18が収容された後、それぞれバネ52が収容される。収容口となる開口部48はそれぞれネジ50で閉鎖され、ネジ50によりバネ52が圧縮される。刃板18はこのバネ52の伸縮力により付勢される。ネジ50を回すと、収容されたバネ52がネジ50に押されて伸縮され、これにより付勢力が調整可能となっている。刃板18の基端部18aは、先端部よりも刃板18の往復運動方向に幅広になっており、刃板18が収容室44の底面から飛び出さないようにするストッパーとしての役割を果たしている。複数枚の刃板18は、フラットケーブル10の複数本の導体12の位置にそれぞれ対応させて並列に配置されており、各刃板18はそれぞれ独立したバネ52による付勢機構20によりそれぞれ独立して付勢されている。
【0048】
図7に示すように、付勢機構20にはスライド機構54が連結されている。スライド機構54はエアシリンダ56により往復運動可能なロッド58の先端に一体的に形成されたスライド部60を備え、スライド部60に付勢機構20が一体的に設置されて、付勢機構20および複数枚の刃板18がスライド運動可能になっている。
【0049】
以上の構成を有する図5の皮剥装置30では、フラットケーブル10をクランプ34で挟持してレーザ照射手段36間に配置した後、レーザ照射手段36により絶縁体14にレーザ照射すると絶縁体14に切り込みが形成される。次いで、皮剥手段40の刃板18を付勢機構20によりフラットケーブル10の両面から当接させて付勢させた状態で、スライド機構54により絶縁体14の切り込みを入れたところに刃板18をスライドさせる。付勢された刃板18の刃先は、絶縁体14の切り込み溝22に落ち込み、対象領域16の絶縁体14をすくい上げて切削し、めくり取るようにして対象領域16に絶縁体14が残らないようにフラットケーブル10から対象領域16の絶縁体14を剥ぎ取る。その後、刃板18は、露出された導体12上を伝って絶縁体14の非対象領域の端縁14aに到達し、この端縁14aを乗り上げて絶縁体14上をスライドし、次の皮剥対象領域に移動して再び皮剥する。
【0050】
絶縁体14は、スライド運動する刃板18が切り込み溝22にきたときに付勢機構20による付勢力によって刃板18が切り込み溝22に自動的に落込んで剥ぎ取りされるため、切り込み溝22に対して刃板18を当てる位置の位置決めが必要ない。
【0051】
フラットケーブル10を皮剥するパターンは、あらかじめCADなどで設計したものをレーザ照射手段36に読み込ませてアウトプットされ、これにより所望のパターンを形成する。絶縁体14には、所望のパターンに沿って複数箇所の切り込みが形成されるが、それぞれ独立した付勢機構20により付勢された各刃板18はそれぞれ独立した伸縮運動が可能であり、フラットケーブル10全体における任意のパターンの皮剥に対応できる。そして、その切り込み箇所に対して特に刃板18を当てる位置の位置決めをしなくても、すべての切り込み箇所について確実に絶縁体14を剥ぎ取ることができる。そのため、複雑な種々のパターンにも容易に対応することができる。
【0052】
次に、他の実施形態に係る皮剥装置を説明する。図8に示す皮剥装置30は、フラットケーブル10の一方を挟持しながら送る送り手段62とフラットケーブル10の他方を支える誘導ロール66とを基盤32上の中心位置に備え、誘導ロール66の両脇にはレーザ光を照射するレーザ照射手段36がそれぞれ配置され、レーザ照射手段36の下流には、保持されるフラットケーブル10を挟むようにフラットケーブル10の絶縁体14を皮剥する皮剥手段40が設置されている。
【0053】
送り手段62は、フラットケーブル10の一方を支える一対の搬送ロール64を備え、搬送ロール64がフラットケーブル10を挟持しながら送り出すようになっている。そして、フラットケーブル10の他方は、誘導ロール66により支えられ、搬送ロール64による搬送に合わせてフラットケーブル10を送ることができる。
【0054】
誘導ロール66の両脇に配置されたレーザ照射手段36はレーザ光を出射するレーザ出射部38を有しており、レーザ出射部38はレーザ照射手段36間に配置されるフラットケーブル10の両面にそれぞれレーザ照射可能となるように、互いに向き合って配置されている。レーザ照射手段36の内部にはガルバノミラーなどの可動ミラーを備えており、一定の範囲内でレーザ光を走査可能になっている。
【0055】
レーザ照射手段36の下流に設置された皮剥手段40は、フラットケーブル10の面を挟んで両側にそれぞれ複数枚の刃板18を備えており、刃板18は刃先が互いに向き合っており対を形成している。刃板18には付勢機構20が取付けられており、両面側から付勢されるようになっている。付勢機構20は、図6に示す付勢機構20と同じ構成であるため、説明を省略する。
【0056】
以上の構成を有する図8の皮剥装置30では、送り手段62の搬送ロール64と誘導ロール66の2箇所でフラットケーブル10を挟持してレーザ照射手段36間に配置した後、レーザ照射手段36によりフラットケーブル10の絶縁体14にレーザ照射して絶縁体14に切り込みが形成される。次いで、皮剥手段40の刃板18を付勢機構20によりフラットケーブル10の両面から当接させて付勢させた状態で、搬送ロール64によりフラットケーブル10を下流側に送ると、フラットケーブル10の移動に伴って、絶縁体14の切り込みを入れたところに刃板18がスライドされる。付勢された刃板18の刃先は、絶縁体14の切り込み溝22に落ち込み、対象領域16の絶縁体14をすくい上げて切削し、めくり取るようにして対象領域16に絶縁体14が残らないようにフラットケーブル10から対象領域16の絶縁体14を剥ぎ取る。その後、刃板18は、露出された導体12上を伝って絶縁体14の非対象領域の端縁14aに到達し、この端縁14aを乗り上げて、絶縁体14上をスライドし、次の皮剥対象領域に移動して再び皮剥する。
【0057】
そのため、図8の皮剥装置30は、図5のものと同様に、特段の位置決めをせずとも、複雑な種々のパターンに対して確実に絶縁体14を剥ぎ取ることができる。
【0058】
以上、本発明の実施の形態について詳細に説明したが、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の改変が可能である。
【0059】
例えば、上記付勢機構20はバネ52を用いたものを示しているが、エア駆動方式によるエアシリンダを用いたものであっても同様の効果を奏することは勿論である。付勢機構20がバネであると、刃板18に取付けするスペースを小さくすることができる。また、付勢機構20がエアシリンダであると、付勢機構20により刃板18を押し付ける力を微調整しやすい。また、上記スライド機構54はモータ駆動にしても良い。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明に係るフラットケーブルの皮剥方法およびフラットケーブルの皮剥装置は、例えば、車両部品、電気・電子機器部品などに用いられるフラットケーブルの皮剥に好適に用いられる。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】本発明に係るフラットケーブルの皮剥方法を説明する図である。
【図2】フラットケーブルの絶縁体を刃板により皮剥する過程を示す図である。
【図3】刃板の好適な切削角を説明する図である。
【図4】従来の刃板の切削角を説明する図である。
【図5】本発明に係るフラットケーブルの皮剥装置の一例を表す図であり、平面図(a)および正面図(b)である。
【図6】皮剥手段の付勢機構を説明する図であり、斜視図(a)およびA−A断面図(b)である。
【図7】皮剥手段のスライド機構を説明する図である。
【図8】本発明に係るフラットケーブルの皮剥装置の一例を表す図であり、平面図(a)および正面図(b)である。
【符号の説明】
【0062】
10 フラットケーブル
12 導体
14 絶縁体
16 皮剥対象領域
18 刃板
20 付勢機構
34 クランプ
36 レーザ照射手段
40 皮剥手段
54 スライド機構
62 送り機構

【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに離間されて平行に並べられている複数本の導体の外周に絶縁体を被覆してなるフラットケーブルの前記絶縁体を皮剥する対象領域の外縁部にレーザ照射して切り込みを入れ、前記絶縁体の面に刃板を当接させ付勢させた状態で該刃板と前記フラットケーブルとを相対的にスライドさせて前記対象領域内の絶縁体を剥ぎ取ることを特徴とするフラットケーブルの皮剥方法。
【請求項2】
前記複数本の導体にそれぞれ対応させて複数枚の刃板が並列に配置されており、各刃板はそれぞれ独立した付勢機構により付勢されていることを特徴とする請求項1に記載のフラットケーブルの皮剥方法。
【請求項3】
前記付勢機構は、バネまたはエアシリンダであることを特徴とする請求項1または2に記載のフラットケーブルの皮剥方法。
【請求項4】
前記刃板の切削角を鈍角にすることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載のフラットケーブルの皮剥方法。
【請求項5】
前記刃板は、前記フラットケーブルの表面と裏面の両面側に配置されて対にして前記絶縁体の両面に当接されることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載のフラットケーブルの皮剥方法。
【請求項6】
互いに離間されて平行に並べられている複数本の導体の外周に絶縁体を被覆してなるフラットケーブルを保持する保持手段と、
前記保持したフラットケーブルの絶縁体の面に、あらかじめ設計されたパターンに沿ってレーザ光を照射するレーザ照射手段と、
前記保持したフラットケーブルの絶縁体の面に当接される刃板と、該刃板を前記絶縁体の面に付勢させる付勢機構と、前記保持したフラットケーブルの軸方向に沿って刃板をスライドさせるスライド機構とを有する皮剥手段とを備えることを特徴とするフラットケーブルの皮剥装置。
【請求項7】
互いに離間されて平行に並べられている複数本の導体の外周に絶縁体を被覆してなるフラットケーブルを送る送り手段と、
前記送られるフラットケーブルの絶縁体の面に、あらかじめ設計されたパターンに沿ってレーザ光を照射するレーザ照射手段と、
前記送られるフラットケーブルの絶縁体の面に当接される刃板と、該刃板を前記絶縁体の面に付勢させる付勢機構とを有する皮剥手段とを備えることを特徴とするフラットケーブルの皮剥装置。
【請求項8】
前記レーザ照射手段は、前記フラットケーブルの絶縁体の両面側に一対のレーザ照射部を有し、前記皮剥手段は、前記フラットケーブルの絶縁体の両面側に対にして設けられていることを特徴とする請求項6または7に記載のフラットケーブルの皮剥装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−165330(P2009−165330A)
【公開日】平成21年7月23日(2009.7.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−3312(P2008−3312)
【出願日】平成20年1月10日(2008.1.10)
【出願人】(395011665)株式会社オートネットワーク技術研究所 (2,668)
【出願人】(000183406)住友電装株式会社 (6,135)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】