説明

フリクションダンパ

【課題】 減衰装置を含む免震構造において、前記減衰装置に係る振動エネルギの吸収能力を超える過大な振動エネルギが建築構造物に作用したとしても、該振動エネルギに対する十分な減衰性能を発揮することが可能なフリクションダンパを提供する。
【解決手段】 表面に軸方向に沿った案内溝が形成されたシャフトと、該シャフトの表面を軸方向に沿って移動し、前記シャフトの案内溝に没入した第一状態及び前記案内溝から離脱した第二状態のいずれかに設定される移動部材と、該移動部材に向けて付勢され、前記第一状態に設定された移動部材によって係止される圧着部材と、選択的に前記シャフトに圧接する摩擦部材と、を備えており、前記移動部材が第二状態に設定されると、該移動部材による圧着部材の係止が解除されて前記摩擦部材が前記圧着部材の押圧によって前記シャフトに圧接されると共に、かかる圧着部材が前記移動部材を第二状態に維持するフリクションダンパ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二つの構造体間に配設され、振動源たる一方の構造体から他方の構造体への伝播される振動エネルギを減衰させるフリクションダンパに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、建築構造物の免震構造として、建築構造物とその建築基盤との間に設けられて、かかる建築構造物を建築基盤の揺れから絶縁させるものが知られている。この種の免震構造によれば、地震等による振動エネルギが建築構造物に伝播したとしても、建築構造物が建築基盤の振動周期とは無関係にそれ独自の振動周期で揺れることができるようになっている。
【0003】
もっとも、前記免震構造の場合、建築構造物を建築基盤の揺れから絶縁するものであるから、地震が収まった後にも建築構造物の揺れが残存してしまうことになる。この建築構造物の揺れの残存を早期に終息させるために、前記免震構造の構成要素として、前記建築構造物の振動エネルギを吸収する減衰装置を用いる例が挙げられている。
【0004】
上記減衰装置は振動エネルギを吸収するものではあるが、その反面、建築構造物を建築基盤に追従させる機能も発揮してしまうため、巨大地震を想定して前記減衰装置における振動エネルギの吸収能力を高く設定した場合、建築基盤の揺れが建築構造物に伝播し易くなり、建築構造物を建築基盤の揺れから絶縁するという免震構造本来の機能を発揮しにくくなる。この点を考慮すると、前記免震構造の機能を活かすためには、前記減衰装置の吸収能力を極端に高く設定することができず、通常想定し得る規模の地震に対応させて減衰装置の吸収能力を決定せざるを得ない。しかし、減衰装置の吸収能力をそのように設定した状態で大地震が発生した場合には、減衰装置によって地震の振動エネルギを十分に吸収することができず、その結果建築基盤に対する建築構造物の揺れ幅が大きくなってしまう。また、減衰装置が振動エネルギを十分に吸収することができない分、建築構造物の揺れを早期に終息させることができなくなってしまう。
【0005】
このような課題を解決する手段として、特許文献1に開示されたブレーキ装置を前記免震構造と一緒に用いる例が挙げられている。このブレーキ装置は建築構造物とその建築基盤との間に配設され、大別すると、建築構造物に固定される枠体と、建築基盤に設けられた凸部とから構成されている。このブレーキ装置では、前記減衰装置に係る振動エネルギの吸収能力を超える過大な振動エネルギが建築構造物に作用し、該建築構造物が水平方向に大きく振動すると、前記枠体が建築基盤に設けられた凸部に乗り上げて該枠体と凸部との間に摩擦力が発生することになる(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2000-179617号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献1に開示されたブレーキ装置を適用した免震構造では、想定外の大地震による過大な振動エネルギが作用した場合、前記枠体が建築基盤に設けられた一対の凸部のいずれか一方に乗り上げた際にブレーキ装置が作用するため、建築構造物の揺れ幅を一定範囲内に抑えることが可能となる。その一方で、特許文献1に開示されたブレーキ装置は前記一対の凸部間では作用しないため、地震終息後における建築構造物の揺れを早期に終息させることができない。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明はこのような課題に鑑みなされたものであり、その目的とするところは、減衰装置を含む免震構造において、前記減衰装置に係る振動エネルギの吸収能力を超える過大な振動エネルギが建築構造物に作用したとしても、該振動エネルギに対する十分な減衰性能を発揮することが可能なフリクションダンパを提供することにある。
【0009】
このような目的を達成する本発明のフリクションダンパは、表面に軸方向に沿った案内溝が形成されたシャフトと、このシャフトの表面を軸方向に沿って移動し、前記シャフトの案内溝に没入した第一状態及び前記案内溝から離脱した第二状態のいずれかに設定される移動部材と、この移動部材に向けて付勢され、前記第一状態に設定された移動部材によって係止される圧着部材と、選択的に前記シャフトに圧接する摩擦部材とを備えており、前記移動部材が第二状態に設定されると、該移動部材による圧着部材の係止が解除されて前記摩擦部材が前記圧着部材の押圧によって前記シャフトに圧接されると共に、かかる圧着部材が前記移動部材を第二状態に維持するように構成されている。
【発明の効果】
【0010】
このように構成された本発明のフリクションダンパによれば、該フリクションダンパを減衰装置を含む免震構造に適用した場合、かかる減衰装置の吸収能力を超える過大な振動エネルギが建築構造物に作用すると、前記移動部材が前記案内溝から離脱して前記第二状態に設定される。これにより、前記摩擦部材が前記シャフトを押圧することになる。その結果、前記摩擦部材とシャフトとの間に常に摩擦抵抗が発生し、この摩擦抵抗の発生により建築構造物に作用する過大な振動エネルギが吸収、減衰され、もって建築基盤に対する建築構造の揺れ幅を小さく抑えることが可能となり、更には、地震終息後における建築構造物の揺れを早期に終息させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明を適用したフリクションダンパの実施形態を示す斜視図である。
【図2】図1に示すフリクションダンパの分解斜視図である。
【図3】移動部材がシャフトの案内溝に没入している状態のフリクションダンパを示す側面断面図である。
【図4】図3に記載された状態におけるフリクションダンパの移動部材、圧着部材及び摩擦部材の関係を示す拡大断面図である。
【図5】前記移動部材がシャフトの案内溝から離脱している状態のフリクションダンパを示す側面断面図である。
【図6】図5に記載された状態におけるフリクションダンパの移動部材、圧着部材及び摩擦部材の関係を示す拡大断面図である。
【図7】第一実施形態に係るフリクションダンパを建築構造物の免震構造に適用した例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、添付図面を用いて本発明を適用したフリクションダンパの実施形態を詳細に説明する。
【0013】
図1は本発明を適用したフリクションダンパの実施形態を示す斜視図である。このフリクションダンパ1は、大きく分けて、シャフト2と、このシャフト2に対して進退自在に組み付けられたフリクション発生機構3とから構成されている。前記シャフト2は略円柱状に形成されており、外周面には該シャフト2の軸方向に沿って案内溝21が形成されている。この案内溝21はシャフト2の周方向に120°等間隔に配置されている。つまり、本実施形態に係るフリクションダンパ1では、前記シャフト2に対して3条の案内溝21が形成されている。また、各案内溝21の軸方向両端には、該案内溝21の底面から前記シャフト2の外周面に架けて徐々に勾配する傾斜面22が形成されている。尚、図1は一方向から本発明のフリクションダンパ1を観察した斜視図であるため、図1の紙面手前側の案内溝21のみが描かれている。
【0014】
図2及び図3は図1に示すフリクションダンパ1の内部を示すものであり、図2は、該フリクションダンパ1を分解した斜視図、図3はフリクションダンパ1の側面断面図である。前記フリクション発生機構3は全体として略円筒状に形成されており、該フリクション発生機構3の外径をなすハウジング4と、前記シャフト2の案内溝21に摺動自在に遊嵌するピン部材5と、前記シャフト2が貫通する貫通孔を有して円筒状に形成された圧着部材6と、この圧着部材6と前記シャフト2との間に配置された摩擦部材7と、前記圧着部材6をピン部材5に向けて付勢する付勢手段8と、から構成されている。かかる圧着部材6、摩擦部材7及び付勢手段8は前記ハウジング4内に収容されるようになっている。
【0015】
前記ハウジング4は略円筒状に形成されており、その周方向に対して120°等間隔に前記ピン部材5が挿入される挿入孔41が形成されている。各挿入孔41は該ハウジング4の外周面から内周面に架けて貫通している。
【0016】
前記ピン部材5は略円柱状に形成されており、前記シャフト2の半径方向に沿って垂直に起立している。このピン部材5は、前記シャフト2の案内溝21内に摺動自在に遊嵌する先端部51と、この先端部51と連続すると共に前記ハウジング4の挿入孔41に挿入される軸部52とから構成されている。また、前記軸部52には、後述する前記圧着部材6の突起部が位置決めされると共に前記ピン部材5の周方向に連続して形成された突き当て面55及びこの突き当て面55に隣接する凹部53が形成されている。かかる凹部53は前記ピン部材5の周方向に連続して形成されており、この凹部53には前記圧着部材6の突起部を該凹部53から離脱させ、前記軸部52の突き当て面55に移動させる傾斜面54が形成されている。
【0017】
このような構成からなるピン部材5は、前記シャフト2の各案内溝21に対して一つずつ遊嵌している。すなわち、ピン部材5はシャフト2に対して3つ設けられており、各ピン部材5は前記シャフト2の周方向に120°等間隔で該シャフト2に起立している。
【0018】
次に、前記圧着部材6は、前記シャフト2が貫通する貫通孔を有して略円筒状に形成されている。この圧着部材6の外径は、前記ハウジング4の内径よりも僅かに小さく、又は略同一に設定されており、該ハウジング4内に収容されるようになっている。また、前記摩擦部材7に面した該圧着部材6の内周面は、前記ハウジング4の端部側から前記ピン部材5側に架けて徐々に勾配する第一傾斜面61を構成している。
【0019】
更に、前記圧着部材6の前記ピン部材5側の端面には、前述したピン部材5の突き当て面55に当接されて位置決めされる突起部62が周方向に連続して形成されている。また、前記ハウジング4側の端面には、後述する付勢手段8のスプリング部材81が嵌合する付勢孔63が周方向に対して等間隔に形成されている。本実施形態では、一対の圧着部材6が前記シャフト2の周方向に配列された三つのピン部材5を該シャフト2の軸方向から挟むようにして配置されている。尚、本実施形態では前記突起部62が周方向に連続して設けられているが、前記シャフト2の周方向に120°等間隔に配置された各ピン部材5に対応するよう、前記圧着部材6の前記ピン部材5側の端面に対して周方向に120°等間隔となるように配置されていても良い。
【0020】
一方、前記摩擦部材7は、前記ピン部材5の配置位置と合致するようにして前記シャフト2の周方向に120°等間隔に配置されている。すなわち、シャフト2に対して三つの摩擦部材7が前記シャフト2を周方向から囲うようにして設けられている。各摩擦部材7には、前記ピン部材5が挿入される挿入孔71が内側面から外側面に架けて貫通形成されている。また、各摩擦部材7の内側面は前記シャフト2の外周面と同一円心状の曲面に形成される一方、外側面は前記圧着部材6の第一傾斜面61と対向すると共に前記挿入孔71の周縁から前記ハウジング4の端部側に架けて徐々に勾配した第二傾斜面72を形成している。
【0021】
また、前記シャフト2の軸方向に関する各摩擦部材7の長さは前記シャフト21の外周面に形成された案内溝21の軸方向長さよりも長く設定され、あるいは、前記シャフト2の周方向に関する各摩擦部材7の長さは前記案内溝21の周方向長さよりも長く設定されている。この構成により、前記摩擦部材7が前記案内溝21上を移動する際に、該摩擦部材7が前記シャフト2の案内溝21内に落下するのを防止することができる。このように構成された各摩擦部材7は前記圧着部材6とシャフト2との間に配置されている。すなわち、本実施形態に係るフリクションダンパ1では、前記シャフト2の半径方向に対して、摩擦部材7、圧着部材6、ハウジング4の順に各部材が配置されている。
【0022】
前記ハウジング4の両端には、前記圧着部材6をピン部材5に向けて付勢する付勢手段8が固定されている。この付勢手段8は、前記圧着部材6の付勢孔63に収縮自在に嵌合するスプリング部材81と、このスプリング部材81を前記圧着部材6に向けて押圧する押圧板82と、この押圧板82の前記シャフト2軸方向位置を調整する調整板83とから構成されている。前記押圧板82及び調整板83は前記シャフト2が貫通する貫通孔を有して略円盤状に形成されている。
【0023】
前記押圧板82には、前記圧着部材6に形成された付勢孔63と対向する位置に、すなわち、該押圧板82の周方向に等間隔でスタッド84が突設されている。このスタッド84には前記スプリング部材81が嵌合するようになっており、これにより該スプリング部材81が前記押圧板82に対して位置決め固定されるようになっている。このように構成された押圧板82の外径は、前記ハウジング4の内径と略同一又はそれよりも僅かに小さく設定されており、該押圧板82はハウジング4内で摺接し得るようにして該ハウジング4内に収容されている。
【0024】
一方、前記調整板83には、前記押圧板82のシャフト2軸方向位置を調整するための調整ボルト85が螺合しており、該調整ボルト85は前記調整板83を貫通して前記押圧板82の端面に当接されている。このような調整板83の外径にはねじ溝が形成されており、前記ハウジング4の両端に螺合固定されるようになっている。
【0025】
このように構成された付勢手段8では、前記調整板83に螺合した調整ボルト85を治具を用いて回転させることにより、該調整ボルト85が前記押圧板82の軸方向位置を調整することができるようになっている。この調整ボルト85の調整により、該押圧板82に位置決めされたスプリング部材81が前記押圧板82と前記圧着部材6の付勢孔63との間で収縮することで、前記圧着部材6がピン部材5に向けて付勢されるようになっている。すなわち、前記付勢手段8では、前記調整ボルト85の調整により前記圧着部材6に対するスプリング部材81の付勢力を任意に選定することが可能である。
【0026】
このような構成からなる本発明のフリクションダンパ1において、前記ピン部材5の先端部51が前記シャフト2の案内溝21に没入している状態では、図4に示すように、前記圧着部材6の突起部62が前記ピン部材5の凹部53から離脱して前記ピン部材5を構成する軸部52の突き当て面55に当接されている。これにより、前記圧着部材6には前記スプリング部材81の付勢力に対する反力Fが作用することとなる。すなわち、前記ピン部材5の先端部51が案内溝21内に没入している第一状態では、圧着部材6が突起部62を介して前記ピン部材5によって係止される状態となる。これにより、該圧着部材6の第一傾斜面61と前記摩擦部材7の第二傾斜面72との間に隙間が形成されるようになる。
【0027】
一方、図5及び図6は、前記ピン部材5の先端部51がシャフト2の外周面に当接されている状態、すなわち該先端部51が前記シャフト2の案内溝21から離脱している第二状態を示すものであり、図5は側面断面図、図6は前記ピン部材5、圧着部材6及び摩擦部材7の配置関係を示す拡大図である。前記ピン部材5が前記シャフト2の案内溝21に形成された傾斜面22上を摺接して該シャフト2の外周面に乗り上がると、前記圧着部材6は前記付勢手段8によりピン部材5に向けて付勢されていることから、前記圧着部材6の突起部62がピン部材5の軸部52に形成された凹部53内に没入することになる。これに伴って、前記圧着部材6の第一傾斜面61と摩擦部材7の第二傾斜面72とが図6に示すように接触することになる。
【0028】
このとき、前記スプリング部材81の付勢力は常に圧着部材6に作用しており、該圧着部材6はピン部材5に向けてシャフト2の軸方向に移動しようとする。この圧着部材6の軸方向運動によって前記摩擦部材7には押圧力Pが作用することになる。つまり、前記圧着部材6がハウジング4と摩擦部材7との間でくさび効果を発揮するように構成されている。この圧着部材6の作用により、当該摩擦部材7はシャフト2の外周面に向けて押圧されることになる。換言すると、ピン部材5が第二状態に設定されると、前記付勢手段8の付勢力に起因した圧着部材6の軸方向運動が前記シャフト2の半径方向に関する摩擦部材7の運動に変換されるようになっており、該圧着部材6の第一傾斜面61と摩擦部材7の第二傾斜面72とが相まって運動変換機構を構成している。
【0029】
このシャフト2に対する摩擦部材7の押圧により、該摩擦部材7の内側面とシャフト2の外周面との間に摩擦抵抗が発生し、前記フリクション発生機構3に対するシャフト2の軸方向運動が、又は該シャフト2に対するフリクション発生機構3の軸方向運動が拘束されるようになっている。
【0030】
このように、前記圧着部材6の突起部62がピン部材5の凹部53に没入している状態、換言すると、前記ピン部材5の先端部51がシャフト2の案内溝21から離脱している状態では前記摩擦部材7がシャフト2に向けて押圧されており、前記フリクション発生機構3がシャフト2に沿って移動する際常に摩擦抵抗が発生していることになる。
【0031】
尚、本実施形態に係るフリクションダンパ1では前記案内溝21の軸方向両端に傾斜面22が形成されており、前記ピン部材5がかかる傾斜面22を介して前記シャフト2の外周面上に乗り上がるように構成されているが、前記案内溝21に対して傾斜面22を形成せずに該案内溝21を凹溝に形成する一方で前記ピン部材5に係る先端部51に対して傾斜面を形成し、該傾斜面を介して前記ピン部材5がシャフト2の外周面上に乗り上がるように構成しても差し支えない。
【0032】
一方で、前記摩擦部材7に対して上記運動変換機構による押圧力Pが作用している状態のフリクションダンパ1において、前記ピン部材5の先端部51がシャフト2の案内溝21上に位置しているときに該ピン部材5の軸部52の端部に打撃を加えると、かかるピン部材5の先端部51が前記案内溝21内に没入すると共に、前記軸部52の凹部53に没入していた突起部62が前記付勢手段8の付勢力に抗して該凹部53に形成された傾斜面54上を摺動して前記軸部52の突き当て面55へと移動することになる。これにより、前記圧着部材6の第一傾斜面61と前記摩擦部材7の第二傾斜面72との間に隙間が形成され、摩擦部材7のシャフト2への押圧状態が解除されることになる。その結果、前記フリクション発生機構3に対するシャフト2の軸方向運動が、又は該シャフト2に対するフリクション発生機構3の軸方向運動が自在となる。
【0033】
このような本実施形態のフリクションダンパ1では、前述のように前記ピン部材5への打撃によって摩擦部材7のシャフト2への押圧状態を解除するようにしてもよく、作業員による作業工程の省略化という観点からすれば、前記ピン部材5をシャフト2の案内溝21内に押し戻すための装置を別体として設けても差し支えない。
【0034】
また、本実施形態のフリクションダンパ1では、上述したように、前記案内溝21がシャフト2の外周面に対して該シャフト2の周方向に120°等間隔に配置され、各案内溝21に対してピン部材5が遊嵌している。すなわち、本実施形態のフリクションダンパ1ではシャフト2に対して3つのピン部材5が起立するように構成されている。本発明のフリクションダンパ1の構成はこれに限られるものではなく、例えば前記案内溝21をシャフト2の周方向に90°等間隔に設け、該シャフト2に対して4つのピン部材5が起立するように構成しても良い。
【0035】
図7は、本発明のフリクションダンパ1を建築構造物の免震構造に適用した例を示す図である。この免震構造は、建築構造物200を建築基盤201の揺れから絶縁させる免震装置101と、前記建築基盤201と建築構造物200との間に設けられたフリクションダンパ1とから構成されている。
【0036】
前記免震装置101は、例えばゴム板を多層に積み重ねて形成された積層ゴムが使用されている。また、積層ゴムの中心に鉛などの金属プラグを配置することにより、かかる免震装置101は減衰装置としても機能している。このため、前記免震装置101において、地域毎に発生が想定される振動エネルギに応じて、前記免震装置101の負荷し得る振動エネルギの吸収能力を予め設定しておくことが可能となる。
【0037】
その一方で、前記フリクションダンパ1は、図7に示すように、前記フリクション発生機構3はブラケットを介して前記建築基盤201に固定されている。また、前記シャフト2は、所謂直線案内装置を介して前記建築構造物200に固定されており、具体的にはかかる建築構造物200に前記直線案内装置を構成する軌道レールが固定される一方、前記シャフト2の一端に前記軌道レールと相対運動する移動ブロックが固定されている。このように、前記シャフト2と建築構造物200との間に直線案内装置を介在させることにより、本発明に係るフリクションダンパ1の軸方向以外の他の方向の力が該フリクションダンパ1に作用したとしても、その作用する力をかかるフリクションダンパ1そのものの破損を防ぐことが可能となる。
【0038】
この構成からなる免震構造では、前記免震装置101における許容範囲内の振動エネルギが建築基盤201から建築構造物200に伝播したとしても、前記積層ゴム101の減衰機能により、建築構造物200が建築基盤201の振動周期とは無関係にそれ独自の振動周期で揺れることができるようになっている。地震終息後では、前記積層ゴム101が建築基盤201に対する建築構造物200の変位を抑える力を発揮し、前記建築構造物200が建築基盤201上の所定の位置に引き戻され、建築構造物200の振動を終息させることができるようになっている。
【0039】
その一方で、前記フリクションダンパ1では前記建築構造物200に対してフリクション発生機構3が固定されていることから、該建築構造物200の揺れに伴って前記シャフト2に対するフリクション発生機構3の軸方向への進退運動が生じる。ここで、前記シャフト2の外周面に形成された案内溝21の軸方向長さは、想定する振動エネルギによる建築構造物200の揺れ幅に応じて設定されており、前記免震装置101における許容範囲内の振動エネルギが建築構造物200に作用した場合には前記ピン部材5が前記案内溝21の両端に形成された一対の傾斜面22間を往復摺動するようになっている。このピン部材5がシャフト2の案内溝21に没入している第二状態では、図3に示すように、前記圧着部材6の第一傾斜面61と前記摩擦部材7の第二傾斜面72との間に隙間が形成されることになる。
【0040】
このため、前記免震装置101における許容範囲内の振動エネルギが建築構造物200に作用した状態では、前記圧着部材6の第一傾斜面61と摩擦部材7の第二傾斜面72とからなる運動変換機構が作用せず、該摩擦部材7が圧着部材6によってシャフト2の外周面に向けて押圧されることがない。それ故、前記フリクション発生機構3は摩擦部材7の抵抗を受けることなく、前記シャフト2の軸方向へ進退運動することが可能である。
【0041】
一方、想定外の巨大地震が発生し、前記免震装置101の許容範囲を越える過大な振動エネルギが建築構造物200に作用した場合には、前記建築構造物200は建築基盤201に対して水平方向に大きく揺れることになる。前述したように、前記フリクション発生機構3はブラケットを介して前記建築構造物200に固定されていることから、該フリクション発生機構3は建築構造物200の揺れに伴ってシャフト2の軸方向へ進退運動することになる。
【0042】
このフリクション発生機構3のシャフト2の軸方向に対する進退運動により、前記ピン部材5は、前記シャフト2の案内溝21に形成された傾斜面22上を摺動して該シャフト2の外周面上に乗り上がることになる。換言すると、前記ピン部材5が前記傾斜面22上を摺動して前記シャフト6の半径方向外側に跳ね上がり、前記案内溝21から離脱して前記第二状態に設定される。このピン部材5の離脱により、前記フリクションダンパ1では図6に示すように、前記付勢手段8のスプリング部材81によって付勢された前記圧着部材6の突起部62が前記軸部52に形成された凹部53内に嵌合することになる。
【0043】
前記圧着部材6の突起部62がピン部材5の凹部53内に嵌合すると、前記付勢手段8を構成するスプリング部材81の付勢力によって前記圧着部材6の第一傾斜面61と摩擦部材7の第二傾斜面72とが接触することになる。このとき、前記圧着部材6には常に付勢手段8の付勢力が作用していることから、前記摩擦部材7には押圧力が作用し、当該摩擦部材7はシャフト2の外周面に向けて押圧されることになる。
【0044】
その結果、建築構造物200と共に前記フリクション発生機構3がシャフト2の軸方向に対して進退運動すると、前記摩擦部材7のシャフト2への押圧により、前記フリクション発生機構3とシャフト2との間に摩擦抵抗が発生することとなる。この摩擦抵抗の発生により、建築構造物200に作用する振動エネルギが減衰され、該建築構造物200の揺れを強制的に減衰させることができるようになる。
【0045】
地震が終息した後は、上述したように、前記ピン部材5の先端部51がシャフト2の案内溝21上に位置している状態で、該ピン部材5の軸部52の端部に打撃を加えることにより、摩擦部材7のシャフト2への押圧状態が解除され、フリクションダンパ1を初期状態に戻すことが可能となる。
【0046】
以上のように構成された本発明を適用したフリクションダンパ1によれば、例えば併用する減衰装置の吸収能力を超える過大な振動エネルギが建築構造物に作用した際に、前記ピン部材5が前記第二状態に設定されることにより前記摩擦部材7がシャフト2を押圧することになる。これにより、建築構造物200に固定されたフリクション発生機構3と建築基盤201に固定されたシャフト2との間に常に摩擦抵抗が発生し、この摩擦抵抗の発生により、前記建築構造物200に作用する過大な振動エネルギを減衰させることが可能となる。
【0047】
その結果、想定外の巨大地震が発生し、過大な振動エネルギが建築構造物200に作用したとしても、建築基盤201に対する建築構造物200の揺れ幅を抑えることが可能であり、更には、地震終息後における建築構造物200の揺れを早期に終息させることが可能となる。
【0048】
尚、上述した実施形態では、前記圧着部材6と摩擦部材7とからなる運動変換機構が前記シャフト2の周方向に等間隔に配列されたピン部材5を該シャフト2の軸方向から挟むようにして配置されているが、過大な振動エネルギを十分に吸収することが可能であるならば、ピン部材5に対してシャフト2の軸方向片側に前記運動変換機構の構成を配置するようにしても差し支えない。
【0049】
また、上記実施形態に係るフリクションダンパ1では、前記案内溝21がシャフト2の外周面に対して該シャフト2の周方向に120°等間隔に配置されているが、本発明を適用したフリクションダンパ1の構成はこれに限られるものではなく、例えば前記案内溝21がシャフト2の周方向に連続している構成であっても差し支えない。かかる場合、前記摩擦部材7が前記案内溝21上を移動する際に、該摩擦部材7が前記シャフト2の案内溝21内に落下するのを防止するため、前記シャフト2の軸方向に関する各摩擦部材7の長さが前記案内溝21の軸方向長さよりも長く設定されていることが好ましい。
【0050】
更に、上述した本発明に係るフリクションダンパ1を適用した免震構造では、前記シャフト2が建築構造物200に固定される一方、前記フリクション発生機構3が建築基盤201が固定されているが、前記シャフト2を建築基盤201に、前記フリクション発生機構3を建築構造物200に固定するように構成しても良い。
【0051】
また更に、本発明を適用したフリクションダンパ1の使用例の一つとして、免震構造に適用するものを説明したが、該フリクションダンパ1の使用例はこれに限られるものではなく、広く適用することができる。例えば、建築構造物内に設置された二つの機械や装置間に配置し、これら構造体の制震装置として用いることも可能である。
【符号の説明】
【0052】
1…フリクションダンパ、2…シャフト、5…移動部材(ピン部材)、6…圧着部材、7…摩擦部材、21…案内溝、53…凹部、62…突起部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に軸方向に沿った案内溝が形成されたシャフトと、このシャフトの表面を軸方向に沿って移動し、前記シャフトの案内溝に没入した第一状態及び前記案内溝から離脱した第二状態のいずれかに設定される移動部材と、この移動部材に向けて付勢され、前記第一状態に設定された移動部材によって係止される圧着部材と、選択的に前記シャフトに圧接する摩擦部材と、を備え、
前記移動部材が第二状態に設定されると、該移動部材による圧着部材の係止が解除されて前記摩擦部材が前記圧着部材の押圧によって前記シャフトに圧接されると共に、かかる圧着部材が前記移動部材を第二状態に維持することを特徴とするフリクションダンパ。
【請求項2】
前記移動部材は、前記シャフトに対して垂直に保持されたピン部材であって、かかるピン部材は前記シャフトの表面を滑走する先端部及び凹部が形成された軸部から構成される一方、
前記圧着部材及び摩擦部材は、前記シャフトの軸方向に傾斜すると共に互いに対向する対向面を有していることを特徴とする請求項1記載のフリクションダンパ。
【請求項3】
前記ピン部材の凹部には、前記圧着部材の突起部を該凹部から離脱させるための傾斜面が形成されていることを特徴とする請求項2記載のフリクションダンパ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−154356(P2012−154356A)
【公開日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−11258(P2011−11258)
【出願日】平成23年1月21日(2011.1.21)
【出願人】(390029805)THK株式会社 (420)
【Fターム(参考)】