説明

フルオレン系ポリエステルオリゴマー及びその製造方法

【課題】反応性及び流動性に優れるフルオレン系ポリエステルオリゴマー及びその製造方法を提供する。
【解決手段】本発明のフルオレン系ポリエステルオリゴマーは、9,9−ビス(ヒドロキシアリール)フルオレン骨格を含有するフルオレン含有ポリエステル系樹脂を解重合剤で解重合したフルオレン系ポリエステルオリゴマーである。前記フルオレン系ポリエステルオリゴマーは、重量平均分子量が5000〜30000程度であってもよい。また、前記フルオレン系ポリエステルオリゴマーは、酸価が0〜100mgKOH/g程度であるか、又は水酸基価が5〜400mgKOH/g程度であってもよい。前記フルオレン系ポリエステルオリゴマーは、樹脂に対する親和性に優れ、種々の光学用材料として有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、反応性及び流動性に優れるフルオレン系ポリエステルオリゴマー及びその製造方法、並びにその用途に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエステル系樹脂は、飲料用ボトル、フィルム、繊維などの各種用途に有用である。また、耐熱性、耐候性などの点から、ポリエステル系樹脂は、種々の方法で改質して様々な機能を付与することにより、塗料、接着剤などとしても利用されている。
【0003】
例えば、特開平9−302054号公報(特許文献1)には、多塩基酸(A)を酸成分とし、炭素数2以上のアルキル基を側鎖にもつ分岐ジオール(b−1)及び水添ポリブタジエンポリオール(b−2)をグリコール成分(B)として重縮合してなるポリエステル系樹脂(I)を多塩基酸(C)の存在下で解重合した後、カルボキシル基と反応する官能基を有する(メタ)アクリレート(D)を反応させて得られるポリエステル(メタ)アクリレート系樹脂(II)に、増感剤(III)を配合してなるポリエステル系樹脂組成物が開示されている(請求項1)。この文献では、ポリエステル系樹脂に(メタ)アクリレートを反応させることにより、オレフィン系樹脂との接着性を高めることができ、塗料、接着剤として有用であることが記載されている。しかし、前記樹脂組成物は、透明性などの光学特性、機械的強度に劣るため、使用が限定される場合がある。
【0004】
また、特開平8−73579号公報(特許文献2)には、芳香族ジカルボン酸類及び/又は脂肪族ジカルボン酸類を酸成分とし、ジアルコール類をアルコール成分として合成された数平均分子量6000以上の直鎖ポリエステル樹脂100重量部を、3価以上のヒドロキシカルボン酸0.2〜10重量部により解重合して分岐ポリエステル樹脂を製造し、次いで減圧重縮合反応により重量平均分子量20,000以上に高分子量化することを特徴とするポリエステル樹脂の製造法が開示されている。この製造法により得られる分岐鎖状のポリエステル樹脂は、直鎖ポリエステル樹脂と3価以上のヒドロキシカルボン酸との反応により、反応性基(又は官能基)が導入され、接着性、機械的強度、耐水性などが向上しており、塗料、接着剤として有用であることが記載されている。しかし、前記ポリエステル樹脂は、分岐鎖構造を有し、かつ高分子量であるため、流動性(又は成形性)に劣り、接着性が十分であるとは言い難い。また、透明性に劣るとともに、機械的強度が未だ不十分である。
【0005】
なお、昨今の情報技術の急激な進歩に伴い、光学部材に使用できる接着剤(光学接着剤)の需要が拡大している。高屈折率でかつ複屈折が低く、光学用途に有用な透明樹脂として、フルオレン骨格を有するポリエステル系樹脂(フルオレン骨格含有ポリエステル系樹脂)がこれまでに提案されている。例えば、特開平7−149881号公報(特許文献3)、特開平8−109249号公報(特許文献4)などには、ジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体とフルオレン骨格を有するジヒドロキシ化合物(例えば、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレン類など)と、炭素原子数が2から4の脂肪族グリコールからなる実質的に線状のポリエステル重合体が開示されている。前記ポリエステル重合体は、成形性(又は流動性)に優れているが、接着剤や塗料などの用途に用いるには未だ不十分である。また、前記ポリエステル重合体は、反応性、樹脂との親和性も低く、接着性(又は硬化性)に劣る。
【0006】
なお、前記フルオレン骨格含有ポリエステル重合体は、樹脂(例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートなどのポリエステル系樹脂など)、微粒子(例えば、カーボンナノチューブなどの有機微粒子、無機微粒子など)などの成分に対する混和性(又は、相溶性、分散性)にも劣るため、前記ポリエステル重合体の使用が制限されているのが現状である。
【特許文献1】特開平9−302054号公報(請求項1、段落[0046])
【特許文献2】特開平8−73579号公報(請求項1、段落[0015][0028])
【特許文献3】特開平7−149881号公報
【特許文献4】特開平8−109249号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従って、本発明の目的は、反応性及び流動性に優れるフルオレン系ポリエステルオリゴマー及びその製造方法を提供することにある。
【0008】
本発明の他の目的は、樹脂に対する親和性に優れるフルオレン系ポリエステルオリゴマー及びその製造方法を提供することにある。
【0009】
本発明のさらに他の目的は、光学用材料として有用なフルオレン系ポリエステルオリゴマー及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、前記課題を達成するため鋭意検討した結果、9,9−ビスアリールフルオレン骨格を含有するフルオレン系ポリエステルオリゴマーであって、前記フルオレン骨格を含有するフルオレン含有ポリエステル系樹脂を解重合剤で解重合した前記オリゴマーは、反応性が高く、流動性にも優れることを見いだし、本発明を完成した。
【0011】
すなわち、本発明のフルオレン系ポリエステルオリゴマーは、9,9−ビス(ヒドロキシアリール)フルオレン骨格を含有するフルオレン含有ポリエステル系樹脂を解重合剤で解重合したフルオレン系ポリエステルオリゴマーである。前記フルオレン系ポリエステルオリゴマーは、重量平均分子量が5000〜30000程度であってもよい。また、前記フルオレン系ポリエステルオリゴマーは、酸価が0〜100mgKOH/g程度であるか、又は水酸基価が5〜400mgKOH/g程度であってもよい。
【0012】
前記フルオレン含有ポリエステル系樹脂は、少なくとも下記式(1)
【0013】
【化1】

【0014】
(式中、Z及びZは同一又は異なって芳香族炭化水素基を示す。R1a及びR1bは同一又は異なってアルキレン基を示し、R2a及びR2bは同一又は異なって、炭化水素基、アルコキシ基、シクロアルコキシ基、アリールオキシ基、アラルキルオキシ基、アシル基、アルコキシカルボニル基、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基又は置換アミノ基を示し、R3a及びR3bは同一又は異なって炭化水素基、アルコキシ基、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基又は置換アミノ基を示し、m及びnは同一又は異なって0又は1以上の整数である。h1及びh2は同一又は異なって0〜4の整数であり、j1及びj2は同一又は異なって0〜4の整数である)
で表されるジオール成分と、ジカルボン酸成分とを重合成分とする樹脂であってもよい。
【0015】
前記フルオレン系ポリエステルオリゴマーは、前記解重合剤が、1分子中に2個以上のヒドロキシル基を含み、水酸基価が30〜400mgKOH/g程度であってもよい。さらに、前記フルオレン系ポリエステルオリゴマーは、前記解重合剤が、1分子中に3個以上のヒドロキシル基を含み、水酸基価が50〜400mgKOH/g程度であってもよい。前記フルオレン系ポリエステルオリゴマーは、光学用材料として有用である。
【0016】
本発明には、解重合剤の存在下、9,9−ビスアリールフルオレン骨格を含有するフルオレン含有ポリエステル系樹脂を溶融混練して解重合し、前記フルオレン系ポリエステルオリゴマーを製造する方法も含まれる。
【0017】
前記方法において、前記解重合剤は、ヒドロキシル基及びカルボキシル基から選択された少なくとも一種の官能基を1分子中に2個以上有する化合物であってもよい。また、前記解重合剤は、3官能以上のポリオール類及び3官能以上のポリカルボン酸類から選択された少なくとも一種であってもよい。さらに、前記解重合剤を、前記フルオレン含有ポリエステル系樹脂100重量部に対し、1〜30重量部程度の割合で用いてもよい。
【0018】
また、本発明には、前記フルオレン系ポリエステルオリゴマーと、導電剤とを含有する導電性組成物も含まれる。
【発明の効果】
【0019】
本発明のフルオレン系ポリエステルオリゴマーは、特定のフルオレン含有ポリエステル系樹脂が解重合剤で解重合されているため、反応性が高く、流動性に優れる。また、前記フルオレン系ポリエステルオリゴマーは、特定の分子量、及び、特定の酸価又は水酸基価を充足し、反応性が高く、流動性に優れる。また、前記フルオレン系ポリエステルオリゴマーは、重合度が小さく、流動性に優れるとともに、オリゴマー中の反応性基(又は官能基)の含有割合が高く、反応性にも優れるため、樹脂に対する親和性(又は相溶性など)に優れる。そのため、本発明のフルオレン系ポリエステルオリゴマーは、光学用材料(例えば、光学用添加剤など)などとして有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
[フルオレン系ポリエステルオリゴマー]
本発明のフルオレン系ポリエステルオリゴマー(以下、単に「オリゴマー」又は「ポリエステルオリゴマー」と称する場合がある)は、9,9−ビス(カルボキシアリール)フルオレン骨格を含有するジカルボン酸成分と、ジオール成分とを重合成分とするオリゴマーであってもよいが、通常、フルオレン系ポリエステルオリゴマーは、9,9−ビス(ヒドロキシアリール)フルオレン骨格を含有するジオール成分と、ジカルボン酸成分とを重合成分とするオリゴマーである。このようなオリゴマーには、例えば、少なくとも前記式(1)で表されるジオール成分と、ジカルボン酸成分とを重合成分とするオリゴマーが含まれる。
【0021】
前記フルオレン系ポリエステルオリゴマーは、少なくとも前記式(1)で表されるジオール成分と、ジカルボン酸成分とを低重合度に重合し、解重合することなく得られるオリゴマーであってもよいが、末端反応性基の種類を容易に制御(又は調整)できるため、通常、前記フルオレン系ポリエステルオリゴマーは、少なくとも前記式(1)で表されるジオール成分と、ジカルボン酸成分とを重合成分とするフルオレン含有ポリエステル系樹脂を解重合剤により解重合して得られるオリゴマー(解重合体)である。
【0022】
(フルオレン含有ポリエステル系樹脂)
前記式(1)のZ及びZにおいて、芳香族炭化水素基としては、ベンゼン、ナフタレン、アントラセン、ビフェニル、インデンなどのC6−14芳香族炭化水素環に対応する基などが例示できる。Z及びZは、ベンゼンに対応する基(例えば、フェニレン基など)が好ましい。
【0023】
また、前記式(1)において、R1a及びR1bで表されるアルキレン基としては、エチレン基、プロピレン基、トリメチレン基、テトラメチレン基などの直鎖状又は分岐鎖状C2−4アルキレン基が例示できる。R1a及びR1bにおいてアルキレン基の種類はそれぞれ異なっていてもよい。また、アルキレン基R1a及びR1bの種類は係数m及びnの数によっても異なっていてもよい。好ましいアルキレン基は、C2−3アルキレン基(エチレン基、プロピレン基)であり、通常、エチレン基である場合が多い。
【0024】
2a及びR2bとしては、アルキル基(例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基などの直鎖状又は分岐鎖状C1−8アルキル基(特に、C1−6アルキル基)など)、シクロアルキル基(シクロペンチル基、シクロへキシル基などのC5−10シクロアルキル基、好ましくはC5−8シクロアルキル基、さらに好ましくはC5−6シクロアルキル基など)、アリール基[例えば、フェニル基、アルキルフェニル基(メチルフェニル基(又はトリル基、2−メチルフェニル基、3−メチルフェニル基など)、ジメチルフェニル基(キシリル基)など)、ナフチル基などのC6−10アリール基など]、アラルキル基(ベンジル基、フェネチル基などのC6−10アリール−C1−4アルキル基など)などの炭化水素基;アルコキシ基(例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、n−ブトキシ基、イソブトキシ基、t−ブトキシ基などのC1−8アルコキシ基(特にC1−6アルコキシ基)など);シクロアルコキシ基(シクロへキシルオキシ基などのC5−10シクロアルキルオキシ基など);アリールオキシ基(フェノキシ基などのC6−10アリールオキシ基);アラルキルオキシ基(例えば、ベンジルオキシ基などのC6−10アリール−C1−4アルキルオキシ基など);アシル基(アセチル基などのC1−6アシル基など);アルコキシカルボニル基(メトキシカルボニル基などのC1−4アルコキシカルボニル基など);ハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子など);ニトロ基;シアノ基;置換アミノ基(ジアルキルアミノ基など)などが挙げられる。
【0025】
置換基R2a及びR2bの置換数h1及びh2は、通常、0〜4(例えば、0〜2)程度の整数であってもよい。置換基R2a及びR2bの置換位置も特に制限されない。好ましい置換基R2a及びR2bは、C1−6アルキル基(特にメチル基)であり、好ましい置換数h1及びh2は0〜2(例えば、0又は1)程度の整数である。
【0026】
3a及びR3bとしては、前記例示の炭化水素基、アルコキシ基、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、置換アミノ基などが挙げられる。
【0027】
置換基R3a及びR3bの置換数j1及びj2は、通常、0〜4、好ましくは0〜2(例えば、0又は1)程度の整数であってもよい。置換基R3a及びR3bの置換位置も特に制限されない。好ましい置換基R3a及びR3bは、C1−6アルキル基(特にメチル基)であり、好ましい置換数j1及びj2は0又は1(例えば0)である。
【0028】
オキシアルキレン単位の繰り返し数m及びnは、0又は1以上の整数であり、通常、1〜10、好ましくは1〜7、さらに好ましくは1〜5(例えば、1〜3)程度の整数であってもよい。
【0029】
また、フルオレン含有ポリエステル系樹脂は、上記式(1)で表されるジオール成分と、さらに下記式(2)
HO−R1c−OH (2)
(式中、R1cはアルキレン基を示す。)
で表されるジオール成分と、後述のジカルボン酸成分とを重合成分とするポリエステル系樹脂であってもよい。前記式(2)において、R1cで表されるアルキレン基としては、エチレン基、プロピレン基、トリメチレン基、テトラメチレン基などの直鎖状又は分岐鎖状C2−10アルキレン基が例示でき、直鎖状又は分岐鎖状C2−4アルキレン基(例えば、エチレン基、テトラメチレン基など)が好ましい。
【0030】
ジオール成分において、式(1)で表されるジオールと式(2)で表されるジオールとの割合(モル比)は、前者/後者=100/0〜10/90(例えば、100/0〜30/70)程度の範囲から選択でき、通常、99/1〜50/50、好ましくは99/1〜55/45、さらに好ましくは98/2〜60/40、特に97/3〜65/35(例えば、95/5〜70/30)程度であってもよい。
【0031】
一方、ジカルボン酸成分は、脂肪族ジカルボン酸成分であってもよいが、光学特性(例えば、屈折率、複屈折など)の観点から、脂環族ジカルボン酸成分又は芳香族ジカルボン酸成分であることが好ましい。
【0032】
脂環族ジカルボン酸成分としては、シクロアルカンジカルボン酸類(シクロペンタンジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸、1,2−シクロヘキサンジカルボン酸、シクロヘプタンジカルボン酸などのC5−10シクロアルカン−ジカルボン酸)、多環式アルカンジカルボン酸類(ボルナンジカルボン酸、ノルボルナンジカルボン酸などのジ又はトリシクロC7−10アルカン−ジカルボン酸)などが例示できる。通常、脂環族ジカルボン酸成分は、C5−10シクロアルカン−ジカルボン酸(特に1,4−シクロヘキサンジカルボン酸)である。
【0033】
芳香族ジカルボン酸成分としては、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、ナフタレンジカルボン酸などのC6−14アレーン−ジカルボン酸、ビフェニル−4,4′−ジカルボン酸などのC12−14ビフェニル−ジカルボン酸などが例示できる。通常、芳香族ジカルボン酸成分は、C6−12アレーン−ジカルボン酸(特に、テレフタル酸)である。
【0034】
前記ジカルボン酸成分は、酸無水物、ジメチルエステルなどの低級C1−4アルキルエステル、ジカルボン酸に対応する酸ハライドなどのエステル形成可能な誘導体であってもよい。また、前記ジカルボン酸成分は、1又は複数の置換基、例えば、炭化水素基[例えば、アルキル基(例えば、メチル基などのC1−4アルキル基)、シクロアルキル基(例えば、シクロヘキシル基などのC5−10シクロアルキル基)、アリール基(例えば、フェニル基などのC6−10アリール基)など]、ハロアルキル基、ヒドロキシル基、アルコキシ基(例えば、メトキシ基などのC1−10アルコキシ基など)、ハロアルコキシ基、カルボキシル基、アルコキシカルボニル基(例えば、メトキシカルボニル基などのC1−10アルコキシ−カルボニル基)、アシル基(例えば、アセチル基などのC2−5アシル基など)、アミノ基、置換アミノ基、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基などを有していてもよく、ジカルボン酸の種類に応じて適宜選択できる。
【0035】
前記ジカルボン酸成分と前記ジオール成分との割合(使用割合)は、前者/後者(モル比)=5/1〜0.1/1程度から選択でき、通常、前者/後者=1.5/1〜0.5/1、好ましくは1.2/1〜0.7/1(特に、1.1/1〜0.8/1)程度であってもよい。前記ジカルボン酸成分と前記ジオール成分との割合(使用割合)を調整することにより、生成するフルオレン含有ポリエステル系樹脂の末端基の種類を調整することもできる。
【0036】
好ましいフルオレン含有ポリエステル系樹脂には、例えば、(i)前記式(1)において、R1a及びR1bがエチレン基であり、m及びnが1であり、R2a及びR2bがアルキル基(例えば、メチル基などのC1−6アルキル基)又はアリール基(例えば、フェニル基などのC6−10アリール基)であり、h1及びh2が0〜2であり、j1及びj2が0であるジオール成分と、前記式(2)において、R1cがエチレン基であるジオール成分と、テレフタル酸であるジカルボン酸成分とを重合成分とする共重合体であって、下記式(3a)で表される単位と下記式(4a)で表される単位とを有する共重合体、(ii)前記式(1)において、R1a及びR1bがエチレン基であり、m及びnが1であり、R2a及びR2bがアルキル基(例えば、メチル基などのC1−6アルキル基)又はアリール基(例えば、フェニル基などのC6−10アリール基)であり、h1及びh2が0〜2であり、j1及びj2が0であるジオール成分と、前記式(2)において、R1cがエチレン基であるジオール成分と、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸であるジカルボン酸成分とを重合成分とする共重合体などが含まれる。例えば、前記(i)に含まれる共重合体の一例として、下記式(3a)で表される単位と下記式(4a)で表される単位とを有する共重合体が、前記(ii)に含まれる共重合体の一例として、下記式(3b)で表される単位と下記式(4b)で表される単位とを有する共重合体が挙げられる。
【0037】
【化2】

【0038】
【化3】

【0039】
下記式(3a)で表される単位と下記式(4a)で表される単位との割合は、前者/後者(単位数比)=50/50〜100/0、好ましくは60/40〜95/5、さらに好ましくは65/35〜90/10程度であってもよい。また、下記式(3b)で表される単位と下記式(4b)で表される単位との割合も、前者/後者(単位数比)=50/50〜100/0、好ましくは60/40〜95/5、さらに好ましくは65/35〜90/10程度であってもよい。
【0040】
前記フルオレン含有ポリエステル系樹脂は、市販品であってもよく、慣用の方法を利用(又は応用)して合成した合成品であってもよい。前記フルオレン含有ポリエステル系樹脂は、対応するジオール成分とジカルボン酸成分とを反応させることにより得ることができる。このようなポリエステル系樹脂の製造方法については、例えば、特開2004―315676号公報を参照することができる。
【0041】
前記フルオレン含有ポリエステル系樹脂の重量平均分子量は、例えば、40℃の条件下、ゲル浸透クロマトグラフィー(溶媒:テトラヒドロフラン、基準樹脂:ポリスチレン)を用いて測定したとき、7000〜60000、好ましくは10000〜58000、さらに好ましくは、15000〜55000、特に20000〜52000(例えば、25000〜45000)程度であってもよい。
【0042】
(解重合剤)
本発明のフルオレン系ポリエステルオリゴマーは、前記フルオレン含有ポリエステル系樹脂が前記解重合剤で解重合された解重合体であってもよい。解重合剤(ポリエステル系樹脂の解重合剤)は、前記ポリエステル系樹脂と反応(エステル交換反応)可能な複数の官能基(又は反応性基)を1分子中に含む化合物であってもよい。例えば、前記解重合剤は、ヒドロキシル基及びカルボキシル基から選択された少なくとも一種の官能基を少なくとも2個(又は複数)含む化合物であってもよい。具体的には、前記解重合剤としては、以下に列挙する(i)ヒドロキシル基を有する解重合剤(又はポリオール類)、(ii)カルボキシル基を有する解重合剤(又はポリカルボン酸類)、(iii)ヒドロキシル基及びカルボキシル基を有する解重合剤(又はヒドロキシカルボン酸類)などが挙げられる。
【0043】
(i)ヒドロキシル基を有する解重合剤(又はポリオール類)としては、例えば、ジオール類(例えば、エチレングリコール、プロピレングリコールなどのC2―10脂肪族ジオール類、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリエチレングリコールなどの数平均分子量150〜1000程度のポリアルキレングリコール類、脂環族ジオール類、芳香族ジオール類など)、3官能以上のポリオール類(例えば、グリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパンなどの脂肪族C3−10トリオール類;ペンタエリスリトール、エリスリトールなどのテトラオール類など)などが挙げられる。ヒドロキシル基を有する解重合剤は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。これらのヒドロキシル基を有する解重合剤のうち、3官能以上のポリオール類(例えば、脂肪族C3−10トリオール類(例えば、トリメチロールプロパンなど))などが好ましい。なお、必要により、ジオール類は、モノオール類(例えば、メタノール、エタノールなどのC1−10脂肪族モノオール類;シクロへキサノールなどの脂環族モノオール類;フェノール類などの芳香族モノオール類など)と併用してもよい。また、3官能以上のポリオール類は、前記ジオール類及び/又は前記モノオール類と併用してもよい。
【0044】
(ii)カルボキシル基を有する解重合剤(又はカルボン酸類)としては、例えば、ジカルボン酸類(例えば、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸などのC2−20脂肪族ジカルボン酸類;1,4−シクロヘキサンジカルボン酸などのC6−20脂環族ジカルボン酸類;フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、ナフタレンジカルボン酸(2,6−ナフタレンジカルボン酸など)などのC8−20芳香族ジカルボン酸類など)、3官能以上のポリカルボン酸類(例えば、トリメリット酸、ピロメリット酸など)などのカルボン酸又はこれらの誘導体(例えば、酸無水物、酸ハライド(例えば、酸クロライドなど)、低級アルキルエステル(例えば、C1−6アルキルエステルなど)など)などが好適に使用される。カルボキシル基を有する解重合剤は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。これらのカルボキシル基を有する解重合剤のうち、ジカルボン酸類(例えば、シクロヘキサンジカルボン酸など)、3官能以上のポリカルボン酸類(又はこれらの酸無水物、低級アルキルエステル(例えば、C1−6アルキルエステルなど))などが好ましく、特に、3官能以上のポリカルボン酸類(例えば、ピロメリット酸(又はその低級アルキルエステル(例えば、C1−6アルキルエステルなど))など)が好ましい。なお、必要により、ジカルボン類は、モノカルボン酸類(例えば、酢酸、プロピオン酸などの飽和C1−18脂肪族モノカルボン酸類;シクロヘキサンカルボン酸などの脂環族モノカルボン酸類;安息香酸などの芳香族モノカルボン酸類など)と併用してもよい。また、3官能以上のポリカルボン酸類は、前記ジカルボン酸類及び/又は前記モノカルボン酸類と併用してもよい。
【0045】
(iii)ヒドロキシル基及びカルボキシル基を有する解重合剤としては、例えば、酒石酸、クエン酸、乳酸、グルコン酸などのヒドロキシカルボン酸などが好適に使用される。解重合剤は、フルオレン系ポリエステルオリゴマーにおいて要求される末端基の種類に応じて適宜選択してもよい。前記解重合剤は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0046】
なお、前記解重合剤は、ヒドロキシル基及びカルボキシル基から選択された少なくとも一種の官能基を少なくとも2個含む化合物であってもよいが、前記官能基を3個以上有する化合物(例えば、ポリオール類、ポリカルボン酸類など)を含む解重合剤を用いると、生成するオリゴマーに遊離の官能基が導入されるため、前記オリゴマーの酸価又は水酸基価を高めることができ、反応性を向上させるのに有利である。
【0047】
本発明のフルオレン系ポリエステルオリゴマーは、容易に低分子量化され、流動性が向上されている。前記フルオレン系ポリエステルオリゴマーの重量平均分子量は、前記フルオレン含有ポリエステル系樹脂の重量平均分子量に比べ、10〜90%、好ましくは20〜80%(例えば、22〜75%)、さらに好ましくは25〜70%(例えば、27〜65%)、特に30〜70%(例えば、30〜60%)程度に低減(又は低分子量化)されていてもよい。具体的には、前記フルオレン含有ポリエステルオリゴマーの重量平均分子量は、例えば、40℃の条件下、ゲル浸透クロマトグラフィー(溶媒:テトラヒドロフラン、基準樹脂:ポリスチレン)を用いて測定したとき、5000〜30000、好ましくは5500〜29000、さらに好ましくは6000〜28000(例えば、7000〜26000)、特に8000〜25000(例えば、8500〜20000)程度であってもよい。また、前記フルオレン含有ポリエステルオリゴマーの重量平均分子量は、1000〜10000、好ましくは、1500〜7000、さらに好ましくは2000〜5000程度であってもよい。
【0048】
また、前記フルオレン系ポリエステルオリゴマーは、低分子量化され、酸価又は水酸基価が高いため、反応性が高い。前記フルオレン系ポリエステルオリゴマーの酸価は、例えば、0〜100mgKOH/g、好ましくは0.5〜70mgKOH/g、さらに好ましくは1〜50mgKOH/gであってもよい。また、前記フルオレン系ポリエステルオリゴマーの水酸基価は、5〜400mgKOH/g、好ましくは10〜350mgKOH/g、さらに好ましくは30〜300mgKOH/g程度であってもよい。
【0049】
なお、使用する解重合剤の種類に応じて、生成するフルオレン系ポリエステルオリゴマーの酸価及び/又は水酸基価を調整できる。例えば、ヒドロキシル基を有する解重合剤を用いて前記ポリエステル系樹脂を解重合すると、末端基が実質的にヒドロキシル基であるポリエステルオリゴマーが得られる。具体的には、前記解重合剤が、ヒドロキシル基を1分子中に少なくとも2個含むとき、生成するフルオレン系ポリエステルオリゴマーの水酸基価は、5〜400mgKOH/g、好ましくは10〜380mgKOH/g、さらに好ましくは15〜350mgKOH/g程度であってもよく、30〜400mgKOH/g程度であってもよい。特に、前記解重合剤が、3官能以上のポリオール類であるとき、生成するフルオレン系ポリエステルオリゴマーの水酸基価は、10〜400mgKOH/g、好ましくは15〜380mgKOH/g、さらに好ましくは20〜350mgKOH/g(例えば、30〜200mgKOH/g)程度であってもよく、50〜400mgKOH/g程度であってもよい。このように、前記解重合剤が、3官能以上のポリオール類であるとき、得られるフルオレン系ポリエステルオリゴマーの水酸基価を有効に向上させることができる。
【0050】
一方、カルボキシル基を有する解重合剤を用いて前記ポリエステル系樹脂を解重合すると、末端基が実質的にカルボキシル基であるポリエステルオリゴマーが得られる。具体的には、前記解重合剤が、カルボキシル基を1分子中に少なくとも2個含むとき、生成するフルオレン系ポリエステルオリゴマーの酸価は、0〜100mgKOH/g、好ましくは0.5〜70mgKOH/g、さらに好ましくは1〜50mgKOH/g程度であってもよい。特に、前記解重合剤が、3官能以上のポリカルボン酸類であるとき、生成するフルオレン系ポリエステルオリゴマーの酸価は、0〜100mgKOH/g、好ましくは10〜95mgKOH/g、さらに好ましくは30〜90mgKOH/g程度であってもよい。このように、前記解重合剤が、3官能以上のポリカルボン酸類であるとき、得られるフルオレン系ポリエステルオリゴマーの酸価を有効に向上させることができる。
【0051】
このような知見に基づき、目的に応じて使用する前記解重合剤の種類を選択してもよい。なお、前記解重合剤のうち、(i)ヒドロキシル基を有する解重合剤を用いると、生成する解重合体が着色するのを有効に抑制することができる。
【0052】
本発明のフルオレン系ポリエステルオリゴマーは、その構成単位として前記解重合剤を含んでいてもよい。前記フルオレン系ポリエステルオリゴマーにおいて、前記解重合剤に対応する単位は、例えば、前記フルオレン系ポリエステルオリゴマー1分子中に0〜2単位、好ましくは1〜2単位程度含んでいてもよい。
【0053】
前記フルオレン系ポリエステルオリゴマーは、各種光学特性にも優れる。例えば、前記フルオレン系ポリエステルオリゴマーは、屈折率が高く、例えば、1.56〜1.70、好ましくは1.57〜1.68、さらに好ましくは1.58〜1.65程度である。また、前記フルオレン系ポリエステルオリゴマーは、低複屈折である。具体的には、前記フルオレン系ポリエステルオリゴマーのリタデーション値は、0〜1000nm、好ましくは0〜500nm、さらに好ましくは0〜300nm程度である。さらにまた、前記フルオレン系ポリエステルオリゴマーは、透明性にも優れ、550nmにおける光線透過率は、80〜97%、好ましくは82〜96%、さらに好ましくは85〜95%程度である。
【0054】
なお、前記フルオレン系ポリエステルオリゴマーを種々の用途(例えば、光学用材料などの後述する用途など)に用いる場合、前記フルオレン系ポリエステルオリゴマーは、必要に応じて、添加剤と併用してもよい。前記添加剤としては、例えば、可塑剤、軟化剤、着色剤、分散剤、離型剤、安定化剤(ヒンダードフェノール系酸化防止剤、リン系酸化防止剤、硫黄系酸化防止剤などの酸化防止剤、紫外線吸収剤、熱安定化剤など)、帯電防止剤、難燃剤、アンチブロッキング剤、結晶核成長剤などが例示できる。これらの添加剤は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。添加剤の割合は、種類に応じて選択すればよく、特に限定されないが、前記フルオレン系ポリエステルオリゴマー100重量部に対し、0.01〜100重量部程度の範囲から選択でき、例えば、0.1〜50重量部、好ましくは0.5〜20重量部程度であってもよい。
【0055】
[フルオレン系ポリエステルオリゴマーの製造方法]
前記フルオレン系ポリエステルオリゴマーは、前記ジオール成分と前記ジカルボン酸成分とを所望の重合度まで重縮合して製造してもよいが、前記オリゴマーの末端基の種類を調整(又は制御)し易い点などから、前記フルオレン含有ポリエステル系樹脂を前記解重合剤と反応させて製造してもよい。例えば、前記フルオレン系ポリエステルオリゴマーは、前記フルオレン含有ポリエステル系樹脂を前記解重合剤とともに溶融混練し、前記フルオレン含有ポリエステル系樹脂を解重合(又は解重合反応)させて製造してもよい。
【0056】
解重合反応は、逐次反応であり、反応条件、解重合剤の種類や割合に応じて、所望の分子量及び末端基を有するオリゴマーを形成できる。前記解重合剤の割合は、使用する解重合剤の種類に応じて適宜選択でき、例えば、前記フルオレン含有ポリエステル系樹脂100重量部に対し、1〜30重量部、好ましくは1.2〜28重量部、さらに好ましくは1.5〜25重量部、特に1.8〜20重量部(例えば、2〜20重量部)程度であってもよい。
【0057】
なお、解重合反応は、溶剤の存在下で行ってもよい。例えば、前記フルオレン含有ポリエステル系樹脂と解重合剤と溶剤(前記フルオレン含有ポリエステル系樹脂及び解重合剤を溶解(又は混和)可能な溶剤)とを混合(又は混練)して反応させてもよく、例えば、前記フルオレン含有ポリエステル系樹脂を溶剤に溶解して樹脂溶液を調製し、前記樹脂溶液に解重合剤を添加して混合(又は混練、撹拌)して反応させてもよい。しかし、操作性、コスト面、環境面などの点から、前記解重合反応は、溶剤の非存在下で行うのが好ましい。
【0058】
解重合反応は、大気中で行ってもよいが、通常、不活性ガス(窒素、ヘリウム、アルゴンなど)雰囲気中、脱気雰囲気中で行う場合が多い。また、解重合反応は、常圧下で行ってもよく、減圧下又は加圧下で行うこともできる。さらに、解重合反応は、例えば、200〜300℃、好ましくは220〜290℃、さらに好ましくは230〜280℃程度の温度下で行うことができる。
【0059】
反応時間は、前記オリゴマーの所望の重合度、反応条件などに応じて適宜選択でき、例えば、1〜90分程度から選択でき、1〜80分、好ましくは3〜75分、さらに好ましくは5〜70分程度であってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明のフルオレン系ポリエステルオリゴマーは、光学特性に優れるとともに、流動性及び各種樹脂に対する親和性(又は相溶性)にも優れるため、種々の光学用材料として有用である。例えば、前記フルオレン系ポリエステルオリゴマーは、種々の光学特性を付与(又は改善)できる光学用添加剤(又は光学用改質剤)として有用である。前記フルオレン系ポリエステルオリゴマーを各種樹脂に添加すると、前記樹脂の操作性を高めることができるとともに、前記樹脂に優れた光学特性(低複屈折、高屈折率など)を付与できる。例えば、前記フルオレン系ポリエステルオリゴマーは、各種樹脂の複屈折の増大を抑制するための複屈折率改善剤として用いてもよい。なお、前記フルオレン系ポリエステルオリゴマーは、各種樹脂に適用(又は添加)し、前記樹脂の結晶核剤などとして利用することもできる。
【0061】
なお、前記フルオレン系ポリエステルオリゴマーと併用可能な樹脂としては、例えば、フェノール樹脂、フラン樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ウレタン系樹脂、シリコーン樹脂、ポリイミド系樹脂などの熱硬化性樹脂(又は光硬化性樹脂);オレフィン系樹脂、スチレン系樹脂、塩化ビニル系樹脂、酢酸ビニル系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、ポリエステル系樹脂(芳香族ポリエステル系樹脂も含む)、熱可塑性アクリル系樹脂、ポリアセタール系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、フッ素系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリスルホン系樹脂(ポリスルホン樹脂ポリエーテルスルホン系樹脂など)、ポリフェニレンエーテル系樹脂、ポリフェニレンスルフィド系樹脂などの熱可塑性樹脂などが挙げられる。前記樹脂の割合は、種類に応じて適宜選択でき、例えば、フルオレン系ポリエステルオリゴマー100重量部に対し、1〜1000重量部、好ましくは3〜700重量部、さらに好ましくは5〜500重量部程度であってもよい。
【0062】
さらに、前記フルオレン系ポリエステルオリゴマーは、酸価又は水酸基価が高く、末端基の種類が制御(又は調整)されており、反応性にも優れているため、接着剤(又は接着剤原料)として有用である。前記フルオレン系ポリエステルオリゴマーは、前記の通り、流動性及び各種樹脂との親和性にも優れているため、種々の樹脂で構成されている被着体に対して適用でき、かつ接着性に優れる。前記接着剤は、例えば、化学反応型接着剤、溶剤揮散型接着剤、熱溶融型接着剤、感圧型接着剤などであってもよいが、反応性、接着性(又は硬化性)の点から、特に、化学反応型接着剤、溶剤揮散型接着剤などとして有用である。なお、前記フルオレン系ポリエステルオリゴマーを化学反応型接着剤として用いる場合、熱、光、水分などにより硬化させる一液型接着剤であってもよく、硬化剤を添加(又は混合)して硬化させる二液型接着剤(又はその主剤)であってもよい。前記フルオレン系ポリエステルオリゴマーを二液型接着剤として用いる場合、前記オリゴマー自体を主剤として用いてもよく、前記オリゴマーを主剤原料として用い、前記オリゴマーの反応性基と反応可能な化合物を反応させて主剤を形成してもよい。
【0063】
詳細には、例えば、前記主剤原料として、高い水酸基価(例えば、50〜400mgKOH/g程度)のフルオレン系ポリエステルオリゴマーを用い、カルボキシル基(又は前記誘導体形成性基)、イソシアナート基、グリシジル基などを有する化合物と反応させて主剤又は接着剤(例えば、ポリエステル系接着剤、ウレタン系接着剤、エポキシ系接着剤、末端が(メタ)アクリロイル化された反応型アクリル系接着剤など)を形成してもよい。また、前記主剤原料として、高い酸価(例えば、30〜100mgKOH/g程度)のフルオレン系ポリエステルオリゴマーを用い、ヒドロキシル基、アミノ基、イソシアナート基などを有する化合物と反応させて主剤又は接着剤(例えば、ポリエステル系接着剤、ポリアミド系接着剤、ウレタン系接着剤など)を形成してもよい。なお、前記フルオレン系ポリエステルオリゴマーは、フルオレン骨格を有しており、各種光学特性に優れるため、光学用途における接着(例えば、光学部材(又は部品)の接着など)に用いる接着剤(又は光学接着剤)としても有用である。
【0064】
また、前記フルオレン系ポリエステルオリゴマーは、粒子状及び/又は繊維状充填剤(又は補強剤)を効率よく分散させることができるため、前記充填剤を含有する組成物の形態で使用してもよい。前記充填剤は、慣用の充填剤であってもよく、例えば、導電性を備えた前記充填剤(又は導電剤)[例えば、金、銀、白金、アルミニウムなどの金属単体又はこれらの合金、金属炭化物及び金属酸化物などの金属粒子;グラファイト、導電性カーボンブラックなどの炭素粒子、磁性体(例えば、フェライトなど)などの導電性粒子;炭素繊維(例えば、カーボンナノチューブなど)などの導電性繊維など]であってもよい。例えば、導電剤(例えば、カーボンナノチューブなどの導電性繊維など)を用いて形成された組成物(又は導電性組成物)を成形することにより、成形体(例えば、導電フィルムなどの導電体など)を得てもよい。例えば、前記導電剤の割合は、前記フルオレン系ポリエステルオリゴマー100重量部に対し、1〜200重量部、好ましくは3〜150重量部、さらに好ましくは5〜120重量部程度であってもよい。
【0065】
なお、前記フルオレン系ポリエステルオリゴマーを担体とし、前記充填剤を分散させて、マスターバッチを形成し、前記例示の各種樹脂などと組み合わせて使用してもよい。
【実施例】
【0066】
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。なお、実施例及び比較例における各評価方法及び成分の略号は以下の通りである。
【0067】
[評価方法]
(平均分子量)
数平均分子量及び重量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)[JASCO社製、「Intelligent HPLC」]を用い測定した。測定は、テトラヒドロフランを溶離液とし、カラム温度40℃、流速1.0ml/分の条件で行い、ポリスチレン換算の測定値を得た。なお、カラムは、Shodex製、「KF−804L」を2本直列に連結させた。
【0068】
(水酸基価)
水酸基価は、JIS K 1557に準拠して測定した。なお、測定は、フルオレン含有ポリエステル系樹脂と解重合剤との反応混合物を、煮沸水中で4時間撹拌したサンプルに対して行った。
【0069】
[成分の略号]
FBP1:フルオレン含有ポリエステル系樹脂[大阪ガスケミカル(株)製、前記式(3a)で表される単位と下記式(4a)で表される単位とを有するブロック共重合体(式(3a)において、h1及びh2が0であり、式(3a)で表される単位/式(4a)で表される単位(単位数比)=70/30である共重合体、重量平均分子量:34,685)]
FBP2:フルオレン含有ポリエステル系樹脂[大阪ガスケミカル(株)製、前記式(3b)で表される単位と下記式(4b)で表される単位とを有するブロック共重合体(式(3b)において、h1及びh2が0であり、式(3b)で表される単位/式(4b)で表される単位(単位数比)=80/20である共重合体、重量平均分子量:33,850)]
CNT:カーボンナノチューブ(シンセン・ナノテクポート社製カーボンナノチューブ、径10〜20nm)。
【0070】
(実施例1)
フルオレン含有ポリエステル系樹脂(FBP1)100重量部を温度280℃に設定したラボプラストミル((株)トーシン製、「TDR100−500 X3型」)に投入し、アルゴンガス気流下にて融解させた後、トリメチロールプロパン13重量部を添加した。5分間溶融混練を行うことにより、フルオレン系ポリエステルオリゴマーを得た。前記フルオレン系ポリエステルオリゴマーの重量平均分子量は15000であり、水酸基価は22.4mgKOH/gであった。
【0071】
(実施例2〜4)
溶融混練を行う時間を、それぞれ7.5分、10分、20分とする以外は実施例1と同様にフルオレン系ポリエステルオリゴマーを得、重量平均分子量及び水酸基価を測定した。
【0072】
(比較例1)
フルオレン含有ポリエステル系樹脂(FBP1)をトリメチロールプロパンと反応させることなく、重量平均分子量及び水酸基価を測定した。
【0073】
実施例1〜4及び比較例1の結果を表1に示す。また、溶融混練時間と、得られるフルオレン系ポリエステルオリゴマーの重量平均分子量との関係を図1に示す。
【0074】
【表1】

【0075】
表1から明らかなように、実施例のフルオレン系ポリエステルオリゴマーは、比較例に比べて水酸基価が非常に大きくなり、ヒドロキシル基が有効に導入され、反応性が向上された。また、混練時間を制御することによって任意の分子量を有するフルオレン系ポリエステルオリゴマーを製造することができた。
【0076】
(実施例5〜7)
トリメチロールプロパンを13重量部の代わりに、3.3重量部使用し、溶融混練時間をそれぞれ10分、20分、30分とする以外は実施例1と同様にフルオレン系ポリエステルオリゴマーを得、重量平均分子量、数平均分子量及び水酸基価を測定した。
【0077】
結果を表2に示す。
【0078】
【表2】

【0079】
(実施例8〜11及び比較例2)
フルオレン含有ポリエステル系樹脂(FBP1)の代わりにFBP2を使用し、溶融混練時間をそれぞれ10分、20分、30分、60分とする以外は実施例1と同様にフルオレン系ポリエステルオリゴマーを得、重量平均分子量、数平均分子量及び水酸基価を測定した。なお、比較例2では、FBP2をトリメチロールプロパンと反応させることなく、重量平均分子量、数平均分子量及び水酸基価を測定した。
【0080】
結果を表3に示す。
【0081】
【表3】

【0082】
表3から明らかなように、実施例のフルオレン系ポリエステルオリゴマーは、比較例に比べて水酸基価が非常に大きくなり、ヒドロキシル基が有効に導入され、反応性が向上された。また、混練時間を制御することによって任意の分子量を有するフルオレン系ポリエステルオリゴマーを製造することができた。
【0083】
(実施例12及び13)
トリメチロールプロパンの代わりに、シクロヘキサンジカルボン酸を13重量部使用し、溶融混練時間をそれぞれ10分、20分とする以外は、実施例8と同様にフルオレン系ポリエステルオリゴマーを得、重量平均分子量及び数平均分子量を測定した。
【0084】
結果を表4に示す。
【0085】
【表4】

【0086】
表4から明らかなように、実施例のフルオレン系ポリエステルオリゴマーは、解重合剤により低分子量化された。また、混練時間を制御することによって任意の分子量を有するフルオレン系ポリエステルオリゴマーを製造することができた。
【0087】
(実施例14及び比較例3〜4)
市販のポリエチレンテレフタレート系樹脂(東洋紡製、「PET−MAX」)100重量部と実施例3で得られたフルオレン系ポリエステルオリゴマー25重量部とをラボプラストミル((株)トーシン製、「TDR100−500 X3型」)を用いて、280℃で10分間の溶融混錬を行った。混練後、ホットプレス((株)テクノサプライ製)を用いて260℃、20MPaで成形し、厚み0.2mmのフィルムを作成した。得られたフィルムを示差走査熱量(DSC)測定した。なお、比較例3では、フルオレン系ポリエステルオリゴマーの代わりにFBP1を用い、比較例4では、市販のポリエチレンテレフタレート系樹脂(東洋紡製、「PET−MAX」)のみを用いる以外は実施例14と同様にフィルムを作成し、得られたフィルムを示差走査熱量(DSC)測定した。結果を表5に示す。なお、表中、Tgはガラス転移温度を、Tcは結晶化温度を、Tmは融解温度を、ΔHcは結晶化エンタルピーを、ΔHmは融解エンタルピーを、ΔHm(PET)はΔHmをポリエチレンテレフタレート系樹脂成分の熱量に換算した値を示す。
【0088】
次いで、実施例14及び比較例3で得られたフィルムの断面を走査型電子顕微鏡(SEM)により観察した。顕微鏡写真を図2(実施例14)及び図3(比較例3)に示す。
【0089】
【表5】

【0090】
表5から明らかなように、比較例3では、189.6℃で、比較例4では、195℃で結晶化が始まるのに対し、実施例14では、210.8℃で結晶化が始まった。実施例14のように、本発明のフルオレン系ポリエステルオリゴマーを含有するポリエチレンテレフタレート系樹脂では、結晶化が促進されており、本発明のフルオレン系ポリエステルオリゴマーは、結晶核剤としての有用性が示された。また、図2及び図3から明らかなように、実施例14では、ポリエチレンテレフタレート系樹脂に対する相溶性が改善された。
【0091】
(実施例15〜17)
実施例1で得られたフルオレン系ポリエステルオリゴマーをクロロホルムに溶解し、30重量%のオリゴマー溶液を調製した。また、カーボンナノチューブ(CNT)をクロロホルムに溶解し、1重量%のCNT溶液を調製した。前記オリゴマー溶液及び前記CNT溶液を混合し、CNTの含有量が、フルオレン系ポリエステルオリゴマーに対し、それぞれ10重量%、30重量%、50重量%となるように調整した。得られた混合溶液からクロロホルムを除去し、薄膜フィルムに成形した。得られたフィルムの導電性(抵抗値)をCustom デジタルマルチメーター CDM−11D((株)カスタム製)を用いて測定した。また、実施例15では、フィルム表面を走査型電子顕微鏡(SEM)により観察した。実施例15のフィルム表面の電子顕微鏡写真を図4に示す。
【0092】
(実施例18〜20)
実施例1で得られたフルオレン系ポリエステルオリゴマーの代わりに、実施例3で得られたフルオレン系ポリエステルオリゴマーを用いる以外は実施例15〜17と同様に薄膜フィルムを形成し、得られたフィルムの導電性(抵抗値)を測定した。
【0093】
(比較例5〜7)
実施例1で得られたフルオレン系ポリエステルオリゴマーの代わりに、FBP1を用いる以外は実施例15〜17と同様に薄膜フィルムを形成し、得られたフィルムの導電性(抵抗値)を測定した。また、比較例5では、フィルム表面を走査型電子顕微鏡(SEM)により観察した。比較例5のフィルム表面の電子顕微鏡写真を図5に示す。
【0094】
実施例15〜20及び比較例5〜7の結果を図6に示す。図6から明らかなように、実施例のフィルムでは、体積比抵抗値が低減され、導電性が改善されていた。また、図4及び図5から明らかなように、図5(比較例5)において、CNTの周囲に観察されるボイドが、図4(実施例15)では観察されなかった。これらの結果から、低分子量化されたフルオレン系ポリエステルオリゴマーは、CNTの分散性が格段に向上されていることがわかった。
【0095】
(実施例21)
実施例3で得られたフルオレン系ポリエステルオリゴマー5重量部をジメチルホルムアミド(アルドリッチ製、DMF)5重量部に溶解してオリゴマー溶液を調製し、前記オリゴマー溶液にイソホロンジイソシアネート(IPDI)1.4重量部を添加し、窒素下で十分に混合した。この混合溶液をガラス板1上に滴下し、100℃でDMFを蒸発させて除去し、120℃で2時間、加熱し硬化させた。得られた硬化物2は、図7に示すように、無色透明で硬度のあるガラス状のものであった。前記硬化物2の表面の赤外吸収スペクトルを測定したところ、イソシアネート基(NCO)の特性吸収波長(2255nm)での吸光度(ABSNCO)と、ポリエステルに含まれるカルボニル基(CO)の特性吸収波長(1717nm)での吸光度(ABSCO)との比率(ABSNCO/ABSCO)が0.396であった。実施例3で得られたフルオレン系ポリエステルオリゴマーは反応性が高く、添加したイソホロンジイソシアネートの大部分のイソシアネート基が反応していることがわかった。
【図面の簡単な説明】
【0096】
【図1】図1は実施例1〜4及び比較例1における溶融混練時間と、得られるフルオレン系ポリエステルオリゴマーの重量平均分子量との関係を示す。
【図2】図2は実施例14で得られたフィルム断面の走査型電子顕微鏡写真(1500倍)を示す。表中のスケールバーは20μmを示す。
【図3】図3は比較例3で得られたフィルム断面の走査型電子顕微鏡写真(1500倍)を示す。表中のスケールバーは20μmを示す。
【図4】図4は実施例15で得られたフィルム表面の走査型電子顕微鏡写真(20000倍)を示す。表中のスケールバーは2μmを示す。
【図5】図5は比較例5で得られたフィルム表面の走査型電子顕微鏡写真(20000倍)を示す。表中のスケールバーは2μmを示す。
【図6】図6は実施例15〜20及び比較例5〜7におけるCNT含有量と体積比抵抗値との関係を示す。
【図7】図7は実施例21で得られた硬化物の模式図を示す。
【符号の説明】
【0097】
1…ガラス板
2…硬化物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
9,9−ビス(ヒドロキシアリール)フルオレン骨格を含有するフルオレン含有ポリエステル系樹脂を解重合剤で解重合したフルオレン系ポリエステルオリゴマー。
【請求項2】
重量平均分子量が5000〜30000である請求項1記載のフルオレン系ポリエステルオリゴマー。
【請求項3】
酸価が0〜100mgKOH/gであるか、又は水酸基価が5〜400mgKOH/gである請求項1又は2記載のフルオレン系ポリエステルオリゴマー。
【請求項4】
フルオレン含有ポリエステル系樹脂が、少なくとも下記式(1)
【化1】

(式中、Z及びZは同一又は異なって芳香族炭化水素基を示す。R1a及びR1bは同一又は異なってアルキレン基を示し、R2a及びR2bは同一又は異なって、炭化水素基、アルコキシ基、シクロアルコキシ基、アリールオキシ基、アラルキルオキシ基、アシル基、アルコキシカルボニル基、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基又は置換アミノ基を示し、R3a及びR3bは同一又は異なって炭化水素基、アルコキシ基、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基又は置換アミノ基を示し、m及びnは同一又は異なって0又は1以上の整数である。h1及びh2は同一又は異なって0〜4の整数であり、j1及びj2は同一又は異なって0〜4の整数である)
で表されるジオール成分と、ジカルボン酸成分とを重合成分とする樹脂である請求項1〜3のいずれかに記載のフルオレン系ポリエステルオリゴマー。
【請求項5】
解重合剤が、1分子中に2個以上のヒドロキシル基を含み、水酸基価が30〜400mgKOH/gである請求項1〜4のいずれかに記載のフルオレン系ポリエステルオリゴマー。
【請求項6】
解重合剤が、1分子中に3個以上のヒドロキシル基を含み、水酸基価が50〜400mgKOH/gである請求項1〜5のいずれかに記載のフルオレン系ポリエステルオリゴマー。
【請求項7】
光学用材料として用いられる請求項1〜6のいずれかに記載のフルオレン系ポリエステルオリゴマー。
【請求項8】
解重合剤の存在下、9,9−ビスアリールフルオレン骨格を含有するフルオレン含有ポリエステル系樹脂を溶融混練して解重合する請求項1〜7のいずれかに記載のフルオレン系ポリエステルオリゴマーを製造する方法。
【請求項9】
解重合剤が、ヒドロキシル基及びカルボキシル基から選択された少なくとも一種の官能基を1分子中に2個以上有する化合物である請求項8記載の製造方法。
【請求項10】
解重合剤が、3官能以上のポリオール類及び3官能以上のポリカルボン酸類から選択された少なくとも一種である請求項8又は9記載の製造方法。
【請求項11】
解重合剤を、フルオレン含有ポリエステル系樹脂100重量部に対し、1〜30重量部の割合で用いる請求項8〜10のいずれかに記載の製造方法。
【請求項12】
請求項1〜7のいずれかに記載のフルオレン系ポリエステルオリゴマーと、導電剤とを含有する導電性組成物。

【図1】
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【図6】
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【図7】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−173844(P2009−173844A)
【公開日】平成21年8月6日(2009.8.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−16720(P2008−16720)
【出願日】平成20年1月28日(2008.1.28)
【出願人】(000000284)大阪瓦斯株式会社 (2,453)
【Fターム(参考)】