説明

フルオロポリエーテル酸または塩およびシロキサン界面活性剤を含む重合剤を用いるフッ素化モノマーの水性重合

少なくとも1種のフッ素化モノマーを、開始剤および重合剤の存在下で、水性重合媒体中に重合して、少なくとも約10質量%のフルオロポリマー固形分を有するフルオロポリマーの粒子の水性分散体を形成する方法を提供する。重合剤は、フルオロポリエーテル酸またはその塩およびシロキサン界面活性剤の組み合わせである。水性重合媒体は、約300ppm未満のパーフルオロアルカンカルボン酸または塩フッ素系界面活性剤を含有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水性重合媒体中でのフッ素化モノマーの分散重合方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フッ素化モノマーの典型的な水性分散重合法は、フッ素系界面活性剤および脱イオン水を含有する加熱された反応器へのフッ素化モノマーの供給を含む。例えばポリテトラフルオロエチレン(PTFE)ホモポリマーといったパラフィンワックスが、反応器において安定化剤として、いくつかの重合において利用されている。ラジカル開始剤溶液が利用され、重合が進行するに伴って、追加のフッ素化モノマーが添加されて圧力が維持される。例えば溶融加工性TFEコポリマーといった、いくつかのポリマーの重合に連鎖移動剤が溶融粘度の制御のために利用されている。数時間の後、供給が停止され、反応器がベントされると共に窒素でパージされ、容器中の粗分散体が冷却または保存容器に移される。
【0003】
フルオロポリマーコーティング用途における使用のために、ポリマー分散体は、典型的には分散体濃縮作業に移されて、金属、ガラスおよび織物用のコーティングとして用いられる安定化分散体が製造される。PTFE分散体の一定のグレードは、微粉末の製造のために形成される。この使用のために、分散体は凝固され、水性媒体が除去されると共に、PTFEが乾燥されて微粉末がもたらされる。成形用樹脂用途のための溶融加工性フルオロポリマーはまた、凝固されると共に乾燥され、次いで、その後の溶融加工作業における使用のために、フレーク、チップまたはペレットなどの簡便な形態に加工される。
【0004】
特許文献1(Punderson)に記載されているとおり、分散重合には、2つの一般に明確な期間またはフェーズがある。反応の初期の期間は、所与の数の重合部位または核が確立される核生成フェーズである。続いて、新たな粒子の形成をほとんどまたは全く伴わない確立された粒子へのフッ素化モノマーの重合が生じる成長フェーズが開始される。高固形分フルオロポリマー分散体の良好な製造は、一般に、フルオロポリマー粒子の凝塊を防止して分散体を安定化させるために、特に、重合の後期の成長フェーズにおいてフッ素系界面活性剤の存在が必要とされる。
【0005】
重合において用いられるフッ素系界面活性剤は、通常はアニオン性、非テロゲン性、水溶性および反応条件に対して安定である。最も広範に用いられているフッ素系界面活性剤は、特許文献2(Berry)に開示されているとおりパーフルオロアルカンカルボン酸および塩である。パーフルオロアルカンカルボン酸および塩に関する最近の環境問題により、フルオロポリマー重合法におけるパーフルオロアルカンカルボン酸界面活性剤の低減または排除に関心がもたれている。
【0006】
パーフルオロエーテルカルボン酸および塩が、特許文献3(Garrison)および特許文献1(Punderson)において、フッ素化モノマーの水性重合における使用のために開示されている。特許文献4(Gianettiら)は、水性マイクロエマルジョンの形態での、中性末端基を有するパーフルオロポリエーテル、パーフルオロポリエーテル油の存在下でのフッ素化モノマーの重合を開示する。水性マイクロエマルジョンは、カルボン酸末端基またはカチオン性末端基を有するパーフルオロポリエーテルを用いて調製されることが可能である。特許文献5(Morganら)においては、フッ素化モノマーの水性分散重合は、その1種がパーフルオロポリエーテルカルボン酸あるいはスルホン酸またはいずれかの塩であるフッ素系界面活性剤の組み合わせを用いることにより向上されている。
【0007】
特許文献6において、Willeらは、パーフルオロアルカンカルボン酸界面活性剤を低減しまたは排除する試みにおいて、フッ素化モノマーの水性重合におけるシロキサン界面活性剤の使用を提案している。しかしながら、Willeらは、発明を、フッ化ビニリデンのホモポリマーおよびコポリマーについてのみ実施例において実証している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】米国特許第3,391,099号明細書
【特許文献2】米国特許第2,559,752号明細書
【特許文献3】米国特許第3,271,341号明細書
【特許文献4】米国特許第4,864,006号明細書
【特許文献5】米国特許第6,395,848号明細書
【特許文献6】米国特許第6,841,616号明細書
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0009】
フルオロポリエーテル酸または塩および炭化水素系界面活性剤を含む重合剤が、フルオロポリマーの製造における使用に効果的な重合剤を提供することが発見された。本発明の方法は、限られた量の重合剤を用いる場合であっても、パーフルオロアルカンカルボン酸界面活性剤を用いることなく、良好な固形分、低量の未分散ポリマーで水性フルオロポリマー分散体を予想外にももたらす。
【0010】
本発明は、少なくとも1種のフッ素化モノマーを、開始剤、ならびに、フルオロポリエーテル酸またはその塩およびシロキサン界面活性剤を含む重合剤の存在下で水性媒体中に重合して、少なくとも約10質量%のフルオロポリマー固形分を有するフルオロポリマーの粒子の水性分散体を形成する方法を提供する。この水性重合媒体は、約300ppm未満のパーフルオロアルカンカルボン酸または塩フッ素系界面活性剤を含有する。
【0011】
本方法は、重量当たりで多量のフルオロポリエーテル酸またはその塩および重量当たりで少量のシロキサン界面活性剤を含む重合剤を含むことが好ましい。好ましい実施形態において、フルオロポリエーテル酸またはその塩はパーフルオロエーテル酸またはその塩であり、酸基は、カルボン酸、スルホン酸およびホスホン酸から選択され、ならびにフルオロポリエーテル酸またはその塩の数平均分子量は約800〜約3500g/mol、より好ましくは約1000〜約2500である。
【0012】
本発明の好ましい一実施形態においては、重合剤の実質的にすべてが、重合、例えば反応器への重合剤の一回の添加に先立って、水性重合媒体に添加される。本発明の他の好ましい実施形態においては、水性重合媒体は、パーフルオロポリエーテル油を実質的に含まない。
【発明を実施するための形態】
【0013】
フルオロポリマー
本発明により形成されるフルオロポリマー分散体は少なくとも1種のフッ素化モノマーから形成されるフルオロポリマーの粒子から構成され、すなわち、ここで、モノマーの少なくとも1種はフッ素を含有し、二重結合している炭素に結合する少なくとも1つのフッ素またはパーフルオロアルキル基を有するオレフィンモノマーが好ましい。フルオロポリマーは、1種のフッ素化モノマーのホモポリマーまたは、その少なくとも一方がフッ素化されている2種以上のモノマーのコポリマーであることが可能である。本発明の方法において用いられるフッ素化モノマーは、好ましくは、独立して、テトラフルオロエチレン(TFE)、ヘキサフルオロプロピレン(HFP)、クロロトリフルオロエチレン(CTFE)、トリフルオロエチレン、ヘキサフルオロイソブチレン、パーフルオロアルキルエチレン、フルオロビニルエーテル、フッ化ビニル(VF)、フッ化ビニリデン(VF2)、パーフルオロ−2,2−ジメチル−1,3−ジオキソール(PDD)およびパーフルオロ−2−メチレン−4−メチル−1,3−ジオキソラン(PMD)からなる群から選択される。好ましいパーフルオロアルキルエチレンモノマーはパーフルオロブチルエチレン(PFBE)である。好ましいフルオロビニルエーテルとしては、パーフルオロ(プロピルビニルエーテル)(PPVE)、パーフルオロ(エチルビニルエーテル)(PEVE)、およびパーフルオロ(メチルビニルエーテル)(PMVE)などのパーフルオロ(アルキルビニルエーテル)モノマー(PAVE)が挙げられる。エチレンおよびプロピレンなどの非フッ素化オレフィンコモノマーをフッ素化モノマーと共重合することが可能である。
【0014】
フルオロビニルエーテルとしてはまた、フルオロポリマーに官能基を導入するために有用なものが挙げられる。これらとしては、CF=CF−(O−CFCFR−O−CFCFR’SOFが挙げられ、式中、RおよびR’はF、Clまたは1〜10個の炭素原子を有する過フッ素化アルキル基から独立して選択され、a=0、1または2である。このタイプのポリマーは、米国特許第3,282,875号明細書(CF=CF−O−CFCF(CF)−O−CFCFSOF、パーフルオロ(3,6−ジオキサ−4−メチル−7−オクタンフッ化スルホニル))、および米国特許第4,358,545号明細書および米国特許第4,940,525号明細書(CF=CF−O−CFCFSOF)に開示されている。他の例は、米国特許第4,552,631号明細書に開示されている、CF=CF−O−CF−CF(CF)−O−CFCFCOCH、パーフルオロ(4,7−ジオキサ−5−メチル−8−ノネンカルボン酸)のメチルエステルである。ニトリル、ヒドロキシル、シアネート、カルバメートおよびホスホン酸の官能基を有する類似のフルオロビニルエーテルが、米国特許第5,637,748号明細書;米国特許第6,300,445号明細書;および米国特許第6,177,196号明細書に開示されている。
【0015】
本発明は、溶融加工性フルオロポリマーの分散体を製造する場合に特に有用である。溶融加工性とは、ポリマーは溶融状態から加工されることが可能である(すなわち、溶融物から、意図される目的のために有用であるよう十分な強度および靭性を示すフィルム、繊維およびチューブ等などの付形物品への加工が可能である)ことを意味する。このような溶融加工性フルオロポリマーの例としては、ポリクロロトリフルオロエチレンなどのホモポリマーまたは、テトラフルオロエチレン(TFE)と、コポリマーの融点を、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)といったTFEホモポリマーの融点よりも実質的に低く(例えば溶融温度315℃以下)するに十分な量で通常ポリマー中に存在する少なくとも1種のフッ素化共重合性モノマー(コモノマー)とのコポリマーが挙げられる。
【0016】
溶融加工性TFEコポリマーは、典型的には、ASTM D−1238に準拠して特定のコポリマーについて標準的な温度で計測されて、約1〜100g/10分のメルトフローレート(MFR)を有するコポリマーを提供するために、ある量のコモノマーをコポリマーに組み込んでいる。好ましくは、溶融粘度は、372℃で、米国特許第4,380,618号明細書に記載のとおり変更したASTM D−1238の方法により計測して、少なくとも約10Pa・sであり、より好ましくは、約10Pa・s〜約10Pa・s、最も好ましくは約10〜約10Pa・sの範囲であろう。追加の溶融加工性フルオロポリマーは、エチレンまたはプロピレンと、TFEまたはCTFE、特にETFE、ECTFEおよびPCTFEとのコポリマーである。
【0017】
本発明の実施における使用について好ましい溶融加工性コポリマーは、少なくとも約40〜98mol%テトラフルオロエチレン単位および約2〜60mol%の少なくとも1種の他のモノマーを含む。TFEとの好ましいコモノマーは、直鎖または分岐鎖アルキル基が1〜5個の炭素原子を含有する、ヘキサフルオロプロピレン(HFP)および/またはパーフルオロ(アルキルビニルエーテル)(PAVE)などの3〜8個の炭素原子を有するパーフルオロオレフィンである。好ましいPAVEモノマーはアルキル基が1、2、3または4個の炭素原子を含有するものであり、およびコポリマーは、数種のPAVEモノマーを用いて形成することが可能である。好ましいTFEコポリマーとしては、FEP(TFE/HFPコポリマー)、PFA(TFE/PAVEコポリマー)、TFE/HFP/PAVEが挙げられ、ここで、PAVEは、PEVEおよび/またはPPVE、MFA(TFE/PMVE/PAVEであって、PAVEのアルキル基は少なくとも2つの炭素原子を含有する)およびTHV(TFE/HFP/VF2)である。
【0018】
本発明はまた、変性PTFEを含むポリテトラフルオロエチレン(PTFE)の分散体を製造する場合に有用である。PTFEおよび変性PTFEは、典型的には、少なくとも1×10Pa・sの溶融クリープ粘度を有し、このように高い溶融粘度では、ポリマーは溶融状態においても大幅には流れず、従って、溶融加工性ポリマーではない。ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)とは、いかなるコモノマーの顕著な存在も無しで、単独で重合されたテトラフルオロエチレンを指す。変性PTFEとは、得られるポリマーの融点がPTFEの融点よりも実質的に低減されないほどに低い濃度のコモノマーを有するTFEのコポリマーを指す。このようなコモノマーの濃度は、好ましくは1質量%未満、より好ましくは0.5質量%未満である。少なくとも約0.05質量%の最低量が、顕著な効果を得るために好ましく用いられる。少量のコモノマー変性剤を含有する変性PTFEは、焼成(融合)の最中の向上したフィルム形成能を有する。好適なコモノマーとしては、パーフルオロオレフィン、特にヘキサフルオロプロピレン(HFP)またはパーフルオロ(アルキルビニルエーテル)(PAVE)が挙げられ、ここで、アルキル基は1〜5個の炭素原子を含有し、パーフルオロ(エチルビニルエーテル)(PEVE)およびパーフルオロ(プロピルビニルエーテル)(PPVE)が好ましい。クロロトリフルオロエチレン(CTFE)、パーフルオロブチルエチレン(PFBE)、または嵩高い側基を分子に導入する他のモノマーもまた用いられ得る。
【0019】
さらに有用なポリマーは、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)およびフッ化ビニリデンのコポリマー、ならびにポリフッ化ビニル(PVF)およびフッ化ビニルのコポリマーのフィルム形成性ポリマーである。
【0020】
フルオロポリエーテル酸または塩
本発明の実施において用いられる重合剤の組み合わせ物の一構成成分は、フルオロポリエーテル酸またはその塩である。好ましくは、フルオロポリエーテルはパーフルオロポリエーテル酸またはその塩である。フルオロポリエーテル酸またはその塩の酸基は、好ましくは、カルボン酸、スルホン酸、ホスホン酸から選択される酸基である。好ましい実施形態において、フルオロポリエーテル酸またはその塩の酸基はカルボン酸である。好ましくは、フルオロポリエーテル酸が塩として利用され、最も好ましくは、アンモニウム塩が利用される。
【0021】
本発明による使用のための好ましいパーフルオロポリエーテル(PFPE)酸またはその塩は、分子の主鎖中の酸素原子が、1〜3個の炭素原子を有する飽和フルオロカーボン基により分離されているいずれかの鎖構造を有することが可能である。2種以上のタイプのフルオロカーボン基が分子中に存在し得る。代表的な構造は、繰り返し単位
(−CFCF−CF−O−) (I)
(−CF−CF−CF−O−) (II)
(−CF−CF−O−)−(−CF−O−) (III)
(−CF−CFCF−O−)−(−CF−O−) (IV)
を有する。
【0022】
これらの構造は、J.Appl.Polymer Sci.、57、797(1995年)においてKasaiにより検討されている。ここに開示されているとおり、このようなPFPEは、一端または両端に、カルボン酸基またはその塩を有することが可能である。同様に、このようなPFPEは、一端または両端に、スルホン酸またはホスホン酸基またはその塩を有し得る。加えて、両端に酸官能基を有するPFPEは、異なる基を各端部に有し得る。単官能性PFPEについて、分子の他端は通常は過フッ素化されているが、水素または塩素原子を含有していてもよい。本発明における使用のための一端または両端に酸基を有するPFPEは、少なくとも2つのエーテル酸素、好ましくは少なくとも4つのエーテル酸素、およびさらにより好ましくは少なくとも6つのエーテル酸素を有する。好ましくは、エーテル酸素を分離するフルオロカーボン基の少なくとも1つ、より好ましくはこのようなフルオロカーボン基の少なくとも2つは、2または3個の炭素原子を有する。さらにより好ましくは、エーテル酸素を分離するフルオロカーボン基の少なくとも50%が2または3個の炭素原子を有する。また、好ましくは、PFPEは合計で少なくとも9個の炭素原子を有し、例えば、上記の繰り返し単位構造中のnまたはn+mの最小値は、少なくとも3である。酸基を一端または両端に有する2種以上のPFPEを、本発明による方法において用いることが可能である。典型的には、単一種の特定のPFPE化合物の製造において特別な注意が払われない限り、PFPEは、平均分子量に対する分子量範囲内の様々な割合で複数種の化合物を含有し得る。
【0023】
フルオロポリエーテル酸またはその塩は、本発明による方法において、重合剤として、シロキサン界面活性剤との組み合わせで機能することができる平均分子量を有する。フルオロポリエーテル酸または塩の数平均分子量は、好ましくは、約500g/mol超であるが、きわめて高い分子量を有するフルオロポリエーテル酸または塩は一般に水性重合媒体中への溶解/分散が困難であるため約6000g/mol未満である。より好ましくは、本発明により利用されるフルオロポリエーテル酸またはその塩は、約800〜約3500g/molの数平均分子量、より好ましくは約1000〜約2500および最も好ましくは約1200〜約2000を有する。
【0024】
シロキサン界面活性剤
本発明の方法において用いられる重合剤配合物他の構成成分はシロキサン界面活性剤である。シロキサン界面活性剤およびポリジメチルシロキサン(PDMS)界面活性剤が、特に、「Silicone Surfactants」、R.M.Hill,Marcel Dekker,Inc.、ISBN:0−8247−00104に記載されている。シロキサン界面活性剤の構造は、明確な疎水性および親水性部分を含む。疎水性部分は、以下の1つまたは複数のジヒドロカルビルシロキサン単位を含む。
【化1】

【0025】
界面活性剤の親水性部分は、サルフェート、スルホネート、ホスホネート、リン酸エステル、カルボキシレート、カーボネート、スルホサクシネート、タウレート(遊離酸、塩またはエステルとして)、ホスフィンオキシド、ベタイン、ベタインコポリオール、または第4級アンモニウム塩などのイオン基を含む1つまたは複数の極性部分を含み得る。イオン性親水性部分はまた、高分子電解質を含むイオン官能基化シロキサングラフトを含み得る。このような基を含有するシロキサン界面活性剤としては、例えば、ポリジメチルシロキサン−グラフト−(メタ)アクリル酸塩、ポリジメチルシロキサン−グラフト−ポリアクリレート塩およびポリジメチルシロキサングラフト化第4級アミンが挙げられる。
【0026】
シロキサン界面活性剤の親水性部分の極性部分は、ポリエチレンオキシド(PEO)、および混合ポリエチレンオキシド/ポリプロピレンオキシドポリエーテル(PEO/PPO)などのポリエーテル;単糖および二糖;ならびにピロリジノンなどの水溶性複素環により形成された非イオン基を含み得る。エチレンオキシド対プロピレンオキシド(EO/PO)の比は、混合ポリエチレンオキシド/ポリプロピレンオキシドポリエーテルで変更され得る。
【0027】
シロキサン界面活性剤の親水性部分はまた、イオン性およびノニオン性部分の組み合わせを含み得る。このような部分は、例えば、イオン末端−官能基化またはランダム官能基化ポリエーテルまたはポリオールを含む。ノニオン性部分を有するシロキサン、すなわち、ノニオン性シロキサン界面活性剤が本発明の実施に好ましい。
【0028】
シロキサン界面活性剤の構造の疎水性および親水性部分の配置は、ジブロックポリマー(AB)、トリブロックポリマー(ABA)の形態をとり得、ここで、「B」は、分子のシロキサン部分、または多重ブロックポリマーを表す。シロキサン界面活性剤は、代替的に、グラフトポリマーを含み得る。「グラフトポリマー」という用語は、ポリマー主鎖に側鎖として結合している高分子官能基の1つまたは複数の種を有する分子を含むポリマーを指し、ここで、側鎖またはグラフトは、ポリマー主鎖の特徴とは異なる構造的または官能的特徴を有する。高分子官能基のポリマー主鎖への各グラフトは「側基」である。グラフトの構造は直鎖、分岐または環状であり得る。
【0029】
本発明の実施において有用なグラフトポリマーは、1つまたは複数の親水性グラフトが結合しているジヒドロカルビルシロキサン単位の疎水性ポリマー主鎖を含み得る。ポリマー主鎖への多重グラフトを含む一つの構造は、「レーキ」タイプ構造(「くし型」とも呼ばれる)である。レーキ−タイプ構造は以下のABA構造と対比される。また、R.Hill、(上記)、第5〜6ページも参照のこと。
【化2】

【0030】
トリシロキサンが、レーキ−タイプ構造に関連する追加の構造タイプである。代表的なトリシロキサン構造が以下に示されている。
【化3】

【0031】
界面活性剤分子のシロキサン部分は、ジヒドロカルビルシロキサン単位に関しては、高分子またはオリゴマー系であり得る。界面活性剤分子のシロキサン部分は、直鎖、分岐または環状構造を含み得る。
【0032】
本発明の実施において有用なシロキサン界面活性剤の代表例が、米国特許第6,841,616号明細書の表1に列挙されている。
【0033】
方法
本発明の好ましい実施形態の実施において、本方法は、加圧された反応器において、バッチプロセスとして実施される。本発明の方法を実施するために好適な垂直型または水平型反応器は、望ましい反応速度および、利用される場合にはコモノマーの均一な組み込みのために、水性媒体にTFEなどの気相モノマーとの十分な接触をもたらすための攪拌機を備えている。反応器は、好ましくは、温度制御された熱交換媒体を循環させることにより反応温度が簡便に制御され得るよう、反応器を囲うジャケットを含む。
【0034】
典型的な方法において、この反応器には、先ず、脱イオンおよび脱気水が仕込まれ、これに、フルオロポリエーテル酸またはその塩およびシロキサン界面活性剤配合物が形成されるかまたは添加される。フルオロポリエーテル酸またはその塩およびシロキサン界面活性剤配合物の形成または添加は、本明細書中下記により詳細に検討されている。FEPまたはPFAなどのTFEコポリマーに対する好適な手法は、先ず、反応器をTFEで加圧する工程を含む。HFPまたはパーフルオロ(アルキルビニルエーテル)などのコモノマーの一部またはすべてが、次いで添加され、通常、エタンなどの連鎖移動剤がまた、分子量を低減させると共に、用途のために所望されるとおりコポリマーのメルトフローを増加させるために添加される。過硫酸アンモニウム溶液などのラジカル開始剤溶液が、次いで添加される。昇温され、一旦重合が開始したら、追加のTFEが添加されて圧力が維持される。重合の開始はキックオフ(kick−off)と称され、気体モノマー供給圧力の例えば約10psi(約70kPa)への実質的な低下が観察された時点として定義される。コモノマーおよび/または連鎖移動剤もまた重合が進行するに伴って添加されることが可能である。いくつかの重合については、追加の開始剤およびまたは重合剤は重合の最中に添加されてもよい。
【0035】
バッチ分散重合は、2つのフェーズでの処理として説明することが可能である。反応の初期の期間は、所与の数の粒子が確立される核生成フェーズと言うことが可能である。その後、新たな粒子の形成をほとんどまたは全く伴わない確立された粒子へのモノマーの重合が主な作用である成長フェーズが生じると言うことが可能である。重合の核生成から成長フェーズへの移行は滑らかに、典型的には、TFEの重合については約4〜約10固形分割合の間で生じる。
【0036】
バッチの完了(典型的には数時間)の後、所望量のポリマーまたは固形分が達成された場合、供給が停止され、反応器がベントされ、容器中の粗分散体は冷却または保存容器に移される。
【0037】
本発明の方法により製造されるフルオロポリマー分散体の固形分は少なくとも約10質量%である。好ましくは、フルオロポリマー固形分は少なくとも約20質量%である。この方法により製造されるフルオロポリマー固形分について好ましい範囲は、約20%〜約65質量%、より好ましくは約20%〜約55質量%である。
【0038】
本発明の好ましい方法において、重合工程は、製造されるフルオロポリマー総重量に基づいて、約10質量%未満、より好ましくは約3質量%未満、さらにより好ましくは約1質量%未満、最も好ましくは約0.5質量%未満の未分散フルオロポリマー(度々、当該技術分野において凝塊とも称される)を製造する。
【0039】
重合されたままの分散体は、典型的にはノニオン性界面活性剤で、公知の方法により安定化された濃縮分散体をもたらす分散体濃縮作業に移されることが可能である。濃縮分散体の固形分は典型的には約35〜約70質量%である。あるいは、成形用樹脂としての使用のために、分散体が凝固されると共に、水性媒体が除去される。フルオロポリマーは乾燥され、次いで、その後の溶融加工作業における使用のために、フレーク、チップまたはペレットなどの簡便な形態に加工される。
【0040】
ホモポリマーPTFEまたは変性PTFEの分散重合は、バッチの初期にコモノマーは全く添加されないかまたはきわめて少量のコモノマーが添加され、および/または重合の最中にコモノマーは全く導入されないかまたはきわめて少量のコモノマーが導入されること以外は、同様である。連鎖移動剤は用いられてもよいが、典型的には少量である。パラフィンワックスは、典型的には、重合の最中に安定化剤として利用される。同一の分散体濃縮作業を、安定化濃縮分散体を製造するために用いることが可能である。PTFE分散体の一定のグレードは、微粉末の製造のために形成される。この使用のために、分散体は凝固され、水性媒体が除去されると共に、PTFEが乾燥されて微粉末がもたらされる。
【0041】
開始剤
本発明による重合は、重合の条件下でラジカルを生成することができるフリーラジカル開始剤を利用する。当該技術分野において周知であるとおり、本発明による使用のための開始剤は、フルオロポリマーのタイプおよび所望される入手すべき特性、例えば、末端基タイプ、分子量等に基づいて選択される。溶融加工性TFEコポリマーなどのいくつかのフルオロポリマーについては、アニオン性末端基をポリマー中にもたらす無機過酸の水溶性塩が利用される。このタイプの好ましい開始剤は、比較的長い半減期を有し、好ましくは、例えば、過硫酸アンモニウムまたは過硫酸カリウムといった過硫酸塩である。過硫酸開始剤の半減期を短くするために、Feなどの金属触媒塩を伴うまたは伴わない、亜硫酸水素アンモニウムまたはメタ重亜硫酸ナトリウムなどの還元剤を用いることが可能である。好ましい過硫酸開始剤は、金属イオンを実質的に含まず、最も好ましくはアンモニウム塩である。
【0042】
分散体最終用途のためのPTFEまたは変性PTFE分散体の製造について、少量のコハク酸などの短鎖ジカルボン酸またはジコハク酸パーオキシド(DSP)などのコハク酸を生成する開始剤がまた、過硫酸塩などの比較的長い半減期の開始剤に追加して添加されることが好ましい。このような短鎖ジカルボン酸は、典型的には、未分散ポリマー(凝塊)の低減に有益である。微粉末の製造のためのPTFE分散体の製造については、過マンガン酸カリウム/シュウ酸などのレドックス開始剤系が度々用いられる。
【0043】
開始剤は、重合反応を開始させると共に、所望の反応速度で維持するために十分な量で水性重合媒体に添加される。開始剤の少なくとも一部が重合の開始時に添加される。重合を通した連続的なもの、または複数回の投与量によるもの、または重合の最中の所定時間での間隔によるものを含む多様な添加モードが用いられ得る。特に好ましい作業モードは、開始剤を反応器に事前に仕込むと共に、追加の開始剤を重合が進行するに伴って反応器に連続的に供給するものである。好ましくは、溶融加工性コポリマーのための重合過程の間に利用される過硫酸アンモニウムまたは過硫酸カリウムの総量は、水性媒体の重量に基づいて約25ppm〜約250ppmである。例えば過マンガン酸カリウム/シュウ酸開始剤といった他のタイプの開始剤を、一定量でおよび当該技術分野において公知である手法に準拠して利用することが可能である。
【0044】
連鎖移動剤
例えば溶融加工性TFEコポリマーといったいくつかのタイプのポリマーの重合のための本発明による方法において、溶融粘度を制御する目的のために分子量を低減させるために連鎖移動剤が用いられ得る。この目的のために有用な連鎖移動剤は、フッ素化モノマーの重合における使用について周知である。好ましい連鎖移動剤としては、1〜20個の炭素原子、より好ましくは1〜8個の炭素原子を有する、水素、脂肪族炭化水素、ハロカーボン、ハイドロハロカーボンまたはアルコールが挙げられる。このような連鎖移動剤の代表例は、エタン、クロロホルムおよびメタノールなどのアルカンである。
【0045】
連鎖移動剤の量および添加モードは、特定の連鎖移動剤の作用およびポリマー生成物の所望の分子量に応じる。重合の開始前の単一回添加、重合を通した連続的なもの、または複数回の投与量によるもの、または重合の最中の所定時間での間隔によるものを含む多様な添加モードが用いられ得る。重合反応器に供給される連鎖移動剤の量は、得られるフルオロポリマーの重量に基づいて、好ましくは約0.005〜約5質量%、より好ましくは約0.01〜約2質量%である。
【0046】
重合剤
本発明によれば、フルオロポリエーテル酸またはその塩は、好ましくは、シロキサン界面活性剤と組み合わされて重合剤として効果的に機能するよう適当に水性媒体中に分散される。好ましくは、フルオロポリエーテル酸塩は、フルオロポリエーテル酸塩を含有する重合媒体が無色透明またはほとんど無色透明を呈するよう、十分に分散される。より好ましくは、1500ppm±100ppmのフルオロポリエーテル酸塩を含有するよう調整された分散されたフルオロポリエーテル酸塩(および用いられる場合分散助剤)の水性濃縮物は、本明細書中以下に記載の試験法において、約55%未満、好ましくは約15%未満、より好ましくは約13%未満、さらにより好ましくは約10%未満、および最も好ましくは約7%未満のヘーズを有する。分散されたフルオロポリエーテル酸塩の水性濃縮物のヘーズについての好ましい範囲は約0〜約55%である。1500ppm±100ppmでの低いヘーズ値は、水性重合法におけるフルオロポリエーテル塩の成核剤としての性能と良好に相関し、例えば、低ヘーズ濃縮物を利用する重合は高いヘーズ値を有する濃縮物より少ない未分散ポリマー(凝塊)をもたらす。分散されたフルオロポリエーテル塩を含有する水性重合媒体自体のヘーズ値は、低いフルオロポリエーテル塩含有量のためにフルオロポリエーテル塩によるヘーズの寄与に対する感度が低く、水性重合媒体中の他の構成成分により影響され得る。
【0047】
好適な一手法において、重合剤は、水性重合媒体中に直接的に形成されることが可能である。この手法において、フルオロポリエーテル酸または塩は酸形態で供給され、その後、塩形態に転換される。これは、先ず、アンモニアまたはアルカリ金属水酸化物を、塩形態を実質的に完全に転換するに十分な量で水性重合媒体に添加し、その後フルオロポリエーテル酸を添加することにより達成される。次いで、フルオロポリエーテル酸をアンモニアまたはアルカリ金属水酸化物溶液に添加することが可能であり、所望の場合には、不十分なまたは過剰量の塩基が用いられたかを判定するために、pH計測を行うことが可能である。加えて、当該技術分野において公知であるとおり、用いられたアンモニアまたはアルカリ金属水酸化物の量は、重合媒体に添加された他の材料と一緒に、水性重合媒体において、用いられる特定の開始剤系について所望のレベルの活性を促進すると共に、重合剤にとって作用可能なpH範囲をもたらすpHをもたらすべきである。シロキサン界面活性剤は、フルオロポリエーテル酸の添加に先立って、同時に、または、その後に水性重合媒体に添加されることが可能である。
【0048】
重合剤を形成するための他の好適な手法は、より多量の水性重合媒体に添加される、分散されたフルオロポリエーテル酸または塩の水性濃縮物を形成する工程を利用する。濃縮物は、同様に、フルオロポリエーテル酸を少量の水性アンモニアまたはアルカリ金属水酸化物と反応させて、塩形態のフルオロポリエーテル酸を含有する濃縮物を生成させることにより形成することが可能である。次いで、この濃縮物を水性重合媒体に混合して、既に分散されたフルオロポリエーテル酸または塩を所望の量で提供することが可能である。加えて、上述のとおり、濃縮物の形成に用いられるアンモニアまたはアルカリ金属水酸化物の量は、水性重合媒体において、用いられる特定の開始剤系について所望のレベルの活性を促進すると共に、重合剤にとって作用可能なpH範囲をもたらすpHをもたらすべきである。シロキサン界面活性剤は、フルオロポリエーテル酸の添加に先立って、同時に、またはその後に水性重合媒体に添加することが可能である。シロキサン界面活性剤に対して同一の割合のフルオロポリエーテル酸または塩が複数の重合について用いられる場合には、シロキサン界面活性剤が水性フルオロポリエーテル酸または塩濃縮物で存在することが簡便であり得る。
【0049】
本発明の好ましい形態において、分散助剤は、フルオロポリエーテル酸または塩を分散助剤と接触させることにより、これらの酸または塩の溶解/分散工程を補助するために用いられる。分散助剤は、例えば約1200g/mol超といった、より高分子量のフルオロポリエーテル酸またはその塩の溶解/溶解工程に特に有用である。分散助剤は、フルオロポリエーテル酸または塩の分散工程について上述したいずれの手法においても有用である。
【0050】
多様な分散助剤のいずれも、本発明による使用について、フルオロポリエーテル酸または塩の溶解/分散工程の補助に用いられ得る。重合において用いられるべき界面活性剤、好ましくはシロキサン界面活性剤が、フルオロポリエーテル酸または塩を分散させるために有用である。普通、および特に、高分子量フルオロポリマーを重合する場合には、低テロゲン性または非テロゲン性分散助剤が好ましい。いくつかの分散助剤では、水性重合媒体または濃縮物を形成する水性媒体への添加の前に、分散助剤をフルオロポリエーテル酸または塩と混合することが望ましい。
【0051】
分散助剤の好適な一クラスはC3〜C8アルコールを含み、特に好適な分散助剤はt−ブタノールである。フルオロポリエーテル酸または塩が酸形態で供給されると共にアンモニウム塩が重合剤において用いられるべきである場合、濃縮物は、フルオロポリエーテル酸、t−ブタノールおよびアンモニア水溶液を同時に混合し、攪拌することにより形成することが可能である。シロキサン界面活性剤は、その後添加されることが可能である。t−ブタノールは、フルオロポリエーテル酸の重量の約0.5倍〜約3倍の量で添加されることが好ましいが、有効である最も少量の利用がテロゲン性効果を低減させるために好ましい。t−ブタノールなどのC3〜C8アルコールは、通常所望される高い分子量の達成に、テロゲン活性が干渉し得るために、一般には、PTFEまたは変性PTFEの重合には用いられることはない。場合によっては、フルオロポリエーテル酸または塩を効果的に分散させるために、水がC3〜C8アルコールと一緒に存在すること、すなわち、アルコール/水混合物が用いられることが望ましい。
【0052】
分散助剤の他の特に好適なクラスは、例えば、低分子量フルオロモノエーテル酸または塩、低分子量フルオロポリエーテル酸または塩および低分子量パーフルオロアルカンカルボン酸といった、500g/mol未満の分子量を有するフッ素化有機酸または塩である。このような分散助剤は低いテロゲン活性を有し、一般に、ワックスの使用と干渉しない。好適なフッ素化有機酸または塩は、低分子量フルオロモノエーテル酸または塩であって、すなわち、500g/mol未満の分子量を有し、例えば、CFCFCFOCF(CF)COOHである。500g/mol未満の分子量を有するフルオロポリエーテル酸または塩もまた用いられることが可能である。フルオロポリエーテル酸または塩が酸形態で供給される場合、フッ素化有機酸または塩もまた酸形態で供給されることが好ましい。好ましくは、フルオロポリエーテル酸およびフッ素化有機酸は、水性重合媒体または濃縮物の形成に用いられる水性媒体への添加の前に一緒に混合される。この混合物は、分散されたフルオロポリエーテル塩を形成するためにアンモニア水溶液と接触させられることが好ましい。各々500g/mol未満の分子量を有するフルオロモノエーテル酸または塩およびフルオロポリエーテル酸または塩は、好ましくは、フルオロポリエーテル酸の重量の少なくとも約0.5倍の量で添加される。典型的には、約20倍を超える量は必要なく、好ましくは、有効である最低量が利用される。特に好ましい範囲は約0.5倍〜約3倍である。500g/mol未満の分子量を有するパーフルオロアルカンカルボン酸は分散助剤として機能することが可能であるが、本発明による使用については好ましくない。用いられる場合には、これらは、水性媒体中の水の重量に基づいて約300ppm未満の量で用いられる。
【0053】
本発明の好ましい形態において、本発明により利用される重合剤は、重量当たりで多量のフルオロポリエーテル酸またはその塩および重量当たりで少量のシロキサン界面活性剤を含む。より好ましくは、シロキサン界面活性剤は、重合剤の約1%〜約45質量%を構成する。さらにより好ましくは、シロキサン界面活性剤は、重合剤の約1%〜約35質量%を構成する。本発明の好ましい実施形態において、シロキサン界面活性剤は重合剤の約10%〜約30質量%を構成する。
【0054】
好ましくは、水性重合媒体中に用いられるフルオロポリエーテル酸または塩の量は、水性重合媒体中の水の重量に基づいて約5〜約2000ppm、より好ましくは約50〜約1000ppm、および最も好ましくは約100〜約350ppmである。本発明による好ましい方法において用いられる重合剤配合物の総量は、水性媒体中の水の重量に基づいて約5〜約3000ppmである。好ましくは、用いられる重合剤配合物の総量は、水性媒体中の水の重量に基づいて約50ppm〜約2000ppm、より好ましくは、約150ppm〜約500ppmである。
【0055】
上述のとおり、シロキサン界面活性剤は少量で利用されることが好ましく、シロキサン界面活性剤の好ましい量は利用されるフルオロポリエーテル酸または塩の量に基づく。しかしながら、シロキサン界面活性剤は開始剤と反応することができると共にテロゲン性である、すなわち、早期に連鎖成長を停止させるよう作用するため、開始剤の量に対する用いられるシロキサンの量は、重合が開始して所望の速度で進行することとなるよう制限されるべきである。例えば、水の重量に基づいて100ppm〜約350ppmフルオロポリエーテル酸または塩が利用されると共に、重合剤のすべてが重合に先立って添加される本発明の好ましい形態において、シロキサン界面活性剤について特に好ましい範囲は約10〜約110ppmである。重合剤、または重合剤の少なくともシロキサン構成成分が以下に検討されているとおり重合の過程の最中に供給される場合には、より多量のシロキサン界面活性剤が用いられ得る。
【0056】
重合剤の少なくとも一部は、好ましくは、重合の開始前に重合媒体に添加される。その後に添加される場合には、重合を通した連続的なもの、または重合の最中の所定時間での間隔によるものを含む、重合剤に対する多様な添加モードが用いられ得る。本発明の一実施形態によれば、実質的にすべての重合剤が、重合の開始に先立って水性媒体に添加される。
【0057】
本発明によれば、水性媒体は、水性媒体中の水の重量に基づいて、約300ppm未満のパーフルオロアルカンカルボン酸または塩フッ素系界面活性剤を含む。パーフルオロアルカンカルボン酸または塩フッ素系界面活性剤としては、パーフルオロアルカン、例えば、パーフルオロオクタン酸アンモニウムが挙げられる。好ましくは、水性媒体は、約100ppm未満のパーフルオロアルカンカルボン酸または塩フッ素系界面活性剤を含み、より好ましくは50ppm未満を含む。本発明の好ましい実施形態において、水性媒体は、パーフルオロアルカンカルボン酸または塩フッ素系界面活性剤を実質的に含まない。パーフルオロアルカンカルボン酸または塩フッ素系界面活性剤を実質的に含まないとは、水性媒体は、このようなフッ素系界面活性剤を約10ppm以下で含有することを意味する。
【0058】
本発明の好ましい形態によれば、本発明の実施において用いられる重合剤配合物は、好ましくは、パーフルオロポリエーテル油(すなわち、中性末端基を有するパーフルオロポリエーテル)を実質的に含まない。パーフルオロポリエーテル油を実質的に含まないとは、水性重合媒体は、このような油を水に基づいて約10ppm以下で含有することを意味する。本発明のこの形態は、このようなパーフルオロポリエーテル油を利用する米国特許第4,864,006号明細書(Gianettiら)に開示されている水性マイクロエマルジョン系とは異なる。
【実施例】
【0059】
試験法
フルオロポリマー融点(Tm)は、ASTM D4591の手法に準拠して示差走査熱量計により計測される。
【0060】
コモノマー含有量(PPVEまたはHFP)は、米国特許第4,743,658号明細書、第5欄、第9〜23行に開示されている方法によるFTIRにより計測される。
【0061】
メルトフローレート(MFR)は、ASTM D−1238に準拠して、特定のコポリマーについて標準的な温度で計測される。
【0062】
ヘーズは、1500ppm±100ppmのフルオロポリエーテル酸塩を含有するよう調節された分散されたフルオロポリエーテル酸塩(および用いられる場合分散助剤)の水性濃縮物で計測される。ヘーズは、Hunter(登録商標)ColorQuest XE分光測光計で、球幾何学的形状で、HunterLab Universal Softwareバージョン4.0を用いて透過モードで計測される。サンプルセルは50mm透過セルである。透過ヘーズ計測値は、透過率を表すために100を乗じた、拡散光対試料により透過された全光の比である。
【0063】
重合剤構成成分
2種のフルオロポリエーテル酸が利用され、これらは、各々上記式1の繰り返し単位を有するカルボン酸基(PFPEA)を有するパーフルオロポリエーテル酸であり、以下の実施例においてアンモニウム塩に転換される。PFPEA1は、約1165(式1においてn=約6)の数平均分子量を有する。PFPEA2は、約2100(式1においてn=約12)の数平均分子量を有する。PFPEA2は、Krytox(登録商標)157FSLとしてDuPontから市販されている。
【0064】
シロキサン界面活性剤は、例えばL−7600といった種々の数字記号を伴う、商品名Silwet(登録商標)でGE Siliconesから入手可能である。Silwet(登録商標)L−7600は、ノニオン性側基タイプポリエチレンオキシド変性ポリジメチルシロキサンである。Silwet(登録商標)L−7280は、ポリアルキレンオキシド変性ヘプタメチルトリシロキサンである。Silwet(登録商標)L−7602はポリアルキレンオキシド変性ポリジメチルシロキサンである。Silwet(登録商標)L−7220はポリアルキレンオキシドメチルシロキサンコポリマーである。
【0065】
水酸化アンモニウムは30質量%水溶液である(NHとして算出された質量%)。
【0066】
PFPEA1を含有している本発明の実施例(実施例1〜3、比較例2、実施例6および実施例7)について、PFPEA1を含有している重合剤濃縮物は、先ず、900gの脱イオン水を1リットルガラス容器に追加することにより形成される。表1に示されている30質量%の量の水酸化アンモニウムがこの900gの脱イオン水に添加される。次いで、表1に示されている量のPFPEA1が添加される。容器の内容物は、機械的にまたは超音波で混合されて、わずかに曇った混合物(ヘーズ約7%未満)がもたらされる。以下の表1に示されている量のシロキサン界面活性剤(Silwet(登録商標)L−7600)が添加される。更なる混合で、混合物は、典型的には、無色透明になる。実施例7において、L−7220を含有する混合物はわずかににごっている(約7%未満のヘーズ)。比較例1および3は同様に形成されるが、PFPEA1を含まない。比較例2は同様に形成されるが、シロキサン界面活性剤を含まない。
【0067】
【表1】

【0068】
実施例4および5については、PFPEA2を含有する重合剤濃縮物は、4.27gのPFPEA2、8.54gのt−ブタノール(分散助剤)、14.7gの脱イオン水、および0.96gの30質量%水酸化アンモニウムをバイアルに追加し、これを密封し、冷流水下で振盪して反応熱を除去して形成される。無色で単相の液体がもたらされる。この液体が、878.7gの脱イオン水へかき混ぜながら滴下され、清透な混合物が得られる(ヘーズ約3%未満)。0.56gのシロキサン界面活性剤(Silwet(登録商標)L−76)が攪拌しながら添加される。最終混合物は無色透明(ヘーズ約3%未満)であると共にpH9.5である。
【0069】
実施例1〜5および比較例1〜3
本発明の方法は、テトラフルオロエチレン(TFE)の溶融加工性コポリマーと、パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)、すなわち、パーフルオロ(プロピルビニルエーテル)(PPVE)との重合で例示されている。
【0070】
脱気水が重合において用いられる。脱気水は、脱イオン水を大きなステンレス鋼製の容器に入れ、窒素ガスをおよそ30分間にわたって、水を通して激しく吹き出させて酸素を除去することにより調製される。
【0071】
パドル式攪拌機を備える12リットル、水平オートクレーブ中に、7.57kgの脱気水が追加される。上述のPFPEA1またはPFPEA2濃縮物がオートクレーブに仕込まれて、実施例のための重合媒体がもたらされる。実施例1〜4および比較例1〜3については510mLが仕込まれ、実施例5については274mLの濃縮物が仕込まれる。濃縮物の形成に利用された量に基づいて、表2Aは、重合媒体中の重合剤構成成分の量(水性媒体中の水の重量に基づいたppm)を示す。
【0072】
水カラムのおよそ28インチの減圧(7kPa)を反応器に加えた。反応器を、次いで、70rpmでかき混ぜながら気体TFEで30psig(310kPa)に加圧した。攪拌機が停止され、TFE圧力がベントによりおよそ10psig(100kPa)に減圧される。この加圧/ベントサイクルは、さらに2回実施され、オートクレーブの内容物が無酸素であることをさらに確実にされる。エタン(0.3〜0.5g)およびPPVE(100g)が次いで反応器に添加される。
【0073】
次いで、反応器は、100rpmでかき混ぜながら75℃に加熱される。温度に達したら、反応器圧力がTFE(270〜330g)の添加により公称300psig(2.17MPa)に加圧される。表2Aに示されるように、6.2グラムの過硫酸アンモニウムを1リットルの脱イオン水中に含有する開始剤溶液が100ml/分の流量でオートクレーブに仕込まれて、0.45〜0.74gの過硫酸アンモニウムの事前仕込みがもたらされる。同一の開始剤溶液が、重合の最中に、0.54ml/分の流量でオートクレーブに連続的に圧送される。キックオフ[10psig(70kPa)の圧力低下が観察される]で、重合は開始されたとみなされる。反応器圧力は、間欠的に96質量%TFEおよび4質量%PPVEで組成されるモノマーを足すことにより、285psig(2.1MPa)〜315psig(2.28MPa)の間を反復させられる。表2Aに記載のモノマーの総量(事前に仕込まれたPPVEおよびTFEを含め)に達した後、攪拌機が停止され、反応器が大気圧にベントされる。このように生成されたフルオロポリマー分散体は、10%超の固形分を有している。ポリマーは、凍結させ、解凍しおよびろ過することにより分散体から単離される。高速攪拌機を用いて、ポリマーは、100〜110℃および6〜10mmHg(0.8〜1.3kPa)の減圧下で真空オーブン中に一晩乾燥される前に、脱イオン水中で洗浄されると共に数回ろ過される。結果が表2Bに報告されている。
【0074】
【表2】

【0075】
【表3】

【0076】
実施例6
本発明の方法が、テトラフルオロエチレン(TFE)とヘキサフルオロプロピレン(HFP)との溶融加工性コポリマーの重合において例示されている。
【0077】
TFE−HFP共重合は、以下の差を伴ってTFE−PPVEコポリマーについての実施例1〜3と同様に行われる。
水総量(初期仕込み量と開始剤および界面活性剤と共に添加された水)6540g。開始剤事前仕込みは0.66gの6.2g/リットル水溶液である。初期HFP仕込み量は647gである。初期TFE仕込み量は、65:35気体ブレンドとして379gである。重合の最中のHFP:TFE供給は12:88混合物の1200g/時である。
【0078】
重合剤構成成分は表3に列挙されている。利用される材料の量は表4Aに示されている。表4Bに結果が報告されている。
【0079】
【表4】

【0080】
【表5】

【0081】
【表6】

【0082】
実施例7
PFPEA1を用いる実施例1の手法が、表4中のSilwet(登録商標)数字記号により列挙される多様なシロキサン界面活性剤を、テトラフルオロエチレン(TFE)と、パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)、すなわち、パーフルオロ(プロピルビニルエーテル)(PPVE)との溶融加工性コポリマーの重合のために用いて繰り返される。結果は表4に示されている。
【0083】
【表7】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1種のフッ素化モノマーを開始剤および重合剤を含む水性重合媒体中で重合してフルオロポリマーの粒子の水性分散体を形成する工程を含む方法であって、前記方法により形成された前記フルオロポリマーの粒子の水性分散体が少なくとも約10質量%のフルオロポリマー固形分を有し、前記重合剤がフルオロポリエーテル酸またはその塩およびシロキサン界面活性剤を含み、前記水性重合媒体が約300ppm未満のパーフルオロアルカンカルボン酸または塩フッ素系界面活性剤を含む方法。
【請求項2】
重合剤が、重量当たりで多量のフルオロポリエーテル酸またはその塩および重量当たりで少量のシロキサン界面活性剤を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
水性重合媒体が、パーフルオロアルカンカルボン酸または塩フッ素系界面活性剤を実質的に含まない、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
フルオロポリエーテル酸またはその塩がパーフルオロポリエーテル酸またはその塩である、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
フルオロポリエーテル酸またはその塩の酸基が、カルボン酸、スルホン酸、ホスホン酸からなる群から選択される酸基を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
フルオロポリエーテル酸またはその塩の酸基がカルボン酸を含む、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
フルオロポリエーテル酸またはその塩がアンモニウム塩である、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
フルオロポリエーテル酸またはその塩の分子量が、約800〜約3500g/molの数平均分子量を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
シロキサン界面活性剤が重合剤の約1%〜約45質量%を構成する、請求項2に記載の方法。
【請求項10】
シロキサン界面活性剤が重合剤の約1%〜約35質量%を構成する、請求項2に記載の方法。
【請求項11】
フルオロポリエーテル酸またはその塩が、水性重合媒体中の水の重量に基づいて約5ppm〜約2000ppmの量で前記水性重合媒体中に存在する、請求項2に記載の方法。
【請求項12】
フルオロポリエーテル酸またはその塩が、水性重合媒体中の水の重量に基づいて約50ppm〜約1000ppmの量で前記水性重合媒体中に存在する、請求項2に記載の方法。
【請求項13】
フルオロポリエーテル酸またはその塩が、水性重合媒体中の水の重量に基づいて約100ppm〜約350ppmの量で前記水性重合媒体中に存在する、請求項2に記載の方法。
【請求項14】
方法により形成されたフルオロポリマーの粒子の水性分散体が、少なくとも約20質量%のフルオロポリマー固形分を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
重合する工程が、少なくとも10Pa・sの溶融粘度を有するフルオロポリマーの粒子を製造する、請求項1に記載の方法。
【請求項16】
少なくとも1種のフッ素化モノマーが、テトラフルオロエチレン(TFE)、ヘキサフルオロプロピレン(HFP)、クロロトリフルオロエチレン(CTFE)、トリフルオロエチレン、ヘキサフルオロイソブチレン、パーフルオロアルキルエチレン、フルオロビニルエーテル、フッ化ビニル(VF)、フッ化ビニリデン(VF2)、パーフルオロ−2,2−ジメチル−1,3−ジオキソール(PDD)およびパーフルオロ−2−メチレン−4−メチル−1,3−ジオキソラン(PMD)からなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項17】
方法により製造されたフルオロポリマーの粒子が、少なくとも約40〜98%テトラフルオロエチレン単位および約2〜60mol%の少なくとも1種の他のモノマーを含む溶融加工性コポリマーを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項18】
少なくとも1種の他のモノマーが少なくとも1種の過フッ素化モノマーを含む、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
方法により製造されたフルオロポリマーが過フッ素化溶融加工性コポリマーである、請求項17に記載の方法。
【請求項21】
シロキサン界面活性剤がノニオン性シロキサン界面活性剤である、請求項1に記載の方法。
【請求項22】
重合剤の実質的にすべてが重合の開始に先立って水性重合媒体に添加される、請求項1に記載の方法。
【請求項23】
重合する工程が、製造されるフルオロポリマー総重量に基づいて約10質量%未満の未分散フルオロポリマーを製造する、請求項1に記載の方法。
【請求項24】
水性重合媒体がパーフルオロポリエーテル油を実質的に含まない、請求項1に記載の方法。

【公表番号】特表2010−509443(P2010−509443A)
【公表日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−536315(P2009−536315)
【出願日】平成19年11月9日(2007.11.9)
【国際出願番号】PCT/US2007/023641
【国際公開番号】WO2008/060462
【国際公開日】平成20年5月22日(2008.5.22)
【出願人】(390023674)イー・アイ・デュポン・ドウ・ヌムール・アンド・カンパニー (2,692)
【氏名又は名称原語表記】E.I.DU PONT DE NEMOURS AND COMPANY
【Fターム(参考)】