説明

フルピルチン及びトラマドールの組み合わせ

本発明の対象は、疼痛の処置のための、2つの中枢作用鎮痛剤(フルピルチン及びトラマドール、又はそれらのそれぞれの薬学的に許容される塩)の組み合わせを提供することである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の対象は、疼痛の処置のための、2つの中枢作用性鎮痛剤(フルピルチン及びトラマドール、又はそれらのそれぞれの薬学的に許容される塩)の組み合わせ、を提供することである。
【背景技術】
【0002】
多数の病因の疼痛は、その臨床環境において見られる多くの患者に対して依然として重要な問題である。
【0003】
急性及び慢性疼痛の管理は、患者の健康に対してだけでなく、長期の併発症及び病的状態を予防するためにも重要である。更に、急性疼痛は処置せずに放置すると急速に慢性疼痛になるかもしれない。慢性疼痛は、しばしば治療が不十分であるため、依然として問題である。多くの鎮痛剤に関連する副作用及び安全に対する懸念は、これらの薬剤の使用を制限し、疼痛の不十分な治療の一因となってきた。疼痛を管理するのに最も一般的に使用される薬剤に関しては、中枢作用性鎮痛剤(例えば、モルヒネ、コデイン)は呼吸障害、耐性、及び依存症に関連し、最も古典的な非ステロイド系抗炎症剤(NSAID)は胃腸の副作用を生み出す。
【0004】
トラマドール(トランス−(+/−)−2−[(ジメチルアミノ)メチル]−1−(3−メトキシフェニル)シクロヘキサノール)は、2つの作用機構を有する鎮痛剤である。この2つの作用機構は、オピオイドμ−レセプターにおける弱いアゴニスト作用及び神経伝達物質の再取り込み(例えば、ノルアドレナリン)の阻害を含む。トラマドールは、オピオイドレセプターに対して低い親和性を有し、中枢神経系において疼痛伝達経路内のノルアドレナリン(NA)及びセロトニン(5−HT)の再取り込みを阻害する。CNSのμ−レセプターに対するトラマドールの親和性は依然として低い(モルヒネよりも6000倍低く、コデインよりも10倍低い)(Raffa,J Clin Pharm Ther 2001;26:257−64,Raffa他,J Pharmacol Exp Ther 1992;260:257−85,Lee他,Drugs 1993;46:313−40)。(+)−トラマドール及びその代謝物は、μ−レセプターの選択的アゴニストである(Raffa他,J Pharmacol Exp Ther 1993;267:331−40)。(−)−アイソマーは、主にNAの再取り込みを阻害する。従って、2つのエナンチオマーは、相補的で且つ相乗的である(Raffa他,J Pharmacol Exp Ther 1993;267:331−40,Raffa,J Clin Pharm Ther 2001;26:257−64)。同じことが、薬力学的に活性な主要な代謝物に対してあてはまる(Garrido他,J Pharmacol Exp Ther 2000;295:352−9)。
【0005】
様々な原因の急性及び慢性疼痛の処置において、トラマドールが有効であることが実証されてきた(すなわち、Lewis及びHan,Am J Health Syst Pharm.1997 Mar 15;54(6):643−52,Hoogewijs他,Eur J Emerg Med 2000;7:119−23,Courtney及びCabraal,Arch Otolaryngol Head Neck Surg 2001;127:385−8)。経口投与したトラマドールは、癌疼痛を有する患者の処置に関する世界保健機構のガイドラインの段階2及び3において効果的な鎮痛剤であることが見出された。しかし、トラマドールは、特定のタイプの慢性疼痛(腰部疼痛など)に対しては効果が低い(Lewis及びHan,Am J Health Syst Pharm.1997 Mar 15;54(6):643−52)。
【0006】
鎮痛作用の他に、トラマドール投与は、オピオイドと同じような一群の症状(目まい、眠気、吐き気、便秘、嘔吐、発汗、及び掻痒を含む)を生み出すかもしれない(Silvasti他,Eur J Anaesthesiol 1999;16:834−9)。他の鎮静剤/オピオイドと同様に、トラマドールは呼吸障害を引き起こす(PDR,2002)。げっ歯類の毒性試験においては、中毒の臨床的徴候は主に行動障害及び痙攣であった(Matthiesen他,Toxicol Lett 1998;95:63−71)。従って、高い投与量で特に子供において、トラマドールは発作を引き起こしうる。
【0007】
オピオイドは筋固縮を引き起こす傾向があるため、その臨床的普及はある程度にまで限定される(muskuloskeletal hypertonia,PDR 2002)。Havemann他(Life Sci 1982;31:2319−22)、Jerussi他(Pharmacol Biochem Behav 1987;28:283−9)、Nickel他(Arzn Forsch/Drug Res 1990a;40:909−11,Arzn Forsch/Drug Res 1997;47:1081−6)により実証されているように、オピオイド誘導性筋固縮は実験動物においても明らかである。他の鎮静剤と同様に、トラマドールが骨格筋の緊張を増大させ得るという証拠が動物試験から得られている(Nickel 他,Arzn Forsch/Drug Res 1990a;40:909−11,Arzn Forsch/Drug Res 1990b;40:905−908,Arzn Forsch/Drug Res 1997;47:1081−6)。トラマドールの筋弛緩を失わせる作用により、疼痛腰部症候群の処置における低い有効性を説明することができる。同じことが、急性筋骨格疼痛を有する患者においてもあてはまり得る(Turturro 他,1998)。
【0008】
トラマドールは、モルヒネ型の精神的及び身体的依存症を引き起こす可能性を有する。この薬剤は、渇望、薬物探索行動、及び耐性発現と関連付けられてきた。トラマドールにおける乱用及び依存に関する症例が報告されてきた(Senay 他,Drug Alcohol Depend 2003;69:233−41)。オピオイド依存の患者において、トラマドールは使用されるべきではない。トラマドールは、以前他のオピオイドに依存していた又は慢性的に使用していた患者において身体的依存症を再発させ得る。
【0009】
フルピルチンはトリアミノピリジン誘導体であり、筋弛緩特性を有する非オピオイド系の鎮痛剤として使用されている。フルピルチンが抗侵害受容作用を発揮する投与量と同程度の投与量で骨格筋緊張を緩和することが実証された(Nickel他,Arzn Forsch/Drug Res 1990a;40:909−11)。フルピルチンの薬力学的作用の様式は、そのカリウムチャネル開口活性に関連する。カリウムチャネル開口活性は、フルピルチンの機能的なNMDA−アンタゴニスト活性も説明することができる。更に、フルピルチンは下行のノルアドレナリン疼痛調整経路を活性化する。
【0010】
ジアゼパム及び他のベンゾジアゼピンは筋弛緩剤として広く使用されているので、フルピルチンの薬力学的特徴とベンゾジアゼピンのそれとの比較は明らかであった。レセプター結合試験においては、特異的な[3H]フルニトラゼパム結合に対する親和性は10μmol/lまで見られなかった(Nickel他,Arzn Forsch/Drug Res 1990b;40:905−908)。フルピルチンがノルアドレナリン下行経路の活性化により抗侵害受容活性を示すという証拠が存在する(Szelenyi他,Ann Emerg Med 1998;32:139−43)。最近の研究は、フルピルチンが電位依存性カリウムチャネルを活性化することを指摘する(Kornhuber他,J Neural Transm 1999;106:857−67)。下行のノルアドレナリン疼痛調整経路の活性化に加えて、フルピルチンのこのカリウムチャネル開口作用は鎮痛及び骨格筋弛緩活性に寄与しているのかもしれない。
【0011】
フルピルチンは重要な抗癲癇能力を潜在的に有することが実証された(Kupferberg及びSwinyard,Study Report,Report No.D−09998/FP2−01/00,Aug.06,1980,Viatris AG)。この作用は、K+−チャネル開口及び機能的NMDA−アンタゴニスト特性により説明することができる。
【0012】
更に、フルピルチンが鎮静剤乱用の禁断症状を弱めることができるという証拠が存在する(Nickel及びSzelenyi,Luzern,August 17-19,1993,Regional Anesthesia 1993;18(Suppl.):4)。
【0013】
フルピルチンは、会陰切開、外科的又は歯科的処置(McMahon 他,Postgrad Med J 1987;63(Suppl 3):81−5)、外傷後疼痛、癌、リュウマチ性疾患(例えば、関節症、関節炎)、神経痛、月経困難症(dysmonorrhoe)から生じる疼痛などの疼痛疾患の管理において効果的に使用することができ、骨粗しょう症(Ringe他,Arzneimittelforschung 2003;53:496−502)、偏頭痛、頭痛、又は緊張性頭痛(Worz他,Fortschr Med 1995;113:463−8)を有する高齢者の患者において効果的に使用することができる。フルピルチンは、頸腕(cervico−brachialgia)、腰部症候群、坐骨腰痛などの増大した骨格筋緊張を有する疾患に対しても使用することができる。更に、フルピルチンは鎮痛及び筋緊張正常化作用を有するので、筋筋膜疼痛に対してフルピルチンが推奨される(Worz他, Fortschr Med 2000;142:27−33)。
【0014】
1つの薬剤を用いて完全な疼痛制御を獲得するのは、しばしば困難である。市場には多くの薬剤があるが、それらの臨床的な有用性はしばしば疑わしく又はそれらの所望されない作用により制限される。いくつかの場合において、有意義な組み合わせは単一化合物の起こり得る所望されない作用を克服することができる。更に、増大した骨格筋緊張にしばしば伴ういくつかの疼痛疾患が存在する。結果として、増大した骨格筋緊張を緩和することもしばしば必要である。このような疾患の治療は、例えばベンゾジアゼピンを必要とする。しかし、ベンゾジアゼピンは顕著な乱用の可能性があり、従ってそれらの投与は非常に制限される。
【0015】
複合的な鎮痛剤の組み合わせにより、鎮痛を改善することが実証でき、そして副作用を最小にすることができる。十分な証拠が疼痛の管理に対する鎮痛剤を組み合わせることを裏づけ、そしていくつかの例において、それらは異種の薬力学的な節約効果を有する。実証された有効性及び安全性を有する一定投与量の組み合わせの鎮痛剤は、疼痛管理に対して広い有用性を有する(すなわち、McClellan及びScott,Drugs 2003;63:1079−86,Wilder−Smith他.Anesth Analg 2003;97:526−33)。ジクロフェナクの経口適用がラットにおける骨折治癒を顕著に遅延させたことから、時にジクロフェナクなどのNSAIDとのトラマドールの組み合わせ投与はあまり有利ではないようである。この作用は、他のNSAIDに匹敵し、そして人において骨折を治癒することができる(Beck他,Arch Orthop Trauma Surg 2003;123:327−32)。
【発明の開示】
【0016】
従って、本発明に内在する問題は、有効性の改善及び副作用の緩和を提供する疼痛処置のための薬剤の組み合わせを提示することであった。トラマドール及びフルピルチン又はそれらのそれぞれの薬学的に許容される塩の組み合わせにより、解決手段を与える。
【0017】
本発明は、鎮静剤μ−レセプターに影響を及ぼす化合物(すなわち、トラマドール)及びカリウムチャネル開口剤であるフルピルチンの薬力学的特性に基づいて、両方の薬剤を組み合わせることによりトラマドール又はフルピルチンの抗侵害受容/鎮痛活性を増強することができることを示す。
【0018】
組み合わせにおいては、その薬剤のどちらかを単独で使用した場合と同様の鎮痛作用を生み出すのにより少量の薬剤で十分である。驚いたことに、この組み合わせの鎮痛作用は超相加的(overadditive)な性質である。より少ない量の両薬剤を使用することにより、それぞれに関連する副作用が数及び程度において緩和される。更に、典型的なオピオイド作用でありフルピルチンは骨格筋緊張の増大を取り除く。更に、トラマドール及び他の鎮静剤/オピオイドの典型的な副作用である呼吸障害を全く引き起こさない。更に、フルピルチンは鎮静剤の使用中止後の症状を緩和することができる。抗痙攣作用により、フルピルチンはトラマドールの起こり得る痙攣作用を弱めることができる。
【0019】
更に、フルピルチンの骨格筋弛緩活性はトラマドールの筋緊張増大作用を取り除く。更に、トラマドールは発作を引き起こし得ることが知られている。一方、フルピルチンは抗痙攣活性を有することも知られている。従って、フルピルチンはトラマドールの起こり得る痙攣活性を補い、その組み合わせのより優れた許容性をもたらすことができる。トラマドールは呼吸障害を誘導し得ることが知られている。トラマドールの投与量はフルピルチンとの組み合わせにおいて減らすことができるので、トラマドールにより起り得る呼吸障害の危険性が大幅に減少する。
【実施例】
【0020】
実験データ
パート1:マウスにおけるアセチルコリン誘導性ライシング(writhing)への抗侵害受容作用
22〜24gの体重の雄性マウスを、4つの群において食料及び水を自由に摂取できる標準条件(温度22±1℃、湿度:40〜50%、暗−明リズム:12/12時間)で保持した。実験動物の保護及び適切な使用に対して責任を有する動物健康委員(animal health committee)によって、全てのプロトコルの承認を得た。
【0021】
10ml/kgの体積でのアセチルコリン(ACh)(塩化物、5.5mg/kg)の腹腔内(i.p.)注射により、腹部収縮(ライシング)を誘導した。その後すぐに、プラスチックケージにマウスを置き、10分間腹部収縮(ライシング)の数を数えた。一匹当たりの腹部収縮の総数及び収縮を有する動物の数を計算した。
【0022】
毎日薬剤を調製した。全ての化合物を経口で与えた。塩酸トラマドール及びマレイン酸フルピルチンを、アセチルコリン注射の30分前に投与した。
【0023】
ED50値を、グループ中の動物の数に対するライシングから保護された動物の比率、又は各グループの動物におけるライシングの平均数のいずれかにより算定した。直線回帰を用いることにより、それらの値を計算した。Kruscall−Wallis試験により、計算した作用及び測定した作用の間の差異に関する統計分析を実施した。アスタリスク(*)は、有意水準p<0.05を示す。
【0024】
フルピルチン及びトラマドールの双方は、動物をライシングから保護し、覚醒マウスにおけるライシングの数を大幅に減少させた。対応するED50値を表1に要約する。
【0025】
表1.マウスにおける経口投与したフルピルチン及びトラマドールのアセチルコリン誘導性ライシングへの作用
【表1】

【0026】
表2及び表3は、以下の様々な投与量のフルピルチン及びトラマドールの組み合わせ経口投与から得られた結果を要約する。
【0027】
表2.マウスにおけるフルピルチンとトラマドールの組み合わせのアセチルコリン誘導性ライシングへの作用
【表2】

【0028】
表3.マウスにおけるトラマドールとフルピルチンの組み合わせのアセチルコリン誘導性ライシングへの作用
【表3】

【0029】
表2及び表3に示されたデータは、フルピルチンの抗侵害受容作用がトラマドールにより超相加的様式で増強され、そしてその逆もまた同様であり、またフルピルチンが覚醒マウスにおいて超相加的様式でトラマドールの鎮痛活性をも増強したことを明確に示す。
【0030】
パート2:トラマドール及びフルピルチンのマウスにおける亜最大(submaximal)ペンテトラゾール誘導性発作への影響
トラマドールは高い投与量で、そして特に子供において発作を引き起こし得ることが知られている。げっ歯類毒性試験において、トラマドールが痙攣を誘導し得ることも実証された(Matthiesen他;Toxicol.Lett.1998;95;63−7)。従って、トラマドールが副痙攣(subconvulsive)的投与量のペンチレテトラゾール(pentyletetrazol)(ペンテトラゾール)により誘導される発作に影響し得るかを実証することは興味深かった。さらに、フルピルチンのペンテトラゾール誘導性発作への影響についても研究した。
【0031】
22〜24gの体重の雄性マウスを用いた。動物を4つの群において食料及び水を自由に摂取できる標準条件(温度22℃、湿度:40〜60%)で飼育した。午前6時から午後6時まで明かりをつけた。実験動物の保護及び適切な使用に対して責任を有する動物健康委員によって、全てのプロトコルの承認を得た。
【0032】
30mg/kgの副痙攣的投与量でのペンテトラゾールの腹腔内投与により、発作を誘導した。最初の発作応答の潜伏時間、発作の強度及び発作をともなう動物の数を、ペンテトラゾールの腹腔内注射後の最初の10分間算出した。トラマドール(塩酸塩)及びフルピルチン(マレイン酸エステル塩)を腹腔内に与えた(ペンテトラゾール投与の15分前)。薬剤を0.9%生理食塩水中で毎日調製した。
【0033】
表4.マウス(n=10)における副痙攣的ペンテトラゾール投与量(30mg/kg i.p.)により誘導された発作へのトラマドール及びフルピルチンの作用。
【表4】

【0034】
フルピルチンとは対照的に、トラマドールはペンテトラゾールの副痙攣的投与量により誘導される急性発作のモデルへの前痙攣(proconvulsive)的作用を有し;且つフルピルチンがトラマドールのこの作用を弱めることを、表4に要約する結果は示している。この組み合わせにおいて、フルピルチンはトラマドールの前痙攣的活性をほぼ完全に弱めた。
【0035】
パート3:トラマドール及びフルピルチンの単独及び組み合わせでの腹腔内投与後の、覚醒ラットの骨格筋緊張における変化
実験の準備については、先の公表において全ての詳細が説明されている(Nickel他 Arzn.Forsch./Drug Res.1997;47;1081−6)。簡単に説明すると、骨格筋緊張の測定は、足関節における強制的な足の屈伸を妨げる屈筋及び伸筋の抵抗を連続的に記録することにより行った。足の動きにより誘導される圧力変化を継続的に記録した。パーソナルコンピューターにおいて、シグナルを分析した。対応するコンピュータープログラムにより、10分間の記録時間の間、足の屈筋及び伸筋の抵抗値を算出した。
【0036】
200〜220gの体重の雄性のSprague−Dawleyラットを用いた。動物を2つの群において、食料及び水を自由に摂取できる標準条件(温度22℃、湿度:40〜60%)で飼育した。午前6時から午後6時まで明かりをつけた。実験動物の保護及び適切な使用に対して責任を有する動物健康委員によって、全てのプロトコルの承認を得た。
【0037】
薬剤(塩酸トラマドール、マレイン酸フルピルチン)を、生理食塩水中で毎日調製し、腹腔内に与えた。
【0038】
一方向(one−way)ANOVAにより、計算及び測定した作用の間の差異について統計分析を実施した。アスタリスク(*)は、有意水準p<0.01を示す。
【0039】
腹腔内に与えたトラマドールによる骨格筋緊張の投与量依存性増大は、以前の実験おいて実証された(Nickel他 Arzn Forsch/Drug Res 1990;40;909−11)。フルピルチン(5〜10mg/kg i.p.)は、覚醒ラットにおいてトラマドール誘導性骨格筋硬直を完全に取り除いた(表5)。
【0040】
表5.覚醒ラットにおける腹腔内に投与したトラマドール及びフルピルチンの骨格筋緊張への作用
【表5】

【0041】
表5に示すデータは、トラマドールが骨格筋緊張を増大させることを明確に示す。フルピルチンは、トラマドールにより誘導される骨格筋硬直を弱めることができた。
【0042】
パート4:犬におけるトラマドール及びフルピルチンの催吐作用
体重が15kgまでの両性の雑種犬を用いた。それらに一晩食物を与えなかったが、水は自由に摂取させた。伏在静脈からの遅い注入により、試験化合物を覚醒動物に投与した。薬剤投与後に60分間、催吐作用(吐き気、アウトプット(output)を伴う強い唾液分泌嘔吐)を観察した(Borison及びWang,1953)。全ての犬は、一週間おきに繰り返し腹腔内に14mg/kgのトラマドールを受けた。陽性に応答する犬を選び、更なる実験に用いた。
【0043】
表6に示すように、トラマドールは全ての犬において催吐応答を誘導した。フルピルチン(腹腔内に7mg/kgの投与量で)は、5匹の犬のうち3匹で嘔吐を引き起こした。トラマドールをフルピルチンとの組み合わせで投与した(トラマドールの投与後すぐに与える)場合、トラマドールにより誘導される催吐応答は大幅に軽減され又は完全に取り除かれた。
【0044】
表6.覚醒雑種犬(n=5)におけるトラマドール誘導性嘔吐へのフルピルチンの作用
【表6】

【0045】
表6に示すデータは、高い催吐投与量の14mg/kgで投与したトラマドールとの組み合わせでフルピルチンを与えた場合の、フルピルチンの驚くべき「抗催吐」作用を明確に示す。
【0046】
トラマドール及びフルピルチン又はそれらのそれぞれの塩の組み合わせは、各化合物単独よりも低い投与量で、疼痛処置において超相加的作用を有する増大した有効性を示す。痙攣、筋緊張の増大及び嘔吐などの副作用が、同時に緩和される。
【0047】
従って、本発明の組み合わせは、癌、リュウマチ性疾患(例えば、関節症、関節炎)、(緊張性)頭痛、片頭痛、筋緊張過度及び運動性の低下を伴う疼痛筋骨格疾患(例えば、椎間板脱出、椎間板突出、又は椎間軟骨症及び骨軟骨症のような他の椎間板障害)、頸髄障害、脊椎異形成、頸腕痛、腰部症候群、及び坐骨腰痛;及び脊髄損傷、骨粗しょう症、硬直/痙直、神経障害/神経痛(例えば、筋筋膜疼痛、三叉神経痛、帯状疱疹神経痛)、歯痛、外傷後疼痛(例えば、骨折)から生じるものなどの様々な原因の疼痛疾患の処置において、また術後処置において、及び下部痙攣性不全対麻痺症候群(lower spastic paraparesis syndrome)又は四肢不全麻痺(例えば、下部パラスパズムス(lower paraspasmus)、横断性脊髄炎、多発性硬化症、遺伝性下部痙性対麻痺(hereditary spastic paraplegia inferior)(Stuempel's 対麻痺)、脊髄血液循環の障害、下部痙攣性不全麻痺を伴う脳性麻痺(cerebral palsy with lower spastic paresis)、)の処置において、又は胆管若しくは腎疝痛の処置において有用であり得る。
【0048】
本発明の組み合わせの化合物は、同時に又は順次に又は固定された組み合わせにおいて投与することができる。それらは、単回投与形態において一緒に与えることができる。或いは、それらは同一又は異なった2つの製剤として投与することができる。それらは同時にあたえることができ、又は短い時間内に若しくは時間間隔を長くおいて(フルピルチンを夜に与えて、トラマドールを朝に与えるなど)投与することができる。
【0049】
本発明の組み合わせは、経口、経直腸、経静脈、経皮、皮下又は皮内に投与することができる。
【0050】
トラマドール及びフルピルチン又はそれらのそれぞれの薬学的に許容される塩の組み合わせを製剤することができる。例えば、錠剤、シロップ、ドロップ、カプセル、放出制御製剤、トローチ剤、丸薬、粉剤、粒状又は発泡製剤などである。錠剤を使用する場合は、通常固形製剤に用いる任意の薬剤担体を使用することができる。そのような担体の例としては、ステアリン酸マグネシウム、石こう、滑石、ゼラチン、アカシア、ステアリン酸、でんぷん、ラクトース及びスクロースが挙げられる。シロップ製剤は一般的に、香料添加剤又は着色剤とともに、例えばエタノール、ピーナッツ油、オリーブ油、グリセリン又は水などの液状担体中で、その化合物又はその塩の懸濁液又は溶液から成るだろう。組成物がカプセルの形態である場合、任意の通常のカプセル化が適切であり、例えば硬ゼラチンカプセル殻(shell)中で前述の担体を用いる。組成物が軟ゼラチン殻カプセルの形態である場合は、通常分散液又は懸濁液の調製に用いる任意の薬剤担体を考慮することができ(例えば、水性ゴム(gum)、セルロース、ケイ酸塩又は油)、そして軟ゼラチンカプセル殻中に組み入れることができる。薬力学的作用の持続時間を延ばすために、組み合わせ調製の一方又は双方の成分を遅延(retard)させることもできる。更に、その組み合わせは、坐剤(suppositoria)を用いることにより経直腸的に投与することができる。
【0051】
本発明の組み合わせの活性成分は、1日に1〜8回与えることができる(所望の活性を示すのに十分な)。好ましくは、活性成分を1日に約1〜4回(より好ましくは1日に2回)与える。
【0052】
投与する薬剤の量に関しては、トラマドールは、認可されたラベリングに従って、成人では50〜400mg/日の量で投与することができ、好ましくは疼痛の強さに依存して100〜400mg/日である。フルピルチンは、認可されたラベリングに従って、100〜800mg/日の量で投与することができ、好ましくは200〜400mg/日である。
【0053】
遅延された形態で投与される薬剤の量に関しては、トラマドールは、認可されたラベリングに従って、成人では100〜400mg/日の量で投与することができ、好ましくは疼痛の強さに依存して50〜200mg/日である。フルピルチンは、認可されたラベリングに従って、100〜600mg/日の量で投与することができ、好ましくは100〜200mg/日である。
【0054】
下記の薬剤投与形態は、本発明の組み合わせの提示の例を与えるものであり、それを限定するものではない。
【0055】
この組み合わせは、一部分のフルピルチン及び一部分のトラマドールを含む。トラマドールの単回投与量は、10〜50mg/投与である。フルピルチンの単回経口投与量は、50〜100mg/投与である。この組み合わせは、1日に1〜8回与えることができる。
【0056】
持続放出の組み合わせは、一部分の遅延されたフルピルチン及び一部分の遅延されたトラマドールを含む。トラマドールの単回投与量は、50〜200mg/投与である。フルピルチンの単回経口投与量は、100〜200mg/投与である。この組み合わせは、1日に1〜2回与えることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
疼痛の処置のための、トラマドールとの組み合わせでのフルピルチン又はそれらのそれぞれの生理学的に許容される塩の使用。
【請求項2】
前記疼痛が骨格筋緊張の増大により引き起こされる、請求項1に記載の使用。
【請求項3】
前記疼痛が癌における疼痛により引き起こされる、請求項1に記載の使用。
【請求項4】
リュウマチ性疼痛(関節症/関節炎)の処置のための、請求項1に記載の使用。
【請求項5】
前記疼痛が、例えば椎間板脱出、椎間板突出、又は椎間軟骨症及び骨軟骨症のような他の椎間板障害などの筋緊張過度及び運動性の低下を伴う疼痛筋骨格疾患、頸髄障害、脊椎異形成、頸腕痛、腰部症候群、並びに坐骨腰痛並びに脊髄損傷、骨粗しょう症、硬直/痙直から生じるものにより引き起こされる、請求項1に記載の使用。
【請求項6】
前記疼痛が、神経痛/神経障害(例えば、筋筋膜疼痛、三叉神経痛、帯状疱疹神経痛)により引き起こされる、請求項1に記載の使用。
【請求項7】
慢性的又は一時的な(緊張性)頭痛、又は片頭痛の処置のための、請求項1に記載の使用。
【請求項8】
術後又は外傷後疼痛(例えば、骨折)及び歯痛の処置のための、請求項1に記載の使用。
【請求項9】
前記疼痛が、下部痙攣性不全対麻痺症候群(lower spastic paraparesis syndrome)又は四肢不全麻痺(例えば、下部パラスパズムス(lower paraspasmus)、横断性脊髄炎、多発性硬化症、遺伝性下部痙性対麻痺(hereditary spastic paraplegia inferior)(Stuempel's 対麻痺)、脊髄血液循環の障害、下部痙攣性不全麻痺を伴う脳性麻痺(cerebral palsy with lower spastic paresis)により引き起こされる、請求項1に記載の使用。
【請求項10】
前記疼痛が、胆管若しくは腎疝痛により引き起こされる、請求項1に記載の使用。
【請求項11】
疼痛の処置のための経口、経直腸、経静脈、経皮、皮下又は皮内投与に対する薬剤を製造するための、トラマドールとの組み合わせでのフルピルチン又はそれらのそれぞれの生理学的に許容される塩の使用。
【請求項12】
トラマドールの1日の投与量が50〜400mg/日、好ましくは100〜400mg/日であり、且つフルピルチンの1日の投与量が100〜800mg/日、好ましくは200〜400mg/日であることを特徴とする、請求項1〜11のいずれか一項に記載の使用。

【公表番号】特表2007−514672(P2007−514672A)
【公表日】平成19年6月7日(2007.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−544286(P2006−544286)
【出願日】平成16年12月9日(2004.12.9)
【国際出願番号】PCT/EP2004/014025
【国際公開番号】WO2005/058420
【国際公開日】平成17年6月30日(2005.6.30)
【出願人】(502071986)メダ ファーマ ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング ウント コンパニー コマンディトゲゼルシャフト (3)
【Fターム(参考)】