説明

フルボ酸鉄含有組成物とその製造方法、肥料及び磯焼け防止剤

【課題】アルミ系凝集剤の使用量を削減し、フルボ酸鉄を製紙排水から人工的に製造する方法、及び得られた当該フルボ酸鉄を海岸の磯焼け防止ないし磯焼け改良材として、また当該フルボ酸鉄を単独または有機肥料を混合して農業作物、緑化等用の肥料として有効利用する発明の提供。
【解決手段】製紙排水に、Si/Feのモル比が0.1〜1.0の範囲であるポリシリカ鉄凝集剤を添加して製紙スラッジを生成させ、製紙スラッジ中の腐植物質を鉄化してフルボ酸鉄を生成させることを特徴とするフルボ酸鉄含有組成物の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、製紙排水スラッジを原料としたフルボ酸鉄含有組成物とその製造方法、それを有効成分として含む肥料及び磯焼け防止剤に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、紙パルプ産業は、廃棄物の最終処分量の低減やその有効利用方法を検討している。その最終処分される廃棄物の中に製紙スラッジがある。現在、製紙スラッジの利用方法は、排水処理工程で硫酸アルミニウム又はポリ塩化アルミニウム等のアルミ系無機凝集剤を使用して製紙スラッジを凝集沈殿させ、この凝集沈殿物をセメント原料、製鉄用保温材、土壌改良材等の分野に利用する、あるいは凝集沈殿物を焼却炉で焼却して有機物を除去して減量化し、その残渣としての焼却灰をセメント原料、路盤材及び製鉄用保温材として利用する方法等が知られている。更には、焼却灰からゼオライトの合成等も研究されている。
【0003】
しかしながら、前記した凝集沈殿物は、アルミ系無機凝集剤を使用したものであるため、これを土壌改良材として使用する場合、アルミ成分が土壌中のリン分を吸着してリン酸アルミニウムを形成し、植物が成長するのに必要とする土壌中のリン成分を減少させ、農業、林業分野に使用する場合は、農産物あるいは林業の生産性にマイナス影響を与えるという問題がある。
【0004】
また凝集沈殿物をセメント原料、製鉄用保温材に使用する場合、公共投資の削減等でセメント及び鉄の使用量の減少に伴い、このような用途分野への利用も減少しており、製紙スラッジの30%程度は利用しきれず埋立て処分されているのが現状であり、新たな利用分野の開拓が求められている。
【0005】
紙の主原料であるパルプ繊維を採取した後も製紙スラッジには、有機成分として未採取のパルプ繊維、パルプ以外の繊維性物質、リグニン等の有機成分が多く含まれていることから、本発明者はこの有機成分を含む製紙スラッジの有効活用をはかるべく種々検討してきた。
【0006】
検討の結果、本発明者は、製紙スラッジからフルボ酸鉄を作ることに着目した。因みに、フルボ酸鉄を構成するフルボ酸とは、腐植物質の一部で、植物が微生物により分解され腐植して生成されるものである。このフルボ酸が二価の鉄イオンと結びついたフルボ酸鉄は、窒素、リン、カリウムなどの無機物質と呼ばれる栄養分と一緒に海藻に吸収されるもので、植物プランクトンや海藻類にとって不可欠な栄養分をいわれている。またフルボ酸鉄は、農業作物や草木にとっても有効肥料となり得るもので、その利用効果は極めて優れている。
【0007】
近年、各地沿岸部の海域で魚介類の漁獲量減少、コンブ、カジメ等の海藻類が消え、岩場が石灰藻に覆われる磯焼け(海の砂漠化)によりウニ、アワビ等が育たなくなったのは、森林の伐採・荒廃により落ち葉、茎、枯れ木等の腐植化−フルボ酸鉄化の減少、またダム建設、護岸工事等により河川と海が遮断され、海に流れ出すフルボ酸鉄がせき止められ、フルボ酸鉄の海への流出量が減少したことが根本原因であるといわれている(例えば、特許文献1、非特許文献1参照。)。
【0008】
そこで本発明者は、従来のアルミ系凝集剤の使用量を削減し、製紙スラッジから人工的にフルボ酸鉄を作り、これを海岸の磯焼け防止ないし磯焼け改良材として、また当該フルボ酸鉄を農業作物、緑化等用の肥料として、有効利用することを課題として種々研究を行ってきた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特許第3829140号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】松永勝彦著「森が消えれば海も死ぬ」、講談社、1993年発行
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、アルミ系凝集剤の使用量を削減し、フルボ酸鉄を製紙スラッジから人工的に製造する方法、及び得られた当該フルボ酸鉄を海岸の磯焼け防止ないし磯焼け改良材として、また当該フルボ酸鉄を単独または有機肥料を混合して農業作物、緑化等用の肥料として有効利用する発明を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、上記課題を解決するべき鋭意検討した結果、紙を製造する際に排出する製紙排水に、ポリシリカ鉄凝集剤を添加し、排水中の腐植物質を鉄化することにより、製紙スラッジからフルボ酸鉄が作り出せることを見出し、本発明を完成させた。
【0013】
ちなみに、ポリシリカ鉄凝集剤は、川、湖水及びダムの水の浄水処理剤として使用すると、水中の分散土等が凝集し、この凝集剤を含む凝集土を稲作の土壌改良材として利用した場合、稲は病害虫に強く、米の増産へも寄与出来る事が解って来た。また当該凝集土のこの様な土壌改良機能は稲作土壌の改良に限らず、他の農作土壌の改良にも効果的であり、植物にとってシリカと鉄成分は重要なものである。
【0014】
即ち、本発明は、製紙排水に、Si/Feのモル比が0.1〜1.0の範囲であるポリシリカ鉄凝集剤を添加して製紙スラッジを生成させ、製紙スラッジ中の腐植物質を鉄化してフルボ酸鉄を生成させることを特徴とするフルボ酸鉄含有組成物の製造方法を提供する。
【0015】
本発明のフルボ酸鉄含有組成物の製造方法において、前記製紙スラッジを放置熟成させ、次いで該製紙スラッジに固液分離処理を行ってフルボ酸鉄を含有する固体状のフルボ酸鉄含有組成物を得ることが好ましい。
【0016】
本発明のフルボ酸鉄含有組成物の製造方法において、前記製紙スラッジを放置熟成させ、次いで該製紙スラッジに固液分離処理を行ってフルボ酸鉄を含有する液体状のフルボ酸鉄含有組成物を得ることもできる。
【0017】
本発明のフルボ酸鉄含有組成物の製造方法において、製紙排水に、前記ポリシリカ鉄凝集剤を100〜500mg/Lの範囲で添加することが好ましい。
【0018】
本発明のフルボ酸鉄含有組成物の製造方法において、前記ポリシリカ鉄凝集剤とともに、アルミ系凝集剤を添加することが好ましい。
【0019】
本発明のフルボ酸鉄含有組成物の製造方法において、製紙排水に、前記ポリシリカ鉄凝集剤を100〜500mg/L、前記アルミ系凝集剤を200〜600mg/Lの範囲で添加することが好ましい。
【0020】
本発明のフルボ酸鉄含有組成物の製造方法において、前記ポリシリカ鉄凝集剤とともに、アルミ系凝集剤と有機高分子凝集剤との一方又は両方を添加することもできる。
【0021】
また本発明は、前記した本発明に係るフルボ酸鉄含有組成物の製造方法により得られ、製紙排水に由来するフルボ酸がポリシリカ鉄凝集剤に由来する鉄と結合したフルボ酸鉄を含有することを特徴とするフルボ酸鉄含有組成物を提供する。
【0022】
また本発明は、前記した本発明に係るフルボ酸鉄含有組成物を含む肥料を提供する。
【0023】
本発明の肥料において、前記フルボ酸鉄含有組成物と、無機肥料又は有機質肥料の1種又は2種以上とを混合してなるものが好ましい。
【0024】
また本発明は、前記した本発明に係るフルボ酸鉄含有組成物を含む磯焼け防止剤を提供する。
【0025】
本発明の磯焼け防止剤において、前記フルボ酸鉄含有組成物と、無機肥料又は有機質肥料の1種又は2種以上とを混合してなるものが好ましい。
【発明の効果】
【0026】
本発明のフルボ酸鉄含有組成物の製造方法は、従来、処分に問題があった製紙スラッジを用い、海岸の磯焼け防止剤や有機質肥料として有用なフルボ酸鉄含有組成物を製造することができ、製紙スラッジの新たな用途が開発できる。この事は環境負荷の低減、資源の有効活用、リサイクル化に貢献するものである。
本発明の製造方法で得られるフルボ酸鉄含有組成物は、海藻や植物プランクトンの成育に有効なフルボ酸鉄やシリカ分を含んでおり、海岸の磯焼け防止剤として、また植物生理活性効果があるため農業作物用、緑化等用の肥料として優れている。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明の特徴は、製紙排水をフルボ酸鉄生成の原料とするが、基になる製紙排水は、製紙工場から排出される例えば古紙から再生パルプを製造する際に排出される古紙パルプ排水、クラフトパルプ(KP)を製造する際に排出されるクラフトパルプ排水、サルファイトパルプ(SP)を製造する際に排出されるサルファイトパルプ排水、機械パルプを製造する際に排出される機械パルプ排水、前記パルプの懸濁液から紙を抄紙する際に排出される抄紙工程排水等が使用できる。
【0028】
本発明において、製紙排水に添加する凝集剤は、ポリシリカ鉄凝集剤(シリカ−鉄系無機高分子凝集剤、PSIなどとも称される)を単独で使用し、又はアルミ系凝集剤と併用する。
【0029】
本発明で使用するポリシリカ鉄凝集剤は、特許第4014896号公報、特開2008−307529号公報に記載の発明によって得られる凝集剤、即ち、ケイ酸塩水溶液を塩酸、硫酸等の無機酸水溶液へ添加してシリカゾル(重合ケイ酸)を生成熟成した後、この熟成シリカゾルに、Si/Feのモル比0.1〜1.0に相当する第二鉄塩水溶液を混合する方法によって得られるポリシリカ鉄凝集剤が好適に使用できる。
【0030】
Si/Feのモル比0.1〜1.0のポリシリカ鉄凝集剤と併用するアルミ系無機凝集剤は、硫酸アルミニウム、ポリ塩化アルミニウム等が好適に使用できる。Si/Feのモル比0.1〜1.0のポリシリカ鉄凝集剤は、鉄の含有量が多いことで、製紙排水に添加した際に、凝集性に優れ、製紙排水中に含まれる腐植物質を鉄化してフルボ酸鉄を生成する能力にも優れている。該モル比が0.1未満では凝集性が低下し、1.0を超えるとフルボ酸鉄を生成する能力が低下するおそれがある。このポリシリカ鉄凝集剤のSi/Feのモル比は、0.3〜0.5の範囲であることがより好ましい。
【0031】
Si/Feのモル比0.1〜1.0のポリシリカ鉄凝集剤の製紙排水への添加量は、製紙排水の種類によって適量も異なることから、製紙排水の種類を考慮しながら決定することになる。
かかる凝集剤を単独で使用する場合は、通常100〜500mg/Lの範囲で適性量を見出すことになる。因みに、100mg/L以下では所望の効果を得ることが出来難く、500mg/L以上を添加すると、排水が着色し環境面で好ましくない。
【0032】
ポリシリカ鉄凝集剤と併用する場合のアルミ系凝集剤の添加量は、製紙排水の種類を考慮しながら決定することになるが、200〜600mg/Lの範囲で適性量を見出すことになる。
因みに、200mg/L以下の添加量では、排水の凝集性が悪く排水濁度も悪くなる。また600mg/L以上の添加量では、凝集性は良くなるが、反面、得られるフルボ酸鉄含有組成物中のアルミ成分が多くなり、アルミ成分が土壌中のリン分を吸着してリン酸アルミニウムを形成し、植物が成長するのに必要とする土壌中のリン成分を減少させるという問題が惹起される。
【0033】
前記のポリシリカ鉄凝集剤を単独使用する場合、及びポリシリカ鉄凝集剤とアルミ系凝集剤を併用する場合も、これら無機系凝集剤を添加した後に凝集フロックをより大きくするために、有機高分子凝集剤を添加するのが望ましい。有機高分子凝集剤としては、アニオン系高分子凝集剤、カチオン系高分子凝集剤、両性高分子凝集剤、ノニオン系高分子凝集剤などの周知の有機高分子凝集剤の中から、製紙排水の種類を考慮しながら決定することができる。因みに有機高分子凝集剤の添加量は、製紙排水の種類を考慮して1〜2mg/Lの範囲で添加する。
【0034】
前記無機系凝集剤及び有機高分子凝集剤を添加して排水を凝集沈降させる工程は、シックナーで行われるが、沈降した製紙スラッジは抜出し、熟成槽で温度5〜60℃で熟成し、該製紙スラッジ中の腐植物質を鉄化した後、濾過機(又は遠心分離機)で脱水する。濾液はフルボ酸鉄を含んだ有機質液肥料として利用でき、水分40〜55質量%程度に脱水したスラッジ分はそのままフルボ酸鉄を含んだ有機質肥料として利用できる。
【0035】
本発明により得られるフルボ酸鉄含有組成物の有効成分であるフルボ酸鉄は、海藻や植物プランクトンの栄養分として機能することから、このフルボ酸鉄含有組成物は、それ自体で海の緑化材(磯焼け防止剤又は磯焼け改良剤)として有用である。
【0036】
また、フルボ酸鉄は、それ自体でも農業作物、緑化等用の肥料として有用であるが、用途目的に応じて、このフルボ酸鉄に更に他の肥料を配合した有機質肥料に構成することも可能である。
【0037】
前記の他の肥料とは、窒素質肥料、りん酸質肥料、加里質肥料、石灰質肥料、苦土質肥料、ケイ酸質肥料、微量要素肥料、複合肥等の無機肥料又は有機質肥料等であり、これら肥料の一種又は複数種をフルボ酸鉄と混合する事で、速効性の有機質肥料に調製することも可能である。
【0038】
例えば、フルボ酸鉄含有組成物と、雑草種及び家畜糞、菜種油粕、焼酎粕等とを混合したものは、砂漠に鋤込む緑化用肥料として好適な材料となり、また粘土質の土壌に鋤込むと農地の土壌改良用肥料としても好適な材料となる。
【0039】
フルボ酸は、その構造は未だ詳しく知られていないが、カルボキシル基(−COOH)やカルボニル基(−CO−)を有する。フルボ酸鉄は、製紙排水、製紙スラッジ中の腐植性物質(有機酸)と鉄とが反応し生成すると推定している。このフルボ酸鉄は水溶性で、安定に存在し、植物プランクトン、昆布等の藻類、牡蠣養殖の栄養剤及びピーナツ、サトウキビ、木材育種等の植物の肥料として有用である。
【実施例】
【0040】
以下、本発明を更に具体的に説明するため実施例を示すが、本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。
尚、実施例および比較例に記載した測定値は、以下の方法によって測定したものである。
【0041】
<フルボ酸鉄測定サンプルの作製方法>
ポリシリカ鉄凝集剤で処理した製紙スラッジ500gと水1Lを1.5Lのペットボトルへ入れ混合して、外気温で、1ヵ月放置熟成した後、上澄みを300mLサンプリングし、分析試料とした。
【0042】
<フルボ酸鉄の分析方法>
フルボ酸鉄の分析は、株式会社日本食品機能分析研究所(福岡県福岡市)へ分析依頼した。
分析方法は、分析試料を炉紙で濾過し、共雑物を除去した後、全有機炭素分析装置(島津製作所社製、TOC−V型)を用いて全有機炭素(TOC)量を測定した。
次にこの試料に塩酸を添加し、液pHを2以下にして、静置すると沈澱物が生成する。この液を濾過し、濾液を前記の全有機炭素分析装置でTOC量を測定した。
このTOCを2倍したものを、フルボ酸量とした。
フルボ酸鉄中の鉄分はICP(発光分光分析装置)で分析した。
【0043】
<製紙スラッジの組成分析>
製紙スラッジを110℃で、1日乾燥したものを蛍光X線分析装置(リガク社製、System 3270E型)で分析した。
【0044】
[実施例1]
トイレットペーパー排水5000m/Dを、ポリシリカ鉄凝集剤(タイキ薬品工業社製 、商品名「PSI−025」、Si/Feのモル比が0.25)938mL/min.(添加率300mg/L)、アルミ系凝集剤(多木化学社製、商品名「TKフロック」)578mL/min.(添加率200mg/L)とアニオン系高分子凝集剤(ダイヤリトリックス社製)1.3mg/Lを添加して凝集処理し、捕集された製紙スラッジ10gを採取し、これを乾燥器に入れ、110℃、12時間乾燥した。この時の水分は42%であった。この乾燥物の無機成分の元素組成を蛍光X線装置で分析した。分析結果を表1に示す。
【0045】
次に製紙スラッジ500gと水1.3Lを1.5Lペットボトルへ入れ、外気温で30日放置熟成した。この放置熟成後におけるフルボ酸鉄の生成状況を確認するため、放置熟成後、上澄液を300mLサンプリングして、フルボ酸鉄を分析した。分析結果は表2に示す通りであった。
この表2のデータからも明らかなように、本発明の製造方法によって製紙スラッジからフルボ酸鉄が生成していることが証明されるものである。
【0046】
[実施例2]
実施例1において、排水1Lへポリシリカ鉄凝集剤(タイキ薬品工業社製、商品名「PSI−025」)450μL(添加率 500mg/L)添加し、撹拌速度150rpmで、3分撹拌した後、撹拌速度を60rpmに低下させて、アニオン系高分子凝集剤1.6mg/L添加し、凝集沈殿させた。この時のpHは6.96であった。この沈澱物を濾過し、製紙スラッジを得た。これを実施例1と同様に乾燥して組成分析した。分析結果を表1に示す。
【0047】
[比較例1]
実施例1において、アルミ系凝集剤(多木化学社製、商品名「TKフロック」)2315mL/min.(添加率 800mg/L)のみで処理した以外は実施例1と同様にして製紙スラッジを得た。この製紙スラッジを実施例1と同様に分析した。分析結果を表1に、有機酸鉄の分析結果を表2に示す。
【0048】
[比較例2]
特許第4014896号公報、特開2008−307529号公報に記載に従って、ケイ酸塩水溶液を塩酸、硫酸等の無機酸水溶液へ添加してシリカゾル(重合ケイ酸)を生成熟成した後、この熟成シリカゾルに、Si/Feのモル比1.1に相当する第二鉄塩水溶液を混合する方法によってSi/Feのモル比が1.1であるポリシリカ鉄凝集剤を作製した。
実施例1で用いたものと同じ排水原液1Lをサンプリングし、これに前記Si/Feのモル比が1.1であるポリシリカ鉄凝集剤を277μL(添加率 300mg/L)とアルミ系凝集剤166μL(添加率 200mg/L)を添加し、撹拌速度150rpmで3分間撹拌した後、撹拌速度を50rpmへ減速し、5分間撹拌した。次にこの撹拌速度で、アニオン系高分子凝集剤を1.3mg/L添加し、5分間撹拌した後停止し、10分間静置し、その上澄み液の濁度を濁度計(笠原理科工業社製、TCR−5Z)で測定した。その結果、上澄み液の濁度が30となり、前記Si/Feのモル比が1.1であるポリシリカ鉄凝集剤は凝集性が悪かった。
【0049】
[比較例3]
特許第4014896号公報、特開2008−307529号公報に記載に従って、ケイ酸塩水溶液を塩酸、硫酸等の無機酸水溶液へ添加してシリカゾル(重合ケイ酸)を生成熟成した後、この熟成シリカゾルに、Si/Feのモル比0.08に相当する第二鉄塩水溶液を混合する方法によってSi/Feのモル比が0.08であるポリシリカ鉄凝集剤を作製した。
比較例2において、ポリシリカ鉄凝集剤をSi/Feのモル比が0.08であるポリシリカ鉄凝集剤に代え、それ以外は比較例2と同様にして排水の凝集処理を行った。本例の場合、塩化第二鉄の量が多くなり、処理後の上澄み液の濁度が80となり、前記Si/Feのモル比が0.08であるポリシリカ鉄凝集剤は凝集性が悪かった。
【0050】
【表1】

【0051】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明のフルボ酸鉄含有組成物の製造方法は、従来、処分に問題があった製紙スラッジを用い、海岸の磯焼け防止剤や有機質肥料として有用なフルボ酸鉄含有組成物を製造することができ、製紙スラッジの新たな用途が開発できる。この事は環境負荷の低減、資源の有効活用、リサイクル化に貢献するものである。
本発明の製造方法で得られるフルボ酸鉄含有組成物は、海藻や植物プランクトンの成育に有効なフルボ酸鉄やシリカ分を含んでおり、海岸の磯焼け防止剤として、また植物生理活性効果があるため農業作物用、緑化等用の肥料として優れている。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
製紙排水に、Si/Feのモル比が0.1〜1.0の範囲であるポリシリカ鉄凝集剤を添加して製紙スラッジを生成させ、製紙スラッジ中の腐植物質を鉄化してフルボ酸鉄を生成させることを特徴とするフルボ酸鉄含有組成物の製造方法。
【請求項2】
前記製紙スラッジを放置熟成させ、次いで該製紙スラッジに固液分離処理を行ってフルボ酸鉄を含有する固体状のフルボ酸鉄含有組成物を得ることを特徴とする請求項1に記載のフルボ酸鉄含有組成物の製造方法。
【請求項3】
前記製紙スラッジを放置熟成させ、次いで該製紙スラッジに固液分離処理を行ってフルボ酸鉄を含有する液体状のフルボ酸鉄含有組成物を得ることを特徴とする請求項1に記載のフルボ酸鉄含有組成物の製造方法。
【請求項4】
製紙排水に、前記ポリシリカ鉄凝集剤を100〜500mg/Lの範囲で添加することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のフルボ酸鉄含有組成物の製造方法。
【請求項5】
前記ポリシリカ鉄凝集剤とともに、アルミ系凝集剤を添加することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のフルボ酸鉄含有組成物の製造方法。
【請求項6】
製紙排水に、前記ポリシリカ鉄凝集剤を100〜500mg/L、前記アルミ系凝集剤を200〜600mg/Lの範囲で添加することを特徴とする請求項5に記載のフルボ酸鉄含有組成物の製造方法。
【請求項7】
前記ポリシリカ鉄凝集剤とともに、アルミ系凝集剤と有機高分子凝集剤との一方又は両方を添加することを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のフルボ酸鉄含有組成物の製造方法。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項に記載のフルボ酸鉄含有組成物の製造方法により得られ、製紙排水に由来するフルボ酸がポリシリカ鉄凝集剤に由来する鉄と結合したフルボ酸鉄を含有することを特徴とするフルボ酸鉄含有組成物。
【請求項9】
請求項8に記載のフルボ酸鉄含有組成物を含む肥料。
【請求項10】
前記フルボ酸鉄含有組成物と、無機肥料又は有機質肥料の1種又は2種以上とを混合してなる請求項9に記載の肥料。
【請求項11】
請求項8に記載のフルボ酸鉄含有組成物を含む磯焼け防止剤。
【請求項12】
前記フルボ酸鉄含有組成物と、無機肥料又は有機質肥料の1種又は2種以上とを混合してなる請求項11に記載の磯焼け防止剤。

【公開番号】特開2011−121788(P2011−121788A)
【公開日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−278339(P2009−278339)
【出願日】平成21年12月8日(2009.12.8)
【出願人】(391052574)三光株式会社 (16)
【Fターム(参考)】