説明

フレキシブル酸化物半導体電極及びそれを用いた色素増感太陽電池

【課題】酸化物半導体電極を屋外で使用した場合でも湿気による酸化物半導体層の変換効率の低下がない酸化物半導体電極と素子構成を簡略化し、容易に生産可能なプラスチック色素増感太陽電池を提供する。
【解決手段】可撓性ポリエステル基材上2に接着層3と、透明電極4と、増感色素を担持した酸化物半導体微粒子を有する酸化物半導体層4とがこの順に形成された酸化物半導体電極1であって、前記接着層の水蒸気透過度が前記可撓性ポリエステル基材よりも小さい酸化物半導体電極、及び該電極と対向電極と電解質層を有する色素増感太陽電池。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は色素増感型太陽電池の酸化物半導体電極に係り、水蒸気透過性の低い接着層を使用することにより耐久性の高いプラスチッック色素増感太陽電池を提供する。
【背景技術】
【0002】
地球温暖化等の環境問題が世界的に進行している近年、環境負荷が小さなクリーンエネルギーとして太陽光発電が注目を浴びており、積極的な研究開発が進められている。このような太陽電池として、単結晶シリコン太陽電池、多結晶シリコン太陽電池、アモルファスシリコン太陽電池などが既に実用化されているが、製造コストが高い、製造段階でのエネルギー消費が大きいといった問題を抱えている。そのような問題を受けて低コスト化の可能性が高い新規な太陽電池として色素増感型太陽電池が現在注目を集め、精力的に研究開発が行われている。
【0003】
一方、高性能な樹脂フィルム基材を用いた色素増感太陽電池を製造する方法が特許文献1に開示されている。樹脂フィルム基材を基材に用いた場合は、基材の温度の制約上酸化物半導体層を600℃程度の高温に焼成することが出来ないために、低い変換効率に留まっていたが、特許文献1には上記課題を解決するものとして耐熱性の高い基板上に酸化物半導体層を形成し、焼成した後に樹脂フィルム基材上に転写するという手法が開示されている。
【0004】
このような転写法を用いた方法によればフレキシブル性があり変換効率の高い色素増感太陽電池を得ることができるが、色素増感太陽電池は屋外で使用されることが多く特に水によって酸化物半導体層の変換効率が低下してしまうため、上述の特許文献1による製造方法においては酸化物半導体層の水による劣化を防止するために水蒸気バリア層を別途樹脂フィルム基材の表若しくは裏に設ける必用があった。このため従来の製造方法においては別途層を設けるために追加の工程が必要になり、工程が複雑で歩留まりが悪いという課題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−184475号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記目的に鑑みてなされたものであり、その第一の目的は転写法に用いる接着層を水蒸気透過性の低い接着層とすることにより素子構成を簡略化し、容易に生産可能なプラスチック色素増感太陽電池を提供する。
【0007】
本発明は、可撓性ポリエステル基材上に接着層と、透明電極と、増感色素を担持した酸化物半導体微粒子を有する酸化物半導体層とがこの順に形成された酸化物半導体電極であって、前記接着層の水蒸気透過度が前記可撓性ポリエステル基材よりも小さいことを特徴とする酸化物半導体電極を提供する。
【0008】
このような構成により酸化物半導体電極を屋外で使用した場合でも湿気による酸化物半導体層の変換効率の低下がなく、また酸化物半導体電極に別途水蒸気バリア性の層を積層する必要がないので構成が複雑にならず製造工程も簡略化できる。
【0009】
本発明は、前記接着層が、熱可塑性樹脂であることを特徴とする酸化物半導体電極を提供する。
【0010】
このような構成により酸化物半導体電極を屋外で使用した場合でも湿気による酸化物半導体層の変換効率の低下がなく、また酸化物半導体電極に別途水蒸気バリア性の層を積層する必要がないので構成が複雑でなく製造工程も簡略化できる。また接着層が熱可塑性樹脂からなるので可撓性ポリエステル基材や透明電極への接着性を柔軟に調整でき、より製造工程を簡略化できる。
【0011】
本発明は、前記酸化物半導体電極と、前記酸化物半導体電極の前記酸化物半導体層と対向配置された対抗電極と、前記酸化物半導体電極と前記対向電極の間に充電された電解質層とを有することを特徴とする色素増感太陽電池を提供する。
【0012】
本発明は耐熱基材上に増感色素を担持した酸化物半導体微粒子を有する酸化物半導体層を形成し、前記酸化物半導体層上に透明電極を形成する工程と、
前記耐熱基材とは別の可撓性ポリエステル基材に水蒸気透過度が前記可撓性ポリエステル基材よりも小さい接着層を形成する工程と、
前記透明電極と、前記可撓性ポリエステル基材とを前記接着層を介して接合する工程と、
前記耐熱基材を剥離する工程と、
を有することを特徴とする酸化物半導体電極の製造方法を提供する。
【0013】
本発明は耐熱基材上に増感色素を担持した酸化物半導体微粒子を有する酸化物半導体層を形成し、前記酸化物半導体層上に透明電極を形成する工程と、
前記耐熱基材とは別の可撓性ポリエステル基材に水蒸気透過度が前記可撓性ポリエステル基材よりも小さい接着層を形成する工程と、
前記透明電極と、前記可撓性ポリエステル基材とを前記接着層を介して接合する工程と、
前記耐熱基材を剥離して酸化物半導体電極を製造する工程と、
前記酸化物半導体電極に対向する対向電極を製造する工程と、
前記酸化物半導体電極と前記対向電極との間に介在する電解質層を形成する工程と、
を有することを特徴とする色素増感型太陽電池の製造方法を提供する。
【0014】
このような構成により酸化物半導体電極を屋外で使用した場合でも湿気による酸化物半導体層の変換効率の低下がなく、また色素増感太陽電池に別途水蒸気バリア性の層を積層する必要がないので構成が複雑でなく製造工程を簡略化できる。
【発明の効果】
【0015】
本発明の酸化物半導体電極は、接着層を水蒸気透過性の低い接着層とすることにより、別途水蒸気バリア層を積層することなく容易に製造でき、屋外で使用した場合でも湿気による酸化物半導体層の変換効率の低下がない耐久性の優れたものとすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の酸化物半導体電極の一例を示す概略図である。
【図2】本発明の色素増感太陽電池の一例を示す概略図である。
【図3】本発明の酸化物半導体電極形成用転写体の製造方法の一例を示す概略図である。
【図4】本発明の酸化物半導体電極の製造方法の一例を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の酸化物半導体電極および色素増感型太陽電池について説明する。
【0018】
A.酸化物半導体電極
まず、本発明の酸化物半導体電極について説明する。
本発明の酸化物半導体電極は、接着層を介して接合された可撓性ポリエステル基材と透明電極と、透明電極上に増感色素を担持した酸化物半導体微粒子を有する酸化物半導体層とが形成された酸化物半導体電極であって、前記接着層の水蒸気透過度が前記可撓性ポリエステル基材よりも小さいことを特徴とするものである。
【0019】
このような本発明の酸化物半導体電極について図を参照しながら説明する。図1は本発明の酸化物半導体電極の一例を示す概略図である。図1に例示するように本発明の酸化物半導体電極1は、可撓性ポリエステル基材2上に接着層3を介して透明電極4を形成し、透明電極4上に増感色素を担持した酸化物半導体微粒子を有する酸化物半導体層5を形成した構成である。以下、このような本発明の酸化物半導体電極の各構成について詳細に説明する。
【0020】
(可撓性ポリエステル基材)
本発明に用いる可撓性ポリエステル基材2としては、フレキシブル性と透明性があり耐熱性に優れたものであれば特に限定はされない。具体的には良好な光線透過率や電解液に対する耐性、気体の透過が少ない等の点からポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等からなる基材を挙げることができる。
【0021】
(接着層)
本発明に用いる接着層3としては、水蒸気透過度が可撓性ポリエステル基材2よりも小さく、可撓性ポリエステル基材2と透明電極4との接着性を有するものを用いることができる。一般的に厚みが50μmのポリエステル基材の水蒸気透過度は、水蒸気透過率測定装置(米国MOCON社製、商品名:OX-TRAN 2/20)を用いて、温度25℃、湿度100%RHで20g/m2/day程度であり、接着層3の水蒸気透過度は同じ測定条件で(3g/m2/day)以下であるものを用いることができる。このような構成により湿気に弱い酸化物半導体層5への可撓性ポリエステル基材2側から湿気の混入を防止でき、結果として本酸化物半導体電極1を用いて形成した図2のような色素増感電池を外気に触れる場所で使用しても変換効率の低下がなく安定した性能を発揮できる。
【0022】
また接着層3としてはポリエチレン、ポリプロピレン、ポリイソブチレン、ポリスチレン、エチレン‐プロピレンゴム等のポリオレフィン、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル樹脂エチレン‐酢酸ビニル共重合体、エチレン‐アクリル酸共重合体、エチルセルロース、トリ酢酸セルロース等のセルロース誘導体、ポリ(メタ)アクリル酸とそのエステル化合物、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラール等のポリビニルアセタール、ポリアセタール、ポリアミド、ポリイミド、ナイロン、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、フッ素樹脂、ポリカーボネート、尿素樹脂、メラミン樹脂、フェノール樹脂、レゾルシノール樹脂、フラン樹脂等の熱可塑性樹脂を用いることもできる。また熱で溶融させて接着性を制御できるので可撓性ポリエステル基材2と透明電極4との接着性を容易に調整できるので好ましく用いられる。
【0023】
(透明電極)
透明電極4を形成する材料としては、導電性に優れたもので、かつ電解質に対する腐食性がないものであれば特に限定はされないが、例えば本発明の酸化物半導体電極を用いて製造された色素増感型太陽電池において、透明電極4が光の受光面側に位置する場合には光の透過性に優れているものであることが好ましい。例えば、光の透過性に優れた材料としてはSnO2、ITO、IZO、ZnO等を挙げることができる。中でも、フッ素ドープしたSnO2、ITOであることが好ましい。導電性および透過性の両方に優れているからである。
【0024】
さらに、透明電極4を形成する材料は、本発明により製造された酸化物半導体電極1を用いて色素増感型太陽電池6を製造する際に、対向する電極として設ける対向電極8を形成する材料の仕事関数等を考慮して材料を選択することが好ましい。例えば、仕事関数が高い材料としては、Au、Ag、Co、Ni、Pt、C、ITO、SnO2、フッ素をドープしたSnO2、ZnO等を挙げることができる。一方、仕事関数が低い材料としては、Li、In、Al、Ca、Mg、Sm、Tb、Yb、Zr、LiF等を挙げることができる。
【0025】
また、透明電極4は、単層からなる場合であってもよく、また異なる仕事関数の材料を用い積層されてなる場合であってもよい。このような透明電極4の膜厚としては単層からなる透明電極の場合はその膜厚が、複数層からなる場合は総膜厚が、0.1〜2000nmの範囲内、その中でも1nm〜500nmの範囲内であることが好ましい。
【0026】
(酸化物半導体層)
本発明に用いられる酸化物半導体層5は、金属酸化物微粒子と有機樹脂から構成されるものであり、例えば上記材料を含有する酸化物半導体層用塗工液を塗布した後、固化、焼成工程を経て多孔質体として形成し、さらに細孔に色素増感剤が担持されたものを意味する。色素増感型太陽電池として作製された際にその細孔に担持された色素増感剤から光照射により生じた電荷を透明電極4に伝導する部材として機能する光電変換層を構成するものである。
【0027】
酸化物半導体層5の金属酸化物微粒子としては、金属酸化物微粒子に担持されている増感色素から発生した電荷を透明電極4へ伝導させることができるものであれば特に限定はされない。具体的には、TiO2、SnO2、ZnO、ITOを挙げることができる。また上記微粒子のうちいずれか一種を使用しても良く、また2種以上を混合して使用してもよい。中でもTiO2、ZnOを好ましく用いることができる。さらにこれらのうち一種をコア微粒子とし、他の金属酸化物半導体微粒子により、コア微粒子を包含してシェルを形成するコアシェル構造としてもよい。
【0028】
また酸化物半導体層5の形成に使用可能な樹脂としては、セルロース系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリアクリル酸エステル系樹脂、ポリアクリル系樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリビニルアセタール系樹脂、フッ素系樹脂、ポリイミド樹脂などのほか、ポリエチレングリコールのような多価アルコール類等を挙げることができる。
【0029】
また酸化物半導体層5に含有された金属酸化物半導体微粒子の粒径は特に限定はされないが、具体的には1nm〜1μmの範囲内、その中でも10nm〜500nmの範囲内であることが好ましい。上記範囲よりも粒子径が小さい場合は、そのような微粒子を製造すること自体が困難であり、各々の粒子が凝集し二次粒子を形成する場合があるため好ましくない。一方、上記範囲よりも粒子径が大きい場合は、酸化物半導体層を厚膜化させる場合があり、抵抗が高くなるため好ましくない。
【0030】
また、上記範囲内の粒子径を有し、粒径の異なる同種または異種の金属酸化物半導体微粒子を混合して用いてもよい。これにより、光散乱効果を高めることができ、最終的に得られる酸化物半導体層5でより多くの光を閉じ込めることができるため色素増感剤における光吸収を効率的に行うことができるからである。例えば10〜50nmの範囲内にある金属酸化物半導体微粒子と50〜200nmの範囲内にある金属酸化物半導体微粒子とを混合して用いる場合を挙げることができる。
【0031】
(剥離層兼絶縁層)
本発明に用いられる酸化物半導体層5には、図示はしないが剥離層兼絶縁層をさらに積層することが好ましい。剥離層兼絶縁層は絶縁性の金属酸化物微粒子と有機樹脂からなる混合物を焼成することにより形成されるものであり、耐熱基材から剥離させる機能と転写後に酸化物半導体層が対極と接し短絡するのを防止する絶縁層としての機能を有するものである。
【0032】
ここでいう絶縁とは、剥離層兼絶縁層の体積抵抗率(Ω・cm)の値が後述する酸化物半導体層の値よりも大きいことをいい、剥離層兼絶縁層に用いられる絶縁性の金属酸化物微粒子としては、層を構成したときに前記要件を満たす材料ならば特に限定されないが、具体的には、Al23、ZrO2、MgO、Y23、Ta25、Nb25、La23等の微粒子を用いることができ、中でも、Al23、ZrO2を好ましく用いることができる。上記微粒子のうち、いずれか一種を使用しても良く、また、2種以上を混合して使用してもよい。また、第一金属酸化物層に含有された金属酸化物微粒子の粒径としては、特に限定はされないが、具体的には平均粒子径が5nm以上、中でも10nm以上であることが好ましく、また後述する第二金属酸化物層における金属酸化物微粒子の平均粒子径よりも大きいことがさらに好ましい。
【0033】
また上記有機樹脂としては、上述する酸化物半導体層と同様の樹脂を用いることができる。詳細については酸化物半導体層の記載と同じであるので省略する。
【0034】
また、上記第一金属酸化物層を形成する絶縁性金属酸化物微粒子と有機樹脂の固形分比(重量比)は、具体的には、粒子 / 樹脂=2/8〜8/2の範囲内、中でも、粒子 / 樹脂=3/7〜7/3の範囲内であることが好ましい。上記範囲内であると、焼成後に形成された剥離層兼絶縁層が絶縁性金属微粒子が適度に点在した構成となり、剥離性と絶縁性を備えた層となる。
【0035】
また剥離層兼絶縁層の膜厚としては、剥離層兼絶縁層を耐熱基板上に適度な密着性を有して形成することを可能とする膜厚であれば特に限定はされないが、具体的には0.01μm〜30μmの範囲内、中でも0.05μm〜6μmの範囲内であることが好ましく、酸化物半導体層よりも膜厚が小さいことが好ましい。剥離層兼絶縁層の膜厚が光電変換層として機能する酸化物半導体層の膜厚よりも大きいと、本転写体を用いた太陽電池において電解質イオンの拡散性が低下してしまうからである。
【0036】
B.色素増感太陽電池
次に酸化物半導体電極1を用いた色素増感電池について説明する。
本発明の色素増感太陽電池2は、図2のように対向基材9上に設けられた対向電極8を、上述の酸化物半導体層5に対して電解質層7を介して対向配置して形成されたものである。以下、このような本発明の色素増感太陽電池の各構成について酸化物半導体電極1以外の部分について詳細に説明する。
【0037】
(電解質層)
本発明に用いられる電解質層7は、透明電極4および対向電極8間に位置し、酸化物半導体層5により伝導された電荷が透明電極4および対向電極8を介して酸化物半導体層5へ輸送される際の輸送を行うものである。したがって電解質層7はこのような機能を有するものであれば特に限定はされず、固体状、ゲル状、液体状のいずれの形態からなる電解質層であってもよい。
【0038】
このような電解質層において、例えばゲル状とした場合には物理ゲルと化学ゲルのいずれであっても特に限定はされない。物理ゲルは物理的な相互作用で室温付近でゲル化しているものであり、化学ゲルは架橋反応などにより化学結合でゲルを形成しているものである。
【0039】
さらに電解質層の膜厚としては特に限定はされないが、酸化物半導体層内に充填されて電解質層が形成されることから、酸化物半導体層の膜厚も含めて2μm〜100μmの範囲内、その中でも2μm〜50μmの範囲内であることが好ましい。上記範囲よりも膜厚が薄ければ酸化物半導体層5(光電変換層)と対向電極8と接触しやすくなるため短絡の原因となり、上記範囲よりも膜厚が厚ければ内部抵抗が大きくなり性能低下につながるからである。
【0040】
(対向電極)
本発明における対向電極8は、対向基材9上に形成されたものであり透明電極4と対向する電極である。
【0041】
このような対向電極8を形成する材料としては、導電性に優れたものでかつ電解質に対する腐食性がないものであれば特に限定はされないが、光の受光面側に位置する場合には、光の透過性に優れているものであることが好ましい。また対向電極8と対向する電極である透明電極4を形成する材料の仕事関数等を考慮して材料を選択することが好ましい。なお、具体的に対向電極8を形成する際に使用可能な材料に関しては、上述した透明電極4と同様なのでここでの説明は省略する。
【0042】
(対向基材)
本発明における対向基材9は、透明電極を構成する基材と対向するものである。このような本発明における対向基材9としては、透明なものであっても不透明なものであっても特に限定されるものではないが、光の受光面側に位置する場合には光の透過性に優れた透明性を有するものであることが好ましい。さらに耐熱性、耐候性、水蒸気、その他のガスバリア性に優れたものであることが好ましく、例えば対向基材と対向電極に接着層3と同様に水蒸気透過度の低い層を設ける構成が好ましく用いられる。このような構成にすることにより色素増感太陽電池の耐質性をさらに向上させることができる。なお、具体的に対向基材を形成する際に使用可能な材料に関しては、石英ガラス、パイレックス(登録商標)、合成石英板等の可撓性のない透明なリジット材、エチレン・テトラフルオロエチレン共重合体フィルム、二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリエーテルサルフォン(PES)フィルム、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)フィルム、ポリエーテルイミド(PEI)フィルム、ポリイミド(PI)フィルム、ポリエステルナフタレート(PEN)等のプラスチックフィルムを挙げることができる。
【0043】
A.酸化物半導体電極の製造方法
本発明の酸化物半導体電極製造方法は酸化物半導体電極形成用転写体製造工程と酸化物半導体電極製造工程からなる。
【0044】
(酸化物半導体電極形成用転写体製造工程)
本発明の酸化物半導体電極形成用転写体の製造方法について図面を用いて具体的に説明する。図3は本発明の酸化物半導体電極形成用転写体の製造方法の一例を図示した工程図である。まず酸化物半導体電極形成塗工液として、金属酸化物微粒子および樹脂バインダーを水若しくは有機溶媒又はこれらの混合溶媒に分散させた液やスラリーを調製とする。塗布液中の固形分の濃度は1〜70重量%とすることが好ましい。次いで、塗布液をスピンコート法、ディップコート法、スクリーン印刷法、ブレードコート法などによって図3(a)に示すように耐熱性基板11上に塗布し必要に応じて乾燥させることにより酸化物半導体層形成層5´を形成させることができる。なお塗布液には必要に応じて界面活性剤、粘度調整剤、分散剤等の添加剤を加えてもよい。また剥離層兼絶縁層を設ける場合は、図示されていないが耐熱基板11上に剥離層兼絶縁層形成層を形成した後に剥離層兼絶縁層形成層上に上述の方法で酸化物半導体層形成層5'を形成する。
【0045】
次に図3(a)に示すように酸化物電極形成層5´が積層された耐熱基板11に加熱焼成を施す。これにより、図3(b)に示すように酸化物半導体層形成層(5´)は連通孔を有する多孔質体となる。この多孔質体として形成されたものを酸化物半導体層5とする。なお 焼成の温度は300℃〜700℃の範囲内であることが好ましく、中でも350℃〜600℃の範囲内であることが好ましい。本発明においては耐熱性に優れた耐熱基板を用いていることから、上記範囲の高温域での焼成が可能であり酸化物半導体層を金属酸化物半導体微粒子間の結着性良く形成することができるからである。
【0046】
次いでこのようにして形成された酸化物半導体層5には、電流の取り出しのための透明電極4が配置される。透明電極の形成は加熱焼成処理の後に形成するのが好ましく、その方法としては湿式塗工、スプレー熱分解法、蒸着法、スパッタリング法、CVD法が挙げられ最も好ましい方法としてはスプレー熱分解法が挙げられる。
【0047】
このようにして形成された酸化物半導体層5に、増感剤として色素を吸着(化学吸着、物理吸着、堆積等)させてもよい。色素の吸着は被転写基板に転写後が好ましい。色素を吸着させる方法としては例えば色素を有機溶媒に溶解させた溶液中に前記酸化物半導体層が形成された基板を浸漬すればよい。必要に応じ、溶液が金属酸化物膜の内部に速やかに進入するよう減圧処理を行ったり吸着を促進する目的で溶液を加熱しても良い。
【0048】
(酸化物半導体電極製造工程)
次に上記酸化物半導体電極形成用転写体12を可撓性ポリエステル基材2に転写して酸化物半導体電極1を製造する工程について説明する。
【0049】
酸化物半導体電極製造用転写体1を可撓性ポリエステル基材2に転写する方法としては、図4に示すように前記転写体1の透明電極4側と可撓性ポリエステル基材2とを接着層3を介して貼り合わせた後、耐熱性基板11から引き剥がして行う方法等が挙げられる。またこれらの接着剤には、必要に応じて添加剤を用いることができる。添加剤としては、架橋剤、分散剤、タッキファイヤー、レベリング剤、可塑剤、消泡剤等が挙げられる。
【0050】
このような接着層3を用いて酸化物半導体電極製造用転写体1と可撓性ポリエステル基材2とを接着する方法について一部の例を挙げて説明すると、例えば有機溶剤や水に溶解又は分散した接着剤を酸化物電極製造用転写体12の電極層4上又は可撓性ポリエステル基材2上に塗布し、酸化物半導体電極製造用転写体12と可撓性ポリエステル基材2とを貼り合わせて乾燥する方法、加熱溶融させた接着剤を酸化物半導体電極製造用転写体12の電極層4上又は可撓性ポリエステル基材2上に塗布して貼り合わせた後に冷却する方法、上記のような合成樹脂からなる樹脂フィルムを酸化物半導体電極製造用転写体12と可撓性ポリエステル基材2との間に挟み込み加熱して接着する方法等が挙げられる。接着層3の厚さは特に限定されないが5〜300μm、好ましくは10〜200μmである。
【0051】
従来は別途水蒸気バリア層を設ける必要があったが、本発明においては接着層が水蒸気透過性の低いものであるので別途バリア層を設ける工程が必要がなく工程を簡略化することができる。
【0052】
B.色素増感型太陽電池の製造方法
次に、本発明の色素増感型太陽電池6の製造方法について説明する。本発明の色素増感型太陽電池6の製造方法は、上述した酸化物半導体電極1の製造工程と、前記透明電極4と対向する対向電極8を設ける対向電極形成工程と、前記透明電極4と対向電極8との間に電解質層7を形成する電解質層形成工程とを有することを特徴とするものである。
以下、各工程ごとに詳細に説明する。
【0053】
(酸化物半導体電極製造工程)
本工程については、上記「酸化物半導体電極の製造方法」に記載したものと同様なのでここでの説明は省略する。
【0054】
(対向電極製造工程)
次に、対向電極製造工程について説明する。対向電極製造工程は前記酸化物半導体電極製造工程で形成された酸化物半導体電極5上の透明電極4と対向する対向電極8を設ける工程である。
【0055】
本工程は、後述する電解質層形成工程における電解質層7の形成の方法に応じて電解質層形成工程の前または後のいずれかに行われる。すなわち、後述するように電解質層7を、電解質層7の形成に用いる電解質層形成用塗工液を、酸化物半導体層5上に塗布し、乾燥させることにより形成する場合(以下、このような電解質層7の形成方法を塗布法と記載する場合がある。)には、後述する電解質層形成工程を先に行い、続いて本工程を行うことにより、色素増感型太陽電池6を作製することができる。または、透明電極4と対向電極8とを対向するように所定の間隙を有して配置させ、その間隙に、電解質層形成用塗工液を注入することにより、電解質層7を形成する場合(以下、このような電解質層の形成方法を注入法と記載する場合がある。)には、本工程をまず行い、その後に後述する電解質層形成工程を行うことにより色素増感型太陽電池6を作製することができる。
【0056】
例えば、後述する電解質層形成工程において塗布法により形成した場合、本工程において、対向電極8を形成する方法としては、特に限定はされないが、具体的には、対向電極8が形成された対向基材9を準備し、電解質層7上にこのような対向基材を貼り合わせることにより形成することができる。
【0057】
この場合、透明電極4および対向電極8の間隙としては、この間隙に電解質層7を形成することができるのであれば特に限定はされないが、一般的に0.01μm〜100μmの範囲内、その中でも0.1μm〜50μmの範囲内であることが好ましい。上記範囲よりも間隙を狭くすると、電解質層形成用塗工液を注入するのに長時間を要する場合があるため好ましくなく、上記範囲よりも間隙を広くすると、そのような間隙に形成された電解質層の膜厚が厚膜化する場合があるので好ましくない。
【0058】
(電解質層形成工程)
本発明における電解質層形成工程は、前記透明電極4と対向電極8との間に電解質層7を形成する工程である。
【0059】
上述したように電解質層7の形成方法としては、電解質層7の形成に用いる電解質層形成用塗工液を酸化物半導体層5に塗布し乾燥させることにより形成する塗布法、または本工程の前に透明電極層と対向電極層とを対向するように所定の間隙を有して配置させ、その間隙に電解質層形成用塗工液を注入することにより電解質層7を形成する注入法等を挙げることができる。以下、電解質層の形成方法について塗布法を例として説明する。
【0060】
まず、酸化物半導体層5に、電解質層7を形成する電解質層形成用塗工液を塗布し、固化等させることにより電解質層7を形成する塗布法について説明する。このような形成方法により、主に固体状の電解質層7を形成することができる。
【0061】
このような塗布法において、電解質層を形成する塗布方法としては公知の塗布法を用いることができ、具体的には、ダイコート、グラビアコート、グラビアリバースコート、ロールコート、リバースロールコート、バーコート、ブレードコート、ナイフコート、エアナイフコート、スロットダイコート、スライドダイコート、ディップコート、マイクロバーコート、マイクロバーリバースコートや、スクリーン印刷(ロータリー方式)等を挙げることができる。
【0062】
また塗布法により電解質層を形成する場合、電解質層を形成する電解質層形成用塗工液には塗布性を付与するために必要に応じて酸化還元対電解質および酸化還元対電解質を保持するゲル化剤を用いることができる。
【0063】
具体的に、酸化還元対電解質としては一般的に電解質層において用いられているものであれば特に限定はされない。具体的には、ヨウ素およびヨウ化物の組合せ、臭素および臭化物の組合せであることが好ましい。例えば、ヨウ素およびヨウ化物の組合せとしては、LiI、NaI、KI、CaI2等の金属ヨウ化物と、I2との組合せを挙げることができる。さらに、臭素および臭化物の組み合わせとしては、LiBr、NaBr、KBr、CaBr2等の金属臭化物と、Br2との組合せを挙げることができる。
【0064】
さらに、上記酸化還元対電解質を保持する高分子としては、CuI、ポリピロール、ポリチオフェン等の正孔輸送性の高い導電性の高分子を用いることが好ましい。
【0065】
その他に、添加剤として架橋剤、光重合開始剤等が含有しているものであってもよい。このような添加剤が含有した電解質層形成用塗工液の場合には、電解質層形成用塗工液を塗布した後、活性光線を照射し硬化させることにより、固体状の電解質層を形成することができる。
【実施例】
【0066】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明の実施態様は以下の実施例に限定されるものではない。
【0067】
〔実施例1〕
剥離層形成用塗工液として一次粒径20nmのTiO2微粒子(日本アエロジル社製P25)1重量%、主成分がポリメチルメタクリレートであるアクリル樹脂(分子量25000、ガラス転移温度105℃)(三菱レーヨン社製BR87)10重量%となるようにホモジナイザーを用いてメチルエチルケトンおよびトルエンにアクリル樹脂を溶解させた後、TiO2微粒子を分散させることにより剥離層形成用塗工液を作製した。この塗工液を耐熱基材として用意した青板ガラス上にワイヤーバーにて塗工し乾燥させた。
【0068】
酸化物半導体層形成用塗工液としてSolaronix SA社製Ti Nanoxide Dを準備し、剥離層形成用層上にドクターブレード(5mil)にて塗布した。室温下にて20分放置の後100℃、30分間乾燥させた。その後、電気マッフル炉(デンケン社製P90)を用い500℃、30分間、大気圧雰囲気下にて焼成した。これにより、多孔質体として形成された剥離層および酸化物半導体層を得た。
【0069】
その後、エタノールに塩化インジウム0.1mol/l、塩化スズ0.005mol/lを溶解した塗工液を用意し、上記焼成を行った青板ガラス基板を、酸化物半導体層を上向きにし、ホットプレート(400℃)上へ設置し、この加熱された酸化物半導体層上に、透明電極であるITO膜を500nm形成し、酸化物半導体電極形成用転写体を得た。
【0070】
可撓性基材として125μmのPETフィルム(東洋紡製E5100)を準備し、PETフィルムと、先程形成した酸化物半導体電極形成用転写体のITO面を、接着層として用いるポリエチレン系熱可塑性樹脂フィルム(Dupon製、商品名:Bynel)を介して140℃の温度で熱ラミネートした。その後、前記可撓性基材を剥離することでITO及び酸化物半導体層及び剥離層を多孔質酸化物半導体電極形成用転写体から可撓性基材上へと転写し、実施例1の酸化物半導体電極を得た。
【0071】
実施例1で使用した接着層の水蒸気透過度を水蒸気透過率測定装置(米国MOCON社製、商品名:OX-TRAN 2/20)によって測定したところ25℃100%Rhの条件下において0.98g/m2/dayであった。また、実施例において可撓性基材として用いたPETフィルムの水蒸気透過度を同装置、同条件で測定したところ14g/m2/dayであった。
【0072】
〔実施例2〕
実施例1の接着層がアイオノマー系熱可塑性樹脂ハイミラン(三井デュポンケミカル製)である以外は実施例1と同様にして実施例2の酸化物半導体電極を得た。
【0073】
実施例2で使用した接着層の水蒸気透過度を水蒸気透過率測定装置(米国MOCON社製、OX-TRAN 2/20:商品名)によって測定したところ25℃100%Rhの条件下において2.56g/m2/dayであった。
また、実施例において可撓性基材として用いたPETフィルムの水蒸気透過度を同装置、同条件で測定したところ14g/m2/dayであった。
【0074】
〔比較例1〕
実施例1の接着層がアイオノマー系熱可塑性樹脂(タマポリ製、商品名:HM-52)である以外は実施例1と同様にして比較例1の酸化物半導体電極を得た。
【0075】
比較例1で使用した接着層の水蒸気透過度を水蒸気透過率測定装置(米国MOCON社製、商品名:OX-TRAN 2/20)によって測定したところ25℃100%Rhの条件下において23.2g/m2/dayであった。
【0076】
実施例、比較例の酸化物半導体電極を用いて色素増感太陽電池を作成した。作成した色素増感太陽電池を25℃75%の環境下で7日間保存し変換効率の変化を評価した。
【表1】

【符号の説明】
【0077】
1:酸化物半導体電極
2:可撓性ポリエステル基材
3:接着層
4:透明電極
5:酸化物半導体層
6:色素増感太陽電池
7:電解質層
8:対向電極
9:対向基材
10:封止材
11: 耐熱基材
12:酸化物半導体層形成用転写体


【特許請求の範囲】
【請求項1】
可撓性ポリエステル基材上に接着層と、透明電極と、増感色素を担持した酸化物半導体微粒子を有する酸化物半導体層とがこの順に形成された酸化物半導体電極であって、前記接着層の水蒸気透過度が前記可撓性ポリエステル基材よりも小さいことを特徴とする酸化物半導体電極
【請求項2】
前記接着層が、熱可塑性樹脂であることを特徴とする請求項1に記載の酸化物半導体電極
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の酸化物半導体電極と、前記酸化物半導体電極の前記酸化物半導体層と対向配置された対抗電極と、前記酸化物半導体電極と前記対向電極の間に充電された電解質層とを有することを特徴とする色素増感太陽電池
【請求項4】
耐熱基材上に増感色素を担持した酸化物半導体微粒子を有する酸化物半導体層を形成し、前記酸化物半導体層上に透明電極を形成する工程と、
前記耐熱基材とは別の可撓性ポリエステル基材に水蒸気透過度が前記可撓性ポリエステル基材よりも小さい接着層を形成する工程と、
前記透明電極と、前記可撓性ポリエステル基材とを前記接着層を介して接合する工程と、
前記耐熱基材を剥離する工程と、
を有することを特徴とする酸化物半導体電極の製造方法。
【請求項5】
耐熱基材上に増感色素を担持した酸化物半導体微粒子を有する酸化物半導体層を形成し、前記酸化物半導体層上に透明電極を形成する工程と、
前記耐熱基材とは別の可撓性ポリエステル基材に水蒸気透過度が前記可撓性ポリエステル基材よりも小さい接着層を形成する工程と、
前記透明電極と、前記可撓性ポリエステル基材とを前記接着層を介して接合する工程と、
前記耐熱基材を剥離して酸化物半導体電極を製造する工程と、
前記酸化物半導体電極に対向する対向電極を製造する工程と、
前記酸化物半導体電極と前記対向電極との間に介在する電解質層を形成する工程と、
を有することを特徴とする色素増感型太陽電池の製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−14509(P2011−14509A)
【公開日】平成23年1月20日(2011.1.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−160164(P2009−160164)
【出願日】平成21年7月6日(2009.7.6)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】