説明

フレーム接着剤の除去方法

【課題】基板等から安全かつ効率的に接着剤を除去することができる接着剤の除去方法及びそれら方法を採用するペリクルフレーム接着剤除去装置を提供する。
【解決手段】上記課題を解決するため、1)接着剤又はその残渣が存在する基板の表面を流体で被覆しながら、2)前記接着剤又はその残渣が存在する箇所近辺に前記流体の流れを遮る隔離領域あるいは、流れが滞留した隔離領域を形成し、3)前記隔離領域内で前記基板を押圧する摺動体を揺動させ、4)前記隔離領域内に前記接着剤又はその残渣を剥離或いは溶融する薬剤を滴下し、若しくは前記揺動体に前記薬剤を滴下するとともに、5)当該摺動体を前記接着剤またはその残渣上を水平方向に移動させ、6)機械的かつ化学的に前記接着剤又はその残渣を前記基板から剥離することを特徴とする接着剤の除去方法の構成とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マスクからフレームを剥離したとき、特にペリクルを搭載したペリクルフレームを剥離したとき、そのマスク上に残存するフレーム接着剤を除去する方法及びその除去に用いる装置に関する。
【背景技術】
【0002】
マスクは、半導体や液晶ディスプレイ(LCD)などにフォトリソグラフィ技術で、ICパターン等を転写する際の原盤であり、半導体や液晶ディスプレイ(LCD)などにおいてますます採択が進む、製品の性能を左右する重要部材である。
【0003】
ウエハへICパターンを転写する状況を図5に示す。マスク11のICパターン上に埃などの異物が付着すると、ウエハ18上の投影パターンに異常を引き起こす。そのため、ペリクル15と呼ばれる薄い有機膜がマスク11上のICパターンから数mm離れた位置でペリクルフレーム16の上部に張られている。仮に、ペリクル15上に埃があっても、焦点からは遠く、露光の結像に影響を与えない。
【0004】
ペリクルフレーム16は、四角形の枠状でマスク11上にペリクルフレーム接着剤17で貼り付けられて固定される。ペリクルフレーム接着剤17(以下、単に「接着剤」ともいう。)としては、アクリル系、シリコーン系、スチレン系など多岐にわたる素材が使用されている。
【0005】
マスク11は、現場での実使用によりマスク11上に生成、蓄積される異物(ヘイズ)などを除去するため定期的に洗浄される。その際、ペリクル15及びペリクルフレーム16は剥離される。
【0006】
しかし、ペリクルフレーム16をマスク11から剥離したとき、ペリクルフレーム接着剤17はマスク上に一部残存してしまう。新たにペリクルフレーム16を介してペリクル15をマスク11上に固定する際、接着剤の残渣があることは好ましくない。そのため接着剤残渣を除去する必要がある。
【0007】
従来、接着剤残渣の除去は、一般的に次の二つの方式が採用されてきた。第1の方式は、濃硫酸/過酸化水素水の薬液による接着剤残渣の除去である。この場合、濃硫酸が使用されるので、硫酸基がppb(parts-per-billion)レベルで残存する。このことが、後日マスク上にヘイズが発生する主因の一つになっていた。第2の方式は、将来のヘイズ発生を回避すべく、アセトンなどの有機溶媒を使用する方法であった。この場合、有機溶剤を綿棒などに付着させて、接着剤残渣部を擦り、少しずつ接着剤残渣を除去していた。しかしながら、その作業は人の手作業による煩雑な方式であった。
【0008】
また、除去剤である有機溶剤は一般に引火性が高く危険で、また接着剤は強固に結着していて安定で完全な除去は極めて困難であった。さらに、剥離された接着剤がマスク11上に飛散、残存して転写パターンに影響を与えることもある。加えて、作業者によるマスク11の破損の危険も含んでいる。
【0009】
他方、特許文献1には、マスク基板のマスクパターンを損傷することなく、シリコーン樹脂よりなるペリクル接着剤の残渣を完全に除去する方法として、ペリクル接着剤残渣をアルカリ溶液で処理を行った後に、硫酸を含む酸溶液で処理することにより除去する方法が提案されている。また、特許文献2には、熱による接着剤の剥離方法が提案されている。
【0010】
しかしながら、そのような強力なアルカリ、酸の使用は、環境配慮上望ましくない。また硫酸を含む酸溶液の使用は、マスク上にヘイズ(曇り)を発生させる場合もあり、避けるべきである。また、熱による接着剤の剥離は、マスクの膨張などの問題があり、好まし方法とは言えない。
【0011】
他方、熱によらないペリクルフレーム接着剤を除去する装置は、接着剤層の幅が2mm程度と極めて細いこと、剥離した接着剤のマスク上の飛散を防止することができないため市場に流通していない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2009−251243号公報
【特許文献2】特開2008−032981号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
そこで、本発明は、基板等から安全かつ効率的に接着剤を除去することができる接着剤の除去方法及びそれら方法を採用するペリクルフレーム接着剤除去装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記の課題を解決するために、本発明は、
(1)
1)接着剤又はその残渣が存在する基板の表面を流体で被覆しながら、
2)前記接着剤又はその残渣が存在する箇所近辺に前記流体の流れを遮る隔離領域あるいは、流れが滞留した隔離領域を形成し、
3)前記隔離領域内で前記基板を押圧する摺動体を揺動させ、
4)前記隔離領域内に前記接着剤又はその残渣を剥離或いは溶融する薬剤を滴下し、若しくは前記揺動体に前記薬剤を滴下するとともに、
5)当該摺動体を前記接着剤またはその残渣上を水平方向に移動させ、
6)機械的かつ化学的に前記接着剤又はその残渣を前記基板から剥離することを特徴とする接着剤の除去方法の構成とした。
(2)
前記基板が、半導体用又は液晶ディスプレイ用のフォトマスクであることをお特徴とする(1)に記載の接着剤の除去方法の構成とした。
(3)
前記薬剤が、界面活性剤を含む溶液であることを特徴とする(1)又は(2)に記載の接着剤の除去方法の構成とした。
(4)
ペリクルフレームを剥離したマスクの表面に流水を形成し、ペリクルフレーム接着剤の剥離を補助する第1界面活性剤の存在下で、前記ペリクルフレームを貼り付けていた位置を摩擦体で擦ることを特徴とするペリクルフレーム接着剤の除去方法の構成とした。
(5)
ペリクルフレームを剥離したマスクの表面に流水を形成し、前記マスク表面との間に隙間を設けて配置され流水が減速する隔離領域を形成する壁内部において、ペリクルフレーム接着剤の前記マスクからの剥離を補助する第1界面活性剤の存在下で、前記ペリクルフレームを貼り付けていた位置を擦りながら移動させるとともに、前記壁底部周辺の水及び空気を吸引し、ペリクルフレーム接着剤残渣を剥離・回収することを特徴とするペリクルフレーム接着剤の除去方法の構成とした。
(6)
前記流水に、マスク表面上での水の表面張力を低下させる第2界面活性剤を添加したことを特徴とする(4)又は(5)に記載のペリクルフレーム接着剤の除去方法の構成とした。
(7)
ペリクルフレームを剥離したマスク上に流水を形成する水供給手段と、ペリクルフレーム接着剤の前記マスクからの剥離を補助する第1界面活性剤を前記流水に送る薬剤供給手段と、ペリクルフレームを貼り付けた位置を擦りながら移動する摩擦体と、からなることを特徴とするペリクルフレーム接着剤除去装置の構成とした。
(8)
ペリクルフレームを剥離したマスクを固定する台と、前記台に固定したマスク上に流水を形成する水供給手段と、ペリクルフレーム接着剤の前記マスクからの剥離を補助する第1界面活性剤を前記流水に送る薬剤供給手段と、ペリクルフレームを貼り付けた位置を擦りながら移動する摩擦体と、前記摩擦体の側面及びその上方を囲むとともにマスク表面との間に隙間を設けて配置され流水が減速する隔離領域を形成し前記ペリクルフレームを貼り付けた位置の前記流水の下流側の底部に吸引のための孔を設けた壁と、前記壁底部周辺の水及び空気を吸引する吸引装置と、からなることを特徴とするペリクルフレーム接着剤除去装置の構成とした。
(9)
前記台が360°水平方向に回転し、前記摩擦体が直線移動することを特徴とする(8)に記載のペリクルフレーム接着剤除去装置の構成とした。
(10)
前記摩擦体が、ポリフッ化エチレンであることを特徴とする(7)〜(9)の何れかに記載のペリクルフレーム接着剤除去装置。
(11)
(7)〜(10)の何れかに記載のペリクルフレーム接着剤除去装置において、さらに、マスク表面を撮影する撮影装置を備え、前記撮影装置での映像からペリクルフレーム接着剤残渣の始点と終点の位置を、2次元平面上の座標点(始点(X1、Y1)及び終点(X2、Y2))として、前記摩擦体及び揺動体の動作を制御する制御装置に与えられ、前記摩擦体が前記制御装置により前記始点(X1、Y1)及び終点(X2、Y2)を結ぶ直線上を移動するよう制御されたことを特徴とするペリクルフレーム接着剤除去装置の構成とした。
(12)
前記摩擦体の前記マスクを押圧する圧力を所定の範囲に設定する校正手段を備えることを特徴とする(4)〜(11)の何れかに記載のペリクルフレーム接着剤除去装置の構成とした。
【発明の効果】
【0015】
本発明は、上記構成であるので、安全かつ効率的でICパターンを破損することなくマスクからフレーム接着剤を除去することができる。また、剥離したフレーム接着剤のマスク上のICパターンへの飛散を防止することができる。
【0016】
特に、第1界面活性剤により接着剤の剥離を補助し、流水により剥離した接着剤を洗い流すことで、接着剤の剥離を完全なものにするとともに、剥離された接着剤残渣のICパターンへの飛散を抑制することができる。
【0017】
摩擦体側面部及びその上方を囲みマスク表面との間に隙間を設けて流水が減速される壁を配置することで、界面活性剤を少量化することができるとともに、壁により剥離された接着剤のICパターンへの飛散を防ぐことができる。さらに、壁内部から水、空気を吸引することで、壁外への水の拡散が低減され、水の拡散による剥離接着剤のICパターンへの付着も防止することができる。
【0018】
流水に水の表面張力を低下させる第2界面活性剤を添加することで、マスク表面での水の濡れ効果が高まり、流水量を少量化することができる。さらに、第1界面活性剤との併用による接着剤の剥離補助効果が一層高まる。摩擦体として、ポリフッ化エチレンを使用することで、接着剤の剥離効果が向上する。
【0019】
上記効果に加えて、フレーム除去装置としては、台が回転することで、摩擦体は直線運動のみで、略四角形状の接着剤残渣を除去することができ、装置が簡素化できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の一実施形態であるペリクルフレーム接着剤除去装置の側面断面模式図である。
【図2】実施例1の装置による接着剤の除去を示す平面図模式図である。
【図3】ペリクルフレームを除去した後のマスクの写真である。
【図4】本発明であるペリクルフレーム接着剤の除去方法で処理した後のマスク表面の拡大写真である。
【図5】マスクを用いてウエハにICパターンを転写する状況(側方断面)を示している。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【実施例1】
【0022】
図1に、本発明の一実施形態であるペリクルフレーム接着剤除去装置の一例を示した。本発明であるペリクルフレーム接着剤除去装置1は、ペリクルフレームを剥離したマスク11を固定する台(ターンテーブル13)と、マスク11の表面に流水10bを形成する水供給手段10と、接着剤塗布部分を擦る摩擦体2aと、摩擦体2aを揺動させる揺動体2と、摩擦体2aの側面部及びその上方を囲み内部に隔離領域4bを形成し支柱3によりリフトされた壁4と、隔離領域4bに第1界面活性剤6bを送る薬剤供給手段6と、壁4の底部周辺の水及び空気を吸引する吸引装置8とからなる。さらに、揺動体2及び摩擦体2aの動作を制御する制御装置5を備える。
【0023】
マスク表面11aには、水供給手段10により流水10bが形成される。水供給手段10は、マスク表面11aに水の流れ(流水10b(図1中左向き白抜き矢印が流水10bの流れ方向を示す。))を形成する装置である。
【0024】
流水10bは、接着剤の除去処理をしている摩擦体2aの位置(マスク11の下端部(図1左側))に向け、マスク11の上端部(図1右側)の上方からマスク表面11aの幅全体に亘り水10eをシャワー10a状に噴射して形成することができる。
【0025】
このように、流水10bを形成すると、少ない水量でマスク11の表面全体に水を行き渡らせることが可能になり、マスク表面の乾燥、剥離片12cの吸着が防止される。接着剤残渣の剥離片12cは、マスク11上に飛散したとしても流水10bにより流され、マスク11上に付着することを防止することができる。水10eは、純水が好ましく、ポンプなどの送液手段でシャワー10a部に送る。
【0026】
壁4は、内部空洞を有する筒状で、摩擦体2aの周囲およびその上方を囲む。そして、支柱3などによりリフトされ、マスク表面11aと壁4底部とで隙間4aを形成する。隙間4aを形成することで、大部分の流水10bの壁4内部への浸入が堰き止められるとともに、流水10bの一部は壁4内部に浸入する。その結果、壁4の内部は、隙間4aから僅かに流水10b進入し底部に滞留するとともに、壁4内部に流水10bの流れる速度が減速される隔離領域4bを形成する。
【0027】
なお、壁4は、筒形に限らず、摩擦体2aの周囲及びその上方を囲む形状であれば、特に限定されない。また、壁4一体であっても、複数のパーツを組み合わせてもよい。図1に示すように、壁4を設けることで、剥離された接着剤の剥離片12cを含む飛沫水10gは壁4にぶつかり壁4外への飛散することが極めて少なく、壁4内に留めることができる。
【0028】
隙間4aの広さ(壁4最底部とマスク表面11aとの距離)は、1mm〜2mm程度が好ましい。隙間4aの広さが狭すぎると浸入する水量が少なくマスク表面11aが乾燥し、剥離した接着剤残渣がマスク表面11aに再吸着してしまう。一方、広すぎると、流水量を多くしないと流水10bと壁4によって剥離した接着剤残渣の飛散を防止することができない。また、剥離した接着剤残渣の拡散、飛散を防ぐために、吸引能力を高める必要があるとともに、第1、第2界面活性剤を多量に添加することになる。
【0029】
図1に示すように、壁4の流水10bの下流側には、マスク表面11aに向け孔4cが形成されている。孔4cは、壁4内部に穿設された通路4dに連絡する。通路4dの端部には、管8aが接続され、吸引装置8で吸引された隙間4a周辺の水及び空気を通す。
【0030】
吸引装置8で、孔4cから吸引することで、剥離片12cを含む流水10bの大部分を回収することができる。また、摩擦体2aと壁4の隔離領域4b側の内壁面との隙間は、吸引より空気7gの通り道となり、隔離領域4b内には破線矢印方向の空気7の流れが発生する。これにより、摩擦体2aの付近が陰圧になり、剥離片12c、飛沫水10gの壁4外への飛散を一層抑制することができる。その隙間の幅は、狭い方が陰圧の効果が大きくなり好ましい。
【0031】
摩擦体2aは、隔離領域4b内に位置し、回転、前後左右に揺動し、マスク11の表面の接着剤残渣12部分を押圧し擦り、剥離する。擦る動作(揺動)は、回転運動、前後、左右の揺動などいずれの動作でもよい。回転動作が構造、制御の観点から好適である。その場合、揺動体2は、摩擦体2aを回転させるローターである。
【0032】
揺動体2は、リフトにより持ち上げられるとともに、摩擦体2aの押圧力(図1下向き白抜き矢印)を調節できることが望ましい。摩擦体2aのマスク11への押移動量は0.5mm〜1mm程度が好適である。
【0033】
摩擦体2aは、例えば、ブラスチック、ゴム、ポリフッ化エチレンなどが例示でき、摩擦による摩耗、破損しない素材であれば特に限定されない。特に、ポリフッ化エチレンが、剥離効果が高く、好適である。
【0034】
実施例1では、押圧し、水平方向に360°回転する摩擦体2aを例示した。摩擦体2aの回転スピードとしては剥離された接着剤の飛散防止の観点から低速が好ましく、接着剤剥離効果としても10rpm〜75rpm程度で充分である。
【0035】
そして、摩擦体2aは、接着剤残渣を擦りながら直線状に移動する。その移動のスピードとしては、10mm/分程度で充分である。接着剤残渣12の除去が充分でなければ、同じ箇所を何度も処理すればよい。
【0036】
摩擦体2aにより剥離された接着剤残渣12の剥離片12cは、壁4により飛散が防止され、流水10bにより川下に流され、その大部分は下流に位置する壁4内の通路4dの入口となる孔4cから吸引、回収される。残りの一部は、マスク表面11aから流れ落ちる。
【0037】
摩擦体2aの揺動は、制御装置5により制御される揺動体2を介して成される。制御装置5は、揺動体2及び摩擦体の移動位置、移動距離(揺動幅、始点、終点位置の取得)及び移動スピード、摩擦体2aの回転スピード及び押移動量を決定、制御する。
【0038】
薬剤供給手段6は、第1界面活性剤6bをノズル6aを通し、摩擦体2aを囲む壁4内部の隔離領域4bにポンプなどで添加する装置である。勿論、流水10bに第1界面活性剤6bを添加しても、接着剤の剥離補助効果を得られる。
【0039】
第1界面活性剤6bを隔離領域4bに添加すると、隙間4aから壁4内部に浸入し、滞留した少量の水に第1界面活性剤6bを添加することになる。それにより、第1界面活性剤6bが流水で低濃度に希釈されず、少量の第1界面活性剤6bで、接着剤の剥離効果を発揮させることができる。従って、第1界面活性剤6bの使用量を低減することができる。添加位置としては、隔離領域4b内の水であっても、揺動体2又は摩擦体2aに滴下してもよい。
【0040】
第1界面活性剤6bとしては、接着剤の剥離補助機能或いは溶融機能があれば特に限定されないが、高分子量の樹脂状付着物、接着剤、粘着剤、塗膜の剥離洗浄用途の非イオン性界面活性剤が効果的である。例えば、グリコールエーテル、ポリオキシアルキレンアリエールエーテルなどを組成中に含む界面活性剤製剤が例示できる。
【0041】
さらに、水10eには、マスク表面11aでの水10eの表面張力を低下させる第2界面活性剤10fを添加することが好ましい。マスク表面11aは、疎水的であり、水をはじく性質がある。従って、第2界面活性剤10fを添加することで、水のマスク表面11aの濡れ性が向上され、水10eの撥水性を低減させる。
【0042】
従って、少量の流水10bでマスク表面11aをまんべんなく流水10bで満たすことができる。このときの流水10bの流量としては、1L/分程度で充分である。なお、全面を常に流水10bで被覆されていなくとも、長時間の乾燥がなければ、流水は部分的な被覆(紐状)であってもよい。
【0043】
第2界面活性剤10fとしては、マスク表面11a上での水10eの撥水性を低減させるものであれば特に限定されないが、アルキルグリコシド、ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコールなどが存在する非イオン性界面活性剤を含むものが好ましい。例えば、ポリエチレンアルキルエーテル、脂肪酸ソルビタンエステル、アルキルポリグルコシド、脂肪酸ジエタノールアミド、アルキルモノグリセリルエーテル、ポリヒドロキシアルキルエーテルなどが例示できる。第1界面活性剤6bとの併用により、接着剤の剥離効果も向上する。
【0044】
吸引装置8は、孔4cから摩擦体2a周辺の水及び空気を吸引する装置である。吸引装置8で吸引された水は、排水10cする。
【0045】
このようにしてなる接着剤除去装置は、マスク表面11aの流水10bと、揺動する摩擦体2aによる摩擦と、摩擦体を囲み流水10bを滞留させる壁4とが、発明の最少の構成で、第1界面活性剤6b、第2界面活性剤10f、吸引を採用するごとに、接着剤の除去効率、飛散防止効果が向上する。
【実施例2】
【0046】
次に、図2を参照して、摩擦体2aによる接着剤残渣12の除去工程の一実施形態を説明する。
【0047】
図2に示すように、ペリクルフレーム16を剥離したマスク11は、ICパターン11bを上にして水平方向360°回転可能なターンテーブル13に直接または他の固定部材を介して間接的に固定される。これにより、摩擦体2aは、直線運動のみで四角形状の接着剤残渣12の除去処理を行うことができ、簡易に装置を製造することができる。
【0048】
また、撮影装置としてのCCDカメラ14(その他、イメージセンサーなども採用できる。)でマスク11の表面を撮影し、摩擦体2aを移動させたい部分である接着剤残渣12のラインを選択し、摩擦体2aの移動を制御する制御装置5に入力する。ここでは、直線上の始点12aと終点12bとする。これら点は、2次元平面上の(X1,Y1)=始点12a、(X2,Y2)=終点12bとして与えることができる。始点12a、終点12bを2次平面上の座標点として与えることで、揺動体2の水平移動の自動制御が容易になる。
【実施例3】
【0049】
次に、図3、図4を参照して、実際のマスク11から、実施例1で説明した装置を用いて接着剤残渣12を除去した例を示す。図3(A)はペリクルフレーム16を剥離したマスク11の表面を撮影した写真、図3(B)、(C)は、それぞれ図3(A)の異なる円の内部の一部の拡大写真である。
【0050】
接着剤残渣12は、図3(A)に示すように、ICパターン11bの外周部に略四角形状のライン状で存在する。図3(A)、(C)ではマスク11表面より黒くライン状に見える部分が接着剤残渣12であり、図3(B)では主に白くライン状に見える部分が接着剤残渣12である。
【0051】
そして、図4(A)、(C)に見られるマスク表面11aの接着剤残渣12(他より黒く見える部分)は、それぞれ図4(B)(C)に示すように、マスク表面11aから完全に除去された。
【0052】
その後、接着剤残渣12の除去処理後、従来通りのマスク11の洗浄、乾燥を行って、図5に示すように、再びペリクルフレーム16をペリクルフレーム接着剤17で固定し、ペリクルフレーム16にペリクル15を張りICパターン11bをウエハ18に転写した。
【0053】
その結果、本発明による接着剤残渣12の除去方法を施したマスク11であっても、転写の歩留まりはマスク11使用直後の歩留まりと同等であった。
【0054】
即ち、本発明であるペリクルフレーム接着剤の除去装置により、本発明の除去方法を施しても、接着剤残渣12の除去は完全であり、ICパターン11bへの飛散もないことが明らかとなった。従って、本発明は、従来にない安全かつ効率的で、極めて精度の高いペリクルフレーム接着剤の除去方法であり、ペリクルフレーム接着剤の除去装置であるといえる。
【符号の説明】
【0055】
1 ペリクルフレーム接着剤除去装置
2 揺動体
2a 摩擦体
3 支柱
4 壁
4a 隙間
4b 隔離領域
4c 孔
4d 通路
5 制御装置
6 薬剤供給手段
6a ノズル
6b 第1界面活性剤
7 空気
8 吸引装置
8a 管
10 水供給手段
10a シャワー
10b 流水
10c 排水
10e 水
10f 第2界面活性剤
10g 飛沫水
11 マスク
11a マスク表面
11b ICパターン
12 接着剤残渣
12a 始点
12b 終点
12c 剥離片
13 ターンテーブル
14 CCDカメラ
15 ペリクル
16 ペリクルフレーム
17 接着剤
18 ウエハ



【特許請求の範囲】
【請求項1】
1)接着剤又はその残渣が存在する基板の表面を流体で被覆しながら、
2)前記接着剤又はその残渣が存在する箇所近辺に前記流体の流れを遮る隔離領域あるいは、流れが滞留した隔離領域を形成し、
3)前記隔離領域内で前記基板を押圧する摺動体を揺動させ、
4)前記隔離領域内に前記接着剤又はその残渣を剥離或いは溶融する薬剤を滴下し、若しくは前記揺動体に前記薬剤を滴下するとともに、
5)当該摺動体を前記接着剤またはその残渣上を水平方向に移動させ、
6)機械的かつ化学的に前記接着剤又はその残渣を前記基板から剥離することを特徴とする接着剤の除去方法。
【請求項2】
前記基板が、半導体用又は液晶ディスプレイ用のフォトマスクであることをお特徴とする請求項1に記載の接着剤の除去方法。
【請求項3】
前記薬剤が、界面活性剤を含む溶液であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の接着剤の除去方法。
【請求項4】
ペリクルフレームを剥離したマスクの表面に流水を形成し、ペリクルフレーム接着剤の剥離を補助する第1界面活性剤の存在下で、前記ペリクルフレームを貼り付けていた位置を摩擦体で擦ることを特徴とするペリクルフレーム接着剤の除去方法。
【請求項5】
ペリクルフレームを剥離したマスクの表面に流水を形成し、前記マスク表面との間に隙間を設けて配置され流水が減速する隔離領域を形成する壁内部において、ペリクルフレーム接着剤の前記マスクからの剥離を補助する第1界面活性剤の存在下で、前記ペリクルフレームを貼り付けていた位置を擦りながら移動させるとともに、前記壁底部周辺の水及び空気を吸引し、ペリクルフレーム接着剤残渣を剥離・回収することを特徴とするペリクルフレーム接着剤の除去方法。
【請求項6】
前記流水に、マスク表面上での水の表面張力を低下させる第2界面活性剤を添加したことを特徴とする請求項4又は請求項5に記載のペリクルフレーム接着剤の除去方法。
【請求項7】
ペリクルフレームを剥離したマスク上に流水を形成する水供給手段と、ペリクルフレーム接着剤の前記マスクからの剥離を補助する第1界面活性剤を前記流水に送る薬剤供給手段と、ペリクルフレームを貼り付けた位置を擦りながら移動する摩擦体と、からなることを特徴とするペリクルフレーム接着剤除去装置。
【請求項8】
ペリクルフレームを剥離したマスクを固定する台と、前記台に固定したマスク上に流水を形成する水供給手段と、ペリクルフレーム接着剤の前記マスクからの剥離を補助する第1界面活性剤を前記流水に送る薬剤供給手段と、ペリクルフレームを貼り付けた位置を擦りながら移動する摩擦体と、前記摩擦体の側面及びその上方を囲むとともにマスク表面との間に隙間を設けて配置され流水が減速する隔離領域を形成し前記ペリクルフレームを貼り付けた位置の前記流水の下流側の底部に吸引のための孔を設けた壁と、前記壁底部周辺の水及び空気を吸引する吸引装置と、からなることを特徴とするペリクルフレーム接着剤除去装置。
【請求項9】
前記台が360°水平方向に回転し、前記摩擦体が直線移動することを特徴とする請求項8に記載のペリクルフレーム接着剤除去装置。
【請求項10】
前記摩擦体が、ポリフッ化エチレンであることを特徴とする請求項7〜請求項9の何れか1項に記載のペリクルフレーム接着剤除去装置。
【請求項11】
請求項7〜請求項10の何れか1項に記載のペリクルフレーム接着剤除去装置において、さらに、マスク表面を撮影する撮影装置を備え、
前記撮影装置での映像からペリクルフレーム接着剤残渣の始点と終点の位置を、2次元平面上の座標点(始点(X1、Y1)及び終点(X2、Y2))として、前記摩擦体及び揺動体の動作を制御する制御装置に与えられ、前記摩擦体が前記制御装置により前記始点(X1、Y1)及び終点(X2、Y2)を結ぶ直線上を移動するよう制御されたことを特徴とするペリクルフレーム接着剤除去装置。
【請求項12】
前記摩擦体の前記マスクを押圧する圧力を所定の範囲に設定する校正手段を備えることを特徴とする請求項4〜請求項11の何れか1項に記載のペリクルフレーム接着剤除去装置。

【図1】
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【図2】
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【図5】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−237838(P2012−237838A)
【公開日】平成24年12月6日(2012.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−105886(P2011−105886)
【出願日】平成23年5月11日(2011.5.11)
【出願人】(500326204)瀬戸技研工業株式会社 (4)
【Fターム(参考)】