説明

フロントモーア

【課題】モーアデッキが地面から持ち上げられた状態で確実に保持されるようにすること。
【解決手段】機体フレーム1と、車体の前部に配置されるモーアデッキと、モーアデッキを昇降する昇降シリンダ3と、昇降シリンダ3を作動制御する昇降バルブ13と、ミッションケース9とを備え、昇降バルブ13と昇降シリンダ3とを結ぶ油路に、絞り弁と逆止弁とを組み合わせた弁16を設け、弁16を機体フレーム1又はミッションケース9に固定した支持部材26を介して、運転座席の前側の床部の下側に配置し、弁16を操作する操作レバー21を床部から運転座席の側に突出させてある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、機体フレームと、車体の前部に配置されるモーアデッキと、前記モーアデッキを昇降する昇降シリンダと、前記昇降シリンダを作動制御する昇降バルブと、ミッションケースとを備えるフロントモーアに関する。
【背景技術】
【0002】
上記フロントモーアは、昇降バルブの操作によって昇降シリンダを作動させることにより、モーアデッキを地面に平行に近接させて刈取を行う刈取姿勢と、移動やメンテナンスのためにモーアデッキを持ち上げて地面からある程度離間させた状態にする非刈取姿勢とに切り替えることができる(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平10−117547号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
モーアデッキを非刈取姿勢にした際、これまでのフロントモーアにはモーアデッキを保持するための機構が備えられていないために、例えば移動走行時にモーアデッキが予期せず下方に変位しようとする場合があり、これを防ぐために頻繁に昇降バルブを操作してモーアデッキを持ち上げなければならず面倒な操作を強いられていた。
本発明はこのような問題に鑑みてなされたもので、モーアデッキが地面から持ち上げられた状態で確実に保持されるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明に係るフロントモーアの第1特徴構成は、機体フレームと、車体の前部に配置されるモーアデッキと、前記モーアデッキを昇降する昇降シリンダと、前記昇降シリンダを作動制御する昇降バルブと、ミッションケースとを備え、前記昇降バルブと前記昇降シリンダとを結ぶ油路に、絞り弁と逆止弁とを組み合わせた弁を設け、前記弁を前記機体フレーム又は前記ミッションケースに固定した支持部材を介して、運転座席の前側の床部の下側に配置し、前記弁を操作する操作レバーを前記床部から前記運転座席の側に突出するように構成した点にある。
【0006】
〔作用及び効果〕
本構成によれば、通常作業の場合には、操作レバーを操作して絞り弁を作動させることにより、昇降バルブの操作によって昇降シリンダを作動させることでモーアデッキを昇降させて刈取姿勢又は非刈取姿勢に切換えることができる。
一方、例えば移動走行時においてモーアデッキを上方に持ち上げた状態で保持したい場合には、操作レバーを操作して逆止弁を作動させることにより昇降シリンダから昇降バルブへの油の逆流を阻止するようにすることができる。これにより、昇降シリンダが短縮作動することはなく、モーアデッキが持ち上げられた状態で確実に保持される。
【0007】
また、操作レバーで絞り弁を操作することにより昇降シリンダから昇降バルブへ流れる油の流量を調節して、モーアデッキの下降速度を調整することができる。
さらに、操作レバーを運転座席の前側の床部から運転座席の側に突出させてあるため、運転者が運転座席に座ったままの状態で操作レバーを操作することができて操作性が良い。
【0008】
第2特徴構成は、前記操作レバーを前記床部に対して着脱又は開閉自在なカバー部材から突出させてある点にある。
【0009】
〔作用及び効果〕
本構成によれば、カバー部材を取り外すか、又は開けることによってその下側にある弁のメンテナンスを容易に行うことができる。
【0010】
第3特徴構成は、前記操作レバーが運転者の左右の足置き位置に対して中間位置に配置される点にある。
【0011】
〔作用及び効果〕
本構成のごとく、操作レバーの取付位置を運転者の左右の足置き位置に対して中間位置に設定すれば、運転者が操作レバーを操作すべく上体を前傾した場合において最も操作し易く、また運転者の乗り降りの際に操作レバーが邪魔になることがない。
【0012】
第4特徴構成は、前記操作レバーが前記絞り弁の開度を調節可能な回転軸部材で構成されており、前記回転軸部材が前記床部を貫通して上方に突出するように設けられている点にある。
【0013】
〔作用及び効果〕
本構成のごとく操作レバーを、床部を貫通して上方に突出するように設けられる回転軸部材で構成すれば、回転軸部材をその軸心周りに回転させて絞り弁の開度を調節することができるため、操作が容易である。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】フロントモーアの全体側面図である。
【図2】フロントモーアの全体平面図である。
【図3】床部の下側の平面図である。
【図4】床部付近の縦断側面図である。
【図5】弁の縦断面図である。
【図6】昇降シリンダを油圧駆動する油圧回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
〔実施形態〕
図1〜図6に基づいて、本発明に係るフロントモーアの実施形態について説明する。
図1〜図3に示すように、フロントモーアは、機体フレーム1と、車体の前部に配置されるモーアデッキ2と、モーアデッキ2を昇降する単動形の昇降シリンダ3と、運転座席4と、駆動前輪5と、操向後輪6と、原動部7と、フロアステップ8(床部)と、ミッションケース9とを備える。
【0016】
モーアデッキ2は、機体フレーム1の前部に上下揺動自在に枢支した左右一対の支持フレーム10と、昇降シリンダ3により駆動されるリフトアーム11とを介して支持されている。
【0017】
図1に示すように、モーアデッキ2を地面に平行に近接させて刈取作業を行う場合、昇降シリンダ3を短縮作動させると、支持フレーム10が下降揺動してモーアデッキ2が下降し、モーアデッキ2の接地輪12が地面に接地して、モーアデッキ2が刈取姿勢となる。
【0018】
図示しないが、移動やメンテナンスのためにモーアデッキ2を持ち上げて地面からある程度離間させる場合、昇降シリンダ3を伸長作動させると、支持フレーム10が上昇揺動してモーアデッキ2が上昇し、モーアデッキ2の接地輪12が地面から離れてモーアデッキ2が非刈取姿勢となる。
【0019】
図3に示すように、昇降シリンダ3がミッションケース9の右側に配置されており、昇降シリンダ3を作動制御する昇降バルブ13がミッションケース9の後方に配置される。昇降シリンダ3と昇降バルブ13とが、第1油圧ホース14、第2油圧ホース15、及び弁16を介して接続される。
【0020】
弁16は、ステー26(支持部材)の固定片26aの先端に溶接固定されている。ステー26は固定片26aと基部26bとを備える。固定片26aは車体前方に突出するように基部26bの左端に設けられており、基部26bはミッションケース9の前面においてその左右方向に亘るようにボルト27で固定されている。尚、ステー26の固定位置はこの位置に限定されるものではなく、ミッションケース9の他の位置(例えば、上面側)や、機体フレーム1の適当な位置(例えば、右又は左の機体フレーム1の縦板部分)に固定するようにしても良い。
【0021】
図2及び図4に示すように、弁16は、運転座席4の前側のフロアステップ8(カバー部材37)の下側に配置されている。
【0022】
図5に示すように、弁16はケース17と、スプリング18と、ポペット19と、軸受け部20と、回転軸部材21(操作レバー)とを備える。
【0023】
ケース17内に、下から順にスプリング18、ポペット19、軸受け部20が収容されており、回転軸部材21が軸受け部20の中に挿入配置される。スプリング18とポペット19の下端とが当接し、ポペット19の上端と回転軸部材21の下端とが当接している。
【0024】
ポペット19はスプリング18によって上方に付勢されている。また、回転軸部材21の先端部分の外周面に雄ネジ部22が形成され、軸受け部20の内周面に雌ネジ部23が形成されており、回転軸部材21をその軸心周りに回転させることによって上下方向に移動させることができる。回転軸部材21の上端部には、T字状又はL字状の操作部21aが形成されている。
【0025】
回転軸部材21を下方に移動させるほど軸受け部20の先端20aとポペット19との間の隙間を大きくすることができ、逆に回転軸部材21を上方に移動させるほど軸受け部20の先端20aとポペット19との間の隙間を小さくして、最終的にはスプリング18の付勢力によってポペット19を軸受け部20の先端20aに当接させることによって油路を閉鎖することができる。ポペット19が軸受け部20の先端20aに当接した状態では回転軸部材21の操作部21aの長手方向が前後方向に向いた状態となる。
【0026】
即ち、ポペット19と軸受け部20とが逆止弁と可変絞り弁の機能を果たしており、回転軸部材21を操作することによって、逆止弁として油の逆流を防止したり、可変絞り弁として油の流量を調節することができる。
【0027】
ケース17の横側面にはその上下方向に第1ホース接続部24及び第2ホース接続部25が設けられている。図3に示すように、第1ホース接続部24は車体の後方側に向いており、第2ホース接続部25は車体の右斜め後ろ方向に向いている。
【0028】
図3及び図4に示すように、昇降バルブ13と第1ホース接続部24とが第1油圧ホース14を介して接続され、昇降シリンダ3と第2ホース接続部25とが第2油圧ホース15を介して接続される。詳細には図3に示すように、第1油圧ホース14の一端が第1ホース接続部24に連結され、他端がミッションケース9の左後方で昇降バルブ13に連結される。また、第2油圧ホース15の一端が第2ホース接続部25に連結され、他端がミッションケース9の右側で昇降シリンダ3に連結される。
【0029】
図3に示すように、弁16を車体の左右中央よりもやや左側に偏倚した位置に配置することによって、第1油圧ホース14及び第2油圧ホース15が同じ長さのものを使用できるように構成されている。そのためこれらの油圧ホースを特に区別して組み付ける必要がない。
【0030】
図6に示すように、昇降バルブ13は、主スプール28、及びリリーフバルブ29を備えており、その油路には静油圧式無段変速装置30(以下、HST30と称する)及びトランスミッションケース9が接続されている。
【0031】
HST30は、可変容量型の油圧ポンプ31、油圧モータ32、チャージポンプ33、及びリリーフバルブ34などを備えており、ミッションケース9の中の油が、チャージポンプ33からのチャージ油が昇降バルブ13を経由して昇降シリンダ3に送られると共に、PTOクラッチ36の入切用の操作弁35を経由してPTOクラッチ36に送られる。
【0032】
図示しないが、通常作業時では、回転軸部材21(図5参照)をその軸心周りに回転させて下方に移動させることによって、弁16のポペット19(図5参照)と、軸受け部20の先端20a(図5参照)との間に隙間を設けている。これにより、油は第1ホース接続部24(図5参照)と第2ホース接続部25(図5参照)との間を行き来することができる(弁16を絞り弁として作動させている状態)。
【0033】
モーアデッキ2を持ち上げて地面から離間させた非刈取姿勢にする場合、図示しないポジションレバーを操作して、図6に示される中立位置28Nから主スプール28を上昇位置28Uに切換える。
【0034】
すると、チャージポンプ33から送られる油が、昇降バルブ13と昇降シリンダ3とを結ぶ油路(図3の第1及び第2油圧ホース14,15)に設けてある弁16を経由して昇降シリンダ3に送出されて、昇降シリンダ3が伸長作動する結果、モーアデッキ2(図1参照)が上昇駆動される。
【0035】
また、モーアデッキ2を地面に近接させて刈取作業を行う場合、図示しないポジションレバーを操作して、図6に示される中立位置28Nから主スプール28を下降位置28Dに切換える。
【0036】
すると、昇降シリンダ3の中の油が、弁16及び昇降バルブ13を経由してトランスミッションケース9に排油可能となり、モーアデッキ2の重みで昇降シリンダ3が短縮作動して、モーアデッキ2が自重で下降する。このとき、弁16の回転軸部材21(図5参照)をその軸心周りに回転させて上下方向に移動させ、軸受け部20の先端20aとポペット19との間の隙間の大きさを調節することにより、昇降シリンダ3から昇降バルブ13へ流れる油の流量を調節することができる。これにより、弁16を可変絞り弁として機能させてモーアデッキ2の下降速度を調整することができる。
【0037】
一方、例えば移動走行時においてモーアデッキ2を上方に持ち上げた状態で保持したい場合には、上述の非刈取姿勢にする場合と同様に、図示しないポジションレバーを操作して、図6に示される中立位置28Nから主スプール28を上昇位置28Uに切換えて、モーアデッキ2を持ち上げる。
【0038】
そして、図5に示すように、回転軸部材21をその軸心周りに回転させて上方に移動させることによって、スプリング18の付勢力によりポペット19を軸受け部20の先端20aに当接させて油路を封鎖する(弁16を逆止弁として作動させている状態)。
【0039】
これにより、たとえ昇降シリンダ3から昇降バルブ13への油の逆流が生じたとしても、弁16のポペット19と軸受け部20によって逆止弁の機能が発揮されるため、昇降シリンダ3から昇降バルブ13への油の逆流が防止される。そのため、昇降シリンダ3が短縮作動することはなく、モーアデッキ2が持ち上げられた状態で確実に保持される。
【0040】
図2及び図4に示すように、フロアステップ8の左右中間部分には、支点P周りに回動させて開閉自在なカバー部材37が設けられている。尚、カバー部材37は、フロアステップ8に対して着脱自在に構成したものであっても良い。このように構成したものであれば、カバー部材37を開けることによってその下側にある弁16のメンテナンスを容易に行うことができる。また、図3に示すように、本実施形態では弁16を車体の左右中央よりもやや左側に偏倚した位置に配置しているため、弁16が車体の左右中央に設けられている場合と比べて、作業者が車体の左側に立って弁16のメンテナンスをする際に作業し易い。
【0041】
図4に示すように、回転軸部材21は、カバー部材37に形成した前後方向に長い長孔38を貫通させて、運転座席4の側(カバー部材37の上面より上側)に突出させてある。回転軸部材21を貫通させる孔を前後方向に長い長孔38にしたことによって、カバー部材37の開閉動作を行う場合に、カバー部材37と回転軸部材21及び回転軸部材21操作部21aとが互いに干渉し難くなるように構成されている。
【0042】
また図2に示すように、長孔38は、運転者の左右の足置き位置39,39に対して中間位置に設けられる。かかる構成であれば、運転者が回転軸部材21を操作すべく上体を前傾した場合において最も操作し易く、また運転者の乗り降りの際に回転軸部材21が邪魔になることがない。さらに、回転軸部材21が車体の左右中央よりもやや左側に配置されるため、運転者は右手でハンドル40を操作しながら左手で回転軸部材21を操作し易い。
【0043】
〔別実施形態〕
(1)前述の実施形態の弁として、絞り弁及び逆止弁をそれぞれ別体に備えるものを使用しても良い。この場合、絞り弁と逆止弁とを内部回路又は外部配管によって並列回路で接続しても良く、絞り弁の開度のみを操作する操作レバーを設けても良い。
【0044】
(2)前述の実施形態の絞り弁として、可変絞り弁に限らず、開度を調整不能な固定絞り弁を設けても良い。この場合、操作レバーにより固定絞り弁を全閉状態と所定開度状態に操作できるように構成しても良い。
【0045】
(3)前述の実施形態の弁を、車体の左右中央に配置したり、車体の左右中央よりもやや右側に偏倚した位置に配置したりしても良い。
【産業上の利用可能性】
【0046】
以上説明したように、本発明は、フロントマウント型の乗用型芝刈機に有用である。
【符号の説明】
【0047】
1 機体フレーム
2 モーアデッキ
3 昇降シリンダ
4 運転座席
8 フロアステップ(床部)
9 ミッションケース
13 昇降バルブ
16 弁
21 回転軸部材(操作レバー)
26 ステー(支持部材)
37 カバー部材
39 足置き位置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
機体フレームと、車体の前部に配置されるモーアデッキと、前記モーアデッキを昇降する昇降シリンダと、前記昇降シリンダを作動制御する昇降バルブと、ミッションケースとを備え、
前記昇降バルブと前記昇降シリンダとを結ぶ油路に、絞り弁と逆止弁とを組み合わせた弁を設け、
前記弁を前記機体フレーム又は前記ミッションケースに固定した支持部材を介して、運転座席の前側の床部の下側に配置し、
前記弁を操作する操作レバーを前記床部から前記運転座席の側に突出させてあるフロントモーア。
【請求項2】
前記操作レバーを前記床部に対して着脱又は開閉自在なカバー部材から突出させてある請求項1に記載のフロントモーア。
【請求項3】
前記操作レバーが運転者の左右の足置き位置に対して中間位置に配置される請求項1又は2に記載のフロントモーア。
【請求項4】
前記操作レバーが前記絞り弁の開度を調節可能な回転軸部材で構成されており、前記回転軸部材が前記床部を貫通して上方に突出するように設けられている請求項3に記載のフロントモーア。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−23974(P2012−23974A)
【公開日】平成24年2月9日(2012.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−163004(P2010−163004)
【出願日】平成22年7月20日(2010.7.20)
【出願人】(000001052)株式会社クボタ (4,415)
【Fターム(参考)】