説明

フローセンサ

【課題】コストの増加を抑制しつつ広範囲の流速を検出することのできるフローセンサを提供する。
【解決手段】所定速度で流れる流体を加熱するヒータ部と、ヒータ部によって生ずる流体の温度差を測定するように構成された上流側測温抵抗素子32及び下流側測温抵抗素子33と、を備え、ヒータ部は、上流側測温抵抗素子32及び下流側測温抵抗素子33との距離D1,D2がそれぞれ異なる第1ヒータ31aと第2ヒータ31bとを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明に係るいくつかの態様は、流体の速度(流速)を検出するフローセンサに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種のフローセンサとして、薄膜絶縁層の中央部にヒータ(発熱用抵抗体)を設け、その両側に温度センサを配置したものが知られている(例えば、特許文献1参照)。このフローセンサは、ヒータの両側に、一組の低流量用温度センサと一組の高流量用温度センサとを備え、外側に配置した一組の温度センサで低い流速を検出し、内側に配置したもう一組の温度センサで高い流速を検出することで、広範囲の流速を検出可能にしていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】実開平2−57027号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来のフローセンサでは、広範囲の流量を検出可能にするために、二組の温度センサが必要になるので、温度センサの出力信号を処理する信号処理回路を複数備えたり、高度化・複雑化したりすることで、コストが増加するという問題が生じていた。
【0005】
本発明のいくつかの態様は前述の問題に鑑みてなされたものであり、コストの増加を抑制しつつ広範囲の流速を検出することのできるフローセンサを提供することを目的の1つとする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係るフローセンサは、所定速度で流れる流体を加熱するヒータ部と、ヒータ部によって生ずる前述の流体の温度差を測定するように構成された測温部と、を備え、ヒータ部は、測温部との距離がそれぞれ異なる複数の発熱体を有する。
【0007】
かかる構成によれば、ヒータ部が、測温部との距離がそれぞれ異なる複数の発熱体を有する。ここで、測温部と発熱体との距離は、測温部が測定する、ヒータ部の加熱によって生ずる流体の温度差の感度に影響を及ぼす。すなわち、測温部と発熱体との距離が遠い場合、ヒータ部からの熱伝導による伝熱の影響が小さくなり、相対的に流体による熱伝達の影響が大きくなるため、流速に対する感度(測温部によって測定される流体の温度差)が大きくなる。よって、流速が低い範囲(低流速域)における感度は向上するが、所定の流速を超えると次第に感度が飽和してしまう。一方、測温部と発熱体との距離が近い場合、ヒータ部からの熱伝導による伝熱の影響が大きく、特に低流速域では流体による熱伝達の影響を受けにくいので、流速に対する感度(測温部によって測定される流体の温度差)が小さくなる。よって、流速が低い範囲(低流速域)における感度は低いが、流速が高い範囲(高流速域)において感度が飽和しにくい。従って、ヒータ部が、測温部との距離がそれぞれ異なる複数の発熱体を有することにより、流速に対する測温部の感度を変更することができる。
【0008】
好ましくは、複数の発熱体は、一の前記発熱体を他の前記発熱体が囲むように配置される。
【0009】
かかる構成によれば、ヒータ部が有する複数の発熱体が、一の発熱体を他の発熱体が囲むように配置される。これにより、測温部との距離がそれぞれ異なる複数の発熱体を容易に実現(構成)することができる。
【0010】
好ましくは、ヒータ部は、複数の発熱体のうちの一の発熱体と他の発熱体との間を熱的に絶縁する開口部を有する。
【0011】
かかる構成によれば、ヒータ部が、複数の発熱体のうちの一の発熱体と他の発熱体との間を熱的に絶縁する開口部を有する。これにより、一の発熱体と他の発熱体との間が断熱されるので、例えば、一の発熱体と測温部との間に開口部が存在する場合、一の発熱体が発する熱は、測温部及びヒータ部が設けられる固体内を更に伝熱しにくくなり、測温部は、流速に対する温度上昇(温度差)がより敏感になる。よって、一の発熱体を使用する場合、流速が低い範囲(低流速域)における感度が更に向上する。これにより、低流速を更に高い精度で検出することができる。
【0012】
好ましくは、前述の所定速度に基づいて、ヒータ部において使用する発熱体を切替えるヒータ制御部を更に備える。
【0013】
かかる構成によれば、ヒータ制御部が、流体の所定速度に基づいて、ヒータ部において使用する発熱体を切替える。これにより、低流速の感度を向上させる一の発熱体を使用し、高流速の感度を向上させる他の発熱体を使用することができ、流速に対する測温部の感度を、流速に応じて設定することができる。これにより、広範囲の流速を高い精度で検出することができる。
【0014】
好ましくは、外部信号に基づいて、ヒータ部において使用する発熱体を切替えるヒータ制御部を更に備える。
【0015】
かかる構成によれば、かかる構成によれば、ヒータ制御部が、外部信号に基づいて、ヒータ部において使用する発熱体を切替える。これにより、測温部の検出信号をトリガーとして、低流速の感度を向上させる一の発熱体を使用し、高流速の感度を向上させる他の発熱体を使用することができ、流速に対する測温部の感度を、流速に応じて設定することができる。これにより、広範囲の流速を高い精度で検出することができる。
【0016】
好ましくは、発熱体を切替えるスイッチを更に備え、ヒータ制御部は、スイッチを切替える。
【0017】
かかる構成によれば、ヒータ制御部が、発熱体を切替えるスイッチを切替える。これにより、ヒータ部において使用する発熱体を容易に切替えることができる。
【0018】
好ましくは、測温部は、ヒータ部に対して上流側と下流側とにそれぞれ配置される複数の温度センサを有する。
【0019】
かかる構成によれば、測温部が、ヒータ部に対して上流側と下流側とにそれぞれ配置される複数の温度センサを有する。これにより、所定速度で流れる流体における上流側と下流側との温度差を容易に測定することができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、ヒータ部が、測温部との距離がそれぞれ異なる複数の発熱体を有することにより、流速に対する測温部の感度を変更することができる。これにより、十分な感度で広範囲の流速を検出することができる。また、従来のフローセンサと比較して、測温部を複数設けたり、測温部の出力信号を処理する信号処理回路を高度化・複雑化したりする必要がなく、ヒータの数を増やすだけで良いので、コストの増加を抑制することができるとともに、チップサイズを小型化することができ、配線パターンが短くなることで、製造プロセスの歩留まり低下、及び検査工程の増加を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明に係るセンサの例によるフローセンサを説明する斜視図である。
【図2】図1に示したVI−VI線矢視方向断面である。
【図3】図1に示したフローセンサの論理構成を説明するブロック図である。
【図4】図1及び図2に示した第1ヒータ及び第2ヒータの一例を説明する要部拡大平面図である。
【図5】流度と測定される温度差との関係を示すグラフである。
【図6】図1及び図2に示した第1ヒータ及び第2ヒータの他の例を説明する要部拡大平面図である。
【図7】図1及び図2に示した第1ヒータ及び第2ヒータの他の例を説明する要部拡大平面図である。
【図8】変形例における第1ヒータ及び第2ヒータの一例を説明する要部拡大平面図である。
【図9】流度と測定される温度差との関係を示すグラフである。
【図10】変形例における第1ヒータ及び第2ヒータの他の例を説明する要部拡大平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下に本発明の実施の形態を説明する。以下の図面の記載において、同一又は類似の部分には同一又は類似の符号で表している。但し、図面は模式的なものである。したがって、具体的な寸法などは以下の説明を照らし合わせて判断するべきものである。また、図面相互間においても互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれていることは勿論である。なお、以下の説明において、図面の上側を「上」、下側を「下」、左側を「左」、右側を「右」という。
【0023】
図1乃至図6は、本発明に係るフローセンサの一例を示すためのものである。図1は、本発明に係るフローセンサを説明する斜視図であり、図2は、図1に示したVI−VI線矢視方向断面図である。図1及び図2に示すように、フローセンサ10は、一方の面(図1及び図2において上面)にキャビティ(凹部)25を有する基台20と、基台20の上にキャビティ25を覆うように配置された薄膜状の絶縁膜30と、を備える。絶縁膜30において、キャビティ25を覆う部分は、熱容量が小さく、基台20に対して断熱性を有するダイアフラムを成す。
【0024】
また、フローセンサ10は、絶縁膜30の中央部に設けられ、所定速度で流れる流体を加熱するための第1ヒータ(抵抗素子)31a及び第2ヒータ(抵抗素子)31bと、半導体基板30において第1ヒータ31a及び第2ヒータ31bを挟んで第1ヒータ31a及び第2ヒータ31bの両側に設けられた一組の抵抗素子32,33と、基台20の一辺側に設けられた周囲温度センサ(抵抗素子)34と、絶縁膜30の対角関係にある角部近傍に設けられた電極パッド35と、を更に備える。なお、本実施形態における第1ヒータ31a及び第2ヒータ31bは、本発明のフローセンサにおける「ヒータ部」に相当し、抵抗素子32,33は、本発明のフローセンサにおける「測温部」に相当する。
【0025】
このような構成を備えるフローセンサ10は、例えば図1及び図2中にブロック矢印で示すように、流速又は流量の検出対象である流体、例えばガスの流れる方向に沿って、抵抗素子32、第1ヒータ31a、第2ヒータ31b、及び抵抗素子33が順に並ぶように配置される。この場合、抵抗素子32は、第1ヒータ31a及び第2ヒータ31bよりも上流側(図1及び図2において左側)に設けられた上流側測温抵抗素子(上流側温度センサ)として機能し、抵抗素子33は、第1ヒータ31a及び第2ヒータ31bよりも下流側(図1及び図2において右側)に設けられた下流側測温抵抗素子(上流側温度センサ)として機能する。このように、第1ヒータ31a及び第2ヒータ31bに対して一方側(図1及び図2において左側)が流体の上流側、他方側(図1及び図2において右側)が流体の下流側となるように、フローセンサ10を設置することにより、後述するように、第1ヒータ31a及び第2ヒータ31bの加熱によって生ずる流体の温度差を容易に測定することができる。
【0026】
周囲温度センサ34は、フローセンサ10が設置された管路(図示省略)を流通するガスの温度を測定する。第1ヒータ31a及び第2ヒータ31bは、周囲温度センサ34が計測したガスの温度よりも一定温度(例えば40℃)高くなるように、ガスを加熱する。上流側測温抵抗素子32は、第1ヒータ31a及び第2ヒータ31bよりも上流側の温度を検出するために用いられ、下流側測温抵抗素子33は、第1ヒータ31a及び第2ヒータ31bよりも下流側の温度を検出するために用いられる。
【0027】
ここで、管路内のガスが静止している場合、第1ヒータ31a及び第2ヒータ31bで加えられた熱は、上流方向及び下流方向へ対称的に拡散する。従って、上流側測温抵抗素子32及び下流側測温抵抗素子33の温度は等しくなり、上流側測温抵抗素子32及び下流側測温抵抗素子33の電気抵抗は等しくなる。これに対し、管路内のガスが上流から下流に流れている場合、第1ヒータ31a及び第2ヒータ31bで加えられた熱は、下流方向に運ばれる。従って、上流側測温抵抗素子32の温度よりも、下流側測温抵抗素子33の温度が高くなる。
【0028】
このような温度差は、上流側測温抵抗素子32の電気抵抗と下流側測温抵抗素子33の電気抵抗との間に差を生じさせる。下流側測温抵抗素子33の電気抵抗と上流側測温抵抗素子32の電気抵抗との差は、管路内のガスの速度や流量と相関関係がある。そのため、下流側測温抵抗素子33の電気抵抗と上流側測温抵抗素子32の電気抵抗との差を基に、管路を流れる流体の速度(流速)や流量を算出することができる。抵抗素子31、32及び33の電気抵抗の情報は、図1に示す電極パッド35を通じて電気信号として取り出すことができる。
【0029】
図1及び図2に示す基台20の厚さは、例えば525μmであり、基台20の縦横の寸法は、例えばそれぞれ2mm程度である。但し、基板20の寸法及び形状は、これらに限られない。基台20の材料としては、例示的に、シリコン(Si)などが使用可能である。
【0030】
キャビティ25は、異方性エッチングやMEMS(Micro Electro Mechanical Systems)技術などを用いて形成することができる。図2には、一例として断面形状が舟形凹状のキャビティ25が形成された様子を例示している。
【0031】
図1及び図2に示す絶縁膜30の厚さは、例えば1μmであり、絶縁膜30の縦横の寸法は、例えば基台20と同一(2mm程度)である。絶縁膜30の材料としては、例示的に、窒化ケイ素(SiN)や酸化ケイ素(SiO2)などが使用可能である。
【0032】
各抵抗素子31a,31b,32,33,34のそれぞれの材料には、白金(Pt)などが使用可能である。また、各抵抗素子31a,31b,32,33,34の形成には、リソグラフィ法などが適用可能である。
【0033】
図3は、図1に示したフローセンサの論理構成を説明するブロック図である。図3に示すように、上流側測温抵抗素子32と、下流側測温抵抗素子33と、周囲温度センサ34から出力される電気信号は、図1に示す電極パッド35を介して制御回路40に入力される。また、制御回路40から出力される電気信号は、図1に示す電極パッド35を介して第1ヒータ31aと、第2ヒータ31bとに入力される。制御回路40は、後述するように、上流側測温抵抗素子32及び下流側測温抵抗素子33の出力信号に基づいて、第1ヒータ31a又は第2ヒータ31bに電気信号を出力する。
【0034】
図4は、図1及び図2に示した第1ヒータ及び第2ヒータの一例を説明する要部拡大平面図である。図4に示すように、各抵抗素子31a,31b,32,33は、線幅の狭い微細な金属線を引き回した配線パターンにより形成されている。第1ヒータ31aと第2ヒータ31bとは、上流側測温抵抗素子32及び下流側測温抵抗素子33との距離がそれぞれ異なっている。すなわち、第1ヒータ31aと上流側測温抵抗素子32及び下流側測温抵抗素子33との距離D1は相対的に長く、第2ヒータ31bと上流側測温抵抗素子32及び下流側測温抵抗素子33との距離D2は相対的に短くなっている(D1<D2)。
【0035】
図5は、流度と測定される温度差との関係を示すグラフである。ここで、図3に示す上流側測温抵抗素子32及び下流側測温抵抗素子33と第1ヒータ31a及び第2ヒータ31bとの距離は、下流側測温抵抗素子33の電気抵抗と上流側測温抵抗素子32の電気抵抗との差、言い換えれば、第1ヒータ31a及び第2ヒータ31bの加熱によって生ずる流体の温度差、における感度に影響を及ぼす。すなわち、図4に示す距離D1のように、第1ヒータ31aと上流側測温抵抗素子32及び下流側測温抵抗素子33とが遠い場合、第1ヒータ31aからの熱伝導による伝熱の影響が小さくなり、相対的に流体による熱伝達の影響が大きくなるため、流速に対する感度(上流側測温抵抗素子32及び下流側測温抵抗素子33によって測定される流体の温度差)が大きくなる。よって、図5の特性L1に示すように、流速が低い範囲(低流速域)における感度は向上する(特性L1の傾きが大きい)が、所定の流速を超えると次第に感度が飽和してしまう(特性L1の傾きが小さい)。一方、図4に示す距離D2のように、第2ヒータ31bと上流側測温抵抗素子32及び下流側測温抵抗素子33とが近い場合、第2ヒータ31bからの熱伝導による伝熱の影響が大きく、特に低流速域では流体による熱伝達の影響を受けにくい、流速に対する感度(上流側測温抵抗素子32及び下流側測温抵抗素子33によって測定される流体の温度差)が小さくなる。よって、図5の特性Hに示すように、流速が低い範囲(低流速域)における感度は低い(特性Hの傾きが小さい)が、流速が高くなっても絶縁膜30内を十分な熱が伝導するので、流速が高い範囲(高流速域)において感度が飽和しにくい(特性Lの傾きがあまり小さくならない)。従って、上流側測温抵抗素子32及び下流側測温抵抗素子33との距離がそれぞれ異なる第1ヒータ31aと第2ヒータ31bとを有することにより、流速に対する上流側測温抵抗素子32及び下流側測温抵抗素子33の感度を変更することができる。
【0036】
また、図4に示したように、第1ヒータ31aを第2ヒータ31bが囲むように、言い換えれば入れ子状に配置されるのが好ましい。これにより、上流側測温抵抗素子32及び下流側測温抵抗素子33との距離がそれぞれ異なる第1ヒータ31a及び第2ヒータ31bを容易に実現(構成)することができる。
【0037】
図6は、図1及び図2に示した第1ヒータ及び第2ヒータの他の例を説明する要部拡大平面図である。第1ヒータ31a及び第2ヒータ31bは、図4に示した例に限定されず、図6に示すように第1ヒータ31aの面積に対して第2ヒータ31bの面積の方が大きくなるようにしてもよい。この場合、図6に示すように、第1ヒータ31aを第2ヒータ31bが囲むように配置することが好ましい。また、第1ヒータ31a及び第2ヒータ31bを入れ子状に配置しない場合であっても、上流側測温抵抗素子32及び下流側測温抵抗素子33との距離がそれぞれ異なっていればよい。
【0038】
また、図3に示す制御回路40は、上流側測温抵抗素子32及び下流側測温抵抗素子33から入力される電気信号、すなわち流速に基づいて、電気信号の出力先、すなわち第1ヒータ31a及び第2ヒータ31bにおいて、使用するヒータを切替えることが好ましい。これにより、例えば、図5に示す流速S1以下の範囲では低流速の感度を向上させる第1ヒータ31aを使用し、図5に示す流速S1以上の範囲では高流速の感度を向上させる第2ヒータ31bを使用することができ、流速に対する上流側測温抵抗素子32及び下流側測温抵抗素子33の感度を、流速に応じて設定することができる。
【0039】
換言すれば、図3に示す制御回路40は、上流側測温抵抗素子32及び下流側測温抵抗素子33から入力される電気信号、すなわち外部信号に基づいて、第1ヒータ31a及び第2ヒータ31bにおいて、使用するヒータを切替える。これにより、上流側測温抵抗素子32及び下流側測温抵抗素子33の検出信号(出力信号)をトリガーとして、例えば、図5に示す流速S1以下の範囲では低流速の感度を向上させる第1ヒータ31aを使用し、図5に示す流速S1以上の範囲では高流速の感度を向上させる第2ヒータ31bを使用することができ、流速に対する上流側測温抵抗素子32及び下流側測温抵抗素子33の感度を、流速に応じて設定することができる。
【0040】
図7は、図1及び図2に示した第1ヒータ及び第2ヒータの他の例を説明する要部拡大平面図である。第1ヒータ31aと第2ヒータ31bとを切替えるために、図7に示すように、第1スイッチ41a及び第2スイッチ41bとを備え、図3に示す制御回路40は第1スイッチ41a及び第2スイッチ41bを切り替えるようにしてもよい。例えば、第1ヒータ31aを使用する場合には、図3に示す制御回路40は、図7に示す第1スイッチ41aを右側に切替えるとともに第2スイッチ41bを左側に切替える。逆に、第2ヒータ31bを使用する場合には、図3に示す制御回路40は、図7に示す第1スイッチ41aを左側に切替えるとともに第2スイッチ41bを右側に切替える。これにより、第1ヒータ31a及び第2ヒータ31bにおいて使用する発熱体を容易に切替えることができる。
【0041】
本実施形態では、流体を加熱するものとして、第1ヒータ31a及び第2ヒータ31bの2つのヒータを示したが、これに限定されず、3つ以上の複数のヒータを設けるようにしてもよい。この場合、複数のヒータは、上流側測温抵抗素子32及び下流側測温抵抗素子33との距離が、それぞれ異なるように配置される。
【0042】
このように、本実施形態におけるフローセンサ10によれば、上流側測温抵抗素子32及び下流側測温抵抗素子33との距離D1,D2がそれぞれ異なる第1ヒータ31aと第2ヒータ31bとを有する。ここで、図4に示す上流側測温抵抗素子32及び下流側測温抵抗素子33と第1ヒータ31a及び第2ヒータ31bとの距離D1,D2は、下流側測温抵抗素子33の電気抵抗と上流側測温抵抗素子32の電気抵抗との差、言い換えれば、第1ヒータ31a及び第2ヒータ31bの加熱によって生ずる流体の温度差、における感度に影響を及ぼす。すなわち、図4に示す距離D1のように、第1ヒータ31aと上流側測温抵抗素子32及び下流側測温抵抗素子33とが遠い場合、第1ヒータ31aからの熱伝導による伝熱の影響が小さくなり、相対的に流体による熱伝達の影響が大きくなるため、流速に対する感度(上流側測温抵抗素子32及び下流側測温抵抗素子33によって測定される流体の温度差)が大きくなる。よって、図5の特性L1に示すように、流速が低い範囲(低流速域)における感度は向上する(特性L1の傾きが大きい)が、所定の流速を超えると次第に感度が飽和してしまう(特性L1の傾きが小さい)。一方、図4に示す距離D2のように、第2ヒータ31bと上流側測温抵抗素子32及び下流側測温抵抗素子33とが近い場合、第2ヒータ31bからの熱伝導による伝熱の影響が大きく、特に低流速域では流体による熱伝達の影響を受けにくい、流速に対する感度(上流側測温抵抗素子32及び下流側測温抵抗素子33によって測定される流体の温度差)が小さくなる。よって、図5の特性Hに示すように、流速が低い範囲(低流速域)における感度は低い(特性Hの傾きが小さい)が、流速が高くなっても絶縁膜30内を十分な熱が伝導するので、流速が高い範囲(高流速域)において感度が飽和しにくい(特性Hの傾きがあまり小さくならない)。従って、上流側測温抵抗素子32及び下流側測温抵抗素子33との距離D1,D2がそれぞれ異なる第1ヒータ31aと第2ヒータ31bとを有することにより、流速に対する上流側測温抵抗素子32及び下流側測温抵抗素子33の感度を変更することができる。これにより、十分な感度で広範囲の流速を検出することができる。また、従来のフローセンサと比較して、上流側測温抵抗素子32及び下流側測温抵抗素子33を複数設けたり、上流側測温抵抗素子32及び下流側測温抵抗素子33の出力信号を処理する信号処理回路を高度化・複雑化したりする必要がなく、ヒータの数を増やすだけで良いので、コストの増加を抑制することができるとともに、チップサイズを小型化することができ、配線パターンが短くなることで、製造プロセスの歩留まり低下、及び検査工程の増加を防止することができる。
【0043】
また、本実施形態におけるフローセンサ10によれば、第1ヒータ31a及び第2ヒータ31bが、入れ子状に配置される。これにより、上流側測温抵抗素子32及び下流側測温抵抗素子33との距離D1,D2がそれぞれ異なる第1ヒータ31a及び第2ヒータ31bを容易に実現(構成)することができる。
【0044】
また、本実施形態におけるフローセンサ10によれば、制御回路40が、流速に基づいて、第1ヒータ31a及び第2ヒータ31bにおいて使用するヒータを切替える。これにより、例えば、図5に示す流速S1以下の範囲では低流速の感度を向上させる第1ヒータ31aを使用し、図5に示す流速S1以上の範囲では高流速の感度を向上させる第2ヒータ31bを使用することができ、流速に対する上流側測温抵抗素子32及び下流側測温抵抗素子33の感度を、流速に応じて設定することができる。これにより、広範囲の流速を高い精度で検出することができる。
【0045】
また、本実施形態におけるフローセンサ10によれば、制御回路40は、外部信号に基づいて、第1ヒータ31a及び第2ヒータ31bにおいて使用するヒータを切替える。これにより、上流側測温抵抗素子32及び下流側測温抵抗素子33の検出信号(出力信号)をトリガーとして、例えば、図5に示す流速S1以下の範囲では低流速の感度を向上させる第1ヒータ31aを使用し、図5に示す流速S1以上の範囲では高流速の感度を向上させる第2ヒータ31bを使用することができ、流速に対する上流側測温抵抗素子32及び下流側測温抵抗素子33の感度を、流速に応じて設定することができる。これにより、広範囲の流速を高い精度で検出することができる。
【0046】
また、本実施形態におけるフローセンサ10によれば、制御回路40は、第1ヒータ31aと第2ヒータ31bとを切替える第1スイッチ41a及び第2スイッチ41bを切替える。これにより、第1ヒータ31a及び第2ヒータ31bにおいて使用するヒータを容易に切替えることができる。
【0047】
また、本実施形態におけるフローセンサ10によれば、上流側測温抵抗素子32及び下流側測温抵抗素子33が、第1ヒータ31a及び第2ヒータ31bに対して一方側(図1及び図2において左側)と他方側(図1及び図2において右側)とにそれぞれ配置される。これにより、図1及び図2に示すように、第1ヒータ31a及び第2ヒータ31bに対して左側が流体の上流側、右側が流体の下流側となるように、フローセンサ10を設置することにより、流体の温度差を容易に測定することができる。
【0048】
(変形例)
図8乃至図10は、本発明に係るフローセンサの変形例を示すためのものである。なお、特に記載がない限り、前述した実施形態と同一構成部分は同一符号をもって表し、その説明を省略する。また、図示しない構成部分は、前述した実施形態と同様とする。
【0049】
図8は、図1に示したフローセンサの変形例における第1ヒータ及び第2ヒータの一例を説明する要部拡大平面図であり、図9は、流体の速度と測定される温度差との関係を示すグラフである。図8に示すように、絶縁膜30において第1ヒータ31aと第1ヒータ31bとの間を熱的に絶縁するために、第1ヒータ31aと第1ヒータ31bとの間に、絶縁膜30の上面から下面に貫通するスリット(開口)36が形成される。これにより、第1ヒータ31aと第1ヒータ31bとの間が断熱されるので、上流側測温抵抗素子32及び下流側測温抵抗素子33との間にスリット36が存在する第1ヒータ31aが発する熱は、絶縁膜30内を更に伝導しにくくなり、上流側測温抵抗素子32及び下流側測温抵抗素子33は、流速に対する温度上昇(温度差)がより敏感になる。よって、上流側測温抵抗素子32及び下流側測温抵抗素子33との距離が遠い第1ヒータ31aを使用する場合、図9の特性L2に示すように、流速が低い範囲(低流速域)における感度が更に向上する(特性L2の傾きが更に大きい)。
【0050】
図10は、図8に示した第1ヒータ及び第2ヒータの他の例を説明する要部拡大平面図である。第1ヒータ31a及び第2ヒータ31bは、図8に示した例に限定されず、第1ヒータ31aと第2ヒータ31bとの間にスリット36を形成する場合であっても、前述した実施形態と同様に、図10に示すように第1ヒータ31aの面積に対して第2ヒータ31bの面積の方が大きくなるようにしてもよい。
【0051】
このように、変形例におけるフローセンサ10によれば、第1ヒータ31aと第1ヒータ31bとの間を熱的に絶縁するスリット36を有する。これにより、第1ヒータ31aと第1ヒータ31bとの間が断熱されるので、上流側測温抵抗素子32及び下流側測温抵抗素子33との間にスリット36が存在する第1ヒータ31aが発する熱は、絶縁膜30内を更に伝達しにくくなり、上流側測温抵抗素子32及び下流側測温抵抗素子33は、流速に対する温度上昇(温度差)がより敏感になる。よって、上流側測温抵抗素子32及び下流側測温抵抗素子33との距離が遠い第1ヒータ31aを使用する場合、図9の特性L2に示すように、流速が低い範囲(低流速域)、特に、流速S2以下における感度が更に向上する(特性L2の傾きが更に大きい)。これにより、低流速を更に高い精度で検出することができる。
【0052】
なお、前述の実施形態の構成は、組み合わせたり或いは一部の構成部分を入れ替えたりしたりしてもよい。また、本発明の構成は前述の実施形態のみに限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加えてもよい。
【符号の説明】
【0053】
10…フローセンサ
20…基台
25…キャビティ
30…絶縁層
31a…第1ヒータ
31b…第2ヒータ
32…上流側測温抵抗素子
33…下流側測温抵抗素子
34…周囲温度センサ
35…電極パッド
41a…第1スイッチ
41b…第2スイッチ
50…制御回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定速度で流れる流体を加熱するヒータ部と、
前記ヒータ部によって生ずる前記流体の温度差を測定するように構成された測温部と、を備え、
前記ヒータ部は、前記測温部との距離がそれぞれ異なる複数の発熱体を有する
ことを特徴とするフローセンサ。
【請求項2】
前記複数の発熱体は、一の前記発熱体を他の前記発熱体が囲むように配置される
ことを特徴とする請求項1に記載のフローセンサ。
【請求項3】
前記ヒータ部は、前記複数の発熱体のうちの一の前記発熱体と他の前記発熱体との間を熱的に絶縁する開口部を有する
ことを特徴とする請求項1又は2に記載のフローセンサ。
【請求項4】
前記所定速度に基づいて、前記ヒータ部において使用する前記発熱体を切替えるヒータ制御部を更に備える
ことを特徴とする請求項1乃至3の何れか一項に記載のフローセンサ。
【請求項5】
外部信号に基づいて、前記ヒータ部において使用する前記発熱体を切替えるヒータ制御部を更に備える
ことを特徴とする請求項1乃至3の何れか一項に記載のフローセンサ。
【請求項6】
前記発熱体を切替えるスイッチを更に備え、
前記ヒータ制御部は、前記スイッチを切替える
ことを特徴とする請求項4又は5に記載のフローセンサ。
【請求項7】
前記測温部は、前記ヒータ部に対して上流側と下流側とにそれぞれ配置される複数の温度センサを含む
ことを特徴とする請求項1乃至6の何れか一項に記載のフローセンサ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図5】
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【図9】
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【図4】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−209038(P2011−209038A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−75667(P2010−75667)
【出願日】平成22年3月29日(2010.3.29)
【出願人】(000006666)株式会社山武 (1,808)
【Fターム(参考)】