説明

フローティングナット

【課題】フローティングナットの部品点数を減らす。
【解決手段】リテーナ20の背面板21、押圧片22、側板23をばね鋼板を折り曲げることにより一体に形成する。ナット本体10の座板11の正面に当接する押圧片22が、座板11を背面板21に弾性的に押し付ける。これにより、ナット本体10はリテーナ20内でずれ動かないように位置決めされ、かつ指でつまんで背面板21に沿ってスライドさせることも可能となる。リテーナ20自体がナット本体10を位置決めできる構成なので、従来のようにナット本体10に位置決め用の板ばねを装着することが不要となり、部品点数の削減が図られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、2つの部材を結合する際に用いられるフローティングナットに関する。
【背景技術】
【0002】
電車の車内側壁パネルに、金属パイプをコの字型に曲げ加工して作製された手すりを取り付け具を介して取り付ける場合など、2つの部材を結合する際には、寸法誤差などによって両者の位置関係に微少なずれが生じることがある。
【0003】
このようなずれを吸収して結合を容易にするための取り付け具として、図4のようなフローティングナット2が知られている。
【0004】
図示のように、フローティングナット2は、貫通するねじ孔12aが形成された板状のナット本体10と、弾性を有しない鋼板を折り曲げて形成され、内部にナット本体10を保持するリテーナ20と、ナット本体10の正面側に装着された板ばね30と、から構成されている。
【0005】
リテーナ20は、ナット本体10の背面に対向し、ねじ孔12aと連通する円形の挿通孔21aが形成された背面板21と、ナット本体10の正面に対向する上下一対の正面板22と、背面板21と正面板22の上下端を連結する側板23と、を有する。
【0006】
そして、この背面板21、正面板22、側板23で区画されるナット本体10よりも寸法の大きな空間内に、ナット本体10が収容されている。
そのため、ナット本体10は、リテーナ20に収容された状態で、指でつまんでスライドさせることでこのリテーナ20内を移動可能となっている。
【0007】
同時に、ナット本体10の正面に装着された板ばね30がリテーナ20内で圧縮されることで、その反発力によってナット本体10はリテーナ20の背面板21に弾性的に押し付けられている。
したがって、ナット本体10から指を離すと、リテーナ20内の所望の位置でナット本体10がずれ動かないように位置決め可能となっている。
【0008】
このフローティングナット2を介して、上記の例の電車の側壁パネルに手すりを取り付ける場合には、まずリテーナ20の背面板21を側壁パネルの所定の位置に重ね合わせて固定する。
【0009】
つぎにナット本体10を手すりにボルト固定する際には、側壁パネルと手すりの位置のずれの分だけナット本体10を指でスライドさせ、そのねじ孔12aと手すりの位置が合致するように位置決めし、しかるのち背面板21の挿通孔21aを通じてボルトで固定する。
【0010】
このようにして、フローティングナット2を用いると、ナット本体10をリテーナ20内で移動させることで、2つの部材の寸法誤差等に基づく位置のずれを吸収して容易に結合することが可能である。
【0011】
しかし、従来のフローティングナット2は、ナット本体10とリテーナ20に加えて、上記のようにナット本体10をリテーナ20内で位置決めするための板ばね30をも必要とするため、部品点数が多く、コストがかさむ問題がある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
そこでこの発明は、フローティングナットについて、部品点数を減らすことを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するため、リテーナに、ナット本体の正面に当接し、ナット本体を背面板に弾性的に押し付ける押圧片を設けたのである。
【0014】
ナット本体を押圧片により背面板に弾性的に押し付けることで、リテーナ自体がナット本体がずれ動かないように位置決めできることになる。
したがって、ナット本体に位置決めのための板ばねを別途装着する必要がなくなり、部品点数の削減が図られる。
【0015】
詳細には、発明にかかるフローティングナットを、座板と、この座板の正面から突出し、貫通するねじ孔が形成されたねじ部とを有するナット本体と、前記ナット本体の座板の背面に当接し、前記ねじ部のねじ孔と連通可能な挿通孔が形成された背面板と、この背面板に連結され、前記ナット本体の座板の正面に当接し、前記座板を背面板に弾性的に押し付ける押圧片とを有するリテーナと、から構成したのである。
【0016】
さらに、前記リテーナの背面板と押圧片とを、ばね鋼板を折り曲げることにより一体に形成するのが好ましい。
【発明の効果】
【0017】
リテーナ自体がナット本体を位置決めできるようにしたので、ナット本体に板ばねを装着する必要がなくなり、部品点数の削減が図られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
図1に示す実施形態のフローティングナット1は、ナット本体10と、このナット本体10をスライド可能に収容しかつ位置決め可能に保持するリテーナ20と、から構成される。
【0019】
板状のナット本体10は平面視方形の左右方向に長い座板11と、座板11の正面側中央から突出する円筒形のねじ部12と、を有している。
このねじ部12には、その軸方向を貫通するねじ孔12aが形成されている。
【0020】
ナット本体10の材質、製法は特に限定されないが、たとえば材質をSS400として、ダイカスト製法により作製される。
【0021】
リテーナ20は、ナット本体10の座板11の背面に対向する背面板21と、ナット本体10の座板11の正面に対向する上下一対の押圧片22と、背面板21と押圧片22とを連結する側板23と、から構成される。
【0022】
これら背面板21と押圧片22と側板23とは、SUPなどのばね鋼板をプレス加工等により折り曲げることで一体に形成されている。
このように、押圧片22はばね鋼板からなるため、弾性を有している。
【0023】
背面板21は、ナット本体10の座板11より上下左右の寸法が大きく、かつ左右方向に長い平面視五角形をなしている。
また、背面板21の左右縁には、それぞれ取り付け孔21bが形成され、ボルト等を通して背面板21を壁面に固定可能となっている。
さらに、背面板21の中央には、ナット本体10の円筒形のねじ部12よりも大径の円形の挿通孔21aが形成されており、この挿通孔21aはナット本体10のねじ孔12aに連通している。
【0024】
上下一対の押圧片22は、背面板21から距離をおいて、かつ背面板21の挿通孔21aの上下から互いに近づく向きに、挿通孔21aを取り囲むようにして延びており、上方の押圧片22の上端は背面板21の上端に、下方の押圧片22の下端は背面板21の下端に、それぞれ側板23を介して連結されている。
【0025】
上方の押圧片22は、ナット本体10の正面右側に偏って延びて座板11と対向し、下方の押圧片22は、ナット本体10の正面左側に偏って延びて座板11と対向し、ナット本体10のねじ部12は、上下の押圧片22の間からリテーナ20の外に突出している。
すなわち、ねじ孔12aは、リテーナ20の正面において開放されている。
【0026】
上下押圧片22の対向する縁部には、背面板21の挿通孔21aと中心がほぼ一致し、かつ挿通孔21aよりも大径の仮想円に沿って円弧形に窪んだ凹部22aがそれぞれ形成されている。
ここで、この仮想円と挿通孔21aとの径の差と、ナット本体10のねじ孔12aとねじ部12の径の差はほぼ等しくなっている。
【0027】
また、上下押圧片22の先端部は、それぞれ背面板21から離れる向きに屈曲して反り部22bを構成している。
【0028】
ここで背面板21と押圧片22とはほぼ平行をなし、その間の距離はナット本体10の座板11の厚みとほぼ等しい。
そのため、リテーナ20内にナット本体10が収容された状態で、背面板21は座板11の背面と当接し、押圧片22は座板11の正面と当接する。
【0029】
さらに詳細には、押圧片22は反り部22bを除いて先端に向かうにしたがって、若干背面板21に近づく向きに傾斜している。
これにより押圧片22の先端に向かうに従って、背面板21と押圧片22との間の距離は微少に漸減している。
【0030】
したがって、ばね鋼板からなる押圧片22の反り部22bを除く先端側は、リテーナ20がナット本体10を収容した状態で、微少に押し広げられていることになる。
そのため、押圧片22は復元弾性により、座板11を正面から押圧し、これによりナット本体10を背面板21に押し付ける。
したがって、ナット本体10はリテーナ20に弾性的に保持されることになる。
【0031】
ナット本体10は、押圧片22の弾性だけでリテーナ20に保持されているため、指でつまんで簡単にスライドさせることができる。
したがって、図2のように、ナット本体10は背面板21に沿って、リテーナ20内を移動可能である。
【0032】
ナット本体10の可動範囲は、挿通孔21aの中心とねじ部12のねじ孔12aとが一致した中心位置から、ねじ部12の外周が上下押圧片22のいずれかの凹部22aに当接する限界位置までの範囲となる。
ここで上述した挿通孔21a、凹部22a、ねじ部12、ねじ孔12aの寸法関係から、ねじ部12の外周が凹部22aに当接する限界位置においても、挿通孔21aとねじ孔12aとは連通するようになっている。
したがって、ナット本体10がいかなる位置にあっても、リテーナ20の背面側から挿通孔21aを通じてねじ孔12aにボルトをねじ込めるようになっている。
【0033】
また、上下押圧片22の一方の反り部22bと、対向する他方の押圧片22との隙間は、ナット本体10のねじ部12の径よりも小さい。
そのため、ナット本体10をスライドさせた際に、上下の押圧片22の隙間からねじ部12が抜け出ないようになっており、ナット本体10のリテーナ20からの脱落が防止されている。
【0034】
一方、ナット本体10をスライドさせるのを止めて指を離すと、押圧片22の弾性力により、ナット本体10は背面板21に弾性的に押し付けられているため、その指を離した位置において、ずれ動かないように位置決めできるようになっている。
【0035】
実施形態のフローティングナット1の構成は以上のようであり、次にその作用を説明する。
このフローティングナット1を介して、たとえば電車の側壁パネルPに手すりを取り付ける場合には、図3のように、まずリテーナ20の背面板21を側壁パネルPに重ね合わせ、取り付け孔21bを通じてボルトbで固定する。
【0036】
つぎにナット本体10を手すりにボルト固定する際には、側壁パネルPと手すりの位置のずれの分だけナット本体10を背面板21に沿ってスライドさせる。
ナット本体10のねじ孔12aと固定に用いるボルトの位置が合致する位置までスライドさせて位置決めする。
【0037】
この位置決めした状態で、挿通孔21aを通じてボルトをねじ孔12aにねじ込んで、手すりをナット本体10に固定する。
このようにして、実施形態のフローティングナット1を用いると、2つの部材の位置のずれを吸収して容易に結合することが可能である。
【0038】
また、フローティングナット1の構成部品が、ナット本体10とリテーナ20だけであるから、製造の手間がかからず、製造コストも低廉である。
【0039】
以上の実施形態では、リテーナ20全体をばね鋼板により一体に形成したが、押圧片22のみをばね鋼板などの弾性素材により形成してもよい。
【0040】
また、押圧片22の形状、数は、実施形態に限定されない。
たとえば、上下の各押圧片22が、ナット本体10のねじ部12の左右側のそれぞれに二股に分かれて延びる構成を採用してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】実施形態のフローティングナットの、(a)は斜視図、(b)は正面図、(c)は側面図
【図2】実施形態のフローティングナットのナット本体をスライドさせた状態を示す、(a)は斜視図、(b)は正面図
【図3】実施形態のフローティングナットをパネルに取り付けた状態を示す、(a)は斜視図、(b)は断面図
【図4】従来のフローティングナットの、(a)は斜視図、(b)は断面図
【符号の説明】
【0042】
1 実施形態のフローティングナット
2 従来のフローティングナット
10 ナット本体
11 座板
12 ねじ部
12a ねじ孔
20 リテーナ
21 背面板
21a 挿通孔
21b 取り付け孔
22 押圧片(正面板)
22a 凹部
22b 反り部
23 側板
30 板ばね
P パネル
b ボルト

【特許請求の範囲】
【請求項1】
座板11と、この座板11の正面から突出し、貫通するねじ孔12aが形成されたねじ部12とを有するナット本体10と、
前記ナット本体10の座板11の背面に当接し、前記ねじ孔12aと連通可能な挿通孔21aが形成された背面板21と、この背面板21に連結され、前記ナット本体10の座板11の正面に当接し、前記座板11を前記背面板21に弾性的に押し付ける押圧片22とを有するリテーナ20と、からなるフローティングナット。
【請求項2】
前記リテーナ20の背面板21と押圧片22とが、ばね鋼板を折り曲げることにより一体に形成された請求項1に記載のフローティングナット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−14189(P2010−14189A)
【公開日】平成22年1月21日(2010.1.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−174288(P2008−174288)
【出願日】平成20年7月3日(2008.7.3)
【出願人】(000131511)株式会社シブタニ (88)
【出願人】(596127473)共栄実業株式会社 (2)
【Fターム(参考)】