説明

ブタコレラウイルス(CLASSICSWINEFEVER)に対するキメラワクチン抗原

本発明は、ブタコレラを生じるウイルス(CSFV)に対するキメラワクチン抗原を記述している。該ワクチン抗原は、細胞性のみならず体液性の免疫系を刺激するタンパク分子に結合したウイルスサブユニットに基づいている。このキメラ抗原は、本発明の基礎を構成するキメラ分子の正しい3次元フォールディングを保証する発現システムにおいて生産することができる。該キメラ抗原を含むワクチン組成物は、ワクチン接種したブタに強力にして早期の免疫応答を誘発し、CSFVに対する完全な保護を賦与する。さらにこのワクチン組成物のもたらす結果は、雌ブタから子へのウイルス伝達を防止する。このキメラ抗原及びそれから得られるワクチン組成物も、ブタに予防的に使用するためのワクチンとして動物保健の分野で応用される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は動物の健康に関し、特に、細胞性及び体液性免疫系を刺激することができるタンパク質に結合したブタコレラウイルス(Classic Swine Fever Virns(CSFV))のウイルスのサブユニットを含みブタにおける該ウイルスに対する強力にして早期の免疫反応を生じる新しいキメラ抗原に関する。
【背景技術】
【0002】
Classic Swine Fever(CSF)は、その高い感染性及びその世界的分布のためにブタコレラ(Swine cholera)としても知られるが、ブタにおける最も重要な病気と考えられ、国際獣疫事務局(the World Animal Health Arganization)の通知された疾患リストに含まれている。この疾患の病原体であるCSFVはFlavivuridae科のPestviris属のウイルスである。脂質エンベロープを持ち、直径40から60nmで正6角形対照性を持ち、遺伝子材料として単純なリボ核酸(RNA)鎖を持つことが知られている(Kummerer et al.(2000)The genetic basis for cytopathogenicity of pestviruses.Vet.Microbiol.77:117−128;Moenning et al.(2003)。Clinical signs and epidemiology of Classical Swine Fever;a review of new Knowledge.Vet.Journal 165:11−20)。
【0003】
CSFは非常に伝染し易い疾患であり、急性型では発熱、毛細血管の変性、内臓の壊死を示し、そして死亡する。最初の臨床徴候は2から6日の潜伏期の後に現れ、発熱、運動の減少、食欲不振を生じ、続く数日で悪化し、体温は42℃に達する。また、白血球減少症を生じ、白血球数の値は8000/mm血液より少なくなる。またブタは、末期には、結膜炎、便秘、その後の下痢、嘔吐、運動の協調欠如、痙攣及び筋肉の麻痺を生じる。腹部全体、鼻、耳、足の内側に広がった赤い皮膚の色が顕著である。致死例の大部分において、脳の病理組織は、高度の血管新生を伴う非化膿性脳炎を示す(Moenning et al.(2002)Clinical Signs and Epidemiology of Classical Swine Fever.A review of new knowledge.Vet.Jounal 161:1−10)。
【0004】
CSFVは、感染の間は免疫抑制物質に似た働きをし(Susa et al.(1992)Pathogenesis of Classical Swine Fever:B−lymphocyte deficiency caused by Hog Cholera virus.J.Virol.66:1171−1175)、感染後2から3週間で中和抗体の検出が始まる(Laevens et al.(1998)An experimental infection with a calssical swine fever virus in weaner pigs.II.The use of serological data to estimate the day of virus introduction in natural outbreaks.Vet.Q.20:46−49)。感染の末期は、循環系並びにリンパ系組織のBリンパ球の著しい減少を伴う(Susa et al.(1992).Pathogenesis of Claccical Swine Fever;B−lymphocyte deficiency caused hog cholere virus.J.Virol.66:1171−1175)。疾患に罹ったブタの大部分は、感染後10から20日の間に死亡し、死亡率は95%に達する。CSFに特徴的な死後の病変は臓器系の大部分における点状出血を伴う出血性素因に属するものである。それらは、腎臓、膀胱及びリンパ節には規則的に生じるが、脾臓、喉頭、粘膜及び漿液にも現れることがある(Mouwen et al.(1983).Atlas of Veterinary Pathology,Bunge,Utrecht,The Netherlands)。
【0005】
経胎盤感染はCSFの他の臨床形態である;この場合に、ウイルスは妊娠雌ブタの胎盤を通過することができ、胎児に感染する。この感染の結果によって、流産、死産、ミイラ化、奇形、弱いブタの出産及び器官分化の問題などがあり得る。感染が生じた妊娠の時期によっては、雌ブタを介する感染の結果、CSFV免疫耐性の子が生まれることがあり得る(垂直感染)。仔豚は感染を維持し、死ぬまでウイルス血症であり、群れに対する安定したCSFV播種病巣となる(Moenning et al.(2003)Clinical Signs and Epidemiology of Cassical Swine Fever;a review of new knowledge:Vet.Journal 165:11−20)。CSFに関係する死亡は、被害を受けた国の経済問題であり、開発途上国の経済及び社会状況に損害を及ぼす。このような理由から、ブタの密度が高く、ウイルスの保有率が高い国において、ワクチンに基づく管理プログラムを適用することが必要になっている。ヨーロッパ、米国及びカナダのように、ブタの生産が主として政府により助成させている高度開発諸国では、根絶による撲滅方法が取られている。しかし、コストは非常に高く、そしてこれらの国々では未だ動物間流行病の恐れがある。
【0006】
欧州連合は、ブタの飼育密度が高く、非ワクチン方針であり、そしてCSFVが風土病となっている東ヨーロッパの諸国に地理的に隣接しているために、新しいCSFV動物流行病の再発の高リスク地域と考えられている。この地域における新しい動物間流行病の出現に関係する一つの問題は、CSFの地域的感染を有する野生イノシシの存在である(Laddomada(2000)Incidence and control of CSF in wild boars in Europe.Vet.Microb,73:121−30)。欧州連合の中で実施されている接触集団全ての公衆衛生的殺処理及び感染地域から疾患の無い地域へのブタ輸送の制限を含む管理の完全なプログラムがあるにも係らず、これらの新しい動物間流行病が出現している(van Oirschot(2003)Vaccinology of Classical Swine Fever:from lab to field.Vet Microbiol,96:367−384)。したがって、早期にそして安全に免疫応答を誘発し、感染とウイルス伝達の予防を保証するワクチンを開発する必要性は緊急なものである。
【0007】
完全なウイルスに基づくCSFVに対するワクチンは開発されている:クリスタルバイオレット又はホルマリン不活化ウイルスを含むワクチン(Biront et al.(1988)Classical swine fever related infections.Liess B.M.Ed.Martinus Nijhoff Publishing,Boston:181−200)、Sinlak株(Baibikov et al.RU2182495)及びLapinizied Chinese株(Dahle et al.(1995)Assessment of safety and protective value of a cell culture modified strain C vaccine of hog cholera/classical swine fever uirus.Berl−Munch.Tierarztl.Wsch.108:20−25)のように、ウサギにおいて継代することにより弱毒化したウイルスを含むワクチン、又はウサギ、モルモット及びブタ由来の組織培養により弱毒化されたウイルスを含むワクチン(Kachiku et al.JP73001484;Terpstra et al.(1990)Development and properties of a cell culture produced for hog cholera based on Chinese strain.Ditsh.Tierarztl.Wsch.97:77−79)。これらタイプのワクチンは、感受性の高い動物に接種されて、新たなCSF発生を生じる活性ウイルスのフラクションを含む可能性のために、リスクを含んでいる。その上、ある場合には、不活化がウイルスの免疫原性に影響を及ぼすので、予防的免疫応答を得るために反復接種が必要になる。
【0008】
弱毒化生ワクチンという特別な場合には、それらは部分弱毒化又は毒性の復活を生じる潜在的リスクを持っている。いずれの場合にも、それらは病原性のあるウイルス粒子を生産し、感受性動物に接種されると、感染し、臨床的疾患を生じ、群れにCSFを拡大することができる。このような問題は、このウイルスが非常に感受性の高い胎児に感染することができ、感染した子が疾患を拡大するので、妊娠雌ブタにはより大きなリスクをもたらす。
【0009】
C Chinese株、PAV 250株、Thierval株及びIFFA/A−49株(Bjorlund,J JV.et al.(1998)Molecular characterization of the 3’noncoding region of classical swine fever virus vaccine strains.Virus Genes 16:307−312.Launais et al.(1978)Hog Cholera Virus;Active immunization of piglets with the Thiverval strain in the presence and absence of calostral passive immunity.Vet.Microbiology 3:31−43)のような弱毒化が立証されているCSFV株に基づくワクチンがある。これらの株は、ワクチンを受けた動物と天然のウイルスに感染した動物の区別を不可能にすると言う不便さがあるために、疾患が風土病である国においてのみ使用される。これらの株によるワクチンを受けた動物は、血清検査において、感染動物と同じ反応を生じる。弱毒化ウイルスに基づくワクチンにより生じる抗CSFV特異的抗体は、CSFによる感染の診断を妨害する。この診断は、扁桃内の感染ウイルスの免疫検出及び扁桃内に存在するワクチンウイルス株の増幅によって行われる。このため、弱毒株は撲滅プログラムに使用するには不適当である。LK−VNIIVVM株によるワクチン接種及びFreundのアジュバントを加えて製剤化した精製株Shi−Myngによる追加超免疫は、他の例である。しかし、40〜45箇所の免疫接種は、1日に数百頭の動物にワクチン接種しなければならないワクチン運動では実施不可能である(Balashova et al.RU2183972)。
【0010】
ウイルス全体を含むこれらのワクチンによる免疫は、CSFVにより生じる感染と、ウシウイルス性下痢ウイルス(BVDVと略称)及びボーダー病ウイルス(BDVと略称)のようなブタに感染しうるPestvirus属の他のメンバーによる感染との診断上の区別も妨害する(Dahle et al.(1991)Clinical Post Mortem and Virological Findings after Simultaneous inoculation of Pigs with Hog Cholera and BVD Virus.J.Med.Vet.38:764−772)。
【0011】
ウイルス全体に基づくワクチンの不便さを避けるためには、サブユニットに基づく変異体又は組換え技術により得られたウイルスタンパク質による、完全に無毒なワクチンを使用するのが適当である。これらのワクチンは、ウイルス株の再導入から群れを保護し、また簡単な血清学的方法によりワクチン接種動物と感染動物の区別を可能にする。この点から、ウイルスサブユニットに基づくワクチンは開発された。それを使用することにより毒性の復活のリスクはなく、診断を妨害しないために、ウイルスエンベロープのE2グリコプロテインのようなウイルスタンパク質を含むワクチンは安全である(Bourna et al.(2000)Duration of the onset of the herd immunity induced by E2 subunit vaccine against classical Swine Fever virus.Vaccine 16:1374−1381)。作成された抗体はウイルスのセグメントに対してのみ反応するので、これらのワクチンは、感染動物とワクチン接種動物の区別を可能にする。従ってこのワクチンは、CSF撲滅プログラムに便利である。
【0012】
原核生物にE2タンパク質を発現するいくつかの組換えワクチン及び該タンパク質の合成ペプチドに基づくワクチンが開発された(Chen et al.WO200232453)。これらの場合、タンパク質はグリコシル化されていないので、その免疫原性及び保護能力は十分ではなかった。他のワクチン候補は真核細胞に異種E2遺伝子を発現させるために、ブタ仮性狂犬病ウイルス(Peeters et al.(1997)Biologically safe,non−transmissible pseudorabies virus vector vaccine protects pigs against both Aujeszky’s disease and classical swine fever.J.Gen.Virol.78:3311−3315)、天然痘ブタウイルス(Gibbs et al.US62117882)及びブタアデノウイルス(Nagy et al.WO200183737)のようなウイルスベクターを使用する。この場合、野生型ウイルスによるウイルス感染は、同じ血清型のウイルスベクターに対する中和抗体を生産する。したがって、CSFVに対する免疫応答の誘発は影響を受ける。また、ブタ仮性狂犬病ウイルス及びブタ天然痘ウイルスに基づくウイルスベクターは、これらのウイルスの根絶が宣言されている国では、規制上の問題により適用できない。また、ワクシニアウイルスはベクターとして使用されたが、世界保健機構の規制はその使用を妨げている(Meyeers et al.EP1087014)。
【0013】
心筋細胞及び骨細胞においてE2タンパク質を発現させるための裸のデオキリボ核酸(DNA)に基づくワクチンは、裸のDNAによる遺伝子導入の効率が非常に悪いので、反応を誘発するために高濃度のDNAを必要とする不便がある。このワクチンは強い規制管理を受け、その応用は妨げられている(Audonnet et al.WO20152888)。
【0014】
バキュロウイルスにより仲介される昆虫細胞発現系における抗原としてのE2−CSFVの生産は実現可能な代替方法である(Van−Rjin et al.(1999)An experimental marker vaccine and accompanying serological diagnostic test both based on enveloped glycoprotein E2 of classical swine fever virus.Vaccine,17:433−440;Kretzdorn et al.US20040028701)。このシステムにおいて、組換えE2はグリコプロテインとして作成され、グリコシル化されていないアイソフォームに比較して免疫原性を増加させている。バキュロウイルスはさらに不活化され、ブタに対する病原作用は無い。しかし、感染に対する有効な防御は、ワクチン接種3週間後に誘発され、そして子宮内感染に対する防御は完全ではない。したがって、CSF予防における重要な問題は、ワクチン接種動物と感染動物の鑑別診断を可能にし、そしてワクチン接種後に早期防御を確立し、妊娠雌ブタから子への経胎盤伝達をなくすることができるサブユニット組換えワクチンがないことである。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0015】
発明の説明
本発明は、前記の問題を解決する。この新しいワクチンは、CSFV感染からブタを保護する早期免疫応答を発生させることができる免疫系−刺激分子に結合したウイルスのサブユニットを含むキメラ抗原を含有する。提案された解決策のほかの利点は、キメラ抗原においてウイルスタンパク質と結合した刺激分子の免疫増強作用により、感染妊娠雌ブタからその子へのウイルス伝達を無くすることである。
【0016】
具体的には、本発明は、主成分としてCSFVエンベロープのE2グリコプロテインを有するCSFに対するキメラ抗原に関する。E2グリコプロテインの細胞外セグメントが、免疫系刺激タンパク質(本発明の説明において「分子アジュバント」と称する)と結合した免疫原として使用され、早期細胞性免疫応答の刺激及び高いCSFV中和抗体力価の誘導の両者を増強する。
【0017】
本発明の特別な態様において、免疫系刺激タンパク質はアルファインターフェロン又はCD154分子の細胞外セグメントである。好ましい態様において、アルファインターフェロン又はCD154分子の細胞外セグメントはいずれの哺乳動物に由来しても良い。
【0018】
キメラタンパク質に基づく本発明のワクチン抗原は、10DL50(CSFV感染動物の50%が死亡するウイルスの投与量)を投与した場合に、免疫後第1週からワクチン接種したブタの保護を保証する。このような保護はCSFVに対する強力な細胞免疫応答により仲介され、それはキメラ抗原において結合した要素の組合せに直接関係している。中和抗体誘導の時間減少も観察されており、それはワクチン接種後第2週に現れる。これは、ワクチン接種されたブタにおけるCSFVに対する保護を増強するのに寄与する。免疫された動物は臨床的疾患の徴候を示さず、該ウイルスのチャレンジ後のいずれの日においてもCSFVは体液から単離することができなかった。
【0019】
E2−分子アジュバントキメラ抗原は、雌ブタからその胎児へのCSFVの垂直伝達を予防する。これらのタンパク質は妊娠雌ブタにおいて早期に保護が誘発され、10DL50のCSFVを投与した後に、母親だけでなく、胎児においてもそれが臨床的疾患の発生を遅らせ、ウイルスを増殖させない。
【0020】
好ましい態様において、キメラワクチン抗原は、CSFVのE2グリコプロテインの細胞外セグメント(又はドメイン)の配列番号1の配列表に表されるアミノ酸配列及び配列番号2のブタのCD154分子の細胞外セグメントを本質的に含有することを特徴とする。キメラワクチン抗原は本質的にこのようなアミノ酸配列を含むが、CSFVのどの単離体からのE2細胞外配列をも含有することができる。
【0021】
本発明の別の態様では、キメラワクチン抗原は、組換え、合成方法又は化学的結合により得ることができる。本発明の特別な態様において、E2his(6ヒスチジンのテールに融合したE2の細胞外セグメント)及び分子アジュバントを含むキメラタンパク質に基づく変異体は融合タンパク質として作成された。この目的で、GlySerの4反復ユニットからなるスペーサーペプチド(4GS)及び免疫系の刺激分子がE2hisのC−末端に加えられた。4GSペプチドの組み込みは、ポリペプチド鎖にある程度の緩みを可能とする。このことにより、タンパク質構造の正しい3次構造フォールディングを保証し、天然の構造に類似の3次構造を持つ融合タンパク質を得る。この発明の目的であるワクチン抗原の一つは、分子アジュバントとして、そのC−末端に融合したブタCD154分子の細胞外ドメインを持っている(E2his−CD154)。
【0022】
今までのところ、バイオリアクターとしての動物における発現系により仲介されたCSFVに対する組換えワクチン候補の生産は、探索されていない。しかし、その3次構造の正しいフォールディングを持つグリコシル化組み換えタンパク質を発現する乳腺の能力は、高い免疫原性と保護能力を持つE2グリコプロテインを生産するための適当な発現系となる。アデノウイルスベクターにより仲介される反芻動物の乳腺中の一過性発現システムは、速やかで簡単な方法で高発現レベルの組換えタンパク質を得るための手段を構成する(Toledo et al.WO2004/034780)。この方法は、CSFの撲滅を指向するワクチン接種プログラムに適用する目的を持つE2組変え体の生産にとって非常に有用となる。
【0023】
本発明の具体化において、本発明の目的であるワクチン抗原は、授乳過程の間に遺伝子修飾された哺乳動物の乳腺上皮細胞中に発現され、母乳の中に分泌される。組換えキメラ分子は遺伝子導入哺乳動物の母乳の中に生産されるか、又は遺伝子導入されていない哺乳動物の乳腺上皮のアデノウイルスベクターを使用することによる直接形質転換により生産される。本発明の他の具体化において、キメラワクチン抗原は遺伝子修飾されたイースト中で生産される。該抗原は、キメラ遺伝子及び発現と組換えタンパク質の培養液への分泌をさせる調節配列で形質転換したイーストの培養液中に得られる。
【0024】
天然のCSFVのE2タンパク質はウイルスのエンベロープ上にホモダイマーとして露出しており、鎖間ジスルフィド架橋により安定化している。これは、中和及び保護抗体が、ホモダイマー上に存在する立体的抗原決定基に対して作成されることを決定する。本発明で開発されたワクチン抗原は、これらの組換えタンパク質の正しいフォールディングを可能にする発現システムで生産される。遺伝子構造の設計は、融合タンパク質の3次構造の変化が無いことを保証する。組換えワクチン抗原は、金属イオンに対する親和性の簡単なクロマトグラフィー段階により容易に精製される。
【0025】
遺伝子構造の設計、発現システムの使用及び精製過程の相対的単純性は、本発明に関し説明したCSFVに対するワクチン抗原が、ウイルスのE2タンパク質に類似する抗原性及び免疫原性を維持することを保証する。Pichia pastoris又はヤギの乳腺のような発現システムにおいて作られたキメラ分子による免疫は、強力にして早期の免疫応答を導く。E2の細胞外ドメインは、中和及び保護抗体の形成のための立体的抗原決定基を提供するホモダイマーを生成する。CD154のセグメントは分子アジュバントとして働き、それはワクチン接種ブタの免疫系を刺激し、ワクチン接種の第1週からCSFVから動物を保護する細胞免疫応答を生じさせる。スペーサーペプチドを含むキメラタンパク質の中の両分子の組合せは、それぞれの分子の正しいフォールディングを保証する。使用された発現システムは、組換えタンパク質がグリコシル化されたアイソフォームで発現されることを可能にし、また適切な3次構造を持つ分子を得る助けとなる。
【0026】
本発明の他の態様は、CSFVに対する保護免疫応答を発生させる能力を持つワクチン製剤であり、それはE2グリコプロテインの細胞外ドメイン及び分子アジュバントを含む前記キメラ抗原を含むことを特徴とする。このようなワクチン製剤は、CSFを予防する目的で全身又は粘膜の経路により動物に投与することができ、ブタの群れでのCSFV感染により起こる資源や経済的損失を避けることができる。
【実施例】
【0027】
実施例1:CSFV E2及びブタCD154の細胞外ドメインをコードする遺伝子セグメントの増幅及びpMOS−E2his−CD154プラスミドのクローニング。
363アミノ酸のE2細胞外ドメインをコードする遺伝子セグメントは、National Center for Biotechnology Information(NCBI)のデータベース上の受入番号AJ704817のCSFVキューバ単離株「Margarita」のウイルスゲノムから逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(RT−PCR)により増幅された。抗原の精製を容易にするために、3’オリゴには6ヒスチジンテールのコード配列を含めた。
【0028】
210アミノ酸のブタCD154の細胞外ドメインのコード配列は、化学的合成により得られ、ブタのCD154遺伝子はイノシシのCD154(NBCI受入番号AB040443)に類似する配列パターンを取った。この分子のコード配列の5’末端に、Gly−Gly−Gly−Gly−Serの4回反復単位のペプチド(4GS)をコードする領域を含めた。pMOS−BLUEプラスミド中へのサブクローニングを介して(Amersham,USA)、構成配列(4GS−CD154)を、E2hisのコード配列中の6ヒスチジンテールの直後に挿入した。pMOS−E2his−CD154プラスミドが得られた。
【0029】
実施例2:哺乳動物細胞に対する分泌シグナルを持つE2his及びE2his−CD154分子の遺伝子構築
RT−PCRにより得たE2hisに対応する配列を、プラスミドpAEC−SPTのBgI II−EcoRV部位に挿入した(Herrera et al.(2000)Biochem Byophys Res.Commun.279:548−551)。こうして、ヒト組織プラスミノーゲンアクチベーター(htPA)の分泌シグナルが先行し、そしてヒトサイトメガロウイルスの早期直接プロモーター(CMVP)の転写調節を受けるE2hisのコード配列を含むベクターpE2his−secが得られた。
【0030】
pMOS−BLUEベクター中にサブクローニングされたE2his−CD154に対応する配列は、プラスミドpAEC−STP中のエンドヌクレアーゼBgI II−SAI Iの制限部位に挿入された。こうして、htPAの分泌シグナルが先行しそしてPMCVの転写調節を受けるE2his−CD154のコード配列を含むベクターpE2hisCD154−secが得られた。
【0031】
実施例3:哺乳動物細胞に対する分泌シグナルを持つE2his及びE2his−CD154のコード配列を含む組換えアデノウイルスベクターの作成。
複製欠陥のアデノウイルスベクター(Ad−ΔE1,ΔE3)は、AdEasyシステムガイド(AdEasytm−Vector system,Quantum Biotechnologies,EE.UU)の記述に従って作成された。プラスミドpAd Track−CMVは、転移ベクターとして使用された。htPAの分泌シグナルを持つE2hisのコード配列(E2his−sec)は、NcoI及びEcoRV制限エンドヌクレアーゼによる酵素消化によりプラスミドpE2his−secから抽出され、そしてそれはpAdTrackベクターのEcoR V制限部位に挿入された。PCMVの転写調節の下にE2his分泌可能な変異体を持つ組換えpAdT−E2his−secが得られた。
【0032】
分泌可能なE2his−CD154のコード配列は、Nco I及びSal I制限エンドヌクレアーゼによる酵素消化によりプラスミドpE2his−CD154−secから抽出され、そしてそれはpAdTrackベクターのKpn I−Xho I制限部位に挿入された。PCMVの転写調節の下にE2his−CD154secを持つ組換えpADT−E2hisCD154−secが得られた。
【0033】
組換えアデノウイルスゲノムを作成するために、転移アデノウイルスベクター、pAdT−E2his−sec及びpAdT−E2hisCd154−secはPmeI制限エンドヌクレアーゼによる酵素消化により直線化された。直線ベクターのそれぞれは別々に、pAdEASY−1ベクターと共にEscherichia coli BJ5183株の中に電気穿孔により導入された。pAd−E2his−sec及びpAd−E2hisCD154−secベクターの両者の組換えゲノムは、相同組換え(recombination of homologues)により得られた。それらの一つは、E2his−secのコード配列を含み、そして他の一つはE2his−CD154−secの分子のコード配列を含んでいる。両者の場合に、PCMVの転写調節が維持されている。
【0034】
組換えアデノウイルスゲノムはさらにPacIエンドヌクレアーゼで消化され、HEK−293A相補細胞系に別々に導入され、そして感染性ビリオンを得た。二つのアデノウイルスベクターが作成された:Ad−E2his−sec及びAd−E2hisCD154−sec。これらのベクターは別々にHEK−293A細胞系において1×1012コロニー形成単位/mL(CFU/mL)の力価が得られるまで増幅され、そしてそれはCsClグラジエント中で2回遠心分離して精製された。このベクターはさらに保存緩衝液(10mM Tris pH8.0,2mM MgCl,4%サッカロース)に対して透析され、そして−70℃で保存された。Ad−E2his−sec及びAd−E2hisCD154−secアデノウイルスベクターの哺乳動物細胞を形質転換する能力、並びにE2his、及びE2his−CD154の分子を培地に発現し分泌する能力は、PK15ブタ細胞系における感染アッセイにより確証された。感染細胞の培地中に存在するタンパク質検体は、非還元条件においてドデシル硫酸ナトリウム−ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS−PAGE)により分離され、そしてCSFVのE2に対するモノクロナール抗体(αE2−1G6)によるウエスタンブロッティングアッセイにより分析された(図1及び2)。
【0035】
E2his及びE2his−CD154グリコプロテインの分子量分析により、これらは2量体及び3量体アイソフォームに相当することが立証された。図2のレーン1に、E2−CD154の2量体(180kDa)及び3量体(270kDa)に対応する二つのバンドが観察された。
【0036】
実施例4:ミルク中にE2his及びE2his−CD154を生産するためのヤギ乳腺上皮のIn situ遺伝子導入。
発現カセットE2his及びE2his−CD154による乳腺上皮の形質転換のために、Ad−E2his−sec及びAd−E2hisCD154−sec組換えアデノウイルスベクターを使用した。両者の場合において、このベクターを、乳頭チャネルを介して直接乳房に注入することにより授乳ヤギの乳腺に接種した。アデノウイルスベクターは、乳腺上皮を構成する分泌上皮細胞に感染し、組換えタンパク質の発現を可能とした。
【0037】
自然授乳2ヶ月目の、1日平均1リットルを生産するヤギを使用した。アデノウイルスベクターを導入するために、最初ミルクが乳房から除去されるまで搾乳し、次いで乳頭チャネルを介して等浸透圧食塩液を槽内に直接注入し、乳房を緩和にマッサージし、乳腺の完全な洗浄を確実に行った。乳房から食塩液を徹底的に除去し、この操作を2回行った。次いで、36mMのEGTAを含む食塩液中の10CFU/mL力価のアデノウイルス接種液を注入した。各乳房に対する注入容量を変動させ、乳房の容量に応じて確実に槽を完全に充満させた。注入後、乳腺の胞の分泌上皮細胞まで達するようにアデノウイルス接種液の均一分布を促進するために乳房マッサージを行った。アデノウイルス接種液は、24時間後に搾乳により除去した。槽内または乳腺内の残留アデノウイルスベクターを除去する目的で、食塩液の注入により乳腺を再度洗浄した。
【0038】
24時間後、遺伝子導入動物から手動によるミルクの収集が開始された。12時間間隔で2日間の搾乳が行われた。収集されたミルクは−70℃で保存された。ミルク中へのE2his及びE2his−CD154組換えタンパク質の発現動態は各搾乳検体について分析された(図3及び4)。組換えタンパク質の分子量は2量体及び3量体アイソフォームに対応することが立証された。接種後2日目〜8日目で、E2hisが、平均発現1.03g/L、各動物の平均収量5.22gで得られた。組換え分子E2his−CD154は、平均発現0.73g/L,動物当たりの平均収量3.04gで得られた。
【0039】
実施例5:ヤギミルクから得られたE2his及びE2his−CD154抗原の精製。
E2his及びE2his−CD154組換えワクチン抗原を含むそれぞれの搾乳日の検体をそれぞれ混合し、15,000g,30分間、4℃で遠心分離した。可溶相(乳清)を分離し、脂肪相を廃棄した。収集した乳清をミルク分離緩衝液(10mM Tris−HCl,10mM CaCl,pH;8.0)で比率1:4に希釈した。混合物を氷上で30分間冷却し、15,000g,30分間、4℃で遠心分離した。上清及び沈殿をSDS−PAGE及びウエスタンブロッティングアッセイにより分析した。組換えタンパク質の大部分は可溶相に存在したが、沈殿はカゼインを含むことが確認された。
【0040】
目的の組換え抗原(E2his及びE2his−CD154)を含む乳清フラクションを、0.8μM及び0.4μMの膜(Millipore)で連続濾過して澄明にし、さらにNi−NTA−Agaroseマトリックス(Qiagen,USA)を充填したXK16精製カラム(Amersham,USA)に適用した。100mMリン酸緩衝液、20mMイミダゾール、pH7.2(最初の洗浄)及び100mMリン酸塩、50mMイミダゾール、pH7.2(二回目の洗浄)による2回の洗浄ステップが実施された。洗浄後、目的のタンパク質は、100mMリン酸緩衝液、200mMイミダゾール、pH7.2で溶出した。純粋なフラクションに相当するピークを10mMリン酸緩衝液、pH7.2に対して透析した(図5)。
【0041】
ヤギミルクからのE2his及びE2his−CD154の精製操作は、両ワクチン抗原に対して同じであった。この2つのタンパク質は90%に達する高い純度レベルで得られた。E2hisは70%の回収率で得られ、E2his−CD154の場合には、58%の回収率で得られた。このタンパク質の凝集を測定するために、精製タンパク質はSDS−PAGE及びウエスタンブロッティングアッセイにより分析された。ミルク中に生産されたE2hisの2量体イソフォーム(ホモダイマー)がCSFV感染ブタのポリクロナール血清により効率よく認識されることを確認することができ、この特異的立体構造が分子の抗原性を増加させていることを示した(図6)。
【0042】
実施例6.Pichia pastorisメチロトローフのイーストにおける発現ベクターの構築。
Saccharomyces cerevisiaeのインベルターゼスクロースの分泌シグナル(Suc2)の3’末端に目的のコード配列を組み入れるために、pPS10 P.pastoris発現ベクターを、Nae I制限エンドヌクレアーゼで消化した。PCRにより増幅されたE2コード配列は、pPS10プラスミドのNaeI制限部位に挿入された。E2his−CD154コード配列は、Sma I−EcoRV制限エンドヌクレアーゼによる酵素消化によりpMOS−E2his−CD154プラスミドから取り出され、pPS10のNae I制限部位に挿入された。このようにして、pPS−E2his及びpPS−E2his−CD154プラスミドが得られた。両分子のコード配列は、S.cerevisiaeのSuc2の分泌シグナルに結合しており、そしてP.pastorisイーストのアルコール酸化酵素(AOX1)プロモーターの転写調節を受けていた。
【0043】
組換えプラスミドは、Pvu II制限エンドヌクレアーゼにより直線化され、P.pastoris MP36株の電気穿孔適合細胞に電気穿孔により導入された。このようにして、プラスミドpPS−E2his及びpPS−E2his−CD154により安定的に形質転換されたP.pastoris MP36のいくつかのクローンが作成された。この株はヒスチジンの栄養要求性変異株であるので、組換えイーストはHis表現系を獲得し、栄養要求選別を可能にする。
【0044】
最初にドットブロットアッセイにより確認された組換えイーストは、Mut−His表現型(メタノールの低利用)を発生するP.pastoris AOX1遺伝子の置換により生じうる統合パターンを決定するために、サザンブロットアッセイによっても分析された。AOX1の遺伝子置換は、イーストゲノムに存在する5’AOX1プロモーター領域及び3’AOX1領域とプラスミドに存在する他の領域の間の組換えによって生じ、AOX1遺伝子コード領域の除去を推進する。Mut表現型を持つ組換えイーストは、AOX2遺伝子上のアルコール酸化酵素の生産を支持するが、メタノール中における増殖速度は低い。また、表現型Mut−His統合パターンは置換により得ることができる。
【0045】
E2his及びE2his−CD154変異体のコード配列は、メタノールにより誘導しうるAOX1プロモーター調節の下にある。P.pastorisは低レベルのタンパク質を分泌し、そしてその培地はタンパク質の追加を必要としない。したがって、分泌される異種タンパク質は培地中の総タンパク質の大部分(80%を超えるまで)を構成すると予想されうる。組換えタンパク質生産は、5Lの発酵槽中で行われる。発現の誘導は5日間培養にメタノールを添加することにより行われ、そして組換えタンパク質は発酵培地中に得られる。E2hisは、0.143mg/mLのレベルで組換えイースト培地に分泌される。E2his−CD154の場合には、0.122mg/mLの発現レベルで得られた。
【0046】
実施例7:Pichia pastorisの培地から得たE2his及びE2his−CD154抗原の精製。
液相からバイオマスを分離するために、発酵生産物を10,000g,30分間、4℃で遠心分離した。この培養液を0.8μM及び0.2μMの膜(Millipore)で濾過し、そしてそれをNi−NTA Agaroseマトリックス(Qiagen,USA)を充填したXK16精製カラム(Amersham,USA)に適用した。100mMリン酸緩衝液、30mMイミダゾール、pH7.2による洗浄を行い、そして該タンパク質は100mMリン酸緩衝液、200mMイミダゾール、pH7.2で溶出した。純粋フラクションを10mMリン酸緩衝液に対して透析した。遺伝子導入P.pastorisイーストの発酵上清のE2his及びE2his−CD154の精製方法は、両ワクチン抗原について同じであった。この2つのタンパク質は、95%の高い純度レベルで得られた。E2hisは83%の回収で得られ、E2his−CD154の場合には78%の回収で得られた。
【0047】
実施例8:分泌型E2his変異体をワクチン接種されたブタにおける予防試験。
CSFVに対する血清検査陰性であり、ワクチン接種をせずにCSFのない群れに属する健康ブタ24匹(体重約20kg)をこのアッセイに使用した。ブタをそれぞれ8匹ずつの群に別け、3つの分離した実験室(A,B及びC)に収容し、餌と水は自由摂取とした。
【0048】
群A及び群Bの動物は、動物当たり30μg(群A)及び50μg(群B)の1回投与で、E2his抗原を含むワクチン製剤で免疫され、そして群Cはプラセボで免疫された。抗原は水/油エマルジョンで製剤化され、そして首の筋肉内経路により2mLの注射により接種された。プラセボは、1:1(V/V)の比率のアジュバント及びリン酸緩衝食塩溶液で構成され、同じ条件で接種された。免疫後第3週に、筋肉内注射により同種CSFV「Margarita」株を10DL50で全動物をチャレンジした。
【0049】
正常臨床パラメーターの変化は観察されなかったことから、E2hisワクチン製剤による接種は有害反応を生じなかった。免疫後第2週の後にワクチン接種群において、1/50(陽性と考えられる)の高さの中和抗体の力価が得られた。第3週後には、力価は1/1600〜1/6400まで増加した(図7)が、ワクチン接種群(A及びB)の間に免疫応答の相違は観察されなかった。ワクチン接種ブタは発熱又は疾患の全臨床症状を発現せず、チャレンジ後にリンパ球からウイルスは分離されなかった。しかし、プラセボ群は、発熱、出血及び非化膿性脳炎を含む疾患の臨床症状を発現した。この群においては、チャレンジ後4日から屠殺日までウイルス分離が得られた。ここに、提案された接種方法で30μgの投与量で投与されたE2his製剤でワクチン接種された離乳ブタは、臨床症状及びCSFV感染から保護されていることが示された。
【0050】
実施例9.分泌型E2his抗原によりワクチン接種された妊娠雌ブタにおける垂直保護試験。
CSF疾患の無い又はワクチン接種歴の無い群れ(3年以前)のCSFV血清検査陰性の雌ブタ10匹を使用した。離乳後、ホルモン処理により性周期が誘導され、3日後に全ての雌ブタに精子が注入された。精子注入は免疫と同時に行われた。雌ブタ5匹の群は、実施例7に記述したワクチン製剤の2mLを首の筋肉内に注射された(群B)。残る5匹の雌ブタは陰性対照群とされ、アジュバントと食塩液の1:1(V/V)比混合物の2mLにより構成されるプラセボを注射された。ワクチン投与群は21日後にブースターを投与された。妊娠雌ブタは、臨床3徴候(体温、心拍数及び呼吸数)の測定による検査を受け、そして血液検査のための採血を毎週行い、そしてCSFVに対する中和抗体の検出が行われた。2ヵ月後、妊娠雌ブタは、筋肉内注射により10DL50の同種CSFV「Margarita」株を投与された。CSFVの存在を検出するために、チャレンジ後3日目及び5日目に末梢血リンパ球からウイルス分離が行われた。チャレンジ2週間後に雌ブタを屠殺し、形態及び解剖学的病理分析及びウイルス分離アッセイのために胎児を取り出した。実験中、雌ブタは水と餌を自由に摂取した。
【0051】
ワクチンは全ての妊娠雌ブタにおいて無害であり、免疫後流産或いは臨床的変化は無かった。ワクチン接種動物は、1:50から1:51200の間の力価のCSFVに対する特異的中和抗体を発現した。ワクチン接種群の雌ブタはチャレンジ後に完全に健康であり続けた。これらの動物はいずれも、発熱、白血球減少症、血小板増多症或いはその他のCSF臨床徴候を全く示さなかった。
【0052】
形態学的及び解剖学的病理検査により、ワクチン投与雌ブタの胎児は正常の大きさであり、組織病理的病変を示さないことが確認できた。チャレンジ後に採血した母親の白血球からも血液からも、また屠殺した胎児の血液及び臓器からもCSFVは分離されなかった。
【0053】
プラセボ群の雌ブタは、チャレンジの後発熱及び白血球減少症を示した。1匹の雌ブタはチャレンジ後8日目に流産を生じ、チャレンジ後9日目に屠殺した。チャレンジ後2週間で屠殺した雌ブタの胎児及び流産胎児に、小さなサイズ、ミイラ化、脾腫大、腎臓と膀胱の点状出血及び非化膿性脳炎のような病理的徴候が観察された。CSFVは、この群の胎児の血液及び全臓器から分離された。E2hisワクチン製剤によるブタのワクチン接種は、雌ブタから子へのCSFV伝達を予防した。
【0054】
実施例10:E2his−CD154ワクチン製剤によるワクチン接種ブタにおける早期予防試験。
各群6匹のブタの4群を使用し(実施例8と同じ条件)、下記の抗原量でワクチン製剤を適用した:E2his−CD154 50μg(群D),E2his−CD154 80μg(群E),E2his 50μg(群F)。群Gはプラセボ群として使用した。抗原を「水/油」エマルジョン中に製剤化し、2mLを筋肉内注射により接種した。プラセボ群には、タンパク質を含まないアジュバントを接種した。ワクチンは1回投与した。免疫後8日目に、10DL50 CSFV「Margarita」株を筋肉内接種することにより、この動物にチャレンジした。試験期間中毎日臨床徴候を記録し、毎週血液学検査及び中和抗体分析のために採血を行った。また、リンパ球増殖及び「血清中の抗ウイルス活性」アッセイによる細胞性免疫応答を評価するために、ワクチン接種後1,3,5及び7日目に血液検体を採取した。
【0055】
ワクチン接種後、正常な臨床徴候が観察され、接種部位には有害反応は認められなかった。リンパ球増殖アッセイでは、E2−CD154抗原をワクチン接種した動物(群D及びE)のリンパ球培養において、分裂促進因子フィトヘマグルチニンによるリンパ球数の増加が検出された。この応答は、CD4ドメインに対するMabにより遮断されたことは、この免疫応答がヘルパーTリンパ球により仲介されていることを示している。このアッセイにおいて、群F及びG(プラセボ)の動物のリンパ球検体は、分裂促進因子及びCSFVによるいずれの刺激にも応答しなかった(図8)。
【0056】
群D及びEに対するE2−CD154抗原によるワクチン接種後3,5及び7日の検体に高いインターフェロンアルファ力価が観察された。しかし、E2his抗原(群F)及びプラセボ(群G)を接種された動物では、実験期間中インターフェロンは検出されなかった。伝達性胃腸炎ウイルスに対する「抗ウイルス活性アッセイ」をPK−15細胞において実施した。群D及びEにおいて1:512の抗ウイルス活性力価が得られたが、E2his免疫ブタ及びプラセボ群のいずれの検体からも抗ウイルス活性は検出されなかった(図9)。これらの実験により、CD154分子に結合したE2抗原は、CD154免疫刺激活性に関係するCSFVに対する細胞性免疫応答を増強することが確認された。
【0057】
実施例11:E2his及びE2his−CD154を含むワクチン製剤の1回投与によりワクチン接種したブタにおける中和抗体動態の比較。
血清学的にCSFV疾患及びワクチン接種歴の無い(以前3年間)群れの、体重約20kg,CSFVに対する血清検査陰性の6匹のブタの3群を使用した。動物は水と餌を毎日自由に与えられた。
【0058】
それぞれの動物は、群Hでは50μgのE2his−CD154;群Iでは50μgのE2hisをワクチン接種され、そして群Jはプラセボとして使用した。抗原は「水/油」エマルジョン中に製剤化し、2mLの筋肉内注射により接種した。プラセボ群はタンパク質を含まないアジュバントを接種した。1回投与を行い、免疫後5週間、中和ペルオキシド結合アッセイ(NPLA)により、中和抗体のレベルを測定した。
【0059】
E2−CD154及びE2hisをワクチン接種された群(H及びI)において、1:50(保護的と考えられる)を超える力価で免疫後2週間で中和抗体が検出された。試験中、プラセボ群の動物では抗体は全く検出されなかった。免疫後第2週において、群H(E2−CD154抗原)の動物の中和抗体力価は、E2his抗原で免疫した群の力価より高かった。この結果は、群Hの動物における体液性応答のより高い刺激を示唆した(図10)。
【0060】
ワクチン接種されたブタにおいて、50μgの投与量レベルのE2his−CD154ワクチン製剤は、安全であり、免疫原性があり、そしてE2hisワクチン製剤と比較した場合に、より早期の体液性応答を誘発すると、われわれは結論した。
【0061】
実施例12:E2his−CD154ワクチン製剤によりワクチン接種された妊娠雌ブタにおける垂直保護試験。
10匹の雌ブタを、実施例8に使用したブタと同じ健康条件及び由来で選別した。離乳後、ホルモン処理により性周期を誘発し、3日後に全ての雌ブタに精子を注入した。同時に、5匹の雌ブタの群は、E2his−CD154ワクチン製剤(80μg/動物;実施例10の群Eに使用した組成)の2mLを耳の後ろの首に筋肉注射して免疫した。残る5匹のブタの群はプラセボとしてアジュバントで免疫した。妊娠雌ブタは、臨床三徴候(体温、心拍数及び呼吸数)を調べられ、そして毎週、血液学及びCSFVに対する中和抗体の検出のための採血が行われた。妊娠2ヶ月において、10DL50のCSFV「Margarita」株でチャレンジした。チャレンジ後3日目と5日目に採血して、ウイルス血症を検査した。2週間後、雌ブタを屠殺し、その胎児を取り出し、ウイルス学的、形態学的及び病理学的分析を行った。実験中、雌ブタは毎日水と餌を自由に摂取した。
【0062】
免疫後、流産例又はその他のCSF臨床徴候は観察されなかった。したがって、1回投与免疫によるE2his−CD154ワクチン製剤は、妊娠雌ブタにおいて安全であった。ワクチン接種動物は、1:50から1:16,000のCSFVに対する特異的中和抗体を発生した。
【0063】
チャレンジ後、ワクチン接種雌ブタ群において、発熱、白血球減少症又は血小板増多症は観察されなかった。この群において、胎児は正常の大きさであり、形態測定及び病理解剖分析により測定された組織病理学的病変は無かった。ワクチン接種された母親のチャレンジ後に採取された血液の白血球にも、その胎児の臓器や血液にも、CSFVは発見されなかった。
【0064】
プラセボ群の雌ブタは、チャレンジ後、発熱、白血球減少症及び食欲不振を示した。この群の胎児は、サイズの減少を示し、また脾腫大、腎臓及び膀胱の点状出血、腸の壊死、内臓の出血及び非化膿性脳炎などのCSFに一致する組織病理的病変を示した。この群全ての胎児の臓器及び血液からCSFVが分離された。評価されたスケジュールで適用されたE2his−CD154ワクチン製剤による妊娠雌ブタのワクチン接種により、雌ブタから子へのCSFV伝達は予防された。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】Ad−E2his−secアデノウイルスベクターにより形質導入されたPK−15細胞におけるE2his発現のSDS−PAGE(還元条件)による分析。(A)SDS−PAGE,レーン1:形質導入細胞の培養液、レーン2:非処理細胞の培養液、MWM:分子量マーカー。(B)ヒスチジンテールに対するモノクロナール抗体を使用するウエスタンブロッティングによるE2hisの免疫同定。レーン1:形質導入細胞の培養液、レーン2:非処理細胞の培養液、レーン3:ヒスチジンテールの陽性対照。MWM:分子量マーカー。(C)CSFV感染ブタのポリクロナール抗体を使用するウエスタンブロッティングによるE2hisの免疫同定。レーン1:非処理細胞の培養液、レーン2:Ad−E2hisで形質導入細胞の培養液。MWM:分子量マーカー。
【図2】Ad−E2his−sec及びAd−E2hisCD154−secアデノウイルスベクターで形質導入されたPK−15細胞におけるE2hiis発現条件及びE2his−CD154の分析。培養液中のタンパク質は、非還元条件のSDS−PAGEにより分離された。関心の分子の免疫同定はCSFVのE2タンパク質に対するモノクロナール抗体(Mab−1G6)を使用するウエスタンブロッティングにより行われた。レーン1:Ad−E2his−secベクターにより形質導入された細胞の培養液、レーン2:Ad−E2hisCD154−secベクターにより形質導入された細胞の培養液。MWM:分子量マーカー。
【図3】Ad−E2his−secベクターにより形質導入されたヤギのミルクの中のE2hisの発現の動態。それぞれの日の搾乳に対応する乳清のタンパク質を非還元条件のSDS−PAGEにより分離した。E2hisの免疫同定は、Mab−1G6を使用するウエスタンブロッティングによりアッセイした。レーンPK:Ad−E2his−secベクターにより形質導入されたPK−15細胞の培養液中に発現されたE2hisの陽性対照、レーンC:非処理ヤギの乳清検体、レーン1〜8:Ad−E2his−secベクターにより形質導入されたヤギのアデノウイルス形質導入の後の8日の搾乳のそれぞれに対応する乳清検体。
【図4】Ad−E2hisCd154−secで形質導入されたヤギのミルク中のE2his−CD154の発現の動態。搾乳のそれぞれの比に対応する乳清検体中に存在するタンパク質を、非還元条件のSDS−PAGEにより分離した。E2his−CD154分子の免疫同定は、Mab−1G6を使用するウエスタンブロッティングにより行われた。レーン1〜5:アデノウイルスによる形質導入の後の5搾乳日のそれぞれに対応するAd−E2hisCD154−secベクターで形質導入されたヤギの乳清検体。レーンC:非処理ヤギの乳清検体。レーンPK:Ad−E2hisCD154−secベクターで形質導入されたPK−15細胞の培養液中に発現したE2his−CD154の陽性対照。
【図5】非還元条件のSDS−PAGEにおいて分離されたE2hisの純度及び同定。このタンパク質は、AD−E2his−secベクターで形質導入されたヤギのミルク中に発現し、精製は金属アフィニティークロマトグラフィーにより行われた。(A)異なる精製ステップのSDS−PAGE。(B)Mab−1G6を使用するウエスタンブロッティングによる免疫同定。レーン1:Ad−E2his−secベクターにより形質導入されたPK−15細胞の培養液中に発現したE2hisの陽性対照。レーン2:非処理ヤギの乳清検体。レーン3:クロマトグラフィーの最初の材料として採取されたAd−E2his−secベクターにより形質導入されたヤギの乳清検体。レーン4:マトリックスに結合しない材料。レーン5:20mMイミダゾールによる洗浄液。レーン6:50mMイミダゾールによる洗浄液。レーン7:200mMイミダゾールの溶出液。
【図6】CSFVの毒性株に感染したブタの血清中に存在する抗体による、E2hisワクチン抗原の二つのイソフォームの抗原認識の比較。AD−E2his−secアデノウイルスベクターで形質導入されたヤギのミルクから精製したE2hisを電気泳動と還元条件(モノマー)及び非還元条件(ホモダイマー)においてウエスタンブロッティングアッセイにより分析した。(A)SDS−PAGE.(B)CSF感染ブタのポリクロナール血清を使用するウエスタンブロッティング。レーン1:非還元条件で分離されたE2his.レーン2:還元条件で分離されたE2−his。
【図7】E2hisワクチン抗原の1回投与によりワクチン接種された2群のブタにおいて得られた中和抗体の動態。抗体力価はパーオキシダーゼ結合中和アッセイにより測定した。群Aは30μg/動物の投与量、B群は50μg/動物の投与量を接種された。両群は、ワクチン接種の3週間後、10DL50のCSFウイルス投与量をチャレンジされた。結果は、反復測定力価の幾何平均として示される。
【図8】E2−CD154抗原(群D及びE)とE2his(群F)によるワクチン接種の5日後にブタから単離したリンパ球を使用するリンパ球増殖アッセイ。結果は、刺激された培養の1分間のカウント数(cpm)と非処理対照のcpmの比として定義される刺激指数(SI)として示す。SI≧2を誘発する増殖刺激を陽性とした。CSFVで処理された培養中の増殖、並びにCSFVそしてブタCD4ドメインに対するMabで処理した培養中の増殖阻害を評価した。
【図9】E2−CD154抗原(群D及びE)及びE2his抗原(群F)でワクチン接種された2群のブタの血清を使用したPK−15細胞における抗ウイルス活性アッセイ。結果は反復測定力価の幾何平均として示す。
【図10】50μg/動物の投与量を使用してE2−CD154抗原(群H)及びE2his抗原(群I)でワクチン接種した2群のブタにおいて得られた中和抗体の動態。抗体力価は、ペルオキシダーゼ結合中和アッセイにより測定した。結果は反復測定力価の幾何平均として示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブタコレラウイルス(CSFV)のウイルスエンベロープのE2グリコプロテインの細胞外セグメント及び分子アジュバントとして機能する免疫系刺激タンパク質を含むことを特徴とするCSFVに対するキメラワクチン抗原。
【請求項2】
前記免疫系刺激タンパク質が、アルファインターフェロン、又はCD154分子の細胞外セグメントである、請求項1に記載のキメラワクチン抗原。
【請求項3】
アルファインターフェロン又はCD154分子の細胞外セグメントがいずれかの哺乳動物由来である、請求項2に記載のキメラワクチン抗原。
【請求項4】
CSFVのE2グリコプロテインの細胞外セグメント(配列番号1)及びブタCD154分子の細胞外セグメント(配列番号2)のアミノ酸配列を含むことを主な特徴とする、請求項3に記載のキメラワクチン抗原。
【請求項5】
組換え、合成又は化学的結合により得られる請求項1に記載のキメラワクチン抗原。
【請求項6】
遺伝子変換哺乳動物のミルクから得られる請求項1に記載のキメラワクチン抗原。
【請求項7】
乳腺の直接遺伝子変換により非遺伝子導入哺乳動物のミルクから得られる、請求項6に記載のキメラワクチン抗原。
【請求項8】
前記乳腺の直接遺伝子変換がアデノウイルスベクターを使用して行われる、請求項7に記載のキメラワクチン抗体。
【請求項9】
遺伝子変換哺乳動物のミルクから得られる請求項6に記載のキメラワクチン抗原。
【請求項10】
遺伝子変換イーストから得られる請求項5に記載のキメラワクチン抗原。
【請求項11】
請求項1〜10に記述されているキメラ抗原を含むことを特徴とする、CSFVに対する保護的免疫応答を生じることができるワクチン製剤。
【請求項12】
全身又は粘膜経路により動物に投与することができる、請求項11に記載のワクチン製剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公表番号】特表2009−528304(P2009−528304A)
【公表日】平成21年8月6日(2009.8.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−556644(P2008−556644)
【出願日】平成19年2月28日(2007.2.28)
【国際出願番号】PCT/CU2007/000008
【国際公開番号】WO2007/098717
【国際公開日】平成19年9月7日(2007.9.7)
【出願人】(304012895)セントロ デ インジエニエリア ジエネテイカ イ バイオテクノロジア (46)
【出願人】(508259548)セントロ ナシオナル デ サニダド アグロペクアリア (1)
【Fターム(参考)】