説明

ブタジエンの短鎖重合に有用なホスフィンに基づく新規触媒

1−オクテンを製造するためのブタジエンの短鎖重合にとって好適なホスフィンに基づく触媒組成物は、パラジウムと、2個の潜在的に官能化されたフェニル環およびオルト位の1個上にアルコキシ官能基を有し、これはこのオルト位と隣接するメタ位との間の5または6員環の一部であるが、この5または6員環が、第2のアリール基の一部ではない、第3のフェニル基を特徴とするあるクラスの新規ホスフィンリガンドの1つとを含む。このクラスのホスフィンリガンドを含む触媒は、他の多くのホスフィンリガンド触媒よりも、高い触媒活性および選択性を示すことができ、低い温度で使用することができ、よって費用を軽減することができる。パラジウムの沈降も軽減することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
背景
1.発明の分野
本発明は、ホスフィンに基づく触媒の分野に関する。より具体的には、本発明は、ブタジエンの短鎖重合において改善された性能を示す触媒の調製において有用であるホスフィンに基づく新規リガンドに関する。
【0002】
2.背景技術
1−オクテンはブタジエンの短鎖重合により効率的に調製することができることが一般的に知られている。この短鎖重合は、典型的には、メタノールの存在中で行い、その触媒は、パラジウムなどの第VIII族金属と、既知のホスフィンリガンドとの組合せであることが多い。短鎖重合は3ステップの方法であることが多い。第1のステップでは、ブタジエンをメタノールと一緒に短鎖重合させて、1−メトキシ−2,7−オクタジエン(「MOD−1」)を得る。第2のステップでは、MOD−1を水素化して、メチルオクチルエーテルを得る。ステップ3では、メチルオクチルエーテルはエーテル切断を受けて、1−オクテンとメタノールとを得る。
【0003】
短鎖重合ステップを達成する1つの公知の方法は、パラジウム塩とトリフェニルホスフィン(TPP)との組合せである触媒を使用する。しかしながら、このホスフィンを使用する場合、1−オクテンの収率は望ましい収率を満たさない。これは、少なくとも部分的には、3−メトキシ−1,7−オクタジエン(「MOD−3」)および1,3,7−オクタトリエンの形成をもたらす副反応に起因するようである。
【0004】
別の手法は、1つまたは複数のアルコキシ置換ホスフィンリガンドの存在下で、ブタジエンを二量体化し、アルコキシル化することにより、ブタジエンから1−オクテンを製造する方法を教示する米国特許(USP)第7,425,658号に開示されている。これを、アルコキシ二量体化触媒を用いてアルコキシ二量体化条件下で行う。ホスフィンリガンドの例としては、トリス(2,4,6−トリメトキシフェニル)ホスフィンおよびトリス−(4−メトキシフェニル)ホスフィンが挙げられる。
【0005】
2009年7月22日に出願された同時係属国際特許出願第PCT/US09/051347号(代理人整理番号66,884)は、有機ヒドロキシル化合物、パラジウム(Pd)触媒および新規ホスフィンリガンドの群の少なくとも1つの存在下での1,3−ブタジエンの短鎖重合を教示している。ホスフィンリガンドの例としては、トリス−(2−メトキシフェニル)ホスフィン、トリス−(2,4−ジメトキシ−フェニル)ホスフィン、ビス−(2−メトキシフェニル)フェニルホスフィン、トリス−(2−メトキシ−4−フルオロフェニル)−ホスフィンおよびトリス−(2−メトキシ−4−クロロフェニル)ホスフィンが挙げられる。
【0006】
USP第7,026,523号は、触媒としてのPd−カルベン複合体の使用を含む非環状オレフィンを短鎖重合する方法を開示している。
【0007】
不幸なことに、公知の方法はいずれも、望ましくない副生成物を減少させると同時に、触媒活性のレベルおよび収率を増加させる目標を満足に達成することができないようである。このため、ブタジエン短鎖重合経路を介する1−オクテンの製造業者は、これらの目標のいずれか、または全部を改善する新しい触媒を探索し続けている。本発明は、この必要性に対処するものである。
【0008】
発明の概要
一実施形態においては、本発明は、ブタジエンのMOD−1への短鎖重合における使用にとって好適な触媒組成物を提供する。組成物は、パラジウムと、下記式:
【0009】
【化1】

(式中、
【0010】
【化2】

であり、RはHまたはRであり、それぞれのRはH;線状、分枝状または環状のC〜C20アルキル、C〜C18アリール、およびC〜C20アルコキシ;C〜C20ジアルキルアミノ;ハロゲン;ならびにトリフルオロメチルから独立に選択される)
のいずれかにより表されるホスフィンリガンドとを含む。
【0011】
別の実施形態においては、本発明は、触媒組成物が形成されるような条件下で、パラジウムと、式I、II、IIIまたはIVのいずれかに対応するホスフィンリガンドとを接触させることを含む、触媒組成物を調製する方法を提供する。
【0012】
さらに別の実施形態においては、本発明は、(i)パラジウムと、式I、II、IIIまたはIVのいずれかに対応するホスフィンリガンドとを含む触媒組成物の存在下で、1,3−ブタジエンを、式
R−H (式VI)
を有する第一級脂肪族アルコールまたは芳香族ヒドロキシル化合物と反応させて、式
CH=CH−CH−CH−CH−CH=CH−CH−R (式VII)
(式中、Rは第一級脂肪族アルコールまたは芳香族ヒドロキシル化合物の残基を表す)
の1−置換−2,7−オクタジエンを形成するステップ;(ii)水素化触媒の存在下で、ステップ(a)で形成された1−置換−2,7−オクタジエンを水素化にかけて、式
CH−CH−CH−CH−CH−CH−CH−CH−R (式VIII)
の1−置換オクタンを形成するステップ;および(iii)好適な触媒の存在下で、ステップ(b)で形成された1−置換オクタンを分解して、1−オクテンを形成するステップを含む、1−オクテンを調製する方法を提供する。
【0013】
態様の詳細な説明
本発明の新規ホスフィンリガンドは、多くの実施形態において、特にPdとの触媒複合体において、ブタジエン短鎖重合経路を介する1−オクテンの製造において、Pdとホスフィンリガンドとを含有する他の公知の触媒と比較した場合、増加した安定性ならびにより高い触媒活性および/または選択性を示すことがわかった。このより高い活性により、例えば、より低い温度で、等温反応器系中でこの触媒を用いることが可能になる。断熱反応器系において適用する場合、より低い入力温度を使用することができる。いずれの場合でも、同様の供給条件下では、結果はより低い平均反応器温度である。このより低い温度は、ひいては、全体の選択性を増加させ、これによってMOD−3および1,3,7−オクタトリエンなどの副生成物の形成を減少させる。Pd沈降も減少する。最終的な結果は、生成速度を増加させ、エネルギー費を軽減することができることである。
【0014】
本発明のホスフィンリガンドは、一般的には、2個の潜在的に官能化されたフェニル環に加えて、オルト位の1個上にアルコキシ官能基を有し、これはこのオルト位と隣接するメタ位との間の5または6員環の一部である第3のフェニル基を有する。この5または6員環は、第2のアリール基の一部ではない。ホスフィンリガンドは、式Vで定義されるRを含む、式I、II、III、およびIVのいずれかにより表される。
【0015】
多ステップの方法によりリガンド合成を実行することができる。ステップ1においては、有機骨格、例えば、4,4,4’,4’,6,6’−ヘキサメチルスピロ−2,2’−ビクロマンを、酸素原子に対してオルトの位置で臭素化する。必要に応じて、反応の化学量論を調整することにより、両方のフェニル環の臭素化を達成するように、臭素化条件を調整することができる。ステップ2においては、モノブロモ化またはジブロモ化有機断片をリチウム化する。ステップ3においては、ホスフィン、好ましくは、クロロジフェニルホスフィン(ClPPh)を使用して、一リチウム化または二リチウム化された種の求電子置換を行う。ステップ4においては、ホスフィンリガンドを、例えば、濾過および溶媒除去により回収する。
【0016】
式I〜IVに従った本発明のリガンドの例としては、非限定的な実施形態においては、(4,4,4’,4’,6,6’−ヘキサメチル−2,2’−スピロビス[クロマン]−8−イル)ジフェニルホスフィン(式IX);(2,9−ジメチル−5a,10b−ジヒドロベンゾ[b]ベンゾフロ[3,2−d]フラン−4−イル)ジフェニルホスフィン(式X);(2,9−ジメチル−5a,10b−ジヒドロベンゾ[b]ベンゾフロ[3,2−d]フラン−4,7−ジイル)ビス(ジフェニルホスフィン)(式XI);(3,4b,8,9b−テトラメチル−4b,9b−ジヒドロベンゾ[b]ベンゾフロ[2,3−d]−フラン−1,6−ジイル)ビス(ジフェニルホスフィン)(式XII)、2,10−ジ−t−ブチル−4−ジフェニルホスフィノ−6,12−メタノ−12H−ジベンゾ[2,1−d:l’,2’’−g][1,3]ジオキソシン(式XIII)、2,10−ジメチル−4−ジフェニル−ホスフィノ−6,12−メタノ−12H−ジベンゾ[2,1−d:l’,2’’−g][1,3]ジオキソシン(式XIV)、および2,10−ジメチル−4,8−ジフェニルホスフィノ−6,12−メタノ−12H−ジベンゾ[2,1−d:l’,2’’−g][1,3]ジオキソシン(式XV)が挙げられる。これらのリガンドを、単一の触媒パッケージ中で単独で、または2種以上の組合せ中で使用することができる。これらの典型的なリガンドを、以下の構造を用いて例示することができる:
【0017】
【化3−1】

【化3−2】

【0018】
出発の1−置換−2,7−オクタジエンを含む短鎖重合生成物混合物から1−オクテンを製造する方法は公知であり、文献に広く記載されている。例えば、米国特許出願公開第2005/0038305号およびUSP第7,030,286号を参照されたい。一般的には、3ステップの方法を好適に用いることができる。この方法においては、第1のステップは、好ましくは、1,3−ブタジエン、第一級脂肪族アルコールまたは芳香族ヒドロキシル化合物、およびPdと、本発明のホスフィンに基づくリガンドの1つまたは複数との複合体である短鎖重合触媒を含む反応液中で起こる。ホスフィンリガンドは、Pdを安定化するのに十分な量で存在するのが好ましい。それぞれの量は、有利には、1.0から、好ましくは、少なくとも1.5から50、好ましくは、40までの初期ホスフィンリガンド対Pd比を提供する。反応液は、有機溶媒、触媒促進剤、触媒安定剤、またはブタジエン重合阻害剤などの1つまたは複数の任意選択の成分をさらに含んでもよい。
【0019】
この第1のステップは、有利には、窒素、アルゴン、またはヘリウムなどの不活性雰囲気下、および1−置換−2,7−オクタジエンを生成するのに十分な反応温度で起こる。置換基は、第一級脂肪族アルコールまたは芳香族ヒドロキシル化合物の残基である。反応温度は、摂氏40度(℃)より高いのが好ましく、より好ましくは、50℃より高く(>)、さらにより好ましくは、>60℃であり、好ましくは、120℃未満(<)、より好ましくは、<110℃、さらにより好ましくは、<100℃である。第1のステップの生成物は、短鎖重合生成物であり、これは1−置換−2,7−オクタジエン、例えば、1−メトキシ−2,7−オクタジエン(MOD−1)である。
【0020】
第2のステップにおいては、1−置換−2,7−オクタジエン、例えば、MOD−1を水素化して、置換オクチルエーテル、例えば、メチルオクチルエーテルを得る。一般的には、任意の従来の水素化方法を使用することができる。水素化を、液相、または蒸気相中で行うことができる。出発材料の性質に応じて、0℃〜400℃の温度で反応を行うことができる。好ましくは、温度は周囲温度〜350℃の範囲である。より好ましくは、50℃〜200℃の温度で水素化を行う。圧力は重要ではなく、水素化を液相中で行うか、または蒸気相中で行うかに依存する。一般的には、圧力は0.1〜100bar(10キロパスカル(kPa)〜10,000kPa)まで変化してもよい。
【0021】
最後に、ステップ3において、オクチルエーテル、例えば、メチルオクチルエーテルは、エーテル切断を受けて、1−オクテンと、アルコール、例えば、メタノールとを得る。このステップにおいては、メチルオクチルエーテルを分解して1−オクテンを形成することができる任意の従来の触媒を使用することができる。固体酸触媒、好ましくは、アルミナ触媒をこの目的のために使用することができる。そのような触媒の例としては、α、δ、γ、ηおよびθアルミナを挙げることができ、これを水酸化ナトリウムなどの塩基により、または他の処理剤により改変することができる。ある特定の実施形態においては、γアルミナを用いる。
【0022】
分解を行う温度は、触媒活性および分解されるそれぞれの化合物の分解温度の両方に依存する。特定の実施形態においては、例えば、分解される化合物がメチルオクチルエーテルである場合、分解温度は最大で500℃、好ましくは200℃〜400℃、より好ましくは、250℃〜350℃の範囲であってよい。分解反応を行うことができる圧力も広く変化してもよいが、好ましくは、高い活性を確保するために1〜2bar(100kPa〜200kPa)を維持する。
【0023】
第3のステップを、蒸気相または液相中で行うことができるが、蒸気相が好ましいことが多い。不活性ガスまたは不活性液体希釈剤を使用して、反応物、例えば、メチルオクチルエーテルを希釈することができる。そのような不活性ガスの例としては、窒素、ヘリウム、アルゴン、およびそれらの組合せを挙げることができる。あるいは、別のエーテルを希釈剤として使用してもよい。用いる場合、希釈剤は重量比で>0:1〜100:1、好ましくは、1:1〜20:1の範囲の希釈剤対反応物にあるのが望ましい。希釈剤としてのエーテルの選択は、再利用を可能にすることによるいくつかの利点を提供することができ、これはひいては、正味のアルコール損失を減少させるのに役立ち得る。例えば、希釈剤としてメチルオクチルエーテルを選択する場合、分解反応においていくらかのメタノールが生成されることになる。次いで、このメタノールは脱水して、ジメチルエーテル(DME)と水とを形成し、この反応はエーテル切断反応と同時に起こって、1−オクテンとメタノールとが得られる。次いで、生成されたDMEを再利用して分解反応器に戻す場合、水を添加することもでき、これは方法全体にわたって正味のアルコール損失が存在しないことを確保するのに役立つことになる。また、生成されたメタノールを再利用して、第1の方法ステップに戻すこともできる。
【0024】
反応全体を連続的に、半連続的に、またはバッチ式に行うことができる。連続様式においては、反応物(複数も可)および使用する場合、任意の希釈剤(複数も可)を、所望の反応条件下で、触媒床上に連続的に通過させることができる。反応物(複数も可)を、0.01グラムの1−置換オクタン/グラム触媒/時間(g 1−置換オクタン/g触媒/h)〜50gの1−置換オクタン/g触媒/h、好ましくは、0.1gの1−置換オクタン/g触媒/h〜10gの1−置換オクタン/g触媒/hの範囲の単位時間あたりの重量空間速度(WHSV)で反応器に添加することができる。
【0025】
反応全体を、等温的、またはあるいは、断熱的に行うことができる。固定床断熱操作の場合、反応器中の温度は、一般的には、反応の吸熱性に起因して、反応器の長さにわたって低下することになる。反応器の出口温度は、望ましくは、触媒上での液体の凝結を減少させるか、または回避するために、流出液混合物の露点より上に留まるべきである。初期入力温度および温度低下の程度は、1−置換オクタンから1−オクテンへの変換のレベルと相関しまた、希釈剤対反応物の比とも相関する、すなわち、より大きい温度低下は、より高い変換レベルを示唆し、より高い希釈剤対反応物の比は、所与の入力温度でのより高い変換レベルをもたらす傾向がある。好ましい実施形態においては、本発明のホスフィンに基づく新規触媒を使用する、1−置換オクタンから1−オクテンへのモル変換は、1−置換オクタンの入力濃度に基づいて、理論値の40〜80パーセントの範囲であってよい。
【0026】
以下の実施例は、例示目的でのみ提供されるものである。当業者であれば、本発明の精神を逸脱することなく用いることができる変更例および改変例を理解することができるであろう。
実施例
【実施例1】
【0027】
(a)4−ブロモ−4,4,4’,4’,6,6’−ヘキサメチルスピロ−2,2’−ビクロマンの合成
一定量の出発材料(「骨格」)4,4,4’,4’,6,6’−ヘキサメチルスピロ−2,2’−ビクロマン(2グラム(g)、5.9マイクロモル(mmol))およびN−ブロモスクシンイミド(NBS)(1.05g、5.9mmol)を、ジメチルホルムアミド(DMF)(100ミリリットル(mL))中に溶解し、室温で1日撹拌する。ガスクロマトグラフィー/質量分析(GC/MS)により、出発の4,4,4’,4’,6,6’−ヘキサメチルスピロ−2,2’−ビクロマンの変換をモニターする。溶媒を蒸発乾固し、固体を水で洗浄し、エーテルで抽出する。エーテルを硫酸マグネシウム(MgSO)上で乾燥し、蒸発乾固する。得られた固体をエタノールで洗浄して、65/15/20の比のモノブロモ化された、ジブロモ化された、および未変換の4,4,4’,4’,6,6’−ヘキサメチルスピロ−2,2’−ビクロマンの混合物を含有する2gの白色固体を得る。この生成物混合物を、さらに精製することなくステップ(b)において使用する。
【0028】
(b)(4,4,4’,4’,6,6’−ヘキサメチル−2,2’−スピロビス[クロマン]−8−イル)ジフェニルホスフィン(式IX)の合成
テトラヒドロフラン(THF)(40ミリリットル(mL))中の工程(a)からの未精製の8−ブロモ−4,4,4’,4’,6,6’−ヘキサメチルスピロ−2,2’−ビクロマン(2.2g、65パーセントの8−ブロモ−4,4,4’,4’,6,6’−ヘキサメチルスピロ−2,2’−ビクロマンを含有する、3.44mmol)の溶液を、−78℃に冷却する。次いで、n−ブチルリチウム(n−BuLi)(ヘキサン中の2.5モル(M)、1.9mL)をゆっくり添加する。この反応混合物に、ClPPh(1当量(eq)、0.46mL)を−78℃で添加する。混合物を−78℃で1時間(h)および室温(RT)で1h撹拌する。次いで、溶媒を蒸発させ、脱気した水を添加する。生成物をジクロロメタンで抽出する。有機層を分離し、硫酸マグネシウム(MgSO)上で乾燥する。溶媒を蒸発させると、2.2gの粗生成物が得られ、次いで、これをシリカゲル上のクロマトグラフィーカラムを用いて精製する。生成物は白色固体(1g、1.92mmol、収率は理論値の55パーセント(%))として単離され、(4,4,4’,4’,6,6’−ヘキサメチル−2,2’−スピロビス[クロマン]−8−イル)ジフェニルホスフィンを含む。
【実施例2】
【0029】
(a)4−ブロモ−2,8−ジメチル−5a,10b−ジヒドロベンゾフロ[2,3−b]ベンゾフランの合成
骨格2,8−ジメチル−5a,10b−ジヒドロベンゾフロ−[2,3−b]ベンゾフラン(1.5g、6.3mmol)およびNBS(2.016g、11.3mmol)をDMF(100mL)中に溶解し、RTで1日撹拌する(フラスコをアルミホイルで被覆する)。変換をGC/MSによりモニターする。3日後、モノブロモ化生成物、ジブロモ化生成物、および非改変骨格の混合物(モノブロモ/ジブロモ/骨格)が、重量パーセントに基づいて、75/23/2の比で形成される。溶媒を蒸発乾固し、固体を水で洗浄し、ジクロロメタンで抽出する。次いで、ジクロロメタン溶液をMgSO上で乾燥し、蒸発乾固する。得られた固体をエタノールで洗浄すれば、白色固体(1.5g、モノブロモ/ジブロモの混合物、75/25を含有する)が得られる。この生成物(「ブロモ骨格」)をさらに精製することなく、ステップ(b)で使用する。
【0030】
(b)4−ジフェニルホスフィン−2,8−ジメチル−5a,10b−ジヒドロベンゾフロ[2,3−b]ベンゾフラン(式X)の合成
THF(40mL)中のステップ(a)の未精製のブロモ骨格(1.5g、3.55mmolの4−ブロモ−2,8−ジメチル−5a,10b−ジヒドロベンゾフロ[2,3−b]ベンゾフランを含有する)の溶液を、−78℃に冷却する。次いで、n−BuLi(ヘキサン中の2.5モル(M)、2.8mL)をゆっくり添加する。混合物を−78℃で2h撹拌し、ClPPh(1.065mL)を添加する。混合物を−78℃で2hおよびRTで一晩撹拌する。次いで、溶媒を蒸発させ、脱気した水を添加する。生成物をジクロロメタンで抽出する。有機層を分離し、MgSO上で乾燥する。溶媒を蒸発すると、粗生成物が得られ、これをシリカゲル上のクロマトグラフィーカラムにより精製する。生成物は不純のまま白色固体として単離され、次いで、シリカ上での分取薄層クロマトグラフィーにより精製され、4−ジフェニルホスフィン−2,8−ジメチル−5a,10b−ジヒドロベンゾフロ[2,3−b]ベンゾフランを含む白色固体(0.23g、0.544mmol、収率は理論値の15%)として回収される。
【実施例3】
【0031】
(a)4−ブロモ−2,8−ジメチル−5,10−メタノ−10H−ジベンゾ[2,1−d:1’,2’−g][1,3]−ジオキソシンの合成
骨格2,8−ジメチル−5,10−メタノ−10H−ジベンゾ[2,1−d:1’,2’−g][1,3]ジオキソシン(1.5g、5.95mmol)およびNBS(1.477g、8.29mmol)を、DMF(100mL)中に溶解し、RTで1日撹拌する。変換をGC/MSによりモニターする。3日後、モノブロモ/ジブロモ/骨格の混合物が76/9/13の比で形成される。溶媒を蒸発乾固し、固体を水で洗浄し、ジクロロメタンで抽出する。ジクロロメタン溶液をMgSO上で乾燥し、蒸発乾固する。得られた固体をエタノールで洗浄すれば、ブロモ骨格である白色固体(1.5g、モノブロモ/ジブロモ90/10の混合物を含有する)が得られる。固体ブロモ骨格をさらに精製することなく、以下のステップ(b)で使用する。
【0032】
(b)4−ジフェニルホスフィノ−2,8−ジメチル−5,10−メタノ−10H−ジベンゾ[2,1−d:−1’,2’−g][1,3]ジオキソシン(式XIV)の合成
THF(40mL)中のステップ(a)からの未精製のブロモ骨格(1.5g、4.07mmolの4−ブロモ−2,8−ジメチル−5,10−メタノ−10H−ジベンゾ[2,1−d:1’,2’−g][1,3]ジオキソシンを含有する)の溶液を、−78℃に冷却する。次いで、n−BuLi(ヘキサン中の2.5M、2.4mL)をゆっくり添加する。混合物を−78℃で2h撹拌し、ClPPh(1.0mL)を添加する。混合物を−78℃で2hおよびRTで一晩撹拌する。次いで、溶媒を蒸発し、脱気した水を添加する。生成物をジクロロメタンで抽出する。有機層を分離し、MgSO上で乾燥する。生成物はシリカゲル上のクロマトグラフィーカラムにより精製され、4−ジフェニルホスフィノ−2,8−ジメチル−5,10−メタノ−10H−ジベンゾ[2,1−d:−1’,2’−g][1,3]ジオキソシンを含む白色固体(0.80g、1.83mmol、収率は理論値の45%)として得られる。
【実施例4】
【0033】
短鎖重合性能試験を、電解研磨したステンレススチールで作製された1リットル(L)のParr反応器中で実行する。各反応につき、Parr反応器のオートクレーブに特定量のメタノール、促進剤(ナトリウムメトキシド、促進剤対Pdのモル比5対1)および阻害剤(ジエチルヒドロキシルアミン、メタノールと粗ブタジエンとの総重量に基づいて100万重量部(ppm)あたり約20部)を充填する。オートクレーブを閉じ、低圧の窒素(N、6bar、600キロパスカル(kPa))で2回パージして、オートクレーブ中に含まれるいかなる酸素をも実質的に除去する。次いで、オートクレーブを高圧のN(20bar、2,000kPa)で1回パージして、漏れについて試験する。
【0034】
漏れ試験の後、ステンレススチール製サンプルシリンダーに、粗ブタジエン流の総重量に基づいて約50重量パーセント(wt%)の1,3−ブタジエンを含有する粗ブタジエン流を充填する。次いで、サンプルシリンダーの内容物を、低圧のN(6bar、600kPa)を用いるオートクレーブに加圧添加する。次いで、オートクレーブ中の温度を、所望の作業温度(以下の表2に示されるように、60℃、75℃、90℃、または100℃)に上昇する。
【0035】
本発明の触媒を調製するために、標準的な触媒であるPdアセチルアセトネート(Pd(acac))を、実施例1で調製された2モル当量の生成物(4,4,4’,4’,6,6’−ヘキサメチル−2,2’−スピロビス[クロマン]−8−イル)ジフェニルホスフィン)と合わせる(1モル当量の酢酸を添加して、保存安定性を増加させることができる)。次いで、メタノール中のPd濃度が約500ppmと等しくなるように、メタノール中に3つの成分を全て溶解することにより、本発明の触媒を作製する。[表1は、この実施例において使用された(4,4,4’,4’,6,6’−ヘキサメチル−2,2’−スピロビス[クロマン]−8−イル)ジフェニルホスフィンの構造を示し、リガンドの構造および製剤をこの実施例4、以下の実施例5〜10、および以下の比較例Aと相関させる]。
【0036】
メタノールおよびブタジエン反応物の総重量に基づいて、Pd濃度が10ppmと等しくなるような量で、乾燥ボックス中に入れて触媒溶液を計量する。次いで、この溶液をステンレススチール製のサンプルシリンダーに入れた後、高圧のN(19bar〜20bar、または1900kPa〜2000kPa)を使用してオートクレーブに加圧添加する。触媒添加後、反応が開始して、最終生成物を生成する。設定された時間(触媒添加の5分後およびその後は30分間隔)にオートクレーブからサンプルを取得し、その気相および液相をガスクロマトグラフィー(GC)により分析する。
【0037】
反応後の液相中のPd濃度を測定した後、添加したPdの総量ならびに反応の開始時に添加した液体およびブタジエン変換に起因して形成された液体を含む総液体容量に基づく理論値とそれを比較することにより、反応器中でのPd沈降を決定する。液体中のPd濃度を、誘導結合プラズマ原子発光分析(ICP−AES)を使用して測定する。次いで、変換、MOD−1に対する選択性、およびPd沈降について、2、2.6および5(重量/重量(w/w))のメタノール対ブタジエンの比で試験を実行し、結果を表2に示す。表3は、2つの時間にわたるブタジエン変換に関する触媒活性を示す。
【実施例5】
【0038】
リガンドとして(4,4,4’,4’,6,6’−ヘキサメチル−2,2’−スピロビス[クロマン]−8−イル)ジフェニルホスフィンの代わりに、2モル当量の(2,9−ジメチル−5a,10b−ジヒドロベンゾ[b]ベンゾフロ[3,2−d]フラン−4−イル)ジフェニルホスフィン(式X)を使用する以外は、実施例4を反復する。変換、MOD−1に対する選択性およびPd沈降について、2.6:1のメタノール対ブタジエンの比および90℃の反応温度で、試験を行い、結果を表2に示す。表3は、2つの時間にわたるブタジエン変換に関する触媒活性を示す。
【実施例6】
【0039】
1または2モル当量の(2,9−ジメチル−5a,10b−ジヒドロベンゾ[b]ベンゾフロ[3,2−d]フラン−4,7−ジイル)ビス(ジフェニルホスフィン)(式XI)を使用する以外は、実施例4を再度反復する。実施例5と同様に試験を行い、結果および活性を表2および表3に示す。
【実施例7】
【0040】
1または2モル当量の(3,4b,8,9b−テトラメチル−4b,9b−ジヒドロベンゾ[b]ベンゾフロ[2,3−d]フラン−1,6−ジイル)ビス(ジフェニル−ホスフィン)(式XII)を使用する以外は、実施例4を再度反復する。実施例5と同様に試験をここでも行い、結果および活性を表2および表3に示す。
【実施例8】
【0041】
2モル当量の2,10−ジ−t−ブチル−4−ジフェニルホスフィノ−6,12−メタノ−12H−ジベンゾ[2,1−d:l’,2’’−g][1,3]ジオキソシン(式XIII)を使用する以外は、実施例4を再度反復する。実施例5と同様に試験をここでも行い、結果および活性を表2および表3に示す。
【実施例9】
【0042】
2モル当量の2,10−ジメチル−4−ジフェニルホスフィノ−6,12−メタノ−12H−ジベンゾ[2,1−d:l’,2’’−g][1,3]ジオキソシン(式XIV)を使用する以外は、実施例4を再度反復する。実施例5と同様に試験をここでも行い、結果および活性を表2および表3に示す。
【実施例10】
【0043】
1または2モル当量の2,10−ジメチル−4,8−ジフェニルホスフィノ−6,12−メタノ−12H−ジベンゾ[2,1−d:l’,2’’−g][1,3]ジオキソシン(式XV)を使用する以外は、実施例4を再度反復する。実施例5と同様に試験をここでも行い、結果および活性を表2および表3に示す。
【0044】
比較例A
2モル当量のトリフェニルホスフィンを使用する以外は、実施例4を再度反復する。実施例5と同様に、さらに、2および5のメタノール対ブタジエンの比ならびに60℃、75℃、90℃および100℃の温度でのPd沈降試験を含む試験を行い、結果および活性を表2および表3に示す。
【0045】
【表1−1】

【0046】
【表1−2】

【0047】
【表2】

【0048】
【表3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
パラジウムと、下記式:
【化4】

(式中、
【化5】

であり、RはHまたはRであり、それぞれのRはH;線状、分枝状または環状のC〜C20アルキル、C〜C18アリール、およびC〜C20アルコキシ;C〜C20ジアルキルアミノ;ハロゲン;ならびにトリフルオロメチルから独立に選択される)
のいずれかにより表されるホスフィンリガンドとを含む触媒組成物。
【請求項2】
ホスフィンリガンドが、(4,4,4’,4’,6,6’−ヘキサメチル−2,2’−スピロビス[クロマン]−8−イル)ジフェニルホスフィン;(2,9−ジメチル−5a,10b−ジヒドロベンゾ[b]ベンゾ−フロ[3,2−d]フラン−4−イル)ジフェニルホスフィン;(2,9−ジメチル−5a,10b−ジヒドロベンゾ[b]ベンゾフロ−[3,2−d]フラン−4,7−ジイル)ビス(ジフェニルホスフィン);(3,4b,8,9b−テトラメチル−4b,9b−ジヒドロベンゾ[b]−ベンゾフロ[2,3−d]フラン−1,6−ジイル)ビス(ジフェニルホスフィン);2,10−ジ−t−ブチル−4−ジフェニルホスフィノ−6,12−メタノ−12H−ジベンゾ[2,1−d:l’,2’’−g][1,3]ジオキソシン;2,10−ジメチル−4−ジフェニルホスフィノ−6,12−メタノ−12H−ジベンゾ[2,1−d:l’,2’’−g][1,3]ジオキソシン;2,10−ジメチル−4,8−ジフェニルホス−フィノ−6,12−メタノ−12H−ジベンゾ[2,1−d:l’,2’’−g][1,3]ジオキソシン;およびそれらの組合せからなる群より選択される、請求項1に記載の触媒組成物。
【請求項3】
触媒組成物が形成されるような条件下で、パラジウムと、請求項1に記載のホスフィンリガンドとを接触させることを含む、触媒組成物を調製する方法。
【請求項4】
(i)請求項1に記載の触媒組成物の存在下で、1,3−ブタジエンを、式
R−H
を有する第一級脂肪族アルコールまたは芳香族ヒドロキシル化合物と反応させて、式
CH=CH−CH−CH−CH−CH=CH−CH−R
(式中、Rは第一級脂肪族アルコールまたは芳香族ヒドロキシル化合物の残基を表す)
の1−置換−2,7−オクタジエンを形成するステップ;
(ii)水素化触媒の存在下で、ステップ(i)で形成された1−置換−2,7−オクタジエンを水素化にかけて、式
CH−CH−CH−CH−CH−CH−CH−CH−R
の1−置換オクタンを形成するステップ;および
(iii)好適な触媒の存在下で、ステップ(ii)で形成された1−置換オクタンを分解して、1−オクテンを形成するステップ、
を含む、1−オクテンを調製する方法。

【公表番号】特表2013−519519(P2013−519519A)
【公表日】平成25年5月30日(2013.5.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−553357(P2012−553357)
【出願日】平成22年2月17日(2010.2.17)
【国際出願番号】PCT/ES2010/070086
【国際公開番号】WO2011/101504
【国際公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【出願人】(502141050)ダウ グローバル テクノロジーズ エルエルシー (1,383)
【Fターム(参考)】