説明

ブタジエンの製造方法

【課題】n−ブテンを分子状酸素により気相接触酸化してブタジエンを製造する方法において、活性、ブタジエン選択性、触媒の安定性、触媒寿命などに優れた、経済的に有利なブタジエン製造法を提供する。
【解決手段】Mo、Bi、Feを必須成分として含有し、且つNiおよびCoの中から選ばれる1種以上の元素、及び、K、RbおよびCsの中から選ばれる1種以上の元素、さらに、シリカを必須成分として含有し、且つシリカの含有量がある限られた狭い範囲にあり、しかも調製時の焼成温度を特定の範囲とする触媒を用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、n−ブテンを原料とするブタジエンの製造方法に関する。詳しくは、n−ブテンをモリブデン、ビスマスを主成分とする複合金属酸化物触媒の存在下、分子状酸素を用いて酸化的に脱水素してブタジエンを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ブタジエンは合成ゴムの原料として使用される重要な化学品であり、合成ゴムは自動車のタイヤなどに大量に使用されている。ブタジエンのほとんどが石油のナフサ留分を熱分解し、イソブテン、n−ブテン、ブタジエンなどからなるC4留分から抽出して製造されている。しかし、ブタジエンの需要量がC4留分の生産量を大きく上回っており、新たなブタジエン製造法が切望されている。
【0003】
n−ブテンからブタジエンを製造する酸化脱水素反応として、モリブデン、ビスマス系の複合酸化物触媒が有効な触媒であり、また、モリブデン、ビスマス、鉄およびコバルトからなる複合酸化物触媒がより効果的であることが知られている。
【0004】
具体例を挙げれば、特許文献1にはニツケル、コバルト、アンチモン、鉄、ビスマス、リン、タングステン、モリブデンからなる触媒、特許文献2にはモリブデン、ビスマス、鉄、銀よりなる触媒、特許文献3にはニツケル、コバルト、鉄、ビスマス、モリブデンにリン、砒素、ホウ素、アルカリ金属を加えた触媒が開示されている。その他特許文献4〜10にはモリブデン、ビスマス、鉄を含む触媒系が、特許文献11にはモリブデン、ビスマス、タングステンを含む触媒系が、特許文献12〜14にはモリブデン、ビスマス、タングステン、鉄を含む触媒系が、特許文献15〜20にはモリブデン、ビスマス、クロムを含む触媒系がそれぞれ開示されている。
【0005】
しかしながら、触媒活性、ブタジエン選択性、触媒の安定性、触媒寿命などの触媒性能の点で、従来提案の触媒はまだ十分とはいえず、その改良が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特公昭43−26842号明細書
【特許文献2】特公昭46−33929号明細書
【特許文献3】特公昭49−3498号明細書
【特許文献4】特公昭49−5321号明細書
【特許文献5】特公昭50−11886号明細書
【特許文献6】特開昭48−32807号明細書
【特許文献7】特開昭54−52010号明細書
【特許文献8】特開昭49−13102号明細書
【特許文献9】特開昭51−93793号明細書
【特許文献10】特開昭57−209232号明細書
【特許文献11】特開昭49−14393号明細書
【特許文献12】特開昭49−9490号明細書
【特許文献13】特開昭49−72203号明細書
【特許文献14】特開昭49−101304号明細書
【特許文献15】特公昭50−3285号明細書
【特許文献16】特公昭50−3286号明細書
【特許文献17】特公昭50−3287号明細書
【特許文献18】特開昭56−140931号明細書
【特許文献19】特開昭56−150023号明細書
【特許文献20】特開昭57−123122号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、n−ブテンからブタジエンを、長期にわたって、高収率、高選択性で製造する方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、n−ブテンを分子状酸素により気相接触酸化してブタジエンを製造する際に、モリブデン(Mo)、ビスマス(Bi)および鉄(Fe)を必須成分として含有し、且つニッケル(Ni)およびコバルト(Co)の中から選ばれる1種以上の元素、カリウム(K)、ルビジウム(Rb)およびセシウム(Cs)の中から選ばれる1種以上の元素、さらに、シリカを必須成分として含有し、且つシリカの含有量が、ある限られた狭い範囲となる、特定の触媒を用いることによって、該触媒がn−ブテンからブタジエンへの高い活性、高いブタジエン選択性、触媒安定性、長期の触媒寿命を示すこと、すなわちn−ブテンからブタジエンを、長期にわたって、高収率、高選択性で製造することができることを見出し本発明の方法を完成させるに至った。
【0009】
即ち本発明のブタジエンの製造方法は、下記式(1)で示される複合金属酸化物90〜97重量%およびシリカ3〜10重量%を含有する触媒(但し、下記式(1)で示される複合金属酸化物とシリカとの合計量を100重量%とする。)、ならびに、分子状酸素を用いて、n−ブテンを気相接触酸化するブタジエンの製造方法において、該触媒が、その組成に対応する化合物の混合物を500〜650℃の温度範囲で焼成してなることを特徴とする。
Mo(a)Bi(b)Fe(c)X(d)Y(e)Z(f)O(g)・・・(1)
[式(1)中、XはNiおよびCoの中から選ばれる1種以上の元素を表し、YはK、RbおよびCsの中から選ばれる1種以上の元素を表し、ZはBe、Mg、S、Ca、Sr、Ba、Te、Se、Ce、Ge、Mn、Zn、Cr、Ag、Sb、Pb、As、B、P、Nb、Cu、W、Cd、Sn、Al、ZrおよびTiの中から選ばれる1種以上の元素を表わす。a、b、c、d、e、f、gは各元素の原子比率を表わし、a=12のとき、b=0.1〜10、c=0.1〜20、d=2〜20、e=0.01〜2、f=0〜4であり、gは前記各成分の原子価を満足するに必要な酸素の原子数である。]
【発明の効果】
【0010】
本発明の分子状酸素を用いて、酸化的に脱水素してブタジエンを製造する方法では、高活性かつ高選択性であり、さらに寿命安定性に優れた触媒を用いているので、経済的に有利なブタジエンの工業的製法を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
≪ブタジエンの製造方法≫
本発明のブタジエンの製造方法は、下記式(1)で示される複合金属酸化物90〜97重量%およびシリカ3〜10重量%を含有する触媒(但し、下記式(1)で示される複合金属酸化物とシリカとの合計量を100重量%とする。)、ならびに、分子状酸素を用いて、n−ブテンを気相接触酸化するブタジエンの製造方法において、該触媒が、その組成に対応する化合物の混合物を500〜650℃の温度範囲で焼成してなることを特徴とする。
Mo(a)Bi(b)Fe(c)X(d)Y(e)Z(f)O(g)・・・(1)
[式(1)中、XはNiおよびCoの中から選ばれる1種以上の元素を表し、YはK、R
bおよびCsの中から選ばれる1種以上の元素を表し、ZはBe、Mg、S、Ca、Sr、Ba、Te、Se、Ce、Ge、Mn、Zn、Cr、Ag、Sb、Pb、As、B、P、Nb、Cu、W、Cd、Sn、Al、ZrおよびTiの中から選ばれる1種以上の元素を表わす。a、b、c、d、e、f、gは各元素の原子比率を表わし、a=12のとき、b=0.1〜10、c=0.1〜20、d=2〜20、e=0.01〜2、f=0〜4であり、gは前記各成分の原子価を満足するに必要な酸素の原子数である。]
【0012】
<触媒>
本発明のブタジエンの製造方法で用いる触媒は、上記式(1)で示される複合金属酸化物90〜97重量%およびシリカ3〜10重量%を含有する触媒であって(但し、下記式(1)で示される複合金属酸化物とシリカとの合計量を100重量%とする。)、該触媒が、その組成に対応する化合物の混合物(上記式(1)で示される複合金属酸化物90〜97重量%およびシリカ3〜10重量%を含有する触媒を得るための原料化合物の混合物)を500〜650℃の温度範囲で焼成してなることを特徴とする。この触媒は、分子状酸素を用いて、酸化的に脱水素してブタジエンを製造する方法において、高活性かつ高選択性であり、さらに寿命安定性に優れている。
【0013】
このような効果は、触媒中のシリカの含有量を限定し、その調製時における焼成温度も限定することにより得られる。
【0014】
上記触媒中のシリカの含有量は、3〜10重量%であり、好ましくは3〜7重量%である。
上記触媒中のシリカの含有量が3重量%未満であると、活性およびブタジエン選択性が大きく低下した触媒となる傾向がある。上記触媒中のシリカの含有量が10重量%を越えると、安定性には問題がないものの、ブタジエン選択性の低下がみられ、活性の低下の大きい触媒となる傾向が認められる。
【0015】
触媒調製時の焼成温度が500℃未満であると、活性および選択性は一定の水準にあるものの、安定性に問題がある触媒となる傾向がある。触媒調製時の焼成温度が650℃を越えると、活性およびブタジエン選択性が低下した触媒となる傾向がある。
【0016】
本発明に用いられる触媒は、Mo、BiおよびFe成分を含んでいる。MoとBiとの原子比率は、12:0.1〜10であり、好ましくは、12:0.5〜5である。MoとBiとの原子比率が上記範囲にあると、活性およびブタジエン選択性がともに高い触媒となるため好ましい。MoとFeとの原子比率は、12:0.1〜20であり、好ましくは、12:1〜5である。MoとFeとの原子比率が上記範囲にあると、活性の高い触媒となるため好ましい。
【0017】
また、本発明に用いられる触媒は、X成分として、NiおよびCoから選ばれる1種以上の元素を含んでいる。MoとX成分との原子比率は、12:2〜20であり、好ましくは、12:5〜12である。MoとX成分との原子比率が上記範囲にあると、活性およびブタジエン選択性ともに高い触媒となるため好ましい。
【0018】
また、本発明に用いられる触媒は、Y成分として、K、RbおよびCsから選ばれる1種以上の元素、すなわち塩基成分を含んでおり、そのためにコーク等の炭素析出が抑制される傾向にあって、結果的に長期の寿命安定性に優れた性能を示す。特に塩基成分が多くなるに従い、その傾向が顕著である。ただし、塩基成分が多すぎると、ブテンの転化活性が低くなる傾向がある。そのため、MoとY成分との原子比率は、12:0.01〜2であり、好ましくは、12:0.01〜0.5である。K、Rb、Csの中ではCsが最も好ましい。
【0019】
本発明の触媒は、必要に応じて、Z成分として、Be、Mg、S、Ca、Sr、Ba、Te、Se、Ce、Ge、Mn、Zn、Cr、Ag、Sb、Pb、As、B、P、Nb、Cu、W、Cd、Sn、Al、ZrおよびTiの中から選ばれる1種以上の元素の化合物を加えることができる。MoとZ成分の原子比率は、12:0〜4であり、好ましくは、12:0〜3である。
【0020】
本発明の方法で使用する触媒は、この分野の公知のいろいろな方法、例えば、蒸発乾固法、酸化物混合法、共沈法、熱分解法等によって調製することができるが、500〜650℃の温度範囲で焼成することが必要である。
【0021】
例えば、適当なモリブデン酸塩、例えばモリブデン酸アンモニウムを純水に加熱溶解して得られた溶液に、K、RbおよびCsから選ばれる少なくとも一種の塩およびシリカゾルを加え、更に、Fe、BiならびにCoおよび/またはNiの化合物の水溶液を加え、得られる泥状懸濁液を乾燥し、仮焼し、必要に応じて成形し、500〜650℃、好ましくは、500〜600℃、更に好ましくは、540〜600℃の温度範囲で1〜20時間程度、空気中で焼成することで本発明の触媒を調製することができる。
【0022】
本発明の触媒の原料としては、最終的に酸化物になるものであれば特に制限されないが、触媒の調製過程を経て酸化物となるものが望ましい。上記触媒の原料としては、金属塩、金属水酸化物、金属酸化物、金属酸、金属酸アンモニウム塩などが挙げられる。上記金属塩としては、硝酸金属塩、有機酸金属塩などが挙げられる。
シリカの原料としては、シリカゾル、シリカゲル、珪酸エステルおよび珪酸塩などが用いられる。
【0023】
<ブタジエンの製造方法>
本発明のブタジエンの製造方法は、上記本発明の触媒および分子状酸素を用いて、n−ブテンを気相接触酸化する。
本発明による気相接触酸化は、具体的には、上記本発明の触媒の存在下に、好ましくは250〜450℃、より好ましくは280〜400℃の温度範囲、及び、好ましくは0.01〜10気圧(ゲージ圧)、より好ましくは常圧〜5気圧(ゲージ圧)の圧力下で、n−ブテンと分子状酸素とを含む混合ガスを、触媒の単位体積当たりの空間速度が好ましくは300〜5000/hr、より好ましくは500〜3500/hrで導入することで実施される。
【0024】
上記混合ガスとしては、該混合ガス100容量%に対して、n−ブテンを、好ましくは1〜12容量%、より好ましくは5〜10容量%含有し、分子状酸素を、好ましくは3〜20容量%、より好ましくは5〜15容量%含有し、および、希釈ガスを、好ましくは68〜96容量%、より好ましくは75〜90容量%含有してなるものが挙げられる。
【0025】
原料となるn−ブテンとしては、1−ブテン、trans−2−ブテン、または、cis−2−ブテンのいずれか単独、あるいは、いずれか1種以上を含む混合ブテンが使用できる。また、原料としては、ナフサ分解炉や石油の流動接触分解設備(FCC設備)からのn−ブテンを含むブテン類も使用できる。
分子状酸素としては通常空気が使用されるが、純酸素を使用してもよい。
【0026】
希釈ガスとしては窒素、炭酸ガスなどの不活性ガスが使用される。反応ガスに含まれる非凝縮性ガスの一部を循環して希釈ガスとして使用してもよい。希釈ガスに水蒸気が含まれていることが触媒の活性、選択性を高める上で好ましい。原料ガス中の水蒸気量は通常60容量%までの量で含まれる。
【0027】
本発明において、ブタジエンを製造する反応装置の形式は、流動床、移動床、固定床のいずれの形式でも良い。
【実施例】
【0028】
以下本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。実施例中の転化率、選択率、収率は次の通り定義する。
転化率=(反応したn−ブテンのモル数)/(供給したn−ブテンのモル数)×100
選択率=(生成したブタジエンのモル数)/(反応したn−ブテンのモル数)×100
収率=(生成したブタジエンのモル数)/(供給したn−ブテンのモル数)×100
【0029】
[実施例1]
モリブデン酸アンモニウム57.3gを水133mLに溶解させ、そこに20重量%の
シリカゾル23.3gを加えた。得られた溶液に、攪拌下、硝酸第二鉄23.9g、硝酸コバルト54.3gを水73mLに溶解させたもの、硝酸ビスマス27.2g、濃硝酸6
.3mLを水75mLに溶解させたもの、および、50%水酸化セシウム3.9gを水5.5mLに溶解させたものを順に加えた。得られたスラリー溶液を噴霧乾燥し、540℃、
5時間、空気中で焼成して、Mo/Bi/Fe/Co/Cs原子比が12/2.1/2.2/6.
9/0.5である酸化物の混合物94.5重量%と5.5重量%のシリカとからなる触媒を得た。
上記触媒2ccを内径10mmのステンレス製反応器に充填し、1−ブテン7.7容量%、酸素12.9容量%、水蒸気30.8容量%、窒素48.6容量%からなる混合ガスを空間速度1800/hrにて、該反応器に導入し、常圧(ゲージ圧)、反応温度340℃下で反応を行った。反応開始から10時間、100時間、及び1000時間経過後の出口ガスをガスクロマトグラフィーにて分析した。その結果を表1に示す。
【0030】
表1の結果から、n−ブテンからブタジエンを、長期間安定に高選択性、高収率で得ることができること、すなわち、用いた触媒が、高い活性、高いブタジエン選択性、高いブタジエン収率を長時間にわたって維持していることがわかる。
【0031】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で示される複合金属酸化物90〜97重量%およびシリカ3〜10重量%を含有する触媒(但し、下記式(1)で示される複合金属酸化物とシリカとの合計量を100重量%とする。)、ならびに、分子状酸素を用いて、n−ブテンを気相接触酸化するブタジエンの製造方法において、
該触媒が、その組成に対応する化合物の混合物を500〜650℃の温度範囲で焼成してなることを特徴とするブタジエンの製造方法。
Mo(a)Bi(b)Fe(c)X(d)Y(e)Z(f)O(g)・・・(1)
[式(1)中、XはNiおよびCoの中から選ばれる1種以上の元素を表し、YはK、RbおよびCsの中から選ばれる1種以上の元素を表し、ZはBe、Mg、S、Ca、Sr、Ba、Te、Se、Ce、Ge、Mn、Zn、Cr、Ag、Sb、Pb、As、B、P、Nb、Cu、W、Cd、Sn、Al、ZrおよびTiの中から選ばれる1種以上の元素を表わす。a、b、c、d、e、f、gは各元素の原子比率を表わし、a=12のとき、b=0.1〜10、c=0.1〜20、d=2〜20、e=0.01〜2、f=0〜4であり、gは前記各成分の原子価を満足するに必要な酸素の原子数である。]

【公開番号】特開2011−178719(P2011−178719A)
【公開日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−44478(P2010−44478)
【出願日】平成22年3月1日(2010.3.1)
【出願人】(000005887)三井化学株式会社 (2,318)
【Fターム(参考)】