説明

ブタジエンの重合方法

【課題】共役ジエンの存在下、コバルト化合物及び第I〜III族の有機金属化合物または水素化金属化合物を接触させ調整した熟成液に、二硫化炭素、イソチオシアン酸フェニル及びキサントゲン酸化合物からなる群から選ばれた化合物を接触させるブタジエンの重合方法において、従来より分子量分布が大きなSPBを製造する方法を提供する。
【解決手段】共役ジエンの存在下、(a)コバルト化合物及び(b)第I〜III族の有機金属化合物または水素化金属化合物を接触させて得られた熟成液(A成分)、二硫化炭素、イソチオシアン酸フェニル及びキサントゲン酸化合物からなる群から選ばれた化合物(B成分)からなる触媒を用いるブタジエンの重合方法のおいて、共役ジエンと熟成液の比が0.45以上であることを特徴とするブタジエンの重合方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ブタジエンの重合方法に関する。
【背景技術】
【0002】
シンジオタクチック1,2-構造を主要構造とするポリブタジエン(以下「SPB」という)は、側鎖にビニル基を有していることから、他のポリマーやエラストマーとの反応性が高いことが期待される。又、 150℃程度以上の比較的高い融点を有するものは強靱な樹脂であることが知られている。そのため、SPBは各種ゴムの補強用、或いはポリマーアロイの原料として広範な用途が見込まれている。
【0003】
SPBは、コバルト化合物、第I〜III族族有機金属化合物、及び、二硫化炭素からなる触媒を用いて、1,3-ブタジエンを重合することにより得られることが知られていた(特公昭47-19892号公報(特許文献1)、特公昭47-19893号公報(特許文献2)など)。重合プロセスとしては、非水系溶媒重合、水系懸濁重合プロセスなどが知られており、例えば、特公昭62-58613号公報(特許文献3)には、コバルト化合物と第I〜III族族有機金属化合物を1,3-ブタジエンと接触させて調製した触媒熟成溶液に、二硫化炭素を添加してSPBを製造することが開示されている。
【0004】
上記のSPBの重合では、アセトン、メタノールなどの融点調節剤により融点調節剤により融点を調節することが可能である。しかし、水系懸濁重合方法では、分子量および分子量分布を制御することが困難な場合があった。
【0005】
【特許文献1】特公昭47-19892号公報
【特許文献2】特公昭47-19893号公報
【特許文献3】特公昭62-58613号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、共役ジエンの存在下、コバルト化合物及び第I〜III族の有機金属化合物または水素化金属化合物を接触させ調整した熟成液に、二硫化炭素、イソチオシアン酸フェニル及びキサントゲン酸化合物からなる群から選ばれた化合物を接触させるブタジエンの重合方法において、従来より分子量分布が大きなSPBを製造する方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、共役ジエンの存在下、(a)コバルト化合物及び(b)第I〜III族の有機金属化合物または水素化金属化合物を接触させて得られた熟成液(A成分)、二硫化炭素、イソチオシアン酸フェニル及びキサントゲン酸化合物からなる群から選ばれた化合物(B成分)からなる触媒を用いるブタジエンの重合方法のおいて、共役ジエンと熟成液の比が0.45以上であることを特徴とするブタジエンの重合方法に関する。
【0008】
また、本発明は、該ブタジエンの重合方法が、水系懸濁重合方法であることを特徴とする上記のブタジエンの重合方法に関する。
【0009】
また、本発明は、該ブタジエンの重合方法によって得られるポリブタジエンが、シンジオタクチック1,2-構造を主要構造とするポリブタジエンであることを特徴とする上記のブタジエンの重合方法に関する。
【発明の効果】
【0010】
本発明の方法により、従来法より低融点なポリマー、および融点分布の狭いポリマーを重合可能にし、さらに重合時生成する塊成分を削減させポリマーの色を白色に近づける重合方法を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明で用いられる熟成液(A成分)は、共役ジエンの存在下、 (a)コバルト化合物及び(b) 第I〜III族の有機金属化合物または水素化金属化合物を接触させて調製することができる。
【0012】
上記の共役ジエンとしては、1,3-ブタジエンを単独で使用することができるが、1,3-ブタジエンを主体とし且つ他の不飽和モノマー、例えば、イソプレン、クロロプレン、ミルセン等の共役ジエンや、エチレン、プロピレン、ブテン-1、ブテン-2、イソブテン、ペンテン-1等のオレフィン、及び/又はスチレンやα−メチルスチレン等の芳香族ビニル化合物等から選ばれる少なくとも1 種のモノマーを含んでいてもよい。しかし、該他の不飽和モノマーの含有量は、モノマーの全量に基づいて一般には30モル%まで、特に70モル%までにとどめることが望ましい。
【0013】
上記の (a)成分のコバルト化合物としては、コバルトの塩や錯体が好ましく用いられる。特に好ましいものは、塩化コバルト、臭化コバルト、硝酸コバルト、オクチル酸コバルト、ナフテン酸コバルト、酢酸コバルト、マロン酸コバルト等のコバルト塩や、コバルトのビスアセチルアセトネートやトリスアセチルアセトネート、アセト酢酸エチルエステルコバルト、ハロゲン化コバルトのトリアリールフォスフィン錯体やトリアルキルフォスフィン錯体、もしくはピリジン錯体やピコリン錯体等の有機塩基錯体、もしくはエチルアルコール錯体等が挙げられる。
【0014】
(b) 成分の周期律表の第I〜III族の有機金属化合物としては、通常有機リチウムや有機マグネシウム、有機アルミニウム等が用いられる。これらの化合物の内で好ましいのは、トリアルキルアルミニウムやジアルキルアルミニウムクロライド、ジアルキルアルミニウムブロマイド、アルキルアルミニウムセスキクロライド、アルキルアルミニウムセスキブロマイド等である。中でも、トリエチルアルミニウム、トリブチルアルミニウム、トリオクチルアルミニウムなどのトリアリキルアルミニウムが特に好ましい。
【0015】
また、第I〜III族の水素化金属化合物としては、コバルト化合物を還元する化合物が好適に使用される。水素化金属化合物の具体例としては、リチウムアルミニウムハイドライド、ナトリウムボロンハイドライド、リチウムボロンハイドライドなどが挙げられる。
【0016】
熟成液の調製方法としては、先ず、共役ジエンの存在下、(a) 成分と(b) 成分を接触させるが好ましい。
【0017】
熟成温度は -60〜50℃の範囲が好ましい。熟成は、無溶媒下に行うことができるが、場合によっては、これらの成分に不活性な溶媒、例えば、トルエン、ベンゼン、キシレン、n-ヘキサン、ミネラルスピリット、ソルベントナフサ、ケロシン等の炭化水素系溶媒や、塩化メチレン等のハロゲン化炭化水素系溶媒等の溶媒中で行ってもよい。混合熟成は、通常、約-60℃〜約50℃、好ましくは約 -30℃〜約40℃の範囲内の温度において攪拌下に実施することができる。
【0018】
(a)成分のコバルト化合物の使用量は、共役ジエン1モルに対し、通常、コバルト原子が0.01〜0.00001 モル、好ましくは 0.00002〜0.005 モルの範囲になるようにすることが好ましい。
【0019】
(a)成分のコバルト化合物と (b)成分の第I〜III族の有機金属化合物または水素化金属化合物の割合は、通常、 0.1〜500 (モル/モル)、好ましくは 0.5〜100 (モル/モル)の範囲が好ましい。
【0020】
本発明の(B)成分は、二硫化炭素、フェニルイソチオシアン酸及びキサントゲンからなる群から選ばれる化合物(以下「二硫化炭素等」という)である。中でも、二硫化炭素が好適に使用できる。二硫化炭素等の添加量は、コバルト原子 1モル原子に対し、通常 0.1〜5000モル、好ましくは 0.5〜1000モルの範囲内でが好ましい。
【0021】
本発明の重合方法しては、水系懸濁重合方法、非水系溶媒重合方法、バルク重合方法などが挙げられる。本発明においては、重合系中に融点調節剤を添加してもよい。融点調節剤としては、アルコール、アルデヒド、ケトン、エステル、ニトリル、スルホキシド、アミド、燐酸エステルなどが挙げられる。これらの化合物は官能基を1つだけ有していてもよいし2つ以上有していてもよい。
【0022】
水系懸濁重合においては、水に塩化カルシウム等の無機塩やポリビニルアルコール等の分散剤、及び必要に応じて界面活性剤を溶解もしくは分散させたもの等、通常、懸濁重合で使用されるものを用いることができる。分散剤の割合は、水100重量部に対して、0.01〜 1重量部の範囲が好ましい。また、水の割合は、1,3-ブタジエン 1モルに対し1〜30モルの範囲が好ましい。
【0023】
また、比重 1.1(20℃)以上の高比重の不活性有機溶媒を添加して重合してもよい。比重 1.1(20℃)以上の高比重の不活性有機溶媒としては、例えば塩化メチレン、四塩化炭素、クロロホルム、ブロモホルム、トリクレン等のハロゲン化脂肪族炭化水素、クロロベンゼン、ブロモベンゼン、クロロトルエン、ジクロロベンゼン、ジブロモベンゼン、ヘキサクロロベンゼン、ヘキサフルオロベンゼン等のハロゲン化芳香族炭化水素や、クロロフェノール、ブロモフェノール、ペンタクロロフェノール、ペンタブロモフェノール等のハロゲン化フェノール、ジメチルスルホキシド等のスルホキシド類、ジメチル硫酸やジエチル硫酸等の硫酸ジエステル類等が好ましく用いられる。
【0024】
これらの中では、SPBの融点を下げる作用が殆どないという点で塩化メチレンなどのハロゲン化炭化水素が特に好ましい。
【0025】
重合媒質には、あらかじめ、共役ジエンを懸濁させておくことができる。重合媒質中に懸濁する共役ジエンは、触媒熟成液の調製に用いたものと同じものであっても異なるものであってもよい。
【0026】
次いで、重合槽の重合媒質中に、(A)及び(B)成分を、水性媒質中に加えて重合を開始する。各成分の添加順序は任意であるが、(B)成分の二硫化炭素等を重合系に分散させた後、(A)成分の熟成工程で得られた熟成液を加え重合を開始する方法が好適である。
【0027】
重合温度は0〜 100℃の範囲が好ましく、10〜50℃の範囲が特に好ましい。重合の経過と共に変化させる。重合時間は10分〜12時間の範囲が好ましく、30分〜 6時間が特に好ましい。また、重合圧は、常圧又は10気圧(ゲージ圧)程度までの加圧下に行われる。
【0028】
所定時間重合を行った後、重合槽内部を必要に応じて放圧し、内容物を濾過して、分散媒と、生成したポリブタジエンの粒子とに分ける。ポリブタジエンの粒子の方は必要に応じて乾燥工程等の後処理工程に送る。
【実施例】
【0029】
(測定方法)
(融点)共役ジエン重合体の融点(Tm)はDSCチャートから求め、吸熱ピークに対応する温度を融点とした。DSCはセイコー電子工業株式会社製SSC 5200を使用し、試料量10mg、10℃/分で250℃まで昇温し(1st−heatinng)5分間保持した後、つづいて5℃/分で30℃まで降温し、5分間保持した。次に、10℃/分の条件で250℃まで昇温した(2nd−heating)。測定は窒素雰囲気下で行った。融点として、2nd−heatingのピーク値を使用した。
【0030】
(シンジオ含有量)実験例及び比較例で得られたポリブタジエン組成物中の各々の1,2−ポリブタジエン成分中のシンジオタクチック1,2−構造の含有率は下記のようにして測定した。先ず、融点の異なる1,2−ポリブタジエン成分の各々について、そのH−NMRを測定し、ピーク面積から1,2−構造の含有量を求めた。また、13C−NMRにより、1,2−構造のほとんどがシンジオタクチック構造であることを確認した。このグラフをプロットし、検量線とした。H−NMRおよび13C−NMRの測定には日本電子株式会社製FX−200型を使用し、かつ溶媒にはo−ジクロロベンゼンを用い、TMS基準で測定した。
【0031】
(引張り試験降伏応力)
JIS K6251のダンベル状3号形でカットしたサンプルを標線2.00cmとし、引張速度500mm±50mm/minで引張試験を行った。
(結晶化度)サンプルを200℃の温度下、5分間の予熱後、10MPaの圧力で2分間保った後急冷し、厚さ1mmのシートに成形した。成形したサンプルを密度勾配管により密度を測定した。結晶化度は以下の計算式を用いて算出した。
1/d = χ/d + (1−χ)/d
d:試料の密度
d :結晶化度100%の1,2-PBの密度(0.963を用いた)
d :結晶化度0%の1,2-PBの密度(0.889を用いた)
χ:試料の結晶化度
【0032】
実施例1
(1)熟成液の調整
窒素置換した1Lオートクレーブ熟成槽にブタジエン240ml(7.2モル)を注入する。コバルトオクトエートを0.9ミリモル及びトリエチルアルミニウム2.7ミリモルを添加して、20分間攪拌した。
【0033】
(2)重合
窒素置換した1.5Lのオートクレーブ重合槽にイオン交換水400ml、ポリビニルアルコール0.4g、アセトン所定量、二硫化炭素2.4ミリモル添加した。その後、酸素を所定圧添加し(若しくは所定化合物を所定量添加し)、攪拌しながら10℃に温度設定した。(1)で調整した熟成液をオートクレーブ中に90ml添加した後、重合液の温度を20℃に調整した。その後、重合液の温度を20℃に保つように熟成液を連続的に添加した。熟成液の添加終了後、30分攪拌した。重合後、未反応モノマーを開放し、ペーパーフィルターで濾過後、乾燥してSPBを得た。SPBの収率、融点、分子量分布を測定した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
共役ジエンの存在下、(a)コバルト化合物及び(b)第I〜III族の有機金属化合物または水素化金属化合物を接触させて得られた熟成液(A成分)、二硫化炭素、イソチオシアン酸フェニル及びキサントゲン酸化合物からなる群から選ばれた化合物(B成分)からなる触媒を用いるブタジエンの重合方法のおいて、共役ジエンと熟成液の比が0.45以上であることを特徴とするブタジエンの重合方法。
【請求項2】
該ブタジエンの重合方法が、水系懸濁重合方法であることを特徴とする請求項1〜2に記載のブタジエンの重合方法。
【請求項3】
該ブタジエンの重合方法によって得られるポリブタジエンが、シンジオタクチック1,2−構造を主要構造とするポリブタジエンであることを特徴とする請求項1〜3に記載のブタジエンの重合方法。

【公開番号】特開2006−143764(P2006−143764A)
【公開日】平成18年6月8日(2006.6.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−331681(P2004−331681)
【出願日】平成16年11月16日(2004.11.16)
【出願人】(000000206)宇部興産株式会社 (2,022)
【Fターム(参考)】