ブドウ球菌およびその他の細菌の感染に対する治療および予防の方法およびその組成物
本発明は、RAP型およびTRAP型分子が病原性に重要な役割を果たす特定の細菌など、所定の細菌の種による感染、または、細菌の種に起因する疾患に対する治療または予防方法、および、その組成物を特徴とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ブドウ球菌属に起因するものなど、細菌を原因とする、細菌の生物膜、感染、疾患または症状に対する治療または予防の方法およびその組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
関連する出願の参照
本出願は、現在は放棄された1997年12月19日提出の出願番号第60/068,094号仮出願の利益を主張し、後に米国特許第6,291,431号として発行された1998年4月2日提出の米国特許出願第09/054,331号の継続出願である米国特許出願第09/839,695号の継続出願であり、各出願は参照により全体が本明細書中に含まれる。
薬剤耐性ブドウ球菌が主な医療問題となっている
ブドウ球菌(特に、S.aureusやS.epidermids)は、ヒトに対する主要な病原体であり、そして、毎年入院患者の約200万人に院内感染を引き起こし、米国の病院での死亡率の35%増加を引き起こしている米国で報告される院内感染の最大の共通原因である。S.aureusおよびS.epidermidsによる感染は、院内での肺炎、手術部位および血流の感染、医療器具に起因する感染、ならびに骨髄炎、敗血症性関節炎、心内膜炎、髄膜炎など、市中感染の主な原因となっている(Rubin RJなど、Emerg Infect Dis.1999;5:9−17[1])。現在、世界のブドウ球菌感染患者の95%は、ペニシリンまたはアンピリシンなどの第一世代の抗生物質には反応しない。以前、薬剤耐性ブドウ球菌は、概ね病院および養護施設に限られていたが、現在は市中に広がりつつある(Lowy FD.N.Engl.J.Med.1998;339:520−532[2])。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
薬剤耐性細菌の出現および伝播によって、S.aureus、S.epidermids、その他の細菌などの感染に対する新しい予防方法や代替の抗生物質治療を見いだすことの必要性が強くなってきている。本発明は、この必要性などに対処するものである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
S.aureusは毒性因子の生産によって病気を引き起こす
S.aureusは、ヒトの皮膚の正常な細菌フロラの一部であるが、生物膜の形成および毒性外部分子の少なくとも一方の形成による致死的疾患の原因となりうる。毒素は、毒素性ショック症候群を引き起こす発熱性毒素である毒素性ショック症候群毒素−1(TSST−1)、食中毒の主な原因であるブドウ球菌エンテロトキシン、細菌がその代謝産物の環境を利用可能にし、宿主内にその細菌を拡散可能にするタンパク質分解酵素、および、ブドウ球菌によって発現、分泌、結合され、感染過程の結果への影響を示す溶血素、ロイコシジンおよびその他の毒性因子を含んでいる[2]。
【0005】
治療法開発のための新しい取り組みは、ブドウ球菌の毒性(生物膜の形成および毒素の生産)を抑制することである。毒性因子の生産を排除することによって、細菌の病原性が一層低下するだけでなく、細菌は、宿主の免疫による防御および従来の抗生物質に対してより影響を受けやすくなる(Balaban Nら、Science 1998;280:438−440[3])。
【0006】
クオラムセンシングによるブドウ球菌の毒性の調節
生物膜の形成および毒素の生産は、細菌(自己誘導物質)によって生産、分泌された分子が閾値濃度に到達し、形質導入経路の信号を活性化し、さらに毒性因子をコード化している遺伝子を活性化するクオラムセンシング機構によって調節される[2]。
【0007】
S.aureusは、細菌がより低密度のとき、増殖の指数増殖期の早期において、フィブロネクチン結合タンパク質、フィブリノーゲン結合タンパク質、プロテインAなどの表面分子を発現する[2]。接着分子の発現は、細菌が宿主細胞および移植した医療器具に接着し、コロニー形成を可能にする。より高密度のとき、細菌は、細菌を生存させ、感染を広め、もたらす、毒素性ショック症候群毒素−1(TSST−1)、エンテロトキシン、タンパク質分解酵素、溶血素などの外部分子を生産する[2]。
【0008】
細菌の、より低密度での接着分子の発現、コロニー形成能力、また、より高密度での毒性の外部分子の発現能力は、クオラムセンシング(QS)機構(Kleerebezem Mら、Mol.Microbiol.1997;24:895−904[4])や、traP(Balaban Nら、J Biol Chem2001;276:2658−2667[5])、agr(Lina Gら、Mol Microbiol 1998;28:655−662[6])、sar(Heyer Gら、Infect.Immun.2002;70:127−133[7])、sae(Giraudo ATら、FEMS Microbiol.Lett.1999;177:15−22[8])のような遺伝子座の活性化を伴う複雑な調節過程によるものである。これらの過程は、毒性の調節と平行して、または、同時に作用する[5]。
【0009】
これまで、2つのブドウ球菌クオラムセンシング(SQS)システムが開示されている。SQS1は、自己誘導物質RNAIII活性化タンパク質(RAP)や、その標的分子TRAPから成る[3、5]。RAPは、(RplB遺伝子によってコード化された)リボソームタンパク質L2のオーソログであり、通常は277個のアミノ酸から成る約33kDaのタンパク質[3]である。RplBは、真正細菌中で高度に保存される(以下の詳細な説明参照)。TRAPは、RAPの存在下でリン酸化された約21kDaのタンパク質である[5]。TRAPの配列は、ブドウ球菌株や種で高度に保存され、TRAPの二次構造は、グラム陽性菌で高度に保存される。TRAPは、通常、167個のアミノ酸で構成されている(以下の詳細な説明参照)。
【0010】
SQS2は、遺伝子調節系agrの生産物で構成される。agrは、2つの異なる様式で転写された転写物、RNAIIおよびRNAIII(Novick RPら、Mol.Gen.Genet.1995;248:446−458[9]およびNovick RPら、EMBO J1993;12:3967−3975[10])をコード化する。RNAIIは、AgrA、AgrC、AgrD、AgrBをコード化するポリシストロニック転写物であり、AgrDは、AgrBの助力によって処理され、分泌される自己誘導性ペプチド(AIP)を産出するプロペプチドである(Otto M.Peptides2001;22:1603−1608[11]およびSaenz HLら、Arch Microbiol2000;174:452−455[12])。一度agrが活性化され、AIPが分泌されると、AgrC[6]およびAgrAのリン酸化を誘発し、その結果、RNAIII[10]と呼ばれる調節RNAの分子が生産される。RNAIIIは、分泌された多数の毒素の生産を増大する[10]。
【0011】
SQS1とSQS2との相互作用
RAPは、その標的分子TRAPのリン酸化を誘発し、未知の様式で細胞接着の増加およびagrの活性化の両方をもたらす。一度agrが(増殖の指数増殖期の中期において)活性化されRNAIIが生産されると、オクタペプチド(AIP)や、その受容体AgrCが生産される。AIPは、TRAPのリン酸化を低減するとともに(その結果接着特性が低下する)[5]、独立してその受容体、AgrCのリン酸化を増大する[6]。これがAgrAのリン酸化をもたらし、その結果、RNAIIIが生産される。RNAIIIは、多数の毒性外部分子の発現をもたらす[10]。
【0012】
SQS1の阻害:細菌感染に対する治療および予防の新様式
RAP(天然型および組み換え型)のワクチンを接種されたマウスは、S.aureusのチャレンジ試験から守った[3]。これは、S.aureusの病原性におけるRAPの重要な役割を確認し、新しいワクチン開発の機会を開くものである。
【0013】
ブドウ球菌感染は、RNAIII阻害ペプチド(RIP)によって阻害することができる。RIPは、SQS1の既知の機能に干渉することによって、ブドウ球菌の接着および毒素の生産を阻害する。RIPは、TRAPのリン酸化の誘発においてRAPと競合するため、TRAPのリン酸化を阻害する[5]。これは、細胞接着および生物膜の形成の低減、RNAIII合成の阻害、および、毒性表現型の抑制をもたらす[3]。ペプチドRIPは、最初に、99%の確率でS.Xylosusと同定されたコアグラーゼ陰性ブドウ球菌の培養上清から単離された。RIPの配列は、YSPXTNFとして同定され、XはCys、Trpまたは修飾アミノ酸であってもよく、また、YKPITNのようなペプチド誘導体であってもよい(Gov Yら、Peptides、2001;22:1609−1920[13])。合成RIPのアナログは、YSPWTNF(−NH2)としてそれらのアミド形状で設計され、インビトロにおけるRNAIIIの阻害、および、蜂巣織炎(S.aureus Smith Diffuseに対するマウスでの試験)、敗血症関節炎(S.aureus LS−1に対するマウスでの試験)、角膜炎(S.aureus 8325−4に対するウサギでの試験)、骨髄炎(S.aureus MSに対するウサギでの試験)、乳腺炎(S.aureus Newbould305、AE−1および環境感染に対するウシでの試験)などのインビボにおけるS.aureus感染の抑制において、きわめて有効であることが示される(Balaban Nら、Peptides2000;21:1301−1311[4])。これらの知見は、RIPがブドウ球菌感染を阻害し、抑制するための有用な治療分子として役に立つ可能性を示している。
【0014】
生物膜に関連した感染
表面に接着した細菌は、それら自身が合成する水和重合マトリクスで集塊して生物膜を形成する。これら固着性の群体の形成および抗菌薬に対する先天的な抵抗力は、多くの持続的、慢性的細菌感染の根元となっている(Costerton JWら、Science.1999;21:284:1318−1322[15])。生物膜は、多くの場合、不活性な表面または死んだ組織上で優先的に発育し、そして、医療器具や除去して死んだ骨のような死んだ組織断片でも一般的に起こり、さらに、それらは、心内膜炎の場合などのように生体組織上でも形成し得る。生物膜は、1箇所以上でゆっくりと増殖し、生物膜感染は、しばしば、明確な症状を呈するのが遅い。定着した細菌細胞は、抗原を放出し、抗体の生産を刺激するが、抗体は、生物膜内の細菌の殺滅効果はなく、周囲の組織に免疫複合物による病変を引き起こす可能性がある。すぐれた細胞および体液の免疫反応を有する個体においても、生物膜感染は、宿主の防御機構ではほとんど解消されない。代表的な例としては、抗生物質による治療は、生物膜から放出される浮遊集合体細胞によって引き起こされた症状を緩解させるが、生物膜の殺滅には機能しない。このような理由から、生物膜感染は、代表的な例として、抗生物質治療のサイクルの後、接着性の個体群が体内から外科的に除去されるまで再発症状を呈する。したがって、生物膜が形成された後に生物膜を根絶させようと試みるのでなく、生物膜形成を阻害することが重要である。
【0015】
表1に示すように、多くの生物膜に関連する院内感染は、ブドウ球菌が原因である[15]。
【0016】
【表1】
RIPが細菌接着を低減
RIPは、真核細胞(HEp2細胞で試験)およびプラスチック(ポリスチレン、シリコンおよびポリウレタンで試験(Balaban Nら、Kidney Int. 2003;63:340−345[16]))に対する細菌接着を低減する。RIPは、ブドウ球菌の感染を予防するために、医療器具を被覆するのに用いることができる。
【0017】
RIPはAIPから逸脱する
RIPは線形ペプチド[13]であるがAIPは活性化されるチオラクトン構造を含有する[11]こと、RIPのセンサはTRAP[5]であるがAIPのセンサはAgrC[6]であること、RIPは細胞接着と毒素生産[16]の両方を阻害するが、阻害性のAIPは毒素生産を阻害するが細胞接着を活性化する(Vuong C, Saenz HL,Gotz F, Otto M.S.aureus中のポリスチレンに対する接着の対するagrクオラムセンシングシステムの影響、J.Infect Dis 2000;182:1688−1693[17])ということから、RIPは、ATPとは逸脱している。
【0018】
RIPの分子の機構
具体的な分子の機構は完全に理解されていないが、RIPは、agrの発現(RNAIIおよびRNAIII[13])を阻害し、それゆえ毒素の生産を阻害することが知られている(Vieira−da−Motta Oら、Peptides、2001;22:1621−1628[18])。agrヌル細胞の接着が、野生型と同様にRIPの存在下で阻害されることから、RIPは、agr非依存性の機構において細胞接着を調節することが知られている。RIPは、TRAPのリン酸化[5]を阻害し、TRAPが細胞接着、agr発現、そして、病原性に不可欠であることがこれまで実証されてきているため(以下の詳細な説明を参照)、RIPは、S.aureusの病原性を、TRAPを介して、そして、おそらく、付加的な標的を介して調節する。
【0019】
上述した、RIPがクオラムセンシング機構を阻害する機構は、TRAPのリン酸化の阻害も含む。S.epidermidsにおいてTRAPやTRAPのリン酸化の存在を示す証拠があり(以下の詳細な説明を参照)、S.aureusやS.epidermidsの両方に類似したクオラムセンシング機構があること、そして、RIPが両種を原因とする生物膜の形成や感染に対して干渉する能力があることを示している。さらに、TRAPが、他のすべてのブドウ球菌株や種にわたって保存されていることが証明され、それ故、他のブドウ球菌種も上記のようなクオラムセンシング機構を有することが証明されている。この結果、RIPは、あらゆるタイプのブドウ球菌に対して有効である。
【0020】
多くのタイプの細菌では、RAPおよびTRAPが治療の標的サイトである
他の細菌に起因する感染は、TRAPと類似した配列のタンパク質を有しているようである。これら細菌には、Bacillus subtilus、Bacillus anthracis、Bacillus cereus、Listeria innocua、Listeria monoctogenesが含まれる(本発明の詳細な説明を参照)。
【0021】
さらに、RAPは、リボソームタンパク質L2のオーソログであり、RplB遺伝子によってコード化されている。L2は、ほとんどの細菌、特に、ブドウ球菌属、リステリア菌属、ラクトコッカス属、エンテロコッカス属、E.coli、Clostridium acetobtylicum、そして、バチルス属などの細菌の間で高度に保存されている。この知見は、S.aureusにおけるRAPの機能の妨害を目的とする治療は、L2−合成を行う細菌の治療にも同様に有効であることを示している(詳細な説明を参照)。
【0022】
本発明は、RAPないしTRAP、またはRAP様ないしTRAP様分子を発現する細菌(例えば、S.aureus、S.epidermidsなどのブドウ球菌属、Bacillus subtilus、Bacillus cereus、Bacillus anthracisなどのバチルス属、Listeria innocua、Listeria monoctogenesなどのリステリア菌属、Streptococcus pyogenes、Lactococcus Lactis、Enterococcus faecalis、Escherichia coli、Clostridium acetobty/Licium)による感染、または感染に起因する疾患の治療や予防の方法および組成物を特徴づける。
【0023】
本発明は、医療器具の被覆、全身各所への注射(静脈注射、腹腔内注射、筋肉注射、皮下注射)、局所塗布または経口投与などの治療方法を特徴づける。
【0024】
本発明の一実施態様は、一般式Y(KまたはS)PXTNF(米国特許出願第09/839,695号における配列識別番号1および2)の全て、または、一部を含むアミノ酸配列を有するポリペプチドを含有する組成物であり、いずれのアミノ酸の部分も修飾でき、XはC、WまたはIにできるものである。実施形態によっては、薬剤の組成物も提供される。
【0025】
本発明の別の実施態様は、ポリペプチドが一般式IKKY(KまたはS)PXTNを含むアミノ酸配列を有し、XがC、W、Iまたは修飾アミノ酸にできるものである。実施形態によっては、製剤組成物もまた提供される。
【0026】
本発明のさらに別の実施態様は、所定の細菌感染のための宿主に対する治療方法であって、RAP受容体の拮抗剤が宿主に投与される。実施形態によっては、宿主はヒトの患者である。さらに別の実施形態では、宿主は、実験動物などに限らず種々の動物である。実施形態によっては、拮抗剤は、ポリペプチド、ペプチド様物質、または、抗体である。
【0027】
本発明のさらに別の実施態様は、本発明のポリペプチドをコード化する核酸分子である。核酸分子は、RNA、DNAまたはアンチセンス核酸分子にできる。一実施形態では、核酸分子は、RIP、RAPまたはTRAPまたはそれらの相同物のヌクレオチド配列を有する。
【0028】
別の実施態様では、本発明は単離された天然型または組み換え型のRAPポリペプチド、ならびに、そのようなRAPポリペプチドをコード化する核酸を特徴とする。
【0029】
別の実施態様では、本発明は単離された天然型または合成型のRIPペプチド、ならびに、そのようなRIPペプチドをコード化する核酸を特徴とする。
【0030】
別の実施形態では、本発明は単離されたTRAPポリペプチド(天然型または組み換え型、TRAPまたはTRAP相同物)、ならびに、そのようなTRAPポリペプチドをコード化する核酸を特徴とする。
【発明の効果】
【0031】
感染に対する新しい予防方法や代替の抗生物質治療を見いだすことの必要性が強くなってきている。本発明は、この必要性などに対処するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
本発明のタンパク質、処方および方法を記述する前に、本発明は、記述された特定の化合物、特性および工程に限定されるものではなく、当然のことながら多様でありうることは、理解される通りである。また、本明細書で使用される用語は、特定の実施形態のみを記述することを目的とし、添付の請求項によってのみ限定される本発明の範囲内に制限することを意図していないこともまた理解される通りである。
【0033】
ここに記載されたすべての刊行物や特許は、参照によって本明細書に組み込まれ、これらの刊行物や特許が引用された箇所との関連で具体的な方法や材料などを開示し、記述するものである。本明細書で論じられる刊行物や特許は、本出願書の出願日前に、その開示のためだけに提供される。本明細書におけるいずれの箇所も、先行発明を理由として、そのような刊行物や特許に先行する権利与えないと解釈されるものではない。さらに、公開または発効の日付は実際の日付とは異なっている場合もあり、個別に確認が必要な場合もある。
【0034】
一般に、以下の説明で使用される学術用語および細胞培養やタンパク質生化学における実験手順は、当業者には周知のものであり一般に使用されているものである。一般的に、酵素反応およびカラムクロマトグラフィは、製造業者の仕様にしたがって実施されている。特に定義されない限り、本明細書中で使用されるすべての技術用語および科学用語は、本発明が属する技術における当業者によって一般的に理解される意味と同じ意味を有する。本発明の実施または試験には、本明細書で記載されるものと類似または同様の任意の方法または材料を使用することができるが、望ましい方法および材料が記載されている。本発明の目的のため、上述の用語を以下に定義する。用語「医学的に許容可能な」または「治療上許容可能な」は、有効成分の有効性や生物学的活性に干渉せず、宿主または患者に対する毒性を有しないことを意味する。
【0035】
用語「コード化している」または「コード化する」は、転写可能な形態で存在し、通常はプロモータに作用可能にリンクした配列情報を意味する。機能プロモータが配列の転写または発現を促進する場合、配列はプロモータに作用可能にリンクする。アンチセンスのらせん構造もまた、同一の情報内容が簡単にアクセス可能な形態で存在するため、特に同一のらせん構造の発現を促進する配列にリンクされている場合、配列をコード化すると考えられる。この情報は、正常な、または修正した遺伝子コードを使用して転換可能である。Watsonら、(1987)遺伝子の分子生物学(第4版)、第1・2巻、ベンジャミン、ベンロパーク、カリフォルニアを参照。
【0036】
核酸配列を意味するために使用される用語「相同の」は、2つ以上のヌクレオチド配列が、その配列の大部分を共有していることを示す。一般には、これは、配列の約70%、望ましくは配列の95%となる。
【0037】
厳密な条件下で同じヌクレオチド配列にハイブリダイズすれば、配列がほぼ同一であることを示す(Sambrookなど、分子クローニング−実験室マニュアル、Cold Spring Harbor Laboratory、コールドスプリングハーバー、ニューヨーク、1985を参照)。厳密な条件とは、配列に依存しており、状況が異なれば条件は異なってくるであろう。一般に、厳密な条件とは、熱融解点TA(TAは所定のイオン強度およびpH)よりも5℃低くなるよう選択される。Tmは、(所定のイオン強度およびpHにおいて)完全に一致したプローブに、標的配列の50%がハイブリダイズする温度である。典型的な厳密な条件とは、pH7で塩濃度が少なくとも約0.2モル、温度が少なくとも約60℃となる。
【0038】
ここで入れ替え可能に使用されている用語であるタンパク質、ポリペプチドまたはペプチドに関して使用されているように、用語「相同の」とは、2つのタンパク質またはポリペプチドがアミノ酸配列の大部分を共有することを示す。一般に、これは90%以上であり、通常は約95%を上回る。ポリペプチドまたはタンパク質の相同性は、代表的な例としては、配列解析ソフトウェア、例えばGenetics Computer Groupの配列解析ソフトウェアパッケージ、ウィスコンシン大学バイオテクノロジーセンター、1710 University Avenue、マディソン、ウィスコンシン、53705を使用して測定される。タンパク質解析ソフトは、種々の置換や欠失、その他の修飾に割り当てられた相同性の測定を用いて、類似の配列を一致させる。代表的な同類置換としては、グリシン、グラニン、バリン、イソロイシン、アスパラギン酸、グルタミン酸、アスパラギン、グルタミン、セリン、トレオニン、リジン、アルギニン、フェニルアラニン、チロシンから成る群の中での置換を含んでいる。
【0039】
本明細書で使用される用語「単離された」は、天然に化合物が発生する環境とは異なる環境に存在する対象化合物(例えばポリヌクレオチドまたはポリペプチド)を説明することを意味している。「単離された」は、対象化合物のために濃縮された試料中にある化合物や、対象化合物が部分的にまたはほぼ精製された化合物、それら両方の状態の化合物を含むことを意味している。
【0040】
用語「単離された」は、例えば核酸に適用されているように、例えばリボソーム、ポリメラーゼ、その他の核酸配列など、天然型核酸に必然的に伴って発生し、他の高分子、細胞化合物またはDNA配列から単離された核酸を意味する。この用語は、天然由来環境から除去してきた核酸やポリペプチドを含み、また、組み換えやクローン化したDNA単離物、化学合成アナログおよび異種遺伝子系によって生物学的に合成されたアナログを含んでいる。ほぼ純粋または生物学的に純粋な核酸は、単離形態の核酸を含んでいる。
【0041】
語句「生物学的に純粋な」または「ほぼ純粋な」は、天然型の状態において、通常付随して発生する化合物がほとんど存在しないか、または実質的に存在していない材料、例えば、少なくとも60%で、望ましくは少なくとも75%で、もっとも望ましくは少なくとも90%天然の状態で結合している他の化合物が存在しない天然のままの状態で見出される材料を意味する。
【0042】
用語「組み換え」は、天然には発生しない核酸配列、または、配列の2つの単離された断片の人工的な組み合わせ、すなわち化学合成、遺伝子工学などによって作成される核酸配列を意味する。
【0043】
用語「治療」または「治療する」は、哺乳類、望ましくはヒトまたはウシ、または、ここで記載された予防や治療が可能な型の細菌感染に罹患しうる他の任意の動物に対する医学的な治療を施すことを意味する。これら動物の範囲はかなり広いと考えられ、ヒトや鳥とは異なる種をも含んでいる。
【0044】
(i)予防、すなわち臨床的な症状が発症しないようにする。例えば、感染の発症や有害な状態への進展を予防する。
【0045】
(ii)阻害、すなわち臨床的な症状の進行を抑制する。例えば、現在進行している感染を停止させ、感染を完全に、または有害でない程度まで排除する。
【0046】
(iii)緩和、すなわち臨床的な症状を退行させる。例えば、感染を原因とする熱や炎症を緩和する。
【0047】
(iv)生物膜形成の予防((または実際の症状の前に)細菌の微生物学的な証拠を得る)。
【0048】
治療は、一般に、本明細書に記載される任意の種(例えば:哺乳類、鳥など)に起因する細菌感染にかかりやすい任意の哺乳類に対して適用され、細菌感染に対する予防または活性化された細菌感染の緩和のための治療は、一般に、哺乳類、例えばヒトまたはウシなどに適用可能であり、細菌は、ブドウ球菌属の細菌である。
【0049】
用語「有効量」や「治療量」は、治療中の疾患状態に対する予防や治療を施すのに十分な用量を意味する。これは、患者、疾患、実施される治療によって様々である。細菌感染の場合、「有効量」とは、感染の治療の可能性を改善するために必要な量、特に、感染の予防や、感染が発症したときに感染の排除の可能性を改善するような量である。
【0050】
本明細書で使用される「タンパク質」、「ポリペプチド」または「ペプチド」は、何らかのアミノ酸配列を包含し、修飾された配列(例えばグリコシル化、PEG化、不変的なアミノ酸の置換の含有、例えば5オキソプロリルを含む保護基、アミノ化など)を含むことを意図している。この用語は天然由来(例えば非組み換え)タンパク質、ポリペプチド、ペプチドおよびオリゴペプチド、ならびに、当業者に周知の方法にしたがって組み換えによって、または合成によって合成された物質を含んでいる。本発明に関連して使用される用語「タンパク質」または「ペプチド」は、ブドウ球菌属中で生じ、感染の治療または感染治療に有用な抗生物質の生産のために有用な、天然由来分子を対象とするよう意図している。「ポリペプチド」、「タンパク質」または「ペプチド」が、本明細書中で天然由来のタンパク質分子のアミノ酸配列に言及するために列挙される場合、「ポリペプチド」、「タンパク質」、「ペプチド」などの用語は、アミノ酸配列を、列挙されたタンパク質分子に関連付けられた天然なアミノ酸配列、完全にそろったアミノ酸配列に限定することを意味するものでない。さらに、本発明のポリペプチドおよびタンパク質、またはその断片は、天然由来のL型のアミノ酸よりも、むしろD型のアミノ酸を有する合成形態で生産されうる。
【0051】
本明細書で使用される「ポリヌクレオチド」は、オリゴヌクレオチド、ヌクレオチドおよびその断片または一部、同様にペプチド核酸(PNA)またはその断片、一部またはそのアンチセンス分子であり、そして、一重または二重らせんにでき、センスまたはアンチセンスらせんに相当するゲノムまたは合成由来のDNAまたはRNAである。「ポリヌクレオチド」が特異的なポリヌクレオチド配列(例えばRIP、TRAPまたはRAPタンパク質をコード化したポリヌクレオチドまたはRIP誘導体、TRAP様またはRAP様タンパク質をコード化したポリヌクレオチド)である場合、「ポリヌクレオチド」は、列挙されたタンパク質、例えば縮重変異株(すなわち、同じアミノ酸配列をコード化し、遺伝子コードの縮重のために現れる核酸配列の変異株)と機能的に等価なタンパク質をコード化するポリヌクレオチド、または生物学的に活性な変異株または列挙されたタンパク質の断片をコード化するポリヌクレオチドを包含することを意味している。
【0052】
「アンチセンスポリヌクレオチド」は、所定のポリヌクレオチド配列(例えばプロモータ)の転写または翻訳に関連付けられたポリヌクレオチド配列を含む所定のポリヌクレオチド配列および所定のポリヌクレオチド配列のコード化配列の少なくとも一方に相補的なヌクレオチド配列を有するポリヌクレオチドであり、アンチセンスポリヌクレオチドは、ポリヌクレオチド配列にハイブリダイズする能力があるポリヌクレオチドを意味している。特に重要なのは、転写および翻訳の少なくとも一方を阻害する能力のある、体内または体外のアンチセンスポリヌクレオチドである。
【0053】
本明細書で使用される「ペプチド核酸」は、リジンなどのアミノ酸残基およびアミノ基が追加されたオリゴマーを含む分子を意味する。これら小さな分子は、アンチ遺伝子剤として指定されているが、核酸の相補(テンプレート)鎖に結合することによって転写による延長を止める(Nielsenら、1993 Anticancer Drug Des8:53−63)。
【0054】
用語「抗体」は、抗原と結合能力がある免疫グロブリンタンパク質を意味している。本明細書の抗体は、抗体全体、同様に重要なエピトープ、抗原または抗原断片の結合能力を有する任意の抗体断片(例えばF(ab)’、Fab、Fv)を含むことを意味する。本発明のアッセイまたはワクチンのための望ましい抗体は、重要なタンパク質、例えば抗RAPまたはTRAP抗体に、特異的、選択的に結合するため、そして、結合する故に、免疫反応性または免疫特異性を有する。用語「抗体」は、全抗体の全種類、例えばポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、ヒト化抗体、キメラ化抗体、およびファージディスプレイの方法論で生産された抗体を包含する。特に望ましい本発明の抗体は、RAPまたはTGRAPに比較的高い親和性を有する抗体である。本発明の抗体は、望ましくは、例えばS.aureusから得たRAPまたはTRAPなど、特定の種に対する免疫反応性および免疫特異性を有する。
【0055】
タンパク質の「抗原断片」は、抗体を結合する能力を有するタンパク質の一部を意味する。
【0056】
「特異的に結合する」は、特異的なポリペプチド、例えばRAPタンパク質などタンパク質のエピトープに対する抗体の高い結合活性や親和力を意味する。この特異的なポリペプチドのそのエピトープへ結合する抗体は、望ましくは、同じ抗体の他のどのエピトープへの結合よりも強く結合し、特に、重要な特定のポリペプチドに関連しているか、または、同一試料内の分子に存在する抗体は、例えばRAPなどのタンパク質のエピトープ断片により強く結合し、そのため、結合条件を調整することによって、抗体は、ほぼ所望のタンパク質のエピトープ部位または断片のみに結合する。
【0057】
「検出可能に標識された抗体」は、付けられた検出可能な標識を有する抗体(または特異的な結合を維持している抗体の断片)を意味する。検出可能な標識は、通常、化学的な結合によって標識されるが、標識がポリペプチドの場合は、代わりに、遺伝子工学技術によって付けられてもよい。検出可能に標識されたタンパク質の生産方法は、当業者には周知である。当業者で周知の検出可能な標識には、放射性同位体、蛍光プローブ、常磁性体標識、酵素(例えばホースラディシュペルオキシダーゼ)、または、検出可能な信号(例えば放射活性、蛍光、色)を放出したり、標識を基質に露出したあと検出可能な信号を放出したりする他の部分や化合物などを含んでいる。種々の検出可能な標識/基質の対(例えばホースラディシュペルオキシダーゼ/ジアミノベンジジン、アビジン/ストレプトアビジン、ルシフェラーゼ/ルシフェリン)、抗体を標識する方法、および標識された抗体を使用する方法は、当業者には周知である(例えばHarlowおよびLane、eds(抗体:実験室マニュアル(1988)Cold Spring Harbor Laboratory Press、コールドスプリングハーバー、ニューヨーク)を参照)。
【0058】
本発明は、ブドウ球菌属およびその他細菌を原因とする感染の予防および治療のためのポリペプチドを提供する。これらポリペプチドは、一般式Y(KまたはS)PXTNF(米国特許出願第09/839,695号における配列識別番号1または2)を含有し、XはC、WまたはIである。アミノ酸は、修飾可能であり、D型のアミノ酸を含むことができる。別の実施形態では、ポリペプチドは一般式KKY(KまたはS)PXTNを含むことができ、XがC、W、Iまたは修飾アミノ酸である。
【0059】
本発明のポリペプチドをコード化する核酸の使用も、本発明の範囲に含まれている。これらの核酸は、DNA、RNAまたはアンチセンス核酸などである。本発明の核酸分子は、合成、精製または単離された分子などとして提供され、プラスミドやウイルスなどのようなベクターにおける「付加物のないDNA」を含むがこれに限定されず、発現ベクターや投与を目的とした他の化合物への錯体なども含む。このような技術は、当業者には周知である。本発明のポリペプチドは、望ましくは、当業者において周知の任意の技術によって新たに合成されるか、または、宿主に送り込まれるRNAやDNAなどの核酸にコード化されることもできる。
【0060】
本発明のポリペプチドは、代表的な例としては、S.aureusまたはS.epidermids感染など、ブドウ球菌に感染した宿主や、感染リスクを有する宿主に投与される。宿主は、代表的な例としては、ヒトの患者である。動物もまた本発明の組成物によって治療することができるが、動物の、例えばウシ、ヒツジ、ヤギ、ウサギ、ブタなどの商業的または獣医学的に重要な動物、および、ラット、マウス、ウサギ、モルモットなどの実験動物を含むが、これらに限らない。
【0061】
本明細書で使用されている「治療用量」は、患者中の症状のつらさを予防し、緩和し、やわらげ、また、その他の状況を低減する用量である。本発明の組成物は、ブドウ球菌の感染を予防するために予防法に使用されることも、症状発症後に治療に使用されることもできる。ある実施形態では、投与された化合物に対して抗体の形成を誘発することが望ましい。このような場合、当業者において使用されている予防接種プロトコルが望ましい。予防接種を目的に投与される組成物は、任意でアジュバントを含有させることができる。
【0062】
本発明のある実施形態では、RAP、TRAPまたはRAP受容体の拮抗剤が提供される。一つの理論のみに限定されることなく、RIPは、RAP受容体への結合に対してRAPと競合することによって機能し、このためRAPの受容体、TRAPおよびRAPの少なくとも一方の受容体の拮抗剤として作用することができる。このような拮抗剤は、RAPまたはTRAPに特異的に結合する抗体、RAPまたはTRAPリガンドに特異的に結合する抗体、RAP、TRAPまたはRIPに対するリガンド、アンチセンス核酸、RAP、RIPおよびそれらのリガンドのエイドペプチド、ノンペプチド、そして、ペプチド様アナログが挙げられるが、これらに限られるものではない。
【0063】
抗体は合成、モノクローナル、ポリクローナル抗体であることができ、当業者に周知の技術によって作成することもできる。治療用途としては、抗体に対する患者の免疫反応を低減するため、ヒトの定常領域および可変領域を持つ「ヒト」モノクローナル抗体が、望ましい場合がしばしばある。このような抗体は、ヒト免疫グロブリン遺伝子を含有する遺伝子導入動物によって生産することができる。Jakobovitsら、AnnNYAcad Sci764:525−535(1995)を参照。合成および半合成の抗体に関連し、これら用語は、抗体断片、アイソタイプ切り替え抗体、ヒト化抗体(例えばマウス−ヒト、ヒト−マウスなど)、ハイブリッド、複数の特異性を有する抗体、全合成の抗体様分子、その他同様のものなどを対象とすることを意図しているが、これに限定されるものではない。
【0064】
以下に説明するように、抗体は、リガンドのRAP、TRAPまたはRIPへの結合を阻害する能力、および、インビボで細菌感染に対して防御する能力などのようなその他の能力の少なくとも一方に関してスクリーニングされ得る。
【0065】
本発明のいくつかの実施形態では、アンチセンス核酸分子がRAPまたはTRAPの拮抗剤として使用される。アンチセンス核酸分子は、ヌクレオチドの特異的配列に結合し、標的タンパク質の生産を阻害するよう設計された核酸の相補的オリゴヌクレオチドらせん構造である。これら拮抗剤は、単独でも、または他の拮抗剤と併用してもよい。
【0066】
アンチセンス拮抗剤は、RNAなどのアンチセンスオリゴヌクレオチドとして提供することもできる(例えば、Murayamaら、Antisense Nucleic Acid Drug Dev. 7:109−114(1997)を参照)。また、アンチセンス配列は、例えばB型肝炎ウイルス(例えば、Jiら、J.Viral Hepat.4:167−173(1997)を参照)、アデノ随伴ウイルス(例えば、Xiaoら、Brain Res.756:76−83(1997)を参照)などウイルスベクター中、HVJ(センダイウイルス)−リポゾーム遺伝子伝達系を含むが、これに限定されない他のシステム(例えば、Kanedaら、Ann.N.Y.Acad.Sci.811:299−308(1997)を参照)、「ペプチドベクター」(例えば、Vidalら、CR Acad.SciIU32):272−287(1997)を参照)、または、エピソームやプラスミドベクターの遺伝子(例えば、Cooperら、Proc.Nat1.Acad.Sci.U.S.A.94:6450−6455(1997)、Yewら、Hum Gene T Jier.8:575−584(1997)を参照)として、ペプチドDNA会合体の遺伝子(例えば、Niidomeら、J.Biol.Chem.272:1530.7−15312(1997)を参照)、「付加物のないDNA」(例えば、米国特許第5,580,859号および米国特許第5,589,466号を参照)中、およびインリピディックベクター系(例えば、Leeら、Crit Rev Ther Drug Carrier Syst.14:173−206(1997))として提供することができる。
【0067】
RAP、TRAPまたはRAP受容体の候補となる拮抗剤は、当業者に知られている技術や、本出願中に開示されたマウスモデルでのS.aureusに対する防御など、種々の技術によって機能をスクリーニングすることができる。本発明の拮抗剤の多数の適切な処方が、薬剤化学者全員に知られている医薬品中に見いだすことができる。Blaug、SeymourによるRemington’s Pharmaceutical Sciences(第15版、Mack Publishing Company、イーストン、ペンシルバニア(1975))の特に第87章に記載。これらの処方の例としては、例えば、粉剤、ペースト、軟膏、ゼリー、ろう、脂質、無水吸収塩基、水中油型ないし油中水型乳剤、乳剤カーボワックス(種々の分子量のポリエチレングリコール)、半固体ゲル、およびカーボワックス含有半固体混合物が含まれている。
【0068】
有効性のある治療に必要な有効成分の量は、投与手段、標的部位、患者の生理状態や、その他投与される薬剤など、多くの異なる因子に依存する。したがって、治療用量は、安全性および有効性を最適化するために滴定すべきである。代表的な例としては、インビトロで使用される用量は、インシトゥでの投与に有用な有効成分量に関する有益な指針を提供することができる。特定疾患に対する治療のための有効用量の動物試験を行うことは、ヒトへの用量に対してより予測に役立つ目安を提供するであろう。例えばGoodmanおよびOilmanのPlumnacological Basis of Therapeutics、第7版(1985)、MacMillan Publishing Company、ニューヨークおよびRemingon’s Pharmaceutical Sciences 第18版(1990)Mack Publishing Co.イーストンパームなどに、種々の検討が記載されている。投与方法が、これらの文献中で論じられ、経口、静脈注射、腹腔内注射、筋肉注射、経皮的、経鼻的、電気泳動投与などが含まれている。
【0069】
本発明の組成物は、投与方法に応じて種々の剤型単位で投与できる。例えば、経口投与に適した剤型には、粉剤、錠剤、ピル、カプセルなどの固体剤や、エリキシル剤、シロップ、懸濁剤などの液体剤型があげられる。また、有効成分は、滅菌された液体剤型で非経口投与もできる。ゼラチンカプセルは、有効成分とともに、非有効成分としてグルコース、乳糖、ショ糖、マンニトール、スターチ、セルロースないしセルロース誘導体、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸、サッカリンナトリウム、滑石粉、炭酸マグネシウムなどの粉末の基材を含有する。
【0070】
所望の色、味、安定性、緩衝能、分散またはその他の既知の所望の特徴を提供するために追加可能な付加的な非有効成分の例には、赤い酸化鉄、シリカゲル、ラウリル硫酸ナトリウム、二酸化チタン、食用白インクなどがあげられる。圧縮された錠剤を形成するために類似の希釈剤を使用することができる。錠剤、カプセル剤の両方とも、薬剤を長時間にわたって継続的に放出する徐放性製剤として製造することができる。圧縮された錠剤は、不快な味を隠し錠剤を大気から保護するために、糖衣またはフィルムコートすることができ、また、消化管中で選択的に分解させるために腸溶被覆することができる。経口投与用の液体剤型は、患者により受け入れられるよう着色剤および香味剤を含有することができる。
【0071】
本発明による組成物の医薬品処方中における濃度は、重量%で、約0.1%未満、通常は2%または少なくとも約2%から、ほぼ20%から50%以上までと大きくばらつき、主として選択された投与形態に応じた液量、粘度他などによって選択される。
【0072】
また、本発明の組成物は、リポソームを介して投与してもよい。リポソームには、乳化剤、発泡剤、ミセル、不溶性モノマー、液晶、リン脂質分散物、ラメラ層などがあげられる。これらの製剤において、送り込まれる本発明の組成物は、単独で、また、抗体など所望の標的に結合する分子とともに、また、他の治療用や免疫原性の組成物とともに、リポソームの一部として組み込まれる。これにより、本発明の所望の組成物で満たされたか修飾されたリポソームは、全身に届けられるか、または対象組織へと導くことができ、そこに、リポソームは、これら選択された治療用や免疫原性のポリペプチド組成物を送り込む。
【0073】
本発明で使用されるリポソームは、標準的な小胞を形成する脂質から形成され、一般に、中性または負の電荷を帯びたリン脂質およびコレステロールなどステロールを含有する。一般に、脂質の選択は、リポソームの大きさ、血流中リポソームの酸不安定性および安定性などを検討することによって、導かれる。リポソームの調製には種々の方法が利用可能であるが、例えばSzokaetら、Ann.Rev.Biophys.Bioeng.9:467(1980)、米国特許第4,235,871号、第4,501,728号、第4,837,028号、第5,019,369号に記載され、これらは参照としてここに含まれる。
【0074】
本発明の組成物を含有するリポソーム懸濁液は、投与方法、送り込まれる本発明の組成物、治療される疾患の段階に応じた用量で、静脈内、局部的、局所的他で投与できる。
【0075】
固体組成物には、例えば、医薬品グレードのマンニトール、乳糖、スターチ、ステアリン酸マグネシウム、サッカリンナトリウム、滑石粉、セルロース、グルコース、ショ糖、炭酸マグネシウムなどの従来の非毒性の固体基材を使用できる。経口投与に対しては、医薬品として許容される非毒性の組成物は、すでに列挙した基材など、通常採用される任意の賦形剤を、通常は有効成分、つまり、1つまたは複数の本発明の組成物の10−95%、より望ましくは25−75%の濃度で組み入れることによって生産される。
【0076】
エアロゾル投与には、本発明の組成物は、界面活性剤および推進剤とともに細かく分割された形態で供給されることが望ましい。本発明の組成物の代表的な割合は、重量%で0.01−20%、望ましくは1−10%である。界面活性剤は、当然非毒性であり、望ましくは推進剤中に溶解する。これらの代表的な例として、6−22個の炭素原子を含有する脂肪酸のエステル、部分エステルがあり、その例は、カプロン酸、オクタン酸、ラウリン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、リノール酸、オレステリン酸、オレイン酸と脂肪族多価アルコールまたは環状無水物などである。混合グリセリドまたは天然グリセリドなどの混合エステルも使用できる。界面活性剤は、組成物の重量%で0.1−20%、望ましくは0.25−5%を構成してもよい。組成物の残りは、通常は推進剤である。また、例えば鼻腔内に送られるレシチンなどの基材も、所望に応じて含有することができる。
【0077】
本発明の構成物は、当業者に周知の技術によって、さらに貯蔵型の系、封入された形状または移植で送り込むこともできる。同様に、構成物はポンプを介して対象組織に送り込むことができる。
【0078】
処方中の有効成分が処方によって不活性化されず処方が生理的に適合する限り、上述のいずれの処方も、本発明のとおりの治療および療法において適切であろう。本発明のポリペプチドに対するポリクローナルおよびモノクローナル抗体の少なくとも一方を調製することもできる。本発明のポリペプチドは、本明細書に記載の方法で調製し、キーホール・リンピット・ヘモシアニンなどの基材分子に結合し、数ヶ月にわたって選択した時期にウサギに注射する。ウサギの血清は、ポリペプチドに対する免疫活性に対して試験できる。モノクローナル抗体は、マウスにポリペプチドを注入することによって作成できる。モノクローナル抗体は、例えば、HarlowおよびLane(1998)の「抗体:実験室マニュアル」、Cold Spring Harbor Press、ニューヨークおよびCoding(1986)の「モノクローナル抗体:原理と実践」(第2版)Academic Press、ニューヨークなどに記載のように、当業者には既知の方法によってスクリーニングできる。これらの抗体は、ポリペプチドのエピトープとの特異的な免疫活性に対して試験できる。これら抗体は、臨床診断のアッセイへの使用や、製剤組成物中の有効成分としての用途を見出されるであろう。
【0079】
ポリクローナル抗体の生産のため、適切な標的免疫系が、代表的な例としてはマウスまたはウサギが選択されるが、ヤギ、ヒツジ、ウシ、モルモット、ラットなど他の種も使用できる。当業者に既知の方法によって精製された抗原が免疫系に提供される。免疫応答は、代表的な例としてはイムノアッセイによって検査される。適切な例としては、ELISA、RIA、蛍光分析などがある。これらの抗体は、臨床診断のアッセイへの使用や、製剤組成物中の有効成分としての用途が見出されるであろう。
【0080】
RPA核酸およびタンパク質
本発明は、非病原性のブドウ球菌属から単離、精製されたタンパク質(RAP)も提供する。RAPタンパク質は、約33kDaの分子量を有する。一実施形態において、RAPは、米国特許出願第09/839,695号の配列識別番号12を含み、米国特許出願第09/839,695号の配列識別番号13のアミノ酸配列を含むポリヌクレオチドによってコード化されたタンパク質である。
【0081】
RAP核酸
用語「RAP遺伝子」は、総称的にRAP遺伝子およびその代替形態を意図して使用される。また、「RAP遺伝子」は、特異的なRAPタンパク質をコード化するオープンリーディングフレームと、発現の調節に関与する5’と3’非コード化ヌクレオチド配列(例えばプロモータ領域)を意図している。RAP遺伝子が米国特許出願第09/839,695号の配列識別番号12の配列を含む一実施形態では、遺伝子は、染色体外での維持や、宿主への組み込みを目的とする適切なベクターに導入できる。
【0082】
RAP調節配列は、RAP発現の転写または翻訳の調節に、特に、異なる増殖段階で(例えば対数増殖期の早期、中期、後期)の必要なcis作用配列を同定するために使用することもでき、RAP発現を調節または仲介するcis作用配列およびtrans作用因子を同定するために使用することもできる。これらの転写または翻訳制御領域は、RAPコード化配列や、その他のコード化配列に操作可能にリンクさせることができる。
【0083】
本発明に使用される核酸組成物は、RAPタンパク質の全てまたは一部をコード化したものである。DNA配列の断片を、従来の方法によるオリゴヌクレオチドの化学合成、制限酵素での断片化、PCR増幅などによって得ることができる。ほとんどの場合、DNA断片は、約10以上の隣接するヌクレオチド、一般的には、少なくとも約15nt、より一般的には、少なくとも約18ntから約20ntまで、さらに一般的には、少なくとも約25ntから約50ntまでである。このような小さいDNA断片は、PCRのプライマなどとして有用である。より大きなDNA断片、すなわち100ntより大きいDNA断片は、コード化されたポリペプチドの生産に有用である。PCRなど増幅反応への使用のためには、1対のプライマが使用される。
【0084】
プライマ配列の厳密な組成は、本発明にとっては重要ではないが、ほとんどのアプリケーションにおいて、プライマは当業者に既知の厳密な条件下で、対象配列へとハイブリダイズする。少なくとも約50nt、少なくとも約100ntの増幅物を生産する1対のプライマを選択することが望ましい。プライマ配列の選択のためのアルゴリズムは、公知であり、市販のソフトウェアパッケージで入手可能である。増幅プライマは、DNAの相補的な鎖へとハイブリダイズし、互いにプライマとなる。
【0085】
RAP遺伝子およびRAPコード化配列は、ほぼ純粋で、通常は完全な細菌染色体以外の状態で単離され、得ることができる。通常、DNAは、RAP配列またはその断片を含まない他の核酸配列をほとんど含まない状態で、純度が、一般的には少なくとも約50%、より一般的には少なくとも約90%で、代表的な例としては「組み換え型」、つまり、普通は天然由来の染色体には結合しない1個または複数のヌクレオチドが並んでいるものである。
【0086】
DNA配列は、種々の方法で使用することができる。DNA配列は、ブドウ球菌の他の株や、他の細菌のRAPコード化配列を同定するためのプローブとして使用してもよい。他の株、種、属から単離された相同物は、互いに類似した配列を有する。すなわち、少なくとも約75%、一般的には少なくとも約90%、より一般的には少なくとも約95%の配列の相同性を有する。一般に、本発明のRAPコード化配列(相同物、変異体など)は、少なくとも約65%、望ましくは少なくとも約75%、より望ましくは約85%の配列の相同性を有することを特徴とし、MPSRCHプログラム(Oxford Molecular)で実施されるSmith−Waterman相同性検索アルゴリズムによって決定されたように、少なくとも約90%になることもありうる。本発明の目的のために、配列の相同性は、以下のSmith−Watermanアルゴリズムを使用して計算される。以下の検索パラメータ、ギャップ開始ペナルティ12とギャップ伸張ペナルティ1でアフィンギャップを用いるMPSRCHプログラム(Oxford Molecular)で実施されるSmith−Waterman相同性検索アルゴリズムによって決定されたように、グローバルDNA配列の相同性は、65%を超えなければならない。
【0087】
配列の類似性を有する核酸は、例えば50℃および6XSSC(0.9M生理食塩水/0.09Mクエン酸ナトリウム)で、あまり厳密でない条件下でのハイブリダイゼーションによって検出することもでき、そして、1XSSC(0.15M生理食塩水/0.015Mクエン酸ナトリウム)の55℃での洗浄下でも結合を維持している。さらに、配列の相同性は、例えば50℃以上および0.1XSSC(15mM生理食塩水/0.15mMクエン酸ナトリウム)の厳密な条件下でのハイブリダイゼーションによっても検出できる。プローブ、特にDNA配列の標識プローブを使用することによって、相同体または関連する遺伝子を単離することができる。RAPの相同体を哺乳類のソースから同定することも可能である。
【0088】
RAPコード化DNAは、生物学的試料での遺伝子発現を検出するために使用することもできる。個別のヌクレオチド配列の存在に関して、試料を探査する方法および材料も、また、文献で明らかにされており、ここで詳しく述べるまでもない。mRNAが細胞試料から単離される。mRNAは、対象DNA配列に特異的なプライマを使用するポリメラーゼ連鎖反応の結果として起こり、相補的DNA鎖を作成する逆転写を用いる、RT−PCRによって増幅できる。これに代えて、mRNA試料は、ゲル電気泳動によって単離され、ニトロース、ナイロンなど適切な支持材へと転写され、そして、プローブとして対象DNAの断片で探査される。オリゴヌクレオチドの連結反応アッセイ、インシトゥでのハイブリダイゼーション、固体チップ上に配列されたDNAプローブへのハイブリダイゼーションなどのような他の技術にも用途を見いだすことができる。RAP配列へのmRNAハイブリダイゼーションは、試料におけるRAP遺伝子発現を示すものである。
【0089】
RAP核酸配列は、多くの目的で、特に、それが細胞内で使用される場合、例えば、遺伝子などの切断のための鉄またはクロムなどのキレート金属イオンなどのような核酸切断剤に結合することによって、修飾され得る。
【0090】
RAPコード化配列およびプロモータ配列の少なくとも一方は、当業者に知られている種々の方法で、プロモータの強度、コード化されたタンパク質などといった標的とされた遺伝子を変異させることができる。このような変異したDNA配列または生産物は、本明細書で提供される配列とほぼ同一であり、それらは、それぞれ少なくとも1つのヌクレオチドまたはアミノ酸が異なり、少なくとも2つから10個未満のヌクレオチドまたはアミノ酸が異なる場合もある。配列の変化は、置換、挿入または削除などである。削除は、領域の削除などより大きな変化を含む場合もある。重要な他の修飾としては、融合タンパク質の生産物(例えば、緑色蛍光タンパク質(GFP)、発光酵素など)などがある。
【0091】
インビトロでのクローン化遺伝子の変異のための技術は、既知のものである。変異をスキャンするためのプロトコルの例としては、Gustinら、1993 Biotechniques 14:22;Barany、1985 Gene 37:111−23;Colicelliら、1985 Mol Gen Genet 199:537−9;Prentikiら;1984 Gene 29;303−13があげられる。部位特異的な突然変異のための方法は、Sambrookら、1989 分子クローニング:実験室マニュアル、CSH Press、頁15.3−15.108、Weinerら、1993 Gene126:35−41、Sayersら、1992 Biotechniques 13:592−6;JonesとWinistorfer、1992 Biotecuniques 12:528−30、Bartonら、1990 Nucleic Acids Res 18:7349−55、MarottiとTomich、1989 Gene Anal Tech 6:67−70、そしてZhu 1989 Anal Biochem 177:120−4に見ることができる。
【0092】
RAPタンパク質
RAPタンパク質は、任意の適切な手段、例えば天然にRAPを発現する細菌からの単離、組み換え手段(例えば米国特許出願第09/839,695号の配列識別番号12の配列を有するポリヌクレオチドの発現)、合成手段などによって生産することができる。
【0093】
一実施形態において、RAPは、S.aureusなどRAPを生産するブドウ球菌の株から直接単離される。代表的な例としては、野生型の細胞が指数増殖後の培養液から回収される。細胞は、次に遠心され、上清液は、例えば濾過後の凍結乾燥、水への再懸濁、さらに精製することなどによって精製される。
【0094】
RAPを単離できるブドウ球菌は、S.aureus、S.capitus、S.warneri、S.capitis、S.caprae、S.carnosus、S.saprophyticus、S.chronii、S.simulans、S.caseolyticus、S.epidermids、S.haemolyticus、S.hominis、S.hyicus、S.kloosii、S.Lentus、S.Lugdunensis、S.scruri、S.simulans、そして、S.xylosusが含まれるが、これらに限定されるものではない。望ましくは、RAPは、S.aureusから単離される。
【0095】
別の実施形態では、RAPコード化核酸が、完全な長さのRAPタンパク質や、その断片を合成するのに利用され、特に、機能領域(例えばRAPと相互反応するリン酸化反応領域など)に対応するものが利用され、対象ポリペプチドと、他のタンパク質またはその一部との融合を含んでいる。発現には、発現カセットが、転写および翻訳開始領域を提供するのに利用され、この領域は、誘導可能なものまたは構造性のものであり、コード化領域が、転写開始領域と転写翻訳終了領域との転写の制御下で操作可能にリンクされる。種々の転写開始領域が、発現宿主で機能させるために利用できる。
【0096】
ポリペプチドは発現の目的に応じて、既存の方法にしたがって、原核生物または真核生物で発現させることができる。タンパク質の大量生産のため、E.coli、B.subtilis、S.cerevisiaeのような単細胞生物、または、脊椎動物、特に哺乳類、例えばCOS7細胞などのような高等生物の細胞も、発現宿主細胞としてりようできる。これらに代えて、RAP断片が合成される場合もある
大量のポリペプチドが入手可能であれば、発現宿主を利用することによって、RAPタンパク質は、従来の方法、例えばHPLC、排除クロマトグラフィ、ゲル電気泳動、アフィニティクロマトグラフィを使用して、または、その他精製技術などによって単離、精製できる。精製されたタンパク質は、一般に、純度が少なくとも約80%、望ましくは少なくとも約90%であり、最高純度100%にもできる。
【0097】
RAPタンパク質(天然型、組み換え型または合成型)は、抗体の生産に使用することができ、ここでは、短い断片は、特定のポリペプチドに対する特異的な抗体に提供され、そして、大きな断片またはタンパク質全体は、ポリペプチドの表面全体にわたる抗体を生産させることができる。抗体は、RAPの野生型または種々の変異体形態へと育てることもできる。抗体は、例えばRAP発現細胞による免疫化、膜内に挿入されたRAPタンパク質を有するリポソームによる免疫化、その他などによって、これらの領域に対応する単離されたペプチドまたは天然型タンパク質へと育てることもできる。
【0098】
抗RAP抗体
本発明は、RAPと特異的に結合し、免疫反応性を有する抗体も提供する。抗体は、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体またはヒト化抗体であり、当業者に周知の方法を使用して調製される。一般に、抗体は、従来の方法で調製され、タンパク質またはその抗原性部分を、単独でまたはKLH、pre−S、HBsAg、そして、その他ウイルス性または真核細胞タンパク質などの既知の抗原性基材に結合して免疫原として使用される。種々のアジュバントを、適宜一連の注射で利用することもできる。モノクローナル抗体の場合、1回または複数回のブースタ注射の後、脾臓が単離され、リンパ球が細胞融合によってイモータライズされ、高親和性抗体の結合のためにスクリーニングされる。望ましい実施形態では、脾臓またはリンパ節細胞と骨髄腫細胞とは、約20:1から約1:1の比率で、望ましくは約2:1の比率で混合される。融合処理で使用される体細胞および骨髄腫細胞のソースとして、同種の動物を使用することが望ましく、動物は、ラット、マウス、ウサギ、ウシ、ニワトリ、シチメンチョウまたはヒトから選択される。体細胞と骨髄腫細胞との融合によってハイブリドーマを生産し、このハイブリドーマは、所望のモノクローナル抗体を標準的な手法で生産するため、培養で育成される。さらに詳しい説明は、例えば、モノクローナル抗体は、実験室マニュアル、HarlowとLane eds、Cold Spring Harbor Laboratories、コールドスプリングハーバー、ニューヨーク、1988を参照。所望の場合、H鎖およびL鎖をコード化するmRNAは、Escherichia coliでのクローニングによって単離および変異し、H鎖およびL鎖は、抗体の親和性をさらに高めるために混合することもできる。抗体を生産するための方法としてのインビトロでの免疫法に代わるものとしては、通常、インビトロでのアフィニティマチューション接合といったファージ「ディスプレイ」ライブラリへの結合が含まれる。
【0099】
本発明のポリクローナル抗体は、ラット、マウス、ウサギ、ウシ、ニワトリまたはシチメンチョウをRAPとともに注射して、免疫原性反応を開始することによって生産できる。抗体は、ポリクローナル抗体にもモノクローナル抗体にもでき、設計または合成できる。RAPは、キーホールリンペットヘモシアニン(KLH)またはウシ血清アルブミン(BSA)などのタンパク質基材に結合できる。アジュバントも使用できる。抗RAP抗体の高い力価を得られる適切な時間が経過した後、血清または卵が回収される。血清または卵の抗体の存在は、ラジオイムノアッセイ(RIA)、酵素免疫測定法(ELISA)、または免疫沈降法によって試験できる。免疫グロブリンは、連続沈降法によって、食塩水からタンパク質分画を「塩析」する従来の方法によって、または、当業者に周知のクロマトグラフィ法によって単離できる。
【0100】
RAP
細菌中のRAP(RplB)配列
RAPは、S.aureus RN6390Bの培養上清から精製され、RAPのNH2−末端配列をIKKYKPITN(Balaban Nら、Science 2000、287:391a[18])とすることに決定した。この配列は、いくつかのS.aureusデータベースと比較され(TblastNアルゴリズム)、わずか1個のORFが上記ペプチド配列と強く一致していることが見いだされた。このORFは、推定277アミノ酸タンパク質をコードしており、L2(またはRplB)配列のオーソログである(Ban Nら、Science 2000、289:905−920[19])。
【0101】
S.aureus RN630Bに相当する遺伝子は、PCRによって増幅され、配列を決定された(GenBank受入番号AF205220)。S.aureusの推定RplBは、他の細菌中のRplBと相同性が高い(図1)。さらに、その配列を他の入手可能なS.aureusの配列と比較したところ、株全体にわたって保存されていることがわかった(データは示さない)。
【0102】
組み換えRAPの生産(rRAPまたはrL2のいずれか)
rRAPを生産するため、制限部位を加えたrap(RplB)遺伝子5’および3’末端に対応するフォワードプライマおよびリバースプライマが設計された。これらのプライマは、S.aureus RN6390B染色体DNAをテンプレートとして用い、PCRによって完全なRplB遺伝子を増殖するのに使用された。増殖されたDNAは、挿入された遺伝子の5’末端に6ヒスチジン標識を有するpET14bベクター(Novagen、ウィスコンシン)の対応する部位に、分解されて連結された。rap(pET2−5)を含むプラスミドが、E.coli BL−21(DE23)/pLysSを転換するのに使用された。細胞が誘導、採取され、組み換えHis−rRAPタンパク質が、ニッケルカラムを使用して単離され、his標識をトロンビンで除去した。
【0103】
具体的には、rL2を生産するため、5‘Ndelや3’BamHI制限部位を加えたrap遺伝子の5’および3’末端に対応するフォワードプライマやリバースプライマが、rap(下線で表示)の配列に基づいて設計された。これらのプライマ、5’GAA TTC CAT ATG GGT ATT AAA AAG TAT AAG 3’(ヌクレオチド1−21(米国特許出願第09/839,695号の配列識別番号14))、そして、5’CGC GCG GAT CCT TAT TTT TTC TTA CGT CCACG 3’(ヌクレオチド840−819の相補(米国特許出願第09/839,695号の配列識別番号15)が、テンプレートとしてS.aureus染色体DNAを用いることにより、PCRによって完全なrpl遺伝子の増殖に使用された。増殖されたDNAは、NdelおよびBamHIによって分解され、挿入された遺伝子の5’末端に6ヒスチジン標識を有するpET14bベクター(Novagen、ウィスコンシン)の対応部位に連結された。rap(pET2−5)を含有するプラスミドが、E.coli BL−21(DE3)plysS(SBpET2−5)の転換に使用された。組み換えタンパク質合成の誘導は、1mMのIPTGを培地に添加し、そして、3時間培養することによって実施された。細胞は、採取され、50mMのトリス緩衝液pH7.9で一度洗浄された。組み換えHis−rRAPタンパク質は、製造業者(Xpress Systems Protein Purification、Invitrogen、カリフォルニア)の指示に少し修正を加えた方法に従い、ニッケルカラムを用いて単離された。50mLの細胞ペレットは、10mLのバインディング緩衝液に再懸濁され(pH7.8で20mMのリン酸ナトリウム+0.5MのNaCl)、そして、超音波処理され(最大30秒の間隔で、15秒のパルスを2サイクル)、そして、微量遠心機で遠心された。上清は、事前に平衡化されたニッケルカラムに流された。
【0104】
流す前に、キレートされたセファロースビーズを含有するカラムが、50mMNiClを含有するチャージ緩衝液を流され、バインディング緩衝液で平衡化された。カラムは、体積で5倍量のバインディング緩衝液で3回洗浄された後、体積で5倍量のpH7.8で20mMのリン酸ナトリウム+0.5MのNaClで3回洗浄し、その後、pH6に調節したバッファで洗浄された。組み換えタンパク質は、0−5Mのイミダゾールを用いてカラムから順次溶出された。His標識は、トロンビンによって除去された。
【0105】
モノクローナル抗rRAP抗体は天然型RAPを認識する
モノクローナル抗体は、マウスから生産され、rRAPによってプライミングされた。ハイブリドーマ上清は、注射した抗原に対する特異的な抗体の存在をELISA法で試験された。陽性ハイブリドーマは、クローン化され、腹水を得るために用いられた。組み換えタンパク質に対する抗体が天然型分子を認識するかどうかを試験するため、rRAPと、部分的に精製された天然型RAP(野生型S.aureus RN6390>10kDaの指数増殖後の上清)とが、SDS12.5%のPAGE、ウェスタンブロットにかけられ、膜がポンソーで染色された(図2、レーン1、2)。膜は、ブロッキングされ、陽性抗rRAPハイブリドーマから作成した腹水とともにインキュベートされた(希釈率1:1000)。結合された抗体は、ペルオキシダーゼ抱合抗マウスIgGを用いて検出され、化学発光を用いて可視化した(図2、レーン3、4)。図2に示すように、rRAPに対して生じたモノクローナル抗体は、上清に分泌された天然型分子を特異的に認識する(図2、レーン4)。
【0106】
組み換えRAPが活性化されRNAIII合成を誘発される
組み換えRAPは、活性型でありRNAIII合成を誘発できるか否かを試験するため、rnaiii::blaZ融合構成物を含有するS.aureus細胞が、rRAPの増量のために培養された。対照として、細胞が、増殖培地のみで培養された(ネガティブコントロール)。RNAIII(□−ラクタマーゼ活性として)は、黄色の物質で、□−ラクタマーゼの存在時にはピンク色になるニトロセフィンの添加によって検出した。この方法は、実験群と対照群との間の差が、少なくとも2倍ある場合有用であり、そして、片方はピンク色になるが、残りの他方は黄色のままである。図3Aに示すように、rRAPは、濃度依存性にRNAIII合成を活性化し、細菌数が2.25nmol/107の閾値に到達する。組み換えRAPによるRNAIIIの活性化は、部分的に精製されたRAPの活性化と類似していた。2.25nmolのrRAPの存在下でのRNAIII合成(□−ラクタマーゼ活性)の増加は、rRAPの添加の内場合と比較して有意な(P<0.00169)差がある。また、本発明者らは、ノーザンブロット法によるRNAIII合成の誘発試験も行い、ここでは、細胞は、rRAPあり、または、なしで30分間増殖し、細胞を採集し、ノーザンブロットした後、RNAIIIの存在を、RNAIIIに特異的な、放射線標識したDNAを使用して検出した。膜は、オートラジオグラフィーにかけられ、バンドの密度が検出された。図3Bに示すように、rRAPは、RNAIIIの合成を誘発した。
TRAP
TRAPはS.aureusの病原性に必要とされる
RAPは、TRAPのリン酸化反応を誘発し、そして、RIPは、TRAPのリン酸化反応を阻害することが示されてきている[5]。TRAPがS.aureusの病原性に重要であることを示すため、traP遺伝子は、S.aureus 8325−4で分離されて、親株(TRAP+)と変異株(TRAP−)が、増殖、RNAIII合成、毒素生産、そして、病原性について試験された。細胞増殖およびRNAIII合成を試験するため、細胞は、指数増殖期の早期から指数増殖期の後まで増殖された。間隔を置いて、細胞密度が決定され、各増殖段階からの細胞試料が、収集され、ノーザンブロットにかけられ、RNAIIIの存在をRNAIIIに特異的な、放射線標識されたDNAを用いて検出された。図6Aに示すとおり、TRAP+株とTRAP−株との間では、細胞増殖の差が観察されなかった。TRAP+株のRNAIIIの合成は、指数増殖期の中期から観察されたが、TRAP−株(図6B)には存在せず、これは、TRAPがRNAIII合成の誘発における重要な因子であることを確認するものである。
【0107】
RNAIIIは、S.aureusによって生産される多くの毒素、その一部は溶血素、の生産を増大することが知られている[2]。溶血素の生産を試験するために、TRAP+株とTRAP−株が、ヒツジ血液寒天培地で、37℃で一晩、次いで4℃で増殖させた(□および□溶血素の両方を試験するため)。図7Aに示すように、溶血は、TRAP−株では観察されず、TRAPが毒素生産における重要な因子であることを確認するものである。
【0108】
TRAPが生物膜形成にとって重要かどうかを試験するため、TRAP+株とTRAP−株が、ポリスチレンのウェルで増殖され、接着した細菌が、サフラニンで染色された。図7Bに示すように、サフラニン染色は、TRAP−株では大きく低減され、TRAPが細胞接着および生物膜形成において重要な因子であることを示唆している。
【0109】
インビボでのS.aureusの病原性の重要性を試験するため、TRAP+株とTRAP−株が、マウスに皮下注射され、その後、動物の死亡率、病変の発症や、全般的な健康状態を調べられた。図8に示すように、4×108CFUを(プレートで増殖させたTRAP+を)注射された全ての動物(n=10)は、例えば、平均1.74cm2の大きさの組織の病変を発症した。また、6×109CFUを(プレート上で増殖させたTRAP+を)注射した全ての動物(n=5)は、平均9.4cm2の大きさの組織の病変を発症した。1.3×109CFUを(培地(*)で増殖させたTRAP+を)注射した8体の動物(n=8)のうち4体は、最初の24時間以内に死亡し、残りは平均8.63cm2の大きさの、大きな組織の病変を発症した。一方、TRAP−株を注射した全ての動物は、全く健康に見え、数体が非常に小さい組織の病変を発症した。特に、プレートで増殖させたTRAP−の3×108CFUを注射した動物(n=10)は、1体も病変を発症しなかった。プレートで増殖したTRAP−の2.6×109CFUを注射した動物は、全て、平均0.62cm2の大きさの病変を発症した。(培地(*)上で増殖させたTRAP−を)1.5×109CFUを注入した動物(n=8)のうち7体は、病変を全く発症せず、1体が0.4cm2の大きさの、小さな病変(平均0.05cm2)を発症した。TRAP+株またはTRAP−株を注射した動物における病変の大きさの差は、有意(p<0.0008)である。これらの結果は、TRAPの発現がS.aureusの毒性に重要であり、ブドウ球菌の感染を予防または治療する新薬の開発のための領域をさらに広げることを確認するものである。
【0110】
TRAPのアミノ酸配列解析
S.aureusおよびS.epidermidsの種々の臨床単離株におけるtraP遺伝子が、PCR法で増幅され、その配列が決定された。これら配列と、異なるデータベース(NBBI微生物ゲノムデータベース[http://www.Ncbi.nlm.nih.gov/Microb_blast/unfinisihedgenome.html]など)におけるBLAST検索との比較では、TRAPがブドウ球菌に固有のものであることが示されている。導き出されたS.aureusとS.epidermidsとのTRAPタンパク質のアミノ酸配列の比較では、配列がブドウ球菌全体にわたって高度に保存されていることを示している。種々の株からのS.aureusTRAPタンパク質の配列のマルチシークエンスアライメント解析(ClustalW)は、配列が2つのサブグループに分類されることを示している(図9)。第1群は、8325のTRAPを含み、これはCOL、MSSA476、Mu50/ATCC700699およびN315(16)や本発明者らの臨床単離株#7および#11と同一である。第2群は、本発明者らの臨床単離株#12および#15や、MRSA252のTRAPを含む(Sanger Centre Database)。第1群のTRAPは、第2群のTRAPに対して約97%の相同性を有する(blastPアルゴリズムによって決定したE値が2e−84である)。第1群のTRAPおよび第2群のTRAP配列のS.epidermidsの配列への類似性は、約86%である(E値は9e−65)。
【0111】
S.aureusの臨床単離株#12は、TRAPストップコドン(GenBank受入番号AJ489447)のちょうど前にIS1181の挿入がある。IS1181の挿入によって天然型traPストップコドンを移動させるが、167から176AA(TRAP+GSSSFMVGR)までTRAPを引き伸ばす別のストップコドン27bpを下流側に導入する。他の臨床または実験株と同様に、単離株#12において、TRAPがリン酸化され、RNAIIIが発現され、これは、挿入因子が機能を分離されないことを示唆している(図示しない)。
【0112】
TRAPの二次構造の予測
TRAPは、ブドウ球菌に極めて固有のものであるが、Bacillus subtilisの仮説タンパク質であるYhgCタンパク質に対しいくらかの配列の類似性を有する(GenBank受入番号Z99109)(E値が9e−15である)。興味深いことに、Bacillus subtilisに加えて、160を超える真正細菌のゲノムのうち、B.cereus(TIGRデータベース)の配列と97%相同のBacillus authracis、/Listeria innocuaおよびListeria monocytogenesのみのORFが、TRAPとある程度の配列の類似性を有すると同定される(E値はそれぞれ0.005、0.035、0.1である)。TRAP同様、全てのORFは、166AAであるYhgCを除き、確実に167AAである(図10)。
【0113】
これらタンパク質の二次構造は、タンパク質構造予測サーバー The PCIPRED v.2.4[http://bioinf.es.ucl.ac.uk/psiform.html/]を使用して予測した。興味深いことに、これらORFの配列の類似性は、非常に低いが、予測された二次構造は、TRAPの二次構造と非常によく似ている(図10)。
【0114】
S.aureusTRAP遺伝子領域の染色体構造と他のグラム陽性真正細菌との比較
TRAP遺伝子領域の同じ構造が、全てのブドウ球菌属(S.aureusおよびS.epidermidsの両方)ゲノムにおいて見いだされる(図11)。TRAP遺伝子は、2つのポリシストロン性のオペロンが並んでおり、2つのうち1つ(traPの上流側)は、プロトヘムIX生合成経路(ヘムEHY遺伝子)の後期段階の酵素をコード化しており、2番目(traPの下流側)は、推定的な複数タンパク質の輸送システム(ecsAB(C)遺伝子)をコードしている。traP遺伝子転写の方向は、hemおよびecsオペロンの両方と反対になっている。同一の組織は、B.subtilis、B.anthracisのyhgC領域にも、リステリアのTRAP様ORFにも見出される(図11)。これら結果は、TRAPが細菌のシグナル伝達物質のクラスを示し、TRAPがブドウ球菌に加えて多くの細菌種の治療に対する標的部位であることを示唆している。
【0115】
TRAPおよびTRAP様分子のリン酸化とRIPによるTRAPリン酸化の抑制
TRAP様分子は、ブドウ球菌に加えて、他の細菌種で見いだされることから、本発明者らは、種々のリステリア(Listeria monocytogenesおよびListeria ivanovii)株、種々のバチルス菌株(B.anthracis、B.subtilis、および、B.cereus)を、P32を伴って増殖させ、SDS PAGEとその後のオートラジオグラフィーによってTRAP(21kDa)のリン酸化を試験した。図12に示すように、リステリア菌属は、21kDaのタンパク質は、予想通り、インビボでリン酸化された。バチルス菌属に対しても類似の結果が得られた(図示しない)。これらの結果は、病原性が、細菌発現TRAP様タンパク質のTRAPリン酸化を介して調節されることもまた示唆している。
【0116】
S.epidermidsのTRAPのリン酸化を試験するため、インビボでのリン酸化アッセイが、S.aureusについて記載された方法のように実施された[5]。概要は、指数増殖期早期のS.epidermidsが、RIP(10□g/107細胞)がある場合と、ない場合のいずれかで、放射線標識されたオルトリン酸を付加したリン酸フリー緩衝液で増殖させた。1時間の培養の後、細胞は、遠心機で回収され、リソスタフィンで処理の後、試料緩衝液を添加され、そして、全細胞のホモジネートが、沸騰させることなく、15% SDS PAGEにかけられ、そして、そのゲルは、オートラジオグラフィーにかけられた。同様の実験が、陽性対照として6390BS.aureusに対して実行された。結果(図13)は、TRAPのリン酸化が、S.epidermidsにおいてもRIPによって抑制可能であることを示している。これらの結果は、TRAPがS.epidermidsに見いだされる事実を踏まえると驚くべきことではないが、TRAPのリン酸化や発現が、ブドウ球菌の病原性に重要であることを示している。TRAPの配列は、ブドウ球菌株および種のでは高度に保存されており、二次構造は他の細菌の多くのTRAP様リン酸化と類似していることから、TRAPは、ブドウ球菌に加えて多くの細菌種の治療に対する標的部位となり得る。
【0117】
RIP
RIP(天然型または合成、YSPWTNFまたは誘導体)は、RNAIIおよびRNAIII合成を阻害や、これによる毒素生産を阻害する[13、18]だけでなく、S.aureusのヒト細胞への接着を阻害し、プラスチック上の生物膜の形成も阻害することが実証されてきている[16]。また、S.epidermidsの毒性も、その宿主細胞への接着能力や、医療器具への生物膜の形成能力に関連していることが多い。RIPが、S.epidermidsによる宿主細胞でのコロニー形成を予防できるかどうか、それにより、治療および予防の候補となるかどうかを試験するため、FITC標識化S.epidermidsが、RIPの存在または非存在下のいずれかにおいて、ケラチノサイト(HaCat細胞)の融合層とともに30分間培養された。図14Aに示すように、RIPはHaCat細胞へのS.epidermids接着を有意に(p<0.05)低減した。
【0118】
RIPがS.epidermidsのプラスチックへの接着および生物膜の形成を低減するか否かを試験するため、指数増殖早期のS.epidermidsが、ポリスチレン製のマイクロタイタープレートで3時間増殖され、接着した細胞が、サフラニンで染色された。これら実験条件は、生物膜が形成されるものである(図示しないが、原子顕微鏡によって観察される)。図14Bに示すように、RIPは、プラスチックに接着する細胞の数を有意に低減した。これらの結果は、RIPが、インビトロでのS.epidermidsの宿主細胞やプラスチックへの接着を阻害することを明らかに実証している。
【0119】
RIPは、移植に関連する感染から保護でき、抗生物質と相助作用する
RIPが移植に関連する感染保護できるかどうかを試験するため、ラット移植モデルが使用された。
【0120】
方法
移植に関連する感染の誘発
ラット(ウィスター系成体オス(300−350g)、n=15/実験グループ)は、麻酔され、背中の毛を剃られ、そこの皮膚を10%ポビドン−イオジン溶液で洗浄された。皮下のポケットが、1.5cm切開することによって、正中線の側部に作成された。無菌状態で、1cm2の無菌のコラーゲンでシールされたダクロン移植体(Albograftの登録商標、Sorin Biomedica Cardio、S.p.A.、Saluggi VC、イタリア)が、そのポケットに移植された。移植の直前に、ダクロンの移植体は、抗生物質(ムピロシン100mg/L、キヌプリスチン−ダルフォプリスチン50mg/L、レボフロキサシン30mg/L、リファンピン5mg/L)とともに、または、抗生物質なしで、生理食塩水の10mg/LのRIPの滅菌溶液に、また、対照として、生理食塩水のみか、不活性RIPペプチドアナログ(YKPETNF)のいずれかに、20分間浸漬された。ポケットは、皮膚クリップで閉じられ、2×107個の細菌を入れたか、または、入れていない1mLの滅菌生理食塩水が、液で満たされた皮下のポケットを作成するため、ツベルクリン注射器を用いて移植体に接種された。RIPまたは生理食塩水に浸漬された移植体を有する動物のうち数体は、抗生物質(セファゾリン30mg/kg、イミペネム30mg/kg、テイコプラニン10mg/kg、レボフロキサシン10mg/kg)を腹腔内に投与された。移植体は、移植から7日後に摘出された。移植体に接着した概算のRIP量は、10−26□gであった。
【0121】
移植体感染の評価
摘出した移植体は、滅菌チューブに入れられて滅菌生理食塩水で洗浄され、10mLのリン酸緩衝生理食塩水が入ったチューブに入れられ、移植体から付着した細菌を除去するため、5分間超音波処理された。生菌の定量は、細菌懸濁液の10倍連続希釈液(0.1mL)を血液寒天プレートに植えることによって実行された。全てのプレートが、37℃で48時間培養され、株の存在を評価された。細菌は、1プレートあたりのコロニー形成単位(CFU)の数を数えることによって定量された。細菌が効果的に移植体から除去されたかどうかを決定するため、洗浄され、超音波処理された移植体は、ニコンエクリプスE600光学顕微鏡(ニコン Y−THS、日本)で観察した。
【0122】
統計解析
インビボでの実験における培養結果の定量は、平均値の□標準偏差の平均値で表された。結果の比較は、対数変換されたデータでの分散の解析(ANOVA)によって行われた。統計解析が、マイクロソフトエクセル(マイクロソフト、ワシントン)によるStudent’s t−検定を用いて、インビトロでの付着の分析のために行われた。P値が□0.05の場合、有意差があるとした。
【0123】
結果
RIPが移植体に関連した感染を予防するか否かについて試験をするため、ダクロン移植体が、RIPで被覆されるか、または、被覆されず、そして、種々の種類の抗生物質で被覆されるか、または、被覆されなかった(局所的な予防実験用に)。被覆された移植体は、ラットに移植され、細菌が移植組織に注射され、1週間後、移植組織が除去され、そして、細菌の負荷が決定された。これに代えて、ダクロン移植体は、最初にRIPで被覆され、細菌が注射され、そして、抗生物質が腹腔内経路で投与された(非経口の予防実験用に)。陰性対照として、移植体は、局所または非経口のRIP/抗生物質による予防を行わずに移植され、細菌も注射されなかった。陽性対照として、移植体が移植され、細菌が注入されたが、RIP/抗生物質の予防は行われなかった。RIPに対する陰性対照として、RIPアナログ(YKPETNF)不活性形態が、RIPの替わりに使用された。
【0124】
その結果(図15)は、RIPがlog3によって試験された全株の細菌の負荷を低減し、RIPが抗生物質とともに使用された場合、RIPが100%細菌の負荷を除去できることを示している。具体的には、
1)非汚染陰性対照群に含まれる動物はいずれも、移植体感染の微生物学的証拠を示さなかった。
【0125】
2)汚染された非治療陽性対照群中に含まれる15例のラットはすべて移植体感染の証拠を示し、接種されたGISE株、MRSE株、MSSE株に対するそれぞれの定量培養の結果は、各々、6.8□106、1.9□106CFU/mL、8.1□106+/−2.2□106CFU/mL、7.3□106+/−6.4□105CFU/mLであった。不活性RIPペプチドアナログで被覆された移植体は、非治療対照と同様の移植体感染の証拠を示し、接種されたGISE株、MRSE株、MSSE株に対する、定量培養の結果はそれぞれ6.52□106+/−3□106CFU/mL、7.08□106+/−2.1□106CFU/mL、5.4□106+/−8□105CFU/mLであった。
【0126】
3)10mg/LのRIPに浸漬したダクロン移植体の全群とも、非治療対照群と比較して、ブドウ球菌感染の強度の低下の証拠を示し、接種されたGISE株、MRSE株、MSSE株に対して、各々、6.2□104±2.0□104CFU/mL(p<0.05)、7.4□103±1.8□103CFU/mL(p<0.001)、9.1□103±2.3□103CFU/mL(p<0.001)を示した。
【0127】
4)GISEを接種したラットにおいて、RIP移植体治療は、非経口抗生物質予防よりもよく細菌を阻害しており(>10〜100倍)、(図15(B)を参照)そして、ロバフロキサシンやリファムピシンの局所的な予防よりも有効であったが、キヌプリスチン−ダルフォプリスチンの局所的な予防ほどは有効でなかった(図15(A)を参照)。MRSEまたはMSSEを接種したラットにおいて、RIP治療は、非経口予防実験のテイコプラニン(図15(B)を参照)、そして、局所的な予防におけるムピロシン、キヌプリスチン−ダルフォプリスチン(図15(A)を参照)を除いて、大部分の抗生物質と同様、または、それ以上有効であった。
【0128】
5)RIP移植体治療が抗生物質による予防とともに行われる場合、細菌負荷の阻害レベルは(単一の薬剤のみの場合と比べて)より大きくなり、MRSEおよびMSSE株においてRIPをテイコプラシンとともに非経口投与した場合(単一剤に対してp<0.001)(図15(B)を参照)や、全株においてRIPをムピロシまたはキヌプリスチン−ダルフォプリスチンとともに局所的に投与した場合(単一剤に対してp<0.001)(図15(B)を参照)場合など、場合によっては100%に到達した。
【0129】
類似の結果が、S.aureus MRSA、MSSA、GISA、そして、バンコマイシン耐性S.aureus、S.epidermids株 VISAやVISEにおいて得られた(図示しない)。
【0130】
RIPはインビボでの移植体に関連する感染を防ぐ
動物(15体/群)が、皮下ポケットにダクロン移植体の移植を受けた。移植体は、S.epidermids(MSSE、MRSEおよびGISEの試験)で、または、S.aureus(MSSA、MRSAおよびGISAの試験)とともに皮下感染された。ダクロン移植体は、移植前に、RIPを含有する生理食塩水20mg/LまたはRIPを含有しない生理食塩水20mg/Lに浸漬され、一部の動物は、予防治療としてRIP10mg/Lを腹腔内投与された。結果を図16(A)および(B)に要約する。
【0131】
これらの結果は、任意の種類のブドウ球菌感染を予防する目的で、RIPが医療器具を被覆するために使用でき、RIPが抗生物質に対して相助作用することを明確に示している。
【0132】
ブドウ球菌感染の予防および治療の少なくとも一方に適した薬剤の同定
本発明中において特に重要なことは、RAPおよびTRAPの少なくとも一方の発現および機能の少なくとも一方に影響する活性を有する薬剤の同定である。一般に、対象となる薬剤は、例えばRNAIII合成の活性化に作用するRAPの能力を阻害することによって、RAPまたはTRAP活性を阻害する薬剤である。これらの薬剤は、病原性のブドウ球菌の感染に対する治療法開発にあたって候補薬剤となる。特に重要なものは、ヒト細胞への毒性が低くいか、ブドウ球菌への特異性が高いか、それら両方の特性を有する薬剤のスクリーニング法であり、薬剤の作用に耐性を有する株の選択に対する圧迫がほとんどないか、または、できるだけ少なく、宿主の正常細菌フロラにほとんど影響しないもの(例えば、幅広い効果を有する抗生物質とは明確に区別されるもの)が望ましい。
【0133】
本明細書で使用される用語「薬剤」は、RAPまたはTRAP活性を変えるか、または、RIP活性の模倣ないし強化能を伴う、例えばタンパク質や医薬品などの任意の分子のことをいう。一般に、複数のアッセイ混合物が、種々の濃度に対する反応の差違を検出するため、異なる薬剤の濃度で平行して試験される。代表的な例として、これら濃度のうちの一つは、陰性対照の役割を果たすものであり、それは濃度0または検出レベル未満のものである。
【0134】
候補薬剤には、多数の化学的分類が含まれるが、代表的な例としては、有機分子、望ましくは、分子量が50ダルトンより大きく2500ダルトン未満の小さな有機化合物である。候補薬剤は、タンパク質との構造的に相互作用し、特に、水素結合に必要な官能基を含み、代表的な例としては、少なくともアミン、カルボニル、ヒドロキシルまたはカルボキシル基、望ましくは、少なくとも2つの官能化学基を備えている。候補薬剤は、多くの場合、一つまたは複数の上記官能基を置換した環状炭素や複素環構造および芳香族や多環芳香族構造の少なくとも一方を含む。また、候補薬剤は、生分子の中にも見いだされ、ペプチド、糖類、脂肪酸、ステロイド、フェロモン、プリン、ピリミジン、誘導体、構造アナログまたはそれらの混合物などを含むが、これらに限定されるものではない。
【0135】
候補薬剤は、合成または天然化合物のライブラリを初めとする広範なソースから入手される。例えば、任意抽出されたオリゴヌクレオチドおよびオリゴペプチドの発現を含め、任意のおよび指示された広範な有機化合物や生体分子の合成のために多くの手段が利用可能である。これに変えて、細菌(例えば非病原性ブドウ球菌)、真菌、植物および動物からの抽出物の形態の天然化合物のライブラリが利用可能であるか、または、簡単に作成できる。さらに、天然または合成的に作成されたライブラリおよび化合物は、従来の化学的、物理的、生物化学的手段を使えば簡単に修飾され、組み合わせたライブラリを作成するために使用できる。既知の薬理学的な薬剤は、構造アナログを生産するために、アシル化、アルキル化、エステル化、アミド化などの指示されたもしくは任意の化学修飾を受けるか、プロニルなど保護基を含むか、または、Dアミノ酸を含むことができる。
【0136】
候補薬剤のスクリーニング
広範な種々のインビトロでのアッセイが、候補薬剤をスクリーニングするために用いられ、例えばタンパク質−タンパク質結合、タンパク質−DNA結合アッセイ、電気泳動移動度シフトアッセイ、タンパク質を結合させる免疫測定法など、インビトロでの標識結合アッセイを含んでいる。精製された天然由来、組み換え、または合成のRAP、TRAPおよびRIPポリペプチドの少なくとも一つと、合成生産ペプチドまたはRAP、TRAPおよびRIPの断片の少なくとも一つとのうちのいずれか一方、または、両方が、天然タンパク質に、結合、調節(例えば増大または阻害)または天然タンパク質の作用を模倣するリガンドまたは基質を特定するため、種々のスクリーニングアッセイに使用され得る。精製されたタンパク質は、3次元結晶構造の決定にも使用可能であり、この3次元結晶構造は、分子内相互作用、転写調節などのモデリングに使用できる。
【0137】
このスクリーニングアッセイは、1つまたは複数の分子が標識に結合し、標識が検出可能な信号を直接的または間接的に提供する結合アッセイである。種々の標識としては、放射性同位体、蛍光剤、化学発光剤、酵素、特異結合分子、磁性粒子などの粒子、その他などが含まれている。特異結合分子としては、ビオチンとストレプトアビジン、ジゴキシンとアンチジゴキシンなどの対などが含まれている。特異結合の部材のため、通常、相補的な部材は、既知の手法にしたがって検出のために与えられる分子で標識される。一般に、用いられるスクリーニングアッセイの特有の形として、多数の候補薬剤の平行および同時のスクリーニングが望ましいであろう。
【0138】
本発明のスクリーニングアッセイには、候補薬剤のRNAIII生産におけるRAP、TRAPおよびRIPの役割および毒性因子の生産の少なくとも一方に対する候補薬剤の影響を検討するアッセイが含まれる。例えば、候補薬剤は、病原性ブドウ球菌に接触でき、薬剤存在時のrnaiii転写レベルは、RIP、RAP、TRAP存在下およびRIP、RAP、TRAPの組み合わせの少なくとも一方におけるrnaiii転写レベルと比較する。このようなスクリーニングアッセイは、CAT(クロラムフェニコルアセチルトランスフェラーゼ)、p−ガラクトシダーゼ、rnaiiiまたは病原性因子遺伝子に操作可能に結合されるか、rnaiiiまたは毒性遺伝子転写の検出を促進するか、または、rnaiiiまたは毒性因子生産を促進するその他の物質のようなレポーター遺伝子系を含有する組み換え宿主細胞を利用することができる。これに代えて、スクリーニングアッセイは、当業者に周知のハイブリダイゼーション技術(例えばノーザンブロット、PCRなど)を用いて、rnaiiiまたは毒性因子転写を検出することができる。
【0139】
種々の他の試薬が、本明細書中に記載されるスクリーニングアッセイに含まれる。アッセイが結合アッセイの場合、アッセイは、塩、例えばアルブミンなどの中性タンパク質、洗剤など、最適なタンパク質−タンパク質結合、タンパク質−DNA結合を促進するため、および、非特異またはバックグラウンドの相互反応を低減させるための少なくとも一方の試薬が含まれる。また、タンパク分解酵素阻害剤、核酸分解酵素阻害剤、抗菌薬など、アッセイの効率を高める試薬が使用され得る。化合物の混合物は、必要な結合をもたらす任意の順序で添加される。インキュベーションは、任意の適切な温度で、代表的な例としては4℃〜40℃の間で行われる。インキュベーション時間は、最適な活性を得るために選択されるが、速い高スループットのスクリーニングを促進するために最適化することもできる。代表的な例としては、0.1から1時間の間であれば十分である。
【0140】
動物モデルにおける候補薬剤のスクリーニング
上述のアッセイで決定されたような所望の活性を有する薬剤は、非ヒト動物モデルで、さらにブドウ球菌毒性因子生産に対して影響を及ぼす能力や、ブドウ球菌の感染能力に対する影響をさらにスクリーニングされ得る。選択された動物モデルは、含まれる因子の数によって変わり、候補薬剤がスクリーニングされるのに対するブドウ球菌の特有の病原株、候補薬剤が治療薬として使われる最終的な目的の宿主などを含むが、これらに限定されるものではない。スクリーニングアッセイに使用するのに適した動物は、選択されたブドウ球菌種による感染を受ける任意の動物が含まれる。例えば、ブドウ球菌種がS.aureusまたはS.epidermidsである場合、動物モデルは、齧歯類モデルにでき、望ましくはラットまたはマウスモデルである。
【0141】
一般に、候補薬剤は、ブドウ球菌感染を受けるヒト以外の動物に投与され、動物は、ブドウ球菌にすでに感染しているか、ブドウ球菌の感染用量を候補薬剤とともに投与されることになる。候補薬剤は、所望の効果を得るための薬剤の移送にとって所望の方法および適切な方法の少なくとも一方の方法で投与できる。例えば、候補薬剤は、注射(例えば、静脈注射、筋肉注射、皮下注射または所望の効果を達成すべき組織内に直接)によって、局所的に、経口的に、またはその他の望ましい手段で投与できる。通常、このスクリーニングは、種々の量および濃度の候補薬剤(候補薬剤を投与しない状態から、動物にうまく移送できる上限量に近い量まで)を受容する動物の数が関係し、そして、異なる方式での薬剤の移送を含んでいる。薬剤は、単独で投与することも可能であり、特に薬剤の組み合わせによって相助作用をもたらしうる場合は、2種以上組み合わせて投与することもできる。薬剤は、動物内に移植される医療器具を被覆するために使用することもできる。
【0142】
薬剤投与の動物モデルに対する効果は、任意の適切な方法、例えばブドウ球菌に起因する病変の数および大きさ、感染の微生物学的証拠、健康全般などの評価によって、監視できる。候補薬剤が、所望の方式で(例えば、感染負荷を低減し、病変の緩解を促進することによって)ブドウ球菌の感染に影響を及ぼす場合、候補薬剤は、ブドウ球菌の感染の治療への使用に適した薬剤として同定される。
【0143】
細菌感染の治療
本発明は、所定の細菌感染(例えばヒトにおけるS.aureus)による感染を受けるヒトまたは動物の予防または治療の方法を、毒性因子生産を促進するRAPまたはTRAP活性を阻害する薬剤を投与することによって、例えば、RNAIIIのRAPを介する活性や、その後の毒性因子生産を阻害することによって提供する。
【0144】
所望の薬理活性を有する化合物は、病原性のブドウ球菌の感染の治療または予防のために、生物学的に許容される担体で宿主へと投与できる。治療薬剤は、経口、局所、非経口、例えば皮下、腹腔内、静脈内、肺内(吸入)など、種々の方法で投与できる。導入の方法に応じて、化合物は、種々の方法で処方できる。処方中の治療上活性のある化合物の濃度は、0.1−100重量%と様々である。
【0145】
製薬組成物は、顆粒、錠剤、ピル、坐剤、カプセル、懸濁物、軟膏、ローションなど種々の剤型で調剤できる。医薬品グレードの有機または無機の担体および経口や局所的な用途に適した希釈液の少なくとも一方が、治療上活性な化合物を含有する組成物を作成するのに使用できる。技術として既知の希釈液には、水性媒体、動物性および植物性油脂などを含んでいる。安定剤、湿潤剤および乳化剤、種々の浸透圧のための塩類または適切なpH値を確保するための緩衝液、皮膚浸透促進剤が、補助剤として使用できる。
【0146】
一実施形態において、宿主は、RIP、または、抗RAP抗体などのようなRAPまたはTRAPの阻害剤、または、それらの両方の投与によって治療される。別の実施形態では、RAP阻害剤は、他のRAPやTRAPの阻害剤とともに投与されるか、または、ブドウ球菌毒性に対する他の阻害剤とともに投与されるか、それらの両方とともに投与される。例えば、RIPおよび従来の抗生物質の少なくとも一方が一緒に投与される。また別の実施形態では、RAPやTRAPの阻害剤、RIP、そして、RAPやTRAPの阻害剤(例えば抗RAPまたは抗TRAP抗体)が投与される。これらの組み合わせの治療では(例えば複数のRAP阻害剤の投与と、RAPおよびRIPの投与と、RAPまたはTRAPの阻害剤、RIPおよびTRAPまたはRAPの阻害剤の少なくとも一方の投与との少なくとも一つを投与)、有効組成物の同時投与または連続投与を行うこともできる。用法用量は、最適の治療反応を提供するよう調整される。例えば、毎日何回かに分けた用量を投与してもよく、または、治療状況に応じた比率で用量を減少させることもできる。有効化合物は、経口、静脈内、筋肉内、皮下、口腔、経皮または吸入など、任意の便利な方式で投与できる。
【0147】
RIP、RAP阻害剤、TRAP阻害剤、または、これらの組み合わせから成る処方は、治療上有効な用量、例えば感染の予防または治療の成功率を高めるのに十分な用量で投与される。このような処方の投与は、類似の用途で使用される薬剤の投与に適用されたいずれの方式を介しても行うことができ、全身的な投与を介することが望ましい。投与は、他の阻害剤、例えば従来の抗生物質との上記のような組み合わせを含み得る。
【0148】
感染治療のためのヒトへの用量レベルは既知であり、一般に、1日あたり体重に対して約0.1から500.0mg/kgであり、望ましくは、約6.0〜200.0mg/kg、最も望ましくは、約12.0から100.0mg/kgである。一般に、処方は、任意の感染を10日未満で消滅または低減するために必要な循環値とほぼ同じか、または、それより多い血清濃度を得ることが求められている。70kgのヒトに対する投与では、用量は、1日当たり約50mgから3.5gであり、望ましくは、1日あたり約100mgから2gであり、最も望ましくは、1日あたり200mgから1gである。投与される処方量は、当然のことながら、被験体および苦痛の重篤度、投与の様式および日程、そして、処方する医師の判断に依存する。
【0149】
感染治療のための処方の採用において、任意の医薬品に許容された投与形態が使用され得る。処方は、単独でも、または、他の医薬品的に許容された賦形剤と組み合わせ、錠剤、カプセル、粉剤、液体、ゲル、懸濁液、坐剤、エアロゾルなどで投与できる。また、処方は、デポー注射、浸透圧ポンプ、ピル、経皮パッチ(電子輸送を含む)、その他など、持続型または放出制御型の剤型で投与でき、望ましくは、単回投与の厳密な用量に適した単位剤型、または、体内に挿入される器具の被覆である。
【0150】
組成物は、代表的な例としては、従来の医薬品の担体または賦形剤や、本発明の処方を含む。さらに、これら組成物は、他の有効成分、担体、アジュバントなどを含有できる。一般に、意図された投与形態に応じて、医薬品として許容された組成物は、化合物の重量比で約0.1%から90%、望ましくは、約0.5%から50%を含有し、残りは適切な医薬品の賦形剤、担体などである。これら剤型を調製する実際の方法は、既知であり、すべて当業者には明らかである。例えば、Remington’s Pharmaceutical Science、Mack Publishing Company、イーストン、ペンシルバニア、第15版を参照。
【0151】
非経口の投与は、一般に、皮下、皮内、筋肉内または静脈内への注射、望ましくは皮下注射を特徴とする。注入物は、液体溶液または懸濁液、注入前に液体溶液、懸濁液とすることに適した固体、または、乳液のいずれかの従来の剤型で調製できる。適切な賦形剤は、例えば水、生理食塩水、D型グルコース、グリセロール、エタノールなどである。さらに、所望の場合、投与される製剤組成物は、湿潤剤または乳化剤、pH緩衝剤、溶解性向上剤など、例えば酢酸ナトリウム、ソルビタンモノラウレート、オレイン酸トリエタノールアミン、シクロデキストリンなどの少量の非毒性の補助剤を含有できる。
【0152】
このような非経口組成物に含まれる有効成分の割合は、組成物の特有の特性、や被験体の必要性に大きく依存する。しかし、溶液で0.01%から10%の有効成分の割合が用いられ、組成物が固体で上記のような割合まで後で希釈される場合、有効成分の割合はさらに高くなる。望ましくは、組成物は、溶液で0.2から2%の有効成分を含有する。
【0153】
より近年になって考案された非経口投与のための方法は、用量の一定値を維持するように、徐放型または持続放出型のシステムの移植を利用している。徐放を制御するため、そして、有効成分の放出を漸次低減するための種々の材料(例えばポリマー、親水性ゲルなど)が当業者において既知である。米国特許第3,845,770号(基本的な浸透圧ポンプを記載)、第3,995,651号、第4,034,756号、第4,111,202号(小型浸透圧ポンプを記載)、第4,320,759号、第4,449,983号(プッシュプルおよびプッシュメルト浸透圧ポンプと呼ばれる複室浸透圧システムを記載)、そして、第5,023,088号(種々の用量単位の連続計時型分注用浸透圧ポンプを記載)を参照。
【0154】
有効組成物の処方は、鼻孔または肺吸入エアロゾル、噴霧器用溶液、または、吸入用微粉末として、単独または乳糖などの不活性な担体とともに、または、他の医薬品として許容された賦形剤とともに呼吸路に投与できる。このような場合、処方の粒子は、50ミクロン未満が有利であり、望ましくは10ミクロン未満の直径を有する。本発明の処方の投与に適したインスリン投与方法を開示する米国特許第5,364,838号を参照。
【0155】
予防接種
本発明は、所定の細菌感染(例えばS.aureusやS.epidermids)による感染を受けるヒトまたは動物に予防接種するためのワクチンを、RAP、TRAP、または、RAPやTRAPの抗原有効部位を、任意でアジュバントを含む場合もある医薬品として許容された担体で投与することにより提供する。免疫反応を消滅させるために適した処方は、当業者には周知である。一般に、宿主は、RAPまたはTRAPなどの抗原に曝露され、このため宿主の免疫系をかく乱し、抗原に対する免疫反応をきたす。抗原に対する免疫反応を増加するため、抗原とともにアジュバントも添加できる。投与されたポリペプチドの量は、宿主の保護のための免疫反応を発現させるために十分な量である。これら適切な量を決定する方法は、当業者は日常的に行っており周知である。例えば、RAP、TRAPおよびその抗原的有効部の少なくとも一つを利用して、ブドウ球菌感染の動物モデルに予防接種できる。これら動物モデルに有効量は、予防接種の有効量を提供するため、他の宿主(例えば家畜、ヒトなど)で推定できる。
【0156】
組み換えRAP(rL2)を有する動物の予防接種
4週齢のメスBalb/Cマウス(10体/群)に対し、0、7、21日目に、50μgのrL2(50μg/50μL PBS)を、初回注射時に50μLの完全フロインドアジュバント、第2、3回注射時に不完全フロインドアジュバントとともに皮下注射した。対照動物は、アジュバント/PBSのみを注射した。動物は、35日目に下記のように調製した2×109のSmith Diffuse S.aureus(SD)でチャレンジした。動物は、毎日、死亡率、全般的な健康、病変の進展を観察した。病変の大きさが測定された(面積=0.5n(長さ)(幅))。
【0157】
チャレンジ用細菌の調製は、Smith Diffuse S.aureus(SD)を血液寒天プレートで、37℃で一晩増殖させた。細菌は、濃度2×1010細胞/mLでPBSに懸濁された。2×109個(100μL)の細胞が、1mgのサイトデクスビーズとともに予防接種動物および対照動物に皮下注射され、局所的な感染を誘発した。
【0158】
ELISAによる抗体レベルの決定。初回の予防接種の前、および、第3回の予防接種から10日後に、尾の先端から血を1滴採取した。ELISAプレートは、50μLの25μg/mL抗原または対照となる3%BSAで一晩被覆した。そのとき、ウェルが、3%BSAで、3時間室温でブロッキングされ、50μLの血清(PBS中に1:1000で希釈)が、室温で2.5時間添加された。非結合抗体を除去して、0.05%のトゥイーン20を含有するPBSで2分間×5回洗浄した。PBS/トゥイーンに1:2000に希釈した50μLのペルオキシダーゼ抱合抗マウス抗体(Sigma)が37℃で1時間添加された。非結合抗体が除去され、上述のようにウェルが洗浄され、結合抗体がABTS(Sigma)で製造業者の指示にしたがって検出された。
【0159】
予防接種実験の結果
抗原に対する抗体の発現は、予防接種された動物は全てで、注射された抗原に対して、抗体力価(>1000)が発現した。対照動物はいずれも、注射された抗原に対する検出可能な抗体値を示さなかった。
【0160】
チャレンジ後の死亡率は、図4に示すように、アジュバントのみを予防接種した対照動物10例のうち、チャレンジ初日に3体が死亡し、残り1体が2日目、さらに残り1体が3日目に死亡した。
【0161】
病変は、生存動物はすべてで発症し、病変の大きさをチャレンジから5日後に決定した。図5に示すように、対照動物の病変の大きさの平均は、7cm2であり、rL2を予防接種した動物の病変の大きさの平均はわずか2.5cm2であった。
結論
rL2を予防接種した動物は、死亡が遅れ、死亡率が50%減少し、病変の大きさが63%減少した。これらの結果、rL2は、S.aureus感染に対する保護をもたらす。チャレンジに使用される細菌の数は、例えば異常に高いことを注目すべきであり、存在する細菌の数がより少ない場合は、感染からの保護レベルはより高くなると予想される。
【0162】
結論は、RAP(天然型または組み換え型)は、インビトロでのRNAIII合成を阻害し、インビボでS.aureusの感染から保護する。RAPは、L2のホモログであり、すべての細菌にみとめられるため、RAPは、S.aureusの他、種々の細菌感染に対する治療の標的部位として役立つ。
【0163】
被覆された器具
本発明は、RAP、TRAP、RAP様分子またはTRAP様分子を発現するブドウ球菌またはその他の細菌による生物膜の形成を阻害するために有効な量のRAP阻害剤(例えば、抗RAP抗体、抗TRAP抗体、阻害ペプチド、RIPペプチドまたはRIP誘導体ペプチド)を含有する組成物で表面を被覆された器具を提供する。被覆された器具は、宿主(例えば外科患者、生理中の女性)のブドウ球菌またはその他の細菌の感染または曝露の危険に関連する任意の器具である。
【0164】
本発明に包含される被覆された器具の例としては、カテーテル、針、外科器具(例えば外科用メス、スポンジ、開創器など)、包帯および包帯材料(例えばガーゼ、手当用品)、人工関節、心臓弁、タンポン、または、他の医療器具などを含むが、これらに限定されるものではない。これら器具は、ブドウ球菌またはその他の細菌を宿主と接触させるか、このような状況で、ブドウ球菌細菌によるコロニー形成を誘引する傾向があり、被覆された器具は、ブドウ球菌またはその他の細菌の感染を予防するか、または、例えばブドウ球菌の毒性因子への曝露に関連する重篤な症状の予防または緩和もできる。
【0165】
本発明は、ここに具体的な実施形態を参照して説明してきたが、本発明の真の精神および範囲から逸脱することなく種々の変更を加え、同等のものに置き換えられることが当業者によって理解されるべきである。さらに、本発明の目的、精神および範囲に適合させるために、特定の状況、材料、組成物、工程、工程の段階または段階に対して、多くの修正を加えることができる。これらすべての修正は、本明細書に付属する請求項の範囲内となるよう意図されている。
【図面の簡単な説明】
【0166】
【図1】S.aureus RN6390B(AF205220)、S.epidermids RP62A(TIGRデータベース)、ブドウ球菌発熱物質M1 GAS(AE014137)、Listeria monocytogenes EGD(AL591983)、Lactococcus lactis(AE006438)、Enterococcus faecalis(TIGRデータベース)、Escherichia coli K12(AE000408)、Clostridium acetobutylicum(AE007808)、Bacillus subtilis(Z99104)といった細菌からの推定RAP(RplB)アミノ酸配列の複数配列並列解析(ClustalW)である。
【図2】rRAP(2□g)(第1、3列)および天然型RAP(30倍濃度の指数増殖期後の上清タンパク質30□L)(第2、4列)を含有するS.aureus RN6390Bの培養上清がSDS12.5%PAGEにかけられたことを示すゲルの写真であり、ゲルは、ウェスタンブロットし、乳でブロッキングされ、膜をポンソー染色してタンパク質を可視化し(第1、2列)、そして、モノクローナル抗rRAP抗体(腹水、1:1000に希釈)でインキュベートし、結合した抗体は、ペルオキシダーゼ抱合抗マウス抗体によって検出され、化学発光によって可視化され、そして、膜がオートラジオグラフにかけられた(第3、4列)。
【図3A】rnaiii::blaZ融合構成物(指数増殖期早期2×107個)を含有するS.aureusの細胞が、rRAPを増量され(0−100□g)、45分間増殖されたことを示すグラフであり、□−ラクタマーゼ活性は、490/650nmの光学密度として決定され、示されており、陽性対照として、部分精製されたRAP(S.aureus RN6390Bの天然型、指数増殖期後の上清>10kDa)を10kDのカットオフ膜にかけた。
【図3B】細胞(指数増殖期早期108個)が、1mgのrRAPとともに(第1列)、または、rRAPなしで(第2列)30分間増殖され、細胞が回収され、ノーザンブロットされ、RNAIII特異的放射性標識DNAを使用してRNAIIIの存在が検出され、膜がオートラジオグラフにかけられ、バンドの密度が決定された。
【図4】Balb/c天然型マウス(対照)またはrL2を予防接種して2×109個のS.aureusにチャレンジされたマウスの死亡率を示す。
【図5】2×109個のS.aureusによるチャレンジ後に生存したrL2予防接種動物における病変の発症を示す。
【図6A】指数増殖期早期から数時間の間に増殖した細胞の曲線、時間間隔をおいて決定された(光学密度600nmにおける)細胞密度で、円はTRAP+、四角はTRAP−である。
【図6B】図6Aに示す各増殖段階(3×108個の細胞)からの細胞試料を示すゲルの写真であり、細胞は、回収されてノーザンブロットされ、RNAIII特異的放射性標識DNAを使用してRNAIIIの存在が検出され、膜は、オートラジオグラフにかけられ、S.aureus TRAP+(第1、2、3列)、S.aureus TRAP−(第4、5、6列)で、第1、4列は指数増殖期早期、第2、5列は指数増殖期中期、第3、6列は指数増殖期後である。
【図7A】溶血試験用のヒツジ血液寒天プレートで増殖させた細胞の写真で、TRAP+による溶血が図の一部に示され、TRAP−が底部に示されている。
【図7B】ポリスチレンマイクロタイタープレートで、37℃で4時間増殖させた指数増殖期早期のS.aureus TRAP+およびTRAP−株の接着を示すグラフで、接着細菌をサフラニンで染色し、吸光度を490nmで決定したものである。
【図8】病変の大きさ、S.aureus 8325−4親株(TRAP+)(左側パネル)、S.aureus 8325−4(TRAP−)変異株を示すグラフである。
【図9】ブドウ球菌株および種からの推定TRAPアミノ酸配列の複数配列並列解析(ClustalW)である。
【図10】TRAPおよびそのホモログの二次構造予測であり、S.aureus TRAP(GenBank AF202641)、Listeria monocytogenes EGDLMO2213(GenBank AL591982)、B.subtilis YhgC(GenBank Z99109)の推定アミノ酸配列を、PCIPRED v2.4を使用して予測した推定二次構造で、コイルを実線、らせんを横向き円柱形、鎖を矢印で示す。
【図11】GenBankおよび対応するゲノムプロジェクトデータベースから得たDNA配列に基づいて設計された遺伝子領域マップで、S.aureustra P(AF202641および本明細書)およびその相同体、S.epidermids(TIGRデータベースおよび本明細書)、Listeria monocytogenes EGDLMO2213(AL591982)、Listeria innocua(AL596171)、Bucillus subtilis(Z99109)およびB.anthracis(TIGRデータベース)を灰色の矢印で示し、推定の転写ターミネータを黒色の逆三角形で示し、側面のhemEおよびecsBの間の距離(kB単位)を、分断された両方向矢印で示し、hemE遺伝子は、プロトヘムIX生合成経路の後期段階の酵素をコード化し、ecsBC遺伝子は、タンパク質分泌組織の成分および二次タンパク質転写を調整された様式でコード化し(B.subtilis)、cadD遺伝子は、S.aureusプラスミドnRW001に非常に似ており、pbpF遺伝子はB.subtilis発芽工程にかかわるペニシリン結合タンパク質をコード化し、遺伝子yhgB、yhfA、yhaAは未知の機能の仮定のタンパク質をコード化する。
【図12】Listeria monocytogenes株1001(第1列)、Listeria monocytogenes株ScottA(第2列)およびリステリアイノキュア株3009を、P32とともに早期指数増殖段階の細胞を1時間増殖せせることによって得た、体内リン酸化を示すゲルの写真。全細胞ホモジネートをSDS PAGEで単離し、ゲルをオートラジオグラフした。
【図13】RIPがS.aureusおよびS.epidermidsの両方において、TRAPリン酸化を阻害することを示すゲルの写真で、S.aureus(右側パネル)およびS.epidermids(左側パネル)を、RIPの存在時または不存在時に1時間インビボでリン酸化し、全細胞のホモジネートをSDS PAGEで分離し、ゲルをオートラジオグラフにかけた。
【図14A】RIP(RIP−)の存在時およびRIP(RIP+)の不存在時の接着を示すグラフで、FITC標識細菌細胞(106個のCFU)を、5μgのRIP(RIP+/−)の存在時または不存在時に、104個の融合HaCat細胞を含有するマイクロタイタープレートに塗布し、細胞を37℃で30分間培養し、PBSで洗浄し、485/530nmで蛍光度を決定した。
【図14B】RIP(RIP−)の存在時およびRIP(RIP+)の不存在時の接着を示すグラフで、S.epidermidsを、ポリエステルプレートに3時間塗布し、接着細菌をサフラニンで染色し、490nmでの吸光度を求めた。
【図15】局所(A)または非経口(B)の抗生物質の予防の存在時および非存在時に、RIPで被覆したダクロン移植体を使用した表皮感染の予防。
【図16】RIPがダクロン移植体起因S.epidermids(A)およびS.aureus(B)を予防する。
【図17】S.aureusの病原性の提唱された機構。
【技術分野】
【0001】
本発明は、ブドウ球菌属に起因するものなど、細菌を原因とする、細菌の生物膜、感染、疾患または症状に対する治療または予防の方法およびその組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
関連する出願の参照
本出願は、現在は放棄された1997年12月19日提出の出願番号第60/068,094号仮出願の利益を主張し、後に米国特許第6,291,431号として発行された1998年4月2日提出の米国特許出願第09/054,331号の継続出願である米国特許出願第09/839,695号の継続出願であり、各出願は参照により全体が本明細書中に含まれる。
薬剤耐性ブドウ球菌が主な医療問題となっている
ブドウ球菌(特に、S.aureusやS.epidermids)は、ヒトに対する主要な病原体であり、そして、毎年入院患者の約200万人に院内感染を引き起こし、米国の病院での死亡率の35%増加を引き起こしている米国で報告される院内感染の最大の共通原因である。S.aureusおよびS.epidermidsによる感染は、院内での肺炎、手術部位および血流の感染、医療器具に起因する感染、ならびに骨髄炎、敗血症性関節炎、心内膜炎、髄膜炎など、市中感染の主な原因となっている(Rubin RJなど、Emerg Infect Dis.1999;5:9−17[1])。現在、世界のブドウ球菌感染患者の95%は、ペニシリンまたはアンピリシンなどの第一世代の抗生物質には反応しない。以前、薬剤耐性ブドウ球菌は、概ね病院および養護施設に限られていたが、現在は市中に広がりつつある(Lowy FD.N.Engl.J.Med.1998;339:520−532[2])。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
薬剤耐性細菌の出現および伝播によって、S.aureus、S.epidermids、その他の細菌などの感染に対する新しい予防方法や代替の抗生物質治療を見いだすことの必要性が強くなってきている。本発明は、この必要性などに対処するものである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
S.aureusは毒性因子の生産によって病気を引き起こす
S.aureusは、ヒトの皮膚の正常な細菌フロラの一部であるが、生物膜の形成および毒性外部分子の少なくとも一方の形成による致死的疾患の原因となりうる。毒素は、毒素性ショック症候群を引き起こす発熱性毒素である毒素性ショック症候群毒素−1(TSST−1)、食中毒の主な原因であるブドウ球菌エンテロトキシン、細菌がその代謝産物の環境を利用可能にし、宿主内にその細菌を拡散可能にするタンパク質分解酵素、および、ブドウ球菌によって発現、分泌、結合され、感染過程の結果への影響を示す溶血素、ロイコシジンおよびその他の毒性因子を含んでいる[2]。
【0005】
治療法開発のための新しい取り組みは、ブドウ球菌の毒性(生物膜の形成および毒素の生産)を抑制することである。毒性因子の生産を排除することによって、細菌の病原性が一層低下するだけでなく、細菌は、宿主の免疫による防御および従来の抗生物質に対してより影響を受けやすくなる(Balaban Nら、Science 1998;280:438−440[3])。
【0006】
クオラムセンシングによるブドウ球菌の毒性の調節
生物膜の形成および毒素の生産は、細菌(自己誘導物質)によって生産、分泌された分子が閾値濃度に到達し、形質導入経路の信号を活性化し、さらに毒性因子をコード化している遺伝子を活性化するクオラムセンシング機構によって調節される[2]。
【0007】
S.aureusは、細菌がより低密度のとき、増殖の指数増殖期の早期において、フィブロネクチン結合タンパク質、フィブリノーゲン結合タンパク質、プロテインAなどの表面分子を発現する[2]。接着分子の発現は、細菌が宿主細胞および移植した医療器具に接着し、コロニー形成を可能にする。より高密度のとき、細菌は、細菌を生存させ、感染を広め、もたらす、毒素性ショック症候群毒素−1(TSST−1)、エンテロトキシン、タンパク質分解酵素、溶血素などの外部分子を生産する[2]。
【0008】
細菌の、より低密度での接着分子の発現、コロニー形成能力、また、より高密度での毒性の外部分子の発現能力は、クオラムセンシング(QS)機構(Kleerebezem Mら、Mol.Microbiol.1997;24:895−904[4])や、traP(Balaban Nら、J Biol Chem2001;276:2658−2667[5])、agr(Lina Gら、Mol Microbiol 1998;28:655−662[6])、sar(Heyer Gら、Infect.Immun.2002;70:127−133[7])、sae(Giraudo ATら、FEMS Microbiol.Lett.1999;177:15−22[8])のような遺伝子座の活性化を伴う複雑な調節過程によるものである。これらの過程は、毒性の調節と平行して、または、同時に作用する[5]。
【0009】
これまで、2つのブドウ球菌クオラムセンシング(SQS)システムが開示されている。SQS1は、自己誘導物質RNAIII活性化タンパク質(RAP)や、その標的分子TRAPから成る[3、5]。RAPは、(RplB遺伝子によってコード化された)リボソームタンパク質L2のオーソログであり、通常は277個のアミノ酸から成る約33kDaのタンパク質[3]である。RplBは、真正細菌中で高度に保存される(以下の詳細な説明参照)。TRAPは、RAPの存在下でリン酸化された約21kDaのタンパク質である[5]。TRAPの配列は、ブドウ球菌株や種で高度に保存され、TRAPの二次構造は、グラム陽性菌で高度に保存される。TRAPは、通常、167個のアミノ酸で構成されている(以下の詳細な説明参照)。
【0010】
SQS2は、遺伝子調節系agrの生産物で構成される。agrは、2つの異なる様式で転写された転写物、RNAIIおよびRNAIII(Novick RPら、Mol.Gen.Genet.1995;248:446−458[9]およびNovick RPら、EMBO J1993;12:3967−3975[10])をコード化する。RNAIIは、AgrA、AgrC、AgrD、AgrBをコード化するポリシストロニック転写物であり、AgrDは、AgrBの助力によって処理され、分泌される自己誘導性ペプチド(AIP)を産出するプロペプチドである(Otto M.Peptides2001;22:1603−1608[11]およびSaenz HLら、Arch Microbiol2000;174:452−455[12])。一度agrが活性化され、AIPが分泌されると、AgrC[6]およびAgrAのリン酸化を誘発し、その結果、RNAIII[10]と呼ばれる調節RNAの分子が生産される。RNAIIIは、分泌された多数の毒素の生産を増大する[10]。
【0011】
SQS1とSQS2との相互作用
RAPは、その標的分子TRAPのリン酸化を誘発し、未知の様式で細胞接着の増加およびagrの活性化の両方をもたらす。一度agrが(増殖の指数増殖期の中期において)活性化されRNAIIが生産されると、オクタペプチド(AIP)や、その受容体AgrCが生産される。AIPは、TRAPのリン酸化を低減するとともに(その結果接着特性が低下する)[5]、独立してその受容体、AgrCのリン酸化を増大する[6]。これがAgrAのリン酸化をもたらし、その結果、RNAIIIが生産される。RNAIIIは、多数の毒性外部分子の発現をもたらす[10]。
【0012】
SQS1の阻害:細菌感染に対する治療および予防の新様式
RAP(天然型および組み換え型)のワクチンを接種されたマウスは、S.aureusのチャレンジ試験から守った[3]。これは、S.aureusの病原性におけるRAPの重要な役割を確認し、新しいワクチン開発の機会を開くものである。
【0013】
ブドウ球菌感染は、RNAIII阻害ペプチド(RIP)によって阻害することができる。RIPは、SQS1の既知の機能に干渉することによって、ブドウ球菌の接着および毒素の生産を阻害する。RIPは、TRAPのリン酸化の誘発においてRAPと競合するため、TRAPのリン酸化を阻害する[5]。これは、細胞接着および生物膜の形成の低減、RNAIII合成の阻害、および、毒性表現型の抑制をもたらす[3]。ペプチドRIPは、最初に、99%の確率でS.Xylosusと同定されたコアグラーゼ陰性ブドウ球菌の培養上清から単離された。RIPの配列は、YSPXTNFとして同定され、XはCys、Trpまたは修飾アミノ酸であってもよく、また、YKPITNのようなペプチド誘導体であってもよい(Gov Yら、Peptides、2001;22:1609−1920[13])。合成RIPのアナログは、YSPWTNF(−NH2)としてそれらのアミド形状で設計され、インビトロにおけるRNAIIIの阻害、および、蜂巣織炎(S.aureus Smith Diffuseに対するマウスでの試験)、敗血症関節炎(S.aureus LS−1に対するマウスでの試験)、角膜炎(S.aureus 8325−4に対するウサギでの試験)、骨髄炎(S.aureus MSに対するウサギでの試験)、乳腺炎(S.aureus Newbould305、AE−1および環境感染に対するウシでの試験)などのインビボにおけるS.aureus感染の抑制において、きわめて有効であることが示される(Balaban Nら、Peptides2000;21:1301−1311[4])。これらの知見は、RIPがブドウ球菌感染を阻害し、抑制するための有用な治療分子として役に立つ可能性を示している。
【0014】
生物膜に関連した感染
表面に接着した細菌は、それら自身が合成する水和重合マトリクスで集塊して生物膜を形成する。これら固着性の群体の形成および抗菌薬に対する先天的な抵抗力は、多くの持続的、慢性的細菌感染の根元となっている(Costerton JWら、Science.1999;21:284:1318−1322[15])。生物膜は、多くの場合、不活性な表面または死んだ組織上で優先的に発育し、そして、医療器具や除去して死んだ骨のような死んだ組織断片でも一般的に起こり、さらに、それらは、心内膜炎の場合などのように生体組織上でも形成し得る。生物膜は、1箇所以上でゆっくりと増殖し、生物膜感染は、しばしば、明確な症状を呈するのが遅い。定着した細菌細胞は、抗原を放出し、抗体の生産を刺激するが、抗体は、生物膜内の細菌の殺滅効果はなく、周囲の組織に免疫複合物による病変を引き起こす可能性がある。すぐれた細胞および体液の免疫反応を有する個体においても、生物膜感染は、宿主の防御機構ではほとんど解消されない。代表的な例としては、抗生物質による治療は、生物膜から放出される浮遊集合体細胞によって引き起こされた症状を緩解させるが、生物膜の殺滅には機能しない。このような理由から、生物膜感染は、代表的な例として、抗生物質治療のサイクルの後、接着性の個体群が体内から外科的に除去されるまで再発症状を呈する。したがって、生物膜が形成された後に生物膜を根絶させようと試みるのでなく、生物膜形成を阻害することが重要である。
【0015】
表1に示すように、多くの生物膜に関連する院内感染は、ブドウ球菌が原因である[15]。
【0016】
【表1】
RIPが細菌接着を低減
RIPは、真核細胞(HEp2細胞で試験)およびプラスチック(ポリスチレン、シリコンおよびポリウレタンで試験(Balaban Nら、Kidney Int. 2003;63:340−345[16]))に対する細菌接着を低減する。RIPは、ブドウ球菌の感染を予防するために、医療器具を被覆するのに用いることができる。
【0017】
RIPはAIPから逸脱する
RIPは線形ペプチド[13]であるがAIPは活性化されるチオラクトン構造を含有する[11]こと、RIPのセンサはTRAP[5]であるがAIPのセンサはAgrC[6]であること、RIPは細胞接着と毒素生産[16]の両方を阻害するが、阻害性のAIPは毒素生産を阻害するが細胞接着を活性化する(Vuong C, Saenz HL,Gotz F, Otto M.S.aureus中のポリスチレンに対する接着の対するagrクオラムセンシングシステムの影響、J.Infect Dis 2000;182:1688−1693[17])ということから、RIPは、ATPとは逸脱している。
【0018】
RIPの分子の機構
具体的な分子の機構は完全に理解されていないが、RIPは、agrの発現(RNAIIおよびRNAIII[13])を阻害し、それゆえ毒素の生産を阻害することが知られている(Vieira−da−Motta Oら、Peptides、2001;22:1621−1628[18])。agrヌル細胞の接着が、野生型と同様にRIPの存在下で阻害されることから、RIPは、agr非依存性の機構において細胞接着を調節することが知られている。RIPは、TRAPのリン酸化[5]を阻害し、TRAPが細胞接着、agr発現、そして、病原性に不可欠であることがこれまで実証されてきているため(以下の詳細な説明を参照)、RIPは、S.aureusの病原性を、TRAPを介して、そして、おそらく、付加的な標的を介して調節する。
【0019】
上述した、RIPがクオラムセンシング機構を阻害する機構は、TRAPのリン酸化の阻害も含む。S.epidermidsにおいてTRAPやTRAPのリン酸化の存在を示す証拠があり(以下の詳細な説明を参照)、S.aureusやS.epidermidsの両方に類似したクオラムセンシング機構があること、そして、RIPが両種を原因とする生物膜の形成や感染に対して干渉する能力があることを示している。さらに、TRAPが、他のすべてのブドウ球菌株や種にわたって保存されていることが証明され、それ故、他のブドウ球菌種も上記のようなクオラムセンシング機構を有することが証明されている。この結果、RIPは、あらゆるタイプのブドウ球菌に対して有効である。
【0020】
多くのタイプの細菌では、RAPおよびTRAPが治療の標的サイトである
他の細菌に起因する感染は、TRAPと類似した配列のタンパク質を有しているようである。これら細菌には、Bacillus subtilus、Bacillus anthracis、Bacillus cereus、Listeria innocua、Listeria monoctogenesが含まれる(本発明の詳細な説明を参照)。
【0021】
さらに、RAPは、リボソームタンパク質L2のオーソログであり、RplB遺伝子によってコード化されている。L2は、ほとんどの細菌、特に、ブドウ球菌属、リステリア菌属、ラクトコッカス属、エンテロコッカス属、E.coli、Clostridium acetobtylicum、そして、バチルス属などの細菌の間で高度に保存されている。この知見は、S.aureusにおけるRAPの機能の妨害を目的とする治療は、L2−合成を行う細菌の治療にも同様に有効であることを示している(詳細な説明を参照)。
【0022】
本発明は、RAPないしTRAP、またはRAP様ないしTRAP様分子を発現する細菌(例えば、S.aureus、S.epidermidsなどのブドウ球菌属、Bacillus subtilus、Bacillus cereus、Bacillus anthracisなどのバチルス属、Listeria innocua、Listeria monoctogenesなどのリステリア菌属、Streptococcus pyogenes、Lactococcus Lactis、Enterococcus faecalis、Escherichia coli、Clostridium acetobty/Licium)による感染、または感染に起因する疾患の治療や予防の方法および組成物を特徴づける。
【0023】
本発明は、医療器具の被覆、全身各所への注射(静脈注射、腹腔内注射、筋肉注射、皮下注射)、局所塗布または経口投与などの治療方法を特徴づける。
【0024】
本発明の一実施態様は、一般式Y(KまたはS)PXTNF(米国特許出願第09/839,695号における配列識別番号1および2)の全て、または、一部を含むアミノ酸配列を有するポリペプチドを含有する組成物であり、いずれのアミノ酸の部分も修飾でき、XはC、WまたはIにできるものである。実施形態によっては、薬剤の組成物も提供される。
【0025】
本発明の別の実施態様は、ポリペプチドが一般式IKKY(KまたはS)PXTNを含むアミノ酸配列を有し、XがC、W、Iまたは修飾アミノ酸にできるものである。実施形態によっては、製剤組成物もまた提供される。
【0026】
本発明のさらに別の実施態様は、所定の細菌感染のための宿主に対する治療方法であって、RAP受容体の拮抗剤が宿主に投与される。実施形態によっては、宿主はヒトの患者である。さらに別の実施形態では、宿主は、実験動物などに限らず種々の動物である。実施形態によっては、拮抗剤は、ポリペプチド、ペプチド様物質、または、抗体である。
【0027】
本発明のさらに別の実施態様は、本発明のポリペプチドをコード化する核酸分子である。核酸分子は、RNA、DNAまたはアンチセンス核酸分子にできる。一実施形態では、核酸分子は、RIP、RAPまたはTRAPまたはそれらの相同物のヌクレオチド配列を有する。
【0028】
別の実施態様では、本発明は単離された天然型または組み換え型のRAPポリペプチド、ならびに、そのようなRAPポリペプチドをコード化する核酸を特徴とする。
【0029】
別の実施態様では、本発明は単離された天然型または合成型のRIPペプチド、ならびに、そのようなRIPペプチドをコード化する核酸を特徴とする。
【0030】
別の実施形態では、本発明は単離されたTRAPポリペプチド(天然型または組み換え型、TRAPまたはTRAP相同物)、ならびに、そのようなTRAPポリペプチドをコード化する核酸を特徴とする。
【発明の効果】
【0031】
感染に対する新しい予防方法や代替の抗生物質治療を見いだすことの必要性が強くなってきている。本発明は、この必要性などに対処するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
本発明のタンパク質、処方および方法を記述する前に、本発明は、記述された特定の化合物、特性および工程に限定されるものではなく、当然のことながら多様でありうることは、理解される通りである。また、本明細書で使用される用語は、特定の実施形態のみを記述することを目的とし、添付の請求項によってのみ限定される本発明の範囲内に制限することを意図していないこともまた理解される通りである。
【0033】
ここに記載されたすべての刊行物や特許は、参照によって本明細書に組み込まれ、これらの刊行物や特許が引用された箇所との関連で具体的な方法や材料などを開示し、記述するものである。本明細書で論じられる刊行物や特許は、本出願書の出願日前に、その開示のためだけに提供される。本明細書におけるいずれの箇所も、先行発明を理由として、そのような刊行物や特許に先行する権利与えないと解釈されるものではない。さらに、公開または発効の日付は実際の日付とは異なっている場合もあり、個別に確認が必要な場合もある。
【0034】
一般に、以下の説明で使用される学術用語および細胞培養やタンパク質生化学における実験手順は、当業者には周知のものであり一般に使用されているものである。一般的に、酵素反応およびカラムクロマトグラフィは、製造業者の仕様にしたがって実施されている。特に定義されない限り、本明細書中で使用されるすべての技術用語および科学用語は、本発明が属する技術における当業者によって一般的に理解される意味と同じ意味を有する。本発明の実施または試験には、本明細書で記載されるものと類似または同様の任意の方法または材料を使用することができるが、望ましい方法および材料が記載されている。本発明の目的のため、上述の用語を以下に定義する。用語「医学的に許容可能な」または「治療上許容可能な」は、有効成分の有効性や生物学的活性に干渉せず、宿主または患者に対する毒性を有しないことを意味する。
【0035】
用語「コード化している」または「コード化する」は、転写可能な形態で存在し、通常はプロモータに作用可能にリンクした配列情報を意味する。機能プロモータが配列の転写または発現を促進する場合、配列はプロモータに作用可能にリンクする。アンチセンスのらせん構造もまた、同一の情報内容が簡単にアクセス可能な形態で存在するため、特に同一のらせん構造の発現を促進する配列にリンクされている場合、配列をコード化すると考えられる。この情報は、正常な、または修正した遺伝子コードを使用して転換可能である。Watsonら、(1987)遺伝子の分子生物学(第4版)、第1・2巻、ベンジャミン、ベンロパーク、カリフォルニアを参照。
【0036】
核酸配列を意味するために使用される用語「相同の」は、2つ以上のヌクレオチド配列が、その配列の大部分を共有していることを示す。一般には、これは、配列の約70%、望ましくは配列の95%となる。
【0037】
厳密な条件下で同じヌクレオチド配列にハイブリダイズすれば、配列がほぼ同一であることを示す(Sambrookなど、分子クローニング−実験室マニュアル、Cold Spring Harbor Laboratory、コールドスプリングハーバー、ニューヨーク、1985を参照)。厳密な条件とは、配列に依存しており、状況が異なれば条件は異なってくるであろう。一般に、厳密な条件とは、熱融解点TA(TAは所定のイオン強度およびpH)よりも5℃低くなるよう選択される。Tmは、(所定のイオン強度およびpHにおいて)完全に一致したプローブに、標的配列の50%がハイブリダイズする温度である。典型的な厳密な条件とは、pH7で塩濃度が少なくとも約0.2モル、温度が少なくとも約60℃となる。
【0038】
ここで入れ替え可能に使用されている用語であるタンパク質、ポリペプチドまたはペプチドに関して使用されているように、用語「相同の」とは、2つのタンパク質またはポリペプチドがアミノ酸配列の大部分を共有することを示す。一般に、これは90%以上であり、通常は約95%を上回る。ポリペプチドまたはタンパク質の相同性は、代表的な例としては、配列解析ソフトウェア、例えばGenetics Computer Groupの配列解析ソフトウェアパッケージ、ウィスコンシン大学バイオテクノロジーセンター、1710 University Avenue、マディソン、ウィスコンシン、53705を使用して測定される。タンパク質解析ソフトは、種々の置換や欠失、その他の修飾に割り当てられた相同性の測定を用いて、類似の配列を一致させる。代表的な同類置換としては、グリシン、グラニン、バリン、イソロイシン、アスパラギン酸、グルタミン酸、アスパラギン、グルタミン、セリン、トレオニン、リジン、アルギニン、フェニルアラニン、チロシンから成る群の中での置換を含んでいる。
【0039】
本明細書で使用される用語「単離された」は、天然に化合物が発生する環境とは異なる環境に存在する対象化合物(例えばポリヌクレオチドまたはポリペプチド)を説明することを意味している。「単離された」は、対象化合物のために濃縮された試料中にある化合物や、対象化合物が部分的にまたはほぼ精製された化合物、それら両方の状態の化合物を含むことを意味している。
【0040】
用語「単離された」は、例えば核酸に適用されているように、例えばリボソーム、ポリメラーゼ、その他の核酸配列など、天然型核酸に必然的に伴って発生し、他の高分子、細胞化合物またはDNA配列から単離された核酸を意味する。この用語は、天然由来環境から除去してきた核酸やポリペプチドを含み、また、組み換えやクローン化したDNA単離物、化学合成アナログおよび異種遺伝子系によって生物学的に合成されたアナログを含んでいる。ほぼ純粋または生物学的に純粋な核酸は、単離形態の核酸を含んでいる。
【0041】
語句「生物学的に純粋な」または「ほぼ純粋な」は、天然型の状態において、通常付随して発生する化合物がほとんど存在しないか、または実質的に存在していない材料、例えば、少なくとも60%で、望ましくは少なくとも75%で、もっとも望ましくは少なくとも90%天然の状態で結合している他の化合物が存在しない天然のままの状態で見出される材料を意味する。
【0042】
用語「組み換え」は、天然には発生しない核酸配列、または、配列の2つの単離された断片の人工的な組み合わせ、すなわち化学合成、遺伝子工学などによって作成される核酸配列を意味する。
【0043】
用語「治療」または「治療する」は、哺乳類、望ましくはヒトまたはウシ、または、ここで記載された予防や治療が可能な型の細菌感染に罹患しうる他の任意の動物に対する医学的な治療を施すことを意味する。これら動物の範囲はかなり広いと考えられ、ヒトや鳥とは異なる種をも含んでいる。
【0044】
(i)予防、すなわち臨床的な症状が発症しないようにする。例えば、感染の発症や有害な状態への進展を予防する。
【0045】
(ii)阻害、すなわち臨床的な症状の進行を抑制する。例えば、現在進行している感染を停止させ、感染を完全に、または有害でない程度まで排除する。
【0046】
(iii)緩和、すなわち臨床的な症状を退行させる。例えば、感染を原因とする熱や炎症を緩和する。
【0047】
(iv)生物膜形成の予防((または実際の症状の前に)細菌の微生物学的な証拠を得る)。
【0048】
治療は、一般に、本明細書に記載される任意の種(例えば:哺乳類、鳥など)に起因する細菌感染にかかりやすい任意の哺乳類に対して適用され、細菌感染に対する予防または活性化された細菌感染の緩和のための治療は、一般に、哺乳類、例えばヒトまたはウシなどに適用可能であり、細菌は、ブドウ球菌属の細菌である。
【0049】
用語「有効量」や「治療量」は、治療中の疾患状態に対する予防や治療を施すのに十分な用量を意味する。これは、患者、疾患、実施される治療によって様々である。細菌感染の場合、「有効量」とは、感染の治療の可能性を改善するために必要な量、特に、感染の予防や、感染が発症したときに感染の排除の可能性を改善するような量である。
【0050】
本明細書で使用される「タンパク質」、「ポリペプチド」または「ペプチド」は、何らかのアミノ酸配列を包含し、修飾された配列(例えばグリコシル化、PEG化、不変的なアミノ酸の置換の含有、例えば5オキソプロリルを含む保護基、アミノ化など)を含むことを意図している。この用語は天然由来(例えば非組み換え)タンパク質、ポリペプチド、ペプチドおよびオリゴペプチド、ならびに、当業者に周知の方法にしたがって組み換えによって、または合成によって合成された物質を含んでいる。本発明に関連して使用される用語「タンパク質」または「ペプチド」は、ブドウ球菌属中で生じ、感染の治療または感染治療に有用な抗生物質の生産のために有用な、天然由来分子を対象とするよう意図している。「ポリペプチド」、「タンパク質」または「ペプチド」が、本明細書中で天然由来のタンパク質分子のアミノ酸配列に言及するために列挙される場合、「ポリペプチド」、「タンパク質」、「ペプチド」などの用語は、アミノ酸配列を、列挙されたタンパク質分子に関連付けられた天然なアミノ酸配列、完全にそろったアミノ酸配列に限定することを意味するものでない。さらに、本発明のポリペプチドおよびタンパク質、またはその断片は、天然由来のL型のアミノ酸よりも、むしろD型のアミノ酸を有する合成形態で生産されうる。
【0051】
本明細書で使用される「ポリヌクレオチド」は、オリゴヌクレオチド、ヌクレオチドおよびその断片または一部、同様にペプチド核酸(PNA)またはその断片、一部またはそのアンチセンス分子であり、そして、一重または二重らせんにでき、センスまたはアンチセンスらせんに相当するゲノムまたは合成由来のDNAまたはRNAである。「ポリヌクレオチド」が特異的なポリヌクレオチド配列(例えばRIP、TRAPまたはRAPタンパク質をコード化したポリヌクレオチドまたはRIP誘導体、TRAP様またはRAP様タンパク質をコード化したポリヌクレオチド)である場合、「ポリヌクレオチド」は、列挙されたタンパク質、例えば縮重変異株(すなわち、同じアミノ酸配列をコード化し、遺伝子コードの縮重のために現れる核酸配列の変異株)と機能的に等価なタンパク質をコード化するポリヌクレオチド、または生物学的に活性な変異株または列挙されたタンパク質の断片をコード化するポリヌクレオチドを包含することを意味している。
【0052】
「アンチセンスポリヌクレオチド」は、所定のポリヌクレオチド配列(例えばプロモータ)の転写または翻訳に関連付けられたポリヌクレオチド配列を含む所定のポリヌクレオチド配列および所定のポリヌクレオチド配列のコード化配列の少なくとも一方に相補的なヌクレオチド配列を有するポリヌクレオチドであり、アンチセンスポリヌクレオチドは、ポリヌクレオチド配列にハイブリダイズする能力があるポリヌクレオチドを意味している。特に重要なのは、転写および翻訳の少なくとも一方を阻害する能力のある、体内または体外のアンチセンスポリヌクレオチドである。
【0053】
本明細書で使用される「ペプチド核酸」は、リジンなどのアミノ酸残基およびアミノ基が追加されたオリゴマーを含む分子を意味する。これら小さな分子は、アンチ遺伝子剤として指定されているが、核酸の相補(テンプレート)鎖に結合することによって転写による延長を止める(Nielsenら、1993 Anticancer Drug Des8:53−63)。
【0054】
用語「抗体」は、抗原と結合能力がある免疫グロブリンタンパク質を意味している。本明細書の抗体は、抗体全体、同様に重要なエピトープ、抗原または抗原断片の結合能力を有する任意の抗体断片(例えばF(ab)’、Fab、Fv)を含むことを意味する。本発明のアッセイまたはワクチンのための望ましい抗体は、重要なタンパク質、例えば抗RAPまたはTRAP抗体に、特異的、選択的に結合するため、そして、結合する故に、免疫反応性または免疫特異性を有する。用語「抗体」は、全抗体の全種類、例えばポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、ヒト化抗体、キメラ化抗体、およびファージディスプレイの方法論で生産された抗体を包含する。特に望ましい本発明の抗体は、RAPまたはTGRAPに比較的高い親和性を有する抗体である。本発明の抗体は、望ましくは、例えばS.aureusから得たRAPまたはTRAPなど、特定の種に対する免疫反応性および免疫特異性を有する。
【0055】
タンパク質の「抗原断片」は、抗体を結合する能力を有するタンパク質の一部を意味する。
【0056】
「特異的に結合する」は、特異的なポリペプチド、例えばRAPタンパク質などタンパク質のエピトープに対する抗体の高い結合活性や親和力を意味する。この特異的なポリペプチドのそのエピトープへ結合する抗体は、望ましくは、同じ抗体の他のどのエピトープへの結合よりも強く結合し、特に、重要な特定のポリペプチドに関連しているか、または、同一試料内の分子に存在する抗体は、例えばRAPなどのタンパク質のエピトープ断片により強く結合し、そのため、結合条件を調整することによって、抗体は、ほぼ所望のタンパク質のエピトープ部位または断片のみに結合する。
【0057】
「検出可能に標識された抗体」は、付けられた検出可能な標識を有する抗体(または特異的な結合を維持している抗体の断片)を意味する。検出可能な標識は、通常、化学的な結合によって標識されるが、標識がポリペプチドの場合は、代わりに、遺伝子工学技術によって付けられてもよい。検出可能に標識されたタンパク質の生産方法は、当業者には周知である。当業者で周知の検出可能な標識には、放射性同位体、蛍光プローブ、常磁性体標識、酵素(例えばホースラディシュペルオキシダーゼ)、または、検出可能な信号(例えば放射活性、蛍光、色)を放出したり、標識を基質に露出したあと検出可能な信号を放出したりする他の部分や化合物などを含んでいる。種々の検出可能な標識/基質の対(例えばホースラディシュペルオキシダーゼ/ジアミノベンジジン、アビジン/ストレプトアビジン、ルシフェラーゼ/ルシフェリン)、抗体を標識する方法、および標識された抗体を使用する方法は、当業者には周知である(例えばHarlowおよびLane、eds(抗体:実験室マニュアル(1988)Cold Spring Harbor Laboratory Press、コールドスプリングハーバー、ニューヨーク)を参照)。
【0058】
本発明は、ブドウ球菌属およびその他細菌を原因とする感染の予防および治療のためのポリペプチドを提供する。これらポリペプチドは、一般式Y(KまたはS)PXTNF(米国特許出願第09/839,695号における配列識別番号1または2)を含有し、XはC、WまたはIである。アミノ酸は、修飾可能であり、D型のアミノ酸を含むことができる。別の実施形態では、ポリペプチドは一般式KKY(KまたはS)PXTNを含むことができ、XがC、W、Iまたは修飾アミノ酸である。
【0059】
本発明のポリペプチドをコード化する核酸の使用も、本発明の範囲に含まれている。これらの核酸は、DNA、RNAまたはアンチセンス核酸などである。本発明の核酸分子は、合成、精製または単離された分子などとして提供され、プラスミドやウイルスなどのようなベクターにおける「付加物のないDNA」を含むがこれに限定されず、発現ベクターや投与を目的とした他の化合物への錯体なども含む。このような技術は、当業者には周知である。本発明のポリペプチドは、望ましくは、当業者において周知の任意の技術によって新たに合成されるか、または、宿主に送り込まれるRNAやDNAなどの核酸にコード化されることもできる。
【0060】
本発明のポリペプチドは、代表的な例としては、S.aureusまたはS.epidermids感染など、ブドウ球菌に感染した宿主や、感染リスクを有する宿主に投与される。宿主は、代表的な例としては、ヒトの患者である。動物もまた本発明の組成物によって治療することができるが、動物の、例えばウシ、ヒツジ、ヤギ、ウサギ、ブタなどの商業的または獣医学的に重要な動物、および、ラット、マウス、ウサギ、モルモットなどの実験動物を含むが、これらに限らない。
【0061】
本明細書で使用されている「治療用量」は、患者中の症状のつらさを予防し、緩和し、やわらげ、また、その他の状況を低減する用量である。本発明の組成物は、ブドウ球菌の感染を予防するために予防法に使用されることも、症状発症後に治療に使用されることもできる。ある実施形態では、投与された化合物に対して抗体の形成を誘発することが望ましい。このような場合、当業者において使用されている予防接種プロトコルが望ましい。予防接種を目的に投与される組成物は、任意でアジュバントを含有させることができる。
【0062】
本発明のある実施形態では、RAP、TRAPまたはRAP受容体の拮抗剤が提供される。一つの理論のみに限定されることなく、RIPは、RAP受容体への結合に対してRAPと競合することによって機能し、このためRAPの受容体、TRAPおよびRAPの少なくとも一方の受容体の拮抗剤として作用することができる。このような拮抗剤は、RAPまたはTRAPに特異的に結合する抗体、RAPまたはTRAPリガンドに特異的に結合する抗体、RAP、TRAPまたはRIPに対するリガンド、アンチセンス核酸、RAP、RIPおよびそれらのリガンドのエイドペプチド、ノンペプチド、そして、ペプチド様アナログが挙げられるが、これらに限られるものではない。
【0063】
抗体は合成、モノクローナル、ポリクローナル抗体であることができ、当業者に周知の技術によって作成することもできる。治療用途としては、抗体に対する患者の免疫反応を低減するため、ヒトの定常領域および可変領域を持つ「ヒト」モノクローナル抗体が、望ましい場合がしばしばある。このような抗体は、ヒト免疫グロブリン遺伝子を含有する遺伝子導入動物によって生産することができる。Jakobovitsら、AnnNYAcad Sci764:525−535(1995)を参照。合成および半合成の抗体に関連し、これら用語は、抗体断片、アイソタイプ切り替え抗体、ヒト化抗体(例えばマウス−ヒト、ヒト−マウスなど)、ハイブリッド、複数の特異性を有する抗体、全合成の抗体様分子、その他同様のものなどを対象とすることを意図しているが、これに限定されるものではない。
【0064】
以下に説明するように、抗体は、リガンドのRAP、TRAPまたはRIPへの結合を阻害する能力、および、インビボで細菌感染に対して防御する能力などのようなその他の能力の少なくとも一方に関してスクリーニングされ得る。
【0065】
本発明のいくつかの実施形態では、アンチセンス核酸分子がRAPまたはTRAPの拮抗剤として使用される。アンチセンス核酸分子は、ヌクレオチドの特異的配列に結合し、標的タンパク質の生産を阻害するよう設計された核酸の相補的オリゴヌクレオチドらせん構造である。これら拮抗剤は、単独でも、または他の拮抗剤と併用してもよい。
【0066】
アンチセンス拮抗剤は、RNAなどのアンチセンスオリゴヌクレオチドとして提供することもできる(例えば、Murayamaら、Antisense Nucleic Acid Drug Dev. 7:109−114(1997)を参照)。また、アンチセンス配列は、例えばB型肝炎ウイルス(例えば、Jiら、J.Viral Hepat.4:167−173(1997)を参照)、アデノ随伴ウイルス(例えば、Xiaoら、Brain Res.756:76−83(1997)を参照)などウイルスベクター中、HVJ(センダイウイルス)−リポゾーム遺伝子伝達系を含むが、これに限定されない他のシステム(例えば、Kanedaら、Ann.N.Y.Acad.Sci.811:299−308(1997)を参照)、「ペプチドベクター」(例えば、Vidalら、CR Acad.SciIU32):272−287(1997)を参照)、または、エピソームやプラスミドベクターの遺伝子(例えば、Cooperら、Proc.Nat1.Acad.Sci.U.S.A.94:6450−6455(1997)、Yewら、Hum Gene T Jier.8:575−584(1997)を参照)として、ペプチドDNA会合体の遺伝子(例えば、Niidomeら、J.Biol.Chem.272:1530.7−15312(1997)を参照)、「付加物のないDNA」(例えば、米国特許第5,580,859号および米国特許第5,589,466号を参照)中、およびインリピディックベクター系(例えば、Leeら、Crit Rev Ther Drug Carrier Syst.14:173−206(1997))として提供することができる。
【0067】
RAP、TRAPまたはRAP受容体の候補となる拮抗剤は、当業者に知られている技術や、本出願中に開示されたマウスモデルでのS.aureusに対する防御など、種々の技術によって機能をスクリーニングすることができる。本発明の拮抗剤の多数の適切な処方が、薬剤化学者全員に知られている医薬品中に見いだすことができる。Blaug、SeymourによるRemington’s Pharmaceutical Sciences(第15版、Mack Publishing Company、イーストン、ペンシルバニア(1975))の特に第87章に記載。これらの処方の例としては、例えば、粉剤、ペースト、軟膏、ゼリー、ろう、脂質、無水吸収塩基、水中油型ないし油中水型乳剤、乳剤カーボワックス(種々の分子量のポリエチレングリコール)、半固体ゲル、およびカーボワックス含有半固体混合物が含まれている。
【0068】
有効性のある治療に必要な有効成分の量は、投与手段、標的部位、患者の生理状態や、その他投与される薬剤など、多くの異なる因子に依存する。したがって、治療用量は、安全性および有効性を最適化するために滴定すべきである。代表的な例としては、インビトロで使用される用量は、インシトゥでの投与に有用な有効成分量に関する有益な指針を提供することができる。特定疾患に対する治療のための有効用量の動物試験を行うことは、ヒトへの用量に対してより予測に役立つ目安を提供するであろう。例えばGoodmanおよびOilmanのPlumnacological Basis of Therapeutics、第7版(1985)、MacMillan Publishing Company、ニューヨークおよびRemingon’s Pharmaceutical Sciences 第18版(1990)Mack Publishing Co.イーストンパームなどに、種々の検討が記載されている。投与方法が、これらの文献中で論じられ、経口、静脈注射、腹腔内注射、筋肉注射、経皮的、経鼻的、電気泳動投与などが含まれている。
【0069】
本発明の組成物は、投与方法に応じて種々の剤型単位で投与できる。例えば、経口投与に適した剤型には、粉剤、錠剤、ピル、カプセルなどの固体剤や、エリキシル剤、シロップ、懸濁剤などの液体剤型があげられる。また、有効成分は、滅菌された液体剤型で非経口投与もできる。ゼラチンカプセルは、有効成分とともに、非有効成分としてグルコース、乳糖、ショ糖、マンニトール、スターチ、セルロースないしセルロース誘導体、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸、サッカリンナトリウム、滑石粉、炭酸マグネシウムなどの粉末の基材を含有する。
【0070】
所望の色、味、安定性、緩衝能、分散またはその他の既知の所望の特徴を提供するために追加可能な付加的な非有効成分の例には、赤い酸化鉄、シリカゲル、ラウリル硫酸ナトリウム、二酸化チタン、食用白インクなどがあげられる。圧縮された錠剤を形成するために類似の希釈剤を使用することができる。錠剤、カプセル剤の両方とも、薬剤を長時間にわたって継続的に放出する徐放性製剤として製造することができる。圧縮された錠剤は、不快な味を隠し錠剤を大気から保護するために、糖衣またはフィルムコートすることができ、また、消化管中で選択的に分解させるために腸溶被覆することができる。経口投与用の液体剤型は、患者により受け入れられるよう着色剤および香味剤を含有することができる。
【0071】
本発明による組成物の医薬品処方中における濃度は、重量%で、約0.1%未満、通常は2%または少なくとも約2%から、ほぼ20%から50%以上までと大きくばらつき、主として選択された投与形態に応じた液量、粘度他などによって選択される。
【0072】
また、本発明の組成物は、リポソームを介して投与してもよい。リポソームには、乳化剤、発泡剤、ミセル、不溶性モノマー、液晶、リン脂質分散物、ラメラ層などがあげられる。これらの製剤において、送り込まれる本発明の組成物は、単独で、また、抗体など所望の標的に結合する分子とともに、また、他の治療用や免疫原性の組成物とともに、リポソームの一部として組み込まれる。これにより、本発明の所望の組成物で満たされたか修飾されたリポソームは、全身に届けられるか、または対象組織へと導くことができ、そこに、リポソームは、これら選択された治療用や免疫原性のポリペプチド組成物を送り込む。
【0073】
本発明で使用されるリポソームは、標準的な小胞を形成する脂質から形成され、一般に、中性または負の電荷を帯びたリン脂質およびコレステロールなどステロールを含有する。一般に、脂質の選択は、リポソームの大きさ、血流中リポソームの酸不安定性および安定性などを検討することによって、導かれる。リポソームの調製には種々の方法が利用可能であるが、例えばSzokaetら、Ann.Rev.Biophys.Bioeng.9:467(1980)、米国特許第4,235,871号、第4,501,728号、第4,837,028号、第5,019,369号に記載され、これらは参照としてここに含まれる。
【0074】
本発明の組成物を含有するリポソーム懸濁液は、投与方法、送り込まれる本発明の組成物、治療される疾患の段階に応じた用量で、静脈内、局部的、局所的他で投与できる。
【0075】
固体組成物には、例えば、医薬品グレードのマンニトール、乳糖、スターチ、ステアリン酸マグネシウム、サッカリンナトリウム、滑石粉、セルロース、グルコース、ショ糖、炭酸マグネシウムなどの従来の非毒性の固体基材を使用できる。経口投与に対しては、医薬品として許容される非毒性の組成物は、すでに列挙した基材など、通常採用される任意の賦形剤を、通常は有効成分、つまり、1つまたは複数の本発明の組成物の10−95%、より望ましくは25−75%の濃度で組み入れることによって生産される。
【0076】
エアロゾル投与には、本発明の組成物は、界面活性剤および推進剤とともに細かく分割された形態で供給されることが望ましい。本発明の組成物の代表的な割合は、重量%で0.01−20%、望ましくは1−10%である。界面活性剤は、当然非毒性であり、望ましくは推進剤中に溶解する。これらの代表的な例として、6−22個の炭素原子を含有する脂肪酸のエステル、部分エステルがあり、その例は、カプロン酸、オクタン酸、ラウリン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、リノール酸、オレステリン酸、オレイン酸と脂肪族多価アルコールまたは環状無水物などである。混合グリセリドまたは天然グリセリドなどの混合エステルも使用できる。界面活性剤は、組成物の重量%で0.1−20%、望ましくは0.25−5%を構成してもよい。組成物の残りは、通常は推進剤である。また、例えば鼻腔内に送られるレシチンなどの基材も、所望に応じて含有することができる。
【0077】
本発明の構成物は、当業者に周知の技術によって、さらに貯蔵型の系、封入された形状または移植で送り込むこともできる。同様に、構成物はポンプを介して対象組織に送り込むことができる。
【0078】
処方中の有効成分が処方によって不活性化されず処方が生理的に適合する限り、上述のいずれの処方も、本発明のとおりの治療および療法において適切であろう。本発明のポリペプチドに対するポリクローナルおよびモノクローナル抗体の少なくとも一方を調製することもできる。本発明のポリペプチドは、本明細書に記載の方法で調製し、キーホール・リンピット・ヘモシアニンなどの基材分子に結合し、数ヶ月にわたって選択した時期にウサギに注射する。ウサギの血清は、ポリペプチドに対する免疫活性に対して試験できる。モノクローナル抗体は、マウスにポリペプチドを注入することによって作成できる。モノクローナル抗体は、例えば、HarlowおよびLane(1998)の「抗体:実験室マニュアル」、Cold Spring Harbor Press、ニューヨークおよびCoding(1986)の「モノクローナル抗体:原理と実践」(第2版)Academic Press、ニューヨークなどに記載のように、当業者には既知の方法によってスクリーニングできる。これらの抗体は、ポリペプチドのエピトープとの特異的な免疫活性に対して試験できる。これら抗体は、臨床診断のアッセイへの使用や、製剤組成物中の有効成分としての用途を見出されるであろう。
【0079】
ポリクローナル抗体の生産のため、適切な標的免疫系が、代表的な例としてはマウスまたはウサギが選択されるが、ヤギ、ヒツジ、ウシ、モルモット、ラットなど他の種も使用できる。当業者に既知の方法によって精製された抗原が免疫系に提供される。免疫応答は、代表的な例としてはイムノアッセイによって検査される。適切な例としては、ELISA、RIA、蛍光分析などがある。これらの抗体は、臨床診断のアッセイへの使用や、製剤組成物中の有効成分としての用途が見出されるであろう。
【0080】
RPA核酸およびタンパク質
本発明は、非病原性のブドウ球菌属から単離、精製されたタンパク質(RAP)も提供する。RAPタンパク質は、約33kDaの分子量を有する。一実施形態において、RAPは、米国特許出願第09/839,695号の配列識別番号12を含み、米国特許出願第09/839,695号の配列識別番号13のアミノ酸配列を含むポリヌクレオチドによってコード化されたタンパク質である。
【0081】
RAP核酸
用語「RAP遺伝子」は、総称的にRAP遺伝子およびその代替形態を意図して使用される。また、「RAP遺伝子」は、特異的なRAPタンパク質をコード化するオープンリーディングフレームと、発現の調節に関与する5’と3’非コード化ヌクレオチド配列(例えばプロモータ領域)を意図している。RAP遺伝子が米国特許出願第09/839,695号の配列識別番号12の配列を含む一実施形態では、遺伝子は、染色体外での維持や、宿主への組み込みを目的とする適切なベクターに導入できる。
【0082】
RAP調節配列は、RAP発現の転写または翻訳の調節に、特に、異なる増殖段階で(例えば対数増殖期の早期、中期、後期)の必要なcis作用配列を同定するために使用することもでき、RAP発現を調節または仲介するcis作用配列およびtrans作用因子を同定するために使用することもできる。これらの転写または翻訳制御領域は、RAPコード化配列や、その他のコード化配列に操作可能にリンクさせることができる。
【0083】
本発明に使用される核酸組成物は、RAPタンパク質の全てまたは一部をコード化したものである。DNA配列の断片を、従来の方法によるオリゴヌクレオチドの化学合成、制限酵素での断片化、PCR増幅などによって得ることができる。ほとんどの場合、DNA断片は、約10以上の隣接するヌクレオチド、一般的には、少なくとも約15nt、より一般的には、少なくとも約18ntから約20ntまで、さらに一般的には、少なくとも約25ntから約50ntまでである。このような小さいDNA断片は、PCRのプライマなどとして有用である。より大きなDNA断片、すなわち100ntより大きいDNA断片は、コード化されたポリペプチドの生産に有用である。PCRなど増幅反応への使用のためには、1対のプライマが使用される。
【0084】
プライマ配列の厳密な組成は、本発明にとっては重要ではないが、ほとんどのアプリケーションにおいて、プライマは当業者に既知の厳密な条件下で、対象配列へとハイブリダイズする。少なくとも約50nt、少なくとも約100ntの増幅物を生産する1対のプライマを選択することが望ましい。プライマ配列の選択のためのアルゴリズムは、公知であり、市販のソフトウェアパッケージで入手可能である。増幅プライマは、DNAの相補的な鎖へとハイブリダイズし、互いにプライマとなる。
【0085】
RAP遺伝子およびRAPコード化配列は、ほぼ純粋で、通常は完全な細菌染色体以外の状態で単離され、得ることができる。通常、DNAは、RAP配列またはその断片を含まない他の核酸配列をほとんど含まない状態で、純度が、一般的には少なくとも約50%、より一般的には少なくとも約90%で、代表的な例としては「組み換え型」、つまり、普通は天然由来の染色体には結合しない1個または複数のヌクレオチドが並んでいるものである。
【0086】
DNA配列は、種々の方法で使用することができる。DNA配列は、ブドウ球菌の他の株や、他の細菌のRAPコード化配列を同定するためのプローブとして使用してもよい。他の株、種、属から単離された相同物は、互いに類似した配列を有する。すなわち、少なくとも約75%、一般的には少なくとも約90%、より一般的には少なくとも約95%の配列の相同性を有する。一般に、本発明のRAPコード化配列(相同物、変異体など)は、少なくとも約65%、望ましくは少なくとも約75%、より望ましくは約85%の配列の相同性を有することを特徴とし、MPSRCHプログラム(Oxford Molecular)で実施されるSmith−Waterman相同性検索アルゴリズムによって決定されたように、少なくとも約90%になることもありうる。本発明の目的のために、配列の相同性は、以下のSmith−Watermanアルゴリズムを使用して計算される。以下の検索パラメータ、ギャップ開始ペナルティ12とギャップ伸張ペナルティ1でアフィンギャップを用いるMPSRCHプログラム(Oxford Molecular)で実施されるSmith−Waterman相同性検索アルゴリズムによって決定されたように、グローバルDNA配列の相同性は、65%を超えなければならない。
【0087】
配列の類似性を有する核酸は、例えば50℃および6XSSC(0.9M生理食塩水/0.09Mクエン酸ナトリウム)で、あまり厳密でない条件下でのハイブリダイゼーションによって検出することもでき、そして、1XSSC(0.15M生理食塩水/0.015Mクエン酸ナトリウム)の55℃での洗浄下でも結合を維持している。さらに、配列の相同性は、例えば50℃以上および0.1XSSC(15mM生理食塩水/0.15mMクエン酸ナトリウム)の厳密な条件下でのハイブリダイゼーションによっても検出できる。プローブ、特にDNA配列の標識プローブを使用することによって、相同体または関連する遺伝子を単離することができる。RAPの相同体を哺乳類のソースから同定することも可能である。
【0088】
RAPコード化DNAは、生物学的試料での遺伝子発現を検出するために使用することもできる。個別のヌクレオチド配列の存在に関して、試料を探査する方法および材料も、また、文献で明らかにされており、ここで詳しく述べるまでもない。mRNAが細胞試料から単離される。mRNAは、対象DNA配列に特異的なプライマを使用するポリメラーゼ連鎖反応の結果として起こり、相補的DNA鎖を作成する逆転写を用いる、RT−PCRによって増幅できる。これに代えて、mRNA試料は、ゲル電気泳動によって単離され、ニトロース、ナイロンなど適切な支持材へと転写され、そして、プローブとして対象DNAの断片で探査される。オリゴヌクレオチドの連結反応アッセイ、インシトゥでのハイブリダイゼーション、固体チップ上に配列されたDNAプローブへのハイブリダイゼーションなどのような他の技術にも用途を見いだすことができる。RAP配列へのmRNAハイブリダイゼーションは、試料におけるRAP遺伝子発現を示すものである。
【0089】
RAP核酸配列は、多くの目的で、特に、それが細胞内で使用される場合、例えば、遺伝子などの切断のための鉄またはクロムなどのキレート金属イオンなどのような核酸切断剤に結合することによって、修飾され得る。
【0090】
RAPコード化配列およびプロモータ配列の少なくとも一方は、当業者に知られている種々の方法で、プロモータの強度、コード化されたタンパク質などといった標的とされた遺伝子を変異させることができる。このような変異したDNA配列または生産物は、本明細書で提供される配列とほぼ同一であり、それらは、それぞれ少なくとも1つのヌクレオチドまたはアミノ酸が異なり、少なくとも2つから10個未満のヌクレオチドまたはアミノ酸が異なる場合もある。配列の変化は、置換、挿入または削除などである。削除は、領域の削除などより大きな変化を含む場合もある。重要な他の修飾としては、融合タンパク質の生産物(例えば、緑色蛍光タンパク質(GFP)、発光酵素など)などがある。
【0091】
インビトロでのクローン化遺伝子の変異のための技術は、既知のものである。変異をスキャンするためのプロトコルの例としては、Gustinら、1993 Biotechniques 14:22;Barany、1985 Gene 37:111−23;Colicelliら、1985 Mol Gen Genet 199:537−9;Prentikiら;1984 Gene 29;303−13があげられる。部位特異的な突然変異のための方法は、Sambrookら、1989 分子クローニング:実験室マニュアル、CSH Press、頁15.3−15.108、Weinerら、1993 Gene126:35−41、Sayersら、1992 Biotechniques 13:592−6;JonesとWinistorfer、1992 Biotecuniques 12:528−30、Bartonら、1990 Nucleic Acids Res 18:7349−55、MarottiとTomich、1989 Gene Anal Tech 6:67−70、そしてZhu 1989 Anal Biochem 177:120−4に見ることができる。
【0092】
RAPタンパク質
RAPタンパク質は、任意の適切な手段、例えば天然にRAPを発現する細菌からの単離、組み換え手段(例えば米国特許出願第09/839,695号の配列識別番号12の配列を有するポリヌクレオチドの発現)、合成手段などによって生産することができる。
【0093】
一実施形態において、RAPは、S.aureusなどRAPを生産するブドウ球菌の株から直接単離される。代表的な例としては、野生型の細胞が指数増殖後の培養液から回収される。細胞は、次に遠心され、上清液は、例えば濾過後の凍結乾燥、水への再懸濁、さらに精製することなどによって精製される。
【0094】
RAPを単離できるブドウ球菌は、S.aureus、S.capitus、S.warneri、S.capitis、S.caprae、S.carnosus、S.saprophyticus、S.chronii、S.simulans、S.caseolyticus、S.epidermids、S.haemolyticus、S.hominis、S.hyicus、S.kloosii、S.Lentus、S.Lugdunensis、S.scruri、S.simulans、そして、S.xylosusが含まれるが、これらに限定されるものではない。望ましくは、RAPは、S.aureusから単離される。
【0095】
別の実施形態では、RAPコード化核酸が、完全な長さのRAPタンパク質や、その断片を合成するのに利用され、特に、機能領域(例えばRAPと相互反応するリン酸化反応領域など)に対応するものが利用され、対象ポリペプチドと、他のタンパク質またはその一部との融合を含んでいる。発現には、発現カセットが、転写および翻訳開始領域を提供するのに利用され、この領域は、誘導可能なものまたは構造性のものであり、コード化領域が、転写開始領域と転写翻訳終了領域との転写の制御下で操作可能にリンクされる。種々の転写開始領域が、発現宿主で機能させるために利用できる。
【0096】
ポリペプチドは発現の目的に応じて、既存の方法にしたがって、原核生物または真核生物で発現させることができる。タンパク質の大量生産のため、E.coli、B.subtilis、S.cerevisiaeのような単細胞生物、または、脊椎動物、特に哺乳類、例えばCOS7細胞などのような高等生物の細胞も、発現宿主細胞としてりようできる。これらに代えて、RAP断片が合成される場合もある
大量のポリペプチドが入手可能であれば、発現宿主を利用することによって、RAPタンパク質は、従来の方法、例えばHPLC、排除クロマトグラフィ、ゲル電気泳動、アフィニティクロマトグラフィを使用して、または、その他精製技術などによって単離、精製できる。精製されたタンパク質は、一般に、純度が少なくとも約80%、望ましくは少なくとも約90%であり、最高純度100%にもできる。
【0097】
RAPタンパク質(天然型、組み換え型または合成型)は、抗体の生産に使用することができ、ここでは、短い断片は、特定のポリペプチドに対する特異的な抗体に提供され、そして、大きな断片またはタンパク質全体は、ポリペプチドの表面全体にわたる抗体を生産させることができる。抗体は、RAPの野生型または種々の変異体形態へと育てることもできる。抗体は、例えばRAP発現細胞による免疫化、膜内に挿入されたRAPタンパク質を有するリポソームによる免疫化、その他などによって、これらの領域に対応する単離されたペプチドまたは天然型タンパク質へと育てることもできる。
【0098】
抗RAP抗体
本発明は、RAPと特異的に結合し、免疫反応性を有する抗体も提供する。抗体は、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体またはヒト化抗体であり、当業者に周知の方法を使用して調製される。一般に、抗体は、従来の方法で調製され、タンパク質またはその抗原性部分を、単独でまたはKLH、pre−S、HBsAg、そして、その他ウイルス性または真核細胞タンパク質などの既知の抗原性基材に結合して免疫原として使用される。種々のアジュバントを、適宜一連の注射で利用することもできる。モノクローナル抗体の場合、1回または複数回のブースタ注射の後、脾臓が単離され、リンパ球が細胞融合によってイモータライズされ、高親和性抗体の結合のためにスクリーニングされる。望ましい実施形態では、脾臓またはリンパ節細胞と骨髄腫細胞とは、約20:1から約1:1の比率で、望ましくは約2:1の比率で混合される。融合処理で使用される体細胞および骨髄腫細胞のソースとして、同種の動物を使用することが望ましく、動物は、ラット、マウス、ウサギ、ウシ、ニワトリ、シチメンチョウまたはヒトから選択される。体細胞と骨髄腫細胞との融合によってハイブリドーマを生産し、このハイブリドーマは、所望のモノクローナル抗体を標準的な手法で生産するため、培養で育成される。さらに詳しい説明は、例えば、モノクローナル抗体は、実験室マニュアル、HarlowとLane eds、Cold Spring Harbor Laboratories、コールドスプリングハーバー、ニューヨーク、1988を参照。所望の場合、H鎖およびL鎖をコード化するmRNAは、Escherichia coliでのクローニングによって単離および変異し、H鎖およびL鎖は、抗体の親和性をさらに高めるために混合することもできる。抗体を生産するための方法としてのインビトロでの免疫法に代わるものとしては、通常、インビトロでのアフィニティマチューション接合といったファージ「ディスプレイ」ライブラリへの結合が含まれる。
【0099】
本発明のポリクローナル抗体は、ラット、マウス、ウサギ、ウシ、ニワトリまたはシチメンチョウをRAPとともに注射して、免疫原性反応を開始することによって生産できる。抗体は、ポリクローナル抗体にもモノクローナル抗体にもでき、設計または合成できる。RAPは、キーホールリンペットヘモシアニン(KLH)またはウシ血清アルブミン(BSA)などのタンパク質基材に結合できる。アジュバントも使用できる。抗RAP抗体の高い力価を得られる適切な時間が経過した後、血清または卵が回収される。血清または卵の抗体の存在は、ラジオイムノアッセイ(RIA)、酵素免疫測定法(ELISA)、または免疫沈降法によって試験できる。免疫グロブリンは、連続沈降法によって、食塩水からタンパク質分画を「塩析」する従来の方法によって、または、当業者に周知のクロマトグラフィ法によって単離できる。
【0100】
RAP
細菌中のRAP(RplB)配列
RAPは、S.aureus RN6390Bの培養上清から精製され、RAPのNH2−末端配列をIKKYKPITN(Balaban Nら、Science 2000、287:391a[18])とすることに決定した。この配列は、いくつかのS.aureusデータベースと比較され(TblastNアルゴリズム)、わずか1個のORFが上記ペプチド配列と強く一致していることが見いだされた。このORFは、推定277アミノ酸タンパク質をコードしており、L2(またはRplB)配列のオーソログである(Ban Nら、Science 2000、289:905−920[19])。
【0101】
S.aureus RN630Bに相当する遺伝子は、PCRによって増幅され、配列を決定された(GenBank受入番号AF205220)。S.aureusの推定RplBは、他の細菌中のRplBと相同性が高い(図1)。さらに、その配列を他の入手可能なS.aureusの配列と比較したところ、株全体にわたって保存されていることがわかった(データは示さない)。
【0102】
組み換えRAPの生産(rRAPまたはrL2のいずれか)
rRAPを生産するため、制限部位を加えたrap(RplB)遺伝子5’および3’末端に対応するフォワードプライマおよびリバースプライマが設計された。これらのプライマは、S.aureus RN6390B染色体DNAをテンプレートとして用い、PCRによって完全なRplB遺伝子を増殖するのに使用された。増殖されたDNAは、挿入された遺伝子の5’末端に6ヒスチジン標識を有するpET14bベクター(Novagen、ウィスコンシン)の対応する部位に、分解されて連結された。rap(pET2−5)を含むプラスミドが、E.coli BL−21(DE23)/pLysSを転換するのに使用された。細胞が誘導、採取され、組み換えHis−rRAPタンパク質が、ニッケルカラムを使用して単離され、his標識をトロンビンで除去した。
【0103】
具体的には、rL2を生産するため、5‘Ndelや3’BamHI制限部位を加えたrap遺伝子の5’および3’末端に対応するフォワードプライマやリバースプライマが、rap(下線で表示)の配列に基づいて設計された。これらのプライマ、5’GAA TTC CAT ATG GGT ATT AAA AAG TAT AAG 3’(ヌクレオチド1−21(米国特許出願第09/839,695号の配列識別番号14))、そして、5’CGC GCG GAT CCT TAT TTT TTC TTA CGT CCACG 3’(ヌクレオチド840−819の相補(米国特許出願第09/839,695号の配列識別番号15)が、テンプレートとしてS.aureus染色体DNAを用いることにより、PCRによって完全なrpl遺伝子の増殖に使用された。増殖されたDNAは、NdelおよびBamHIによって分解され、挿入された遺伝子の5’末端に6ヒスチジン標識を有するpET14bベクター(Novagen、ウィスコンシン)の対応部位に連結された。rap(pET2−5)を含有するプラスミドが、E.coli BL−21(DE3)plysS(SBpET2−5)の転換に使用された。組み換えタンパク質合成の誘導は、1mMのIPTGを培地に添加し、そして、3時間培養することによって実施された。細胞は、採取され、50mMのトリス緩衝液pH7.9で一度洗浄された。組み換えHis−rRAPタンパク質は、製造業者(Xpress Systems Protein Purification、Invitrogen、カリフォルニア)の指示に少し修正を加えた方法に従い、ニッケルカラムを用いて単離された。50mLの細胞ペレットは、10mLのバインディング緩衝液に再懸濁され(pH7.8で20mMのリン酸ナトリウム+0.5MのNaCl)、そして、超音波処理され(最大30秒の間隔で、15秒のパルスを2サイクル)、そして、微量遠心機で遠心された。上清は、事前に平衡化されたニッケルカラムに流された。
【0104】
流す前に、キレートされたセファロースビーズを含有するカラムが、50mMNiClを含有するチャージ緩衝液を流され、バインディング緩衝液で平衡化された。カラムは、体積で5倍量のバインディング緩衝液で3回洗浄された後、体積で5倍量のpH7.8で20mMのリン酸ナトリウム+0.5MのNaClで3回洗浄し、その後、pH6に調節したバッファで洗浄された。組み換えタンパク質は、0−5Mのイミダゾールを用いてカラムから順次溶出された。His標識は、トロンビンによって除去された。
【0105】
モノクローナル抗rRAP抗体は天然型RAPを認識する
モノクローナル抗体は、マウスから生産され、rRAPによってプライミングされた。ハイブリドーマ上清は、注射した抗原に対する特異的な抗体の存在をELISA法で試験された。陽性ハイブリドーマは、クローン化され、腹水を得るために用いられた。組み換えタンパク質に対する抗体が天然型分子を認識するかどうかを試験するため、rRAPと、部分的に精製された天然型RAP(野生型S.aureus RN6390>10kDaの指数増殖後の上清)とが、SDS12.5%のPAGE、ウェスタンブロットにかけられ、膜がポンソーで染色された(図2、レーン1、2)。膜は、ブロッキングされ、陽性抗rRAPハイブリドーマから作成した腹水とともにインキュベートされた(希釈率1:1000)。結合された抗体は、ペルオキシダーゼ抱合抗マウスIgGを用いて検出され、化学発光を用いて可視化した(図2、レーン3、4)。図2に示すように、rRAPに対して生じたモノクローナル抗体は、上清に分泌された天然型分子を特異的に認識する(図2、レーン4)。
【0106】
組み換えRAPが活性化されRNAIII合成を誘発される
組み換えRAPは、活性型でありRNAIII合成を誘発できるか否かを試験するため、rnaiii::blaZ融合構成物を含有するS.aureus細胞が、rRAPの増量のために培養された。対照として、細胞が、増殖培地のみで培養された(ネガティブコントロール)。RNAIII(□−ラクタマーゼ活性として)は、黄色の物質で、□−ラクタマーゼの存在時にはピンク色になるニトロセフィンの添加によって検出した。この方法は、実験群と対照群との間の差が、少なくとも2倍ある場合有用であり、そして、片方はピンク色になるが、残りの他方は黄色のままである。図3Aに示すように、rRAPは、濃度依存性にRNAIII合成を活性化し、細菌数が2.25nmol/107の閾値に到達する。組み換えRAPによるRNAIIIの活性化は、部分的に精製されたRAPの活性化と類似していた。2.25nmolのrRAPの存在下でのRNAIII合成(□−ラクタマーゼ活性)の増加は、rRAPの添加の内場合と比較して有意な(P<0.00169)差がある。また、本発明者らは、ノーザンブロット法によるRNAIII合成の誘発試験も行い、ここでは、細胞は、rRAPあり、または、なしで30分間増殖し、細胞を採集し、ノーザンブロットした後、RNAIIIの存在を、RNAIIIに特異的な、放射線標識したDNAを使用して検出した。膜は、オートラジオグラフィーにかけられ、バンドの密度が検出された。図3Bに示すように、rRAPは、RNAIIIの合成を誘発した。
TRAP
TRAPはS.aureusの病原性に必要とされる
RAPは、TRAPのリン酸化反応を誘発し、そして、RIPは、TRAPのリン酸化反応を阻害することが示されてきている[5]。TRAPがS.aureusの病原性に重要であることを示すため、traP遺伝子は、S.aureus 8325−4で分離されて、親株(TRAP+)と変異株(TRAP−)が、増殖、RNAIII合成、毒素生産、そして、病原性について試験された。細胞増殖およびRNAIII合成を試験するため、細胞は、指数増殖期の早期から指数増殖期の後まで増殖された。間隔を置いて、細胞密度が決定され、各増殖段階からの細胞試料が、収集され、ノーザンブロットにかけられ、RNAIIIの存在をRNAIIIに特異的な、放射線標識されたDNAを用いて検出された。図6Aに示すとおり、TRAP+株とTRAP−株との間では、細胞増殖の差が観察されなかった。TRAP+株のRNAIIIの合成は、指数増殖期の中期から観察されたが、TRAP−株(図6B)には存在せず、これは、TRAPがRNAIII合成の誘発における重要な因子であることを確認するものである。
【0107】
RNAIIIは、S.aureusによって生産される多くの毒素、その一部は溶血素、の生産を増大することが知られている[2]。溶血素の生産を試験するために、TRAP+株とTRAP−株が、ヒツジ血液寒天培地で、37℃で一晩、次いで4℃で増殖させた(□および□溶血素の両方を試験するため)。図7Aに示すように、溶血は、TRAP−株では観察されず、TRAPが毒素生産における重要な因子であることを確認するものである。
【0108】
TRAPが生物膜形成にとって重要かどうかを試験するため、TRAP+株とTRAP−株が、ポリスチレンのウェルで増殖され、接着した細菌が、サフラニンで染色された。図7Bに示すように、サフラニン染色は、TRAP−株では大きく低減され、TRAPが細胞接着および生物膜形成において重要な因子であることを示唆している。
【0109】
インビボでのS.aureusの病原性の重要性を試験するため、TRAP+株とTRAP−株が、マウスに皮下注射され、その後、動物の死亡率、病変の発症や、全般的な健康状態を調べられた。図8に示すように、4×108CFUを(プレートで増殖させたTRAP+を)注射された全ての動物(n=10)は、例えば、平均1.74cm2の大きさの組織の病変を発症した。また、6×109CFUを(プレート上で増殖させたTRAP+を)注射した全ての動物(n=5)は、平均9.4cm2の大きさの組織の病変を発症した。1.3×109CFUを(培地(*)で増殖させたTRAP+を)注射した8体の動物(n=8)のうち4体は、最初の24時間以内に死亡し、残りは平均8.63cm2の大きさの、大きな組織の病変を発症した。一方、TRAP−株を注射した全ての動物は、全く健康に見え、数体が非常に小さい組織の病変を発症した。特に、プレートで増殖させたTRAP−の3×108CFUを注射した動物(n=10)は、1体も病変を発症しなかった。プレートで増殖したTRAP−の2.6×109CFUを注射した動物は、全て、平均0.62cm2の大きさの病変を発症した。(培地(*)上で増殖させたTRAP−を)1.5×109CFUを注入した動物(n=8)のうち7体は、病変を全く発症せず、1体が0.4cm2の大きさの、小さな病変(平均0.05cm2)を発症した。TRAP+株またはTRAP−株を注射した動物における病変の大きさの差は、有意(p<0.0008)である。これらの結果は、TRAPの発現がS.aureusの毒性に重要であり、ブドウ球菌の感染を予防または治療する新薬の開発のための領域をさらに広げることを確認するものである。
【0110】
TRAPのアミノ酸配列解析
S.aureusおよびS.epidermidsの種々の臨床単離株におけるtraP遺伝子が、PCR法で増幅され、その配列が決定された。これら配列と、異なるデータベース(NBBI微生物ゲノムデータベース[http://www.Ncbi.nlm.nih.gov/Microb_blast/unfinisihedgenome.html]など)におけるBLAST検索との比較では、TRAPがブドウ球菌に固有のものであることが示されている。導き出されたS.aureusとS.epidermidsとのTRAPタンパク質のアミノ酸配列の比較では、配列がブドウ球菌全体にわたって高度に保存されていることを示している。種々の株からのS.aureusTRAPタンパク質の配列のマルチシークエンスアライメント解析(ClustalW)は、配列が2つのサブグループに分類されることを示している(図9)。第1群は、8325のTRAPを含み、これはCOL、MSSA476、Mu50/ATCC700699およびN315(16)や本発明者らの臨床単離株#7および#11と同一である。第2群は、本発明者らの臨床単離株#12および#15や、MRSA252のTRAPを含む(Sanger Centre Database)。第1群のTRAPは、第2群のTRAPに対して約97%の相同性を有する(blastPアルゴリズムによって決定したE値が2e−84である)。第1群のTRAPおよび第2群のTRAP配列のS.epidermidsの配列への類似性は、約86%である(E値は9e−65)。
【0111】
S.aureusの臨床単離株#12は、TRAPストップコドン(GenBank受入番号AJ489447)のちょうど前にIS1181の挿入がある。IS1181の挿入によって天然型traPストップコドンを移動させるが、167から176AA(TRAP+GSSSFMVGR)までTRAPを引き伸ばす別のストップコドン27bpを下流側に導入する。他の臨床または実験株と同様に、単離株#12において、TRAPがリン酸化され、RNAIIIが発現され、これは、挿入因子が機能を分離されないことを示唆している(図示しない)。
【0112】
TRAPの二次構造の予測
TRAPは、ブドウ球菌に極めて固有のものであるが、Bacillus subtilisの仮説タンパク質であるYhgCタンパク質に対しいくらかの配列の類似性を有する(GenBank受入番号Z99109)(E値が9e−15である)。興味深いことに、Bacillus subtilisに加えて、160を超える真正細菌のゲノムのうち、B.cereus(TIGRデータベース)の配列と97%相同のBacillus authracis、/Listeria innocuaおよびListeria monocytogenesのみのORFが、TRAPとある程度の配列の類似性を有すると同定される(E値はそれぞれ0.005、0.035、0.1である)。TRAP同様、全てのORFは、166AAであるYhgCを除き、確実に167AAである(図10)。
【0113】
これらタンパク質の二次構造は、タンパク質構造予測サーバー The PCIPRED v.2.4[http://bioinf.es.ucl.ac.uk/psiform.html/]を使用して予測した。興味深いことに、これらORFの配列の類似性は、非常に低いが、予測された二次構造は、TRAPの二次構造と非常によく似ている(図10)。
【0114】
S.aureusTRAP遺伝子領域の染色体構造と他のグラム陽性真正細菌との比較
TRAP遺伝子領域の同じ構造が、全てのブドウ球菌属(S.aureusおよびS.epidermidsの両方)ゲノムにおいて見いだされる(図11)。TRAP遺伝子は、2つのポリシストロン性のオペロンが並んでおり、2つのうち1つ(traPの上流側)は、プロトヘムIX生合成経路(ヘムEHY遺伝子)の後期段階の酵素をコード化しており、2番目(traPの下流側)は、推定的な複数タンパク質の輸送システム(ecsAB(C)遺伝子)をコードしている。traP遺伝子転写の方向は、hemおよびecsオペロンの両方と反対になっている。同一の組織は、B.subtilis、B.anthracisのyhgC領域にも、リステリアのTRAP様ORFにも見出される(図11)。これら結果は、TRAPが細菌のシグナル伝達物質のクラスを示し、TRAPがブドウ球菌に加えて多くの細菌種の治療に対する標的部位であることを示唆している。
【0115】
TRAPおよびTRAP様分子のリン酸化とRIPによるTRAPリン酸化の抑制
TRAP様分子は、ブドウ球菌に加えて、他の細菌種で見いだされることから、本発明者らは、種々のリステリア(Listeria monocytogenesおよびListeria ivanovii)株、種々のバチルス菌株(B.anthracis、B.subtilis、および、B.cereus)を、P32を伴って増殖させ、SDS PAGEとその後のオートラジオグラフィーによってTRAP(21kDa)のリン酸化を試験した。図12に示すように、リステリア菌属は、21kDaのタンパク質は、予想通り、インビボでリン酸化された。バチルス菌属に対しても類似の結果が得られた(図示しない)。これらの結果は、病原性が、細菌発現TRAP様タンパク質のTRAPリン酸化を介して調節されることもまた示唆している。
【0116】
S.epidermidsのTRAPのリン酸化を試験するため、インビボでのリン酸化アッセイが、S.aureusについて記載された方法のように実施された[5]。概要は、指数増殖期早期のS.epidermidsが、RIP(10□g/107細胞)がある場合と、ない場合のいずれかで、放射線標識されたオルトリン酸を付加したリン酸フリー緩衝液で増殖させた。1時間の培養の後、細胞は、遠心機で回収され、リソスタフィンで処理の後、試料緩衝液を添加され、そして、全細胞のホモジネートが、沸騰させることなく、15% SDS PAGEにかけられ、そして、そのゲルは、オートラジオグラフィーにかけられた。同様の実験が、陽性対照として6390BS.aureusに対して実行された。結果(図13)は、TRAPのリン酸化が、S.epidermidsにおいてもRIPによって抑制可能であることを示している。これらの結果は、TRAPがS.epidermidsに見いだされる事実を踏まえると驚くべきことではないが、TRAPのリン酸化や発現が、ブドウ球菌の病原性に重要であることを示している。TRAPの配列は、ブドウ球菌株および種のでは高度に保存されており、二次構造は他の細菌の多くのTRAP様リン酸化と類似していることから、TRAPは、ブドウ球菌に加えて多くの細菌種の治療に対する標的部位となり得る。
【0117】
RIP
RIP(天然型または合成、YSPWTNFまたは誘導体)は、RNAIIおよびRNAIII合成を阻害や、これによる毒素生産を阻害する[13、18]だけでなく、S.aureusのヒト細胞への接着を阻害し、プラスチック上の生物膜の形成も阻害することが実証されてきている[16]。また、S.epidermidsの毒性も、その宿主細胞への接着能力や、医療器具への生物膜の形成能力に関連していることが多い。RIPが、S.epidermidsによる宿主細胞でのコロニー形成を予防できるかどうか、それにより、治療および予防の候補となるかどうかを試験するため、FITC標識化S.epidermidsが、RIPの存在または非存在下のいずれかにおいて、ケラチノサイト(HaCat細胞)の融合層とともに30分間培養された。図14Aに示すように、RIPはHaCat細胞へのS.epidermids接着を有意に(p<0.05)低減した。
【0118】
RIPがS.epidermidsのプラスチックへの接着および生物膜の形成を低減するか否かを試験するため、指数増殖早期のS.epidermidsが、ポリスチレン製のマイクロタイタープレートで3時間増殖され、接着した細胞が、サフラニンで染色された。これら実験条件は、生物膜が形成されるものである(図示しないが、原子顕微鏡によって観察される)。図14Bに示すように、RIPは、プラスチックに接着する細胞の数を有意に低減した。これらの結果は、RIPが、インビトロでのS.epidermidsの宿主細胞やプラスチックへの接着を阻害することを明らかに実証している。
【0119】
RIPは、移植に関連する感染から保護でき、抗生物質と相助作用する
RIPが移植に関連する感染保護できるかどうかを試験するため、ラット移植モデルが使用された。
【0120】
方法
移植に関連する感染の誘発
ラット(ウィスター系成体オス(300−350g)、n=15/実験グループ)は、麻酔され、背中の毛を剃られ、そこの皮膚を10%ポビドン−イオジン溶液で洗浄された。皮下のポケットが、1.5cm切開することによって、正中線の側部に作成された。無菌状態で、1cm2の無菌のコラーゲンでシールされたダクロン移植体(Albograftの登録商標、Sorin Biomedica Cardio、S.p.A.、Saluggi VC、イタリア)が、そのポケットに移植された。移植の直前に、ダクロンの移植体は、抗生物質(ムピロシン100mg/L、キヌプリスチン−ダルフォプリスチン50mg/L、レボフロキサシン30mg/L、リファンピン5mg/L)とともに、または、抗生物質なしで、生理食塩水の10mg/LのRIPの滅菌溶液に、また、対照として、生理食塩水のみか、不活性RIPペプチドアナログ(YKPETNF)のいずれかに、20分間浸漬された。ポケットは、皮膚クリップで閉じられ、2×107個の細菌を入れたか、または、入れていない1mLの滅菌生理食塩水が、液で満たされた皮下のポケットを作成するため、ツベルクリン注射器を用いて移植体に接種された。RIPまたは生理食塩水に浸漬された移植体を有する動物のうち数体は、抗生物質(セファゾリン30mg/kg、イミペネム30mg/kg、テイコプラニン10mg/kg、レボフロキサシン10mg/kg)を腹腔内に投与された。移植体は、移植から7日後に摘出された。移植体に接着した概算のRIP量は、10−26□gであった。
【0121】
移植体感染の評価
摘出した移植体は、滅菌チューブに入れられて滅菌生理食塩水で洗浄され、10mLのリン酸緩衝生理食塩水が入ったチューブに入れられ、移植体から付着した細菌を除去するため、5分間超音波処理された。生菌の定量は、細菌懸濁液の10倍連続希釈液(0.1mL)を血液寒天プレートに植えることによって実行された。全てのプレートが、37℃で48時間培養され、株の存在を評価された。細菌は、1プレートあたりのコロニー形成単位(CFU)の数を数えることによって定量された。細菌が効果的に移植体から除去されたかどうかを決定するため、洗浄され、超音波処理された移植体は、ニコンエクリプスE600光学顕微鏡(ニコン Y−THS、日本)で観察した。
【0122】
統計解析
インビボでの実験における培養結果の定量は、平均値の□標準偏差の平均値で表された。結果の比較は、対数変換されたデータでの分散の解析(ANOVA)によって行われた。統計解析が、マイクロソフトエクセル(マイクロソフト、ワシントン)によるStudent’s t−検定を用いて、インビトロでの付着の分析のために行われた。P値が□0.05の場合、有意差があるとした。
【0123】
結果
RIPが移植体に関連した感染を予防するか否かについて試験をするため、ダクロン移植体が、RIPで被覆されるか、または、被覆されず、そして、種々の種類の抗生物質で被覆されるか、または、被覆されなかった(局所的な予防実験用に)。被覆された移植体は、ラットに移植され、細菌が移植組織に注射され、1週間後、移植組織が除去され、そして、細菌の負荷が決定された。これに代えて、ダクロン移植体は、最初にRIPで被覆され、細菌が注射され、そして、抗生物質が腹腔内経路で投与された(非経口の予防実験用に)。陰性対照として、移植体は、局所または非経口のRIP/抗生物質による予防を行わずに移植され、細菌も注射されなかった。陽性対照として、移植体が移植され、細菌が注入されたが、RIP/抗生物質の予防は行われなかった。RIPに対する陰性対照として、RIPアナログ(YKPETNF)不活性形態が、RIPの替わりに使用された。
【0124】
その結果(図15)は、RIPがlog3によって試験された全株の細菌の負荷を低減し、RIPが抗生物質とともに使用された場合、RIPが100%細菌の負荷を除去できることを示している。具体的には、
1)非汚染陰性対照群に含まれる動物はいずれも、移植体感染の微生物学的証拠を示さなかった。
【0125】
2)汚染された非治療陽性対照群中に含まれる15例のラットはすべて移植体感染の証拠を示し、接種されたGISE株、MRSE株、MSSE株に対するそれぞれの定量培養の結果は、各々、6.8□106、1.9□106CFU/mL、8.1□106+/−2.2□106CFU/mL、7.3□106+/−6.4□105CFU/mLであった。不活性RIPペプチドアナログで被覆された移植体は、非治療対照と同様の移植体感染の証拠を示し、接種されたGISE株、MRSE株、MSSE株に対する、定量培養の結果はそれぞれ6.52□106+/−3□106CFU/mL、7.08□106+/−2.1□106CFU/mL、5.4□106+/−8□105CFU/mLであった。
【0126】
3)10mg/LのRIPに浸漬したダクロン移植体の全群とも、非治療対照群と比較して、ブドウ球菌感染の強度の低下の証拠を示し、接種されたGISE株、MRSE株、MSSE株に対して、各々、6.2□104±2.0□104CFU/mL(p<0.05)、7.4□103±1.8□103CFU/mL(p<0.001)、9.1□103±2.3□103CFU/mL(p<0.001)を示した。
【0127】
4)GISEを接種したラットにおいて、RIP移植体治療は、非経口抗生物質予防よりもよく細菌を阻害しており(>10〜100倍)、(図15(B)を参照)そして、ロバフロキサシンやリファムピシンの局所的な予防よりも有効であったが、キヌプリスチン−ダルフォプリスチンの局所的な予防ほどは有効でなかった(図15(A)を参照)。MRSEまたはMSSEを接種したラットにおいて、RIP治療は、非経口予防実験のテイコプラニン(図15(B)を参照)、そして、局所的な予防におけるムピロシン、キヌプリスチン−ダルフォプリスチン(図15(A)を参照)を除いて、大部分の抗生物質と同様、または、それ以上有効であった。
【0128】
5)RIP移植体治療が抗生物質による予防とともに行われる場合、細菌負荷の阻害レベルは(単一の薬剤のみの場合と比べて)より大きくなり、MRSEおよびMSSE株においてRIPをテイコプラシンとともに非経口投与した場合(単一剤に対してp<0.001)(図15(B)を参照)や、全株においてRIPをムピロシまたはキヌプリスチン−ダルフォプリスチンとともに局所的に投与した場合(単一剤に対してp<0.001)(図15(B)を参照)場合など、場合によっては100%に到達した。
【0129】
類似の結果が、S.aureus MRSA、MSSA、GISA、そして、バンコマイシン耐性S.aureus、S.epidermids株 VISAやVISEにおいて得られた(図示しない)。
【0130】
RIPはインビボでの移植体に関連する感染を防ぐ
動物(15体/群)が、皮下ポケットにダクロン移植体の移植を受けた。移植体は、S.epidermids(MSSE、MRSEおよびGISEの試験)で、または、S.aureus(MSSA、MRSAおよびGISAの試験)とともに皮下感染された。ダクロン移植体は、移植前に、RIPを含有する生理食塩水20mg/LまたはRIPを含有しない生理食塩水20mg/Lに浸漬され、一部の動物は、予防治療としてRIP10mg/Lを腹腔内投与された。結果を図16(A)および(B)に要約する。
【0131】
これらの結果は、任意の種類のブドウ球菌感染を予防する目的で、RIPが医療器具を被覆するために使用でき、RIPが抗生物質に対して相助作用することを明確に示している。
【0132】
ブドウ球菌感染の予防および治療の少なくとも一方に適した薬剤の同定
本発明中において特に重要なことは、RAPおよびTRAPの少なくとも一方の発現および機能の少なくとも一方に影響する活性を有する薬剤の同定である。一般に、対象となる薬剤は、例えばRNAIII合成の活性化に作用するRAPの能力を阻害することによって、RAPまたはTRAP活性を阻害する薬剤である。これらの薬剤は、病原性のブドウ球菌の感染に対する治療法開発にあたって候補薬剤となる。特に重要なものは、ヒト細胞への毒性が低くいか、ブドウ球菌への特異性が高いか、それら両方の特性を有する薬剤のスクリーニング法であり、薬剤の作用に耐性を有する株の選択に対する圧迫がほとんどないか、または、できるだけ少なく、宿主の正常細菌フロラにほとんど影響しないもの(例えば、幅広い効果を有する抗生物質とは明確に区別されるもの)が望ましい。
【0133】
本明細書で使用される用語「薬剤」は、RAPまたはTRAP活性を変えるか、または、RIP活性の模倣ないし強化能を伴う、例えばタンパク質や医薬品などの任意の分子のことをいう。一般に、複数のアッセイ混合物が、種々の濃度に対する反応の差違を検出するため、異なる薬剤の濃度で平行して試験される。代表的な例として、これら濃度のうちの一つは、陰性対照の役割を果たすものであり、それは濃度0または検出レベル未満のものである。
【0134】
候補薬剤には、多数の化学的分類が含まれるが、代表的な例としては、有機分子、望ましくは、分子量が50ダルトンより大きく2500ダルトン未満の小さな有機化合物である。候補薬剤は、タンパク質との構造的に相互作用し、特に、水素結合に必要な官能基を含み、代表的な例としては、少なくともアミン、カルボニル、ヒドロキシルまたはカルボキシル基、望ましくは、少なくとも2つの官能化学基を備えている。候補薬剤は、多くの場合、一つまたは複数の上記官能基を置換した環状炭素や複素環構造および芳香族や多環芳香族構造の少なくとも一方を含む。また、候補薬剤は、生分子の中にも見いだされ、ペプチド、糖類、脂肪酸、ステロイド、フェロモン、プリン、ピリミジン、誘導体、構造アナログまたはそれらの混合物などを含むが、これらに限定されるものではない。
【0135】
候補薬剤は、合成または天然化合物のライブラリを初めとする広範なソースから入手される。例えば、任意抽出されたオリゴヌクレオチドおよびオリゴペプチドの発現を含め、任意のおよび指示された広範な有機化合物や生体分子の合成のために多くの手段が利用可能である。これに変えて、細菌(例えば非病原性ブドウ球菌)、真菌、植物および動物からの抽出物の形態の天然化合物のライブラリが利用可能であるか、または、簡単に作成できる。さらに、天然または合成的に作成されたライブラリおよび化合物は、従来の化学的、物理的、生物化学的手段を使えば簡単に修飾され、組み合わせたライブラリを作成するために使用できる。既知の薬理学的な薬剤は、構造アナログを生産するために、アシル化、アルキル化、エステル化、アミド化などの指示されたもしくは任意の化学修飾を受けるか、プロニルなど保護基を含むか、または、Dアミノ酸を含むことができる。
【0136】
候補薬剤のスクリーニング
広範な種々のインビトロでのアッセイが、候補薬剤をスクリーニングするために用いられ、例えばタンパク質−タンパク質結合、タンパク質−DNA結合アッセイ、電気泳動移動度シフトアッセイ、タンパク質を結合させる免疫測定法など、インビトロでの標識結合アッセイを含んでいる。精製された天然由来、組み換え、または合成のRAP、TRAPおよびRIPポリペプチドの少なくとも一つと、合成生産ペプチドまたはRAP、TRAPおよびRIPの断片の少なくとも一つとのうちのいずれか一方、または、両方が、天然タンパク質に、結合、調節(例えば増大または阻害)または天然タンパク質の作用を模倣するリガンドまたは基質を特定するため、種々のスクリーニングアッセイに使用され得る。精製されたタンパク質は、3次元結晶構造の決定にも使用可能であり、この3次元結晶構造は、分子内相互作用、転写調節などのモデリングに使用できる。
【0137】
このスクリーニングアッセイは、1つまたは複数の分子が標識に結合し、標識が検出可能な信号を直接的または間接的に提供する結合アッセイである。種々の標識としては、放射性同位体、蛍光剤、化学発光剤、酵素、特異結合分子、磁性粒子などの粒子、その他などが含まれている。特異結合分子としては、ビオチンとストレプトアビジン、ジゴキシンとアンチジゴキシンなどの対などが含まれている。特異結合の部材のため、通常、相補的な部材は、既知の手法にしたがって検出のために与えられる分子で標識される。一般に、用いられるスクリーニングアッセイの特有の形として、多数の候補薬剤の平行および同時のスクリーニングが望ましいであろう。
【0138】
本発明のスクリーニングアッセイには、候補薬剤のRNAIII生産におけるRAP、TRAPおよびRIPの役割および毒性因子の生産の少なくとも一方に対する候補薬剤の影響を検討するアッセイが含まれる。例えば、候補薬剤は、病原性ブドウ球菌に接触でき、薬剤存在時のrnaiii転写レベルは、RIP、RAP、TRAP存在下およびRIP、RAP、TRAPの組み合わせの少なくとも一方におけるrnaiii転写レベルと比較する。このようなスクリーニングアッセイは、CAT(クロラムフェニコルアセチルトランスフェラーゼ)、p−ガラクトシダーゼ、rnaiiiまたは病原性因子遺伝子に操作可能に結合されるか、rnaiiiまたは毒性遺伝子転写の検出を促進するか、または、rnaiiiまたは毒性因子生産を促進するその他の物質のようなレポーター遺伝子系を含有する組み換え宿主細胞を利用することができる。これに代えて、スクリーニングアッセイは、当業者に周知のハイブリダイゼーション技術(例えばノーザンブロット、PCRなど)を用いて、rnaiiiまたは毒性因子転写を検出することができる。
【0139】
種々の他の試薬が、本明細書中に記載されるスクリーニングアッセイに含まれる。アッセイが結合アッセイの場合、アッセイは、塩、例えばアルブミンなどの中性タンパク質、洗剤など、最適なタンパク質−タンパク質結合、タンパク質−DNA結合を促進するため、および、非特異またはバックグラウンドの相互反応を低減させるための少なくとも一方の試薬が含まれる。また、タンパク分解酵素阻害剤、核酸分解酵素阻害剤、抗菌薬など、アッセイの効率を高める試薬が使用され得る。化合物の混合物は、必要な結合をもたらす任意の順序で添加される。インキュベーションは、任意の適切な温度で、代表的な例としては4℃〜40℃の間で行われる。インキュベーション時間は、最適な活性を得るために選択されるが、速い高スループットのスクリーニングを促進するために最適化することもできる。代表的な例としては、0.1から1時間の間であれば十分である。
【0140】
動物モデルにおける候補薬剤のスクリーニング
上述のアッセイで決定されたような所望の活性を有する薬剤は、非ヒト動物モデルで、さらにブドウ球菌毒性因子生産に対して影響を及ぼす能力や、ブドウ球菌の感染能力に対する影響をさらにスクリーニングされ得る。選択された動物モデルは、含まれる因子の数によって変わり、候補薬剤がスクリーニングされるのに対するブドウ球菌の特有の病原株、候補薬剤が治療薬として使われる最終的な目的の宿主などを含むが、これらに限定されるものではない。スクリーニングアッセイに使用するのに適した動物は、選択されたブドウ球菌種による感染を受ける任意の動物が含まれる。例えば、ブドウ球菌種がS.aureusまたはS.epidermidsである場合、動物モデルは、齧歯類モデルにでき、望ましくはラットまたはマウスモデルである。
【0141】
一般に、候補薬剤は、ブドウ球菌感染を受けるヒト以外の動物に投与され、動物は、ブドウ球菌にすでに感染しているか、ブドウ球菌の感染用量を候補薬剤とともに投与されることになる。候補薬剤は、所望の効果を得るための薬剤の移送にとって所望の方法および適切な方法の少なくとも一方の方法で投与できる。例えば、候補薬剤は、注射(例えば、静脈注射、筋肉注射、皮下注射または所望の効果を達成すべき組織内に直接)によって、局所的に、経口的に、またはその他の望ましい手段で投与できる。通常、このスクリーニングは、種々の量および濃度の候補薬剤(候補薬剤を投与しない状態から、動物にうまく移送できる上限量に近い量まで)を受容する動物の数が関係し、そして、異なる方式での薬剤の移送を含んでいる。薬剤は、単独で投与することも可能であり、特に薬剤の組み合わせによって相助作用をもたらしうる場合は、2種以上組み合わせて投与することもできる。薬剤は、動物内に移植される医療器具を被覆するために使用することもできる。
【0142】
薬剤投与の動物モデルに対する効果は、任意の適切な方法、例えばブドウ球菌に起因する病変の数および大きさ、感染の微生物学的証拠、健康全般などの評価によって、監視できる。候補薬剤が、所望の方式で(例えば、感染負荷を低減し、病変の緩解を促進することによって)ブドウ球菌の感染に影響を及ぼす場合、候補薬剤は、ブドウ球菌の感染の治療への使用に適した薬剤として同定される。
【0143】
細菌感染の治療
本発明は、所定の細菌感染(例えばヒトにおけるS.aureus)による感染を受けるヒトまたは動物の予防または治療の方法を、毒性因子生産を促進するRAPまたはTRAP活性を阻害する薬剤を投与することによって、例えば、RNAIIIのRAPを介する活性や、その後の毒性因子生産を阻害することによって提供する。
【0144】
所望の薬理活性を有する化合物は、病原性のブドウ球菌の感染の治療または予防のために、生物学的に許容される担体で宿主へと投与できる。治療薬剤は、経口、局所、非経口、例えば皮下、腹腔内、静脈内、肺内(吸入)など、種々の方法で投与できる。導入の方法に応じて、化合物は、種々の方法で処方できる。処方中の治療上活性のある化合物の濃度は、0.1−100重量%と様々である。
【0145】
製薬組成物は、顆粒、錠剤、ピル、坐剤、カプセル、懸濁物、軟膏、ローションなど種々の剤型で調剤できる。医薬品グレードの有機または無機の担体および経口や局所的な用途に適した希釈液の少なくとも一方が、治療上活性な化合物を含有する組成物を作成するのに使用できる。技術として既知の希釈液には、水性媒体、動物性および植物性油脂などを含んでいる。安定剤、湿潤剤および乳化剤、種々の浸透圧のための塩類または適切なpH値を確保するための緩衝液、皮膚浸透促進剤が、補助剤として使用できる。
【0146】
一実施形態において、宿主は、RIP、または、抗RAP抗体などのようなRAPまたはTRAPの阻害剤、または、それらの両方の投与によって治療される。別の実施形態では、RAP阻害剤は、他のRAPやTRAPの阻害剤とともに投与されるか、または、ブドウ球菌毒性に対する他の阻害剤とともに投与されるか、それらの両方とともに投与される。例えば、RIPおよび従来の抗生物質の少なくとも一方が一緒に投与される。また別の実施形態では、RAPやTRAPの阻害剤、RIP、そして、RAPやTRAPの阻害剤(例えば抗RAPまたは抗TRAP抗体)が投与される。これらの組み合わせの治療では(例えば複数のRAP阻害剤の投与と、RAPおよびRIPの投与と、RAPまたはTRAPの阻害剤、RIPおよびTRAPまたはRAPの阻害剤の少なくとも一方の投与との少なくとも一つを投与)、有効組成物の同時投与または連続投与を行うこともできる。用法用量は、最適の治療反応を提供するよう調整される。例えば、毎日何回かに分けた用量を投与してもよく、または、治療状況に応じた比率で用量を減少させることもできる。有効化合物は、経口、静脈内、筋肉内、皮下、口腔、経皮または吸入など、任意の便利な方式で投与できる。
【0147】
RIP、RAP阻害剤、TRAP阻害剤、または、これらの組み合わせから成る処方は、治療上有効な用量、例えば感染の予防または治療の成功率を高めるのに十分な用量で投与される。このような処方の投与は、類似の用途で使用される薬剤の投与に適用されたいずれの方式を介しても行うことができ、全身的な投与を介することが望ましい。投与は、他の阻害剤、例えば従来の抗生物質との上記のような組み合わせを含み得る。
【0148】
感染治療のためのヒトへの用量レベルは既知であり、一般に、1日あたり体重に対して約0.1から500.0mg/kgであり、望ましくは、約6.0〜200.0mg/kg、最も望ましくは、約12.0から100.0mg/kgである。一般に、処方は、任意の感染を10日未満で消滅または低減するために必要な循環値とほぼ同じか、または、それより多い血清濃度を得ることが求められている。70kgのヒトに対する投与では、用量は、1日当たり約50mgから3.5gであり、望ましくは、1日あたり約100mgから2gであり、最も望ましくは、1日あたり200mgから1gである。投与される処方量は、当然のことながら、被験体および苦痛の重篤度、投与の様式および日程、そして、処方する医師の判断に依存する。
【0149】
感染治療のための処方の採用において、任意の医薬品に許容された投与形態が使用され得る。処方は、単独でも、または、他の医薬品的に許容された賦形剤と組み合わせ、錠剤、カプセル、粉剤、液体、ゲル、懸濁液、坐剤、エアロゾルなどで投与できる。また、処方は、デポー注射、浸透圧ポンプ、ピル、経皮パッチ(電子輸送を含む)、その他など、持続型または放出制御型の剤型で投与でき、望ましくは、単回投与の厳密な用量に適した単位剤型、または、体内に挿入される器具の被覆である。
【0150】
組成物は、代表的な例としては、従来の医薬品の担体または賦形剤や、本発明の処方を含む。さらに、これら組成物は、他の有効成分、担体、アジュバントなどを含有できる。一般に、意図された投与形態に応じて、医薬品として許容された組成物は、化合物の重量比で約0.1%から90%、望ましくは、約0.5%から50%を含有し、残りは適切な医薬品の賦形剤、担体などである。これら剤型を調製する実際の方法は、既知であり、すべて当業者には明らかである。例えば、Remington’s Pharmaceutical Science、Mack Publishing Company、イーストン、ペンシルバニア、第15版を参照。
【0151】
非経口の投与は、一般に、皮下、皮内、筋肉内または静脈内への注射、望ましくは皮下注射を特徴とする。注入物は、液体溶液または懸濁液、注入前に液体溶液、懸濁液とすることに適した固体、または、乳液のいずれかの従来の剤型で調製できる。適切な賦形剤は、例えば水、生理食塩水、D型グルコース、グリセロール、エタノールなどである。さらに、所望の場合、投与される製剤組成物は、湿潤剤または乳化剤、pH緩衝剤、溶解性向上剤など、例えば酢酸ナトリウム、ソルビタンモノラウレート、オレイン酸トリエタノールアミン、シクロデキストリンなどの少量の非毒性の補助剤を含有できる。
【0152】
このような非経口組成物に含まれる有効成分の割合は、組成物の特有の特性、や被験体の必要性に大きく依存する。しかし、溶液で0.01%から10%の有効成分の割合が用いられ、組成物が固体で上記のような割合まで後で希釈される場合、有効成分の割合はさらに高くなる。望ましくは、組成物は、溶液で0.2から2%の有効成分を含有する。
【0153】
より近年になって考案された非経口投与のための方法は、用量の一定値を維持するように、徐放型または持続放出型のシステムの移植を利用している。徐放を制御するため、そして、有効成分の放出を漸次低減するための種々の材料(例えばポリマー、親水性ゲルなど)が当業者において既知である。米国特許第3,845,770号(基本的な浸透圧ポンプを記載)、第3,995,651号、第4,034,756号、第4,111,202号(小型浸透圧ポンプを記載)、第4,320,759号、第4,449,983号(プッシュプルおよびプッシュメルト浸透圧ポンプと呼ばれる複室浸透圧システムを記載)、そして、第5,023,088号(種々の用量単位の連続計時型分注用浸透圧ポンプを記載)を参照。
【0154】
有効組成物の処方は、鼻孔または肺吸入エアロゾル、噴霧器用溶液、または、吸入用微粉末として、単独または乳糖などの不活性な担体とともに、または、他の医薬品として許容された賦形剤とともに呼吸路に投与できる。このような場合、処方の粒子は、50ミクロン未満が有利であり、望ましくは10ミクロン未満の直径を有する。本発明の処方の投与に適したインスリン投与方法を開示する米国特許第5,364,838号を参照。
【0155】
予防接種
本発明は、所定の細菌感染(例えばS.aureusやS.epidermids)による感染を受けるヒトまたは動物に予防接種するためのワクチンを、RAP、TRAP、または、RAPやTRAPの抗原有効部位を、任意でアジュバントを含む場合もある医薬品として許容された担体で投与することにより提供する。免疫反応を消滅させるために適した処方は、当業者には周知である。一般に、宿主は、RAPまたはTRAPなどの抗原に曝露され、このため宿主の免疫系をかく乱し、抗原に対する免疫反応をきたす。抗原に対する免疫反応を増加するため、抗原とともにアジュバントも添加できる。投与されたポリペプチドの量は、宿主の保護のための免疫反応を発現させるために十分な量である。これら適切な量を決定する方法は、当業者は日常的に行っており周知である。例えば、RAP、TRAPおよびその抗原的有効部の少なくとも一つを利用して、ブドウ球菌感染の動物モデルに予防接種できる。これら動物モデルに有効量は、予防接種の有効量を提供するため、他の宿主(例えば家畜、ヒトなど)で推定できる。
【0156】
組み換えRAP(rL2)を有する動物の予防接種
4週齢のメスBalb/Cマウス(10体/群)に対し、0、7、21日目に、50μgのrL2(50μg/50μL PBS)を、初回注射時に50μLの完全フロインドアジュバント、第2、3回注射時に不完全フロインドアジュバントとともに皮下注射した。対照動物は、アジュバント/PBSのみを注射した。動物は、35日目に下記のように調製した2×109のSmith Diffuse S.aureus(SD)でチャレンジした。動物は、毎日、死亡率、全般的な健康、病変の進展を観察した。病変の大きさが測定された(面積=0.5n(長さ)(幅))。
【0157】
チャレンジ用細菌の調製は、Smith Diffuse S.aureus(SD)を血液寒天プレートで、37℃で一晩増殖させた。細菌は、濃度2×1010細胞/mLでPBSに懸濁された。2×109個(100μL)の細胞が、1mgのサイトデクスビーズとともに予防接種動物および対照動物に皮下注射され、局所的な感染を誘発した。
【0158】
ELISAによる抗体レベルの決定。初回の予防接種の前、および、第3回の予防接種から10日後に、尾の先端から血を1滴採取した。ELISAプレートは、50μLの25μg/mL抗原または対照となる3%BSAで一晩被覆した。そのとき、ウェルが、3%BSAで、3時間室温でブロッキングされ、50μLの血清(PBS中に1:1000で希釈)が、室温で2.5時間添加された。非結合抗体を除去して、0.05%のトゥイーン20を含有するPBSで2分間×5回洗浄した。PBS/トゥイーンに1:2000に希釈した50μLのペルオキシダーゼ抱合抗マウス抗体(Sigma)が37℃で1時間添加された。非結合抗体が除去され、上述のようにウェルが洗浄され、結合抗体がABTS(Sigma)で製造業者の指示にしたがって検出された。
【0159】
予防接種実験の結果
抗原に対する抗体の発現は、予防接種された動物は全てで、注射された抗原に対して、抗体力価(>1000)が発現した。対照動物はいずれも、注射された抗原に対する検出可能な抗体値を示さなかった。
【0160】
チャレンジ後の死亡率は、図4に示すように、アジュバントのみを予防接種した対照動物10例のうち、チャレンジ初日に3体が死亡し、残り1体が2日目、さらに残り1体が3日目に死亡した。
【0161】
病変は、生存動物はすべてで発症し、病変の大きさをチャレンジから5日後に決定した。図5に示すように、対照動物の病変の大きさの平均は、7cm2であり、rL2を予防接種した動物の病変の大きさの平均はわずか2.5cm2であった。
結論
rL2を予防接種した動物は、死亡が遅れ、死亡率が50%減少し、病変の大きさが63%減少した。これらの結果、rL2は、S.aureus感染に対する保護をもたらす。チャレンジに使用される細菌の数は、例えば異常に高いことを注目すべきであり、存在する細菌の数がより少ない場合は、感染からの保護レベルはより高くなると予想される。
【0162】
結論は、RAP(天然型または組み換え型)は、インビトロでのRNAIII合成を阻害し、インビボでS.aureusの感染から保護する。RAPは、L2のホモログであり、すべての細菌にみとめられるため、RAPは、S.aureusの他、種々の細菌感染に対する治療の標的部位として役立つ。
【0163】
被覆された器具
本発明は、RAP、TRAP、RAP様分子またはTRAP様分子を発現するブドウ球菌またはその他の細菌による生物膜の形成を阻害するために有効な量のRAP阻害剤(例えば、抗RAP抗体、抗TRAP抗体、阻害ペプチド、RIPペプチドまたはRIP誘導体ペプチド)を含有する組成物で表面を被覆された器具を提供する。被覆された器具は、宿主(例えば外科患者、生理中の女性)のブドウ球菌またはその他の細菌の感染または曝露の危険に関連する任意の器具である。
【0164】
本発明に包含される被覆された器具の例としては、カテーテル、針、外科器具(例えば外科用メス、スポンジ、開創器など)、包帯および包帯材料(例えばガーゼ、手当用品)、人工関節、心臓弁、タンポン、または、他の医療器具などを含むが、これらに限定されるものではない。これら器具は、ブドウ球菌またはその他の細菌を宿主と接触させるか、このような状況で、ブドウ球菌細菌によるコロニー形成を誘引する傾向があり、被覆された器具は、ブドウ球菌またはその他の細菌の感染を予防するか、または、例えばブドウ球菌の毒性因子への曝露に関連する重篤な症状の予防または緩和もできる。
【0165】
本発明は、ここに具体的な実施形態を参照して説明してきたが、本発明の真の精神および範囲から逸脱することなく種々の変更を加え、同等のものに置き換えられることが当業者によって理解されるべきである。さらに、本発明の目的、精神および範囲に適合させるために、特定の状況、材料、組成物、工程、工程の段階または段階に対して、多くの修正を加えることができる。これらすべての修正は、本明細書に付属する請求項の範囲内となるよう意図されている。
【図面の簡単な説明】
【0166】
【図1】S.aureus RN6390B(AF205220)、S.epidermids RP62A(TIGRデータベース)、ブドウ球菌発熱物質M1 GAS(AE014137)、Listeria monocytogenes EGD(AL591983)、Lactococcus lactis(AE006438)、Enterococcus faecalis(TIGRデータベース)、Escherichia coli K12(AE000408)、Clostridium acetobutylicum(AE007808)、Bacillus subtilis(Z99104)といった細菌からの推定RAP(RplB)アミノ酸配列の複数配列並列解析(ClustalW)である。
【図2】rRAP(2□g)(第1、3列)および天然型RAP(30倍濃度の指数増殖期後の上清タンパク質30□L)(第2、4列)を含有するS.aureus RN6390Bの培養上清がSDS12.5%PAGEにかけられたことを示すゲルの写真であり、ゲルは、ウェスタンブロットし、乳でブロッキングされ、膜をポンソー染色してタンパク質を可視化し(第1、2列)、そして、モノクローナル抗rRAP抗体(腹水、1:1000に希釈)でインキュベートし、結合した抗体は、ペルオキシダーゼ抱合抗マウス抗体によって検出され、化学発光によって可視化され、そして、膜がオートラジオグラフにかけられた(第3、4列)。
【図3A】rnaiii::blaZ融合構成物(指数増殖期早期2×107個)を含有するS.aureusの細胞が、rRAPを増量され(0−100□g)、45分間増殖されたことを示すグラフであり、□−ラクタマーゼ活性は、490/650nmの光学密度として決定され、示されており、陽性対照として、部分精製されたRAP(S.aureus RN6390Bの天然型、指数増殖期後の上清>10kDa)を10kDのカットオフ膜にかけた。
【図3B】細胞(指数増殖期早期108個)が、1mgのrRAPとともに(第1列)、または、rRAPなしで(第2列)30分間増殖され、細胞が回収され、ノーザンブロットされ、RNAIII特異的放射性標識DNAを使用してRNAIIIの存在が検出され、膜がオートラジオグラフにかけられ、バンドの密度が決定された。
【図4】Balb/c天然型マウス(対照)またはrL2を予防接種して2×109個のS.aureusにチャレンジされたマウスの死亡率を示す。
【図5】2×109個のS.aureusによるチャレンジ後に生存したrL2予防接種動物における病変の発症を示す。
【図6A】指数増殖期早期から数時間の間に増殖した細胞の曲線、時間間隔をおいて決定された(光学密度600nmにおける)細胞密度で、円はTRAP+、四角はTRAP−である。
【図6B】図6Aに示す各増殖段階(3×108個の細胞)からの細胞試料を示すゲルの写真であり、細胞は、回収されてノーザンブロットされ、RNAIII特異的放射性標識DNAを使用してRNAIIIの存在が検出され、膜は、オートラジオグラフにかけられ、S.aureus TRAP+(第1、2、3列)、S.aureus TRAP−(第4、5、6列)で、第1、4列は指数増殖期早期、第2、5列は指数増殖期中期、第3、6列は指数増殖期後である。
【図7A】溶血試験用のヒツジ血液寒天プレートで増殖させた細胞の写真で、TRAP+による溶血が図の一部に示され、TRAP−が底部に示されている。
【図7B】ポリスチレンマイクロタイタープレートで、37℃で4時間増殖させた指数増殖期早期のS.aureus TRAP+およびTRAP−株の接着を示すグラフで、接着細菌をサフラニンで染色し、吸光度を490nmで決定したものである。
【図8】病変の大きさ、S.aureus 8325−4親株(TRAP+)(左側パネル)、S.aureus 8325−4(TRAP−)変異株を示すグラフである。
【図9】ブドウ球菌株および種からの推定TRAPアミノ酸配列の複数配列並列解析(ClustalW)である。
【図10】TRAPおよびそのホモログの二次構造予測であり、S.aureus TRAP(GenBank AF202641)、Listeria monocytogenes EGDLMO2213(GenBank AL591982)、B.subtilis YhgC(GenBank Z99109)の推定アミノ酸配列を、PCIPRED v2.4を使用して予測した推定二次構造で、コイルを実線、らせんを横向き円柱形、鎖を矢印で示す。
【図11】GenBankおよび対応するゲノムプロジェクトデータベースから得たDNA配列に基づいて設計された遺伝子領域マップで、S.aureustra P(AF202641および本明細書)およびその相同体、S.epidermids(TIGRデータベースおよび本明細書)、Listeria monocytogenes EGDLMO2213(AL591982)、Listeria innocua(AL596171)、Bucillus subtilis(Z99109)およびB.anthracis(TIGRデータベース)を灰色の矢印で示し、推定の転写ターミネータを黒色の逆三角形で示し、側面のhemEおよびecsBの間の距離(kB単位)を、分断された両方向矢印で示し、hemE遺伝子は、プロトヘムIX生合成経路の後期段階の酵素をコード化し、ecsBC遺伝子は、タンパク質分泌組織の成分および二次タンパク質転写を調整された様式でコード化し(B.subtilis)、cadD遺伝子は、S.aureusプラスミドnRW001に非常に似ており、pbpF遺伝子はB.subtilis発芽工程にかかわるペニシリン結合タンパク質をコード化し、遺伝子yhgB、yhfA、yhaAは未知の機能の仮定のタンパク質をコード化する。
【図12】Listeria monocytogenes株1001(第1列)、Listeria monocytogenes株ScottA(第2列)およびリステリアイノキュア株3009を、P32とともに早期指数増殖段階の細胞を1時間増殖せせることによって得た、体内リン酸化を示すゲルの写真。全細胞ホモジネートをSDS PAGEで単離し、ゲルをオートラジオグラフした。
【図13】RIPがS.aureusおよびS.epidermidsの両方において、TRAPリン酸化を阻害することを示すゲルの写真で、S.aureus(右側パネル)およびS.epidermids(左側パネル)を、RIPの存在時または不存在時に1時間インビボでリン酸化し、全細胞のホモジネートをSDS PAGEで分離し、ゲルをオートラジオグラフにかけた。
【図14A】RIP(RIP−)の存在時およびRIP(RIP+)の不存在時の接着を示すグラフで、FITC標識細菌細胞(106個のCFU)を、5μgのRIP(RIP+/−)の存在時または不存在時に、104個の融合HaCat細胞を含有するマイクロタイタープレートに塗布し、細胞を37℃で30分間培養し、PBSで洗浄し、485/530nmで蛍光度を決定した。
【図14B】RIP(RIP−)の存在時およびRIP(RIP+)の不存在時の接着を示すグラフで、S.epidermidsを、ポリエステルプレートに3時間塗布し、接着細菌をサフラニンで染色し、490nmでの吸光度を求めた。
【図15】局所(A)または非経口(B)の抗生物質の予防の存在時および非存在時に、RIPで被覆したダクロン移植体を使用した表皮感染の予防。
【図16】RIPがダクロン移植体起因S.epidermids(A)およびS.aureus(B)を予防する。
【図17】S.aureusの病原性の提唱された機構。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
RAPが病原性に役割を果たす細菌の種に起因する細菌感染の予防または治療のため、抗体反応を誘発する効果を有する量のRAP型ポリペプチドを被験体に投与する、RAPが病原性おいて役割を果たす細菌の種に起因する細菌感染によって起こる感染に対する予防または治療の方法。
【請求項2】
前記種がS.epidermidsであることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記種がStreptococcus pyogenesであることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記種がListeria monocytogenesであることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記種がLactococcus lactisであることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記種がEnterococcus faecalisであることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記種がEscherichia coliであることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記種がClostridium acetobutyliciumであることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記種がBacillus subtilisであることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項10】
細菌感染に対する治療または予防効果を有する量のRIPまたはRIP誘導体を、RAPが病原性に役割を果たす細菌の種に起因する細菌感染の危険を有する被験体に投与する、病原性おいてRAPが役割を果たす細菌の種に起因する細菌感染による感染に対する予防または治療の方法。
【請求項11】
前記種がブドウ球菌の全ての種であることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記RIPまたはRIP誘導体で器具を被覆する工程をさらに含むことを特徴とする請求項10に記載の方法。
【請求項13】
TRAP型分子が病原性に役割を果たす細菌の種に起因する細菌感染の予防または治療のため、被験体内の抗体反応を誘発する効果を有する量のTRAP型ポリペプチドを被験体に投与する、TRAP型分子が病原性に役割を果たす細菌種に起因する細菌感染に起因する感染に対する予防または治療の方法。
【請求項14】
前記TRAP型分子がYhgCであることを特徴とする請求項13に記載の方法。
【請求項1】
RAPが病原性に役割を果たす細菌の種に起因する細菌感染の予防または治療のため、抗体反応を誘発する効果を有する量のRAP型ポリペプチドを被験体に投与する、RAPが病原性おいて役割を果たす細菌の種に起因する細菌感染によって起こる感染に対する予防または治療の方法。
【請求項2】
前記種がS.epidermidsであることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記種がStreptococcus pyogenesであることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記種がListeria monocytogenesであることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記種がLactococcus lactisであることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記種がEnterococcus faecalisであることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記種がEscherichia coliであることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記種がClostridium acetobutyliciumであることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記種がBacillus subtilisであることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項10】
細菌感染に対する治療または予防効果を有する量のRIPまたはRIP誘導体を、RAPが病原性に役割を果たす細菌の種に起因する細菌感染の危険を有する被験体に投与する、病原性おいてRAPが役割を果たす細菌の種に起因する細菌感染による感染に対する予防または治療の方法。
【請求項11】
前記種がブドウ球菌の全ての種であることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記RIPまたはRIP誘導体で器具を被覆する工程をさらに含むことを特徴とする請求項10に記載の方法。
【請求項13】
TRAP型分子が病原性に役割を果たす細菌の種に起因する細菌感染の予防または治療のため、被験体内の抗体反応を誘発する効果を有する量のTRAP型ポリペプチドを被験体に投与する、TRAP型分子が病原性に役割を果たす細菌種に起因する細菌感染に起因する感染に対する予防または治療の方法。
【請求項14】
前記TRAP型分子がYhgCであることを特徴とする請求項13に記載の方法。
【図1】
【図2】
【図3A】
【図3B】
【図4】
【図5】
【図6A】
【図6B】
【図7A】
【図7B】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14A】
【図14B】
【図15】
【図16】
【図17】
【図2】
【図3A】
【図3B】
【図4】
【図5】
【図6A】
【図6B】
【図7A】
【図7B】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14A】
【図14B】
【図15】
【図16】
【図17】
【公表番号】特表2007−504279(P2007−504279A)
【公表日】平成19年3月1日(2007.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−532278(P2006−532278)
【出願日】平成16年1月30日(2004.1.30)
【国際出願番号】PCT/US2004/002679
【国際公開番号】WO2005/009396
【国際公開日】平成17年2月3日(2005.2.3)
【出願人】(505292672)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成19年3月1日(2007.3.1)
【国際特許分類】
【出願日】平成16年1月30日(2004.1.30)
【国際出願番号】PCT/US2004/002679
【国際公開番号】WO2005/009396
【国際公開日】平成17年2月3日(2005.2.3)
【出願人】(505292672)
【Fターム(参考)】
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