説明

ブドウ糖シロップおよびブドウ糖混合シロップの安定化された製造方法および供給方法

【課題】ブドウ糖シロップまたはブドウ糖混合シロップを、高濃度のままで、あるいはブドウ糖を増量し、かつ結晶を析出させずに製造する方法および供給ないし貯蔵する方法の提供。
【解決手段】ブドウ糖と、グルコオリゴ糖および/またはショ糖の混合液を調製し、その混合液を貯蔵および/または運搬した後、加熱および/または酵素によってグルコオリゴ糖および/またはショ糖を単糖に分解する工程を含んでなる、ブドウ糖シロップまたはブドウ糖とフルクトースの混合シロップの製造方法および供給方法。

【発明の詳細な説明】
【発明の分野】
【0001】
本発明は、ブドウ糖シロップおよびブドウ糖混合シロップの安定化された製造方法および供給方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ブドウ糖は幅広い産業で原料として利用されており、食品産業(菓子、調味料、パン、缶詰、酒類など)はいうまでもなく、医薬品や飼料にも使用され、近年ではエネルギー産業(バイオエタノール等)での使用が注目されている。
【0003】
ブドウ糖の流通形態には液体と固体の二種類があるが、運搬、計量、混合、溶解等の取り扱い効率の観点から、液体での流通が好ましいとされている。しかし、ブドウ糖は溶解度が小さいために室温で約50重量%以上の濃度の溶液にすることができず、高濃度で輸送することが困難であった。また、室温で溶液状態であったとしても、貯蔵・運搬中に低温に遭遇した場合にはブドウ糖が析出するという問題があった。
【0004】
糖シロップを高濃度で析出させずに運搬する方法としては、糖シロップを50℃以上の高温で保管・流通させる方法がある。しかし、糖シロップを高温下で保管すると経時的にpHの低下と着色を生じやすく、品質の劣化を招くことがある。また糖シロップを高温下に維持するためにはエネルギー消費が避けられない。このため品質保持や二酸化炭素排出削減といった観点から、糖シロップを加温することなく外気温と同程度の温度で保管・流通させることが望ましい。
【0005】
ブドウ糖の供給手段として、特公昭40−11897号公報(特許文献1)および特公昭45−40253号公報(特許文献2)には、ブドウ糖の一部をフルクトースに転化させて糖シロップの結晶化が防止できることが開示されている。しかし、貯蔵・輸送中の結晶化を防止するとともに、高濃度のブドウ糖あるいはブドウ糖混合シロップを製造あるいは供給することは示唆されていない。
【特許文献1】特公昭40−11897号公報
【特許文献2】特公昭45−40253号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、ブドウ糖シロップまたはブドウ糖混合シロップを、高濃度のままで、あるいはブドウ糖を増量し、かつ結晶を析出させずに供給先で製造する方法および供給ないし貯蔵する方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によれば、ブドウ糖と、グルコオリゴ糖および/またはショ糖の混合液を調製し、その混合液を貯蔵および/または運搬した後、加熱および/または酵素によってグルコオリゴ糖および/またはショ糖を単糖に分解する工程を含んでなる、ブドウ糖シロップまたはブドウ糖とフルクトースの混合シロップの製造方法および供給方法が提供される。
【0008】
本発明によれば、高濃度のブドウ糖シロップおよびブドウ糖混合シロップを結晶析出させずに供給先で製造することができることから、ブドウ糖シロップおよびブドウ糖混合シロップの品質を高く保つことができる点で有利であるとともに、高濃度の状態で輸送できるので、その分輸送コストを削減することができるとともに雑菌の繁殖を抑制できる点で有利である。
【発明の具体的説明】
【0009】
本発明による製造方法および供給方法は、ブドウ糖と、グルコオリゴ糖および/またはショ糖の混合液を調製する工程(第一の工程)、その混合液を貯蔵および/または運搬する工程(第二の工程)、並びに加熱および/または酵素によってグルコオリゴ糖および/またはショ糖を単糖に分解する工程(第三の工程)を有することを特徴とする。本発明による製造方法および供給方法は、また、ブドウ糖とショ糖の混合液を使用した場合(第一の態様)と、ブドウ糖とマルトオリゴ糖の混合液を使用した場合(第二の態様)から構成される。以下、工程ごとに説明し、続いて、具体的な態様について説明する。
【0010】
[第一の工程]
第一の工程において作製される混合液に添加される「ブドウ糖」は、液状ブドウ糖、全糖ブドウ糖、含水結晶ブドウ糖、無水結晶ブドウ糖のいずれも使用することができる。全糖ブドウ糖は、糖化反応で得られた液状ブドウ糖をそのまま晶析後、成型・乾燥し切削する方法で、あるいは液状ブドウ糖を晶析後、噴霧乾燥・育晶して得ることができる。含水結晶ブドウ糖は、液状ブドウ糖を冷却し晶析させた後、分蜜、水洗、乾燥して得ることができる。無水結晶ブドウ糖は、液状ブドウ糖を煎糖し晶析させた後、分蜜、水洗、乾燥して得ることができる。全糖ブドウ糖、含水結晶ブドウ糖、無水結晶ブドウ糖は、また、市販のものを使用することができる。
【0011】
第一の工程において作製される混合液に添加される「グルコオリゴ糖」は、好ましくは、マルトオリゴ糖(重合度は例えば2〜7である)であり、より好ましくは、マルトースである。
【0012】
第一の工程において添加される「グルコオリゴ糖」は、加熱および/または酵素による分解後の溶液中のブドウ糖の濃度(重量%)が、水分約20〜約30%のシロップの場合において、約10℃におけるブドウ糖の溶解度(%)を超えるような量で添加することができる。例えば、ブドウ糖に対して約0.7〜約4.2倍(重量比)の量のグルコオリゴ糖および/またはショ糖が含まれるように混合液を調製することができる。
【0013】
本発明では、第一の工程において作製される混合液は、ブドウ糖と、グルコオリゴ糖および/またはショ糖とから本質的になる水溶液とする。すなわち、第一の工程において作製される混合液は、ブドウ糖と、グルコオリゴ糖および/またはショ糖が主成分として水溶液を構成しており、微量の他の糖類が不可避的に含まれていてもよい。
【0014】
例えば、混合液が、液状ブドウ糖とショ糖とから構成される場合には、ブドウ糖とショ糖以外に、フルクトース(果糖)やグルコオリゴ糖が約4%以下の割合で含まれていてもよい。また、混合液が液状ブドウ糖とグルコオリゴ糖とから構成される場合には、ブドウ糖とグルコオリゴ糖以外に、フルクトースが約1%以下の割合で含まれていてもよい。
【0015】
[第二の工程]
第二の工程で行われる「貯蔵」および「運搬」は、タンク、タンクローリー、またはパイプラインにより行うことができるが、「貯蔵」あるいは「運搬」がなされている限り、これらに限定されるものではない。
【0016】
第一の工程から第三の工程までの期間が通常「貯蔵」および「運搬」に当たり、その期間は約5週間以内、好ましくは約3週間以内とすることができる。
【0017】
第一の工程の後、直ちに第三の工程を行う場合であっても、タンク、タンクローリー、あるいはパイプラインなどの中で一時的な保管がなされている限り、第二の工程の「貯蔵」ないし「運搬」に該当する。
【0018】
[第三の工程]
第三の工程は、混合液中のショ糖あるいはグルコオリゴ糖を単糖レベルまで分解する工程である。
【0019】
「加熱」は、ショ糖あるいはグルコオリゴ糖の効率的な分解の観点から、酸性条件下(例えば、pH約1〜約6.5、好ましくは、pH約1.5〜約5)で行うことができる。「加熱」は、約90〜約160 ℃にすることを意味する。効率的な分解のための条件は当業者であれば適宜設定することができ、例えば、加熱温度を高くすることで、加熱時間を短くすることができる。
【0020】
「酵素」による分解を行う場合には、ショ糖あるいはグルコオリゴ糖を分解できる酵素を使用することができ、例えば、グルコアミラーゼ、インベルターゼ、グルコシダーゼを使用することができる。また、「酵素」による分解に当たっては、分解酵素を有する微生物を利用し、場合によっては微生物による分解産物をその場で直ちに資化してもよく、そのような微生物を用いた分解反応も第三の工程に該当する。利用できる微生物としては、酵母、麹菌が挙げられる。
【0021】
「酵素」反応は、ショ糖あるいはグルコオリゴ糖の効率的な分解の観点から、使用する酵素の性質(至適pH)にあわせて(例えば、pH約3〜約8、好ましくは、pH約4〜約7)行うことができる。また、添加する酵素濃度は、市販されている酵素製剤を使用した場合、固形分に対して約0.01〜約10%とすることができる。この添加量は、例えば、1(w/v)%のマルトース溶液に25℃で酵素を作用させた場合、1分間に1マイクロモルのマルトースを分解する酵素量を1Uと定義すると、グルコオリゴ糖1kg(乾燥量)当たり22.5U〜22,500Uに相当する。
【0022】
[第一の態様]
本発明の第一の態様によれば、ブドウ糖とショ糖の混合液を調製し、その混合液を貯蔵および/または運搬した後、加熱および/または酵素によってショ糖をブドウ糖およびフルクトースに分解する工程を含んでなる、ブドウ糖およびフルクトースの混合シロップの製造方法および供給方法が提供される。
【0023】
本発明の第一の態様では、貯蔵・運搬中のブドウ糖の結晶析出を効果的に防止する観点から、ブドウ糖とショ糖の混合液において、糖質当たりの割合が約42〜約80重量%となるようにショ糖を添加することができ、好ましくは、約42〜約70重量%、より好ましくは、約45〜約70重量%の割合でショ糖を添加することができ、混合液の残部をブドウ糖とすることができる。なお、前述のようにブドウ糖として液状ブドウ糖を使用する場合には、混合液全量の約4%以下の量でフルクトースやグルコオリゴ糖などの不純物が含まれることがある。
【0024】
糖質当たりの割合が約42〜約80重量%となるようにショ糖を添加した場合には、加熱および/または酵素による分解後の溶液中のブドウ糖の濃度(重量%)が、水分約20〜約30%のシロップの場合において、約10℃におけるブドウ糖の溶解度(%)を超えるような量となるため、ブドウ糖の増量を図ることができる点で有利である。
【0025】
第一の態様では、混合液をpH約1〜約6のもと、約5〜約360分間加熱する(例えば、pH約3〜約5のもと、約60分間、約120℃に加熱する)ことにより、約5〜約100%のショ糖をブドウ糖とフルクトースに分解することができる。
【0026】
第一の態様では、また、混合液をpH約3〜約6のもと、市販されているインベルターゼ製剤(例えば、三菱化学フーズ株式会社製)を固形分に対して約0.01〜約10%(濃度)添加することにより、約5〜約100%のショ糖をブドウ糖とフルクトースに分解することができる。この添加量は、例えば、10(w/v)%のショ糖溶液に30℃で酵素を作用させた場合、1分間にブドウ糖1mgに相当する還元糖を生成する酵素量を1Uと定義すると、ショ糖1kg(乾燥量)当たり65〜65,000Uに相当する。
【0027】
ショ糖をブドウ糖およびフルクトースに分解する工程は、また、微生物を利用して実施することができ、利用できる微生物のうち好ましいものとしては、酵母や麹菌が挙げられる。
【0028】
本発明による第一の態様により製造および供給されるブドウ糖とフルクトースの混合シロップは、例えば、菓子、パン、酒類などの製造に利用することができるが、これらに限定されるものではない。
【0029】
[第二の態様]
本発明の第二の態様によれば、ブドウ糖とマルトオリゴ糖の混合液を調製し、その混合液を貯蔵および/または運搬した後、加熱および/または酵素によってマルトオリゴ糖をブドウ糖に分解する工程を含んでなる、ブドウ糖シロップの製造方法および供給方法が提供される。
【0030】
本発明の第二の態様では、貯蔵・運搬中のブドウ糖の結晶析出を効果的に防止する観点から、ブドウ糖とマルトオリゴ糖の混合液において、糖質当たりの割合が約42〜約70重量%となるようにマルトオリゴ糖を添加することができ、好ましくは、約42〜約68重量%、より好ましくは、約45〜約68重量%の割合でマルトオリゴ糖を添加することができ、混合液の残部をブドウ糖とすることができる。なお、前述のようにブドウ糖として液状ブドウ糖を使用する場合には、混合液全量の約1%以下の量でフルクトースなどの不純物が含まれることがある。また、使用するマルトオリゴ糖によっては、混合液全量の約15%以下の量で重合度11以上の糖質が含まれることがある。
【0031】
混合液に添加される「マルトオリゴ糖」は、重合度2〜7のマルトオリゴ糖から構成される混合物であってもよく、例えば、マルトース、マルトトリオース、マルトテトラオース、マルトペンタオース、マルトヘキサオース、およびマルトヘプタオースなどのマルトオリゴ糖を主成分として含有する混合物であってもよい。この場合、ブドウ糖とマルトオリゴ糖の混合液において、マルトオリゴ糖(重合度2〜10)当たり約50〜約90重量%(好ましくは約70〜約90重量%)のマルトースを主成分として添加し、マルトオリゴ糖の残部としてマルトース以外のマルトオリゴ糖を添加してもよい。また、ブドウ糖とマルトオリゴ糖の混合液において、マルトオリゴ糖当たり約50〜約95重量%(好ましくは約70〜約95重量%)のマルトースおよび/またはマルトトリオースを主成分として添加し、マルトオリゴ糖の残部としてマルトースおよび/またはマルトトリオース以外のマルトオリゴ糖を添加してもよい。更に、ブドウ糖とマルトオリゴ糖の混合液において、マルトオリゴ糖当たり約50〜約80重量%のマルトテトラオースおよび/またはマルトペンタオースを主成分として添加し、マルトオリゴ糖の残部としてマルトテトラオースおよび/またはマルトペンタオース以外のマルトオリゴ糖を添加してもよい。
【0032】
糖質当たりの割合が約42〜約70重量%となるようにマルトオリゴ糖を添加した場合には、加熱および/または酵素による分解後の溶液中のブドウ糖の濃度(重量%)が、水分約20〜約30%のシロップの場合において、約10℃におけるブドウ糖の溶解度(%)を超えるような量となるため、ブドウ糖の増量を図ることができる点で有利である。
【0033】
第二の態様では、混合液をpH約1〜約3のもと、約5〜約60分間加熱する(例えば、pH約1.5〜2.5のもと、約30分間、約120℃に加熱する)ことにより、約5〜約80%のマルトオリゴ糖をブドウ糖に分解することができる。
【0034】
第二の態様では、また、混合液をpH約3〜約7のもと、市販されているグルコアミラーゼ製剤(例えば、デキストロザイム プラスL(ノボザイム社製))やグルコシダーゼ製剤(例えば、テイスターゼ(大和化成株式会社製))を固形分に対して約0.01〜約10%(濃度)添加することにより、約5〜約100%のマルトオリゴ糖をブドウ糖に分解することができる。この添加量は、例えば、グルコアミラーゼ製剤を使用する場合には、1(w/v)%のマルトース溶液に25℃で酵素を作用させた場合、1分間に1マイクロモルのマルトースを分解する酵素量を1Uと定義すると、マルトオリゴ糖1kg(乾燥量)当たり22.5〜22,500Uに相当する。また、この添加量は、例えば、グルコシダーゼ製剤を使用する場合には、1(w/v)%のマルトース溶液に37℃で酵素を作用させた場合、1分間に1マイクロモルのマルトースを分解する酵素量を1Uと定義すると、マルトオリゴ糖1kg(乾燥量)当たり40〜40,000Uに相当する。
【0035】
マルトオリゴ糖をブドウ糖に分解する工程は、また、微生物を利用して実施することができ、利用できる微生物のうち好ましいものとしては、麹菌が挙げられる。
【0036】
本発明による第二の態様により製造および供給されるブドウ糖シロップは、例えば、菓子、パン、みりん、酒類、医薬品、バイオエタノールなどの製造に利用することができるが、これらに限定されるものではない。
【実施例】
【0037】
本発明を下記実施例によって更に具体的に説明するが、本発明はこれら実施例により限定されるものではない。
【0038】
実施例1:ブドウ糖−ショ糖混合シロップの安定性試験
(1)混合シロップの調製および成分分析
液状ブドウ糖(液状ブドウ糖#9865,日本食品化工株式会社製)、無水結晶ブドウ糖溶液(固形分65w/w%)、ショ糖溶液(固形分67w/w%)を表1に示す固形分比率で混合し、エバポレーターで固形分75w/w%になるまで濃縮をした。調製されたシロップと異性化糖(ブドウ糖果糖液糖, フジフラクトF−100、日本食品化工株式会社製)の固形分と糖組成を表2、表3に示した。糖組成は、下記に示した2つの液体クロマトグラフィーの条件を用いて測定した。いずれのサンプルも調製直後に結晶の析出は見られなかった。
[液体クロマトグラフィー測定条件1]
カラム :ウルトロンPS−80NL(信和化工株式会社製)
カラム温度 :50℃
溶媒 :精製水
流速 :0.9ml/分
検出器 :示唆屈折計
[液体クロマトグラフィー測定条件2]
カラム :Shodex NH2P−50 4E(昭和電工株式会社製)
カラム温度 :50℃
溶媒 :75v/v% アセトニトリル水溶液
流速 :0.9ml/分
検出器 :示唆屈折計
【表1】

【表2】

【表3】

【0039】
(2)安定性試験およびその結果
得られたシロップ120gを密閉ビンに移し、10℃で約3週間保管し結晶析出状態を観察した。なお、観察状態は、−,結晶なし;±,結晶核出現(目視極めて困難。実用上問題なし);+,結晶を目視できる(流動性有り);++,結晶が析出し白濁(マセキット状態、流動性有り); +++, 結晶が析出し完全に流動性なし、と評価した。
【0040】
その結果、試験区D,E,F,L,M,Nは、10℃の保管で結晶を析出することなく保管できることが確認された。特に試験区FおよびNは、ブドウ糖含量がブドウ糖果糖液糖(F−100)より高いが、結晶の析出が抑制された。
【0041】
また、試験区B〜GおよびJ〜Oについて、30℃および40℃で21日間保管し、結晶析出状況を観察したところ、目視可能な結晶の析出は発生しないことを確認した(データ省略)。更に、試験区B〜Gについて、4℃で21日間保管し、結晶析出状況を観察したところ、目視可能な結晶の析出は発生しないことを確認した(データ省略)。
【表4】

【0042】
実施例2:加熱によるブドウ糖含量の調整
実施例1の試験区E(表2)のシロップと同様に調製したシロップを、固形分30%水溶液に調整しpHを測定したところpH4.8を示した。
【0043】
4Lの試験区Eシロップ(固形分75.2%)をガスコンロにて加熱し沸騰(約110℃)させた。その結果、表5のように糖組成が変化し、10℃におけるブドウ糖の水分当たりの溶解度量(42w/w%)を超えた。なお、糖組成は実施例1の液体クロマトグラフィー条件1と同様に測定した。
【表5】

【0044】
次に、加熱前と加熱後(15分)のシロップ120gを密閉ビンに移し、10℃で約3週間保管し結晶析出状態を観察した。その結果、表6のように、加熱前のシロップには結晶析出は認められなかったが、加熱後のシロップはいずれも結晶が析出した。なお、観察状態は、実施例1と同様に評価した。
【表6】

【0045】
実施例3:ブドウ糖−マルトオリゴ糖混合シロップの安定性試験
実施例1(1)に記載された方法に従って、液状ブドウ糖とマルトオリゴ糖とから構成される混合シロップ(組成X)を調製し、液体クロマトグラフィーを使用して成分分析を行った。また、マルトオリゴ糖を主成分とする糖シロップ(ハイマルトース MC−80、日本食品化工株式会社製)についても同様に成分分析を行った。結果は表7に示される通りであった。
【表7】

【0046】
実施例1(2)に記載された方法に従って、液状ブドウ糖とマルトオリゴ糖とから構成される混合シロップ(組成X)と、マルトオリゴ糖を主成分とする糖シロップ(MC−80)について安定性試験を行った。結果は表8および表9に示される通りであった。なお、観察状態は、実施例1と同様に評価した。
【表8】

【表9】

その結果、液状ブドウ糖とマルトオリゴ糖とから構成される混合シロップについては、保管温度を4℃、10℃、30℃のいずれにした場合でも、21日間結晶析出は認められなかった。一方、マルトオリゴ糖を主成分とする糖シロップでは結晶析出が顕著に認められた。
【0047】
実施例4:ブドウ糖−マルトオリゴ糖混合シロップの安定性試験および酵素によるブドウ糖含量の調整
表10に示された糖組成のシロップ6ml(固形分75%)に、120μlの1M酢酸緩衝液(pH4.5)と7.6μlのデキストロザイム プラスL(ノボザイムズ社製)を添加し、50℃にて加水分解反応を行った。加水分解反応後の糖組成を分析した。その結果、表10のように、ブドウ糖含量は反応時間に応じて調整することが可能であることが明らかとなった。
【表10】

【0048】
また、10℃における保存中の結晶析出状態を観察した。その結果、表11のように、加熱前には結晶析出は認められなかったが、加熱後はいずれも結晶が析出した。なお、観察状態は、実施例1と同様に評価した。
【表11】

【0049】
また、表12に示された4種の糖組成のシロップそれぞれ6ml(固形分10%)に、120μlの1M酢酸緩衝液(pH4.5)と3.8μlのデキストロザイム プラスL(ノボザイムズ製)を添加し、50℃にて加水分解反応を行った。その結果、表12のように、シロップを低濃度で反応させることによりブドウ糖含量を高めることができることが判明した。
【表12】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブドウ糖と、グルコオリゴ糖および/またはショ糖の混合液を調製し、その混合液を貯蔵および/または運搬した後、加熱および/または酵素によってグルコオリゴ糖および/またはショ糖を単糖に分解する工程を含んでなる、ブドウ糖シロップまたはブドウ糖とフルクトースの混合シロップの製造方法。
【請求項2】
グルコオリゴ糖がマルトオリゴ糖(重合度2〜7)である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
加熱および/または酵素による分解後の溶液中のブドウ糖の濃度(重量%)が、水分約20〜約30%のシロップの場合において、約10℃におけるブドウ糖の溶解度(%)を超えるように混合液を調製する、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
ブドウ糖に対して約0.7〜約4.2倍(重量比)の量のグルコオリゴ糖および/またはショ糖が含まれるように混合液を調製する、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
ブドウ糖とショ糖の混合液を調製し、その混合液を貯蔵および/または運搬した後、加熱および/または酵素によってショ糖をブドウ糖およびフルクトースに分解する工程を含んでなることを特徴とする、ブドウ糖とフルクトースの混合シロップの製造方法。
【請求項6】
ブドウ糖とショ糖の混合液において、全糖質当たりショ糖が約42〜約80重量%含まれる、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
ブドウ糖とマルトオリゴ糖の混合液を調製し、その混合液を貯蔵および/または運搬した後、加熱および/または酵素によってマルトオリゴ糖をブドウ糖に分解する工程を含んでなる、ブドウ糖シロップの製造方法。
【請求項8】
ブドウ糖とマルトオリゴ糖の混合液において、糖質当たりマルトオリゴ糖が約42〜約70重量%含まれる、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
マルトオリゴ糖のブドウ糖への分解工程において、グルコアミラーゼ製剤および/またはグルコシダーゼ製剤を作用させる、請求項7に記載の方法。
【請求項10】
マルトオリゴ糖が、重合度2〜7のマルトオリゴ糖から構成される混合物である、請求項7〜9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
ブドウ糖シロップまたはブドウ糖とフルクトースの混合シロップの供給方法である、請求項1〜10に記載の方法。

【公開番号】特開2009−131221(P2009−131221A)
【公開日】平成21年6月18日(2009.6.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−311061(P2007−311061)
【出願日】平成19年11月30日(2007.11.30)
【特許番号】特許第4271718号(P4271718)
【特許公報発行日】平成21年6月3日(2009.6.3)
【出願人】(000231453)日本食品化工株式会社 (68)
【出願人】(307027577)麒麟麦酒株式会社 (350)
【出願人】(000005979)三菱商事株式会社 (56)
【Fターム(参考)】