ブラシレスモータ、及びこれを用いた燃料ポンプ
【課題】 ステータの巻線がデルタ結線されるブラシレスモータにおいて、渡り線同士の干渉による損傷を防止し、配線作業性を向上するブラシレスモータを提供する。
【解決手段】 燃料ポンプ1のモータ部3は、ステータ10およびロータ50を備えるブラシレスモータである。ステータ10は、コア11、巻線30、コア11と巻線30とを絶縁しつつ保持するインシュレータ21、及び端子332等を有する。巻線30は、コア11のティース部に巻回される複数のコイル322、325等と、コイル同士の間およびコイルと端子との間を接続する複数の渡り線とを含む。インシュレータ21は、渡り線を保持する渡り線保持溝261、262が外壁の周方向に延びるように形成される。渡り線保持溝261、262は、隔壁252によって軸方向の一方側と他方側とに隔離される。これにより、渡り線同士の干渉による損傷を防止し、また、配線作業性を向上することができる。
【解決手段】 燃料ポンプ1のモータ部3は、ステータ10およびロータ50を備えるブラシレスモータである。ステータ10は、コア11、巻線30、コア11と巻線30とを絶縁しつつ保持するインシュレータ21、及び端子332等を有する。巻線30は、コア11のティース部に巻回される複数のコイル322、325等と、コイル同士の間およびコイルと端子との間を接続する複数の渡り線とを含む。インシュレータ21は、渡り線を保持する渡り線保持溝261、262が外壁の周方向に延びるように形成される。渡り線保持溝261、262は、隔壁252によって軸方向の一方側と他方側とに隔離される。これにより、渡り線同士の干渉による損傷を防止し、また、配線作業性を向上することができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ブラシレスモータ、及びこれを用いた燃料ポンプに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ステータのコアに巻回した巻線への通電を制御して磁界を連続的に切り換えることにより、ステータの内側に設けられるロータを回転させるブラシレスモータが知られている。このようなブラシレスモータでは、ステータの巻線はスター結線またはデルタ結線され、結線部が渡り線により接続される。ここで、仮に渡り線同士が接触または干渉し、表面の絶縁皮膜等が損傷した場合、短絡故障が起きるおそれがある。そのため、渡り線が互いに接触または干渉することを防止する技術が提案されている。
【0003】
例えば特許文献1に記載の3相ブラシレスモータでは、分割コア毎の渡り線支持壁に深さが異なる3とおりの保持溝が形成され、異なる相の渡り線をそれぞれ対応する深さの保持溝に差し込んで保持することで、渡り線同士が接触することを防止している。
また、特許文献2に記載の3相ブラシレスモータでは、異なる相の渡り線を個別に収容する収容溝が形成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−202268号公報
【特許文献2】特開2008−167604号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の保持溝は、相毎に形状が区別されていないため、配線作業者が渡り線を差し込む保持溝を間違えるおそれがある。また、差し込んだ渡り線を溝底の位置で上から押さえていないため、渡り線が緩んで溝の浅い方の側へずれる可能性がある。その結果、他の相の渡り線との接触により渡り線が損傷するおそれがある。
【0006】
特許文献2の構成では渡り線同士が干渉することはないと考えられる。しかしながら、この構成は、渡り線の少ないスター結線の場合だからこそ適用が可能である。すなわち、特許文献2の例ではステータの巻線がスター結線され、各相が2つのコイルを直列接続して構成されており、渡り線の数は3本である。これに対し、ステータの巻線がデルタ結線され、各相が2つのコイルを直列接続して構成される場合には、渡り線の数は少なくとも6本必要となる。このように渡り線の本数が多いデルタ結線の場合には、特許文献2の従来技術は適用が困難である。
【0007】
本発明は、上述の問題に鑑みてなされたものであり、その目的は、ステータの巻線がデルタ結線されるブラシレスモータにおいて、渡り線同士の干渉による損傷を防止し、渡り線の配線作業性を向上するブラシレスモータを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1に記載のブラシレスモータは、ステータとロータとを備える。
ステータは、周方向に複数のティース部が形成されるコア、コアに巻回される巻線、コアと巻線とを絶縁しつつ保持するインシュレータ、及び、巻線に通電される3相電力が外部から供給される端子を有する。そして、巻線はデルタ結線され、巻線への通電が制御されることにより回転磁界を生じる。
ロータは、ステータに径内方向から対向し周方向に交互に異なる磁極を有し、ステータに生じる回転磁界によって回転する。
巻線は、複数のティース部に巻回される複数のコイルと、コイル同士の間およびコイルと端子との間を接続する複数の渡り線とを含む。ここで、コイルは、ティース部に、いわゆる「集中巻き」されている。
インシュレータは、渡り線を保持する渡り線保持溝が外壁の周方向に延びるように形成され、かつ、渡り線保持溝を軸方向の一方側と他方側とに隔離する隔壁を有している。言い換えれば、渡り線保持溝は、隔壁によって軸方向に「複数に分割して」形成される。
【0009】
これにより、複数の渡り線は、隔壁によって軸方向に隔離された複数の渡り線保持溝に、少なくとも2つのグループに区分されて保持される。したがって、異なるグループ間の渡り線同士の干渉を回避することができる。また、同じ渡り線保持溝に保持される渡り線についても、渡り線保持溝の上下の壁および隔壁に当接することで軸方向の移動が規制されるため、特許文献1の従来技術と比べ、渡り線が軸方向にずれることによって生じる渡り線同士の接触が防止される。
よって、渡り線同士の接触や干渉による損傷を防止することができる。また、配線作業における作業者の判断や調整等が最小限に減らされるため、配線作業の作業性や信頼性を向上することができる。
【0010】
さらに、渡り線保持溝は、特許文献2の従来技術のように必ずしも渡り線の本数だけ分割されることを要しない。したがって、特許文献2の従来技術と比べ、渡り線の本数がスター結線に比べて多いデルタ結線の場合であっても適用が容易である。
【0011】
請求項2に記載の発明によると、インシュレータは、コイルの巻き終わり部から延びる渡り線を渡り線保持溝に導出するための導出溝が形成される。ここで複数の導出溝のうち少なくとも2つの導出溝の軸方向高さが互いに異なる。
これにより、複数の渡り線は、導出される高さにより少なくとも2つのグループに区分される、そのため、異なるグループ間の渡り線同士の干渉を回避し、干渉による損傷を防止することができる。
【0012】
請求項3に記載の発明によると、導出溝は、渡り線保持溝の軸方向の位置に対応した軸方向高さに形成される。これにより、導出溝から導出した渡り線は、導出溝の高さのまま周方向に延びて、渡り線保持溝に保持される。よって、渡り線の配線経路が案内されるため、配線作業性が向上する。
【0013】
請求項4に記載の発明によると、すべての導出溝の軸方向高さが互いに異なる。これにより、すべての渡り線を導出溝の高さからそのままの高さで周方向に配線することができる。よって、渡り線の配線経路が一とおりに決まるため、配線作業性がさらに向上する。
【0014】
請求項5に記載の発明によると、渡り線保持溝は、渡り線同士が交差することを回避するように渡り線を保持する。すなわち、渡り線保持溝内に各渡り線が一段で、互いに重なることなく収容される。
仮に渡り線同士が交差すると、渡り線同士が接触するだけでなく、交差した箇所の外側の渡り線が径外方向にはみ出し、例えばステータの外郭を覆うハウジングの内壁等に接触する可能性がある。それに対し、請求項5に記載の発明の構成とすることで、渡り線同士の交差による重なりを回避し、このような渡り線の接触による損傷を防止することができる。また、渡り線の重なりを防止することにより、ブラシレスモータの径方向の体格を小さくすることができる。さらに、渡り線自体の長さを短縮することができ、材料費を低減することができる。
【0015】
請求項6に記載の発明によると、渡り線保持溝に保持された渡り線は、樹脂モールドされる。これにより、配線作業後、渡り線の位置ずれが防止される。また、絶縁状態を維持することができる。
【0016】
請求項7に記載の発明は、燃料ポンプに係る発明である。この燃料ポンプは、「請求項1〜5のいずれか一項に記載のブラシレスモータからなるモータ部」と、「モータ部によって回転駆動される回転部材を有し、回転部材の回転により燃料を吸入し吐出するポンプ部」とを備える。回転部材は、例えばインペラである。
【0017】
ブラシレスモータを用いた燃料ポンプでは、巻線と燃料との接触を防ぐ必要がある。したがって、特に請求項6に記載のブラシレスモータに係る発明を引用する場合、渡り線が樹脂モールドされることによって燃料との接触を防ぐ効果が顕著に発揮される。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の第1実施形態によるブラシレスモータを用いた燃料ポンプの軸方向断面図である。
【図2】図1のII方向矢視図である。
【図3】図1のIII−III線断面図である。
【図4】(a)コアの展開状態の平面図である。(b)コアをインサートモールドしたインシュレータの展開状態の平面図である。(c)コアをインサートモールドしたインシュレータに巻線を巻いた後の展開状態の平面図である。
【図5】インシュレータに巻線を巻く前(初期段階)の展開状態の正面図である。
【図6】インシュレータに巻線を巻く第1段階の展開状態の正面図である。
【図7】インシュレータに巻線を巻く第2段階の展開状態の正面図である。
【図8】インシュレータに巻線を巻く第3段階の展開状態の正面図である。
【図9】(a)図8のIX−IX線断面図である。(b)(a)のb部拡大図である。
【図10】インシュレータに巻線を巻く第3段階の丸めた状態の平面図である。
【図11】巻線のデルタ結線図である。
【図12】巻線の配線レイアウトを示す模式図である。
【図13】本発明の第2実施形態によるブラシレスモータを用いた燃料ポンプの軸方向断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
(第1実施形態)
本発明の第1実施形態によるブラシレスモータを用いた燃料ポンプについて、図1〜図12を参照して説明する。
【0020】
まず、燃料ポンプの全体構成について、図1〜図3を参照して説明する。
燃料ポンプ1は、図1の下部に示す吸入口61から燃料タンク(図示しない)内の燃料を吸入し、図1の上部に示す吐出口78から内燃機関に吐出する。燃料ポンプ1は、モータ部3とポンプ部4とに大別され、外郭がハウジング19、ポンプカバー60、カバーエンド40等から構成される。以下の燃料ポンプ1の説明では、図1の上側を「吐出口78側」、図1の下側を「吸入口61側」と表す。
【0021】
ハウジング19は、鉄等の金属により円筒状に形成されている。
ポンプカバー60は、ハウジング19の吸入口61側の端部を塞いでいる。ポンプカバー60は、ハウジング19の吸入口61側の端部の縁が内側へ加締められることにより、ハウジング19の内側で固定され、軸方向への抜けが規制されている。
【0022】
カバーエンド40は、ハウジング19の吐出口78側の端部を塞いでいる。カバーエンド40は、ハウジング19の吐出口78側の端部の縁が内側へ加締められることにより、ハウジング19の内側で固定され、軸方向への抜けが規制されている。
カバーエンド40の外側には、図1の上方へ突出する筒部41が形成されている。筒部41の端部には吐出口78が形成され、筒部41の内部には吐出口78に連通する吐出通路77が形成されている。
カバーエンド40の内側には、ロータ50側に筒状に突出する筒部42が中心軸上に形成されている。筒部42の内側には、軸受55が嵌め込まれている。
【0023】
次に、モータ部3の概略構成について説明する。モータ部3は、本発明の「ブラシレスモータ」に相当し、ステータ10、ロータ50、シャフト52等を含む。
ステータ10は、円筒状を呈し、ハウジング19の内側に収容されている。ステータ10は、コア11、インシュレータ21、巻線30および端子331、331、333等を有している。コア11は、鉄等の磁性材料で形成される。インシュレータ21は、コア11をインサートして樹脂モールドすることにより形成される。なお、コア11の内壁面、すなわちロータ50に対向する面は、樹脂モールドされず、金属面が露出している。
【0024】
巻線30は、コア11がインサートモールドされたインシュレータ21に巻回される。インシュレータ21は、コア11と巻線30とを絶縁しつつ保持している。巻線30は、例えば表面が絶縁皮膜で被覆された銅線であり、通常に巻回されるときには銅線同士は絶縁されている。しかし、巻線同士あるいは巻線と他の部材との接触や干渉により皮膜が損傷すると、銅線同士あるいは銅線と他の金属部材とが短絡するおそれがある。
巻線30が巻回されたインシュレータ21は、さらにカバーエンド40を形成するモールド樹脂39によって一体に樹脂成形される。したがって、ステータ10は、カバーエンド40と一体に形成される。
【0025】
図3に示すように、本実施形態のコア11は、6個のコア111〜116が周方向に連結されて構成されている。各コア要素111〜116は、環状の外形を構成する環状部12と、環状部12から径内方向に放射状に突出するティース部13とを有している。コア11の詳細な構成については後述する。
また、互いに隣接するコア要素111〜116のティース部13同士の間に、軸方向に貫通する6個のスロット14が形成される。
【0026】
巻線30は、各スロット14を通して、各コア要素111〜116のティース部13に連続して集中巻きされる。ティース部13に集中巻きされた巻線30を、コイル321〜326と表す。以下、「巻線30」は、コイル321〜326、及び、後述する渡り線311〜316を含めた総称として表す(図11参照)。
ここで、図1の図示について補足する。図1は、図2および図3のI−I断面図であるから、図1の左半分は、コイル322が巻かれたコア要素112の断面を示し、図1の右半分は、コイル325が巻かれたコア要素115の断面を示している。
【0027】
ロータ50は、ステータ10の内側に回転可能に収容される。ロータは、鉄心53の周囲に磁石54が設けられる。図3に示すように、磁石54は、周方向にN極541とS極542とが交互に配置されている。本実施形態では、N極541およびS極542は4極対、計8極設けられている。すなわち、本実施形態のモータ部3は、「スロット数6、磁極数8」のブラシレスモータに相当する。しかし、これは一例であり、本発明のブラシレスモータのスロット数、磁極数はこれに限らない。
シャフト52は、ロータ50の中心軸上に形成された軸穴51に圧入固定されており、ロータ50とともに回転する。
【0028】
端子331、332、333は、カバーエンド40の筒部41と干渉しない位置に設けられ、軸方向に突出している。本実施形態では、端子331はW相、端子332はV相、端子333はU相の端子に相当する。各端子331、332、333には各相の巻線30が接続され、図示しない駆動装置からの3相電力が端子331、332、333を通して巻線30に供給される(図11参照)。巻線30に電力が供給されることにより、ステータ10に回転磁界が生じ、ロータ50がシャフト52とともに回転する。
【0029】
図1に戻り、次にポンプ部4の構成について説明する。
ポンプカバー60は、図1の下方に開口する筒状の吸入口61を有している。吸入口61の内側には、ポンプカバー60を板厚方向に貫く吸入通路62が形成されている。
【0030】
ポンプカバー60とステータ10との間には、ポンプケーシング70が略円板状に設けられている。ポンプケーシング70の中心部には、ポンプケーシング70を板厚方向に貫く穴71が形成されている。ポンプケーシング70の穴71には、軸受56が嵌め込まれている。軸受56は、カバーエンド40に嵌め込まれた軸受55と共に、シャフト52の軸方向両側を回転可能に支持している。これにより、ロータ50およびシャフト52は、カバーエンド40およびポンプケーシング70に対し回転可能となっている。
【0031】
「回転部材」としてのインペラ65は、樹脂により略円板状に形成されている。インペラ65は、ポンプカバー60とポンプケーシング70との間のポンプ室72に収容されている。シャフト52のポンプ室72側の端部は、外壁の一部がカットされた「D字形状」となっており、インペラ65の中心部に形成された、対応するD字形状の穴66に嵌め込まれている。これにより、インペラ65は、シャフト52の回転によってポンプ室72内で回転する。
【0032】
ポンプカバー60のインペラ65側の面には、吸入通路62と接続する溝63が形成されている。また、ポンプケーシング70のインペラ65側の面には、溝73が形成されている。溝73には、ポンプケーシング70を板厚方向に貫く通路74が連通している。インペラ65には、溝63および溝73に対応する位置に羽根部67が形成されている。
【0033】
モータ部3の巻線30に電力が供給されることでロータ50およびシャフト52とともにインペラ65が回転すると、燃料ポンプ1外部の燃料は、吸入口61を経由して溝63に導かれる。溝63に導かれた燃料は、インペラ65の回転により昇圧されつつ溝73に導かれる。昇圧された燃料は、通路74を流通し、ポンプケーシング70のモータ部3側に導かれ、さらにロータ50とステータ10との間の燃料通路76を経由して、ロータ50のカバーエンド40側に導かれる。そして、吐出通路77を経由し、吐出口78から吐出される。
【0034】
次に、本発明の特徴的構成であるモータ部3のインシュレータ21の構成について、図4〜図12を参照して詳細に説明する。以下のインシュレータ21の説明では、図5〜図9の上側を「端子(331〜333)側」、図5〜図9の下側を「反端子側」と表す。
本実施形態のインシュレータ21は、図4に示すように周方向に展開された状態から、図8に示すように丸められて形成される。図4(a)〜(c)は、いずれも端子側から視た展開状態の平面図であり、図4(a)はコア11を示し、図4(b)はコア11をインサートモールドしたインシュレータ21を示す。また、図4(c)はインシュレータ21に巻線30を巻いた状態を示す。
【0035】
図4(a)に示すように、コア11は、複数(本実施形態では6個)のコア要素111〜116から構成される連結体である。各コア要素111〜116は、丸めたときに環状の外形を構成する環状部12と、丸めたときに環状部12から径内方向に放射状に突出するティース部13とを備える。コア要素111〜116は、互いに隣接する環状部12の周方向の端部同士が連結されている。
【0036】
図4(b)に示すように、インシュレータ21は、絶縁性の樹脂により形成され、コア要素に対応した複数(本実施形態では6個)のインシュレータ要素211〜216から構成される連結体である。各インシュレータ要素211〜216は、環状部12を被覆する環状被覆部22と、ティース部13を被覆するティース被覆部23とを備える。
環状被覆部22のうち、軸方向のコア11より端子側の外壁は渡り線配線部24(図5参照)を構成する。渡り線配線部24には、導入通路271〜276および導出溝281〜286が形成される。
【0037】
インシュレータ要素211〜216は、互いに隣接する環状被覆部22の周方向の端部同士が連結されている。また、連結されていないインシュレータ要素211の一端(図4(b)の右端)とインシュレータ要素216の他端(図4(b)の左端)とは、丸めたとき、図3および図10の接合線Lにて互いに当接もしくは近接する。そして、樹脂モールドされることで、丸めた状態で固定される。
図4(c)に示すように、ティース被覆部23には巻線30が巻回され、コイル321〜326を形成する。また、コイル321〜326の間には、コイル同士、またはコイルと端子とを接続する渡り線311〜316が配線される。
【0038】
ここで、巻線の結線について、図11、図12を参照して説明する。
図11に示すように、ステータ10の磁気回路を形成する3相巻線30はデルタ結線されている。また、各相の端子間には、2つのコイルが直列接続されて構成されている。
具体的には、W相端子331とV相端子332との間に、W相第1コイル321、渡り線311、W相第2コイル324および渡り線312がこの順に直列接続されている。
また、V相端子332とU相端子333との間に、V相第1コイル322、渡り線313、W相第2コイル325および渡り線314がこの順に直列接続されている。
また、U相端子333とW相端子331との間に、U相第1コイル323、渡り線315、U相第2コイル326および渡り線316がこの順に直列接続されている。
【0039】
以下、例えば「W相第1コイル321」を「W1コイル321」というように表す。
図12は、図11の結線図に対応した巻線の配線レイアウトを示す模式図である。ここで、図中の矢印は巻線方向を示している。図12に示すように、巻線は、例えばW相端子331から出発してW相端子331に戻るまで、一筆書きで書くことができる。
そして、図12の結線模式図を実体として表した図が図8に相当する。
【0040】
次に、図4〜図10を参照して、本実施形態のインシュレータ21の特徴的構成について、結線の手順と共に説明する。
最初に各図の概要を紹介する。図5は、巻線を巻く前の状態、すなわち初期段階のインシュレータ21の展開状態の正面図であり、図4(b)のV方向矢視図に相当する。
図6、図7、図8は、巻線30を巻く第1〜第3段階のインシュレータ21の展開状態の正面図である。図6、図7、図8では、その段階でコイル321〜326が集中巻きされるインシュレータ要素の符号を四角で囲んで示している。さらに、その段階で配線される渡り線311〜316について、配線の順(<1>〜<6>)と共に配線方向を矢印で示す。ここで示す配線方向の矢印は、図12に示す矢印と対応している。
【0041】
また、インシュレータ要素211〜216は、巻回されるコイル321〜326の名称に対応して、例えば「W1コイル321が巻回されるインシュレータ要素211」を「W1インシュレータ要素211」というように表す。
図8に示す巻線工程が完了した状態は、図4(c)のVIII方向矢視図に相当する。また、図8は、丸め工程後のインシュレータ21の平面図である図10に対し、接合線Lで切ってVIII方向から視た展開図に相当する。
【0042】
以下、図4から順に説明する。
図4(b)および図5に示すように、インシュレータ21のうち、軸方向のコア11より端子側の部分は渡り線配線部24を構成する。各インシュレータ要素211〜216の渡り線配線部24には、巻線を導入するための導入通路271〜276、及び、巻線を導出し渡り線を配線する起点となる導出溝281〜286が形成されている。導入通路271〜276は、配線作業の自由度を確保できるよう、巻線1本分の線径に対して比較的幅広く形成されている。一方、導出溝281〜286は、巻線1本分の線径に対応する幅に形成されており、渡り線の正確な位置決めが可能となっている。
【0043】
ここで、インシュレータ21のうち、コア11の端子側端部に対応する段差部の高さを基準高さh0とすると、基準高さh0からの導出溝281〜286の軸方向高さh1〜h6は、それぞれ互いに異なるように設定されている。これにより、各導出溝281〜286から導出される渡り線は、すべて固有の高さで配線されることとなる。
【0044】
また、渡り線配線部24の図5の手前側(組付時の外周側)には、周方向に延び径外方向に突出する下壁251、隔壁252、上壁253の3つの壁が設けられている。下壁251と隔壁252とは、その間に渡り線保持溝261を形成し、隔壁252と上壁253とは、その間に渡り線保持溝262を形成する(図9参照)。このように、渡り線保持溝261、262は、インシュレータ21の外壁の周方向に延びるように形成されている。また、隔壁252は、渡り線保持溝261、262を軸方向の端子側と反端子側とに隔離する。言い換えれば、渡り線保持溝261、262は、隔壁252によって、軸方向に複数(本実施形態では2つ)に分割して形成されている。
さらに、上述の導出溝281〜286は、渡り線保持溝261、262の軸方向の位置に対応した高さに形成されている。
【0045】
図6に示す巻線工程の第1段階では、以下(1)、(2)の手順で巻線が巻かれる。
(1)W相端子331の係止部341から引き出された巻線は、導入通路271を通ってW1インシュレータ要素211に導入され、W1コイル321として集中巻きされる。その後、導出溝281から導出された渡り線311がW2インシュレータ要素214まで配線される(<1>)。
【0046】
(2)渡り線311は、導入通路274を通ってW2インシュレータ要素214に導入され、W2コイル324として集中巻きされる。その後、導出溝284から導出された渡り線312がV1インシュレータ要素212まで配線され(<2>)、V相端子332の係止部342に係止される。
このとき、渡り線312は、渡り線311よりも上方の経路に配線されるため、渡り線311と渡り線312とが交差することが回避される。
【0047】
図7に示す巻線工程の第2段階では、以下(3)、(4)の手順で巻線が巻かれる。
(3)V相端子332の係止部342から引き出された巻線は、導入通路272を通ってV1インシュレータ要素212に導入され、V1コイル322として集中巻きされる。その後、導出溝282から導出された渡り線313がV2インシュレータ要素215まで配線される(<3>)。
【0048】
(4)渡り線313は、導入通路275を通ってV2インシュレータ要素215に導入され、V2コイル325として集中巻きされる。その後、導出溝285から導出された渡り線314がU1インシュレータ要素213まで配線され(<4>)、U相端子333の係止部343に係止される。
このとき、渡り線314は、渡り線313よりも上方の経路に配線されるため、渡り線313と渡り線314とが交差することが回避される。
【0049】
図8に示す巻線工程の第3段階では、以下(5)、(6)の手順で巻線が巻かれる。
(5)U相端子333の係止部343から引き出された巻線は、導入通路273を通ってU1インシュレータ要素213に導入され、U1コイル323として集中巻きされる。その後、導出溝283から導出された渡り線315がU2インシュレータ要素216まで配線される(<5>)。
【0050】
(6)渡り線315は、導入通路276を通ってU2インシュレータ要素216に導入され、U2コイル326として集中巻きされる。その後、導出溝286から導出された渡り線316がW1インシュレータ要素211まで配線され(<6>)、巻き始め箇所であるW相端子331の係止部341に再び係止される。
このとき、渡り線316は、渡り線315よりも上方の経路に配線されるため、渡り線315と渡り線316とが交差することが回避される。
【0051】
図8に示すように、渡り線配線部24には計6本の渡り線311〜316が横断する。特にU1インシュレータ要素213、及びW2インシュレータ要素214のU1インシュレータ要素213に隣接する箇所では、6本すべての渡り線が軸方向に並ぶこととなる。
ここで、U1インシュレータ要素213における軸方向断面を図9に示す。
【0052】
図9に示すように、3本の渡り線311、313、312は、下壁251と隔壁252との間の渡り線保持溝261に保持される。また、3本の渡り線315、316、314は、隔壁252と上壁253との間の渡り線保持溝262に保持される。このように、本実施形態では、6本の渡り線311〜316が、2つの渡り線保持溝261、262に対応する2つのグループに区分されて保持される。
【0053】
さらに、上述のように、渡り線311〜316の配線順を考慮し、渡り線同士が交差することが回避される結果、渡り線保持溝261、262内に各渡り線が一段で、互いに重なることなく収容される。また、渡り線保持溝261、262の溝深さは、渡り線の線径よりも深く設定されているため、渡り線の外径は、下壁251、隔壁252および上壁253の外径の外側にはみ出すことはない。
【0054】
なお、U1インシュレータ要素213以外のインシュレータ要素では、それぞれ横断する渡り線の本数に対し、2つの渡り線保持溝261、262に保持される渡り線の本数が設定されている。また、保持される渡り線の本数に応じて、渡り線保持溝261、262の幅が適当な広さに形成されている。
【0055】
以上説明したように、本実施形態では、渡り線311〜316は、隔壁252によって軸方向の端子側と反端子側とに隔離された複数の渡り線保持溝261、262に保持される。これにより、異なる渡り線保持溝に保持される渡り線同士の干渉を回避することができる。
また、同じ渡り線保持溝に保持される渡り線についても、下壁251、隔壁252および上壁253に当接することで軸方向の移動が規制される。したがって、渡り線が軸方向にずれることによって生じる渡り線同士の接触が防止される。
よって、渡り線同士の接触や干渉による損傷を防止することができる。また、配線作業における作業者の判断や調整等が最小限に減らされるため、配線作業の作業性や信頼性を向上することができる。
【0056】
また、6本の渡り線311〜316に対し、渡り線保持溝261、262は2つ形成されている。すなわち、渡り線と同数の保持溝を備える特許文献2の従来技術のように、渡り線保持溝は必ずしも6つ形成されることを要しない。したがって、渡り線の本数がスター結線に比べて多いデルタ結線の場合であっても適用が容易である。
【0057】
また、各インシュレータ要素211〜216から渡り線を導出するための導出溝281〜286の軸方向高さh1〜h6がすべて異なっている。
これにより、すべての渡り線を導出溝の高さからそのままの高さで周方向に配線することができる。よって、渡り線同士の干渉による損傷を防止することができる。また、渡り線の配線経路が一とおりに決まるため、配線作業性がさらに向上する。
【0058】
また、導出溝281〜286の高さは、渡り線保持溝261、262の軸方向の位置に対応した高さに形成される。これにより、導出溝から導出した渡り線は、導出溝の高さのまま周方向に延びて、渡り線保持溝の分割した領域に保持される。よって、渡り線の配線経路が案内されるため、配線作業性が向上する。
【0059】
さらに、導出溝281〜286の高さは、渡り線311〜316の配線順を考慮し、後から配線される渡り線が、先に配線された渡り線よりも端子側になるように設定される。そのため、渡り線保持溝261、262内に各渡り線が一段で、互いに重なることなく収容される。
仮に渡り線同士が交差すると、渡り線同士が接触するだけでなく、交差した箇所の外側の渡り線が径外方向にはみ出し、例えばステータ10の外郭を覆うハウジング19の内壁等に接触する可能性がある。それに対し、本実施形態では、渡り線同士の交差による重なりを回避し、このような渡り線の接触による損傷を防止することができる。また、渡り線の重なりを防止することにより、モータ部3の径方向の体格を小さくすることができる。さらに、渡り線自体の長さを短縮することができ、材料費を低減することができる。
【0060】
加えて、渡り線保持溝261、262に保持された渡り線311〜316は、モールド樹脂39によってモールドされる。これにより、配線作業後、渡り線311〜316の位置ずれが防止される。また、絶縁状態を維持することができる。
特に、燃料ポンプでは、巻線と燃料との接触を防ぐ必要があるため、渡り線311〜316を樹脂モールドすることによって燃料との接触を防ぐ効果が顕著に発揮される。
【0061】
(第2実施形態)
第2実施形態の燃料ポンプについて、図13を参照して説明する。
第2実施形態の燃料ポンプ2は、第1実施形態の燃料ポンプ1に対し、吐出口78の手前の吐出通路77内に逆止弁部80が設けられている点のみが異なり、それ以外の点は実質的に同一である。実質的に同一の構成には同一の符号を付して説明を省略する。
【0062】
逆止弁部80について説明する。
吐出通路77内に、棒状の弁部材81および支持部材83が設けられる。支持部材83は、吐出通路77内の吐出口78側に固定され、弁部材81の一方の端部を摺動可能に支持している。これにより、弁部材81は、吐出通路77内を軸方向に往復移動可能に支持される。また、弁部材81の他方の端部は、半球面状に形成され、吐出通路77の途中に形成される弁座82に当接可能である。
【0063】
インペラ65が回転を継続して燃料を昇圧させ、吐出通路77内の燃料の圧力が所定の圧力まで高まると弁部材81が開弁する。これにより、吐出通路77内の燃料は、吐出口78から吐出され、図示しない通路部材を経由して内燃機関に供給される。
インペラ65の回転が減速または停止し、吐出通路77内の燃料の圧力が通路部材内の燃料の圧力以下になると、吐出通路77の弁部材81は、弁座82に当接し、閉弁する。これにより、通路部材内の燃料が燃料ポンプ1に逆流することを防止する。よって、例えば内燃機関の停止時に燃料が通路部材内に維持されるため、再始動性が良好となる。
【0064】
第2実施形態においても、燃料ポンプ2のモータ部3は、インシュレータ21の構成および巻線30の配線に関して第1実施形態と同様である。したがって、渡り線同士の干渉による損傷を防止し、また、渡り線の配線作業性を向上することができる。
【0065】
(他の実施形態)
(ア)上記実施形態のステータ10は、デルタ結線される3相巻線の各相について2つのコイルが直列接続される。これに対し、その他の実施形態では、各相のコイルの数は、「2より大きい偶数」すなわち4、6等の数「n」であってもよい。この場合、コア要素およびインシュレータ要素の数は、「3×n」、すなわち12、24等となる。この数は、モータ部の「スロット数」でもある。さらに、ロータの磁極の数も8個に限らない。
(イ)3相電力のU相、V相、W相に対応する端子やコイル等のレイアウトは、上記実施形態のレイアウトに限らない。
【0066】
(ウ)上記実施形態では、コア11を構成するコア要素111〜116は、環状部12の端部が連結されている。これに対し、その他の実施形態では、コアは、互いに連結されない複数個の「分割コア」によって構成されてもよい。
(エ)上記実施形態では、複数の導出溝281〜286の軸方向高さh1〜h6は、すべて異なるように形成される。これに対し、その他の実施形態では、複数のうち、少なくとも2つの導出溝の軸方向高さが互いに異なるように形成されればよい。
【0067】
(オ)上記実施形態では、インシュレータ21は1つの隔壁252を有し、渡り線保持溝261、262は、軸方向に2つに分割して形成される。これに対し、その他の実施形態では、インシュレータは2つ以上の隔壁を有し、渡り線保持溝は、軸方向に3つ以上に分割して形成されてもよい。
(カ)上記実施形態では、コア11は、インシュレータ21にインサートモールドされる。これに対し、その他の実施形態では、単独で形成される絶縁性のインシュレータにコアが組み付けられてもよい。
【0068】
(キ)モータ部3のステータ10(特にインシュレータ21)以外の構成、さらに、燃料ポンプ1等のモータ部3以外の構成は、上記実施形態に限定されない。例えば、ロータ50の磁極は、鉄心53の周囲に別に設けられる形態に限らず、鉄心自体が着磁されることにより形成されてもよい。また、ステータ10をカバーエンド40と一体に樹脂成形する形態に限らず、ステータとカバーエンドとは別体に形成されてもよい。
【0069】
(ク)本発明によるブラシレスモータは、燃料ポンプに限らず、他の流体用のポンプ、或いは、回転駆動力を利用するあらゆる装置等に用いることができる。
以上、本発明は、このような実施形態に限定されるものではなく、発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の形態で実施することができる。
【符号の説明】
【0070】
1、2 ・・・燃料ポンプ、
3 ・・・モータ部(ブラシレスモータ)、
4 ・・・ポンプ部、
10 ・・・ステータ、
11 ・・・コア、
111〜116・・・コア要素、
12 ・・・環状部、
13 ・・・ティース部、
14 ・・・スロット、
19 ・・・ハウジング、
21 ・・・インシュレータ、
211〜216・・・インシュレータ要素、
22 ・・・環状被覆部、
23 ・・・ティース被覆部、
24 ・・・渡り線配線部、
251 ・・・下壁、
252 ・・・隔壁、
253 ・・・上壁、
261、262・・・渡り線保持溝、
271〜276・・・導入通路、
281〜286・・・導出溝、
30 ・・・巻線、
311〜316・・・渡り線(巻線)、
321〜326・・・コイル(巻線)、
331〜333・・・端子、
39 ・・・モールド樹脂、
50 ・・・ロータ、
52 ・・・シャフト、
65 ・・・インペラ(回転部材)、
h1〜h6 ・・・(導出溝の)軸方向高さ。
【技術分野】
【0001】
本発明は、ブラシレスモータ、及びこれを用いた燃料ポンプに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ステータのコアに巻回した巻線への通電を制御して磁界を連続的に切り換えることにより、ステータの内側に設けられるロータを回転させるブラシレスモータが知られている。このようなブラシレスモータでは、ステータの巻線はスター結線またはデルタ結線され、結線部が渡り線により接続される。ここで、仮に渡り線同士が接触または干渉し、表面の絶縁皮膜等が損傷した場合、短絡故障が起きるおそれがある。そのため、渡り線が互いに接触または干渉することを防止する技術が提案されている。
【0003】
例えば特許文献1に記載の3相ブラシレスモータでは、分割コア毎の渡り線支持壁に深さが異なる3とおりの保持溝が形成され、異なる相の渡り線をそれぞれ対応する深さの保持溝に差し込んで保持することで、渡り線同士が接触することを防止している。
また、特許文献2に記載の3相ブラシレスモータでは、異なる相の渡り線を個別に収容する収容溝が形成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−202268号公報
【特許文献2】特開2008−167604号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の保持溝は、相毎に形状が区別されていないため、配線作業者が渡り線を差し込む保持溝を間違えるおそれがある。また、差し込んだ渡り線を溝底の位置で上から押さえていないため、渡り線が緩んで溝の浅い方の側へずれる可能性がある。その結果、他の相の渡り線との接触により渡り線が損傷するおそれがある。
【0006】
特許文献2の構成では渡り線同士が干渉することはないと考えられる。しかしながら、この構成は、渡り線の少ないスター結線の場合だからこそ適用が可能である。すなわち、特許文献2の例ではステータの巻線がスター結線され、各相が2つのコイルを直列接続して構成されており、渡り線の数は3本である。これに対し、ステータの巻線がデルタ結線され、各相が2つのコイルを直列接続して構成される場合には、渡り線の数は少なくとも6本必要となる。このように渡り線の本数が多いデルタ結線の場合には、特許文献2の従来技術は適用が困難である。
【0007】
本発明は、上述の問題に鑑みてなされたものであり、その目的は、ステータの巻線がデルタ結線されるブラシレスモータにおいて、渡り線同士の干渉による損傷を防止し、渡り線の配線作業性を向上するブラシレスモータを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1に記載のブラシレスモータは、ステータとロータとを備える。
ステータは、周方向に複数のティース部が形成されるコア、コアに巻回される巻線、コアと巻線とを絶縁しつつ保持するインシュレータ、及び、巻線に通電される3相電力が外部から供給される端子を有する。そして、巻線はデルタ結線され、巻線への通電が制御されることにより回転磁界を生じる。
ロータは、ステータに径内方向から対向し周方向に交互に異なる磁極を有し、ステータに生じる回転磁界によって回転する。
巻線は、複数のティース部に巻回される複数のコイルと、コイル同士の間およびコイルと端子との間を接続する複数の渡り線とを含む。ここで、コイルは、ティース部に、いわゆる「集中巻き」されている。
インシュレータは、渡り線を保持する渡り線保持溝が外壁の周方向に延びるように形成され、かつ、渡り線保持溝を軸方向の一方側と他方側とに隔離する隔壁を有している。言い換えれば、渡り線保持溝は、隔壁によって軸方向に「複数に分割して」形成される。
【0009】
これにより、複数の渡り線は、隔壁によって軸方向に隔離された複数の渡り線保持溝に、少なくとも2つのグループに区分されて保持される。したがって、異なるグループ間の渡り線同士の干渉を回避することができる。また、同じ渡り線保持溝に保持される渡り線についても、渡り線保持溝の上下の壁および隔壁に当接することで軸方向の移動が規制されるため、特許文献1の従来技術と比べ、渡り線が軸方向にずれることによって生じる渡り線同士の接触が防止される。
よって、渡り線同士の接触や干渉による損傷を防止することができる。また、配線作業における作業者の判断や調整等が最小限に減らされるため、配線作業の作業性や信頼性を向上することができる。
【0010】
さらに、渡り線保持溝は、特許文献2の従来技術のように必ずしも渡り線の本数だけ分割されることを要しない。したがって、特許文献2の従来技術と比べ、渡り線の本数がスター結線に比べて多いデルタ結線の場合であっても適用が容易である。
【0011】
請求項2に記載の発明によると、インシュレータは、コイルの巻き終わり部から延びる渡り線を渡り線保持溝に導出するための導出溝が形成される。ここで複数の導出溝のうち少なくとも2つの導出溝の軸方向高さが互いに異なる。
これにより、複数の渡り線は、導出される高さにより少なくとも2つのグループに区分される、そのため、異なるグループ間の渡り線同士の干渉を回避し、干渉による損傷を防止することができる。
【0012】
請求項3に記載の発明によると、導出溝は、渡り線保持溝の軸方向の位置に対応した軸方向高さに形成される。これにより、導出溝から導出した渡り線は、導出溝の高さのまま周方向に延びて、渡り線保持溝に保持される。よって、渡り線の配線経路が案内されるため、配線作業性が向上する。
【0013】
請求項4に記載の発明によると、すべての導出溝の軸方向高さが互いに異なる。これにより、すべての渡り線を導出溝の高さからそのままの高さで周方向に配線することができる。よって、渡り線の配線経路が一とおりに決まるため、配線作業性がさらに向上する。
【0014】
請求項5に記載の発明によると、渡り線保持溝は、渡り線同士が交差することを回避するように渡り線を保持する。すなわち、渡り線保持溝内に各渡り線が一段で、互いに重なることなく収容される。
仮に渡り線同士が交差すると、渡り線同士が接触するだけでなく、交差した箇所の外側の渡り線が径外方向にはみ出し、例えばステータの外郭を覆うハウジングの内壁等に接触する可能性がある。それに対し、請求項5に記載の発明の構成とすることで、渡り線同士の交差による重なりを回避し、このような渡り線の接触による損傷を防止することができる。また、渡り線の重なりを防止することにより、ブラシレスモータの径方向の体格を小さくすることができる。さらに、渡り線自体の長さを短縮することができ、材料費を低減することができる。
【0015】
請求項6に記載の発明によると、渡り線保持溝に保持された渡り線は、樹脂モールドされる。これにより、配線作業後、渡り線の位置ずれが防止される。また、絶縁状態を維持することができる。
【0016】
請求項7に記載の発明は、燃料ポンプに係る発明である。この燃料ポンプは、「請求項1〜5のいずれか一項に記載のブラシレスモータからなるモータ部」と、「モータ部によって回転駆動される回転部材を有し、回転部材の回転により燃料を吸入し吐出するポンプ部」とを備える。回転部材は、例えばインペラである。
【0017】
ブラシレスモータを用いた燃料ポンプでは、巻線と燃料との接触を防ぐ必要がある。したがって、特に請求項6に記載のブラシレスモータに係る発明を引用する場合、渡り線が樹脂モールドされることによって燃料との接触を防ぐ効果が顕著に発揮される。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の第1実施形態によるブラシレスモータを用いた燃料ポンプの軸方向断面図である。
【図2】図1のII方向矢視図である。
【図3】図1のIII−III線断面図である。
【図4】(a)コアの展開状態の平面図である。(b)コアをインサートモールドしたインシュレータの展開状態の平面図である。(c)コアをインサートモールドしたインシュレータに巻線を巻いた後の展開状態の平面図である。
【図5】インシュレータに巻線を巻く前(初期段階)の展開状態の正面図である。
【図6】インシュレータに巻線を巻く第1段階の展開状態の正面図である。
【図7】インシュレータに巻線を巻く第2段階の展開状態の正面図である。
【図8】インシュレータに巻線を巻く第3段階の展開状態の正面図である。
【図9】(a)図8のIX−IX線断面図である。(b)(a)のb部拡大図である。
【図10】インシュレータに巻線を巻く第3段階の丸めた状態の平面図である。
【図11】巻線のデルタ結線図である。
【図12】巻線の配線レイアウトを示す模式図である。
【図13】本発明の第2実施形態によるブラシレスモータを用いた燃料ポンプの軸方向断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
(第1実施形態)
本発明の第1実施形態によるブラシレスモータを用いた燃料ポンプについて、図1〜図12を参照して説明する。
【0020】
まず、燃料ポンプの全体構成について、図1〜図3を参照して説明する。
燃料ポンプ1は、図1の下部に示す吸入口61から燃料タンク(図示しない)内の燃料を吸入し、図1の上部に示す吐出口78から内燃機関に吐出する。燃料ポンプ1は、モータ部3とポンプ部4とに大別され、外郭がハウジング19、ポンプカバー60、カバーエンド40等から構成される。以下の燃料ポンプ1の説明では、図1の上側を「吐出口78側」、図1の下側を「吸入口61側」と表す。
【0021】
ハウジング19は、鉄等の金属により円筒状に形成されている。
ポンプカバー60は、ハウジング19の吸入口61側の端部を塞いでいる。ポンプカバー60は、ハウジング19の吸入口61側の端部の縁が内側へ加締められることにより、ハウジング19の内側で固定され、軸方向への抜けが規制されている。
【0022】
カバーエンド40は、ハウジング19の吐出口78側の端部を塞いでいる。カバーエンド40は、ハウジング19の吐出口78側の端部の縁が内側へ加締められることにより、ハウジング19の内側で固定され、軸方向への抜けが規制されている。
カバーエンド40の外側には、図1の上方へ突出する筒部41が形成されている。筒部41の端部には吐出口78が形成され、筒部41の内部には吐出口78に連通する吐出通路77が形成されている。
カバーエンド40の内側には、ロータ50側に筒状に突出する筒部42が中心軸上に形成されている。筒部42の内側には、軸受55が嵌め込まれている。
【0023】
次に、モータ部3の概略構成について説明する。モータ部3は、本発明の「ブラシレスモータ」に相当し、ステータ10、ロータ50、シャフト52等を含む。
ステータ10は、円筒状を呈し、ハウジング19の内側に収容されている。ステータ10は、コア11、インシュレータ21、巻線30および端子331、331、333等を有している。コア11は、鉄等の磁性材料で形成される。インシュレータ21は、コア11をインサートして樹脂モールドすることにより形成される。なお、コア11の内壁面、すなわちロータ50に対向する面は、樹脂モールドされず、金属面が露出している。
【0024】
巻線30は、コア11がインサートモールドされたインシュレータ21に巻回される。インシュレータ21は、コア11と巻線30とを絶縁しつつ保持している。巻線30は、例えば表面が絶縁皮膜で被覆された銅線であり、通常に巻回されるときには銅線同士は絶縁されている。しかし、巻線同士あるいは巻線と他の部材との接触や干渉により皮膜が損傷すると、銅線同士あるいは銅線と他の金属部材とが短絡するおそれがある。
巻線30が巻回されたインシュレータ21は、さらにカバーエンド40を形成するモールド樹脂39によって一体に樹脂成形される。したがって、ステータ10は、カバーエンド40と一体に形成される。
【0025】
図3に示すように、本実施形態のコア11は、6個のコア111〜116が周方向に連結されて構成されている。各コア要素111〜116は、環状の外形を構成する環状部12と、環状部12から径内方向に放射状に突出するティース部13とを有している。コア11の詳細な構成については後述する。
また、互いに隣接するコア要素111〜116のティース部13同士の間に、軸方向に貫通する6個のスロット14が形成される。
【0026】
巻線30は、各スロット14を通して、各コア要素111〜116のティース部13に連続して集中巻きされる。ティース部13に集中巻きされた巻線30を、コイル321〜326と表す。以下、「巻線30」は、コイル321〜326、及び、後述する渡り線311〜316を含めた総称として表す(図11参照)。
ここで、図1の図示について補足する。図1は、図2および図3のI−I断面図であるから、図1の左半分は、コイル322が巻かれたコア要素112の断面を示し、図1の右半分は、コイル325が巻かれたコア要素115の断面を示している。
【0027】
ロータ50は、ステータ10の内側に回転可能に収容される。ロータは、鉄心53の周囲に磁石54が設けられる。図3に示すように、磁石54は、周方向にN極541とS極542とが交互に配置されている。本実施形態では、N極541およびS極542は4極対、計8極設けられている。すなわち、本実施形態のモータ部3は、「スロット数6、磁極数8」のブラシレスモータに相当する。しかし、これは一例であり、本発明のブラシレスモータのスロット数、磁極数はこれに限らない。
シャフト52は、ロータ50の中心軸上に形成された軸穴51に圧入固定されており、ロータ50とともに回転する。
【0028】
端子331、332、333は、カバーエンド40の筒部41と干渉しない位置に設けられ、軸方向に突出している。本実施形態では、端子331はW相、端子332はV相、端子333はU相の端子に相当する。各端子331、332、333には各相の巻線30が接続され、図示しない駆動装置からの3相電力が端子331、332、333を通して巻線30に供給される(図11参照)。巻線30に電力が供給されることにより、ステータ10に回転磁界が生じ、ロータ50がシャフト52とともに回転する。
【0029】
図1に戻り、次にポンプ部4の構成について説明する。
ポンプカバー60は、図1の下方に開口する筒状の吸入口61を有している。吸入口61の内側には、ポンプカバー60を板厚方向に貫く吸入通路62が形成されている。
【0030】
ポンプカバー60とステータ10との間には、ポンプケーシング70が略円板状に設けられている。ポンプケーシング70の中心部には、ポンプケーシング70を板厚方向に貫く穴71が形成されている。ポンプケーシング70の穴71には、軸受56が嵌め込まれている。軸受56は、カバーエンド40に嵌め込まれた軸受55と共に、シャフト52の軸方向両側を回転可能に支持している。これにより、ロータ50およびシャフト52は、カバーエンド40およびポンプケーシング70に対し回転可能となっている。
【0031】
「回転部材」としてのインペラ65は、樹脂により略円板状に形成されている。インペラ65は、ポンプカバー60とポンプケーシング70との間のポンプ室72に収容されている。シャフト52のポンプ室72側の端部は、外壁の一部がカットされた「D字形状」となっており、インペラ65の中心部に形成された、対応するD字形状の穴66に嵌め込まれている。これにより、インペラ65は、シャフト52の回転によってポンプ室72内で回転する。
【0032】
ポンプカバー60のインペラ65側の面には、吸入通路62と接続する溝63が形成されている。また、ポンプケーシング70のインペラ65側の面には、溝73が形成されている。溝73には、ポンプケーシング70を板厚方向に貫く通路74が連通している。インペラ65には、溝63および溝73に対応する位置に羽根部67が形成されている。
【0033】
モータ部3の巻線30に電力が供給されることでロータ50およびシャフト52とともにインペラ65が回転すると、燃料ポンプ1外部の燃料は、吸入口61を経由して溝63に導かれる。溝63に導かれた燃料は、インペラ65の回転により昇圧されつつ溝73に導かれる。昇圧された燃料は、通路74を流通し、ポンプケーシング70のモータ部3側に導かれ、さらにロータ50とステータ10との間の燃料通路76を経由して、ロータ50のカバーエンド40側に導かれる。そして、吐出通路77を経由し、吐出口78から吐出される。
【0034】
次に、本発明の特徴的構成であるモータ部3のインシュレータ21の構成について、図4〜図12を参照して詳細に説明する。以下のインシュレータ21の説明では、図5〜図9の上側を「端子(331〜333)側」、図5〜図9の下側を「反端子側」と表す。
本実施形態のインシュレータ21は、図4に示すように周方向に展開された状態から、図8に示すように丸められて形成される。図4(a)〜(c)は、いずれも端子側から視た展開状態の平面図であり、図4(a)はコア11を示し、図4(b)はコア11をインサートモールドしたインシュレータ21を示す。また、図4(c)はインシュレータ21に巻線30を巻いた状態を示す。
【0035】
図4(a)に示すように、コア11は、複数(本実施形態では6個)のコア要素111〜116から構成される連結体である。各コア要素111〜116は、丸めたときに環状の外形を構成する環状部12と、丸めたときに環状部12から径内方向に放射状に突出するティース部13とを備える。コア要素111〜116は、互いに隣接する環状部12の周方向の端部同士が連結されている。
【0036】
図4(b)に示すように、インシュレータ21は、絶縁性の樹脂により形成され、コア要素に対応した複数(本実施形態では6個)のインシュレータ要素211〜216から構成される連結体である。各インシュレータ要素211〜216は、環状部12を被覆する環状被覆部22と、ティース部13を被覆するティース被覆部23とを備える。
環状被覆部22のうち、軸方向のコア11より端子側の外壁は渡り線配線部24(図5参照)を構成する。渡り線配線部24には、導入通路271〜276および導出溝281〜286が形成される。
【0037】
インシュレータ要素211〜216は、互いに隣接する環状被覆部22の周方向の端部同士が連結されている。また、連結されていないインシュレータ要素211の一端(図4(b)の右端)とインシュレータ要素216の他端(図4(b)の左端)とは、丸めたとき、図3および図10の接合線Lにて互いに当接もしくは近接する。そして、樹脂モールドされることで、丸めた状態で固定される。
図4(c)に示すように、ティース被覆部23には巻線30が巻回され、コイル321〜326を形成する。また、コイル321〜326の間には、コイル同士、またはコイルと端子とを接続する渡り線311〜316が配線される。
【0038】
ここで、巻線の結線について、図11、図12を参照して説明する。
図11に示すように、ステータ10の磁気回路を形成する3相巻線30はデルタ結線されている。また、各相の端子間には、2つのコイルが直列接続されて構成されている。
具体的には、W相端子331とV相端子332との間に、W相第1コイル321、渡り線311、W相第2コイル324および渡り線312がこの順に直列接続されている。
また、V相端子332とU相端子333との間に、V相第1コイル322、渡り線313、W相第2コイル325および渡り線314がこの順に直列接続されている。
また、U相端子333とW相端子331との間に、U相第1コイル323、渡り線315、U相第2コイル326および渡り線316がこの順に直列接続されている。
【0039】
以下、例えば「W相第1コイル321」を「W1コイル321」というように表す。
図12は、図11の結線図に対応した巻線の配線レイアウトを示す模式図である。ここで、図中の矢印は巻線方向を示している。図12に示すように、巻線は、例えばW相端子331から出発してW相端子331に戻るまで、一筆書きで書くことができる。
そして、図12の結線模式図を実体として表した図が図8に相当する。
【0040】
次に、図4〜図10を参照して、本実施形態のインシュレータ21の特徴的構成について、結線の手順と共に説明する。
最初に各図の概要を紹介する。図5は、巻線を巻く前の状態、すなわち初期段階のインシュレータ21の展開状態の正面図であり、図4(b)のV方向矢視図に相当する。
図6、図7、図8は、巻線30を巻く第1〜第3段階のインシュレータ21の展開状態の正面図である。図6、図7、図8では、その段階でコイル321〜326が集中巻きされるインシュレータ要素の符号を四角で囲んで示している。さらに、その段階で配線される渡り線311〜316について、配線の順(<1>〜<6>)と共に配線方向を矢印で示す。ここで示す配線方向の矢印は、図12に示す矢印と対応している。
【0041】
また、インシュレータ要素211〜216は、巻回されるコイル321〜326の名称に対応して、例えば「W1コイル321が巻回されるインシュレータ要素211」を「W1インシュレータ要素211」というように表す。
図8に示す巻線工程が完了した状態は、図4(c)のVIII方向矢視図に相当する。また、図8は、丸め工程後のインシュレータ21の平面図である図10に対し、接合線Lで切ってVIII方向から視た展開図に相当する。
【0042】
以下、図4から順に説明する。
図4(b)および図5に示すように、インシュレータ21のうち、軸方向のコア11より端子側の部分は渡り線配線部24を構成する。各インシュレータ要素211〜216の渡り線配線部24には、巻線を導入するための導入通路271〜276、及び、巻線を導出し渡り線を配線する起点となる導出溝281〜286が形成されている。導入通路271〜276は、配線作業の自由度を確保できるよう、巻線1本分の線径に対して比較的幅広く形成されている。一方、導出溝281〜286は、巻線1本分の線径に対応する幅に形成されており、渡り線の正確な位置決めが可能となっている。
【0043】
ここで、インシュレータ21のうち、コア11の端子側端部に対応する段差部の高さを基準高さh0とすると、基準高さh0からの導出溝281〜286の軸方向高さh1〜h6は、それぞれ互いに異なるように設定されている。これにより、各導出溝281〜286から導出される渡り線は、すべて固有の高さで配線されることとなる。
【0044】
また、渡り線配線部24の図5の手前側(組付時の外周側)には、周方向に延び径外方向に突出する下壁251、隔壁252、上壁253の3つの壁が設けられている。下壁251と隔壁252とは、その間に渡り線保持溝261を形成し、隔壁252と上壁253とは、その間に渡り線保持溝262を形成する(図9参照)。このように、渡り線保持溝261、262は、インシュレータ21の外壁の周方向に延びるように形成されている。また、隔壁252は、渡り線保持溝261、262を軸方向の端子側と反端子側とに隔離する。言い換えれば、渡り線保持溝261、262は、隔壁252によって、軸方向に複数(本実施形態では2つ)に分割して形成されている。
さらに、上述の導出溝281〜286は、渡り線保持溝261、262の軸方向の位置に対応した高さに形成されている。
【0045】
図6に示す巻線工程の第1段階では、以下(1)、(2)の手順で巻線が巻かれる。
(1)W相端子331の係止部341から引き出された巻線は、導入通路271を通ってW1インシュレータ要素211に導入され、W1コイル321として集中巻きされる。その後、導出溝281から導出された渡り線311がW2インシュレータ要素214まで配線される(<1>)。
【0046】
(2)渡り線311は、導入通路274を通ってW2インシュレータ要素214に導入され、W2コイル324として集中巻きされる。その後、導出溝284から導出された渡り線312がV1インシュレータ要素212まで配線され(<2>)、V相端子332の係止部342に係止される。
このとき、渡り線312は、渡り線311よりも上方の経路に配線されるため、渡り線311と渡り線312とが交差することが回避される。
【0047】
図7に示す巻線工程の第2段階では、以下(3)、(4)の手順で巻線が巻かれる。
(3)V相端子332の係止部342から引き出された巻線は、導入通路272を通ってV1インシュレータ要素212に導入され、V1コイル322として集中巻きされる。その後、導出溝282から導出された渡り線313がV2インシュレータ要素215まで配線される(<3>)。
【0048】
(4)渡り線313は、導入通路275を通ってV2インシュレータ要素215に導入され、V2コイル325として集中巻きされる。その後、導出溝285から導出された渡り線314がU1インシュレータ要素213まで配線され(<4>)、U相端子333の係止部343に係止される。
このとき、渡り線314は、渡り線313よりも上方の経路に配線されるため、渡り線313と渡り線314とが交差することが回避される。
【0049】
図8に示す巻線工程の第3段階では、以下(5)、(6)の手順で巻線が巻かれる。
(5)U相端子333の係止部343から引き出された巻線は、導入通路273を通ってU1インシュレータ要素213に導入され、U1コイル323として集中巻きされる。その後、導出溝283から導出された渡り線315がU2インシュレータ要素216まで配線される(<5>)。
【0050】
(6)渡り線315は、導入通路276を通ってU2インシュレータ要素216に導入され、U2コイル326として集中巻きされる。その後、導出溝286から導出された渡り線316がW1インシュレータ要素211まで配線され(<6>)、巻き始め箇所であるW相端子331の係止部341に再び係止される。
このとき、渡り線316は、渡り線315よりも上方の経路に配線されるため、渡り線315と渡り線316とが交差することが回避される。
【0051】
図8に示すように、渡り線配線部24には計6本の渡り線311〜316が横断する。特にU1インシュレータ要素213、及びW2インシュレータ要素214のU1インシュレータ要素213に隣接する箇所では、6本すべての渡り線が軸方向に並ぶこととなる。
ここで、U1インシュレータ要素213における軸方向断面を図9に示す。
【0052】
図9に示すように、3本の渡り線311、313、312は、下壁251と隔壁252との間の渡り線保持溝261に保持される。また、3本の渡り線315、316、314は、隔壁252と上壁253との間の渡り線保持溝262に保持される。このように、本実施形態では、6本の渡り線311〜316が、2つの渡り線保持溝261、262に対応する2つのグループに区分されて保持される。
【0053】
さらに、上述のように、渡り線311〜316の配線順を考慮し、渡り線同士が交差することが回避される結果、渡り線保持溝261、262内に各渡り線が一段で、互いに重なることなく収容される。また、渡り線保持溝261、262の溝深さは、渡り線の線径よりも深く設定されているため、渡り線の外径は、下壁251、隔壁252および上壁253の外径の外側にはみ出すことはない。
【0054】
なお、U1インシュレータ要素213以外のインシュレータ要素では、それぞれ横断する渡り線の本数に対し、2つの渡り線保持溝261、262に保持される渡り線の本数が設定されている。また、保持される渡り線の本数に応じて、渡り線保持溝261、262の幅が適当な広さに形成されている。
【0055】
以上説明したように、本実施形態では、渡り線311〜316は、隔壁252によって軸方向の端子側と反端子側とに隔離された複数の渡り線保持溝261、262に保持される。これにより、異なる渡り線保持溝に保持される渡り線同士の干渉を回避することができる。
また、同じ渡り線保持溝に保持される渡り線についても、下壁251、隔壁252および上壁253に当接することで軸方向の移動が規制される。したがって、渡り線が軸方向にずれることによって生じる渡り線同士の接触が防止される。
よって、渡り線同士の接触や干渉による損傷を防止することができる。また、配線作業における作業者の判断や調整等が最小限に減らされるため、配線作業の作業性や信頼性を向上することができる。
【0056】
また、6本の渡り線311〜316に対し、渡り線保持溝261、262は2つ形成されている。すなわち、渡り線と同数の保持溝を備える特許文献2の従来技術のように、渡り線保持溝は必ずしも6つ形成されることを要しない。したがって、渡り線の本数がスター結線に比べて多いデルタ結線の場合であっても適用が容易である。
【0057】
また、各インシュレータ要素211〜216から渡り線を導出するための導出溝281〜286の軸方向高さh1〜h6がすべて異なっている。
これにより、すべての渡り線を導出溝の高さからそのままの高さで周方向に配線することができる。よって、渡り線同士の干渉による損傷を防止することができる。また、渡り線の配線経路が一とおりに決まるため、配線作業性がさらに向上する。
【0058】
また、導出溝281〜286の高さは、渡り線保持溝261、262の軸方向の位置に対応した高さに形成される。これにより、導出溝から導出した渡り線は、導出溝の高さのまま周方向に延びて、渡り線保持溝の分割した領域に保持される。よって、渡り線の配線経路が案内されるため、配線作業性が向上する。
【0059】
さらに、導出溝281〜286の高さは、渡り線311〜316の配線順を考慮し、後から配線される渡り線が、先に配線された渡り線よりも端子側になるように設定される。そのため、渡り線保持溝261、262内に各渡り線が一段で、互いに重なることなく収容される。
仮に渡り線同士が交差すると、渡り線同士が接触するだけでなく、交差した箇所の外側の渡り線が径外方向にはみ出し、例えばステータ10の外郭を覆うハウジング19の内壁等に接触する可能性がある。それに対し、本実施形態では、渡り線同士の交差による重なりを回避し、このような渡り線の接触による損傷を防止することができる。また、渡り線の重なりを防止することにより、モータ部3の径方向の体格を小さくすることができる。さらに、渡り線自体の長さを短縮することができ、材料費を低減することができる。
【0060】
加えて、渡り線保持溝261、262に保持された渡り線311〜316は、モールド樹脂39によってモールドされる。これにより、配線作業後、渡り線311〜316の位置ずれが防止される。また、絶縁状態を維持することができる。
特に、燃料ポンプでは、巻線と燃料との接触を防ぐ必要があるため、渡り線311〜316を樹脂モールドすることによって燃料との接触を防ぐ効果が顕著に発揮される。
【0061】
(第2実施形態)
第2実施形態の燃料ポンプについて、図13を参照して説明する。
第2実施形態の燃料ポンプ2は、第1実施形態の燃料ポンプ1に対し、吐出口78の手前の吐出通路77内に逆止弁部80が設けられている点のみが異なり、それ以外の点は実質的に同一である。実質的に同一の構成には同一の符号を付して説明を省略する。
【0062】
逆止弁部80について説明する。
吐出通路77内に、棒状の弁部材81および支持部材83が設けられる。支持部材83は、吐出通路77内の吐出口78側に固定され、弁部材81の一方の端部を摺動可能に支持している。これにより、弁部材81は、吐出通路77内を軸方向に往復移動可能に支持される。また、弁部材81の他方の端部は、半球面状に形成され、吐出通路77の途中に形成される弁座82に当接可能である。
【0063】
インペラ65が回転を継続して燃料を昇圧させ、吐出通路77内の燃料の圧力が所定の圧力まで高まると弁部材81が開弁する。これにより、吐出通路77内の燃料は、吐出口78から吐出され、図示しない通路部材を経由して内燃機関に供給される。
インペラ65の回転が減速または停止し、吐出通路77内の燃料の圧力が通路部材内の燃料の圧力以下になると、吐出通路77の弁部材81は、弁座82に当接し、閉弁する。これにより、通路部材内の燃料が燃料ポンプ1に逆流することを防止する。よって、例えば内燃機関の停止時に燃料が通路部材内に維持されるため、再始動性が良好となる。
【0064】
第2実施形態においても、燃料ポンプ2のモータ部3は、インシュレータ21の構成および巻線30の配線に関して第1実施形態と同様である。したがって、渡り線同士の干渉による損傷を防止し、また、渡り線の配線作業性を向上することができる。
【0065】
(他の実施形態)
(ア)上記実施形態のステータ10は、デルタ結線される3相巻線の各相について2つのコイルが直列接続される。これに対し、その他の実施形態では、各相のコイルの数は、「2より大きい偶数」すなわち4、6等の数「n」であってもよい。この場合、コア要素およびインシュレータ要素の数は、「3×n」、すなわち12、24等となる。この数は、モータ部の「スロット数」でもある。さらに、ロータの磁極の数も8個に限らない。
(イ)3相電力のU相、V相、W相に対応する端子やコイル等のレイアウトは、上記実施形態のレイアウトに限らない。
【0066】
(ウ)上記実施形態では、コア11を構成するコア要素111〜116は、環状部12の端部が連結されている。これに対し、その他の実施形態では、コアは、互いに連結されない複数個の「分割コア」によって構成されてもよい。
(エ)上記実施形態では、複数の導出溝281〜286の軸方向高さh1〜h6は、すべて異なるように形成される。これに対し、その他の実施形態では、複数のうち、少なくとも2つの導出溝の軸方向高さが互いに異なるように形成されればよい。
【0067】
(オ)上記実施形態では、インシュレータ21は1つの隔壁252を有し、渡り線保持溝261、262は、軸方向に2つに分割して形成される。これに対し、その他の実施形態では、インシュレータは2つ以上の隔壁を有し、渡り線保持溝は、軸方向に3つ以上に分割して形成されてもよい。
(カ)上記実施形態では、コア11は、インシュレータ21にインサートモールドされる。これに対し、その他の実施形態では、単独で形成される絶縁性のインシュレータにコアが組み付けられてもよい。
【0068】
(キ)モータ部3のステータ10(特にインシュレータ21)以外の構成、さらに、燃料ポンプ1等のモータ部3以外の構成は、上記実施形態に限定されない。例えば、ロータ50の磁極は、鉄心53の周囲に別に設けられる形態に限らず、鉄心自体が着磁されることにより形成されてもよい。また、ステータ10をカバーエンド40と一体に樹脂成形する形態に限らず、ステータとカバーエンドとは別体に形成されてもよい。
【0069】
(ク)本発明によるブラシレスモータは、燃料ポンプに限らず、他の流体用のポンプ、或いは、回転駆動力を利用するあらゆる装置等に用いることができる。
以上、本発明は、このような実施形態に限定されるものではなく、発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の形態で実施することができる。
【符号の説明】
【0070】
1、2 ・・・燃料ポンプ、
3 ・・・モータ部(ブラシレスモータ)、
4 ・・・ポンプ部、
10 ・・・ステータ、
11 ・・・コア、
111〜116・・・コア要素、
12 ・・・環状部、
13 ・・・ティース部、
14 ・・・スロット、
19 ・・・ハウジング、
21 ・・・インシュレータ、
211〜216・・・インシュレータ要素、
22 ・・・環状被覆部、
23 ・・・ティース被覆部、
24 ・・・渡り線配線部、
251 ・・・下壁、
252 ・・・隔壁、
253 ・・・上壁、
261、262・・・渡り線保持溝、
271〜276・・・導入通路、
281〜286・・・導出溝、
30 ・・・巻線、
311〜316・・・渡り線(巻線)、
321〜326・・・コイル(巻線)、
331〜333・・・端子、
39 ・・・モールド樹脂、
50 ・・・ロータ、
52 ・・・シャフト、
65 ・・・インペラ(回転部材)、
h1〜h6 ・・・(導出溝の)軸方向高さ。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
周方向に複数のティース部が形成されるコア、前記コアに巻回される巻線、前記コアと前記巻線とを絶縁しつつ保持するインシュレータ、及び前記巻線に通電される3相電力が外部から供給される端子を有し、デルタ結線された前記巻線への通電が制御されることにより回転磁界を生じるステータと、
前記ステータに径内方向から対向し周方向に交互に異なる磁極を有し、前記ステータに生じる回転磁界によって回転するロータと、
を備え、
前記巻線は、複数の前記ティース部に巻回される複数のコイルと、前記コイル同士の間および前記コイルと前記端子との間を接続する複数の渡り線とを含み、
前記インシュレータは、前記渡り線を保持する渡り線保持溝が外壁の周方向に延びるように形成され、かつ、前記渡り線保持溝を軸方向の一方側と他方側とに隔離する隔壁を有していることを特徴とするブラシレスモータ。
【請求項2】
前記インシュレータは、前記コイルの巻き終わり部から延びる前記渡り線を前記渡り線保持溝に導出するための導出溝が形成され、
複数の前記導出溝のうち少なくとも2つの前記導出溝の軸方向高さが互いに異なることを特徴とする請求項1に記載のブラシレスモータ。
【請求項3】
前記導出溝は、前記渡り線保持溝の軸方向の位置に対応した軸方向高さに形成されることを特徴とする請求項2に記載のブラシレスモータ。
【請求項4】
すべての前記導出溝の軸方向高さが互いに異なることを特徴とする請求項2または3に記載のブラシレスモータ。
【請求項5】
前記渡り線保持溝は、前記渡り線同士が交差することを回避するように前記渡り線を保持することを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載のブラシレスモータ。
【請求項6】
前記渡り線保持溝に保持された前記渡り線は、樹脂モールドされることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載のブラシレスモータ。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか一項に記載のブラシレスモータからなるモータ部と、
前記モータ部によって回転駆動される回転部材を有し、前記回転部材の回転により燃料を吸入し吐出するポンプ部と、
を備えることを特徴とする燃料ポンプ。
【請求項1】
周方向に複数のティース部が形成されるコア、前記コアに巻回される巻線、前記コアと前記巻線とを絶縁しつつ保持するインシュレータ、及び前記巻線に通電される3相電力が外部から供給される端子を有し、デルタ結線された前記巻線への通電が制御されることにより回転磁界を生じるステータと、
前記ステータに径内方向から対向し周方向に交互に異なる磁極を有し、前記ステータに生じる回転磁界によって回転するロータと、
を備え、
前記巻線は、複数の前記ティース部に巻回される複数のコイルと、前記コイル同士の間および前記コイルと前記端子との間を接続する複数の渡り線とを含み、
前記インシュレータは、前記渡り線を保持する渡り線保持溝が外壁の周方向に延びるように形成され、かつ、前記渡り線保持溝を軸方向の一方側と他方側とに隔離する隔壁を有していることを特徴とするブラシレスモータ。
【請求項2】
前記インシュレータは、前記コイルの巻き終わり部から延びる前記渡り線を前記渡り線保持溝に導出するための導出溝が形成され、
複数の前記導出溝のうち少なくとも2つの前記導出溝の軸方向高さが互いに異なることを特徴とする請求項1に記載のブラシレスモータ。
【請求項3】
前記導出溝は、前記渡り線保持溝の軸方向の位置に対応した軸方向高さに形成されることを特徴とする請求項2に記載のブラシレスモータ。
【請求項4】
すべての前記導出溝の軸方向高さが互いに異なることを特徴とする請求項2または3に記載のブラシレスモータ。
【請求項5】
前記渡り線保持溝は、前記渡り線同士が交差することを回避するように前記渡り線を保持することを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載のブラシレスモータ。
【請求項6】
前記渡り線保持溝に保持された前記渡り線は、樹脂モールドされることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載のブラシレスモータ。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか一項に記載のブラシレスモータからなるモータ部と、
前記モータ部によって回転駆動される回転部材を有し、前記回転部材の回転により燃料を吸入し吐出するポンプ部と、
を備えることを特徴とする燃料ポンプ。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2013−70577(P2013−70577A)
【公開日】平成25年4月18日(2013.4.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−209074(P2011−209074)
【出願日】平成23年9月26日(2011.9.26)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年4月18日(2013.4.18)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年9月26日(2011.9.26)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】
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