説明

ブラシレスモータ

【課題】振動や衝撃負荷により一時的にロータが浮き上がって戻る際のモータ軸とスラスト受け部との衝突音を簡易な構成で解消できるブラシレスモータを提供する。
【解決手段】スラストカバー16の凹面部19であってスラスト受け部20の軸接点Pとの延長線Mと交差する凹面部底部19aに空隙を形成する凹部21が設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、プリンタ、複写機、DVD駆動装置などのOA機器やシート空調、冷却用ブロワなどの車載機器、プロジェクターなどに用いられるブラシレスモータに関する。
【背景技術】
【0002】
アウターロータ型のDCブラシレスモータの一例について説明する。筒体状のハウジングはモータケースに組み付けられ、該ハウジングの内周側に軸受部が組み付けられ、外周部にはモータ基板やステータコアが組み付けられる。マグネットを有するロータはモータ軸と一体に組み付けられ、該モータ軸がハウジング内に挿入され軸受部を介して回転可能に支持されている。ハウジングはモータケースと一体に組み付けられている。
【0003】
ロータを支持するモータ軸のスラスト方向の負荷を受ける構造としては、例えば図3において、モータ軸51の軸端部52をR面形状に仕上げて或いは図示しない鋼球(スチールボール)を軸端部52に圧入しモータケース(金属ケース)54で直接受けるか或いはモータケース54の凹部55に樹脂製のスラスト受け部53を収容して軸端部52を支持する構造がとられている。
【0004】
また、インナーロータ型のブラシ付モータではあるが、ウォームホイールと噛み合うウォームギヤがモータ軸に設けられており、該モータ軸の軸端部をケース凹部に設けられたすべり軸受とスラスト板でラジアル方向及びスラスト方向で支持している。軸端部を受けるスラスト板は、すべり軸受がケース凹部に圧入されるとケース支持部との間で挟み込まれて固定されている。モータ停止時や逆回転時にモータ軸がスラスト方向へ移動するとスラスト板が押圧されて変形し、当該スラスト板の弾性とケース底部に密閉された空気層によってモータ軸に作用するスラスト方向の負荷を吸収して衝撃音を低下する技術が提案されている(特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2001−112212号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、アウターロータ型のモータの場合、ロータは軸方向にマグネットと固定子コアの磁気吸引力により固定されている。このため、図3において外部から振動や衝撃を受けた場合、ロータは軸方向に慣性により一時的に跳ね上がって戻り、モータ軸51の軸端部52がスラスト受け部53を叩くようになる。このとき発生する軸端部52とモータケース(金属ケース)54や鋼球(図示せず)とモータケース54など金属どうしで直接接している場合はもちろんであるが、スラスト受け部53を介している場合も衝突の衝撃が直線的にモータケース54に伝わるため大きな衝突音が発生して、車載機器などのユーザーの近くに配置されるものにおいては、耳障りな音が発生する。
【0006】
また、特許文献1の構造では、モータ軸にはウォームギヤの回転にともなってウォームホイールとの機械的な噛み合い構造によって軸方向へ移動することが予定されており、モータ自体に外部から作用する振動や衝撃によりロータが移動することは想定し難い。
また、スラスト板は金属製のケース蓋の凹部に収納されてすべり軸受が圧入されてケース支持部との間で挟み込まれて固定されている。ケース支持部の間に形成された凹部の直径は、モータ軸の直径より大きい寸法で形成されており、モータ軸の移動によりスラスト板を積極的に凹部内へ撓ませることで衝撃緩和効果が得られるようになっている。
このような構造では、空隙の直径、スラスト板の直径、ケース蓋の凹部の直径、シャフト径、凹部の深さに精密な寸法関係が必要になり、部品の製造コストが嵩む。また、ケース蓋の凹部にスラスト板のみならずすべり軸受を圧入したり当該スラスト板を撓ませたりするため、凹部の深さが必要になり、ケース蓋がスラスト方向に長くなり易い。よって、モータのスラスト方向の設置スペースが無い場合には、使い難い。
【0007】
本発明はこれらの課題を解決すべくなされたものであり、その目的とするところは、振動や衝撃負荷により一時的にロータが浮き上がって戻る際のモータ軸とスラスト受け部との衝突音を簡易な構成で解消できるブラシレスモータを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は上記目的を達成するため、次の構成を備える。
ロータを支持するモータ軸を軸受部によりラジアル方向に支持すると共に軸端部をスラスト方向に受けるスラスト受け部を備えたブラシレスモータであって、前記モータ軸を受けるスラスト受け部と該スラスト受け部を収容する凹面部が形成されたスラストカバーを備え、該スラストカバーの凹面部であって前記スラスト受け部のモータ軸接点との延長線と交差する凹面部底部に空隙を形成する凹部が設けられていることを特徴とする。
また、前記スラストカバーの凹面部底部に設けられた凹部の内径は、モータ軸の外径より小さいことを特徴とする。
また、前記ロータを支持するモータ軸が固定子側のハウジングに挿入された軸受部によってラジアル方向及びスラスト方向に支持されるアウターロータ型モータであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
上述したブラシレスモータを用いれば、スラストカバーの凹面部であって前記スラスト受け部のモータ軸接点を通過する延長線と交差する凹面部底部に空隙を形成する凹部が設けられている。よって、振動や衝撃負荷により一時的にロータが浮き上がって戻り軸端がスラスト受け部を叩いた時、軸端中央部の面圧の高い点衝突による衝撃をスラスト受け部が直下の凹部に向けてわずかな撓みをともなって受け、当該凹部の開口縁部を通じてスラストカバーの凹面部へ拡散させるので、衝撃音の発生を抑制できる。
また、前記スラストカバーの凹面部底部に設けられた凹部の内径は、モータ軸の外径より小さいので、凹部の加工に精度は不要でありしかも加工が容易であり、安価に低コストで量産に適している。
また、アウターロータ型のブラシレスモータの場合、ロータを支持するモータ軸が固定子側のハウジングに挿入された軸受部によってラジアル方向及びスラスト方向に支持されるため、車載用など厳しい使用環境におかれても衝撃などによってロータが軸方向に浮き上がって戻り衝突する際の衝撃音の発生を抑制でき、商品価値を高めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明に係るブラシレスモータの最良の実施形態について、添付図面を参照しながら説明する。本実施形態では、一例としてアウターロータ型のDCブラシレスモータを用いて説明する。
【0011】
図1を参照して、DCブラシレスモータの概略構成について説明する。
図1において、ロータ1は、インペラ2が円筒状のロータヨーク3と一体にインサート成形されたものが用いられる。インペラ2のハブ4にはモータ軸5の一端も一体に成形されている。ロータヨーク3の内周面には、リング状のマグネット6が固着されている。マグネット6は、周方向にN極とS極とで交互に着磁されている。モータ軸5は後述する軸受ハウジング7に挿入された軸受部18によってラジアル方向及びスラスト方向に支持されている。
【0012】
固定子8は、固定子コア9が金属円筒状の軸受ハウジング7の外周側に嵌め込まれて組み付けられる。固定子コア9はインシュレータ10に覆われており、ティース部(極歯)11にモータコイル12が巻付けられている。また、モータ駆動回路が設けられたモータ基板13も軸受ハウジング7に固定され、固定子8との組立体となり、モータケース14にねじ15により固定される。また、スラストカバー16は軸受ハウジング7にねじ17により固定されている。軸受ハウジング7は、内周側にモータ軸5をラジアル方向で支持する軸受部(例えば焼結含油軸受、ボールベアリングなど)18が組み付けられ外周側に固定子コア9が組み付けられている。
【0013】
図1において、ロータ1のマグネット6の磁極中心と固定子コア9のティース部11の中心はシフトして組み付けられ、モータ軸5は常時軸端部5aがスラスト受け部20に接する向きに軸方向に吸引されている。ロータ1が回転するとインペラ2が回転し、外気が軸方向にインペラ2に向かって吸引されモータケース14内を周回して送風口22より排出されるようになっている。
【0014】
図2において、金属製のスラストカバー16はプレス加工により凹面部19が形成されている。この凹面部19の底部19aにはスラスト受け部20が嵌め込まれ、モータ軸5の軸端部5aをスラスト方向に支持している。スラスト受け部20には、例えばポリエーテルエーテルケトン材などの耐摩耗性を有する低摩擦樹脂材が好適に用いられる。スラスト受け部20は、凹面部底部19aに載置され、モータ軸5のR面に形成された軸端部5aが点接触している。尚、モータ軸5の軸端部5a近傍には、抜け止めワッシャ23、ワッシャ24、調整ワッシャ25が重ね合わせて嵌め込まれており、モータ軸5をスラスト方向に抜け止めしている。
【0015】
スラストカバー16の凹面部19にはスラスト受け部20のモータ軸接点Pを通過する延長線Mと交差する凹面部底部19aに空隙を形成する凹部21が形成されている。凹面部底部19aに設けられた凹部21の内径φ1は、モータ軸5の外径φ2より小さくなるように設計されている(φ1<φ2)。本実施例では、凹部21の内径φ1=2.5mm、モータ軸5の外径φ2=4mm、凹部21の深さL=0.15±0.05mm程度に形成されている。
【0016】
上記構成によれば、図2において、振動や衝撃負荷により一時的にロータ1(図1参照)が浮き上がり、吸引により戻って軸端部5aがスラスト受け部20に衝突するが、軸端部5a中央部の面圧の高い点衝突による衝撃をスラスト受け部20が直下の凹部21に向けてわずかな撓みをともなって受け、凹部21の開口縁部21aを通じてスラストカバー16の凹面部19へ拡散させるので、衝撃音の発生を抑制できる。
また、スラストカバー16の凹面部底部19aに設けられた凹部21の内径φ1は、モータ軸5の外径φ2より小さいので、凹部21の加工に精度は不要でありしかも加工が容易であり、安価に低コストで量産に適している。
また、アウターロータ型のブラシレスモータにおいては、ロータ1は固定子コア9との磁気吸引力のみで軸方向に位置決めされているため、車載用など厳しい使用環境におかれても衝撃などによってロータが軸方向に浮き上がり、吸引により戻って軸端が衝突する際の衝撃音の発生を抑制でき、商品価値を高めることができる。
【0017】
また、上記実施例は、DCブラシレスモータを用いて説明したが、ブラシ付モータやACモータなど、他のアウターロータ型モータに用いることも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】アウターロータ型ブラシレスモータの断面説明図である。
【図2】図1のA部(モータ軸を支持するスラスト受け部近傍)の拡大断面図である。
【図3】従来のモータ軸を支持するスラスト受け部近傍の拡大断面図である。
【符号の説明】
【0019】
1 ロータ
2 インペラ
3 ロータヨーク
4 ハブ
5 モータ軸
5a 軸端部
6 マグネット
7 軸受ハウジング
8 固定子
9 固定子コア
10 インシュレータ
11 ティース部
12 モータコイル
13 モータ基板
14 モータケース
15、17 ねじ
16 スラストカバー
18 軸受部
19 凹面部
19a 凹面部底部
20 スラスト受け部
21 凹部
21a 開口縁部
22 送風口
23 抜け止めワッシャ
24 ワッシャ
25 調整ワッシャ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロータを支持するモータ軸を軸受部によりラジアル方向に支持すると共に軸端部をスラスト方向に受けるスラスト受け部を備えたブラシレスモータであって、
前記モータ軸を受けるスラスト受け部と該スラスト受け部を収容する凹面部が形成されたスラストカバーを備え、該スラストカバーの凹面部であって前記スラスト受け部のモータ軸接点との延長線と交差する凹面部底部に空隙を形成する凹部が設けられているブラシレスモータ。
【請求項2】
前記スラストカバーの凹面部底部に設けられた凹部の内径は、モータ軸の外径より小さい請求項1記載のブラシレスモータ。
【請求項3】
前記ロータを支持するモータ軸が固定子側のハウジングに挿入された軸受部によってラジアル方向及びスラスト方向に支持されるアウターロータ型モータである請求項1又は2記載のブラシレスモータ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−118639(P2009−118639A)
【公開日】平成21年5月28日(2009.5.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−288777(P2007−288777)
【出願日】平成19年11月6日(2007.11.6)
【出願人】(000106944)シナノケンシ株式会社 (316)
【Fターム(参考)】