説明

ブリーザ装置

【課題】簡単な構成により、任意の位置に配置できるブリーザ装置を提供する。
【解決手段】板金製のケース体22をブラケット45を介してミッションケース2(トランスファケース11)に固定してブリーザ室23を形成する。この場合において、オイルを飛沫させる変速機構部7等の可動機構からオフセットした位置でトランスファケース11(ミッションケース2)の上壁部11aに連通口25を開口し、少なくとも可動機構に対向する位置で連通口25の外周部の一部を縦板部41で囲繞するとともに、連通口25に底板部42が対向するようケース体22を配置する。さらに、シール材50をケース体22の縦板部41に沿ってトランスファケース11との間に介装し、このシール材50を弾性変形させることによって縦板部41の上縁部とトランスファケース11の上壁部11aとの間を液密にシールする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、変速機に設けられるブリーザ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、自動車等の車両に用いられる変速機では、内部温度の上昇に伴って内圧が上昇した場合等に、上昇した内圧によって各部のシール破損等が発生することを防止するため、ミッションケースの内部と外部とをエア連通させるためのブリーザ装置が設けられている。この種のブリーザ装置において、一般に、ミッションケースの内部と外部とを連通するブリーザ管は、ブリーザ室を介してミッションケース内に連通されている。そして、ミッションケース内の飛沫オイルがブリーザ室に形成されたラビリンス構造等によって滴下されることにより、ブリーザ管内へのオイルの進入が防止されている。
【0003】
このようなブリーザ室はミッションケース等に一体的に形成されることが一般的であり、例えば、特許文献1には、変速機ケース(ミッションケース)にポンプボデーとポンプカバーとを固定するとともに、ポンプボデーとポンプカバーとで形成されたオイルポンプ収容室内にオイルポンプを収容し、ポンプボデーとポンプカバーの合わせ面でかつポンプボデーのオイルポンプ収容室の外周に、変速機ケース内部と連通するブリーザ通路(ブリーザ室)を形成し、ブリーザ通路から外部へ通じるブリーザ穴を設けた技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平9−273621号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述の特許文献1に開示された技術のようにミッションケース等にブリーザ室を一体形成する場合、ブリーザ装置の取付位置が、ミッションケースの形状等によって大きく制限されてしまう虞がある。
【0006】
また、上述の特許文献1に開示された技術のように、オイルポンプに隣接してブリーザ室を形成する場合、飛沫オイルのみならずオイルポンプからのリークオイル等に対しても対策を講じる必要があり、構造の複雑化等を招く虞がある。
【0007】
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、簡単な構成により、任意の位置に配置することができるブリーザ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様によるブリーザ装置は、オイルを飛沫させる可動機構からオフセットした位置でミッションケースの上壁部に開口され当該ミッションケースの内部を外部と連通する連通口と、前記ミッションケース内において少なくとも前記可動機構に対向する位置で前記連通口の外周部の一部を囲繞する縦板部と、前記連通口に対向する底板部とが一体形成され、前記ミッションケースの前記上壁部との間にブリーザ室を形成する板金製のケース体と、前記縦板部を前記ミッションケースに固定するブラケットと、前記ケース体の前記縦板部に沿って前記ミッションケースとの間に介装され、弾性変形によって前記縦板部の上縁部と前記ミッションケースの上壁部との間を液密にシールするシール材と、を備えている。
【発明の効果】
【0009】
本発明のブリーザ装置によれば、簡単な構成により、任意の位置に配置することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】手動変速機の要部断面図
【図2】図1のII−II線に沿って切断したミッションケースとともにブリーザ装置を示す斜視図
【図3】ブリーザ室を構成するケース体及びシール材を示す分解斜視図
【図4】ブリーザ装置の要部を示す拡大断面図
【図5】ブリーザ装置の動作説明図
【図6】ブリーザ室を構成するケース体及びシール材の変形例を示す分解斜視図
【図7】ブリーザ室を構成するケース体及びシール材の変形例を示す分解斜視図
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照して本発明の形態を説明する。図面は本発明の一実施形態に係わり、図1は手動変速機の要部断面図、図2は図1のII−II線に沿って切断したミッションケースとともにブリーザ装置を示す斜視図、図3はブリーザ室を構成するケース体及びシール材を示す分解斜視図、図4はブリーザ装置の要部を示す拡大断面図、図5はブリーザ装置の動作説明図、図6はブリーザ室を構成するケース体及びシール材の変形例を示す分解斜視図、図7はブリーザ室を構成するケース体及びシール材の変形例を示す分解斜視図である。
【0012】
図1に示す変速機1は、例えば、自動車等の車両に搭載される所謂縦置き配置型の手動変速機である。この変速機1は、ミッションケース2の内部に、クラッチ(図示せず)と、メインシャフト5と、ドリブンシャフト6と、可動機構としての変速機構部7と、AWDトランスファ8と、前輪側終減速装置(図示せず)とを備えて構成されている。
【0013】
ミッションケース2は、例えば、メインケース10と、トランスファケース11と、エクステンションケース12とを備えて構成されている。
【0014】
メインケース10は、ミッションケース2の前半部を構成し、主として、クラッチから変速機構部7の前部7aまでを収容する。トランスファケース11は、メインケース10の後部に連設され、主として、変速機構部7の後部7b及びAWDトランスファ8を収容する。また、エクステンションケース12は、トランスファケース11の後端部に設けられ、AWDトランスファが収容されるハウジングを閉塞する。
【0015】
このように構成された変速機1において、例えば、トランスファケース11には、ミッションケース2の内部と外部とをエア連通させるためのブリーザ装置20が設けられている。
【0016】
ブリーザ装置20は、例えば、ミッションケース2の内部と外部を貫通するブリーザ管21と、ミッションケース2内にブリーザ室23を形成するケース体22とを有して構成されている。
【0017】
例えば、図1,2,4に示すように、ブリーザ管21は、ミッションケース2を構成するトランスファケース11の上壁部11aに設けられている。
【0018】
具体的に説明すると、トランスファケース11の上壁部11aは、車幅方向に緩やかに湾曲する略アーチ状をなし、この上壁部11aの一側(例えば、縦置き配置されたトランスファケース11の上壁部11aの右側)には段部15が凹設されている。さらに、段部15には、トランスファケース11の内部と外部とを連通するネジ孔16が穿設されている。
【0019】
ブリーザ管21は、中空の略円筒部材で構成されている。このブリーザ管21の基端側及び先端側の外周には、それぞれ雄ネジ部30,31が刻設され、さらに、基端側の雄ネジ部30に連設する外向フランジ32が設けられている。また、ブリーザ管21の内周には、内向フランジ33が設けられている。
【0020】
このブリーザ管21は、外向フランジ32が段部15に当接する位置まで、雄ネジ部30がネジ孔16に螺入されることによってトランスファケース11に取り付けられている。そして、この螺入によってトランスファケース11内に臨まされたブリーザ管21の基端部が、トランスファケース11(ミッションケース2)の内部と外部とを連通する連通口25として機能する。
【0021】
一方、ブリーザ管21の先端部には、キャップ35が冠設されている。このキャップ35の内周面には雌ネジ部36が刻設され、この雌ネジ部36がブリーザ管21の先端側の雄ネジ部31に螺合することにより、キャップ35は、ブリーザ管21に保持されている。ここで、図4に示すように、雄ネジ部31の一部には溝部31aが刻設されている。そして、この溝部31aが刻設されることによって、キャップ35が冠設された場合にも、ブリーザ管21の先端側の内部がキャップ35の外部と連通されている。
【0022】
また、ブリーザ管21内には、当該ブリーザ管21を開閉するための弁体38が収容されている。この弁体38は、ブリーザ管21内に先端側から挿入され、内向フランジ33と接離可能に当接されている。また、弁体38とキャップ35との間にはスプリング39が介装され、このスプリング39によって、弁体38は、内向フランジ33と当接する閉弁方向に付勢されている。
【0023】
ケース体22は、トランスファケース11内において、少なくとも可動機構(例えば、変速機構部7の後部7b)に対向する位置で連通口25(ブリーザ管21の基端部)の外周部の一部を囲繞する縦板部41と、連通口に対向する底板部42と、が一体形成された板金製の部材で構成されている。
【0024】
具体的に説明すると、例えば、図3に示すように、本実施形態において、底板部42は平面視略矩形形状をなす平板部材で構成され、縦板部41は、この底板部42の3辺に沿って立設されている。これにより、ケース体22は、上面及び1の側面が開口する扁平な略箱形のケースで構成されている。また、縦板部41が形成されていない底板部42の1辺からは、ケース体22の側部開口部22aを流通するエアを制限するための邪魔板部43が、縦板部41の各端部から所定間隔離間した状態で立設されている。
【0025】
このケース体22は、例えば、図4に示すように、トランスファケース11に形成された縦壁部11bに邪魔板部43が対向し、且つ、ブリーザ管21の基端部(連通口25)に底板部42が対向した状態で、変速機構部7の後部7bから側方にオフセットした位置に配設されることにより(図2参照)、トランスファケース11内にブリーザ室23を形成する。
【0026】
このケース体22をトランスファケース11内に保持するため、例えば、図2乃至図4に示すように、ケース体22の底板部42の底面には、断面略L字形状をなすブラケット45が固設されている。このブラケット45の先端部には、例えば、ボルト挿通孔45aが穿設され、このボルト挿通孔45aに挿通されたボルト46を介して、ケース体22は、トランスファケース11の縦壁部11bに締結固定されている。
【0027】
また、ケース体22の縦板部41の上縁部とトランスファケース11の上壁部11aとの間を液密にシールするため、ケース体22とトランスファケース11との間には、シール材50が介装されている。例えば、図3に示すように、このシール材50は、縦板部41の上縁部に沿った略U字形状をなす樹脂部材で構成されている。そして、シール材50は、ケース体22がブラケット45を介してトランスファケース11に取り付けられる際に、ケース体22の縦板部41に押圧されてトランスファケース11の上壁部11aとの間で弾性変形することにより、シール機能を発揮する。
【0028】
このような構成において、ミッションケース2の内圧が所定以上に昇圧されると、ブリーザ管21内に収容された弁体38は、スプリング39の付勢力に抗して先端側に押し上げられ、ブリーザ管21を開弁する(図5参照)。これにより、ミッションケース2内のエアがケース体22の側部開口部22aを介してブリーザ室23内に流入される。その流入過程において、エアがケース体22の縦板部41及び底板部42に沿って側部開口部22aに導かれることにより、エア中に含まれるオイル成分の大部分は縦板部41及び底板部42において液滴される。さらに、エア中に残留した僅かなオイル成分も、側部開口部22aからブリーザ室23内に流入する際に邪魔板部43に衝突することにより液滴される。これにより、ブリーザ室23内には気液分離された清浄なエアが導入され、当該エアはブリーザ管21を介して外部に放出される。
【0029】
このような実施形態によれば、板金製のケース体22をブラケット45を介してミッションケース2(トランスファケース11)に固定してブリーザ室23を形成することにより、簡単な構成により、ミッションケース2内の任意の位置にブリーザ室23を配置することができる。この場合において、オイルを飛沫させる変速機構部7等の可動機構からオフセットした位置でトランスファケース11(ミッションケース2)の上壁部11aに連通口25を開口し、少なくとも可動機構に対向する位置で連通口25の外周部の一部を縦板部41で囲繞するとともに、連通口25に底板部42が対向するようケース体22を配置することにより、ブリーザ室23によって飛沫オイル等が連通口25内に進入することを好適に防止することができる。さらに、シール材50をケース体22の縦板部41に沿ってトランスファケース11との間に介装し、このシール材50を弾性変形させることによって縦板部41の上縁部とトランスファケース11の上壁部11aとの間を液密にシールすることにより、トランスファケース11の上壁部11aにケース体22の縦板部41との接合面を加工する等の複雑な工程を要することなく、ブリーザ室23を形成することができる。
【0030】
また、ケース体22において縦板部41が形成されていない側部領域(側部開口部22a)に邪魔板部43を設けることにより、可動機構側から回り込んだ飛沫オイル等がブリーザ室23内に進入することを好適に防止することができる。この場合、特に、トランスファケース11の縦壁部11bに邪魔板部43(側部開口部22a)が対向するようにケース体22を配置すれば、これら邪魔板部43と縦壁部11bとによってブリーザ室23に対するラビリンス構造を容易に形成することができる。
【0031】
ここで、上述の実施形態においては、ケース体22を固定するためのブラケット45を別体によって構成した一例について説明したが、例えば、図6に示すように、邪魔板部43にブラケット45を一体形成することも可能である。このように構成すれば、部品点数を削減した簡単な構成により、ミッションケース2内にブリーザ室23を形成することができる。この場合において、縦板部41ではなく邪魔板部43にブラケット45を一体形成することにより、縦板部41に対するシール材50の機能を損なわせることなく、ケース体22にブラケット45を一体形成することができる。
【0032】
また、例えば、ミッションケース2内において、2面に縦壁部11b等を有するコーナ部にブリーザ室を形成する場合、図7に示すように、底板部42の2辺にのみ縦板部41を設け、他の2辺には邪魔板部43を設けることも可能である。この場合、図示のように、シール材50を縦板部41に倣って略L字形状に形成してもよいことは勿論である。
【0033】
なお、本発明は、以上説明した実施形態や変形例等に限定されることなく、種々の変形や変更が可能であり、それらも本発明の技術的範囲内である。
【符号の説明】
【0034】
1 … 変速機
2 … ミッションケース
5 … メインシャフト
6 … ドリブンシャフト
7 … 変速機構部(可動機構)
7a … 前部
7b … 後部
8 … トランスファ
10 … メインケース
11 … トランスファケース
11a … 上壁部
11b … 縦壁部
12 … エクステンションケース
15 … 段部
16 … ネジ孔
20 … ブリーザ装置
21 … ブリーザ管
22 … ケース体
22a … 側部開口部
23 … ブリーザ室
25 … 連通口
30 … 雄ネジ部
31 … 雄ネジ部
31a … 溝部
32 … 外向フランジ
33 … 内向フランジ
35 … キャップ
36 … 雌ネジ部
38 … 弁体
39 … スプリング
41 … 縦板部
42 … 底板部
43 … 邪魔板部
45 … ブラケット
45a … ボルト挿通孔
46 … ボルト
50 … シール材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
オイルを飛沫させる可動機構からオフセットした位置でミッションケースの上壁部に開口され当該ミッションケースの内部を外部と連通する連通口と、
前記ミッションケース内において少なくとも前記可動機構に対向する位置で前記連通口の外周部の一部を囲繞する縦板部と、前記連通口に対向する底板部とが一体形成され、前記ミッションケースの前記上壁部との間にブリーザ室を形成する板金製のケース体と、
前記縦板部を前記ミッションケースに固定するブラケットと、
前記ケース体の前記縦板部に沿って前記ミッションケースとの間に介装され、弾性変形によって前記縦板部の上縁部と前記ミッションケースの上壁部との間を液密にシールするシール材と、を備えたことを特徴とするブリーザ装置。
【請求項2】
前記ケース体は、前記縦板部が形成されていない前記ブリーザ室の開口部に立設する邪魔板部を有することを特徴とする請求項1記載のブリーザ装置。
【請求項3】
前記邪魔板部は、前記ブラケットを兼用することを特徴とする請求項2記載のブリーザ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−113386(P2013−113386A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−260688(P2011−260688)
【出願日】平成23年11月29日(2011.11.29)
【出願人】(000005348)富士重工業株式会社 (3,010)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】