説明

ブレーキディスクローター

【課題】摺動板の溝と冷却孔を連続して設けることで、制動によるガスや磨耗粉を速やかに排出するとともに、通風性を向上して総放熱量を増やしながら熱疲労に伴う亀裂の発生を防止する。
【解決手段】摺動板上12に、複数に分割された略同心円状の溝3をその摺動面の厚み方向に複数組設け、この溝の半径方向外方の端部近傍に当該摺動板12の鉛直方向に対して当該摺動板12の回転方向に対して遅れる方向の角度を有するように貫通孔を形成し、当該両摺動板12の摺動面と当該貫通孔とが交差する楕円状の交線に対して傾斜面6を設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両その他で使用されるディスクブレーキ装置のブレーキディスクローターに関する。
【背景技術】
【0002】
従来のブレーキディスクローターは図7および図8に示すように車軸方向に離間して配設された円板状の内側用摺動板11、外側用摺動板12間に放射状の複数の隔壁2を形成し、各隔壁間に入口開口31、出口開口32および放射状の通路4を形成するものである。
【0003】
また、制動によって発生する熱を効率的に放出するため、特許文献1示すように円盤板状摺動板に複数の貫通孔を開けることによって、放熱面積を増やして冷却性を向上させることが公知である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−014199号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記従来のブレーキディスクローターは、円板状摺動板に複数の貫通孔を開けることによって放熱面積を増やすことで冷却促進効果をねらっているもののその効果は十分なものではなく、なおかつ制動による発熱と走行による冷却を繰り返す熱疲労入力によって、円盤状摺動板の円周方向に膨張、収縮が繰り返されるため、前記摺動板に開けられた孔の周りに前記摺動板の半径方向に向かって亀裂が発生し、制動部材としての機能が阻害されたり、寿命が低下したりするという問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のブレーキディスクローターは、これらの問題を鑑みてなされたもので、請求項1に記載の本発明は、車軸方向に離間して配設された円板状摺動板と、両摺動板間に配設された隔壁からなり、この隔壁が当該摺動板の円周上に複数形成されることで半径方向内方から外方に向かって開口する複数の入口開口および出口開口が形成されてなり、前記両摺動板は複数に分割された略同心円状の溝をその摺動面の厚み方向に複数組有しており、この溝の半径方向外方の端部近傍に前記両摺動板の鉛直方向に対して前記摺動板の回転方向に対して遅れる方向の角度を有するように貫通孔が形成されてなり、その貫通孔は前記両摺動板の摺動面と当該貫通孔とが交差する楕円状の交線に対して漏斗状の傾斜面を有するように構成されているものである。
【発明の効果】
【0007】
上記構成によりなる本発明のブレーキディスクローターは、複数に分割された略同心円状の溝を前記両摺動板の摺動面の厚み方向に複数組有しており、この溝の半径方向外方の端部近傍に前記両摺動板の鉛直方向に対して前記摺動板の回転方向に対して遅れる方向の角度を有するように貫通孔が形成されているで、前記両摺動板に摺接する熱硬化性樹脂などが含有されている内側用、外側用の各摩擦材から制動に伴う摩擦熱よって発生したガスが前記溝を通り、さらに当該溝の半径方向外方の端部近傍に前記両摺動板の鉛直方向に対して前記摺動板の回転方向に対して遅れる方向の角度を有するように開けられた貫通孔を通って、前記入口開口から出口開口に向かって流れる流体の流れに合流することで速やかにガスを排出できるので、前記両摺動板と摩擦材間にガスが介在するために安定した摩擦特性が得られにくいという問題を解消することができるという効果を奏する。
【0008】
また、前記両摺動板が含有している黒鉛などの成分や汚れが摩擦材に移着することで摩擦係数が低下する現象を、前記摺動板の制動回転中に当該溝が移着成分を薄膜状にわずかに削り取ることで防止することができ、なおかつ前記貫通孔からこの除去粉を速やかに排出することで除去粉が溝に堆積することを防止できるという効果を奏する。
【0009】
さらに、当該孔が前記溝の半径方向外方の端部近傍に前記両摺動板の鉛直方向に対して前記摺動板の回転方向に対して遅れる方向の角度を有するように形成されているので、当該孔の中の流体がこの角度成分により前記摺動板から受ける回転力と遠心力で移動し次々と新たな流体が流入する連続した流れが生まれることで、制動によって発生した熱を効率的に熱交換し易くなり、前記摺動板に鉛直に貫通孔を開けた従来のような構造に比べて飛躍的にブレーキディスクローターの冷却性が向上するという効果を奏する。
【0010】
また、このブレーキディスクローターの正面図において、前記貫通孔の長手方向中心線の投影線がブレーキディスクローターの中心から引いた線に対して、角度を持つように形成されている。制動による発熱と走行による冷却に伴う摺動板の膨張、収縮が発生する摺動板の円周方向の熱疲労入力に対して、従来例の場合は冷却孔のある摺動板の半径方向断面が最弱部となり冷却孔周辺に摺動板の半径方向に亀裂が入り易いのにくらべ、本発明はこの設定した角度分だけ有効断面がずれるので有効断面積が大きくなり熱疲労による亀裂が発生し難いという効果を奏する。
【0011】
さらに、本発明における前記複数の貫通孔が、前記両摺動板の摺動面と当該貫通孔とが交差することで現れる楕円状の交線に対して傾斜面を有するように構成されているので、制動によって発生した熱が当該貫通穴の縁周辺に集中して部分的に高温になる、いわゆるヒートスポットになることを防止出来るとともに、前記溝を通過するガスや磨耗粉が当該傾斜面に沿って流れることで、より一層速やかな排出が行われるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の実施例を示すブレーキディスクローターの正面図
【図2】図1におけるB部の部分拡大図
【図3】図2におけるC−C線に沿う断面図
【図4】図2におけるD−D線に沿う断面図
【図5】実施例のブレーキディスクローターが車両に搭載された状態を示す一部を省略した斜視図
【図6】実施例のブレーキディスクローターが車両に搭載された状態を示す断面図
【図7】従来のブレーキディスクローターを示す正面図
【図8】図7におけるA−A線に沿う断面図
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態を図1乃至図8に基づいて説明する。
【実施例】
【0014】
図5に本発明を適用した自動車をリフトアップした状態で下から見たものを示す。各ディスクホィールDWの内側に配設したダストシールドDSの空気取入口ILより吸入した空気をローターのベンチホールVHに導入することで制動により発生した摩擦熱を冷却するもので図1乃至図8を用いて詳細に説明する。
【0015】
実施例のブレーキディスクローターは図7および図8の従来例と同様の部材構成で成立している。即ち、ブレーキディスクローター1の車両外側の摺動板12は、図8の従来例と同様に車両内側の摺動板11とともに段部13を介して締付け用の穴を有する取付け部14と一体に形成されている。フィン2は、従来例が厚さ4から6mmで車両内側用摺動板11および外側摺動板12の間に半径110mmから半径160mmの範囲に放射状に一体形成されている。
【0016】
そして、ブレーキディスクローター1は、図6の車軸ASの軸方向に離間して配設された円板状の内側および外側の各摺動板11および12と、摺動板11および12の間に摺動板の半径方向に放射状に配設された隔壁を構成する複数のフィン2と、摺動板11および12の間において半径方向内方および外方に開口した複数の開口31および32と、摺動板11および12と隣合うフィン2とによって形成される通路を構成する複数のベンチホール4と、各摺動板11および12に形成された溝3、冷却孔5および傾斜面6とから成る。
【0017】
図1に本発明の正面図を示す。断面図は図8と溝、冷却穴および傾斜面以外の構成が同じであるので省略している。ブレーキディスクローター1の摺動板12の摺動面上には3つに分割された溝3が8組形成されている。溝3の半径方向外方の端部には冷却孔5が各々貫通孔として穿孔されている。ブレーキディスクローター1の中心から摺動板12の摺動面上にある冷却孔5の孔中心に向かって引いた線に対して冷却孔5の孔中心の長手方向中心線の当該正面図への投影線は角度θ1だけ傾いており、さらに図3に示すようにこの冷却孔は、摺動板12の面に対して角度θ2だけ傾いて形成されている。摺動板11に関しても摺動板12と同様な構成である。
【0018】
θ1は0度を越えて90度までの範囲で設定可能であるが、本発明の効果をより有効に発揮させるためには20度から70度の範囲が好ましく、実施例では図1の溝3の中心線の接線方向を向けてある。また、θ2は0度を越えて60度程度の範囲で設定可能であるが、本発明の効果をより有効に発揮させ、なおかつ工作面からの加工性を考慮すると10度から50度の範囲が好ましく実施例では20度に設定してある。冷却孔5の直径は、本発明の効果をより有効に発揮し、なおかつ工作面からの加工性を考慮すると4mmから7mmが好ましい。
【0019】
図1においてブレーキディスクローター1が矢印方向に回転した時に、フィン2の作用により図3に示すように入口開口31から出口開口32の方向に流体の流れFCが発生する。この時に冷却孔5の内部に存在する流体は角度θ2の作用により二点鎖線の矢印のように移動するので、摺動板11および12の摩擦材との摺接面側の流体の流れFSからその一部が分離し補填されてFCへ合流する。これによりθ2が0度の従来例の時にはなかった流体の流れが発生し、制動によって摩擦材から発生したガスや磨耗粉が速やかに排出されるとともに、効率的な熱交換作用が得られるので制動によって発生したブレーキディスクローター1の熱を効果的に放出することが可能となる。
【0020】
また、摺動板11、12の円周方向には制動に伴う発熱よる摺動板の膨張、走行に伴う冷却よる摺動板の収縮が図7の7に示すように摺動板の円周方向に対して繰り返し作用するが、従来例が摺動板上に鉛直に冷却孔5が開いているので、冷却孔5が設けられている摺動板の半径方向の該部断面が熱疲労入力に対して最弱部になり半径方向に亀裂8が発生し易いのに対して、本実施例の場合は角度θ1を設けているので、有効断面がθ1だけずれてくることで有効断面積が大きくなり、冷却孔5の熱疲労入力に対する感受性を大幅に下げることが出来るので、熱応力が集中せず亀裂が発生し難い。
【0021】
さらに、本発明では冷却孔5と両摺動板11および12の摩擦材との摺接面とが交差することで現れる楕円状の交線の部分に傾斜面6を有するので、制動により発生した熱が当該部分に集中する、いわゆるヒートスポットになることを防止することが出来るとともに、溝3を通過するガスや磨耗粉が当該傾斜面6に沿って流れることで、より一層速やかな排出が行われる。
【0022】
上述の実施例は、説明のため例示したもので、前記の車両内側と外側の複数の摺動板を具備したブレーキディスクローターに限定されるものではなく、1枚の摺動板に対しても有効である。また、本発明としてはそれらに限定されるものではなく、特許請求の範囲の記載から当業者が認識できる本発明の技術思想に反しない限り変更および付加が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0023】
本発明は、ブレーキディスクローターに限定されるものではなく、回転する円盤を有する産業用機器にも適用できる。
【符号の説明】
【0024】
1 ブレーキディスクローター
2 フィン
3 溝
4 ベンチホール
5 冷却穴
6 傾斜面
7 熱膨張、収縮の方向
8 熱亀裂
11 内側摺動板
12 外側摺動板
13 段部
14 取付部
31 入口開口
32 出口開口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車軸方向に離間して配設された円板状摺動板と、両摺動板間に配設された隔壁からなり、この隔壁が当該摺動板間に複数形成されることで半径方向内方から外方に向かって開口する複数の入口開口および出口開口が形成されてなるブレーキディスクローターであって、前記両摺動板は、複数に分割された略同心円状の溝をその摺動面の厚み方向に複数組有しており、この溝の半径方向外方の端部近傍に前記両摺動板の鉛直方向に対して前記摺動板の回転方向に対して遅れる方向の角度を有するように貫通孔が形成されてなり、その貫通孔は前記両摺動板の摺動面と当該貫通孔とが交差する楕円状の交線に対して漏斗状の傾斜面を設けたことを特徴とするブレーキディスクローター。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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