説明

ブレーキディスク

【課題】ブレーキパッドをクリーニングするという機能を損なうことなく、耐久性を向上できるようにした軽量な花弁状の外周形状を有するブレーキディスクを提供する。
【解決手段】径方向の凹凸3a、3bが周方向に連続する花弁状の外周形状を有するブレーキディスクBDにおいて、前記凹凸の外周のうち凹部3bに対応するブレーキディスクの周方向部分1bに凹孔5、5を形成し、残りの周方向部分1aに軸方向の貫通孔4を開設する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動二輪車等のディスクブレーキ装置に用いられるブレーキディスクに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種のブレーキディスクとして、軽量化及び放熱性向上のために、外周形状を径方向の凹凸が周方向に連続する花弁状に形成したものは例えば特許文献1で知られている。このものではまた、一層の軽量化等のために、ブレーキディスク(アウターロータ部)にその周方向全周に亘って軸方向の貫通孔(抜き孔)が所定間隔で複数開設されている。ここで、このような貫通孔は、ブレーキパッドでブレーキディスク(アウターロータ部)を挟むことで制動力を車軸に伝達させる際(ブレーキ操作)に、各貫通孔の周縁部でブレーキパッドをクリーニングし、常時良好なブレーキ性能が得られるようにする役割も持つ。
【0003】
然し、上記従来例のものでは、ブレーキ操作を繰り返したときに、大きな温度むらが生じ易く、耐久性に劣るという問題がある。つまり、上記従来例のものは、前記凹凸の外周のうち凸部と凹部とでは、ブレーキディスクの内周縁部までの距離に差があり、この凹部に対応するブレーキディスクの周方向部分のヒートマスは、凸部に対応するブレーキディスクの周方向部分と比較して低く、その上、この凹部に対応するブレーキディスクの周方向部分にまで貫通孔が形成されていると、一層ヒートマスが低くなる。その結果、ブレーキ操作を繰り返したときに、大きな温度むらが生じ易い。
【0004】
このような場合、ブレーキディスクの板厚を増加させて耐久性を向上することが考えられるが、これでは、重量の増加を招来する。他方で、この凹部に対応するブレーキディスクの周方向部分に貫通孔を形成せずに、ヒートマスの低下を抑制することも考えられるが、これでは、ブレーキパッドのクリーニング効果の低下を招来する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−232441号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、以上の点に鑑み、ブレーキパッドをクリーニングするという機能を損なうことなく、耐久性を向上できるようにした軽量な花弁状の外周形状を有するブレーキディスクを提供することをその課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明は、径方向の凹凸が周方向に連続する花弁状の外周形状を有するブレーキディスクにおいて、前記凹凸の外周のうち凹部に対応するブレーキディスクの周方向部分に凹孔を形成し、残りの周方向部分に軸方向の貫通孔を開設したことを特徴とする。
【0008】
本発明によれば、前記凹凸の外周のうち凹部に対応するブレーキディスクの周方向部分に凹孔を形成すると共に、残りの周方向部分、例えば、その凸部に対応するブレーキディスクの周方向部分に貫通孔を形成したため、凹部に対応するブレーキディスクの周方向部分ではヒートマスの低下が抑制される一方で、凸部に対応するブレーキディスクの周方向部分ではヒートマスが低下することで、ブレーキ操作時に、ブレーキディスクの周方向における温度差を小さくすることができ(即ち、大きな温度むらの発生が抑制され)、耐久性が向上する。従って、ブレーキディスクの板厚を増加する必要はなく、ブレーキディスクの軽量化を図ることができ、耐ジャダ―性も良好にできる。この場合、凹孔の容積、深さや径等または貫通孔の径、位置との関係により、径方向の凸部と凹部との周方向のヒートマスを揃えるように調整することができ、大きな温度むらの発生が抑制され、操作性も向上させることができる。その上、凹孔を形成することで、各凹孔の内周縁部でブレーキパッドがクリーニングされるため、常時良好なブレーキ性能が得られる。なお、本発明において、凹孔とは、軸方向に貫通しない窪み状の孔をいう。
【0009】
本発明において、前記凹孔をブレーキディスクの表裏に形成している場合、両凹孔は同一の孔軸を有することが好ましい。これによれば、ブレーキ操作時の耐ジャダ―性を良好にできる。他方で、両凹孔の孔軸を周方向に互いにずらすようにしてもよい。これによれば、ブレーキディスクの軸方向で極端に板厚が薄くなる箇所をなくすことができ、ブレーキディスクの周方向における温度差を一層小さくすることができ、また、熱歪もより少なくすることができ、有利である。
【0010】
また、本発明においては、前記凹孔の底部を曲面形状としておくことが好ましい。これによれば、この底部近傍での応力を分散させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の実施形態のブレーキディスクを示す正面図。
【図2】図1のII−II線に沿った拡大断面図。
【図3】変形例に係るブレーキディスクの一部を拡大して示す正面図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照して自動二輪車に装着される本発明の実施形態のブレーキディスクBDを説明する。図1及び図2に示すように、ブレーキディスクBDは、ステンレス(SUS410)等の金属板から打ち抜き成形されるものであり、外周の環状板部1と、この環状板部1の内周部分に所定間隔を存して、径方向内方に突設した3個の突出部2とを備える。突出部2には、2個の軽量孔21が形成されていると共に、その径方向先端部には取付孔22が穿孔されている。この取付孔22を介してブレーキディスクBDが、図示省略した車軸上のハブにボルト止めされる。そして、ブレーキ操作を行うと、図2に示すように、表裏一対のブレーキパッドPで環状板部1を挟持する(ブレーキ操作)ことにより、制動力が車軸に伝達される。
【0013】
環状板部1の外周形状は、軽量化及び放熱性向上のために、径方向の凸部3aと凹部3bとが周方向に連続する花弁状に形成されている。また、環状板部1には、軽量化等のため、内外複数重(図示例では2重)の同心円上に位置させて、正面視円形で同一開口径を有する軸方向の貫通孔(抜き孔)4が複数開設されている。
【0014】
ここで、上記ブレーキディスクBDでは、凹凸の外周のうち凸部3aと凹部3bとでは、環状板部1の内周縁部11までの距離に差があり、この凹部3bに対応する環状板部1の周方向部分1bのヒートマスは、凸部3aに対応する環状板部1の周方向部分1aと比較して低い。このため、周方向部分1bにまで貫通孔4を形成すると、一層ヒートマスが低くなり、ブレーキ操作を繰り返したときに、環状板部1に大きな温度むらが生じ、これでは、耐久性が損なわれる。
【0015】
そこで、本実施形態では、環状板部1の周方向部分1bの夫々に、同心円上に位置させて、正面視円形で同一径を有する、軸方向に貫通しない窪み状の孔たる凹孔5、5を形成することとした。凹孔5、5は環状板部1の表裏に夫々形成され、両凹孔5、5は同一の孔軸5aを有するようにしている。また、凹孔5、5の底部5bを夫々曲面形状に形成している。この場合、両凹孔5、5の開口径は、ヒートマスの低下を抑制するために、貫通孔4の開口径より小さく設定されている。なお、両凹孔5、5の容積、深さや径等は、凹部3bに対応する環状板部1の周方向部分1bと、凸部3aに対応する環状板部1の周方向部分1aとでそのヒートマスが近似するように適宜設定される。
【0016】
以上の実施形態によれば、環状板部1の周方向部分1bに凹孔5、5を形成すると共に、残りの周方向部分たる凸部1aに対応する環状板部1の周方向部分1aに貫通孔4を形成したため、凹部3bに対応する環状板部1の周方向部分1bではヒートマスの低下が抑制される一方で、凸部3aに対応する環状板部1の周方向部分1aではヒートマスが低下することで、ブレーキ操作時に、ブレーキディスクBDの周方向における温度差を小さくすることができ(即ち、大きな温度むらの発生が抑制され)、耐久性が向上する。従って、環状板部1の板厚を増加する必要はなく、ブレーキディスクの軽量化を図ることができ、耐ジャダ―性も良好にできる。この場合、凹孔5、5の容積、深さや径等または貫通孔4の径、位置との関係により、凸部1aと凹部1bとの周方向のヒートマスを揃えるように調整することができ、大きな温度むらの発生が抑制され、操作性も向上させることができる。その上、凹孔5、5を形成することで、各凹孔5、5の内周縁部でブレーキパッドPがクリーニングされるため、常時良好なブレーキ性能が得られる。
【0017】
また、両凹孔5、5は同一の孔軸5aを有するようにしたため、ブレーキ操作時の耐ジャダ―性を良好にできる。その上、前記凹孔5、5の底部5bを曲面形状としたため、この底部近傍での応力を分散させることができる。
【0018】
以上、本発明の実施形態について図面を参照して説明したが、本発明は上記のものに限定されるものではない。例えば、上記実施形態のブレーキディスクBDは、ブレーキパッドPで挟む部分(環状板部1)と車軸上のハブに固定する部分とが一体となった1枚板構造のものであるが、ブレーキパッドPで挟む部分と車軸上のハブに固定する部分とを別体として両者をフローティングピンで連結する2枚板構造のブレーキディスクにも同様に本発明を適用できる。
【0019】
また、上記実施施態では、両凹孔5、5は同一の孔軸5aを有するようにしたものを例に説明したが、これに限定されるものではなく、例えば、図3に示すように、両凹孔50、50の孔軸を周方向に互いにずらすようにしてもよい。これによれば、環状板部1の軸方向で極端に板厚が薄くなる箇所をなくすことができ、環状板部1の周方向における温度差を一層小さくすることができ、また、熱歪もより少なくすることができ、有利である。
【符号の説明】
【0020】
BD…ブレーキディスク、1…環状板部、1a…凸部に対応する環状板部の周方向部分、1b…凹部に対応する環状板部の周方向部分、3a…凸部、3b…凹部、5、5…凹孔、5a…孔軸、5b…底部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
径方向の凹凸が周方向に連続する花弁状の外周形状を有するブレーキディスクにおいて、
前記凹凸の外周のうち凹部に対応するブレーキディスクの周方向部分に凹孔を形成し、残りの周方向部分に軸方向の貫通孔を開設したことを特徴とするブレーキディスク。
【請求項2】
請求項1記載のブレーキディスクであって、前記凹孔をブレーキディスクの表裏に形成したものにおいて、両凹孔は同一の孔軸を有することを特徴とするブレーキディスク。
【請求項3】
請求項1記載のブレーキディスクであって、前記凹孔をブレーキディスクの表裏に形成したものにおいて、両凹孔の孔軸を周方向に互いにずらすことを特徴とするブレーキディスク。
【請求項4】
前記凹孔の底部を曲面形状としたことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のブレーキディスク。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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