説明

ブレーキ制御装置およびブレーキの制御方法

【課題】車両の走行中に車輪の滑走を検知し、滑走した車両が走行した距離を累積した累積滑走距離に基づいてブレーキ分担率を設定することにより、滑走の発生を抑制することのできるブレーキ制御装置を提供する。
【解決手段】車両群を制動させる総合ブレーキ力を演算するブレーキ力演算部8と、車両の車輪の滑走を検知する滑走検知部9と、滑走検知部9が車輪の滑走を検知した場合に、車両の滑走距離を累積して累積滑走距離を算出する滑走距離算出部10と、各車両に関して制動させる分担ブレーキ力の、総合ブレーキ力に対する割合を示すブレーキ分担率を演算するブレーキ分担率演算部11と、総合ブレーキ力とブレーキ分担率とに基づいて分担ブレーキ力を設定するブレーキ力設定部12とを有する制御装置本体1を備え、ブレーキ分担率演算部11は、累積滑走距離に基づいてブレーキ分担率を演算するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、累積滑走距離に基づいてブレーキ分担率を設定するブレーキ制御装置、および累積滑走距離に基づいてブレーキ分担率を設定して車両を制動するブレーキの制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
車両の走行中に車輪が滑走すると、車輪の接地面の一部が摩耗する車両フラット、および乗り心地の悪化等の問題が発生する。
そこで、従来のブレーキ制御装置は、車両全体としてのブレーキ力(本発明の「総合ブレーキ力」に相当する)に対する各車両のブレーキ力(本発明の「分担ブレーキ力」に相当する)の割合であるブレーキ分担率を設定してブレーキ分担率制御を行っている。
ブレーキ分担率は、収集された過去の走行データから算出される滑走頻度の累積データから、車両全体としてのブレーキ力を確保したうえで、先頭車のブレーキ力を低減し、その低減分を中間車に負担させるように設定されている。
このように、ブレーキ分担率に基づいて各車両のブレーキ力を設定することにより、滑走が低減される(例えば、非特許文献1参照)。
【0003】
【非特許文献1】上野雅之他著、「東海道新幹線車両のブレーキ粘着技術−列車編成としての粘着係数の把握と解析手法について」、JREA、社団法人 日本鉄道技術協会、2004年、VOL.47、p.35−p.40
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来のブレーキ制御装置では、ブレーキ分担率が過去の走行データから算出された滑走頻度の累積データに基づいて設定された固定値であるので、気象条件等によって常に変化するレール面状態に対して充分に滑走の発生を抑制できないという問題点があった。
【0005】
この発明は、上記のような問題点を解決することを課題とするものであって、その目的は、車両の走行中に車輪の滑走を検知し、滑走した車両が走行した距離を累積した累積滑走距離に基づいてブレーキ分担率を演算することにより、滑走の発生を抑制することのできるブレーキ制御装置を提供することである。
【0006】
また、累積滑走距離が、各車両で同一となるようにブレーキ分担率を設定することにより、滑走の発生を抑制し、安定したブレーキ力を得ることのできるブレーキの制御方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明に係るブレーキ制御装置は、複数の車両からなる車両群を制動させる総合ブレーキ力を演算するブレーキ力演算部と、車両の車輪の滑走を検知する滑走検知部と、滑走検知部が車輪の滑走を検知した場合に、車両の滑走距離を累積して累積滑走距離を算出する滑走距離算出部と、各車両に関して制動させる分担ブレーキ力の、総合ブレーキ力に対する割合を示すブレーキ分担率を演算するブレーキ分担率演算部と、総合ブレーキ力とブレーキ分担率とに基づいて分担ブレーキ力を設定するブレーキ力設定部とを有する制御装置本体を備え、ブレーキ分担率演算部は、累積滑走距離に基づいてブレーキ分担率を演算するものである。
【0008】
この発明に係るブレーキの制御方法は、複数の車両からなる車両群を制動させる総合ブレーキ力に対する各車両に関して制動させる分担ブレーキ力の割合を示すブレーキ分担率を設定して車両を制動するブレーキの制御方法であって、車両の車輪の滑走距離を累積した累積滑走距離が、各車両で同一となるようにブレーキ分担率を設定するものである。
【発明の効果】
【0009】
この発明のブレーキ制御装置によれば、車両の走行中に車輪の滑走を検知し、滑走した車両が走行した距離を累積した累積滑走距離に基づいてブレーキ分担率が演算されるので、滑走の発生を抑制することができる。
また、この発明のブレーキの制御方法によれば、累積滑走距離が、各車両で同一となるようにブレーキ分担率を設定するので、滑走の発生を抑制し、安定したブレーキ力を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、この発明の各実施の形態について図に基づいて説明するが、各図において同一、または相当する部材、部位については、同一符号を付して説明する。
【0011】
実施の形態1.
図1は、この発明の実施の形態1に係るブレーキ制御装置を周辺機器構成とともに示すブロック図である。なお、制御装置本体1は、車両群を構成する各車両に設けられている。
【0012】
図1において、制御装置本体1には、図示しない運転台に設けられたブレーキハンドル2から、図示しない各車両にわたって接続されて一方向に指令を伝達するブレーキ指令線3を介してブレーキ指令が入力される。
【0013】
また、制御装置本体1には、車両の各車軸5に取り付けられて車軸5の回転速度を検出する複数の速度センサ6と、後述するブレーキ制御信号に応じて車軸5の両端部に接続された図示しない車輪に対するブレーキ力を発生する基礎ブレーキ装置7とが接続されている。
【0014】
制御装置本体1は、車両群を制動させる総合ブレーキ力を演算するブレーキ力演算部8と、各車軸5に取り付けられた速度センサ6の出力から車輪の滑走を検知する滑走検知部9と、滑走検知部9が車輪の滑走を検知した場合に、車両の滑走距離を累積して累積滑走距離を算出する滑走距離算出部10と、累積滑走距離に基づいてブレーキ分担率を演算するブレーキ分担率演算部11と、総合ブレーキ力とブレーキ分担率とに基づいて分担ブレーキ力を設定し、基礎ブレーキ装置7にブレーキ制御信号を出力するブレーキ力設定部12とを有している。
【0015】
ブレーキ力演算部8には、車両の荷重に応じてブレーキ力を調整する応荷重信号を出力する応荷重装置4が接続されている。応荷重信号は、ブレーキ指令とともに制御装置本体1に入力される。
ここで、応荷重装置4は、車両の荷重に応じて力行主回路電流、電気ブレーキ電流および空気ブレーキ圧力などを自動的に増減させることにより、荷重の大小にかかわらず、ほぼ一定の加速度および減速度を得ることができるようにするものである。
例えば、応荷重装置4は、車両の荷重を台車のバネのたわみ量で検出し、たわみ量に応じて電気ブレーキの電流を増減させる。
【0016】
ここで、制御装置本体1は、プログラムを格納した記憶部とCPUとを有する図示しないマイクロコンピュータで構成されている。制御装置本体1を構成する各ブロックは、記憶部にソフトウェアとして記憶されている。
【0017】
以下、上記構成のブレーキ制御装置についての動作を説明する。
滑走検知部9では、速度センサ6から入力される車軸5の回転速度が監視されている。ここで、滑走検知部9は、各車軸5に取り付けられた複数の速度センサ6の出力のうち、一番の高い出力値を基準として、その出力値からの差が任意に設定される所定値を超えた場合に、回転速度が遅い側の車輪が滑走していることを検知する。
車輪の滑走が発生した場合、滑走距離算出部10では、滑走時の速度に滑走の継続時間を乗算して算出される滑走距離が累積され、各車軸5の累積滑走距離が演算される。
【0018】
図2は、車両のブレーキ分担率と滑走累積距離との関係を1両目、2両目および3両目について示す一般的な特性図である。
図2において、一般的に、ブレーキ分担率が高いほど累積滑走距離は増加する。また、レール面上にある水、雪および塵埃等の影響により、先頭車両側ほど累積滑走距離は増加する。
【0019】
そこで、ブレーキ分担率演算部11では、累積滑走距離に基づいてブレーキ分担率が演算される。累積滑走距離が長い場合は、その車両のブレーキ分担率が、例えば、運転開始時に設定されていた100%から95%に低減される。
【0020】
また、ブレーキハンドル2からは、ブレーキ指令が入力される。ブレーキ力演算部8では、車速と応荷重信号とに基づいて総合ブレーキ力が演算される。
ブレーキ力設定部12では、総合ブレーキ力とブレーキ分担率とに基づいて分担ブレーキ力が設定され、ブレーキ制御信号として基礎ブレーキ装置7に出力される。
基礎ブレーキ装置7では、ブレーキ制御信号に基づいて車輪に対するブレーキ力が発生される。
【0021】
なお、滑走距離算出部10で累積された累積滑走距離は、車両の主電源のオンあるいはオフ、一つの経路の運行終了、任意に設定される所定の時間、および速度が0になった場合等の何れかのタイミングでリセットされる。
【0022】
この発明の実施の形態1に係るブレーキ制御装置によれば、車両の走行中に車輪の滑走を検知し、滑走した車両が走行した距離を累積した累積滑走距離に基づいてブレーキ分担率が演算されるので、滑走の発生を抑制することができる。
【0023】
なお、上記実施の形態1では、制御装置本体1は各車両に設けられているとしたが、勿論このものに限定されるものではなく、ブレーキ制御装置は1つであってもよい。
そのものの場合、各車両の各車軸5に設けられた速度センサ6の値が全て1つの滑走検知部9に入力される。滑走検知部9では、各車両の各車軸5について滑走の有無が検知される。滑走距離算出部10では、各車両の各車軸5の累積滑走距離が演算される。
また、ブレーキ分担率演算部11では、各車両の各車軸5の累積滑走距離に基づいてそれぞれの車両のブレーキ分担率が演算される。ブレーキ力設定部12では、総合ブレーキ力とブレーキ分担率とに基づいて分担ブレーキ力が設定され、ブレーキ制御信号として各車両の基礎ブレーキ装置7に出力される。
【0024】
実施の形態2.
図3は、この発明の実施の形態2に係るブレーキ制御装置を周辺機器構成とともに示すブロック図である。
図3において、各車両に設けられた制御装置本体1は、双方向に伝送可能に制御伝送装置端末(制御伝送部)13と接続されている。
【0025】
ここで、制御伝送装置端末13は、各車両に搭載された電動機、ドア装置、および空調装置等の各機器からの情報を収集するとともに、各機器の制御を行うものである。その他の構成については、実施の形態1と同様であり、その説明は省略する。
【0026】
以下、上記構成のブレーキ制御装置についての動作を説明する。なお、実施の形態1と同様の動作については、説明を省略する。
【0027】
例えば、1号車において、累積滑走距離が長く、ブレーキ分担率演算部11からブレーキ分担率を90%から85%に低減する演算結果が出力された場合、制御伝送装置端末13は、総合ブレーキ力が維持されるように、1号車のブレーキ分担率を85%に変更し、15号車のブレーキ分担率を95%から100%に変更して分担ブレーキ力を設定する。
この場合のブレーキ分担率の例を図4に示す。
【0028】
この発明の実施の形態2に係るブレーキ制御装置によれば、車両毎に設けられた制御装置本体1と双方向に伝送可能に制御伝送装置端末13が、総合ブレーキ力を維持するように分担ブレーキ力を設定するので、ブレーキ力が不足することがない。
【0029】
なお、上記実施の形態2では、制御伝送装置端末13がブレーキ分担率演算部11からの演算結果に基づいてブレーキ分担率を変更したが、勿論このものに限定されるものではなく、制御伝送装置端末13は、各車両の累積滑走距離を収集し、各車両の累積滑走距離が同一となり、かつ総合ブレーキ力が維持されるように、各車両のブレーキ分担率を変更し、分担ブレーキ力を設定してもよい。
【0030】
また、制御伝送装置端末13は、任意の車両の制御装置本体1に異常が発生した場合、その車両のブレーキ分担率を0%に設定し、総合ブレーキ力が維持されるように、他の車両のブレーキ分担率を高く変更し、分担ブレーキ力を設定してもよい。
【0031】
また、制御伝送装置端末13によって演算されるブレーキ分担率は図4のものに限られるものではなく、車両の進行方向によってブレーキ分担率を切り替え、後方車両側のブレーキ分担率を大きく設定してもよい。
【0032】
また、制御伝送装置端末13がブレーキ分担率を変更して分担ブレーキ力を設定するとしたが、勿論このものに限定されるものではなく、制御装置本体1の動作状態を伝送する、例えばモニタ装置等の伝送手段から得られる各車両の動作状態に応じて、車両の運転者が制御伝送装置端末13を操作することによってブレーキ分担率を変更してもよい。このものの場合も、上記実施の形態2と同様の効果を奏することができる。
【0033】
なお、上記実施の形態1および2では、ブレーキ分担率演算部11は、車両単位でブレーキ分担率を演算したが、勿論このものに限定されるものではなく、車両の台車単位でブレーキ分担率を演算してもよいし、車両の車軸5単位でブレーキ分担率を演算してもよい。このものの場合、より精密に分担ブレーキ力を設定することができ、滑走の発生をさらに抑制することができる。
【0034】
実施の形態3.
上記の実施の形態1および2では、車両の走行中に車輪の滑走を検知し、滑走した車両が走行した距離を累積した累積滑走距離に基づいてブレーキ分担率が演算されているが、収集された過去の走行データから求められる、例えば図4に示すような累積滑走距離に基づいて、累積滑走距離が各車両で同一となるように固定値としてブレーキ分担率を設定してもよい。
【0035】
この発明の実施の形態3に係るブレーキの制御方法によれば、累積滑走距離が、各車両で同一となるようにブレーキ分担率を設定するので、滑走の発生を抑制し、安定したブレーキ力を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】この発明の実施の形態1に係るブレーキ制御装置を周辺機器構成とともに示すブロック図である。
【図2】車両のブレーキ分担率と滑走累積距離との関係を1両目、2両目および3両目について示す一般的な特性図である。
【図3】この発明の実施の形態2に係るブレーキ制御装置を周辺機器構成とともに示すブロック図である。
【図4】この発明の実施の形態2に係るブレーキ制御装置のブレーキ分担率の設定例を示す説明図である。
【符号の説明】
【0037】
1 制御装置本体、5 車軸、8 ブレーキ力演算部、9 滑走検知部、10 滑走距離算出部、11 ブレーキ分担率演算部、12 ブレーキ力設定部、13 制御伝送装置端末(制御伝送部)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の車両からなる車両群を制動させる総合ブレーキ力を演算するブレーキ力演算部と、
前記車両の車輪の滑走を検知する滑走検知部と、
前記滑走検知部が前記車輪の滑走を検知した場合に、前記車両の滑走距離を累積して累積滑走距離を算出する滑走距離算出部と、
各前記車両に関して制動させる分担ブレーキ力の、前記総合ブレーキ力に対する割合を示すブレーキ分担率を演算するブレーキ分担率演算部と、
前記総合ブレーキ力と前記ブレーキ分担率とに基づいて前記分担ブレーキ力を設定するブレーキ力設定部と
を有する制御装置本体を備え、
前記ブレーキ分担率演算部は、前記累積滑走距離に基づいて前記ブレーキ分担率を演算することを特徴とするブレーキ制御装置。
【請求項2】
前記ブレーキ分担率演算部は、前記車両毎に前記ブレーキ分担率を演算し、前記ブレーキ力設定部は、前記総合ブレーキ力と前記ブレーキ分担率とに基づいて前記車両毎に前記分担ブレーキ力を設定することを特徴とする請求項1に記載のブレーキ制御装置。
【請求項3】
前記ブレーキ分担率演算部は、前記車両の台車毎に前記ブレーキ分担率を演算し、前記ブレーキ力設定部は、前記総合ブレーキ力と前記ブレーキ分担率とに基づいて前記台車毎に前記分担ブレーキ力を設定することを特徴とする請求項1に記載のブレーキ制御装置。
【請求項4】
前記ブレーキ分担率演算部は、前記車両の車軸毎に前記ブレーキ分担率を演算し、前記ブレーキ力設定部は、前記総合ブレーキ力と前記ブレーキ分担率とに基づいて前記車軸毎に前記分担ブレーキ力を設定することを特徴とする請求項1に記載のブレーキ制御装置。
【請求項5】
さらに前記制御装置本体と双方向に情報伝送可能に接続された制御伝送部を備え、
前記制御伝送部は、前記総合ブレーキ力を維持するように前記分担ブレーキ力を設定することを特徴とする請求項1から請求項4の何れかに記載のブレーキ制御装置。
【請求項6】
前記制御伝送部は、各前記車両の前記累積滑走距離が同一となるように前記分担ブレーキ力を設定することを特徴とする請求項5に記載のブレーキ制御装置。
【請求項7】
前記制御伝送部は、前記車輪にブレーキ力を発生する基礎ブレーキ装置のうち、前記車両群の任意の前記車両の前記基礎ブレーキ装置に異常が発生した場合に、その他の前記車両で前記総合ブレーキ力を維持するように前記分担ブレーキ力を設定することを特徴とする請求項5に記載のブレーキ制御装置。
【請求項8】
複数の車両からなる車両群を制動させる総合ブレーキ力に対する各前記車両に関して制動させる分担ブレーキ力の割合を示すブレーキ分担率を設定して前記車両を制動するブレーキの制御方法であって、
前記ブレーキ分担率は、前記車両の車輪の滑走距離を累積した累積滑走距離が、各前記車両で同一となるように設定されることを特徴とするブレーキの制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−91170(P2007−91170A)
【公開日】平成19年4月12日(2007.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−286916(P2005−286916)
【出願日】平成17年9月30日(2005.9.30)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【出願人】(390021577)東海旅客鉄道株式会社 (413)
【Fターム(参考)】