説明

ブレーキ制御装置

【課題】容易な構成で摩擦部材の引き摺りを防止できて燃費低下防止に寄与できるブレーキ制御装置を提供する。
【解決手段】ブレーキ制御装置34のECU36はホイールシリンダ50の非加圧状態時に、マスタカット弁52、減圧弁80を閉動作すると共に、リリーフバルブ72を閉動作してリザーバタンク56からのブレーキオイルの供給を絶った状態でオイルポンプ66を駆動することによりホイールシリンダ50側からブレーキオイルを吸い込みホイールシリンダ50内部を負圧状態にする。その結果、非加圧状態時に摩擦部材であるブレーキパッドが回転部材であるディスクロータから離間し、ホイールシリンダ50の非加圧状態時に引き摺りを防止して燃費低下を防止する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ブレーキ制御装置、特に燃費低下防止に寄与できるブレーキ制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両の制動を行う制動装置の一つとして、ディスクブレーキがある。このディスクブレーキは、車輪と共に回転する回転部材であるディスクロータとキャリパとで構成される。キャリパは、外形を形成すると共にシリンダとして機能するハウジング部を有して構成されている。そして、このハウジング部にはピストンが内包されていると共に、ディスクロータを挟んで配置される一対の摩擦部材であるブレーキパッドが含まれている。そして、ハウジング部とピストンの間に作動液による液圧を導入することによりブレーキパッドをディスクロータに押圧して、ディスクロータを一対のブレーキパッドで把持して制動力を発生させている。
【0003】
上述したように、ディスクブレーキは、制動力を発生させる場合、ピストンに液圧を提供することによりディスクロータにブレーキパッドを押圧させる。一方、ディスクロータからブレーキパッドを離間させる場合は、液圧を解放するのみであり、後はピストンのシール部材の弾性変形時の復元力を用いて離間させていた。そのため何らかの原因により復元力より大きな抵抗力が生じてディスクロータからブレーキパッドが離間できない場合があった。この場合、液圧が解放されているので大きな制動力は発生しないが、回転するディスクロータにブレーキパッドが引き摺られる状態になり、燃費が低下してしまう原因の1つになっていた。高燃費化が要求される昨今では僅かな燃費低下要因でも排除したいという要望がある。そこで、例えば特許文献1のブレーキ制御装置は、双方向ポンプを用いてホイールシリンダと液圧発生源との間を負圧状態にしてブレーキパッドとディスクロータとの間の隙間を安定的に確保する構造を開示している。
【特許文献1】特開2005−247230号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1の構造は、双方向ポンプを用いる必要があるなど部品コストの上昇や構成の複雑化を伴ったり、双方向ポンプを用いることに伴う液圧回路の設計変更が必要になる。そのため、燃費低下防止には寄与できるもののコスト面や設計面で新たな問題が生じてしまうという問題があった。また、回転部材としてブレーキドラムを用い摩擦部材としてブレーキシューを用いるドラムブレーキ装置においても同様な問題があった。そこで、大掛かりな設計変更や高価な部品の使用を伴うことなく摩擦部材の引き摺りを確実に防止できて燃費低下防止に寄与できるブレーキ制御装置の提案が望まれている。
【0005】
本発明はこうした状況に鑑みてなされたものであり、その目的は、容易な構成で摩擦部材の引き摺りが防止できて燃費低下防止に寄与できるブレーキ制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明のある態様のブレーキ制御装置は、車輪と共に回転する回転部材に摩擦部材を押圧して制動力を発生させるホイールシリンダと、前記ホイールシリンダを加圧動作させるための作動液を蓄圧するアキュムレータと、前記アキュムレータに蓄圧する作動液を高圧にするポンプと、前記ホイールシリンダの非加圧動作時に排出される作動液を回収可能であると共に、前記ポンプに供給する作動液を貯留するリザーバタンクと、前記リザーバタンクと前記ポンプとを接続する流路内に配置され、前記リザーバタンクから前記ポンプへの作動液の供給を一時的に抑制する抑制手段と、前記ホイールシリンダが非加圧状態であることを検出する検出手段と、前記検出手段が前記ホイールシリンダの非加圧状態を検出したときに前記抑制手段により前記リザーバタンク側からの液路を閉路すると共にポンプを駆動して前記ホイールシリンダ側からの作動液を吸い込むことにより前記ホイールシリンダを負圧状態にして前記摩擦部材を前記回転部材から離間させる離間制御部と、を含むことを特徴とする。
【0007】
回転部材は、ディスクブレーキ装置の場合はディスクロータであり、ドラムブレーキ装置の場合はブレーキドラムとすることができる。また、摩擦部材は、ディスクブレーキ装置の場合はブレーキパッドであり、ドラムブレーキ装置の場合はブレーキシューとすることができる。抑制手段としては、開閉制御可能な電磁弁やモータなどを用いた機械式開閉器などを用いることができる。また、離間制御部は単独の制御部で構成してもよいし、既存のブレーキ制御部に機能追加して構成されてもよい。リザーバタンクからポンプへの作動液の供給を抑制した状態で、ポンプを駆動することによりホイールシリンダ側から優先的に作動液を吸い込みホイールシリンダ内部を負圧状態にすることができる。その結果、回転部材から摩擦部材を強制的かつ確実に離間させることができる。つまり、回転部材に対する摩擦部材の引き摺りを防止することができる。また、この離間制御のときポンプは通常の蓄圧動作と同じ動作を行うのみなので、特殊機能を有するポンプを用いる必要がなく従来のシステムに抑制手段とその制御部を追加するのみで効果が得られる。また、前記離間制御部は、前記抑制手段により前記リザーバタンク側からの液路を閉路したときに前記ホイールシリンダ側から吸い込んだ作動液を前記アキュムレータに蓄圧するようにしてもよい。この場合、ホイールシリンダの動作により蓄圧量が低下したアキュムレータを増圧できるので、次回のホイールシリンダの動作にいち早く備えることができる。また、ブレーキの非動作時に行われる蓄圧のためのポンプ駆動時間を減少させることが可能になり、車両搭乗者へのポンプ駆動の違和感を軽減することができる。
【0008】
また、上記態様において、前記摩擦部材は、前記ホイールシリンダの加圧状態時及び非加圧状態時に前記回転部材に接触可能な外周摩擦部と、前記外周摩擦部の内周部に配置され前記ホイールシリンダの加圧状態時に前記回転部材に接触し前記ホイールシリンダの非加圧状態時に前記回転部材から離間する内周摩擦部とを含んで構成されてもよい。ホイールシリンダの加圧状態時には、外周摩擦部と内周摩擦部が回転部材に接触するので、接触面積の等しい非分離型の従来の摩擦部材とほぼ同じ制動力を発生させることができる。また、非加圧状態時には内周摩擦部が回転部材から離間し、外周摩擦部のみが回転部材に接触可能になる。その結果、非加圧状態時の摩擦部材の引き摺りによる燃費低下を大きく抑制できる。なお、前記外周摩擦部は、前記回転部材と前記内周摩擦部との間に異物が侵入すること防止する侵入防止壁を形成するようにしてもよい。この場合、侵入防止壁の回転部材半径方向の厚みは、強度確保ができる程度でよく、回転部材との接触時に制動力を発生しなくてもよいし制動力を発生してもよい。また、強度を重視して内周摩擦部とは異なる材質で形成してもよい。
【発明の効果】
【0009】
本発明のブレーキ制御装置によれば、容易な構成で摩擦部材の引き摺りを防止でき燃費低下防止に寄与することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態(以下実施形態という)を、図面に基づいて説明する。
【0011】
本実施形態のブレーキ制御装置は、非加圧状態時にリザーバタンクからの作動液の供給を絶った状態でポンプを駆動することにより優先的にホイールシリンダ側から作動液を吸い込みホイールシリンダ内部を負圧状態にする。その結果、非加圧状態時に摩擦部材が回転部材から離間し、ホイールシリンダの非加圧状態時に引き摺りによる燃費低下を防止する。なお、以下の説明では、一例としてブレーキ装置としてディスクブレーキ装置を用いたブレーキ制御装置を示す。ディスクブレーキ装置の場合、回転部材としてはディスクロータが該当し、摩擦部材としてはブレーキパッドが該当する。
【0012】
図1は、本実施形態のブレーキ制御装置が制御するディスクブレーキ装置のキャリパ10の断面図である。本実施形態のキャリパ10は、図1に示すように大別して、このキャリパ10を図示しない車両側に固定するためのマウンティング部12と、ディスクロータに押圧されて制動力を発生するブレーキパッド14と、ブレーキパッド14を駆動するために押圧手段として機能するシリンダ部16とで構成されている。車輪と共に回転するディスクロータ18は、一対のブレーキパッド14の間に存在することになる。図1に示すように、ディスクロータ18の両方の側面18aは摺動面となっており、一対のブレーキパッド14が対向配置される。このブレーキパッド14は、ディスクロータ18の側面18aと直接接触する摩擦材20と、この摩擦材20の裏側、すなわちディスクロータ18と接触しない側を支持するパッド裏金22によって構成されている。
【0013】
キャリパ10は、図1において左右方向に変位可能にマウンティング部12を介して車体側に取り付けられている。キャリパ10のシリンダ部16には、図1に示すように、有底の穴24が穿設されており、この穴24には、ピストン26が摺動可能に嵌挿されている。穴24の底にはポート28が設けられ、図示しないマスタシリンダに接続されている。運転者がブレーキペダルを踏み込み操作することによりマスタシリンダまたはアキュムレータから作動液であるブレーキオイルがポート28内に流入し、ピストン26を駆動するようになっている。この他、アンチロックブレーキシステム(ABS)などが動作する場合は、ブレーキペダルの踏み込み操作とは非対応でアキュムレータからポート28へのブレーキオイルの流入出が制御され制動力調整が実行される。その結果、車両の安定化走行制御が行われる。
【0014】
ブレーキオイルがポート28内に流入すると、ピストン26が図1に示す非動作状態から図中左方向に摺動して、図中右側のパッド裏金22を介して図中右側の摩擦材20をディスクロータ18の右の側面18aに押圧する。図中右側の摩擦材20がディスクロータ18に押圧されると、ピストン26は摺動を停止する。ピストン26が摺動を停止した後も、ブレーキオイルがポート28内に流入すれば穴24内の液圧が上昇する。その結果、停止したピストン26が逆に穴24の内面を押圧して、シリンダ部16を構成するシリンダハウジング16aを図1中右方向に押圧する。シリンダハウジング16aは図中左右方向に変位可能とされているので、液圧の上昇に伴って、シリンダハウジング16aが図中右方向に変位することになる。
【0015】
シリンダハウジング16aの非シリンダ形成側には爪30が形成されており、シリンダハウジング16aの右方向への変位に伴って、爪30が図中左側のパッド裏金22を介して左側の摩擦材20をディスクロータ18の左の側面18aに押圧する。したがって、ディスクロータ18を一対の摩擦材20により押圧挟持する状態となり、ディスクロータ18を効率的に制動させることが可能となる。
【0016】
前述のように摩擦材20は、パッド裏金22によって支持され、このパッド裏金22が図1に示すように、マウンティング部12の一部を構成するトルク受け部として機能するトルクプレート32に当接可能になっている。回転するディスクロータ18に摩擦材20を接触させると、当該摩擦材20はディスクロータ18に引き摺られる状態になりディスクロータ18に関して接線方向の接線力、つまり制動トルクを受けることになる。この接線力をパッド裏金22を介してトルクプレート32で受け止めることになる。言い換えれば、トルクプレート32はパッド裏金22の押圧時にディスクロータ18の回転方向に対して摩擦材20の出口側のパッド裏金22の端面部と接触して摩擦材20の接線力を受け止めることになる。なお、図1においては、トルクプレート32はパッド裏金22に対し紙面奥側のみしか示していないが、パッド裏金22を挟んで紙面手前側の対向する位置にも存在する。その結果、ディスクロータ18の前進時の回転及び後進時の回転の両方に対して制動トルクを受け止め、前進時の制動力及び後進時の制動力の両方を発生することができる。
【0017】
図2は、本実施形態に係るブレーキ制御装置34とそれに含まれる電子制御ユニット36(以下、「ECU36」と表記する)の全体構成を説明する説明図であり、図1のキャリパ10を動作させる。
【0018】
ブレーキ制御装置34は主にアクチュエータ38とこのアクチュエータ38以外のマスタシリンダ44などを備える。ブレーキ制御装置34は、ECBシステム(Electronically Controlled Brake System)であり、ブレーキペダルの操作量をセンサで検知し、最適なブレーキオイル圧を算出して四輪独立してブレーキを作動させることができる。
【0019】
ブレーキペダル40にはその踏み込みストロークを検出するストロークセンサ42が設けられている。マスタシリンダ44は、運転者によるブレーキペダル40の踏み込み操作に応じ、作動液であるブレーキオイルを圧送する。
【0020】
マスタシリンダ44には右前輪(FR)用のブレーキオイル圧制御導管46および左前輪(FL)用のブレーキオイル圧制御導管48の一端が接続され、これらのブレーキオイル圧制御導管46、48はそれぞれ、右前輪および左前輪の制動力を発揮する右前輪用および左前輪用のホイールシリンダ50FR、50FLに接続されている。右前輪用および左前輪用のブレーキオイル圧制御導管46、48の途中には、右マスタカット弁52FRおよび左マスタカット弁52FL(マスタカット弁52として総称する場合もある)が間挿されている。右マスタカット弁52FRおよび左マスタカット弁52FLは非通電時に開状態にあり、ブレーキ操作を検出した際に閉状態に切り替わる(これを「常開型」という)電磁弁である。
【0021】
また、ブレーキオイル圧制御導管46、48の途中には、それぞれ右前輪側および左前輪側のマスタシリンダ液圧を計測する右マスタ圧力センサ54FRおよび左マスタ圧力センサ54FLが設けられている。運転者によってブレーキペダル40が踏まれたとき、ストロークセンサ42によりその踏み込み操作量が検出されるが、ストロークセンサ42の故障を想定し、右マスタ圧力センサ54FRおよび左マスタ圧力センサ54FLによるマスタシリンダ液圧の計測によってもブレーキペダル40の踏み込み操作力が検出される。マスタシリンダ液圧を二つの圧力センサで監視するのは、フェイルセーフの観点による。
【0022】
マスタシリンダ44にはリザーバタンク56が接続されている。また、マスタシリンダ44にはシミュレータカット弁58を介して、運転者の操作量や反力を創出するストロークシミュレータ60が接続される。シミュレータカット弁58は、非通電時に閉状態にあり、ブレーキ操作時に開状態に切り替わる常閉型の電磁弁である。リザーバタンク56には液圧給排導管62の一端が接続される。液圧給排導管62にはモータ64により駆動されるオイルポンプ66が設けられている。オイルポンプ66の吐出側は高圧導管68になっており、アキュムレータ70とリリーフバルブ72が設けられている。アキュムレータ70はオイルポンプ66によってたとえば14〜22MPaという範囲の高圧にされたブレーキオイルを蓄積する。リリーフバルブ72は、アキュムレータ圧が異常に高く、たとえば25MPaといった高圧になったとき開き、液圧給排導管62側へ高圧のブレーキオイルを逃がす。また、液圧給排導管62上でオイルポンプ66とリザーバタンク56の間には、リザーバタンク56からオイルポンプ66へのブレーキオイルの供給を一時的に抑制する抑制手段としてリザーバカット弁74が配置されている。リザーバカット弁74の動作については後述する。なお、アキュムレータ圧が異常に高くなりリリーフバルブ72が開くような場合には、リザーバカット弁74が開動作してブレーキオイルをリザーバタンク56側に逃がす。リザーバカット弁74はリザーバタンク56側でオイルポンプ66の直近の位置に配置されてもよい。
【0023】
高圧導管68にはアキュムレータ圧を計測するアキュムレータ圧センサ76が設けられる。図示は省略するが、ECU36にはアキュムレータ圧センサ76の出力であるアキュムレータ圧が入力され、このアキュムレータ圧が制御範囲に収まるようモータ64を制御する。
【0024】
高圧導管68は、それぞれ非通電時は閉じた状態にあり必要なときにホイールシリンダの増圧用に利用される常閉型の電磁流量制御弁、すなわちリニア弁である増圧弁78FR、78FL、78RR、78RLを介し、右前輪のホイールシリンダ50FR、左前輪のホイールシリンダ50FL、右後輪用のホイールシリンダ50RR、左後輪用のホイールシリンダ50RL(以下、これらを総称して「ホイールシリンダ50」という)に接続されている。以下、増圧弁78FR、78FL、78RR、78RLを総称するときは符号78を用いる。
【0025】
車両の右前輪、左前輪、右後輪、左後輪には、図1に示すキャリパ10を含むディスクブレーキが設けられており、それぞれホイールシリンダ50FR、50FL、50RR、50RLの駆動によりブレーキパッド14をディスクロータ18に押し付けることで制動力を発揮するようになっている。
【0026】
右前輪のホイールシリンダ50FRと左前輪のホイールシリンダ50FLは、必要なときに減圧用に利用される電磁流量制御弁、すなわちリニア弁である常閉型の減圧弁80FR、80FLを介して液圧給排導管62へ接続されている。また、右後輪用のホイールシリンダ50RR、左後輪用のホイールシリンダ50RLは、それぞれ常開型の減圧弁80RR、80RLを介して液圧給排導管62へ接続されている。以下、減圧弁80FR、80FL、80RR、80RLを総称するときは符号80を用いる。
【0027】
右前輪、左前輪、右後輪、左後輪のホイールシリンダ50FR、50FL、50RR、50RL付近には、それぞれホイールシリンダ内の液圧を計測する右前輪用、左前輪用、右後輪用、左後輪用の圧力センサ82FR、82FL、82RR、82RLが設けられている(圧力センサ82と総称する場合もある)。
【0028】
ECU36は、マスタカット弁52FR、52FL、シミュレータカット弁58、リザーバカット弁74、モータ64、4個の増圧弁78FR、78FL、78RR、78RL、および4個の減圧弁80FR、80FL、80RR、80RLを制御する。ECU36はマイクロコンピュータによる演算ユニット、各種制御プログラムを格納するROM、およびデータ格納やプログラム実行のためのワークエリアとして利用されるRAMなどを備える。
【0029】
詳細は図示しないが、ECU36には、右前輪用、左前輪用、右後輪用、左後輪用の圧力センサ82FR、82FL、82RR、82RLから、それぞれ、右前輪のホイールシリンダ50FR内の圧力信号、左前輪のホイールシリンダ50FL内の圧力信号、右後輪用のホイールシリンダ50RR内の圧力信号、左後輪用のホイールシリンダ50RL内の圧力信号が入力される。また、ECU36には、ストロークセンサ42からはブレーキペダル40の踏み込みストロークを示す信号が、右マスタ圧力センサ54FRおよび左マスタ圧力センサ54FLからはマスタシリンダ液圧を示す信号が、アキュムレータ圧センサ76からはアキュムレータ圧を示す信号が入力される。また、イグニッションスイッチがON状態か否かを示す信号やシフトレバーがDレンジにあるか否かを示す信号などもECU36に提供される。これらのセンサは、単独または複数の組合せによりホイールシリンダ50が現在加圧状態に制御中か非加圧状態に制御中かを検出する検出手段として機能することができる。
【0030】
ECU36のROMは所定の制動制御フローを記憶している。ECU36内の目標制動量取得部は、ストローク信号とマスタシリンダ液圧信号に基づき車両の目標制動量を演算する。そして、制動制御部は、演算された目標制動量に基づいて各輪の目標ホイールシリンダ液圧を演算し、各輪のホイールシリンダ液圧が目標ホイールシリンダ液圧になるよう、増圧弁78および減圧弁80を制御する。
【0031】
モータ64によって駆動されるオイルポンプ66は、リザーバタンク56から液圧給排導管62を通じてブレーキオイルをくみ上げ、高圧にされたブレーキオイルをアキュムレータ70に蓄積する。アキュムレータ70の高液圧は、目標ホイールシリンダ液圧に応じて増圧弁78を開閉制御することによって、各ホイールシリンダ50に供給される。
【0032】
ブレーキペダル40が踏まれることによってアキュムレータ70から高液圧のブレーキオイルが消費されると、ECU36は、アキュムレータ70の圧力が常に制御範囲に収まるように、モータ64を作動させてオイルポンプ66を駆動し、アキュムレータ70に高圧にされたブレーキオイルを蓄積する。この蓄圧動作は、アキュムレータ圧センサ76の検出値にしたがって、自動的に実行される。
【0033】
図1に示すように、キャリパ10は、ポート28に高圧のブレーキオイルが導入されたときにピストン26及び爪30でパッド裏金22を押圧して制動力を発生させる。一方、減圧弁80が開動作を行いブレーキオイルがリザーバタンク56側へ戻されると、ピストン26が押圧状態のときに変形していたピストン26とシリンダ部16との間に配置された弾性部材が形状復帰して、その復元力によりピストン26を穴24の底部側に押し戻す。つまり、パッド裏金22が押圧状態から解放される。このときディスクロータ18が回転していれば、ディスクロータ18が摩擦材20を弾き両者を離間させる。その結果、ディスクロータ18に対する摩擦材20の引き摺りを防止する。しかし、ポート28からリザーバタンク56に至る導管は、様々な場所で湾曲や屈曲している。また管径が細くなっている部分も多い。その結果、ブレーキオイルがリザーバタンク56側に十分に戻らずシリンダ部16内部にブレーキオイルが残りピストン26が十分にパッド裏金22が離れない場合がある。このような場合、ディスクロータ18にブレーキパッド14が引き摺られて燃費低下の原因の1つになる。
【0034】
そこで、本実施形態のブレーキ制御装置は、ブレーキパッド14の引き摺りを防止する引き摺り防止制御を実行する。具体的には、ECU36は、ホイールシリンダ50の非加圧状態を検出したときにリザーバカット弁74を閉動作させリザーバタンク56側からの液路を閉路すると共にオイルポンプ66を駆動してホイールシリンダ50側からのブレーキオイルを吸い込む。そして、ホイールシリンダ50を負圧状態にしてブレーキパッド14をディスクロータ18から離間させる離間制御を実行する。この場合、ECU36が離間制御部として機能するが、ECU36とは別に離間制御部を設けてもよい。本実施形態のECU36は、イグニッションスイッチがON状態であり、シフトレバーがDレンジ位置に有り、ストロークセンサ42がON状態からOFF状態に変位した場合、全減圧弁80を開状態に制御して制動力の発生を停止させると共に、右マスタカット弁52FRおよび左マスタカット弁52FLを閉状態にする。さらにリザーバカット弁74を閉状態にする。ECU36はこの状態のままモータ64を駆動してオイルポンプ66を所定時間駆動させる。その結果、ホイールシリンダ50のシリンダ部16内部及びホイールシリンダ50からオイルポンプ66に至る経路中のブレーキオイルをオイルポンプ66で吸い上げて、少なくともホイールシリンダ50のシリンダ部16内部を負圧状態にする。シリンダ部16内部を負圧状態にすることによりピストン26を穴24の底部側に引き寄せ、パッド裏金22からピストン26を離間させる。つまり、ブレーキパッド14を全くの自由状態にして回転するディスクロータ18にパッド裏金22が容易に弾きとばされる状態とすることができる。つまり、強制的にディスクロータ18とブレーキパッド14とが離間できる状態を形成することができる。その結果、制動力発生が要求されていない場合、ディスクロータ18にブレーキパッド14が引き摺られることが防止され、引き摺りによる燃費が低下することを防止することができる。なお、本実施形態の場合、図1に示すように、減圧弁80RL、減圧弁80RRは常閉型のリニア弁なので、上述のホイールシリンダ50の負圧制御を行う場合、減圧弁80のうち減圧弁80FR及び減圧弁80FLのみの制御を行えばよい。
【0035】
また、一度、ディスクロータ18に弾き飛ばされた摩擦材20は、再度ポート28に高圧のブレーキオイルが導入されピストン26により押圧されない限り弾き飛ばされた姿勢を維持することができる。したがって、右マスタカット弁52FRおよび左マスタカット弁52FL、リザーバカット弁74を閉動作させてオイルポンプ66を駆動する時間は、シリンダ部16内部及びホイールシリンダ50からオイルポンプ66に至る経路中のブレーキオイルをオイルポンプ66で吸い上げるのに十分な期間でよく、例えば、数秒、具体的には1〜2秒でよい。なお、経路の長さや経路の流動抵抗、ブレーキオイルの粘性状態などによりオイルポンプ66の駆動時間を変更するようにしてもよい。また、吸い上げるブレーキオイルが無い場合には、オイルポンプ66の駆動負荷が上がるので、しきい値を設けて、所定しきい値を超えた場合にオイルポンプ66の駆動を停止するようにしてもよい。
【0036】
なお、オイルポンプ66の駆動時にホイールシリンダ50側から吸い上げられたブレーキオイルはアキュムレータ70に押し込むことができる。つまり、上述した燃費低下防止のためのオイルポンプ66の駆動をアキュムレータ70の蓄圧動作とすることが可能になる。その結果、燃費低下防止のためのオイルポンプ66の駆動を無駄なくアキュムレータ70の蓄圧動作に利用することができる。
【0037】
この引き摺り防止による燃費低下防止制御は、リザーバカット弁74の追加とECU36の制御プログラムの追加のみで実現することができるので、大きなコスト増大を招くことなく、また大きな液圧回路の変更やシステムの設計変更を伴うことなく実現できる。
【0038】
なお、上述の例では、ブレーキ装置としてディスクブレーキ装置を用いた場合を説明したが、回転部材としてブレーキドラムを用いて摩擦部材としてブレーキシューを用いるドラムブレーキ装置を採用してもよい。この場合もディスクブレーキ装置を採用した場合と同様に、非加圧状態時にブレーキシューがブレーキドラムから離間し、引き摺りによる燃費低下を防止することができる。
【0039】
ところで、本実施形態のブレーキ制御装置がディスクブレーキ装置を備える場合、ディスクロータ18とブレーキパッド14の摩擦材20が完全に離間すると、形成される隙間に雨や雪、氷などの水分が侵入することがある。その場合、ディスクロータ18と摩擦材20との間の摩擦状態が変化して、初期制動力が変化することがある。この水分の侵入による初期制動力の変化は制動力の立ち上がり時のみで車両の制動性能には影響することはないが、運転者が感じるブレーキフィーリングに微妙な変化を与える場合がある。また、ディスクロータ18とブレーキパッド14の摩擦材20が完全に離間した場合、形成される隙間に砂や小石などの異物が侵入する場合がある。異物が侵入した状態で、ディスクロータ18にブレーキパッド14の摩擦材20を押圧するとディスクロータ18の側面18aや摩擦材20の摩擦面に傷を付けたり破損させたりする場合がある。
【0040】
そこで、上述した引き摺り防止による燃費低下防止制御を実施する場合に、図3に示すような二重構造のブレーキパッド84を採用することができる。図3(a)は、ブレーキパッド84及びディスクロータ18の側面図であり、図3(b)は、図3(a)のA−A断面図である。ブレーキパッド84は、外周摩擦部である外周パッド部86と内周摩擦部である内周パッド部88で構成することができる。外周パッド部86はホイールシリンダ50の加圧状態時及び非加圧状態時にディスクロータ18に接触可能な環形状となっている。また、内周パッド部88は外周パッド部86の内周部に配置されてホイールシリンダ50の加圧状態時にディスクロータ18に接触し、ホイールシリンダ50の非加圧状態時にディスクロータ18から離間する。外周パッド部86は、例えば、所定の付勢力を付与するスプリング90などの低弾性部材により常時ディスクロータ18の側面18aに付勢されている。このときの付勢力は、外周パッド部86が側面18aに軽く接触するか実質的な抵抗力を発生しない程度の接触を実現する大きさとすることが望ましい。外周パッド部86はホイールシリンダの加圧状態時に制動力を発生するようにしてもよいが、外周パッド部86で制動力を発生させる場合、ディスクロータ18の径方向の厚みをある程度確保する必要がある。その結果、非加圧状態時の引き摺り面積が増える。したがって、外周パッド部86はディスクロータ18と摩擦材20との間に水分や異物が侵入することを防止することを主目的とする侵入防止壁として、外周パッド部86のディスクロータ18の径方向の厚みを当該外周パッド部86の強度が確保できる程度に設定することが好ましい。例えば、数mmとすることが好ましい。なお、外周パッド部86は、ホイールシリンダ50の加圧状態時及び非加圧状態時にディスクロータ18に接触可能であればよく、積極的にピストン26により押圧される必要はない。また、外周パッド部86はその強度を重視して内周パッド部88とは異なる材質で形成してもよい。このように、外周パッド部86とディスクロータ18との接触面積を必要最小限とすることで、引き摺りによる燃費低下は最小限、実質的に無視できる程度にすることができる。
【0041】
内周パッド部88は、図1に示すブレーキパッド14と同様に、ホイールシリンダ50が加圧状態のときにピストン26により押圧されて所定の制動力を発生し、非加圧状態のときには、上述した引き摺り防止による燃費低下防止制御が実施されディスクロータ18と内周パッド部88とが離間させられる。なお、爪30側に配置されるブレーキパッドも同様に二重構造のブレーキパッド84として同様に動作をする。外周パッド部86の面積を侵入防止壁の機能として必要最小限とすれば、非分離型のブレーキパッドとほぼ同様の制御性能を確保することができる。
【0042】
このように、ブレーキパッドを二重構造とすることにより従来の引き摺りによる水分や異物の侵入防止効果と燃費低下防止効果を両立させることができる。
【0043】
本発明は、上述の各実施形態に限定されるものではなく、当業者の知識に基づいて各種の設計変更等の変形を加えることも可能である。各図に示す構成は、一例を説明するためのもので、同様な機能を達成できる構成であれば、適宜変更可能であり、同様な効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】本実施形態のブレーキ制御装置が制御するディスクブレーキ装置のキャリパの断面図である。
【図2】本実施形態に係るブレーキ制御装置とそれに含まれる電子制御ユニットの全体構成を説明する説明図である。
【図3】本実施形態のブレーキ制御装置が制御するディスクブレーキ装置の二重構造のブレーキパッドの構造を説明する説明図である。
【符号の説明】
【0045】
10 キャリパ、 14 ブレーキパッド、 16 シリンダ部、 18 ディスクロータ、 20 摩擦材、 26 ピストン、 34 ブレーキ制御装置、 36 ECU、 38 アクチュエータ、 50 ホイールシリンダ、 52 マスタカット弁、 56 リザーバタンク、 64 モータ、 66 オイルポンプ、 70 アキュムレータ、 74 リザーバカット弁、 78 増圧弁、 80 減圧弁、 84 ブレーキパッド、 86 外周パッド部、 88 内周パッド部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車輪と共に回転する回転部材に摩擦部材を押圧して制動力を発生させるホイールシリンダと、
前記ホイールシリンダを加圧動作させるための作動液を蓄圧するアキュムレータと、
前記アキュムレータに蓄圧する作動液を高圧にするポンプと、
前記ホイールシリンダの非加圧動作時に排出される作動液を回収可能であると共に、前記ポンプに供給する作動液を貯留するリザーバタンクと、
前記リザーバタンクと前記ポンプとを接続する流路内に配置され、前記リザーバタンクから前記ポンプへの作動液の供給を一時的に抑制する抑制手段と、
前記ホイールシリンダが非加圧状態であることを検出する検出手段と、
前記検出手段が前記ホイールシリンダの非加圧状態を検出したときに前記抑制手段により前記リザーバタンク側からの液路を閉路すると共にポンプを駆動して前記ホイールシリンダ側からの作動液を吸い込むことにより前記ホイールシリンダを負圧状態にして前記摩擦部材を前記回転部材から離間させる離間制御部と、
を含むことを特徴とするブレーキ制御装置。
【請求項2】
前記摩擦部材は、前記ホイールシリンダの加圧状態時及び非加圧状態時に前記回転部材に接触可能な外周摩擦部と、前記外周摩擦部の内周部に配置され前記ホイールシリンダの加圧状態時に前記回転部材に接触し前記ホイールシリンダの非加圧状態時に前記回転部材から離間する内周摩擦部とを含んで構成されることを特徴とする請求項1記載のブレーキ制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−36625(P2010−36625A)
【公開日】平成22年2月18日(2010.2.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−199009(P2008−199009)
【出願日】平成20年7月31日(2008.7.31)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】