説明

ブレーキ制御装置

【課題】電動モータを駆動源とするブレーキ制御装置において、電源の負担を軽減しつつ、イグニッションスイッチがオフの状態でも迅速に作動可能にする。
【解決手段】車両電源Eの供給電力により、マスタ圧制御装置3によって入力ロッド7の移動量に基づき、電動モータ20を制御し、ボール−ネジ機構25を介してプライマリピストン40を推進してマスタシリンダ9でブレーキ液圧を発生させる。マスタシリンダ9のブレーキ液圧を入力ピストン16により入力ロッド7を介してブレーキペダル100にフィードバックする。マスタ圧制御装置3は、イグニッションスイッチのオフ等のシステム終了条件が成立したとき、電源遮断制御を実行して、車両電源Eを遮断し、補助電源12から必要な電力を供給し、補助電源12に蓄えられた電力によりブレーキ制御を継続する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動モータを駆動源として作動するブレーキ制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば特許文献1に記載されているように、自動車のブレーキ制御装置において、運転者のブレーキペダルの操作に応じて、電動モータを駆動源としてサーボ力を発生させて制動を行なうブレーキ制御装置がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2010/113574号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
自動車のブレーキ制御装置は、イグニッションスイッチがオフの状態でも作動できることが望まれる。そこで、上述のような電動式のブレーキ制御装置においては、イグニッションスイッチがオフされて、制御システムがシャットダウンした状態であっても、例えば、ブレーキペダルの操作を検出したとき、あるいは、ドアの開閉等によるブレーキペダルの操作が行われる可能性がある状態を間接的に検出したとき、制御システムを起動させて、ブレーキ制御装置の作動を可能にすることが望ましい。しかしながら、このようなシステムの起動を行なう場合、起動にある程度時間がかかるため、応答性の問題が生じる。一方、消費電力低減の観点から、イグニッションスイッチがオフの状態で、長時間にわたってブレーキシステムの起動状態を維持することは望ましくない。
【0005】
本発明は、電源の負担を軽減しつつ、イグニッションスイッチがオフの状態でも迅速に作動可能なブレーキ制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するために、本発明は、車両に設けられたブレーキ装置の制動力を制御する電動アクチュエータと、該電動アクチュエータを車両電源からの電力供給により駆動させる制御手段とを備えたブレーキ制御装置において、前記制御手段には補助電源が接続され、前記制御手段は、所定のシステム終了条件が成立したとき、前記車両電源との接続を遮断し、前記補助電源からの電力供給により制御を継続する電源遮断制御を実行することを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明に係るブレーキ制御装置によれば、車両電源の負担を軽減しつつ、イグニッションスイッチがオフの状態でも迅速に作動させることがでる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の一実施形態に係るブレーキ制御装置の概略構成を示すブロック図である
【図2】図1に示すブレーキ装置のマスタ圧制御装置の概略構成を示す回路図である。
【図3】図1に示すブレーキ制御装置の電源失陥時の作動モードの切替制御を示すフローチャートである。
【図4】図1に示すブレーキ制御装置の作動状態の一例を示すタイミングチャートである。
【図5】本発明の第1実施形態に係る図1に示すブレーキ制御装置の電源遮断時の制御を示すフローチャートである。
【図6】本発明の第2実施形態に係る図1に示すブレーキ制御装置の電源遮断時の制御を示すフローチャートである。
【図7】本発明の第3実施形態に係る図1に示すブレーキ制御装置の電源遮断時の制御を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
図1は、本実施形態に係るブレーキ制御装置1のシステム全体構成を示すブロック図である。図1において、矢印付きの破線は信号線であり、矢印の向きによって信号の流れを表している。ブレーキ制御装置1は、車両である自動車の制動装置に適用して、左前輪FL、右後輪RR、右前輪FR、左後輪RLの4輪の制動力を制御するためのものである。
【0010】
ブレーキ制御装置1は、マスタシリンダ9が発生するブレーキ液圧であるマスタ圧を制御するための電動モータ20を備えたマスタ圧制御機構4と、マスタ圧制御機構4を電気的に制御するための制御手段であるマスタ圧制御装置3と、各車輪FL、RR、FR、RLのブレーキ装置である液圧ブレーキ装置11a〜11dにブレーキ液圧を供給するホイール圧制御機構6と、ホイール圧制御機構6を電気的に制御するためのホイール圧制御装置5と、入力ロッド7と、ブレーキ操作量検出装置8と、マスタシリンダ9と、リザーバタンク10と、車両電源Eと、補助電源12と、を有している。
【0011】
液圧ブレーキ装置11a〜11dは、図示しないシリンダ、ピストン及びブレーキパッド等から構成されている。液圧ブレーキ装置11a〜11dは、ホイール圧制御機構6から供給されるブレーキ液圧によってピストンが推進される。このピストンの推進によって一対のブレーキパッドをディスクロータ101a〜101dに挟み込むように押圧する。ディスクロータ101a〜101dは、車輪と一体に回転するようになっており、ディスクロータ101a〜101dが一対のブレーキパッドに押圧されることで、摩擦制動力が発生してブレーキトルクが作用し、車輪と路面との間に作用するブレーキ力となる。
【0012】
マスタシリンダ9は、プライマリピストン40及び後述する入力ピストンによって加圧されるプライマリ液室42と、セカンダリピストン41によって加圧されるセカンダリ液室43の二つの加圧室を有するタンデム式のものとなっている。マスタシリンダ9は、プライマリピストン40が推進されることでセカンダリピストン41も推進され、これらの推進によってプライマリ及びセカンダリ液室42、43でブレーキ液が加圧される。河津されたブレーキ液は、プライマリ配管102a及びセカンダリ配管102bから、ホイール圧制御機構6を介して、各車輪FL、RR、FR、RLの液圧ブレーキ装置11a〜11dに供給されて上述のブレーキ力を発生するようになっている。
【0013】
リザーバタンク10は、リザーバポートを介してプライマリ液室42及びセカンダリ液室43に接続されている。リザーバポート42A,43Aは、プライマリピストン40及びセカンダリピストン41が後退位置にあるときに、それぞれプライマリ液室42及びセカンダリ液室43をリザーバタンク10に連通して適宜ブレーキ液を補充する。また、リザーバポート42A,43Aは、プライマリピストン40及びセカンダリピストン41が前進すると、プライマリ液室42及びセカンダリ液室43をリザーバタンク10から遮断して、プライマリ液室42及びセカンダリ液室43の加圧を可能にする。
【0014】
このように、プライマリピストン40及びセカンダリピストン41の2つのピストンによってプライマリ配管102a及びセカンダリ配管102bから2系統の液圧回路にブレーキ液を供給するようになっている。このことにより、万一、一方の液圧回路が失陥した場合でも、他方の液圧回路によって液圧を供給することでき、制動力を確保することができる。
【0015】
マスタ圧制御機構4には、プライマリピストン40の中心部に、摺動可能かつ液密的に貫通する入力ピストン16が設けられている。、入力ピストン16は、その先端部がプライマリ室43内に臨むように配置されている。入力ピストン16の後端部には、入力ロッド7が連結されている。入力ロッド7は、マスタ圧制御機構4の後端部から車両の運転室内へ延ばされ、その延出端部には、ブレーキペダル100が連結されている。プライマリピストン40と入力ピストン16との間には、一対のバネ19A、19Bが介装されている。バネ19A、19Bは、そのバネ力によってプライマリピストン40と入力ピストン16とを、バランス位置に弾性的に保持され、これらプライマリピストン40と入力ピストン16との軸方向の相対変位に応じてバネ19A、19Bのバネ力が作用するようになっている。
【0016】
マスタ圧制御機構4は、プライマリピストン40を駆動する電動アクチュエータである電動モータ20と、プライマリピストン40と電動モータ20との間に介装された回転−直動変換機構であるボール−ネジ機構25と、減速機構であるベルト減速機構21とを備えている。電動モータ20は、その回転位置を検出する回転位置センサ205を備え、マスタ圧制御装置3からの回転位置指令によって作動して、所望の回転位置まで駆動されるようになっている。電動モータ20は、例えば公知のDCモータ、DCブラシレスモータ、ACモータ等とすることができるが、制御性、静粛性、耐久性等の観点から本実施形態では三相DCブラシレスモータを採用している。また、回転位置センサ205の信号に基づき、ボール−ネジ機構25の推進量、即ち、プライマリピストン40の変位量を算出することができる。
【0017】
ボール−ネジ機構25は、入力ロッド7が挿入された中空の直動部材であるネジ軸27と、ネジ軸27が挿入される円筒状の回転部材であるナット部材26と、これらの間に形成されたネジ溝に装填された複数のボール30(鋼球)とを備えている。ナット部材26は、その前端部が可動部材28を介してプライマリピストン40の後端部に当接し、ハウジング4Aに設けられた軸受31によって回転可能に支持されている。そして、ボール−ネジ機構25は、電動モータ20によってベルト減速機構21を介してナット部材26を回転させることにより、ネジ溝内をボール30が転動し、ネジ軸27が直線運動して、可動部材28を介してプライマリピストン40を押圧するようになっている。ネジ軸27は、可動部材28を介して戻しバネ29によって後退位置側に付勢されている。
【0018】
なお、回転−直動変換機構は、電動モータ20(すなわちベルト減速機構21)の回転運動を直線運動に変換してプライマリピストン40に伝達するものであれば、ラックアンドピニオン機構等の他の機構を用いることができるが、本実施形態では、遊びの少なさ、効率、耐久性等の観点から、ボール−ネジ機構25を採用している。ボール−ネジ機構25は、バックドライバビリティを有しており、ネジ軸27の直線運動によってナット部材26を回転させることができる。また、ネジ軸27は、プライマリピストン40に後方から当接し、プライマリピストン40がネジ軸27から離れて単独で前進できるようになっている。これにより、ブレーキ作動中、すなわち、マスタシリンダ9でブレーキ液圧が発生している状態で、万一、電動モータ20が断線等によって作動不能になった場合、ネジ軸27が戻しバネ29のバネ力によって後退位置に戻されるようになっている。したがって、マスタシリンダ9の液圧を解除することができ、ブレーキの引き摺りを防止することができる。また、プライマリピストン40は、ネジ軸27から離間して単独で移動できるようになっている。このため、電動モータ20が作動不能の場合、ブレーキペダル100によって入力ロッド7を介して入力ロッド16を前進させ、更に、プライマリピストン40に当接させて、プライマリピストン40を直接操作することにより、液圧を発生させることができ、制動機能を維持することができる。
【0019】
ベルト減速機構21は、電動モータ20の出力軸の回転を所定の減速比で減速してボール−ネジ機構21に伝達するものである。ベルト減速機構21は、電動モータ20の出力軸に取付けられた駆動プーリ22と、ボール−ネジ機構25のナット部材26の外周部に取付けられた従動プーリ32と、これらの間に巻装されたベルト24とを備えている。なお、ベルト減速機構21には、歯車減速機構等の他の減速機構を組み合わせてもよい。また、ベルト減速機構21の代りに、公知の歯車減速機構、チェーン減速機構、差動減速機構等を用いることができる。一方、電動モータ20によって充分大きなトルクが得られる場合には、減速機構を省略して、電動モータ20によってボール−ネジ機構25を直接駆動するようにしてもよい。これにより、減速機構の介在に起因して発生する、信頼性、静粛性、搭載性等に係る諸問題を抑制することができる。
【0020】
入力ロッド7には、ブレーキ操作量検出装置8が連結されている。ブレーキ操作量検出装置8は、少なくとも入力ロッド7の位置又は変位量(ストローク)を検出できるものとなっている。ここで、変位センサでブレーキ操作量を検出する物理量として、入力ロッド7の変位量、ブレーキペダル100のストローク量、ブレーキペダル100の移動角度、ブレーキペダル100の踏力、もしくは、前記複数のセンサ情報を組み合わせて検出してもよい。
【0021】
なお、ブレーキ操作量検出装置は、入力ロッド7の変位センサを含む複数の位置センサと、運転者によるブレーキペダル100の踏力を検出する力センサとを含むものであってもよい。すなわち、ブレーキ操作量検出装置8としては、入力ロッド7の変位センサを複数個組み合わせた構成や、ブレーキペダル100の踏力を検出する踏力センサを複数個組み合わせた構成、変位センサと踏力センサを組み合わせた構成であってもよい。これにより、一つのセンサからの信号が途絶えた場合にも、残りのセンサによって運転者のブレーキ要求が検出、認知されるため、フェイルセーフが確保される。また、ブレーキ操作量検出装置8のうち、少なくとも1つのセンサは、ホイール圧制御装置5により、電源供給及び信号入力処理が行われ、残りのセンサは、マスタ圧制御装置3により、電源供給及び信号入力処理が行われる。これにより、マスタ圧制御装置3とホイール圧制御装置5のどちらかにCPU故障、あるいは、電源故障が発生した場合にも、残りのセンサと制御装置により、運転者のブレーキ要求が検出、認識されるため、フェイルセーフが確保される。なお、図1では、ブレーキ操作量検出装置8は、1つのみ示されているが、マスタ圧制御装置3に接続されるものと、ホイール圧制御装置5に接続されるものとをそれぞれ設けるようにしてもよい。
【0022】
次に、マスタ圧制御装置3によるマスタ圧制御機構4の制御について説明する。マスタ圧制御装置3は、車両に搭載された車両のライトやオーディオ等を駆動するためのメインのバッテリである車両電源Eから供給される電力により作動し、操作量検出装置8の検出値であるブレーキ操作量に基づいて、電動モータ20を制御する。ここで、車両電源Eとは、車両バッテリおよび車両発電機(オルタネータ)のことを示している。つまり、従前の自動車の場合は、車両発電機とバッテリであり、ハイブリッド自動車もしくは電気自動車の場合は、高電圧電源から12V系もしくは24V系などの低電圧電源へ電圧変換するDC/DCコンバータと低電圧バッテリのことを示す。
【0023】
ブレーキ操作量検出装置8によって検出したブレーキペダル100の操作量(変位量、踏力等)に基づき、電動モータ20を作動させてプライマリピストン40の位置を制御して液圧を発生させる。このとき、入力ピストン16に作用する液圧が反力として入力ロッド7を介してブレーキペダル100にフィードバックされる。そして、プライマリピストン40と入力ピストン16との受圧面積比及び相対変位によって、ブレーキペダル100の操作量と発生液圧との比である倍力比を調整することができる。このとき、マスタ圧に応じた力が入力ロッド7を介してブレーキペダル100に作用し、ブレーキペダル反力として運転者に伝達されるので、別途、ブレーキペダル反力を生成する装置が不要となり、ブレーキ制御装置1の小型・軽量化を図ることができ、車両への搭載性が向上する。
【0024】
例えば、入力ピストン16の変位に対して、プライマリピストン40を追従させ、これらの相対変位が0になるように相対変位制御することにより、入力ピストン16とプライマリピストン40との受圧面積比によって決まる一定の倍力比を得ることができる。また、入力ピストン16の変位に対して、比例ゲインを乗じて、入力ピストン16とプライマリピストン40との相対変位を変化させることにより、倍力比を変化させることができる。
【0025】
これにより、ブレーキペダル100の操作量、操作速度(操作量の変化率)等から緊急ブレーキの必要性を検知し、倍力比を増大させて迅速に必要な制動力(液圧)を得る、いわゆるブレーキアシスト制御を実行することができる。さらに、回生制動システム(図示せず)からの信号に基づき、回生制動時に、回生制動分を差引いた液圧を発生させるように倍力比を調整して、回生制動分と液圧による制動力との合計で所望の制動力が得られるようにする回生協調制御を実行することができる。また、ブレーキペダル100の操作量(入力ピストン16の変位量)にかかわらず、電動モータ20を作動させてプライマリピストン40を移動させることにより、制動力を発生させる自動ブレーキ制御を実行することも可能である。これにより、各種センサ手段によって検出した車両状態に基づき、自動的に制動力を調整し、適宜、エンジン制御、ステアリング制御等の他の車両制御と組合わせることにより、マスタ圧制御ユニット4を用いて車両追従制御、車線逸脱回避制御、障害物回避制御等の車両の運転制御を実行することもできる。
【0026】
次に、入力ロッド7の推力の増幅について説明する。
運転者のブレーキ操作による入力ロッド7を介した入力ピストン16の変位量に応じてプライマリピストン40を変位させることにより、入力ロッド7の推力に応じてプライマリピストン40の推力が付与されるため、入力ロッド7の推力が増幅される形でプライマリ液室42が加圧される。その増幅比(以下「倍力比」という)は、入力ロッド7とプライマリピストン40との相対変位及び入力ピストン16とプライマリピストン40の断面積の比等によって任意に設定することができる。
【0027】
特に、入力ロッド7の変位量と同量だけプライマリピストン40を変位させる場合(入力ロッド7とプライマリピストン40との相対変位を0とした場合)、入力ピストン16の断面積を「AI」とし、プライマリピストン40の断面積を「AA」とすると、倍力比は、(AI+AA)/AIとして一意に定まる。すなわち、必要な倍力比に基づいて、AIとAAを設定し、その変位量が入力ピストン16の変位量に等しくなるようにプライマリピストン40を制御することで、常に一定の倍力比を得ることができる。なお、プライマリピストン40の変位量は、回転位置センサ205の出力信号に基づいて算出することができる。
【0028】
次に、倍力比可変機能を実行する際の処理について説明する。倍力比可変制御処理は、入力ピストン16の変位量に比例ゲイン(K1)を乗じた量だけプライマリピストン40を変位させる制御処理である。なお、K1は、制御性の点からは1であることが望ましいが、緊急ブレーキ等により運転者のブレーキ操作量を超える大きなブレーキ力が必要な場合等において、一時的に1を超える値に変更してもよい。これにより、入力ピストン16とプライマリピストン40との相対変位に対してバネ19A、19Bのバネ力が作用して入力ピストン16に作用する反力を調整し、同量のブレーキ操作量でも、マスタ圧を通常時(K1=1の場合)に比べて引き上げることができ、より大きなブレーキ力を発生させることができる。ここで、緊急ブレーキの判定は、例えば、ブレーキ操作量検出装置8の信号の時間変化率が所定値を上回るか否かで判定することができる。
【0029】
以上述べたとおり、倍力比可変制御処理によれば、運転者のブレーキ要求に従う入力ロッド7の変位量に応じてマスタ圧が増減圧されるため、運転者の要求通りのブレーキ力を発生させることができる。また、K1を1未満の値にすることで、いわゆるハイブリッド車または電気自動車において、液圧ブレーキを回生ブレーキ力分だけ減圧する回生協調ブレーキ制御に適用することも可能である。
【0030】
次に、自動ブレーキ機能を実施する際の処理について説明する。
自動ブレーキ制御処理は、マスタシリンダ9の作動圧を自動ブレーキの要求液圧(以下、自動ブレーキ要求液圧という)に調節すべく、プライマリピストン40を前進及び後退させる処理である。この場合のプライマリピストン40の制御方法としては、テーブルとして事前に取得したプライマリピストン40の変位量とマスタ圧との関係に基づいて、自動ブレーキ要求液圧を実現するプライマリピストン40の変位量を抽出し、これを目標値とする方法、マスタ圧センサ56、57で検出されたマスタ圧をフィードバックする方法等があるが、いずれの方法を採っても構わない。なお、自動ブレーキ要求液圧は外部ユニットから受信することが可能であり、例えば、車両追従制御、車線逸脱回避制御、障害物回避制御等でのブレーキ制御に適用可能である。
【0031】
次に、ホイール圧制御機構6の構成と作動について説明する。
ホイール圧制御機構6は、マスタシリンダ9で加圧されたブレーキ液の各液圧ブレーキ装置11a〜11dへの供給を制御するゲートOUT弁50a、50b、マスタシリンダ9で加圧されたブレーキ液のポンプ54a、54bへの供給を制御するゲートIN弁51a、51b、マスタシリンダ9又はポンプ54a、54bから各液圧ブレーキ装置11a〜11dへのブレーキ液の供給を制御するIN弁52a〜52d、液圧ブレーキ装置11a〜11dを減圧制御するOUT弁53a〜53d、マスタシリンダ9で発生したブレーキ液圧を昇圧するポンプ54a、54b、ポンプ54a、54bを駆動する電動モータ20、マスタ圧を検出するマスタ圧センサ56を有する。なお、ホイール圧制御機構6としては、アンチロックブレーキ制御用の液圧制御ユニット、車両挙動安定化制御用の液圧制御ユニット等を用いることができる。
【0032】
ホイール圧制御機構6は、プライマリ液室42からブレーキ液の供給を受け、FL輪とRR輪のブレーキ力を制御する第1のブレーキ系統と、セカンダリ液室43からブレーキ液の供給を受け、FR輪とRL輪のブレーキ力を制御する第2のブレーキ系統の二つの系統から構成されている。このような構成を採ることにより、一方のブレーキ系統が失陥した場合にも、正常な他方のブレーキ系統によって対角2輪分のブレーキ力を確保できるので、車両の挙動が安定に保たれる。
【0033】
ゲートOUT弁50a、50bは、マスタシリンダ9とIN弁52a〜52dとの間に設けられ、マスタシリンダで加圧されたブレーキ液を液圧ブレーキ装置11a〜11dに供給する際に開弁される。ゲートIN弁51a、51bは、マスタシリンダ9とポンプ54a、54bとの間に設けられ、マスタシリンダで加圧されたブレーキ液をポンプ54a、54bで昇圧して液圧ブレーキ装置11a〜11dに供給する際に開弁される。
【0034】
IN弁52a〜52dは、液圧ブレーキ装置11a〜11dの上流に設けられ、マスタシリンダ9又はポンプ54a、54bで加圧されたブレーキ液を液圧ブレーキ装置11a〜11dに供給する際に開弁される。OUT弁53a〜53dは、液圧ブレーキ装置11a〜11dの下流に備えられ、ホイール圧を減圧する際に開弁される。なお、ゲートOUT弁、ゲートIN弁、IN弁、OUT弁は、いずれもソレノイド(図示省略)への通電によって弁の開閉が行われる電磁式であり、ホイール圧制御装置5が行う電流制御によって各弁の開閉量を独立に調節できるものである。
【0035】
ゲートOUT弁50a、50bとIN弁52a〜52dが常開弁、ゲートIN弁51a、51bとOUT弁53a〜53dが常閉弁である。このような構成を採ることにより、故障時にこれらの弁への電力供給が停止した場合にも、ゲートIN弁とOUT弁が閉じ、ゲートOUT弁とIN弁が開いて、マスタシリンダ9で加圧されたブレーキ液が全ての液圧ブレーキ装置11a〜11dに到達するので、運転者の要求通りのブレーキ力を発生させることができる。
【0036】
ポンプ54a、54bは、例えば車両挙動安定化制御、自動ブレーキ制御等を行うために、マスタシリンダ9の作動圧を超える圧力が必要な場合に、マスタ圧を昇圧して液圧ブレーキ装置11a〜11dに供給する。ポンプ54a、54bとしては、プランジャポンプ、トロコイドポンプ、ギヤポンプ等の使用が可能であるが、静粛性の点においては、ギヤポンプが望ましい。
【0037】
電動モータ20は、ホイール圧制御装置5の制御指令に基づいて供給される電力により動作してモータに連結されたポンプ54a、54bを駆動する。モータとしては、DCモータ、DCブラシレスモータ、ACモータ等の使用が可能であるが、静粛性の点においては、DCモータが望ましい。
【0038】
マスタ圧センサ56は、セカンダリ側のマスタ配管102bの下流に設けられており、マスタ圧を検出する圧力センサである。マスタ圧センサ56の個数及び設置位置については、制御性、フェイルセーフ等を考慮して任意に決定することができる。
【0039】
そして、ホイール圧制御装置5によって上述のホイール圧制御機構6の作動を制御する。ホイール圧制御装置5は、車両電源Eから供給される電力により動作し、車両状態量に基づいて各輪FL、RR、FR、RLで発生させるべき目標ブレーキ力を算出し、この算出値に基づいてホイール圧制御機構6を制御する。ホイール圧制御機構6は、ホイール圧制御装置5の出力に従って、マスタシリンダ9で加圧されたブレーキ液を受け、各車輪FL、RR、FR、RLの液圧ブレーキ装置11a〜11dに供給するブレーキ液圧を制御して、様々なブレーキ制御を実行する。
【0040】
例えば、制動時に接地荷重等に応じて各車輪に適切に制動力を配分する制動力配分制御、制動時に各車輪の制動力を自動的に調整して車輪のロックを防止するアンチロックブレーキ制御、走行中の車輪の横滑りを検知して各車輪に適宜自動的に制動力を付与することにより、アンダーステア及びオーバーステアを抑制して車両の挙動を安定させる車両安定性制御、坂道(特に上り坂)において制動状態を保持して発進を補助する坂道発進補助(HSA)制御、発進時等において車輪の空転を防止するトラクション制御、先行車両に対して一定の車間を保持する車両追従制御、走行車線を保持する車線逸脱回避制御、障害物との衝突を回避する障害物回避制御等を実行することができる。
【0041】
また、ホイール圧制御機構6は、マスタ圧制御装置3の故障の際には、マスタ圧センサ56で検知したブレーキ液圧により、運転者のブレーキ操作量を検出し、この検出値に応じたホイール圧を発生させるようにポンプ54a、54b等を制御することにより、ブレーキ制御装置1の制動機能を維持することができる。
【0042】
マスタ圧制御装置3とホイール圧制御装置5とは、双方向の通信を行っており、制御指令、車両状態量を共有している。車両の状態量とは、例えば、ヨーレート、前後加速度、横加速度、操舵角、車輪速、車体速、故障情報、作動状態等を表す値あるいはデータである。
【0043】
補助電源12は、電力を蓄電し、車両電源Eが失陥した場合に、マスタ圧制御装置3に電力を供給可能なものであり、信頼性の観点から電気二重層キャパシタ等のキャパシタを用いている。なお、補助電源12としては、小型のバッテリ、あるいは、別系統の車両電源を用いてもよいが、いずれにしても補助電源12は、本来、マスタ圧制御装置3に電力を供給する主電源である車両電源Eに比して供給可能な電力量が少ないものとなっている。
【0044】
次に、図2を参照して、マスタ圧制御装置3の電子制御回路構成の一例について説明する。図2において、マスタ圧制御装置3の電子制御回路は、太線枠201で示され、マスタ圧制御機構4の電気部品や電気回路は、点線枠202で示されている。太線枠5は、ホイール圧制御装置5を示す。また、点線枠208は、ブレーキ操作量検出装置8のセンサを示しており、図2に示す例では、2個の変位センサ8a、8bを備えた構成としているが、少なくとも1個以上備えた構成であればよい。ブレーキ操作量の検出は、上述したように、変位センサの他、踏力センサ又はマスタ圧センサとしてもよく、これらの異なるセンサを少なくとも2個以上組み合わせて用いてもよい。
【0045】
太線枠201で囲まれた電気回路では、車両電源EラインからECU電源リレー214を介して供給される電力が5V電源回路215(以下第1電源回路215という)及び5V電源回路216(以下第2電源回路215という)に入力される。ECU電源リレー214は、外部からの起動信号、又は、CAN通信I/F218aでCAN受信により生成する起動信号のいずれか一つによりオンする構成となっている。起動信号は、ドアスイッチ信号、ブレーキスイッチ、イグニッションスイッチ信号等を使用することができる。これらの起動信号を複数使用する場合は、マスタ圧制御装置3に全て取り込み、複数信号のいずれか一つのスイッチがオンした時に、起動信号がECU電源リレー214をオンする側に作動する回路構成とする。
【0046】
また、車両電源Eが失陥した時には、補助電源12から補助電源リレー236を介して供給される電力が第1電源回路215及び第2電源回路216に供給できるようになっている。第1電源回路215によって得られる安定した電源(VCC1)は、中央制御回路(CPU)211に供給される。第2電源回路216によって得られる安定した電源(VCC2)は監視用制御回路219に供給される。
【0047】
フェイルセーフリレー回路213は、車両電源Eラインから三相モータ駆動回路222に供給する電力を遮断できるようになっており、CPU211と監視用制御回路219によって、三相モータ駆動回路222への電力の供給と遮断を制御できるようになっている。
【0048】
また、車両電源Eが失陥した時には、補助電源12から補助電源リレー235を介して三相モータ駆動回路222に電力を供給できるようになっている。外部から供給される電力は、フィルタ回路212を介することによってノイズが除去され、三相モータ駆動回路222に供給される。
【0049】
ここで、車両電源Eが失陥した時に、補助電源12からの電力供給に切替える方法について説明する。ここでいう車両電源Eの失陥とは、車両バッテリの故障、車両発電機の故障、そしてハイブリッド自動車、電気自動車の場合は、モータジェネレータの故障、高電圧バッテリの故障、DC/DCコンバータの故障、低電圧バッテリの故障等により、車両電源Eが車両に搭載されている電気機器および電子制御装置へ電力を供給できなくなることを意味する。
【0050】
まず、車両電源E失陥の検出は、車両電源Eからの電力供給ラインの電圧をモニタし、モニタ電圧が所定値以下になった場合に電源の失陥と判断する。こうして車両電源Eの失陥を検出した時に、正常状態ではオフしている補助電源リレー235と236をオンする。これにより、補助電源12から電力を供給することが可能となる。また、車両電源Eの失陥を検出して補助電源リレー235と236をオンする時に、ECU電源リレー214とフェイルセーフリレー回路213をオフした方が望ましい。もし、車両電源Eの失陥の原因が車両電源E系のどこかが車体などのGNDへの短絡故障であった場合、短絡箇所より上流のヒューズが溶断するまで、補助電源12の電力を消費してしまうからである。また、ECU電源リレー214とフェイルセーフリレー回路213の上流か下流のいずれかに、アノードを車両電源E側にしてダイオードを入れるような回路構成としてもよい。
【0051】
CPU211には、CAN通信I/F回路218を介してマスタ圧制御装置3の外部からの車両情報と自動ブレーキ要求液圧等の制御信号が入力されるようになっていると共に、マスタ圧制御機構4の側に配置された回転角検出センサ205、モータ温度センサ206、変位センサ8a、8b、マスタシリンダ圧センサ57からの出力が、それぞれ回転角検出センサI/F回路225、モータ温度センサI/F回路226、変位センサI/F回路227、228、マスタシリンダ圧センサI/F回路229を介して入力されるようになっている。
【0052】
CPU211には、外部装置からの制御信号と現時点における各センサの検出値等が入力され、これらに基づいて三相モータ駆動回路222に適切な信号を出力して、マスタ圧制御装置4の電動モータ20を制御する。三相モータ駆動回路222は、マスタ圧制御機構4内の電動モータ20にその出力端が接続され、CPU211により制御され、直流電力を交流電力に変換し、電動モータ20を駆動する。この場合、三相モータ駆動回路222の三相出力の各相には、相電流モニタ回路223と相電圧モニタ回路224が具備されている。これらの回路223、224によって、それぞれ相電流及び相電圧が監視され、これらの情報により、CPU211は、マスタ圧制御機構4内の電動モータ20を適切に動作させるように、三相モータ駆動回路222を制御する。そして、相電圧モニタ回路でのモニタ値が正常範囲外となった場合、制御指令どおりに制御できていない場合等には、故障と判断されるようになっている。
【0053】
マスタ圧制御装置3の回路201内には、例えば故障情報等が格納されたEEPROMからなる記憶回路230が備えられ、CPU211との間で信号の送受がなされる。CPU211は、検出した故障情報と、マスタ圧制御機構4の制御で用いる学習値、例えば制御ゲイン、各種センサのオフセット値、等を記憶回路230に記憶させる。また、マスタ圧制御装置3の回路201内には、監視用制御回路219が備えられ、CPU211との間で信号の送受がなされる。監視用制御回路219は、CPU211の故障、VCC1電圧等を監視している。そして、CPU211、VCC1電圧等の異常を検出した場合は、速やかにフェイルセーフリレー回路213を動作させ、三相モータ駆動回路222への電源供給を遮断する。監視用制御回路219とVCC2電圧の監視はCPU211で行う。
【0054】
本実施形態では、補助電源リレー235と236をマスタ圧制御装置3内に実装し、マスタ圧制御装置3内部で車両電源Eからの電力供給と補助電源12からの電力供給とを切替える構成としているが、車両側の電源制御装置で車両電源Eからの電力供給と補助電源12からの電力供給とを切替える構成とし、マスタ圧制御装置3への電力供給ラインは、図2の車両電源Eからのみとすることもできる。
【0055】
次に、ブレーキ制御装置1において、車両電源Eの失陥時の制御モードの切替制御について、主に図3及び図4を参照して説明する。
制御モードの切替えロジックについてのフローチャートの一例を図3に示す。図3を参照して、ステップS11において、車両電源Eの状態をモニタする。そして、ステップS12で車両電源Eが失陥しているか否かの判断を行う。車両電源Eの状態をモニタして車両電源Eが失陥しているか否かの判断を行う方法として、車両電源Eからの電力供給ラインの電圧をモニタし、モニタ電圧が所定値以下の場合、車両電源Eが失陥していると判断する。
【0056】
ただし、車両電源Eからの電力供給ラインを1系統のみモニタする場合、モニタしているラインの断線およびモニタ回路の故障の場合も車両電源Eが失陥していると判断する可能性がある。そこで、車両電源Eからの電力供給ラインを2系統、図2の回路構成の場合、ECU電源リレー214とフェイルセーフリレー回路213の2系統の車両電源Eからの電力供給ラインの電圧をモニタして、両方のモニタ電圧が所定値以下の場合に車両電源Eが失陥していると判断した方が、車両電源Eの失陥を特定し易い。また、車両電源Eからの電力供給ラインの地絡故障を区別する場合、車両電源Eからの電力供給ラインの電流をモニタし、車両電源E側に大電流が流れる場合を電力供給ラインの地絡故障と判断して区別してもよい。
【0057】
ステップS12で車両電源Eが失陥していないと判断された場合、すなわち車両電源Eが正常であり、車両電源Eから電力を供給していると判断された場合には、ステップS15の通常制御モードとなる。ステップS15の通常制御モードでは、通常のマスタ圧制御装置3の機能を継続し、ブレーキ操作量検出装置8で検出したブレーキ操作量に基づいて算出した運転者の要求制動力を発生させるように電動モータ20の駆動電流を制御する。
【0058】
ステップS12で車両電源Eが失陥したと判断された場合には、ステップS13で補助電源12からの電力供給に切替える。車両電源Eの失陥を検出して補助電源12からの電力供給に切替える方法は、図2の回路構成の場合、オフしている補助電源リレー235と236をオンすることで、補助電源12から電力を供給することができる。また、車両電源Eの失陥を検出して補助電源リレー235と236をオンする時(直前)に、ECU電源リレー214とフェイルセーフリレー回路213をオフした方が望ましい。もし、車両電源E系のどこかが地絡故障している場合、地絡箇所上流の車両ヒューズが溶断するまで、補助電源12の電力を消費してしまうからである。ステップS13で補助電源12からの電力供給に切替えたら、ステップS14で低消費電力制御モードに移行する。
【0059】
ステップS14の低消費電力制御モードでは、電動モータ20の駆動電流を制限する。ここで電動モータ20の駆動電流の制限値は、例えば、所定の制動力が確保される範囲で通常制御モードより小さな値に設定する。このように電動モータ20の駆動電流を制限することにより、車両電源E失陥時のバックアップブレーキ機能として、電動モータ20の駆動力により発生させる最大液圧は正常時より劣るが、補助電源12からの電力供給を持続させることができる。
【0060】
また、低消費電力制御モードとして、目標制動力もしくは目標液圧を制限する方法を用いることもできる。しかし、この場合、車両電源E失陥時のバックアップブレーキ機能として、電動モータ20の駆動力により発生させる最大液圧を正常より小さくすることにより、消費電流を少なくするので、目標制動力もしくは目標液圧に達するまでに使用する電動モータ20を加速するために使用する消費電流を抑制することができない。これに比べて、電動モータ20の駆動電流を制限する方法を用いた場合は、電動モータ20を加速するために使用する消費電流を抑制することができるため、目標制動力もしくは目標液圧に到達する時間は遅くなるが、より少ない消費電力で電動モータ20の駆動力により発生させる最大液圧を大きくすることができる。
【0061】
以上のように、低消費電力制御モードについて説明したが、図1で説明したマスタ圧制御装置3およびマスタ圧制御機構4の場合、運転者がブレーキペダル100を踏む操作量に応じて発生する電動モータ20の駆動力によりマスタシリンダ9を加圧する力を補助するためのアシスト力が制限されるだけであり、運転者がブレーキペダル100を踏む力なりにマスタシリンダ液圧および制動力を増加させることができる。
【0062】
車両電源Eが失陥したとき、補助電源12による電力供給時の制御として、低消費電力制御モードを実行した場合のタイミングチャートの一例を図4に示す。
図4を参照して、時刻t0までは、一定の車速で走行中であり、時刻t0からブレーキペダル操作を開始し、時刻t1からブレーキペダル操作を一定に保持する。このブレーキペダル操作に応じて要求制動力が算出される。この時点では車両電源Eが正常であり、通常制御モードで制御が行われるため、少ない応答遅れで要求制動力に対して実制動力が発生し、時刻t2で実制動力が一定に保持される。時刻t3で制動を止めるために、ブレーキペダル100を戻すとブレーキペダル操作に応じて要求制動力が0になるように算出され、実制動力も0になっていく。
【0063】
車両電源Eの失陥が発生し、時刻t4で車両電源E失陥を判断されると補助電源12からの電力供給に切替わり、低消費電力制御モードとなる。時刻t5でブレーキペダル操作を開始し、時刻t6からブレーキペダル操作を一定に保持する。このブレーキペダル操作に応じて要求制動力が算出される。この時点では低消費電力制御モードで制御が行われ、電動モータ20の最大駆動電流が制限されるため、要求制動力に対する実制動力の応答性が通常制御モードより遅くなる。ただし、ここでの要求制動力は、低消費電力制御モードで設定された電流制限値で電動モータ20を駆動することにより発生できる最大制動力より小さいため、要求制動力と同じ実制動力を発生することができ、時刻t7で一定に保持される。時刻t8で車速が0すなわち停車状態となり、運転者は時刻t9でブレーキ操作を止める。
【0064】
時刻t5からt9までマスタ圧制御装置3は補助電源12からの電力供給により駆動するが、低消費電力制御モードで駆動しているため、補助電源12の消費電力は、通常制御モードで駆動するより少なくなり、補助電源12からの電力供給を持続させることができる。なお、時刻t4からt5まで電子回路が消費する分の電力が低下するが、電動モータ20を駆動している時と比べて消費電力が少ないため、補助電源12の充電量の低下を図示していない。
【0065】
次に、所定のシステム終了条件が成立した際に、車両電源Eとの接続を遮断し、補助電源12によりブレーキ制御を継続する電源遮断制御を実行する第1乃至第3実施形態について説明する。ここで、所定のシステム終了条件とは、イグニッションスイッチがオフであり、かつ、運転者のブレーキペダル100の操作による制動操作が行われる可能性がないと考え得る条件である。システム終了条件は、例えば、イグニッションスイッチのオフに加えて、ブレーキペダルの解放、ドア閉、ドアロックの施錠、駐車ブレーキの作動、その他、起動信号がない等の条件の成立によって判断することができる。あるいは、これらのいくつかを組合わせた条件の成立によって判断することができ、また、これらの条件の成立後、所定時間の経過を成立条件としてもよい。なお、電源遮断制御の実行中に、起動信号によってECU電源リレー214がオンされた場合には、車両電源Eから必要な電力が供給されたブレーキ制御システム1が起動する。
【0066】
第1実施形態について、主に図5を参照して説明する。
第1実施形態では、システム終了条件が成立したとき、電源遮断制御を実行して、車両電源Eを遮断し、補助電源12から必要な電力を供給し、補助電源12に蓄えられた電力が枯渇するまでマスタ圧制御装置3によるブレーキ制御を継続する。
【0067】
本実施形態による電源遮断制御を実行するため制御フローの一例を図5に示す。図5を参照して、ステップS50において、システム終了条件の成立の有無の判断を行う。そして、システム終了条件が不成立の場合には、ステップS51に進み、以降、ステップS52〜S55において、図3のステップS11〜S15と同様の処理を実行し、車両電源Eの正常時には、ステップS55において通常制御モードによる制御を実行し、車両電源Eの失陥時には、ステップS54において低消費電力制御モードによる制御を実行する。
【0068】
一方、システム終了条件が成立した場合には、ステップS56において、電源を車両電源Eから補助電源12に切り替えて、補助電源12により制御を継続する。そのため、ECU電源リレー214及びフェイルセーフリレー回路213をオフすることで車両電源Eを遮断して、補助電源リレー235及び236をオンすることで補助電源12に切り替える。更に、ステップS57において、低消費電力モードによる制御を実行する。低消費電力モードに切替えることにより、補助電源12の限られた電力量に対して制御をより長く継続することができる。
【0069】
補助電源12に切り替えた後は、補助電源12に蓄積された電荷がなくなるまで、低消費電力制御モードによる制御を継続する。そして、補助電源12の電荷がなくなった時点で制御を停止する。これにより、補助電源12の電荷を最大限に使用して制御を継続することができる。また、故障により、イグニッション信号等の起動信号が生成不能の場合においても、補助電源12に切り替えて倍力制御を継続することができる。
【0070】
次に、第2実施形態について、主に図6を参照して説明する。なお、上記第1実施形に対して、異なる部分についてのみ詳細に説明する。
第2実施形態では、システム終了条件が成立したとき、電源遮断制御を実行し、補助電源12の電力量(充電量)が一定以上の場合、車両電源Eを遮断し、補助電源12から必要な電力を供給して、マスタ圧制御装置3によるブレーキ制御を継続する。
【0071】
本実施形態による電源遮断制御を実行するため制御フローの一例を図6に示す。図6を参照して、ステップS60において、システム終了条件の成立の有無の判断を行う。そして、システム終了条件が不成立の場合には、ステップS61に進み、以降、ステップS62〜S65において、図3のステップS11〜S15と同様の処理を実行し、車両電源Eの正常時には、ステップS65において通常制御モードによる制御を実行し、車両電源Eの失陥時には、ステップS64において低消費電力制御モードによる制御を実行する。
【0072】
一方、システム終了条件が成立した場合には、ステップS66において、電源を車両電源Eから補助電源12に切替え、ステップS67において、補助電源12の充電量の判定を行う。充電量が一定以上の場合には、ステップS68において、低消費電力制御モードに切替えて制御を継続し、充電量が一定未満の場合には、ステップS69において、制御を終了する。ここで、補助電源12の充電量の判定は、補助電源ラインの電圧に基づいて行なうことができる。
【0073】
次に、第3実施形態について、主に図7を参照して説明する。なお、上記第1実施形に対して、異なる部分についてのみ詳細に説明する。
第3実施形態では、システム終了条件が成立したとき、電源遮断制御を実行し、車両電源Eを遮断し、補助電源12から必要な電力を供給して、所定時間にわたってマスタ圧制御装置3によるブレーキ制御を継続する。
【0074】
本実施形態による電源遮断制御を実行するため制御フローの一例を図7に示す。図7を参照して、ステップS70において、システム終了条件の成立の有無の判断を行う。そして、システム終了条件が不成立の場合には、ステップS71に進み、以降、ステップS72〜S75において、図3のステップS11〜S15と同様の処理を実行し、車両電源Eの正常時には、ステップS75において通常制御モードによる制御を実行し、車両電源Eの失陥時には、ステップS74において低消費電力制御モードによる制御を実行する。
【0075】
一方、システム終了条件が成立した場合には、ステップS76において、電源を車両電源Eから補助電源12に切替え、ステップS77において、所定時間経過したか否かの判定を行う。所定時間経過するまでは、ステップS78において、低消費電力制御モードに切替えて制御を継続し、所定時間経過後には、ステップS79において、制御を終了する。
【0076】
このようにして、補助電源12による制御継続時間を制限することにより、補助電源12が鉛酸バッテリの場合等、補助電源12への充電がない状況で長時間の使用により、補助電源12の劣化が発生し得る場合において、補助電源12の劣化を抑制することができる。なお、第2実施形態と第3実施形態の電源遮断制御を組合わせて実行してもよい。
【0077】
上記第1乃至第3実施形態の電源遮断制御は、ブレーキ制御装置1のほか、電動アクチュエータである電動モータにより、摩擦材であるブレーキパッドを車輪と共に回転する回転体であるディスクロータに押圧して制動を行う電動ブレーキ装置、電動モータによって油圧ポンプを駆動してブレーキ液圧を発生させるブレーキ装置、いわゆるブレーキバイワイヤシステム等の電動アクチュエータを駆動源として作動するブレーキ制御装置にも同様に適用することができる。
【符号の説明】
【0078】
1…ブレーキ制御装置、3…マスタ圧制御装置(制御手段)、12…補助電源、11a〜11d…液圧ブレーキ装置(ブレーキ装置)、20…電動モータ(電動アクチュエータ)、E…車両電源

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に設けられたブレーキ装置の制動力を制御する電動アクチュエータと、該電動アクチュエータを車両電源からの電力供給により駆動させる制御手段とを備えたブレーキ制御装置において、
前記制御手段には補助電源が接続され、前記制御手段は、所定のシステム終了条件が成立したとき、前記車両電源との接続を遮断し、前記補助電源からの電力供給により制御を継続する電源遮断制御を実行することを特徴とするブレーキ制御装置。
【請求項2】
前記ブレーキ装置は、ブレーキ液圧によって作動する液圧式のブレーキ装置であり、前記電動アクチュエータは、ブレーキ液圧を発生させるマスタシリンダのピストンを駆動することを特徴とする請求項1に記載のブレーキ制御装置。
【請求項3】
前記ブレーキ装置は、前記車輪と共に回転する回転体に、前記電動アクチュエータによって摩擦材を押付けて制動を行うことを特徴とする請求項1に記載のブレーキ制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−71719(P2013−71719A)
【公開日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−214599(P2011−214599)
【出願日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【出願人】(509186579)日立オートモティブシステムズ株式会社 (2,205)
【Fターム(参考)】