説明

ブレーキ回路マスタシリンダ・リップシール

【課題】簡単かつ効果的でありならびに良好な密閉を保障する。
【解決手段】特に自動車用の、油圧ブレーキ回路のマスタシリンダであって、型成形によって製造された環状リップシール51を備える本体内で軸方向に摺動するピストンを備え、環状リップシールは、前記ピストンを取り囲み、シールの後面上の突起として形成されたブロックにより画定される半径方向通路を備える平坦な後面30に、湾曲した表面36によって接続される内側の動的な密閉リップ14を備え、これらブロックが湾曲した表面36から分離している、マスタシリンダ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に自動車用の、ブレーキ回路のマスタシリンダに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車は、油圧回路を介して様々な車輪にブレーキをかけるレシーバへ液圧を伝達するために、マスタシリンダに作用するブレーキペダルを一般に備えるブレーキ制御を備える。
【0003】
マスタシリンダは、ピストンに対して押圧するリップシールを備える本体内で、軸方向に摺動するピストンを備え、このピストンの変位によって加圧される室を備える前方空間から大気圧で液体の貯蔵部を備えている後方空間を分離する。
【0004】
米国特許第6272858号に記載の、この種類のマスタシリンダは、リップを2つ備えた円形シールを備えている。シールの内側リップは、動的な密閉を可能にするピストンを取り囲み、ピストンが後方位置で停止しているときは、浅くかつゆるやかに傾斜した側壁を有するピストンの溝に入り込む。
【0005】
このピストン停止位置では、ピストン内に形成された放射状の穿孔はシールの内側リップの後ろの溝へ開口して、圧力室を液体の貯蔵部と連通するように配置し、必要であれば、油圧回路の容積を再調整する。
【0006】
リップシールは、ピストンを囲む本体の環状の筺体内で軸方向に固定され、圧力室と後方空間の間に静的な密閉を提供するために、この筺体の外側の円筒状壁面に対して押圧する外側リップを備える。
【0007】
シールは、シールを筺体内で軸方向に固定するために、環状の筺体の平坦で軸方向と交差する後面に対して押圧する平坦な後面をさらに備える。
自動車はたとえば、ESP横方向安定性維持システムの場合に、車両がたどるコースを安定させるために、車両の車輪のうちのいくつかにブレーキをかける運転支援システムを備えることもある。
【0008】
そのような場合、このシステムはブレーキ回路内の相当量の液体を急速に必要とし、その液体はホイールブレーキに供給されるために、ブレーキ液の貯蔵部からマスタシリンダを経由して吸い込まれる。このとき、流体は環状シールのリップを速やかに通過しなければならず、環状シールのリップは下流側に引っ張られる押し下げのために持ち上げられる。
【0009】
既知の配置では、環状シールの後面は、環状シールと本体の筺体の平坦な後面との間で液体が放射状に外側へ通過できるように、シールの高さ全体にわたって延びる半径方向の溝を備える。
【0010】
ブレーキ回路に流体を必要としたとき、液体は外側リップに到達する放射状の溝に沿った経路をたどり、この経路を経由してブレーキ回路に流れ込む。
型成形により製造された環状シールの場合には、型を製造する既知の方法の1つは、座面および溝を備えた環状シールの後面に対応する型の表面を機械加工するために、一部品電極を使用したEDM放電加工機を使用することである。
【0011】
製造寸法のばらつきを考慮すると、この方法の主な欠点は、旋削により事前に製造された型の各部分に対し電極が正確に配置されず、そのことにより、旋削により形成された表面がEDMにより形成された表面に接触する線が、動的な密閉表面上にあるとき、その線において環状シールの漏れを生じさせる可能性があることである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】米国特許第6272858号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明の具体的な目的は、先行技術のこれらの欠点を防ぎ、マスタシリンダ・リップシールの作成に、簡単かつ効果的でありならびに良好な密閉を保障する解決策をもたらすことである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
この目的のために、本発明は、特に自動車用の、油圧ブレーキ回路のマスタシリンダを提案し、このマスタシリンダは、液体の貯蔵部を備える後方空間を圧力室を備える前方空間から分離する環状リップシールを備える本体内で、軸方向に摺動するピストンを備える。このシールは、内側の動的な密閉リップを備え、この密閉リップは、ピストンを取り囲んでおり、かつ、湾曲した表面により平坦な後面に接続される。平坦な後面は、半径方向通路を備え、シール筐体における、軸方向に対して交差する後面に対し押圧する。半径方向通路は、シールの後面上の突起として形成されたブロックにより画定され、これらのブロックは、内側リップと接続する湾曲した表面から分離している。
【0015】
本発明による環状シールの重要な利点の1つは、シールの後面の上記ブロックに対応するくぼみを型で形成するのに使用されたEDM電極が、これらの表面に何ら有害な影響も及ぼさずに、動的な密閉表面に関して若干中心から外れることができることである。
【0016】
本発明の別の特徴によると、環状シールは、ブロックと湾曲した表面との間で半径方向に配置された連続した環状リングを形成する、軸方向と交差する平坦な表面をシールの後面に備えており、ブロックは、この平坦な環状リングに対して軸方向に外向きに突出している。
【0017】
有利には、環状リングは溝の底と半径方向に整列している。
本発明はさらに、半径方向通路を備える平坦な後面に、湾曲した表面によって接続された、内側の動的な密閉リップを備える、上記の種類のマスタシリンダ用の環状リップシールであって、半径方向通路が、シールの後面上の突起として形成されたブロックによって画定され、これらのブロックが、シールの内側リップに接続される湾曲した表面から分離されていることを特徴とする、リップシールを提案する、
本発明は、例として挙げた以下の説明を精読し、添付図面を参照することで、より良く理解され、他の特徴および利点がより明瞭になろう。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】先行技術による環状シールの斜視図である。
【図2】II−II面で切断したこの環状シールの軸方向半横断面図である。
【図3】マスタシリンダのピストンに対し押圧するこの環状シールの部分の拡大した軸方向半横断面図である。
【図4】本発明による環状シールの斜視図である。
【図5】V−V面で切断したこの環状シールの軸方向半横断面図である。
【図6】マスタシリンダのピストンに対し押圧するこの環状シールの部分の拡大した軸方向半横断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
図1〜3は、ブレーキ・マスタシリンダ本体4内で軸方向に摺動するピストン2を取り囲む既知の環状シール1を示す。
本体4の環状筺体内に配置された環状シール1は、静的な密閉を提供するために、端がこの筺体の外側の円筒状壁面に対して半径方向に押圧する外側リップ10と、ピストンが摺動するときに動的な密閉を提供するために、端がピストン2の外側表面に対し半径方向に押圧する内側リップ14とを備える。
【0020】
環状シール1はさらに、外側リップ10と内側リップ14の間で半径方向に介在し、かつその端が筺体の前方と後方の2面の間でこのシールを軸方向に固定するために、環状の筺体の実質的に半径方向の前面に対し押圧する、軸方向リップ12を備えることもある。
【0021】
環状シール1は、筺体の後方へ軸方向に配置された平坦で軸方向と交差する表面32に対し押圧する、環状かつ実質的に平坦な後面30を備える。
後面30は、等角度間隔に配置され、かつシールの高さ全体にわたって伸長する一連の半径方向の溝34を備え、液体が環状シール1の後面30と、このシールを収容する筺体の軸方向と交差する後表面32との間で放射状に外側へ流れ出ることを可能にする多くの半径方向経路を形成する。
【0022】
シールの半径方向の後面30は凸状に湾曲した表面36によって内側リップ14の下部表面に接続される。
このシールに対応する型の製造は、まず第1に旋削作業を使用して円形表面をすべて完成させ、次に電極を使用するEDM作業を使用して環状シール1の後面30に対応する表面を形成する。
【0023】
図3に示された1つのリスクは、製造誤差範囲を考慮すると、電極の配置が旋削によって作成された表面と完全に同心にならず、これが、内側リップ14のような旋削により作成された表面に関して、局部的に表面36を軸の方へ半径方向に偏らせる場合もあることである。
【0024】
これが起こると、半径方向の溝34と内側リップ14の間の接続点38は、ピストン2と接触できなくなり、したがって、ブレーキ回路が加圧された場合、漏れを起こす危険性がある。
【0025】
図4〜6は本発明によるシール51を示し、このシールは、図1〜3に記載の既知のシールと同様に、外側リップ10、内側リップ14および軸方向リップ12を備える。
環状シール51の後面30は、均等に配置された半径方向の溝34の底を備える平坦な環状第1表面と、この後面の中心に向かい半径方向に配置され、且つ、凸状に湾曲した表面36によってリップ14に接続されている、軸方向と交差する連続リング52とを備える。
【0026】
後面は、湾曲した表面36から分離されたブロックをさらに備え、ブロックは、ブロック間の溝34の境界を画定するように軸方向で後方に向かい突出する。
このシールに対応する型は以下のように製造される。まず第一に、旋削を使用して、様々な円形部品、特に内側リップ14と、軸方向と交差するリング52および半径方向の溝34の底を備える平坦な面と、それらをひとつに連結する接続表面36とを製造する。
【0027】
次に、電極を使ったEDM作業を利用して、環状シール51の後部ベアリングブロックを形成するくぼみを型からカットする。
この方法では、接続表面36からブロックを分離することにより、型のくぼみをカットするのに使用する電極が不完全な同心であっても、表面36と干渉し、この表面に不連続部を形成する恐れはない。接続表面36およびその接続表面で摺動するピストン2に対する押圧の連続性が保証され、このピストンに対する良好な動的な密閉が保証される。
【0028】
さらに、型の製造はより容易になり、許容範囲が広くなり製造はより簡単になり、そのことによりさらに経済的になる。
【符号の説明】
【0029】
1 環状シール
2 ピストン
4 ブレーキ・マスタシリンダ本体
10 外側リップ
12 軸方向リップ
14 内側リップ
30 後面
32 後表面
34 半径方向の溝
36 凸状に湾曲した表面
38 接続点
51 環状リップシール
52 環状リング

【特許請求の範囲】
【請求項1】
環状リップシール(51)を備える本体(4)内で軸方向に摺動するピストン(2)を備えており、前記環状リップシールは、内側の動的な密閉リップ(14)を備えており、前記密閉リップは、前記ピストンを取り囲み、且つ、湾曲した表面(36)によって平坦な後面(30)に接続されており、前記平坦な後面は、溝(34)を備えており、且つ、シール筺体の軸方向に交差する後表面(32)に対して押圧する、特に自動車用の、油圧ブレーキ回路のマスタシリンダであって、
前記シールの前記後面の前記溝(34)は、前記シールの前記後面上の突起として形成されたブロックにより画定され、前記ブロックは、前記シールの前記内側リップ(14)に接続される前記湾曲した凸状の表面(36)から分離しており、
前記環状シール(51)は型内で形成され、前記型の製造は、前記内側リップ(14)、環状リング(52)、および前記湾曲した表面(36)を形成する旋削作業と前記型内に前記シールの前記ブロックに対応するくぼみを形成するEDM放電加工作業を連続して行なうことを含み、
前記環状リング(52)が前記溝(34)の底部と半径方向に整列していることを特徴とする、マスタシリンダ。
【請求項2】
請求項1に記載のマスタシリンダであって、前記環状シール(51)は、型内で形成され、前記型の製造は、前記内側リップ(14)、前記環状リング(52)および前記湾曲した表面(36)を形成する旋削作業と前記型内に前記シールの前記ブロックに対応するくぼみを形成するEDM放電加工作業を連続して行なうことを含むことを特徴とする、マスタシリンダ。
【請求項3】
請求項1または2に記載のマスタシリンダの環状リップシール(51)であって、前記環状リップシール(51)は、内側の動的な密閉リップ(14)を備えており、前記密閉リップは、湾曲した表面(36)によって平坦な後面(30)に接続されており、前記平坦な後面は、半径方向通路を備えており、前記半径方向通路が前記シールの前記後面上の突起として形成されたブロックにより画定され、前記ブロックは、前記湾曲した接続表面(36)から分離していることを特徴とする、環状リップシール(51)。
【請求項4】
請求項3に記載のシールであって、型成形によって製造されることを特徴とする、シール。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−149846(P2010−149846A)
【公開日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2009−283829(P2009−283829)
【出願日】平成21年12月15日(2009.12.15)
【出願人】(591245473)ロベルト・ボッシュ・ゲゼルシャフト・ミト・ベシュレンクテル・ハフツング (591)
【氏名又は名称原語表記】ROBERT BOSCH GMBH
【Fターム(参考)】