説明

ブレーキ液圧制御装置

【課題】引き摺り低減制御を行いつつ、次回のブレーキ操作初期の液損を低減する。
【解決手段】ブレーキ液圧制御装置において、ポンプを迂回してリザーバのリザーバ側接続部に接続する接続路に設けられ、前記ポンプの吐出側から吸入側への作動流体の流通のみを許容する一方向弁と、コントローラにより作動が制御され、前記接続路の前記リザーバ側接続部と前記ポンプの間に設けられる常閉型開閉弁と、を備え、前記一方向弁の開弁圧を、ブレーキ操作が最大のときの前記液圧発生装置の出力圧よりも高く設定したことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ブレーキ液圧制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車輪ともに回転するディスクロータの制動面にブレーキパッドを押し付けて制動力を発生させるディスクブレーキ装置においては、液圧発生装置によって、車両の運転者が操作するブレーキペダルの踏み込みに応じた液圧をブレーキパッドに伝達して、制動力が発生する。
【0003】
このディスクブレーキ装置においては、ブレーキペダルを踏み込んでいないときでもブレーキパッドがディスクロータに接した状態となる引き摺りが生じることがある。この引き摺りが生じると、燃費の低下につながるため、ブレーキパッドとディスクロータとの間のクリアランスを確保することが求められる。このクリアランスを確保して引き摺りを防止するために、特許文献1には、ブレーキペダルが非制動状態であるときに、車輪ブレーキ側のブレーキ液をマスタシリンダ側にポンプで還流させる装置が開示されている。
【特許文献1】特開2002−347598号公報(請求項1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、前記の装置においては、車輪ブレーキ側からポンプによって吸引したブレーキ液をマスタシリンダに直接還流するため、還流されるブレーキ液量の分だけ次回のブレーキ操作初期に液量損失(以下、「液損」という)を生じ、ブレーキペダルの無効ストロークが大きくなるという問題がある。
【0005】
そこで、本発明の目的は、引き摺り低減制御を行いつつ、次回のブレーキ操作初期の液損を低減することができるブレーキ液圧制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するために、請求項1に記載の発明は、ブレーキ操作に応じた液圧を出力する液圧発生装置と、車輪ブレーキと、リザーバと、前記車輪ブレーキと前記液圧発生装置を接続するとともに前記車輪ブレーキと前記リザーバとの接続を遮断する第1の状態と、前記車輪ブレーキと前記リザーバとを接続するとともに前記車輪ブレーキと前記液圧発生装置とを遮断する第2の状態とを切り換える切換弁機構と、吸入側が前記リザーバに接続され、吐出側が前記液圧発生装置と前記切換弁機構との間の液圧路に設けられた吐出側接続部に接続されたポンプと、前記液圧発生装置と前記ポンプの吐出側接続部との間に設けられた常開型開閉弁と、前記切換弁機構、前記ポンプおよび前記常開型開閉弁の作動を制御するコントローラと、を備えるブレーキ液圧制御装置において、前記ポンプを迂回して前記リザーバのリザーバ側接続部に接続する接続路に設けられ、前記ポンプの吐出側から吸入側への作動流体の流通のみを許容する一方向弁と、前記コントローラにより作動が制御され、前記接続路の前記リザーバ側接続部と前記ポンプの間に設けられる常閉型開閉弁と、を備え、前記一方向弁の開弁圧を、ブレーキ操作が最大のときの前記液圧発生装置の出力圧よりも高く設定したことを特徴とする。
【0007】
このブレーキ液圧制御装置では、前記一方向弁の開弁圧を、ブレーキ操作が最大のときの前記液圧発生装置の出力圧よりも高く設定したことにより、通常のブレーキ操作等においては、一方向弁を通って、リザーバにブレーキ液が流入せず、引摺り低減制御時にのみポンプに吸引されたブレーキ液が、一方向弁を通って、リザーバに流入して貯留される。これによって、車輪ブレーキのブレーキパッドとディスクロータとの間にクリアランスが確保され、ブレーキパッドの引摺りが低減される。そして、次回のブレーキ操作時に、前記切換弁機構を第1の状態として、前記常開型開閉弁を閉弁するとともに、前記常閉型開閉弁を開弁して、前記リザーバに貯留されたブレーキ液を前記ポンプによって車輪ブレーキに還流させることによって、クリアランスの確保によって生じる液損に相当する液量を補充することができる。
【発明の効果】
【0008】
本発明のブレーキ液圧制御装置によれば、引き摺り低減制御を行いつつ、次回のブレーキ操作初期の液損を低減することができる。しかも、ポンプからは前回ポンプが吸入してリザーバに溜め込んだ液量のみが吐出されるので吐出量に過不足がない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら詳細に説明する。
【0010】
図1は、本発明の実施形態に係るブレーキ液圧制御装置の構成、および通常のブレーキ操作時の状態を示す図である。
図1に示すブレーキ液圧制御装置1は、液圧発生装置2と、車輪W1,W2に装着された車輪ブレーキ(左前輪用車輪ブレーキBR1,右後輪用車輪ブレーキBR2)と、リザーバ3と、切換弁機構VF(第1切換弁41,第2切換弁51)、切換弁機構VR(第1切換弁42,第2切換弁52)、ポンプ6、レギュレータバルブ(常開型開閉弁)7、コントローラ8、一方向弁9および引摺り低減バルブ(常閉型開閉弁)10と、マスタシリンダ圧センサMSとを備える。
【0011】
液圧発生装置2は、リザーバRが付設されたタンデム型のマスタシリンダ2Bと、第1出力ポート2Cと、第2出力ポート2Dとを備える。この液圧発生装置2には、ブレーキ操作部材としてのブレーキペダル2Aからブレーキ操作力がマスタシリンダ2Bに入力される。第1出力ポート2Cは、例えば、左前輪用車輪ブレーキBR1および右後輪用車輪ブレーキBR2に、ブレーキペダル2Aの操作力に応じた液圧を出力する。また、第2出力ポート2Dは、右前輪用車輪ブレーキ(図示せず)および左後輪用車輪ブレーキ(図示せず)に、ブレーキペダル2Aの操作力に応じた液圧を出力する。
【0012】
前記第1出力ポート2C側のブレーキ液圧制御装置と、前記第2出力ポート2D側のブレーキ液圧制御装置とは同一の構成を有するものであるので、以下、第1出力ポート2C側のブレーキ液圧制御装置に関する部分だけについて説明し、第2出力ポート2D側のブレーキ液圧制御装置に関する部分についての説明を省略する。
【0013】
第1出力ポート2Cは、液圧路Lに通じており、この液圧路Lは、切換弁機構VFの第1切換弁(常開型開閉弁)41を介して左前輪用車輪ブレーキBR1に接続され、切換弁機構VRの第1切換弁(常開型開閉弁)51を介して右後輪用車輪ブレーキBR2に接続される。前記切換弁機構VFの第1切換弁(常開型開閉弁)41および切換弁機構VRの第1切換弁(常開型開閉弁)51には、左前輪用車輪ブレーキBR1および右後輪用車輪ブレーキBR2の側から前記液圧路Lへのブレーキ液の流通のみを許容する一方向弁121,122が並列に接続されている。この一方向弁121,122は、ブレーキペダル2Aからの踏み力が解除された場合に、第1切換弁41,42が閉弁した状態でも、車輪ブレーキBR1,BR2側からマスタシリンダ2Bへのブレーキ液の流通を許容するものである。また、左前輪用車輪ブレーキBR1は、切換弁機構VFの第2切換弁(常閉型開閉弁)51を介して、右後輪用車輪ブレーキBR2は、切換弁機構VRの第2切換弁(常閉型開閉弁)52を介してポンプ6に接続されている。
【0014】
切換弁機構VF,VRは、第1切換弁41,42と、第2切換弁51,52とを、コントローラ8によって開閉して、左前輪用車輪ブレーキBR1および右後輪用車輪ブレーキBR2と液圧発生装置2を接続するとともに左前輪用車輪ブレーキBR1および右後輪用車輪ブレーキBR2とリザーバ3との接続を遮断する第1の状態と、左前輪用車輪ブレーキBR1および右後輪用車輪ブレーキBR2とリザーバ3とを接続する第2の状態とを切り換える機能を有する。
【0015】
第1切換弁41,42は、通常のブレーキ操作時には、開弁しており、ブレーキペダル2Aの操作に応じて液圧発生装置2から出力される液圧を、液圧路Lを通じて車輪ブレーキBR1,BR2に伝達する。また、第1切換弁41,42は、車輪W1,W2がロックしそうな状態になったときに、コントローラ8による制御により閉弁されることで、ブレーキペダル2Aから車輪ブレーキBR1,BR2に伝達される液圧を遮断する。
【0016】
第2切換弁51,52は、通常のブレーキ操作時には閉弁しており、車輪W1,W2がロックしそうな状態になったときに、コントローラ8による制御により開弁されることで、ブレーキペダル2Aから車輪ブレーキBR1,BR2に伝達される液圧を開放する。
【0017】
ポンプ6は、引摺り低減バルブ(常閉型器開閉弁)10および一方向弁(チェック弁)15を介して、吸入側がリザーバ3に接続され、吐出側が液圧発生装置2と前記切換弁機構VF,VRとの間の液圧路Lに設けられた吐出側接続部6aに、一方向弁14およびダンパ13を介して接続されている。ポンプ6は、電動モータ16で駆動され、一方向弁(チェック弁)14およびダンパ13を介してブレーキ液を液圧路Lに吐出可能である。
【0018】
レギュレータバルブ(常開型開閉弁)7は、液圧発生装置2とポンプ6の吐出側接続部6aとの間に設けられ、通常は開弁して第1出力ポート2Cから出力される液圧を、液圧路Lを通じて、切換弁機構VF,VRに伝達するものである。レギュレータバルブ7は、液圧路Lの液圧を所望の液圧に調圧作動することが可能であり、ポンプ6の吸入側にサクションバルブ(常閉型開閉弁)11を介して接続されている。このサクションバルブ11を開弁してポンプ6を作動させることによって、液圧発生装置2のマスタシリンダ2Bからの出力液圧をポンプ6で増圧して液圧路Lに出力させ、さらに、レギュレータバルブ7によって液圧路Lの液圧を所望の液圧に調圧することができる。このレギュレータバルブ7は、通常のブレーキ操作時、また、アンチロックブレーキ制御(ABS制御)時には開弁して、液圧発生装置2からの出力液圧を液圧路Lを通じて切換弁機構VF,VRに伝達する役割と、車両挙動制御(VSA)等の車輪ブレーキBR1、BR2への液圧の加圧制御などにおいては、液圧発生装置2からの出力液圧を遮断する役割とを有する。
【0019】
また、ポンプ6を迂回してリザーバ3のリザーバ側接続部3aに接続する接続路17には、ポンプ6の吐出側6aから吸入側6bへのブレーキ液の流通のみを許容する一方向弁9が設けられている。さらに、リザーバ側接続部3aとポンプ6の間には、引摺り低減バルブ(常閉型開閉弁)10が設けられている。
【0020】
マスタシリンダ圧センサMSは、ブレーキペダル2Aの操作量として、液圧路Lの液圧を計測するものであり、その計測結果は、制御信号線8bを介してコントローラ8に伝達される。
なお、ブレーキペダル2Aの操作量として、マスタシリンダ圧センサMSの代わりにブレーキペダル2Aの操作荷重、ストローク、踏み込み角度などを計測するセンサを用いてもよい。
【0021】
コントローラ8は、制御信号線8bを介して液圧路Lの液圧の計測結果を受け取るとともに、制御信号線8a,8b,8c1,8c1,8c2,8c2,8dを介して、切換弁機構VF,VR、ポンプ6、レギュレータバルブ(常開型開閉弁)7および引摺り低減バルブ(常閉型開閉弁)10に接続され、これらの作動を制御する。すなわち、コントローラ8において、ブレーキペダル2Aの踏み込みによって液圧発生装置2のマスタシリンダ2Bから液圧が出力されているか否かが判定され、さらに、この判定結果と、車輪速度センサ(図示せず)等からの入力とに基づいて、切換弁機構VF,VR、ポンプ6、レギュレータバルブ(常開型開閉弁)7、引摺り低減バルブ(常閉型開閉弁)10およびサクションバルブ11の作動が制御される。
【0022】
このコントローラ8は、例えば、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)およびRAM(Random Access Memory)などを備え、所定の制御プログラムを搭載したECU(Electronic Control Unit)により実現することができる。
このコントローラ8は、ブレーキ操作状態量算出手段81、緊急ブレーキ操作判定手段82、アンチロック演算手段83、ブレーキ制御手段84などを備えて構成される。
【0023】
ブレーキ操作状態量算出手段81は、マスタシリンダ圧センサMSからの入力に基づいて、ブレーキ操作の状態量を算出する。具体的には、操作状態量のパラメータ値として、マスタシリンダ圧センサMSで検出された圧力、その圧力の時間変化率であるブレーキペダル2Aの操作速度、といった値を算出する。
【0024】
緊急ブレーキ操作判定手段82は、ブレーキ操作状態量算出手段81が算出したブレーキ操作状態量から緊急ブレーキ操作か否かを判定するものであり、例えば、ブレーキペダル2Aの操作量や操作速度などの条件のいずれかまたはその組み合わせにより判定することができる。すなわち、ブレーキペダル2Aの操作量により、運転者が求めているブレーキ制御の量を判定することができ、ブレーキペダル2Aの操作速度により、運転者が求めているブレーキ制御の緊急度を推測することができる。そして、それらのいずれかまたは組み合わせにより、緊急ブレーキ操作か否かの判定基準を適宜設定することができる。
【0025】
アンチロック演算手段83は、車輪速センサ(図示せず)からの入力により、アンチロックブレーキ制御が必要か否かを判定するものである。判定の方法としては、たとえば、車輪速センサから車体速度を推定し、その車体速度と車輪速度とから車輪W1,W28のスリップ率を算出し、そのスリップ率が所定以上になったときにアンチロックブレーキ制御が必要と判定する、というものが挙げられる。
【0026】
ブレーキ制御手段84は、緊急ブレーキ操作判定手段82、および、アンチロック演算手段83から、それぞれ、ブレーキアシスト量、緊急ブレーキ操作か否かの判定結果、および、アンチロックブレーキ制御についての判定結果に関する入力を受け、切換弁機構VF,VR、ポンプ6、レギュレータバルブ(常開型開閉弁)7、引摺り低減バルブ(常閉型開閉弁)10およびサクションバルブ11の作動を制御することにより、ブレーキ制御を行うものである。
【0027】
ブレーキペダル2Aの操作が行われ、緊急ブレーキ操作判定手段82が緊急ブレーキ操作であると判定した場合、ブレーキ制御手段84は、ブレーキペダル2Aの操作に起因してマスタシリンダ2Bで発生するブレーキ液圧に、適宜、ブレーキアシスト量を加えて、ブレーキ制御を行う。
一方、ブレーキペダル2Aの操作が行われ、緊急ブレーキ操作判定手段82が緊急ブレーキ操作でないと判定した場合、ブレーキ制御手段84は、ブレーキアシスト制御を行わない。
また、いずれの場合であっても、ブレーキ制御手段84は、アンチロック演算手段83からアンチロックブレーキ制御の要求を受けたときは、アンチロックブレーキ制御を行う。
【0028】
さらに、コントローラ8は、非ブレーキ操作時に、レギュレータバルブ7を作動せしめるとともにサクションバルブ11を開弁し、しかもポンプ6を作動せしめた状態で、切換弁機構VF,VRの作動を制御することにより、加速時の駆動輪の過剰スリップを解消するトラクション制御や、左右の車輪に異なる制動力をかけて車両の挙動を安定化させる車両挙動制御(VSA)等の制御を実行する。
【0029】
次に、このブレーキ液圧制御装置1の動作について、図1〜図5を参照して説明する。なお、以下に説明するブレーキ液圧制御装置1の各動作は、コントローラ8が、マスタシリンダ圧センサMSおよび車輪速センサ等からの入力を受け、切換弁機構VF(第1切換弁41,第2切換弁51),VR(第1切換弁42,第2切換弁52)、レギュレータバルブ7、引摺り低減バルブ10、およびサクションバルブ11の開閉、ポンプ6(電動モータ16)の作動を適宜制御することで実現される。
【0030】
通常のブレーキ操作においては、図1に示すように、レギュレータバルブ7は開弁してマスタシリンダ2Bから液圧路Lへのブレーキ液の流入を許容して液圧を切換弁機構VF,VRへ伝達する状態にある。このとき、切換弁機構VF,VRにおいて、第1切換弁41,42は開弁され、第2切換弁51,52を閉弁された状態にあるとともに、引摺り低減バルブ10およびサクションバルブ11は閉弁した状態にある。したがって、ブレーキペダル2Aの踏み力に起因して発生したブレーキ液圧は、そのまま車輪ブレーキBR1,BR2に伝達され制動力が発生する。
【0031】
ABS制御は、ブレーキペダル2Aを踏み込んでいる最中に、車輪がロック状態に入りそうになったときに、最大のブレーキ効果が得られるように車輪ブレーキBR1,BR2に伝達される液圧を制御するものであり、ロック状態に入りそうな車輪の車輪ブレーキに対応する液圧を制御して、各車輪ブレーキ(すべてでなくてもよい)に作用するブレーキ液圧を減圧、増圧あるいは一定に保持する制御である。このABS制御は、コントローラ8により行われる。
このABS制御時においても、 HYPERLINK "http://www6.ipdl.ncipi.go.jp/Tokujitu/tjitemdrw.ipdl?N0000=231&N0500=4E#N/;%3e7=;?%3c:;///&N0001=31&N0552=9&N0553=000003" \t "tjitemdrw" 図1に示すように、レギュレータバルブ7はマスタシリンダ2Bから液圧路Lへのブレーキ液の流入を許容する状態にあり、サクションバルブ11は閉弁した状態にある。
【0032】
ABS制御において、車輪ブレーキBR1,BR2に作用するブレーキ液圧を減圧する場合には、図2に示すように、切換弁機構VF,VRにおいて、第1切換弁41,42を閉弁するとともに、第2切換弁51,52を開弁するとともに、引摺り低減バルブ10を開弁する。このとき、レギュレータバルブ7は開弁し、サクションバルブ11は閉弁している。これによって、液圧発生装置2のマスタシリンダ2Bから液圧路Lを通じて車輪ブレーキBR1,BR2へのブレーキ液圧の伝達が遮断されるとともに、第2切換弁51,52が開弁しているため、車輪ブレーキBR1,BR2に流入していたブレーキ液は、開弁している引摺り低減バルブ10を通って、リザーバ3に流入して貯留されるとともに、ポンプ6に吸引され、液圧路Lに吐出される。その結果、車輪BR1,BR2に作用していたブレーキ液圧が減圧される。
【0033】
次に、ABS制御において、車輪ブレーキBR1,BR2に作用するブレーキ液圧を保持する場合には、図3に示すように、切換弁機構VF,VRにおいて、第1切換弁41,42を閉弁するとともに、第2切換弁51,52を閉弁する。このとき、レギュレータバルブ7は開弁し、サクションバルブ11は閉弁し、また、引き摺り低減バルブ10は開弁している。これによって、液圧発生装置2のマスタシリンダ2Bから液圧路Lを通じて車輪ブレーキBR1,BR2へのブレーキ液圧の伝達が遮断されるとともに、第2切換弁51,52が閉弁しているため、車輪BR1,BR2に流入していたブレーキ液は、第1切換弁41,42、車輪ブレーキBR1,BR2、および第2切換弁51,52で閉じられた液圧路内に閉じ込められ、その結果、車輪BR1,BR2に作用していたブレーキ液圧が一定に保持される。
【0034】
ABS制御において、車輪ブレーキBR1,BR2に作用するブレーキ液圧を増圧する場合には、図1に示すように、切換弁機構VF,VRにおいて、第1切換弁41,42を開弁するとともに、第2切換弁51,52を閉弁する。このとき、レギュレータバルブ7は開弁し、サクションバルブ11は閉弁し、また、引き摺り低減バルブ10は開弁している。これによって、液圧発生装置2のマスタシリンダ2Bから液圧路Lを通じて車輪ブレーキBR1,BR2へブレーキ液圧が伝達されるとともに、第2切換弁51,52が閉弁しているため、ブレーキペダル2Aの踏み力に起因して発生したブレーキ液圧は、そのまま車輪ブレーキBR1,BR2に伝達され、その結果、車輪BR1,BR2に作用するブレーキ液圧が増圧される。このとき、ポンプ6によって、リザーバ3に貯留されたブレーキ液は液圧路Lに吐出される。
【0035】
このABS制御中は、電動モータ16が駆動され、ポンプ6が作動している。そして、ポンプ6によりブレーキ液が液圧路Lに還流される。このとき、ダンパ13および一方向弁14は、ポンプ6の作動により液圧路L等に発生する脈動を吸収し、ブレーキペダル2Aの操作フィーリングの悪化を防止する。
【0036】
このABS制御においては、車輪がロック状態に入りそうになったときに、コントローラ8によって、切換弁機構VF,VR、ポンプ6、レギュレータバルブ7および引摺り低減バルブ10の作動を制御して、前記図2に示す減圧、図3に示すブレーキ液圧の保持、および図1に示す増圧を繰り返して行うことによって、各車輪ブレーキによって最大制動力を発揮させる。
【0037】
また、VSA等の液圧加圧制御においては、図4に示すように、レギュレータバルブ7を閉弁し、サクションバルブ11を開弁し、また、引き摺り低減バルブ10を開弁した状態で、切換弁機構VF,VRにおいて、第1切換弁41,42、および第2切換弁51,52の開閉を個別に制御して、各車輪ブレーキに出力されるブレーキ液圧を個別に制御して、例えば、左前輪用車輪ブレーキBR1および右後輪用車輪ブレーキBR2による制動力を個別に制御することができる。これによって、VSA制御においては、各車輪のブレーキ圧を個別に制御して車両の姿勢を安定化させることができる。また、VSA制御に限られず、車両運転者のブレーキペダルの操作、操作量に関わらず、コントローラ8によって、切換弁機構VF,VR、ポンプ6、レギュレータバルブ7、引摺り低減バルブ10およびサクションバルブ11の作動を制御して各車輪の制動力を自動的に制御することができる。
【0038】
そして、本発明のブレーキ液圧制御装置においては、ブレーキの非制動時、すなわち、ブレーキペダル2Aに踏み力が加えられていない状態で、車輪ブレーキBR1,BR2のブレーキ液をポンプ6により吸引して、車輪ブレーキBR1,BR2の制動用シリンダ(図示せず)のピストン(図示せず)を後退させてブレーキパッドと車輪W1,W2のディスクロータ(図示せず)との間にクリアランスを確保し、ブレーキパッドの引き摺りを低減する引き摺り低減制御が行われる。
【0039】
この引き摺り低減制御においては、図5に示すように、切換弁機構VF,VRにおいて、第1切換弁41,42を閉弁するとともに、第2切換弁51,52を開弁する。このとき、レギュレータバルブ7は閉弁し、サクションバルブ11は閉弁し、また、引摺り低減バルブ10は閉弁している。これによって、液圧発生装置2のマスタシリンダ2Bから液圧路Lを通じて車輪ブレーキBR1,BR2へのブレーキ液圧の伝達が遮断されるとともに、第2切換弁51,52が開弁しているため、車輪ブレーキBR1,BR2に流入していたブレーキ液は、ポンプ6に吸引される。このとき、レギュレータバルブ7およびサクションバルブ11は閉弁し、また、第1切換弁41,42も閉弁しているため、ポンプ6に吸引されて液圧路Lの吐出側接続部6aに吐出されたブレーキ液は、液圧路L、接続路17を通じて、一方向弁9を通って、リザーバ側接続部3aからリザーバ3に流入する。そして、このとき、引摺り低減バルブ(常閉型開閉弁)10が閉弁しているため、流入したブレーキ液はリザーバ3に貯留される。これによって、車輪ブレーキBR1,BR2のブレーキパッドと車輪W1,W2のディスクロータ(図示せず)との間にクリアランスが確保され、ブレーキパッドの引き摺りが低減される。
【0040】
ここで、一方向弁9は、その開弁圧を、ブレーキ操作が最大のときに液圧発生装置2から出力される出力液圧よりも高く設定されている。これによって、通常のブレーキ操作、およびABS制御のブレーキ制御時には、一方向弁9を通って、リザーバ3にブレーキ液が流入せず、引摺り低減制御の場合、すなわち、ブレーキの非制動時、すなわち、ブレーキペダル2Aに踏み力が加えられていない状態で、車輪ブレーキBR1,BR2のブレーキ液をポンプ6により吸引して、車輪ブレーキBR1,BR2の制動用シリンダ(図示せず)のピストン(図示せず)を後退させてブレーキパッドと車輪W1,W2のディスクロータ(図示せず)との間にクリアランスを確保して引き摺りを低減する制御が行われるときにのみ、ポンプに吸引されたブレーキ液が、一方向弁9を通って、リザーバ側接続部3aからリザーバ3に流入して貯留される。したがって、この引摺り低減制御時にポンプ6によって発生されるブレーキ液の吐出圧は、ブレーキ操作が最大のときに液圧発生装置2から出力される出力液圧より高くなるように制御される。
【0041】
次に、次回のブレーキ操作に際しては、ブレーキ操作の初期段階で、リザーバ3に貯留されたブレーキ液を車輪ブレーキBR1,BR2に還流させてブレーキ操作初期の液損によるブレーキペダル2Aの無効ストロークを低減するブレーキ液圧補給制御が行われる。
このブレーキ液圧補給制御は、図1に示すように、切換弁機構VF,VRにおいて、第1切換弁41,42を開弁するとともに、第2切換弁51,52を閉弁する。このとき、レギュレータバルブ7は開弁し、サクションバルブ11は閉弁し、また、引摺り低減バルブ10は開弁している。これによって、前記の引き摺り低減制御によって、リザーバ3に貯留されていたブレーキ液は、開弁した引摺り低減バルブ10を通って、ポンプ6によって吸引され、車輪ブレーキBR1,BR2に還流される。そして、還流されたブレーキ液によって、ブレーキ操作の初期段階においても液損がなくブレーキペダル2Aの無効ストロークが低減される。このとき、ポンプ6からは、前回の引摺り低減制御時にポンプ6が吸入してリザーバ3に貯留されたブレーキ液の液量のみが吐出されるので吐出量に過不足がなく、ブレーキパッドとディスクロータとの間のクリアランスを適切に制御することができる。
【0042】
以上のとおり、ブレーキ液圧制御装置1においては、切換弁機構VF(第1切換弁41,第2切換弁51)、切換弁機構VR(第1切換弁42,第2切換弁52)、レギュレータバルブ(常開型開閉弁)7および引摺り低減バルブ(常閉型開閉弁)10の開閉を制御するとともに、ポンプ6の駆動を制御して、液圧発生装置2のマスタシリンダMSから出力されるブレーキ液圧を、車輪ブレーキBR1,BR2に伝達または遮断し、さらに、車輪ブレーキBR1,BR2からブレーキ液圧を開放して、通常のブレーキ操作、ABS制御、VSA等の他の制御を行うことができる。そして、さらに、ブレーキの非制動時には、車輪ブレーキBR1,BR2からブレーキ液をポンプで吸引して、車輪ブレーキBR1,BR2における引摺りを低減するともに、一方向弁9を介して吸引したブレーキ液をリザーバ3に貯留させ、次のブレーキ操作の初期段階において、リザーバに貯留されたブレーキ液をマスタシリンダ2Bに還流させて、マスタシリンダ2Bにおける液損を低減してブレーキペダル2Aの無効ストロークを低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】通常のブレーキ操作時、およびABS制御における増圧制御を説明する図である。
【図2】ABS制御における減圧制御を説明する図である。
【図3】ABS制御における圧力保持制御を説明する図である。
【図4】VSA等のブレーキ液圧の加圧制御を説明する図である。
【図5】ブレーキ液圧制御装置における引き摺り低減制御を説明する図である。
【符号の説明】
【0044】
1 ブレーキ液圧制御装置
2 液圧発生装置
3 リザーバ
VF,VR 切換弁機構
41,42 第1切換弁
51,52 第2切換弁
6 ポンプ
7 レギュレータバルブ(常開型開閉弁)
8 コントローラ
9 一方向弁
10 引摺り低減バルブ(常閉型開閉弁)
11 サクションバルブ
13 ダンパ
14 一方向弁(チェック弁)
15 一方向弁(チェック弁)
16 電動モータ
17 接続路
W1,W2 車輪
BR1 左前輪用車輪ブレーキ
BR2 右後輪用車輪ブレーキ
MS マスタシリンダ圧センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブレーキ操作に応じた液圧を出力する液圧発生装置と、
車輪ブレーキと、
リザーバと、
前記車輪ブレーキと前記液圧発生装置を接続するとともに前記車輪ブレーキと前記リザーバとの接続を遮断する第1の状態と、前記車輪ブレーキと前記リザーバとを接続するとともに前記車輪ブレーキと前記液圧発生装置とを遮断する第2の状態とを切り換える切換弁機構と、
吸入側が前記リザーバに接続され、吐出側が前記液圧発生装置と前記切換弁機構との間の液圧路に設けられた吐出側接続部に接続されたポンプと、
前記液圧発生装置と前記ポンプの吐出側接続部との間に設けられた常開型開閉弁と、
前記切換弁機構、前記ポンプおよび前記常開型開閉弁の作動を制御するコントローラと、を備えるブレーキ液圧制御装置において、
前記ポンプを迂回して前記リザーバのリザーバ側接続部に接続する接続路に設けられ、前記ポンプの吐出側から吸入側への作動流体の流通のみを許容する一方向弁と、
前記コントローラにより作動が制御され、前記接続路の前記リザーバ側接続部と前記ポンプの間に設けられる常閉型開閉弁と、
を備え、
前記一方向弁の開弁圧を、ブレーキ操作が最大のときの前記液圧発生装置の出力圧よりも高く設定したことを特徴とするブレーキ液圧制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−189100(P2008−189100A)
【公開日】平成20年8月21日(2008.8.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−24750(P2007−24750)
【出願日】平成19年2月2日(2007.2.2)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】