説明

ブレーキ用ブリーダプラグ

【課題】 未使用時のダメージを抑制すると共に、使用時の作業性を良好に確保することを目的とする。
【解決手段】 ブレーキキャリパ100の油圧室101を介して作動油中の気体を外部に排出するためのブレーキ用ブリーダプラグ1は、ブレーキキャリパ100と螺合可能であり、油圧室101と外部との連通を規制または許容するプラグ本体2と、プラグ本体2に設けられており、プラグ本体2をブレーキキャリパ100に対して回転させる際に回転トルクが加えられるトルク入力部26と、トルク入力部26と係合可能であると共にレンチ等の工具と係合可能に形成された係合部32を有し、トルク入力部26を覆うことができるカバー3とを備え、プラグ本体2をブレーキキャリパ100に対して回転させる際には、カバー3の係合部32を介して工具とトルク入力部26とが係合させられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ブレーキキャリパの液圧室を介して作動液中の気体を外部に排出するためのブレーキ用ブリーダプラグに関する。
【背景技術】
【0002】
車両に適用される液圧式(油圧式)のディスクブレーキユニットでは、液圧系統中の作動液に気泡が生じてしまうと、ブレーキペダルのストロークが長くなってしまったり、ブレーキの操作感覚が悪化してしまったりする。このため、ディスクブレーキユニットを構成するブレーキキャリパには、作動液中の空気等を外部に排出するためのブリーダプラグが設けられている。この種のブリーダプラグは、一般に、気体通路と、レンチ等の工具を介して回転トルクが印加されるナット状のトルク入力部(六角部)とを有するニードル弁状に構成され、液圧室と連通するようにブレーキキャリパに形成されたねじ孔に螺合される(例えば、特許文献1から4参照。)。そして、作動液中の気体を外部に排出させる際には、工具を介してトルク入力部に回転トルクを加えて回転させることによりブリーダプラグをブレーキキャリパから緩め、ブリーダプラグの気体通路とブレーキャリパの液圧室とを連通させる。
【特許文献1】特開平8−121510号公報
【特許文献2】登録実用新案第2519818号公報
【特許文献3】特公平8−25445号公報
【特許文献4】特開2000−179595号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上述のように、作動液中の気体を外部に排出させる際(使用時)にはブリーダプラグ(トルク入力部)と工具とを係合させる必要があることから、作業性を確保するために、ブリーダプラグの一部(トルク入力部)がブレーキキャリパの表面から外部に突き出されている。しかしながら、このような構成のもとでは、車両走行時(未使用時)の飛び石や寒冷時の着氷等との衝突によるブリーダプラグの緩みや損傷といったダメージを招いてしまうおそれがある。そして、上述のトルク入力部が損傷してしまうと、ブリーダプラグをブレーキキャリパに対して回転させる際の作業性が悪化してしまうおそれもある。
【0004】
そこで、本発明は、未使用時のダメージを抑制すると共に、使用時の作業性を良好に確保することができるブレーキ用ブリーダプラグの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明によるブレーキ用ブリーダプラグは、ブレーキキャリパの液圧室を介して作動液中の気体を外部に排出するためのブレーキ用ブリーダプラグにおいて、ブレーキキャリパと螺合可能であり、液圧室と外部との連通を規制または許容するプラグ本体と、プラグ本体に設けられており、プラグ本体をブレーキキャリパに対して回転させる際に回転トルクが加えられるトルク入力部と、トルク入力部と係合可能であると共に所定の工具と係合可能に形成された係合部を有し、トルク入力部を覆うことができるカバーとを備え、プラグ本体をブレーキキャリパに対して回転させる際には、カバーの係合部を介して工具とトルク入力部とが係合させられることを特徴とする。
【0006】
このブレーキ用ブリーダプラグは、プラグ本体に設けられたトルク入力部を覆うことができるカバーを備えている。従って、一般にブレーキキャリパの表面から外部に突出した状態におかれるトルク入力部をカバーによって保護することが可能となり、トルク入力部の損傷等により、ブリーダプラグをブレーキキャリパに対して回転させる際の作業性が悪化してしまうことを良好に抑制することができる。また、このブレーキ用ブリーダプラグのカバーは、トルク入力部と係合可能であると共に所定の工具と係合可能に形成された係合部を有しており、プラグ本体をブレーキキャリパに対して回転させる際には、カバーの係合部を介して工具とトルク入力部とが係合させられる。すなわち、このブリーダプラグの使用時にカバーを取り外す必要は無く、例えば工具とカバーの係合部とを係合させ、更に、カバーの係合部とプラグ本体のトルク入力部とを係合させるだけで、工具を用いてプラグ本体をブレーキキャリパに対して回転させることが可能となる。この結果、このブリーダプラグによれば、未使用時のダメージを抑制すると共に、使用時の作業性を良好に確保することができる。
【0007】
また、本発明によるブレーキ用ブリーダプラグは、係合部がトルク入力部から離間するようにカバーを付勢する弾性体を更に備えると好ましい。
【0008】
このように、係合部がトルク入力部から離間するようにカバーを弾性的に付勢することより、カバーに衝撃が加えられても、その衝撃がトルク入力部に伝えられてしまうことを良好に抑制することができるので、トルク入力部をカバーによって極めて良好に保護することが可能となる。
【0009】
更に、カバーは、トルク入力部に対して回転自在であると好ましい。
【0010】
このような構成のもとでは、カバーに衝撃が加えられた際に、当該カバーは、その衝撃によって空回りすることになるので、カバーに加えられた衝撃がトルク入力部に伝えられてしまうことを極めて良好に抑制することが可能となる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、未使用時のダメージに抑制すると共に、使用時の作業性を良好に確保することができるブレーキ用ブリーダプラグの実現が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、図面を参照しながら、本発明を実施するための最良の形態について詳細に説明する。
【0013】
図1は、本発明によるブレーキ用ブリーダプラグの一実施形態を示す部分断面図である。同図に示されるブリーダプラグ1は、自動車やオートバイといった車両の油圧式ディスクブレーキユニットを構成するブレーキキャリパ100に対して設けられ、ブレーキキャリパ100の油圧室(液圧室)101を介して油圧系統中の作動油(作動液)に含まれる空気等の気体を外部に排出するために用いられるものである。この場合、ブレーキキャリパ100には、ブリーダプラグ1を配置するためのねじ孔102が形成され、ねじ孔102は、ブリーダ孔103を介して油圧室101と連通している。
【0014】
ブリーダプラグ1は、図1に示されるように、ねじ孔102に螺入されて油圧室101と外部との連通を規制または許容するプラグ本体2を含む。プラグ本体2は、金属等により概ね円柱状に形成されており、その先端(図1における下端)に、概ね円錐台状のテーパ面21と端面22とを有する。また、プラグ本体2の外周面には、ねじ孔102に形成されている雌ねじ溝に対応した雄ねじ溝23が形成されている。更に、プラグ本体2には、軸方向に延びる気体通路24と、気体通路24と連通すると共にテーパ面21よりも外側において開口する気体通路25とが形成されている。
【0015】
これにより、プラグ本体2をブレーキキャリパ100のねじ孔102に所定量螺入させれば、テーパ面21がねじ孔102の底部と当接し、プラグ本体2の端面22によってブリーダ孔103が塞がれてブリーダ孔103および油圧室101と外部との連通が断たれることになる。また、ブレーキキャリパ100のねじ孔102からプラグ本体2をある程度緩めると、ねじ孔102の底部とテーパ面21との隙間を介してプラグ本体2の気体通路25とブリーダ孔103とが連通することになる。
【0016】
また、プラグ本体2の頂部には、トルク入力部26が設けられている(固定されている)。トルク入力部26は、図2に示されるように、概ねナット状の外形、すなわち、概ね正六角形の断面形状を有する。このトルク入力部26には、プラグ本体2を回転させてねじ孔102に螺入させたり、ねじ孔102から緩めたりする際に、レンチ等の工具を介して回転トルクが与えられる。更に、トルク入力部26の頂部には、軸方向に伸びる軸部27が固定されており、軸部27の先端には接続端部28が設けられている。上述の気体通路24は、これらトルク入力部26、軸部27および接続端部28を貫通している。そして、接続端部28には、ブリーダプラグ1の使用時に、所定の吸引装置からのホース(何れも図示省略)が接続され、ブリーダプラグ1の未使用時(車両の走行時)には、樹脂等からなるキャップ(図示省略)が被せられる。
【0017】
そして、本発明によるブリーダプラグ1は、主として上述のトルク入力部26を覆うカバー3を有している。カバー3は、しぼり成形された金属、あるいは樹脂からなり、図1および図2に示されるように、プラグ本体2の外側端部(図1における上端部)を包囲可能な筒状部31と、筒状部31の上方に設けられた係合部32とを含む。係合部32の内部には、上述のトルク入力部26が嵌合され得る断面六角形状の凹部32aが形成されており、これにより、カバー3の係合部32は、概ね正六角形の断面形状を有するトルク入力部26と係合することができる。更に、係合部32の外形も、レンチ等の工具と係合し得るように概ね断面六角形状に形成されている(図2参照)。
【0018】
また、係合部32には、トルク入力部26から延出されている軸部27を挿通させることができる開口33が形成されており、開口33の縁部からは、突起34が複数延出されている。そして、カバー3は、図1に示されるように、軸部27が開口33を通り、かつ、各突起34が軸部27の先端に設けられた接続端部28の裏面と当接し得るようにプラグ本体2に対して配置される。更に、プラグ本体2の外側端面(図1における上端面)と、カバー3の筒状部31と係合部32とを繋ぐ段部35の裏面との間には、スプリング(弾性体)4が配置される。これにより、カバー3は、スプリング4によって係合部32がトルク入力部26から離間するように付勢され、各突起34が接続端部28の裏面と当接することにより、軸部27の周りでプラグ本体2(トルク入力部26)に対して回転自在となるように位置決めされる。
【0019】
上述のように、本発明によるブリーダプラグ1は、プラグ本体2に設けられたトルク入力部26を覆うことができるカバー3を備えている。従って、ブリーダプラグ1の未使用時(車両の走行時等)には、ブレーキキャリパ100の表面から外部に突出した状態におかれるトルク入力部26をカバー3によって保護することが可能となる。この結果、車両走行時(未使用時)の飛び石や寒冷時の着氷等との衝突によるブリーダプラグの緩みや損傷といったダメージを確実に抑制することができるので、トルク入力部26の損傷により、ブリーダプラグ1(プラグ本体2)をブレーキキャリパ100に対して回転させる際の作業性が悪化してしまうことを確実に抑制可能となる。
【0020】
また、上述のブリーダプラグ1のカバー3は、通常、スプリング4によって係合部32がトルク入力部26から離間するように付勢されており、トルク入力部26は、図1に示されるように、カバー3の筒状部31によって囲われる。これにより、飛び石等との衝突によりカバー3に衝撃が加えられても、スプリング4によってその衝撃は減衰され、しかも、スプリング4によってカバー3とトルク入力部26との当接も抑制されることになる。従って、ブリーダプラグ1では、飛び石等との衝突によりカバー3に加えられた衝撃がトルク入力部26に伝えられてしまうことを確実に抑制することができるので、トルク入力部26をカバー3によって極めて良好に保護することが可能となる。
【0021】
更に、ブリーダプラグ1において、カバー3は、上述のように、プラグ本体2すなわちトルク入力部26に対して回転自在であるので、飛び石等と衝突した際、カバー3は、その衝撃によって軸部27の周りで空回りすることになる。従って、このようにカバー3をトルク入力部26に対して回転自在となるようにプラグ本体2に配置することにより、カバー3に加えられた衝撃がトルク入力部26に伝えられてしまうことを極めて確実に抑制することが可能となる。
【0022】
一方、ブリーダプラグ1を用いて油圧系統中の作動油に含まれる空気等の気体を外部に排出する際には、例えばレンチ等の工具とカバー3の係合部32とを係合させた後、スプリング4の付勢力に抗して段部35を工具によって押圧することによってカバー3をトルク入力部26に向けて押し込み、カバー3の係合部32(凹部32a)とプラグ本体2のトルク入力部26とを係合させる。これにより、カバー3の係合部32を介して工具とトルク入力部26とが係合させられるので、工具を介してトルク入力部26に所定方向の回転トルクを与え、プラグ本体2をブレーキキャリパ100のねじ孔102から緩めることができる。
【0023】
そして、プラグ本体2がある程度緩められると、ねじ孔102の底部とテーパ面21との隙間を介してプラグ本体2の気体通路25とブリーダ孔103とが連通し、ブレーキキャリパ100の油圧室101は、プラグ本体2の気体通路25と連通することになる。これにより、接続端部28にホースを介して図示されない吸引装置を接続し、当該吸引装置を作動させれば、作動油中の気体を油圧室101、ブリーダ孔103、プラグ本体2の気体通路24および25を介して外部に排出することが可能となる。
【0024】
また、作動油中の気体の排出が完了したならば、カバー3の係合部32を介して工具とトルク入力部26とを係合させ、工具を介してトルク入力部26に先程とは逆方向の回転トルクを与えてプラグ本体2をブレーキキャリパ100のねじ孔102に螺入する。プラグ本体2がブレーキキャリパ100のねじ孔102に所定量螺入されると、テーパ面21がねじ孔102の底部と当接し、プラグ本体2の端面22によってブリーダ孔103が塞がれ、これにより、ブリーダ孔103および油圧室101と外部との連通が断たれる。
【0025】
このように、ブリーダプラグ1では、その使用時、すなわち、プラグ本体2をブレーキキャリパ100に対して回転させる際に、カバー3を取り外す必要は無く、工具とカバー3の係合部32とを係合させ、更に、カバー3の係合部32とプラグ本体2のトルク入力部26とを係合させるだけで、工具を用いてプラグ本体2をブレーキキャリパ100に対して回転させることが可能となる。この結果、ブリーダプラグ1によれば、未使用時のダメージを確実に抑制すると共に、使用時の作業性を良好に確保することができる。
【0026】
なお、トルク入力部26を保護するためのカバーは、図1および図2に例示されたトルク入力部26をほぼ完全に囲う係合部32を有するものに限られず、図4に示されるようなものであってもよい。図4に示されるカバー3Aは、概ね正六角形の断面形状を有するトルク入力部26の何れか一つの側面(係合面)と係合するように形成された係合部32Aを複数(3個)有している。図4の例において、3個の係合部32Aは、120°間隔で設けられており、接続端部28の裏面と当接可能な突起34をそれぞれ有する。これにより、トルク入力部26の複数の側面は、1つおきに係合部32Aと係合することになる。そして、カバー3Aも、スプリング4によって各係合部32Aがトルク入力部26から離間するように付勢されており、係合部32は、通常、カバー3Aの筒状部31によって囲われる。このように、プラグ本体2のトルク入力部26は、基本的にカバー3Aの筒状部31によって保護されることから、係合部32Aはトルク入力部26をほぼ完全に囲うものである必要はない。また、プラグ本体2は、ブレーキキャリパのシリンダであってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明によるブレーキ用ブリーダプラグを示す部分断面図である。
【図2】本発明によるブレーキ用ブリーダプラグを示す斜視図である。
【図3】図1のブレーキ用ブリーダプラグの使用状態を示す部分断面図である。
【図4】図1のブレーキ用ブリーダプラグに適用され得る他のカバーを示す斜視図である。
【符号の説明】
【0028】
1 ブレーキ用ブリーダプラグ、2 プラグ本体、3,3A カバー、4 スプリング、21 テーパ面、22 端面、23 雄ねじ溝、24,25 気体通路、26 トルク入力部、27 軸部、28 接続端部、31 筒状部、32,32A 係合部、32a 凹部、33 開口、34 突起、35 段部、100 ブレーキキャリパ、101 油圧室、102 ねじ孔、103 ブリーダ孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブレーキキャリパの液圧室を介して作動液中の気体を外部に排出するためのブレーキ用ブリーダプラグにおいて、
前記ブレーキキャリパと螺合可能であり、前記液圧室と外部との連通を規制または許容するプラグ本体と、
前記プラグ本体に設けられており、前記プラグ本体をブレーキキャリパに対して回転させる際に回転トルクが加えられるトルク入力部と、
前記トルク入力部と係合可能であると共に所定の工具と係合可能に形成された係合部を有し、前記トルク入力部を覆うことができるカバーとを備え、
前記プラグ本体をブレーキキャリパに対して回転させる際には、前記カバーの係合部を介して前記工具と前記トルク入力部とが係合させられることを特徴とするブレーキ用ブリーダプラグ。
【請求項2】
前記係合部が前記トルク入力部から離間するように前記カバーを付勢する弾性体を更に備えることを特徴とする請求項1に記載のブレーキ用ブリーダプラグ。
【請求項3】
前記カバーは、前記トルク入力部に対して回転自在であることを特徴とする請求項1または2に記載のブレーキ用ブリーダプラグ。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−131158(P2006−131158A)
【公開日】平成18年5月25日(2006.5.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−324246(P2004−324246)
【出願日】平成16年11月8日(2004.11.8)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】