説明

ブレーキ装置

【課題】 ハウジングのコンパクト化を図ることが可能なブレーキ装置を提供すること。
【解決手段】 本発明では、ハウジングに形成された有底孔内に組みつけられるピストンと、弁体を前記シート部から離間させるロッドを有する調圧弁と、を備え、調圧弁を有する油路をピストンの中心から互いに離れた方向に形成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ブレーキ液を貯留可能なリザーバ機能を備えたブレーキ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に記載の技術では、アンチロックブレーキ装置等に使用されるブレーキ装置内のリザーバ用ピストンの中心軸と、ピストンの上方に設置される調圧弁の中心軸とが一致するように配置している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第3937554号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、調圧弁は多くの部品から構成され、また軸方向にストロークすることから、軸長が長くなる。よって、リザーバ近傍に配置されるポンプ部との干渉を回避するためにリザーバそのものをポンプ部から離間して配置する必要があり、ハウジング全体の大型化を招いていた。
本発明の目的は、ハウジングのコンパクト化を図ることが可能なブレーキ装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するため、本発明では、ハウジングに形成された有底孔内に組みつけられるピストンと、弁体を前記シート部から離間させるロッドを有する調圧弁と、を備え、調圧弁を有する油路をピストンの中心から互いに離れた方向に形成した。
【発明の効果】
【0006】
よって、回転ギヤ式ポンプのレイアウト性の向上を図りつつ、ハウジングのコンパクト化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】実施例1のブレーキ液圧制御装置の液圧回路図である。
【図2】実施例1の液圧制御ユニットのハウジングを表すスケルトン図である。
【図3】実施例1のリザーバの構成を表す拡大部分断面図である。
【図4】実施例1の調圧弁の構成を表す拡大断面図である。
【図5】実施例1のフィルタ部材の斜視図である。
【図6】実施例1のフィルタ部材の詳細を表す図である。
【図7】実施例1のハウジングのA−A断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
〔実施例1〕
[ブレーキ液圧回路の構成]
図1は、実施例1のブレーキ液圧制御装置32の液圧回路図である。液圧回路は、マスタシリンダM/CとホイルシリンダW/Cとの間に設けられた液圧制御ユニット30内に形成されている。液圧制御ユニット30はアルミブロックから削りだされた略直方体のハウジング31を有し、このハウジング31内に複数の油路等が穿設され、後述する各バルブやポンプユニット及びモータを備えている。
このブレーキ液圧制御装置32は、コントローラからのVehicle Dynamics Control(VDC:車両挙動制御)、Anti-lock Brake System(ABS:アンチロックブレーキ制御)の要求液圧に応じて液圧制御を行う。ブレーキ液圧制御装置32においては、P系統のブレーキ液圧回路21PとS系統のブレーキ液圧回路21Sの2系統からなる、X配管構造となっている。P系統には、左前輪のホイルシリンダW/C(FL)、右後輪のホイルシリンダW/C(RR)が接続されており、S系統には、右前輪のホイルシリンダW/C(FR)、左後輪のホイルシリンダW/C(RL)が接続されている。ブレーキ液圧制御装置32と各ホイルシリンダW/Cとは、ハウジング31の上面に穿設されたホイルシリンダポート19RL,19FR,19FL,19RRに接続されている。また、ポンプユニットPはP系統、S系統それぞれに設けた外接ギヤ対からなる回転ギヤ式のギヤポンプPP及びギヤポンプPSをひとつのモータMによって駆動するタンデムギヤポンプである。
【0009】
マスタシリンダM/Cと液圧制御ユニット30とは、ハウジング31のポート接続面に穿設されたマスタシリンダポート20P,20Sを介して液路18P,18Sにおいて接続されている。この液路18とポンプユニットPの吸入側とは、液路10P,10Sによって接続されている。液路18P上であって、マスタシリンダポート20Pと、液路10Pとの接続部との間にはマスタシリンダ圧センサ22が設けられている。
ポンプユニットPの吐出側と各ホイルシリンダW/Cとは、液路11P,11Sによって接続されている。この各液路11上には、各ホイルシリンダW/Cに対応する常開型のソレノイドバルブである増圧バルブ3FL,3RR,3FR,3RLが設けられている。また各液路11上であって、各増圧バルブ3とポンプユニットPとの間にはチェックバルブ6P,6Sが設けられている。各チェックバルブ6は、ポンプユニットPから増圧バルブ3へ向かう方向へのブレーキ液圧の流れを許容し、反対方向の流れを禁止する。また各液路11上であって、各増圧バルブ3とポンプユニットPとの間には吐出圧センサ23P,23Sが設けられている。
【0010】
更に各液路11には、各増圧バルブ3を迂回する液路16FL,16RR,16FR,16RLが設けられており、液路16には、チェックバルブ9FL,9RR,9FR,9RLが設けられている。この各チェックバルブ9は、ホイルシリンダW/CからポンプユニットPへ向かう方向へのブレーキ液圧の流れを許容し、反対方向の流れを禁止する。
マスタシリンダM/Cと液路11とは液路12P,12Sによって接続されており、液路11と液路12とはポンプユニットPと増圧バルブ3との間において合流している。この各液路12上には、常開型のソレノイドバルブであるゲートアウトバルブ2P,2Sが設けられている。また各液路12には、各ゲートアウトバルブ2を迂回する液路17P,17Sが設けられており、この液路17には、チェックバルブ8P,8Sが設けられている。この各チェックバルブ8は、マスタシリンダM/C側からホイルシリンダW/Cへ向かう方向へのブレーキ液圧の流れを許容し、反対方向の流れを禁止する。マスタシリンダM/Cとリザーバ15P,15Sとは液路10aP,10aSによって接続されており、リザーバ15とマスタシリンダM/Cとの間にはチェックバルブ機能付きの調圧弁7P,7Sが設けられている。
ポンプユニットPの吸入側にはリザーバ15P,15Sが設けられており、このリザーバ15とポンプユニットPとは液路10bP,10bSによって接続されている。
ホイルシリンダW/Cと液路10とは液路13P,13Sによって接続されており、液路13と液路10とは調圧弁7とリザーバ15との間において合流している。この各液路13にそれぞれ、常閉型のソレノイドバルブである減圧バルブ4FL,4RR,4FR,4RLが設けられている。
【0011】
ここで、リザーバ15に隣接して設けられた調圧弁7の作用について説明する。通常制動時、すなわち、各バルブやポンプ等が非作動時には、マスタシリンダM/Cにおいてブレーキ液圧が発生すると、調圧弁7を閉塞し、マスタシリンダM/Cとリザーバ15との間を遮断する。そして、液路18を介して各ホイルシリンダW/Cにブレーキ液を供給する。次に、ABS作動時は、初期作動として増圧バルブ3を閉じ、減圧バルブ4が開くと、ホイルシリンダW/C内のブレーキ液が液路13を介してリザーバ15に流入する。このとき、ポンプユニットPの作動によりリザーバ15に流入したブレーキ液は液路11を介して汲み上げられ、マスタシリンダM/Cに還流される。VDC作動時には、ゲートアウトバルブ2を閉じ、所望の輪に対応する増圧バルブ3を開き、ポンプユニットPを作動させる。このとき、調圧弁7が閉じていたとしても、ポンプユニットPの汲み上げによってリザーバ15内が減圧され、調圧弁7を押し開く。これにより、マスタシリンダM/Cからブレーキ液を汲み上げ、必要なホイルシリンダW/Cに増圧されたブレーキ液を供給する。
【0012】
[ハウジングの構成]
図2は実施例1の液圧制御ユニットのハウジングを表すスケルトン図、図3は実施例1のリザーバの構成を表す拡大部分断面図である。図2では図を分かりやすくするために、各バルブやコントロールユニット、モータMを取り外した状態の図を示す。以下の説明では、図2においてマスタシリンダポート20が開口している面を前面311、前面311の背面を後面312、ホイルシリンダポート19が開口している面を上面313、上面313の背面を下面314、前面311に対して左側の側面を左側面315、前面311に対して右側の側面を右側面316と記載する。図2(a)はハウジング31を背面312から見た図、図2(b)はハウジング31を左側面315から見た図である。
ハウジング31は略直方体であり、前面311側にモータMが取り付けられ、後面312側にゲートアウトバルブ2、増圧バルブ3、減圧バルブ4の各ソレノイドバルブ群、及びこれらソレノイドバルブ群を駆動する電気ユニットが取り付けられる。電気ユニットとは、車両に取り付けられた車輪速センサ等の入力信号に応じて所定の演算を行う基板を備えたものであり、ソレノイドバルブに取り付けられたソレノイドや、モータMに所定の電気信号を出力する。この電気ユニットはユニットケース内に収容されている。ハウジング31には、前面311と後面312とを貫通する電源孔24が形成されており、この電源孔24にモータMの電極を差し込むことで、電気ユニットとモータMとを接続している。
【0013】
ハウジング31には、各ソレノイドバルブ群が圧入もしくはカシメにより取り付けられるバルブ取り付け用の孔と、各ポートや各ソレノイドバルブ群との間を接続する複数の液路と、各シリンダ(ホイルシリンダW/C、マスタシリンダM/C)と接続するポート(ホイルシリンダポート19、マスタシリンダポート20)とリザーバ15を配置する空孔等が形成されている。これら各孔、液路孔等はハウジング31の外側から各面に対してドリル等により穿設される。
前面311の上面313側には、マスタシリンダポート20が形成されている。ポンプユニットPは、ハウジング31の前面311から後面312にかけて貫通する、略円柱状の収容部41に収容されている。この収容部41は後面312側の開口部をエンドプレートによって封鎖されている。またハウジング31の左側面315から右側面316にかけて収容部41と略直交するように吐出部収容孔47P,47Sが形成されている。この吐出部収容孔47P,47SにポンプユニットPの吐出液路に接続するチェックバルブ6P,6Sが挿入されている。
【0014】
図3は実施例1のリザーバの構成を表す拡大部分断面図である。尚、この拡大部分断面図はP系統側のリザーバ15を示すが、S系統においてもポンプユニットPの回転中心軸を含みハウジング側面に平行な上下方向の面を中心に対象に配置されているものであり、符号については特にS、Pを付さずに説明する。ハウジング31の下方には、下面314から上方に向かって円筒状の有底孔31aが穿設されている。有底孔31aのハウジング下方開口にはリテーナ保持面31a2が形成され、このリテーナ保持面31a2はリテーナ部材151をカシメ固定31a3によって保持している。リテーナ部材151は、外周縁がカシメ固定31a3によって狭持されるフランジ部151aと、フランジ部151aから下方に屈曲形成された円筒部151bと、コイルスプリング152(第1弾性部材)の一端を保持する保持面151cが形成された閉塞部を有し、この閉塞部の略中央には空気孔151dが形成されている。これにより、ピストン本体153の下方は常に大気圧が作用するように構成されている。
有底孔31aは、ピストン本体153のピストン面153hと当接するピストン当接面31a1と、ピストン当接面31a1よりも小径であって有底孔31aの中央に形成された小径筒部31bとを有する。小径筒部31bには、減圧バルブ4と連通する液路13及びポンプユニットPの吸入側と連通する液路10bが接続されている。小径筒部31bよりも更に上方には、有底孔31aの中心軸すなわちピストン本体153の中心軸OPから図中左側にオフセットした位置に中心軸ORを有する円筒状の調圧弁収装孔31cが形成されている。調圧弁収装孔31cの上方には、調圧弁収装孔31cより小径であって調圧弁収装孔31cの底部である縮径部31c1を介して直列に形成された小径油路である液路10aが接続されている。この液路10aはマスタシリンダM/Cと連通する。
【0015】
調圧弁収装孔31c内には、液路10aから流入したブレーキ液内の不純物を取り除くフィルタ部材75と、フィルタ部材75と嵌め合いつつ調圧弁7を構成するシート部材71とが収装されている。図4は実施例1の調圧弁の構成を表す拡大断面図、図5は実施例1のフィルタ部材の斜視図、図6は実施例1のフィルタ部材の詳細を表す図である。図4に示す調圧弁7はロッド74が最下端に位置した状態を示す。フィルタ部材75はメッシュ状であって円筒状のフィルタ75aと、ボール部材72のストッパとして機能するストッパ部75bと、フィルタ部材75の骨格部材であってフィルタ75aが内側に取り付けられる柱部75cと、柱部75cの下方において円環状に形成され、柱部75cと接続された筒状部75dと、フィルタ部材75の液路10a側に面する冠面に形成され液路10aとフィルタ75aとの間の流路を確保するための突起75eとを有する。突起75eは必要に応じて調圧弁収装孔31cの底部である縮径部31c1に当接し流路を確保する。尚、フィルタ部材75の外径は、調圧弁収装孔31cよりも小径とされており、フィルタ部材75外周と調圧弁収装孔31cとの間の流路を確保している。
ストッパ部75bは、フィルタ部材75の底面75b2まで延在する円柱状の中央ストッパ部75baと、中央ストッパ部75baの外周に均等に四箇所配置されテーパ面を有する補強部75bbを有する。補強部75bbと隣接する補強部75bbとの間には縦溝75bcを有し、縦溝75bcは底面75b2よりも底上げされ、調圧弁用リターンスプリング73を保持するスプリング保持面75b1を有する。また、筒状部75dの内周側下端であって周方向4箇所には、内周側に隆起した係合凸部75d1が形成されている。このフィルタ部材75は樹脂により形成されている。
【0016】
シート部材71の上端とフィルタ部材75とで囲まれた領域内には、ボール部材72(弁体)と、このボール部材72をシート部材71側に付勢する調圧弁用リターンスプリング73(第2弾性部材)が取り付けられている。尚、調圧弁用リターンスプリング73の弾性力は、コイルスプリング152の弾性力よりも弱く設定され、ブレーキ液圧が作用していない状態では、コイルスプリング152の弾性力によりボール部材72がロッド74を介して押し上げられる構成とされている。
シート部材71は、複数の段部を有する円筒状部材であり、フィルタ部材75と嵌め合いを形成する上部円筒部71gと、上部円筒部71gよりも拡径され、調圧弁収装孔31cと略同一径を有する中部円筒部71hと、中部円筒部71hよりも僅かに拡径された下部円筒部71jとを有する。上部円筒部71gと中部円筒部71hとの間には係合溝71eが形成され、また、中部円筒部71hと下部円筒部71jとの間には調圧弁7を調圧弁収装孔31c内に圧入時、ハウジング材料が嵌入する嵌入溝71fが形成されている。フィルタ部材75とシート部材71とは、フィルタ部材75内部に調圧弁用リターンスプリング73及びボール部材72を入れた状態で、ロッド74が収容されたシート部材71の上部円筒部71gをフィルタ部材75の筒状部75d内に挿入する。すると、フィルタ部材75の係合凸部75d1とシート部材71の係合溝71eとが嵌め合うことで一体構造となり、調圧弁7を構成する。
【0017】
シート部材71は、軸方向中央においてボール部材72と当接するロッド74を収容しつつロッド74外周との間でブレーキ液通路を形成する貫通孔71bと、貫通孔71bよりも小径であってロッド74を径方向に保持する保持孔71dと、シート部材71の下方から保持孔71dを取り囲む位置に複数穿設され、貫通孔71bの下端部分と部分的に連通する流通孔71cとを有する。貫通孔71bのボール部材72側には、すり鉢状のシート部71aが形成されている。ボール部材72がシート部71aに着座しているときには、液路10aと小径筒部31bとの間でブレーキ液が流通することはない。一方、ロッド74によってボール部材72が調圧弁用リターンスプリング73の力に抗して押し上げられると、液路10aから供給されるブレーキ液は、フィルタ部材75のフィルタ75aを通って貫通孔71bとロッド74外周との間の隙間を通り、流通孔71cから小径筒部31bへと流出する。
また、調圧弁用リターンスプリング73の自由長は、ボール部材72を常にシート部材71側に付勢可能な長さに設定されている。上述したように、フィルタ部材75とシート部材71とは係合凸部75d1と係合溝71eとが嵌め合うことで一体構造とされており、また、組み付け誤差を吸収するために、フィルタ部材75の上端(突起75eの上端)と調圧弁収装孔31cの底部との間には僅かに隙間が設定されている。このとき、仮に、フィルタ部材75とシート部材71との嵌め合いが外れてフィルタ部材75が脱落し、フィルタ部材75が調圧弁収装孔31cの底部と当接した場合であっても、突起75eにより液路10aとフィルタ75aとの間の流路を確保し、更に、ボール部材72が調圧弁用リターンスプリング73によってシート部71aに押し付けることが可能とされている。
【0018】
ロッド74は棒状の金属製部材であり、保持孔71dよりも大径であってボール部材72と当接するロッド先端部74aと、保持孔71dと略同一径であってロッド先端部74aよりも長く形成されたロッド中間部74bと、ロッド中間部74aから徐々に縮径されたテーパ形状であって後述するプレート部材155の上面155bと当接するロッド下端部74cとを有する。尚、ロッド74はピストン本体153と別部材として構成されており、ピストン本体153がロッド中間部74bの長さ以上にストロークした場合には、ロッド下端部74cがプレート部材上面155bと離間する。言い換えると、ロッド先端部74aは保持孔71d上端と当接することでストッパとして機能している。尚、ロッド74の中心軸ORはピストン本体153の中心軸OP(回転中心)からオフセットして配置されることは、前述の通りである。
【0019】
ピストン本体153は、樹脂成形された部材であって、底部153a1を有する有底筒状に形成されている。ピストン本体153の円筒外周には、有底孔31aの内周径よりも若干小径に形成された上部外周部153fと、上部外周部153fの下方に形成され、環状シール部材154を収装する環状溝153eと、有底孔31aの内周径と略同一径で形成され環状シール部材154を保持するシール部材保持部153dと、シール部材保持部153dの下方に形成され有底孔31aの内周径よりも小径であって上部外周部153fと略同一径の縮径部153cと、縮径部153の下方に形成され有底孔31aの内周径と略同一径を有するウェルドライン形成部153bとを有する。環状シール部材154は、その上方を液圧室とし、下方を空気室として区画する。
ここで、ウェルドラインとは、樹脂成形(インサート成形)する際に、ゲート位置(溶融樹脂を型内に注入するときの注入口)から離れた位置であって型内に流入した樹脂が他の経路を通って流入した樹脂と合流しつつ冷え固まるときの樹脂同士の接合跡として残る部分である。一般にウェルドラインが形成される部分は精度が低くなる傾向にある。実施例1では、環状シール部材154よりも下方、すなわち空気室として区画される位置にウェルドライン形成部153bを有する。すなわち、さほど液密性等に関する精度が要求されない位置にウェルドラインが形成されるようにピストン本体153を構成しており、言い換えると、精度が要求される箇所にウェルドラインが形成されないようにしている。
【0020】
ピストン本体153の円筒部内周153aはコイルスプリング152よりも僅かに大径となるように形成され、底部153a1においてコイルスプリング152の他端を保持している。ピストン本体153の上面に形成されたピストン面153hの中央領域(すなわち、冠面153j)には、ピストン本体153の樹脂よりも硬質な硬質体として金属製のプレート部材155がインサート成形により組みつけられている。プレート部材155は円盤形状のステンレス製部材であり、その外径DPは、コイルスプリング152の外径DSよりも大径となる大きさとされている。
すなわち、樹脂製のピストン本体153の底部153a1によりコイルスプリング152を保持すると、その箇所には常時、コイルスプリング152による弾性力が作用する。仮に、金属製のプレート部材155の外径をコイルスプリング152の外径よりも小径とすると、軸方向から見たとき、コイルスプリング152の当接位置とプレート部材155とが径方向において離間するため、冠面153jとピストン底部153a1との間にせん断力が作用してしまい、ピストン本体153の耐久性を低下させるおそれがある。一方、実施例1のように、コイルスプリング152の外径DSよりもプレート部材155の外径DPが大きければ、軸方向から見たとき、コイルスプリング152の当接位置とプレート部材155とが径方向において離間することなく軸方向から見て重なることとなる。よって、冠面153jには圧縮力しか作用せず、耐久性の低下が抑制されるのである。
【0021】
図7は実施例1のハウジングのA−A断面図である。P系統のリザーバ15Pが収装される有底孔31aPは図7中の左側に配置され、S系統のリザーバ15Sが収装される有底孔31aSは図7中の右側に配置されている。そして、有底孔31aPと連通する調圧弁収装孔31cPの中心軸ORは、有底孔31aPの中心軸OPよりも図7中左側にオフセットして配置されている。同様に、有底孔31aSと連通する調圧弁収装孔31cSの中心軸ORは、有底孔31aSの中心軸OPよりも図7中右側にオフセットして配置されている。言い換えると、調圧弁収装孔31aと連通する両液路10aは、ピストン本体153の中心軸OPから互いに離れた方向に形成している。このように、調圧弁収装孔31cが互いに離れるようにオフセットして配置されることで、調圧弁収装孔31cに挟まれた領域を広く取ることができる。リザーバ15のすぐ上には、回転ギヤ式ポンプを収装するための収容部41が形成されており、このスペースは要求されるポンプ吐出能力等によって概ね決定されてしまう。そこで、調圧弁収装孔31cが互いに離れた方向となるようにオフセットすることで、回転ギヤ式ポンプのレイアウト性の向上を図りつつ、ハウジング全体の大型化を抑制している。
【0022】
以上説明したように、実施例1にあっては下記に列挙する作用効果を得ることができる。
(1)ハウジング31と、ハウジング31に形成された一対の有底孔31aP,S内に組みつけられるピストン本体153と、ピストン本体153を有底孔31aの底部方向に付勢するコイルスプリング152(第1弾性部材)と、各有底孔31aP,Sの底部に穿設され有底孔31aより小径の調圧弁収装孔31cと、調圧弁収装孔31cに配置され、ボール部材72(弁体)と、ボール部材72が当接するシート部71aとピストン本体153の冠面153jとボール部材72との間に配置され、ボール部材72をシート部71aから離間させるロッド74と、ボール部材72に一端側が当接してシート部71aの方向に付勢するコイルスプリング152より弱い弾性力を有する調圧弁用リターンスプリング73(第2弾性部材)と、からなる調圧弁7と、調圧弁7を介してブレーキ液の吸入を行う回転ギヤ式ポンプPと、回転ギヤ式ポンプPを一対の調圧弁7に挟まれた領域に配置し、調圧弁収装孔31cをピストン本体153の中心から互いに離れた方向に形成した。
よって、調圧弁収装孔31cの間のスペースを確保することができ、回転ギヤ式ポンプPのレイアウト性の向上及びハウジング全体の大型化の抑制を図ることができる。
【0023】
(2)調圧弁収装孔31cに調圧弁収装孔31cより小径であって調圧弁収装孔31cに縮径部31c1を介して直列に形成された液路10a(小径油路)と、調圧弁収装孔31c内に固定されシート部71aを構成するシート部材71と、シート部材71に固定され調圧弁用リターンスプリング73の他端を支持する有底筒状のフィルタ部材75と、フィルタ部材75の冠面に縮径部31c1に係合して液路10aから調圧弁収装孔31cへのブレーキ液の流れを確保するための複数の突起75e(突起部)を形成した。
よって、フィルタ部材75がシート部材71から脱落したとしても、液路10aからリザーバ15側へのブレーキ液の流れを確保することができる。
【0024】
(3)調圧弁用リターンスプリング73はコイルスプリングであって、調圧弁収装孔31c内においてボール部材72を常にシート部71aに向かって付勢可能な自由長に設定されている。
よって、フィルタ部材75がシート部材71から脱落したとしても、ボール部材72が調圧弁用リターンスプリング73によってシート部71aに押し付けることができる。
【符号の説明】
【0025】
7 調圧弁
10 液路
10a 液路
10b 液路
11 液路
13 液路
15 リザーバ
31 ハウジング
31a 有底孔
31b 小径筒部
31c 調圧弁収装孔
31c1 縮径部
32 ブレーキ液圧制御装置
71 シート部材
71a シート部
72 ボール部材
73 調圧弁用リターンスプリング
74 ロッド
75 フィルタ部材
151 リテーナ部材
152 コイルスプリング
153 ピストン本体
155 プレート部材
M/C マスタシリンダ
P ポンプユニット
W/C ホイルシリンダ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハウジングと、
前記ハウジングに形成された一対の有底孔内に組みつけられるピストンと、
前記各ピストンを前記有底孔の底部方向に付勢する第1弾性部材と、
前記各有底孔の底部に穿設され前記有底孔より小径の油路と、
前記各油路に配置され、弁体と、前記弁体が当接するシート部と前記ピストンの冠面と前記弁体との間に配置され、前記弁体を前記シート部から離間させるロッドと、
前記弁体に一端側が当接して前記シート部の方向に付勢する前記第1弾性部材より弱い弾性力を有する第2弾性部材と、からなる調圧弁と、
前記調圧弁を介してブレーキ液の吸入を行う回転ギヤ式ポンプと、
前記回転ギヤ式ポンプを前記一対の調圧弁に挟まれた領域に配置し、
前記各油路を前記ピストンの中心から互いに離れた方向に形成したことを特徴とするブレーキ装置。
【請求項2】
請求項1に記載のブレーキ装置において、
前記油路に該油路より小径であって前記油路に縮径部を介して直列に形成された小径油路と、
前記油路内に固定され前記シート部を構成するシート部材と、
前記シート部材に固定され前記第2弾性部材の他端を支持する有底筒状のフィルタ部材と、
前記フィルタ部材の冠面に前記縮径部に係合して前記小径油路から前記油路へのブレーキ液の流れを確保するための複数の突起部を形成した
ことを特徴とするブレーキ装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載のブレーキ装置において、
前記第2弾性部材はコイルスプリングであって、
前記コイルスプリングは、前記油路内において前記弁体を常に前記シート部に向かって付勢可能な自由長に設定されていることを特徴とするブレーキ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−121340(P2012−121340A)
【公開日】平成24年6月28日(2012.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−271206(P2010−271206)
【出願日】平成22年12月6日(2010.12.6)
【出願人】(509186579)日立オートモティブシステムズ株式会社 (2,205)
【Fターム(参考)】