説明

ブロックマット用シート

【課題】厚みが薄いにもかかわらず、十分な機械的強度を有し、かつ、吸出し防止効果の優れたブロックマット用シートを提供する。
【解決手段】タテ糸1とヨコ糸2によって構成された厚みが1mm以下のメッシュ状織物において、その略長方形の空隙3の一辺a及びbが500〜1000μm、引張強度が2.94kN/5cm以上であり、かつこのメッシュ状織物がJIS−A−1218「土の透水試験方法」に準じた試験で透水面積1cm、水頭10cm、透水時間60秒での透水量が300cm以上であるブロックマット用シート。メッシュ状織物は、からみ組織や模紗組織で構成されていることが好ましく、メッシュ状織物が樹脂加工を施されていることも好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、厚みが薄いにもかかわらず、吸出し防止機能と機械的物性に優れたブロックマット用シートに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、不織布製などの吸出し防止シートの一面に多数のコンクリートブロックを規則正しく配列接着させた、いわゆるブロックマットが河川、港湾等の土壌表面浸食防止や、植生の目的で広く使用されてきた。
【0003】
近年では、施工法の改善により一度に広い面積を施工するため5〜10m程度の比較的長尺のブロックマットを重機によって長手方向の両端を掴んで引き上げ、盛土法面などに直接敷設される(例えば、特許文献1参照)。このため、吸出し防止シートには、シート本来のろ過・排水機能に加えて、コンクリートブロック群の重量に耐えるだけの機械的強度、施工時の粗雑な取り扱いに耐える耐久性等が要望されるようになってきた。
【0004】
これらの厳しい要請に対し、ブロックマット用シートとしてタテ方向に配列したポリエステル長繊維で補強したポリプロピレン短繊維不織布(例えば、特許文献2参照)や、タテ、ヨコ方向に配列した9g/d以上の高強度の繊維で補強したポリエステル長繊維不織布(例えば、特許文献3参照)が提案されている。
【0005】
両者とも、タテ及びヨコ方向に配列した長繊維で機械的物性を主に担い、不織布で吸出し防止効果を発揮する構成となっている。
【0006】
ところで、ブロックマットに仕上げるには、コンクリートブロックを不織布に成形して乗せ、コンクリート養生の期間中に不織布繊維とのアンカー効果で固着させて製造する。
【0007】
しかし、これら従来の提案によれば、機械的強力が補強用繊維により向上した吸出し防止シートを得ることができるが、次のような問題が残されていた。
【0008】
すなわち、機械的強度を担うために配列された長繊維も、不織布との接合はニードリングによる方法であるため、十分な接合強力は得られないうえに、ニードルとの接触により長繊維が切断等を起こし、強力低下が避けられない。そのため、施工時に乱雑に扱われたり、施工面の突起に引っ掛ったりした時に破損することがあった。また、これらの補強用繊維としては8cN/dtex以上の高強度のもの、例えば高強度ポリエチレンテレフタレート、p−アラミド、ポリアリレート、超高強度ポリエチレン、PBO、PBZT等が記載されているが、これらの繊維は比較的コストが高いものである。
【0009】
また、不織布は、護岸域の土砂の流出を抑制するいわゆる吸出し防止のために用いられているが、不織布は個々の空隙に大小のバラツキがあり、そのために吸出し防止の効果を発揮するためにある程度の厚みを要する。そのため、ブロックマット用の不織布は嵩高なシートとなることが避けられず、そのため取扱い性や施工性が悪いという問題があった。
【特許文献1】特開2005−113491号公報
【特許文献2】特公平1−35106号公報
【特許文献3】特開2004−156181号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記した従来の、不織布を吸出し防止効果の目的で用いたブロックマット用シートの欠点である嵩高性や機械的強力の不足の問題を解決し、吸出し防止機能と機械的強度に優れていながら、厚みが薄くて取扱い性や施工性に優れたブロックマット用シートを提供することを技術的な課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記の課題を解決するために鋭意検討した結果、本発明に到達した。
【0012】
すなわち、本発明は、次の構成を要旨とするものである。
【0013】
(1)タテ糸とヨコ糸によって構成された厚みが1mm以下のメッシュ状織物において、その略長方形の空隙の一辺が100〜1000μm、引張強度が2.94kN/5cm以上であり、かつこのメッシュ状織物がJIS−A−1218「土の透水試験方法」に準じた試験で透水面積1cm、水頭10cm、透水時間60秒での透水量が300cm以上であることを特徴とするブロックマット用シート。
(2)メッシュ状織物が、からみ組織もしくは模紗組織で構成されていることを特徴とする上記(1)記載のブロックマット用シート。
(3)メッシュ状織物が樹脂加工を施されていることを特徴とする上記(1)又は(2)記載のブロックマット用シート。
【発明の効果】
【0014】
本発明のブロックマット用シートは、従来のように嵩高な不織布でないメッシュ状織物を用い、その引張強度と空隙の大きさを規定することで、機械的強度に優れ、かつ優れた吸出し防止効果を発揮することができ、さらに厚みが薄いシートなので取扱い性や施工性も大幅に向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0016】
本発明のブロックマット用シート(以下、シートと略称することがある。)は、タテ糸とヨコ糸によって構成されるメッシュ状の織物である。織物を構成する繊維素材は、特に限定されるものではない。繊維素材の具体例としてはスチール、ガラス繊維や岩石繊維に代表される無機繊維、ポリアミド、ポリビニルアルコール、ポリ塩化ビニリデン、ポリ塩化ビニル、ポリエステル、ポリアクリロニトリル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリウレタン及びポリフルオロエチレン等に代表される合成繊維、レーヨンやキュプラに代表される再生繊維、さらにはアセテートに代表される半合成繊維等を使用することができる。これらの中では、合成繊維がコスト面で好ましく、中でも強度や耐薬品性、耐候性等に優れたポリエチレンテレフタレートやポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステルが特に好ましい。
【0017】
本発明のシートの厚みとしては、1mm以下であることが必要であり、0.5〜0.9mmであることが好ましい。本発明のシートは、厚みが1mm以下と従来の不織布からなるシートよりも厚さが薄いことで、保管時の取扱い性や施工時の操作性に優れたものとなる。シートの厚みが1mmを超えると、保管時の取扱い性や施工時の操作性が低下するので好ましくない。
【0018】
また、本発明のシートの引張強度としては、2.94kN/5cm以上であることが必要であり、3.2〜4.5kN/5cmであることが好ましい。本発明のシートが2.94kN/5cm以上の引張強度を有することで、コンクリートブロック群の重量に耐えるだけの機械的強度と、施工時の粗雑な取り扱いに耐える耐久性等を有するものとなる。
【0019】
2.94kN/5cm以上の引張強度を有するブロックマット用シートを得るためには、タテ糸とヨコ糸に使用する繊維は、高強度のものが好ましく、具体的には5cN/dtex以上、特に7cN/dtex以上のものが好ましい。また、繊度は、厚みが1mm以下の薄いシートに仕上げるために280〜2200dtexが好ましく、より好ましくは560〜1650dtexである。
【0020】
さらに、本発明で用いられる繊維のフィラメント数は、特に限定されるものではなく、モノフィラメントから200本程度のマルチフィラメントまで使用することができる。また、繊維中に顔料、帯電防止剤、紫外線吸収剤等の改質剤を含んだものでもよい。
【0021】
また、本発明のブロックマット用シートは、そのメッシュ状の略長方形の空隙の一辺(図1で示すタテ方向の一辺aとヨコ方向の一辺b)がいずれも100〜1000μmであることが必要であり、500〜1000μmであることが好ましい。本発明者らは数多くの実験を行った結果、この一辺の長さを有する空隙のメッシュ状織物が最も効率よく吸出し防止効果が得られることを見出した。空隙の一辺が100μm未満では、空隙が小さすぎるために微粒砂まで保守し、透水性に劣る。一方、1000μmを超えると、空隙が大きすぎるために中粒砂も通してしまうためにろ過性能に劣るものとなる。
【0022】
さらに、本発明のブロックマット用シートは、JIS−A−1218「土の透水試験方法」に準じた試験で透水面積1cm、水頭10cm、透水時間60秒での透水量が300cm以上、好ましくは500〜1000cmの性能を有するものである。この透水量が300cm未満では透水性が不十分であり、法面等の崩壊につながる恐れがある。
【0023】
前述したように、本発明のブロックマット用シートはメッシュ状の織物であるが、その織組織はからみ組織、もしくは模紗組織とすることが好ましい。これらの組織で仕上げた織物は、タテ糸とヨコ糸の交点での目ズレが発生し難く、上記した空隙の大きさを、施工中、施工後も安定して維持することができる。図1に模紗組織の一例として3本模紗組織の模式図を示す。
【0024】
また、本発明のブロックマット用シートは、樹脂加工を施したものが好ましい。これは上記の交点を固定する目的と、施工中、施工後に砂礫が繊維間に入ることによる強力劣化を防止し、耐候性、耐薬品性を向上させるために好ましい。使用する樹脂は特に限定されるものではなく、例えばポリ塩化ビニル系、ポリウレタン系、アクリル系、エチレン酢酸ビニル共重合体系、オレフィン系等の樹脂を使用することができる。さらに、これらの樹脂中に顔料、紫外線吸収剤等の改質剤を含有させて加工することもできる。また、樹脂加工方法も限定されるものではなく、ディッピング法、コーティング法等を使用することができる。
【0025】
本発明のブロックマット用シートを用いて実際のブロックマットにするには、例えばコンクリートブロック用の型枠に生コンクリートを打設し、その上に本発明のシートを敷いて接合する、そして、養生してから脱型する。あるいは、予め養生したコンクリートブロックを展張した本発明のシートの上にエポキシ系の接着剤を介して接着させる、等の種々の方法を採用することができる。図2は、本発明のシートを用いたブロックマットの一例を示す斜視図である。
【0026】
本発明のブロックマット用シートは、織物でかつ厚みが非常に薄いため、不織布製と異なりすべりがよくて作業性が非常に優れ、太巻きできるようになり、総じて従来品と比較して製造コストを大幅に低減することができる。
【実施例】
【0027】
次に、本発明を実施例によって具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例によって何ら限定されるものではない。
【0028】
実施例1
繊度830dtex、フィラメント数70、強度7.46cN/dtexのポリエチレンテレフタレート繊維をS撚90T/Mで撚糸した糸条をタテ糸及びヨコ糸に用い、タテ糸密度33本/2.54cm、ヨコ糸密度33本/2.54cm、3本模紗組織で製織し、メッシュ状織物を得た。得られたメッシュ状織物にアクリル酸エステル系エマルジョン(「ウルトラゾール」ガンツ化成社製)をディッピングにより付与し、180℃で60秒間乾燥・熱処理を行ってブロックマット用シートを得た。
【0029】
実施例2
タテ糸に繊度1100dtex、フィラメント数96、強度7.46cN/dtexのポリエチレンテレフタレート繊維を用い、タテ糸密度を30本/2.54cmにした以外は実施例1と同様に行い、ブロックマット用シートを得た。
【0030】
比較例1
使用原糸が同じで、タテ糸密度45本/2.54cm、ヨコ糸密度45本/2.54cm、3本模紗で製織した以外は実施例1と同様に行い、ブロックマット用シートを得た。
【0031】
比較例2
繊度1100dtex、フィラメント数96、強度7.46cN/dtexのポリエチレンテレフタレート繊維をS撚100T/Mで撚糸した糸条をタテ糸及びヨコ糸に用い、タテ糸密度21本/2.54cm、ヨコ糸密度21本/2.54cm、3本模紗組織で製織し、メッシュ状織物を得た。得られたメッシュ状織物に実施例1と同様の樹脂加工を行い、ブロックマット用シートを得た。
【0032】
実施例1、2と比較例1、2で得られたブロックマット用シートの特性を表1に示す。
【0033】
【表1】

【0034】
表1から明らかなように、実施例1、2で得られたブロックマット用シートは、十分な強度を持ちながら、透水性にも優れたものであった。
【0035】
一方、空隙の一辺の長さが短い比較例1のブロックマット用シートは、十分な強力があるものの、透水性が劣るものであった。また、空隙の一辺の長さが長い比較例2のブロックマット用シートは、実施例1、2よりも透水性が優れていた。
【0036】
そこで、実際の砂とシートを積層させて、砂の流出の程度を評価した。
(砂−シート積層系の透水時の土粒子移動の評価)
丸東製作所製ジオテキスタイル圧密透水試験機を用い、砂とシートを積層させ、その透水時の砂粒子移動を検証した。用いた砂粒子移動試験装置の主要部を図3に示す。測定シリンダー内は、流れの偏りを防ぐため高さ6cmの円管(塩ビ管)をシリンダー底部に置き、その上に、さらにその上に置く金網が変形しないように、直径5mm程度の穴を多数開けた厚み1cmのアクリル板を置いた。金網はシートが変形しないためのもので目明き1600μmのものを用いた。シートは金網の上に設置し、全体としてシートの変形及び流れの偏りがないようように十分考慮した。シートの上流部に載せる砂は含水比30%で1kgfを十分混合して用いた。砂は豊浦標準砂を120μmのメッシュのふるいにかけて通過しなかったものを用いた。
【0037】
実験条件は、土圧2kgf/cm2、付加水圧1kgf/cm2、総流量500リットルとした。表2に透水後の流出砂量を示す。
【0038】
【表2】

【0039】
表2から明らかなように、実施例1、2のブロックマット用シートは、ほとんど砂を通さなかったが、比較例2のブロックマット用シートからは大量の砂が流出した。
【0040】
以上の結果より、本発明のブロックマット用シートは厚みが薄く、十分な強力を有しながら、透水性、ろ過性能に優れるシートであり、ブロックマット用のシートとして好適であることが分かった。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明のブロックマット用シートを構成するメッシュ状織物の一実施態様を示す3本模紗組織の模式図である。
【図2】本発明のシートを用いたブロックマットの一例を示す斜視図である。
【図3】砂−シート積層系の透水時の土粒子移動の評価に用いた、砂粒子移動試験装置の主要部を示す断面図である。
【符号の説明】
【0042】
1 タテ糸
2 ヨコ糸
3 空隙
a タテ方向の一辺
b ヨコ方向の一辺
4 ブロックマット用シート
5 コンクリートブロック
6 ブロックマット
7 シート
8 金網
9 穴空きアクリル板
10 塩ビ管
11 流量計
12 減圧弁
13 給水
14 エアー
15 水
16 砂
17 排水及び流出砂


【特許請求の範囲】
【請求項1】
タテ糸とヨコ糸によって構成された厚みが1mm以下のメッシュ状織物において、その略長方形の空隙の一辺が100〜1000μm、引張強度が2.94kN/5cm以上であり、かつこのメッシュ状織物がJIS−A−1218「土の透水試験方法」に準じた試験で透水面積1cm、水頭10cm、透水時間60秒での透水量が300cm以上であることを特徴とするブロックマット用シート。
【請求項2】
メッシュ状織物が、からみ組織もしくは模紗組織で構成されていることを特徴とする請求項1記載のブロックマット用シート。
【請求項3】
メッシュ状織物が樹脂加工を施されていることを特徴とする請求項1又は2記載のブロックマット用シート。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−169836(P2007−169836A)
【公開日】平成19年7月5日(2007.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−369961(P2005−369961)
【出願日】平成17年12月22日(2005.12.22)
【出願人】(399065497)ユニチカファイバー株式会社 (190)
【Fターム(参考)】