説明

ブロック共重合体及びその用途

【課題】燃料電池等の高分子電解質として好適な、プロトン伝導性と、耐水性等の化学安定性とを高水準で両立する高分子電解質を提供する。
【解決手段】[1]イオン交換基が導入されたセグメントと、イオン交換基が実質的に導入されていないセグメントとをそれぞれ有するブロック共重合体であって、イオン交換基が導入されたセグメントが特定構造を有するポリエーテルケトン又はポリエーテルスルホンからなり、且つそのイオン交換容量が4.0meq/g以上のセグメントであり、イオン交換基が実質的に導入されていないセグメントがスルホン基を有するポリエーテル含むセグメントであるブロック共重合体。[2]イオン交換基が酸基である、上記[1]のブロック共重合体。[3]上記[1]または[2]に記載のブロック共重合体からなる高分子電解質膜を有する燃料電池。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高分子電解質、なかでも燃料電池用部材として好適に用いられるブロック共重合体に関する。
【背景技術】
【0002】
一次電池、二次電池、あるいは固体高分子型燃料電池等の電気化学デバイスの隔膜を構成する材料として、プロトン伝導性を有する高分子すなわち高分子電解質が用いられている。例えば、ナフィオン(デュポン社の登録商標)をはじめとする、側鎖に超強酸としてのパーフルオロアルキルスルホン酸を有し、主鎖がパーフルオロアルカン鎖である高分子を有効成分とする高分子電解質が、燃料電池用の隔膜材料として用いた場合に発電特性が優れることから、従来主に使用されてきている。しかしながらこの種の材料は非常に高価であること、耐熱性が低いこと、膜強度が低く何らかの補強をしないと実用的でないことなどの問題が指摘されている。
【0003】
こうした状況において、上記高分子電解質に替わり得る安価で特性の優れた高分子電解質の開発が近年活発化してきている。
例えば、スルホン酸基が実質的に導入されていないセグメントおよびスルホン酸基が導入されたセグメントを有するブロック共重合体であって、前者のセグメントがポリエーテルスルホンからなり、後者のセグメントがジフェニルスルホンとスルホン酸基を有するビフェノールとのエーテル結合体を繰返し単位とするブロック共重合体が提案されている(例えば、特許文献1参照)。しかしながら、燃料電池の実用化には、さらなるプロトン伝導度(イオン伝導度)の向上が求められ、単にイオン伝導度の向上を求めて、イオン交換基総数を増加させると、耐水性が悪化する傾向があった。
【0004】
【特許文献1】特開2003−031232号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、燃料電池等の高分子電解質として好適な、プロトン伝導性と、耐水性とを高水準で両立する高分子電解質を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者等は、燃料電池用イオン伝導膜等に適用される高分子電解質として、より優れた性能を示すブロック共重合体を見出すべく鋭意検討を重ねた結果、特定のブロック共重合体が上記課題を解決できることを見出し、更に種々の検討を加え、本発明を完成した。
【0007】
すなわち本発明は、
[1]イオン交換基が導入されたセグメントと、イオン交換基が実質的に導入されていないセグメントとをそれぞれ有するブロック共重合体であって、
前記イオン交換基が導入されたセグメントが下記一般式(1A)、一般式(1B)または一般式(1C)で表され、且つそのイオン交換基密度が4.0meq/g以上のセグメントであり、

(式中、mは5以上の整数を表し、kは1または2を表す。Ar1、Ar2、Ar3a、Ar3bは互いに独立に2価の芳香族基を表し、ここでこれらの2価の芳香族基は、置換基を有していてもよい炭素数1〜20の炭化水素基、置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルコキシ基、置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアシル基、置換基を有していてもよい炭素数6〜20のアリールオキシ基または置換基を有していてもよい炭素数7〜20のアリールカルボニル基で置換されていてもよい。Ar1、Ar2のいずれか少なくとも一つはイオン交換基を有し、Ar3a、Ar3bはイオン交換基を有していても有していなくてもよい。Rは酸素原子、炭素数1〜6のアルキレン基または炭素数1〜6のフッ素置換アルキレン基を表し、Rが複数個ある場合、それらは互いに同一でも異なっていてもよい。)
前記イオン交換基が実質的に導入されていないセグメントが、下記一般式(2)で表されるセグメントであるブロック共重合体


(式中、nは5以上の整数を表し、Ar4、Ar5、Ar6、Ar7は互いに独立に2価の芳香族基を表し、ここでこれらの2価の芳香族基は、置換基を有していてもよい炭素数1〜20の炭化水素基、置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルコキシ基、置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアシル基、置換基を有していてもよい炭素数6〜20のアリールオキシ基または置換基を有していてもよい炭素数7〜20のアリールカルボニル基またはフルオロ基で置換されていてもよい。rは0または1、sは0,1または2を表す。Xは、直接結合または、

から選ばれる2価の基を表し、Xが複数個ある場合、それらは互いに同一でも異なっていてもよい。)
を提供するものである。
【0008】
上記ブロック共重合体のブロックの含有量として、下記[2]であると好ましい。
[2]イオン交換基が導入されたセグメントと、イオン交換基が実質的に導入されていないセグメントの重量組成比が、[イオン交換基が導入されたセグメント]/[イオン交換基が実質的に導入されていないセグメント]で表して、3/97〜70/30である、上記[1]のブロック共重合体
【0009】
また、本発明は、上記ブロック共重合体に係るイオン交換基として好適な、下記[3]〜[5]を提供する。
[3]イオン交換基が酸基である、上記[1]または[2]のブロック共重合体
[4]イオン交換基が、強酸基又は超強酸基である、上記[1]または[2]のブロック共重合体
[5]イオン交換基がスルホン酸基である、上記[1]または[2]のブロック共重合体
【0010】
上記の好適なイオン交換基の中でも、強酸基であるスルホン酸基を有するセグメントを含むと好ましく、下記[6]を提供する。
[6]イオン交換基が導入されたセグメントが、下記一般式(4)

(式中、m、kは上記一般式(1)と同義である。xは0または1、yは0または1を表し、x+yは1または2である。zは0、1または2を表す。)
で表されるセグメントを含む、上記[1]または[2]に記載のブロック共重合体
【0011】
また、本発明のブロック共重合体は下記[7]であると、よりイオン伝導度に優れる高分子電解質膜が得られることから好ましい。
[7]イオン交換容量が、0.5meq/g〜4.0meq/gである、上記[1]〜[6]のいずれかに記載のブロック共重合体
【0012】
さらに、本発明は上記いずれかに記載のブロック共重合体を係る下記[8]〜[11]を提供する。
[8]上記いずれかに記載のブロック共重合体を主成分とする高分子電解質
[9]上記[8]の高分子電解質に記載の高分子電解質を含む、高分子電解質膜
[10]上記[8]の高分子電解質と多孔質基材とを用いてなる、高分子電解質複合膜
[11]上記[8]の高分子電解質と、触媒成分とを含有する、触媒組成物
なお、「主成分」とは当該高分子電解質中、本発明のブロック共重合体が主としてイオン伝導を担う成分であることを示し、通常該ブロック共重合体を80重量%以上含有するものを示す。
【0013】
さらに、本発明は燃料電池に係る部材として、下記[12]を提供する。
[12]上記[9]の高分子電解質膜、上記[10]の高分子電解質複合膜または上記[11]の触媒組成物を用いて得られる触媒層のうち、少なくとも1つを有する燃料電池
【発明の効果】
【0014】
本発明のブロック共重合体は、高分子電解質、中でも燃料電池のイオン伝導膜として用いた場合に、耐水性、及びイオン伝導度等の諸特性において優れた性能を奏する。かかるブロック共重合体から得られるイオン伝導膜は、高い発電特性を示すので、工業的に極めて有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明のブロック共重合体は、イオン交換基が導入されたセグメントと、イオン交換基が実質的に導入されていないセグメントとをそれぞれ一つ以上を有するブロック共重合体であって、イオン交換基が導入されたセグメント(以下、場合により「親水性セグメント」と呼ぶことがある)が、上記一般式(1A)、一般式(1B)または一般式(1C)(以下、「一般式(1A)〜(1C)で表されたセグメント」のように略称することもある。)で表されるセグメントであり、イオン交換基を実質的に有しないセグメント(以下、場合により「疎水性セグメント」と呼ぶことがある)が上記一般式(2)で表されるセグメントであることを特徴とするものであり、かかるブロック共重合体は、燃料電池のイオン伝導膜として用いた場合に、従来のポリエーテルスルホン骨格を有するブロック共重合体と比して、優れた耐水性と優れたイオン伝導性を発現する。本発明者らは、ブロック共重合体を構成するそれぞれのセグメントにおいて、親水性セグメントが、カルボニル基およびオキシ基を有する特定の構造単位からなり、高度のイオン交換基密度を有するセグメントと、疎水性セグメントとしてスルホニル基およびオキシ基を有するセグメントであるブロック共重合体が、燃料電池用部材、特にイオン伝導膜として必要とされる特性を高度に兼ね備えたイオン伝導体となり得ることを見出した。かかる効果を発現する理由は必ずしも明らかではないが、本発明者等は以下のとおり推察する。一般に親水性セグメントと疎水性セグメントをともに有するブロック共重合体においては、親水性セグメントを主として含む親水性ドメインと、疎水性セグメントを主として含む疎水性ドメインと、からなるミクロ相分離構造を形成する。本発明においては、前記一般式(1A)〜(1C)で表される親水性セグメントと、前記一般式(2)で表される疎水性セグメントでは、両セグメント間の反発力が比較的大きくなり、親水性ドメインには、より密に親水性セグメントが配され、疎水性ドメインには、より密に疎水性セグメントが配されたミクロ相分離構造が発現する。また、疎水性セグメントが、その主鎖に比較的柔軟なスルホン結合を有するので、親水性セグメント同士が凝集して親水性ドメインを形成する際に、疎水性セグメントが、かかる親水性セグメントの凝集を妨げないようにして、疎水性ドメインを形成する。その結果、親水性ドメインは、連続相を形成しやすくなる。このようにして得られるミクロ相分離構造は、両セグメントがより密に配されたドメインをそれぞれ有し、親水性セグメントが、良好なイオン伝導経路を発現し得る連続相となるので、燃料電池用イオン伝導膜として優れた耐水性と優れたイオン伝導性が両立し得うると考えられる。
【0016】
ここで、本発明のブロック共重合体に係る、イオン交換基が導入されたセグメント(親水性セグメント)に関して説明する。
上記の一般式(1A)、一般式(1B)、一般式(1C)におけるAr1、Ar2、Ar3a、Ar3bは互いに独立に2価の芳香族基を表すが、該2価の芳香族基としては、フェニレン基、ナフチレン基、ビフェニリレン基、フルオレンジイル基などの炭化水素系芳香族基、ピリジンジイル基、キノキサリンジイル基、チオフェンジイル基などの複素芳香族基などが挙げられる。好ましくは、2価の炭化水素系芳香族基である。
ここで、該イオン交換基はAr1、Ar2のいずれか少なくとも一つに有する。また、Ar3a、Ar3bはイオン交換基を有していても有していなくてもよい。
【0017】
前記2価の芳香族基は、置換基を有していてもよい炭素数1〜20の炭化水素基、置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルコキシ基、置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアシル基、置換基を有していてもよい炭素数6〜20のアリールオキシ基または置換基を有していてもよい炭素数7〜20のアリールカルボニル基で置換されていてもよい。
【0018】
置換基を有することもある炭素数1〜20の炭化水素基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、イソブチル基、n−ペンチル基、2,2−ジメチルプロピル基、シクロペンチル基、n−ヘキシル基、シクロヘキシル基、2−メチルペンチル基、2−エチルヘキシル基、オクチル基、デシル基、アダマンチル基、ドデシル基、オクタデシル基、イコシル基等のアルキル基や、該アルキル基から水素原子を取り去ってなる炭素−炭素二重結合を有するアルケニル基や炭素−炭素三重結合を有するアルキニル基、あるいは炭素−炭素二重結合と炭素−炭素三重結合を共に有する基であるか、フェニル基、ナフチル基等のアリール基が挙げられる。さらにはこれらの基にフッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等のハロゲン原子、ヒドロキシル基、ニトリル基、アミノ基、メトキシ基、エトキシ基、イソプロピルオキシ基、フェニル基、ナフチル基、フェノキシ基、ナフチルオキシ基等が置換され、その総炭素数が1〜20である炭化水素基が挙げられる。
【0019】
置換基を有することもある炭素数1〜20のアルコキシ基としては、例えばメトキシ基、エトキシ基、n−プロピルオキシ基、イソプロピルオキシ基、n−ブチルオキシ基、sec−ブチルオキシ基、tert−ブチルオキシ基、イソブチルオキシ基、n−ペンチルオキシ基、2,2−ジメチルプロピルオキシ基、シクロペンチルオキシ基、n−ヘキシルオキシ基、シクロヘキシルオキシ基、2−メチルペンチルオキシ基、2−エチルヘキシルオキシ基、デシルオキシ基、アダマンチルオキシ基、ドデシルオキシ基、オクタデシルオキシ基、イコシルオキシ基等の炭素数1〜20のアルコキシ基、及びこれらの基にフッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等のハロゲン原子、ヒドロキシル基、ニトリル基、アミノ基、メトキシ基、エトキシ基、イソプロピルオキシ基、フェニル基、ナフチル基、フェノキシ基、ナフチルオキシ基等が置換され、その総炭素数が1〜20のアルコキシ基等が挙げられる。
【0020】
置換基を有する炭素数1〜20のアシル基としては、例えばホルミル基、アセチル基、n−プロピオニル基、イソブチリル基、ブチリル基、tert−ブチルカルボニル基、n−ペンチルカルボニル基、シクロペンチルカルボニル基、n−ヘキシルカルボニル基、シクロヘキシルカルボニル基、2−メチルペンチルカルボニル基、2−エチルヘキシルカルボニル基、デシルカルボニル基、アダマンチルカルボニル基、ドデシルカルボニル基、オクタデシルカルボニル基等のアシル基、及びこれらの基にフッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等のハロゲン原子、ヒドロキシル基、ニトリル基、アミノ基、メトキシ基、エトキシ基、イソプロピルオキシ基、フェニル基、ナフチル基、フェノキシ基、ナフチルオキシ基等が置換され、その総炭素数が1〜20のアシル基等が挙げられる。
【0021】
置換基を有することもある炭素数6〜20のアリールオキシ基としては、例えばフェノキシ基、ナフチルオキシ基等のアリールオキシ基、及びこれらの基にフッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等のハロゲン原子、ヒドロキシル基、ニトリル基、アミノ基、メトキシ基、エトキシ基、イソプロピルオキシ基、フェニル基、ナフチル基、フェノキシ基等が置換され、その総炭素数が6〜20のアリールオキシ基等が挙げられる。
【0022】
置換基を有することもある炭素数7〜20のアリールカルボニル基としては、例えばベンゾイル基、ナフトイル基等のアリールカルボニル基、及びこれらの基にフッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等のハロゲン原子、ヒドロキシル基、ニトリル基、アミノ基、メトキシ基、エトキシ基、イソプロピルオキシ基、フェニル基、ナフチル基、フェノキシ基等が置換され、その総炭素数が7〜20のアリールカルボニル基等が挙げられる。
【0023】
一般式(1A)、一般式(1B)、一般式(1C)におけるAr1、Ar2、Ar3a、Ar3bは、上記のような置換基を有することもある2価の芳香族基を表すが、なかでもAr1、Ar2としてはフェニレン基がより好ましく、Ar3a、Ar3bとしてはフェニレン基、ビフェニリレン基、ナフチレン基がより好ましい。
【0024】
上記のように、Ar1、Ar2、Ar3a、Ar3bのうち、Ar1、Ar2のいずれか少なくとも一つはイオン交換基を有し、Ar3a、Ar3bはイオン交換基を有していても有していなくても良いが、有していることが好ましい。さらに、イオン交換基が導入されたセグメントを構成する、2価の芳香族基の全て(一般式(1A)で表されるセグメントの場合は、Ar1、Ar2およびAr3a、一般式(1B)又は(1C)で表されるセグメントの場合は、Ar1、Ar2、Ar3aおよびAr3b)にイオン交換基を有していると、より好ましい。
【0025】
さらに、一般式(1A)一般式(1B)、または一般式(1C)で表されるセグメントは、4.0meq/g以上のイオン交換基密度を有する親水性セグメントであり、4.0〜8.0meq/gのイオン交換基密度を有する親水性セグメントであると好ましい。ここで、イオン交換基密度とは、当該親水性セグメントを構成する構造単位のイオン交換基数とモル質量から求められる値である。かかるイオン交換基密度は、後述する本発明のブロック共重合体の製造方法において、親水性セグメントを誘導する、イオン交換基を有するモノマーから、該親水性セグメントを構成する構造単位を求めて、算出することができる。詳細については後述する。
【0026】
イオン交換基が導入されたセグメントと、イオン交換基が実質的に導入されていないセグメントの重量組成比は特に制限はないが、[イオン交換基が導入されたセグメント]/[イオン交換基が実質的に導入されていないセグメント]で表して、通常3/97〜70/30であり、5/95〜60/40が好ましく、10/90〜50/50がさらに好ましく、20/80〜40/60が特に好ましい。該重量組成比が上記の範囲であると、燃料電池用イオン伝導膜に用いる高分子電解質として、プロトン伝導性と耐水性とが、より高水準のものが得られるため好ましい。
これらのブロック共重合体に係る各セグメントの重量比は、該ブロック共重合体を製造する方法によってコントロールすることが可能であり、その製造方法については後述する。
【0027】
上記イオン交換基としては、酸基、塩基性基のいずれでもよい。酸基を遊離酸の形で例示すると、カルボキシル基(−COOH)、ホスホン酸基(−PO32)等の弱酸基、スルホン酸基(−SO3H)等の強酸基、パーフルオロアルキレンスルホン酸基(−R10−SO3H、ただし、R10は炭素数1〜10のパーフルオロアルキレン基を表す。)、パーフルオロフェニレンスルホン酸(−R11−SO3H、ただし、R11はパーフルオロフェニレン基を表す。)、パーフルオロアルキレンスルホニルイミド基(−R12−SO2NHSO2−、ただし、R12は炭素数1〜10のパーフルオロアルキレン基を表す。)等の超強酸基が挙げられる。一方、塩基性基としては、アミノ基、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基等の弱塩基性基、トリメチルアンモニオ基(−N+(CH33)、トリエチルアンモニオ基(−N+(C253)、ベンジルジメチルアンモニオ基(−N+(CH32(CH265))等の強塩基性基が挙げられる。これらは直接芳香環に結合していてもよく、2価の基をスペーサーとして結合されている形態でもよい。
該イオン交換基の中でも、酸基がイオン交換基であると、燃料電池用途として、特に好適であり、とりわけ、酸基の中でも、強酸基、超強酸基が好ましく、例えば、スルホン酸、パーフルオロアルキレンスルホン酸、パーフルオロフェニレンスルホン酸等が好適に用いられる。
【0028】
一般式(1A)、一般式(1B)または一般式(1C)で表される親水性セグメントの好ましい例としては、好ましいイオン交換基であるスルホン酸基で表して、例えば、以下の式(1A)−1〜(1A)−3、(1B)―1〜(1B)―4が挙げられる。より好ましくは式(1A)−1、(1A)−2で表されるセグメントであり、特に式(1A)−1が好ましい。

(式中、m及びkは前記と同じ意味を表す。x、yはそれぞれ独立に0または1を表すが、x+yは1または2である。zは0、1または2を表す。)
【0029】
上記のとおり、好ましい親水性セグメントである式(1A)−1及び式(1A)−2の代表例としては、例えば以下の式(1A)−4〜(1A)−17のものが挙げられる。


かかる例示の中でも、セグメントを構成する構造単位にある、全ての2価の芳香族基にイオン交換基を有するものが好ましく、この観点から、(1A)−4〜(1A)−12が好ましい。
また、このようにイオン交換基として、スルホン酸基を有する繰返し構造を有するセグメントであると、燃料電池用イオン伝導膜として、特に好適であることは上述のとおりである。
【0030】
ここで、好ましい親水性セグメントである、上記の(1A)−4、(1A)−5を挙げて、イオン交換基密度を計算して求める方法を説明する。かかるセグメントを構成する構造単位は、それぞれ下記の(1A)−4U、(1A)−5Uで表される。

ここで、(1A)−4Uで表される構造単位を構成する元素の組成式は、C19H12O12S3で表され、モル質量は528.5(g)となる。(1A)−4Uにはイオン交換基(スルホン酸基)を3つ有していることから、イオン交換基当量数は、3000ミリ当量(3000meq)となる。イオン交換基密度は、単位重量当たりのイオン交換基当量数、すなわち構造単位において、イオン交換基当量数をモル質量で除した値に相当するものであり、3000÷528.5=5.7(meq/g)となる。同様にして、(1A)−5Uで表される構造単位は、元素の組成式が、C25H16O15S4となり、モル質量は684.7となる。(1A)−5Uで表される構造単位は、イオン交換基を4つ有しているので、イオン交換基密度は4000÷684.7=5.8(meq/g)となる。
このようにして、親水性セグメントを構成する構造単位から、そのイオン交換基密度を求めることができる。
【0031】
また、親水性セグメントに係る重合度mは5以上であり、5〜1000の範囲が好ましく、さらに好ましくは10〜1000であり、特に好ましくは20〜500である。mの値が5以上であると、燃料電池用の高分子電解質として、プロトン伝導度が十分であるので好ましい。mの値が1000以下であれば、該セグメントの製造がより容易であるので好ましい。
このように、mを5以上とするためには、ブロック共重合体の製造段階において、親水性セグメントを与えるセグメント前駆体(親水性ポリマー)を製造する際に、その分子量をゲルパーミエイションクロマトグラフィー法(以下、「GPC法」と呼ぶ)のポリスチレン換算重量平均分子量で表して、5000以上の親水性ポリマーを使用すればよい。
【0032】
次に、本発明のブロック共重合体に係る、他の必須セグメントである、イオン交換基が実質的に導入されていないセグメント(疎水性セグメント)について説明する。
イオン交換基が実質的に導入されていないセグメントとしては、上記一般式(2)で表されるセグメントである。
ここで「イオン交換基が実質的に導入されていない」セグメントとは、該セグメントを構成する構造単位当りのイオン交換基の導入量が平均0.1個以下であることを示すものであり、構造単位当たりのイオン交換基は0個、すなわちイオン交換基を含まないセグメントであると好ましい。
ここで、式(2)におけるAr4、Ar5は、互いに独立に2価の芳香族基を表し、その代表例としては、例えば、1,3−フェニレン、1,4−フェニレン等の2価の単環性芳香族基、1,3−ナフタレンジイル、1,4−ナフタレンジイル、1,5−ナフタレンジイル、1,6−ナフタレンジイル、1,7−ナフタレンジイル、2,6−ナフタレンジイル、2,7−ナフタレンジイル等の2価の縮環系芳香族基、3,3’−ビフェニリレン、3,4’−ビフェニリレン、4,4’−ビフェニリレン等の2価のビフェニリレン基などが挙げられる。
これらの2価の芳香族基は、置換基を有していてもよい炭素数1〜20の炭化水素基、置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルコキシ基、置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアシル基、炭素数6〜20のアリールオキシ基、炭素数6〜20のアリールカルボニル基又はフルオロ基で置換されていてもよい。ここで、これらの炭化水素基、アルコキシ基、アシル基、アリールオキシ基およびアリールカルボニル基の具体例としては、上記Ar1、Ar2、Ar3a、Ar3bにおける置換基として例示したものと同様のものが挙げられが、かかる炭化水素基、アルコキシ基、アシル基、アリールオキシ基またはアリールカルボニル基に置換基を有している場合、セグメント全体での、構造単位当たりのイオン交換基数が前記の範囲となるようにする必要があり、該置換基はイオン交換基でないことが特に好ましい。
【0033】
中でも、Ar4、Ar5としては、無置換すなわち置換基を有さないか、フルオロ基で置換されている場合が好ましい。
【0034】
このような疎水性セグメントの代表例としては、2価の芳香族基が、置換基を有していてもよいポリエーテルスルホン構造である。中でも、下記一般式(3)−1〜(3)−18で示されるセグメントが好ましく使用される。

【0035】



(式中、nは前記の意味を表す。)
【0036】
また、疎水性セグメントに係る重合度nは5以上であり、5〜1000の範囲が好ましく、さらに好ましくは10〜1000であり、特に好ましくは20〜500である。nの値が5以上であると、燃料電池用の高分子電解質として、耐水性が十分であるので好ましい。mの値が1000以下であれば、該セグメントの製造がより容易であるので好ましい。
このように、nを5以上とするためには、ブロック共重合体の製造に係る疎水性セグメントを与えるセグメント前駆体(疎水性ポリマー)を製造する際に、その分子量をGPC法のポリスチレン換算重量平均分子量で表して、5000以上の疎水性ポリマーを使用すればよい。
【0037】
本発明のブロック共重合体は、親水性セグメントとして、一般式(1A)、一般式(1B)または一般式(1C)で表されるセグメントと、疎水性セグメントとして、一般式(2)で表される繰返し構造単位を有するセグメントとを有するものである。その好ましい代表例としては、例えば以下のものが挙げられる。
【0038】









【0039】
本発明のブロック共重合体は、上述のような親水性セグメントおよび疎水性セグメントを有するものであるが、親水性セグメントを複数有していてもよく、疎水性セグメントも複数有していてもよい。さらには、これらのセグメント以外のセグメントを含むものでもよい。
【0040】
次に、本発明のブロック共重合体の製造方法について説明する。
かかる製造方法としては、例えば、
I.一般式(1A)〜(1C)で表されるセグメントを誘導する、イオン交換基を有するモノマーを用いて、イオン交換基が導入されたセグメントの前駆体(親水性ポリマー)を製造する。一方、一般式(2)で表されるセグメントを誘導する、イオン交換基を有さないモノマーを用いて、イオン交換基が実質的に導入されていないセグメントの前駆体(疎水性ポリマー)を製造する。次いで、親水性ポリマーと、疎水性ポリマーとを結合せしめてブロック共重合体を製造する方法;
II.上記Iで示した方法と同様にして、親水性ポリマーを製造する。次いで、該親水性ポリマーと、一般式(2)で表されるセグメントを誘導する、イオン交換基を有さないモノマーとを重合して、ブロック共重合体を製造する方法;
III. 上記Iで示した方法と同様にして、疎水性ポリマーを製造する。次いで、該疎水性ポリマーと、一般式(1A)〜(1C)で表されるセグメントを誘導する、イオン交換基を有するモノマーとを重合して、ブロック共重合体を製造する方法;
IV.上記の、Iと、IIまたはIIIとを組合わせて、ブロック共重合体を製造する方法;
等が挙げられる。
【0041】
ここで、Iの製造方法における、親水性ポリマーと、疎水性ポリマーとを結合させて得られるブロック共重合体は、セグメントを形成しうる各々のポリマー(セグメント前駆体)の一方が、その両末端にヒドロキシ基を有するセグメント前駆体であるとき、他方のセグメント前駆体として、その両末端にハロゲン基を有するセグメント前駆体を用い、ヒドロキシ基とハロゲン基の縮合反応によって、両セグメント前駆体がエーテル結合で結合し、ブロック共重合体を形成しうる。また、該セグメントを形成しうる各々のポリマー(セグメント前駆体)が片方の末端にヒドロキシ基を有し、他方の末端にハロゲン基を有するポリマー同士の縮合によっても、同様にしてブロック共重合体を形成しうる。ここで、該ヒドロキシ基はアルカリによりアルコラート基にしてもよい。
さらに、親水性ポリマーと、疎水性ポリマーとを結合する際に、これらセグメント前駆体の末端基と反応する反応基を有する化合物を連結剤として使用してもよい。具体的には、上記の両セグメント前駆体がどちらも末端基として、ヒドロキシ基を有する場合、ハロゲン基を分子内に複数有する化合物を連結剤として用いることができる。該ハロゲン基を分子内に複数有する化合物としては、例えば、デカフルオロビフェニル、ヘキサフルオロベンゼン、4,4'−ジフルオロベンゾフェノン、4,4'−ジフルオロジフェニルスルホン等が例示される。同様にして、両セグメント前駆体がどちらも末端基として、ハロゲン基を有する場合は、ヒドロキシ基を分子内に複数有する化合物を連結剤として用いればよく、該ヒドロキシ基を分子内に複数有する化合物としては、4、4'−ジヒドロキシビフェニル、ビスフェノールA、4,4'−ジヒドロキシベンゾフェノン、4、4'−ジヒドロキシジフェニルスルホン等が挙げられる。
【0042】
ここで、上記のように連結剤を使用してブロック共重合体を製造する際、デカフルオロビフェニル、ヘキサフルオロベンゼン等の多官能性の連結剤を用いた場合、反応条件を制御することで分岐構造を有するブロック共重合体を製造することもできる。
その際、該親水性ポリマーと、該疎水性ポリマーの仕込み組成を変えることによって、直鎖構造を有するブロック共重合体、分岐構造を有するブロック共重合体を作り分けることもできる。
【0043】
次に、上記IIの製造方法について説明する。
かかる製造方法としては、例えば、親水性ポリマーがその両末端に、ヒドロキシ基を有するポリマーであるか、ハロゲン基を有するポリマーである場合、イオン交換基を有さないモノマーとして、2つのヒドロキシ基を有するものと、2つのハロゲン基を有するものとを用いて、重合させることにより、ブロック共重合体を得ることができる。同様にして、親水性ポリマーが、片方の末端にヒドロキシ基を有し、他方の末端にハロゲン基を有するポリマーである場合、1つのヒドロキシ基と、1つのハロゲン基を有し、イオン交換基を有さないモノマーと重合させることによっても、ブロック共重合体を得ることができる。
これらの製造方法においても、ヒドロキシ基とハロゲン基が縮合反応に基づいて容易に実施することができる。
【0044】
本発明のブロック共重合体は、上記いずれの製造方法によっても製造できるものである。かかる製造方法において、イオン交換基が導入されたセグメントのイオン交換基密度を4.0meq/g以上にするには、上記のIまたはIIの製造方法においては、親水性ポリマーを製造するモノマーを、得られる構造単位を勘案して選択する。IIIの製造方法においても同様にして、疎水性ポリマーと共重合させる、イオン交換基を有するモノマーが誘導する構造単位を勘案して、該モノマーを選択する。
【0045】
イオン交換基が導入されたセグメントと、イオン交換基が実質的に導入されていないセグメントの重量組成比は、Iの製造方法の場合は、連結させる親水性ポリマーと疎水性ポリマーの重量比、IIの製造方法の場合は、親水性ポリマーと、イオン交換基を実質的に有さないセグメントを誘導するモノマーの重量との重量比で、容易にコントロールすることが可能であり、IIIの製造方法の場合は、疎水性ポリマーと、イオン交換基を有するセグメントを誘導するモノマーの重量との重量比で、容易にコントロールすることが可能である。このようにすることで、好ましい重量組成比のブロック共重合体を得ることができる。
【0046】
かくして本発明のブロック共重合体が得られるが、ブロック共重合体全体としてのイオン交換基の導入量は、ブロック共重合体である高分子電解質1g当たりイオン交換基当量数が0.1〜4.0ミリ当量(イオン交換容量:0.1meq/g〜4.0meq/g)が好ましく、中でもイオン交換容量で表して、0.8meq/g〜3.0meq/gが好ましく、1.3meq/g〜2.5meq/gがとりわけ好ましい。イオン交換基導入量が、イオン交換容量で表して上記の範囲であると、プロトン伝導性と耐水性を、より高水準で両立することができるため、好ましい。
【0047】
本発明のブロック共重合体の平均分子量としては、ポリスチレン換算の重量平均分子量で表して5000〜1000000が好ましく、中でも20000〜500000のものが特に好ましい。
イオン交換基が導入されたセグメントの平均分子量としては、ポリスチレン換算の重量平均分子量で表して、上記のとおり5000以上であるが、5000〜200000が好ましく、中でも10000〜100000のものが特に好ましい。
一方、イオン交換基が実質的に導入されていないセグメントの平均分子量としては、ポリスチレン換算の重量平均分子量で表して、上記のとおり5000以上であるが、5000〜200000が好ましく、中でも10000〜100000であると、特に好ましい。
また、上述のように、本発明のブロック共重合体は、親水性セグメントおよび疎水性セグメントをそれぞれ有するが、少なくともどちらか一方を二つ以上有する場合や、両セグメントをそれぞれ二つ以上有する場合のような所謂マルチブロックになっているブロック共重合体が特に好ましい。
【0048】
次に、本発明のブロック共重合体は、燃料電池等の、電気化学デバイスの部材を構成する高分子電解質として好適である。中でも特に好適な実施態様である、燃料電池用高分子電解質膜(イオン伝導膜)として使用する場合について説明する。
この場合は、本発明のブロック共重合体は、通常フィルムの形態で使用される。フィルムへ転化する方法に特に制限はないが、中でも溶液状態より製膜する方法(溶液キャスト法)が、操作が容易な点から好ましく使用される。
具体的には、ブロック共重合体を適当な溶媒に溶解し、その溶液をガラス板等の基板上に流延塗布し、溶媒を除去することにより製膜される。製膜に用いる溶媒は、ブロック共重合体を溶解可能であり、その後に除去し得るものであるならば特に制限はなく、N,N−ジメチルホルムアミド(以下、「DMF」と呼ぶ)、N,N−ジメチルアセトアミド(以下、「DMAc」と呼ぶ)、N−メチル−2−ピロリドン(以下、「NMP」と呼ぶ)、ジメチルスルホキシド(以下、「DMSO」と呼ぶ)等の非プロトン性極性溶媒、あるいはジクロロメタン、クロロホルム、1,2−ジクロロエタン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン等の塩素系溶媒、メタノール、エタノール、プロパノール等のアルコール類、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル等のアルキレングリコールモノアルキルエーテル、水が好適に用いられる。これらは単独で用いることもできるが、必要に応じて2種以上の溶媒を混合して用いることもできる。中でも、DMSO、DMF、DMAc、NMP等がポリマーの溶解性が高く好ましい。
【0049】
フィルムの厚みは、特に制限はないが10〜300μmが好ましく、20〜100μmが特に好ましい。10μmより薄いフィルムでは実用的な強度が十分でない場合があり、300μmより厚いフィルムでは膜抵抗が大きくなり電気化学デバイスの特性が低下する傾向にある。膜厚は溶液の濃度および基板上への塗布厚により制御できる。
【0050】
またフィルムの各種物性改良を目的として、通常の高分子に使用される可塑剤、安定剤、離型剤等を本発明のブロック共重合体に添加することができる。また、同一溶剤に混合共キャストするなどの方法により、他のポリマーを本発明のブロック共重合体と複合アロイ化することも可能である。
燃料電池用途では他に水管理を容易にするために、無機あるいは有機の微粒子を保水剤として添加することも知られている。これらの公知の方法はいずれも本発明の目的に反しない限り使用できる。また、フィルムの機械的強度の向上などを目的として、電子線・放射線などを照射して架橋させることもできる。
【0051】
また、高分子電解質膜の強度や柔軟性、耐久性のさらなる向上のために、本発明の高分子電解質を多孔質基材に含浸させ複合化することにより、複合膜(高分子電解質複合膜)とすることも可能である。複合化方法は公知の方法を使用し得る。多孔質基材としては上述の使用目的を満たすものであれば特に制限は無く、例えば多孔質膜、織布、不織布、フィブリル等が挙げられ、その形状や材質によらず用いることができる。
【0052】
本発明のブロック共重合体を用いた高分子電解質複合膜を燃料電池の隔膜として使用する場合、多孔質基材は、膜厚が1〜100μm、好ましくは3〜30μm、さらに好ましくは5〜20μmであり、孔径が0.01〜100μm、好ましくは0.02〜10μmであり、空隙率が20〜98%、好ましくは40〜95%である。
多孔質基材の膜厚が薄すぎると複合化後の強度補強の効果あるいは、柔軟性や耐久性を付与するといった補強効果が不十分となり、ガス漏れ(クロスリーク)が発生しやすくなる。また膜厚が厚すぎると電気抵抗が高くなり、得られた複合膜が燃料電池の隔膜として不十分なものとなる。孔径が小さすぎると高分子固体電解質の充填が困難となり、大きすぎると高分子固体電解質への補強効果が弱くなる。空隙率が小さすぎるとイオン伝導膜としての抵抗が大きくなり、大きすぎると一般に多孔質基材自体の強度が弱くなり補強効果が低減する。
耐熱性の観点や、物理的強度の補強効果を鑑みれば、脂肪族系、芳香族系高分子または、含フッ素高分子が好ましい。
【0053】
最後に、本発明のブロック共重合体を高分子電解質として使用する燃料電池について説明する。当該燃料電池としては、例えば水素ガスを燃料とした固体高分子型燃料電池や、メタノールを燃料として直接供給するダイレクトメタノール型固体高分子型燃料電池があるが、本発明のブロック共重合体はそのどちらにも好適に用いることが出来る。
本発明が提供する燃料電池は、該ブロック共重合体を高分子電解質膜および/または高分子電解質複合膜として使用したものや、本発明の高分子電解質を触媒層中の高分子電解質として使用したもの等を挙げることができる。
【0054】
本発明のブロック共重合体を高分子電解質膜および/または高分子電解質複合膜として使用した燃料電池は、高分子電解質膜および/または高分子電解質複合膜の両面に、触媒とガス拡散層を接合することにより製造することができる。ガス拡散層としては公知の材料を用いることができるが、多孔質性のカーボン織布、カーボン不織布またはカーボンペーパーが、原料ガスを触媒へ効率的に輸送するために好ましい。
【0055】
ここで触媒としては、水素または酸素との酸化還元反応を活性化できるものであれば特に制限はなく、公知のものを用いることができるが、白金の微粒子を用いることが好ましい。白金の微粒子はしばしば活性炭や黒鉛などの粒子状または繊維状のカーボンに担持されて用いられ、好ましく用いられる。また、カーボンに担持された白金を、高分子電解質としてのパーフルオロアルキルスルホン酸樹脂のアルコール溶液と共に混合してペースト化してなる触媒組成物を、ガス拡散層および/または高分子電解質膜および/または高分子電解質複合膜に塗布・乾燥することにより触媒層が得られる。具体的な方法としては例えば、J. Electrochem. Soc.: Electrochemical Science and Technology, 1988, 135(9), 2209 に記載されている方法等の公知の方法を用いることができる。
【0056】
本発明のブロック共重合体を触媒層中の高分子電解質として使用することも可能であり、その燃料電池としては、上述の触媒層を構成する触媒組成物において、パーフルオロアルキルスルホン酸樹脂の代わりに本発明のブロック共重合体を用いたものを用いて触媒層を形成させればよい。本発明のブロック共重合体を用いてなる触媒組成物に係る溶媒としては、前述のブロック共重合体を、溶液キャスト法で製膜する際に使用できる溶媒として挙げたものと同じものを挙げることができる。本発明のブロック共重合体を用いた触媒層を使用する場合、高分子電解質膜は本発明のブロック共重合体を用いた膜に限定されずに公知の高分子電解質膜を用いることができる。
【実施例】
【0057】
以下に実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではない。
分子量の測定:
GPC法により、下記条件A又は条件Bでポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)を測定した。
条件A
GPC測定装置 TOSOH社製 HLC−8220
カラム SHOWA DENKO社製 AT−80M(Shodex)を2
本直列に接続
カラム温度 40℃
移動相溶媒 DMAc(LiBrを10mmol/dm3になるように添加)
溶媒流量 0.5mL/min
条件B
GPC測定装置 TOSOH社製 HLC−8220
カラム TOSOH社製 TSKgel GMHHHR−M 1本
カラム温度 40℃
移動相溶媒 DMAc(LiBrを10mmol/dm3になるように添加)
溶媒流量 0.5mL/min
プロトン伝導度の測定:
温度80℃、相対湿度90%の条件で交流法で測定した。
イオン交換容量の測定:
滴定法により求めた。
吸水率の測定:
乾燥した高分子電解質膜を秤量し、100℃の脱イオン水に2時間浸漬したのちの膜重量増加量から吸水率を算出し、前記乾燥膜に対する比率を求めた。
【0058】
実施例1[ブロック共重合体aの製造]
共沸蒸留装置を備えたフラスコに、アルゴン雰囲気下、4,4’−ジフルオロジフェニルケトン−3,3’−ジスルホン酸ジカリウム4.50g(9.90mmol)、2,5−ジヒドロキシベンゼンスルホン酸カリウム2.71g、(11.88mmol)、炭酸カリウム1.71g(12.36mmol)を加え、DMSO30mLおよびトルエン30mLを添加した。その後バス温150℃でトルエンを加熱留去することで系内の水分を共沸脱水し、その後4時間保温攪拌することで、親水性ポリマーを得た。得られた親水性ポリマーのGPC法(条件A)による重量平均分子量は22000であり、構造単位から計算されるイオン交換基密度は5.7meq/gであった。
また別途、共沸蒸留装置を備えたフラスコに、アルゴン雰囲気下、4,4’−ジヒドロキシベンゾフェノン3.94g(18.06mmol)、4,4’−ジフルオロジフェニルスルホン5.04g(20.14mmol)、炭酸カリウム2.60g(18.78mmol)を加え、DMSO45mLおよびトルエン30mLを添加した。その後バス温120℃でトルエンを加熱留去することで系内の水分を共沸脱水し、その後6時間保温攪拌することで、疎水性ポリマーを得た。得られた疎水性ポリマーのGPC法(条件A)による重量平均分子量は39000であった。
続いて、反応液を室温まで十分に放冷した後、親水性ポリマーの反応溶液を疎水性ポリマーの反応溶液に滴下して、親水性ポリマーの反応マスをDMSO20mLで十分に共洗いして仕込み、その後内温130℃にて20時間保温攪拌した。反応液を放冷した後、大量の塩酸水に滴下し、生成した沈殿物を濾過回収した。さらに洗液が中性になるまで水で洗浄濾過を繰返した後、80℃の熱水で洗浄処理して濾過した。次いで80℃にて常圧乾燥し、12.05gの下記に示す構造のブロック共重合体aを得た。得られたブロック共重合体のGPC法(条件A)による重量平均分子量は122000であった。
得られたブロック共重合体aの製膜は以下に示す溶液キャスト法を用いて行った。得られたポリマー2.0gをNMP8.0gに溶解した後、ろ過して、濃度20重量%の溶液を得た。次いで、この溶液をガラス基材上に流延塗布し、全排気オーブン中、80℃にて約5時間かけて、NMPを除去した。その後、2N塩酸で1時間処理する工程を2回繰り返し、さらに8時間流水にて水洗し、膜厚39μmの高分子電解質膜を得た。


なお、上式において「Block」の表記は、括弧内の構造単位からなるセグメントを有するブロック共重合体であることを意味する。
イオン交換容量 1.8 meq/g
吸水率 136%
プロトン伝導度 1.86×10-1 S/cm
【0059】
比較例1[ブロック共重合体bの製造]
特開2005−126684号公報の実施例5と同様にして、下記に示す構造のブロック共重合体bを製造した。親水性ポリマー段階での、構造単位から計算されるイオン交換基密度は、5.3meq/gであった。高分子電解質膜への製膜方法は実施例1に準拠して行った。

なお、上式において「Block」の表記は、括弧内の構造単位からなるセグメントを有するブロック共重合体であることを意味する。
イオン交換容量 1.7 meq/g
吸水率 193%
プロトン伝導度 1.20×10-1 S/cm
【0060】
実施例2[ブロック共重合体cの製造]
共沸蒸留装置を備えたフラスコに、アルゴン雰囲気下、4,4’−ジフルオロジフェニルケトン−3,3’−ジスルホン酸ジカリウム4.78g(10.51mmol)、2,5−ジヒドロキシベンゼンスルホン酸カリウム2.00g(8.76mmol)炭酸カリウム1.51g(10.93mmol)を加え、DMSO30mLおよびトルエン30mLを添加した。その後バス温150℃で2時間トルエンを加熱留去することで系内の水分を共沸脱水し、その後4時間保温攪拌することで、親水性ポリマーを得た。得られた親水性ポリマーのGPC法(条件A)による重量平均分子量は42000であり、構造単位から計算されるイオン交換基密度は5.7meq/gであった。
また別途、共沸蒸留装置を備えたフラスコに、アルゴン雰囲気下、4,4’−ジヒドロキシ−3,3’−ジフェニルビフェニル6.12g(18.09mmol)、4,4’−ジフルオロジフェニルスルホン4.15(16。31mmol)炭酸カリウム2.60g(18.81mmol)を加え、DMSO45mLおよびトルエン30mLを添加した。その後バス温150℃でトルエンを加熱留去することで系内の水分を共沸脱水し、その後8時間保温攪拌することで、疎水性ポリマーを得た。得られた疎水性ポリマーのGPC法(条件A)による重量平均分子量は24000であった。
続いて、反応液を室温まで十分に放冷した後、親水性ポリマーの反応溶液を疎水性ポリマーの反応溶液に滴下して、親水性ポリマーの反応マスをDMSO20mLで十分に共洗いして仕込み、その後内温150℃にて6時間保温攪拌した。反応液を放冷した後、大量の塩酸水に滴下し、生成した沈殿物を濾過回収した。さらに洗液が中性になるまで水で洗浄濾過を繰返した後、80℃の熱水で洗浄処理して濾過した。次いで80℃にて常圧乾燥し、13.71gの下記に示す構造のブロック共重合体cを得た。得られたブロック共重合体のGPC法(条件A)による重量平均分子量は175000であった。
高分子電解質膜への製膜方法は実施例1と同様な溶液キャスト法の操作を行った。

なお、上式において「Block」の表記は、括弧内の構造単位からなるセグメントを有するブロック共重合体であることを意味する。
イオン交換容量 1.7 meq/g
吸水率 79%
プロトン伝導度 1.05×10-1 S/cm
【0061】
上述のとおり、比較例1は親水性セグメントと疎水性セグメントを構成する構造単位が、ともにスルホン基とオキシ基を有するブロック共重合体である。実施例1の吸水率及びプロトン伝導度(以下、総じて「膜物性」と呼ぶ)と対比して、下記の表1に示す。比較例1のブロック共重合体に比べて、実施例1のブロック共重合体はイオン交換容量の方が高いにも関わらず低吸水率を示しており、さらには高度のプロトン伝導度を示している。
【0062】
【表1】

【0063】
比較例2[ブロック共重合体dの製造]
共沸蒸留装置を備えたフラスコに、アルゴン雰囲気下、4,4’−ジフルオロジフェニルスルホン−3,3’−ジスルホン酸ジカリウム5.16g(10.51mmol)、2,5−ジヒドロキシベンゼンスルホン酸カリウム2.00g(8.76mmol)炭酸カリウム1.51g(10.93mmol)を加え、DMSO30mLおよびトルエン30mLを添加した。その後バス温150℃で2時間トルエンを加熱留去することで系内の水分を共沸脱水し、その後4時間保温攪拌することで、親水性ポリマーを得た。得られた親水性ポリマーのGPC法(条件A)による重量平均分子量は56000であり、構造単位から計算されるイオン交換基密度は5.3meq/gであった。
また別途、共沸蒸留装置を備えたフラスコに、アルゴン雰囲気下、4,4’−ジヒドロキシ−3,3’−ジフェニルビフェニル6.43g(19.00mmol)、4,4’−ジフルオロジフェニルスルホン4.34(17.21mmol)炭酸カリウム2.73g(19.76mmol)を加え、DMSO47mLおよびトルエン35mLを添加した。その後バス温150℃で2時間トルエンを加熱留去することで系内の水分を共沸脱水し、その後4時間保温攪拌することで、疎水性ポリマーを得た。得られた疎水性ポリマーのGPC法(条件A)による重量平均分子量は23000であった。
続いて、反応液を室温まで十分に放冷した後、親水性ポリマーの反応溶液を疎水性ポリマーの反応溶液に滴下して、親水性ポリマーの反応マスをDMSO20mLで十分に共洗いして仕込み、その後内温150℃にて15時間保温攪拌した。反応液を放冷した後、大量の塩酸水に滴下し、生成した沈殿物を濾過回収した。さらに洗液が中性になるまで水で洗浄濾過を繰返した後、80℃のして濾過した。次いで80℃にて常圧乾燥し、14.98gの下記に示す構造のブロック共重合体dを得た。得られたブロック共重合体のGPC法(条件A)による重量平均分子量は274000であった。
高分子電解質膜への製膜方法は実施例1と同様な溶液キャスト法の操作を行った。

なお、上式において「Block」の表記は、括弧内の構造単位からなるセグメントを有するブロック共重合体であることを意味する。
イオン交換容量 1.7 meq/g
吸水率 98%
プロトン伝導度 1.04×10-1 S/cm
【0064】
上述のとおり、比較例2は親水性セグメントと疎水性セグメントを構成する構造単位が、ともにスルホン基とオキシ基を有するブロック共重合体であり、実施例2は、親水性セグメントがカルボニル基とオキシ基を有するセグメントとしたブロック共重合体である。両者の膜物性を対比して、下記の表2に示す。両者は、イオン交換容量がほぼ同じであるにも関わらず、比較例2のブロック共重合体に比して、実施例2のブロック共重合体は、低吸水率を示す。
【0065】
【表2】

【0066】
実施例3[ブロック共重合体eの製造]
共沸蒸留装置を備えたフラスコに、アルゴン雰囲気下、4,4’−ジフルオロジフェニルケトン−3,3’−ジスルホン酸ジカリウム5.97g(13.14mmol)、2,5−ジヒドロキシベンゼンスルホン酸カリウム2.50g(10.95mmol)、炭酸カリウム1.59g(11.50mmol)を加え、DMSO38mLおよびトルエン40mLを添加した。その後バス温150℃、2時間でトルエンを加熱留去することで系内の水分を共沸脱水し、その後4時間保温攪拌することで、親水性ポリマーを得た。得られた親水性ポリマーのGPC法(条件A)による重量平均分子量は38000であり、構造単位から計算されるイオン交換基密度は5.7meq/gであった。
また別途、共沸蒸留装置を備えたフラスコに、アルゴン雰囲気下、2,6−ジヒドロキシナフタレン4.10g(25.58mmol)、4,4’−ジフルオロジフェニルスルホン5.95(23.39mmol)、炭酸カリウム3.89g(28.14mmol)を加え、DMSO91mLおよびトルエン40mLを添加した。その後バス温150℃ 2時間でトルエンを加熱留去することで系内の水分を共沸脱水し、その後3時間保温攪拌することで、疎水性ポリマーを得た。得られた疎水性ポリマーのGPC法(条件A)による重量平均分子量は27000であった。
続いて、反応液を室温まで十分に放冷した後、親水性ポリマーの反応溶液を疎水性ポリマーの反応溶液に滴下して、親水性ポリマーの反応マスをDMSO20mLで十分に共洗いして仕込み、その後内温150℃にて12時間保温攪拌した。反応液を放冷した後、大量の塩酸水に滴下し、生成した沈殿物を濾過回収した。さらに洗液が中性になるまで水で洗浄濾過を繰返した後、80℃の熱水で洗浄して濾過した。次いで80℃にて常圧乾燥し、13.82gの下記に示す構造のブロック共重合体eを得た。得られたブロック共重合体のGPC法(条件A)による重量平均分子量は131000であった。
高分子電解質膜への製膜方法は実施例1と同様な溶液キャスト法の操作を行った。

なお、上式において「Block」の表記は、括弧内の構造単位からなるセグメントを有するブロック共重合体であることを意味する。
イオン交換容量 2.0 meq/g
吸水率 106%
プロトン伝導度 1.74×10-1 S/cm
【0067】
比較例3[ブロック共重合体fの製造]
特開2005−139432号公報の実施例2と同様にして、下記に示す構造のブロック共重合体fを製造した。親水性ポリマーの構造単位から計算されるイオン交換基密度は5.3meq/gであった。高分子電解質膜への製膜方法は実施例1に準拠して行った。

なお、上式において「Block」の表記は、括弧内の構造単位からなるセグメントを有するブロック共重合体であることを意味する。
イオン交換容量 1.80 meq/g
吸水率 115%
プロトン伝導度 1.52×10-1 S/cm
【0068】
実施例3と比較例3は、同一の構造単位からなる疎水性セグメントを有し、親水性セグメントを異にするブロック共重合体の膜物性を表し、両者を対比して、下記の表3に示す。比較例3のブロック共重合体に比べて、実施例3のブロック共重合体は、イオン交換容量が高いにも関わらず、低吸水率を示し、高度のプロトン伝導度を発現している。
【0069】
【表3】

【0070】
上記の表1〜3の結果から、本発明のブロック共重合体は、従来開示されているブロック共重合体と比して、吸水率とプロトン伝導度のバランスが極めて優れるものであり、燃料電池用イオン(プロトン)伝導膜として好適に適用することができる。
【0071】
実施例4[ブロック共重合体gの製造]
共沸蒸留装置を備えたフラスコに、アルゴン雰囲気下、4,4’−ジフルオロジフェニルケトン−3,3’−ジスルホン酸ジカリウム6.81g(14.98mmol)、2,6−ジヒドロキシナフタレン2.00g、(12.49mmol)、炭酸カリウム1.81g(13.11mmol)を加え、DMSO36mLおよびトルエン35mLを添加した。その後バス温165℃で3時間トルエンを加熱留去することで系内の水分を共沸脱水し、その後8時間保温攪拌することで、親水性ポリマーを得た。親水性ポリマーの構造単位から計算されるイオン交換基密度は4.0meq/gであった。
また別途、共沸蒸留装置を備えたフラスコに、アルゴン雰囲気下、4,4’−ジヒドロキシ−3,3’−ジフェニルビフェニル7.39g(21.83mmol)、4,4’−ジフルオロジフェニルスルホン4.91g(19.33mmol)、炭酸カリウム3.32g(24.01mmol)を加え、DMSO63mLおよびトルエン40mLを添加した。その後バス温165℃で3時間トルエンを加熱留去することで系内の水分を共沸脱水し、その後8時間保温攪拌することで、疎水性ポリマーを得た。得られた疎水性ポリマーのGPC法(条件B)による重量平均分子量は10000であった。
続いて、反応液を室温まで十分に放冷した後、疎水性ポリマーの反応溶液を親水性ポリマーの反応溶液に滴下して、疎水性ポリマーの反応マスをDMSO20mLで十分に共洗いして仕込み、その後内温150℃にて10時間保温攪拌した。反応液を放冷した後、大量の塩酸水に滴下し、生成した沈殿物を濾過回収した。さらに洗液が中性になるまで水で洗浄濾過を繰返した後、80℃の熱水で洗浄して濾過した。次いで80℃にて常圧乾燥し、17.84gの下記に示す構造のブロック共重合体gを得た。得られたブロック共重合体のGPC法(条件B)による重量平均分子量は135000であった。
高分子電解質膜への製膜方法は実施例1と同様な溶液キャスト法の操作を行った。

なお、上式において「Block」の表記は、括弧内の構造単位からなるセグメントを有するブロック共重合体であることを意味する。
イオン交換容量 1.5 meq/g
吸水率 53%
プロトン伝導度 0.46×10-1 S/cm
【0072】
比較例4[ブロック共重合体hの製造]
共沸蒸留装置を備えたフラスコに、アルゴン雰囲気下、4,4’−ジフルオロジフェニルスルホン−3,3’−ジスルホン酸ジカリウム141.84g(289.14mmol)、2,5−ジヒドロキシベンゼンスルホン酸カリウム55.00g(240.95mmol)、炭酸カリウム34.97g(253.00mmol)を加え、DMSO790mLおよびトルエン158mLを添加した。その後バス温150℃、5時間でトルエンを加熱留去することで系内の水分を共沸脱水し、その後12時間保温攪拌することで、親水性ポリマーを得た。得られた親水性ポリマーのGPC法(条件A)による重量平均分子量は35000であり、構造単位から計算されるイオン交換基密度は5.7meq/gであった。
また別途、共沸蒸留装置を備えたフラスコに、アルゴン雰囲気下、2,6−ジヒドロキシナフタレン109.46g(683.39mmol)、4,4’−ジフルオロジフェニルスルホン161.5g(254.25mmol)、炭酸カリウム103.90g(138.21mmol)を加え、DMSO1195mLおよびトルエン190mLを添加した。その後バス温150℃ 5時間でトルエンを加熱留去することで系内の水分を共沸脱水し、その後1時間保温攪拌することで、疎水性ポリマーを得た。得られた疎水性ポリマーのGPC法(条件A)による重量平均分子量は36000であった。
続いて、反応液を室温まで十分に放冷した後、親水性ポリマーの反応溶液を疎水性ポリマーの反応溶液に滴下して、親水性ポリマーの反応マスをDMSO30mLで十分に共洗いして仕込み、その後内温140℃にて2時間、その後120℃にて1時間保温攪拌した。反応液を100℃まで放冷した後、大量の塩酸水に滴下し、生成した沈殿物を濾過回収した。さらに洗液が中性になるまで水で洗浄濾過を繰返した後、90℃の熱水で洗浄して濾過した。次いで80℃にて常圧乾燥し、下記に示す構造のブロック共重合体hを得た。得られたブロック共重合体のGPC法(条件A)による重量平均分子量は176000であった。高分子電解質膜への製膜方法は実施例1と同様な溶液キャスト法の操作を行った。


なお、上式において「Block」の表記は、括弧内の構造単位からなるセグメントを有するブロック共重合体であることを意味する。
イオン交換容量 1.6 meq/g
吸水率 75%
プロトン伝導度 0.25×10-1 S/cm
【0073】
比較例5 [ブロック共重合体iの製造]
共沸蒸留装置を備えたフラスコに、アルゴン雰囲気下、4,4’−ジフルオロジフェニルケトン−3,3’−ジスルホン酸ジカリウム8.10g(17.80mmol)、4,4’−ジヒドロキシジフェニルエーテル3.00g、(14.84mmol)、炭酸カリウム2.15g(15.58mmol)を加え、DMSO46mLおよびトルエン35mLを添加した。その後バス温165℃で9時間トルエンを加熱留去することで系内の水分を共沸脱水し、その後5時間保温攪拌することで、親水性ポリマーを得た。得られた親水性ポリマーのGPC法(条件B)による重量平均分子量は34000であり、構造単位から計算されるイオン交換基密度は3.7meq/gであった。
また別途、共沸蒸留装置を備えたフラスコに、アルゴン雰囲気下、4,4’−ジヒドロキシ−3,3’−ジフェニルビフェニル3.79g(11.19mmol)、4,4’−ジフルオロジフェニルスルホン2.09g(8.22mmol)、炭酸カリウム1.70g(12.31mmol)を加え、DMSO30mLおよびトルエン35mLを添加した。その後バス温165℃で9時間トルエンを加熱留去することで系内の水分を共沸脱水し、その後12時間保温攪拌することで、疎水性ポリマーを得た。得られた疎水性ポリマーのGPC法(条件B)による重量平均分子量は5000であった。
続いて、反応液を室温まで十分に放冷した後、親水性ポリマーの反応溶液を疎水性ポリマーの反応溶液に滴下して、親水性ポリマーの反応マスをDMSO20mLで十分に共洗いして仕込み、その後内温150℃にて9時間保温攪拌した。反応液を放冷した後、大量の塩酸水に滴下し、生成した沈殿物を濾過回収した。さらに洗液が中性になるまで水で洗浄濾過を繰返した後、80℃の熱水で洗浄して濾過した。次いで80℃にて常圧乾燥し、13.41gの下記に示す構造のブロック共重合体iを得た。得られたブロック共重合体のGPC法(条件B)による重量平均分子量は163000であった。
高分子電解質膜への製膜方法は実施例1と同様な溶液キャスト法の操作を行った。


なお、上式において「Block」の表記は、括弧内の構造単位からなるセグメントを有するブロック共重合体であることを意味する。
イオン交換容量 2.3 meq/g
吸水率 255%
プロトン伝導度 1.44×10-1 S/cm
【0074】
比較例6 [ブロック共重合体jの製造]
共沸蒸留装置を備えたフラスコに、アルゴン雰囲気下、4,4’−ジフルオロジフェニルケトン−3,3’−ジスルホン酸ジカリウム8.10g(17.80mmol)、4,4’−ジヒドロキシジフェニルエーテル3.00g、(14.84mmol)、炭酸カリウム2.15g(15.58mmol)を加え、DMSO46mLおよびトルエン35mLを添加した。その後バス温165℃で3時間トルエンを加熱留去することで系内の水分を共沸脱水し、その後1.5時間保温攪拌することで、親水性ポリマーを得た。得られた親水性ポリマーのGPC法(条件B)による重量平均分子量は27000であり、構造単位から計算されるイオン交換基密度は3.7meq/gであった。
また別途、共沸蒸留装置を備えたフラスコに、アルゴン雰囲気下、ビス(4−ヒドロキシ)メタン3.22g(16.06mmol)、4,4’−ジフルオロジフェニルケトン2.86g(13.09mmol)、炭酸カリウム2.44g(17.66mmol)を加え、DMSO31mLおよびトルエン35mLを添加した。その後バス温165℃で3時間トルエンを加熱留去することで系内の水分を共沸脱水し、その後1.5時間保温攪拌することで、疎水性ポリマーを得た。
続いて、反応液を室温まで十分に放冷した後、親水性ポリマーの反応溶液を疎水性ポリマーの反応溶液に滴下して、親水性ポリマーの反応マスをDMSO20mLで十分に共洗いして仕込み、その後内温150℃にて5時間保温攪拌した。反応液を放冷した後、大量の塩酸水に滴下し、生成した沈殿物を濾過回収した。さらに洗液が中性になるまで水で洗浄濾過を繰返した後、80℃の熱水で洗浄して濾過した。次いで80℃にて常圧乾燥し、14.40gの下記に示す構造のブロック共重合体jを得た。得られたブロック共重合体のGPC法(条件B)による重量平均分子量は222000であった。
得られたブロック共重合体jの製膜は以下のようにして行った。得られたポリマー2.0gをNMP60.0gに溶解した後、ろ過して、濃度3重量%の溶液を得た。次いで、この溶液をガラスシャーレに流延塗布し、全排気オーブン中、80℃にて約5時間かけて、NMPを除去した。その後、2N塩酸で1時間処理する工程を2回繰り返し、さらに8時間流水にて水洗し、膜厚48μmの高分子電解質膜を得た。

なお、上式において「Block」の表記は、括弧内の構造単位からなるセグメントを有するブロック共重合体であることを意味する。
イオン交換容量 2.3 meq/g
吸水率 370%
プロトン伝導度 2.08×10-1 S/cm
【0075】
図1に、本発明のブロック共重合体(実施例2、3、4)と、親水性セグメントのイオン交換基密度が4.0meq/g未満のブロック共重合体(比較例5、6)の吸水率とプロトン伝導度の関係を示す。
【0076】
比較例5または6のブロック共重合体のように、親水性セグメントのイオン交換基密度が低く、該親水性セグメントのブロック共重合体中への導入量を上げることで、イオン交換容量を2.3meq/gにしたものは、吸水率が250%以上と著しく悪化し、燃料電池用プロトン(イオン)伝導膜として実用性に欠ける。
一方、本発明のブロック共重合体からなる高分子電解質膜は、吸水率とプロトン伝導性のバランスが良好であり、燃料電池用プロトン(イオン)伝導膜として極めて優れるものが得られる。
【図面の簡単な説明】
【0077】
【図1】実施例2、3および4と、比較例5および6の膜物性の比較を表すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
イオン交換基が導入されたセグメントと、イオン交換基が実質的に導入されていないセグメントとをそれぞれ有するブロック共重合体であって、
前記イオン交換基が導入されたセグメントが下記一般式(1A)、一般式(1B)または一般式(1C)で表され、且つそのイオン交換基密度が4.0meq/g以上のセグメントであり、

(式中、mは5以上の整数を表し、kは1または2を表す。Ar1、Ar2、Ar3a、Ar3bは互いに独立に2価の芳香族基を表し、ここでこれらの2価の芳香族基は、置換基を有していてもよい炭素数1〜20の炭化水素基、置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルコキシ基、置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアシル基、置換基を有していてもよい炭素数6〜20のアリールオキシ基または置換基を有していてもよい炭素数7〜20のアリールカルボニル基で置換されていてもよい。Ar1、Ar2のいずれか少なくとも一つはイオン交換基を有し、Ar3a、Ar3bはイオン交換基を有していても有していなくてもよい。Rは酸素原子、炭素数1〜6のアルキレン基または炭素数1〜6のフッ素置換アルキレン基を表し、Rが複数個ある場合、それらは互いに同一でも異なっていてもよい。)
前記イオン交換基が実質的に導入されていないセグメントが、下記一般式(2)で表されるセグメントであるブロック共重合体。


(式中、nは5以上の整数を表し、Ar4、Ar5、Ar6、Ar7は互いに独立に2価の芳香族基を表し、ここでこれらの2価の芳香族基は、置換基を有していてもよい炭素数1〜20の炭化水素基、置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルコキシ基、置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアシル基、置換基を有していてもよい炭素数6〜20のアリールオキシ基または置換基を有していてもよい炭素数7〜20のアリールカルボニル基またはフルオロ基で置換されていてもよい。rは0または1、sは0,1または2を表す。Xは、直接結合または、

から選ばれる2価の基を表し、Xが複数個ある場合、それらは互いに同一でも異なっていてもよい。)
【請求項2】
イオン交換基が導入されたセグメントと、イオン交換基が実質的に導入されていないセグメントの重量組成比が、[イオン交換基が導入されたセグメント]/[イオン交換基が実質的に導入されていないセグメント]で表して、3/97〜70/30である、請求項1記載のブロック共重合体。
【請求項3】
イオン交換基が酸基である、請求項1または2に記載のブロック共重合体。
【請求項4】
イオン交換基が強酸基または超強酸基である、請求項1または2に記載のブロック共重合体。
【請求項5】
イオン交換基がスルホン酸基である、請求項1または2に記載のブロック共重合体。
【請求項6】
イオン交換基が導入されたセグメントが、下記一般式(4)

(式中、m、kは上記一般式(1A)と同義である。xは0または1、yは0または1を表し、x+yは1または2である。zは0、1または2を表す。)
で表されるセグメントを有する、請求項1または2に記載のブロック共重合体。
【請求項7】
イオン交換容量が、0.5meq/g〜4.0meq/gである、請求項1〜6のいずれかの記載のブロック共重合体。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載のブロック共重合体を主成分とする高分子電解質。
【請求項9】
請求項8に記載の高分子電解質を含む、高分子電解質膜。
【請求項10】
請求項8に記載の高分子電解質と多孔質基材とを用いてなる、高分子電解質複合膜。
【請求項11】
請求項8の高分子電解質と、触媒成分とを含有する触媒組成物。
【請求項12】
請求項9記載の高分子電解質膜、請求項10記載の高分子電解質複合膜または請求項11記載の触媒組成物から得られる触媒層のうち、少なくとも1つを有する燃料電池。

【図1】
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【公開番号】特開2008−7759(P2008−7759A)
【公開日】平成20年1月17日(2008.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−141543(P2007−141543)
【出願日】平成19年5月29日(2007.5.29)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】