説明

ブロッコリー種子からグルコシノレートを抽出するための方法

グルコシノレートを植物原料、好ましくはブロッコリーのスプラウトまたは種子から抽出し、精製するための新規方法が記載される。アルコール抽出物を、塩基性樹脂に吸着させ、アンモニアで溶離させる。任意選択により、アルコール抽出物は、上記吸着/溶離工程に先だって、酸性樹脂を含むイオン交換カラムに通される。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
[発明の簡単な説明]
本発明は、ブロッコリー種子の抽出物を塩基性樹脂に吸着させ、続いてその吸着させたグルコシノレートを溶離させ、グルコシノレートを多く含んだ溶出液を回収する工程を含む、ブロッコリーの種子、スプラウト、または小房からグルコシノレートを抽出するための方法に関する。
【0002】
[発明の背景]
ブロッコリー種子は、多量のグルコシノレート(グルコラファニン(glucoraphanin)、グルコイベリン(glucoiberin)、グルコエルシン(glucoerucin)を含む)を有する。グルコシノレートは生物学的に活性ではないが、酵素ミロシナーゼ(多くの植物細胞中および消化官ミクロフローラ中に存在する)による開裂が、活性イソチオシアネートの形成をもたらす。これらのイソチオシアネート(スルフォラファンを含む)が、数多くの健康促進特性を有することが示されており、また実験によっては、様々な抗癌作用を発揮することさえ示されることもあった。
【0003】
これまで様々な著者が、ブロッコリー種子からグルコラファニンを得るための抽出/精製方法を開発してきた。例えば、Westら,2002,J.Chromatog A,966:227−232は、種々のグルコシノレートを精製するための、イオン対クロマトグラフィーおよび親水性相互作用クロマトグラフィーの使用について記載している。強イオン交換置換遠心分配クロマトグラフィー(strong ion−exchange displacement centrifugal partition chromatography)を用いるシナルビンおよびグルコラファニンの精製について記載するToribioら,2007,J.Chromatog A,1170:44−51も参照されたい。しかしながら、これらの技術はともに化合物の精製に関するものであり、経済的でかつ食品グレードの試薬を用いる、ブロッコリー種子からのグルコラファニン含有抽出物の単なる抽出に関するものではない。
【0004】
食品グレードまたは機能性食品グレードのグルコシノレート、特にグルコラファニンの製造に適した簡易な確固としたグルコシノレート抽出法があることが望ましいであろう。
【0005】
[発明の詳細な説明]
グルコシノレート含有抽出物を製造するための新規方法が、本発明に従って開発された。本方法は、
a)グルコシノレート含有植物部分もしくは種子、またはグルコシノレート含有植物部分もしくは種子の抽出物を、低級アルコールもしくはケトンまたは低級アルコールもしくはケトンの水性混合物を含む抽出媒体で抽出して、アルコール抽出物またはケトン抽出物を得る工程;
b)任意選択により、工程a)の抽出媒体を完全にまたは部分的に蒸発させる工程;
c)任意選択により、工程a)または工程b)の抽出物をカチオン交換樹脂と接触させる工程;
d)工程a)、工程b)または工程c)からの抽出物を塩基性樹脂に吸着させる工程;および
e)任意選択により、結果として生ずるグルコシノレート含有抽出物を溶離する工程
を含む。
【0006】
工程b)〜e)に好適な溶媒としては、水、C1〜4アルコール、C3〜4ケトン、およびそれらの混合物が挙げられる。
【0007】
好ましくは、カチオン交換樹脂は酸性形態にあり、より好ましくは、強酸性イオン交換体が使用される。
【0008】
所望であれば、追加の工程が、工程e)から得られたグルコシノレート含有抽出物に対して行われ得る。本発明のこの実施形態において、グルコシノレート含有抽出物の揮発性物質が蒸発される。この工程の結果として、グルコラファニン、グルコエルシン(glucerucin)およびグルコイベリンを含むグルコシノレートを含有する固体抽出物が得られる。本方法によって製造された固体抽出物はまた、本発明の別の態様も構成する。
【0009】
本発明の出発原料は、任意のグルコシノレート含有植物原料であるか、または任意のグルコシノレート含有抽出物であり得る。好ましくは、植物原料は、アブラナ科(例えば、ブロッコリー、カラシ、ナタネ、カリフラワー、カブキャベツ、キャベツ、タイサイ、カブラ、ラディッシュ、ワサビ、ワサビダイコンおよび芽キャベツ)に由来する。
【0010】
成熟した植物葉よりもスプラウトおよび種子の方が多くの場合に多量のグルコシノレートを含有することが知られていることから上記植物部分はスプラウトまたは種子であり得るが、小房または花蕾球(head)もまた使用され得る。所望であれば、植物部分はまず、洗浄または脱脂(種子の場合)の前処理工程に供され得る。好ましい実施形態において、植物はブロッコリー植物であり、種子が抽出される。この場合、本方法の最初の出発原料は、ブロッコリー種子抽出物かまたはブロッコリー種子そのものであり得る。
【0011】
任意選択により洗浄され、かつ/または脱脂され、かつ/または別のやり方で処理された植物部分から始める場合は、その植物部分は抽出工程に供される。この抽出においては、水性媒体、または低級アルコールもしくはケトン(ここで、低級アルコールもしくはケトンは、C1〜C4アルコールもしくはケトンまたはそれらの混合物である)を用いることが好ましい。これは、炭または他の類似の物質(例えば、セライト)の存在下で行われ得る。例えば、上述のToribioらを参照されたい。得られた抽出物は、次いで、次の工程で使用され得る。所望であれば、抽出物は、さらなる精製工程(例えば、限外濾過)に供され得る。抽出物はまた、任意選択により、溶媒の完全なまたは部分的な蒸発によって濃縮され得る。
【0012】
次いで、次の工程において、植物部分の抽出物(上記で得られたものか、または任意選択により、市販の抽出物)が、低級アルコールまたは低級ケトンを含む抽出媒体で抽出される。用語「低級アルコール」または「低級ケトン」は、アルコールがC1〜C4アルコールもしくはそれらの混合物であること、またはケトンがC3〜C4ケトンもしくはそれらの混合物であることを意味しており、工業用エタノールの使用も用いられ得るが、好ましくは、食品製造における使用が認可されているアルコールまたはケトン(例えば、エタノールまたはアセトン)である。アルコールまたはケトンは、好ましくはエタノールまたはアセトンであり、水溶液(例えば、少なくとも約40%のアルコールまたはケトン)中に含まれ得る。低級アルコールまたは低級ケトンは、好ましい実施形態においては、水溶液中に少なくとも約70%含まれ、より好ましい実施形態においては、約70%〜約95%含まれる。この工程において、温度は特に重要ではない。可溶性物質を不溶性物質から分離するために、抽出物は、濾過されるかまたはデカントされ得る。
【0013】
抽出物は、揮発性物質を除去するために蒸発乾燥され、続いて次の工程のために適切な溶媒(例えば、水、低級アルコール、ケトン、またはそれらの混合物)に溶解され得る。
【0014】
任意選択により、適切な溶媒または溶媒混合物中のアルコールまたはケトン抽出物は、好ましくは強酸性樹脂である、酸性形態のカチオンイオン交換カラム(例えば、DOWEX(登録商標)50WまたはAMBERLYST(登録商標)15(ともにSigma Aldrichから入手可能))に供される。また、機能性食品または食品成分としての最終生成物の意図される用途に即して、樹脂は、食品生産の法的規制を満たすように選択される方が好ましい。
【0015】
アルコール抽出工程、または好ましくはイオン交換工程から得られた抽出物は、次いで、塩基性樹脂に吸着される。塩基性樹脂は、強塩基性樹脂または弱塩基性樹脂のいずれか、好ましくは弱塩基性樹脂であり得る。適切な樹脂の例としては、AMBERLITE(登録商標)IRA−67、およびLEWATIT(登録商標)VPOC 1065(ともにSigma Aldrichから入手可能)が挙げられる。機能性食品/食品グレードの原料を製造するという目的に即して、樹脂は、規制的観点からこの目的に適するものである方が好ましい。この工程については、温度は特に重要ではなく、周囲温度の方が好ましい。
【0016】
そうして調製されたイオン交換カラムは、次いで、水、低級アルコール(C1〜C4)もしくはアセトンまたはそれらの混合物中の塩基(例えば、アンモニア、希水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウムなど)で溶出される。好ましい塩基は、水、低級アルコール(C1〜C4)またはそれら溶媒の混合物中のアンモニアである。
【0017】
結果として生ずる溶出液(最終抽出物)は、最初の出発原料よりも精製された形態で、グルコシノレートを含有する。主生成物の実際の量は、出発植物原料中の含有量によってロットごとに異なり得る。典型的な最終抽出物は、以下の主要なグルコシノレート、すなわち、グルコラファニン、グルコエルシンおよびグルコイベリンを含有する。この生成物は、本発明のさらなる別の実施形態を構成する。
【0018】
所望であれば、最終抽出物は、固体抽出物となるように、従来手段を用いて蒸発乾燥、凍結乾燥または噴霧乾燥され得る。このように処理された固体抽出物もまた、本発明の一態様を構成する。
【0019】
本発明の1つの好ましい実施形態において、イオン交換処理およびアンモニアでの溶離後の抽出物は、主生成物としてグルコラファニンのアンモニウム塩を含有する。任意ではあるが好ましい工程において、アンモニウム塩は、さらなる処理に適した、アンモニウムを含まない抽出物に転化される。この任意の工程において、酸性である抽出物の塩基性が高められる。これは、任意の従来の塩基源(例えば、アルカリまたはアルカリ土類(earth alkali)の水酸化物(例えば、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム))を加えることによって成され得る。好ましくは、この塩基は、食品における使用に適するものである(例えば、水酸化ナトリウム)。
【0020】
pHが7.0より上まで、より好ましくは約pH7〜pH12まで、さらにより好ましくはpH9〜11まで上昇するように、十分な塩基が加えられる。
【0021】
塩基性環境(例えばpH9〜11)を形成するための塩基(例えば、水酸化ナトリウム)の添加は、アンモニウムイオンをナトリウムイオンに交換することを可能にする。次いで、揮発性物質が、結果として生ずるナトリウムグルコシノレートから、従来手段により分離(例えば、減圧の使用により分離(すなわち、部分的真空を用いて除去))されて、アンモニウムを含まない抽出物が生じ得る。
【0022】
以下の非限定的な実施例により、本発明をより良く説明する。
【0023】
[実施例1]
参照により本明細書に援用されるA.Toribioら;J.Chromatogr.A,1170(2007)44−51に一般的に記載される手順に従い、抽出を行った。3kgのブロッコリー種子を、20Lの水中で還流温度にて2時間にわたり攪拌した。結果として生じた温溶液を濾過した。次いで、濾液を150gの炭と一緒に2時間にわたり攪拌した。この懸濁液を濾過し、60℃にて減圧下で濃縮して、グルコラファニン含有率12%の310gの残留物を得た。
【0024】
[実施例2]
4.0gの実施例1の残留物を、40mLのエタノール:水(82%:18%)混合物中に懸濁させ、加熱して、約30分間還流させた。結果として生じた懸濁液を濾過し、母液を60℃にて減圧下(30ミリバール)で蒸発乾燥させた。抽出物(2.2g)を、グルコラファニン純度16%で得た。
【0025】
[実施例3]
2gのイオン交換体AMBERLITE(登録商標)IRA−67を、10mLの水中で2.0gの実施例1の抽出物と一緒に30分間攪拌した。濾過により液体を除去し、負荷イオン交換体を水(5mL)で洗浄した。この負荷イオン交換体を、10mLのメタノール中5%水酸化アンモニウム水溶液と一緒に、周囲温度にて30分間攪拌した。濾過後、濾液を減圧下(30ミリバール、70℃)で蒸発乾燥させた。
【0026】
結果として、純度54%でグルコラファニンを含有する97.3mgの抽出物を得た。
【0027】
[実施例4]
10mLの水中5%水酸化アンモニウム水溶液で実施例3の負荷イオン交換体を洗浄し、蒸発乾燥後、純度19%で217mgのグルコラファニンを得た。
【0028】
[実施例5]
2gの酸性イオン交換体AMBERLYST(登録商標)15を、10mLの水中で、1gの実施例2の抽出物と一緒に周囲温度にて30分間攪拌した。濾過により液体を除去し、イオン交換体を水(5mL)で洗浄した。グルコラファニンの遊離酸を含有する溶出液を、弱塩基性イオン交換体AMBERLYST(登録商標)IRA−67(2g)と一緒に周囲温度にて30分間攪拌した。濾過により液体を除去し、負荷イオン交換体を水(10mL)で洗浄した。この負荷イオン交換体を、10mLのメタノール中5%アンモニア水の溶液と一緒に、周囲温度にて30分間攪拌した。濾過後、溶出液を減圧下(30ミリバール、70℃)で蒸発乾燥させた。収量:純度69%(HPLCにより決定)のグルコラファニン95.2mg。
【0029】
[実施例6]
水中5%水酸化アンモニウム水溶液で実施例5からの負荷塩基性イオン交換体を洗浄し、蒸発乾燥後、385.3mgのグルコラファニン(純度25%)を得た。
【0030】
[実施例7]
実施例5の1gの抽出物を、10mLの水中で攪拌した。水酸化ナトリウム水溶液(1N)を、pHが10.5に達するまで加えた。この混合物を室温にて30分間攪拌し、揮発性物質を減圧下(30ミリバール、70℃)で除去した。収量:純度64%(HPLCにより決定)のグルコラファニン980mg。42%のアンモニウムイオンが、ナトリウムイオンに交換された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
グルコシノレート含有植物部分もしくは種子から、またはグルコシノレート含有植物部分もしくは種子の抽出物から、グルコシノレート含有抽出物を得るための方法であって、
a)グルコシノレート含有植物部分もしくは種子、またはグルコシノレート含有植物部分もしくは種子の抽出物を、低級アルコールもしくはケトンまたはその水との混合物を含む抽出媒体で抽出して、アルコールまたはケトンのグルコシノレート含有抽出物を得る工程と;
b)任意選択により、工程a)の前記グルコシノレート含有抽出物をカチオンイオン交換樹脂と接触させる工程と;
c)工程a)または工程b)のいずれかからの前記グルコシノレート含有抽出物を塩基性樹脂に吸着させる工程と;
d)任意選択により、結果として生ずるグルコシノレート含有抽出物を溶離する工程と
を含む方法。
【請求項2】
結果として生ずるグルコシノレート含有抽出物から揮発性物質を蒸発させる工程をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
工程b)の前記カチオン交換樹脂が、強酸性樹脂である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
工程a)の前記アルコールがC1〜C4アルコールである、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記アルコールがエタノールである、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
工程a)の前記ケトンがアセトンである、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記C1〜C4アルコールまたはアセトンが、水溶液中に少なくとも約40%の濃度で含まれる、請求項4〜6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
エタノールが、水溶液中に約70%〜約95%含まれる、請求項5に記載の方法。
【請求項9】
出発原料が、グルコシノレート含有植物部分もしくは種子の抽出物である、請求項1〜8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記植物部分もしくは種子が、ブロッコリー、カラシ、ナタネ、カリフラワー、カブキャベツ、キャベツ、タイサイ、カブラ、ラディッシュ、ワサビ、ワサビダイコンおよび芽キャベツからなる群から選択される、請求項1〜9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記植物がブロッコリーである、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記植物部分もしくは種子がブロッコリー種子である、請求項10に記載の方法。
【請求項13】
蒸発乾燥、凍結乾燥、または噴霧乾燥の工程をさらに含む、請求項1〜12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
pHを少なくとも7.0まで上昇させるのに十分な塩基を工程d)の溶出液に加え、結果として生ずるグルコシノレート含有塩を分離する工程をさらに含む、請求項1〜13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記グルコシノレート含有塩が、アルカリカチオンまたはアルカリ土類カチオンを有する、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記分離する工程は、減圧下で揮発性物質を除去することを含む、請求項14〜15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
請求項1〜16のいずれか一項に記載の方法によって生成される生成物。

【公表番号】特表2012−500822(P2012−500822A)
【公表日】平成24年1月12日(2012.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−524334(P2011−524334)
【出願日】平成21年8月21日(2009.8.21)
【国際出願番号】PCT/EP2009/060824
【国際公開番号】WO2010/023162
【国際公開日】平成22年3月4日(2010.3.4)
【出願人】(503220392)ディーエスエム アイピー アセッツ ビー.ブイ. (873)
【Fターム(参考)】