説明

ブロモテトラフルオロアルカノール類の製造方法

【課題】医薬、農薬及び含フッ素重合体等の機能性材料の合成中間体として有用な1−ブロモ−1,1,2,2−テトラフルオロ−アルカノール類の工業的な製造方法を提供する。また新規化合物である1−ブロモ−1,1,2,2−テトラフルオロアルキル−マロン酸ジエステル、1−ブロモ−1,1,2,2−テトラフルオロ−アルカン酸、および1−ブロモ−1,1,2,2−テトラフルオロ−アルカン酸塩化物を提供する。
【解決手段】工業的に安価に入手可能である1−ブロモ−1,1,2,2−テトラフルオロ−アルキルハライド類を出発原料とし、アルキル化工程、加水分解工程、塩素化工程を経、還元工程の4工程を経ることで、目的の1−ブロモ−1,1,2,2−テトラフルオロ−アルカノール類を高収率で製造できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は医薬・農薬の中間体として、また含フッ素重合体等の機能性材料の製造原料または合成中間体として有用な、ブロモテトラフルオロアルカノール類及びその誘導体の製造法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、1−ブロモ−1,1,2,2−テトラフルオロ−アルカノール類を製造する方法として、5,5,6,6−テトラフルオロ−6−ブロモヘキセンにトリフルオロボラン・ジエチルエーテル錯体と水素化ホウ素ナトリウムを作用させ、続いて、アルカリ性条件下、過酸化水素を作用させることによる、5,5,6,6−テトラフルオロ−6−ブロモヘキサノールを製造する例が知られている(非特許文献1)。また、1,2−ジブロモ−1,1,2,2−テトラフルオロ−エタンと酢酸アリルをUV照射下で5日間反応させ、続いて水酸化ナトリウムで処理して、5−ブロモ−4,4,5,5−テトラフルオロペンタン−1−オールを35%の収率で得る方法(非特許文献2)が知られている。
【非特許文献1】Journal of Organic Chemistry 1999年、第64巻、5993頁〜5999頁
【非特許文献2】Journal of The American Chemical Society 1999年、第121巻、2110頁〜2114頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上記のブロモテトラフルオロアルカノール類を製造する方法に関して、非特許文献1に開示された方法では、出発原料として、5,5,6,6−テトラフルオロ−6−ブロモヘキセンを必要とするが、高価である為、工業的に使用するのは困難である。非特許文献2に開示された方法では、反応に5日間という長時間を要し、しかも低収率でしか目的のブロモテトラフルオロアルカノールが得られない。さらにUV照射を実施できる高価な反応装置が必要であり、工業的に採用するのは難しい。このように、ブロモテトラフルオロアルカノール類の製造はかなり困難であり、将来にわたって効率的かつ実施できる工業的な製造方法の確立が望まれていた。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意検討を重ねた。その過程で、出発原料として工業的に安価に入手可能である1−ブロモ−1,1,2,2−テトラフルオロ−アルキルハライド類を使用することをまず発案した。すなわち、1−ブロモ−1,1,2,2−テトラフルオロ−アルキルハライド類にマロン酸ジアルキルエステルを作用させることで、炭素鎖を伸ばし(第1工程)、加水分解を伴って(第2工程)、1−ブロモ−1,1,2,2−テトラフルオロ−アルカン酸類へと誘導し(第3工程)、これを還元することにより、1−ブロモ−1,1,2,2−テトラフルオロ−アルカノール類を製造する(第4工程)方法である。
【0005】
一般に、フッ素置換基を有するアルカン酸を還元剤によって還元してフッ素置換基を有するアルコールを得る場合、還元剤として水素化アルミニウムリチウム(LiAlH4)を用いる方法がよく知られている。ここでは、基質のフッ素置換基は全て残されたまま反応せず、カルボン酸部位のみ還元され、目的のアルコールが高収率で得られている。
(例えば、Tetrahedron Letters 2000年、第41巻、2885頁〜2889頁参照)
【0006】
【化11】

【0007】
一方、1−ブロモ−1,1,2,2−テトラフルオロ−エチル基を有するようなアルカン酸誘導体を還元した例は知られていない。
【0008】
そこで上記反応を1−ブロモ−1,1,2,2−テトラフルオロ−エチル基を有するようなアルカン酸に適用し、1−ブロモ−1,1,2,2−テトラフルオロ−アルカノール類の合成を試みることとした。その結果、目的物は得られず、望まないブロモ置換基が選択的に還元された化合物である、1,1,2,2−テトラフルオロ−エチル基を有する化合物を与えるということがわかった(比較例1を参照)。また、他の還元剤として、ボラン-THF錯体も試みたが、同様にブロモ置換基が選択的に還元された化合物を与えた(比較例2を参照)。
【0009】
【化12】

【0010】
また、1−ブロモ−1,1,2,2−テトラフルオロ−アルカン酸のカルボン酸部位をエステルとし、水素化ホウ素ナトリウム(NaBH)を作用させたが、この場合も、望まないブロモ置換基が選択的に還元された化合物を与えた(比較例3を参照)。
【0011】
【化13】

【0012】
上記課題を解決するため鋭意検討を重ねた結果、1−ブロモ−1,1,2,2−テトラフルオロ−アルカン酸のカルボン酸部位を酸塩化物とし(第3工程)、得られた酸塩化物に還元剤として水素化ホウ素ナトリウム(NaBH)を作用させたところ(第4工程)、ブロモ置換基の還元が抑制され、目的のアルコールを良好な収率で得ることに、本発明者らは成功した。さらに溶媒が生成物の選択性を大きく影響することを確認し、エーテル系溶媒を反応溶媒として使用すると、反応速度、反応選択性が著しく向上し、高い収率で目的物が得られることを見出した。
【0013】
【化14】

【0014】
上記の様に、安価で入手容易な一般式[3]で表される1−ブロモ−1,1,2,2−テトラフルオロアルキルハライド類
【0015】
【化15】

【0016】
を出発原料とし、一般式[5]
【0017】
【化16】

【0018】
で表される1−ブロモ−1,1,2,2−テトラフルオロ−アルカン酸塩化物を経由するという新規な方法によって、目的の、式[1]
【0019】
【化17】

【0020】
(式中、Xはハロゲン(塩素、臭素またはヨウ素)表し、Rは置換もしくは非置換の炭素数1〜20の直鎖状、分岐状又は環状のアルキル基、置換もしくは非置換の炭素数6〜15のアリール基又は炭素数4〜15のヘテロアリール基を表す。Rの置換基としてハロゲン、カルボニル基、ヒドロキシル基、エステル、ラクトン、アミノ基、アミド基、エーテル結合性酸素原子、などを含んでいても良い。nは1〜12の整数を表す。)
で表される1−ブロモ−1,1,2,2−テトラフルオロ−アルカノール類が高収率で得られることを見出し、上記課題を解決することができた。
【0021】
本発明の反応では、必要な原料はいずれも安価であり、各段階とも操作は簡便であり、操作上の負担も少なく実施できるため、目的とするブロモテトラフルオロアルカノール類を工業的規模で製造する上で、従来の手段よりもはるかに有利である。
【0022】
すなわち、本発明は、[発明1]〜[発明10]を含む。
【0023】
[発明1]
下記の4工程を含むことによる一般式[1]
【0024】
【化18】

【0025】
(式中、Rは水素原子、置換もしくは非置換の炭素数1〜20の直鎖状、分岐状又は環状のアルキル基、置換もしくは非置換の炭素数6〜15のアリール基又は炭素数4〜15のヘテロアリール基を表す。Rの置換基としてハロゲン、カルボニル基、ヒドロキシル基、エステル、ラクトン、アミノ基、アミド基、エーテル結合性酸素原子を含んでいても良い。nは1〜8の整数を表す。)
で表される1−ブロモ−1,1,2,2−テトラフルオロ−アルカノール類の製造方法。
【0026】
第1工程:一般式[2]
【0027】
【化19】

【0028】
(式中、Rは前記定義に同じ。式中Mはアルカリ金属またはアルカリ土類金属を示す。式中xは金属の価数を表しており、1または2を示す。式中yは1または2を示す。式中、R、Rは置換もしくは非置換の炭素数1〜20の直鎖状、分岐状又は環状のアルキル基、置換もしくは非置換の炭素数6〜15のアリール基又は炭素数4〜15のヘテロアリール基を表す。R、Rの置換基としてカルボニル基、ヒドロキシル基、エステル、ラクトン、アミノ基、アミド基、エーテル結合性酸素原子を含んでいても良い。RとRは互いに同じでも異なっていても良い。)
で表されるマロン酸ジアルキルエステル類の金属塩を、一般式[3]
【0029】
【化20】

【0030】
(式中、Xはハロゲン(塩素、臭素またはヨウ素)表す。式中、nは前記定義に同じ。)
で表される1−ブロモ−1,1,2,2−テトラフルオロ−アルキルハライド類を反応させ、一般式[4]
【0031】
【化21】

【0032】
(式中、R、R、R、およびnは前記定義に同じ。)
で表される1−ブロモ−1,1,2,2−テトラフルオロアルキル−マロン酸ジエステルを製造する工程。
第2工程:第1工程で得られた、一般式[4]で表される1−ブロモ−1,1,2,2−テトラフルオロアルキル−マロン酸ジエステルを、塩基の存在下、加水分解することにより、一般式[5]
【0033】
【化22】

【0034】
(式中、Rおよびnは前記定義に同じ。)
で表される1−ブロモ−1,1,2,2−テトラフルオロ−アルカン酸類を製造する工程。
【0035】
第3工程:第2工程で得られた、一般式[5]で表される1−ブロモ−1,1,2,2−テトラフルオロ−アルカン酸類を、塩素化剤により塩素化することにより、一般式[6]
【0036】
【化23】

【0037】
(式中、Rおよびnは前記定義に同じ。)
で表される1−ブロモ−1,1,2,2−テトラフルオロ−アルカン酸塩化物類を製造する工程。
【0038】
第4工程:第3工程で得られた、一般式[6]で表される1−ブロモ−1,1,2,2−テトラフルオロ−アルカン酸塩化物類に還元剤を作用させることにより、一般式[1]で表される1−ブロモ−1,1,2,2−テトラフルオロ−アルカノール類を製造する工程。
【0039】
[発明2] 一般式[2]で表されるマロン酸ジアルキルエステル類の金属塩が、一般式[7]
【0040】
【化24】

【0041】
(式中、R、R、Rは前記定義に同じ。)
で表されるマロン酸ジアルキルエステル類を、極性溶媒中でアルカリ金属、アルカリ土類金属、アルカリ金属水素化物、アルカリ土類金属水素化物、アルカリ金属アルコラート、またはアルカリ土類金属アルコラートと反応させて製造したものである、発明1に記載の1−ブロモ−1,1,2,2−テトラフルオロ−アルカノール類の製造方法。
【0042】
[発明3]nが1である、発明1または発明2に記載の1−ブロモ−1,1,2,2−テトラフルオロ−アルカノール類の製造方法。
【0043】
[発明4]第4工程において、還元剤が水素化ホウ素ナトリウムであり、かつ、エーテル系溶媒の存在下、該作用が行なわれることを特徴とする、発明1乃至発明3の何れかに記載の1−ブロモ−1,1,2,2−テトラフルオロ−アルカノール類の製造方法。
【0044】
[発明5]一般式[4]
【0045】
【化25】

【0046】
(式中、R、R、R、およびnは前記定義に同じ。)
で表される1−ブロモ−1,1,2,2−テトラフルオロアルキル−マロン酸ジエステル類。
【0047】
[発明6]一般式[5]
【0048】
【化26】

【0049】
(式中、Rおよびnは前記定義に同じ。)
で表される1−ブロモ−1,1,2,2−テトラフルオロ−アルカン酸類。
【0050】
[発明7]
一般式[6]
【0051】
【化27】

【0052】
(式中、Rおよびnは前記定義に同じ。)
で表される1−ブロモ−1,1,2,2−テトラフルオロ−アルカン酸塩化物類。
【0053】
[発明8]2−(4−ブロモ−3,3,4,4−テトラフルオロブチル)−マロン酸 ジエチルエステル。
【0054】
[発明9]6−ブロモ−5,5,6,6−テトラフルオロヘキサン酸。
【0055】
[発明10]6−ブロモ−5,5,6,6−テトラフルオロヘキサノイルクロリド。
【発明の効果】
【0056】
本発明によれば、安価で入手できる1−ブロモ−1,1,2,2−テトラフルオロアルキルハライド類から、少ない工程で簡便に、しかも良好な収率で、医薬・農薬の中間体として、また含フッ素重合体等の機能性材料の製造原料または合成中間体として有用な、ブロモテトラフルオロアルカノール類を工業的規模で製造できるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0057】
以下、本発明につき、さらに詳細に説明する。本発明は一般式[2]で表されるマロン酸ジアルキルエステル類の金属塩を、一般式[3]で表される1−ブロモ−1,1,2,2−テトラフルオロ−アルキルハライド類と反応させ、一般式[4]で表される1−ブロモ−1,1,2,2−テトラフルオロアルキル−マロン酸ジエステルを製造する工程(「第1工程」:アルキル化工程)、得られた、一般式[4]をアルカリ加水分解することにより、一般式[5]で表される1−ブロモ−1,1,2,2−テトラフルオロ−アルカン酸類を製造する工程(「第2工程」:加水分解工程)、得られた一般式[5]を塩素化剤により塩素化して1−ブロモ−1,1,2,2−テトラフルオロ−アルカン酸塩化物類を製造する工程(「第3工程」:塩素化工程)および、得られた一般式[6]に還元剤を作用させて、一般式[1]で表される1−ブロモ−1,1,2,2−テトラフルオロ−アルカノール類を製造する工程(「第4工程」:還元工程)を含む(スキーム1)。
【0058】
【化28】

【0059】
まず、本発明の第1工程について説明する。第1工程は、一般式[3]で表される1−ブロモ−1,1,2,2−テトラフルオロ−アルキルハライド類を、一般式[2]で表されるマロン酸ジアルキルエステル類をアルカリ金属塩と反応させ、一般式[4]で表される1−ブロモ−1,1,2,2−テトラフルオロアルキル−マロン酸ジエステルを製造する工程である。
【0060】
本発明の出発原料である、一般式[3]で表される1−ブロモ−1,1,2,2−テトラフルオロ−アルキルハライド類としては、1、4−ジブロモ−1,1,2,2−テトラフルオロ−ブタン、1−ブロモ−4−クロロ−1,1,2,2−テトラフルオロ−ブタン、1−ブロモ−1,1,2,2−テトラフルオロ−4−ヨード−ブタン、1、6−ジブロモ−1,1,2,2−テトラフルオロ−ヘキサン、1−ブロモ−6−クロロ−1,1,2,2−テトラフルオロ−ヘキサン、1−ブロモ−1,1,2,2−テトラフルオロ−6−ヨード−ヘキサン、1、8−ジブロモ−1,1,2,2−テトラフルオロ−オクタン、1−ブロモ−8−クロロ−1,1,2,2−テトラフルオロ−オクタン、1−ブロモ−1,1,2,2−テトラフルオロ−8−ヨード−オクタン、1、10−ジブロモ−1,1,2,2−テトラフルオロ−デカン、1−ブロモ−10−クロロ−1,1,2,2−テトラフルオロ−デカン、1−ブロモ−1,1,2,2−テトラフルオロ−10−ヨード−デカン、1、12−ジブロモ−1,1,2,2−テトラフルオロ−ドデカン、1−ブロモ−12−クロロ−1,1,2,2−テトラフルオロ−ドデカン、1−ブロモ−1,1,2,2−テトラフルオロ−12−ヨード−ドデカン、1、14−ジブロモ−1,1,2,2−テトラフルオロ−テトラデカン、1−ブロモ−14−クロロ−1,1,2,2−テトラフルオロ−テトラデカン、1−ブロモ−1,1,2,2−テトラフルオロ−14−ヨード−テトラデカン、1、16−ジブロモ−1,1,2,2−テトラフルオロ−ヘキサデカン、1−ブロモ−16−クロロ−1,1,2,2−テトラフルオロ−ヘキサデカン、1−ブロモ−1,1,2,2−テトラフルオロ−16−ヨード−ヘキサデカン、1、18−ジブロモ−1,1,2,2−テトラフルオロ−オクタデカン、1−ブロモ−18−クロロ−1,1,2,2−テトラフルオロ−オクタデカン、1−ブロモ−1,1,2,2−テトラフルオロ−18−ヨード−オクタデカン、1、20−ジブロモ−1,1,2,2−テトラフルオロ−イコサン、1−ブロモ−20−クロロ−1,1,2,2−テトラフルオロ−イコサン、1−ブロモ−1,1,2,2−テトラフルオロ−20−ヨード−イコサンなどが好ましい。
【0061】
一般式[2]で表されるマロン酸ジアルキルエステル類の金属塩において、Rとしては、例えば、水素、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、1−メチルプロピル基、2−メチルプロピル基、tert−ブチル基、アダマンチル基、アダマンタンメチル基、4−ブロモ−3,3,4,4−テトラフルオロブチル基、6−ブロモ−5,5,6,6−テトラフルオロヘキシル基、8−ブロモ−7,7,8,8−テトラフルオロオクチル基、10−ブロモ−9、9,10,10−テトラフルオロデシル基、12−ブロモ−11,11,12,12−テトラフルオロドデシル基、14−ブロモ−13,13,14,14−テトラフルオロテトラデシル基、16−ブロモ−15,15,16,16−テトラフルオロヘキサデシル基、18−ブロモ−17,17,18,18−テトラフルオロオクタデシル基、20−ブロモ−19、19,20,20−テトラフルオロイコシル基などが挙げられる。より好ましくは水素、メチル基、4−ブロモ−3,3,4,4−テトラフルオロブチル基である。
【0062】
、およびRとしては、例えば、水素、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、1−メチルプロピル基、2−メチルプロピル基、tert−ブチル基等が挙げられる。より好ましくはメチル基、エチル基である。
【0063】
一般式[2]で表されるマロン酸ジアルキルエステル類の金属塩を製造する方法に特別な限定はないが、一般式[7]で表されるマロン酸ジアルキルエステル類を極性溶媒中でアルカリ金属、アルカリ土類金属、アルカリ金属水素化物、アルカリ土類金属水素化物、アルカリ金属アルコラート、またはアルカリ土類金属アルコラートと反応させることで製造することが好ましい。
【0064】
例えば、極性溶媒中に、アルカリ金属水素化物を分散させたり、極性溶媒の一部とアルカリ金属を反応させたりして、アルカリ金属分散溶液とする。このアルカリ金属分散溶液に、一般式[7]で表されるマロン酸ジアルキルエステル類を滴下すれば、マロン酸ジアルキルエステルアルカリ金属塩[2]が得られる。
【0065】
次に、このマロン酸ジアルキルエステル金属塩に、一般式[3]で表される1−ブロモ−1,1,2,2−テトラフルオロ−アルキルハライド類を滴下し、反応させる。こうして一般式[4]で表わされる新規1−ブロモ−1,1,2,2−テトラフルオロアルキル−マロン酸ジエステル類を得ることができる。
【0066】
第1工程において用いられる極性溶媒は、アルコール類、アルデヒド類、ケトン類、エステル類、スルホキシド類、ニトリル類、エーテル類、アミン類、アミド類、ニトロ化合物が挙げられる。これらの内、好ましい極性溶媒は、ジグライム、テトラヒドロフラン、ジイソプロピルエーテル、ジエチルエーテル等のエーテル類、Nーメチルピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルイミダゾリジノン等のアミド類、ジメチルスルホキシド等のスルホキシド類である。特に好ましくはジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミドである。
【0067】
また、これらの極性溶媒は必要に応じ混合して用いてもよい。溶媒の使用量は1−ブロモ−1,1,2,2−テトラフルオロ−アルキルハライド類に対して、通常0.2倍〜10倍容量、好ましくは0.5〜5倍容量の範囲から適宜選択される。
【0068】
用いられるアルカリ金属塩類として、Li、Na、K等のアルカリ金属、LiH、NaH、KH等のアルカリ金属水素化物、リチウムメトキシド、リチウムエトキシド、ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、カリウムメトキシド、カリウムエトキシド等のアルカリ金属アルコラートを挙げることができる。また、アルカリ土類金属塩類としてはMg,Ca等のアルカリ土類金属、マグネシウムエトキシド、カルシウムエトキシド等のアルカリ土類金属アルコラートを挙げることができる。また、アルカリ金属、アルカリ金属水素化物、アルカリ土類金属は、市販の流動パラフィン等に分散されたものを使用できる。これらのうち、反応性や経済性、および取り扱い易さからNaHが最も好ましい。
【0069】
反応温度は−50℃から150℃であり、好ましくは−20℃から使用する溶媒の還流温度程度であるが、より好ましくは0℃から110℃である。また、反応時間は1〜24時間程度であるが、ガスクロマトグラフィー(GC)や核磁気共鳴装置(NMR)などの分析機器を使用し,原料である1−ブロモ−1,1,2,2−テトラフルオロ−アルキルハライド類が消費された時点を反応の終点とすることが好ましい。
【0070】
使用するマロン酸ジアルキルエステル類は、アルカリ金属に対して、通常0.5〜10倍モルであり、好ましくは0.8〜2倍モルである。10倍モルを超えると未反応のマロン酸ジアルキルエステル類が増加し、経済的に不利である。
【0071】
使用する1−ブロモ−1,1,2,2−テトラフルオロ−アルキルハライド類は、一般式[2]で表されるマロン酸ジアルキルエステル類に対して、通常0.1〜3倍モルであり、より好ましくは0.8〜1.2倍モルである。0.1倍モル未満では、一般式[4]で表される1−ブロモ−1,1,2,2−テトラフルオロアルキル−マロン酸ジエステル類の収率が低下し、3倍モルを超えると未反応の1−ブロモ−1,1,2,2−テトラフルオロ−アルキルハライド類が増加し、経済的に不利である。
【0072】
上記反応は通常窒素、アルゴン等の不活性ガス雰囲気下、常圧で行う。溶媒やアルキルハライド類の性質に応じて、必要ならば、加圧下で反応を行っても差し支えない。また反応の方法は、通常、バッチ式で行うが、反応装置、製造量に応じて適宜、半連続式、連続式を選択しても良い。
【0073】
得られた前記一般式[4]で表わされる1−ブロモ−1,1,2,2−テトラフルオロアルキル−マロン酸ジエステル類を含む反応液は、ろ過および/または水洗した後、常法に従って、例えば、シリカゲルカラムクロマトグラフィー、蒸留、もしくは再結晶を行うことにより分離精製する。こうして一般式[4]で表わされる1−ブロモ−1,1,2,2−テトラフルオロアルキル−マロン酸ジエステル類が得られる。第1工程で得た反応混合物は精製をせず、次工程の原料として使用することもできるが、1−ブロモ−1,1,2,2−テトラフルオロアルキル−マロン酸ジエステル類を精製単離しておくと、次工程以降での不純物処理の負担が著しく低減されるので、この時点で精製しておくことが好ましい。
【0074】
次に第2工程について説明する。第2工程は、第1工程で得られた、一般式[4]で表わされる1−ブロモ−1,1,2,2−テトラフルオロアルキル−マロン酸ジエステル類を加水分解した後、加熱処理することにより、一般式[5]で表される1−ブロモ−1,1,2,2−テトラフルオロ−アルカン酸類を製造する工程である。すなわち、前記一般式[4]で表わされる1−ブロモ−1,1,2,2−テトラフルオロアルキル−マロン酸ジエステル類は、そのまま、または必要に応じて水溶性の有機溶媒を加えた後、アルカリ水溶液を添加することで加水分解される。続いて鉱酸を加えて酸性とし、有機溶媒で抽出する。用いた有機溶媒を濃縮した後、加熱処理することで、目的の一般式[5]で表される1−ブロモ−1,1,2,2−テトラフルオロ−アルカン酸類が合成できる。
【0075】
使用できる水溶性の有機溶媒はアルコール類、ケトン類、エーテル類、スルホキシド類、アミド類等が挙げられる。
【0076】
アルカリ溶液としては、5〜50重量%の水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、水酸化バリウム等を含む水溶液が挙げられる。添加するアルカリ溶液量は、1−ブロモ−1,1,2,2−テトラフルオロアルキル−マロン酸ジエステル類1モルに対して、2〜20倍モルのアルカリを含む量であれば良く、より好ましくは2〜6倍モルである。アルカリが2倍モル未満では新規マロン酸誘導体の加水分解が完全に進行せず、また20倍モルを超えて使用しても反応速度に変化はなく、経済性が損なわれる。
【0077】
加水分解の反応温度は10〜150℃であり、好ましくは60〜110℃である。10℃未満では反応速度が著しく遅く、反応を完結させるには長い時間を要する。一方150℃を超えると副生成物が増加し収率が低下する。
【0078】
使用できる鉱酸としては、濃塩酸、濃硫酸、濃硝酸、酢酸、リン酸、またはこれらの水溶液が挙げられる。鉱酸は、反応液がpH4以下の酸性溶液となるまで加える。この後、溶媒、例えば、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、テトラヒドロフラン等のエーテル類を加えて、有機分を抽出する。
【0079】
用いた有機溶媒を濃縮後、加熱処理して熱分解することで、目的の一般式[5]で表される1−ブロモ−1,1,2,2−テトラフルオロ−アルカン酸類が合成できる。
【0080】
熱分解の反応温度は通常50〜300℃であり、好ましくは100〜200℃である。80℃未満では熱分解速度が遅く多大な分解時間を必要とする。また300℃を超えると副反応が併発し、得られるアルカン酸の収率が低下し、また反応が急激に起こるため好ましくない。
【0081】
熱分解は無溶媒でも進行するが必要ならば溶媒を添加してもよい。溶媒としては、例えば、水、ジメチルホルムアミド、スルホラン、キシレン、メシチレン、エチレングリコール、グライム等が挙げられる。また本熱分解では必要に応じて鉱酸、例えば、塩酸、硫酸、硝酸、リン酸等を添加して行っても差し支えない。
【0082】
熱分解時間は通常0.1時間〜10時間であり、空気中あるいは窒素、炭酸ガス、アルゴン等の不活性ガス雰囲気下で行う。圧力は、大気圧で行うこともできるが、必要ならば加圧して行うこともできる。
【0083】
得られた熱分解液を、常法により、例えば、蒸留、再結晶により分離、精製して、目的の一般式[5]で表される1−ブロモ−1,1,2,2−テトラフルオロ−アルカン酸類を得ることができる。第2工程で得た反応混合物は精製をせず、次工程の原料として使用することもできる。
【0084】
次に第3工程について説明する。第3工程は得られた一般式[5]で表される1−ブロモ−1,1,2,2−テトラフルオロ−アルカン酸類を塩素化剤により塩素化して一般式[6]で表される1−ブロモ−1,1,2,2−テトラフルオロ−アルカン酸塩化物類を得る工程である。塩素化は、無溶媒下もしくは溶媒の存在下で塩素化剤と接触させ、加熱することにより達せられる。
【0085】
用いる塩素化剤として、塩化チオニル、塩化スルフリル、ホスゲン、塩化オキザリル、塩化ホスホリル、三塩化リン、五塩化リン、ジクロロトリフェニルホスホラン、ジブロモトリフェニルホスホラン等の汎用の塩素化剤が挙げられる。塩化チオニル、塩化ホスホリル、塩化オキザリルは特に安価であり、反応性も高いので、これらの試薬を用いて塩素化することが特に好ましい。
【0086】
用いる塩素化剤の量は1−ブロモ−1,1,2,2−テトラフルオロ−アルカン酸類1モルに対し0.8〜10倍モルであり、1〜5モル倍用いることが特に好ましい。
【0087】
溶媒はハロゲン化の条件下で不活性なものならば特に制限なく用いることができ、例えばベンゼン、トルエン、キシレン、塩化メチレン、1,2−ジクロロエタン、クロロホルム、四塩化炭素などを使用できる。塩素化剤として塩化チオニルのような液体を用いる場合にはこの塩素化剤が溶媒の役割も兼ねるため、敢えて溶媒を使用しなくてもよい。
【0088】
塩素化の反応温度は25〜200℃であり、より好ましくは30〜120℃である。
【0089】
上記塩素化反応で得られた反応混合物は精製をせず、次工程の原料として使用することもできるが、常法により、例えば、蒸留、再結晶により分離、精製して、一般式[6]で表される1−ブロモ−1,1,2,2−テトラフルオロ−アルカン酸塩化物類を単離することもできる。
【0090】
次に第4工程について説明する。第4工程は、上記で得られた一般式[6]で表される1−ブロモ−1,1,2,2−テトラフルオロ−アルカン酸塩化物類に還元剤を作用させて、一般式[1]で表される1−ブロモ−1,1,2,2−テトラフルオロ−アルカノール類を製造する工程である。
【0091】
還元剤としては、水素化ホウ素ナトリウム、水素化アルミニウムリチウム、ジイソブチル水素化アルミニウム、シアノ水素化ホウ素ナトリウム等、ビス(メトキシエトキシ)水素化アルミニウムナトリウム等の水素化金属化合物が挙げられるが、水素化ホウ素ナトリウムが特に好ましい。これらの使用量は、一般式[6]で表される1−ブロモ−1,1,2,2−テトラフルオロ−アルカン酸塩化物類1モルに対し、通常0.4〜10モル、好ましくは0.7〜5モルである。
【0092】
反応溶媒としては例えばn−ペンタン、n−ヘキサン、n−ヘプタン、n−オクタン等の飽和炭化水素、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素、テトラヒドロフラン、ジイソプロピルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチルエーテル、t−ブチルメチルエーテル、シクロペンチルメチルエーテル、1,4−ジオキサン等のエーテル類、ジクロロメタン、クロロホルム等のハロゲン化炭化水素、メタノール、エタノール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、グリセリン等のアルコール類、アセトニトリル、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、ヘキサメチルリン酸トリアミド等の非プロトン性極性溶媒、もしくは水が例示できる。これらの溶媒は単独で用いても良いが、2種以上の溶媒を組み合わせて使用することもできる。
【0093】
これらのうち、テトラヒドロフラン、ジイソプロピルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチルエーテル、t−ブチルメチルエーテル、シクロペンチルメチルエーテル、1,4−ジオキサン等のエーテル類(「エーテル系溶媒」)を反応溶媒として使用すると、反応速度、反応選択性が著しく向上し、特に高い収率で目的物が得られることを本発明者らは見出した。これらエーテル類の中でも、テトラヒドロフラン、とりわけエチレングリコールジメチルエーテルが、より好ましい結果を与える(後述の実施例1〜3、比較例1〜3を参照)。
【0094】
用いる溶媒の量は、使用した一般式[6]で表される1−ブロモ−1,1,2,2−テトラフルオロ−アルカン酸塩化物類に対し、通常0.2倍重量〜10倍重量、好ましくは1〜5倍重量の範囲から適宜選択される。
【0095】
上記反応は通常窒素、アルゴン等の不活性ガス中で行われる。反応温度は、通常、-30℃〜100℃、好ましくは0℃〜100℃で、さらに好ましくは、0℃〜60℃の範囲である。反応時間は0.1〜24時間程度であるが、ガスクロマトグラフィー(GC)や液体クロマトグラフィー(HPLC)、核磁気共鳴装置(NMR)などの分析機器を使用し,原料である1−ブロモ−1,1,2,2−テトラフルオロ−アルカン酸塩化物類が消費された時点を反応の終点とすることが好ましい。圧力については特に制限はないが、不活性ガスを導入して大気圧下で反応を行うか、あるいは密閉して加圧条件で反応を行うことができる。反応終了後、水を加えて未反応の水素化金属化合物を分解し、鉱酸を加えて中和し、有機溶媒で抽出した後、常法に従って、例えば、シリカゲルカラムクロマトグラフィー、蒸留、もしくは再結晶等を行うことにより分離精製する。こうして目的の純度の高い一般式[1]で表される1−ブロモ−1,1,2,2−テトラフルオロ−アルカノール類が得られる。
【実施例】
【0096】
以下に実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらにより限定されない。
[実施例1]
(第1工程)2−(4−ブロモ−3,3,4,4−テトラフルオロブチル)−マロン酸 ジエチルエステル{2-(4-Bromo-3,3,4,4-tetrafluoro-butyl)-malonic acid diethyl ester}の製造
【0097】
【化29】

【0098】
窒素雰囲気下、水素化ナトリウム320g(60%ミネラルオイル含有品)(7.17mol)のジメチルホルムアミド1900mLに添加し、マロン酸ジエチル1208g(7.17mol)を氷浴下で添加した。1時間攪拌後、この溶液に1−ブロモ−1,1,2,2−テトラフルオロ−4−ヨード−ブタン2400g(7.17mol)を反応液が100℃以下になるよう制御しながら添加した。1時間攪拌後、1N塩酸水溶液を1000mL添加し、ジイソプロピルエーテルで抽出した。有機層を濃縮し、減圧蒸留(115−116℃/0.53kPa)により、目的物である2−(4−ブロモ−3,3,4,4−テトラフルオロブチル)−マロン酸 ジエチルエステル1940g(収率74%、GC純度89%)を淡黄色液体として得た。
【0099】
[2−(4−ブロモ−3,3,4,4−テトラフルオロブチル)−マロン酸 ジエチルエステルの物性]1H-NMRスペクトル(400MHz,CDCl3)δ(ppm):1.23 (6H, t, J=7.1 Hz), 2.05-2.18 (2H, m), 2.20-2.40(2H, m), 3.59 (1H, t, J=7.0 Hz), 4.00-4.22 (4H, m).
19F-NMRスペクトル(400MHz,CDCl3):-66.2 ppm(2F, s), -112.0 ppm(2F, br t, J=18 Hz) (CFCl3=0 ppm).
(第2工程)6−ブロモ−5,5,6,6−テトラフルオロヘキサン酸(6-Bromo-5,5,6,6-tetrafluoro-hexanoic acid)の製造
【0100】
【化30】

【0101】
上記で得られた2−(4−ブロモ−3,3,4,4−テトラフルオロブチル)−マロン酸ジエチルエステル1940g(5.29mol)に15%水酸化ナトリウム水溶液7000g(26.4mol)を添加し、2時間加熱還流させた。室温まで冷却後、氷浴下濃塩酸(36%)を2900g(29.1mol)添加し、ジイソプロピルエーテルで抽出した。溶媒を留去した後、残渣を170℃に加熱し、目的物である6−ブロモ−5,5,6,6−テトラフルオロヘキサン酸1338g(収率95%)を褐色液体として得た。
【0102】
[6−ブロモ−5,5,6,6−テトラフルオロヘキサン酸の物性]1H-NMRスペクトル(400MHz,CDCl3)δ(ppm):1.86-1.99 (2H, m), 2.05-2.24 (2H, m), 2.42-2.52 (2H, m).
19F-NMRスペクトル(400MHz,CDCl3):-66.2 ppm(2F, s), -112.6 ppm(2F, br dd, J=18 Hz, 15 Hz) (CFCl3=0 ppm).
(第3工程)6−ブロモ−5,5,6,6−テトラフルオロヘキサノイルクロリド(6-Bromo-5,5,6,6-tetrafluoro-hexanoyl chloride)の製造
【0103】
【化31】

【0104】
窒素雰囲気下、上記で得られた6−ブロモ−5,5,6,6−テトラフルオロヘキサン酸1300g(4.87mol)に塩化チオニル780g(6.33mol)を添加し、50℃で4時間攪拌した。減圧蒸留(110℃/1kPa)により、目的物である6−ブロモ−5,5,6,6−テトラフルオロヘキサノイルクロリド1223g(収率88%、GC純度91%)を淡黄色液体として得た。
[6−ブロモ−5,5,6,6−テトラフルオロヘキサノイルクロリドの物性]1H-NMRスペクトル(400MHz,CDCl3)δ(ppm):1.97-1.05 (2H, m), 2.09-2.24 (2H, m), 3.02 (2H, t, J=7.1 Hz).
19F-NMRスペクトル(400MHz,CDCl3):-66.4 ppm(2F, br s), -112.6 ppm(2F, br dd, J=21 Hz, 9 Hz) (CFCl3=0 ppm).
(第4工程)6−ブロモ−5,5,6,6−テトラフルオロヘキサン−1−オール(6-Bromo-5,5,6,6-tetrafluoro-hexan-1-ol)の製造(溶媒にエチレングリコールジメチルエーテルを使用)
【0105】
【化32】

【0106】
窒素雰囲気下、上記で得られた6−ブロモ−5,5,6,6−テトラフルオロヘキサノイルクロリド500g(1.75mol)をエチレングリコールジメチルエーテル1500mLに溶解し、水素化ホウ素ナトリウム53g(1.40mol)を添加した。50℃で2時間攪拌後、反応液を希硫酸水溶液に添加し、ジイソプロピルエーテルで抽出した。(ここで、反応液をガスクロマトグラフィーにて分析したところ、目的生成物6−ブロモ−5,5,6,6−テトラフルオロヘキサン−1−オールと、副生成物5,5,6,6−テトラフルオロ−ヘキサン−1−オールの生成比は100%:0%であった。表1参照)溶媒留去後、減圧蒸留(113℃/3.8kPa)により、目的物である6−ブロモ−5,5,6,6−テトラフルオロヘキサン−1−オール332g(収率94%、GC純度99.3%)を無色透明液体として得た。
【0107】
[6−ブロモ−5,5,6,6−テトラフルオロヘキサン−1−オールの物性]1H-NMRスペクトル(400MHz,CDCl3)δ(ppm):1.53-1.67 (4H, m), 1.98-2.10 (2H, m), 3.60 (2H, t, J=6.1 Hz).
19F-NMRスペクトル(400MHz,CDCl3):-66.1 ppm(2F, s), -112.6 ppm(2F, t, J=16 Hz ) (CFCl3=0 ppm).
[実施例2]6−ブロモ−5,5,6,6−テトラフルオロヘキサン−1−オールの製造(第4工程)(溶媒にテトラヒドロフランを使用)
窒素雰囲気下、上記(実施例1第3工程)で得られた6−ブロモ−5,5,6,6−テトラフルオロヘキサノイルクロリド10g(0.035mol)をテトラヒドロフラン30mLに溶解し、水素化ホウ素ナトリウム1.1g(0.03mol)を添加したした後、60℃で20時間攪拌した。この反応液をガスクロマトグラフィーにて分析したところ、目的生成物6−ブロモ−5,5,6,6−テトラフルオロヘキサン−1−オールと、副生成物5,5,6,6−テトラフルオロ−ヘキサン−1−オールの生成比は87%:13%であった。表1参照。
【0108】
[実施例3]6−ブロモ−5,5,6,6−テトラフルオロヘキサン−1−オールの製造(第4工程)(溶媒にエタノールを使用)
窒素雰囲気下、上記(実施例1第3工程)で得られた6−ブロモ−5,5,6,6−テトラフルオロヘキサノイルクロリド10g(0.035mol)をエタノール30mLに溶解し、水素化ホウ素ナトリウム1.1g(0.03mol)を添加した後、60℃で24時間攪拌した。この反応液をガスクロマトグラフィーにて分析したところ、目的生成物6−ブロモ−5,5,6,6−テトラフルオロヘキサン−1−オールと、副生成物5,5,6,6−テトラフルオロ−ヘキサン−1−オールの生成比は3%:1%であった。表1参照。
【0109】
実施例1〜3の結果(第4工程)を表1にまとめる。
【0110】
【表1】

【0111】
[比較例1]
窒素雰囲気下、6−ブロモ−5,5,6,6−テトラフルオロヘキサン酸1g(3.75mmol)をテトラヒドロフラン7mLに溶解し、水素化アルミニウムリチウム(LiAlH)213mg(5.62mmol)を添加した後、加熱還流下3時間攪拌した。反応液に硫酸水溶液を添加し、酢酸エチルで抽出後、溶媒濃縮したところ、5,5,6,6−テトラフルオロヘキサン酸が87%の収率で得られた。目的生成物6−ブロモ−5,5,6,6−テトラフルオロヘキサン−1−オールの生成は確認されなかった。
【0112】
[比較例2]
窒素雰囲気下、6−ブロモ−5,5,6,6−テトラフルオロヘキサン酸2.1g(7.87mmol)をテトラヒドロフラン5mLに溶解し、ボラン−テトラヒドロフラン錯体(BH−THF)のテトラヒドロフラン溶液(1.0M溶液)を39mL(39.4mmol)を添加した後、加熱還流下3時間攪拌した。反応液に硫酸水溶液を添加し、酢酸エチルで抽出後、溶媒濃縮したところ、5,5,6,6−テトラフルオロヘキサン酸が40%の収率で得られた。目的生成物6−ブロモ−5,5,6,6−テトラフルオロヘキサン−1−オールの生成は確認されなかった。
【0113】
[比較例3]
窒素雰囲気下、6−ブロモ−5,5,6,6−テトラフルオロヘキサン酸エチル1g(3.39mmol)をテトラヒドロフラン10mLおよびメタノール1mLに溶解し、水素化ホウ素ナトリウム129mg(3.39mmol)を添加した後、室温で1時間攪拌した。反応液に硫酸水溶液を添加し、酢酸エチルで抽出後、溶媒濃縮したところ、5,5,6,6−テトラフルオロヘキサン酸エチルが50%の収率で得られた。目的生成物6−ブロモ−5,5,6,6−テトラフルオロヘキサン−1−オールの生成は確認されなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の4工程を含むことによる一般式[1]
【化1】

(式中、Rは水素原子、置換もしくは非置換の炭素数1〜20の直鎖状、分岐状又は環状のアルキル基、置換もしくは非置換の炭素数6〜15のアリール基又は炭素数4〜15のヘテロアリール基を表す。Rの置換基としてハロゲン、カルボニル基、ヒドロキシル基、エステル、ラクトン、アミノ基、アミド基、エーテル結合性酸素原子を含んでいても良い。nは1〜8の整数を表す。)
で表される1−ブロモ−1,1,2,2−テトラフルオロ−アルカノール類の製造方法。
第1工程:一般式[2]
【化2】

(式中、Rは前記定義に同じ。式中Mはアルカリ金属またはアルカリ土類金属を示す。式中xは金属の価数を表しており、1または2を示す。式中yは1または2を示す。式中、R、Rは置換もしくは非置換の炭素数1〜20の直鎖状、分岐状又は環状のアルキル基、置換もしくは非置換の炭素数6〜15のアリール基又は炭素数4〜15のヘテロアリール基を表す。R、Rの置換基としてカルボニル基、ヒドロキシル基、エステル、ラクトン、アミノ基、アミド基、エーテル結合性酸素原子を含んでいても良い。RとRは互いに同じでも異なっていても良い。)
で表されるマロン酸ジアルキルエステル類の金属塩を、一般式[3]
【化3】

(式中、Xはハロゲン(塩素、臭素またはヨウ素)表す。式中、nは前記定義に同じ。)
で表される1−ブロモ−1,1,2,2−テトラフルオロ−アルキルハライド類を反応させ、一般式[4]
【化4】

(式中、R、R、R、およびnは前記定義に同じ。)

で表される1−ブロモ−1,1,2,2−テトラフルオロアルキル−マロン酸ジエステルを製造する工程。
第2工程:第1工程で得られた、一般式[4]で表される1−ブロモ−1,1,2,2−テトラフルオロアルキル−マロン酸ジエステルを、塩基の存在下、加水分解することにより、一般式[5]
【化5】

(式中、Rおよびnは前記定義に同じ。)
で表される1−ブロモ−1,1,2,2−テトラフルオロ−アルカン酸類を製造する工程。
第3工程:第2工程で得られた、一般式[5]で表される1−ブロモ−1,1,2,2−テトラフルオロ−アルカン酸類を、塩素化剤により塩素化することにより、一般式[6]
【化6】

(式中、Rおよびnは前記定義に同じ。)
で表される1−ブロモ−1,1,2,2−テトラフルオロ−アルカン酸塩化物類を製造する工程。
第4工程:第3工程で得られた、一般式[6]で表される1−ブロモ−1,1,2,2−テトラフルオロ−アルカン酸塩化物類に還元剤を作用させることにより、一般式[1]で表される1−ブロモ−1,1,2,2−テトラフルオロ−アルカノール類を製造する工程。
【請求項2】
一般式[2]で表されるマロン酸ジアルキルエステル類の金属塩が、一般式[7]
【化7】

(式中、R、R、Rは前記定義に同じ。)
で表されるマロン酸ジアルキルエステル類を、極性溶媒中でアルカリ金属、アルカリ土類金属、アルカリ金属水素化物、アルカリ土類金属水素化物、アルカリ金属アルコラート、またはアルカリ土類金属アルコラートと反応させて製造したものである、請求項1に記載の1−ブロモ−1,1,2,2−テトラフルオロ−アルカノール類の製造方法。
【請求項3】
nが1である、請求項1または請求項2に記載の1−ブロモ−1,1,2,2−テトラフルオロ−アルカノール類の製造方法。
【請求項4】
第4工程において、還元剤が水素化ホウ素ナトリウムであり、かつ、エーテル系溶媒の存在下、該作用が行なわれることを特徴とする、請求項1乃至請求項3の何れかに記載の1−ブロモ−1,1,2,2−テトラフルオロ−アルカノール類の製造方法。
【請求項5】
一般式[4]
【化8】

(式中、R、R、R、およびnは前記定義に同じ。)
で表される1−ブロモ−1,1,2,2−テトラフルオロアルキル−マロン酸ジエステル類。
【請求項6】
一般式[5]
【化9】

(式中、Rおよびnは前記定義に同じ。)
で表される1−ブロモ−1,1,2,2−テトラフルオロ−アルカン酸類。
【請求項7】
一般式[6]
【化10】

(式中、Rおよびnは前記定義に同じ。)
で表される1−ブロモ−1,1,2,2−テトラフルオロ−アルカン酸塩化物類。
【請求項8】
2−(4−ブロモ−3,3,4,4−テトラフルオロブチル)−マロン酸 ジエチルエステル。
【請求項9】
6−ブロモ−5,5,6,6−テトラフルオロヘキサン酸。
【請求項10】
6−ブロモ−5,5,6,6−テトラフルオロヘキサノイルクロリド。

【公開番号】特開2008−297234(P2008−297234A)
【公開日】平成20年12月11日(2008.12.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−144251(P2007−144251)
【出願日】平成19年5月30日(2007.5.30)
【出願人】(000002200)セントラル硝子株式会社 (1,198)
【Fターム(参考)】