説明

プッシュ・プル方式の差込式コネクター

【課題】プラグ部のソケット部への差込み及び引抜きが簡単にでき、かつ高い耐振動性が保持できる差込式コネクターを提供する。
【解決手段】プラグ部2ソケット部及び係止機構を備え、プラグ部及びソケット部は、1つ又は複数の接触子担体を備え、係止機構はプラグ部に配置され、係止面を有する可動な係止部材12を備え、係止面に対応してソケット部は対抗面を有する対抗係止部材を備え、プラグ部は、軸方向に可動な摺動スリーブ9を伴ったハウジング8を備え、摺動スリーブの内壁には少なくとも1つの係止解放部材32が形成され、プラグ部2をソケット部に連結させると、ハウジングの前端外周面10はソケット部を囲んで重なり合い、係止部材は、前端外周面の内面から内方に突出し、差込式コネクター1の差込方向と交差する方向に前端外周面に沿って係止部材を動かすことにより、係止部材が対抗係止部材に係止される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラグ部、プラグ部と連結するソケット部及び係止機構を備え、プラグ部及びソケット部は、それぞれに接触子を収納する1つ又は複数の接触子担体を備え、係止機構はプラグ部に配置され、係止面を有する少なくとも1つの可動な係止部材を備え、係止面に対応してソケット部は対抗面を有する対抗係止部材を備え、プラグ部は、軸方向に可動な摺動スリーブを伴ったハウジングを備え、摺動スリーブの内壁には少なくとも1つの係止解放部材が形成され、プラグ部をソケット部に差込んで連結させると、ハウジングの前端外周面はソケット部を囲んで重なり合うように構成され、前端外周面及び/又はハウジングの断面が、多角形、円形又は楕円形に形成されたプッシュ・プル方式の差込コネクターに関する。
【背景技術】
【0002】
互いに差込んで係止するか又は係止無しの差込式コネクターが提供されている。差込式コネクターを係止するために、例えば、ソケット部の外ネジにネジ止めされてプラグ部に回転可能に装着されるスリーブナット、又はプラグ部に備えられてソケット部に係止される解放部材を駆動してプラグ部をソケット部から解放する係止装置など種々の方式が知られている。係止機構を有する係止方式はいわゆるプッシュ・プル方式として知られている。
【0003】
プッシュ・プル方式では、プラグ部をソケット部に押込んで接触子が互いに差込まれることによりプラグ部とソケット部の連結が確実になると理解されている。プラグ部をソケット部に完全に差込むと、プラグ部は自動的にソケット部に係止される。従って、差込式コネクターを係止するのに、取囲みなどの追加の動作が不要である。
【0004】
通常のプッシュ・プル方式の差込式コネクターでは、プラグ部が解放可能な係止機構を有する雌型接触子を備えている。プラグ部を差込む(=プッシュ)と、係止機構はコンタクトピンを有するソケット部に形成されたアンダーカットと噛合う。プラグ部に装着された摺動スリーブをケーブル方向に引き戻す(=プル)と係止が解放される。すなわち、プラグ部の係止機構とソケット部のアンダーカットの噛合いが解放されてプラグ部をソケット部から引き抜くことが可能となる。例えば特許文献1及び特許文献2に記載されているように、多数のプッシュ・プル方式の係止方式が知られている。
【0005】
特許文献1には、プラグ部とソケット部の2つの連結部材から成る差込式連結が開示されており、一方の連結部材にはハウジング内の拘束案内部に装着された軸方向への摺動部材により径方向に移動する少なくとも1つの係止部材が備えられている。係止状態において、その係止部材は、他方の連結部材の肩部と噛合い、バネにより押圧されている軸方向への摺動部材を手動で移動させると、係止が解放状態となる。簡単な構成では、バネは、ハウジングを取囲み部分的に支持されたプレス成形された中空の金属片として形成され、軸方向へ摺動する部材が金属片の中空部に作用する。
【0006】
特許文献2には、複数の雄型接触子及び/又は雌型接触子を含んで構成されるプッシュ・プル方式の差込式コネクターが記載されている。このコネクターでは、プラグ部及びプラグ部の収容部材にケーブルが連結され、プラグ部の雄型接触子又は雌型接触子に対応する複数の接触子が含まれて構成されている。さらに、差込式コネクターには係止機構が備えられ、プラグ部の係止スリーブから軸方向へ突出したそれぞれに係止面を有する係止爪を含んで構成され、収容部材には係止爪に対応する面を有する部材が配置されている。この対応面は係止状態においては係止爪の係止面と噛合い、係止スリーブを軸方向に摺動させて対応面に当てると係止が解放される。係止爪にはエラストマーの部材が備えられ、係止の解放に対して係止爪が回転しないように作用する。
【0007】
プッシュ・プル方式の差込式コネクター自体は簡単に取り扱えるが、バイヨネット方式又はネジ止め方式の差込式コネクターに比べてコスト高であり且つ耐振動性が低いため、多くは使用されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】独国特許出願公開第3928710A1号明細書
【特許文献2】独国特許出願公開第19521754A1号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、改良された差込式コネクターを提案して、上記問題点を解決することを目的としている。本発明では、プラグ部のソケット部への差込み及び引抜きが簡単にでき、プラグ部のソケット部への差込状態において高い耐振動性が保持できる差込式コネクターを提供する。さらに、本発明では、部品点数が少なく構造が単純であり、製造及び組立が簡単で低コストであるプッシュ・プル方式の差込式コネクターを提供することも目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題は、下記(1)〜(12)の構成を備えた差込式コネクターにより解決される。
【0011】
(1)プラグ部、前記プラグ部と連結するソケット部及び係止機構を備えたプッシュ・プル方式の差込コネクターであって、前記プラグ部及びソケット部は、それぞれに接触子を収納する1つ又は複数の接触子担体を備え、前記係止機構は前記プラグ部に配置され、係止面を有する少なくとも1つの可動な係止部材を備え、前記係止面に対応して前記ソケット部は対抗面を有する対抗係止部材を備え、プ前記ラグ部は、軸方向に可動な摺動スリーブを伴ったハウジングを備え、前記摺動スリーブの内壁には少なくとも1つの係止解放部材が形成され、前記プラグ部を前記ソケット部に差込んで連結させると、前記ハウジングの前端外周面は前記ソケット部を囲んで重なり合い、前記係止部材は、前記前端外周面の内面から内方に突出し、前記差込式コネクターの差込方向と交差する方向に前記前端外周面に沿って前記係止部材を動かすことにより、前記係止部材が前記対抗係止部材に係止されることを特徴とするプッシュ・プル方式の差込式コネクター。
【0012】
(2)前記プラグ部の前記係止部材及び前記ソケット部の前記対抗係止部材のそれぞれは、前記差込式コネクターの係止及び係止の解放に際して互いに摺動し合う少なくとも1つの係止面又は対抗面を備え、前記係止面は前記プラグ部の前記前端外周面の前端面にほぼ平行に伸張し且つ前記対抗面は前記プラグ部が前記ソケット部と連結された状態では、前記前端外周面の前記前端面に対応して伸張することを特徴とする前記(1)に記載のプッシュ・プル方式の差込式コネクター。
【0013】
(3)前記係止部材の前記係止面は平らで前記前端外周面の前記前端面に対してはやや傾斜して形成され且つ前記差込式コネクターが係止又は係止を解放する際に前記係止面が滑る前記対抗係止部材の前記対抗面は、前記係止面に対応した尖ったままか又は面取りされた角部を備えていることを特徴とする前記(1)又は(2)に記載のプッシュ・プル方式の差込式コネクター。
【0014】
(4)前記対抗係止部材は、前記差込式コネクターが係止された状態において前記係止部材と噛合うアンダーカットを備えていることを特徴とする前記(1)ないし(3)のいずれか1項に記載のプッシュ・プル方式の差込式コネクター。
【0015】
(5)前記係止部材は、前記前端外周面に平行に可動であり、前記前端外周面上を案内されてバネにより係止方向へと駆動されることを特徴とする前記(1)ないし(4)のいずれか1項に記載のプッシュ・プル方式の差込式コネクター。
【0016】
(6)前記係止部材及び前記対抗係止部材は、前記プラグ部を前記ソケット部に連結させる際に前記係止部材を係止とは逆の方向へ動かす互いに対応する連結摺動面を備えていることを特徴とする前記(1)ないし(5)のいずれか1項に記載のプッシュ・プル方式の差込式コネクター。
【0017】
(7)前記プラグ部の前記係止部材及び前記摺動スリーブの前記係止解放部材は、前記プラグ部の前記前端面に対して前記プラグ部の差込方向へと傾斜した互いに対応する連結解放摺動面を備え、前記プラグ部の前記摺動スリーブを前記プラグ部の差込方向とは逆に軸方向へ摺動させると前記連結解放摺動面が前記係止部材を係止方向とは逆の方向に動かすことを特徴とする前記(1)ないし(6)のいずれか1項に記載のプッシュ・プル方式の差込式コネクター。
【0018】
(8)前記係止部材は2つの係止爪を備え、前記バネの両端が前記係止爪を支持していることを特徴とする前記(1)ないし(7)のいずれか1項に記載のプッシュ・プル方式の差込式コネクター。
【0019】
(9)前記2つの係止爪は鏡像対称に形成されて配置されていることを特徴とする前記(8)に記載のプッシュ・プル方式の差込式コネクター。
【0020】
(10)前記前端外周面は、前記係止部材を収納するU字状の案内開口部を備え、前記案内開口部は前記係止部材の案内溝に対応する案内リブを有していることを特徴とする前記(1)ないし(9)のいずれか1項に記載のプッシュ・プル方式の差込式コネクター。
【0021】
(11)前記摺動スリーブの前記係止解放部材は、前記摺動スリーブの内壁から内方へ突出していることを特徴とする前記(1)ないし(10)のいずれか1項に記載のプッシュ・プル方式の差込式コネクター。
【0022】
(12)前記プラグ部は、前記前端外周面上に対称に配置される前記係止部材を備えていることを特徴とする前記(1)ないし(11)のいずれか1項に記載のプッシュ・プル方式の差込式コネクター。
【発明の効果】
【0023】
本発明により、従来のプッシュ・プル方式の差込式コネクターよりも耐振動性に優れ且つ製造コストが大幅に低減されたプッシュ・プル方式の差込式コネクターを提供することが可能となった。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明による差込式コネクターにおいてプラグ部及びソケット部が分離された状態を示す斜視図
【図2】図1に示されるプラグ部の分解斜視図
【図3】図2に示される係止爪の拡大図
【図4】本発明による差込式コネクターの係止状態を示す図:(a)プラグ部をソケット部に接触させた状態、(b)プラグ部がソケット部に部分的に挿入された状態、(c)プラグ部がソケット部に完全に挿入されて係止された状態
【図5】図1に示される摺動スリーブ9の内壁を示す斜視図
【図6】図5に示す摺動スリーブ9と図2に示す係止爪が連結した状態を示す断面図
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明によるプッシュ・プル方式の係止機構を有する差込式コネクターでは、プラグ部の係止部材がハウジングの前端外周部の内面から内方に突出しており、プラグ部がソケット部と連結されると、係止部材によりプラグ部がソケット部の一端と外側において噛合った状態となる。プラグ部並びにプラグ部に連結されるソケット部は、それぞれが絶縁された接触子担体に1つ又は複数の接触子を備え、プラグ部側には、プッシュ・プル方式の係止機構が備えられ、上記の特性を備えた少なくとも1つの可動の係止部材を含んで構成される。さらに、係止部材は係止面を備えおり、その係止面に対応してソケット部には対抗面を有する対抗係止部材が備えられている。前端外周部に沿ってプラグ式コネクターの差込方向と交差する方向に係止部材を動かすことにより、プラグ部の係止部材はソケット部の対抗係止部材へ係止される。プラグ部は、ハウジングに対し差込方向に動く摺動スリーブを伴い、摺動スリーブの内周面にはプラグ部の係止部材の係止を解放する部材が形成されている。
【0026】
摺動スリーブがハウジングの前端外周部上を差込方向及び逆方向に案内されることが本発明の特徴であり、摺動スリーブの前端には、ハウジングの差込方向に対するストッパーが備えられており、後端には、ハウジングの固定装置と共動する第二のストッパーとしての停止装置が形成されている。この構成により、摺動スリーブは、係止を解放する部材が係止部材と噛合っていない状態から、軸方向に動かされ、係止を解放する部材が係止部材を係止状態から解放状態へと作動する。また、逆の摺動操作も可能である。さらに、摺動スリーブがソケット部に対して傾斜することなく円滑に摺動できるように、摺動スリーブの内径をプラグ部の前端部外周面の外径に適合させる。
【0027】
プラグ部の係止部材及びソケット部の係止対抗部材には、係止及び解放の際に互いに摺動し合う少なくとも1つの係止面又は対抗面を備えることが好ましい。
【0028】
係止面はプラグ部の前端部外周面の前端面に平行に伸張しおり、プラグ部がソケット部と連結している場合には、対抗面も前端部外周面の前端面に平行に伸張する。係止された差込式コネクターにおいては、係止面とその対抗面は互いに平行である。ネジ山から判るように、係止面及びその対抗面は、前端部外周面の前端面に対して僅かに傾斜している。これにより、差込式コネクターの軸方向の許容誤差が補償される。係止面と対抗面が互いに向かい合っている間は、プラグ部はソケット部に係止されており、ソケット部から解放されることはない。係止面と対抗面が側方に互いに移動して初めて、プラグ部とソケット部の係止が解放され、互いに分離できる。差込方向又は逆の方向へ、バネにより摺動スリーブに僅かな力を及ぼすと、プラグ部はソケット部に差込み易くなる。係止状態においては、差込式コネクターが振動してもバネは摺動スリーブを規定された状態に保つので、プラグ部がソケット部から解放されないようにも作用する。そのため、ほぼ摺動スリーブの重力に相当するバネ力を有するバネを使うことが多い。差込方向とは逆にハウジングの方向に摺動スリーブを微弱な力で押圧できる、例えばコイルバネのようなバネが理想的である。
【0029】
本発明の好適な実施例では、係止部材の係止面は、平らで前端部外周面の前端面に僅かに傾斜して形成され、係止対抗部材の対抗面は、尖っているか又は面取りされた対抗稜を備えている。係止又は解放の際に、係止面はその対抗稜に沿って摺動される。これにより、ある程度の軸方向の許容誤差の補償ができるので、連結されたプラグ部とソケット部では、係止部材と係止対抗部材合は、問題なく確実に噛合うことになる。僅かに傾斜とは、前端部外周面の前端面に対する傾斜の角度が数度であることを意味している。
【0030】
本発明による差込式コネクターの好適な構成では、係止対抗部材はソケット部の軸方向に、係止状態において係止部材と噛合うアンダーカットを備えている。前端部外周面に沿って、差込式コネクターの差込み方向に交差するように動かすために、係止部材はバネによって係止方向に押圧されて前端外周部上を前端外周部に対して平行に案内されることが好ましい。係止部材は拘束されることなく円滑に案内される。バネは、樹脂又は金属から引張り又は押圧バネとして形成される。差込方向に作用するバネ力によって、係止部材は係止対抗部材のアンダーカットと噛合う係止位置へと確実に動かされ、そこで保持される。
【0031】
本発明の一実施例では、係止部材及び係止対抗部材は、ソケット部にプラグ部が差込まれる際に、係止方向と逆に動く連結摺動面をそれぞれに備えている。係止部材の連結摺動面は、係止部材の係止面に対して鋭角に伸張している。ソケット部の係止対抗部材の連結摺動面は、ソケット部にプラグ部が差込まれる際に係止部材を差込方向とは逆に解放位置まで動かすことが可能であれば連結摺動面の形状及び向きは任意でよい。
【0032】
本発明の差込式コネクターの別の好適な実施例では、プラグ部の係止部材及び摺動スリーブの係止解放部材は、プラグ部の係止を解放するために差込方向に対して傾いた互いに向き合った解放摺動面を備えている。差込方向とは逆で係止方向とは逆にプラグ部の摺動スリーブを軸方向に押すと、この解放摺動面により係止部材は解放位置へと動かされる。摺動スリーブへの引張力は解放摺動面の傾斜に応じて、バネの力とは逆方向に垂直な成分と平行な成分に分離されるので、余り大きな力を使わなくてもプラグ部をソケット部から簡単に解放できる。傾斜角を変化させることにより、要求に応じた解放力が設定できる。
【0033】
実施例によっては、係止部材は、バネの末端を支持する2つの係止爪を備えている。2つの係止爪は鏡像的に対称に形成され、ソケット部に対称に配置される。係止爪の連結摺動面及び解放摺動面は、同一形状を有し且つその主要部が互いに平行であることが好ましい、連結摺動面は、前端外周部の内面より内方に突出しており、解放摺動面はプラグ部の径方向に連結摺動面から離れた位置にある。この場合、連結摺動面と解放摺動面は、差込方向に交差する方向に互いに向き合うか又はずらして形成してもよい。それぞれが連結摺動面及び解放摺動面を有する鋭角に形成された2つの同一の係止爪の係止面が配列され、2つの係止爪の連結摺動面及び解放摺動面は、差込方向に対して反対の傾斜を有している。
【0034】
その際、前端部外周面に配列されて前端部外周面に対応する係止爪は平面か曲面に仕上られて、ハウジングの前端外周部と摺動スリーブの間に保持され、その位置から側方に案内される。係止部材のバネは、2つの係止爪をプラグ部の差込方向と交差する互いに離れる方向に係止位置へと押圧する。原理的には、1つのバネの代りに互いに独立した2つのバネを係止爪と一体成形して用いてもよい。
【0035】
係止機構により、差込式コネクターの直径を変更しなくて済むように、プラグ部の前端外周域に、係止部材又は係止部材を形成する2つの係止爪を収納するU字状の収納開口部を備えることが好ましい。係止部材又はそれぞれの係止爪を案内できるように、収納開口部には、係止部材又は係止爪の案内溝に対応する案内突起が備えられることが好ましい。特に係止部材の連結摺動面と解放摺動面とが互いに平行に形成されている場合には、上記案内溝は2つの摺動面の間に伸張している。
【0036】
摺動スリーブの係止解放部材は、摺動スリーブの内壁から内方に突出させることが好ましい。これにより、前端部外周面のU字状の収納開口部内に装着された係止部材又は係止爪に作用させることが可能となる。係止解放部材が、それぞれの係止部材又はそれぞれの係止爪に対応して、摺動スリーブに備えられていることは当然である。
【0037】
本発明による差込式コネクターの好適な実施例では、プラグ部には、前端部外周面に対称に配置された少なくとも2つの係止部材が備えられている。この係止部材は1つ又は2つの係止爪を含んで構成される。係止部材は2つの場合には、外周面に対角線状に配置され、3つ以上の場合には前端部外周面に等間隔に配置されることが好ましい。これにより、プラグ部とソケット部との係止が強化されると共にソケット部に対するプラグ部の軸方向の遊びが低減され、接触子への負荷が軽減される。
【0038】
以上を要約すると、上記の係止方式を有する本発明による差込式コネクターは、従来のプッシュ・プル方式のコネクターに比し多くの利点がある。新しい係止方式では、許容誤差を必要としないので、従来のプッシュ・プル方式において生じた遊びが無くなる。プラグ部は、必ずストッパーに当るまでソケット部に引き込まれる。さらに係止力は常に一定である。そのため、本発明による差込式コネクターは、引抜力に対する高度な要求に対応でき、耐振動性も極めて良好である。さらに、公知のプッシュ・プル方式の差込式コネクターよりも製造コストが大幅に低減される。
【0039】
以下、図面を用いて本発明の特徴及び長所を説明するが、図面に示された実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0040】
図1は円形状に形成された本発明による差込式コネクター1の斜視図である。差込式コネクター1は、ケーブル端(不図示)に装着されるプラグ部2及び装置のハウジング(不図示)に取付けられるソケット部3を含んで構成される。ソケット部3は、接触子7を伴った接触子担体6を囲む円筒状の差込域4含んで構成され、差込域4は分割されたカラー5を有している。プラグ部2は、ソケット部3に面する側に円筒状の摺動スリーブ9を伴った円筒状のハウジング8を有している。摺動スリーブ9は、挿入方向に向いたハウジング8の前端外周部10と重なり合い、ソケット部3と連結した状態では、図4からわかるように、前端外周部10は差込域4のカラー5と重なりあっている。ソケット部3の差込域4と同様に、ハウジング8内には、図1には示されていないが、ソケット部の接触子7に対応して、接触子を伴った接触子担体が形成されている。
【0041】
プラグ部2がソケット部3に完全に差込まれると両者が自動的に係止されるように、差込式コネクター1には、摺動スリーブ9と重なり合った部分に隠れて係止機構が備えられている。摺動スリーブ9は、係止機構に作用して差込式コネクター1のプラグ部2がソケット部3から解放されるのに供される。摺動スリーブ9をプラグ部2の差込方向11と反対の方向に動かすことによりプラグ部を解放する方法は、プッシュ・プル方式においては、普通に実施されている。このため、摺動スリーブ9は、プラグ部2の前端外周部10を摺動しつつ軸方向に案内される。
【0042】
図2は、プラグ部2の分解斜視図である。この図では、ハウジング8は、摺動スリーブ9とは部分的にも重なりあっておらず、係止機構も摺動スリーブ9に覆われていない状態となっている。この図では、ハウジング8の差込側に前端外周部10が示されている。差込まれた状態では、プラグ部2は、前端外周部10においてソケット部3の差込域4と重なり合う。特にこの図では、4つの係止爪13及び2つのV字状のバネ14により構成された係止部材12を備えた係止機構が明示されている。図4に示すように、2つの係止爪13は、バネ14により差込方向11と交差する方向に互いに離れるように連結されている。バネ14は、支持突起15により、差込方向11と交差する方向及び内方向は前端部外周面10固定され、且つハウジング8の径の外方向には摺動スリーブ9に支えられている。
【0043】
図3は係止爪13の拡大図であり、それぞれの係止爪が内面17、外面17′を有している。係止爪13は、ハウジング8の前端部外周面10に合わせて曲がった面状に形成されている。内面17、外面17′は平面図において、台形状の輪郭16を呈し、外面17′は摺動スリーブ9に対面し、内面17は、ソケット部3の差込域4に対面している。係止爪13は、外面17′に解放摺動面18を備え、内面17に連結摺動面19を備えており、2つの摺動面は互いに平行であり案内溝20により隔てられている。図4から判るように、解放摺動面18及び連結摺動面19は、係止部材12又は係止爪13が装着された状態では、プラグ部2の差込方向に対して約25°傾いている。係止爪13の係止面21は、連結摺動面19に約65°の角度で交差して形成されている。係止面21は前端部外周面10の前端面22対して僅かに傾いている。さらに、係止爪13の外面17′にはバネ14を受容する凹部23が備えられている。プラグ部2をソケット部3に係止するために、互いに対称に形成され配置された2つの係止爪13が用いられる。
【0044】
4つの係止爪13が収納されるように、差込式コネクター1の前端部外周面10に対称的に配置された収納開口部24を備え、収納開口部24には係止爪13の案内溝20に嵌合する案内リブ25が備えられている(図2参照)。案内リブ25は、係止爪13を前端部外周面10に対して可動にプラグ部2の差込方向11と交差するように案内する。係止爪13の厚さは、前端部外周面10の壁よりも厚く形成されている。係止爪13の外面17′は、前端部外周面10の外面と適合させているので、係止爪13の内面17は前端部外周面10の内面26(図4参照)から突出している。そのため、連結摺動面19は内面26から突出して、プラグ部2をソケット部3に差込むと、ソケット部3の差込域4のカラー5の連結摺動面27(図4参照)に作用するので、差込式コネクター1の係止部材12又は係止爪13は係止方向とは逆の方向に動かされる。
【0045】
図4にプラグ部2のソケット部3への差込過程における3つの異なった位置関係を示す。図4の(a)は、プラグ部2をソケット部3に重ねた状態を示し、図4の(b)は、ソケット部3に部分的に差込んだ状態を示し、図4の(c)は完全に差込んで係止された状態を示す。係止の様子が判るように、摺動スリーブ9を切り欠いて示している。プラグ部2をソケット部3に重ねると、係止爪13の連結摺動面19は、ソケット部3の差込域4の連結摺動面27と接触する。連結摺動面27は、ソケット部3上を差込方向に平行に伸び、図1から明らかなように差込域4のカラー部5の断面を形成している。
【0046】
図4の(a)と(b)を比較して判るように、プラグ部2のソケット部3への差込み深さが増すに従い、係止爪13は互いに近付き、バネ14が緊張した状態となる。差込域4のカラー5の連結摺動面27は、カラー5を規定しているアンダーカット28に達している。プラグ部2がソケット部3に完全に差込まれると、差込域4の連結摺動面27は、係止爪13との接触を絶たれてV字状のバネ14は差込方向11と交差する方向に拡がり、係止爪13が差込方向11と交差する方向に動き係止状態となる。その際、係止爪13の係止面21は、係止部材12を係止する対応係止部材30としてのカラー5のアンダーカット28の対抗面29に沿って滑る。
【0047】
係止部材12が対抗係止部材30に係止される際に、係止部材12又は係止面13は、前端部外周面10に沿って差込式コネクター1の差込方向と交差する方向に動く。差込式コネクター1の係止面21とその対抗面29は、係止及び解放の際には互いに滑り合う。プラグ部2とソケット部3とが連結されると、対抗面29は、前端部外周面10の前端面22に対して平行な状態となり、係止部材12の係止面21は、前端部外周面10の前端面22に対し僅かに傾いた状態となる。
【0048】
図5には、摺動スリーブ9の内壁31の斜視図が示されている。内壁31には、プラグ部2とソケット部3との係止を解放する係止解放部材32が形成されている。摺動スリーブ9を、プラグ部2のソケット部3への差込方向11とは逆方向に摺動させると、係止解放部材32が係止爪13に作用し、係止爪13はバネ14の押圧力に抗して差込域4のカラー5のアンダーカット28から離される。係止解放部材32は、係止爪13の解放摺動面18に対応して、解放摺動面18と同じ傾斜を有する解放摺動面33を備えている。プラグ部2をソケット部3から解放する際に、解放摺動面18、33は互いに摺動し合う。係止解放部材32は摺動スリーブ9の内壁31から内側に突出しており、摺動スリーブ9をプラグ式コネクター1の差込方向11と逆方向に摺動させるとプラグ部のハウジング8の前端部外周面10の収納開口部24と嵌合する。
【0049】
図6は係止解放部材32に対する係止爪13の配置を示す拡大断面図である。この図から、対応する解放摺動面18、33は平らであり、互いに平行であることが明らかである。図6には、軸方向に摺動された摺動スリーブ9がハウジング8に固定される係止部材34並びに前端部外周面10のストッパー35も示されている。
【符号の説明】
【0050】
1 差込式コネクター
2 プラグ部
3 ソケット部
4 差込域
5 カラー
6 接触子担体
7 接触子
8 ハウジング
9 摺動スリーブ
10 前端部外周面
11 差込方向
12 係止部材
13 係止爪
14 バネ
15 支持突起
16 台形状の輪郭
17 内面
17′ 外面
18 解放摺動面
19 連結摺動面
20 案内溝
21 係止面
22 前端面
23 凹部
24 収納開口部
25 案内リブ
26 内面
27 連結摺動面
28 アンダーカット
29 対抗面
30 対抗係止部材
31 内壁
32 係止解放部材
33 解放摺動面
34 係止部材
35 ストッパー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラグ部(2)、プラグ部(2)と連結するソケット部(3)及び係止機構を備えたプッシュ・プル方式の差込コネクター(1)であって、
プラグ部(2)及びソケット部(3)は、それぞれに接触子(7)を収納する1つ又は複数の接触子担体(6)を備え、
前記係止機構はプラグ部(2)に配置され、係止面(21)を有する少なくとも1つの可動な係止部材(12)を備え、係止面(21)に対応してソケット部(3)は対抗面(29)を有する対抗係止部材(30)を備え、
プラグ部(2)は、軸方向に可動な摺動スリーブ(9)を伴ったハウジング(8)を備え、摺動スリーブ(9)の内壁には少なくとも1つの係止解放部材(32)が形成され、
プラグ部(2)をソケット部(3)に差込んで連結させると、ハウジング(8)の前端外周面(10)はソケット部(3)を囲んで重なり合い、
係止部材(12)は、前端外周面(10)の内面(26)から内方に突出し、差込式コネクター(1)の差込方向(11)と交差する方向に前端外周面(10)に沿って係止部材(12)を動かすことにより、係止部材(12)が対抗係止部材(30)に係止されることを特徴とするプッシュ・プル方式の差込式コネクター。
【請求項2】
プラグ部(2)の係止部材(12)及びソケット部(3)の対抗係止部材(30)のそれぞれは、差込式コネクター(1)の係止及び係止の解放に際して互いに摺動し合う少なくとも1つの係止面(21)又は対抗面(29)を備え、
係止面(21)はプラグ部(2)の前端外周面(10)の前端面(22)にほぼ平行に伸張し且つ対抗面(29)はプラグ部(2)がソケット部(3)と連結された状態では、前端外周面(10)の前端面(22)に対応して伸張することを特徴とする請求項1に記載のプッシュ・プル方式の差込式コネクター。
【請求項3】
係止部材(12)の係止面(21)は平らで前端外周面(10)の前端面(22)に対してはやや傾斜して形成され且つ差込式コネクター(1)が係止又は係止を解放する際に係止面(21)が滑る対抗係止部材(30)の対抗面(29)は、係止面(21)に対応した尖ったままか又は面取りされた角部を備えていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のプッシュ・プル方式の差込式コネクター。
【請求項4】
対抗係止部材(30)は、差込式コネクター(1)が係止された状態において係止部材(12)と噛合うアンダーカット(28)を備えていることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載のプッシュ・プル方式の差込式コネクター。
【請求項5】
係止部材(12)は、前端外周面(10)に平行に可動であり、前端外周面(10)上を案内されてバネ(14)により係止方向へと駆動されることを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載のプッシュ・プル方式の差込式コネクター。
【請求項6】
係止部材(12)及び対抗係止部材(30)は、プラグ部(2)をソケット部(3)に連結させる際に係止部材(12)を係止とは逆の方向へ動かす互いに対応する連結摺動面(19、27)を備えていることを特徴とする請求項1ないし請求項5のいずれか1項に記載のプッシュ・プル方式の差込式コネクター。
【請求項7】
プラグ部(2)の係止部材(12)及び摺動スリーブ(9)の係止解放部材(32)は、プラグ部(2)の前端面(22)に対してプラグ部(2)の差込方向(11)へと傾斜した互いに対応する連結解放摺動面(18、33)を備え、
プラグ部(2)の摺動スリーブ(9)をプラグ部(2)の差込方向(11)とは逆に軸方向へ摺動させると連結解放摺動面(18、33)が係止部材(12)を係止方向とは逆の方向に動かすことを特徴とする請求項1ないし請求項6のいずれか1項に記載のプッシュ・プル方式の差込式コネクター。
【請求項8】
係止部材(12)は2つの係止爪(13)を備え、バネ(14)の両端が係止爪(13)を支持していることを特徴とする請求項1ないし請求項7のいずれか1項に記載のプッシュ・プル方式の差込式コネクター。
【請求項9】
2つの係止爪(13)は鏡像対称に形成されて配置されていることを特徴とする請求項8に記載のプッシュ・プル方式の差込式コネクター。
【請求項10】
前端外周面(10)は、係止部材(12、13)を収納するU字状の案内開口部(24)を備え、案内開口部(24)は係止部材(12、13)の案内溝(20)に対応する案内リブ(25)を有していることを特徴とする請求項1ないし請求項9のいずれか1項に記載のプッシュ・プル方式の差込式コネクター。
【請求項11】
摺動スリーブ(9)の係止解放部材(32)は、摺動スリーブ(9)の内壁から内方へ突出していることを特徴とする請求項1ないし請求項10のいずれか1項に記載のプッシュ・プル方式の差込式コネクター。
【請求項12】
プラグ部(2)は、前端外周面(10)上に対称に配置される係止部材(12、13)を備えていることを特徴とする請求項1ないし請求項11のいずれか1項に記載のプッシュ・プル方式の差込式コネクター。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−9219(P2011−9219A)
【公開日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−142650(P2010−142650)
【出願日】平成22年6月23日(2010.6.23)
【出願人】(599060799)コニンフェールス ゲーエムベーハー (10)
【Fターム(参考)】